説明

有孔性膜及び未分岐チャネルを有するマイクロ流体素子

本発明は試料流体中の物質を検出するマイクロ流体素子、及び当該素子を含む生物学的検定法用カートリッジに関する。当該マイクロ流体素子は、2つの筐体部分(52,54)及びこれらの筐体部分(52,54)に挟まれた有孔性膜(50)を有する。各筐体は凹部、すなわちチャネル部分(56-1,56-2,56-n,58-1,58-2,58-n)を有する。各筐体のチャネル部分(56-1, 56-2, 56-n,58-1, 58-2, 58-n)は、膜(50)を通り抜けて、対向する筐体のチャネル部分(58-1, 58-2, 58-n,56-1, 56-2, 56-n)を介して接続する。それにより試料流体用の未分岐チャネルが画定される。チャネルが膜(50)と交差する1つ以上の位置では、固定された指示物質を有するスポット(48-1,48-2,48-n)が存在する。試料流体中の標的物質はそのスポットに結合することができる。当該素子の利点は、原則として全ての試料流体が各スポットを通過することである。従って試料流体を再循環及び/又は混合する必要がない。このことは流体を並列的に貫流させる流路を有する素子にも当てはまる。従って当該素子はより単純になり、かつより高い信頼性を有する検出結果を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料流体中の物質の検出を行うマイクロ流体素子に関する。当該素子は、第1表面と第2表面及び少なくとも1の固定指示物質を含む複数のスポットを有する有孔性膜、試料流体を保持して前記膜の第1表面と接し、かつ容積が第1容積である第1筐体部分、並びに、試料流体を保持して前記膜の第2表面と接し、かつ容積が第2容積である第2筐体部分を有する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体素子は一般に少量の流体を処理するのに用いられる。特に分子診断バイオセンサ等の分野では、通常標的物質と呼ばれる、特定物質又は微生物などの存在を調べるために、たとえば血液又は体液のような少量の試料流体が検査される。そこで試料流体を、膜中又は膜上のスポット内に供された1以上の指示物質に接触させる。その指示物質は、これらの特定物質と結合すなわち反応することができる。大抵の場合、検出される物質又は微生物は、たとえば蛍光分子のようなラベルを付着することによって見えるようになる。多くの場合、試料流体は、たとえば抗原のような多くの物質等について検査される。指示物質を有するスポットの数は通常、最大でも100以上である。
【0003】
既知のマイクロ流体素子の中には、指示物質が有孔性膜上又は膜中に存在し、かつ試料流体はその膜を通過するものがある。
【0004】
具体的には、特許文献1は、上述の種類の素子について開示している。膜は多数の貫通チャネルを有する。関心のある物質を検査するため、試料流体は、膜を通るように往復させて供給される。
【0005】
既知の素子に係る問題は、膜を介して試料流体を供給する際に、各スポットは非常にわずかの試料流体しか検査しないことである。その量は比で大雑把に表すと、スポットの表面積を膜全部の表面積で除した程度である。たとえば1000個のスポットが存在する場合には、各スポットは、試料流体のわずか0.1%しか検査しない。しかも膜の浸透性が不均一であるため、試料流体が最小抵抗の経路を進むことで、スポットあたりの実効的に検査される容積が大きくばらついてしまう恐れがある。その膜の浸透性が不均一性は、たとえば本質的なものの場合もあれば、又は検出される物質の結合によって誘起される場合もある。この結果、検出が不正確になる恐れがある。従来技術においては、試料流体を(数多く)何回も頻繁に前後又は周回させて供給し、ほとんどの場合は、試料流体の混合をも併せて行うことで試料流体を均一化させることで、これらの問題は処理されてきた。マイクロ流体チャネル内での混合は難しい。その理由は、マイクロ流体チャネル内での流れは、レイノルズ数が非常に小さいため、層流だからである。しかしそれでも100%検査は実現できない。
【0006】
既知の素子に係る他の問題は、試料流体体積の減少である。孔等の内部に標的物質を含む液体の体積は非常に小さく、かつ膜の表面対体積比は大きいため、自由標的物質の実効濃度は、膜の孔表面での反応に消費されることにより、減少する。このため、全体の結合率が減少する結果、測定速度が減少する。これを解決するには、液体は絶えず補給されなければならない。このためには、持続的な供給及び混合が必要となる。混合は膜の外で行われなければならない。その結果、試料容積が大きくなり、より複雑な素子となる。
