説明

有機EL照明を用いた横断歩道

【課題】
夜間においては、横断歩道を横断する歩行者の視認性が著しく低下する。
【解決手段】
横断歩道に有機ELパネルを埋め込み、周囲の照度の変化に合わせて、有機ELパネルを発光させることにより、視認性が向上する。また、車両における横断歩道自動検知装置に対する視認性が向上するため、自動検知装置の誤検知を低減させることができる。さらに、発光のタイミングによって自動検知装置に対して特定の情報を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が走行する道路上に形成される横断歩道に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両通行帯を歩行者が横断する位置を示す横断歩道には、歩行者の安全を確保するために様々な研究がされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、横断歩道を横断しようとする歩行者または自転車を検知する検知センサーと、発光手段を用いる事により、歩行者または自転車が安全に横断できるシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−265989 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されたシステムでは、発光素子として高輝度発光ダイオードが用いられており、光源の形状は、点状である。このような点状光源を用いて歩行者や自転車を明るく照射しようとすれば、車両の運転者に対して運転の妨げになり、かえって危険度が増大するおそれがある。
【0006】
本発明は上記の問題を鑑みなされたものであり、歩行者や自転車の視認性を向上させつつ、車両の運転者に対して運転を妨げないシステムを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は道路上の車両通行帯を横断する方向に形成された横断歩道であって、白色に発光する有機EL発光層を有し、その発光面を上方に向けて配置される有機ELパネルと、前記有機ELパネルの上部に配置され、前記有機ELパネルを保護する保護手段と、
【0008】
前記有機ELパネルに対して、発光を指示する制御手段と、を備える。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の横断歩道において、前記制御手段は、当該横断歩道上を通過する歩行者、または自転車の運転者を検知する検知手段をさらに備え、前記制御手段は、前記検知手段によって歩行者、または自転車の運転者を検知した際、前記有機ELパネルに対して発光を指示する。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の横断歩道において、前記制御手段は、当該横断歩道を通行する歩行者または自転車の運転者に対して横断を規制する信号機からの情報を入手し、当該情報に基づいて前記有機ELパネルに対して発光を指示する。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の横断歩道において、前記制御手段は、前記有機ELパネルが発光する光量を増減させることにより、所定の機器により特定の情報として識別される信号を発生させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、横断歩道自体が発光することにより、夜間においても通行する歩行者や自転車の運転者を良好に照らし、視認性を得ることができる。また発光体として有機ELパネルを用いることにより、高輝度での発光が可能となる。さらに、強度的に弱い有機ELパネルの上部に保護手段を備えることにより、道路上などの環境下においても発光を行う事が可能となる。
【0013】
特に、請求項2の発明によれば、横断報道上を通過する歩行者、または自転車の運転者が存在する時にだけ発光を行うことができ、消費電力を低減することが可能となる。
【0014】
特に、請求項3の発明によれば、信号機からの情報と連動し、必要な時にだけ発光をおこなうことが可能となる。
【0015】
特に、請求項4の発明によれば、所定の機器に対して、横断歩道から情報を発信することで、歩行者の安全をより一層確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態である、横断歩道の概略を示す図である。
【図2】横断歩道の詳細を示す図である。
【図3】図2のA−A断面を示す断面図である。
【図4】横断歩道の制御手段を示す概念図である。
