説明

有機ELディスプレイ

【課題】有機EL発光層を備えた発光基板と、色変換層を備えた色変換基板とを充填樹脂を用いて貼合わせて形成する有機ELディスプレイにおいて、有機EL素子の特性に悪影響を及ぼさない色変換基板を用いた有機ELディスプレイを提供することにある。
【解決手段】色変換層13を被覆する透明なUV硬化型樹脂または熱硬化型樹脂からなる溶出防止層14を備え、該溶出防止層14の屈折率が、450nm〜750nmの任意の波長に於いて、前記充填樹脂5と同じか、もしくは該色変換層13と該充填樹脂5の屈折率の値に挟まれる値を持つことを特徴とする。前記溶出防止層14が、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂、シリコン変性アクリル樹脂またはアクリル変性メラミン樹脂であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多色発光表示を行うための有機ELディスプレイに関する。より詳しくは、イメ−ジセンサー、パーソナルコンピューター、ワードプロセッサー、テレビ、ファクシミリ、オーディオ、ビデオ、カーナビゲーション、電機卓上計算機、電話機、携帯端末機並びに産業用の計器類、車載表示関連、医療用表示機器等の表示に用いる有機ELディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイのマルチカラー化またはフルカラー化を行う方法としては、赤(R)、緑(G)、および青(B)の三原色の発光体をマトリクス状に分離配置し、それぞれ発光させる方法がある(例えば、特許文献1乃至3参照。)。各発光色の有機EL素子(有機発光素子)を用いてカラー化する場合、RGB用の3種の発光材料をマトリクス状に高精細で配置しなくてはならないため、技術的に困難で、安価に製造することができない。また、3種の発光材料の寿命が異なるために、時間とともに色度がずれてしまうなどの欠点を有している。
【0003】
白色で発光する有機EL素子にカラーフィルターを用い、三原色を透過させる方法が知られているが(例えば、特許文献4乃至6参照。)、高輝度のRGBを得るために必要な長寿命、高輝度の白色の有機EL素子が未だ得られていない。
【0004】
発光体の発光を、平面的に分離配置した蛍光体に吸収させ、それぞれの蛍光体から多色の蛍光を発光させる方法も知られている(例えば、特許文献6参照。)。ここで、蛍光体を用いて、ある発光体から多色の蛍光を発光させる方法については、CRT、プラズマディスプレイらにも応用されている。
【0005】
また、近年では有機EL素子の発光域の光を吸収し、可視光域の蛍光を発光する蛍光材料をフィルターに用いる色変換方式が開示されている(例えば、特許文献6、7参照。)。有機EL素子の発光色は白色に限定されないため、より輝度の高い有機EL素子を光源に適用できる。たとえば、青色発光の有機EL素子を用いた色変換方式(例えば、特許文献6、8、9参照。)においては、青色光を緑色光および赤色光に波長変換している。
【0006】
このような蛍光色素を含む色変換層を高精細にパターニングすれば、発光体の近紫外光ないし可視光のような弱いエネルギー線を用いてもフルカラーの発光型ディスプレイが構築できる。
【0007】
しかしながら、色変換層中の色変換物質の濃度が高くなると、吸収したエネルギーが同一分子間の移動を繰り返すうちに発光を伴わずに失活する濃度消光と呼ばれる現象が発生する。この現象を抑制するために、色変換物質を何らかの媒体中に溶解または分散させて濃度を低下させることが行われている(例えば、特許文献10参照。)。
【0008】
ここで、色変換物質の濃度を低下させると、吸収すべき光の吸光度が減少し十分な変換光強度が得られない。この問題に関して、色変換層を厚くして吸光度を高め、色変換の効率を維持することが行われている。このように厚い色変換層(膜厚10μm程度)を用いた場合、段差部での電極パターンの断線、高精細化の困難さ、膜中への水分または溶媒の残留などの問題点が存在する。これは、有機EL素子と組み合わせた場合に、残留水分または溶媒により有機EL層が変質し、表示欠陥を誘発する。一方、視野角依存性を減少させるという観点からは、色変換層を薄くする必要があるという相反する要求が存在する。
【0009】
そこで、厚さを増大させることなく十分な変換光強度を維持することが可能な色変換層を提供するために、2μm以下の膜厚を有するホスト−ゲスト系色変換層を蒸着法によって形成することが検討されている(例えば、特許文献11参照。)。しかしながら、蒸着法により色変換層を形成する場合、表示面の全面に膜を形成すると3原色に分けて発光させることが出来ないため、何らかの手段で特定の画素に対応した微細パターン形成が必要になる。現在の所、蒸着材料薄膜をパターン形成する方法としては、メタルマスクによる塗分け法がある。しかしながら、メタルマスクによる蒸着パターン形成法は、マスクパターンの微細化に対してはマスク材質と厚さによる限界から、150ppiの精細度レベルが限界であり、それ以上の高精細なパターンに対しては困難さが増し、大面積化には到底及ばず、歩留りも低下するという問題がある。