【特許文献1】米国特許第6225131号明細書
【特許文献2】国際公開第2004/024327号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述の問題点の少なくとも一部を解決するマイクロ流体素子の提供である。特に本発明の目的は、試料流体の検査の改善を可能にする素子の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的は、請求項1の前提部に記載された種類のマイクロ流体素子によって実現される。当該マイクロ流体素子は、第1容積が複数の相互に分離した凹部である第1チャネル部分を有し、かつ第2容積が複数の相互に分離した凹部である第2チャネル部分を有することを特徴とする。ここで第1チャネル部分の各々は、少なくとも1つのスポットを有する膜の重なり領域を介して最大で2つの第2チャネル部分と重なり、かつ第2チャネル部分の各々は、少なくとも1つのスポットを有する膜の重なり領域を介して最大で2つの第1チャネル部分と重なる。それにより、試料流体の未分岐チャネルが、第1及び第2筐体部分内に形成される。換言すると、第1チャネル部分の各々は最大で2つの第2チャネル部分と重なり、かつ第2チャネル部分の各々は最大で2つの第1チャネル部分と重なる。各々の重なりは、第1チャネル部分と第2チャネル部分とが直接接続する膜中の各重なり領域で生じる。1つの重なり領域は少なくとも1つのスポットを含む。チャネルの各端部に位置する最後のチャネル部分だけは、膜の対向面上に位置する1つのチャネル部分と重なり、他全ての第1及び第2チャネル部分は、厳密に2つの“対向する”チャネル部分、つまり順に第2及び第1チャネル部分と重なることに留意して欲しい。
【0009】
このように、試料流体を運ぶチャネルがスポットを通過するので、第1及び第2チャネル部分と接するスポットは全ての試料流体を検査する。従って理論的には、流体をチャネルに1回通過させるという1回の手順で、100%の検査が実現可能である。流体中の標的物質濃度は、混合を全くしなくても、流体が流れる時間全てを通して一定のままである。全貫流時間はたとえば、全容積を貫流する時間、又は十分な信号が検出される(十分な結合が生じる)までの時間で選ばれて良い。基本的には、検出を行うのに必要な時間は、検出される物質が指示物質に捕獲される際の結合動特性、及び装置の検出限界によって決定される。流れは、十分な信号が得られるまで保持されなければならない。
【0010】
特許文献2は、分子検出用の有孔性基板を有するマイクロ流体素子について開示している。その装置では、多数の並列チャネルが有孔性基板の両面に存在している。チャネルは、第1面の各チャネルが常に他の面の全チャネルと接続するように重なっている。そのような接続は、直接的、又は1つ以上の中間チャネルを介したものである。またそのような接続は、同一面上又は基板の対向する面上で起こる。2種類以上の試料流体が挿入される。その流体は、基板で又は基板を介して接触して、かつ基板の変化を引き起こす。この装置では、試料流体は様々な並列経路に沿って流れる。従って試料流体は(存在する場合には)同一量で各スポットを通過することができない。
【0011】
本発明では、全チャネル部分は1つになって1つのチャネルを形成する。試料流体は、その一手順で1つのチャネルを介して膜を通過する。続いて第1容積と第2容積との接続上に存在する全てのスポットは、同一量の試料流体を受け取る。これにより、スポットによる物質の検出精度が顕著に改善される。全てのスポットが1つのチャネル内に存在している必要はないことに留意して欲しい。複数のスポットが1チャネル内に存在していれば十分で、それにより複数のスポットは、全ての試料流体を受ける。他のスポットは様々な方法で供されて良い。たとえば従来技術に係る素子によると、膜領域上での一群をなす複数のスポットを介して、試料流体はある程度並列に流れる。原則的には、試料流体用に1つのチャネルを供することによって、断面積は減少する。その結果、他の全ての因子は同一のままで、全貫流時間は、並列貫流素子中の1つの経路と比較して、同じ因子によって増大する。しかし因子の数が増えることでこの効果は緩和される。まず第1に、膜を通り抜けるのは1回で十分である。