有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法及び製造装置
【課題】液中レーザーアブレーション法において有機化合物の微粒子化の効率を大幅に向上させること。
【解決手段】有機化合物を貧溶媒中に分散させて懸濁液とし、該懸濁液を加熱しながら若しくは加熱した後、該懸濁液に対してレーザーを照射することにより、懸濁液中の有機化合物を粉砕してナノ粒子化することを特徴とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法である。
【解決手段】有機化合物を貧溶媒中に分散させて懸濁液とし、該懸濁液を加熱しながら若しくは加熱した後、該懸濁液に対してレーザーを照射することにより、懸濁液中の有機化合物を粉砕してナノ粒子化することを特徴とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法及び製造装置に関し、より詳しくは、レーザーを使用して有機化合物を効率良く粉砕してナノ粒子化することができる有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機化合物を微粒子化するための方法として、貧溶媒に分散させた有機化合物に対してレーザーを照射することにより有機化合物を粉砕する液中レーザーアブレーション法が知られている(下記特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1に開示された従来の方法は、有機化合物の微粒子化効率の点で充分ではなく改良の余地があった。
【0003】
かかる実状に鑑みて、下記特許文献2には液中レーザーアブレーション法において有機化合物の微粒子化の効率を向上させるための方法が提案されている。
特許文献2に開示された方法は、貧溶媒として、常温で気体、常温よりも低温で液体となる溶媒(液体窒素等)を用い、前記低温条件下において溶媒中に懸濁させた有機化合物に対してレーザーを照射することにより、有機化合物を粉砕して微粒子化する方法である。
特許文献2には、有機化合物を充分に低温の溶媒中に懸濁させることにより、有機化合物の分子運動の自由度が低下した状態で微粒子化が行なわれることとなって、レーザーの光破砕エネルギーの分子運動への緩和が抑制され、効率良く有機化合物を微粒子化することができる旨が記載されている。
【0004】
しかしながら、常温で気体、常温よりも低温で液体となる溶媒(液体窒素等)は、容器に混入すると気化してしまうため、懸濁液の濃度を一定に保つために溶媒を補充する必要があり、また極度な低温で行うために、適用可能な化合物にかなり制限がある。更に、溶媒の取扱い性や安全性の点でも問題がある。
また、有機化合物を微粒子化するためには有機化合物の分子間の結合を切断する必要があるが、冷却によって分子運動の自由度は低下しても分子間力は弱くならないため、微粒子化の効率を大幅に向上させることは困難である。
【0005】
また、下記特許文献3には、貧溶媒中に有機化合物を分散させた懸濁液を冷却しながらレーザーを照射することにより、微粒子化の効率を向上させることができる旨が記載されている。
しかしながら、懸濁液を冷却することは、粉砕された微粒子の再凝集を防止するためには効果的であるかもしれないが、微粒子化自体の効率(粉砕効率)を向上させることはできない。
【0006】
上記したように、従来、液中レーザーアブレーション法により有機化合物を微粒子化する場合において、微粒子化の効率を向上させるためには、有機化合物を分散させるための溶媒の温度は低い方が好ましいと認識されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−113159号公報
【特許文献2】特開2005−125204号公報
【特許文献3】特開2005−177596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来の認識とは正反対の発想に基づいて創出されたものであって、液中レーザーアブレーション法において有機化合物の微粒子化の効率を大幅に向上させることを可能とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法及び製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、有機化合物を貧溶媒中に分散させて懸濁液とし、該懸濁液を加熱しながらもしくは加熱した後、該懸濁液に対してレーザーを照射することにより、懸濁液中の有機化合物を粉砕してナノ粒子化することを特徴とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法に関する。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記懸濁液に対してレーザーを照射した後、該懸濁液を冷却することを特徴とする請求項1記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法に関する。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記有機化合物が医薬品の薬効成分であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法に関する。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記有機化合物が顔料であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法に関する。
【0013】
請求項5に係る発明は、前記有機化合物が炭素材料であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法に関する。
【0014】
請求項6に係る発明は、有機化合物が貧溶媒中に分散された懸濁液を収容するための容器と、前記容器内に収容された懸濁液に対してレーザーを照射するレーザー照射装置と、前記容器内に収容された懸濁液を加熱するための加熱装置と、を備えていることを特徴とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置に関する。
【0015】
請求項7に係る発明は、前記容器を冷却するための冷却装置を備えていることを特徴とする請求項6記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置に関する。
【0016】
請求項8に係る発明は、有機化合物が貧溶媒中に分散された懸濁液を収容して供給するための供給部と、前記供給部内に収容された懸濁液を加熱するための加熱装置と、前記加熱装置により加熱された前記供給部内の懸濁液を移送する移送手段と、前記移送手段により移送されてきた懸濁液を流通させるための流通部と、前記流通部内を流通する懸濁液に対してレーザーを照射するレーザー照射装置と、前記レーザーが照射された後の懸濁液を回収する回収部と、を備えていることを特徴とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置に関する。
【0017】
請求項9に係る発明は、前記回収部を冷却するための冷却装置を備えていることを特徴とする請求項8記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置に関する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、有機化合物を貧溶媒中に分散させた懸濁液を加熱することにより、有機化合物の結晶表面の運動エネルギーが増大して平均分子間距離が増加し、水素結合やファンデルワールス力などの分子間力が弱まるため、レーザー照射による破砕効率を向上させることが可能となる。
また、加熱により貧溶媒の温度が上昇することで、レーザー照射により温度が上昇した有機化合物に対する周囲の貧溶媒の冷却効果が弱まり、これまでナノ粒子化を誘起することができなかったレーザー強度でも更に破砕してより小径のナノ粒子とすることが可能となり、分散安定性も向上する。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、懸濁液に対してレーザーを照射した後、該懸濁液を冷却することにより、レーザー照射により得られたナノ粒子の再凝集を防ぐことができ、分散安定性をより向上させることが可能となる。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、水に難溶又は不溶の薬効成分を水に安定して分散させることができるため、静脈注射等による投与が可能となり、また生体内での吸収性を高めることができるため、薬剤の投与量を減らすことも可能となる。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、彩色・発色性に非常に優れた顔料を得ることができる。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、水に不溶の炭素材料であるフラーレンを水に安定して分散させることができるため、癌の光線力学的療法剤等への応用が可能となる。