【0010】
この問題に対し、色変換基板上の画素周辺にバンクを形成して、インクジェット法でバンク間に選択的に蛍光体材料を塗布しパターニングする方法がある(例えば、特許文献12参照。)。インクジェット法以外にも選択的に画素バンク間に蛍光材料溶液をディスペンサノズルから流し込む方式が、高分子有機EL素子を形成する方法の一つとして提案されている(例えば、特許文献13、14参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭57−157487号公報
【特許文献2】特開昭58−147989号公報
【特許文献3】特開平3−214593号公報
【特許文献4】特開平1−315988号公報
【特許文献5】特開平2−273496号公報
【特許文献6】特開平3−194895号公報
【特許文献7】特開平5−258860号公報
【特許文献8】特開平8−286033号公報
【特許文献9】特開平9−208944号公報
【特許文献10】特開2000−230172号広報
【特許文献11】特開2007−157550号広報
【特許文献12】特開平11−87063号広報
【特許文献13】特開2000−353594号広報
【特許文献14】特開2001−250684号広報
【特許文献15】特開2002−124382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、インクジェット法等により蛍光色素を有機溶媒に溶解して塗布する場合には、有機EL素子を形成した発光基板と色変換層を形成した色変換基板とを充填樹脂で貼りあわせる際に、硬化前の低分子量の充填樹脂に接触した時点で蛍光色素が充填樹脂に溶出してしまうという問題が生じる。
【0013】
この問題に対しては色変換層の上に、溶出防止目的の溶出防止層を形成することが提案されている。例えば、色変換層が充填樹脂へ溶出することを防止するための溶出防止層としては、ドライプロセスによって形成された無機材料の透明な薄膜が有用である。しかしながら、我々は詳細な研究の結果、プラズマを使ったスパッタ法やCVD法で溶出防止層を形成する際に、色変換層を形成する蛍光体色素が劣化する場合が多いこと、およびその原因がプラズマから出る紫外線や高エネルギー粒子の影響であることを見出した。
【0014】
したがって、蛍光体色素の劣化を防ぐには、プラズマ光や高エネルギー粒子の発生を伴わないウェットプロセスを用いて上記溶出防止層を形成することが望ましい。ウェットプロセスを用いた保護膜の形成に関しては、すでに有機材料または無機ゾルゲル材料を用いた保護膜形成技術が開示されている(例えば、特許文献15参照。)。しかしながら、同提案における保護膜は酸素や水分を遮断することが目的であり、充填樹脂への溶出を防止する為の要件については何ら言及されていない。
【0015】
本発明の目的は、上述の課題を解決して、発光基板と色変換基板を貼り合せた場合に、有機EL素子の特性に悪影響を及ぼさず、かつ、最小限のロスでEL光を色変換層に導入できる溶出防止層を備えた有機ELディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は、有機EL発光層を備えた発光基板と、色変換層を備えた色変換基板とを充填樹脂を用いて貼合わせて形成する有機ELディスプレイにおいて、該色変換層を被覆する透明なUV硬化型樹脂または熱硬化型樹脂からなる溶出防止層を備え、該溶出防止層の屈折率が、450nm〜750nmの任意の波長に於いて、前記充填樹脂と同じか、もしくは該色変換層と該充填樹脂の屈折率の値に挟まれる値を持つことを特徴とする。
【0017】
前記溶出防止層が、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂、シリコン変性アクリル樹脂またはアクリル変性メラミン樹脂であることが好ましい。
また、前記溶出防止層が、充填樹脂と同じ材料を用いて構成されていることが好ましい。
【0018】
また、前記溶出防止層が、インクジェット法またはディスペンサー塗布法によって形成されることが好ましい。
