説明

有機半導体素子及びその製造方法

【課題】より信頼性の高い有機半導体素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】連続的な第一の電極と、多数の孔が形成された絶縁層及び第二の電極と、連続的な有機半導体層と、連続的な第三の電極と、を有する有機半導体素子とする。また、基板に連続的な第一の電極を形成する工程、第一の電極上に荷電微粒子を分散付着させる工程、第一の電極及び前記分散付着した荷電微粒子上に絶縁層及び第二の電極を形成する工程、荷電微粒子を除去する工程、連続した有機半導体層を形成する工程、有機半導体層上に第三の電極を形成する工程、を有する有機半導体素子の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体素子は、有機物からなる半導体層を有するものであって、無機物からなる半導体層を有する無機半導体素子に比べフレキシブルといった利点がある。公知の有機半導体素子の製造方法として、例えば下記特許文献1乃至4、並びに、非特許文献1及び2に、負に帯電したガラス基板と、正に帯電したポリスチレン微粒子を用い、これらの間に発生する静電引力を利用し、ガラス基板上にポリスチレン微粒子を分散させて蒸着マスクとして用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−079352号公報
【特許文献2】特開2007−087974号公報
【特許文献3】特開2007−087976号公報
【特許文献4】米国特許第7385231号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K.Fujimoto,Takaaki Hiroi,Masakazu Nakamura、“Organic Static Induction Transistors with Nano−Hole Arrays Fabricated by Colloidal Lithography”、e−Journal of Surface Science and Nanotechnology、Vol.3(2005)、327−331
【非特許文献2】K. Fujimoto, T. Hiroi, K. Kudo, and M. Nakamura、“High-Performance, Vertical-Type Organic Transistors with Built-In Nanotriode Arrays”、Advanced Materials、Vol.19(2007)、525-530
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の技術は、負に帯電したガラス基板あるいは負に帯電した膜をあらかじめ形成したその他の基板と、正に帯電したポリスチレン微粒子の静電引力を利用する方法であり、負に帯電可能な基板特有な製造方法となっている。
【0006】
また、上記非特許文献1および2に記載の技術により形成される有機半導体素子は、下部の電極にまで貫通孔が形成されてしまう構造となっており、トランジスタに流れる電流が集中する箇所が発生し、その箇所における高い電流密度のために半導体材料の劣化が促進されてしまうといった課題がある。
【0007】
以上、本発明は、上記課題を鑑み、より信頼性の高い有機半導体素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の通り、非特許文献1に例示されるような製造方法により製造される有機半導体素子について鋭意検討を行なっていたところ、この有機半導体素子は、下部の電極にまで貫通孔が形成されてしまう構造となっているため、トランジスタに流れる電流が集中する箇所が発生し、その箇所における高い電流密度のために材料の劣化が促進されてしまうことを発見した。
【0009】
また、上記非特許文献1に例示されるような製造方法は、負に帯電可能なガラス基板特有な製造方法であって、他の層構造への適用は容易ではないと考えられるところ、荷電微粒子と金属膜との間に働く鏡像力を利用することで、下部電極を形成した後であっても荷電微粒子を均一に分散させることができる点を発見し、本件発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、上記課題を解決する本発明の一観点に係る有機半導体素子は、連続的な第一の電極と、多数の孔が形成された絶縁層及び第二の電極と、連続的な有機半導体層と、連続的な第三の電極と、を有する。
【0011】
