説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】塗布法により素子を製造する際に、隣接する有機層との間で相溶解が生じることなく、最終的に得られる素子における発光効率および耐久性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
【解決手段】本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極との間に正孔輸送層を備えて構成される有機エレクトロルミネッセンス素子であって、該正孔輸送層が、特定の重合性芳香族アミン化合物を含む組成物を硬化してなる硬化物層であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。より詳しくは、本発明は、陽極と陰極との間に正孔輸送層を備えて構成される有機エレクトロルミネッセンス素子であって、該正孔輸送層が、重合性芳香族アミン化合物を含む組成物を硬化してなる硬化物層である有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子としては、陽極と陰極との間に、複数の有機層を設けた多層構造の素子が知られている。そこで、それぞれ異なる有機材料からなる有機層を電極上に積層する必要がある。
【0003】
しかしながら、従来の塗布法により素子を製造する場合は、有機層を積層する際に、隣接する有機層との間で相溶解が生じ、得られる有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率、発色の色純度またはパターン精度が低下するという問題があった。
【0004】
これに対して、有機層の耐久性すなわち耐溶剤性を向上させるために、特許文献1では、電極上に、光架橋性トリフェニルアミン含有ポリエーテルケトンを含む溶液を塗布した後、光架橋させて光架橋物からなる有機層を形成する方法が開示されている。また、電極上に、少なくともポリチオフェン誘導体とシランカップリング剤とを含有する液体を塗布した後、熱硬化させて熱硬化からなる有機層を形成する方法(特許文献2)や、電極上に、重合性ジアミン化合物およびエポキシ(メタ)アクリレート系架橋剤を含有する導電性材料用組成物を塗布した後、架橋重合させて有機層を形成する方法(特許文献3)も知られている。
【0005】
また、特許文献4には本発明の組成物が記載されているが、有機EL素子のホール輸送層としての機能は開示されていない。
【特許文献1】特開平9−255774号公報
【特許文献2】特開2000−208254号公報
【特許文献3】特開2006−245178号公報
【特許文献4】特開2005−206817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、いずれの場合も、有機層の硬化性に改善の余地があるという問題や、硬化性を向上させるために添加される硬化剤により素子特性が低下するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、塗布法により素子を製造する際に、隣接する有機層との間で相溶解が生じることなく、最終的に得られる素子における発光効率および耐久性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、特定の重合性芳香族アミン化合物を用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、たとえば以下の[1]〜[5]に関する。
【0009】
[1]陽極と陰極との間に正孔輸送層を備えて構成される有機エレクトロルミネッセン
ス素子であって、該正孔輸送層が、下記一般式(1)で表される構造を有する重合性化合物を含む組成物を硬化してなる硬化物層であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
一般式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
(一般式(1)において、R1、R2、およびR3のうち少なくとも一つは一般式(2)で
表される重合性官能基を有するアリール(aryl)基であり、且つ他はアルキル基、アラルキル基、またはアリール基である。但しR1、R2およびR3は同一であっても異なってい
ても良い。)
一般式(2)
【0012】
【化2】

【0013】
(一般式(2)において、R4はそれぞれ独立に、一般式(3)または一般式(4)で表
される構造であり、X1はそれぞれ独立に2個〜6個の水酸基を有する炭素数2〜炭素数
30の多価アルコールから誘導される有機残基を表す。Y1はそれぞれ独立に構造式(1
)または構造式(2)を表す。X2はそれぞれ独立に炭素数1〜炭素数4のアルキレン鎖
を表す。n1は1〜10の整数を表し、n2は0〜1の整数を表し、vは0〜4の整数を表す。)
一般式(3)
【0014】
【化3】

【0015】
(一般式(3)において、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜炭素数5のアルキル基を表す。)
一般式(4)
【0016】
【化4】

【0017】
(一般式(4)において、R7は水素原子または炭素数1〜炭素数6のアルキル基を表す
。)
構造式(1)
【0018】
【化5】

【0019】
構造式(2)
【0020】
【化6】

【0021】
[2]上記組成物が、電子受容性化合物をさらに含むことを特徴とする上記[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[3]上記正孔輸送層と陰極との間にさらに発光層を備えており、該発光層が、りん光発光性化合物を含むことを特徴とする上記[1]または[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0022】
[4]上記組成物が、りん光発光性化合物をさらに含むことを特徴とする上記[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[5]上記硬化物層が、上記組成物を陽極上に塗布し、硬化させることにより形成されることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、塗布法により素子を製造する際に、隣接する有機層との間で相溶解が生じることがないため、発光効率および耐久性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極との間に正孔輸送層を備えて構成される有機エレクトロルミネッセンス素子であって、該正孔輸送層が、特定の重合性芳香族アミン化合物(以下「重合性化合物」とも記す。)を含む組成物(以下「重合性組成物」とも記す。)を硬化してなる硬化物層である。
【0025】
《実施の形態1》
本発明(実施の形態1)に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記正孔輸送層と陰極との間にさらに発光層を備えており、該発光層が、りん光発光性化合物を含む。すなわち、陽極2、正孔輸送層3、発光層4および陰極5がこの順で積層してなる(図1参照)。
【0026】
[陽極]
上記陽極を構成する材料としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、酸化錫、酸化亜鉛、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子など、公知の透明導電材料が好適に用いられる。この透明導電材料によって形成された電極の表面抵抗は、1〜50Ω/□(オーム/スクエアー)であることが好ましい。陽極の厚さは50〜300nmであることが好ましい。また、陽極は通常基板1上に形成されており、該基板1としては、発光材料の発光波長に対して透明な絶縁性基板が好適に用いられ、具体的には、ガラスのほか、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート等の透明プラスチックなどが用いられる(図1参照)。上記陽極材料の成膜方法としては、例えば、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、化学反応法、コーティング法などが用いられる。
【0027】
[正孔輸送層]
上記正孔輸送層は、特定の重合性芳香族アミン化合物を含む組成物を硬化して得られる硬化物からなる硬化物層である。
【0028】
<重合性芳香族アミン化合物>
本発明(実施の形態1)に用いる重合性化合物は、アリールアミン化合物の同一分子内に、一般式(2)で示される重合性官能基を少なくとも一つ有することを特徴とする重合性化合物である。
【0029】
このアリールアミン構造は、一般式(1)として表すことができる。
一般式(1)
【0030】
【化7】

【0031】
(一般式(1)において、R1、R2、およびR3のうち少なくとも一つは一般式(2)で
表される重合性官能基を有するアリール基であり、且つ他はアルキル基、アラルキル基、またはアリール基である。但しR1、R2およびR3は同一であっても異なっていても良い
。)
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基等が挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フルオレニル基又、一般式(7)〜一般式(12)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
一般式(7)
【0032】
【化8】

【0033】
一般式(8)
【0034】
【化9】

【0035】
一般式(9)
【0036】
【化10】

【0037】
一般式(10)
【0038】
【化11】

【0039】
一般式(11)
【0040】
【化12】

【0041】
一般式(12)
【0042】
【化13】

【0043】
(一般式(7)〜一般式(12)において、R11〜R61はそれぞれ独立に一般式(2)、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、または一般式(13)または一般式(14)で表される基を表す。
一般式(13)
【0044】
【化14】

【0045】
(式中X3はそれぞれ独立に炭素数1から炭素数4のアルキレン基を表し、n3は1〜10の整数を表す。)
一般式(14)
【0046】
【化15】

【0047】
(式中X4はそれぞれ独立に炭素数1から炭素数4のアルキレン基を表し、n4は1〜10の整数を表す。)
更に、上記アリールアミン化合物から、一般式(2)の重合性官能基を除くアリールアミン構造としては、特開2001−166520号に例示されている化合物等が挙げられるが、なんらこれらに限定されるものではない。
【0048】
(重合性官能基)
次に一般式(2)で示される重合性官能基について説明する。
一般式(2)
【0049】
【化16】

【0050】
(一般式(2)において、R4はそれぞれ独立に、一般式(3)または一般式(4)で表
される構造であり、X1はそれぞれ独立に2個〜6個の水酸基を有する炭素数2〜炭素数
30の多価アルコールから誘導される有機残基を表す。Y1はそれぞれ独立に構造式(1
)または構造式(2)を表す。X2はそれぞれ独立に炭素数1〜炭素数4のアルキレン鎖
を表す。n1は1〜10の整数を表し、n2は0〜1の整数を表表し、vは0〜4の整数を表す。)
一般式(3)
【0051】
【化17】

【0052】
(一般式(3)において、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜炭素数5のアルキル基を表す。)
一般式(4)
【0053】
【化18】

