有機金属錯体、及び当該金属錯体を用いた金属含有薄膜の製造法
【課題】低融点を有し、且つ、熱に対しての安定性に優れるとともに、CVD法による成膜に適した有機金属錯体、及び当該有機金属錯体を用いた金属含有薄膜の製造法の提供。
【解決手段】式(1)
(式中、Mは、金属原子を示し、Xは、アルコキシアルキル部位を1〜2個有するアルキル基で、Yは、X置換基に加え、炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基であり、Zは、水素原子などを示す。mは、配位子の数を示し、金属Mの価数に等しい。)で示されるアルコキシアルキル基を有するβ−ジケトナトを配位子とすることを特徴とする有機金属錯体。
【解決手段】式(1)
(式中、Mは、金属原子を示し、Xは、アルコキシアルキル部位を1〜2個有するアルキル基で、Yは、X置換基に加え、炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基であり、Zは、水素原子などを示す。mは、配位子の数を示し、金属Mの価数に等しい。)で示されるアルコキシアルキル基を有するβ−ジケトナトを配位子とすることを特徴とする有機金属錯体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機金属錯体、及び当該金属錯体を用いて、化学気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition法;以下、CVD法と称する)により金属含有薄膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ストロンチウム含有膜の一つである酸化ストロンチウム薄膜は、DRAMキャパシタの高誘電体膜や不揮発性メモリの強誘電体膜(STO、SBT)等に用いられている。このような酸化ストロンチウム薄膜を得る方法としては、例えば、ゾルゲル法、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法等の方法が開発されているが、最近では、均一な薄膜を製造し易いCVD法によるストロンチウム含有薄膜の製造法が最も盛んに検討されている。
【0003】
従来、CVD法によるストロンチウム含有薄膜を製造するためのストロンチウム錯体としては、例えば、シクロペンタジエニル誘導体を配位子に用いたストロンチウム錯体(例えば、特許文献1及び2参照)、β−ジケトナト誘導体を配位子としたストロンチウム錯体(例えば、特許文献3及び4参照)、更に、室温で液体のビス(1−(2−メトキシエトキシ)−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(例えば、特許文献3参照)が開示されている。
【0004】
また、近年、トランジスタの高性能化に伴い、ゲート絶縁膜の材料として、誘電率がシリコン酸化膜の3倍程度ある窒素添加ハフニウムシリケートの採用が本格化している。それに伴い、ソースとドレイン部の拡散層の浅接合化およびゲート電極のメタル化の検討がなされており、それらに対する新材料が要求されている。その新材料としては、コバルトシリサイドやニッケルシリサイド等が候補とされ、拡散層の深さを考慮して、ニッケルシリサイドが有力視されている。このニッケルシリサイドの形成技術に、ニッケルの薄膜形成が要求されている。又、抵抗変化型不揮発メモリ用途として、酸化ニッケル薄膜の形成も要求されている。一方、薄膜形成方法としては、スパッタ法、CVD法が用いられるが、スパッタ法は周辺半導体素子へのダメージ、又はトランジスタ構造の微細化から、CVD法での膜形成がより有用であるとされている。
【0005】
従来、CVD法によるニッケル含有薄膜を形成するためのニッケル錯体としては、例えば、シクロペンタジエニル誘導体を配位子に用いたニッケル錯体(例えば、特許文献5〜7参照)、β−ケトイミナトニッケル錯体(例えば、特許文献8参照)、ニッケルアミノアルコキシド錯体(例えば、特許文献9参照)、ニッケルアミド錯体(例えば、特許文献10参照)やテトラキス(トリフルオロホスフィン)ニッケル錯体(例えば、特許文献11参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−30164号公報
【特許文献2】特開2009−40707号公報
【特許文献3】特許3904255号公報
【特許文献4】特許3964976号公報
【特許文献5】特開2005−93732号公報
【特許文献6】特開2006−124743号公報
【特許文献7】国際公開第2009/081797号パンフレット
【特許文献8】特開2007−302656号公報
【特許文献9】特表2008−537947号公報
【特許文献10】特開2006−124291号公報
【特許文献11】特開2008−231473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2記載のシクロペンタジエニル誘導体を配位子に用いたストロンチウム錯体は、酸素との反応が激し過ぎるために、ストロンチウム含有薄膜製造時の制御に問題があった。又、特許文献3及び4記載のβ−ジケトナト誘導体を配位子としたストロンチウム錯体、例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ノナンジオナト)ストロンチウムは、高融点の固体であるために、一定の供給量を保つことが困難である上に、配管閉塞を引き起こす恐れがあるという問題があった。
【0008】
その中でも室温で液体のストロンチウム錯体の提案もなされているが、当該ストロンチウム錯体は、蒸気圧が低く、ストロンチウム含有薄膜製造時のストロンチウム錯体の供給が難しくなってしまう問題があった。
【0009】
以上のように、上記いずれのストロンチウム錯体も何らかの問題を有しており、それらを用いたストロンチウム含有薄膜の製造法は工業的な製造法としては有利ではなかった。
【0010】
また、CVD法で用いられるニッケル錯体のうち、シクロペンタジエニル系ニッケル錯体やテトラキス(トリフルオロホスフィン)ニッケル錯体は、蒸気圧が高いものの、空気、水分又は熱に対して不安定であるために取り扱いが難しく、多量に使用する工業的な生産の際には問題であった。又、β−ケトイミナトニッケル錯体やニッケルアミド錯体は高融点の固体であるために、CVD原料用途としては気化量変動の問題があり、更にはCVDでの途中、配管内で閉塞を起こす可能性もある。一方、ニッケルアミノアルコキシド錯体は、一部の錯体で低融点であるものの、その多くは固体であり、水分に対して不安定であるため、その製造や取り扱いに問題があった。
【0011】
以上のように、上記いずれの有機ニッケル錯体も問題を有しており、当該有機ニッケル錯体を用いたニッケル含有薄膜の製造方法は工業的な製造方法としては採用し難かった。
【0012】
また、他の金属錯体に関しても、半導体、電子部品、光学部品など、様々な分野の材料として多くの研究と開発がなされており、特にCVD法による成膜に適した有機金属錯体が求められている。
【0013】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、低融点を有し、且つ熱に対しての安定性に優れるとともに、CVD法による成膜に適した有機金属錯体を提供することにある。又、本発明の課題は、当該有機金属錯体を用いた金属含有薄膜の製造法を提供するものでもある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の事項に関する。
【0015】
1. 一般式(1)
【0016】
【化1】
(式中、Mは、金属原子を示し、Xは、一般式(2)
【0017】
【化2】
で示されるアルコキシアルキル基(式中、n=0又は1、Ra、Rc及びRdは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示し、Rbは、炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキレン基を示す。)、Yは、一般式(2)で示される基又は炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基、Zは、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。mは、配位子の数を示し、金属Mの価数に等しい。
但し、MがSrであり、n=1であり、Ra、Rc及びRdが全てメチル基、Rbがメチレン基、Yがt−ブチル基であって、Zが水素原子であることを同時に満たす場合を除く。)
で示されるアルコキシアルキル基を有するβ−ジケトナトを配位子とすることを特徴とする有機金属錯体。
【0018】
2. Mが、Sr、Ni、Li、Cu、Zn、Mg、Al、La、Co又はYである上記1記載の有機金属錯体。
【0019】
3. 上記1に記載の有機金属錯体、又は上記1に記載の有機金属錯体の溶媒溶液を金属供給源として用いた化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【0020】
4. 上記1に記載の有機金属錯体、又は上記1に記載の有機金属錯体の溶媒溶液と、酸素源とを用いた上記3記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【0021】
5. 酸素源が酸素ガスである上記4記載の金属含有薄膜の製造法。
【0022】
6. 上記1に記載の有機金属錯体、又は上記1に記載の有機金属錯体の溶媒溶液と、還元性ガスとを用いた上記3記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【0023】
7. 還元性ガスが水素ガス又はアンモニアガス、もしくはそれらの混合ガスである上記6記載の金属含有薄膜の製造法。
【0024】
8. 使用する溶媒が、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類及びエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒である上記3乃至7のいずれか1項に記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の有機金属錯体は、低融点を有し、且つ熱に対しての安定性に優れており、CVD法による成膜に適している。また、本発明の有機金属錯体を用いて、CVD法により、良好な成膜特性で、金属含有薄膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のストロンチウム錯体(3)、及びビス(ジピバロイルメタナト)ストロンチウム(II)(Sr(dpm)2)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図2】本発明のストロンチウム錯体(5)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図3】有機ストロンチウム錯体と酸素ガスとを用いてストロンチウム含有薄膜を製造する蒸着装置の構成を示す図である。
【図4】本発明のニッケル錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図5】有機ニッケル錯体を用いてニッケル含有薄膜を製造する蒸着装置の構成を示す図である。
【図6】本発明のリチウム錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図7】本発明の銅錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図8】本発明の亜鉛錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図9】本発明のマグネシウム錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図10】本発明のアルミニウム錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図11】本発明のランタン錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図12】本発明のイットリウム錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図13】本発明のコバルト錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の有機金属錯体は、アルコキシアルキル基を有するβ−ジケトナトを配位子とする金属錯体であり、前記の一般式(1)で示される。
【0028】
前記の一般式(1)において、Mは、金属原子を示し、例えばSr、Ni、Li、Cu、Zn、Mg、Al、La、Co又はYである。
【0029】
好ましい配位子は金属(M)によって異なり、MがSrの場合は、n=1であり、Ra、Rc及びRdが全てメチル基、Rbがメチレン基、Yがt−ブチル基であって、Zが水素原子であることは好ましくない。
【0030】
前記の一般式(1)において、Xは、前記の一般式(2)で示されるアルコキシアルキル基を示し、一般式(2)中、n=0又は1であり、Ra、Rc及びRdは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示し、Rbは、炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキレン基を示す。Yは、一般式(2)で示される基又は炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基、Zは、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。但し、MがSrの場合は、n=1であり、Ra、Rc及びRdが全てメチル基、Rbがメチレン基、Yがt−ブチル基であって、Zが水素原子であることを同時に満たす場合を除く。
【0031】
なお、n=0の場合、2つの−Rb−O−Raは同一でも異なっていてもよく、また、Yが一般式(2)で示される基である場合、XとYは同一でも異なっていてもよい。
【0032】
Raとしては、炭素原子数1〜4の直鎖又は分枝状のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基がより好ましく、エチル基が特に好ましい。
【0033】
