説明

有効成分を送達するための粘膜生物接着性遅延放出キャリア

本発明は、有効成分を含み、かつスターチ、ラクトースを含まない粘膜生物接着性遅延放出キャリアであって、20時間以上の期間にわたって有効成分を放出することができる生物接着性キャリアである。この生物接着性キャリアには、希釈剤、アルカリ金属アルキル硫酸塩、結合剤、少なくとも1つの生物接着性ポリマーおよび少なくとも1つの徐放性ポリマーが含まれる。また、その調製のための方法が本発明に含まれる。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、粘膜表面上で使用可能な有効成分の延長および制御された放出のための生物接着性遅延放出キャリアに関する。また、生物接着性の系を作製するための方法、哺乳動物に有効成分を送達するための方法、および様々な病理状態を治療、治癒または予防するための方法が開示される。
【発明の背景および関連する先行技術】
【0002】
粘膜は外胚葉由来の裏層であり、上皮に覆われ、吸収と分泌に関与する。これらは、様々な体腔に配置し、外部環境や内部臓器、例えば、鼻孔、唇、耳、生殖器、消化管および肛門に面している。粘膜を特徴づける身体各部には、呼吸器官および全胃腸管の大部分、ならびに、膣、頚部、陰核、陰茎亀頭の覆いおよび包皮の内部が含まれる。上述した粘膜の多くは粘液を分泌する。これは、リゾチームおよび免疫グロブリンのような防腐の酵素を含む粘着性のコロイドであり、水中で保持されたムチンおよび無機塩類で構成される。
【0003】
粘膜のための生物接着性のドラッグ・デリバリー・システムに関連した問題のうちの1つは、粘膜の滑らかな性質によって、活性物質が押し流され、稀釈されて薬剤の生物学的使用能を低下させてしまう恐れがある。このとき、投与された薬剤は、病理状態を有効に治療しない。もう一つの問題は、口腔内において、飲食および談話および唾液の一定の置換が、しばしば作用物質の送達をもたらすということである。
【0004】
さらに、口腔粘膜生物接着性送達システムは、当該技術において周知であり、様々な病理状態を治療するために使用される。これらの送達システムは、崩壊剤としてのコーンスターチおよび/または希釈剤またはバインダーとしてのラクトースを含むことができる、可溶性のカルボマーまたは不溶性のポリマーで一般に作製される。一般に、有効成分の送達は、11時間未満である。このように、これらのドラッグ・デリバリー・システムでは、少なくとも一日に二度キャリアを交換しなければならない。
【0005】
例えば、米国特許第5,643,603号には、薬剤投与のための生物接着性の徐放性送達キャリアの組成物が記載され、この組成物は、アルファー化デンプン(pregalatinized starch)および合成ポリマー、例えば、ポリアクリル酸、ヒドロキシエチル セルロース、カルボキシメチル セルロース、PVA、PVPおよびPEG(95%)と、薬剤(0.1〜5%)との混合物で構成される。この生物接着性は、粘膜または歯に付着させることができるものであり、7時間にわたって薬剤を送達することが認められた。
生物接着性の錠剤の他の形態は、米国特許第6,248,358号において記載され、そこでは、有効成分が水および周囲環境から保護される。この錠剤には、5〜50重量%のヒドロキシプロピル メチル セルロース、0.5〜25重量%のコーンスターチ、1〜50重量%のラクトース、0.5〜10重量%の不溶性の架橋ポリカルボフィル、および1〜75重量%の希釈剤のカルボマーまたはカルボマー 974Pが含まれる。この水和された徐放性放出錠剤は、患者の膣または口腔を介して血流に有効成分を送達することができる。
【0006】
生物接着性の固体投与形態は、米国特許第6,303,147号に記載され、これは0.001〜10%の活性成分、80〜98%のアルファー化デンプン、1〜10%の親水性マトリックス形成ポリマー、例えば、ポリアクリル酸、カルボマー、ヒドロキシエチル セルロース、HPMC、カルボキシメチルセルロース、PVAまたはこれらの親水性ポリマーの混合物、0.2〜5%のステアリル フマル酸ナトリウム、および0〜1%の流動促進剤(glidant)を有する。これらは、バッカル、経鼻、直腸内または膣内投与のために使用することができる。これらの錠剤の付着時間は約9時間である。
【0007】
米国特許第6,916,485号には、10〜2,000mgの有効成分、50重量%の天然タンパク質、少なくとも20重量%の乳タンパク質濃縮物、10〜20重量%の親水性ポリマー、圧縮性賦形剤、例えばコーンスターチ、ラクトースまたは多価アルコール、および3.5〜10重量%のアルカリ金属アルキル硫酸塩を含む、延長された放出生物接着性治療学的系が記載されている。
【0008】
上記に列挙された特許の全ては、活性成分の延長された放出における役割を担う崩壊剤としてコーンスターチを使用する。また、これらの特許の全ては、これらの処方における希釈剤または結合剤としてラクトースの使用を開示している。米国特許第5,643,603号、第6,303,147号、および第6,916,485号は、7〜13時間の活性成分の送達を開示している。
【0009】
しかしながら、多くの人々はラクトース不耐性であるか、またはトウモロコシに対してアレルギーを有する。したがって、このような集団に対してラクトースまたはトウモロコシを含む粘膜送達系を使用することは不可能である。
【0010】
さらに、前述した遅延放出生物接着性の系の多くにおいて、低い水溶性または不溶性の有効成分の処方は困難である。抗ウイルス薬、鎮痛剤、抗炎症剤、抗生物質および防腐剤のような様々なカテゴリーの医薬は、その低い水溶性または不溶性のために処方または処理するのが難しい。低い水溶性の防腐剤の一例はヨウ素であり、水中に入れられたときに結晶化する。処方するのが難しい不溶性の鎮痛剤の他の例は、フェンタニル塩基である。さらに、アシクロビルのような、多数の抗ウイルス剤および免疫阻害剤はまた、処方するのが困難であり、乏しい経皮的な浸透性を示し、10〜11の強度のアルカリ性pHでの筋肉内投与により生じる合併症を引き起こす。
【0011】
例えば、アシクロビルの経口吸収は、15%〜30%の範囲の生物学的使用能で大きく変化する。患者において、全身性の治療療法は、1日当たり5回の200mg 錠剤である。さらに、経口的なアシクロビルの全身性投与後、アシクロビルのピーク濃度が、単純ヘルペス一型ウイルスの50%抑制投与の下端で唾液中に見出される。また、クリームとしてのアシクロビルの局所治療は、経皮吸収性が低く適切ではない。このクリームは、5日間にわたって1日少なくとも5回、塗布しなければならない。
悪性疾患またはHIVについて治療を受けている患者は、免疫抑制により、その特定の疾病に関連してさらなる口腔の合併症を示す。例えば、AIDSに感染する人において最も一般的な口内の徴候には、カンジダ症のような真菌感染症、Epstein-Barrウイルスのようなウイルス感染症、口腔毛様白斑、単純ヘルペス一型ウイルス、バリアセラ(variacella)-Zoster ウイルス、ヒト パピローマ ウイルス、サイトメガロ ウイルス、腫瘍、例えばカポジ肉腫および口内潰瘍および唾液腺拡大を含む他の口腔病変が含まれる。口腔痛が、これらの合併症の各々に付随することもある。
【0012】
同様に、化学療法および頭部/頸部放射線を受ける人はまた、粘膜炎、感染症、唾液腺機能障害、味覚機能障害、ウイルス、真菌および細菌感染、口内乾燥症および胃腸管系粘膜症(口腔中の二次的修飾によって引き起こされた)を含む口腔合併症を引き起こす。化学療法を受けた患者の約40%において、潰瘍性口腔粘膜症が生じる。頸部照射を受けた患者において、潰瘍性の口腔粘膜症はほとんど全てのケースにおいて起こる。
【0013】
それゆえ、異なる薬物の複数の投与を避けるために、一つのドラッグ デリバリー システムにおいて異なる医学的合併症を治療する複数の薬剤を収容する必要がある。
【0014】
さらに、多くの薬剤が口内合併症を治療するために投与されるとき、これらは約7〜13時間にわたって生物接着性送達システムから放出されるので、頻繁に投与しなければならない。それゆえ、生物接着性送達システムを頻繁に変化させなければならず、結果としてこのような治療を受ける哺乳類に負荷が加わることとなる。異なる薬剤の複合の管理を回避するために単一のドラッグ・デリバリー・システム中の異なる医学の合併症を扱う多数の薬を提供する必要がある。
【0015】
さらに、薬の多くが口腔合併症を扱うために処理される場合、通常、約7〜13時間までの期間にわたって生物接着性送達系から放出されるので、それらを非常に頻繁に投与しなければならない。したがって、生物接着性送達システムは頻繁に変更しなければならず、このような治療を受ける哺乳動物に負荷を与える結果をもたらす。
【0016】
したがって、長期間およびより具体的には20時間以上にわたって様々な医学的合併症を治療するために有効成分を送達することができる粘膜送達についての先行技術に関連した問題が存在する。さらに、低い水溶性または不溶性を示す、有効成分の送達についての先行技術に関連した問題が存在する。さらに、異なる病理状態を治療するための多剤性薬剤の投与を減らすという当該技術分野における要求が存在する。
【0017】
