説明

有機物の分解方法および装置

【課題】有機化合物、余剰汚泥などを、ユーティリティー等の整わない環境下であっても消費エネルギーを抑制しつつ簡便に分解できる方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物(アルカリ化合物)を含む昇温された水溶液中で有機化合物を分解する有機化合物の分解方法であって、アルカリ化合物および/または有機化合物を含んでもよい水に、アルカリ化合物を添加することにより上記昇温された水溶液を得る工程を有する。有機塩素化合物とこの有機塩素化合物の分解を促進するガスとを含む被処理気体に対して光を照射することによって有機塩素化合物を分解し、分解生成物および塩素ガスを含む気体を得る光分解工程を行った後に、上記有機化合物の分解方法を行う。これらの分解方法を行うための装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物処理や環境浄化等のために、有機化合物や余剰汚泥などに含まれる有機化合物を分解する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水、産業排水、屎尿、ごみ埋め立て汚水などの有機性汚水を活性汚泥法で生物学的に処理する活性汚泥法装置から大量の有機性汚泥(余剰汚泥、生汚泥など)が毎日発生しており、その量は日本全体で年間1000万トンを上回る。有機性汚水の活性汚泥法ではこの余剰汚泥の処理、処分が最大の問題となっている。この余剰汚泥のような有機性汚泥は難脱水性であるため、多量の脱水助剤(ポリマーなど)を添加し、汚泥脱水機で水分85%程度に脱水し、この脱水ケーキを埋め立て処分するか、又は焼却処分しているが、脱水助剤使用のコスト、脱水ケーキの埋め立て場所不足、焼却灰の処分場所の不足、焼却設備費用、焼却用重油コストの高さなど、多くの問題点を抱えている。
【0003】
このような問題を解決するための方法として、有機性汚泥にオゾンを作用させて有機性汚泥の酸化分解による可溶化を行う「オゾンを利用した汚泥減量化法」が提案されている。この技術は、排水の活性汚泥処理工程から余剰汚泥発生量よりも多い量の活性汚泥を引き抜き、それをオゾン酸化した後、酸化したものをそのまま活性汚泥処理工程に返送する方法である。
【0004】
また、有機塩素化合物(トリクロロエチレン等)の塩素と光の共存による分解、紫外線分解、オゾン分解等の酸化分解処理も知られている。この分解処理で生成する分解生成物等を含む処理後のガス(媒体)は、酸クロライドと塩素を含む。従来、溶液中にガスを曝気することで酸クロライドと塩素を溶液中に取り込むことで浄化ガスを得ている。しかし、溶液に溶けこんだ際、酸クロライドは加水分解されハロ酢酸類になる。ハロ酢酸は、近年、発ガン性などがあると指摘されているため河川水などの自然環境中に放出することは避けるべきである。そこで、幾つかの後処理が考案されている。
【0005】
例えば、特許文献1に開示されるように、溶液中に酸クロライドの有機塩素化合物と塩素を取り込むことで浄化ガスを得たのち、酸クロライドから生成したハロ酢酸と塩素を取り込んだ溶液に炭酸カルシウム系充填剤により吸着除去している。
【0006】
また、特許文献2に開示されるように、溶液中のハロ酢酸の分解例として、微生物による分解がある。この場合は、溶液中の塩素が微生物の生育に影響を与えるため溶液から除去する前工程をもつことになる。
【0007】
これらの方法では、ハロ酢酸が、完全に二酸化炭素、塩化物イオンまで分解されていなかったり、高濃度なハロ酢酸は微生物分解が困難であったりする場合がある。特に微生物分解は低濃度のトリクロロ酢酸でも分解が困難であり、分解可能であっても、5〜10日など要することが一般的に知られている。
【0008】
また、酸クロライドを酸性スクラバーでハロ酢酸として吸収し、アルカリスクラバーで塩素を次亜塩素酸として吸収し、浄化ガスを得、アルカリスクラバーでは、亜硫酸ナトリウムで、酸化還元電位をさげpHを調整し放流、酸スクラバーでは、電気分解や微生物によりハロ酢酸の分解をおこなっていたりする。
【特許文献1】特開平10−323536号公報
【特許文献2】特開平09−122441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、ハロ酢酸等の有機化合物や余剰汚泥等を分解する方法が知られているが、実際に分解処理を行う場所においては使用できる設備やユーティリティーが制限されることが多い。
【0010】
本発明の目的は、有機化合物、余剰汚泥などを、ユーティリティー等の整わない環境下であっても、消費エネルギーを抑制しつつ簡便に分解できる方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、このような分解方法を好適に行うことのできる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明により、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を含む昇温された水溶液中で有機化合物を分解する有機化合物の分解方法であって、
