説明

有機溶剤含有量が低減化された官能基含有重合体の製造法

【課題】官能基含有重合体を、黄変や高分子量化、熱劣化を惹き起こさずに、比較的小規模の装置により短時間でかつ多量に連続して処理する方法を提供する。
【解決手段】1つのベント口を有しかつ内部が減圧および/または加熱されている混練機の供給口から、揮発成分を含んでいてもよい官能基含有重合体(A)と該重合体(A)を溶解している有機溶剤(B)とを含む官能基含有重合体の有機溶剤溶液(C)を供給し、混練中に揮散する有機溶剤(B)および揮発成分をベント口から排出しつつ官能基含有重合体を溶融状態または固体状態で取出し口から回収することを特徴とする揮発分含有量が低減化された官能基含有重合体の製造法。この製造法は、特に粉体塗料用含フッ素共重合体の製造に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は付着性があり熱劣化しやすい官能基含有重合体の有機溶剤溶液から、官能基含有重合体自体の変性を極力抑えて溶剤などの揮発成分を効率よく放出させることにより、有機溶剤や揮発成分の含有量が低減化された溶融状態または固体状態の官能基含有重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
官能基含有重合体は、含まれる官能基の性質や機能(たとえば硬化性や相溶性、密着性など)を利用し、種々の機能性重合体として塗料材料、成形材料などの広い分野で使用されている。
【0003】
そのうちたとえば粉体塗料は、塗装時に有機溶剤を大気中に揮散することのない、環境負荷低減型塗料として金属塗装全般に幅広く使用されている。特に耐候性が要求される、アルミサッシ、門扉などの建築資材用に代表される屋外建築用途への使用が増えてきている。
【0004】
なかでも、フッ素樹脂は、耐候性、耐熱性、耐薬品性などに優れていることから、粉体状含フッ素共重合体からなるフッ素系粉体塗料は、耐候性に非常に優れるという特徴がある。
【0005】
これらの粉体塗料用含フッ素共重合体を得るには、一般に懸濁重合、乳化重合、溶液重合などの重合法が用いられているが、これらの重合法、特に溶液重合法により得られる重合生成物中には、未反応モノマーや反応副生成物などの揮発成分のほか、重合用の有機溶媒が含まれている。
【0006】
そこで、これらの重合法で最終的に目的の粉体状の含フッ素共重合体を得るには、含フッ素共重合体を含フッ素共重合体の有機溶剤溶液から分離・回収する必要がある。
【0007】
ところで粉体塗料用の含フッ素共重合体には、
(1)室温での貯蔵安定性を向上させるため、Tgが高い方が好ましい、
(2)室温粉砕性を向上させるため、比較的低分子量であることが好ましい、
(3)塗膜フロー性を向上させるため、比較的低分子量であることが好ましい、
(4)忠実な色彩を実現させるため、比較的着色がないことが好ましい
という特性が、他の官能基含有重合体への要求特性に加えて要求されており、溶剤を除去する際に長時間加熱することにより、含フッ素共重合体が黄変、高分子量化しやすいという問題がある。
【0008】
この問題を避けるため、通常は低温で溶剤を除去する方法がとられているが、この方法による場合には、溶剤の除去に非常に長い時間を要し、エネルギーコストが高く、生産性が著しく低下するという問題がある。
【0009】
粉体塗料用の含フッ素共重合体から有機溶剤や揮発成分を除去する具体的方法として、遠心薄膜蒸発法、多段式縦型薄膜形成法(特許文献1)、ベルト式真空乾燥法、噴霧乾燥法(特許文献2)などが提案されている。
【0010】
しかし、含フッ素共重合体溶液を薄膜の形態として処理する方法(遠心薄膜蒸発法、多段式縦型薄膜形成法、ベルト式真空乾燥法)では、設備が大型になる、処理量に制限がある、滞留時間が長くなる、液の流れがわるくなる箇所が生じやすいといった課題が残っており、また噴霧乾燥法では処理量に制限があり、処理速度をあげることが難しく、また粒子径および粒子形状制御が困難であるという課題がある。
【0011】
ところで官能基を含まない樹脂の溶液重合生成溶液については、有機溶剤や揮発成分を分離・回収すると共に溶融状態または固体状態で目的とする樹脂を得る方法として、従来より押出機を利用することも多い(特許文献3〜8)。
【0012】
しかし、粉体塗料用含フッ素樹脂に代表される官能基含有重合体の溶剤除去に押出機を用いようとすると、上記の要求特性の観点から、重合体がネジ山の隙間に入ってせん断を受け自己発熱が多いなどの点で不利であり、したがって上記のような特殊な除去法が採用されているのである。