また、前記色変換層が、高分子化合物で構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の溶出防止層を備えた色変換基板を用いることにより、発光基板と色変換基板を充填樹脂を用いて貼合を行っても色変換層が充填樹脂に溶出することが無く、発光基板からの発光が効率的に色変換基板に入射して高い発光効率を実現することができる。また、微細な画素を容易に形成できることから高い解像度を有する有機ELディスプレイを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の有機ELディスプレイを説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の有機ELディスプレイの例を示した断面模式図で、有機ELディスプレイ1は、色変換基板2、発光基板3を充填樹脂5を用いて貼り合わせて形成される。色変換基板2は、色変換層の支持基板11上に色変換層13、溶出防止層14を形成したもので、画素を区画するためにバンク12を設けても良い。発光基板3は、有機EL素子の支持基板21上に有機EL素子22を形成したもので、所望によりさらにガスバリア層23を形成することもできる。また、図1は、わかりやすさのために1画素分を表示したもので、ディスプレイを形成する場合には所望の数量の複数の画素を配置することになる。
【0022】
以下、本図を用いながら実施形態について詳しく説明する。
1.色変換層の支持基板
色変換層の支持基板11は、光透過性に富み、且つ、色変換層13の形成に用いられる溶媒、温度等に耐えるものであれば用いることができる。さらに寸法安定性に優れていることが好ましい。例としては、ガラス、各種プラスチック、各種フィルム等が挙げられる。また、図示されていないが、発光色の調整のためにカラーフィルターを具備した支持基板を用いてもよい。
2.バンク
バンク12は、色変換層13を画素毎に区画して形成するためのものである。
【0023】
バンク12の材料としては、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂を、光および/または熱処理して、ラジカル種、イオン種を発生させて重合または架橋させ、不溶不融化させたものを用いることができる。また、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂は、パターニングを行うために、硬化をする前は有機溶媒またはアルカリ溶液に可溶性であることが好ましい。
【0024】
具体的に、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂としては、
(1)アクロイル基、メタクロイル基を複数有するアクリル系多官能モノマーまたはオリゴマーと、光または熱重合開始剤とからなる組成物膜を、光または熱処理して、光ラジカルまたは熱ラジカルを発生させて重合させたもの、
(2)ポリビニル桂皮酸エステルと増感剤とからなる組成物を、光または熱処理により二量化させて架橋したもの、
(3)鎖状または環状オレフィンとビスアジドとからなる組成物膜を、光または熱処理によりナイトレンを発生させて、オレフィンと架橋させたもの、ならびに
(4)エポキシ基を有するモノマーと光酸発生剤からなる組成物膜とを、光または熱処理により酸(カチオン)を発生させて重合させたもの
などが挙げられる。
【0025】
特に上記(1)の光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂を用いた場合には、フォトプロセスを使用することができるため、パターニングが容易であり、耐溶剤性、耐熱性等の信頼性の面でも好ましい。
【0026】
その他の、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂としては、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルホン、ポリビニルブチラール、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ノルボルネン系樹脂、メタクリル樹脂、イソブチレン無水マレイン酸共重合樹脂、環状オレフィン系等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、イミド系樹脂、ウレタン系樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいはポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0027】
バンクの形成方法としては、塗布法を用いることができ、特に、フォトプロセスを用いることが好ましい。また、バンクの側面形状は、純テーパ、逆テーパあるいは垂直のいずれでも特に限定はされない。
【0028】