さらに外部循環及び混合を省略することができることで、試料容積をはるかに小さくすることができる。試料流体をマイクロチャネル内部に閉じこめることによって、干渉を起こすことなく並列に、多種類の試料を同一膜へ貫流させることが容易となる。このことは、多種類のPCR製品が分析される必要がある場合に重要である。このようにして、試料容積は劇的に減少し、その結果検査時間も減少する。しかしそれよりも重要なことは、交差反応問題が回避又は大幅に緩和されることである。最大貫流時間は、全試料体積、並びに、膜内部での受容可能及び/又は望ましい最大流体流速によって決定される。前者は用途に依存する。後者は膜の微細構造に依存する。流速を増大させることで、流れを維持するのに必要な圧力が低下する。従って膜の圧力が増大する。本発明による素子では、後述するように、膜は、底部及び上部基板によって非常に良好な状態で支持されうる。このことは、既知の素子における並行貫流とは対照的である。
【0012】
各スポットは、第1容積の1チャネル部分と第2容積の1チャネル部分との間に位置することに留意して欲しい。さらに、この検査を行うために、周回又は前後して混合又は再循環させる必要がないことにも留意して欲しい。
【0013】
他の利点は、混合チャンバ又は(再)循環チャンバを必要としないため、試料流体に利用可能な素子の全体積が減少することである。
【0014】
さらに他の利点は、膜の一の面上の大きな容積から膜の他の面上の大きな容積へ流れなくなるので、素子全体の構築高さすなわち厚さを減少させることができることである。高さは非常にわずかな程度で十分である。高さすなわち厚さがこのように小さいことで、膜のスポットの読み取りを改善させることが可能となる。
【0015】
凹部部分は、対応する筐体部分の外側表面に対するある容積を有することに留意して欲しい。その容積は、チャネル部分を覆う膜によって画定されると言えるだろう。
【0016】
素子の唯一ではないが主な目的は、試料流体中を通常の場合において非常に低濃度で存在する多数の様々な分子を、迅速なだけではなく高感度かつ高い再現性で検出することである。
【0017】
特別な実施例では、第1及び第2筐体部分はそれぞれ少なくとも10のチャネル部分を有する。このことは、チャネル、ひいてはそのチャネル内の流体の経路が少なくとも10回膜を通ることを意味する。これにより、少なくとも同数のスポットを供する位置が与えられる。
【0018】
上述の各交差では、試料流体中の物質を検出するためのスポットが供されて良い。特別な実施例では、膜は少なくとも10のスポットを有し、かつ各スポットは、第1容積の1つのチャネル部分及び第2容積の1つのチャネル部分によって接触する。当然のことだが、第1容積の1つのチャネル部分と第2容積の1つのチャネル部分との各接続にて、膜上又は膜中に係るスポットを供する必要はなく、かつ如何なる他の数が採用されても良い。さらに係る接続にて、膜上又は膜中に1つ以上のスポットを供することも可能である。
【0019】
特別な実施例では、当該素子は少なくとも2つの分離したチャネルを有する。これはたとえば、試料流体が2つ以上のチャネルにわたって分配され、かつ当然のこととして各チャネルが2回以上膜を通るような実施例で実施されて良い。これは、並行に流路を供することができる。各チャネルは、独自の試料流体流入口を有する。具体的には、独自の試料流体流入口は独自の試料流体格納容器と接続する。これにより、同程度又は少なくとも既知量の試料流体が各チャネルを通過することが可能で、かつ不正確さの原因であるチャネル間での混合が生じないことが保証される。また様々な試料流体、つまり様々な検出される標的物質を有する試料流体を供することも可能となる。これは、測定が行われる前に、これらの様々な試料流体が同じように処理される必要がある場合に有用であると考えられる。
【0020】
単一チャネルの場合では、これは大抵の場合、素子の全表面積を小さくして多くのスポットを有する長いチャネル長を実現するため、曲がりくねったチャネルである。しかし多チャネルの場合では、これら多数のチャネルを並行に供することは、必要ではないとはいえ、有利となりうる。
【0021】