【0023】
請求項6に係る発明によれば、加熱装置により加熱された懸濁液に対してレーザーを照射することにより、懸濁液中の有機化合物の結晶表面の運動エネルギーが増大して平均分子間距離が増加し、水素結合やファンデルワールス力などの分子間力が弱まるため、レーザー照射による破砕効率を向上させることが可能となる。
また、加熱装置による加熱により貧溶媒の温度を上昇させることにより、レーザー照射により温度が上昇した有機化合物に対する周囲の貧溶媒の冷却効果が弱まり、これまでナノ粒子化を誘起することができなかったレーザー強度でも更に破砕してナノ粒子とすることが可能となり、分散安定性も向上する。
【0024】
請求項7に係る発明によれば、容器を冷却するための冷却装置を備えていることから、レーザー照射後の懸濁液を冷却することにより、レーザー照射により得られたナノ粒子の再凝集を防ぐことができ、分散安定性をより向上させることが可能となる。
【0025】
請求項8に係る発明によれば、懸濁液を流通部内に流通させながらレーザーを照射することができるため、請求項6に係る発明の効果に加えて、多量の有機化合物ナノ粒子分散液を効率良く連続的に製造することができるという効果を奏する。
【0026】
請求項9に係る発明によれば、回収部を冷却するための冷却装置を備えていることから、レーザー照射後の懸濁液を冷却することにより、レーザー照射により得られたナノ粒子の再凝集を防ぐことができ、分散安定性をより向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置の第一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明に係る有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置の第二実施形態を示す概略図である。
【図3】実施例1で作製した薬効成分の例としてサラゾスルファピリジンナノ粒子水分散液の吸収スペクトルに対する照射時間依存性の実験結果を示す図であり、(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合を示している。
【図4】実施例1の各温度において90秒間レーザー照射を行うことにより得られたコロイドの吸収スペクトルを比較して示した図である。
【図5】実施例1の各温度において作製した分散液の安定性を、レーザー照射後及び室温暗所下で一ヶ月間静置した分散液それぞれについて、吸収スペクトルの経時変化により評価した結果を示す図であり、(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合を示している。
【図6】実施例2で作製した顔料の例としてキナクリドンナノ粒子水分散液の吸収スペクトルに対する照射時間依存性の実験結果を示す図であり、(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合、(c)は75℃の場合を示している。
【図7】実施例2の各温度において15分間レーザー照射を行うことにより得られたコロイドの吸収スペクトルを比較して示した図である。
【図8】実施例2の各温度で製造した分散液の安定性を、レーザー照射後及び室温暗所下で一ヶ月間静置した分散液それぞれについて、吸収スペクトルの経時変化により評価した結果を示す図であり、(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合(c)は75℃の場合を示している。
【図9】実施例3で作製した炭素材料の例としてフラーレンC60ナノ粒子水分散液の吸収スペクトルに対する照射時間依存性の実験結果を示す図であり、(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合を示している。
【図10】実施例3の各温度において20分間レーザー照射を行うことにより得られたコロイドの吸収スペクトルを比較して示す図である。
【図11】実施例3の各温度下で製造した分散液の安定性を、レーザー照射後及び室温暗所下で一ヶ月間静置した分散液それぞれについて、吸収スペクトルの経時変化により評価した結果を示す図であり、(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合、(c)は75℃の場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法及び製造装置の好適な実施形態について、適宜図面を参照しつつ説明する。
本発明に係る有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法は、有機化合物を貧溶媒中に分散させて懸濁液とし、該懸濁液を加熱しながらもしくは加熱した後、該懸濁液に対してレーザーを照射することにより、懸濁液中の有機化合物を粉砕してナノ粒子化することを特徴とするものである。
【0029】
先ず、本発明に係る方法において好適に用いられる装置について説明する。
図1は本発明に係る有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置の第一実施形態を示す概略図である。
図1に示す製造装置は、有機化合物が混入される貧溶媒を収容するための容器(1)と、容器(1)内に収容された貧溶媒を攪拌して懸濁液とするための攪拌装置(2)と、容器(1)内に収容された懸濁液(10)に対してレーザー(3)を照射するレーザー照射装置(図示略)と、容器(1)内に収容された懸濁液を加熱するための加熱装置(4)とを備えている。
【0030】
容器(1)は、レーザー光が透過可能な材料から形成されており、具体的にはガラスや石英等の透明な材料から形成されている。
【0031】
容器(1)に収容される有機化合物の種類は特に限定されないが、例えば、医薬品の薬効成分、顔料、炭素材料、農薬、洗剤などを例示することができる。
医薬品の薬効成分は、薬事法第2条第1項に定められている医薬品を構成する薬効成分のうち、水に不溶又は難溶なものであり、医療用医薬品及び一般用医薬品のいずれの薬効成分も含まれる。薬効成分の種類は特に限定されないが、一例として、抗癌剤、ビタミン剤、鎮痛剤、抗炎症剤を構成する薬効成分が挙げられる。
尚、水に不溶な薬効成分とは、常温の水に対する溶解度が10−5%以下(重量比)の薬効成分を指し、水に難溶な薬効成分とは、常温の水に対する溶解度が10−3%以下(重量比)の薬効成分を指す。
顔料としては、キナクリドン、フタロシアニン等が挙げられる。
炭素材料としては、フラーレンC60、C70、金属内包フラーレン、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0032】
容器(1)内に収容される貧溶媒は、有機化合物の種類に応じて適宜選択され、例えば水、生理食塩水、バッファー溶液、メタノール、エタノール等が用いられる。
【0033】
攪拌装置(2)は、容器(1)内に収容された有機化合物が混入された貧溶媒を攪拌することができるものであればよく特に限定されないが、図示例では攪拌子(21)を備えたマグネチックスターラーが用いられている。
【0034】
レーザー(3)の種類としては、YAGレーザー,チタンサファイアレーザー,ルビーレーザー等の固体レーザー、GaAsレーザー等の半導体レーザー、エキシマレーザー,Arイオンレーザー,CO2レーザー等の気体レーザー、色素レーザー等の液体レーザーを用いることができる。
レーザーの発振形式としては、パルス発振形式のものを用いることができる。
【0035】
加熱装置(4)の種類は特に限定されないが、図示例ではウォーターバスが用いられている。
ウォーターバス内にはバス内の温水の温度を検知するための温度センサ(5)が設置されており、温度センサ(5)により検知された温度に基づいて温水の温度を制御することが可能となっている。
【0036】
図2は本発明に係る有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置の第二実施形態を示す概略図である。
図2に示す製造装置は、有機化合物が貧溶媒中に分散された懸濁液を収容して供給するための供給部(6)と、供給部(6)内に収容された懸濁液を加熱するための加熱装置(4)と、加熱装置(4)により加熱された供給部(6)内の懸濁液を移送する移送手段(7)と、移送手段(7)により移送されてきた懸濁液を流通させるための流通部(8)(図中では(81)(82)として示す)と、流通部(8)内を流通する懸濁液に対してレーザー(3)を照射するレーザー照射装置(図示略)と、レーザーが照射された後の懸濁液を回収する回収部(9)とを備えている。
【0037】
供給部(6)は、有機化合物が貧溶媒中に分散された懸濁液を収容できるものであればよく、材質は特に限定されない。
加熱装置(4)は供給部(6)の下方に設けられたヒータ等からなる。
移送手段(7)はポンプからなり、供給部(6)内に収容された懸濁液を連続的或いは断続的に流通部(8)へと送り出すことができる。