また、バンクに無機材料を用いても良い。例えば、SiOx、SiNx、SiNxOy、AlOx、TiOx、TaOx、ZnOx等の無機酸化物、無機窒化物等を使用することができる。バンク層の形成方法としては特に制約はなく、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法等の手法により形成できる。この際のバンクのパターニングはドライエッチングにて行う。好ましくは、プラズマエッチングを用いる。バンク層の無機材料と選択比の取れるフォトレジストによりパターンをバンク層上に形成し、CF4、SF6、CHF3、Ar等のガスを用いてドライエッチングを行い、バンク層をパターニングする。さらに、ガスをO2に変え、O2プラズマエッチングを行うことにより、パターニングに使用したレジストをエッチングする。反応性を高めるために、CF4などのフッ素系のガスを若干添加しても良い。
3.色変換層
色変換層13は光源からの光を吸収し、異なる波長分布の蛍光を発する機能を有する。適用できる材料としては、Alq3(トリス8−キノリノラトアルミニウム錯体)などのアルミキレート系色素、3−(2−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン6)、3−(2−ベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン7)、クマリン135などのクマリン系色素を含む。あるいはまた、ソルベントイエロー43、ソルベントイエロー44のようなナフタルイミド系色素、ジエチルキナクリドン(DEQ)などのキナクリドン誘導第;4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM−1、(I))、DCM−2(II)、およびDCJTB(III)などのシアニン色素;4,4−ジフルオロ−1,3,5,7−テトラフェニル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン(IV)、ルモゲンFレッド、ナイルレッド(V)などを含む。あるいはまた、ローダミンB、ローダミン6Gなどのキサンテン系色素、またはピリジン1などのピリジン系色素のような低分子系の有機蛍光色素や、ポリフェニレン、ポリアリーレン、ポリフルオレンに代表される高分子蛍光材料が使用できる。また、必要に応じてこれらの色素を複数混合して使用することもできる。青色から緑色、赤色への変換時など、波長シフト巾が広い際には有効な手段である。
【0029】
インクを形成する際の溶媒としては、上記色素を溶解すれば良く、トルエン等のベンゼン系など非極性溶媒、クロロホルム、ケトン系などの極性溶媒を用いることができ、単体もしくは混合溶媒として使用してもよい。
【0030】
インクを形成する環境については、水分・酸素の影響を排除するため、不活性ガス中(例えば、窒素やアルゴンガス中)で形成することが好ましい。インクの乾燥は、溶媒が蒸発する温度で乾燥すればよく、前述不活性ガス中もしくは真空中(減圧下)で乾燥することが好ましい。
【0031】
本発明の色変換層13は、2000nm(2μm)以下、好ましくは100〜2000nm、より好ましくは100〜1000nmの膜厚を有する。
形成方法は、バンク間に前述の方法で作製したインクを選択的に供給できる手段であれば特に限定されないが、最も汎用で確実な方法はインクジェット法である。また、インクをジェット状にして飛翔させずにディスペンサーで流し込む方式でも問題はない。さらには、インク粘度によっては印刷法も適用できる。
4.溶出防止層
溶出防止層14は、充填樹脂5を用いて色変換基板2と発光基板3を貼り合わせる際に、色変換層13の材料が充填樹脂5に溶出することを防止するための層である。溶出防止層14はウェットプロセスを用いて形成することができる。
【0032】
ウェットプロセスを用いて上記溶出防止層を形成する際の材料としては、様々な溶媒に溶解しやすく、かつ色変換層に対する溶出防止効果の高い高分子材料を用いることが好ましい。高分子材料を溶媒に溶解させた後、適当なウェットプロセスを用いて色変換層の上に塗布し、塗布後、溶媒がある程度乾燥した段階で、100℃〜200℃で30〜60秒のアニールを行うことで薄膜化することができる。アニール温度は、低すぎると溶媒が残り、高すぎるとカラーフィルターやバンク材料を劣化させ、それぞれの形状や機能を損なう恐れがあるので、100〜200℃が最適である。
【0033】
上記高分子薄膜の溶出防止効果は、高分子材料の分子量に大きく依存し、同じ化学組成であれば、分子量が大きい程溶出防止効果も大きくなる。したがって、該高分子材料の重量平均分子量は、2万以上であることが好ましく、10万以上であることがより好ましい。
【0034】
上記高分子材料を溶解させる溶媒としては、特に限定はされず、高分子材料を溶解させることが出来れば何でも良いが、色変換色素は水分の影響により劣化する場合が多いため、水分を含まない有機溶剤であることが望ましい。