特別な実施例では、第1及び第2筐体はそれぞれ、各対応するチャネル部分を画定する構造化された部品を有する。この実施例では、筐体部分は、チャネル部分が機械加工された2つの部品を有する。部品内の構造はほとんどの場合非常に小さい。構造の機械加工に用いられる方法は、たとえばリソグラフィ分野の方法である。典型的開始点では、リソグラフィ露光及びガラス又はシリコン基板上へのパターニングされたレジストの現像に続き、電気メッキ等の方法によって、ニッケルのような鋳型材料への転写が行われる。これに続いて、たとえば注入成形、エンボス加工等によるポリマーへの構造の複製が行われる。同様の方法は、コンパクトディスクの作成に用いられている。スポットの数及びサイズは、(フォト)リソグラフィ又は複製法による筐体部分の微細加工限界に接近することなく、たとえばプリントのような適用される方法に依存して非常に広い範囲で変化して良い。もちろん、たとえばレーザー切断に基づく他の方法が用いられても良い。
【0022】
特別な実施例では、構造化された部品は概して平坦な表面を有する。その表面内では、チャネル部分は凹部として残される。ここで“概して平坦な”という表現は、凹部のない場合であれば機械加工されていない表面を意味する。機械加工後であれば、表面の機械加工されていない部分を意味する。しかし膜は、ある程度弯曲した又は不規則な表面中の凹部でさえなくすことが大抵の場合において可能なので、表面を完全に平坦にする必要はない。たとえば膜に対する(複数の)チャネルの密閉を改善するために、筐体部分中のチャネル部分間に隆起部分を供することも可能である。
【0023】
特別な実施例では、圧力下では第1及び第2筐体部分が接続した状態で供される。それにより膜は、第1及び第2筐体部分の両方と接触する領域内で圧縮状態となる。これにより、筐体部分間で膜を良好な状態で固定することが保証される。よって、チャネル部分に対するスポットの正確な位置を維持できることも保証される。ここで膜は、チャネル部分端部を覆って良く、かつ必要なことではないが、筐体部分の外側端部にわたって延在しても良い。場合によっては、筐体部分の外側端部内に膜を供することで、たとえば汚染を防止することさえも有利となりうるだろう。これは、筐体部分の外側端部から十分に離れた位置にチャネルを供することによって実施可能である。
【0024】
特別な実施例では、第1及び第2筐体部分のうちの少なくともいずれかの概して平坦な面と膜との間に接着剤が供される。接着剤は、試料流体の意図しない迂回に対してチャネルを密閉することを補助する。接着剤は膜上に用いられて良い。膜上とはたとえば、スポットの周り全て、第1及び/又は第2筐体部分の平坦表面と接触する膜の全部又は一部上である。あるいはその代わりに、又はそれに加えて、接着剤は、膜と接触する少なくとも1つの筐体部分の平坦面上に用いられても良い。当然のことだが、汚染又は意図しない流れの抵抗の増大を防ぐため、接着剤はスポットと接触しないことが好ましい。
【0025】
圧縮による固定及び/又は接着剤を供することによる、第1筐体部分と第2筐体部分との間で膜が固定した状態となる結果、その膜はチャネル(部分)を取り囲む全ての面から固定され、その結果、(2軸性)伸張によってしか変形できなくなる。それにより、試料流体流によって与えられる力に対して、膜が良好な耐性を示すことが保証される。
【0026】
特別な実施例では、当該素子は、第1及び第2容積のうちの1つと接する試料流体流入口をさらに有する。特にマイクロ流体素子が再利用されるように設計された場合、分離した試料流体流入口を供することは有利である。たとえ当該素子が1回しか用いられないように設計されるときでさえも、そのような分離した試料流体流入口は利点を供する。しかし筐体部分内に貫通可能な壁部分を供することも可能である。係る壁部分は、たとえばシリンジによって貫通可能である。前記貫通可能な壁部分が、シリンジ等が収縮した後に自動で密閉する場合にも当然のことながら有利である。
【0027】
特別な実施例では、当該素子は試料流体格納容器を有する。この格納容器内では、たとえば測定するまで、温度のような条件が設定されるまで、試料流体を貯蔵することができる。その格納容器は、チャネルを介して試料流体を流すことができるようにチャネルへの接続が可能である。試料流体格納容器がチャネルと接するとき、格納容器は大体第1又は第2容積の一部となる。両チャネル又はいずれか一方のチャネルに試料流体を供することも可能である。試料流体は一の格納容器から他の格納容器へ供給されて良い。あるいはその代わりに、試料流体格納容器とは反対側のチャネル端部では、排出バルブが供されて良い。その排出バルブを介して、使用された試料流体を放出することができる。
【0028】