【0038】
流通部(8)は、供給部(6)と回収部(9)とを繋ぐ流路であって、管路部(81)と容器部(82)とからなる。
容器部(82)は管路部(81)の中途部に設けられており、レーザー(3)は容器部(82)内にある懸濁液に対して照射される。従って、容器部(82)は、レーザー光が透過可能な材料から形成されており、具体的にはガラスや石英等の透明な材料から形成されている。
【0039】
回収部(9)は、レーザーが照射された後の懸濁液を回収する容器であり、移送手段(7)によりレーザーが照射された後の懸濁液(有機化合物ナノ粒子分散液)が連続的又は断続的に回収される。
【0040】
第二実施形態の装置において、上記した以外の構成は、第一実施形態の装置と同様であるため説明を省略する。
【0041】
次に、本発明に係る有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法について、より具体的に説明する。
最初に、第一実施形態の装置を使用した場合の方法について説明する。
先ず、有機化合物を容器(1)内に収容された貧溶媒中に混入して、攪拌装置(2)を駆動して攪拌することにより、貧溶媒中に有機化合物が分散した懸濁液とする。
貧溶媒中に混入する有機化合物は、前処理にて粉砕した粒子(微結晶)を用いることが好ましく、この場合、平均粒径1〜100μm程度となるようにすることが好ましい。これは、100μmを超える程に粒径が大きいとナノ粒子化されるまでに時間がかかり処理効率が低下する一方、前処理により1μm未満まで粉砕することは困難であるという理由による。
【0042】
次いで、加熱装置(4)により容器(1)内の懸濁液を加熱して、懸濁液を少なくとも常温より高い温度とする。加熱温度は、貧溶媒及び有機化合物の種類に応じて設定され、より具体的には貧溶媒の沸点未満であって且つ有機溶媒が熱的に安定な範囲(熱分解や熱変性が起こらない範囲)の温度に設定される。
そして、容器(1)内の懸濁液を加熱装置(4)により加熱しながらもしくは加熱した後、該懸濁液に対してレーザー(3)を照射することにより、懸濁液中の有機化合物を粉砕してナノ粒子化する。
【0043】
照射されるレーザーは、特に限定されるものではなく、紫外光、可視光、近赤外光、遠赤外光のいずれの波長をもつレーザーを使用することも可能であり、レーザーの種類は、上述したような公知の固体レーザー、半導体レーザー、気体レーザー、液体レーザーの中から適宜選択して用いることができる。
尚、レーザーの波長については、貧溶媒及び有機化合物の種類に応じて設定されるが、例えば200〜800nm程度の波長のものが用いられる。その理由は、波長が200nmより短いとレーザーの光エネルギーが貧溶媒(水等)に吸収され易くなるとともにガラスや石英等の容器(1)への吸収も無視できなくなり、800nmより長いと、有機化合物の多くがこの範囲の波長を吸収しない為、破砕効率が低下する傾向があるためである。
【0044】
本発明において照射されるレーザーの具体的な例としては、Nd3+:YAGレーザー(基本波長1064nm)の第2高調波(波長532nm),第3高調波(波長355nm),第4高調波(波長266nm)、エキシマレーザー(波長193nm,248nm,308nm,351nm)、窒素レーザー(波長337nm)、Arイオンレーザー(波長488nm又は514nm)等を挙げることができる。
【0045】
照射されるレーザーの発振形式については、パルスレーザーが好適である。
パルスレーザーとしては、破砕効率の観点から、パルス幅が数十フェムト秒〜数百ナノ秒のものを用いることが好ましい。
また、パルスレーザーの励起光強度は、有機化合物の種類によって適宜設定されるが、例えば1〜1000mJ/cm2とすることが好ましい。その理由は、励起光強度が1mJ/cm2未満であると、有機化合物を確実に破砕できないおそれがあり、1000mJ/cm2を超えると有機化合物自体が破壊されるおそれがあるためである。
【0046】
パルスの繰り返し周波数は、0.1〜1000Hzが好ましい。YAGレーザーを用いる場合、例えば1〜100Hzの範囲に設定する。
【0047】
有機化合物が貧溶媒中に分散した懸濁液に対してレーザーを照射すると、有機化合物粉末がレーザー光を吸収し、光吸収部において急激且つ局所的な温度上昇が生じる。
この光吸収部の温度上昇はレーザー光照射後瞬間的に起こり、一方、光吸収部周囲の温度上昇は熱伝導によって起こるため、比較的大きな粉末からなる有機化合物を原料として用いた場合には、光吸収部とその周辺部に著しい内部応力が生じて粒子にクラックが発生して破砕が起こる。
有機化合物粒子が、レーザー光の照射波長に強い吸収性を有する場合、光吸収は主として粒子の表面で起こり、光照射表面と内部との間に温度差が生じるので、この場合でも、粒子表面が周囲の貧溶媒によって冷却されることで、内部との間に温度勾配が生じて応力が発生し、破砕が達成される。
このように液中でレーザー照射により粉砕が起こる場合、レーザー照射による温度上昇と、周辺溶媒分子による冷却過程が協奏的に起こり、両方の因子が製造されるナノ粒子の粒径やコロイドの分散安定性などに大きく関与することとなる。
【0048】
本発明に係る方法では、有機化合物を貧溶媒中に分散させた懸濁液を加熱することにより、有機化合物の結晶表面の運動エネルギーが増大して平均分子間距離が増加し、水素結合やファンデルワールス力などの分子間力が弱まるため、レーザー照射による破砕効率を向上させることが可能となる。
また、加熱により貧溶媒の温度が上昇することで、レーザー照射により温度が上昇した有機化合物に対する周囲の貧溶媒の冷却効果が弱まり、これまでナノ粒子化を誘起することができなかったレーザー強度でも更に破砕してナノ粒子とすることが可能となる。
即ち、レーザー照射により有機化合物が粉砕されて粒径が小さくなると、周囲の貧溶媒による冷却効果が高まるため、レーザー照射による温度上昇効果よりも周囲の貧溶媒による冷却効果が高くなってそれ以上の粉砕が起こらなくなる。しかし、貧溶媒の温度を上昇させて冷却効果を弱めることにより同じレーザー強度のままで更なる粉砕が可能となる。その結果、粒径が小さく且つ粒径分布幅が狭いナノ粒子を得ることができ、分散安定性も向上する。
【0049】
次に、第二実施形態の装置を使用した場合の方法について、第一実施形態の装置を用いた方法と異なる部分についてのみ説明する。
先ず、貧溶媒中に有機化合物が分散した懸濁液を供給部(6)に収容する。
次いで、加熱装置(4)により供給部(6)内に収容された懸濁液を加熱して、懸濁液を少なくとも常温より高い温度とする。加熱温度は、貧溶媒及び有機化合物の種類に応じて設定され、より具体的には貧溶媒の沸点未満であって且つ有機化合物が熱的に安定な範囲の温度に設定される。
【0050】
続いて、移送手段(7)により供給部(6)内の加熱された懸濁液を流通部(8)へと流通させ、流通部(8)を流通する懸濁液、具体的には容器部(82)内にある懸濁液に対してレーザー(3)を照射することにより、懸濁液中の有機化合物を粉砕してナノ粒子化して有機化合物ナノ粒子分散液を得て、得られた分散液を回収部(9)に回収する。
【0051】
第二実施形態の装置を用いた方法によれば、上記した第一実施形態の装置を用いた方法により得られる効果に加えて、多量の有機化合物ナノ粒子分散液を効率良く連続的に製造することができるという効果が得られる。
【0052】
第一実施形態及び第二実施形態の装置において、容器(1)又は回収部(9)を冷却するための冷却装置(図示略)を設けることができる。
冷却装置を設けることによって、懸濁液に対してレーザーを照射した後、該懸濁液を冷却することにより、レーザー照射により得られたナノ粒子の再凝集を防ぐことができ、分散安定性をより向上させることが可能となる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
実施例1として、図1の製造装置を用いて有機化合物ナノ粒子分散液を製造した結果を示す。
まず、容器(1)内に貧溶媒である純水を収容し、そこに有機化合物として薬効成分であるサラゾスルファピリジン(微結晶)を混入した。サラゾスルファピリジン結晶は、その多くが容器(1)の底に沈殿していたが、マグネチックスターラーを用いた攪拌により、水中に浮遊(分散)した。次に、サラゾスルファピリジン結晶懸濁液に対して、Nd3+:YAGレーザーの第三高調波(波長355nm、パルス半値幅7ns、繰り返し周波数10Hz)を励起光強度50mJ/cm2で照射したところ、サラゾスルファピリジン結晶のレーザーアブレーションが誘起され、ナノ粒子に粉砕された結果、黄色の透明なコロイド溶液(ナノ粒子分散液)が得られた。
【0055】
次に、加熱装置(4)により温度を25及び50℃に設定した懸濁液に対して、上記レーザー照射を行った。このときの作製したコロイドの吸収スペクトルに対する照射時間依存性の実験結果を図3(a)(b)に示す。(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合を示している。