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物および/または有機化合物を含んでもよい水に、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を添加することにより該昇温された水溶液を得る工程を有する有機化合物の分解方法が提供される。
【0013】
前記有機化合物が、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、ジクロロモノフルオロ酢酸、モノクロロジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸からなる群から選ばれる少なくとも一つであることができる。
【0014】
前記有機化合物が、余剰汚泥に含まれる有機化合物であることができる。
【0015】
前記金属化合物が、カリウム、ナトリウム、カルシウムおよびマグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一つの金属の酸化物、過酸化物および/または水酸化物であることが好ましい。
【0016】
前記昇温された水溶液中の前記金属化合物の濃度を、10質量%以上とすることが好ましい。
【0017】
前記昇温された水溶液の温度を、80℃以上とすることが好ましい。
【0018】
本発明により、有機塩素化合物と該有機塩素化合物の分解を促進するガスとを含む被処理気体に対して光を照射することによって該有機塩素化合物を分解し、分解生成物および塩素ガスを含む気体を得る光分解工程;
該光分解工程で得られた気体を、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を含む昇温された水溶液に導入し、該分解生成物および塩素を分解するアルカリ分解工程;
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物、該分解生成物および/または塩素を含んでもよい水に、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を添加することにより該昇温された水溶液を得る工程
を有する有機塩素化合物の分解方法が提供される。
【0019】
前記有機塩素化合物がトリクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、1,1−ジクロロエチレン、トランス−1,2−ジクロロエチレン、クロロホルム、ジクロロメタンおよびクロロベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも一つであることができる。
【0020】
本発明により、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を含む昇温された水溶液中で有機化合物を分解する有機化合物の分解装置であって、
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物および/または有機化合物を含んでもよい水を収容する容器;および
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を該容器に供給する手段
を有する有機化合物の分解装置が提供される。
【0021】
本発明により、有機塩素化合物と該有機塩素化合物の分解を促進するガスとを含む被処理気体に対して光を照射することによって該有機塩素化合物を分解し、分解生成物および塩素ガスを含む気体を得る光分解手段;
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物、該分解生成物および/または塩素を含んでもよい水を収容する容器;
前記光分解装置から得られる気体を、該容器に供給する手段;および
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を該容器に供給する手段
を有する有機塩素化合物の分解装置が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、有機化合物、余剰汚泥などを、ユーティリティー等の整わない環境下であっても、消費エネルギーを抑制しつつ簡便に分解できる方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の有機化合物の分解方法では、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を含む昇温された水溶液中において有機化合物を分解する。つまり、アルカリ雰囲気下で分解可能な有機化合物を高温のアルカリ溶液中に取り込むことで有機化合物を分解する。
【0024】
そして、水(アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物および/または有機化合物を含んでいてもよい)に、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を添加することによって、上記昇温された水溶液を得る。