したがって、本発明は、先行技術の生物接着性送達システムの欠点を克服することを目的とする。
本発明は、少なくとも20時間の持続時間にわたって有効成分の粘膜送達のための生物接着性遅延放出キャリアを提供することを目的とする。
【0018】
本発明はまた、可溶性または不溶性の有効成分の粘膜送達のための生物接着性遅延放出キャリアを提供することを目的とする。
【0019】
本発明はまた、有効成分を1日1回投与すればよい粘膜送達生物接着性遅延放出キャリアを提供することを目的とする。
【0020】
本発明はまた、有効成分を直ちに遊離させることができ、かつその後に20時間を越える長時間にわたって遊離させることができる粘膜生物接着性遅延放出キャリアを提供することである。
【0021】
本発明はまた、少なくとも2つの異なる有効成分を含む粘膜生物接着性遅延放出キャリアを提供することを目的とする。
【0022】
本発明はまた、ラクトースまたはコーンスターチを含まない粘膜生物接着性遅延放出キャリアを製造するための方法を提供することを目的とする。
本発明はまた、可溶性または不溶性の有効成分を送達できる粘膜生物接着性遅延放出キャリアを製造するための方法を提供することを目的とする。
【0023】
本発明の他の目的はまた、哺乳動物、特に、免疫抑制された哺乳動物に有効成分を送達するための方法にある。
様々な病理状態および疾病を治療、治癒または予防するための方法が、本発明の対象である。
【0024】
頬側疾患(buccal disease)のような粘膜疾患を治療、治癒または予防するための方法はまた、本発明の目的である。
【0025】
一定の疾患を治療、治癒または予防するための薬物の製造のための粘膜生物接着性遅延放出キャリアの使用はまた、本発明の目的である。
【0026】
これらのおよび他の目的は、発明の要約、好ましい実施態様の記述および特許請求の範囲によって証明した本発明によって達成される。
【発明の要約】
【0027】
本発明は、粘膜生物接着性遅延放出キャリアであって、湿潤剤を含み、少なくとも1つの有効成分を含み、1〜75重量%の希釈剤および1〜10重量%のアルカリ金属アルキル硫酸塩を含み、かつさらに0.5〜5重量%の結合剤(binding agent)および5〜80重量%の少なくとも1つの生物接着性ポリマーであって、天然ポリマー{多糖類または動物由来の天然タンパク質(例えば、乳タンパク質またはタンパク質)もしくは植物由来の天然タンパク質(例えば、エンドウマメタンパク質)}または合成ポリマーおよびこれらの混合物の群から選択されたもの、および前記有効成分の徐放性を提供する5〜80重量%の少なくとも1つのポリマーを含む、粘膜生物接着性遅延放出キャリアを提供する。
【0028】
本発明において使用可能な少なくとも1つの多糖類には、キトサン、アルギン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピル メチル セルロース、ヒドロキシエチル セルロース、ヒドロキシプロピル セルロース、シクロデキストリン、ヒアルロン酸ナトリウムおよびキサンタンガムが含まれる。
【0029】
本発明において使用可能な植物由来または動物由来の少なくとも1つの天然タンパク質には、天然乳タンパク質、天然エンドウマメ タンパク質、天然ダイズ タンパク質、天然ジャガイモ タンパク質、天然コムギ タンパク質およびグリアジン タンパク質が含まれる。
【0030】
本発明において使用可能な少なくとも1つの合成ポリマーには、カルボマー、ポリビニルアルコールおよびアクリル ポリマーが含まれる。
【0031】
本発明において使用可能な少なくとも1つの有効成分には、鎮痛薬、麻酔薬、例えばリドカイン、鎮痛薬(antalgic)、抗ウイルス剤、抗炎症剤、制吐剤、抗生物質、および防腐剤が含まれる。上述したもの以外の2以上の異なる有効成分が、上述されたものとは異なる範囲で抗ウイルス剤を含むとき、抗真菌剤および唾液分泌剤を、本発明の生物接着性キャリア中において処方することもできる。
【0032】
他の側面において、本発明はまた、粘膜生物接着性遅延放出キャリアを調製するための方法を提供する。該方法は、以下の工程を含む:
a) 少なくとも1つの有効成分と、アルカリ金属アルキル硫酸塩、希釈剤および結合剤との混合物を顆粒化する工程、
b) 前記顆粒化した混合物を、少なくとも1つの生物接着性ポリマー、少なくとも1つの徐放性のポリマー、および少なくとも1つの圧縮剤とブレンドする工程;および
c) 前記工程b) において得られたブレンドされた混合物を圧縮する工程。
【0033】
また、他の側面において、本発明は、哺乳動物に有効成分を送達するための方法を提供する。前記方法は、前記有効成分を必要とする哺乳動物に対して、生物接着性遅延放出キャリアであって、湿潤剤を含み、少なくとも1つの有効成分、1〜75重量%の希釈剤および1〜10重量%のアルカリ金属アルキル硫酸塩を含み、かつさらに0.5〜5重量%の結合剤および5〜80重量%の少なくとも1つの生物接着性ポリマーであって、天然ポリマー(多糖類または動物由来もしくは植物由来の天然タンパク質)または合成ポリマー、およびこれらの混合物の群から選択されたもの、および前記有効成分の徐放性を提供する5〜80重量%の少なくとも1つのポリマーを含む、生物接着性遅延放出キャリアを粘膜投与することを含む。
【0034】
様々な病理状態を軽減、治療、予防または治癒するための方法がまた、本発明の一部を構成する。したがって、病理状態または疾患、例えば、口顔ヘルペス-ヘルペス単純ウイルス1型(HSV-1)、生殖ヘルペス-ヘルペス単純ウイルス2型(HSV-2)、口腔粘膜症、真菌感染、例えば、カンジダ症、ウイルス感染、例えばエプスタイン-バー(Epstein-Barr)ウイルス、口腔毛様白斑症(oral hairy leukoplakia)、バリアセラ-ゾスター(variacella-Zoster)ウイルス、ヒトパピローマウイルス、サイトメガロウイルス、ヒトヘルペスV8によるカポジ肉腫、ヒトパピローマウイルスによる生殖器疣、および口腔潰瘍を含む他の口腔病変および唾液腺障害、変化した口腔フローラ(減少した細菌フローラ)、味覚機能障害、歯周炎、口内乾燥(唾液腺機能障害)、口腔状態(炎症、健康な衛生および食事および口腔痛を含む)における2次的変化を引き起こす胃腸粘膜炎を、本発明の粘膜生物接着性遅延放出キャリアを使用して治療することができる。
【0035】
本発明の粘膜生物接着性遅延放出キャリアを使用した上述した病理状態を軽減、治療、予防または治癒するための方法は、免疫易感染性の哺乳動物を治療するために使用することができる。
【0036】
粘膜症または頬側疾患または生殖器疾患を軽減、治療、予防または治癒する薬剤の製造のための本発明の粘膜生物接着性遅延放出キャリアの使用がまた、本発明において提供される。
【発明の好ましい実施態様の記載】
【0037】
本明細書中において使用されたとき、用語「粘膜の」には、口腔/頬側(バッカル)、膣、食道、鼻および直腸送達系が含まれる。
【0038】
本明細書中において使用されたとき、用語「生物接着性」は、生組織および/または生体液と干渉するあらゆる接着を意味する。
【0039】
用語「キャリア」は、少なくとも1つの有効成分を輸送することができる全ての対象を意味する。
【0040】
本明細書中において使用されたとき、用語「有効成分(active principle)」、「薬剤」および「有効成分(active ingredient)」は、互換性をもって使用される。有効成分は、病理状態または疾患を軽減、治療または予防するために使用される。いくつかの例において、有効成分は、病理状態または疾患を治癒するために使用することができる。
【0041】
「病理状態」および「疾患」もまた、互換性をもって本明細書中において使用され、哺乳動物中の全ての状態、あるいは哺乳動物における正常な機能を害するするその部分の1つを意味する。この機能障害は、いくつかの徴候によって特徴づけられる疾病および哺乳動物において現れる身体的所見を導くであろう。
【0042】
用語「哺乳動物」には、皮膚が毛で覆われていること、およびメスにおける若年個体を養うためのミルク産生乳腺によって特徴づけられる、ヒトを含む哺乳類クラスのあらゆる様々な温血脊椎動物が包含される。
【0043】
本明細書中において使用されたとき、用語「頬側(バッカル)」は、口腔「を意味」、「に関係」、「を包含」または「に存在」する。
【0044】
本明細書中において使用されたとき、用語「希釈剤」は希釈する薬剤を意味し、不溶性の希釈剤および可溶性の希釈剤である薬剤を包含する。
【0045】
本明細書中において使用されたとき、用語「バインダー」は、粘着性および離散性の部分をともに維持するための、キャリアの活性成分と不活性成分とを一緒に結合させるために使用することができる全ての薬学的に許容可能なフィルムに関する。バインダーは、有効成分が徐々に分泌されるマトリックスを提供する。
【0046】
本明細書中において使用されたとき、表現「残留時間」は、標的粘膜表面上に静置されたキャリアが実質的に完全な状態にある時間を意味する。
【0047】
同様に、本明細書を通して、表現「遅延放出」または「徐放性」は互換性をもって使用され、有効成分が30分経過直後に放出され、かつその後に少なくとも15時間または少なくとも18時間または少なくとも20時間または少なくとも24時間および36時間までの延長された時間にわたって放出されることを意味する。