本実験において、さらに30秒間レーザー照射を行っても、5%以上の吸光度の変化が見られなくなった時間を飽和時間として定義すると、50℃の場合では90秒間で飽和している。ここで、各温度において90秒間レーザー照射を行うことにより得られたコロイドの吸収スペクトルを図4に比較して示した。この図から明らかなように、より高い温度においてレーザーを照射した方が、高い吸光度(濃度)が得られることから、ナノ粒子の製造効率が向上したことが分かる。また、より高温な懸濁液にレーザーを照射した方が、長波長側(700nm)の吸光度が低下していることから、得られたナノ粒子の粒径は小さいことが示唆される。
【0056】
次に、各温度下で製造した分散液の安定性を、レーザー照射後及び室温暗所下で一ヶ月間静置した分散液それぞれについて、吸収スペクトルの経時変化により評価し、その結果を図5(a)(b)に示す。(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合を示している。
図5(a)(b)において、太線がレーザー照射直後の吸収スペクトル、細線がレーザー照射後1ヵ月後の吸収スペクトルを示している。この図から明らかなように、高温度条件により製造された分散液が、最も優れた分散安定性を有することが分かる。
【0057】
実施例2として、有機化合物として赤色顔料であるキナクリドンを選択した以外は、実施例1と同じ条件で有機化合物ナノ粒子分散液を製造した。
キナクリドン結晶の懸濁液に対して、レーザー照射装置からNd3+:YAGレーザーの第三高調波(波長355nm、パルス半値幅7ns、繰り返し周波数10Hz)を励起光強度50mJ/cm2で照射したところ、水中でキナクリドン結晶が粉砕され、赤紫色の透明なコロイド溶液(ナノ粒子分散液)が得られた。
【0058】
次に、加熱装置(4)により温度を25,50及び75℃に設定した懸濁液に対して、上記レーザー照射を行った。このとき、作製したコロイドの吸収スペクトルに対する照射時間依存性の実験結果を図6(a)〜(c)に示す。(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合、(c)は75℃の場合を示している。
本実験において、さらに5分間レーザー照射を行っても、5%以上の吸光度の変化が見られなくなった時間を飽和時間として定義すると、75℃の場合では15分間で飽和している。ここで、各温度において15分間レーザー照射を行うことにより得られたコロイドの吸収スペクトルを図7に比較して示した。この図から明らかなように、より高い温度においてレーザーを照射した方が、高い吸光度(濃度)が得られることから、ナノ粒子の製造効率が向上したことが分かる。また、より高温な懸濁液にレーザーを照射した方が、長波長側(700nm)の吸光度が低下していることから、得られたナノ粒子の粒径は小さいことが示唆される。
【0059】
次に、各温度において、吸光度がほぼ飽和するまでレーザー照射を行ったキナクリドンナノ粒子の粒径を粒度分布計によって測定を行った。粒度分布計による測定結果を表1に示す。表1より、より高温な懸濁液にレーザーを照射した方が、より小さな粒径のナノ粒子が製造できることが分かった。
【0060】
【表1】
【0061】
次に、各温度において作製した分散液の安定性を、レーザー照射後及び室温暗所下で一ヶ月間静置した分散液それぞれについて、吸収スペクトルの経時変化により評価した。その結果を図8(a)〜(c)に示す。(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合、(c)は75℃の場合を示している。
図8(a)〜(c)において、太線がレーザー照射直後の吸収スペクトル、細線がレーザー照射後1ヵ月後の吸収スペクトルを示している。この図から明らかなように、高温度条件により製造された分散液が、最も優れた分散安定性を有することが分かる。
【0062】
(実施例3)
実施例3として、有機化合物として炭素材料であるフラーレンを選択した以外は、実施例1とほぼ同じ条件で有機化合物ナノ粒子分散液を製造した。
C60粒子の懸濁液に対して、レーザー照射装置からNd3+:YAGレーザーの第二高調波(波長532nm、パルス半値幅7ns、繰り返し周波数10Hz)を励起光強度50mJ/cm2で照射したところ、水中でC60粒子が粉砕され、黄色の透明なコロイド溶液(ナノ粒子分散液)が得られた。
【0063】
次に、加熱装置(4)により温度を25,50及び75℃に設定した懸濁液に対して、上記レーザー照射を行った。このとき、作製したコロイドの吸収スペクトルに対する照射時間依存性の実験結果を図9(a)〜(c)に示す。(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合、(c)は75℃の場合を示している。
各温度条件下において20分間レーザー照射を行うことにより得られたC60ナノ粒子水分散液の吸収スペクトルを図10に比較して示した。この図から明らかなように、より高温な懸濁液にレーザー照射した方が、高い吸光度(濃度)が得られることから、ナノ粒子の製造効率が向上したことが分かった。またより高温な懸濁液にレーザー照射した方が、長波長側(700nm)の吸光度が低下していることから、得られるナノ粒子の粒径は小さいことが示唆される。
【0064】
次に、各温度において、20分間レーザー照射を行ったC60ナノ粒子の粒径を粒度分布計によって測定を行った。そのときの粒度分布計による測定結果を表2に示した。表2より、より高温な懸濁液にレーザーを照射した方が、より小さな粒径のナノ粒子が作製できることが分かった。
【0065】
【表2】
【0066】
次に、各温度下で製造した分散液の安定性を、レーザー照射後及び室温暗所下で一ヶ月間静置した分散液それぞれについて、吸収スペクトルの経時変化により評価し、その結果を図11(a)〜(c)に示す。(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合、(c)は75℃の場合を示している。
図11(a)〜(c)において、太線がレーザー照射直後の吸収スペクトル、細線がレーザー照射後1ヵ月後の吸収スペクトルを示している。この図から明らかなように、高温度条件により製造された分散液が、最も優れた分散安定性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、例えば薬効成分、顔料、炭素材料等の有機化合物のナノ粒子分散液を製造するために利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 容器
2 攪拌装置
3 レーザー
4 加熱装置
6 供給部
7 移送手段
8 流通部
9 回収部
10 懸濁液
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法及び製造装置に関し、より詳しくは、レーザーを使用して有機化合物を効率良く粉砕してナノ粒子化することができる有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機化合物を微粒子化するための方法として、貧溶媒に分散させた有機化合物に対してレーザーを照射することにより有機化合物を粉砕する液中レーザーアブレーション法が知られている(下記特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1に開示された従来の方法は、有機化合物の微粒子化効率の点で充分ではなく改良の余地があった。
【0003】
かかる実状に鑑みて、下記特許文献2には液中レーザーアブレーション法において有機化合物の微粒子化の効率を向上させるための方法が提案されている。
特許文献2に開示された方法は、貧溶媒として、常温で気体、常温よりも低温で液体となる溶媒(液体窒素等)を用い、前記低温条件下において溶媒中に懸濁させた有機化合物に対してレーザーを照射することにより、有機化合物を粉砕して微粒子化する方法である。
特許文献2には、有機化合物を充分に低温の溶媒中に懸濁させることにより、有機化合物の分子運動の自由度が低下した状態で微粒子化が行なわれることとなって、レーザーの光破砕エネルギーの分子運動への緩和が抑制され、効率良く有機化合物を微粒子化することができる旨が記載されている。
【0004】
しかしながら、常温で気体、常温よりも低温で液体となる溶媒(液体窒素等)は、容器に混入すると気化してしまうため、懸濁液の濃度を一定に保つために溶媒を補充する必要があり、また極度な低温で行うために、適用可能な化合物にかなり制限がある。更に、溶媒の取扱い性や安全性の点でも問題がある。
また、有機化合物を微粒子化するためには有機化合物の分子間の結合を切断する必要があるが、冷却によって分子運動の自由度は低下しても分子間力は弱くならないため、微粒子化の効率を大幅に向上させることは困難である。
【0005】
また、下記特許文献3には、貧溶媒中に有機化合物を分散させた懸濁液を冷却しながらレーザーを照射することにより、微粒子化の効率を向上させることができる旨が記載されている。
しかしながら、懸濁液を冷却することは、粉砕された微粒子の再凝集を防止するためには効果的であるかもしれないが、微粒子化自体の効率(粉砕効率)を向上させることはできない。