また、本発明の他の一観点に係る有機半導体素子の製造方法は、基板に連続的な第一の電極を形成する工程、第一の電極上に荷電微粒子を分散付着させる工程、第一の電極及び前記分散付着した荷電微粒子上に絶縁層及び第二の電極を形成する工程、荷電微粒子を除去する工程、連続した第二の有機半導体層を形成する工程、第二の有機半導体層上に第三の電極を形成する工程、を有する。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明により、より信頼性の高い有機半導体素子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る有機半導体素子の層構造の概略を示す図である。
【図2】公知例に係る有機半導体素子の層構造の概略を示す図である。
【図3】公知例に係る有機半導体素子のデバイスシミュレーションを示す図である。
【図4】実施形態に係る有機半導体素子の製造方法のフローを示す図である。
【図5】実施形態に係る有機半導体素子の製造方法の工程を示す図である。
【図6】実施形態に係る有機半導体素子の製造方法の工程を示す図である。
【図7】実施形態に係る有機半導体素子の製造方法の工程を示す図である。
【図8】実施形態に係る有機半導体素子の製造方法の工程を示す図である。
【図9】実施形態に係る有機半導体素子の製造方法の工程を示す図である。
【図10】実施形態に係る有機半導体素子の製造方法の工程を示す図である。
【図11】実施例に係る有機半導体素子の写真図である。
【図12】実施例に係る有機半導体素子の劣化前の伝達特性を示す図である。
【図13】実施例に係る有機半導体素子の通電劣化測定の結果を示す図である。
【図14】図13における開始直後の通電劣化測定の結果を示す図である。
【図15】実施例に係る有機半導体素子の劣化前後のオン電流の比較を示す図である。
【図16】実施例に係る有機半導体素子の効果の原理のイメージ図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態、実施例の記載にのみ限定されるものではない。
【0015】
(実施形態1)
(有機半導体素子の構造)
図1は、本実施形態に係る有機半導体素子の断面構造概略図である。本図で示すように、本実施形態に係る有機半導体素子(以下「本トランジスタ」という。)1は、連続的な第一の電極2と、多数の孔が形成された絶縁層3及び第二の電極4と、連続的な有機半導体層5と、連続的なキャリア注入層6と、連続的な第三の電極7と、を有する。
【0016】
本実施形態に係る連続的な第一の電極2は、基板8上に形成され、導電性を有するものであり、限定されるわけではないが、金属膜であることが好ましい。金属膜を採用する場合において、金属としては、特に限定されるわけではないが、後述の製造方法の観点及び導電性の観点から、金、白金、銀、パラジウム等の貴金属であることはより好ましい。なお、第一の電極2は、有機半導体素子の一部として機能する場合、限定されるわけではないが、一般にドレイン電極として機能するものである。
【0017】
なお、本実施形態における「連続的」とは、平面方向において所定の面積を連続的に接続されて覆っているという意味であり、より具体的には、絶縁層3や第二の電極4とは異なり多数の孔が形成されたものではない、という意味で用いられる。なお平面方向において連続的であればよく、凹凸を有しているとしても、多数の孔が形成されていなければこの「連続的」に含まれる。なおこの「連続的」の意味は、後述の「有機半導体層」、「キャリア移動層」、「第三の電極」において用いる場合に同じである。
【0018】
また、本実施形態に係る第一の電極は、十分な導電性を確保できる限りにおいて限定されるわけではないが、5nm以上1μm以下の範囲にあることが好ましく、より好ましくは20nm以上200nm以下の範囲である。
【0019】
なお、本実施形態において基板8は、上記の本有機半導体素子の各層を安定的に保持することができる限りにおいて限定されず、例えばガラス、プラスチック、絶縁皮膜を有するシリコン、同金属を用いることができる。
【0020】
本実施形態に係る絶縁層3は、第一の電極2と第二の電極4とを電気的に分離するため、絶縁性を有する材料からなるそうであって、多数の孔が形成されている。絶縁層3の材質としては、絶縁性を有するものであれば限定されないが、例えばSiO、Al、Ta等の無機絶縁物、パリレン、シリコン等の有機絶縁物を例示することができる。
【0021】