【0025】
アルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物を水に添加すると、水和熱が発生する。この水和熱によって水溶液が加熱され、昇温された水溶液となるので、加熱ヒーターや電源などユーティリティーの整わない環境下でも、例えば80℃以上の温度に水溶液の温度を上昇させることが可能となる。と同時に、生成する水酸化物(実際にはイオンとなっている)により、この水溶液はアルカリ水溶液となる。そこへ、アルカリ雰囲気によって分解可能な有機化合物を導入することで、消費エネルギーを抑制しつつ簡便に有機化合物を分解することができる。
【0026】
本発明の有機化合物の分解方法において、分解対象としうる有機化合物の例としては、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、ジクロロモノフルオロ酢酸、モノクロロジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、等の有機化合物;および余剰汚泥を挙げることができる。
【0027】
これらの有機化合物は、上記昇温された水溶液中で、加熱されたアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)の存在下で、脱塩素されながら分解される。さらに、アルカリ吸収された塩素は、次亜塩素酸になるが、次亜塩素酸は熱により酸素を発生して分解される。
【0028】
また、余剰汚泥の分解の場合、熱およびアルカリによって余剰汚泥中の微生物の細胞が破壊され、余剰汚泥が減溶化される。例えば、余剰汚泥に直接アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を添加することで、汚泥中の微生物の細胞を破壊し、余剰汚泥を減溶化することができる。
【0029】
アルカリ金属化合物を構成するアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムを挙げることができるが、入手容易性などの観点からナトリウムとカリウムが好ましい。これらアルカリ金属の酸化物、過酸化物および/または水酸化物をアルカリ金属化合物として用いることができる。
【0030】
アルカリ土類金属化合物を構成するアルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、ルシウム、ストロンチウム、マグネシウム、バリウムを挙げることができるが、入手容易性などの観点からカルシウムとマグネシウムが好ましい。これらアルカリ土類金属の酸化物、過酸化物および/または水酸化物をアルカリ土類金属化合物として用いることができる。
【0031】
アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を添加する水は、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を含んでいてもよく、また分解対象である有機化合物を含んでいてもよい。例えば、有機化合物の分解を最初に行う場合などにおいては、市水や工業用水などの水に上記金属化合物を添加し、昇温された水溶液としたうえで有機化合物をこの水溶液に導入して有機化合物を分解することができ、あるいは有機化合物が含まれた水(例えば排水や余剰汚泥)に上記金属化合物を添加し、昇温された水溶液として有機化合物を分解することができる。また、一旦分解を行った後に分解を再開する場合や、分解を継続して行う場合などにおいては、すでに存在している上記金属化合物を含む水溶液に、さらに上記金属化合物を追加して添加することができる。
【0032】
上記昇温された水溶液中のアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の濃度は、分解促進の観点から、これらの合計量として、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上とする。
【0033】
上記昇温された水溶液の温度は、分解促進の観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは95℃以上とする。
【0034】
上記有機化合物の分解方法を、光分解と組合せ、トリクロロエチレン等の有機塩素化合物の分解を行うこともできる。つまり、有機塩素化合物とこの有機塩素化合物の分解を促進するガスとを含む被処理気体に対して光を照射することによって有機塩素化合物を分解し、分解生成物および塩素ガスを含む気体を得る光分解工程を行った後、光分解工程で得られた気体を、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を含む昇温された水溶液に導入し、分解生成物および塩素を分解するアルカリ分解工程を行う。このアルカリ分解工程で用いる昇温された水溶液を、前述の有機化合物の分解方法と同様にして得る。