【0006】
上記したように、従来、液中レーザーアブレーション法により有機化合物を微粒子化する場合において、微粒子化の効率を向上させるためには、有機化合物を分散させるための溶媒の温度は低い方が好ましいと認識されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−113159号公報
【特許文献2】特開2005−125204号公報
【特許文献3】特開2005−177596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来の認識とは正反対の発想に基づいて創出されたものであって、液中レーザーアブレーション法において有機化合物の微粒子化の効率を大幅に向上させることを可能とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法及び製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、有機化合物を貧溶媒中に分散させて懸濁液とし、該懸濁液を加熱しながらもしくは加熱した後、該懸濁液に対してレーザーを照射することにより、懸濁液中の有機化合物を粉砕してナノ粒子化することを特徴とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法に関する。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記懸濁液に対してレーザーを照射した後、該懸濁液を冷却することを特徴とする請求項1記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法に関する。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記有機化合物が医薬品の薬効成分であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法に関する。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記有機化合物が顔料であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法に関する。
【0013】
請求項5に係る発明は、前記有機化合物が炭素材料であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法に関する。
【0014】
請求項6に係る発明は、有機化合物が貧溶媒中に分散された懸濁液を収容するための容器と、前記容器内に収容された懸濁液に対してレーザーを照射するレーザー照射装置と、前記容器内に収容された懸濁液を加熱するための加熱装置と、を備えていることを特徴とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置に関する。
【0015】
請求項7に係る発明は、前記容器を冷却するための冷却装置を備えていることを特徴とする請求項6記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置に関する。
【0016】
請求項8に係る発明は、有機化合物が貧溶媒中に分散された懸濁液を収容して供給するための供給部と、前記供給部内に収容された懸濁液を加熱するための加熱装置と、前記加熱装置により加熱された前記供給部内の懸濁液を移送する移送手段と、前記移送手段により移送されてきた懸濁液を流通させるための流通部と、前記流通部内を流通する懸濁液に対してレーザーを照射するレーザー照射装置と、前記レーザーが照射された後の懸濁液を回収する回収部と、を備えていることを特徴とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置に関する。
【0017】
請求項9に係る発明は、前記回収部を冷却するための冷却装置を備えていることを特徴とする請求項8記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置に関する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、有機化合物を貧溶媒中に分散させた懸濁液を加熱することにより、有機化合物の結晶表面の運動エネルギーが増大して平均分子間距離が増加し、水素結合やファンデルワールス力などの分子間力が弱まるため、レーザー照射による破砕効率を向上させることが可能となる。
また、加熱により貧溶媒の温度が上昇することで、レーザー照射により温度が上昇した有機化合物に対する周囲の貧溶媒の冷却効果が弱まり、これまでナノ粒子化を誘起することができなかったレーザー強度でも更に破砕してより小径のナノ粒子とすることが可能となり、分散安定性も向上する。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、懸濁液に対してレーザーを照射した後、該懸濁液を冷却することにより、レーザー照射により得られたナノ粒子の再凝集を防ぐことができ、分散安定性をより向上させることが可能となる。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、水に難溶又は不溶の薬効成分を水に安定して分散させることができるため、静脈注射等による投与が可能となり、また生体内での吸収性を高めることができるため、薬剤の投与量を減らすことも可能となる。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、彩色・発色性に非常に優れた顔料を得ることができる。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、水に不溶の炭素材料であるフラーレンを水に安定して分散させることができるため、癌の光線力学的療法剤等への応用が可能となる。
【0023】
請求項6に係る発明によれば、加熱装置により加熱された懸濁液に対してレーザーを照射することにより、懸濁液中の有機化合物の結晶表面の運動エネルギーが増大して平均分子間距離が増加し、水素結合やファンデルワールス力などの分子間力が弱まるため、レーザー照射による破砕効率を向上させることが可能となる。
また、加熱装置による加熱により貧溶媒の温度を上昇させることにより、レーザー照射により温度が上昇した有機化合物に対する周囲の貧溶媒の冷却効果が弱まり、これまでナノ粒子化を誘起することができなかったレーザー強度でも更に破砕してナノ粒子とすることが可能となり、分散安定性も向上する。
【0024】
請求項7に係る発明によれば、容器を冷却するための冷却装置を備えていることから、レーザー照射後の懸濁液を冷却することにより、レーザー照射により得られたナノ粒子の再凝集を防ぐことができ、分散安定性をより向上させることが可能となる。
【0025】
請求項8に係る発明によれば、懸濁液を流通部内に流通させながらレーザーを照射することができるため、請求項6に係る発明の効果に加えて、多量の有機化合物ナノ粒子分散液を効率良く連続的に製造することができるという効果を奏する。
【0026】
請求項9に係る発明によれば、回収部を冷却するための冷却装置を備えていることから、レーザー照射後の懸濁液を冷却することにより、レーザー照射により得られたナノ粒子の再凝集を防ぐことができ、分散安定性をより向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置の第一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明に係る有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置の第二実施形態を示す概略図である。
【図3】実施例1で作製した薬効成分の例としてサラゾスルファピリジンナノ粒子水分散液の吸収スペクトルに対する照射時間依存性の実験結果を示す図であり、(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合を示している。
【図4】実施例1の各温度において90秒間レーザー照射を行うことにより得られたコロイドの吸収スペクトルを比較して示した図である。
【図5】実施例1の各温度において作製した分散液の安定性を、レーザー照射後及び室温暗所下で一ヶ月間静置した分散液それぞれについて、吸収スペクトルの経時変化により評価した結果を示す図であり、(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合を示している。
【図6】実施例2で作製した顔料の例としてキナクリドンナノ粒子水分散液の吸収スペクトルに対する照射時間依存性の実験結果を示す図であり、(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合、(c)は75℃の場合を示している。
【図7】実施例2の各温度において15分間レーザー照射を行うことにより得られたコロイドの吸収スペクトルを比較して示した図である。