【0054】
(一般式(4)において、R7は水素原子または炭素数1〜炭素数6のアルキル基を表す
。)
構造式(1)
【0055】
【化19】

【0056】
構造式(2)
【0057】
【化20】

【0058】
一般式(2)のR4は一般式(3)または一般式(4)のいずれかを表す。
一般式(3)のR5、R6はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜炭素数5のアルキル基を表す。一般式(3)において重合性の点で好ましくはR5、R6の少なくとも一方が水素原子またはメチル基で他方が水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基およびiso−プロピル基の少なくとも一種である。より好ましくはR5、R6の少なくとも一方が水素原子で他方が水素原子またはメチル基であり、最も好ましくはR5、R6のいずれもが水素原子である。炭素数6以上のアルキル基では重合性が低下する恐れがあり好ましくない。
【0059】
また、一般式(4)のR7は水素原子または炭素数1〜炭素数6のアルキル基を表す。
一般式(4)において重合性の点で好ましくはR7が水素原子、メチル基、エチル基、n
−プロピル基およびiso−プロピル基の少なくとも一種である。より好ましくはR7
水素原子またはメチル基である。炭素数7以上のアルキル基では重合性が低下する恐れがあり好ましくない。
【0060】
上記したX1は、2個〜6個の水酸基を有する炭素数2〜炭素数30の多価アルコール
から誘導される有機残基を表す。
一般式(2)におけるX1が、それぞれ独立にアルキレンジオールの残基、脂環式ジオ
ールの残基、芳香族ジオールの残基、または一般式(5)で表されることが好ましい。
一般式(5)
【0061】
【化21】

【0062】
(R8、R9はそれぞれ独立に水素原子または一般式(6)を表し、少なくとも一方は一般式(6)である。)
一般式(6)
【0063】
【化22】

【0064】
(一般式(6)において、R10は塩素原子、臭素原子、フッ素原子、水素原子または炭素
数1〜炭素数3のアルキル基を表す。)
(多価アルコール)
上記した基X1を誘導するための具体的な上記多価アルコールとしては、エチレングリ
コール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール等のアルキレンジオール、また置換したアルキレングリコールとしては、1−フェニルエチレングリコール、1,2−ジフェニルエチレングリコール、またこれらのポリアルキレンジオール、1,1−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ベンゼンジメタノール等の芳香族ジオール、およびこれらの多価アルコールのエチレンオキシド付加体、プロピレンオキシド付加体、シクロヘキセンオキシド付加体、スチレンオキシドの付加体等が挙げられる。
【0065】
また、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン等の三価アルコール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン等の四価のアルコール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール等の六価のアルコール、またこれらの多価アルコールのエチレンオキシド付加体、プロピレンオキシド付加体、シクロヘキセンオキシド付加体、スチレンオキシド付加体等の多価アルコールが挙げられる。
【0066】
又、多価アルコールの種類によっては、立体異性体、幾何異性体が存在する場合がある。例えば一般式(2)においてn1=2でX1が1,2−シクロヘキサンジオールから誘導される有機残基の場合、2つのシクロヘキシル環に結合するそれぞれの置換位置関係は、cis−cis、cis−trans、trans−transの3つが考えられ、分子全体としては光学異性体となることがある。このような場合、必要に応じて、光学活性カラム等で特定の光学異性体の存在比を高めて使用してもよく、また、このような処理をせずに使用しても構わない。
【0067】
これらの中では、X1は、エチレン基(−(CH22−)、1,3−プロピレン基(−
(CH23−)、1,2−プロピレン基(−CH2−CH(CH3)−)等の炭素数2〜炭素数4のアルキレン基、1,1−シクロヘキシレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基、1,4−シクロヘキシレン基、 式(−CH2−C610−C
2−)で表される1,1−シクロヘキサンジメタノールから誘導される有機残基、1,
2−シクロヘキサンジメタノールから誘導される有機残基、1,3−シクロヘキサンジメタノールから誘導される有機残基、または1,4−シクロヘキサンジメタノールから誘導される有機残基等の炭素数6〜炭素数8のシクロアルキレンが、重合後の硬化物の硬さの点で優れている。
【0068】
更に、硬化物の屈折率を向上させるには、ビスフェノールAおよびビスフェノールAのエチレンオキシド付加体、1−フェニル−エチレングリコール、1,2−ジフェニレングリコール等のフェニル基またはフェニレン基を有したアルキレンジオールが好ましい。
【0069】
また、一般式(2)のn1は1〜10の整数であるが、好ましくは1〜5である。n1が6以上では粘度が高くなり、製造しにくくなるため好ましくない。
1が三価以上の多価アルコール有機残基の場合は、下記一般式(16)等の分岐構造
をとることも可能である。
一般式(16)
【0070】
【化23】

【0071】
(一般式(16)中、n6は0〜4の整数を表す)
(末端の重合性基)
一般式(2)の末端の重合性基であるR4は、単独でのラジカル重合性が乏しく、フマ
レート基またはマレート基との共重合で硬化が進むため、一般にR4基/(フマレート基
またはマレート基)のモル比が1に近いものが硬化物の物性に優れている。好ましくはR4基/(フマレート基またはマレート基)のモル比が0.2〜2の範囲であり、より好ま
しくは0.8〜1.5の範囲である。
【0072】
4はそれぞれ独立に一般式(3)または一般式(4)を表す。従って、一般式(3)
の構造と一般式(4)の構造は重合性化合物中に併存する事ができる。一般式(4)の構造を有する末端は一般式(3)の構造をすべてまたは一部を異性化する事によっても製造できる。
【0073】
このように、一般式(3)を有する重合性化合物を異性化させることにより、一般式(4)を有する重合性化合物を製造する場合、一般式(3)を有する重合性化合物の構造によっては、いくつかの本重合性化合物からなる、重合性組成物になる場合がある。
【0074】
例えば、構造式(3)で表される重合性化合物を用いて異性化反応を行った場合、その生成物は構造式(3)と構造式(4)と構造式(5)からなる重合性組成物になる場合がある。その場合でも、特に精製することなく重合性組成物として使用することが可能である。
構造式(3)
【0075】
【化24】

【0076】
構造式(4)
【0077】
【化25】

【0078】
構造式(5)
【0079】
【化26】

【0080】
重合性組成物中における、一般式(3)と一般式(4)との比は、一般式(4)で表される基の数/{(一般式(3)で表される基の数)+(一般式(4)で表される基の数)}が0.6以上であることが、重合性の点で好ましい。より好ましくは、この一般式(3)と一般式(4)との比は0.8以上である。
【0081】
この比率は、製造方法により制御することが可能であるが、製品中の一般式(3)で表される基の数と一般式(4)で表される基の数における比率の再確認は、例えばプロトン核磁気共鳴装置(以下「1H−NMR」と略す。)を測定し、一般式(3)で表される基
、および一般式(4)で表される基に帰属されるピークの面積比を比較することにより再確認することが可能である。
【0082】
一般式(3)におけるR5、R6は重合性の点から、水素原子、またはメチル基であることが好ましく、双方が水素原子であることが更に好ましい。
また、重合性の点から、一般式(4)におけるR7はメチル基(一般式(4)全体とし
ては1−プロペニル基)であることが好ましい。
【0083】
一般式(2)中のY1はそれぞれ独立に構造式(1)、構造式(2)を表す。従って、
構造式(1)の構造と構造式(2)の構造は重合性化合物中に併存することができる。一般式(2)におけるR4との共重合のし易さの点から、(構造式(2)で表される構造の
数)/({構造式(1)で表される構造の数}+(構造式(2)で表される構造の数))が0.6以上であることが好ましく、より好ましくは0.8以上である。
【0084】
この比率は、製造方法により制御することが可能であるが、製品中の構造式(1)と構造式(2)の比率の再確認は、例えば1H−NMRを測定し、構造式(1)および構造式
(2)に帰属されるピークの面積比を比較することにより再確認することが可能である。
【0085】
一般式(2)中のX2は炭素数1〜炭素数4のアルキレン基を表す。具体的なアルキレ
ン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられる。
(他の重合性官能基)
上記重合性化合物は、一般式(2)で表される重合性官能基を有する化合物である。更に同一分子内に一般式(2)以外の重合性官能基を有していても構わない。このような重合性官能基の具体的な例としては以下のものがある。但しこれらに限定されるものではない。
【0086】
構造式(6)
【0087】
【化27】

【0088】
構造式(7)
【0089】
【化28】

【0090】
構造式(8)
【0091】
【化29】

【0092】
構造式(9)
【0093】
【化30】

【0094】
構造式(10)
【0095】
【化31】

【0096】
構造式(11)
【0097】
【化32】

【0098】
構造式(12)
【0099】
【化33】

【0100】
<重合性芳香族アミン化合物の製造方法>
次に、重合性芳香族アミン化合物の製造方法について説明する。
重合性芳香族アミン化合物の重合性化合物の製造方法は、以下に示すA)、B)の二つの工程に分けることができる。即ち、
A)アリールアミン構造を有する化合物に一般式(2)でR4が一般式(3)である重
合性官能基を形成する工程;
B)一般式(4)で示される末端の重合性基を一般式(3)で示される基の異性化により形成する工程;の二つである。
【0101】
この二つの工程を組合せることは、上記重合性化合物を製造する上で必須ではない。すなわち、上記したA)またはB)のいずれか片方の工程だけでも上記重合性化合物を製造することは可能である。
【0102】
(Aの工程)
まず、A)の工程について説明する。
上記重合性化合物でR4が一般式(3)で表される化合物は、一般式(15)で表され
るカルボン酸と、少なくとも一つの水酸基を有するアリールアミン化合物との反応により合成することができる。
一般式(15)
【0103】
【化34】