Rbとしては、炭素原子数1〜3の直鎖又は分枝状のアルキレン基が好ましく、炭素原子数1〜2の直鎖又は分枝状のアルキレン基がより好ましく、メチレン基が特に好ましい。
【0034】
Rc及びRdとしては、炭素原子数1〜3の直鎖又は分枝状のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0035】
Yとしては、一般式(2)で示される基、又は炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基が好ましく、炭素原子数3〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基がより好ましく、tert−ブチル基が特に好ましい。
【0036】
Zとしては、水素原子が好ましい。
【0037】
前記の一般式(1)において、mは、配位子の数を示し、金属Mの価数に等しい。
【0038】
本発明の有機ストロンチウム錯体の具体例としては、例えば、式(A3)から式(A14)で示される。
【0039】
【化3】
【0040】
本発明の有機ニッケル錯体の具体例としては、例えば、式(B3)から式(B14)で示される。
【0041】
【化4】
【0042】
本発明のリチウム錯体の具体例としては、例えば、式(C3)から式(C14)で示される。
【0043】
【化5】
本発明の銅錯体の具体例としては、例えば、式(D3)から式(D14)で示される。
【0044】
【化6】
本発明の亜鉛錯体の具体例としては、例えば、式(E3)から式(E14)で示される。
【0045】
【化7】
本発明のマグネシウム錯体の具体例としては、例えば、式(F3)から式(F14)で示される。
【0046】
【化8】
本発明のアルミニウム錯体の具体例としては、例えば、式(G3)から式(G14)で示される。
【0047】
【化9】
本発明のランタン錯体の具体例としては、例えば、式(H3)から式(H14)で示される。
【0048】
【化10】
本発明のイットリウム錯体の具体例としては、例えば、式(I3)から式(I14)で示される。
【0049】
【化11】
本発明のコバルト錯体の具体例としては、例えば、式(J3)から式(J14)で示される。
【0050】
【化12】
本発明の有機金属錯体は、低融点であり、しかも熱安定性が高いため、CVD法での使用におけるバブリング時の長期の加熱においても問題なく使用できる。
【0051】
本発明の有機金属錯体の配位子であるβ−ジケトナトは対応するβ−ジケトンから得られるが、これらのβ−ジケトンは、例えば、式(A3)のストロンチウム錯体および式(B3)のニッケル錯体の配位子であるβ−ジケトナトに対応するβ−ジケトン、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオンは、下記式で示される方法等によって容易に得ることが出来る。
【0052】
【化13】
なお、本発明の金属錯体は、公知のβ−ジケトナトを配位子とする金属錯体の製造方法を参考にして、例えば、溶媒中で、金属酸化物、金属塩化物、金属水酸化物等の金属化合物と対応するβ−ジケトンとを反応させることにより製造することができる。
【0053】
CVD法においては、薄膜形成のために有機金属錯体を気化させる必要があるが、本発明の有機金属錯体を気化させる方法としては、例えば、有機金属錯体自体を気化室に充填又は搬送して気化させる方法だけでなく、有機金属錯体を適当な溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。)に希釈した溶液を液体搬送用ポンプで気化室に導入して気化させる方法(溶液法)も使用出来る。
【0054】
成膜対象物上へのストロンチウム含有薄膜の蒸着方法としては、公知のCVD法で行うことが出来、例えば、常圧又は減圧下にて、ストロンチウム錯体蒸気を酸素源(例えば、酸素、オゾン等の酸化性ガス;水;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等のアルコール類)と共に加熱した成膜対象物上に送り込んでストロンチウム含有薄膜を蒸着させる方法が使用出来る。なお、これらのガス(気化した液体も含む)は不活性ガス等で希釈されていても良い。又、同様な原料供給により、プラズマCVD法でストロンチウム含有薄膜を蒸着させることも出来る。
【0055】
本発明の有機ストロンチウム錯体を用いてストロンチウム含有薄膜を蒸着させる場合、その蒸着条件としては、例えば、反応系内の圧力は、好ましくは1Pa〜200kPa、更に好ましくは10Pa〜110kPa、成膜対象物温度は、好ましくは50〜900℃、更に好ましくは100〜600℃、有機ストロンチウム錯体を気化させる温度は、好ましくは60〜400℃、更に好ましくは100〜300℃である。
【0056】
なお、ストロンチウム含有薄膜を蒸着させる際の全ガス量に対する酸素源(例えば、酸化性ガス、水蒸気又はアルコール蒸気、もしくはこれらの混合ガス)の含有割合としては、好ましくは3〜99容量%、更に好ましくは5〜98容量%である。
【0057】
成膜対象物上へのニッケル含有薄膜の蒸着方法としては、公知のCVD法で行うことが出来、例えば、常圧又は減圧下にて、有機ニッケル錯体蒸気を酸素源(例えば、酸素、オゾン等の酸化性ガス;水;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等のアルコール類)又は還元性ガス(例えば、水素ガス、アンモニアガス)と共に加熱した成膜対象物上に送り込んでニッケル含有薄膜を蒸着させる方法が使用出来る。なお、これらのガス(気化した液体も含む)は不活性ガス等で希釈されていても良い。又、同様な原料供給により、プラズマCVD法でニッケル含有薄膜を蒸着させることも出来る。
【0058】
本発明の有機ニッケル錯体を用いてニッケル含有薄膜を蒸着させる場合、その蒸着条件としては、例えば、反応系内の圧力は、好ましくは1Pa〜200kPa、更に好ましくは10Pa〜110kPa、成膜対象物温度は、好ましくは50〜900℃、更に好ましくは100〜600℃、有機ニッケル錯体を気化させる温度は、好ましくは30〜250℃、更に好ましくは60〜200℃である。
【0059】
なお、ニッケル含有薄膜を蒸着させる際の全ガス量に対する酸素源(例えば、酸化性ガス、水蒸気又はアルコール蒸気、もしくはこれらの混合ガス)又は還元性ガス(例えば、水素ガス又はアンモニアガス、もしくはこれらの混合ガス)の含有割合としては、好ましくは3〜99容量%、更に好ましくは5〜98容量%である。
【0060】
他の金属含有薄膜も、上記のストロンチウム含有薄膜及びニッケル含有薄膜と同様にして成膜することができる。
【実施例】
【0061】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0062】
実施例1(ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(ストロンチウム錯体(A3);以下、ストロンチウム錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、酸化ストロンチウム0.4g(3.9mmol)及びテトラヒドロフラン10mlを加えた。次いで、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン1.7g(6.1mmol)を水冷下にて滴下させた後、水0.2gを滴下して1時間反応させた。
【0063】
反応終了後、反応液を減圧下にて濃縮し、濃縮物にヘキサン10mlを加えた。得られた溶液を濾過後、濾液を濃縮した後に、濃縮物を減圧蒸留(310℃、16Pa)して、黄色固体として、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)1.3gを得た(単離収率:62.5%)。
【0064】
ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0065】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.04〜1.11(36H,m)、3.32(4H,s)、3.47(4H,q)、5.50(2H,s)
IR(neat(cm−1));2967、2868、1596、1503、1427、1359、1223、1179、1123、1068、870、790、749、474
元素分析(C26H46O6Sr);炭素:57.4%、水素:8.8%、ストロンチウム:16.0%(理論値;炭素:57.6%、水素:8.6%、ストロンチウム:16.2%)
融点;40〜44℃
【0066】
実施例2(ビス(2,2−ビス(メトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(ストロンチウム錯体(A13);以下、ストロンチウム錯体(13)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、酸化ストロンチウム0.2g(1.9mmol)及びテトラヒドロフラン5mlを加えた。次いで、2,2−ビス(メトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン0.7g(2.9mmol)を水冷下にて滴下させた後、水0.2gを滴下して1時間反応させた。
【0067】
反応終了後、反応液を減圧下にて濃縮し、濃縮物にヘキサン10mlを加えた。得られた溶液を濾過後、濾液を濃縮した後に、濃縮物を減圧蒸留(320℃、16Pa)して、黄色固体として、ビス(2,2−ビス(メトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)0.5gを得た(単離収率:61.0%)。
【0068】
ビス(2,2−ビス(メトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0069】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.03(24H,m)、3.36(16H,m)、3.57(4H,d)、5.38(2H,s)
IR(neat(cm−1));2966、1596、1606、1532、1499、1429、1389、1361、1272、1225、1174、1123、1080、1019、861、794、735、475
元素分析(C26H46O8Sr);炭素:54.6%、水素:8.2%、ストロンチウム:15.1%(理論値;炭素:54.4%、水素:8.1%、ストロンチウム:15.3%)
融点;75〜79℃
【0070】
実施例3(ビス(2,2−ビス(エトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(ストロンチウム錯体(A14);以下、ストロンチウム錯体(14)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、酸化ストロンチウム0.2g(1.9mmol)及びテトラヒドロフラン10mlを加えた。次いで、2,2−ビス(エトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン0.8g(2.9mmol)を水冷下にて滴下させた後、水0.2gを滴下して1時間反応させた。
【0071】
反応終了後、反応液を減圧下にて濃縮し、濃縮物にヘキサン10mlを加えた。得られた溶液を濾過後、濾液を濃縮した後に、濃縮物を減圧蒸留(320℃、35Pa)して、黄色固体として、ビス(2,2−ビス(エトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)0.4gを得た(単離収率:43.2%)。
【0072】
ビス(2,2−ビス(エトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0073】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.02(24H,s)、1.16(12H,t)、3.50(4H,d)、3.59(12H,m)、5.40(2H,s)
IR(neat(cm−1));2966、1596、1606、1532、1499、1429、1389、1361、1272、1225、1174、1123、1080、1019、861、794、735、475
元素分析(C30H54O8Sr);炭素:57.4%、水素:8.7%、ストロンチウム:13.8%(理論値;炭素:57.2%、水素:8.6%、ストロンチウム:13.9%)
融点;40℃
【0074】
実施例4(ビス(1−n−プロポキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(ストロンチウム錯体(A5);以下、ストロンチウム錯体(5)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、水酸化ストロンチウム8水和物2.72g(10.2mmol)及びテトラヒドロフラン20mlを加えた。次いで、n−プロポキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン4.9g(20.1mmol)を水冷下にて滴下させて1時間反応させた。
【0075】
反応終了後、反応液を減圧下にて濃縮し、濃縮物にヘキサン40mlを加えた。得られた溶液を濾過後、濾液を濃縮した後に、濃縮物を減圧蒸留(310℃、18Pa)して、黄色高粘性液体として、ビス(1−n−プロポキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)3.9gを得た(単離収率:67.4%)。
【0076】
ビス(1−n−プロポキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0077】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));0.83(6H,t)、1.04〜1.07(30H,m)、1.54(4H,m)、3.35(8H,m)、5.50(2H,s)
IR(neat(cm−1));2963、2873、1595、1502、1427、1359、1223、1122、1073、868、790、749、474
元素分析(C28H50O6Sr);炭素:60.0%、水素:8.9%、ストロンチウム:15.2%(理論値;炭素:59.0%、水素:8.8%、ストロンチウム:15.4%)
【0078】
実施例5(熱安定性の評価)