本実施形態に係る絶縁層3の厚さは、絶縁層の絶縁性能及び第一の電極と第二の電極の距離の希望により適宜調整可能であり限定されるわけではないが、例えばSiO等の金属酸化物化を絶縁層に用いた場合、50nm以上1μm以下の範囲にあることが好ましい。ただし、後の荷電微粒子を除去する工程を円滑に行うためには、絶縁層3と第二の電極4との膜厚の合計が、用いる荷電微粒子の半径程度を上限とすることが好ましい。
【0022】
また本実施形態に係る絶縁層3の多数の孔の径は、限定されるわけではないが、10nm以上1μm以下の範囲にあることが好ましい。10nm以上とすることで孔を十分な量の有機半導体材料分子で埋めることができるといった利点があり、1μm以下とすることで荷電微粒子の付着工程が水流などの影響を受けにくいといった利点がある。
【0023】
また本実施形態における多数の孔の数は、限定されるわけではないが、1cm当たり1×10個以上1×10個以下であることが好ましい。
【0024】
本実施形態における孔の数および一つの孔の面積の積で表される開口面積としては適宜調整可能であり、限定されるわけではないが、開口面積が素子の面積に占める割合が0.1以上0.6以下の範囲にあることが好ましい。0.1以上とすることで十分な出力電流が得られるといった利点があり、0.6以下とすることによって第二の電極4の横方向への導電性を十分確保できるといった利点がある。
【0025】
また本実施形態に係る第二の電極4は、多数の孔が形成されており、この孔は、上記絶縁層3とほぼ同じ位置、大きさとなっている。このような形状とすることで、第一の電極と第三の電極とを十分に対向させることができ、電流密度の過度の集中を抑え、有機半導体層の劣化を抑え、信頼性の高い有機半導体素子とすることができる。第二の電極は、スイッチング素子として機能する場合、一般にゲート電極として機能するものであって、材質としては導電性を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えばアルミニウム、チタン、クロム及びこれら混合したものを例示することができる。
【0026】
また本実施形態に係る第二の電極の厚さとしては、導電性等により適宜調整可能であるため限定されるわけではないが、5nm以上1μm以下の範囲にあることが好ましくより好ましくは20nm以上50nm以下の範囲であることが好ましい。ただし、後の家電微粒子を除去する工程を円滑に行うためには、絶縁層3と第二の電極4との幕圧の合計が、用いる家電微粒子の半径程度を上限としておくことが好ましい。
【0027】
本実施形態に係る連続的な有機半導体層5は、半導体を示す有機層であり、限定されるわけではないが、BTBT、DNTT、CuPc、ペンタセン、あるいはそれらの誘導体を例示することができる。
【0028】
また本実施形態に係る有機半導体層5の厚さとしては、材料の特性及び所望の電気特性により適宜調整可能であるため限定されるわけではないが、10nm以上5μm以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは100nm以上500nm以下の範囲である。
【0029】
本実施形態に係る連続的なキャリア注入層6は、第三の電極7から有機半導体層5へのキャリア注入を容易にするものであって、この限りにおいて限定されるわけではなないが例えば有機半導体層7に用いたものと同じ材料に対してC6036、FTCNQ等のアクセプタ分子を添加したものを例示することができる。
【0030】
また本実施形態に係るキャリア注入層6の厚さとしては、材料の特性及び所望の電気特性により適宜調整可能であるため限定されるわけではないが、0.1nm以上1μm以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは50nm以上150nm以下の範囲である。
【0031】
本実施形態に係る連続的な第三の電極7は、キャリア注入層6上に形成され、導電性を有するものであり、限定されるわけではないが、金属膜であることが好ましい。金属膜を採用する場合において、金属としては、特に限定されるわけではないが、金、銀、アルミニウムであることが好ましい。なお、第三の電極7は、有機半導体素子の一部として機能する場合、限定されるわけではないが、一般にソース電極として機能するものである。
【0032】
