説明

有機性排水の処理方法

【課題】分離膜が設置された生物処理槽の槽内水の水質が膜ろ過性能を悪化させる方向に変化したとき、特別な測定機器を導入せずに正確に把握し、膜面の閉塞を防止することができる有機性排水の処理方法を提供する。
【解決手段】生物処理槽の槽内水を槽外に設置した分離膜6で膜ろ過する有機性排水の処理方法において、槽内水の溶解性有機炭素濃度(DOC)あるいは溶解性化学的酸素要求量(S-COD)を測定し、測定値が所定値を越えて上昇したときに凝集剤を添加する。DOCは、ろ紙で槽内水中のSSを除去したうえ、TOC計で測定できる。S-CODは、ろ紙で槽内水中のSSを除去したうえ、COD計で測定できる。なお、溶解性有機炭素濃度あるいは溶解性化学的酸素要求量の測定値の上昇に応じて、凝集剤の添加量を増加することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物処理槽の外部に分離膜を設置して槽内水をろ過する、膜分離活性汚泥法による有機性排水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水、返流水、工場排水、ゴミ浸出水、屎尿、農業廃水、畜産排水、養殖排水などの各種の有機性排水の処理方法として、生物処理槽を用いた活性汚泥処理が広く普及している。従来、生物処理槽の槽内水は重力沈殿池において活性汚泥と上澄水とに固液分離され、上澄水を処理水として取り出していた。しかし重力沈殿池に広大な敷地面積を必要とし、また沈降分離に長い時間を要するため、最近では重力沈殿池に代えて分離膜を使用する膜分離活性汚泥法が普及しつつある。
【0003】
膜分離活性汚泥法は、分離膜を生物処理槽の外部に設置して槽内水を循環させながら固液分離を行わせる槽外設置型と、分離膜を生物処理槽の内部に浸漬し、槽内水を直接ろ過する槽内設置型とに大別できる。これら何れの場合にも、槽内水の水質悪化が生ずると膜面の閉塞が急速に進行し、運転不能に至ることがある。
【0004】
そこで例えば特許文献1には、槽内設置型の膜分離活性汚泥法において、槽内水の水温と気温との差が4℃以上に拡大したときには閉塞の危険性が高まると判断し、凝集剤を添加することにより膜面の閉塞を防止する方法が開示されている。しかしこの方法は気温が次第に下降する秋季には適するが、その他の季節には適用しがたいうえ、対象が槽内設置型に限定されているという問題があった。
【0005】
なおこの特許文献1には、槽内水のろ紙によるろ過量を測定することや、糖濃度を測定することにより閉塞の危険性を判断することも記載されている。しかし、ろ紙ろ過量の測定は手作業により行わねばならないので、下水処理場等の作業員の負担が増加するという問題がある。一方、糖濃度の測定は自動的に行うことが可能であるが、通常の排水処理における水質分析項目ではなく、しかも測定装置が高価であるため、下水処理場等に設置することは容易ではない。
【特許文献1】特開2006‐55766号公報(請求項1、2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した従来の問題点を解決して、分離膜が設置された生物処理槽の槽内水が、原水水質・水温等の様々な要因によって膜ろ過性能を悪化させる方向に変化したとき、この水質変化を特別な測定機器を導入せずに正確に把握し、膜面の閉塞を防止することができる有機性排水の処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、生物処理槽の槽内水を槽外に設置した分離膜で膜ろ過する有機性排水の処理方法において、槽内水の溶解性有機炭素濃度あるいは溶解性化学的酸素要求量を測定し、測定値が所定値を越えて上昇したときに凝集剤を添加することを特徴とするものである。なお、溶解性化学的酸素量(S-COD)の測定法には、酸化剤として過マンガン酸カリウムを用いる測定法と、重クロム酸カリウムを用いる測定法があるが、本発明では、いずれの測定法を用いても構わないし、いずれの測定法に準拠した方法を用いても構わない。