本発明のビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(ストロンチウム錯体(3))、及び一般的に広く使用されているビス(ジピバロイルメタナト)ストロンチウム(II)(Sr(dpm)2;市販品を昇華精製して使用した)の熱安定性の評価を行った。その結果を図1に示した。
【0079】
図1のTGデータの結果より、本発明のストロンチウム錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0080】
また、本発明のビス(1−n−プロポキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(ストロンチウム錯体(5))の熱安定性の評価を行った。その結果を図2に示した。
【0081】
図2のTGデータの結果より、本発明のストロンチウム錯体(5)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0082】
実施例6〜9(蒸着実験;ストロンチウム含有薄膜の製造)
実施例1〜4で得られた有機ストロンチウム錯体を用いて、CVD法による蒸着実験を行い、成膜特性を評価した。
【0083】
評価試験には、図3に示す装置を使用した。気化器5(ガラス製アンプル)にあるストロンチウム錯体7は、ヒーター6で加熱されて気化し、マスフローコントローラー1Aを経て導入されたヘリウムガスに同伴し気化器5を出る。気化器5を出たガスは、マスフローコントローラー1Bで導入された酸素ガスとともに反応器11に導入される。反応系内圧力は真空ポンプ手前のバルブ14の開閉により、所定圧力にコントロールされ、圧力計12によってモニターされる。ガラス製反応器の中央部はヒーター10で加熱可能な構造となっている。反応器に導入されたストロンチウム錯体は、反応器内中央部にセットされ、ヒーター10で所定の温度に加熱された被蒸着基板9の表面上で反応分解し、基板9上に酸化ストロンチウム膜が析出する。反応器11を出たガスは、トラップ13、真空ポンプを経て、大気中に排気される構造となっている。
【0084】
蒸着結果(成膜特性)を表1に示す。なお、ストロンチウム含有薄膜の製造における共通蒸着条件は以下の通りである。
【0085】
ストロンチウム錯体気化温度;220℃
Heキャリアー流量;30ml/min.
酸素流量;350ml/min.
蒸着基板;SiO2/Si(6mm×20mmサイズ)
基板温度;525℃
反応系内圧力;3990Pa
蒸着時間;30分
【0086】
【表1】
【0087】
該結果より、本発明の有機ストロンチウム錯体(アルコキシアルキル基を有するβ−ジケトナトを配位子とするストロンチウム錯体)を用いることにより、優れた特性を有するストロンチウム含有薄膜を製造することが可能であることが分かる。
【0088】
実施例10(ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ニッケル(II)(ニッケル錯体(B3);以下、ニッケル錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、28%のナトリウムメトキシド・メタノール溶液3.62g(18.8mmol)を加えた後、室温にて、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン4.35g(19.0mmol)を滴下した。滴下終了後、塩化ニッケル6水和物2.22g(9.34mmol)をメタノール15mlに溶かしたメタノール溶液を滴下し、その後、攪拌しながら5分間反応させた。反応終了後、水30ml及びメチルシクロヘキサン50mlを加えて分液し、得られた有機層を濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(200℃、15Pa)し、粘性のある暗緑色粘性液体として、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ニッケル(II)4.41gを得た(単離収率;92%)。
【0089】
IR(neat(cm−1));2967、2931、2903、2867、1587、1528、1501、1419、1360、1111、1069、875、791、755、487
元素分析(C26H46O6Ni);炭素:60.7%、水素:9.00%、ニッケル:11%(理論値;炭素:60.8%、水素:9.03%、ニッケル:11.4%)
MS(m/e);512、455、286、57
【0090】
実施例11(熱安定性の評価)
本発明のビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ニッケル(II)(ニッケル錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図4に示した。
【0091】
図4のTGデータの結果より、本発明のニッケル錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0092】
実施例12〜14(蒸着実験;ニッケル含有薄膜の製造)
実施例10で得られたニッケル錯体を用いて、CVD法による蒸着実験を行い、成膜特性を評価した。
【0093】
評価試験には、図5に示す装置を使用した。気化器3(ガラス製アンプル)にあるニッケル錯体20は、ヒーター10Bで加熱されて気化し、マスフローコントローラー1Aを経て予熱器10Aで予熱後導入されたヘリウムガスに同伴し気化器3を出る。気化器3を出たガスは、マスフローコントローラー1B、ストップバルブ2を経て導入された酸素ガス、水素ガスもしくはアンモニアガスとともに反応器4に導入される。反応系内圧力は真空ポンプ手前のバルブ6の開閉により、所定圧力にコントロールされ、圧力計5によってモニターされる。反応器の中央部はヒーター10Cで加熱可能な構造となっている。反応器に導入されたニッケル錯体は、反応器内中央部にセットされ、ヒーター10Cで所定の温度に加熱された被蒸着基板21の表面上で酸化熱分解もしくは還元分解され、基板21上にニッケル含有薄膜が析出する。反応器4を出たガスは、トラップ7、真空ポンプを経て、大気中に排気される構造となっている。
【0094】
蒸着条件及び蒸着結果(成膜特性)を表2に示す。なお、被蒸着基板としては、6mm×20mmサイズの矩形のものを使用した。
【0095】
【表2】
【0096】
該結果より、本発明の有機ニッケル錯体(アルコキシアルキル基を有するβ−ジケトナトを配位子とする有機ニッケル錯体)を用いることにより、優れた特性を有するニッケル含有薄膜を製造することが可能であることが分かる。
【0097】
実施例15((1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)リチウム(I)(リチウム錯体(C3);以下、リチウム錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液5.05g(26.2mmol)及びメタノール10mlを加え、氷冷下、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン6.06g(26.5mmol)をゆるやかに滴下し、5分間攪拌させた。次いで、塩化リチウム(I)1.08g(25.5mmol)をメタノール10mlに溶解させた溶液をゆるやかに滴下し、氷冷下、攪拌しながら30分間反応させた。その後、メチルシクロヘキサン40ml及び水40mlを加え、有機層を分液し、水洗した有機層を濃縮した。その濃縮物を減圧蒸留(185℃、23Pa)し、黄色固体として、(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)リチウム(I)1.58gを得た(単離収率:26.5%)。
【0098】
(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)リチウム(I)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0099】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.09(9H,s)、1.13〜1.16(9H,m)、3.36(2H,s)、3.64(2H,q)、5.53(1H,s)
IR(neat(cm−1));2965、2868、1609、1503、1432、1389、1362、1303、1223、1121、1090、867、790、748、613、557、518
元素分析(C13H23O3Li);炭素:67.0%、水素:10.0%、リチウム:29.8%(理論値;炭素:66.7%、水素:9.9%、リチウム:30.0%)
MS(m/e);510、453、241、183、57
融点;78〜81℃
【0100】
実施例16(熱安定性の評価)
本発明の(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)リチウム(I)(リチウム錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図6に示した。
【0101】
図6のTGデータの結果より、本発明のリチウム錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0102】
実施例17(ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)銅(II)(銅錯体(D3);以下、銅錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、水酸化銅1.24g(12.7mmol)、1,2−ジメトキシエタン12ml、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン3.26g(14.3mmol)及び水1mlを入れ、室温下、攪拌しながら30分間反応させた。反応終了後、濾過を行い、濾液を濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(170℃、27Pa)し、粘性のある暗緑色粘性液体として、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)銅(II)0.28gを得た(単離収率:7.6%)。
【0103】
ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)銅(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0104】
IR(neat(cm−1));2968、2868、1552、1504、1405、1361、1273、1227、1176、1115、877、793、757
元素分析(C26H46O6Cu);炭素:61.0%、水素:9.1%、銅:12.2%(理論値;炭素:60.3%、水素:9.0%、銅:12.3%)
MS(m/e);517、460、289、233、101、57
【0105】
実施例18(熱安定性の評価)
本発明のビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)銅(II)(銅錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図7に示した。
【0106】
図7のTGデータの結果より、本発明の銅錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0107】
実施例19(ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)亜鉛(II)(亜鉛錯体(E3);以下、亜鉛錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、水酸化ナトリウム0.60g(12.0mmol)、メタノール13ml及び水1mlを加え、氷冷下、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン3.60g(15.8mmol)をゆるやかに滴下し、5分間攪拌させた。次いで、塩化亜鉛(II)1.06g(7.8mmol)をメタノール13mlに溶解させた溶液をゆるやかに滴下し、氷冷下、攪拌しながら30分間反応させた。その後、メチルシクロヘキサン30ml及び水30mlを加え、有機層を分液し、水洗後有機層を濃縮した。その濃縮物を減圧蒸留(170℃、24Pa)し、粘性のある淡黄色液体として、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)亜鉛(II)1.17gを得た(単離収率:30.0%)。
【0108】
ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)亜鉛(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0109】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.13〜1.19(36H,m)、3.41(4H,s)、3.45〜3.50(4H,m)、5.80(2H,s)
IR(neat(cm−1));2969、2868、1551、1505、1388、1359、1224、1114、875、795
元素分析(C26H45O6Zn);炭素:60.2%、水素:9.0%、亜鉛:12.4%(理論値;炭素:60.1%、水素:8.9%、亜鉛:12.6%)
【0110】
実施例20(熱安定性の評価)
本発明のビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)亜鉛(II)(亜鉛錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図8に示した。
【0111】
図8のTGデータの結果より、本発明の亜鉛錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0112】