【0048】
用語「不溶性」は、有効成分に使用されるとき、水溶性培地において完全に不溶性であるか、あるいは水溶性培地において可溶性が制限されることを意味する。
【0049】
ここで、「制限された可溶性」とは、有効成分が1.0〜7.5のpH範囲にわたって250mlの水中において10mg/ml未満の可溶性を示すことを意味する。「制限された可溶性」を有する薬剤のクラスは、疎水性の薬剤であるか、または生物薬学的分類系(BCS)においてIII型またはIV型薬剤として分類されるものである。
【0050】
より具体的には、本発明は、少なくとも20時間、および36時間までの期間にわたって有効成分を送達できる粘膜生物接着性遅延放出キャリアに関する。より具体的には、有効成分は、30分〜15時間、30分〜18時間または30分〜20時間、30分〜24時間または30分〜36時間に送達されうる。したがって、このキャリアは、毎日1回の投与のみが必要である有効成分にとって有効な残留時間を提供するという利点を有する。
【0051】
さらに、有効成分のその増加した生物学的利用能により、ドラッグ・デリバリー・システムを使用して、有効成分の投与量の低減が実現可能である。例において証拠づけられるように、有効成分の送達は、長期間にわたって最小阻害濃度よりも高い。
【0052】
より具体的には、本発明の生物接着性遅延放出キャリアは、哺乳動物の粘膜症、頬側、食道または膣感染症を予防、軽減、治癒、治療するために使用することができる。
【0053】
さらにより具体的には、本発明の生物接着性遅延放出キャリアは、特に、免疫抑制された哺乳動物、例えば、AIDSまたはSIVに罹患しているか、あるいは化学療法または放射線治療を受けている哺乳動物において、頬側の単純ヘルペス1(HSV-1)感染を予防、軽減、治癒または治療するために使用することができる。
【0054】
本発明は、ヒトのみを治療することに限定されることなく、獣医学的適用も包含する。特に、動物も口腔合併症を併発しうることは周知である。
【0055】
生物接着性遅延放出キャリアを処方化するプロセスは、可溶性、不溶性または水のような水性溶液中において制限された可溶性を有する有効成分の使用を可能にする。不溶性または制限された可溶性薬剤が、その処方において問題を与えることが知られており、送達系において制限された選択性を与える。多くの送達系において、有効成分の低下した生物学的利用能、投与形態からの不完全な放出およびより大きな患者間の差異が存在する。したがって、多くの例において、有効成分はより頻繁に投与され、かつより厳密にモニターされなければならない。本発明は、これらの障害を克服する。
【0056】
本発明のキャリアは、錠剤、ミクロスフェアなどの形態において存在することができる。これらは任意の形態、例えば、長方形、環状形、正方形、楕円形等において処方することができる。キャリアの寸法は、使用される送達態様に依存することが認識されるべきである。例えば、歯肉送達については、キャリアは平坦な表面および湾曲した表面を有する。 キャリアはまた、以下に記載された有効成分でコートすることができる。
【0057】
本発明の粘膜生物接着性遅延放出キャリアには、少なくとも1つの有効成分、希釈剤、アルカリ金属アルキル硫酸塩、結合剤、少なくとも1つの生物接着性ポリマー、および有効成分の徐放性を提供する少なくとも1つのポリマーが含まれる。
【0058】
より具体的には、粘膜生物接着性遅延放出キャリアは、湿潤剤を含み、少なくとも1つの有効成分を含み、1〜75重量%の希釈剤および1〜10重量%のアルカリ金属アルキル硫酸塩を含み、かつさらに0.5〜5重量%の結合剤および5〜80重量%の少なくとも1つの生物接着性ポリマーであって、天然ポリマー(多糖類または動物由来もしくは植物由来の天然タンパク質)または合成ポリマーおよびこれらの混合物の群から選択されたもの、および徐放性の有効成分を提供する5〜80重量%の少なくとも1つのポリマーを含む。
【0059】
本発明において使用可能な少なくとも1つの多糖類には、例えば、キトサン、アルギン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピル メチル セルロース、ヒドロキシエチル セルロース、ヒドロキシプロピル セルロース、ヒアルロン酸ナトリウム、シクロデキストリンおよびキサンタンガムが含まれる。
【0060】
本発明において使用可能な植物由来または動物由来の少なくとも1つの天然タンパク質には、天然乳タンパク質、天然エンドウマメ タンパク質、天然ダイズ タンパク質、天然ジャガイモ タンパク質、天然コムギ タンパク質およびグリアジン タンパク質が含まれる。
【0061】
本発明において使用可能な少なくとも1つの合成ポリマーには、カルボマー、ポリビニルアルコールおよびアクリル ポリマーが含まれる。
より具体的には、生物接着性遅延放出キャリアに組み込まれる有効成分には、抗ウイルス剤、抗真菌剤、鎮痛剤、麻酔薬、鎮痛薬(antalgic)、抗炎症剤、制吐剤、抗生物質および防腐剤が含まれる。1以上の有効成分は必要とされる用途に依存して使用することができる。例えば、アシクロビルのような抗ウイルス剤を使用して1型単純ヘルペスを治療すること、また、同じ生物接着性キャリアにおける痛みのための抗炎症剤を想定することができる。
【0062】
生物接着性キャリアにおいて使用可能な抗ウイルス剤の例には、例えば、ビダラビン、アシクロビル、ガンシクロビル、シドビル、バルガンシクロビル、ヌクレオシド類似体逆転写酵素阻害剤、例えばジドブジン、ジダノシン、ザルシタビン、スタブジン、ラミブジン、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤、例えば、ネビラピンおよびデラブリジン、プロテアーゼ阻害剤、例えばサキナビル、リトナビル、インジナビル、ネルフィナビル、リバビリン、アマンタジン、リマンタジン、リレエンザ、タミフル、プレコナチル、ペンシクロビル、ファムシクロビル、ホスカルネト、インターフェロン、例えばIFN-αなどが含まれる。
【0063】
抗ウイルス剤は、10〜200mg間の濃度において生物接着性キャリア中に存在する。さらに、50〜100mg間の濃度中に存在しうる。抗ウイルス剤の量は、治療される哺乳動物および哺乳動物の病理状態に依存して変化しうることが認識されるであろう。
生物接着性キャリアにおいて使用可能な抗真菌剤の例には、例えば、ポリエン抗真菌剤およびイミダゾールおよびトリアゾール、例えばクロトリマゾールが含まれる。
【0064】
抗真菌剤の投与量は、使用された抗真菌剤を含む生物接着性キャリアにおいて変化する。一般的には、投与量は10mg〜150mg間にある。
【0065】
サルファ剤および葉酸類似体、β-ラクタム、例えばペニシリン、バンコマイシン、アンピシリンおよびアモキシシリンおよびセファロスポリン、アミノグリコシド、例えばストレプトマイシン、カナマイシン、ネオマイシンおよびゲンタマイシン、テトラサイクリン、例えばドキシサイクリン、マクロライド、リコサミド、ストレプトグラミンス、フルオロキノリン、例えばシプロフロキサシン、レボフロキサシンおよびモキシフロキサシン、ポリミキシン、リファムピン、ムピロシン、シクロセリン、アミノシクリトール、糖タンパク質およびオキサゾリジノンは、生物接着性遅延放出キャリアにおいて使用可能な抗生物質の例である。
【0066】
抗生物質の投与量は、使用された抗生物質を含む生物接着性キャリアにおいて変化する。一般に、その投与量は、10mg〜150mg間にある。
【0067】
生物接着性キャリアにおいて使用可能な抗炎症性薬剤の例には、アスピリン、サルサレート、ジフルニサール、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナブメトン、ピロキシカム、ナプロキセン、ジクロフェナク、インドメタシン、スリンダク、トルメチン、エトドラク、ケトロラク、オキサプロジン、トリサリシラート、アセトアミノフェン、スプロフェン、コルチコイド、セレコキシブおよびサリドマイドが含まれる。
【0068】
物接着性遅延放出キャリア中に存在する抗炎症剤の投与量は、使用された抗炎症剤に依存して25〜1500mg間または50〜500mg間にある。
ラウリル硫酸ナトリウム、ヨウ素担体、ヨウ素、グルコン酸クロルヘキシジン、第四級アンモニウム化合物、例えば塩化セチルピリジニウム、フェノール防腐剤、例えばリステリン(登録商標)、ポビドンヨード、ヘキセチジン、トリクロサン、デルモピノール、サリフルオル、サンギナリン、アルカリ金属アルキル硫酸塩およびプロポリスは、本発明において使用可能な防腐剤である。
【0069】
0〜5%の防腐剤が、本発明の生物接着性キャリア中において使用される。
【0070】
嘔気および嘔吐(特に化学療法後)を治療するために使用可能な制吐剤には、グラニセトロン、オンダンセトロン、デキサメタゾンおよびメトクロプラミド、5-ヒドロキシトリプタニン(セロトニン)阻害剤、ドロナビノールおよびプロクロペラジンおよびトロピセトロンが含まれる。これらの薬剤およびこれらの組み合わせを、生物接着性キャリアにおいて使用することができる。
【0071】
制吐剤は、一般に、キャリア中に1〜100mg間の投与量において存在する。