【0035】
この有機塩素化合物の分解方法において分解対象としうる有機塩素化合物の例としては、トリクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエチレン、cis−1,2−ジクロロエチレン、1,1−ジクロロエチレン(塩化ビニリデン)、trans−1,2−ジクロロエチレン、クロロホルム、ジクロロメタンおよびクロロベンゼンを挙げることができる。
【0036】
有機塩素化合物の分解を促進するガスとしては、例えば塩素ガスを挙げることができる。
【0037】
本発明の有機塩素化合物の分解方法によれば、トリクロロエチレン等の有機塩素化合物を塩素等の存在下において光分解し、光分解で生成するモノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸などのハロ酢酸を速やかに連続的に分解することができる。しかも、ハロ酢酸を、例えばGC−MS分析(ガスクロマトグラフ質量分析)法による検出限界以下まで分解することができるので、処理された液を、必要に応じてpHを調整して、地下水へ放流することが可能になる。また、前述の有機化合物の分解方法と同様、水にアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物を添加することにより、ヒーターなどにより水を加熱するのに比べ、速やかに高温にすることが可能になる。
【0038】
さらに、実際の汚染現場での限られたユーティリティーの中(電源不足など)において、ハロ酢酸を分解することが可能となる。
【0039】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0040】
図1は本発明の有機塩素化合物の分解方法を実施するための装置の一例を示す模式図である。
【0041】
空気供給ポンプ9から空気が塩素発生装置10に送られ、塩素発生装置10から塩素含有ガス2が発生する。分解対象物を含む気体(被処理ガス)1は、塩素含有ガス2と混合され、この混合ガスが光分解装置3に導入される。光分解装置では、混合ガスに光を照射することにより、有機塩素化合物を分解する光分解工程が行われる。混合ガスに光が照射されると、塩素ガスが300nmから500nmの波長の光で励起して塩素ラジカルになる。この塩素ラジカルとテトラクロロエチレンやトリクロロエチレンのような分解対象物である有機塩素化合物が反応して酸素(含塩素)中間体を生成する。放出された塩素原子は2原子が会合すると塩素分子になるが、一部は元の有機塩素化合物と反応して炭素中心ラジカルを生成する。このようなラジカル反応の結果、光分解生成物として最終的に二酸化炭素、ハロ酢酸等の有機塩素化合物および塩素等を生成する。反応は連鎖的に進行するので、この反応の量子収率は一般的に高く、効率良く元の有機塩素化合物の濃度を低下させることができる。
【0042】
光分解装置3から得られる光分解処理後のガスは、光照射により生成した光分解生成物及び塩素を含む気体4として、アルカリ分解槽5に導入される。
【0043】
アルカリ分解槽は内部に水を収容し、ここにアルカリ供給手段13からアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物が添加される。この金属化合物の添加によって、水和熱が発生し、アルカリ分解槽内のアルカリ水溶液の温度が比較的高く保たれる。
【0044】
比較的高温のアルカリ水溶液に気体4を接触させることによって、ハロ酢酸は二酸化炭素と塩化物イオンに分解され、塩素は塩化物イオンに分解される。つまり、光照射により生成した分解生成物及び塩素を含む気体4はアルカリ分解工程でアルカリ水溶液によって吸収および分解され、pH計6と塩酸供給ポンプ8連動させて塩酸タンク7から塩酸を供給することによりpH6〜8に調整した浄化された処理水12と、浄化された処理ガス11が系外へ排出される。
【0045】
なお、水和熱による発熱に加えて、ヒーターなどの加熱手段による加熱を併用することもできる。
【実施例】
【0046】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
図1に示した構成の分解装置を用いた。光分解装置3として中空円筒状のガラス容器の中心部にブラックライト(東芝ライッテク社製、商品名:ブッラックライト蛍光ランプ)を設けた光反応槽を用い、アルカリ分解槽5には、内部に散気管を有し、また内部がテフロンライニングされたステンレス製の槽(寸法200mm×200mm×高さ450mm、有効容積40リットル)を使用した。
【0048】
トリクロロエチレン約5ppmV(ppmVは体積百万分率を表す)を含む空気(流量:10L/分)を被処理ガス1とした。一方、空気供給ポンプ9から空気を塩素発生装置10に送り、塩素を含む空気2(塩素濃度:5ppmV、流量:5L/分)を得、これと上記被処理ガスとを混合して光照射装置3に導いた。
【0049】
光分解装置では、トリクロロエチレン濃度に対し、塩素濃度約1/3(体積基準)になるように調整したトリクロロエチレンと塩素の混合ガスが、ブッラクライト照射中の中空円筒状のガラス容器中での滞留時間1分で、トリクロロエチレンは99.9%分解された。