【図8】実施例2の各温度で製造した分散液の安定性を、レーザー照射後及び室温暗所下で一ヶ月間静置した分散液それぞれについて、吸収スペクトルの経時変化により評価した結果を示す図であり、(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合(c)は75℃の場合を示している。
【図9】実施例3で作製した炭素材料の例としてフラーレンC60ナノ粒子水分散液の吸収スペクトルに対する照射時間依存性の実験結果を示す図であり、(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合を示している。
【図10】実施例3の各温度において20分間レーザー照射を行うことにより得られたコロイドの吸収スペクトルを比較して示す図である。
【図11】実施例3の各温度下で製造した分散液の安定性を、レーザー照射後及び室温暗所下で一ヶ月間静置した分散液それぞれについて、吸収スペクトルの経時変化により評価した結果を示す図であり、(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合、(c)は75℃の場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法及び製造装置の好適な実施形態について、適宜図面を参照しつつ説明する。
本発明に係る有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法は、有機化合物を貧溶媒中に分散させて懸濁液とし、該懸濁液を加熱しながらもしくは加熱した後、該懸濁液に対してレーザーを照射することにより、懸濁液中の有機化合物を粉砕してナノ粒子化することを特徴とするものである。
【0029】
先ず、本発明に係る方法において好適に用いられる装置について説明する。
図1は本発明に係る有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置の第一実施形態を示す概略図である。
図1に示す製造装置は、有機化合物が混入される貧溶媒を収容するための容器(1)と、容器(1)内に収容された貧溶媒を攪拌して懸濁液とするための攪拌装置(2)と、容器(1)内に収容された懸濁液(10)に対してレーザー(3)を照射するレーザー照射装置(図示略)と、容器(1)内に収容された懸濁液を加熱するための加熱装置(4)とを備えている。
【0030】
容器(1)は、レーザー光が透過可能な材料から形成されており、具体的にはガラスや石英等の透明な材料から形成されている。
【0031】
容器(1)に収容される有機化合物の種類は特に限定されないが、例えば、医薬品の薬効成分、顔料、炭素材料、農薬、洗剤などを例示することができる。
医薬品の薬効成分は、薬事法第2条第1項に定められている医薬品を構成する薬効成分のうち、水に不溶又は難溶なものであり、医療用医薬品及び一般用医薬品のいずれの薬効成分も含まれる。薬効成分の種類は特に限定されないが、一例として、抗癌剤、ビタミン剤、鎮痛剤、抗炎症剤を構成する薬効成分が挙げられる。
尚、水に不溶な薬効成分とは、常温の水に対する溶解度が10−5%以下(重量比)の薬効成分を指し、水に難溶な薬効成分とは、常温の水に対する溶解度が10−3%以下(重量比)の薬効成分を指す。
顔料としては、キナクリドン、フタロシアニン等が挙げられる。
炭素材料としては、フラーレンC60、C70、金属内包フラーレン、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0032】
容器(1)内に収容される貧溶媒は、有機化合物の種類に応じて適宜選択され、例えば水、生理食塩水、バッファー溶液、メタノール、エタノール等が用いられる。
【0033】
攪拌装置(2)は、容器(1)内に収容された有機化合物が混入された貧溶媒を攪拌することができるものであればよく特に限定されないが、図示例では攪拌子(21)を備えたマグネチックスターラーが用いられている。
【0034】
レーザー(3)の種類としては、YAGレーザー,チタンサファイアレーザー,ルビーレーザー等の固体レーザー、GaAsレーザー等の半導体レーザー、エキシマレーザー,Arイオンレーザー,CO2レーザー等の気体レーザー、色素レーザー等の液体レーザーを用いることができる。
レーザーの発振形式としては、パルス発振形式のものを用いることができる。
【0035】
加熱装置(4)の種類は特に限定されないが、図示例ではウォーターバスが用いられている。
ウォーターバス内にはバス内の温水の温度を検知するための温度センサ(5)が設置されており、温度センサ(5)により検知された温度に基づいて温水の温度を制御することが可能となっている。
【0036】
図2は本発明に係る有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置の第二実施形態を示す概略図である。
図2に示す製造装置は、有機化合物が貧溶媒中に分散された懸濁液を収容して供給するための供給部(6)と、供給部(6)内に収容された懸濁液を加熱するための加熱装置(4)と、加熱装置(4)により加熱された供給部(6)内の懸濁液を移送する移送手段(7)と、移送手段(7)により移送されてきた懸濁液を流通させるための流通部(8)(図中では(81)(82)として示す)と、流通部(8)内を流通する懸濁液に対してレーザー(3)を照射するレーザー照射装置(図示略)と、レーザーが照射された後の懸濁液を回収する回収部(9)とを備えている。
【0037】
供給部(6)は、有機化合物が貧溶媒中に分散された懸濁液を収容できるものであればよく、材質は特に限定されない。
加熱装置(4)は供給部(6)の下方に設けられたヒータ等からなる。
移送手段(7)はポンプからなり、供給部(6)内に収容された懸濁液を連続的或いは断続的に流通部(8)へと送り出すことができる。
【0038】
流通部(8)は、供給部(6)と回収部(9)とを繋ぐ流路であって、管路部(81)と容器部(82)とからなる。
容器部(82)は管路部(81)の中途部に設けられており、レーザー(3)は容器部(82)内にある懸濁液に対して照射される。従って、容器部(82)は、レーザー光が透過可能な材料から形成されており、具体的にはガラスや石英等の透明な材料から形成されている。
【0039】
回収部(9)は、レーザーが照射された後の懸濁液を回収する容器であり、移送手段(7)によりレーザーが照射された後の懸濁液(有機化合物ナノ粒子分散液)が連続的又は断続的に回収される。
【0040】
第二実施形態の装置において、上記した以外の構成は、第一実施形態の装置と同様であるため説明を省略する。
【0041】
次に、本発明に係る有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法について、より具体的に説明する。
最初に、第一実施形態の装置を使用した場合の方法について説明する。
先ず、有機化合物を容器(1)内に収容された貧溶媒中に混入して、攪拌装置(2)を駆動して攪拌することにより、貧溶媒中に有機化合物が分散した懸濁液とする。
貧溶媒中に混入する有機化合物は、前処理にて粉砕した粒子(微結晶)を用いることが好ましく、この場合、平均粒径1〜100μm程度となるようにすることが好ましい。これは、100μmを超える程に粒径が大きいとナノ粒子化されるまでに時間がかかり処理効率が低下する一方、前処理により1μm未満まで粉砕することは困難であるという理由による。
【0042】
次いで、加熱装置(4)により容器(1)内の懸濁液を加熱して、懸濁液を少なくとも常温より高い温度とする。加熱温度は、貧溶媒及び有機化合物の種類に応じて設定され、より具体的には貧溶媒の沸点未満であって且つ有機溶媒が熱的に安定な範囲(熱分解や熱変性が起こらない範囲)の温度に設定される。
そして、容器(1)内の懸濁液を加熱装置(4)により加熱しながらもしくは加熱した後、該懸濁液に対してレーザー(3)を照射することにより、懸濁液中の有機化合物を粉砕してナノ粒子化する。
【0043】
照射されるレーザーは、特に限定されるものではなく、紫外光、可視光、近赤外光、遠赤外光のいずれの波長をもつレーザーを使用することも可能であり、レーザーの種類は、上述したような公知の固体レーザー、半導体レーザー、気体レーザー、液体レーザーの中から適宜選択して用いることができる。
尚、レーザーの波長については、貧溶媒及び有機化合物の種類に応じて設定されるが、例えば200〜800nm程度の波長のものが用いられる。その理由は、波長が200nmより短いとレーザーの光エネルギーが貧溶媒(水等)に吸収され易くなるとともにガラスや石英等の容器(1)への吸収も無視できなくなり、800nmより長いと、有機化合物の多くがこの範囲の波長を吸収しない為、破砕効率が低下する傾向があるためである。
【0044】
本発明において照射されるレーザーの具体的な例としては、Nd3+:YAGレーザー(基本波長1064nm)の第2高調波(波長532nm),第3高調波(波長355nm),第4高調波(波長266nm)、エキシマレーザー(波長193nm,248nm,308nm,351nm)、窒素レーザー(波長337nm)、Arイオンレーザー(波長488nm又は514nm)等を挙げることができる。