【0072】
有効成分に加えて、生物接着性遅延放出キャリアは、キャリアが長期間にわたって粘膜表面に付着することを可能にする、接着性システムを有する。接着性システムには、希釈剤、アルカリ金属アルカリ硫酸塩、結合剤、少なくとも1つの生物接着性ポリマーおよび少なくとも1つの徐放性ポリマーが含まれる。
【0073】
本発明において使用される希釈剤は、不溶性または可溶性になり得る。有効成分が可溶性である場合、使用される希釈剤は不溶性である。また、有効成分が不溶性である場合、希釈剤は可溶性である。
【0074】
不溶性の希釈剤の例には、微結晶性セルロース、ケイ酸化された微結晶性セルロース、ヒドロキシメチルセルロース、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸三カルシウムなどが含まれる。
【0075】
可溶性の希釈剤の例には、マンニトール、グルコース、ソルビトール、マルトース デキストラート、デキストリン、デキストロースなどが含まれる。
【0076】
希釈剤は、生物接着性遅延放出キャリアにおいて1〜75重量%の量において存在する。
【0077】
さらに、アルカリ金属アルキル硫酸塩は、本発明の生物接着性キャリアの成分である。このアルカリ金属硫酸塩は、可溶化剤として作用して有効成分の粒状化を増加させる。処方中において使用可能なアルカリ金属アルキル硫酸塩には、マグネシウム ラウリル硫酸塩、カリウム ラウリル硫酸塩、ナトリウム ラウリル硫酸塩、およびジエチルスルホスクシナートが含まれる。一般に、これは1〜10重量%または2〜10重量%の濃度で生物接着性キャリア中において存在する。
【0078】
本発明において使用される粘膜生物接着性遅延放出キャリアは、有効成分の迅速な局所的遊離、および有効成分の延長された遊離を可能にする。
【0079】
本発明において使用されるバインダーは、カルボキシビニルポリマー、メチセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピル セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン グリコールなどから選択することができる。バインダーは、生物接着性遅延放出キャリアにおいて0.5〜5重量%の量において存在する。
【0080】
生物接着性ポリマーは、天然ポリマー、多糖類、キトサン、アルギン酸塩、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピル メチル セルロース、ヒドロキシエチル セルロース、ヒドロキシプロピル セルロース、シクロデキストリン、ヒアルロン酸ナトリウム、キサンタンガム、動物由来または植物由来の天然タンパク質、天然乳タンパク質、天然エンドウマメ タンパク質、天然ダイズ タンパク質、天然ジャガイモ タンパク質、天然コムギ タンパク質およびグリアジン タンパク質、合成ポリマー、カルボマー、ポリビニルアルコール、アクリル ポリマーおよびこれらの混合物の群から選択される。
【0081】
これらは、5〜80重量%の濃度で生物接着性キャリア中に存在する。また、これらは10〜40重量%の量において存在する。
【0082】
天然乳タンパク質に関して、これらはEP 0 542 824中に記載されている。これらは低温殺菌された生乳から得ることができ、全乳タンパク質、カゼイン タンパク質濃縮物およびホエータンパク質濃縮物が含まれる。
【0083】
全乳タンパク質は、限外濾過後にスキムミルクから回収される。カゼイン タンパク質製品は、その等電点で乳汁中においてカゼインを不溶化し、さらにカゼインを洗浄および乾燥させることによって得られる。ホエータンパク質濃縮物は、酵素を含むチーズを凝固させ、黄緑色液体残留物(この残留物がホエーである)を分離させた後に得られる。ホエーは、その後に限外濾過、イオン交換クロマトグラフィーまたは熱沈降によってさらに濃縮される。
【0084】
乳タンパク質の例は、Armor Proteinによって市販されたProsobel L85、1180、1380または1395またはPromilk852Aのような、またはNZMP(パリ,フランス)からのAlaplex range(4850, 1180, 1380または1395)からの、85%タンパク質の最小を滴定するものである。
【0085】
植物性タンパク質については、これらは、エンドウマメ、ダイズ、ジャガイモ、コムギまたはグリアジンから得ることができる。エンドウマメ タンパク質を生産する方法は、WO 2007/017571に記載されている。
【0086】
エンドウマメ タンパク質の例は、Roquette(フランス)によって市販されたNutralys(登録商標)のような85%タンパク質の最小を滴定するものである。
生物接着性キャリアにおいて使用可能な徐放性ポリマーには、多糖類を含む親水性ポリマー、例えば、セルロース エーテル、キサンタンガム、スクレログルカン、ローカストビーンガム、アラビアゴム、トラガカントゴム、イナゴマメ、アルギン酸、アルギン酸塩、カラゲエナート、寒天-寒天、およびグアーゴム、またはこれらの混合物が含まれる。本発明において使用可能な他のポリマーには、セルロースに基づいたポリマー、例えばヒドロメロース、酢酸セルロース、セルロース エステル、セロビオース、セルロース樹脂、またはこれらの混合物が含まれる。
【0087】
徐放性ポリマーは、5重量%〜80重量%の濃度において存在する。さらに、これらは10重量%〜40重量%の量において存在することができる。
【0088】
アルカリ金属アルキル硫酸塩は、1〜10重量%の濃度において存在する。さらに、これらは2重量%〜6重量%の量において存在することができる。
【0089】
また、唾液分泌剤、例えばピロカルピンおよびベタネコールおよび香料剤を添加することができる。香料剤には、クエン酸カルシウム、サフロール、および甘味剤、例えばアスパルテーム、シクラメート、サッカリンおよびキシリトールが含まれる。フローエイド(flow aid)のような追加の圧縮賦形剤、例えばタルク、コロイド性シリコーン二酸化物、コロイド性シリカ、および潤滑剤、例えばマグネシウム ステアリン酸塩、ステアリン酸、ポリエチレングリコールはまた、混合する段階で生物接着性遅延放出キャリアに加えることができる。
【0090】
これらの追加の薬剤は、キャリア中の成分の全重量の0.1〜10重量%の濃度範囲においてキャリアに加えることができる。
【0091】
1つの実施態様において、生物接着性遅延放出キャリアは、HSV-1、HSV-2、水痘ゾスター ウイルス(VZV)、エプスタイン-バー ウイルス、ヒト ヘルペス ウイルス8、トリインフルエンザ、耳下腺炎、HIV、呼吸器多核体ウイルス(respiratory syncitial virus)、インフルエンザ、パラインフルエンザおよびサイトメガロウイルス感染症を予防および治療することを目的とする。好ましい有効成分は、アシクロビル、バラシクロビル、ガンシクロビルまたはジブドジンから好ましくは選択されたヌクレオシド抗ウイルス剤の範囲からの化合物である。したがって、1つの側面において、生物接着剤において使用されたヌクレオシド抗ウイルス性化合物は、1キャリア当り10〜200mgの投与量において存在するアシクロビルである。
【0092】
また、他の実施態様において、本発明は、粘膜生物接着性遅延放出キャリアであって、湿潤剤を含み、アシクロビル、バラシクロビル、ガンシクロビルおよびジブドジンの群から選択された10〜200mgの抗ウイルス剤、1〜75重量%の微結晶性セルロースの希釈剤、および2〜10重量%のラウリル硫酸ナトリウムを含み、かつさらに0.5〜5重量%のポリビニルピロリジン、および天然乳タンパク質およびこれらの混合物の群から選択された10〜40重量%の少なくとも1つの生物接着性ポリマー、および10重量%〜40重量%のヒプロメロースを含む、粘膜生物接着性遅延放出キャリアに関する。
【0093】
さらに特に、2つの異なる病理状態を治療する場合において、上述した有効成分は、抗ウイルス剤、抗真菌剤、鎮痛剤、麻酔薬、鎮痛薬(antalgic)、制吐剤、唾液分泌剤、防腐剤、抗炎症剤、抗生物質およびこれらの混合物と組み合わせることができる。
【0094】
例えば、患者が単純ヘルペスウイルス1型を保有する場合、HSV-1感染は口唇または頬側の痛みを時々伴うので、アシクロビルとイブプロフェンのような鎮痛剤との組み合わされた使用は、特に有利である。
【0095】
したがって、本発明は、粘膜生物接着性遅延放出キャリアであって、湿潤剤を含み、抗ウイルス剤、鎮痛剤、麻酔薬、鎮痛薬(antalgic)、抗炎症剤、制吐剤、抗生物質、防腐剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、唾液分泌剤の群から選択された少なくとも2つの有効成分、1〜75重量%の希釈剤および1〜10重量%のアルカリ金属アルキル硫酸塩を含み、かつさらに0.5〜5重量%の結合剤および5〜80重量%の少なくとも1つの生物接着性ポリマーであって、天然ポリマー(多糖類または動物由来もしくは植物由来の天然タンパク質)または合成ポリマー、およびこれらの混合物の群から選択されたもの、および徐放性の有効成分を提供する5〜80重量%の少なくとも1つのポリマーを含む、粘膜生物接着性遅延放出キャリアを提供する。