便宜上、チャネルは追加された流体用ホルダと接続可能である。これにより、チャネルを介して追加された流体の供給が可能となる。これは、元の試料流体を除去する。これにより、膜上又は膜中のスポットを評価するための良好なバックグラウンドを供することができる。そのような追加の流体の種類は、たとえば空気のような気体であって良い。
【0029】
特別な実施例では、当該素子は試料流体ポンプをさらに有する。係る試料流体ポンプはチャネルを介して試料流体を移動させるのに用いられて良い。ポンプは、たとえば圧電可動部に基づいたもの、ロータリーポンプ等の如何なる種類の流体ポンプであって良い。ポンプは外部から供されることで、そのポンプによって与えられる圧力又は他の駆動力は当該素子中の試料流体へ伝わることに留意して欲しい。
【0030】
特別な実施例では、第1及び第2筐体部分のうちの少なくとも1つは、光学素子を有する。光学素子は、前記の第1及び第2筐体部分のうちの少なくとも1つの集積部分であることが好ましい。当該マイクロ流体素子は、スポットを有する膜へ試料流体を通過させることによって、試料流体中の物質を検出する役割を果たす。その結果、スポットが検査されることで、試料流体が、各対応する(複数の)スポットによって検出される物質を実際に含んでいるか否かが判断される。光学素子を供することで、スポットの検査の手助けとなりうる。特に光学素子は、光学窓又はレンズアレイを有する。これにより、スポットを有する膜を十分な分解能で明確に観察することが可能となり、さらには必要に応じてレンズによって拡大することも可能である。光学素子は、第1及び/又は第2筐体部分の集積部分として供されて良い。たとえば筐体部分それ自体は、光学的に透明な材料で作られて良い。筐体部分の一部は、たとえばレンズのような光学素子形状で供されて良い。もちろん、スポットをチェックするために、当該素子から膜を除去することも可能である。
【0031】
当該素子は、少なくとも1つのスポットから光信号が得ることができる光感受性を有する読み取り素子をさらに有する。これにより検出される(複数の)物質の特性に対して当該素子を最適化することができる。係る光感受性を有する読み取り素子は、フォトメータ、色差計等であって良い。当然のことだが、本発明による素子及び独立した読み取り素子を有するシステムを供することも可能である。
【0032】
本発明は、本発明による素子を含む生物学的検定法用カートリッジをも供する。特に、当該素子は、少なくとも1つの試料調製素子を有する。試料調製素子とは具体的に、細胞濾過装置、細胞融解装置、DNA抽出装置、又は増幅装置である。任意で当該素子は、加熱装置をも有する。係る結合装置の利点は、関心物質の検出において、汚染の危険性を最小限に抑えるため、様々な他の手順を当該装置内で実行できることである。他の内蔵機能を実行することが求められる、又は意図される様々な他の部品は、たとえば分離した密閉可能チャンバ内のように、当該装置内又は当該装置上に適切に設置されて良い。その機能を実行するために、たとえばコンピュータのような制御ユニットとの接続を供すること、又は係る制御ユニットを当該装置へ組み込むことは有利となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1は、従来技術に係る素子の概略的断面を図示している。ここで素子は膜12を有する筐体10を含む。膜12は第1容積14及び第2容積16と接する。ドレイン18を介して、ポンプ20は、ミキサー22へ向けて矢印の方向に流体を供給し、そこから供給ライン24を介して第1容積14へその流体を流入させる。
【0034】
光学検査素子は参照番号26で非常に概略的に示されている。
【0035】
図示された従来技術に係る素子では、試料流体は膜12を介して供給される。膜上又は膜中の所謂スポットに、1つ以上の指示物質が設けられる。試料流体が膜を通過するとき、その流体は指示物質と接触し、その流体の組成に依存して、それらの指示物質のうちの1つ以上が、その流体の一部と結合するか、又は変化を引き起こす。いずれの場合でも、その試料流体中での物質、微生物等の存在が示唆される。
【0036】
図示された素子では、わずか少量の試料流体しか各個別のスポットを通過しない。その程度は、大雑把にはそのスポットの表面積を膜12全体で除した比である。検査を改善するため、ときには流体を混合させるミキサー22の助けを借りて、何度も前後又は周回させて供給することにより、試料流体を膜に通過させることがある。混合は、たとえば18,24のようなマイクロ流体チャネル内及び膜12内のマイクロチャネル内ではほとんど生じないことに留意して欲しい。