【図5】横断歩道の発光タイミングを示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態である、横断歩道の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の第1の実施形態である横断歩道1を含む道路の概要を示す図である。道路には、中央分離帯2にて区画された車両通行帯6が上下方向に形成されており、車両通行帯6の左右には歩道7が区画されている。車両通行帯6を横断する位置に、横断歩道1が形成されており、各車両通行帯6における横断歩道1の手前側には、停止線3が形成されている。なお、図示では一部のみを示しているが、図示上下方向に道路が続いている。
【0018】
横断歩道1は、車両通行帯6を横断する方向に、歩行者や自転車が横断することを許容する位置を明示するための指示表示である。一般的には、幅15cm〜30cmの図示横方向の2本の直線の間に、幅45cm〜50cmの図示縦方向の直線を梯子状に配置することにより形成されている。
【0019】
中央分離帯2は、長さ3m〜10mの点線状に形成された規制標識であり、中央分離帯2の左側では、車両5は下から上方向に通行し、中央分離帯2の右側では、車両5は上から下方向に通行する。
【0020】
停止線3は、車両5が横断歩道1の手前にて停止する位置を明示するための指示表示である一般的には、幅30cm〜45cmの白色塗装にて形成されている。
歩道7は、路側帯や縁石などにより車両通行帯と区分され、歩行者が通行する通行帯である。
【0021】
図2は、横断歩道1の詳細を示す図である。横断歩道1は、発光部11と、制御装置13と、横断歩道枠10と、を備えている。
横断歩道枠10は、従来の横断歩道と同様に白色の塗料によって形成されており、道路6上に塗布されることにより形成されている。そして、横断歩道枠10は、後述の保護プレート14の周囲を囲うように塗布されている。
【0022】
発光部11は、横断歩道1の梯子状の横断歩道枠10(図示縦方向)のほぼ中央部を占めるように配置された有機ELパネルであり、白色に発光する。具体的には、ガラスや樹脂などの基板上に形成された有機EL発光層を有する、幅25cm、長さ2.5m、厚み約5mmの矩形平板状の有機ELパネルである。
【0023】
制御装置13は、横断歩道1に対して二箇所に設けられ、配線14によって各発光部11と接続されている。
制御装置13は、発光部11の発光タイミングを制御する装置であり、詳細に関しては後述する。
なお、制御装置13は、横断歩道1に対して車両5が接近する方向の端部に設けられている。
【0024】
保護プレート14は、発光部11を保護するためのプレートである。具体的には透明樹脂によって形成されており、発光部11に対して若干の距離だけ離間して、道路8上の横断歩道1の中央部に配置されている。保護プレート14は、発光部11に対して、雨水等の悪影響が生じないように保護する。また、道路8上を走行する車両5からの荷重が、発光部11に直接加わらないように、数十mm程度の厚みを有する。具体的には、ポリカーボネートなどのエンジニアリングプラスチックにて形成されている。
【0025】
図3は、図2のA−A断面を示す断面図である。図3に示されるように、横断歩道1の横断歩道枠10の中央部に相当する地面には凹み部81が形成されている。凹み部81の内部には、緩衝材15を介して、横断歩道枠10の中央部に発光部11が配置されている。
なお、図では発光部11の厚みを強調して描いているが、実際には厚みは約5mmである。また、発光部11は緩衝材15上に配置されており、実際には接しているが図示の都合上若干の間隙を空けて記載している。
【0026】
緩衝材15は、保護プレート14を介して発光部11にも車両5の加重が加わった場合においても、発光部11の破損を防止するために、衝撃を吸収する素材にて形成されている。具体的には、ゴムなどの弾性体や、荷重を吸収する発泡材料などで形成されている。
また、緩衝材15の下面は、長手方向に延びる半円筒状の空間が形成されている。これにより、緩衝材15の弾性変形が容易となり、衝撃を吸収しやすくなっている。
【0027】
保護プレート14は、上方に向かって凸状に湾曲して形成されている。これは、車両5の通行の妨げにならない範囲で、強度を持たせるための形状となっている。また、発光部11から発せられた光は保護プレート14の表面および裏面にて屈折するため、保護プレート14が凸状になっていることで、横断歩道1を側面方向から視認しやすくなっている。
なお、図3では凸状を強調して描いているが、実際には、約5mmの凸状となり、横断歩道1上を車両5が通行する際に与える影響を最小限としている。
【0028】
次に、図4を用いて、制御装置13の説明を行う。