【0013】
このように官能基含有重合体の溶剤除去では官能基を含まない重合体などで採用されている押出機による乾燥法は採用されておらず、提案すらなされていない。わずかに、特許文献1の多段式縦型薄膜形成法において、薄膜形成により溶剤が除去された溶融状態の含フッ素樹脂を排出するための移送手段として縦型の排出用スクリュー(高粘度用薄膜蒸発器や2軸押出機)が開示されているだけである(特許文献1の[0015]および図1参照)。
【0014】
【特許文献1】特開平8−118357号公報
【特許文献2】特開2000−239395号公報
【特許文献3】特開昭63−284203号公報
【特許文献4】特開平9−38969号公報
【特許文献5】特開平9−124728号公報
【特許文献6】特開平10−1511号公報
【特許文献7】特開平10−306107号公報
【特許文献8】特開2001−146503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、上記のように厳しい特性が要求される粉体塗料用含フッ素共重合体を黄変や高分子量化を惹き起こさずに、比較的小規模の装置により短時間でかつ多量に処理する方法を見出し、さらに研究を重ね、官能基含有重合体の処理にも適用できる方法を見出し、本発明を完成した。
【0016】
本発明は、粉体塗料用含フッ素共重合体のみならず官能基含有重合体を黄変や高分子量化を惹き起こさずに、比較的小規模の装置により短時間でかつ多量に処理する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち本発明は、ベント口を有しかつ内部が減圧および/または加熱されている混練機の供給口から、揮発成分を含んでいてもよい官能基含有重合体(A)と該重合体(A)を溶解している有機溶剤(B)とを含む官能基含有重合体の有機溶剤溶液(C)を供給し、混練中に揮散する有機溶剤(B)および含んでいる場合は揮発成分をベント口から排出しつつ官能基含有重合体を溶融状態または固体状態で取出し口から回収することを特徴とする有機溶剤含有量が低減化された官能基含有重合体の製造法に関する。
【0018】
この官能基含有重合体(A)は前記の粉体塗料用含フッ素共重合体に要求される特性と共に、熱に比較的弱く、長時間または高温での加熱により熱劣化し、黄変したり高分子量化が進んだりしやすいものであるが、本発明の製造法によれば、そうした熱変性を抑えることができる。
【0019】
官能基含有重合体の有機溶剤溶液(C)としては、重合反応装置から回収した重合反応溶液が典型的なものとして例示できる。
【0020】
したがって前記有機溶剤(B)としては、芳香族炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、エステル系溶剤、シンナー類などの重合溶媒としても使用される汎用溶剤またはこれらの1種または2種以上を含む溶剤が例示できる。
【0021】
本発明は官能基含有重合体の製造法であって、単なる輸送(移送)やブレンドを目的とするものではなく、したがって有機溶剤を実質量、通常5重量%以上含んでいる官能基含有重合体溶液(C)を原料重合体溶液とするものである。そうした原料重合体溶液としては、前記のように、重合反応装置より回収した直後の溶液、またはその溶液から有機溶剤をデカンテーションや濾過などの簡易な方法で分離して得られた溶液などがあげられる。
【0022】
なお、本発明において「官能基含有重合体の有機溶剤溶液(C)」とは、有機溶剤(B)に官能基含有重合体(A)が溶解している通常の意味の溶液に限らず、官能基含有重合体(A)中に有機溶剤(B)が溶け込んでいるため、官能基含有重合体(A)のガラス転移温度Tgより低い温度で重合体(A)がその形状を保持できない状態のものも含む。また、本発明でいう有機溶剤(B)には、官能基含有重合体(A)の製造時に生成する副生成物や未反応単量体などの揮発成分は含まれない。またさらに、官能基含有重合体(A)は2種以上でもよいし、官能基含有重合体(A)以外の重合体を含んでいてもよい。
【0023】
混練機の内部の加熱温度としては40〜200℃の範囲で選択することが好ましく、また混練機の内部の絶対圧力は5〜700Torrの減圧状態に維持することが好ましい。
【0024】
混練機としては、その混練領域の上方に蒸発室を有し、該蒸発室がベント口に連通している形式のものが有機溶剤や揮発成分の揮散を容易にできる点で好ましい。