次に、本実施形態に係る有機半導体素子の動作及びその効果について説明する。本実施形態に係る有機半導体素子は、例えば上記の構成において、第二の電極4をゲート電極とし、第一の電極2をドレイン電極、第三の電極7をソース電極とし、スイッチング素子として機能させることができる。即ち、ソース及びドレインの間に電圧を印加する一方、ゲート電極に印加する電圧を制御することで、有機半導体層の導通、非導通を制御することができる。ここで図2に、公知の構造と、本実施形態に係る構造の比較を示しておく。公知の構造では、第一の電極が連続的ではなく、孔が形成されてしまっているため、絶縁層3と有機半導体層5の界面に電流が集中してしまい、有機半導体層の劣化が促進されてしまうが、本実施形態に係る半導体素子は、連続した第一の電極を有しているため、この電流の集中を防ぎ、有機半導体層の劣化を防止することができる。しかも、後述の製造方法によって明らかとなるように、第一の電極を形成した後に荷電微粒子を分散させるため、第一の電極の厚さと荷電微粒子の厚さとの関係を考慮する必要がなくなり、第一の電極の厚さを厚くすることが可能となり、電極自体の抵抗も下げ、更に素子の劣化防止に寄与することとなる。なお図3に、公知の構造(孔が形成された第一の電極を有する有機半導体素子)の電流の集中具合を示すデバイスシミュレーションの結果を示しておく。
【0033】
以上、本実施形態に係る有機半導体素子は、上記のとおり、絶縁層及び第二の電極に多数の孔が形成されている一方、板状で連続した第一の電極と第三の電極を有しているため、公知の構造に比べ、第一の電極と第三の電極が十分に対向することができる。この結果、上記のとおり、電流密度の過度の集中を抑え、材料の劣化を防ぎ、長期に信頼性の高い有機半導体素子となる。
【0034】
(有機半導体素子の製造方法)
ここで、本トランジスタの製造方法について説明する。図4は、本トランジスタの製造方法のフローを示す図であって、本図で示されるように、本製造方法は、(1)基板に連続的な第一の電極を形成する工程、(2)第一の電極上に荷電微粒子を分散付着させる工程、(3)第一の電極及び分散付着した荷電微粒子上に絶縁層及び第二の電極を形成する工程、(4)荷電微粒子を除去する工程、(5)連続した有機半導体層を形成する工程、(6)連続したキャリア注入層を形成する工程、(7)キャリア注入層上に第三の電極を形成する工程、を有する。
【0035】
まず、(1)基板に連続的な第一の電極を形成する。この工程は限定されず様々な方法によって実現することができるが、例えばスパッタリング、真空蒸着、化学気相成長を例示することができ特に限定されない。この工程後の基板の概略断面を図5に示す。
【0036】
次に、(2)第一の電極上に荷電微粒子を分散付着させる。ここで、「荷電微粒子」とは、帯電した微粒子をいい、微粒子の材質としては特に制限されないが、例えばポリスチレン、シリカ、若しくはスチレン・ジビニルベンゼン、又はこれら少なくともいずれかを混合したものを例示することができる。この工程後の基板の概略断面を図6に示す。
【0037】
また本工程において、荷電微粒子の大きさとしては、製造する有機半導体における絶縁層等の孔の径に応じて適宜調整可能であるが、例えば10nm以上1μm以下の範囲とすることで、上記絶縁層の孔の径を実現することができる。
【0038】
また本工程において、荷電微粒子を分散させる量としては、所望の孔の数により1cm当たり1×10個以上1×10個以下とすることが好ましい。
【0039】
また本工程において、孔の数および一つの孔の面積の積で表される開口面積としては適宜調整可能であり、限定されるわけではないが、開口面積が素子の面積に占める割合が0.1以上0.6以下の範囲にあることが好ましい。0.1以上とすることで十分な出力電流が得られるといった利点があり、0.6以下とすることによって第二の電極4の横方向への導電性を十分確保できるといった利点がある。
【0040】
本実施形態では、金属膜上に荷電微粒子を付着させる際に、荷電粒子どうしに働く斥力である静電気力、ならびに、荷電粒子と基板との間に働く引力である鏡像力を利用することで、金属膜上に均一に荷電微粒子を分散させることができる。なおここで「鏡像力」とは、金属表面に荷電粒子が近づいた場合に、荷電粒子により金属表面に誘起された反対極性の電荷によって荷電粒子に働く引力をいう。
【0041】
荷電粒子において静電気力および鏡像力を調節する方法としては、微粒子のコアシェル化、化学修飾、プラズマ処理、界面活性剤の添加、置換基(例えば、カルボキシル基、トリアルキルアンモニウム基、アミノ基、スルホン酸基)の付加などが好ましい。
【0042】
なお本工程においては、十分な鏡像力をえられるよう、表面に酸化被膜が形成されにくい貴金属を用いることが好ましく、この観点から、電極材料としては金、白金、パラジウム、イリジウムを含むことが好ましい。また、金属膜表面に汚染物質が付着していると十分な鏡像力を得ることができないため、この汚染物質を除去するために例えばUV照射によるオゾン処理を行なっておくことが好ましい。