【0096】
少なくとも2つの有効成分の組み合わせはまた、口腔組織に対する直接的な致死および致死下の損傷をもたらす化学療法ならびに頭部および頸部照射から生じる口腔合併症を治療するのに重要である。さらに、多くの患者が免疫系を低下させた。それは口腔組織の治癒において問題を導く。したがって、化学療法と放射線治療を受ける患者で発生する合併症には、口腔粘膜炎、口腔ウイルス、細菌および真菌感染症、唾液腺機能障害、変化した口腔フローラ、味覚機能障害、口内乾燥、および口腔状態(健康な味覚、衛生および食事を含む)における2次的変化を引き起こす胃腸粘膜炎が含まれる。胃腸管系粘膜症は、吐き気や嘔吐を引き起こす。これらの合併症は、1以上の薬剤での治療を必要とする。例えば、癌に特に関連した激しい難治性の痛みを治療するのに重要である鎮痛性のフェンタニル塩基、フェンタニル クエン酸塩またはスルフェンタニルを使用することができ、また、吐き気や嘔吐を治療するために制吐剤を使用することができる。使用された異なる有効成分の組み合わせは、患者/哺乳動物がもつ病理状態に基づいており、かつ必要である治療に基づいていることが認識されるだろう。
【0097】
従って、本発明は、化学療法または放射線治療による口腔合併症の治療において使用することができる、生物接着性遅延放出キャリアであって、湿潤剤を含み、抗ウイルス剤、鎮痛剤、麻酔薬、鎮痛薬(antalgic)、抗炎症剤、制吐剤、抗生物質、防腐剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、唾液分泌剤の群から選択された少なくとも2つの有効成分、1〜75重量%の希釈剤および1〜10重量%のアルカリ金属アルキル硫酸塩を含み、かつさらに0.5〜5重量%の結合剤および5〜80重量%の少なくとも1つの生物接着性ポリマーであって、天然ポリマー(多糖類または動物由来もしくは植物由来の天然タンパク質)または合成ポリマー、およびこれらの混合物の群から選択されたもの、および徐放性の有効成分を提供する5〜80重量%の少なくとも1つのポリマーを含む、生物接着性遅延放出キャリアを提供する。
【0098】
粘膜生物接着性遅延放出キャリアの独特な性質は、その処方によってもたらされる。一般に、本発明のプロセスは、その処方化における湿潤顆粒化技術を使用することに関する。
【0099】
先行技術の方法では、一般に、処方化プロセスにおける最初の工程において、ラクトースを使用した湿潤剤が存在する。本発明のプロセスでは、ラクトースは使用されない。むしろ、有効成分、希釈剤およびアルカリ金属アルキル硫酸塩の組み合わせが、プロセスにおいて湿潤剤として機能する。
【0100】
1側面において、本発明はまた、粘膜生物接着性遅延放出キャリアを調製する方法を提供する。前記方法は以下の工程を含む:
a) 少なくとも1つの有効成分と、アルカリ金属アルキル硫酸塩、希釈剤および結合剤との混合物を顆粒化する工程、
b) 前記顆粒化した混合物を、少なくとも1つの生物接着性ポリマー、少なくとも1つの徐放性のポリマー、および少なくとも1つの圧縮剤とブレンドする工程、および
c) 前記工程b) において得られたブレンドされた混合物を圧縮する工程。
【0101】
他の側面において、本発明はまた、生物接着性キャリアを調製する方法に関する。前記方法は以下の工程を含む:
a) 少なくとも1つの有効成分を、アルカリ金属アルキル硫酸塩および希釈剤と混合して混合物を形成する工程と;
b) 前記混合物を結合剤で湿潤させる工程と;
c) 前記混合物を乾燥させ、キャリブレーションを行う工程と;
d) 前記混合物を顆粒化して1次顆粒を形成する工程と;
e) 前記1次顆粒を、少なくとも1つの生物接着性ポリマーおよび少なくとも1つの徐放性ポリマーおよび少なくとも1つの圧縮剤とブレンドする工程と;
f) 前記工程e) において得られたブレンドされた混合物を圧縮する工程。
【0102】
より具体的には、有効成分、希釈剤およびアルカリ金属アルキル硫酸塩が、第1にそれぞれ秤量され、ふるいにかけられ、混合機において前混合される。結合剤が秤量され、精製水を使用して可溶化される。その後、可溶化された結合剤が、有効成分を含む混合物に添加され、撹拌されて湿潤顆粒を形成する。前記混合物を、薬学的混合機または造粒機、例えば遊星ミキサーまたはハイシアーミキサーを使用して顆粒化し、乾燥させてキャリブレーションを行った。
【0103】
生物接着性ポリマー、徐放性ポリマーおよび圧縮賦形剤をその後に秤量してふるいにかけた。これらの成分を1次顆粒混合物に加え、最終ブレンディング混合物を形成し、その後、さらに適切な錠剤プレス(例えば、回転式プレス)を使用して圧縮した。
本発明の方法において使用可能な有効成分は上記に記載されている。本発明の方法において使用される特定の希釈剤、結合剤、アルカリ金属アルキル硫酸塩、生物接着性ポリマーおよび徐放性ポリマーについても同様である。
【0104】
他の実施態様において、本発明は、生物接着性キャリアを調製するための方法を提供する。前記方法は以下の工程を含む:
a) 抗ウイルス剤、鎮痛剤、抗炎症剤、抗生物質、防腐剤、制吐剤およびこれらの混合物から選択された少なくとも1つの有効成分を、1〜10重量%のアルカリ金属アルキル硫酸塩および1〜75重量%の希釈剤と混合する工程と;
b) 前記混合物を可溶化された0.5〜5重量%の結合剤で湿潤させる工程と;
c) 前述の混合を乾燥させ、キャリブレーションを行う工程と;
d) 前記混合物を顆粒化して1次顆粒を形成する工程と;
e) 前記1次顆粒を、5〜80重量%の少なくとも1つの生物接着性ポリマーであって、天然ポリマー(例えば、多糖類または動物由来もしくは植物由来の天然タンパク質)または合成ポリマー、およびこれらの混合物の群から選択されたもの、および徐放性の有効成分を提供する5〜80重量%の少なくとも1つのポリマー、および少なくとも1つの圧縮剤と、ブレンドする工程と;
f) 前記工程e) において得られたブレンドされた混合物を圧縮する工程。
【0105】
また、他の側面において、本発明は、粘膜症を治療する薬剤の製造のための本発明による粘膜生物接着性遅延放出キャリアの使用に関する。
【0106】
この点に関して、粘膜症は、頬側疾患、例えば、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、口腔粘膜炎、口腔カンジダ症、口腔毛様白斑症、口腔潰瘍、唾液腺障害、変化した口腔フローラ(減少した細菌フローラ)、味覚機能障害、歯膜炎、口内乾燥症、口腔状態(炎症、健康な衛生および食事および口腔痛を含む)における2次的変化を引き起こす胃腸粘膜炎、であり得る。これらの疾病は、少なくとも1つの有効成分または少なくとも2つの異なる有効成分で治療することができる。
【0107】
また、本発明の他の側面において、粘膜症は、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)またはヒトパピローマウイルスを含む生殖器疾患になり得る。これらの疾病は少なくとも1つの有効成分または少なくとも2つの異なる有効成分で治療することができる。
【0108】
また、他の側面において、本発明は、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、エプスタインバー(Epstein-Barr)ウイルス、ヒトパピローマウイルス、サイトメガロウイルス、バリアセラゾスター(variacella-Zoster)ウイルス、ヒトヘルペスV 8によるカポジ肉腫、およびヒトパピローマウイルスによる生殖器疣を治療する薬剤の製造のための、本発明による粘膜生物接着性遅延放出キャリアの使用に関する。
【0109】
他の側面において、本発明は、本発明の生物接着性遅延放出キャリアを投与することを含む、前記有効成分を必要とする哺乳動物に少なくとも1つの有効成分を送達するための方法を提供する。当該方法は上記に詳細に記載されている。
【0110】
また、他の側面において、本発明は、このような治療を必要とする哺乳動物の粘膜症を治療する方法を提供する。前記方法は、本発明の生物接着性遅延放出キャリアを投与することを含む。当該方法は上記に詳細に記載されている。粘膜症についても上述した。
【0111】
本発明の多くの実施態様について記載した。しかしながら、様々な修飾が本発明の趣旨および範囲から逸脱せずに作製され得ることが理解されるだろう。
【例】
【0112】
例1−本発明の生物接着性遅延放出キャリアの調製
100mgのアシクロビル、15重量%の微結晶性セルロースおよび45重量%のラウリル硫酸ナトリウムを秤量して0.7〜2mmシーブでふるいにかけ、混合機で前混合して「初期混合物」を得た。
同時に、0.4重量%のポリビニルピロリドンを精製水中に溶解させた。得られた溶液を初期混合物に加え、さらに撹拌した。湿潤混合物をその後に薬学的混合機または造粒機、例えば遊星ミキサーまたはハイシアー(high sear)ミキサーを使用して顆粒化し、乾燥させて500μmまでキャリブレーションを行った。得られたペレットは、「1次顆粒」を形成した。
【0113】
