説明

最表層観察に適した断面研磨方法

【課題】表面が絶縁層で覆われた金属試料やセラミックス試料の断面研磨を、最表面近傍にダレを生ずることなく行う。
【解決手段】試料の最表層近傍の断面観察に適した断面研磨方法であって、試料表面に金属蒸着層を形成した後金属めっき層を形成し、しかる後、断面研磨を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は断面の光学顕微鏡観察もしくはSEM観察用の試料作成方法に関するものであり、特に最表層付近の断面観察に適した方法である。
【背景技術】
【0002】
一般に固体材料は表層付近と内部とで組成や組織が異なることが多く、新規な材料開発や既存材料の品質管理においては、表層近傍の断面構造を調査することが重要である。
【0003】
材料の断面観察は、通常以下のような方法によって行う。すなわち、被検素材より所定形状の試験片を切断採取し、その試験片を、被検面である断面を露出させた状態でエポキシ樹脂等の樹脂に埋め込んでモールド試料を作成する。モールド試料の被検面を湿式研磨機により研磨し、平滑な面を得、最終的にはバフ研磨により鏡面仕上げとする。
【0004】
被検素材が金属やセラミックスの場合、被検素材を埋め込んでいる樹脂より硬いために樹脂の方が試験片より研磨量が多くなり、研磨後のモールド試料の断面構造は、樹脂と試験片の研磨面が同一平面にならなくなる。したがって、樹脂近傍の試験片の研磨面、すなわち素材の最表層近傍断面は傾斜した状態に仕上がる(エッジ付近のダレ)。このような状態にある研磨面を光学顕微鏡観察した場合、断面の表層近傍を鮮明に観察することができなくなる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
エッジ付近のダレを防止する断面研磨法として、あらかじめ試験片の表面に厚いめっき層を形成してから上述の湿式断面機械研磨を行う方法がある。しかしながら、この方法は酸化物等の被覆のない金属試料においては有効であるものの、表面酸化層がある金属材料やセラミックス材料には、めっき層を形成することができないため、適用できない。
【0006】
最近、通常の湿式機械研磨ではなく、特許文献2に記載されているように、収束イオンビーム照射による研磨やArイオンビーム照射による研磨(クロスセクションポリッシング)も開発され、ダレのない断面研磨ができるようになってきた。しかしながら、収束イオンビーム法やクロスセクションポリッシング法を行うためには、高価な装置を準備する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−149844号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本電子ニュース、第37巻、30〜36頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高価な装置を用いることなく、これまでの湿式機械研磨によって、エッジ部にダレの無い研磨断面を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
酸化層で被覆された金属材料やセラミックス材料の最表層近傍の断面構造観察を目的とし、本発明では、試料表面に金属の蒸着層を形成した後に金属めっき層を施し、しかる後に断面研磨を行う方法を提案する。そして、そのような本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)試料の表面に金属蒸着層を形成した後に金属めっき層を形成し、しかる後に断面研磨することを特徴とする、最表層近傍の断面観察に適した断面研磨方法。
(2)金属蒸着層が5〜1000nmであることを特徴とする、上記(1)に記載の最表層近傍の断面観察に適した断面研磨方法。
(3)前記蒸着層を形成する金属が、Au、Al、Cr,C、Cu、W、Pt、PdおよびAu−Pd、Au−Pt合金のいずれかであることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の最表層近傍の断面観察に適した断面研磨方法。
(4)前記金属めっき層を形成する金属が、Cu、Cr、Niのいずれかであることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の最表層近傍の断面観察に適した断面研磨方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、最表面近傍にダレを生ずることなく断面研磨することができ、特に絶縁層を有する金属材料やセラミックス材料の最表層近傍の観察が容易に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による断面研磨試料の研磨前の断面構造を示す模式図である。
【図2】本発明による断面研磨試料の研磨後の断面構造を示す光学顕微鏡写真を用いた図である。
【図3】本発明による断面研磨試料の研磨後の断面構造を示す走査型電子顕微鏡写真を用いた図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、被検素材より所定形状の試験片を切断採取したのち、まず、観察しようとする面(すなわち、研磨しようとする面)と交わる面の表面に金属層を蒸着により形成する。金属層を蒸着しない場合、被検素材がセラミックス材料や表面に絶縁層のある材料の場合、めっき層を安定的に形成することができず、断面研磨の際にめっき層が剥離してしまう。