【0104】
(一般式(15)において、R62、R63はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜炭素数5のアルキル基を表す。X5はそれぞれ独立に2個〜6個の水酸基を有する炭素数2〜
炭素数30の多価アルコールから誘導される有機残基を表す。Y2はそれぞれ独立に構造
式(1)または構造式(2)を表す。n5は1〜10の整数を表し、v5は0〜4の整数を表す。)
構造式(1)
【0105】
【化35】

【0106】
構造式(2)
【0107】
【化36】

【0108】
5として好ましい多価アルコールや、分岐構造を取りうる点においても、一般式(1
)のX1と同様である。
少なくとも一つの水酸基を有するアリールアミン化合物とは、上記アリールアミン化合物中に、少なくとも一つの水酸基が置換された化合物である。
【0109】
まず、一般式(15)でY2がマレイン酸残基である化合物の製造法について述べる。
一般式(15)でY2がマレイン酸残基である化合物の製造法としては、一般式(17)
で表されるアルコールと、無水マレイン酸を付加反応させることにより製造することができる。
一般式(17)
【0110】
【化37】

【0111】
(一般式(17)において、R64、R65はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜炭素数5のアルキル基を表す。X6はそれぞれ独立に2個〜6個の水酸基を有する炭素数2〜
炭素数30の多価アルコールから誘導される有機残基を表す。n6は1〜10の整数を表
し、v6は0〜4の整数を表す。)
6として好ましい多価アルコールや、分岐構造を取りうる点においても、一般式(1
)のX1と同様である。
【0112】
無水マレイン酸と一般式(17)で表されるアルコールとの付加反応は無触媒下、または触媒下で行うことができる。触媒としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアミノピリジン等の塩基性触媒が挙げられる。
【0113】
反応温度は20℃〜150℃、好ましくは40℃〜120℃で行う。反応温度が20℃
未満では、反応の進行が遅く必要以上に時間を要する恐れがある。また、反応温度が150℃を越えるとジエステルの生成量が多くなる等し、収率が低下する恐れがあり好ましくない。
【0114】
また、無水マレイン酸と一般式(17)で表されるアルコールの仕込量の比率には特に制限はない。一般的には無水マレイン酸1モルに対して、一般式(17)で表されるアルコールが0.2モル当量〜10モル当量の範囲、好ましくは0.5モル当量〜5モル当量、より好ましくは0.9モル当量〜2モル当量の範囲である。
【0115】
一般式(17)で表されるアルコールの仕込量の比率が10モル当量を越えると、余剰のアルコールが多くなり、0.2モル当量未満では未反応の無水マレイン酸が多くなり、経済的に好ましくない。
【0116】
また、この付加反応の際に溶媒を加えることも可能である。このような溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジ(メトキシエチル)エーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類等が挙げられる。
【0117】
一般式(17)で表されるアルコールのR64,R65はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜炭素数5のアルキル基である。特に、R64,R65がいずれも水素原子である場合が重合性の点で望ましい。
【0118】
このような一般式(17)で表されるアルコールの具体例としては、エチレングルコールモノアリルエーテル、プロピレングルコールモノアリルエーテル、1,3−ブチレングリコールモノアリルエーテル、1,4−ブチレングリコールモノアリルエーテル、シクロヘキサンジオールモノアリルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、ジプロピレングルコールモノアリルエーテル、2−アリルオキシ−2−フェニルエタノール、2−アリルオキシ−1−フェニルエタノール、2−アリルオキシ−1,2−ジフェニルエタノール等が挙げられる。
【0119】
6が三価以上の多価アルコール有機残基の場合は分岐構造をとることが可能であるが
、このような具体例としては、トリメチロールエタンジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテルおよびこれらアルコールのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物が挙げられる。
【0120】
次に、一般式(15)でY2がフマル酸残基である化合物の製造法について述べる。
上記で得られたアルケニルオキシ基を有するマレイン酸モノエステルは、公知の塩酸等の酸性触媒、モルホリン、ピペリジン、ジエチルアミン等の塩基性触媒、チオ尿素、塩素、臭素、ヨウ素、酸クロリド等の触媒でアルケニルオキシ基を有するフマル酸モノエステルに異性化することができる。
【0121】
当該異性化反応の反応温度には特に制限はない。一般には30℃〜200℃の範囲、好ましくは50℃〜150℃、より好ましくは70℃〜120℃の範囲である。反応温度が200℃を越えると、重合や分解反応の危険性が高くなり好ましくない。
【0122】
また、この異性化反応においては、公知のヒンダートフェノール系の重合禁止剤や溶媒を用いても構わない。ここで、使用される溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジ(メトキシエチル)エーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、
酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。
【0123】
このようにして得られたフマル酸エステルは、蒸留や分液、再結晶等の処理により精製することができる。
(エステル化反応)
次にA)の工程におけるエステル化反応について説明する。
【0124】
エステル化反応の具体例としては、下記の三つが挙げられる。
(i)一般式(15)で表されるカルボン酸と、少なくとも一つの水酸基を有するアリールアミン化合物とを酸触媒の存在下にエステル化する方法
(ii)一般式(15)で表されるカルボン酸を酸ハライドに誘導化した後に、少なくとも一つの水酸基を有するアリールアミン化合物とを反応させエステル化する方法
(iii)一般式(15)で表されるカルボン酸と、少なくとも一つの水酸基を有するアリールアミン化合物とを縮合剤を用いて反応させエステル化する方法
((i)の方法)
まず(i)の方法について説明する。
【0125】
(i)の方法で使用できるエステル化触媒としては、公知の触媒である硫酸、p-トル
エンスルホン酸、メタンスルホン酸、イオン交換樹脂、ホウ酸と硫酸との混触媒、ポリリン酸、また三フッ化ホウ素エーテラート等のルイス酸等が挙げられる。
【0126】
反応は、常圧下または加圧下または減圧下で、例えば絶対圧力で15Pa〜1MPaで行うことができる。反応温度20℃〜200℃、好ましくは40℃〜150℃で副生する水を留去しながら反応を進める。20℃未満では反応が遅く、200℃を超えると重合物等の副生成物が多くなる恐れがある。
【0127】
反応の際、溶媒を使用することもできる。溶媒としては特に制限はないが、具体的には例えば、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等が挙げることができる。
【0128】
また、一般式(15)で表されるカルボン酸と少なくとも一つの水酸基を有するアリールアミン化合物との仕込み比率には特に制限はない。反応条件によっては重合性の化合物が副生することがある。例えば、一般式(15)で表されるマレイン酸モノエステルまたはフマル酸モノエステルのエステル部位から、一般式(17)に相当するアルコールが一部脱離し、更にこのアルコールが一般式(15)で表されるカルボン酸のカルボキシル基とエステル化反応を起こして、一般式(18)で表されるエステルを副生して、生成物中に含まれる場合もあるが、これらを除去することなく、重合組成物として使用することができる。
【0129】
一般式(18)
【0130】
【化38】

【0131】
(一般式(18)おいて、R66〜R69はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜炭素数5のアルキル基を表し、X7およびX8はそれぞれ独立にn7個あるいはn8個存在するX7
およびX8において、それぞれ独立に2個〜6個の水酸基を有する炭素数2〜炭素数30
の多価アルコールから誘導される有機残基を表し、Y3は、構造式(1)または構造式(
2)を表し、n7またはn8は1〜10の整数を表し、v7およびv8は0〜4の整数を表す。)
構造式(1)
【0132】
【化39】