【0050】
アルカリ分解槽5には、初めに水(25℃)を入れておき、ここにアルカリ供給手段13から酸化カルシウム(粒状)を添加し、30質量%の酸化カルシウム水溶液とした。このときの酸化カルシウムの水和熱により、この水溶液の温度は90℃となりpH計6はpH14を示した。その後は、常時80℃以上を維持するよう適宜、酸化カルシウムを添加した。
【0051】
上記水溶液の中に、光分解生成物及び塩素を含む気体4を上記散気管を経て導入した。
【0052】
処理液12中のハロ酢酸濃度の経時変化をGC−MSを用いて追ったところ、図2に「アルカリ加熱」もしくは「加熱」として示すようにハロ酢酸濃度は常に検出限界以下であった。また、通常アルカリ吸収された塩素は、次亜塩素酸になっているが、次亜塩素酸の濃度を残留塩素計を用いて測定したところ、図3に示すように、次亜塩素酸は検出されなかった。処理を終えた水溶液に、pH計6と連動させた塩酸供給ポンプ8を用いて塩酸タンク7から塩酸を供給し、pH6〜8に調整すれば地下水へ放流可能であった。
【0053】
<実施例2>
初期の水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウム濃度を20質量%とした。また図4に示すように、アルカリ分解槽内にさらに石英ヒーター14を設け、補助的に水酸化ナトリウム水溶液を常に80℃以上を保つよう加熱した。これ以外は実施例1と同様にして、トリクロロエチレンを含む空気を連続的に浄化した。
【0054】
実施例1と同様、処理液中にハロ酢酸も次亜塩素酸も検出されず、pH6〜8に調整すれば地下水へ放流可能であった。また処理ガスとしては二酸化炭素などが排出された。
【0055】
<実施例3>
図5に示すように、実施例1の装置から空気供給ポンプ9、塩素発生装置10および光分解装置3を取り去り、被処理液15としてトリクロロ酢酸を10万ppm含む水20L(25℃)をアルカリ分解槽5に導入し、次いでアルカリ供給手段13から水酸化ナトリウムをここに添加し、30質量%の水酸化ナトリウム水溶液とした。このとき水酸化ナトリウムの水和熱により、この水溶液の温度は90℃となった。
【0056】
1時間後にアルカリ分解槽内の水溶液中の10万ppmトリクロロ酢酸は、99.9%分解された。1時間後、pH計6と連動させた塩酸供給ポンプ8を用いて塩酸タンク7から塩酸を加えてpHを6〜8に調整し、処理液12を排出した。
【0057】
<実施例4>
図6に示すように、アルカリ分解槽内にさらに石英ヒーター14を設けた。初期の水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウム濃度を20質量%とした。水和熱によりこの水溶液の温度が80℃になったため、石英ヒーターによって補助的に加熱して水溶液の温度を90℃とした。これ以外は実施例3と同様にして、トリクロロ酢酸を10万ppm含む水を浄化した。
【0058】
水酸化ナトリウムを添加してから2時間後には、10万ppmトリクロロ酢酸は、99.9%分解された。2時間後、pH計6と連動させた塩酸供給ポンプ8を用いて塩酸タンク7から塩酸を加えてpHを6〜8に調整し、処理液12を排出した。
【0059】
<比較例1>
30質量%の酸化カルシウム水溶液を作った後、この水溶液を25℃になるまで放置した後に、光分解生成物および塩素を含む気体4を水溶液に導入し、その後は酸化カルシウムの添加を行わなかったこと(その後も水溶液はほぼ25℃であった)以外は実施例1と同様にして上記気体の処理を行った。ハロ酢酸および次亜塩素酸の濃度が増加すると同時に、少量ではあるが、ハロ酢酸が次亜塩素酸に酸化分解されクロロホルムが生成した。
【0060】
実施例1と同様にしてハロ酢酸濃度および次亜塩素酸の濃度を測定したところ、図2および3に「アルカリ非加熱」もしくは「非加熱」として示したように、いずれの濃度も増加した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の方法及び装置は、有機塩素化合物に汚染された土壌や地下水浄化に利用することができ、またVOC大気浄化に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の有機塩素化合物の分解方法を実施するための装置の例を示す模式図である。
【図2】実施例1および比較例1におけるハロ酢酸濃度を示すグラフである。
【図3】実施例1および比較例1における残留塩素濃度を示すグラフである。
【図4】本実施の有機塩素化合物の分解方法を実施するための装置の別の例を示す模式図である。
【図5】本実施の有機化合物の分解方法を実施するための装置の例を示す模式図である。
【図6】本実施の有機化合物の分解方法を実施するための装置の別の例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0063】
1 分解対象物を含む気体(被処理ガス)
2 塩素含有ガス
3 光分解装置