【0037】
図2は、線I-I’に沿ってとられた、図1の素子中の膜12の上面を図示している。多数のスポット30が示されている。各スポットは上述したように指示物質を有する。スポットの数は変化して良く、かつたとえば1,2などのように如何なる数であっても良い。ただしほとんどの場合は、100から1000といったかなり大きな数である。図を単純にするため、図示された例では、この数を56に限定した。
【0038】
図3は、本発明によるマイクロ流体素子の実施例を概略的に図示している。
【0039】
ここで筐体40では、チャネル46で接続した流入口42及び流出口44が供される。チャネル46内には、指示物質のスポット48が供される。
【0040】
チャネル46は、小さな表面積上に長いチャネル長を供するため、曲がりくねったチャネルである。図には1本のチャネルにしか図示されていないが、スポット48は、チャネル46の6本の並列トラックの各々の中に存在する。
【0041】
流入口42及び流出口44はまた、試料流体格納容器であっても良い。その格納容器内には、新鮮な試料流体、使用された試料流体がそれぞれ貯蔵されて良い。
【0042】
各々が独自の流入口及び流出口を有する多数の分離したチャネル46を供することも可能である。係るチャネルは、並列に走らせても良いし、並列に走らせなくても良い。また係るチャネルは、類似又は非類似の試料流体について並列検出を行うのに用いられて良いし、又は連続検出を行うのに用いられても良い。各チャネルは、供給手段との接続が可能であり、かつ制御ユニット(図示されていない)によって別個に制御可能である。各チャネルは、選ばれた指示物質を有する選ばれたスポットを有して良い。
【0043】
図4は、線A-A’に沿ってとられた、図3の素子の断面を図示している。ここで、スポット48-1,48-2等(48-nで表される)を有する膜50が、第1筐体部分と第2筐体部分との間で保持されている。第1筐体部分は、多数の上部チャネル部分56-1,56-2等(56-nで表される)を有する上部膜ホルダ又はカバー52とも呼ばれる。第2筐体部分は、多数の下部チャネル部分58-1,58-2等(58-nで表される)を有する下部膜ホルダ又は基板54とも呼ばれる。光学素子は、参照番号60によって概略的に示されている。“下部”又は“上部”という語句は好適な方向を示すのに用いられているわけではなく、単純に図中に示された部品を明確に示すことができるようにするためであることに留意して欲しい。実際、当該素子は上下反対にしても、又は如何なる角度で回転させても同じように動作する。
【0044】
膜50は、たとえば生体アレイに用いられる膜のような如何なる適当な有孔性膜であっても良い。係る膜は、そのような毛細管はシリコン又はアルミナ中に作られた、相互に平行に貫流する毛細管を有して良い。又はそのような毛細管は、たとえば等方性ナイロンで作られた相互接続する毛細管の等方的網を有しても良い。
【0045】
流入口42及び/又は流出口44は、内部又は外部の試料流体ホルダとの接続を有して良いし、又は試料流体ホルダ自体を有しても良い。後者の場合、全体としては当該素子1回の使用に非常に適していて、かつ、そのホルダは試料流体を注入するためのたとえばシリンジによって貫通することのできる壁を有して良い。ここで試料流体は、1つ以上の検出される物質、微生物等を含む。
【0046】
流入口42及び流出口44は、長さを延ばすために曲がりくねっているチャネル46の手段によって接続する。チャネル46の内部容積は、図4から分かるように、複数回膜50と交差する。よって、破線矢印で示されたような試料流体の経路が生じる。第1チャネル部分56と第2チャネル部分58は、チャネル46を形成するように、膜50上の重なり領域内で重なる。第1チャネル部分56と第2チャネル部分58の各々は、膜50の対向する面上の2つのチャネル部分と重なる。ただしチャネル46端部の最後2つのチャネル部分はそれぞれ、1つの“対向する”チャネル部分としか重ならない。この場合、チャネル46が図4に図示されたチャネル部分で構成されているとすると、第1チャネル部分56-1は1つの第2チャネル部分と重なる一方で、たとえば56-2,56-3等は2つの第2チャネル部分と重なる。
【0047】