【0133】
構造式(2)
【0134】
【化40】

【0135】
エステル化反応終了後は、不純物や未反応物を除くために、精製を行うことも可能である。精製法としては、例えば、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル等の有機溶媒に重合性化合物を溶解させ、水、アルカリ洗浄を行うことにより、未反応の一般式(15)で表されるカルボン酸や副生したカルボン酸類を塩として除去することができる。
【0136】
また、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素等の有機溶媒で生成物をデカンテーションや再沈殿する方法、シリカゲル等を用いてカラム精製を行う方法、薄層クロマトグラフィー等による精製を行うことで純度をあげることができる。
【0137】
((ii)の方法)
次に(ii)の方法について述べる。
(ii)の方法は、一般式(15)で表されるカルボン酸等を酸ハライドに誘導化した後に、少なくとも一つの水酸基を有するアリールアミン化合物とを反応させエステル化する方法である。
【0138】
酸ハライドへの誘導化方法としては特に制限はなく、塩化チオニル、塩化ホスホリル、五塩化リン、三塩化リン、ホスゲン等を用いた公知の方法で誘導化することができる。
特に塩化チオニルを用いた場合、触媒として塩化亜鉛、ピリジン、ヨウ素、トリエチルアミン等を併用しても良い。また塩化チオニルとジメチルホルムアミドの混合物や塩化チオニルとヘキサメチルホスホリックトリアミドの混合物も酸ハライドを合成する良い試薬であることが知られている。
【0139】
このようにして誘導化された酸ハライドと少なくとも一つの水酸基を有するアリールア
ミン化合物とを公知の方法により反応させることにより、上記重合性化合物を製造することができる。
【0140】
((iii)の方法)
最後に(iii)の方法について説明する。
(iii)の方法は一般式(15)で表されるカルボン酸と、少なくとも一つの水酸基を有するアリールアミン化合物とを縮合剤を用いて反応させエステル化する方法である。
【0141】
(iii)の方法に用いる縮合剤の具体例としては、ジシクロヘキシルカルボジイミドやトリフルオロ酢酸無水物、スルホニルクロリド等を挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。一般に公知の縮合剤であれば特に制限なく用いることができる。
【0142】
ここで用いるスルホニルクロリドとしては、p−トルエンスルホニルクロリド、メタンスルホニルクロリド、トリフルオロメタンスルホニルクロリド等が挙げられる。
一般式(15)で表されるカルボン酸とスルホニルクロリドの仕込量には特に制限はないが、一般には当量以上のスルホニルクロリドを用いる。好ましくはカルボン酸に対してスルホニルクロリドが1モル当量〜2モル当量の範囲である。
【0143】
また一般式(15)で表されるカルボン酸等と少なくとも一つの水酸基を有するアリールアミン化合物の仕込比率には特に制限はない。好ましくはカルボン酸のカルボキシル基(−COOH)に対して、少なくとも一つの水酸基を有するアリールアミン化合物のエステル化させたい水酸基(−OH)が0.2モル当量〜2モル当量の範囲、より好ましくは0.4モル当量〜1.2モル当量の範囲である。
【0144】
この際に使用する溶媒としては、反応を阻害するものでなければ特に制限はない。具体的にはテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルオキシド等を挙げることができる。
【0145】
塩基としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属類が挙げられる。
【0146】
塩基の量としては、その種類にもよるが、一般式(15)で表されるカルボン酸等に対して1モル当量〜5モル当量の範囲であることが好ましい。
反応温度は,−20℃〜100℃、好ましくは0℃〜50℃である。100℃を越えると副反応が多くなり、また−20℃未満では反応が遅延することがあり好ましくない。
【0147】
得られた生成物は、不純物を取り除くために精製することができる。精製方法としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロエタン、クロロホルム等の有機溶媒に、生成物を溶解させ、水、アルカリ、酸で洗浄を行う方法、また、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素等の有機溶媒で生成物を洗浄する方法や再沈殿する方法を挙げることができる。更に、シリカゲル等を用いてカラム精製を行う方法、薄層クロマトグラフィー等による精製を行うことで純度を上げることができる。
【0148】
以上がA)アリールアミン化合物に一般式(2)でR4が一般式(3)である重合性官
能基を形成する工程の説明である。
(Bの工程)
次にB)一般式(4)で示される末端の重合性基を一般式(3)で示される基の異性化により形成する工程について説明する。
【0149】
4が一般式(4)で表される重合性化合物はR4が一般式(3)で表される重合性化合物の末端基を異性化する方法で製造することができる。
(異性化反応)
以下、その異性化反応について説明する。
【0150】
一般式(3)から一般式(4)への異性化反応は、公知のパラジウム、ロジウム、ルテニウム等の元素の錯体やこれらの元素を担体に担持した担持型触媒を用いることにより行うことができる。
【0151】
このような担持型触媒に用いる担体としては特に制限はなく、一般に担体として用いられる多孔質物質であれば良い。具体的にはシリカ、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライト、活性炭、チタニア、マグネシア、またはその他の無機化合物を挙げることができる。
【0152】
担体に担持させる元素量としては触媒全量に対し0.05質量%〜20質量%が好ましく、2質量%〜10質量%がより好ましい。担持量が0.05質量%未満であると、反応時間の遅延につながり、20質量%を越えると異性化反応に関与しない元素が多くなるため好ましくない。
【0153】
このようにして得た担持型触媒の使用量としては、末端基のR1が一般式(3)である
重合性化合物に対し、0.01質量%〜50質量%が好ましく、1質量%〜30質量%がより好ましい。触媒量が0.01質量%未満であると反応時間の遅延につながり、50質量%を越えると異性化反応に関与しない触媒が多くなるため好ましくない。更に異性化触媒としては、単独または二種以上の触媒を用いることもできる。
【0154】
異性化反応の反応温度には特に制限はない。一般には30℃〜200℃であり、好ましくは60℃〜180℃、より好ましくは80℃〜160℃の範囲である。反応温度が30℃未満では反応が遅く、200℃を越えると異性化中に重合を起こす可能性があり好ましくない。
【0155】
異性化反応は溶媒中で行うことができる。使用する溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジ(メトキシエチル)エーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類等が挙げられる。これら溶媒を用いる場合、2種類以上の溶媒を混合しても構わない。
【0156】
本異性化反応は常圧下または加圧下で、例えば、1KPa〜1MPaで行うことができる。
また、異性化反応中に重合を抑制するために、重合禁止剤を加えることもできる。重合禁止剤としては、p−ベンゾキノン、ナフトキノン、2,5−ジフェニル-p−ベンゾキノン等のキノン類、ハイドロキノン、p−t−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン等の多価フェノール類、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジ−t−ブチルパラクレゾール、α−ナフトール等のフェノール類が挙げられる。
【0157】
<組成物>
次に、上記組成物について説明をする。
上記組成物は、上述した重合性化合物を含む組成物であり、該重合性化合物のみからな
るものであっても、該重合性化合物とその他の成分とからなるものであってもよい。また、上記重合性化合物は一種を用いても、二種以上を混合し用いてもよい。
【0158】
(他の成分)
上記組成物には、上記重合性化合物以外に、必要に応じてラジカル重合性を有する化合物またはラジカル重合開始剤を含むことが可能である。
【0159】
該ラジカル重合性化合物としては、不飽和ポリエステル、(メタ)アクリレート基を有するオリゴマー、ラジカル重合性単量体が挙げられる。
(不飽和ポリエステル)
不飽和ポリエステルとは、α,β−不飽和多塩基酸または酸無水物と飽和多塩基酸、多価アルコールとを重縮合反応して得られるものである。
【0160】
(α,β−不飽和多塩基酸)
α,β−不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等である。また、酸成分として併用される飽和多塩基酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、無水ピロメリット酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ポリカルボン酸、無水エンディック酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオールまたは1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオールまたは1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,6−ノナンジオールまたは1,9−ノナンジオール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水添ビスフェノールA等の脂環式ジオール、ビスフェノールAのエチレンオキシド、プロピレンオキシド付加体等の芳香族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ジペンタエリスリトール等の三価以上のアルコール等が挙げられる。
【0161】
その他の不飽和ポリエステルとして、前記の飽和多塩基酸および不飽和多塩基酸のジアルキルエステルと多価アルコールのエステル交換反応で得られるものがある。この場合、アルキル基としては、通常メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等である。
【0162】
((メタ)アクリレート基を有するオリゴマー)
上記の(メタ)アクリレート基を有するオリゴマーとは、構造中に(メタ)アクリロイル基を二個以上有する化合物であり、具体的には、ウレタン(メタ)アクリレート、多価アルコールと多塩基酸またはその無水物および(メタ)アクリル酸の反応によって得られるポリエステル(メタ)アクリレート、水酸基含有化合物にエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドを付加した多価アルコールと(メタ)アクリル酸を反応することで得られるポリエーテル(メタ)アクリレート、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸またはカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートを反応することで得られるエポキシ(メタ)アクリレート、およびエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート、シロキサン基と(メタ)アクリロイル基を有するシリコン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0163】
(ウレタン(メタ)アクリレート)
更にウレタン(メタ)アクリレートとは、公知のもので、多価アルコールとポリイソシアネートとヒドロキエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレー
トとを反応することで得られる。多価アルコールは、例えば、前記不飽和ポリエステルの多価アルコールに記載したものと同様なもの、また、ポリイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンイソシアネート、キシレンジイソシ
アネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0164】
ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートの原料として使用される多塩基酸と多価アルコ−ルは、例えば、前記不飽和ポリエステルで記したものと同様なものが挙げられる。
【0165】
エポキシ(メタ)アクリレートの原料に使用されるエポキシ化合物とは、ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールF型のビスフェノール類のグリシジルエーテル、ノボラック型グリシジルエーテル等のエポキシ樹脂系の化合物等が知られている。
【0166】
(ラジカル重合性単量体)
ラジカル重合性単量体とは、重合性不飽和基を有するものであり、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、α−スチレン、メトキシスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、カプロン酸ビニル等の脂肪族カルボン酸のビニルエステル、シクロヘキサンカルボン酸ビニルエステル等の脂環式ビニルエステル、安息香酸ビニルエステル、t-ブチル安息香酸ビニルエステル等の芳香族ビニルエステル、ヒドロキシエチルビニルエステル、ヒドロキシプロピルビニルエステル、ヒドロキシブチルビニルエステル等のヒドロキシアルキルビニルエステル、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、トリメリット酸トリアリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、ジアリルカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカボネート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等のアリル化合物、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−2―メチルフェニルマレイミド、N−2−クロルフェニルマレイミド、N−2−メトキシフェニルマレイミド、N,N−4,4'―ジフェニルメタンビスマレイミド等のマレイミド類、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル等の不飽和二塩基酸で表されるのフマル酸エステルが挙げられる。
【0167】
これらのラジカル重合性化合物は、単独または複数以上の使用が可能である。
上記組成物にラジカル重合性化合物が含まれる場合は、重合性芳香族アミン化合物100質量部に対して、ラジカル重合性化合物が好ましくは1〜90質量部、更に好ましくは1〜50質量部含まれることが望ましい。
【0168】
(ラジカル重合開始剤)
上記組成物に用いることができるラジカル重合開始剤とは、例えば熱、紫外線、電子線、放射線によってラジカルを生成するものであればいずれのラジカル重合開始剤の使用も可能である。
【0169】
熱によるラジカル重合に関して使用できるラジカル重合開始剤としては、2,2'−ア
ゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ系化合物、
メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等のケトンパーオキシド類、ベンゾイルパーオキシド、デカノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類、ジクミルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド類、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ) 3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシアゼレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシトリメチルアジペート、t−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ 2−エチルヘキサノエート等のアルキルパーオキシエステル類、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーカーボネート類等が挙げられる。
【0170】
また、特に熱によるコーティング等の膜成形においては、ラジカル重合開始剤を使用せず、自己架橋をさせることも可能である。
紫外線、電子線による重合に際して使用できるラジカル重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モンフォリノプロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメ
チルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン等のアセトフェノン誘導体、ベンゾフェノン、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−トリメチルシリルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチル−ジフェニルスルフィド等のベンゾフェノン誘導体、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン誘導体、メチルフェニルグリオキシレート、ベンゾインジメチルケタール、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0171】
上記組成物にラジカル重合開始剤が含まれる場合は、重合性芳香族アミン化合物100質量部に対して、ラジカル重合開始剤が好ましくは0.01〜15質量部、更に好ましくは0.1〜10質量部含まれることが望ましい。
【0172】
また、重合性組成物を重合する場合、使用目的によって、必要に応じ、種々の添加剤を加えることができる。例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、滑剤、帯電防止剤、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機フィラー等を併用しても構わない。
【0173】
また、重合性組成物は硬化の方法により、粘度を低下させる必要があれば、溶剤を使用しても構わない。使用される溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、エチルアルコール、(イソ)プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類等が挙げられる。
【0174】
<硬化物層>
次に正孔輸送層について説明する。正孔輸送層は、上記組成物を硬化して得られる硬化物からなる硬化物層である。すなわち、基板上に形成された陽極の上に、上記組成物を塗布し、該組成物を硬化して得られる硬化物からなる硬化物層である。
【0175】
具体的には、上記組成物は、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の湿式成膜法などを用いて塗布することができ、紫外線、電子線や熱を用いて硬化させることができる。
【0176】
本発明においては、上述のような硬化性および正孔輸送能に優れた重合性芳香族アミン化合物を用いることにより、上記硬化物層上に塗布法により積層される発光層との間で相溶解が生じることがなく、発光効率および耐久性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。
【0177】
[発光層]
本発明(実施の形態1)に係る有機エレクトロルミネッセンス素子においては、上記正孔輸送層と陰極との間にさらに発光層を備えており、該発光層が、りん光発光性化合物を含む。
【0178】
上記りん光発光性化合物としては、遷移金属錯体が好ましく用いられる。この遷移金属錯体に用いられる遷移金属とは、周期律表の第一遷移元素系列すなわち原子番号21のScから30のZnまで、第二遷移元素系列すなわち原子番号39のYから48のCdまで、第三遷移元素系列すなわち原子番号72のHfから80のHgまでのいずれかの金属原子である。これらうちで、上記遷移金属錯体としては、パラジウム錯体、オスミウム錯体、イリジウム錯体、プラチナ錯体、および金錯体が好ましく、イリジウム錯体およびプラチナ錯体がより好ましく、イリジウム錯体が最も好ましい。
【0179】
具体的には、以下のようなイリジウム錯体(E−1)〜(E−39)が挙げられる。
【0180】
【化41】

