説明

有機半導体高分子および有機電界効果トランジスタ

【課題】キャリア移動度が高く、トランジスタ特性に優れる有機電界効果トランジスタを提供する。
【解決手段】本発明の有機電界効果トランジスタ1は、ゲート電極10と、ゲート電極10の一方の面に設けられたゲート絶縁層30と、ゲート絶縁層30の、ゲート電極10と反対側に設けられた活性層30と、活性層30を介して互いに接続されたソース電極40およびドレイン電極50とを備え、活性層30が、特定のテトラチアフルバレン含有高分子からなる有機半導体高分子を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラチアフルバレン骨格を主鎖に有する有機半導体高分子および有機半導体高分子を用いた有機電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
電界効果トランジスタは、スイッチング素子や増幅素子として用いることができ、しかも、その製造や集積化が容易であることから、現在のエレクトロニクスにおいて重要な素子である。
近年、トランジスタの活性層に有機低分子あるいは有機高分子等の有機半導体材料を使用する有機電界効果トランジスタの研究が広く行われている。有機電界効果トランジスタの利点としては、水素や炭素等の軽元素からなるため、軽量化できることが挙げられる。また、有機溶媒に可溶になるものが多いため、従来のシリコン半導体の製造で適用される真空プロセスを必要とせず、スピンコートやインクジェット技術等の溶液プロセスを適用でき、低コストで大面積のトランジスタを容易に製造できることが挙げられる。さらには、柔軟性の高いトランジスタを製造することも可能になる。
【0003】
有機電界効果トランジスタの特性は、活性層を構成する有機半導体材料、成膜条件、ソース電極・ドレイン電極の材料およびその構造、ゲート絶縁層の種類・膜厚等の条件によって影響を受けることが知られている。その中でも、特に、活性層を構成する有機半導体材料は重要であるため、より優れた特性を示す材料の探索が進められている。
通常、有機半導体材料で構成された活性層におけるキャリアの輸送は、π−π相互作用により弱く結合した分子間のホッピング伝導に支配される。そのため、有機半導体材料のトランジスタ特性を向上させるためには、分子配向性を高めて配向の乱雑さに由来するキャリアトラップの影響を小さくすることが重要である。
【0004】
有機半導体材料として代表的なものとしては、構造式(3)で表されるポリチオフェンや、構造式(4)で表されるオリゴチオフェンなどが挙げられる。これらポリチオフェンやオリゴチオフェンでは、側鎖に長鎖アルキル基を導入することによって、溶媒に対する溶解度を向上させており、成膜性およびキャリア移動度を高めている(具体的には、キャリア移動度:0.1cm−1−1)。
しかしながら、チオフェンユニットは、硫黄原子を1つしか含まないため、分子間のπ−π相互作用が充分に強いとは言えなかった。
【0005】
【化1】

【0006】
【化2】

【0007】
分子間のπ−π相互作用を向上させる方法としては、例えば、非特許文献1に、構造式(5)で表された化合物を用いる方法が開示されている。構造式(5)で表された化合物は、ポリチオフェンのモノマーユニットに一つおきにチオフェンを縮合させた構造を有し、硫黄原子が増加しているため、π−π相互作用の向上を図ることができる。構造式(5)で表された化合物を用いた活性層は良結晶性であり、この活性層を用いた有機電界効果トランジスタのキャリア移動度は、ポリチオフェンを用いたものより高くなっていた(具体的には、キャリア移動度:0.2〜0.6cm−1−1)。
しかしながら、チオフェンの縮合量が多くなるにつれて、溶解度が低下するため、成膜性が低下するという問題を有している。
【0008】
【化3】

【0009】
また、分子間のπ−π相互作用を向上させる方法として、主鎖骨格に含まれる硫黄原子の数を増やす方法が考えられ、非特許文献2には、構造式(6)で表されるような、主鎖骨格にテトラチアフルバレンユニットを含む高分子が開示されている。
テトラチアフルバレン分子は電子供与性であり、様々な電子受容性物質と電荷移動錯体を形成し、有機半導体から有機金属・超伝導体までを形成できることが知られている。従来のポリチオフェンでは、1モノマーユニットあたり硫黄原子を2つしか含まなかったが、構造式(6)で表される化合物では、1モノマーユニットあたり硫黄原子を4つ(置換基の硫黄原子まで含めると6つ)含み、分子間のπ−π相互作用の大幅な増加を図ることができる。しかしながら、非特許文献2には、テトラチアフルバレン含有高分子を、有機電界効果トランジスタに使用することが記載されていない。
【0010】
【化4】