実施例21(ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)マグネシウム(II)(マグネシウム錯体(F3);以下、マグネシウム錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、水酸化マグネシウム0.52g(8.9mmol)及びメタノール13ml、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン5.06g(22.2mmol)及び水5mlを入れ、室温下、攪拌しながら30分間反応させた。反応終了後、反応液を濃縮し、濃縮物を減圧蒸留(230℃、27Pa)し、白色固体として、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)マグネシウム(II)3.11gを得た(単離収率:73.0%)。
【0113】
ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)マグネシウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0114】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.06〜1.17(36H,m)、3.40(4H,s)、3.46〜3.53(4H,m)、5.58(2H,s)
IR(neat(cm−1));2967、2865、1595、1529、1505、1435、1387、1357、1126、1069、876、795、755
元素分析(C26H46O6Mg);炭素:65.0%、水素:9.5%、マグネシウム:12.0%(理論値;炭素:65.2%、水素:9.7%、マグネシウム:5.1%)
MS(m/e);510、421、377、251、183、101、57
融点;65〜68℃
【0115】
実施例22(熱安定性の評価)
本発明のビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)マグネシウム(II)(マグネシウム錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図9に示した。
【0116】
図9のTGデータの結果より、本発明のマグネシウム錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0117】
実施例23(トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)アルミニウム(III)(アルミニウム錯体(G3);以下、アルミニウム錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液3.04g(15.8mmol)及びメタノール10mlを加え、氷冷下、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン3.80g(16.6mmol)をゆるやかに滴下し、5分間攪拌させた。次いで、塩化アルミニウム(III)0.67g(5.0mmol)をメタノール10mlに溶解させた溶液をゆるやかに滴下し、氷冷下、攪拌しながら30分間反応させた。その後、メチルシクロヘキサン30ml及び水30mlを加え、有機層を分液し、水洗後有機層を濃縮した。その濃縮物を減圧蒸留(180℃、23Pa)し、白色固体として、トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)アルミニウム(III)2.46gを得た(単離収率:69.1%)。
【0118】
トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)アルミニウム(III)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0119】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.05〜1.13(54H,m)、3.41〜3.45(12H,m)、5.67(3H,s)
IR(neat(cm−1));2968、2868、1579、1540、1510、1434、1398、1280、1175、1149、1116、880、795、659、535
元素分析(C39H69O9Al);炭素:66.0%、水素:9.8%、アルミニウム:3.8%(理論値;炭素:66.1%、水素:9.8%、アルミニウム:3.8%)
MS(m/e);708、481、422、57
融点;77〜88℃
【0120】
実施例24(熱安定性の評価)
本発明のトリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)アルミニウム(III)(アルミニウム錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図10に示した。
【0121】
図10のTGデータの結果より、本発明のアルミニウム錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0122】
実施例25(トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ランタン(III)(ランタン錯体(H3);以下、ランタン錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液3.01g(15.6mmol)及びメタノール5mlを加え、氷冷下、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン3.69g(16.2mmol)をゆるやかに滴下し、5分間攪拌させた。次いで、塩化ランタン(III)7水和物1.89g(5.1mmol)をメタノール10mlに溶解させた溶液をゆるやかに滴下し、氷冷下、攪拌しながら30分間反応させた。その後、メチルシクロヘキサン30ml及び水30mlを加え、有機層を分液し、水洗後有機層を濃縮した。その濃縮物を減圧蒸留(220℃、23Pa)し、淡黄色の粘性液体として、トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ランタン(III)3.79gを得た(単離収率:90.7%)。
【0123】
トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ランタン(III)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0124】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));0.97〜1.16(54H,m)、3.38(6H,s)、3.43〜3.52(6H,q)、5.67(3H,s)
IR(neat(cm−1));2969、2867、1574、1533、1503、1412、1359、1224、1174、1119、870、792、751、475
元素分析(C39H69O9La);炭素:57.2%、水素:8.6%、ランタン:16.7%(理論値;炭素:57.1%、水素:8.5%、ランタン:16.9%)
MS(m/e);820、719、593、510、411、353、127、57
【0125】
実施例26(熱安定性の評価)
本発明のトリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ランタン(III)(ランタン錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図11に示した。
【0126】
図11のTGデータの結果より、本発明のランタン錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0127】
実施例27(トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)イットリウム(III)(イットリウム錯体(I3);以下、イットリウム錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液3.10g(16.1mmol)及びメタノール3mlを加え、氷冷下、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン3.80g(16.6mmol)をゆるやかに滴下し、5分間攪拌させた。次いで、塩化イットリウム(III)6水和物1.58g(5.2mmol)をメタノール10mlに溶解させた溶液をゆるやかに滴下し、氷冷下、攪拌しながら30分間反応させた。その後、メチルシクロヘキサン30ml及び水30mlを加え、有機層を分液し、水洗後有機層を濃縮した。その濃縮物を減圧蒸留(190℃、28Pa)し、淡黄色の粘性液体として、トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)イットリウム(III)3.26gを得た(単離収率:81.2%)。
【0128】
トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)イットリウム(III)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0129】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.03〜1.15(54H,m)、3.39(6H,s)、3.42〜3.48(6H,q)、5.74(3H,s)
IR(neat(cm−1));2966、2868、1575、1538、1506、1422、1359、1226、1174、1108、872、793、759、475
元素分析(C39H69O9Y);炭素:61.1%、水素:9.2%、イットリウム:16.4%(理論値;炭素:60.8%、水素:9.0%、イットリウム:11.5%)
MS(m/e);770、713、669、625、543、499、441、328、171、127、57
【0130】
実施例28(熱安定性の評価)
本発明のトリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)イットリウム(III)(イットリウム錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図12に示した。
【0131】
図12のTGデータの結果より、本発明のイットリウム錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0132】
実施例29(ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)コバルト(II)(コバルト錯体(J3);以下、コバルト錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液3.08g(16.0mmol)及びメタノール5mlを加え、氷冷下、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン3.76g(16.5mmol)をゆるやかに滴下し、5分間攪拌させた。次いで、塩化コバルト(II)1.02g(7.9mmol)をメタノール10mlに溶解させた溶液をゆるやかに滴下し、氷冷下、攪拌しながら30分間反応させた。その後、メチルシクロヘキサン30ml及び水30mlを加え、有機層を分液し、水洗後有機層を濃縮した。その濃縮物を減圧蒸留(170℃、27Pa)し、暗赤色の粘性液体として、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)コバルト(II)3.83gを得た(単離収率:95.0%)。
【0133】
ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)コバルト(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0134】
IR(neat(cm−1));2967、2865、1584、1535、1502、1449、1424、1358、1123、1061、874、793、754、610、483
元素分析(C26H46O6Co);炭素:61.0%、水素:9.1%、コバルト:11.3%(理論値;炭素:60.8%、水素:9.0%、コバルト:11.5%)
MS(m/e);513、510、456、385、286、171、101、57
【0135】
実施例30(熱安定性の評価)
本発明のビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)コバルト(II)(コバルト錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図13に示した。
【0136】
図13のTGデータの結果より、本発明のコバルト錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明により、CVD法による成膜に適した新規な有機金属錯体を提供することができる。また、当該金属錯体を用いて、CVD法により金属含有薄膜を製造する方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0138】
(図3)
4 バルブ
5 気化器
11 反応器
6 気化器ヒーター
10 反応器ヒーター
7 原料ストロンチウム錯体
9 基板
(図5)
1 バルブ
3 気化器
4 反応器
10B 気化器ヒーター
10C 反応器ヒーター
20 原料有機ニッケル錯体
21 基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機金属錯体、及び当該金属錯体を用いて、化学気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition法;以下、CVD法と称する)により金属含有薄膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ストロンチウム含有膜の一つである酸化ストロンチウム薄膜は、DRAMキャパシタの高誘電体膜や不揮発性メモリの強誘電体膜(STO、SBT)等に用いられている。このような酸化ストロンチウム薄膜を得る方法としては、例えば、ゾルゲル法、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法等の方法が開発されているが、最近では、均一な薄膜を製造し易いCVD法によるストロンチウム含有薄膜の製造法が最も盛んに検討されている。
【0003】