【0045】
照射されるレーザーの発振形式については、パルスレーザーが好適である。
パルスレーザーとしては、破砕効率の観点から、パルス幅が数十フェムト秒〜数百ナノ秒のものを用いることが好ましい。
また、パルスレーザーの励起光強度は、有機化合物の種類によって適宜設定されるが、例えば1〜1000mJ/cm2とすることが好ましい。その理由は、励起光強度が1mJ/cm2未満であると、有機化合物を確実に破砕できないおそれがあり、1000mJ/cm2を超えると有機化合物自体が破壊されるおそれがあるためである。
【0046】
パルスの繰り返し周波数は、0.1〜1000Hzが好ましい。YAGレーザーを用いる場合、例えば1〜100Hzの範囲に設定する。
【0047】
有機化合物が貧溶媒中に分散した懸濁液に対してレーザーを照射すると、有機化合物粉末がレーザー光を吸収し、光吸収部において急激且つ局所的な温度上昇が生じる。
この光吸収部の温度上昇はレーザー光照射後瞬間的に起こり、一方、光吸収部周囲の温度上昇は熱伝導によって起こるため、比較的大きな粉末からなる有機化合物を原料として用いた場合には、光吸収部とその周辺部に著しい内部応力が生じて粒子にクラックが発生して破砕が起こる。
有機化合物粒子が、レーザー光の照射波長に強い吸収性を有する場合、光吸収は主として粒子の表面で起こり、光照射表面と内部との間に温度差が生じるので、この場合でも、粒子表面が周囲の貧溶媒によって冷却されることで、内部との間に温度勾配が生じて応力が発生し、破砕が達成される。
このように液中でレーザー照射により粉砕が起こる場合、レーザー照射による温度上昇と、周辺溶媒分子による冷却過程が協奏的に起こり、両方の因子が製造されるナノ粒子の粒径やコロイドの分散安定性などに大きく関与することとなる。
【0048】
本発明に係る方法では、有機化合物を貧溶媒中に分散させた懸濁液を加熱することにより、有機化合物の結晶表面の運動エネルギーが増大して平均分子間距離が増加し、水素結合やファンデルワールス力などの分子間力が弱まるため、レーザー照射による破砕効率を向上させることが可能となる。
また、加熱により貧溶媒の温度が上昇することで、レーザー照射により温度が上昇した有機化合物に対する周囲の貧溶媒の冷却効果が弱まり、これまでナノ粒子化を誘起することができなかったレーザー強度でも更に破砕してナノ粒子とすることが可能となる。
即ち、レーザー照射により有機化合物が粉砕されて粒径が小さくなると、周囲の貧溶媒による冷却効果が高まるため、レーザー照射による温度上昇効果よりも周囲の貧溶媒による冷却効果が高くなってそれ以上の粉砕が起こらなくなる。しかし、貧溶媒の温度を上昇させて冷却効果を弱めることにより同じレーザー強度のままで更なる粉砕が可能となる。その結果、粒径が小さく且つ粒径分布幅が狭いナノ粒子を得ることができ、分散安定性も向上する。
【0049】
次に、第二実施形態の装置を使用した場合の方法について、第一実施形態の装置を用いた方法と異なる部分についてのみ説明する。
先ず、貧溶媒中に有機化合物が分散した懸濁液を供給部(6)に収容する。
次いで、加熱装置(4)により供給部(6)内に収容された懸濁液を加熱して、懸濁液を少なくとも常温より高い温度とする。加熱温度は、貧溶媒及び有機化合物の種類に応じて設定され、より具体的には貧溶媒の沸点未満であって且つ有機化合物が熱的に安定な範囲の温度に設定される。
【0050】
続いて、移送手段(7)により供給部(6)内の加熱された懸濁液を流通部(8)へと流通させ、流通部(8)を流通する懸濁液、具体的には容器部(82)内にある懸濁液に対してレーザー(3)を照射することにより、懸濁液中の有機化合物を粉砕してナノ粒子化して有機化合物ナノ粒子分散液を得て、得られた分散液を回収部(9)に回収する。
【0051】
第二実施形態の装置を用いた方法によれば、上記した第一実施形態の装置を用いた方法により得られる効果に加えて、多量の有機化合物ナノ粒子分散液を効率良く連続的に製造することができるという効果が得られる。
【0052】
第一実施形態及び第二実施形態の装置において、容器(1)又は回収部(9)を冷却するための冷却装置(図示略)を設けることができる。
冷却装置を設けることによって、懸濁液に対してレーザーを照射した後、該懸濁液を冷却することにより、レーザー照射により得られたナノ粒子の再凝集を防ぐことができ、分散安定性をより向上させることが可能となる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
実施例1として、図1の製造装置を用いて有機化合物ナノ粒子分散液を製造した結果を示す。
まず、容器(1)内に貧溶媒である純水を収容し、そこに有機化合物として薬効成分であるサラゾスルファピリジン(微結晶)を混入した。サラゾスルファピリジン結晶は、その多くが容器(1)の底に沈殿していたが、マグネチックスターラーを用いた攪拌により、水中に浮遊(分散)した。次に、サラゾスルファピリジン結晶懸濁液に対して、Nd3+:YAGレーザーの第三高調波(波長355nm、パルス半値幅7ns、繰り返し周波数10Hz)を励起光強度50mJ/cm2で照射したところ、サラゾスルファピリジン結晶のレーザーアブレーションが誘起され、ナノ粒子に粉砕された結果、黄色の透明なコロイド溶液(ナノ粒子分散液)が得られた。
【0055】
次に、加熱装置(4)により温度を25及び50℃に設定した懸濁液に対して、上記レーザー照射を行った。このときの作製したコロイドの吸収スペクトルに対する照射時間依存性の実験結果を図3(a)(b)に示す。(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合を示している。
本実験において、さらに30秒間レーザー照射を行っても、5%以上の吸光度の変化が見られなくなった時間を飽和時間として定義すると、50℃の場合では90秒間で飽和している。ここで、各温度において90秒間レーザー照射を行うことにより得られたコロイドの吸収スペクトルを図4に比較して示した。この図から明らかなように、より高い温度においてレーザーを照射した方が、高い吸光度(濃度)が得られることから、ナノ粒子の製造効率が向上したことが分かる。また、より高温な懸濁液にレーザーを照射した方が、長波長側(700nm)の吸光度が低下していることから、得られたナノ粒子の粒径は小さいことが示唆される。
【0056】
次に、各温度下で製造した分散液の安定性を、レーザー照射後及び室温暗所下で一ヶ月間静置した分散液それぞれについて、吸収スペクトルの経時変化により評価し、その結果を図5(a)(b)に示す。(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合を示している。
図5(a)(b)において、太線がレーザー照射直後の吸収スペクトル、細線がレーザー照射後1ヵ月後の吸収スペクトルを示している。この図から明らかなように、高温度条件により製造された分散液が、最も優れた分散安定性を有することが分かる。
【0057】
実施例2として、有機化合物として赤色顔料であるキナクリドンを選択した以外は、実施例1と同じ条件で有機化合物ナノ粒子分散液を製造した。
キナクリドン結晶の懸濁液に対して、レーザー照射装置からNd3+:YAGレーザーの第三高調波(波長355nm、パルス半値幅7ns、繰り返し周波数10Hz)を励起光強度50mJ/cm2で照射したところ、水中でキナクリドン結晶が粉砕され、赤紫色の透明なコロイド溶液(ナノ粒子分散液)が得られた。
【0058】
次に、加熱装置(4)により温度を25,50及び75℃に設定した懸濁液に対して、上記レーザー照射を行った。このとき、作製したコロイドの吸収スペクトルに対する照射時間依存性の実験結果を図6(a)〜(c)に示す。(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合、(c)は75℃の場合を示している。
本実験において、さらに5分間レーザー照射を行っても、5%以上の吸光度の変化が見られなくなった時間を飽和時間として定義すると、75℃の場合では15分間で飽和している。ここで、各温度において15分間レーザー照射を行うことにより得られたコロイドの吸収スペクトルを図7に比較して示した。この図から明らかなように、より高い温度においてレーザーを照射した方が、高い吸光度(濃度)が得られることから、ナノ粒子の製造効率が向上したことが分かる。また、より高温な懸濁液にレーザーを照射した方が、長波長側(700nm)の吸光度が低下していることから、得られたナノ粒子の粒径は小さいことが示唆される。
【0059】
次に、各温度において、吸光度がほぼ飽和するまでレーザー照射を行ったキナクリドンナノ粒子の粒径を粒度分布計によって測定を行った。粒度分布計による測定結果を表1に示す。表1より、より高温な懸濁液にレーザーを照射した方が、より小さな粒径のナノ粒子が製造できることが分かった。
【0060】
【表1】
【0061】