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、通常の排水処理における水質分析項目である槽内水の溶解性有機炭素濃度(DOC)あるいは溶解性化学的酸素要求量(S-COD)を測定し、測定値が所定値を越えて上昇したときに凝集剤を添加することによって、膜面の閉塞を防止する。このDOCあるいはS-CODは槽内水の膜ろ過性能を正確に示し、また既設の測定機器により自動測定が容易であり、測定値が所定値を越えて上昇したときに凝集剤を添加することによって、膜閉塞の原因となる微粒子を凝集させ、膜面の閉塞を事前に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の実施形態を示す。
図1は有機性排水である下水の脱窒・脱リンを行う処理設備の一例を示す図であり、1は嫌気槽、2は第1無酸素槽、3は第1好気槽、4は第2無酸素槽、5は第2好気槽である。このような槽構成による処理法では原水中のリンは微生物中に過剰摂取されて脱リンが進行する。また無酸素槽と好気槽との組み合せを2段に配置したことによって、脱窒効果をより高めている。第1好気槽3と第2好気槽5は活性汚泥処理が行われる生物処理槽であり、この実施形態では後段の第2好気槽5の外部に分離膜6が設置されており、第2好気槽5の槽内水を循環経路7により分離膜6に循環させてクロスフロー方式により膜ろ過し、処理水として取り出している。
【0010】
なお、本発明は図1に示した槽構成による処理法に限定されるものではなく、標準活性汚泥法、硝化液循環法、嫌気好気法(AO法)、嫌気無酸素好気法(A2O法)やそれらの多段法など通常の膜分離活性汚泥法に広く適用可能である。また原水は下水に限定されるものではなく、返流水、工場排水、ゴミ浸出水、屎尿、農業廃水、畜産排水、養殖排水などの各種の有機性排水を原水とすることができる。
【0011】
分離膜6としては、膜孔径が0.01〜5μmであるセラミック製または高分子製のMF膜またはUF膜を用いることができる。膜形状はモノリス膜、チューブラー膜、平膜、中空糸膜など任意であり、加圧方式は外圧式、内圧式の何れでもよい。この実施形態では、断面が丸型の流路を備えた出願人会社製のセラミック製モノリス膜が用いられている。分離膜6に循環される第2好気槽5の槽内水のMLSSは3000〜20000mg/Lの範囲が適当であり、この範囲を下回ると生物処理能力が不十分となり、この範囲を上回ると膜ろ過に適さなくなる。
【0012】
本実施形態では、最終段の生物処理槽である第2好気槽5の槽内水の溶解性有機炭素濃度(DOC)あるいは溶解性化学的酸素要求量(S-COD)を、測定器8により測定する。測定は自動的に行うことが好ましいが、手動測定であっても差し支えない。本発明で測定される溶解性有機炭素濃度は全有機炭素濃度(TOC)からSS中の有機炭素分を除いた値である。また、溶解性化学的酸素要求量は、化学的酸素要求量(COD)から同じくSS中の化学的酸素要求量を除いた値である。TOCやCODは、通常の排水処理の水質分析項目であり、一般の下水処理場において日常的に測定されている。
【0013】
この実施形態では、ろ紙により槽内水中のSSを除去した後、TOC計を用いてDOCの測定を行うか、あるいはCOD計を用いてS−CODの測定を行い、その測定値が所定値を越えて上昇したときに凝集剤添加装置9から凝集剤を添加する。凝集剤の種類は特に限定されるものではなく、PAC(ポリ塩化アルミニウム)や塩化第2鉄のような無機凝集剤であっても、高分子凝集剤であってもよい。
【0014】
具体的には、第2好気槽5の槽内水のDOCが通常10〜20mg/L程度の時は膜ろ過性能が低下しなかったが30mg/Lを越えると膜ろ過性能が低下し、分離膜6の膜面の閉塞が進行するため、上記の所定値を10mg/L〜30mg/Lの範囲内に設定し、測定値がこれを越えたときに凝集剤を添加することが好ましい。また測定値の上昇に応じて、凝集剤の添加量を次第に増加することもできる。なお、ここで述べたDOC濃度は処理対象原水によって異なる。
【0015】