【0014】
蒸着すべき金属に特に制限はなく、Au、Al、Cr,Cu、W、Pt、Pdが利用しやすい。Au−Pd、Au−Pt等の合金でも利用できる。電気伝導性のある炭素Cも適用可能である。蒸着方法も特に制限はなく、真空蒸着、スパッタコーティング、イオンプレーティング等が利用できる。蒸着層の厚さは5〜1000nmが適当である。5nm未満では金属蒸着層による被覆が不完全になり、めっき層の密着性が劣化する。1000nmを越える蒸着層の形成は経済的でない。
【0015】
蒸着層を形成した後、その上に金属めっき層を形成させる。めっき材質としては比較的硬い金属が望ましく、Cu、Cr、Niが好適である。めっき方法としては化学めっきより電解めっきの方が迅速であり、望ましい。めっきの厚さは0.2μm以上確保する方がよい。また、あまり厚くても無駄になるので、2μm以下が好ましい。
【0016】
図1に、鉄系金属よりなり、表面に酸化膜を有する被検素材から、その表面を含むように切り出した試験片に対し、酸化膜上に金属蒸着層と金属めっき層よりなる被覆層を形成した後の研磨試験片について、断面側の状態を模式的に示す。
この場合、試験片の地鉄部分の断面に対して被覆層の断面は、研磨前の水準で同一平面になるようにしておくとよい。
【0017】
このように、表面に被覆層が形成された研磨試験片を、その研磨面(断面側)が露出するようにして、例えばモールド樹脂の中に埋め込み、常法に従って湿式機械研磨する。試験片の研磨面と被覆層とは一緒に研磨され、研磨の進行とともに、研磨試験片のモールド樹脂に隣接する部分にダレが形成される。
しかし、そのダレはまずモールド樹脂に隣接するめっき層に形成されるが、めっき層の厚みが充分であれば、ダレが試験片の最表面部(図1の場合は、表面に形成された酸化皮膜)に及ばない範囲で研磨を完了できる。
したがって、試験片のエッジ部自体にはダレを形成することなく断面研磨でき、例えば図1のような場合、試験片の地鉄部分断面と酸化皮膜の断面は同一平面に仕上がるため、両方を同時に観察することができるようになる。
【0018】
試験片の研磨にあたっては、先に述べた樹脂モールドする方法に加え、例えば、金属工学実験(五弓勇雄著、1972年)58項に記載された、ガイドで試験片をはさむ方法も用いることが可能である。
また、被検素材から試験片を切断した後に蒸着層とめっき層よりなる被覆層を形成する場合を例に説明したが、被検素材に予め被覆層を形成した後に被覆層を含むように試験片を切断してもよいことはもちろんである。
【実施例】
【0019】
Fe−10%Cr合金よりなる試料に、水素−水蒸気混合雰囲気中で950℃、200秒の焼鈍を施し、表面に薄いCr酸化膜を形成した。この試料の酸化膜上にスパッタ法により20nmのAuの蒸着層を形成し、さらに硫酸銅水溶液を用いた電解めっき処理により約1.5μmのCuめっき層を形成した。比較として、Au蒸着を省略して電解めっき処理した試料も用意した。
ついで、試料の研磨面がガイドの端部から突出するように、試料をガイドではさむことにより支持し、試料の被覆層を形成した面に直角の断面を研磨した。
【0020】
Au蒸着層を形成しなかった試料では、Cuめっき層を密着性良く形成することができず、断面研磨中にめっき層が剥離した。これに対し、Au蒸着後にCuめっき処理した試料では、ダレの無い断面研磨が実現できた。
図2に、Au蒸着後にCuめっき処理した断面研磨試料の表層近傍の光学顕微鏡写真を示す。図より、最表層の薄い酸化層が黒く明瞭に観察され、ダレの無い断面研磨が実現できていることが確認できる。なお、Au蒸着層は極めて薄いため、光学顕微鏡では認めることができない。
【0021】
図3は、図2の試料の走査型電子顕微鏡写真を示す。図より、表面酸化層が黒く鮮明に認められ、その厚さが約0.1μmであることが確認できる。めっき層を形成することなく断面研磨して走査型電子顕微鏡観察を行った場合、二次電子のエッジ効果により、このような薄い表面酸化膜を確認することは困難である。Auの蒸着層は、その厚みが0.02μm程度と薄いこと、AuとCu層がほぼ同一面に仕上がっていること(凹凸コントラストが出にくい)ことから、図3ではAu蒸着層が見えにくくなっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の表面に金属蒸着層を形成した後に金属めっき層を形成し、しかる後に断面研磨することを特徴とする、最表層近傍の断面観察に適した断面研磨方法。
【請求項2】
金属蒸着層が5〜1000nmであることを特徴とする、請求項1に記載の最表層近傍の断面観察に適した断面研磨方法。
【請求項3】
前記蒸着層を形成する金属が、Au、Al、Cr,C、Cu、W、Pt、PdおよびAu−Pd、Au−Pt合金のいずれかであることを特徴とする、請求項1または2に記載の最表層近傍の断面観察に適した断面研磨方法。
【請求項4】
前記金属めっき層を形成する金属が、Cu、Cr、Niのいずれかであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の最表層近傍の断面観察に適した断面研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−80963(P2011−80963A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235624(P2009−235624)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】