【0035】
該高分子材料を塗布するためのプロセスは特に限定されず、インクジェット印刷、ディスペンサー塗布、スクリーン印刷、スピンコーティングなど、いずれを用いてもよい。色変換層と該高分子材料がある程度の親和性を持つ場合は、塗布した該高分子溶液中に、微量の色変換色素が溶出することがある。そのため、該色変換色素が画素外に流出するのを防ぐという観点からは、該高分子溶液を該色変換層の画素内のみの領域に、選択的に塗布することが好ましい。そのため、該高分子溶液は、上記プロセスのうち、インクジェット、またはディスペンサーを用いて塗布することがより好ましい。
【0036】
該溶出防止層は、450nm〜750nmの波長領域で平均80%以上の光透過率を有し、かつ450nm〜750nmの波長領域で光透過率の変動幅が平均の光透過率の±5%以内であることが好ましい。
【0037】
該溶出防止層の屈折率は、可視光450nm〜750nmの任意の波長に於いて、それと接合する充填樹脂と同じか、もしくは該色変換層と該充填樹脂の屈折率の値に挟まれる値を持つことが好ましい。溶出防止層の屈折率を、両サイドの色変換層や充填樹脂の屈折率と合わせることで、光の入射ロスを抑制し効率の向上が可能となる。
【0038】
色変換色素と充填樹脂の相溶性が非常に高い場合などは、上記のように作製した高分子薄膜を用いても、溶出防止効果が十分に得られない場合がある。鋭意研究の結果、高分子間に3次元架橋を形成することで、溶出防止層の溶出防止効果は飛躍的に高まり、充填樹脂に極めて溶解しやすい色変換層に対しても、十分な溶出防止効果を付与できることを見出した。そのような3次元架橋は、該高分子材料として、UV硬化型樹脂または熱硬化型樹脂を用いることで形成することができる。
【0039】
3次元架橋させた溶出防止層を用いることは、溶出防止効果を高めることに加えて、作製プロセスの点でも有利となる。架橋構造を持たない高分子薄膜を溶出防止層として用いた場合、前述のように、溶出防止効果を高めるためにはかなり分子量の大きい材料を用いる必要がある。分子量が大きくなると、溶液の粘度が増大し、インクジェットまたはディスペンサーを用いて塗布した場合、スループットの低下や吐出不安定の原因となる。3次元架橋させる手法によれば、まず適切に粘度の調整された分子量の小さい前駆材料を上記手法で塗布し、乾燥後、適当な処理により分子間に3次元架橋を形成させ、溶出防止効果の高い強固な薄膜を形成することが出来る。即ち、この手法によれば、プロセスに大きな負担をかけることなく、溶出防止効果の高い溶出防止層を形成することができる。
【0040】
充填樹脂として、UV硬化型樹脂または熱硬化型樹脂を用いた場合は、同じ材料を色変換層の溶出防止層として用いることも可能である。具体的には、これらの樹脂を適当な溶媒で希釈して、粘度を調整した後に、インクジェットまたはディスペンサーを用いて、該色変換層の画素内に塗布する。溶媒を除去した後、それぞれUV照射または加熱により、3次元架橋を形成させて溶出防止層とする。このとき、充填樹脂は色変換色素と相溶性を持つため、画素内では色変換層の溶出が発生する。しかしながら、色変換層の完全な溶出には長時間を要するため、溶液を塗布後、速やかに溶媒を除去すれば、色変換色素をその一部に含んだ薄膜が色変換層の上に形成されることになる。色変換色素の混入比率が大きい場合は、色変換色素に妨げられて、3次元架橋が形成される樹脂分子の割合が低下する。その場合は、溶出防止層の塗布、乾燥、架橋形成という工程を複数回繰り返すことにより、より色変換色素の混入割合の小さい溶出防止層を、充填樹脂と接する面に形成することが出来る。
【0041】
このように、溶出防止層と充填樹脂に共通の材料を用いることにより、
1)溶出防止層と充填樹脂の間に、屈折率の差がないため、光学的なロスが発生しない。
【0042】
2)溶出防止層と充填樹脂の化学的な親和性が高いために、充填樹脂を塗布した際に、溶出防止層表面ではじき等を生じることなく、充填樹脂の充填を行うことが出来る。
3)溶出防止層の塗布と充填樹脂の充填が、同一装置を用いて行うことが可能となり、作業工程が簡素化する。
【0043】
4)溶出防止層の材料を探索・最適化するための開発時間を省略できる。
等の多くの利点が生まれる。
5.充填樹脂
充填樹脂5は、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂、シリコン変性アクリル樹脂またはアクリル変性メラミン樹脂などを用いることができる。
【0044】
充填樹脂は、UV硬化型樹脂または熱硬化型樹脂を用いることもできる。UV硬化型樹脂の場合は、紫外光が直接色変換層に照射されないように遮光マスクを用いて行うとよく、それに引き続いて加熱硬化も効果的である。また熱硬化型樹脂を用いた場合は、有機EL発光層や色変換層の熱劣化を発生させない条件の80〜150℃の範囲で1〜3時間の範囲で硬化させるとよい。これらの樹脂を用いることで、充填樹脂充填層の機械的強度を増大させることが出来る。