【0181】
【化42】

【0182】
【化43】

【0183】
【化44】

【0184】
また、上記りん光発光性化合物としてはりん光発光性高分子も好ましく用いられる。前記りん光発光性高分子は、例えば、重合性置換基を有するりん光発光性化合物と、必要に応じて重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物とを共重合することによって得られる。
【0185】
りん光発光性化合物は、たとえばイリジウム、白金および金の中から一つ選ばれる金属元素を含む金属錯体であり、中でも、発光効率が高く省エネルギーの点で優れていること、および様々な配位子を選択して広範囲の色目を再現できることからイリジウム錯体が好ましい。
【0186】
このイリジウム錯体としては、以下の式(X−1)で表される化合物中の一つ以上の水素原子を重合性置換基で置換した化合物が挙げられる。
【0187】
【化45】

【0188】
(式(X−1)中、RX1〜RX8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、およびシリル基からなる群より選ばれる原子または置換基を表し、RX1とRX2とで、RX2とRX3とで、RX3とRX4とで、RX4とRX5とで、RX5とRX6とで、RX6とRX7とで、RX7とRX8とで、互いに結合して縮合環を形成していてもよく、Lは、下記式(X−2)〜(X−4)
からなる群より選ばれる2座配位子を表す。)
【0189】
【化46】

【0190】
(式(X−2)中、RX11〜RX18は式(X−1)中のRX1〜RX8と同義である。)
【0191】
【化47】

【0192】
(式(X−3)中、RX21〜RX23は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、およびシリル基からなる群より選ばれる原子または置換基を表し、RX21とRX22とで、RX22とRX23とで、互いに結合して縮合環を形成していてもよい。)
【0193】
【化48】

【0194】
(式(X−4)中、RX31〜RX34は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数1〜10のアルキル基によって置換されていてもよいアミノ基、炭素数1〜10のアルコキシ基、およびシリル基からなる群より選ばれる原子または置換基を表し、RX31とRX32とで、RX32とRX33とで、RX33とRX34とで、互いに結合して縮合環を形成していてもよい。)
前記重合性置換基を有するりん光発光性化合物としては、より具体的には、例えば上記(E−1)〜(E−39)に示す金属錯体の一つ以上の水素原子を重合性置換基で置換した化合物を挙げることができる。
【0195】
これらのりん光発光性化合物における重合性置換基としては、例えばビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン
(メタ)アクリレート基、スチリル基及びその誘導体、ビニルアミド基及びその誘導体などが挙げられ、中でもビニル基、メタクリレート基、スチリル基及びその誘導体が好ましい。これらの置換基は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を介して金属錯体に結合していてもよい。
【0196】
前記重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物は、正孔輸送性および電子輸送性の内のいずれか一方または両方の機能を有する有機化合物における一つ以上の水素原子を重合性置換基で置換した化合物を挙げることができる。このような化合物の代表的な例として、下記式(E−50)〜(E−67)に示した化合物を挙げることができる。
【0197】
【化49】

