説明

有機薄膜トランジスタ材料、有機薄膜トランジスタ、電界効果トランジスタ及びスイッチング素子

【課題】 薄膜トランジスタ用途に有用な有機TFT材料を分子設計し、得られた有機TFT材料を用いて、キャリア移動度が高く、且つ高耐久性を併せ持つ有機TFTを提供することであり、更には該有機TFTを用いた電界効果トランジスタ、該有機TFTまたは該電界効果トランジスタを有するスイッチング素子を提供することである。
【解決手段】 4位及び5位に置換基を有するチオフェン環を両末端に有し、それぞれがその2位で複素芳香環を含む共役系をもって結合する化合物を含有することを特徴とする有機薄膜トランジスタ材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機薄膜トランジスタ材料、有機薄膜トランジスタ、電界効果トランジスタ及びスイッチング素子に関する。
【背景技術】
【0002】
情報端末の普及に伴い、コンピュータ用のディスプレイとしてフラットパネルディスプレイに対するニーズが高まっている。また、更に情報化の進展に伴い、従来紙媒体で提供されていた情報が電子化されて提供される機会が増え、薄くて軽い、手軽に持ち運びが可能なモバイル用表示媒体として、電子ペーパーあるいはデジタルペーパーへのニーズも高まりつつある。
【0003】
一般に平板型のディスプレイ装置においては液晶、有機EL、電気泳動などを利用した素子を用いて表示媒体を形成している。またこうした表示媒体では画面輝度の均一性や画面書き換え速度などを確保するために、画像駆動素子としてアクティブ駆動素子(TFT素子)を用いる技術が主流になっている。例えば、通常のコンピュータディスプレイではガラス基板上にこれらTFT素子を形成し、液晶、有機EL素子等が封止されている。
【0004】
ここでTFT素子には主にa−Si(アモルファスシリコン)、p−Si(ポリシリコン)などの半導体を用いることができ、これらのSi半導体(必要に応じて金属膜も)を多層化し、ソース、ドレイン、ゲート電極を基板上に順次形成していくことでTFT素子が製造される。こうしたTFT素子の製造には、通常スパッタリング、その他の真空系の製造プロセスが必要とされる。
【0005】
しかしながら、このようなTFT素子の製造では、真空チャンバーを含む真空系の製造プロセスを何度も繰り返して各層を形成せざるを得ず、装置コスト、ランニングコストが非常に膨大なものとなっていた。例えば、TFT素子では、通常それぞれの層の形成のために真空蒸着、ドープ、フォトリソグラフ、現像等の工程を何度も繰り返す必要があり、何十もの工程を経て素子を基板上に形成している。スイッチング動作の要となる半導体部分に関してもp型、n型等、複数種類の半導体層を積層している。こうした従来のSi半導体による製造方法ではディスプレイ画面の大型化のニーズに対し、真空チャンバー等の製造装置の大幅な設計変更が必要とされるなど、設備の変更が容易ではない。
【0006】
また、このような従来からのSi材料を用いたTFT素子の形成には高い温度の工程が含まれるため、基板材料には工程温度に耐える材料であるという制限が加わることになる。このため実際上はガラスを用いざるをえず、先に述べた電子ペーパーあるいはデジタルペーパーといった薄型ディスプレイを、こうした従来知られたTFT素子を利用して構成した場合、そのディスプレイは重く、柔軟性に欠け、落下の衝撃で割れる可能性のある製品となってしまう。ガラス基板上にTFT素子を形成することに起因するこれらの特徴は、情報化の進展に伴う手軽な携行用薄型ディスプレイへのニーズを満たすにあたり望ましくないものである。
【0007】
一方、近年において高い電荷輸送性を有する有機化合物として、有機半導体材料の研究が精力的に進められている。これらの化合物は有機EL素子用の電荷輸送性材料のほか、例えば、非特許文献1等において論じられているような有機レーザー発振素子や、例えば非特許文献2等、多数の論文にて報告されている有機薄膜トランジスタへの応用が期待されている。これら有機半導体デバイスを実現できれば、比較的低い温度での真空ないし低圧蒸着による製造プロセスの簡易化や、更にはその分子構造を適切に改良することによって、溶液化できる半導体を得る可能性があると考えられ、有機半導体溶液をインク化することによりインクジェット方式を含む印刷法による製造も考えられる。これらの低温プロセスによる製造は、従来のSi系半導体材料については不可能と考えられてきたが、有機半導体を用いたデバイスにはその可能性があり、従って前述の基板耐熱性に関する制限が緩和され、透明樹脂基板上にも、例えば、TFT素子を形成できる可能性がある。透明樹脂基板上にTFT素子を形成し、そのTFT素子により表示材料を駆動させることができれば、ディスプレイを従来のものよりも軽く、柔軟性に富み、落としても割れない(もしくは非常に割れにくい)ディスプレイとすることができるであろう。
【0008】
しかしながら、こうしたTFT素子を実現するための有機半導体としてこれまでに検討されてきたのは、ペンタセンやテトラセンといったアセン類(例えば、特許文献1参照。)、鉛フタロシアニンを含むフタロシアニン類、ペリレンやそのテトラカルボン酸誘導体といった低分子化合物(例えば、特許文献2参照。)や、α−チエニールもしくはセクシチオフェンと呼ばれるチオフェン6量体を代表例とする芳香族オリゴマー(例えば、特許文献3参照。)、ナフタレン、アントラセンに5員の複素芳香環が対称に縮合した化合物(例えば、特許文献4参照。)、モノ、オリゴ及びポリジチエノピリジン(例えば、特許文献5参照。)、更にはポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリ−p−フェニレンビニレンといった共役高分子など限られた種類の化合物(例えば、非特許文献1、2及び3参照。)でしかなく、高いキャリア移動度を示す新規な電荷輸送性材料を用いた半導体性組成物の開発が待望されていた。