【非特許文献1】I.McCullochら著、「Nature Materials」、第5巻、2006年4月、p.328−333
【非特許文献2】E.Wangら著、「Journal of Pplymer Science:PartA:Polymer Chemistry」、第44巻、第44号、2006年、p.2707−2713
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、分子配向しやすく、成膜性に優れ、しかも分子間のπ−π相互作用が高い新規な有機半導体高分子を提供することを目的とする。また、キャリア移動度が高く、トランジスタ特性に優れる有機電界効果トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の構成を有する。
[1] 下記構造式(1)で表される化合物の1種以上からなることを特徴とする有機半導体高分子。
(構造式(1)中、R、Rは、各々独立して、水素原子、アルキル基、フェニル基のいずれかであり、R,Rは、各々独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、X,Xは、各々独立して、SCOCH,COOC,CNであり、nは2以上の整数である。)
【0013】
【化5】

【0014】
[2] ゲート電極と、該ゲート電極の一方の面に設けられたゲート絶縁層と、該ゲート絶縁層の、ゲート電極と反対側に設けられた活性層と、該活性層を介して互いに接続されたソース電極およびドレイン電極とを備え、
前記活性層が、請求項1に記載の有機半導体高分子または下記構造式(2)で表される化合物の1種以上からなる有機半導体高分子を含有することを特徴とする有機電界効果トランジスタ。
(構造式(2)中、X,Xは、各々独立して、SCOCH,COOC,CNであり、nは2以上の整数である。)
【0015】
【化6】