4 光照射により生成した分解生成物及び塩素を含む気体
5 アルカリ分解槽
6 pH計
7 塩酸タンク
8 塩酸供給ポンプ
9 空気供給ポンプ
10 塩素発生工程
11 処理ガス
12 処理水
13 アルカリ供給手段
14 石英ヒーター
15 分解対象物を含む溶液(被処理液)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を含む昇温された水溶液中で有機化合物を分解する有機化合物の分解方法であって、
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物および/または有機化合物を含んでもよい水に、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を添加することにより該昇温された水溶液を得る工程を有する有機化合物の分解方法。
【請求項2】
前記有機化合物が、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、ジクロロモノフルオロ酢酸、モノクロロジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸からなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1記載の分解方法。
【請求項3】
前記有機化合物が、余剰汚泥に含まれる有機化合物である請求項1記載の分解方法。
【請求項4】
前記金属化合物が、カリウム、ナトリウム、カルシウムおよびマグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一つの金属の酸化物、過酸化物および/または水酸化物である請求項1〜3の何れか一項記載の分解方法。
【請求項5】
前記昇温された水溶液中の前記金属化合物の濃度を、10質量%以上とする請求項1〜4の何れか一項記載の分解方法。
【請求項6】
前記昇温された水溶液の温度を、80℃以上とする請求項1〜5の何れか一項記載の分解方法。
【請求項7】
有機塩素化合物と該有機塩素化合物の分解を促進するガスとを含む被処理気体に対して光を照射することによって該有機塩素化合物を分解し、分解生成物および塩素ガスを含む気体を得る光分解工程;
該光分解工程で得られた気体を、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を含む昇温された水溶液に導入し、該分解生成物および塩素を分解するアルカリ分解工程;
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物、該分解生成物および/または塩素を含んでもよい水に、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を添加することにより該昇温された水溶液を得る工程
を有する有機塩素化合物の分解方法。
【請求項8】
前記有機塩素化合物がトリクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、1,1−ジクロロエチレン、トランス−1,2−ジクロロエチレン、クロロホルム、ジクロロメタンおよびクロロベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項7記載の分解方法。
【請求項9】
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を含む昇温された水溶液中で有機化合物を分解する有機化合物の分解装置であって、
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物および/または有機化合物を含んでもよい水を収容する容器;および
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を該容器に供給する手段
を有する有機化合物の分解装置。
【請求項10】
有機塩素化合物と該有機塩素化合物の分解を促進するガスとを含む被処理気体に対して光を照射することによって該有機塩素化合物を分解し、分解生成物および塩素ガスを含む気体を得る光分解手段;
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物、該分解生成物および/または塩素を含んでもよい水を収容する容器;
前記光分解装置から得られる気体を、該容器に供給する手段;および
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの金属化合物を該容器に供給する手段
を有する有機塩素化合物の分解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−256974(P2006−256974A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72905(P2005−72905)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】