【0009】
また、特開2003−292588号公報、米国特許出願公開第2003/136958号明細書、同2003/160230号明細書、同2003/164495号明細書では「マイクロエレクトロニクス用の集積回路論理素子にポリマーTFTを用いると、その機械的耐久性が大きく向上し、その使用可能寿命が長くなる。しかし半導体ポリチオフェン類の多くは、周囲の酸素によって酸化的にドープされ、導電率が増大してしまうため空気に触れると安定ではないと考えられる。この結果、これらの材料から製造したデバイスのオフ電流は大きくなり、そのため電流オン/オフ比は小さくなる。従ってこれらの材料の多くは、材料加工とデバイス製造の間に環境酸素を排除して酸化的ドーピングを起こさない、あるいは最小とするよう厳重に注意しなければならない。この予防措置は製造コストを押し上げるため、特に大面積デバイスのための、アモルファスシリコン技術に代わる経済的な技術としてのある種のポリマーTFTの魅力が削がれてしまう。これら及びその他の欠点は、本発明の実施の形態において回避され、あるいは最小となる。
【0010】
従って、酸素に対して強い対抗性を有し、比較的高い電流オン/オフ比を示すエレクトロニックデバイスが望まれている」との記載があり、その解決手段が種々提案されている(例えば、特許文献6、7、8及び9参照。)が、改善のレベルは満足できるものではなく、更なる改良が望まれている。
【特許文献1】特開平5−55568号公報
【特許文献2】特開平5−190877号公報
【特許文献3】特開平8−264805号公報
【特許文献4】特開平11−195790号公報
【特許文献5】特開2003−155289号公報
【特許文献6】特開2002−100782号公報
【特許文献7】特開2003−261655号公報
【特許文献8】特開2003−264327号公報
【特許文献9】特開2003−268083号公報
【非特許文献1】『サイエンス』(Science)誌289巻、599ページ(2000)
【非特許文献2】『ネイチャー』(Nature)誌403巻、521ページ(2000)
【非特許文献3】『アドバンスド・マテリアル』(Advanced Material)誌、2002年、第2号、99ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、薄膜トランジスタ用途に有用な有機TFT材料(有機薄膜トランジスタ材料)を分子設計し、得られた有機TFT材料を用いて、キャリア移動度が高く、且つ高耐久性を併せ持つ有機TFT(有機薄膜トランジスタ)を提供することであり、更には該有機TFTを用いた電界効果トランジスタ、該有機TFTまたは該電界効果トランジスタを有するスイッチング素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、下記構成により達成された。
【0013】
(請求項1)
4位及び5位に置換基を有するチオフェン環を両末端に有し、それぞれがその2位で複素芳香環を含む共役系をもって結合する化合物を含有することを特徴とする有機薄膜トランジスタ材料。
【0014】
(請求項2)
前記複素芳香環がチオフェン環であることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ材料。
【0015】
(請求項3)
前記チオフェン環の数が8以上20以下であることを特徴とする請求項2に記載の有機薄膜トランジスタ材料。
【0016】
(請求項4)
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ材料をチャネル層に用いることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【0017】
(請求項5)
有機電荷輸送性材料と、該有機電荷輸送性材料に直接または間接に接するゲート電極から構成され、該ゲート電極及び前記有機電荷輸送性材料の間に電荷を印加することで、前記有機電荷輸送性材料中の電流を制御する電界効果トランジスタにおいて、該有機電荷輸送性材料が請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ材料であることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【0018】
(請求項6)
請求項4に記載の有機薄膜トランジスタまたは請求項5に記載の電界効果トランジスタを用いることを特徴とするスイッチング素子。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、薄膜トランジスタ用途に有用な有機TFT材料が設計でき、得られた有機TFT材料を用いて、キャリア移動度が高く、且つ高耐久性を併せ持つ有機TFTを提供することができ、更には該有機TFTを用いた電界効果トランジスタ、該有機TFTまたは該電界効果トランジスタを有するスイッチング素子を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