【0016】
[3] 前記ソース電極および前記ドレイン電極は、前記ゲート絶縁層の、ゲート電極と反対側の面に、互いに離間するように設けられ、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間に、前記活性層の少なくとも一部が配置されていることを特徴とする[2]に記載の有機電界効果トランジスタ。
[4] 前記ソース電極および前記ドレイン電極は、前記活性層の、ゲート絶縁層と反対側の面に、互いに離間するように設けられていることを特徴とする[2]に記載の有機電界効果トランジスタ。
【発明の効果】
【0017】
本発明の有機半導体高分子は、成膜性に優れ、しかも分子間のπ−π相互作用が高い。
本発明の有機電界効果トランジスタは、キャリア移動度が高く、トランジスタ特性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<有機半導体高分子>
本発明の有機半導体高分子は、上記構造式(1)で表される化合物(以下、化合物1という。)の1種または2種以上からなるものである。
ここで、構造式(1)におけるR、Rは、各々独立して、水素原子、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等)、フェニル基のいずれかである。製造上の観点からは、RとRが同一であることが好ましい。
,Rは、各々独立して、水素原子、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基、ヘキシロキシ基、オクチロキシ基等)である。製造上の観点からは、RとRが同一であることが好ましい。
,Xは、各々独立して、SCOCH,COOC,CNである。製造上の観点からは、XとXが同一であることが好ましい。
nは2以上である。nが1であると、分子配向性が低くなることがある。好ましいnは5〜100である。nが5以上であれば、分子配向性をより高くでき、100以下であれば、溶媒に対する充分な溶解性を確保でき、しかも製造も容易になる。
【0019】
上記有機半導体高分子は、例えば、図1に示す反応により製造できる。
この反応では、まず、化合物2のテトラチアフルバレンに、ブチルリチウム等の水素引き抜き剤の存在下、ジヨードエタン等のヨウ素化剤を反応させて、化合物3を得る。
次いで、ジクロロジ(トリフェニルホスフィン)パラジウム等の有機パラジウム錯体触媒の存在下、化合物3に、パラトリメチルシリルジエチニルベンゼンを反応させて、化合物4を得る。
次いで、化合物4に、水酸化ナトリウム等の脱シリル化剤を反応させて、化合物5を得る。
次いで、化合物5に、ジクロロジ(トリフェニルホスフィン)パラジウム等の有機パラジウム錯体触媒の存在下、化合物6を反応させた後、化合物7を反応させて、化合物1を得る。
【0020】
以上説明した有機半導体高分子に含まれる化合物1は、剛直で分子配向性が高く、配向の乱雑さに由来するキャリアトラップの影響を小さくできる上に、1モノマーユニットあたり硫黄原子を4つ含むため、分子間のπ−π相互作用が高い。また、上記有機半導体高分子は溶媒に溶解させることも可能であるため、成膜性に優れる。
【0021】
<有機電界効果トランジスタ>
(第1の実施形態例)
本発明の有機電界効果トランジスタの第1の実施形態例について説明する。
図2に、本実施形態例の有機電界効果トランジスタを示す。この有機電界効果トランジスタ1は、ゲート電極10と、ゲート電極10の一方の面に設けられたゲート絶縁層20と、ゲート絶縁層20の、ゲート電極10と反対側に設けられた活性層30と、活性層30を介して互いに接続されたソース電極40およびドレイン電極50とを備える。
ソース電極40およびドレイン電極50は、ゲート絶縁層20の、ゲート電極10と反対側の面に、互いに離間するように設けられている。
活性層30は、ソース電極40とドレイン電極50との間および上に配置されている。
【0022】
ゲート電極10としては、例えば、シリコン、窒化物半導体、化合物半導体(例えば、ガリウムヒ素、インジウムリン等)、ダイヤモンドなどからなるウェハを用いることができる。中でも、高ドープの低抵抗シリコンウェハが好ましい。また、シリコンウェハとしては、結晶面のミラー指数が(100)、(111)のものや、さらに高指数のものを用いてもよい。
また、ゲート電極10として、例えば、金、クロム、アルミニウム等の金属を用いてもよい。
【0023】
ゲート絶縁層20としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の層が挙げられる。
ゲート絶縁層20の形成方法としては、例えば、スパッタ法や蒸着法により、酸化ケイ素や酸化アルミニウムを積層する方法が挙げられる。
また、ゲート電極10がシリコンウェハからなる場合には、シリコンウェハ表面を熱酸化して、酸化ケイ素の層を形成させる方法が挙げられる。
ゲート絶縁層20が酸化ケイ素からなる場合には、酸化ケイ素が親水性であるため、疎水性の化合物1との密着性が低くなることがある。そのため、酸化ケイ素のゲート絶縁層20の表面を、ヘキサメチルジシラザン、オクタデシルトリクロロシラン等のシランカップリング剤で疎水化処理することが好ましい。疎水化処理によって、ゲート絶縁層20と活性層30との密着性を向上させることができる。
【0024】
本実施形態例における活性層30は、上記化合物1の有機半導体高分子を含有する層である。
活性層30の形成方法としては、例えば、キャスト法、スピンコート法、ディップコート法などの溶液プロセスが挙げられる。
【0025】
ソース電極40およびドレイン電極50を構成する材料としては、例えば、金、白金、銀、アルミニウム、カルシウム、チタン等を用いることができ、また、ニッケル等の磁性材料を用いることもできる。ソース電極40とドレイン電極50とは、電極の仕事関数に差を生じさせるために、互いに異なるものを用いることが好ましい。
ソース電極40およびドレイン電極50の構造は、平板状の対向電極であってもよいし、櫛型状の対向電極であってもよい。ソース電極40とドレイン電極50との距離は、通常、100nm〜数十μmの範囲で適宜選択される。