次に、各温度において作製した分散液の安定性を、レーザー照射後及び室温暗所下で一ヶ月間静置した分散液それぞれについて、吸収スペクトルの経時変化により評価した。その結果を図8(a)〜(c)に示す。(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合、(c)は75℃の場合を示している。
図8(a)〜(c)において、太線がレーザー照射直後の吸収スペクトル、細線がレーザー照射後1ヵ月後の吸収スペクトルを示している。この図から明らかなように、高温度条件により製造された分散液が、最も優れた分散安定性を有することが分かる。
【0062】
(実施例3)
実施例3として、有機化合物として炭素材料であるフラーレンを選択した以外は、実施例1とほぼ同じ条件で有機化合物ナノ粒子分散液を製造した。
C60粒子の懸濁液に対して、レーザー照射装置からNd3+:YAGレーザーの第二高調波(波長532nm、パルス半値幅7ns、繰り返し周波数10Hz)を励起光強度50mJ/cm2で照射したところ、水中でC60粒子が粉砕され、黄色の透明なコロイド溶液(ナノ粒子分散液)が得られた。
【0063】
次に、加熱装置(4)により温度を25,50及び75℃に設定した懸濁液に対して、上記レーザー照射を行った。このとき、作製したコロイドの吸収スペクトルに対する照射時間依存性の実験結果を図9(a)〜(c)に示す。(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合、(c)は75℃の場合を示している。
各温度条件下において20分間レーザー照射を行うことにより得られたC60ナノ粒子水分散液の吸収スペクトルを図10に比較して示した。この図から明らかなように、より高温な懸濁液にレーザー照射した方が、高い吸光度(濃度)が得られることから、ナノ粒子の製造効率が向上したことが分かった。またより高温な懸濁液にレーザー照射した方が、長波長側(700nm)の吸光度が低下していることから、得られるナノ粒子の粒径は小さいことが示唆される。
【0064】
次に、各温度において、20分間レーザー照射を行ったC60ナノ粒子の粒径を粒度分布計によって測定を行った。そのときの粒度分布計による測定結果を表2に示した。表2より、より高温な懸濁液にレーザーを照射した方が、より小さな粒径のナノ粒子が作製できることが分かった。
【0065】
【表2】
【0066】
次に、各温度下で製造した分散液の安定性を、レーザー照射後及び室温暗所下で一ヶ月間静置した分散液それぞれについて、吸収スペクトルの経時変化により評価し、その結果を図11(a)〜(c)に示す。(a)は25℃の場合、(b)は50℃の場合、(c)は75℃の場合を示している。
図11(a)〜(c)において、太線がレーザー照射直後の吸収スペクトル、細線がレーザー照射後1ヵ月後の吸収スペクトルを示している。この図から明らかなように、高温度条件により製造された分散液が、最も優れた分散安定性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、例えば薬効成分、顔料、炭素材料等の有機化合物のナノ粒子分散液を製造するために利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 容器
2 攪拌装置
3 レーザー
4 加熱装置
6 供給部
7 移送手段
8 流通部
9 回収部
10 懸濁液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物を貧溶媒中に分散させて懸濁液とし、該懸濁液を加熱しながらもしくは加熱した後、該懸濁液に対してレーザーを照射することにより、懸濁液中の有機化合物を粉砕してナノ粒子化することを特徴とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記懸濁液に対してレーザーを照射した後、該懸濁液を冷却することを特徴とする請求項1記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記有機化合物が医薬品の薬効成分であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記有機化合物が顔料であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
前記有機化合物が炭素材料であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
有機化合物が貧溶媒中に分散された懸濁液を収容するための容器と、
前記容器内に収容された懸濁液に対してレーザーを照射するレーザー照射装置と、
前記容器内に収容された懸濁液を加熱するための加熱装置と、
を備えていることを特徴とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置。
【請求項7】
前記容器を冷却するための冷却装置を備えていることを特徴とする請求項6記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置。
【請求項8】
有機化合物が貧溶媒中に分散された懸濁液を収容して供給するための供給部と、
前記供給部内に収容された懸濁液を加熱するための加熱装置と、
前記加熱装置により加熱された前記供給部内の懸濁液を移送する移送手段と、
前記移送手段により移送されてきた懸濁液を流通させるための流通部と、
前記流通部内を流通する懸濁液に対してレーザーを照射するレーザー照射装置と、
前記レーザーが照射された後の懸濁液を回収する回収部と、
を備えていることを特徴とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置。
【請求項9】
前記回収部を冷却するための冷却装置を備えていることを特徴とする請求項8記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置。
【請求項1】
有機化合物を貧溶媒中に分散させて懸濁液とし、該懸濁液を加熱しながらもしくは加熱した後、該懸濁液に対してレーザーを照射することにより、懸濁液中の有機化合物を粉砕してナノ粒子化することを特徴とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記懸濁液に対してレーザーを照射した後、該懸濁液を冷却することを特徴とする請求項1記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記有機化合物が医薬品の薬効成分であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記有機化合物が顔料であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
前記有機化合物が炭素材料であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
有機化合物が貧溶媒中に分散された懸濁液を収容するための容器と、
前記容器内に収容された懸濁液に対してレーザーを照射するレーザー照射装置と、
前記容器内に収容された懸濁液を加熱するための加熱装置と、
を備えていることを特徴とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置。
【請求項7】
前記容器を冷却するための冷却装置を備えていることを特徴とする請求項6記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置。
【請求項8】
有機化合物が貧溶媒中に分散された懸濁液を収容して供給するための供給部と、
前記供給部内に収容された懸濁液を加熱するための加熱装置と、
前記加熱装置により加熱された前記供給部内の懸濁液を移送する移送手段と、
前記移送手段により移送されてきた懸濁液を流通させるための流通部と、
前記流通部内を流通する懸濁液に対してレーザーを照射するレーザー照射装置と、
前記レーザーが照射された後の懸濁液を回収する回収部と、
を備えていることを特徴とする有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置。
【請求項9】
前記回収部を冷却するための冷却装置を備えていることを特徴とする請求項8記載の有機化合物ナノ粒子分散液の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−234218(P2010−234218A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83725(P2009−83725)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(507044022)株式会社ABsize (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(507044022)株式会社ABsize (8)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]