有機半導体材料としてはペンタセンがよく知られて入るが、ペンタセンは不溶性のため従来は蒸着によってしか膜を形成できず、塗布膜を作製することは難しい。無置換6Tに代表されるような置換基を持たないチオフェンオリゴマーは分子間でπスタックを形成しやすいが、不溶性であり、ペンタセンのように蒸着によってしか膜を形成できない問題点があった。また、末端チオフェンの5位の活性が高いため、材料及び塗膜の経時安定性に問題があった。
【0021】
一方で、PHTに代表されるチオフェンポリマーのような塗布可能な材料が提案されているが、分子量分布を持つポリマーでは塗布膜を形成した場合πスタックの形成が部分的であり、分子配列が乱れている部分が多く、満足できるTFT性能を得るには不充分であった。
【0022】
本発明に係る4位及び5位に置換基を有するチオフェン環を両末端に有し、それぞれがその2位で複素芳香環を含む共役系をもって結合する化合物を使用すると、以下の点で改良ができ、理想的なTFT特性を有する有機TFT材料の提供が可能となる。
【0023】
1)置換基を導入することにより、溶解性が向上する。
【0024】
2)活性な末端チオフェン環の5位を置換基でキャッピングすることにより不活性化し、材料及び塗布膜の経時安定性が向上する。
【0025】
本発明に係る4位及び5位に置換基を有するチオフェン環を両末端に有し、それぞれがその2位で複素芳香環を含む共役系をもって結合する化合物について説明する。ここで4位及び5位の置換基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基等)、アルキニル基(例えば、エチニル基、プロパルギル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、p−クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等)、芳香族複素環基(例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、キナゾリル基、フタラジル基等)、複素環基(例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等)、アルコキシル基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、シクロアルコキシル基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等)、アリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、フッ化炭化水素基(例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等)、シアノ基、シリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等)等が挙げられる。
【0026】
これらの置換基は上記の置換基によって更に置換されていても、複数が互いに結合して環を形成していてもよい。中でも好ましい置換基はアルキル基であり、更に好ましくは炭素原子数が2〜20のアルキル基であり、特に好ましくは炭素原子数6〜12のアルキル基である。
【0027】
また共役系とは多重結合と単結合が交互に結合したものであり、本発明においてはチオフェン環、フラン環等の複素芳香環がその共役系が含まれる。該複素芳香環は上記4、5位の置換基として説明した置換基で置換されていてもよい。本発明においては、複素芳香環としてはチオフェン環が好ましく、更にはチオフェン環の数が8以上20以下であることがより好ましい。
【0028】
以下、本発明に係る4位及び5位に置換基を有するチオフェン環を両末端に有し、それぞれがその2位で複素芳香環を含む共役系をもって結合する化合物の具体例を示すが、本発明これらに限定されるものではない。
【0029】
【化1】

【0030】
【化2】

【0031】
【化3】

【0032】
【化4】

【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
【化8】

【0037】
《有機TFT、電界効果トランジスタ及びスイッチング素子》
本発明の有機TFT、電界効果トランジスタ及びそれらを用いるスイッチング素子について説明する。ここで、スイッチング素子は、その使用形態により、有機TFT素子といわれることもあり、また、電界効果トランジスタ素子と呼ばれることがある。
【0038】
本発明の有機TFT材料は、有機TFTや電界効果トランジスタのチャネル層に用いられることにより、良好に駆動するスイッチング素子(トランジスタ装置ともいう)を提供することができる。有機TFTは、支持体上にチャネルとして有機半導体チャネルで連結されたソース電極とドレイン電極を有し、その上にゲート絶縁層を介してゲート電極を有するトップゲート型と、支持体上にまずゲート電極を有し、ゲート絶縁層を介して有機半導体チャネルで連結されたソース電極とドレイン電極を有するボトムゲート型に大別される。
【0039】
本発明に係る4位及び5位に置換基を有するチオフェン環を両末端に有し、それぞれがその2位で複素芳香環を含む共役系をもって結合する化合物を有機TFTまたは電界効果トランジスタを用いたスイッチング素子のチャネル(チャネル層ともいう)に設置するには、真空蒸着により基板上に設置することもできるが、適切な溶剤に溶解し必要に応じ添加剤を加えて調製した溶液をキャストコート、スピンコート、印刷、インクジェット法、アブレーション法等によって基板上に設置するのが好ましい。