従来、CVD法によるストロンチウム含有薄膜を製造するためのストロンチウム錯体としては、例えば、シクロペンタジエニル誘導体を配位子に用いたストロンチウム錯体(例えば、特許文献1及び2参照)、β−ジケトナト誘導体を配位子としたストロンチウム錯体(例えば、特許文献3及び4参照)、更に、室温で液体のビス(1−(2−メトキシエトキシ)−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(例えば、特許文献3参照)が開示されている。
【0004】
また、近年、トランジスタの高性能化に伴い、ゲート絶縁膜の材料として、誘電率がシリコン酸化膜の3倍程度ある窒素添加ハフニウムシリケートの採用が本格化している。それに伴い、ソースとドレイン部の拡散層の浅接合化およびゲート電極のメタル化の検討がなされており、それらに対する新材料が要求されている。その新材料としては、コバルトシリサイドやニッケルシリサイド等が候補とされ、拡散層の深さを考慮して、ニッケルシリサイドが有力視されている。このニッケルシリサイドの形成技術に、ニッケルの薄膜形成が要求されている。又、抵抗変化型不揮発メモリ用途として、酸化ニッケル薄膜の形成も要求されている。一方、薄膜形成方法としては、スパッタ法、CVD法が用いられるが、スパッタ法は周辺半導体素子へのダメージ、又はトランジスタ構造の微細化から、CVD法での膜形成がより有用であるとされている。
【0005】
従来、CVD法によるニッケル含有薄膜を形成するためのニッケル錯体としては、例えば、シクロペンタジエニル誘導体を配位子に用いたニッケル錯体(例えば、特許文献5〜7参照)、β−ケトイミナトニッケル錯体(例えば、特許文献8参照)、ニッケルアミノアルコキシド錯体(例えば、特許文献9参照)、ニッケルアミド錯体(例えば、特許文献10参照)やテトラキス(トリフルオロホスフィン)ニッケル錯体(例えば、特許文献11参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−30164号公報
【特許文献2】特開2009−40707号公報
【特許文献3】特許3904255号公報
【特許文献4】特許3964976号公報
【特許文献5】特開2005−93732号公報
【特許文献6】特開2006−124743号公報
【特許文献7】国際公開第2009/081797号パンフレット
【特許文献8】特開2007−302656号公報
【特許文献9】特表2008−537947号公報
【特許文献10】特開2006−124291号公報
【特許文献11】特開2008−231473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2記載のシクロペンタジエニル誘導体を配位子に用いたストロンチウム錯体は、酸素との反応が激し過ぎるために、ストロンチウム含有薄膜製造時の制御に問題があった。又、特許文献3及び4記載のβ−ジケトナト誘導体を配位子としたストロンチウム錯体、例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ノナンジオナト)ストロンチウムは、高融点の固体であるために、一定の供給量を保つことが困難である上に、配管閉塞を引き起こす恐れがあるという問題があった。
【0008】
その中でも室温で液体のストロンチウム錯体の提案もなされているが、当該ストロンチウム錯体は、蒸気圧が低く、ストロンチウム含有薄膜製造時のストロンチウム錯体の供給が難しくなってしまう問題があった。
【0009】
以上のように、上記いずれのストロンチウム錯体も何らかの問題を有しており、それらを用いたストロンチウム含有薄膜の製造法は工業的な製造法としては有利ではなかった。
【0010】
また、CVD法で用いられるニッケル錯体のうち、シクロペンタジエニル系ニッケル錯体やテトラキス(トリフルオロホスフィン)ニッケル錯体は、蒸気圧が高いものの、空気、水分又は熱に対して不安定であるために取り扱いが難しく、多量に使用する工業的な生産の際には問題であった。又、β−ケトイミナトニッケル錯体やニッケルアミド錯体は高融点の固体であるために、CVD原料用途としては気化量変動の問題があり、更にはCVDでの途中、配管内で閉塞を起こす可能性もある。一方、ニッケルアミノアルコキシド錯体は、一部の錯体で低融点であるものの、その多くは固体であり、水分に対して不安定であるため、その製造や取り扱いに問題があった。
【0011】
以上のように、上記いずれの有機ニッケル錯体も問題を有しており、当該有機ニッケル錯体を用いたニッケル含有薄膜の製造方法は工業的な製造方法としては採用し難かった。
【0012】
また、他の金属錯体に関しても、半導体、電子部品、光学部品など、様々な分野の材料として多くの研究と開発がなされており、特にCVD法による成膜に適した有機金属錯体が求められている。
【0013】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、低融点を有し、且つ熱に対しての安定性に優れるとともに、CVD法による成膜に適した有機金属錯体を提供することにある。又、本発明の課題は、当該有機金属錯体を用いた金属含有薄膜の製造法を提供するものでもある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の事項に関する。
【0015】
1. 一般式(1)
【0016】
【化1】
(式中、Mは、金属原子を示し、Xは、一般式(2)
【0017】
【化2】
で示されるアルコキシアルキル基(式中、n=0又は1、Ra、Rc及びRdは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示し、Rbは、炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキレン基を示す。)、Yは、一般式(2)で示される基又は炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基、Zは、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。mは、配位子の数を示し、金属Mの価数に等しい。
但し、MがSrであり、n=1であり、Ra、Rc及びRdが全てメチル基、Rbがメチレン基、Yがt−ブチル基であって、Zが水素原子であることを同時に満たす場合を除く。)
で示されるアルコキシアルキル基を有するβ−ジケトナトを配位子とすることを特徴とする有機金属錯体。
【0018】
2. Mが、Sr、Ni、Li、Cu、Zn、Mg、Al、La、Co又はYである上記1記載の有機金属錯体。
【0019】
3. 上記1に記載の有機金属錯体、又は上記1に記載の有機金属錯体の溶媒溶液を金属供給源として用いた化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【0020】
4. 上記1に記載の有機金属錯体、又は上記1に記載の有機金属錯体の溶媒溶液と、酸素源とを用いた上記3記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【0021】
5. 酸素源が酸素ガスである上記4記載の金属含有薄膜の製造法。
【0022】
6. 上記1に記載の有機金属錯体、又は上記1に記載の有機金属錯体の溶媒溶液と、還元性ガスとを用いた上記3記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【0023】
7. 還元性ガスが水素ガス又はアンモニアガス、もしくはそれらの混合ガスである上記6記載の金属含有薄膜の製造法。
【0024】
8. 使用する溶媒が、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類及びエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒である上記3乃至7のいずれか1項に記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の有機金属錯体は、低融点を有し、且つ熱に対しての安定性に優れており、CVD法による成膜に適している。また、本発明の有機金属錯体を用いて、CVD法により、良好な成膜特性で、金属含有薄膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のストロンチウム錯体(3)、及びビス(ジピバロイルメタナト)ストロンチウム(II)(Sr(dpm)2)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図2】本発明のストロンチウム錯体(5)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図3】有機ストロンチウム錯体と酸素ガスとを用いてストロンチウム含有薄膜を製造する蒸着装置の構成を示す図である。
【図4】本発明のニッケル錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図5】有機ニッケル錯体を用いてニッケル含有薄膜を製造する蒸着装置の構成を示す図である。
【図6】本発明のリチウム錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図7】本発明の銅錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図8】本発明の亜鉛錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図9】本発明のマグネシウム錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図10】本発明のアルミニウム錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図11】本発明のランタン錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図12】本発明のイットリウム錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【図13】本発明のコバルト錯体(3)の熱重量分析(TG)データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の有機金属錯体は、アルコキシアルキル基を有するβ−ジケトナトを配位子とする金属錯体であり、前記の一般式(1)で示される。
【0028】
前記の一般式(1)において、Mは、金属原子を示し、例えばSr、Ni、Li、Cu、Zn、Mg、Al、La、Co又はYである。
【0029】
好ましい配位子は金属(M)によって異なり、MがSrの場合は、n=1であり、Ra、Rc及びRdが全てメチル基、Rbがメチレン基、Yがt−ブチル基であって、Zが水素原子であることは好ましくない。
【0030】
前記の一般式(1)において、Xは、前記の一般式(2)で示されるアルコキシアルキル基を示し、一般式(2)中、n=0又は1であり、Ra、Rc及びRdは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示し、Rbは、炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキレン基を示す。Yは、一般式(2)で示される基又は炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基、Zは、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。但し、MがSrの場合は、n=1であり、Ra、Rc及びRdが全てメチル基、Rbがメチレン基、Yがt−ブチル基であって、Zが水素原子であることを同時に満たす場合を除く。
【0031】
なお、n=0の場合、2つの−Rb−O−Raは同一でも異なっていてもよく、また、Yが一般式(2)で示される基である場合、XとYは同一でも異なっていてもよい。
【0032】
Raとしては、炭素原子数1〜4の直鎖又は分枝状のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基がより好ましく、エチル基が特に好ましい。
【0033】
Rbとしては、炭素原子数1〜3の直鎖又は分枝状のアルキレン基が好ましく、炭素原子数1〜2の直鎖又は分枝状のアルキレン基がより好ましく、メチレン基が特に好ましい。
【0034】
Rc及びRdとしては、炭素原子数1〜3の直鎖又は分枝状のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0035】
Yとしては、一般式(2)で示される基、又は炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基が好ましく、炭素原子数3〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基がより好ましく、tert−ブチル基が特に好ましい。
【0036】
Zとしては、水素原子が好ましい。
【0037】
前記の一般式(1)において、mは、配位子の数を示し、金属Mの価数に等しい。
【0038】
本発明の有機ストロンチウム錯体の具体例としては、例えば、式(A3)から式(A14)で示される。
【0039】
【化3】
【0040】
本発明の有機ニッケル錯体の具体例としては、例えば、式(B3)から式(B14)で示される。
【0041】
【化4】
【0042】
本発明のリチウム錯体の具体例としては、例えば、式(C3)から式(C14)で示される。
【0043】
【化5】
本発明の銅錯体の具体例としては、例えば、式(D3)から式(D14)で示される。
【0044】
【化6】
本発明の亜鉛錯体の具体例としては、例えば、式(E3)から式(E14)で示される。
【0045】
【化7】
本発明のマグネシウム錯体の具体例としては、例えば、式(F3)から式(F14)で示される。
【0046】
【化8】
本発明のアルミニウム錯体の具体例としては、例えば、式(G3)から式(G14)で示される。
【0047】
【化9】
本発明のランタン錯体の具体例としては、例えば、式(H3)から式(H14)で示される。
【0048】
【化10】
本発明のイットリウム錯体の具体例としては、例えば、式(I3)から式(I14)で示される。
【0049】
【化11】
本発明のコバルト錯体の具体例としては、例えば、式(J3)から式(J14)で示される。
【0050】
【化12】
本発明の有機金属錯体は、低融点であり、しかも熱安定性が高いため、CVD法での使用におけるバブリング時の長期の加熱においても問題なく使用できる。