本発明による素子の機能は図4で説明される。上部膜ホルダ部分52内の一番左側の上部チャネル部分56-1すなわち凹部状構造に到達する試料流体は、供給手段によって、破線矢印で示された方向に供給される。供給手段は図示されていないが、たとえば図1のポンプ20に相当する。供給手段又は単純に毛細管作用によって生じた圧力の影響下では、試料流体は膜50を交差して、一番左側の下部チャネル部分58-1へ到達する。膜50を交差する際、試料流体は、指示物質を含む第1スポット48-1と接する。指示物質とはたとえば、流体試料中に存在する場合には、所望の分子種と結合する生体捕獲プローブである。
【0048】
続いて、試料流体はさらに、膜50上又は膜50中の第2スポット48-2を介して、一番左側の上部チャネル部分56-2へ向けて供給される。第2スポットは、同種又は異なる指示物質を有して良い。
【0049】
同様に、試料流体は、チャネル46の流出口44へ到達するまで、他のスポット48-3等の各々を通過する。チャネル46及び流出口44は両方とも図3に図示されている。よって、明らかに1つ以上のスポットに結合する物質等以外の全試料流体が、スポット48-1,48-2等の各々を通過することが分かる。プロセス全体は厚さの非常に小さな素子内で実行することができる。このため、光学素子60で得られるような高分解能を得ることができる。このことは、スポット48ひいてはチャネル46及び素子全体を小さくできることを意味する。
【0050】
試料流体の経路が膜50上又は膜50中のスポット48を介する限り、上部チャネル部分及び下部チャネル部分の形状は特に限定されず、製造の容易さ、流れの最適化等の要求に応えるように選ばれて良い。これにより、スポット48内の指示物質はその機能を発現することが保証される。
【0051】
利用可能なスポットサイズには制限はない。直径50μmから500μmの直径を有するスポットが最も好ましい。膜上での指示物質のプリントが十分制御される場合には、スポット径はさらに小さくすることができる。サイズは大抵の場合、検出光学系に適合するように選ばれる。可視化の場合では、スポットが大きくなることで、光散乱に起因する信号が増大する。走査光学読み取りでは、このことは問題とはならず、スポットサイズをさらに小さくすることができる。図3及び図4では、スポットは、第1チャネル部分と第2チャネル部分との各直接接続の重なり領域程度の大きさで図示されている。実際には、スポット48は、それよりもわずかに小さく選ばれて良い。そのように選ばれることにより、スポットの側部で遮蔽される大きな危険性を生じさせることなく、試料流体は正しくスポットを通過できることが保証される。
【0052】
チャネル46の大きさ、上部チャネル部分56と下部チャネル部分58内の経路の大きさ、及び上部チャネル部分56と下部チャネル部分58の間の経路の大きさは、スポットサイズに適合するように設計され、かつ方法によって制限されない。このことは、はるかに小さなサイズ又ははるかに大きなサイズを容易に作ることができることを意味する。チャネル高さは同程度のオーダーである。好適には流れの抵抗は、チャネルによって決定されるのではなく、むしろ膜によって決定されるべきである。従って、膜よりも高い又は低い‘自由な’チャネル高さは、通常数十μmのオーダーである。ただし他の値、より具体的には通常数十μmよりも大きな値が排除されるわけではない。典型的な値は50-100μmである。膜の高さは通常10μmから150μmのオーダーである。原理は、薄い膜によって、より容易に実施可能となる。
【0053】
膜50は、各スポットについて毛細管のような少なくとも1つの貫通経路を有する。場合によっては、試料流体全体用のチャネル46と混同しないように、膜は各スポットについて多数の微細チャネルを有する。指示物質は、基板12の外側表面上に供されて良いし、又は、たとえば貫通チャネルの壁上のような、膜自体の中に供されても良い。指示物質は、たとえば特にプリントによる浸透のような既知の方法によって供されて良い。
【0054】
図示された素子では、必要というわけではないが、たとえばプリント法によって、スポットは規則的なパターンで供され、かつ如何なるスポット分布も容易に得られる。指示物質はそれぞれ異なる物質であって良く、又はたとえばそれぞれが異なる濃度である同一の物質を有しても良い。また検査したい物質について試料流体との接触面積を増大させるため、2つ以上のスポットは、同一濃度の同一物質を有しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】従来技術に係る素子の概略的断面を図示している。