【0025】
混練機の内部は加熱だけでも減圧(常温での)だけでもよいが、加熱だけでは温度制御が難しく、したがって減圧だけまたは減圧と加熱とを同時に行うことが好ましく、特に減圧下に加熱することが、より細かな調整が可能になることから好ましい。
【0026】
混練機での加熱はケーシングに設けられたジャケットからの外部加熱だけではなく、スクリューシャフトを中空にし、この中空スクリューシャフトの中空部に熱媒体を通すことによって内部加熱することを併用すると、さらに熱効率が良く均一で短時間の加熱が達成できる。
【0027】
そうした混練機としては、2軸混練機が好ましく、なかでも、互いに反対方向に回転する2本のスクリューシャフトを有し、かつそれぞれのスクリューシャフトに設けられているスクリュー羽根が互いに噛合うように配置されている2軸混練機が好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、官能基含有重合体を、黄変や高分子量化、熱劣化を惹き起こさずに、比較的小規模の装置により短時間でかつ多量に連続して処理し製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
まず、本発明が対象とする官能基含有重合体(A)について説明する。
【0030】
官能基含有重合体(A)としては官能基含有含フッ素共重合体(A1)でも官能基含有非フッ素系共重合体(A2)でもよい。また、塗料用重合体、たとえば粉体塗料用重合体であっても、成形用重合体であってもよい。
【0031】
官能基含有重合体(A)は、上記の要求特性を満たすものであれば、樹脂性でもエラストマー性でも特に制限はない。
【0032】
官能基含有含フッ素共重合体(A1)としては、特に限定されないが、なかでも、フルオロオレフィン類と他のビニル単量体との共重合体、特に、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、アクリル類およびアリルエーテル類よりなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体単位とフルオロオレフィン単位とを含む樹脂性の含フッ素共重合体、特に粉体塗料用の官能基含有含フッ素共重合体の処理に好適である。
【0033】
フルオロオレフィン類としては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレンなどが例示でき、塗膜に要求される性状、共重合体成分との組合せに応じ適宜選択すればよい。また、これらフルオロオレフィンは1種または2種以上を使用することもできる。
【0034】
本発明に用いる含フッ素共重合体(A1)には、上記のフルオロオレフィン単位のほかに、含フッ素共重合体の融点、軟化点を下げ、塗装作業性をさらに向上せしめるため、塗膜に適当な硬度、可とう性、光沢などの物性を付与するため、さらにフルオロオレフィンと共重合可能な共単量体を共重合することができる。かかる共単量体としては、フルオロオレフィンと共重合可能な程度に活性な不飽和基を有し、塗膜の耐候性を著しく損わないものが採用される。
【0035】
そのような共単量体としては、エチレン性不飽和化合物が好適であり、たとえばエチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、吉草酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル、パラ−t−ブチル安息香酸ビニルなどのアルキルカルボン酸とビニルアルコールとのビニルエステル類;エチルアリルエーテル、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、イソブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテルなどのアリルエーテル類;エチルアリルエステル、プロピルアリルエステル、ブチルアリルエステル、イソブチルアリルエステル、シクロヘキシルアリルエステルなどのアルキルアリルエステル類;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのアルケン類;アクリル酸、メタクリル酸;エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸のエステル類;またはこれらの部分的にフッ素置換された化合物などがあげられる。かかる共単量体は1種または2種以上を選択して使用してもよい。