【0043】
また本工程においては、貴金属の代わりに卑金属を用い、その酸化被膜を除去しつつ汚染物質の付着を防ぐ洗浄工程を用いることもできる。その場合、例えばオゾン処理に加えてフッ化水素酸などによる酸化膜除去工程を加えておくことが好ましい。
【0044】
また次に、(3)第一の電極及び分散付着した荷電微粒子上に絶縁層及び第二の電極を形成する。第二の電極の形成方法としては、限定されず、例えば上記第一の電極の形成方法と同じ方法を採用することができる。この工程後の基板の概略断面を図7に示す。
【0045】
そして、本実施形態ではさらに、(4)荷電微粒子を除去する。荷電粒子を除去することで、絶縁層及び第二の電極層に多数の孔を形成することができる。また本実施形態では、第一の電極を形成した後に荷電微粒子を配置しているため、連続した第一の電極には孔が形成されず、連続した状態となっている。この工程後の基板の概略断面を図8に示す。なお荷電微粒子の除去については、除去できる限りにおいて限定されないが、例えば接着性を有するテープ等を荷電微粒子に付着させ、テープごと除去する等の手法が適用できる。
【0046】
そして、本実施形態ではさらに、(5)連続した有機半導体層を形成する。有機半導体層の形成方法としては特に限定されず、例えば真空蒸着を用いることができる。この工程後の基板の概略断面を図9に示す。
【0047】
また本実施形態ではさらに(6)連続したキャリア注入層を形成する。キャリア注入層の形成方法としても特に限定されず、例えば真空蒸着を用いることができる。この工程後の基板の概略断面を図10に示す。
【0048】
また(7)第二の有機半導体層上に第三の電極を形成する工程、を有する。この第三の電極の形成としても特に限定されず、上記第一の電極、第二の電極と同様の方法を採用することができる。この結果、上記図1に示す有機半導体素子を得ることができる。
【0049】
以上、これらの工程を経ることで、本実施形態に係る有機半導体素子を製造することができる。特に、本実施形態に係る有機半導体素子は、第一の基板を形成した後に荷電微粒子を用い、この荷電微粒子の分散においては、荷電粒子どうしに働く斥力および荷電粒子と基板の間に働く鏡像力による引力を用いて分散付着させることで、均一かつ制御された密度での付着を可能とする。この結果、電流密度の過度の集中を回避し、有機材料の劣化の促進を防ぎ、長期に信頼性の高い有機半導体素子を製造することができる。
【実施例】
【0050】
ここで、上記実施形態に係る有機半導体素子及び有機半導体素子の製造方法の効果につき、実際に作成し、その効果を確認した。以下に示す。
【0051】
(実施例1)
まずガラス基板に、連続的な第一の電極として50nmのPt/Cr層を形成した。ついでこのPr/Crの上に正に荷電させた粒径約250nmのポリスチレンからなるビーズを分散付着させた。そして更にこの上から絶縁層としてSiOを95nm、第二の電極としてアルミニウムを20nm積層させた。そしてその後、接着テープでポリスチレン及びこの上部に積層したSiO及びアルミニウムを除去した。そして更に有機半導体層としてDBPh−BTBTの層を250nm、キャリア注入層としてDBPh−BTBT:C6036=9:1の層を100nm積層し、その上に第三の電極として金を50nm積層させた。なお、第一の電極、第二の電極及び第三の電極はそれぞれ外部配線に電気的に接続され、通電可能とした。この作製した素子の写真図を図11に示しておく。なお本実施例では、同一基板に二つ同じ素子を作成し、一方は通電劣化測定を行うために用い、他方は通電劣化を行わせず経時変化のみを測定するために用いることとした。
【0052】
(比較例)
また比較例として、Pr/Cr層とポリスチレンからなるビーズの手順を逆にした素子も形成した。具体的には、まずガラス基板に、正に荷電させた粒径約250nmのポリスチレンからなるビーズを分散付着させ、ついで第一の電極として20nmのPt/Cr層を形成した。そして更にこの上から絶縁層としてSiOを95nm、第二の電極としてアルミニウムを20nm積層させた。そしてその後、接着テープでポリスチレン及びこの上部に積層したSiO及びアルミニウムを除去した。そして更に有機半導体層としてDBPh−BTBTの層を250nm、キャリア注入層としてDBPh−BTBT:C6036=9:1の層を100nm積層し、その上に第三の電極として金を50nm積層させた。なお、第一の電極、第二の電極及び第三の電極は上記同様それぞれ外部配線に電気的に接続され、通電可能とした。なお本比較例では、上記実施例の素子と同様、同一基板に二つ同じ素子を作成し、一方は通電劣化測定を行うために用い、他方は通電劣化を行わせず経時変化のみを測定するために用いることとした。