【図2】図1の素子の膜の上面を図示している。
【図3】本発明によるマイクロ流体素子の実施例を概略的に図示している。
【図4】図3の素子の断面を図示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料流体中の物質の検出を行うためのマイクロ流体素子であって、
当該マイクロ流体素子は、
第1表面と第2表面、及び少なくとも1の固定指示物質を含む複数のスポット、を有する有孔性膜;
前記膜の第1表面と接し、かつ容積が第1容積である第1筐体部分;並びに、
前記膜の第2表面と接し、かつ容積が第2容積である第2筐体部分;
を有し、
前記第1容積は、複数の相互に分離した凹部である第1チャネル部分を有し、かつ
前記第2容積は、複数の相互に分離した凹部である第2チャネル部分を有する、
ことを特徴とし、
前記第1チャネル部分の各々は、少なくとも1つのスポットを有する膜の重なり領域を介して最大で2つの前記第2チャネル部分と重なり、かつ
前記第2チャネル部分の各々は、少なくとも1つのスポットを有する膜の重なり領域を介して最大で2つの前記第1チャネル部分と重なり、
それにより、前記試料流体の未分岐チャネルが、第1及び第2筐体部分内に形成される、
素子。
【請求項2】
前記第1筐体部分及び前記第2筐体部分は、それぞれ少なくとも10のチャネル部分を有する、請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記膜は少なくとも10のスポットを有し、かつ
各スポットは、前記第1容積の1つのチャネル部分及び前記第2容積の1つのチャネル部分によって接続する、
上記請求項のうちのいずれかに記載の素子。
【請求項4】
少なくとも2つの相互に分離したチャネルを有する、上記請求項のうちのいずれかに記載の素子。
【請求項5】
前記第1筐体部分及び前記第2筐体部分は構造化された部品を有し、かつ
該構造化された部品は、各対応する前記チャネル部分を画定する、
上記請求項のうちのいずれかに記載の素子。
【請求項6】
前記第1筐体部分及び前記第2筐体部分が、圧力下で接続するように供され、
それにより、前記膜は、前記第1筐体部分と前記第2筐体部分の両方と接する領域内で圧縮状態となる、
上記請求項のうちのいずれかに記載の素子。
【請求項7】
前記第1筐体部分及び前記第2筐体部分のうちの少なくとも1つの概して平坦な表面と前記膜との間に接着剤が供される、請求項6に記載の素子。
【請求項8】
前記第1筐体部分及び前記第2筐体部分のうちの1つと接する試料流体流入口をさらに有する素子であって、好適には前記チャネルは追加流体のホルダとの接続が可能である、上記請求項のうちのいずれかに記載の素子。
【請求項9】
試料流体格納容器をさらに有する、上記請求項のうちのいずれかに記載の素子。
【請求項10】
前記第1筐体部分及び前記第2筐体部分のうちの少なくとも1つが光学素子を有する、上記請求項のうちのいずれかに記載の素子。
【請求項11】
光感受性を有する読み取り装置をさらに有する素子であって、前記光感受性を有する読み取り装置は、前記スポットのうちの少なくとも1つからの光信号を得ることができる、上記請求項のうちのいずれかに記載の素子。
【請求項12】
上記請求項のうちのいずれかに記載の素子を有する、少なくとも1つの生物学的検定法を実行するためのカートリッジ。
【請求項13】
具体的には、細胞濾過装置、細胞融解装置、DNA抽出装置、又は増幅装置のような、少なくとも1つの試料調製素子をさらに有する、請求項12に記載のカートリッジ。
【請求項14】
さらに加熱装置を有する、請求項12又は13に記載のカートリッジ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2009−517650(P2009−517650A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541863(P2008−541863)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際出願番号】PCT/IB2006/054291
【国際公開番号】WO2007/060580
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】