20重量%のミルク濃縮物タンパク質、15重量%のヒプロメロース、1重量%のマグネシウム ステアリン酸塩および0.4重量%のコロイド性 シリカを秤量して、500μmシーブを使用してふるいにかけた。これらの成分をその後に1次顆粒に加え、「最終ブレンディング」混合物を形成した。最終ブレンディング混合物をその後に錠剤プレス(例えば、回転式プレス)を使用して圧縮し、本発明による圧縮キャリアを生成した。
【0114】
錠剤のサイズは、直径約10mmだった。寸法は犬歯窩(canine fossa)において快適になるまで選択された。
【0115】
上記記載の方法は、2〜23kgに及ぶ圧縮したキャリア バッチの生産に適切であった。
【0116】
例2−1次顆粒の粒子サイズ分布
顆粒化、乾燥およびキャリブレーション後の、例1の手順から得られた1次顆粒を、その後にヨーロッパ薬局方に記述された手続きに基づいたシーブ分析によって評価した。また、分析を行い、顆粒化のまたは全顆粒中の異なる画分においてアシクロビルの含量を決定した。顆粒中のアシクロビル含量をpH 6のリン酸バッファを使用して分析した。2つの異なる処方を比較した。第1の処方は、本発明の例1において得られたものに対応し、他方、「コントロール処方」は、米国特許第6,916,485号に開示されたものであり、図1に示された「1次顆粒」を得る。
【0117】
結果を図2に示す。顆粒化が米国特許第6,916,485号(明色棒)に記載された処方によって調製されたとき、顆粒のサイズ分布は、顆粒直径において1000μmを越えるものと125μm未満のものとの2つの優勢な極端な集団の存在によって、強い不均一性を示す。さらに、125μm未満の顆粒のサイズ分布を有する顆粒のアシクロビル含量が、低量であるように見えた。
【0118】
反対に、顆粒が本発明の方法によって調製されたとき(図2中の暗色棒)、顆粒の優勢な画分は、125μm未満の直径であった。サイズ分布は外部相に加えられた賦形剤のそれと均質である。さらに、上述した例1によって作製された顆粒の流動性は、圧縮ステップと完全に適合性を有し、最終ブレンディングは、非常に良好な圧縮能を有した。最後に、本発明によって得られた顆粒は、100%の所望のアシクロビル含量を含んでおり、同時に対応する圧縮キャリアを含んでいる。これは混合の均質性および製造プロセスの信頼性を実証している。
【0119】
例3:アシクロビル生物接着性遅延放出キャリアのインビトロ評価
例1に記載された方法によって得られた生物接着性遅延放出キャリアを、溶解方法によってアシクロビル放出に関して試験した。この試験は、U.S. Pharmacopoeia, 23 edition, Chapter 711 (Dissolution) pages 1791-1793.に記述された現在の溶解試験によって行なわれた。より具体的には、サンプル容器を、pH 6のリン酸バッファの適切な溶解培地中において37℃のウォーターバス中に浸漬し、容器の内容物を1つのシャフト(他のシャフトに取り付けられた)に取り付けられた「回転式バスケット」を使用して撹拌した。本発明の固形生物接着性遅延放出キャリアを、ゼロ時間で培地充填容器中に静置した。ウォーターバスは実験全体を通して37℃に維持し、同時に60rpmの混合速度を維持した。1mlアリコートを最初の8時間、毎時間ごとに容器から取り出し、その後、10、11、12、15および24時間目に取り出し、溶解培地中に放出されたアシクロビルの量を、HPLCによって測定した。
【0120】
得られた溶解プロファイルを図3に示す。このグラフにおいて実証されるように、本発明の生物接着性遅延放出キャリアから放出されたアシクロビルは、24時間にわたって進行性かつ徐放性であり、優勢な量のアシクロビル(80重量%)が10時間後までに放出された。
【0121】
例4:アシクロビル生物接着性遅延放出キャリアの薬物動態学
この薬物動態学の研究の主な目的は、健康なボランティアにおいて犬歯窩(上部の歯肉)のレベルで生物接着性遅延放出キャリアの適用後のアシクロビルの全身的通過を評価することである。さらなる目的は、ウイルス貯蔵部位である唾液中の、および単純ヘルペス1感染の発現部位を構成する口唇レベルのアシクロビルの局所的濃度を評価することである。
【0122】
本発明の投与の新しい態様を通したアシクロビルの吸収レベルを評価するために、データを本発明の生物接着性遅延放出キャリアで取得し、200mgのアシクロビル錠剤の経口投与と比較した。さらに、本発明の新しい生物接着性遅延放出キャリアの治療学的能力を評価するために、さらに、血漿および局所領域の濃度を、22.5 ng/mlであるHSV-1ウイルスに向けられたアシクロビルの最小阻害濃度(MIC)と比較した。研究は12人の健康なボランティアを使用して行い、モノセントリック、無作為化、クロスオーバーおよびオープン評価で行った。
【0123】
50mgまたは100mgのアシクロビルを含有する、例1に従って合成された2つのアシクロビル生物接着性遅延放出キャリアについて試験を行った。
【0124】
血漿、唾液および口唇(唇)サンプルは、治療の投与前、および投与後24時間、36時間および48時間に採取を行った。口唇サンプリングは、ストリッピング方法を使用することによって行われた;すなわち、付着性ディスクを使用して唇の表面細胞層を回収した。唾液による唇のコンタミネーションを回避するために、口唇のサンプリングは、唇を注意深く拭いた後、唾液サンプリングの前に行った。
その後、アシクロビルをHPLCによって抽出および測定した。量化限界は、血漿および唾液サンプルで10ng/ml、および口唇サンプルで6.5ng/cm2に設定された。
【0125】
例5:アシクロビルの全身性移行の評価
血漿濃度プロファイルを図4に示す。
経口投与されたアシクロビルに対応するコントロール錠剤は、1.5時間で254ng/mlの最大濃度で、迅速な吸収期間によって特徴づけられた、迅速な放出プロファイルを示す。図4に見られるように、コントロール錠剤では、アシクロビルの血漿濃度が14時間にわたって最小阻害濃度(MIC)以上に維持される。
【0126】
反対に、本発明のアシクロビル生物接着性遅延放出キャリアは、アシクロビルの吸収において6時間の遅延を示す徐放性の放出プロファイルを示し、かつ12時間で45.9μg/mlの最大濃度を示す。増加する吸収過程の後、平均の血漿濃度は、8時間にわたって30.9〜37.8ng/ml間で一定である。さらに、アシクロビルの血漿濃度は、16時間にわたって最小阻害濃度(MIC)以上に維持される。コントロールの錠剤結果から、生物接着性キャリアにおいて放出されたアシクロビルの相対的な生物学的利用能を計算することができる。この生物学的利用能は、コントロールよりも2倍少なかった投与量について、35%であった。コントロールと同じ投与量で計算されたとき、生物学的利用能は70%である。
【0127】
この例は、アシクロビルの全身性移行が、強血管口腔粘膜の含浸による経粘膜ルートによって、あるいは可溶化されたアシクロビル中に豊富に含まれる唾液の嚥下による経口ルートによって行われることを示している。
例6: アシクロビル唾液濃度の評価
図5は、コントロール錠剤、または本発明による生物接着性遅延放出キャリアで得られたアシクロビル唾液の濃度プロファイルについて示している。図5から分かるように、コントロール錠剤を投与したとき、アシクロビルは、112ng/mlの最大濃度に対応するピークで投与後約30分で唾液中に出現した。アシクロビルの唾液濃度は、約4時間にわたって最小阻害濃度(MIC)以上を維持したが、ピーク後は急速に減少して投与10時間後には検出できなくなった。
反対に、本発明の生物接着性遅延放出キャリアは、投与後30分に採取した最初のサンプル後でも、アシクロビルの唾液濃度は非常に高いレベルを維持した。例えば、アシクロビルの唾液濃度は、50mgの生物接着性遅延放出キャリアの投与30分後に6.8μg/ml、100mgの生物接着性遅延放出キャリアの投与30分後に20μg/mlと測定された。
【0128】
アシクロビルの濃度は、50および100mgの生物接着性遅延放出キャリアについて、それぞれ387μg/mlおよび471μg/mlの最大の濃度の値で24時間〜36時間にわたって非常に高く維持された。これは、単純ヘルペスウイルス1型のサイトで本発明の生物接着性遅延放出キャリアがアシクロビルの遊離を非常に速く(30分)かつ長い持続時間(36時間)にわたって行うことを実証した。これらの濃度は、それぞれ必要とされる最小阻害濃度(MIC)よりも17,000(50mgのキャリアについて)〜21,000(100mgのキャリアについて)倍大きいので、単純ヘルペスウイルス1型を処理するために必要なアシクロビル最小阻害濃度(MIC)よりも非常に高い。
さらに、本発明の生物接着性キャリアは、局所唾液において103,000〜216,000のAUC/MIC(曲線下面積/最小阻害濃度)比率を達成する。一方、即時の放出キャリアは、8のAUC/MIC比率を提供するに過ぎない。これらの例外的に高い比率は、唾液中のアシクロビルの非常に高い存在量を実証しており、これは感染部位に近接しており、したがって、その局所的効率を十分に支持している。
総合すれば、これらの結果は、本発明のアシクロビル生物接着性遅延放出キャリアが、ウイルス貯蔵部位におけるアシクロビルの即効性および徐放性の放出を支持することを実証している。さらに、唾液のウイルス貯蔵能がウイルス拡散において重要な役割を果たすことは周知であるので、唾液中の非常に重要な量のアシクロビルは個人内および個人間汚染を制限するのに寄与するかもしれない。