ソース電極40およびドレイン電極50の形成方法としては、例えば、フォトリソグラフィ法、電子ビームリソグラフィ法を適用することができる。また、導電性の有機分子を塗工する方法を適用することもできる。
【0026】
上記有機電界効果トランジスタ1では、活性層30に含まれる化合物1の有機半導体高分子が剛直で分子配向性が高い上に、1モノマーユニットあたり硫黄原子を4つ含むため、分子間のπ−π相互作用が高い。そのため、活性層30におけるキャリア移動度が高くなり、トランジスタ特性に優れる。
【0027】
(第2の実施形態例)
本発明の有機電界効果トランジスタの第2の実施形態例について説明する。
図3に、本実施形態例の有機電界効果トランジスタを示す。この有機電界効果トランジスタ2は、ゲート電極10と、ゲート電極10の一方の面に設けられたゲート絶縁層20と、ゲート絶縁層20の、ゲート電極10と反対側の面の全面に設けられた活性層30と、活性層30の、ゲート絶縁層20と反対側の面に、互いに離間するように設けられたソース電極40およびドレイン電極50とを備える。
本実施形態例における活性層30は、上記化合物1の有機半導体高分子を含有する層である。また、本実施形態例におけるゲート電極10、ゲート絶縁層20、ソース電極40およびドレイン電極50は、第1の実施形態例におけるゲート電極10、ゲート絶縁層20、ソース電極40およびドレイン電極50と同様である。
【0028】
上記有機電界効果トランジスタ2でも、活性層30に含まれる化合物1の有機半導体高分子が剛直で分子配向性が高い上に、1モノマーユニットあたり硫黄原子を4つ含むため、分子間のπ−π相互作用が高い。そのため、活性層30におけるキャリア移動度が高くなり、トランジスタ特性に優れる。
また、この有機電界効果トランジスタ2では、ソース電極40およびドレイン電極50と活性層30との電気的な接触性が向上するため、トランジスタ特性をより高くできる。
【0029】
(第3の実施形態例)
本発明の有機電界効果トランジスタの第3の実施形態例について説明する。
本実施形態例の有機電界コンデンサの構造は、第1の実施形態例と同様である。すなわち、本実施形態例の有機電界効果トランジスタ3は、図2に示すように、ゲート電極10と、ゲート電極10の一方の面に設けられたゲート絶縁層20と、ゲート絶縁層20の、ゲート電極10と反対側に設けられた活性層30と、活性層30を介して互いに接続されたソース電極40およびドレイン電極50とを備える。
ソース電極40およびドレイン電極50は、ゲート絶縁層20の、ゲート電極10と反対側の面に、互いに離間するように設けられている。
活性層30は、ソース電極40とドレイン電極50との間および上に配置されている。
本実施形態例におけるゲート電極10、ゲート絶縁層20、ソース電極40およびドレイン電極50は、第1の実施形態例におけるゲート電極10、ゲート絶縁層20、ソース電極40およびドレイン電極50と同様である。
【0030】
本実施形態例における活性層30は、上記構造式(2)で表される化合物(以下、化合物8という。)の1種以上からなる有機半導体高分子を含有する層である。
ここで、構造式(2)におけるX,Xは、各々独立して、SCOCH,COOC,CNである。製造上の観点からは、XとXが同一であることが好ましい。
nは2以上である。nが1であると、分子配向性が低くなることがある。好ましいnは5〜100である。nが5以上であれば、分子配向性をより高くでき、100以下であれば、溶媒に対する充分な溶解性を確保でき、しかも製造も容易になる。
なお、化合物8は、例えば、非特許文献2に記載された方法を適用することができる。
【0031】
上記有機電界効果トランジスタ3では、活性層30に含まれる化合物8の有機半導体高分子が剛直で分子配向性が高い上に、1モノマーユニットあたり硫黄原子を6つ含むため、分子間のπ−π相互作用が高い。そのため、活性層30におけるキャリア移動度が高くなるため、トランジスタ特性に優れる。
【0032】
(第4の実施形態例)
本発明の有機電界効果トランジスタの第4の実施形態例について説明する。
本実施形態例の有機電界コンデンサの構造は、第2の実施形態例と同様である。すなわち、本実施形態例の有機電界効果トランジスタ4は、図3に示すように、ゲート電極10と、ゲート電極10の一方の面に設けられたゲート絶縁層20と、ゲート絶縁層20の、ゲート電極10と反対側の面の全面に設けられた活性層30と、活性層30の、ゲート絶縁層20と反対側の面に、互いに離間するように設けられたソース電極40およびドレイン電極50とを備える。
本実施形態例におけるゲート電極10、ゲート絶縁層20、ソース電極40およびドレイン電極50は、第1の実施形態例におけるゲート電極10、ゲート絶縁層20、ソース電極40およびドレイン電極50と同様である。
また、本実施形態例における活性層30は、第3の実施形態例の活性層30と同様である。
【0033】
上記有機電界効果トランジスタ4でも、活性層30に含まれる化合物8の有機半導体高分子が剛直で分子配向性が高い上に、1モノマーユニットあたり硫黄原子を6つ含むため、分子間のπ−π相互作用が高い。そのため、活性層30におけるキャリア移動度が高くなるため、トランジスタ特性に優れる。
また、この有機電界効果トランジスタ4では、ソース電極40およびドレイン電極50と活性層30との電気的な接触性が向上するため、トランジスタ特性をより高くできる。
【0034】
なお、本発明の有機電界効果トランジスタは、上記実施形態例に限定されない。
例えば、第1の実施形態例および第3の実施形態例では、活性層30が、ソース電極40およびドレイン電極50の上に配置されていたが、ソース電極40およびドレイン電極50の間のみに配置されていてもよい。
また、第2の実施形態例および第4の実施形態例では、活性層30が、ゲート絶縁層20の、ゲート電極10と反対側の面の全面に設けられていたが、ゲート絶縁層20の、ゲート電極10と反対側の面の一部に設けられていてもよい。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
本実施例は、構造式(7)で表される化合物(化合物9)を製造する方法の例である。本実施例では、図4に示す反応スキームに従って化合物9を製造した。
【0036】
【化7】