【0036】
これら共単量体としては、フルオロオレフィンとの共重合性の優れるビニルエーテル類、ビニルエステル類またはアリルエーテル類が好ましく採用される。また、ビニル系、アリル系のアルキルエステルあるいはアルキルエーテルを採用する場合、アルキル基は炭素数2〜10程度の直鎖状、分岐状または脂環状のアルキル基を好適に使用することができる。
【0037】
官能基含有含フッ素共重合体(A1)に限らず、官能基含有重合体(A)に導入される官能基としては、硬化性を付与する場合は、架橋性反応基があげられる。かかる架橋性反応基としては水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、メルカプト基、グリシジル基のほか、臭素、ヨウ素などの活性ハロゲン、イソシアネート基、アルコキシシリル基(−Si−O−R)などがあげられる。
【0038】
かかる架橋性反応基の共重合体への導入方法は、架橋性反応基を有する単量体を共重合せしめる方法、共重合体の一部を分解せしめる方法、共重合体の反応基に架橋性反応基を与える化合物を反応せしめる方法などの手段があげられる。
【0039】
共重合法によって好適な架橋性反応基を導入し得る共単量体としては、たとえば水酸基を有するかまたは水酸基に変換され得る基を有する単量体であって、フルオロオレフィンと共重合可能な2重結合を有する単量体があげられる。具体例としては、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテルなどのヒドロキシアルキルビニルエーテル類;ヒドロキシ酢酸ビニル、ヒドロキシプロピオイン酸ビニル、ヒドロキシ酪酸ビニル、ヒドロキシ吉草酸ビニル、ヒドロキシイソ酪酸ビニル、ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸ビニルなどのヒドロキシアルキルカルボン酸とビニルアルコールとのエステル類;ヒドロキシエチルアリルエーテル、ヒドロキシプロピルアリルエーテル、ヒドロキシブチルアリルエーテル、ヒドロキシイソブチルアリルエーテル、ヒドロキシシクロヘキシルアリルエーテルなどのヒドロキシアルキルアリルエーテル類;ヒドロキシエチルアリルエステル、ヒドロキシプロピルアリルエステル、ヒドロキシブチルアリルエステル、ヒドロキシイソブチルアリルエステル、ヒドロキシシクロヘキシルアリルエステルなどのヒドロキシアルキルアリルエステル類;2−ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類;これらの部分的にフッ素置換された化合物などの1種または2種以上があげられる。水酸基導入用の共単量体としては、これらのうちの1種または2種以上を選択して使用してもよい。
【0040】
またカルボキシル基を有する共単量体としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、コハク酸、無水コハク酸、フマル酸、無水フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸などのα,β−不飽和カルボン酸などのほか、パーフルオロブテン酸などのフッ素置換単量体などがあげられる。また、グリシジル基を有する共単量体としては、たとえばグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテルなどがあげられる。アミノ基を有する共単量体としては、たとえばアミノアルキルビニルエーテル、アミノアルキルアリルエーテルなどがあげられる。アミド基を有する共単量体としては、たとえば(メタ)アクリルアミド、メチロールアクリルアミドなどがあげられる。ニトリル基を有する共単量体としては、たとえば(メタ)アクリロニトリルなどがあげられる。イソシアネート基を有する共単量体としては、たとえばビニルイソシアネート、イソシアネートエチルアクリレートなどがあげられる。
【0041】
架橋性反応基導入用共単量体としては、フルオロオレフィンとの共重合性に優れる点から、特にビニル系またはアリル系のエーテルまたはエステル化合物を採用することが好ましい。また、共重合性では必ずしも優れていないが、フルオロオレフィンとの重合を調整することでアクリルもしくはアクリル酸エステルを採用すると耐候性の低下を防ぐ観点から好ましい。
【0042】