【0198】
【化50】

【0199】
例示したこれらのキャリア輸送性化合物における重合性置換基はビニル基であるが、ビニル基をアクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、スチリル基及びその誘導体、ビニルアミド基及びその誘導体などの重合性置換基で置換した化合物であってもよい。また、これらの重合性置換基は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を介して結合していてもよい。
【0200】
重合性置換基を有するりん光発光性化合物と、重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物の重合方法は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、付加重合のいずれでもよいが、ラジカル重合が好ましい。また、重合体の分子量は重量平均分子量で1,000〜2,0
00,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。ここでの分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法を用いて測定されるポリスチレン換算分子量である。
【0201】
前記りん光発光性高分子は、一つのりん光発光性化合物と一つのキャリア輸送性化合物、一つのりん光発光性化合物と二つ以上のキャリア輸送性化合物を共重合したものであってもよく、また二つ以上のりん光発光性化合物をキャリア輸送性化合物と共重合したものであってもよい。
【0202】
りん光発光性高分子におけるモノマーの配列は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれでもよく、りん光発光性化合物構造の繰り返し単位数をm、キャリア輸送性化合物構造の繰り返し単位数をnとしたとき(m、nは1以上の整数)、全繰り返し単位数に対するりん光発光性化合物構造の繰り返し単位数の割合、すなわちm/(m+n)の値は0.001〜0.5が好ましく、0.001〜0.2がより好ましい。
【0203】
りん光発光性高分子のさらに具体的な例と合成法は、例えば特開2003−342325、特開2003−119179、特開2003−113246、特開2003−206320、特開2003−147021、特開2003−171391、特開2004−346312、特開2005−97589に開示されている。
【0204】
また、上記りん光発光性化合物としては、りん光発光性デンドリマーも好適に用いられる。
また、上記発光層は、正孔輸送性または電子輸送性の電荷輸送性化合物をさらに含んでいてもよい。
【0205】
正孔輸送性の化合物としては、例えば、TPD(N,N’−ジメチル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン);α−NPD(4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル);m−MTDATA(4、4’,4’’−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)等の低分子トリフェニルアミン誘導体;ポリビニルカルバゾール;上記トリフェニルアミン誘導体に重合性官能基を導入して重合した高分子化合物;ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアルキルフルオレン等の蛍光発光性高分子化合物などが挙げられる。上記高分子化合物としては、例えば、特開平8−157575号公報に開示されているトリフェニルアミン骨格の高分子化合物などが挙げられる。
【0206】
電子輸送性の化合物としては、例えば、Alq3(アルミニウムトリスキノリノレート)等のキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体、トリアリールボラン誘導体等の低分子化合物;上記の低分子化合物に重合性置換基を導入して重合した高分子化合物を挙げることができる。上記高分子化合物としては、例えば、特開平10−1665号公報に開示されているポリPBDなどが挙げられる。
【0207】
りん光発光性化合物を用いて発光層を形成する場合、発光層の製造方法としては、特に限定されないが、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法などの乾式成膜法や、湿式成膜法などが用いられる。例えば、湿式成膜法を用いた場合、以下のように製造できる。まず、りん光発光性化合物を溶媒に溶解した溶液を調製する。上記溶液の調製に用いる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒などが用いられる。次いで、このように調製した溶液を、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の湿式成膜法などにより基板上に成膜する。用いる化合物および成膜条件などに依存するが、例えば、スピンコート法やディップコート法の場合には、上記溶液は、りん光発光性化合物100質量部に対して、溶媒を1000〜20000質量部の量で含むことが好ましい。
【0208】
[陰極]
上記発光層の上に形成される陰極を構成する材料としては、例えば、Li、Na、K、Cs等のアルカリ金属;Mg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属;Al;MgAg合金;AlLi、AlCa等のAlとアルカリ金属またはアルカリ土類金属との合金など、公知の陰極材料が好適に用いられる。陰極の厚さは、好ましくは10nm〜1μm、より好ましくは50〜500nmであることが望ましい。アルカリ金属、アルカリ土類金属などの活性の高い金属を使用する場合には、陰極の厚さは、好ましくは0.1〜100nm、より好ましくは0.5〜50nmであることが望ましい。また、この場合には、上記陰極金属を保護する目的で、この陰極上に、大気に対して安定な金属層が積層される。上記金属層を形成する金属として、例えば、Al、Ag、Au、Pt、Cu、Ni、Crなどが挙げられる。上記金属層の厚さは、好ましくは10nm〜1μm、より好ましくは50〜500nmであることが望ましい。上記陰極材料の成膜方法としては、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが用いられる。
【0209】
[その他の層]
本発明(実施の形態1)の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、上記発光層と陰極との間に、電子輸送層をさらに設けてもよい。
【0210】
上記電子輸送層を形成する電子輸送性の化合物としては、例えば、Alq3(アルミニウムトリスキノリノレート)等のキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体、トリアリールボラン誘導体等の低分子化合物;上記の低分子化合物に重合性置換基を導入して重合した高分子化合物を挙げることができる。上記高分子化合物としては、例えば、特開平10−1665号公報に開示されているポリPBDなどが挙げられる。上記電子輸送性の化合物は、1種単独でも、2種以上を混合して用いてもよく、異なる電子輸送性の化合物を積層して用いてもよい。電子輸送層の厚さは、電子輸送層の導電率などに依存するが、通常、好ましくは1nm〜5μm、より好ましくは5nm〜1μm、特に好ましくは10nm〜500nmであることが望ましい。
【0211】
電子輸送層の成膜方法としては、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法等の乾式成膜法のほか、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の湿式成膜法などを用いることができる。低分子化合物の場合は、乾式成膜法が好適に用いられ、高分子化合物の場合は、湿式成膜法が好適に用いられる。
【0212】
また、上記発光層の陰極側に隣接して、正孔が発光層を通過することを抑え、発光層内で正孔と電子とを効率よく再結合させる目的で、正孔ブロック層が設けられていてもよい。上記正孔ブロック層の形成には、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体などの公知の材料が用いられる。
【0213】
また、陽極と正孔輸送層との間との間に、正孔注入において注入障壁を緩和するために、バッファ層が設けられていてもよい。上記バッファ層を形成するためには、銅フタロシアニン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物(PEDOT:PSS)などの公知の材料が用いられる。
【0214】
さらに、陰極と電子輸送層との間に、電子注入効率を向上するために、厚さ0.1〜10nmの絶縁層が設けられていてもよい。上記絶縁層を形成するためには、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、アルミナなどの公知の材料が用いられる。
【0215】
なお、上記有機エレクトロルミネッセンス素子を長期安定的に用いるためには、素子を外部から保護するために、保護層および/または保護カバーを装着することが好ましい。上記保護層としては、高分子化合物、金属酸化物、金属フッ化物、金属ホウ化物、窒化ケイ素、酸化ケイ素、あるいはこれらの混合物などが用いられ、これらの保護層が層状に積層されていてもよい。また、上記保護カバーとしては、ガラス板、表面に低透水率処理を施したプラスチック板、金属などが用いられ、該カバーを熱硬化樹脂や光硬化樹脂で素子基板と貼り合わせて密閉することが好ましい。さらに、スペーサーを用いて空間を形成すれば、素子のキズ付を抑制できる。この空間に窒素やアルゴンのような不活性なガスを封入すれば、陰極の酸化が防止でき、また、この空間に酸化バリウム等の乾燥剤を設置すれば、製造工程で吸着した水分が素子にタメージを与えることを抑えられる。
【0216】
《実施の形態2》
本発明(実施の形態2)に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記正孔輸送層と陰極との間にさらに発光層を備えており、該発光層が、りん光発光性化合物を含む。すなわち、陽極、正孔輸送層、発光層および陰極がこの順で積層してなる。さらに、本発明(実施の形態2)に係る有機エレクトロルミネッセンス素子においては、上記正孔輸送層は、特定の重合性芳香族アミン化合物とともに電子受容性化合物を含む組成物を硬化して得られる硬化物からなる硬化物層である。
【0217】
[正孔輸送層]
正孔輸送層の形成に用いられる組成物は、特定の重合性芳香族アミン化合物とともに電子受容性化合物を含み、該重合性芳香族アミン化合物については、実施の形態1と同様である。
【0218】
<電子受容性化合物>
上記電子受容性化合物としては、臭素、ヨウ素、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、アリールアミンとハロゲン化金属またはルイス酸との塩が好適に用いられる。
【0219】
上記ハロゲン化金属やルイス酸の好ましい例としては、FeCl3 、AlCl3 、SbCl5 、AsF5 、BF3 などが挙げられる。また、有機酸としては、例えば一般式(XII)
【0220】
【化51】

【0221】
で表される化合物が挙げられる。一般式(XII)において、Aはスルホン酸基,リン酸基,ホウ酸基,カルボン酸基などの酸基である。Rは炭素数1〜20のアルキル基,アルコキシ基,アルキルチオ基,炭素数2〜20のアルコキシアルキル基,アルキルチオアルキル基,アルケニル基,炭素数5〜20のシクロアルキル基,炭素数6〜20のアリール基,炭素数7〜20のアルカリール基,アラルキル基、さらには、ピリジル基,キノリル基,フラニル基,ピロリル基,チエニル基などの複素環式基又はハロゲン原子,ニトロ基,シアノ基,エポキシ基である。mは0〜5の整数であり、mが2以上の場合、複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよい。さらに、この有機酸の別の例としては、ポリマー酸がある。このポリマー酸は重合体中に、上記一般式(XII)における酸基Aを有するものであり、このようなものとしては、例えばスルホン化ポリスチレン,スルホン化ポリエチレン,スルホン化ポリカーボネートなどが挙げられる。またアクリル酸ポリマーも用いることができる。
【0222】
さらに、アリールアミンとハロゲン化金属またはルイス酸との塩としては、例えば一般式(XIII)
【0223】
【化52】