【0040】
この場合、本発明の有機TFT材料を溶解する溶剤は、該有機TFT材料を溶解して適切な濃度の溶液が調製できるものであれば格別の制限はないが、具体的にはジエチルエーテルやジイソプロピルエーテル等の鎖状エーテル系溶媒、テトラヒドロフランやジオキサンなどの環状エーテル系溶媒、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン系溶媒、クロロホルムや1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化アルキル系溶媒、トルエン、o−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、m−クレゾール等の芳香族系溶媒、N−メチルピロリドン、2硫化炭素、シクロヘキサン等のシクロアルカン系溶媒等を挙げることができる。
【0041】
本発明において、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を形成する材料は導電性材料であれば特に限定されず、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、酸化スズ・アンチモン、酸化インジウム・スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化亜鉛、亜鉛、炭素、グラファイト、グラッシーカーボン、銀ペーストおよびカーボンペースト、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、アルミニウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、リチウム/アルミニウム混合物等が用いられるが、特に白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、ITOおよび炭素が好ましい。あるいはドーピング等で導電率を向上させた公知の導電性ポリマー、例えば、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体なども好適に用いられる。中でも半導体層との接触面において電気抵抗が少ないものが好ましい。
【0042】
電極の形成方法としては、上記を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅などの金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしてもよいし、塗工膜からリソグラフやレーザーアブレーションなどにより形成してもよい。更に導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペーストなどを凸版、凹版、平版、スクリーン印刷などの印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0043】
ゲート絶縁層としては種々の絶縁膜を用いることができるが、特に比誘電率の高い無機酸化物皮膜が好ましい。無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウムなどが挙げられる。それらのうち好ましいのは酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタンである。窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物も好適に用いることができる。
【0044】
上記皮膜の形成方法としては、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、低エネルギーイオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法などのドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、デイップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法などの塗布による方法、印刷やインクジェットなどのパターニングによる方法などのウェットプロセスが挙げられ、材料に応じて使用できる。
【0045】
ウェットプロセスは、無機酸化物の微粒子を、任意の有機溶剤あるいは水に必要に応じて界面活性剤などの分散補助剤を用いて分散した液を塗布、乾燥する方法や、酸化物前駆体、例えば、アルコキシド体の溶液を塗布、乾燥する、いわゆるゾルゲル法が用いられる。これらのうち好ましいのは、大気圧プラズマ法とゾルゲル法である。
【0046】
大気圧下でのプラズマ製膜処理による絶縁膜の形成方法は、大気圧または大気圧近傍の圧力下で放電し、反応性ガスをプラズマ励起し、基材上に薄膜を形成する処理で、その方法については特開平11−61406号公報、同11−133205号公報、特開2000−121804号公報、同2000−147209号公報、同2000−185362号公報等に記載されている(以下、大気圧プラズマ法とも称する)。これによって高機能性の薄膜を、生産性高く形成することができる。
【0047】