また、S−COD(Mn)を指標として用いる際は、第2好気槽5の槽内水のS−COD(Mn)が通常10〜30mg/L程度の時は膜ろ過性能が低下しなかったが35mg/Lを越えると膜ろ過性能が低下し、分離膜6の膜面の閉塞が進行するため、上記の所定値を10mg/L〜35mg/Lの範囲内に設定し、測定値がこれを越えたときに凝集剤を添加することが好ましい。また測定値の上昇に応じて、凝集剤の添加量を次第に増加することもできる。なお、ここで述べたS−COD(Mn)濃度は処理対象原水・処理対象フローによって異なる。また、S−COD(Cr)を指標にした際も、濃度が異なる。
【0016】
DOCやS−CODが膜ろ過性能に影響することは従来知られていない。本発明ではDOCか、あるいはS−CODを膜ろ過性能の指標として用い、所定値を越えて上昇したときに凝集剤を添加することにより、目詰まりし易い0.01〜1μmの微粒を凝集させて膜面の閉塞を防止する。
【実施例】
【0017】
図1に示した槽構成の実験装置において下水を処理し、第2好気槽の槽内水のDOCと分離膜による膜ろ過性能との関係を確認した。DOCの測定は、第2好気槽の槽内水中のSSをろ紙により除去したうえ、株式会社島津製作所製の「TOC-5000」型のTOC計を用いて行った。DOCが10mg/L前後の場合には、膜ろ過は順調に行うことができた。しかし原水水質・水温等の様々な要因によって、徐々に槽内水の膜ろ過性能が悪化した際、これにつれて第2好気槽の槽内水のDOC測定値が40mg/Lを越え、分離膜の膜透過流束が3m/日から2m/日にまで大きく低下した。そこで第2好気槽内に凝集剤を流入水量あたり1〜3mg/Lの割合で添加したところ、槽内水のDOCが20〜30mg/Lにまで低下し、分離膜の膜透過流束は2.8m/日にまで回復した。
【0018】
図1に示した槽構成の実験装置において下水を処理し、第2好気槽の槽内水のS−COD(Mn)と分離膜による膜ろ過性能との関係を確認した。S−COD(Mn)の測定は、第2好気槽の槽内水中のSSをろ紙により除去したうえ、HACH社製の多項目迅速水質分析計DR/850型を用いて行った。S−COD(Mn)が15mg/L前後の場合には、膜ろ過は順調に行うことができた。しかし、原水水質・水温等の様々な要因によって、徐々に槽内水の膜ろ過性能が悪化した際、これにつれて第2好気槽の槽内水のS−COD(Mn)測定値が40mg/Lを越え、分離膜の膜透過流束が3m/日から2m/日にまで大きく低下した。そこで第2好気槽内に凝集剤を流入水量あたり1〜3mg/Lの割合で添加したところ、槽内水のS−COD(Mn)が20〜30mg/Lにまで低下し、分離膜の膜透過流束は2.8m/日にまで回復した。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0020】
1 嫌気槽
2 第1無酸素槽
3 第1好気槽
4 第2無酸素槽
5 第2好気槽
6 分離膜
7 循環経路
8 DOCまたはS−CODの測定器
9 凝集剤添加装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物処理槽の槽内水を槽外に設置した分離膜で膜ろ過する有機性排水の処理方法において、槽内水の溶解性有機炭素濃度(DOC)あるいは溶解性化学的酸素要求量(S-COD)を測定し、測定値が所定値を越えて上昇したときに凝集剤を添加することを特徴とする有機性排水の処理方法。
【請求項2】
溶解性有機炭素濃度あるいは溶解性化学的酸素要求量の測定値の上昇に応じて、凝集剤の添加量を増加することを特徴とする請求項1記載の有機性排水の処理方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−12362(P2010−12362A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274123(P2006−274123)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】