以上の点から、官能基含有含フッ素共重合体(A1)の例としては、たとえばテトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ヒドロキシブチルビニルエーテル/4−ターシャリブチル安息香酸ビニルエステル共重合体、クロロトリフルオロエチレン/シクロヘキシルビニルエーテル/ヒドロキシブチルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/イソブチレン/ヒドロキシブチルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/エチレン/ヒドロキシブチルビニルエーテル共重合体、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/パーフルオロブテン酸共重合体などが例示される。
【0043】
ただ、架橋性反応基導入用共単量体としてヒドロキシアルキルビニルエーテルなどを用い、室温貯蔵安定性を向上させるために立体的に大きな基を有する安息香酸ビニルエーテルやターシャリブチルビニルエーテルなどを使用した場合、得られる共重合体は粘着性となり、後処理での取り扱い性が低下することがある。
【0044】
また、粉体塗料用に好適な官能基含有含フッ素共重合体(A1)としてはフッ素含有量が10重量%以上であることが望ましい。フッ素含有量が10重量%未満の場合には充分な耐候性を有する塗膜を得ることができないことがある。
【0045】
本発明の製造法は官能基含有非フッ素系重合体(A2)にも適用できる。
【0046】
官能基含有非フッ素系重合体(A2)としては、たとえばグリシジル基、ヒドロキシル基およびカルボキシル基含有型アクリル樹脂、ヒドロキシル基およびカルボキシル基含有型ポリエステル樹脂、ビスフェノール−ジグリシジルエーテル型樹脂、エポキシ−ノボラック型樹脂などがあげられる。
【0047】
かかる官能基含有重合体(A)は有機溶剤可溶性である。有機溶剤に難溶または不溶であれば、比較的容易に有機溶媒や揮発成分を除去できるが、可溶性であるがゆえに重合体鎖中にも溶剤が親和性よく入り込んでおり、除去が困難である。
【0048】
官能基含有重合体(A)は、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などで製造されたものでもよいが、分子量の調整が容易な点、重合時に使用する安定剤や乳化剤の塗膜への影響がないなどの点から溶液重合法が好ましい。
【0049】
溶液重合は従来公知の条件と重合用の有機溶剤を使用して行われる。得られた官能基含有重合体は重合溶剤の溶液として取り出される。この重合溶剤の官能基含有重合体溶液は、本発明の原料溶液である官能基含有重合体溶液(C)の1つとなる。この官能基含有重合体溶液(C)中には重合用の有機溶剤(B)のほか、未反応単量体や反応副生成物などの揮発成分などが含まれており、黄変、高分子量化の原因になっている。
【0050】
重合用の有機溶剤(B)としては、キシレン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶剤;n−ブタノールなどのアルコール系溶剤;メチルブチルケトン、アセトンなどのケトン系溶剤;エチルセロソルブなどのグリコールエーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチルなどのエステル系溶剤や市販の各種シンナー類などの1種または2種以上が例示される
また、官能基含有重合体溶液(C)としては、他の重合法で得られた共重合体を有機溶剤(B)に溶解したものも含まれる。この態様の例としては、たとえば懸濁重合で得られた官能基含有重合体を分離回収後、他の重合体と溶液ブレンドして得られる溶液などがあげられる。
【0051】
官能基含有重合体溶液(C)中の有機溶剤(B)量は5重量%以上であれば、本発明の方法により特に効果的に有機溶剤(B)などを揮散除去できる。もちろん10重量%以上であっても効率よく除去効果が達成できる。ただし、官能基含有重合体(A)の濃度が低すぎると、処理ラインが長くなったり、エネルギーコストが高くなったり、長時間の加熱が必要になったりするので、通常、官能基含有重合体(A)の濃度は10重量%以上、好ましくは30重量%以上であり、特に50重量%以上であるときに高い除去効率が達成される。
【0052】
低重合体濃度の溶液の場合、デカンテーションや濾過などの簡単な前処理を施し、有機溶剤含有量を減らしておくことも有効である。
【0053】