図4に示すように、制御装置13は、制御部130、歩行者検知部131、車両検知部132、を備え、外部電源9、発光部11と電気的に接続されている。
【0029】
歩行者検知部131は、横断歩道1を渡るために待機している歩行者、および自転車などを検知するセンサーである。具体的には歩行者および自転車の運転者から発せられる熱を検知する赤外線センサーなどが用いられる。横断歩道1の手前の歩道にて、所定の時間静止している歩行者および自転車の運転者を検知すると、その情報が制御部130に伝えられる。
【0030】
車両検知部132は、横断歩道1に対して車両5が接近していることを検知するセンサーである。具体的には、車両5のヘッドライトから照射される光を照度(光量)センサーにより受光する事で、車両5が接近していることを検出し、制御部130に情報を提供する。
【0031】
また、照度センサーは周辺の光量を計測することにより、昼夜の情報を提供する。そのため制御部130は、車両検知部132から提供された情報により、夜間のみ発光部11を発光させることが可能となる。
なお、車両検知部131には、一般的な光電素子などを用いた光量測定素子を用いる事ができる。
外部電源9は、通常は地中を経由して変電設備から直接電力が供給されるが詳細説明は割愛する。
【0032】
図5a〜cは、発光部11の発光タイミングを示す図である。横軸は、時間を示し、縦軸は発光部11が発光する際の光量を示している。
【0033】
図5aは、所定の発光時間t1の間、発光部11が発光し、その後、所定の消灯時間t2だけ消灯する、という動作を連続的に繰り返すことを示している。また、発光時間t1と消灯時間t2は、t1の方が長く設定されている。
【0034】
このように発光することにより、夜間や雨天時など、車両5の運転者が横断歩道1上を横断している歩行者または自転車を視認しにくい状況においても、発光部11によって下から光を照射されることにより、歩行者または自転車を視認することが可能となる。また、発光/消灯を繰り返すことにより、より明確に歩行者または自転車を視認することができる。
さらに、消灯時間t2の間は電力を消費しないため、電力の消費を抑えることができる。
【0035】
特に、横断歩道1が発光することにより、車両5に搭載された横断歩道の自動検知装置による横断歩道の検出が容易になり、誤検知を防止することができる。ここで、横断歩道の自動検知装置とは、種々の文献に記載されているように、車両5に搭載された画像取得手段(CCDカメラなど)により、車両通行帯6上に形成された横断歩道1を画像認識し、運転者や車両5自体の制御機器に対して横断歩道1の情報を与える機構である。
【0036】
さらに制御部13は、歩行者検知部131および車両検知部132により、歩行者または自転車が横断し、かつ、車両5が接近場合にのみ、発光部11を発光させるように制御する。そのため、電力の消費を低減させることが可能となる。
【0037】
図5bでは、先述の図5aと同様に所定の発光時間t1の間、発光部11が発光し、その後、所定の消灯時間t2だけ消灯する、という動作を連続的に繰り返すことを示している。相違する点は、発光時間t1の最初に、シグナル20(図中では、2回のON−OFFの繰り返し)が埋め込まれている。なお、図では説明の都合により、発光時間t1に比べてシグナル20が大きく描かれているが、実際には数msecほどの間に複数のON-OFFを繰り返している。
【0038】
このシグナル20は、車両5に搭載された横断歩道の自動検知装置において検知され、特定の情報として処理される信号である。
自動検知装置は、この光量のON−OFFを識別し、横断歩道1上を歩行者が横断中であることを認識する事ができる。そのため、車両5に自動検知装置が搭載されている場合には、運転者は横断歩道1に対して一層の注意を払うことが容易であり、歩行者に対して安全に走行することが可能である。
さらに、車両5に速度の自動制御装置が搭載されている場合、横断歩道1からの情報により、車両5の速度を低下させることができるため、より一層歩行者に対して安全に走行する事が可能となる。
【0039】
また、発光部11の発光する際の光量は、図5aまたは図5bに記載されたように、ON状態もしくはOFF状態の2段階の発光ではなく、例えば図5cに記載したように、発光時間t1の間で、光量を段階的に増減させてもよい。このようにすることで、車両5の運転者に対して、比較的穏やかに横断歩道1、および横断中の歩行者を視認させることができる。
【0040】
また上述の説明では、発光時間t1と消灯時間t2を繰り返す構成であったが、これに限定されるものではない。例えば常時発光する事により、さらに視認性を向上させることが可能であるが、このように常時発光すると、電力の消費量が増大する。