また有機化合物皮膜としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、およびシアノエチルプルラン等を用いることもできる。有機化合物皮膜の形成法としては、前記ウェットプロセスが好ましい。無機酸化物皮膜と有機酸化物皮膜は積層して併用することができる。またこれら絶縁膜の膜厚としては、一般に50nm〜3μm、好ましくは100nm〜1μmである。
【0048】
また、支持体はガラスやフレキシブルな樹脂製シートで構成され、例えば、プラスチックフィルムをシートとして用いることができる。前記プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ボリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。このように、プラスチックフィルムを用いることで、ガラス基板を用いる場合に比べて軽量化を図ることができ、可搬性を高めることができるとともに、衝撃に対する耐性を向上できる。
【0049】
以下に、本発明の有機TFT材料を用いて形成された有機薄膜を用いた有機TFT(電界効果トランジスタも同様である)について説明する。
【0050】
図1は、本発明に係る有機TFTの構成例を示す図である。同図(a)は、支持体6上に金属箔等によりソース電極2、ドレイン電極3を形成し、両電極間に本発明の有機薄膜トランジスタ材料からなる有機半導体層1を形成し、その上に絶縁層5を形成し、更にその上にゲート電極4を形成して電界効果トランジスタを形成したものである。同図(b)は、有機半導体層1を、(a)では電極間に形成したものを、コート法等を用いて電極及び支持体表面全体を覆うように形成したものを表す。(c)は、支持体6上に先ずコート法等を用いて、有機半導体層1を形成し、その後ソース電極2、ドレイン電極3、絶縁層5、ゲート電極4を形成したものを表す。
【0051】
同図(d)は、支持体6上にゲート電極4を金属箔等で形成した後、絶縁層5を形成し、その上に金属箔等で、ソース電極2及びドレイン電極3を形成し、該電極間に本発明の有機薄膜トランジスタ材料により形成された有機半導体層1を形成する。その他同図(e)、(f)に示すような構成を取ることもできる。
【0052】
図2は、有機TFTシートの概略等価回路図の1例を示す図である。
【0053】
有機TFTシート10はマトリクス配置された多数の有機TFT11を有する。7は各TFT11のゲートバスラインであり、8は各TFT11のソースバスラインである。各TFT11のソース電極には、出力素子12が接続され、この出力12は例えば液晶、電気泳動素子等であり、表示装置における画素を構成する。画素電極は光センサの入力電極として用いてもよい。図示の例では、出力素子として液晶が、抵抗とコンデンサからなる等価回路で示されている。13は蓄積コンデンサ、14は垂直駆動回路、15は水平駆動回路である。
【実施例】
【0054】
以下実施例により本発明を説明するが、本発明の実施態様についてはこれらに限定されるものではない。
【0055】
実施例1
(例示化合物1の合成)
【0056】
【化9】

【0057】
(中間体1の合成)窒素雰囲気下、ジエチルエーテル100mlに2,3−ジブロモチオフェン30g、ジクロロ[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)1.3gを加え攪拌し、ヘキシルマグネシウムブロミド(2Mヘキサン溶液)150mlを滴下した。2時間還流した後、反応混合物を水、飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムを通して乾燥させた。溶媒を留去した後、カラムクロマトグラフィーにより中間体1を20g得た(収率65%)。
【0058】
(中間体2の合成)得られた中間体1、20gをジクロロエタン100mlと酢酸100mlの混合溶媒に溶解させ、氷冷下ブロモスクシンイミド15.5gを分割して加えた。1時間攪拌後、更に室温で2時間攪拌し、得られた反応混合物を5%水酸化カリウム水溶液、水、飽和食塩水で洗った。溶媒を留去した後、カラムクロマトグラフィーにて目的物を単離し、中間体2を21.2g得た(収率81%)。
【0059】
(中間体3の合成)窒素雰囲気下、中間体2、21.2gをTHF60mlに溶解させ、得られた溶液をマグネシウム5.4gを懸濁させたTHF100ml中にゆっくりと滴下した。滴下終了後、室温で2.5時間攪拌した後、更に50℃で1時間攪拌した。得られた反応混合物を、5,5′−ジブロモ−2,2′−ビチオフェン22.8g、ジクロロ[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)0.7gを懸濁させた200mlのTHF溶液中にゆっくりと滴下した。滴下終了後、還流下で18時間攪拌した。得られた反応混合物を水、5%塩酸、飽和食塩水で洗った後、硫酸マグネシウムに通して乾燥した。溶媒を留去した後、カラムクロマトグラフィーにて中間体3を13.6g得た(収率43%)。
【0060】
(中間体4の合成)窒素雰囲気下、中間体3、13.6gをTHF250mlに溶解させ−78℃まで冷却した。冷却下、1.6Mのn−リチウムブロミド/ヘキサン溶液を19mlゆっくりと滴下し、更に2時間攪拌した。次にトリメトキシボロン6.6gを混合物中に滴下し、1時間攪拌した後、更に室温で2時間攪拌した。得られた反応混合物を5%塩酸に加え室温で1時間攪拌した後、水、飽和食塩水で洗った。溶媒を留去し、中間体4を得た。