【0129】
例7:アシクロビル口唇濃度の評価
図6に開示されているように、アシクロビルは、コントロール錠剤の投与後に口唇サンプルにおいて検知できない。
【0130】
反対に、本発明のアシクロビル生物接着性遅延放出キャリアが投与されたとき、唇上で測定されたアシクロビルの量は、1mg/mlの高濃度に達した。口唇部位上のアシクロビルのこの強い存在は、少なくとも24時間にわたって維持される。
本明細書中に示された結果は、本発明によるキャリアが唇上(すなわち、その病気の発現部位で)の非常に多量のアシクロビルの持続性を支持することを実証する。これは、特に表皮のレベルで、HSV-1ウイルスに対して発揮された増加した圧力を意味し、口唇ヘルペスに対するアシクロビルのより大きな効率を示唆している。
【0131】
例8:異なる生物接着性ポリマーを含む生物接着性遅延放出キャリアの調製
50mgのアシクロビル、15重量%の微結晶性セルロースおよび4.5重量%のラウリル硫酸ナトリウムを秤量し、0.7〜2mmシーブでふるいにかけ、混合機で前混合して「初期混合物」を得た。
【0132】
同時に、0.4重量%のポリビニルピロリドンを精製水中に溶解させた。得られた溶液を初期混合物に加え、さらに撹拌した。湿潤混合物をその後に薬学的混合機または造粒機、例えば遊星ミキサーまたはハイシアー(high sear)ミキサーを使用して顆粒化し、乾燥させて500μmまでキャリブレーションを行った。得られたペレットは、「1次顆粒」を形成した。
【0133】
20重量%の粘膜付着性薬剤(ミルク濃縮タンパク質またはエンドウマメタンパク質またはカルボポール974またはキトサン)、15重量%のヒプロメロース、1重量%のマグネシウム ステアリン酸塩および0.4重量%のコロイド性 シリカを秤量して、500μmシーブを使用してふるいにかけた。これらの成分をその後に1次顆粒に加え、「最終ブレンディング」混合物を形成した。最終ブレンディング混合物をその後に錠剤プレス(例えば、回転式プレス)を使用して圧縮し、本発明による圧縮キャリアを生成した。
【0134】
錠剤のサイズは、直径約8mmだった。寸法は犬歯窩(canine fossa)において快適になるまで選択された。
【0135】
上記記載の方法は、2〜23kgに及ぶ圧縮したキャリア バッチの生産に適切であった。
例9:アシクロビル生物接着性遅延放出キャリアの付着能力のインビトロ評価
例8による生物接着性遅延放出キャリアの付着能力は、テキストゥロメーター(texturometer)装置を使用して測定した。アシクロビルキャリアを、プラスチックプローブ上に固定した。プローブは、イマージされた(immerged)ステンレス ベンチに下降し、停止し、その後に上昇した。
【0136】
付着能力は、「接着力」(g)、プローブ上に固定された錠剤をステンレスの中央部から分離するために必要とされる最大の力として表現された。
【0137】
異なる粘膜付着性薬剤についての接着力の結果を図7に示す。
結果は、異なる粘膜接着性薬剤が、類似の付着性を与えうることを示している。
【0138】
例10:アシクロビル生物接着性遅延放出キャリアの付着持続性のインビボ評価
本発明による生物接着性遅延放出キャリアの付着時間を評価するために、このアシクロビルキャリアは、12人の健康なボランティアの上唇内部に適用された。キャリアの存在を、48時間目まで様々な時間でチェックした。ボランティアは、ちょうど適用24時間後までにこれらのキャリアの喪失について通常の基準に基づいてチェックを受けた。この評価の結果は、次の表1に開示される。
【表1】

【0139】
これらの結果は、キャリアの付着性が、投与の「毎日1回」の形式と完全に適合することを実証する。実際、キャリアが適用部位に留まる限り、アシクロビルは目標となる感染部位の近くに局所的に放出される。したがって、例1において示された方法で得られたアシクロビル生物接着性遅延放出キャリアは、アシクロビルの「毎日1回」の投与を可能にし、MICに関して有効成分の効率的な局所領域濃度を達成することができる。
【0140】
例11−フェンタニルを含む生物接着性遅延放出キャリアの調製
2,000μgのフェンタニル クエン酸塩、30重量%の微結晶性セルロースおよび2重量%のラウリル硫酸ナトリウムを秤量し、0.7〜2mmシーブを使用してふるいにかけ、混合機で前混合して「初期混合物」を得た。
【0141】
同時に、0.5重量%のポリビニルピロリドンを精製水中において溶解する。得られた溶液を、最初の混合液に加え、さらに撹拌した。湿潤混合物をその後に薬学的混合機または造粒機、例えば遊星ミキサーまたはハイシアー(high sear)ミキサーを使用して顆粒化し、乾燥させて500μmまでキャリブレーションを行った。得られたペレットは、「1次顆粒」を形成した。
【0142】
30重量%のミルク濃縮タンパク質、20重量%のヒプロメロース、0.2重量%のマグネシウム ステアリン酸塩および0.2重量%のコロイド性シリカを秤量して、500μmシーブを使用してふるいにかけた。これらの成分をその後に1次顆粒に加え、「最終ブレンディング」混合物を形成した。最終ブレンディング混合物をその後に錠剤プレス(例えば、回転式プレス)を使用して圧縮し、本発明による圧縮キャリアを生成した。
【0143】
上述した同じ手順を行い、800μg投与量のフェンタニルを調製した。
【0144】
例12:フェンタニル生物接着性遅延放出キャリアの付着持続性のインビボ評価
本発明による生物接着性遅延放出キャリアの付着時間を評価するために、このフェンタニルキャリアを、例8と同じ手順を経て12人の健康なボランティアの上唇内側に適用する。この評価の結果は、以下の表2に示されている。
【表2】

【0145】
例13−3つの有効成分を使用する生物接着性遅延放出キャリアの調製
例1に従って、同じ生物接着性遅延放出キャリアを、70mgのアシクロビル、80μgのフェンタニルおよび5重量%のピロカルピンを使用して調製する。このキャリアの付着性を評価するために、例8に記載されたものと同じ手順が行われる。得られた付着時間は、例10に記載されたものに類似している。
本発明は、様々な好ましい実施態様の観点において記載されているが、当業者は、様々な修飾、置換、省略および変更の態様が本発明の範囲から逸脱することなく作製されうることを認識するであろう。従って、以下の特許請求の範囲によって制限される本発明の範囲は、これらの等価物を含むものとして解釈される。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】図1は、本発明のプロセスの概略図である。
【図2】図2は、米国特許第6,916,485号に記述された処方と比較した、本発明の処方から得られた、類別されたサイズのメッシュの直径を示すグラフである。
【図3】図3は、時間単位の経時にわたる本発明の生物接着性遅延放出キャリアからのアシクロビルの溶解を示すグラフである。50mgおよび100mgの投与量が使用された。
【図4】図4は、口腔アシクロビル錠剤と比較した、本発明の生物接着性遅延放出キャリアを使用する、時間単位の経時にわたる血漿中のアシクロビル濃度を示すグラフである。
【図5】図5は、口腔アシクロビル錠剤と比較した、本発明の生物接着性遅延放出キャリアを使用する、時間単位の経時にわたる唾液中のアシクロビル濃度を示すグラフである。
【図6】図6は、口腔アシクロビル錠剤と比較した、本発明の生物接着性遅延放出キャリアを使用する、時間単位の経時にわたる唇上のアシクロビル濃度を示すグラフである。
【図7】図7は、異なる生物接着性薬剤を使用した、本発明の生物接着性遅延放出キャリアの接着力を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘膜生物接着性遅延放出キャリアであって、湿潤剤を含み、少なくとも1つの有効成分、1〜75重量%の希釈剤および1〜10重量%のアルカリ金属アルキル硫酸塩を含み、かつさらに0.5〜5重量%の結合剤および5〜80重量%の少なくとも1つの生物接着性ポリマーであって、天然ポリマー{多糖類または動物由来の天然タンパク質(例えば、乳タンパク質またはタンパク質)もしくは植物由来の天然タンパク質(例えば、エンドウマメタンパク質)}または合成ポリマーおよびこれらの混合物の群から選択されたもの、および前記有効成分の徐放性を提供する5〜80重量%の少なくとも1つのポリマーを含む、粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項2】
前記少なくとも1つの有効成分が、抗ウイルス剤、鎮痛剤、麻酔薬、鎮痛薬(antalgic)、抗炎症剤、抗生物質、防腐剤、制吐剤およびこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項3】
前記アルカリ金属アルキル硫酸塩が、ラウリル硫酸ナトリウムである、請求項1または2に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項4】
前記結合剤が、ポリビニルピロリドンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項5】