本発明の方法では、かかる官能基含有重合体溶液(C)を特定の混練機に供給し、混練機内部を加熱および/または減圧することにより有機溶剤や揮発成分を揮散排出し、官能基含有重合体(A)を溶融状態または固体状態で取出し口から回収する。
【0054】
つぎに本発明の製造法で使用する混練機について、その構造および操作条件を説明する。
【0055】
混練機としては、上記の官能基含有重合体溶液から有機溶剤や揮発成分を効率よく揮散させるだけの熱または減圧、またはその両方を与えられる構造のものであれば1軸混練機でも2軸混練機でもよいが、安定して官能基含有重合体を移送させ得る点、有機溶剤が少なくなって粘度が高くなった官能基含有重合体(A)内部に残留している有機溶剤や揮発成分を外気に触れさせるための表面更新作用に優れている点から、2軸混練機が好ましい。そうした2軸混練機としては、たとえば特公平8−17932号公報、特開2000−279779号公報に記載されたスクリュー型加熱冷却装置、または(株)栗本鐵工所製のセルフクリーニング型加熱冷却装置(商品名:SCプロセッサー)が好ましく例示できる。
【0056】
以下、2軸混練機に代表させて本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる具体的な2軸混練機に限定されるものではなく、同様の作用機能を有する混練機であれば使用可能である。
【0057】
図1は本発明に使用可能な2軸混練機の概略部分切欠き側面図であり、図2は図1のX−X線断面図である。
【0058】
この2軸混練機はケーシング1の外部の一部が加熱用のジャケット2で覆われており、内部に1対の中空のスクリューシャフト3a、3bが挿通されている。これらの中空シャフトには中空のスクリュー羽根4a、4bがスパイラル状に設けられており、互いに噛合っている。スクリュー羽根の表面は軸線方向に平坦面であり、またスクリュー羽根の一部に切欠き部5a、5bと突起6a、6bが形成されており、シャフト3a、3bは互いに反対方向に回転する(図2)。ケーシング1内の上方領域には大きな蒸発室10が設けられている。
【0059】
官能基含有重合体溶液(C)は供給口11から供給され、スクリュー羽根と切欠き部と突起の相互作用で順次取出し口12側に送られ、装置外に排出される(詳しくはたとえば特公平8−17932号公報、特開2000−279779号公報参照)。この間、ジャケット2および中空シャフト3a、3b内には加熱用媒体(加熱空気や熱水など)が供給され、ケーシング内の温度を加熱維持している。
【0060】
ケーシング1の上部にはベント口13、14が配設されており、蒸発室10中に揮散してきた有機溶剤や揮発成分を随時ケーシング外に排出する。
【0061】
供給口11から装置内に入った官能基含有重合体溶液(C)は、互いに対抗して回転しているスクリュー羽根の平坦面を滑り、その一部が切欠き部とスクレーパー機能を有する突起で切り取られ、平坦面に付着しつつつぎのスクリュー羽根に送られる。このように重合体溶液(C)中の重合体(A)は常に表面が更新されつつ移送されるので、重合体内部に存在する溶剤や揮発成分も表面に出てくるため、除去効率が格段に向上する。
【0062】
ケーシング1内の温度は、処理する官能基含有重合体(A)の種類(溶液濃度、ガラス転移温度や熱に対する敏感性)、有機溶剤の種類(沸点や熱分解温度など)、蒸発室の減圧の程度により適宜選択すればよいが、通常40℃以上、好ましくは70℃以上、特に100℃以上、とりわけ120℃以上であり、上限は官能基含有重合体の熱分解温度未満、好ましくは200℃、特に150℃である。加熱温度が低くなると装置内に滞留させる時間を長くしたり、減圧の程度を高くしたりする必要がでてくる。加熱温度が高くなりすぎると黄変や高分子量化、熱劣化などが進む。120〜150℃の範囲では、高分子量化の抑制効果が特に高い。
【0063】
蒸発室10はスクリューの全長に亘って設けることが好ましい。またその容量としては、ケーシングの内容積の10容量%以上、好ましくは30容量%以上とすることが望ましい。大きければそれだけ揮散した有機溶剤などの気中濃度を飽和濃度より低く保つことができる。上限は特にないが、大きすぎると設計面で無理が生ずることがある。
【0064】
加熱はジャケットからの外部加熱単独でも可能であるが、より一層高い熱効率と蒸発(揮散)を得るためには、中空シャフト内に加熱媒体を通して内部からも加熱することが望ましい。
【0065】