【0053】
上記作製した素子に対し、それぞれソースドレイン間の電圧VDSを−3Vに固定し、ゲート電極Vをオン状態で−2V、オフ状態で4Vとし、オンとオフとを57秒間隔で切り替え、8時間測定した。この測定による伝達特性の結果(劣化前)を図12に、オン電流の時間変化(通電劣化測定の結果)を図13に示す。この結果、本実施例に係る素子では比較例に係る素子に比べオン電流が増加していることが確認できるとともに、時間の経過にともなうオン電流の電流変化が比較例に係る素子に比べ減少を抑えることができ、通電による素子特性の劣化が抑制されていることが分かった。また、上記図13で示した結果に対し、測定開始時点の電流値を基準として規格化し、120分までの変化の拡大図を図14に示す。この結果、比較例の素子では測定開始直後に電流の増加が確認でき、その後急激な減少が確認された。一方、本実施例に係る素子では急激な温度の増加は無く、電流の急激な変化も確認されなかった。この結果については推論の域を出ないところはあるが、一般に有機半導体の移動度は温度上昇に伴い上昇するものであるため、この比較例の素子の電流の増加は通電による温度上昇があったと考えることができ、この温度上昇によって素子の劣化が促進してしまったものと考えることができる。一方、本実施例に係る素子では電流経路を拡大することができ、温度上昇を抑えた結果、急激な劣化を抑えることができていると考えられる。また、通電及び経時劣化及び経時劣化のみの場合の、劣化前後における電流変化を図15に示しておく。この結果、比較例に係る素子は通電劣化による電流の大きな減少があることを確認した。一方で、本実施形態に係る素子では、通電による劣化は大幅に抑えられていることが確認できた。この結果も、電流経路拡大により電流密度が減少したため、通電による有機膜の劣化が抑えられたと考えることができる。特に本実施例に係る素子は、経時劣化の場合と通電及び経時劣化において劣化具合がほぼ同じであったため、通電による劣化がほとんど生じていないことが確認できる。本実施例の結果に基づき、考えられる比較例と本実施例の主な電流経路のイメージ図を図16に示しておく。以上、本実施例により、本発明の効果について確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、有機半導体素子及びその製造方法として産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0055】
1…有機半導体素子、2…第一の電極、3…絶縁層、4…第二の電極、5…有機半導体層、6…キャリア注入層、7…第三の電極、8…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的な第一の電極と、
多数の孔が形成された絶縁層及び第二の電極と、
連続的な有機半導体層と、
連続的な第三の電極と、を有する有機半導体素子。
【請求項2】
前記有機半導体層と、前記連続的な第三の電極の間に、連続的なキャリア注入層を有する請求項1記載の有機半導体素子。
【請求項3】
基板に連続的な第一の電極を形成する工程、
前記第一の電極上に荷電微粒子を分散付着させる工程、
前記第一の電極及び前記分散付着した前記荷電微粒子上に絶縁層及び第二の電極を形成する工程、
前記荷電微粒子を除去する工程、
連続した有機半導体層を形成する工程、
前記有機半導体層上に第三の電極を形成する工程、を有する有機半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記連続した有機半導体層を形成する工程の後、前記有機半導体層上に第三の電極を形成する工程の前に、
連続的なキャリア注入層を有する請求項3記載の有機半導体素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−54479(P2012−54479A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197192(P2010−197192)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 応用物理学会、第57回応用物理学関連連合講演会講演予稿集、平成年22年3月3日発行、及び、応用物理学会、第57回応用物理学関連連合講演会、2010年3月19日発表
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】