【0051】
本発明の有機金属錯体の配位子であるβ−ジケトナトは対応するβ−ジケトンから得られるが、これらのβ−ジケトンは、例えば、式(A3)のストロンチウム錯体および式(B3)のニッケル錯体の配位子であるβ−ジケトナトに対応するβ−ジケトン、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオンは、下記式で示される方法等によって容易に得ることが出来る。
【0052】
【化13】
なお、本発明の金属錯体は、公知のβ−ジケトナトを配位子とする金属錯体の製造方法を参考にして、例えば、溶媒中で、金属酸化物、金属塩化物、金属水酸化物等の金属化合物と対応するβ−ジケトンとを反応させることにより製造することができる。
【0053】
CVD法においては、薄膜形成のために有機金属錯体を気化させる必要があるが、本発明の有機金属錯体を気化させる方法としては、例えば、有機金属錯体自体を気化室に充填又は搬送して気化させる方法だけでなく、有機金属錯体を適当な溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。)に希釈した溶液を液体搬送用ポンプで気化室に導入して気化させる方法(溶液法)も使用出来る。
【0054】
成膜対象物上へのストロンチウム含有薄膜の蒸着方法としては、公知のCVD法で行うことが出来、例えば、常圧又は減圧下にて、ストロンチウム錯体蒸気を酸素源(例えば、酸素、オゾン等の酸化性ガス;水;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等のアルコール類)と共に加熱した成膜対象物上に送り込んでストロンチウム含有薄膜を蒸着させる方法が使用出来る。なお、これらのガス(気化した液体も含む)は不活性ガス等で希釈されていても良い。又、同様な原料供給により、プラズマCVD法でストロンチウム含有薄膜を蒸着させることも出来る。
【0055】
本発明の有機ストロンチウム錯体を用いてストロンチウム含有薄膜を蒸着させる場合、その蒸着条件としては、例えば、反応系内の圧力は、好ましくは1Pa〜200kPa、更に好ましくは10Pa〜110kPa、成膜対象物温度は、好ましくは50〜900℃、更に好ましくは100〜600℃、有機ストロンチウム錯体を気化させる温度は、好ましくは60〜400℃、更に好ましくは100〜300℃である。
【0056】
なお、ストロンチウム含有薄膜を蒸着させる際の全ガス量に対する酸素源(例えば、酸化性ガス、水蒸気又はアルコール蒸気、もしくはこれらの混合ガス)の含有割合としては、好ましくは3〜99容量%、更に好ましくは5〜98容量%である。
【0057】
成膜対象物上へのニッケル含有薄膜の蒸着方法としては、公知のCVD法で行うことが出来、例えば、常圧又は減圧下にて、有機ニッケル錯体蒸気を酸素源(例えば、酸素、オゾン等の酸化性ガス;水;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等のアルコール類)又は還元性ガス(例えば、水素ガス、アンモニアガス)と共に加熱した成膜対象物上に送り込んでニッケル含有薄膜を蒸着させる方法が使用出来る。なお、これらのガス(気化した液体も含む)は不活性ガス等で希釈されていても良い。又、同様な原料供給により、プラズマCVD法でニッケル含有薄膜を蒸着させることも出来る。
【0058】
本発明の有機ニッケル錯体を用いてニッケル含有薄膜を蒸着させる場合、その蒸着条件としては、例えば、反応系内の圧力は、好ましくは1Pa〜200kPa、更に好ましくは10Pa〜110kPa、成膜対象物温度は、好ましくは50〜900℃、更に好ましくは100〜600℃、有機ニッケル錯体を気化させる温度は、好ましくは30〜250℃、更に好ましくは60〜200℃である。
【0059】
なお、ニッケル含有薄膜を蒸着させる際の全ガス量に対する酸素源(例えば、酸化性ガス、水蒸気又はアルコール蒸気、もしくはこれらの混合ガス)又は還元性ガス(例えば、水素ガス又はアンモニアガス、もしくはこれらの混合ガス)の含有割合としては、好ましくは3〜99容量%、更に好ましくは5〜98容量%である。
【0060】
他の金属含有薄膜も、上記のストロンチウム含有薄膜及びニッケル含有薄膜と同様にして成膜することができる。
【実施例】
【0061】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0062】
実施例1(ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(ストロンチウム錯体(A3);以下、ストロンチウム錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、酸化ストロンチウム0.4g(3.9mmol)及びテトラヒドロフラン10mlを加えた。次いで、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン1.7g(6.1mmol)を水冷下にて滴下させた後、水0.2gを滴下して1時間反応させた。
【0063】
反応終了後、反応液を減圧下にて濃縮し、濃縮物にヘキサン10mlを加えた。得られた溶液を濾過後、濾液を濃縮した後に、濃縮物を減圧蒸留(310℃、16Pa)して、黄色固体として、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)1.3gを得た(単離収率:62.5%)。
【0064】
ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0065】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.04〜1.11(36H,m)、3.32(4H,s)、3.47(4H,q)、5.50(2H,s)
IR(neat(cm−1));2967、2868、1596、1503、1427、1359、1223、1179、1123、1068、870、790、749、474
元素分析(C26H46O6Sr);炭素:57.4%、水素:8.8%、ストロンチウム:16.0%(理論値;炭素:57.6%、水素:8.6%、ストロンチウム:16.2%)
融点;40〜44℃
【0066】
実施例2(ビス(2,2−ビス(メトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(ストロンチウム錯体(A13);以下、ストロンチウム錯体(13)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、酸化ストロンチウム0.2g(1.9mmol)及びテトラヒドロフラン5mlを加えた。次いで、2,2−ビス(メトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン0.7g(2.9mmol)を水冷下にて滴下させた後、水0.2gを滴下して1時間反応させた。
【0067】
反応終了後、反応液を減圧下にて濃縮し、濃縮物にヘキサン10mlを加えた。得られた溶液を濾過後、濾液を濃縮した後に、濃縮物を減圧蒸留(320℃、16Pa)して、黄色固体として、ビス(2,2−ビス(メトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)0.5gを得た(単離収率:61.0%)。
【0068】
ビス(2,2−ビス(メトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0069】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.03(24H,m)、3.36(16H,m)、3.57(4H,d)、5.38(2H,s)
IR(neat(cm−1));2966、1596、1606、1532、1499、1429、1389、1361、1272、1225、1174、1123、1080、1019、861、794、735、475
元素分析(C26H46O8Sr);炭素:54.6%、水素:8.2%、ストロンチウム:15.1%(理論値;炭素:54.4%、水素:8.1%、ストロンチウム:15.3%)
融点;75〜79℃
【0070】
実施例3(ビス(2,2−ビス(エトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(ストロンチウム錯体(A14);以下、ストロンチウム錯体(14)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、酸化ストロンチウム0.2g(1.9mmol)及びテトラヒドロフラン10mlを加えた。次いで、2,2−ビス(エトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン0.8g(2.9mmol)を水冷下にて滴下させた後、水0.2gを滴下して1時間反応させた。
【0071】
反応終了後、反応液を減圧下にて濃縮し、濃縮物にヘキサン10mlを加えた。得られた溶液を濾過後、濾液を濃縮した後に、濃縮物を減圧蒸留(320℃、35Pa)して、黄色固体として、ビス(2,2−ビス(エトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)0.4gを得た(単離収率:43.2%)。
【0072】
ビス(2,2−ビス(エトキシメチル)−6,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0073】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.02(24H,s)、1.16(12H,t)、3.50(4H,d)、3.59(12H,m)、5.40(2H,s)
IR(neat(cm−1));2966、1596、1606、1532、1499、1429、1389、1361、1272、1225、1174、1123、1080、1019、861、794、735、475
元素分析(C30H54O8Sr);炭素:57.4%、水素:8.7%、ストロンチウム:13.8%(理論値;炭素:57.2%、水素:8.6%、ストロンチウム:13.9%)
融点;40℃
【0074】
実施例4(ビス(1−n−プロポキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(ストロンチウム錯体(A5);以下、ストロンチウム錯体(5)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、水酸化ストロンチウム8水和物2.72g(10.2mmol)及びテトラヒドロフラン20mlを加えた。次いで、n−プロポキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン4.9g(20.1mmol)を水冷下にて滴下させて1時間反応させた。
【0075】
反応終了後、反応液を減圧下にて濃縮し、濃縮物にヘキサン40mlを加えた。得られた溶液を濾過後、濾液を濃縮した後に、濃縮物を減圧蒸留(310℃、18Pa)して、黄色高粘性液体として、ビス(1−n−プロポキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)3.9gを得た(単離収率:67.4%)。
【0076】
ビス(1−n−プロポキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0077】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));0.83(6H,t)、1.04〜1.07(30H,m)、1.54(4H,m)、3.35(8H,m)、5.50(2H,s)
IR(neat(cm−1));2963、2873、1595、1502、1427、1359、1223、1122、1073、868、790、749、474
元素分析(C28H50O6Sr);炭素:60.0%、水素:8.9%、ストロンチウム:15.2%(理論値;炭素:59.0%、水素:8.8%、ストロンチウム:15.4%)
【0078】
実施例5(熱安定性の評価)
本発明のビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(ストロンチウム錯体(3))、及び一般的に広く使用されているビス(ジピバロイルメタナト)ストロンチウム(II)(Sr(dpm)2;市販品を昇華精製して使用した)の熱安定性の評価を行った。その結果を図1に示した。
【0079】
図1のTGデータの結果より、本発明のストロンチウム錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0080】
また、本発明のビス(1−n−プロポキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ストロンチウム(II)(ストロンチウム錯体(5))の熱安定性の評価を行った。その結果を図2に示した。
【0081】
図2のTGデータの結果より、本発明のストロンチウム錯体(5)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0082】
実施例6〜9(蒸着実験;ストロンチウム含有薄膜の製造)
実施例1〜4で得られた有機ストロンチウム錯体を用いて、CVD法による蒸着実験を行い、成膜特性を評価した。
【0083】
評価試験には、図3に示す装置を使用した。気化器5(ガラス製アンプル)にあるストロンチウム錯体7は、ヒーター6で加熱されて気化し、マスフローコントローラー1Aを経て導入されたヘリウムガスに同伴し気化器5を出る。気化器5を出たガスは、マスフローコントローラー1Bで導入された酸素ガスとともに反応器11に導入される。反応系内圧力は真空ポンプ手前のバルブ14の開閉により、所定圧力にコントロールされ、圧力計12によってモニターされる。ガラス製反応器の中央部はヒーター10で加熱可能な構造となっている。反応器に導入されたストロンチウム錯体は、反応器内中央部にセットされ、ヒーター10で所定の温度に加熱された被蒸着基板9の表面上で反応分解し、基板9上に酸化ストロンチウム膜が析出する。反応器11を出たガスは、トラップ13、真空ポンプを経て、大気中に排気される構造となっている。
【0084】
蒸着結果(成膜特性)を表1に示す。なお、ストロンチウム含有薄膜の製造における共通蒸着条件は以下の通りである。
【0085】
ストロンチウム錯体気化温度;220℃
Heキャリアー流量;30ml/min.