【0224】
で表される塩を挙げることができる。一般式(XIII)において、Lはハロゲン化金属又
はルイス酸であり、例えばSbCl5 ,BF3 ,AsF5 ,AlCl3 ,FeCl3 などが挙げられる。X-は好ましくはハロゲンイオンである。Ar24〜Ar26は、それぞれ独
立に、置換若しくは無置換の炭素数5〜30の芳香族基又は複素環式基である。好ましい置換基としては、ハロゲン原子,ニトロ基,シアノ基,炭素数1〜24のアルキル基,炭素数6〜24のアリール基,炭素数7〜24のアラルキル基,炭素数1〜24のアルコキシ基,炭素数6〜24のアリールオキシ基,アルキル基の炭素数が1〜24のモノ又はジアルキルアミノ基,アリール基の炭素数が6〜24のモノ若しくはジアリールアミノ基などが挙げられる。
【0225】
この電子受容性化合物としては、式(II)
【0226】
【化53】

【0227】
で表される化合物(TBPAH)が好適に用いられる。
また、電子受容性化合物としては、キノジメタン化合物、キノン化合物、金属ジチオレン化合物も好適に用いられる。これらの化合物の例を以下に示す。
【0228】
【化54】

【0229】
また、電子受容性化合物としては、下記一般式(I)で表される化合物も好適に用いられる。
【0230】
【化55】

【0231】
電子受容性化合物を表す前記一般式(I)において、好ましくは、Ar1〜Ar3は各々独立に、置換基を有していても良いフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基等の、5または6員環の単環、またはこれらが2〜3個縮合及び/または直接結合してなる芳香族炭化水素環基、或いは置換基を有していても良いチエニル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基等の、5または6員環の単環、またはこれらが2〜3個縮合及び/または直接結合してなる芳香族複素環基を表し、前記置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基な
どのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、アセチル基等のアシル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基、シアノ基等が挙げられる。この置換基として、特に好ましくは、ハメット定数(σm 、σp )が正の値を有する置換基である("Lange's Handbook of Chemistry", McGraw-Hill, 14th Ed., Section 9参照)。
【0232】
前記一般式(I)で表される化合物として、より好ましくは、Ar1ないしAr3の少なくとも1つが、ハメット定数(σmおよび/またはσp)が正の値を示す置換基を有する化合物であり、特に好ましくは、Ar1ないしAr3が、いずれもハメット定数(σmおよび
/またはσp)が正の値を示す置換基を有する化合物である。このような、電子吸引性の
置換基を有することにより、該化合物の電子受容性が向上するため、好ましい。
【0233】
前記一般式(I)で表されるホウ素を含む電子受容性化合物の好ましい具体例((Y1)〜(Y29))を以下に示すが、これらに限定するものではない。
【0234】
【化56】

【0235】
【化57】

【0236】
【化58】

【0237】
また、電子受容性化合物としては、下記一般式(Z1)〜(Z3)で表わされる化合物からなる群より選ばれるイオン化合物も好適に用いられる。
【0238】
【化59】

【0239】
(一般式(1)〜(3)中、RZ11、RZ21及びRZ31は、各々独立に、A1〜A3と炭素原
子で結合する有機基を表わす。RZ12、RZ22、RZ23及びRZ32〜RZ34は、各々独立に、
任意の基を表わす。RZ11〜RZ34のうち隣接する2以上の基が、互いに結合して環を形成していても良い。
【0240】
1〜A3は何れも周期表第3周期以降の元素であって、A1は長周期型周期表の第17
族に属する元素を表わし、A2は長周期型周期表の第16族に属する元素を表わし、A3は長周期型周期表の第15族に属する元素を表わす。
【0241】
1nZ1-〜Z3nZ3-は、各々独立に、対アニオンを表わす。
nZ1〜nZ3は、各々独立に、対アニオンのイオン価を表わす。)
上記イオン化合物の好ましい具体例としては、特開2006−233162号公報表1〜11に記載された化合物が挙げられる。
【0242】
本発明(実施の形態2)においては、上記電子受容性化合物は一種を用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。電子受容性化合物を用いると、駆動電圧が低い有機エレクトロルミネッセンス素子を作製することができる。
【0243】
実施の形態2における組成物において、電子受容性化合物は、重合性芳香族アミン化合物100質量部に対して、好ましくは0.1〜100質量部、更に好ましくは1〜100質量部含まれることが望ましい。また、実施の形態2における他の成分は、実施の形態1と同様である。
【0244】
本発明(実施の形態2)における正孔輸送層は、上記組成物を硬化して得られる硬化物
からなる硬化物層である。硬化物層の製造方法については、実施の形態1と同様である。
なお、実施の形態2における陽極、発光層、陰極、その他の層については、実施の形態1と同様である。
【0245】
《実施の形態3》
本発明(実施の形態3)に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極との間に正孔輸送層を備えており、該正孔輸送層が、特定の重合性芳香族アミン化合物とともにりん光発光性化合物を含む組成物を硬化して得られる硬化物からなる硬化物層である。したがって、実施の形態3における正孔輸送層は発光層の役割も兼ねる。
【0246】
[正孔輸送層]
正孔輸送層の形成に用いられる組成物は、特定の重合性芳香族アミン化合物とともにりん光発光性化合物を含み、該重合性芳香族アミン化合物およびりん光発光性化合物については、実施の形態1と同様である。
【0247】
実施の形態3における組成物において、りん光発光性化合物は、重合性芳香族アミン化合物100質量部に対して、好ましくは0.1〜200質量部、更に好ましくは1〜100質量部含まれることが望ましい。
【0248】
また、実施の形態3における他の成分は、実施の形態1と同様である。
正孔輸送層は、上記組成物を硬化して得られる硬化物からなる硬化物層である。硬化物層の製造方法については、実施の形態1と同様である。
【0249】
正孔輸送層にりん光発光性化合物も含まれていると、正孔輸送層が発光層を兼ねるため有機層の界面の数を少なくでき、駆動電圧の低い有機エレクトロルミネッセンス素子を作製することができるとともに、構造が単純化されるために製造コストの面で有利である。
【0250】
なお、実施の形態3における陽極、陰極、その他の層については、実施の形態1と同様である。
[用途]
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、公知の方法で、マトリックス方式またはセグメント方式による画素として画像表示装置に好適に用いられる。また、上記有機発光素子は、画素を形成せずに、面発光光源としても好適に用いられる。
【0251】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、具体的には、ディスプレイ、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、光通信などに好適に用いられる。
【0252】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0253】
[合成例1]
20mLオートクレーブに構造式(W1)で表される化合物3.1g、トルエン9.0g、Pd担持量が5%のPd−Al23 0.9g、ヒドロキノンモノメチルエーテル6mgを仕込み、反応系内を窒素置換した後140℃のオイルバスにオートクレーブを浸し3時間加熱した。冷却後反応液よりPd−Al23を濾過により除去し、濾液よりトルエンを減圧留去することにより淡黄色粘稠液体を2.8g得た。1H−NMRを測定し、ア
リル基と1−プロペニル基のピークを比較することにより、アリル基の87%が1−プロペニル基へ異性化していることを確認した。
構造式(W1)
【0254】
【化60】

【0255】
[合成例2〜4]
下記の表1に従って、合成例1と同様に異性化反応を行い、1−プロペニル基を有する化合物の合成を行った。
【0256】
【表1】

【0257】
構造式(W2)
【0258】
【化61】

【0259】
構造式(W3)
【0260】
【化62】

【0261】
構造式(W4)
【0262】
【化63】

【0263】
構造式(W5)
【0264】
【化64】

【0265】
[製造例1〜10]
〈硬化膜の作製〉
上記合成例で得られた重合性芳香族アミン化合物を含む組成物をガラス基板上に、スピンコート法により、回転数3000rpm、塗布時間30秒の条件で塗布した後、熱硬化を行い、硬化膜を形成した(表2参照)。
【0266】
〈硬化膜の耐溶剤性〉
次に、硬化膜の耐溶剤性を調べた。耐溶剤性は、硬化膜上にトルエンを滴下し表面がなんら侵されないものを○、侵されたものを×とした。結果を表2に示す。
【0267】
[比較製造例1]
重合性芳香族アミン化合物(AA)、エポキシ(メタ)アクリレート系架橋剤として下記式で表されるエポキシアクリレート化合物(n=1、2のAは、水素原子;以下、この
ものを「架橋剤A」という。)、および光重合開始剤としてラジカル重合開始剤(長瀬産業社製、「イルガキュア651」)をジクロロエタンに溶解させて正孔輸送材料(導電性材料用組成物)を調製した。
【0268】
なお、化合物(AA)と架橋剤Aとの混合比をモル比で17:2とし、化合物(AA)および架橋剤Aの合計質量とラジカル重合開始剤の質量との比(質量比)を19:1とした。
【0269】
上記組成物をガラス基板上に、スピンコート法により、回転数3000rpm、塗布時間30秒の条件で塗布し乾燥した。その後、水銀ランプ(ウシオ電機社製、「UM−452型式」)にフィルターを用いて、大気中で波長185nm、照射強度2mW/cm2の紫外線を300秒間照射することにより、化合物(AA)と架橋剤Aとを重合反応させて、硬化膜を形成した。次に、上記と同様に硬化膜の耐溶剤性を調べた。結果を表2に示す。
【0270】
【化65】