【0045】
充填樹脂は、450nm〜750nmの波長領域で平均80%以上の光透過率を有し、かつ450nm〜750nmの波長領域で光透過率の変動幅が平均の光透過率の±5%以内であることが好ましい。それにより、充填樹脂層が450nm〜750nmの波長領域の可視光に対して充分な透明性を有し、発光層において発生された光は充填樹脂層を通して色変換層に入射させることができる。
【0046】
また、該充填樹脂の屈折率は、可視光450nm〜750nmの任意の波長に於いて、それと接合する溶出防止層と同じか、もしくは該溶出防止層と有機EL素子用ガスバリヤ膜の屈折率の値に挟まれる値を持つことが好ましい。充填樹脂の屈折率を、両サイドの色変換層溶出防止層や有機EL素子用ガスバリヤ膜の屈折率と合わせることで、光の入射ロスを抑制し効率の向上が可能となる。
6.発光基板
発光基板3は、有機EL素子の支持基板21上に有機EL素子22を形成したもので、所望によりさらにガスバリア層23を形成することもできる。
【0047】
支持基板21としては、色変換層の支持基板11と同様の基板を採用することができる。
有機EL素子22は、発光を得るための素子で、有機EL層を一対の電極ではさんだものを用いることができる。その構成の例としては、支持基板21側より電子注入電極、電子注入層、電子輸送層、発光層、ホール輸送層、ホール注入層、透明ホール注入電極等の積層構造を用いることができる。
【0048】
有機EL層を構成する各層の材料としては、公知のものが使用される。また、有機EL層を構成する各層は、蒸着法などの当該技術において知られている任意の方法を用いて形成することができる。たとえば、青色から青緑色の発光を得るための有機発光層の材料としては、たとえばベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系などの蛍光材料、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などの材料が好ましく使用される。
【0049】
電子注入電極は、ITO(インジウム−スズ酸化物)等の金属化合物、Ag(銀)、Al等の金属または合金からなる透明電極、半透明電極または不透明反射電極である。また電子注入電極を反射電極とする場合は、高反射率の金属(Al、Ag、Mo、W、Ni、Crなど)、アモルファス合金(NiP、NiB、CrP、CrBなど)、微結晶性合金(NiAlなど)を用いて、蒸着法、スパッタ法などのドライプロセスによって形成することができる。ホール注入電極は、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)、ITO等の金属酸化物、Ag(銀)、Al等の金属または合金からなる薄膜透明電極からなり、光透過性を有する。有機EL層上層とその上に形成される電極との間にはダメージ緩和層を設けてもよい。
【0050】
透明電極は、ITO、酸化スズ、酸化インジウム、IZO、酸化亜鉛、亜鉛−アルミニウム酸化物、亜鉛−ガリウム酸化物、またはこれらの酸化物に対してF、Sbなどのドーパントを添加した導電性透明金属酸化物を用いて形成することができる。透明電極は、蒸着法、スパッタ法または化学気相堆積(CVD)法を用いて形成され、好ましくはスパッタ法を用いて形成される。
【0051】
ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層および電子注入層は有機材料からなる。電子注入層は、好ましくは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等のアルカリ金属、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属をドープした有機材料から構成される。
【0052】
ガスバリア層23は、有機EL素子22が外気と接触して、素子内に酸素や水分が浸入するのを防ぐ目的で設置される。ガスバリア層23は、SiNx(窒化ケイ素)、SiO2(酸化ケイ素)、SiON、Al23(酸化アルミニウム)等の無機材料を用いて形成することが出来る。あるいは、ガスバリア層23は、無機材料と有機材料との積層構造を有してもよい。
【0053】
以下、実施例を用いてさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0054】
本実施例1では、色変換基板2を作成した後、充填樹脂5を塗布し、別に用意した透明ガラス基板と貼り合せた例について説明する。