酸素流量;350ml/min.
蒸着基板;SiO2/Si(6mm×20mmサイズ)
基板温度;525℃
反応系内圧力;3990Pa
蒸着時間;30分
【0086】
【表1】
【0087】
該結果より、本発明の有機ストロンチウム錯体(アルコキシアルキル基を有するβ−ジケトナトを配位子とするストロンチウム錯体)を用いることにより、優れた特性を有するストロンチウム含有薄膜を製造することが可能であることが分かる。
【0088】
実施例10(ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ニッケル(II)(ニッケル錯体(B3);以下、ニッケル錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、28%のナトリウムメトキシド・メタノール溶液3.62g(18.8mmol)を加えた後、室温にて、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン4.35g(19.0mmol)を滴下した。滴下終了後、塩化ニッケル6水和物2.22g(9.34mmol)をメタノール15mlに溶かしたメタノール溶液を滴下し、その後、攪拌しながら5分間反応させた。反応終了後、水30ml及びメチルシクロヘキサン50mlを加えて分液し、得られた有機層を濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(200℃、15Pa)し、粘性のある暗緑色粘性液体として、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ニッケル(II)4.41gを得た(単離収率;92%)。
【0089】
IR(neat(cm−1));2967、2931、2903、2867、1587、1528、1501、1419、1360、1111、1069、875、791、755、487
元素分析(C26H46O6Ni);炭素:60.7%、水素:9.00%、ニッケル:11%(理論値;炭素:60.8%、水素:9.03%、ニッケル:11.4%)
MS(m/e);512、455、286、57
【0090】
実施例11(熱安定性の評価)
本発明のビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ニッケル(II)(ニッケル錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図4に示した。
【0091】
図4のTGデータの結果より、本発明のニッケル錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0092】
実施例12〜14(蒸着実験;ニッケル含有薄膜の製造)
実施例10で得られたニッケル錯体を用いて、CVD法による蒸着実験を行い、成膜特性を評価した。
【0093】
評価試験には、図5に示す装置を使用した。気化器3(ガラス製アンプル)にあるニッケル錯体20は、ヒーター10Bで加熱されて気化し、マスフローコントローラー1Aを経て予熱器10Aで予熱後導入されたヘリウムガスに同伴し気化器3を出る。気化器3を出たガスは、マスフローコントローラー1B、ストップバルブ2を経て導入された酸素ガス、水素ガスもしくはアンモニアガスとともに反応器4に導入される。反応系内圧力は真空ポンプ手前のバルブ6の開閉により、所定圧力にコントロールされ、圧力計5によってモニターされる。反応器の中央部はヒーター10Cで加熱可能な構造となっている。反応器に導入されたニッケル錯体は、反応器内中央部にセットされ、ヒーター10Cで所定の温度に加熱された被蒸着基板21の表面上で酸化熱分解もしくは還元分解され、基板21上にニッケル含有薄膜が析出する。反応器4を出たガスは、トラップ7、真空ポンプを経て、大気中に排気される構造となっている。
【0094】
蒸着条件及び蒸着結果(成膜特性)を表2に示す。なお、被蒸着基板としては、6mm×20mmサイズの矩形のものを使用した。
【0095】
【表2】
【0096】
該結果より、本発明の有機ニッケル錯体(アルコキシアルキル基を有するβ−ジケトナトを配位子とする有機ニッケル錯体)を用いることにより、優れた特性を有するニッケル含有薄膜を製造することが可能であることが分かる。
【0097】
実施例15((1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)リチウム(I)(リチウム錯体(C3);以下、リチウム錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液5.05g(26.2mmol)及びメタノール10mlを加え、氷冷下、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン6.06g(26.5mmol)をゆるやかに滴下し、5分間攪拌させた。次いで、塩化リチウム(I)1.08g(25.5mmol)をメタノール10mlに溶解させた溶液をゆるやかに滴下し、氷冷下、攪拌しながら30分間反応させた。その後、メチルシクロヘキサン40ml及び水40mlを加え、有機層を分液し、水洗した有機層を濃縮した。その濃縮物を減圧蒸留(185℃、23Pa)し、黄色固体として、(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)リチウム(I)1.58gを得た(単離収率:26.5%)。
【0098】
(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)リチウム(I)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0099】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.09(9H,s)、1.13〜1.16(9H,m)、3.36(2H,s)、3.64(2H,q)、5.53(1H,s)
IR(neat(cm−1));2965、2868、1609、1503、1432、1389、1362、1303、1223、1121、1090、867、790、748、613、557、518
元素分析(C13H23O3Li);炭素:67.0%、水素:10.0%、リチウム:29.8%(理論値;炭素:66.7%、水素:9.9%、リチウム:30.0%)
MS(m/e);510、453、241、183、57
融点;78〜81℃
【0100】
実施例16(熱安定性の評価)
本発明の(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)リチウム(I)(リチウム錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図6に示した。
【0101】
図6のTGデータの結果より、本発明のリチウム錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0102】
実施例17(ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)銅(II)(銅錯体(D3);以下、銅錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、水酸化銅1.24g(12.7mmol)、1,2−ジメトキシエタン12ml、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン3.26g(14.3mmol)及び水1mlを入れ、室温下、攪拌しながら30分間反応させた。反応終了後、濾過を行い、濾液を濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(170℃、27Pa)し、粘性のある暗緑色粘性液体として、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)銅(II)0.28gを得た(単離収率:7.6%)。
【0103】
ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)銅(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0104】
IR(neat(cm−1));2968、2868、1552、1504、1405、1361、1273、1227、1176、1115、877、793、757
元素分析(C26H46O6Cu);炭素:61.0%、水素:9.1%、銅:12.2%(理論値;炭素:60.3%、水素:9.0%、銅:12.3%)
MS(m/e);517、460、289、233、101、57
【0105】
実施例18(熱安定性の評価)
本発明のビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)銅(II)(銅錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図7に示した。
【0106】
図7のTGデータの結果より、本発明の銅錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0107】
実施例19(ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)亜鉛(II)(亜鉛錯体(E3);以下、亜鉛錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、水酸化ナトリウム0.60g(12.0mmol)、メタノール13ml及び水1mlを加え、氷冷下、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン3.60g(15.8mmol)をゆるやかに滴下し、5分間攪拌させた。次いで、塩化亜鉛(II)1.06g(7.8mmol)をメタノール13mlに溶解させた溶液をゆるやかに滴下し、氷冷下、攪拌しながら30分間反応させた。その後、メチルシクロヘキサン30ml及び水30mlを加え、有機層を分液し、水洗後有機層を濃縮した。その濃縮物を減圧蒸留(170℃、24Pa)し、粘性のある淡黄色液体として、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)亜鉛(II)1.17gを得た(単離収率:30.0%)。
【0108】
ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)亜鉛(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0109】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.13〜1.19(36H,m)、3.41(4H,s)、3.45〜3.50(4H,m)、5.80(2H,s)
IR(neat(cm−1));2969、2868、1551、1505、1388、1359、1224、1114、875、795
元素分析(C26H45O6Zn);炭素:60.2%、水素:9.0%、亜鉛:12.4%(理論値;炭素:60.1%、水素:8.9%、亜鉛:12.6%)
【0110】
実施例20(熱安定性の評価)
本発明のビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)亜鉛(II)(亜鉛錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図8に示した。
【0111】
図8のTGデータの結果より、本発明の亜鉛錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0112】
実施例21(ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)マグネシウム(II)(マグネシウム錯体(F3);以下、マグネシウム錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、水酸化マグネシウム0.52g(8.9mmol)及びメタノール13ml、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン5.06g(22.2mmol)及び水5mlを入れ、室温下、攪拌しながら30分間反応させた。反応終了後、反応液を濃縮し、濃縮物を減圧蒸留(230℃、27Pa)し、白色固体として、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)マグネシウム(II)3.11gを得た(単離収率:73.0%)。
【0113】
ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)マグネシウム(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0114】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.06〜1.17(36H,m)、3.40(4H,s)、3.46〜3.53(4H,m)、5.58(2H,s)
IR(neat(cm−1));2967、2865、1595、1529、1505、1435、1387、1357、1126、1069、876、795、755
元素分析(C26H46O6Mg);炭素:65.0%、水素:9.5%、マグネシウム:12.0%(理論値;炭素:65.2%、水素:9.7%、マグネシウム:5.1%)
MS(m/e);510、421、377、251、183、101、57
融点;65〜68℃
【0115】
実施例22(熱安定性の評価)
本発明のビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)マグネシウム(II)(マグネシウム錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図9に示した。
【0116】
図9のTGデータの結果より、本発明のマグネシウム錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0117】
実施例23(トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)アルミニウム(III)(アルミニウム錯体(G3);以下、アルミニウム錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液3.04g(15.8mmol)及びメタノール10mlを加え、氷冷下、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン3.80g(16.6mmol)をゆるやかに滴下し、5分間攪拌させた。次いで、塩化アルミニウム(III)0.67g(5.0mmol)をメタノール10mlに溶解させた溶液をゆるやかに滴下し、氷冷下、攪拌しながら30分間反応させた。その後、メチルシクロヘキサン30ml及び水30mlを加え、有機層を分液し、水洗後有機層を濃縮した。その濃縮物を減圧蒸留(180℃、23Pa)し、白色固体として、トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)アルミニウム(III)2.46gを得た(単離収率:69.1%)。
【0118】
トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)アルミニウム(III)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0119】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.05〜1.13(54H,m)、3.41〜3.45(12H,m)、5.67(3H,s)
IR(neat(cm−1));2968、2868、1579、1540、1510、1434、1398、1280、1175、1149、1116、880、795、659、535
元素分析(C39H69O9Al);炭素:66.0%、水素:9.8%、アルミニウム:3.8%(理論値;炭素:66.1%、水素:9.8%、アルミニウム:3.8%)
MS(m/e);708、481、422、57
融点;77〜88℃
【0120】
実施例24(熱安定性の評価)
本発明のトリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)アルミニウム(III)(アルミニウム錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図10に示した。
【0121】
図10のTGデータの結果より、本発明のアルミニウム錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0122】
実施例25(トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ランタン(III)(ランタン錯体(H3);以下、ランタン錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液3.01g(15.6mmol)及びメタノール5mlを加え、氷冷下、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン3.69g(16.2mmol)をゆるやかに滴下し、5分間攪拌させた。次いで、塩化ランタン(III)7水和物1.89g(5.1mmol)をメタノール10mlに溶解させた溶液をゆるやかに滴下し、氷冷下、攪拌しながら30分間反応させた。その後、メチルシクロヘキサン30ml及び水30mlを加え、有機層を分液し、水洗後有機層を濃縮した。その濃縮物を減圧蒸留(220℃、23Pa)し、淡黄色の粘性液体として、トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ランタン(III)3.79gを得た(単離収率:90.7%)。
【0123】
トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ランタン(III)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0124】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));0.97〜1.16(54H,m)、3.38(6H,s)、3.43〜3.52(6H,q)、5.67(3H,s)
IR(neat(cm−1));2969、2867、1574、1533、1503、1412、1359、1224、1174、1119、870、792、751、475
元素分析(C39H69O9La);炭素:57.2%、水素:8.6%、ランタン:16.7%(理論値;炭素:57.1%、水素:8.5%、ランタン:16.9%)
MS(m/e);820、719、593、510、411、353、127、57
【0125】
実施例26(熱安定性の評価)
本発明のトリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)ランタン(III)(ランタン錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図11に示した。
【0126】
図11のTGデータの結果より、本発明のランタン錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0127】
実施例27(トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)イットリウム(III)(イットリウム錯体(I3);以下、イットリウム錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液3.10g(16.1mmol)及びメタノール3mlを加え、氷冷下、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン3.80g(16.6mmol)をゆるやかに滴下し、5分間攪拌させた。次いで、塩化イットリウム(III)6水和物1.58g(5.2mmol)をメタノール10mlに溶解させた溶液をゆるやかに滴下し、氷冷下、攪拌しながら30分間反応させた。その後、メチルシクロヘキサン30ml及び水30mlを加え、有機層を分液し、水洗後有機層を濃縮した。その濃縮物を減圧蒸留(190℃、28Pa)し、淡黄色の粘性液体として、トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)イットリウム(III)3.26gを得た(単離収率:81.2%)。
【0128】
トリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)イットリウム(III)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0129】
1H−NMR(CDCl3,δ(ppm));1.03〜1.15(54H,m)、3.39(6H,s)、3.42〜3.48(6H,q)、5.74(3H,s)
IR(neat(cm−1));2966、2868、1575、1538、1506、1422、1359、1226、1174、1108、872、793、759、475
元素分析(C39H69O9Y);炭素:61.1%、水素:9.2%、イットリウム:16.4%(理論値;炭素:60.8%、水素:9.0%、イットリウム:11.5%)
MS(m/e);770、713、669、625、543、499、441、328、171、127、57
【0130】
実施例28(熱安定性の評価)
本発明のトリス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)イットリウム(III)(イットリウム錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図12に示した。
【0131】
図12のTGデータの結果より、本発明のイットリウム錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【0132】
実施例29(ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)コバルト(II)(コバルト錯体(J3);以下、コバルト錯体(3)と称する)の合成)
攪拌装置、温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液3.08g(16.0mmol)及びメタノール5mlを加え、氷冷下、1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン3.76g(16.5mmol)をゆるやかに滴下し、5分間攪拌させた。次いで、塩化コバルト(II)1.02g(7.9mmol)をメタノール10mlに溶解させた溶液をゆるやかに滴下し、氷冷下、攪拌しながら30分間反応させた。その後、メチルシクロヘキサン30ml及び水30mlを加え、有機層を分液し、水洗後有機層を濃縮した。その濃縮物を減圧蒸留(170℃、27Pa)し、暗赤色の粘性液体として、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)コバルト(II)3.83gを得た(単離収率:95.0%)。
【0133】
ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)コバルト(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0134】
IR(neat(cm−1));2967、2865、1584、1535、1502、1449、1424、1358、1123、1061、874、793、754、610、483
元素分析(C26H46O6Co);炭素:61.0%、水素:9.1%、コバルト:11.3%(理論値;炭素:60.8%、水素:9.0%、コバルト:11.5%)
MS(m/e);513、510、456、385、286、171、101、57
【0135】
実施例30(熱安定性の評価)
本発明のビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)コバルト(II)(コバルト錯体(3))の熱安定性の評価を行った。その結果を図13に示した。
【0136】
図13のTGデータの結果より、本発明のコバルト錯体(3)は、低温で気化し、残渣が少なく、熱に対する安定性が高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明により、CVD法による成膜に適した新規な有機金属錯体を提供することができる。また、当該金属錯体を用いて、CVD法により金属含有薄膜を製造する方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0138】
(図3)
4 バルブ
5 気化器
11 反応器
6 気化器ヒーター
10 反応器ヒーター
7 原料ストロンチウム錯体
9 基板
(図5)
1 バルブ
3 気化器
4 反応器
10B 気化器ヒーター
10C 反応器ヒーター
20 原料有機ニッケル錯体
21 基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、Mは、金属原子を示し、Xは、一般式(2)
【化2】
で示されるアルコキシアルキル基(式中、n=0又は1、Ra、Rc及びRdは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示し、Rbは、炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキレン基を示す。)、Yは、一般式(2)で示される基又は炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基、Zは、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。mは、配位子の数を示し、金属Mの価数に等しい。
但し、MがSrであり、n=1であり、Ra、Rc及びRdが全てメチル基、Rbがメチレン基、Yがt−ブチル基であって、Zが水素原子であることを同時に満たす場合を除く。)
で示されるアルコキシアルキル基を有するβ−ジケトナトを配位子とすることを特徴とする有機金属錯体。
【請求項2】
Mが、Sr、Ni、Li、Cu、Zn、Mg、Al、La、Co又はYである請求項1記載の有機金属錯体。
【請求項3】
請求項1に記載の有機金属錯体、又は請求項1に記載の有機金属錯体の溶媒溶液を金属供給源として用いた化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【請求項4】
請求項1に記載の有機金属錯体、又は請求項1に記載の有機金属錯体の溶媒溶液と、酸素源とを用いた請求項3記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【請求項5】
酸素源が酸素ガスである請求項4記載の金属含有薄膜の製造法。
【請求項6】
請求項1に記載の有機金属錯体、又は請求項1に記載の有機金属錯体の溶媒溶液と、還元性ガスとを用いた請求項3記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【請求項7】
還元性ガスが水素ガス又はアンモニアガス、もしくはそれらの混合ガスである請求項6記載の金属含有薄膜の製造法。
【請求項8】
使用する溶媒が、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類及びエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒である請求項3乃至7のいずれか1項に記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、Mは、金属原子を示し、Xは、一般式(2)
【化2】
で示されるアルコキシアルキル基(式中、n=0又は1、Ra、Rc及びRdは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示し、Rbは、炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキレン基を示す。)、Yは、一般式(2)で示される基又は炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基、Zは、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。mは、配位子の数を示し、金属Mの価数に等しい。
但し、MがSrであり、n=1であり、Ra、Rc及びRdが全てメチル基、Rbがメチレン基、Yがt−ブチル基であって、Zが水素原子であることを同時に満たす場合を除く。)
で示されるアルコキシアルキル基を有するβ−ジケトナトを配位子とすることを特徴とする有機金属錯体。
【請求項2】
Mが、Sr、Ni、Li、Cu、Zn、Mg、Al、La、Co又はYである請求項1記載の有機金属錯体。
【請求項3】
請求項1に記載の有機金属錯体、又は請求項1に記載の有機金属錯体の溶媒溶液を金属供給源として用いた化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【請求項4】
請求項1に記載の有機金属錯体、又は請求項1に記載の有機金属錯体の溶媒溶液と、酸素源とを用いた請求項3記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【請求項5】
酸素源が酸素ガスである請求項4記載の金属含有薄膜の製造法。
【請求項6】
請求項1に記載の有機金属錯体、又は請求項1に記載の有機金属錯体の溶媒溶液と、還元性ガスとを用いた請求項3記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【請求項7】
還元性ガスが水素ガス又はアンモニアガス、もしくはそれらの混合ガスである請求項6記載の金属含有薄膜の製造法。
【請求項8】
使用する溶媒が、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類及びエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒である請求項3乃至7のいずれか1項に記載の化学気相蒸着法による金属含有薄膜の製造法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−246438(P2011−246438A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23051(P2011−23051)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
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