【0041】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。図6は、本発明の第2の実施形態である横断歩道1を含む道路の概要を示す図である。なお、上述した第1の実施形態と同一の部材に関しては同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0042】
図6に示す道路では、第1の実施形態と同様に上下方向に車両通行帯6が形成されているが、図示下方向には交差点8があり、左右方向にも車両通行帯6が形成されている。そのため、横断歩道1の端部には歩行者用信号53が配置されている。
【0043】
歩行者用信号53は、支柱51から補助バー52を介して、歩道7と横断歩道1との境界線の上空に配置されている。このため、歩道7から横断歩道1を横断したい歩行者または自転車は、歩行者用信号53により待機したり、横断を開始したりする。
【0044】
本発明の第2の実施形態における横断歩道1は、第1の実施形態と同様に制御部13を備え、当該制御部13は、歩行者用信号53と電気的に接続されている。
【0045】
このことにより、歩行者用信号53が青の時には横断歩道1を発光させ、歩行者用信号53が赤の時には横断歩道1を発光しないように制御する。このように制御する事によって、歩行者から見て横断が可能なタイミングを、より一層明確に把握することができる。
【0046】
また、歩行者用信号53が赤であるにも関わらず、歩行者が横断歩道1の横断を開始したことを、制御部13の歩行者検出部131が検出した場合、歩行者に対して警告を表示するように横断歩道1を発光させることが可能である。
【0047】
具体的には、図5aのような緩やかな発光/消灯の繰り返しではなく、明滅の頻度を増やすことにより、歩行者に対して警告を発することができる。
さらに、車両5が横断歩道の自動検知装置を搭載する場合、接近する車両5に対して危険を知らせるシグナル20を発することで、事故を未然に防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0048】
1 ・・・ 横断歩道
2 ・・・ 中央分離帯
3 ・・・ 停止線
5 ・・・ 車両
6 ・・・ 車両通行帯
8 ・・・ 交差点
9 ・・・ 外部電源
10 ・・・ 横断歩道枠
11 ・・・ 発光部
13 ・・・ 制御装置
14 ・・・ 保護プレート
15 ・・・ 緩衝材
20 ・・・ シグナル
53 ・・・ 歩行者用信号
81 ・・・ 凹み部
130 ・・・ 制御部
131 ・・・ 歩行者検知部
132 ・・・ 車両検知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上の車両通行帯を横断する方向に形成された横断歩道であって、
白色に発光する有機EL発光層を有し、その発光面を上方に向けて配置される有機ELパネルと、
前記有機ELパネルの上部に配置され、前記有機ELパネルを保護する保護手段と、
前記有機ELパネルに対して、発光を指示する制御手段と、
を備えることを特徴とする横断歩道。
【請求項2】
請求項1に記載の横断歩道において、
前記制御手段は、当該横断歩道上を通過する歩行者、または自転車の運転者を検知する検知手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記検知手段によって歩行者、または自転車の運転者を検知した際、前記有機ELパネルに対して発光を指示することを特徴とする横断歩道。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の横断歩道において、
前記制御手段は、当該横断歩道を通行する歩行者または自転車の運転者に対して横断を規制する信号機からの情報を入手し、当該情報に基づいて前記有機ELパネルに対して発光を指示することを特徴とする横断歩道。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の横断歩道において、
前記制御手段は、前記有機ELパネルが発光する光量を増減させることにより、所定の機器により特定の情報として識別される信号を発生させることを特徴とする横断歩道。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−62718(P2012−62718A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209012(P2010−209012)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】