【0037】
[化合物10の合成]
ジフェニルテトラチアフルバレン3.0gをジエチルエーテル100mLに溶かし、窒素ガス雰囲気下で−78℃に冷却した。次いで、ブチルリチウムの2.5Mヘキサン溶液8mLを滴下し、2時間攪拌した後、ジヨードエタン4.8gを添加し、室温に戻した。これにより得られた反応液から、エバポレータを用いて溶媒を留去し、得られた残留物をヘキサンに溶解した。そのヘキサン溶液をシリカゲルカラムに通した後に、ヘキサンを除去して、赤色固体の化合物10(2.5g)を得た。
【0038】
[化合物12の合成]
1.3gの化合物10と、0.6gのパラトリメチルシリルジエチニルベンゼン(化合物11)と、0.07gのジクロロジ(トリフェニルホスフィン)パラジウム、0.02gのヨウ化銅をテトラヒドロフラン30mLに溶解させた。これにより得たテトラヒドロフラン溶液にトリエチルアミン15mLを添加し、70℃に加熱し、一晩攪拌して、反応させた。
これにより得られた反応液から、エバポレータを用いて溶媒を留去し、得られた残留物をシリカゲルカラムに通し、精製して、赤色固体の化合物12(0.6g)を得た。
【0039】
[化合物13の合成]
化合物12(0.8g)の30mLのテトラヒドロフラン溶液に、0.1M水酸化ナトリウム水溶液1mLを添加し、6時間激しく攪拌して、反応させた。これにより得た反応液から、エバポレータを用いて溶媒を留去して、体積を当初の1/3程度にまで減らした後、水を100mL添加した。これにより生成した沈殿物をろ別し、水で充分に洗浄した。その洗浄した沈殿物を塩化メチレンに再溶解し、シリカゲルカラムに通し、精製して、赤色固体の0.6gの化合物13を得た。
【0040】
[化合物9の合成]
200mgの化合物13、150mgの2,5−ジヨード−p−ジヘキシロキシベンゼン(化合物14)、ジクロロジ(トリフェニルホスフィン)パラジウム20mg、5mgのヨウ化銅をテトラヒドロフラン30mLに溶解させた。さらに、トリエチルアミン15mLを添加し、60℃に加熱し、4日間攪拌して反応させた。これにより得られた反応液に、図4に示す化合物15を添加し、さらに2日間攪拌して反応させた。
これにより生成した沈殿物をろ別して除去し、エバポレータを用いて溶媒を留去した。得られた残留物をテトラヒドロフラン/アセトンで再沈殿させ、赤色固体の化合物9(220mg)を得た。
【0041】
(実施例2)
本実施例は、図2に示す有機電界効果トランジスタ1を製造する例である。
本実施例では、厚さ300nmの酸化膜を有する直径4インチのシリコン(100)ウェハを用いた。このウェハの酸化膜の部分がゲート絶縁層20になり、未酸化の部分がゲート電極10になる。
前記シリコンウェハの酸化膜の表面に、フォトリソグラフィにより、櫛型の電極構造を有するソース電極40およびドレイン電極50を形成した。ソース電極40およびドレイン電極50は、シリコン酸化膜側に設けられた厚さ15nmのチタンの層と、そのチタンの層の上に設けられた厚さ35nmの金の層とを有するものとした。また、櫛型電極間の距離は1μmとした。
次いで、得られたソース電極40およびドレイン電極50を、まず純水で15分間、次にアセトンで15分間超音波洗浄した。次いで、ピラニア溶液(濃硫酸:30質量%過酸化水素水=4:1)中に10分間浸漬し、さらに純水で洗浄し、真空乾燥させた。
次いで、シリコン酸化膜からなるゲート絶縁層20の表面を疎水性にするために、露出しているゲート絶縁層20の表面を、ヘキサメチルジシラザンの蒸気に10分間曝し、エタノール・アセトンで洗浄し、真空乾燥させて、シランカップリング処理した。
次いで、構造式(2)で表される化合物(XはSCOCH)の0.5質量%トルエン溶液を調製し、その溶液を、露出しているゲート絶縁層20、ソース電極40およびドレイン電極50の上に充分な量滴下した。次いで、500回転/分で5秒間、2000回転/分で30秒間スピンコートした後、真空乾燥させて、厚さ約500nmの活性層30を形成した。
このようにして、有機電界効果トランジスタ1を得た。
【0042】
得られた有機電界効果トランジスタのトランジスタ特性を評価した。
図5に、ゲート電圧を−10V,−20V,−30V,−40V,−60V,−80V,−100Vにした際の、ソース−ドレイン電流(Isd)とソース−ドレイン電圧(Vsd)との関係を示す。図5より、活性層30に含まれる半導体有機高分子はp型半導体として機能していることが判明した。
図6に、ソース−ドレイン電圧が−80Vの際の、ソース−ドレイン電流(Isd)とゲート電圧(V)との関係を示す。図6より、オン・オフ比が約10であることが判明した。また、図6におけるVが−80V付近の傾きから求めたキャリア移動度は2.1×10−5cm/(V・s)であった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の有機半導体高分子を製造する方法の一例を示す図である。
【図2】本発明の有機電界効果トランジスタの第1の実施形態例および第3の実施形態例を示す断面図である。
【図3】本発明の有機電界効果トランジスタの第2の実施形態例および第4の実施形態例を示す断面図である。
【図4】実施例1での有機半導体高分子を製造する方法を示す図である。
【図5】実施例2での、ソース−ドレイン電流(Isd)とソース−ドレイン電圧(Vsd)との関係を示すグラフである。
【図6】実施例2での、ソース−ドレイン電圧が−80Vの際の、ソース−ドレイン電流(Isd)とゲート電圧(V)との関係を示す。
【符号の説明】
【0044】
1,2,3,4 有機電界効果トランジスタ
10 ゲート電極
20 ゲート絶縁層
30 活性層
40 ソース電極
50 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表される化合物の1種以上からなることを特徴とする有機半導体高分子。
【化1】