【0061】
(例示化合物1の合成)窒素雰囲気下、THF150ml中に上記で得られた中間体4、5,5′−ジブロモ−2,2′−ビチオフェン8.5g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)1.6g、20%炭酸カリウム水溶液30mlを加え、還流下24時間攪拌した。得られた反応混合物を水、飽和食塩水で洗った後、溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィーにより化合物1を7.2g得た(収率28%)。得られた化合物1の純度はHPLCの測定結果より、99%以上であることを確認した。
【0062】
実施例2
ゲート電極としての抵抗率0.01Ω・cmのSiウェハーに、厚さ2000Åの熱酸化膜を形成してゲート絶縁層とした後、オクタデシルトリクロロシランによる表面処理を行った。比較化合物(1)(ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(regioregular、アルドリッチ社製、平均分子量89000、PHT))のクロロホルム溶液をアプリケーターを用いて塗布し、自然乾燥することによりキャスト膜(厚さ50nm)を形成して、窒素雰囲気下で50℃、30分間の熱処理を施した。更に、この膜の表面にマスクを用いて金を蒸着してソースおよびドレイン電極を形成した。ソースおよびドレイン電極は幅100μm、厚さ200nmで、チャネル幅W=3mm、チャネル長L=20μmの有機薄膜トランジスタ素子1を作製した。
【0063】
比較化合物(1)を比較化合物(2)(ペンタセン、アルドリッチ社製市販試薬を昇華精製して用いた)に代えた他は、有機薄膜トランジスタ素子1と同様の方法で、有機薄膜トランジスタ素子2を作製した。
【0064】
更に、比較化合物(1)を表1に示した本発明に係る例示化合物に代えた他は、有機薄膜トランジスタ素子1と同様の方法で、有機薄膜トランジスタ素子3〜8を作製した。
【0065】
【化10】

【0066】
以上のように作製した有機薄膜トランジスタ素子1〜8は、pチャネルのエンハンスメント型FETの良好な動作特性を示した。更に、有機薄膜トランジスタ素子1〜8について、I−V特性の飽和領域からキャリア移動度を求め、更にON/OFF比(ドレインバイアス−50Vとし、ゲートバイアス−50Vおよび0Vにしたときのドレイン電流値の比率)を求めた。また得られた素子を大気中で1ヶ月放置し、再度キャリア移動度とON/OFF比を求めた。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1の結果より本発明の有機薄膜トランジスタは、トランジスタとしての特性が良好であり、更に経時劣化が抑えられていることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の有機TFTの構成例を示す図である。
【図2】本発明の有機TFTの概略等価回路図の1例である。
【符号の説明】
【0070】
1 有機半導体層
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 ゲート電極
5 絶縁層
6 支持体
7 ゲートバスライン
8 ソースバスライン
10 有機TFTシート
11 有機TFT
12 出力素子
13 蓄積コンデンサ
14 垂直駆動回路
15 水平駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4位及び5位に置換基を有するチオフェン環を両末端に有し、それぞれがその2位で複素芳香環を含む共役系をもって結合する化合物を含有することを特徴とする有機薄膜トランジスタ材料。
【請求項2】
前記複素芳香環がチオフェン環であることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ材料。
【請求項3】
前記チオフェン環の数が8以上20以下であることを特徴とする請求項2に記載の有機薄膜トランジスタ材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ材料をチャネル層に用いることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
有機電荷輸送性材料と、該有機電荷輸送性材料に直接または間接に接するゲート電極から構成され、該ゲート電極及び前記有機電荷輸送性材料の間に電荷を印加することで、前記有機電荷輸送性材料中の電流を制御する電界効果トランジスタにおいて、該有機電荷輸送性材料が請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機薄膜トランジスタ材料であることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項6】
請求項4に記載の有機薄膜トランジスタまたは請求項5に記載の電界効果トランジスタを用いることを特徴とするスイッチング素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−40934(P2006−40934A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214290(P2004−214290)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】