【0271】
[比較製造例2]
特開平11−292829に記載の方法で合成したPTPD(下記式)を含む組成物をガラス基板上に、スピンコート法により、回転数3000rpm、塗布時間30秒の条件で塗布した後、100℃で1時間乾燥し、薄膜を形成した(表2参照)。次に、上記と同様に硬化膜の耐溶剤性を調べた。結果を表2に示す。
【0272】
【化66】

【0273】
【表2−1】

【0274】
【表2−2】

【0275】
以上の結果より、架橋構造を形成した硬化膜(製造例1〜10および比較製造例1)は耐溶剤性を示すのに対して、架橋構造を有しない薄膜(比較製造例2)は耐溶剤性を示さないことがわかる。すなわち、架橋構造を形成した硬化膜上には、さらに塗布法によって薄膜を形成しても、相溶解が生じないために、積層構造を形成することが可能である。
【0276】
[実施例1]
〈有機EL素子の作製〉
25mm角のガラス基板の一方の面に、陽極として幅4mmの2本のITO電極がスト
ライプ状に形成されたITO(酸化インジウム錫)付き基板(ニッポ電機、Nippo Electric Co., LTD.)を用いて有機EL素子を作製した。はじめに、正孔輸送層を形成した。すなわち、正孔輸送層を形成するための材料として製造例1で使用した組成物を孔径0.2μmのフィルターでろ過して塗布溶液を調製した。上記ITO付き基板のITO(陽極)上に、調製した塗布溶液を、スピンコート法により、回転数3000rpm、塗布時間30秒の条件で塗布し、150℃にて1時間熱硬化することにより、正孔輸送層を形成した。得られた正孔輸送層の膜厚は約80nmであった。
【0277】
次に、発光層を形成するための塗布溶液を調製した。すなわち、発光材料として特開2006−8996に記載の方法で合成したりん光発光性高分子材料(2-1(a))30質量部をトルエン(和光純薬工業製、特級)970質量部に溶解し、得られた溶液を孔径0.2μmのフィルターでろ過して塗布溶液を調製した。陽極バッファ層上に、調製した塗布溶液を、スピンコート法により、回転数3000rpm、塗布時間30秒の条件で塗布し、100℃にて30分間乾燥することにより、発光層を形成した。得られた発光層の膜厚は約100nmであった。
【0278】
次に発光層を形成した基板を蒸着装置内に載置し、バリウムを蒸着速度0.01nm/sで5nmの厚さに蒸着し、続いて陰極としてアルミニウムを蒸着速度1nm/sで150nmの厚さに蒸着し、有機EL素子を作製した。尚、バリウムの層とアルミニウムの層は、陽極の延在方向に対して直交する2本の幅3mmのストライプ状に形成し、1枚のガラス基板当たり、縦4mm×横3mmの有機発光素子を4個作製した。
【0279】
〈EL特性評価〉
(株)アドバンテスト製 プログラマブル直流電圧/電流源 TR6143を用いて上記有機EL素子に電圧を印加して発光させ、その発光輝度を(株)トプコン製 輝度計 BM−8を用いて測定した。その結果得られた、100cd/m2点灯時の外部量子効率、
最高輝度、および初期輝度100cd/m2で定電流駆動させたときの輝度半減時間を表
3に示す(外部量子効率および輝度半減時間の値は1枚の基板に形成された素子4個の平均値である。)。また、表3の輝度半減時間の測定結果は、後述する比較例2の素子の測定値を100とした時の相対値で表した。
【0280】
[実施例2〜10および比較例1]
正孔輸送層を形成するために使用した組成物と硬化条件を、表2、3に記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で素子を作製した。これらの素子についても実施例1と同様にEL発光特性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0281】
[比較例2]
正孔輸送層を形成せずに、ITO基板上に直接発光層を形成したこと以外は実施例1と同様の方法で素子を作製した。これらの素子についても実施例1と同様にEL発光特性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0282】
【表3】

【0283】
表3から、本発明の有機EL素子(実施例1〜10)は、正孔輸送層を有しない有機EL素子(比較例2)や従来の重合性芳香族アミン化合物を用いた有機EL素子(比較例1)と比較して高発光効率、高寿命であり、最高輝度が高いことが明らかである。
【0284】
[実施例11]
〈有機EL素子の作製〉
25mm角のガラス基板の一方の面に、陽極として幅4mmの2本のITO電極がストライプ状に形成されたITO(酸化インジウム錫)付き基板(ニッポ電機、Nippo Electric Co., LTD.)を用いて有機EL素子を作製した。はじめに、正孔輸送層と発光層とを兼ねた有機層を形成するための塗布溶液を調製した。すなわち、化合物(4)100質量部と下記化合物(X)10質量部とをジクロロメタン(和光純薬工業製、特級)9900質量部に溶解し、得られた溶液を孔径0.2μmのフィルターでろ過して塗布溶液を調製した。次に、ITO基板上に、調製した塗布溶液を、スピンコート法により、回転数3000rpm、塗布時間30秒の条件で塗布し、150℃にて1時間加熱して硬化させることにより、正孔輸送層と発光層とを兼ねた有機層を形成した。得られた有機層の膜厚は約70nmであった。次に、特開平10−1665に記載の方法に従って合成したPPBD(下記式)100質量部をトルエン(和光純薬工業製、特級)9900質量部に溶解させた溶液を孔径0.2μmのフィルターでろ過し、塗布溶液を調製した。この塗布溶液を発光層上に、スピンコート法により、回転数3000rpm、塗布時間30秒の条件で塗布し、電子輸送層を形成した。得られた電子輸送層の膜厚は約50nmであった。次に、電子輸送層を形成した基板を蒸着装置内に載置し、バリウムを蒸着速度0.01nm/sで5nmの厚さに蒸着し、続いて陰極としてアルミニウムを蒸着速度1nm/sで150nmの厚さに蒸着し、有機EL素子を作製した。尚、バリウムの層とアルミニウムの層は、陽極の延在方向に対して直交する2本の幅3mmのストライプ状に形成し、1枚のガラス基板当たり、縦4mm×横3mmの有機発光素子を4個作製した。
【0285】
〈EL特性評価〉
この素子についても実施例1と同様にEL発光特性の評価を行った。その結果、100cd/m2点灯時の外部量子効率は11.8%、最高輝度は62000cd/m2、初期輝度100cd/m2で定電流駆動させたときの輝度半減時間(前述の比較例2の素子の測
定値を100とした時の相対値)は490であった。
【0286】
【化67】

【図面の簡単な説明】
【0287】
【図1】図1は、本発明を説明するための図である。
【符号の説明】
【0288】
1: 基板
2: 陽極
3: 正孔輸送層
4: 発光層
5: 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に正孔輸送層を備えて構成される有機エレクトロルミネッセンス素子であって、該正孔輸送層が、下記一般式(1)で表される構造を有する重合性化合物を含む組成物を硬化してなる硬化物層であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)において、R1、R2、およびR3のうち少なくとも一つは一般式(2)で
表される重合性官能基を有するアリール(aryl)基であり、且つ他はアルキル基、アラルキル基、またはアリール基である。但しR1、R2およびR3は同一であっても異なってい
ても良い。)
一般式(2)
【化2】

(一般式(2)において、R4はそれぞれ独立に、一般式(3)または一般式(4)で表
される構造であり、X1はそれぞれ独立に2個〜6個の水酸基を有する炭素数2〜炭素数
30の多価アルコールから誘導される有機残基を表す。Y1はそれぞれ独立に構造式(1
)または構造式(2)を表す。X2はそれぞれ独立に炭素数1〜炭素数4のアルキレン鎖
を表す。n1は1〜10の整数を表し、n2は0〜1の整数を表し、vは0〜4の整数を表す。)
一般式(3)
【化3】

(一般式(3)において、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜炭素数5のアルキル基を表す。)
一般式(4)
【化4】

(一般式(4)において、R7は水素原子または炭素数1〜炭素数6のアルキル基を表す
。)
構造式(1)
【化5】

構造式(2)
【化6】

【請求項2】
前記組成物が、電子受容性化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記正孔輸送層と陰極との間にさらに発光層を備えており、該発光層が、りん光発光性化合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記組成物が、りん光発光性化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記硬化物層が、前記組成物を陽極上に塗布し、硬化させることにより形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−176964(P2009−176964A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14226(P2008−14226)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】