有機溶剤や揮発成分の蒸発・揮散を促進するためには、加熱に加えてまたは単独でケーシング内、特に蒸発室を減圧にすればよい。減圧の程度は溶剤の種類などにより適宜選定すればよいが、通常、絶対圧力で700Torr以下、好ましくは350Torr以下、特に100Torr以下とする。下限は特に制限はないが、エネルギーコストや装置の密閉の程度によって、通常50Torr以上、好ましくは30Torr以上、特に5Torr以上の範囲で設定すればよい。なお、ベント口から排出された有機溶剤や揮発成分を冷却トラップなどの回収装置により回収することにより、外部の汚染を防ぐことができ、また各成分を分離することにより再利用も可能になる。
【0066】
本発明は熱に敏感な官能基含有重合体(A)を処理するものであるから、加熱単独処理よりも周囲温度で減圧状態とするか、減圧状態で加熱する方が望ましい。
【0067】
装置内での官能基含有重合体(A)の滞留時間(供給されてから取り出されるまでの時間)は、官能基含有重合体(A)の種類(濃度、ガラス転移温度や熱に対する敏感性)、有機溶剤の種類(沸点や熱分解温度など)、蒸発室の減圧の程度などによって調整される。滞留時間の制御は、官能基含有重合体溶液(C)の供給速度やスクリューのピッチ、さらには切欠き部の形状や大きさを変更することにより行うことができる。本発明によれば、最長でも120分間、通常60分間以下、好ましくは20分間以下の滞留時間で有機溶剤含有量が低減化された官能基含有重合体を溶融状態または固体状態にすることができる。
【0068】
本発明の製造法によれば、官能基含有重合体(A)中の有機溶剤(B)、および含まれている場合は未反応単量体、未反応単量体分解物などの揮発成分)の含有量を3重量%以下、好ましくは1重量%以下、さらには0.5重量%以下にまで低減化できる。
【0069】
また、得られる有機溶剤含有量が低減化された官能基含有重合体は、塗料用材料、成形用材料などに使用できる。塗料としても粉体塗料、溶剤型塗料、水性塗料として、成形材料としても押出し成形用、射出成形用など多くの成形用材料として使用できる。
【0070】
たとえば粉体塗料材料としては、溶融状態であれば冷却固化したのち、固体状態であればそのまま粉砕してフレーク状または粉末状とし、粉体塗料用材料として他の成分(たとえば硬化剤や顔料、フィラーなど)を配合して粉体塗料に調製することができる。
【実施例】
【0071】
つぎに実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
実施例1
以下の原料官能基含有含フッ素重合体溶液および2軸混練機を用いて有機溶剤が低減化された官能基含有含フッ素共重合体を製造した。
【0073】
(原料官能基(水酸基)含有含フッ素共重合体溶液)
重合溶剤としてアセトンを用い、テトラフルオロエチレンとエチレンとヘキサフルオロプロピレンとヒドロキシブチルビニルエーテルと4−ターシャリブチル安息香酸ビニルエステルを定法により溶液重合して製造したテトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ヒドロキシブチルビニルエーテル/4−ターシャリブチル安息香酸ビニルエステル共重合体(40/30/10/10/10モル%比)のアセトン溶液(官能基含有含フッ素共重合体濃度60重量%)。
【0074】
(2軸混練機)
図1に示す構造を基本構造とする(株)栗本鐵工所製のSCプロセッサー。
装置内真空度:0.33MPa(250Torr。絶対圧)
加熱媒体温度(ジャケットおよび中空シャフト):110℃
スクリューシャフト回転数:25rpm
原料官能基(水酸基)含有含フッ素共重合体溶液を供給口より15リットル/時間の速度で連続して2軸混練機に供給し、取出し口から溶融状態の含フッ素共重合体を回収した。含フッ素共重合体の装置内滞留時間は10分間であった。
回収した官能基含有含フッ素共重合体を室温に冷却し、固化させた後、粉砕して粉体塗料用官能基含有含フッ素共重合体を得た。
この官能基含有含フッ素共重合体は黄変せず(色数:1未満)、溶融粘度は7.1Pa・sで高分子量化は見られなかった。
またこの官能基含有含フッ素共重合体について、有機溶剤および揮発成分の含有量をつぎの方法で測定したところ、1重量%であった。
【0075】
(着色の測定)
JIS K5400−2−1
【0076】
(有機溶剤および揮発成分含有量の測定)
40mm径のアルミホイル製カップにサンプル1.000gを計り取り、送風乾燥恒温装置内に150℃で1.0時間静置する。1.0時間後、サンプルを取りだし、速やかにシリカゲル入りのデシケーターに収め、室温まで放冷後、重量減を秤量する。