色変換層の支持基板11として透明なガラス基板を用いた。□50mmのコーニング社製1737ガラス基板上に、フォトリソグラフィーにより、透明なポジ型フォトレジスト(OFPR−800、東京応化工業製)を用いて、幅20μm、高さ50μm、ピッチ60μmの平行なバンク12を、基板中央部20×20mmの領域に作製した。
【0055】
引き続き、色変換層13を形成した。具体的には、重量平均分子量Mw=38、000の高分子緑色色変換材料Poly[(9,9−dioctylfluorenylene−2,7−diyl)−co−(1,4−phenylenevinylene)]をTHF溶媒に溶解させ、濃度1.5wt%の色変換材料溶液を調整した。インクジェット法を用いてバンク12間のそれぞれに作製した溶液を塗布し、100℃で30分間加熱乾燥させ、緑色の色変換層を得た。インクジェットで塗布する際は、色変換色素の画素外への溶出の有無を判断しやすいように、1ライン毎に塗布しないラインを設けて塗布した。色変換層の厚みは700nmであった。また、バックライトして用いた有機EL素子の発光波長470nmにおける、色変換層の屈折率はn=1.90であった。
【0056】
引き続き、溶出防止層14を形成した。具体的には、重量平均分子量Mw=20,000のポリシランをペグミア溶媒に溶解させ、濃度20wt%の溶液を調整した。インクジェット法を用いてバンク内の色変換層上に、この溶液を塗布し、100℃で30分間加熱乾燥させ、溶出防止層14を得た。溶出防止層14の厚みは2μmであった。
【0057】
次に、このように作製した、色変換層基板上に、充填樹脂5を塗付した。具体的には、ディスペンサーを用いて、重量平均分子量Mw=1,500の熱硬化型アクリル樹脂を溶媒で希釈せずに塗布した。
【0058】
引き続き、別に用意した透明ガラス基板を色変換基板2と貼り合せた。その後、200℃にて1時間の加熱を施し、熱硬化型アクリル樹脂を硬化させた。アクリル樹脂の塗布とガラス基板の貼り合せは乾燥窒素雰囲気で行った。
【0059】
波長470nmにおけるポリシランの屈折率はn=1.70、熱硬化型アクリル樹脂の屈折率はn=1.65であり、ポリシランの屈折率は、色変換層と充填樹脂層の屈折率の値に挟まれた値となっている。
【実施例2】
【0060】
色変換層13の材料として、重量平均分子量Mw=150,000の高分子緑色色変換材料Poly[(9,9−dioctylfluorenylene−2,7−diyl)−co−(1,4−phenylenevinylene)]を用いたこと以外は、実施例1と同様にして作製した。
【実施例3】
【0061】
溶出防止層14の材料として実施例1で基板の貼り合せに用いた熱硬化型アクリル樹脂を用い、溶出防止層14の成膜を次のように行ったこと以外は実施例1と同様にして作製した。該熱硬化型アクリル樹脂をテトラリン溶媒に溶解させ、粘度を5CPに調整した後、インクジェットを用いてバンク内で色変換層上に塗布した。塗布後、100℃で30分間加熱乾燥させ、溶媒を除去した。続いて、200℃で1時間の加熱を施し、樹脂を硬化させた。このプロセスを5回行い、厚み2μmの溶出防止層を形成した。
【0062】
引き続き、このように作製した色変換基板上に、実施例1と同じ方法を用いて、上記熱硬化型アクリル樹脂を塗布し、別に用意した透明ガラス基板と貼り合せた。
【実施例4】
【0063】
実施例1で基板の貼り合せに用いた、熱硬化型アクリル樹脂を用いて溶出防止層14を作製したこと以外は実施例2と同様にして作製した。
<比較例1>
溶出防止層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で作製した。
<比較例2>
溶出防止層を形成しなかったこと以外は実施例2と同様の方法で作製した。
<比較例3>
溶出防止層14の材料として重量平均分子量Mw=1,200のポリシランを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で作製した。
<比較例4>
溶出防止層14の材料として重量平均分子量Mw=1,200のポリシランを用いたこと以外は実施例2と同様の方法で作製した。
<比較例5>
溶出防止層14として、CVD法を用いて無機SiO2層を膜厚2μmにて真空槽内で形成したこと以外は実施例1と同様の方法で作製した。
<比較例6>
溶出防止層14として、CVD法を用いて無機SiO2層を膜厚2μmにて真空槽内で形成したこと以外は実施例2と同様の方法で作製した。
<評価1>
実施例1乃至4および比較例1乃至6で作製した各サンプルに対し、色変換層材料の充填樹脂への溶出の有無を、光学顕微鏡を用いて観察した。
【0064】
表1に、各サンプルにおける溶出の確認結果をまとめた。溶出が確認されたサンプルをNG、確認されなかったサンプルをOKと記してある。溶出が確認されたサンプルは、充填貼り合せ後の顕微鏡写真で、バンク方向に平行に筋状の溶出痕が認められている。