(構造式(1)中、R、Rは、各々独立して、水素原子、アルキル基、フェニル基のいずれかであり、R,Rは、各々独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、X,Xは、各々独立して、SCOCH,COOC,CNであり、nは2以上の整数である。)
【請求項2】
ゲート電極と、該ゲート電極の一方の面に設けられたゲート絶縁層と、該ゲート絶縁層の、ゲート電極と反対側に設けられた活性層と、該活性層を介して互いに接続されたソース電極およびドレイン電極とを備え、
前記活性層が、請求項1に記載の有機半導体高分子または下記構造式(2)で表される化合物の1種以上からなる有機半導体高分子を含有することを特徴とする有機電界効果トランジスタ。
【化2】

(構造式(2)中、X,Xは、各々独立して、SCOCH,COOC,CNであり、nは2以上の整数である。)
【請求項3】
前記ソース電極および前記ドレイン電極は、前記ゲート絶縁層の、ゲート電極と反対側の面に、互いに離間するように設けられ、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間に、前記活性層の少なくとも一部が配置されていることを特徴とする請求項2に記載の有機電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記ソース電極および前記ドレイン電極は、前記活性層の、ゲート絶縁層と反対側の面に、互いに離間するように設けられていることを特徴とする請求項2に記載の有機電界効果トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−80694(P2010−80694A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247778(P2008−247778)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】