【0077】
(溶融粘度の測定)
コーンプレート粘度計法による。具体的には、サンプル0.14gを計り取り、コーンプレート粘度計(東海八海(株)製)のプレートに載せ、プレート温度200℃、コーン種No.2(20P)、回転数94rpmの条件で測定する。
【0078】
実施例2
加熱媒体の温度を130℃、装置内真空度を0.067MPa(50Torr。絶対圧)に変更したほかは実施例1と同様に官能基含有含フッ素共重合体溶液から溶融状態の官能基含有含フッ素共重合体を製造し、得られた含フッ素共重合体の有機溶剤および揮発成分含有量を測定したところ、0.4重量%であった。また、黄変せず(色数:1未満)、溶融粘度は7.3Pa・sで高分子量化は進んでいなかった。
【0079】
実施例3
加熱媒体の温度を160℃に変更したほかは実施例2と同様に官能基含有含フッ素共重合体溶液から溶融状態の官能基含有含フッ素共重合体を製造し、得られた含フッ素共重合体の有機溶剤および揮発成分含有量を測定したところ、0.2重量%であった。また、黄変せず(色数:1未満)、溶融粘度は9.0Pa・sであった。
【0080】
比較例1
溶剤回収用のトラップを備えた真空乾燥機を用い、装置内真空度0.33MPa(50Torr。絶対圧)、温度130℃、乾燥時間15時間という条件下で、実施例1の官能基含有含フッ素共重合体溶液の乾燥を行った。
【0081】
回収した官能基含有含フッ素共重合体は乾燥状態が不均一で、未乾燥部分は融着し粉砕・回収不可能であった。
【0082】
得られた官能基含有含フッ素共重合体の有機溶剤および揮発成分含有量を測定した。表面部分の有機溶剤および揮発成分含有量は1.1重量%、未乾燥部分の有機溶剤および揮発成分含有量は15.4重量%であった。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に使用可能な2軸押出し機の概略部分切欠き側面図である。
【図2】図1のX−X線断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 ケーシング
2 ジャケット
3a 中空スクリューシャフト
3b 中空スクリューシャフト
4a スクリュー羽根
4b スクリュー羽根
5a 切欠き部
5b 切欠き部
6a 突起
6b 突起
10 蒸発室
11 供給口
12 取出し口
13 ベント口
14 ベント口
A 官能基含有重合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベント口を有しかつ内部が減圧および/または加熱されている混練機の供給口から、揮発成分を含んでいてもよい官能基含有重合体(A)と該重合体(A)を溶解している有機溶剤(B)とを含む官能基含有重合体の有機溶剤溶液(C)を供給し、混練中に揮散する有機溶剤(B)および含んでいる場合は揮発成分をベント口から排出しつつ官能基含有重合体を溶融状態または固体状態で取出し口から回収することを特徴とする有機溶剤含有量が低減化された官能基含有重合体の製造法。
【請求項2】
前記官能基含有重合体溶液(C)が、重合反応装置から回収した重合反応溶液である請求項1記載の製造法。
【請求項3】
前記官能基含有重合体(A)が官能基含有含フッ素共重合体(A1)である請求項1または2記載の製造法。
【請求項4】
前記官能基含有含フッ素共重合体(A1)が、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、アクリル類およびアリルエーテル類よりなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体単位とフルオロオレフィン単位とを含む樹脂性の含フッ素共重合体である請求項3記載の製造法。
【請求項5】
前記官能基含有重合体(A)が塗料用重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の製造法。
【請求項6】
前記塗料用重合体が粉体塗料用重合体である請求項5記載の製造法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−2136(P2006−2136A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−64262(P2005−64262)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】