【0065】
実施例1、2は、溶出防止層として高分子量ポリシランを使用しているが、Mwが15万の色変換層との組み合わせでは溶出は認められなかったが、Mwが3.8万の色変換層との組み合わせでは溶出が認められた。これに対し、実施例3、4の熱硬化型アクリル樹脂を使用した例では、いずれの色変換層においても溶出は認められなかった。分子量の小さい色素は溶解性が高くなるため、架橋を伴わない高分子塗布膜では溶出を十分に抑制することはできなかったものと考えられる。この場合、より溶出防止効果の高い、3次元架橋型の溶出防止層が有効であると判断される。
【0066】
比較例1、2の溶出防止層を伴わない場合、および比較例3、4のMwが1200の低分子量ポリシランを用いた場合では、いずれの基板においても溶出が確認された。Mwが15万の色変換層に対する結果を比較すると、架橋を伴わない高分子塗布膜を溶出防止層として用いた場合、同じ化学構造であれば、分子量が大きい方が、溶出防止効果が高いことが分かる。比較例5、6のCVD膜では、いずれの基板においても溶出は認められなかった。
<評価2>
実施例1乃至4および比較例1乃至6で作製した各サンプルに対し、積分球を用いて、それぞれの色変換層の蛍光量子収率を測定した。有機EL素子における青色入射光を想定して、蛍光量子収率測定の際の励起光波長は470nmとした。
【0067】
充填樹脂を塗布しないで作製した、それぞれの色変換層の蛍光量子収率は、Mwが3.8万の色変換層の場合が65%、Mwが15万の色変換層の場合が54%であった。高分子ポリシランおよび熱硬化アクリルを塗布した膜では、ほぼニート膜と同等の蛍光量子収率を保持している。しかしながら、CVD膜を形成した基板は大きく蛍光量子収率が低下している。これは、CVD成膜時のプラズマ光により、色変換色素が劣化したことが原因と考えられる。この結果から、CVD膜は、溶出防止効果は高いが、色変換色素を劣化させる傾向が強いため、色変換層の溶出防止層として用いるのは困難であると判断される。なお、溶出防止層を伴わない基板、および低分子ポリシランを用いた基板の蛍光量子収率はかなり大きい値を示しているが、これは色素の溶出により、色素分子間の濃度消光が低下したことが原因と思われる。
【0068】
【表1】

【符号の説明】
【0069】
1 有機ELディスプレイ
2 色変換基板
3 発光基板
5 充填樹脂
11 色変換層の支持基板
12 バンク
13 色変換層
14 溶出防止層
21 有機EL素子の支持基板
22 有機EL素子
23 ガスバリア層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL発光層を備えた発光基板と、色変換層を備えた色変換基板とを充填樹脂を用いて貼合わせて形成する有機ELディスプレイにおいて、
該色変換層を被覆する透明なUV硬化型樹脂または熱硬化型樹脂からなる溶出防止層を備え、該溶出防止層の屈折率が、450nm〜750nmの任意の波長に於いて、前記充填樹脂と同じか、もしくは該色変換層と該充填樹脂の屈折率の値に挟まれる値を持つことを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項2】
前記溶出防止層が、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂、シリコン変性アクリル樹脂またはアクリル変性メラミン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の有機ELディスプレイ。
【請求項3】
前記溶出防止層が、充填樹脂と同じ材料を用いて構成されていることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の有機ELディスプレイ。
【請求項4】
前記溶出防止層が、インクジェット法またはディスペンサー塗布法によって形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機ELディスプレイ。
【請求項5】
前記色変換層が、高分子化合物で構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機ELディスプレイ。


【図1】
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【公開番号】特開2011−108477(P2011−108477A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261769(P2009−261769)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】