前記少なくとも1つの接着性ポリマーが、10〜40重量%濃度のミルク天然タンパク質を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項6】
前記少なくとも1つの有効成分の徐放性を提供する前記少なくとも1つのポリマーが、親水性であり、好ましくはセルロース ポリマーである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項7】
前記セルロース ポリマーが、ヒプロメロースである、請求項6に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項8】
前記少なくとも1つの有効成分が、アシクロビル、バラシクロビル、ジドブジン、ガンシクロビル、ペンシクロビル、ファムシクロビル、ホスカルネト、リバビリン、ラミドゥビン、アマンタジン、IFNα、シドホビルまたはリマンタジンから選択された抗ウイルス剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項9】
前記抗ウイルス剤が、アシクロビルである、請求項8に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項10】
前記アシクロビルが、前記キャリア中において10〜500mgの量において存在する、請求項9に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項11】
前記アシクロビルが、前記キャリア中において50〜100mgの量において存在する、請求項9に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項12】
前記少なくとも1つの有効成分が、フェンタニルまたはフェンタニル クエン酸塩またはスルフェンタニルであり、前記キャリア中において50〜1600μgの量において存在する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項13】
前記フェンタニルまたはフェンタニル クエン酸塩またはスルフェンタニルが、前記キャリア中において200〜1200μgの量において存在する、請求項12に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項14】
前記少なくとも1つの有効成分が、抗炎症剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項15】
前記抗炎症剤が、コルチコイドである、請求項14に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項16】
前記キャリアが、ラクトースおよびコーンスターチを欠く、請求項1〜15のいずれか1項に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項17】
前記少なくとも1つの有効成分が、単純ヘルペスウイルス(HSV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、エプスタインバーウイルス、ヒトヘルペスウイルス8、鳥インフルエンザ、耳下腺炎、HIV、呼吸器多核体ウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザおよびサイトメガロウイルスについて活性を有する抗ウイルス剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項18】
前記少なくとも1つの有効成分が、抗ウイルス剤、抗真菌剤、鎮痛剤、麻酔薬、鎮痛薬(antalgic)、制吐剤、唾液分泌剤、防腐剤、抗炎症剤、抗生物質およびこれらの混合物から選択された少なくとも2つのさらなる有効成分と結びつく、請求項1〜17のいずれか1項に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項19】
前記防腐剤が、2〜10重量%の最小濃度のラウリル硫酸ナトリウムである、請求項2に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリア。
【請求項20】
粘膜生物接着性遅延放出キャリアを調製する方法であって、
a) 少なくとも1つの有効成分と、アルカリ金属アルキル硫酸塩、結合剤および希釈剤との混合物を顆粒化する工程と、
b) 前記顆粒化した混合物を、少なくとも1つの生物接着性ポリマー、徐放性を提供する少なくとも1つのポリマー、および少なくとも1つの圧縮剤とブレンドする工程と、
c) 前記工程b) において得られたブレンドされた混合物を圧縮する工程と、
を含む方法。
【請求項21】
前記混合物が、キャリブレーションより前に最初に顆粒化され、かつ乾燥される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つの有効成分が水溶性(hydrosoluble)の有効成分であり、かつ前記少なくとも1つの希釈剤が不溶性の希釈剤である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1つの有効成分が不溶性の有効成分であり、かつ前記少なくとも1つの希釈剤が水溶性(hydrosoluble)の希釈剤である、請求項20〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記結合剤がポリビニルピロリドンである、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1つの生物接着性ポリマーが、天然乳タンパク質、カルボマー、アルギン酸塩、キトサン、キサンタンガム、ヒドロキシプロピル セルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒアルロン酸ナトリウム、アクリルポリマーおよびこれらの混合物の群から選択された天然タンパク質を含む、請求項20〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つの徐放性ポリマーが、セルロース ポリマーまたはセルロース ポリマーの誘導体である、請求項20〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記セルロース ポリマーが、ヒプロメロースである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記少なくとも1つの有効成分が、抗ウイルス剤、抗真菌剤、鎮痛剤、麻酔薬、鎮痛薬(antalgic)、制吐剤、唾液分泌剤、防腐剤、抗炎症性、抗生物質、およびこれらの混合物から選択される、請求項20〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記少なくとも1つの有効成分が、抗ウイルス剤、抗真菌剤、鎮痛剤、麻酔薬、鎮痛薬(antalgic)、制吐剤、唾液分泌剤、防腐剤、抗炎症剤、抗生物質およびこれらの混合物から選択されたさらなる有効成分と結びつく、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
粘膜症を治療する薬剤の製造のための、請求項1に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリアの使用。
【請求項31】
前記粘膜症が、頬側疾患である、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
前記頬側疾患が、単純ヘルペス複合体1(HSV-1)、性器ヘルペス症(HSV-2)、口腔粘膜炎、カンジダ症、口腔毛様白斑症、口腔潰瘍、唾液腺障害、変化した口腔フローラ(減少した細菌フローラ)、味覚機能障害、歯膜炎、口内乾燥症、口腔状態(炎症、健康な衛生および食事および口腔痛を含む)における2次的変化を引き起こす胃腸粘膜炎、から選択される、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
単純ヘルペス複合体1(HSV-1)、性器ヘルペス症(HSV-2)、エプスタインバーウイルス、ヒトパピローマウイルス、サイトメガロウイルス、バリアセラゾスターウイルス、ヒトヘルペスV 8によるカポジ肉腫、およびヒトパピローマウイルスによる生殖器疣を治療する薬剤の製造のための、請求項1に記載の粘膜生物接着性遅延放出キャリアの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−531411(P2009−531411A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−502254(P2009−502254)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【国際出願番号】PCT/IB2007/001662
【国際公開番号】WO2007/110778
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(504029558)
【Fターム(参考)】