説明

有機EL発光素子およびそれを用いた発光装置

【課題】走査線電流を抑制し、大型かつ高精細ディスプレイを安価に実現できる有機EL発光素子および発光装置を提供する。
【解決手段】透明電極2と、この透明電極2に対向して配置された対向電極3と、n枚(1≦n≦100)の中間導電層4と、前記透明電極2と対向電極3との間に中間に中間導電層4を挟んで介在され少なくとも有機発光層を包含する有機層5とから有機EL発光素子6が形成されている。この有機EL発光素子6が一次元または二次元配列されて発光装置10が構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)発光素子およびそれを用いた発光装置に関する。詳しくは、大型かつ高精細ディスプレイを実現するための有機EL発光素子および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光デバイスとして有機物を用いた有機EL発光素子が注目され、最近では、ディスプレイなどに利用されてきている。
図6(A)(B)は、有機EL発光素子を用いた従来のXYマトリックス型発光装置を示している。このXYマトリックス型発光装置は、ストライプ状に形成されたX電極ラインXe−2,Xe−1,Xe,Xe+1…と、このX電極ラインXe−2,Xe−1,Xe,Xe+1…に対して直交配置されたストライプ状のY電極ラインYm−1,Ym,Ym+1…と、これらX電極ラインXe−2,Xe−1,Xe,Xe+1…およびY電極ラインYm−1,Ym,Ym+1…の間に介在され少なくとも有機発光層を含む有機層Zとから構成されている。
【0003】
この構造において、XY座標のうち、任意の座標位置にある画素を発光させるには、たとえば、X方向を走査ラインとすると、まず、X電極ラインXe−2,Xe−1,Xe,Xe+1…の一本を選択して0Vの電圧を印加し、他のX電極ラインXe−2,Xe−1,Xe,Xe+1…に負電圧を印加する。一方、選択したX電極ラインXe−2,Xe−1,Xe,Xe+1…の発光させたい画素に対応してY方向信号ラインであるY電極ラインYm−1,Ym,Y+1…の一本に正電圧を印加し、発光させない画素に対応するY電極ラインYm−1,Ym,Y+1…に負電圧または0Vを印加する。これにより、得ようとする座標の画素を発光させることができる。なお、X電極ラインを負極、Y電極ラインを正極として考えたが、これ以外でも同様に駆動することができ得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、有機EL発光素子に用いられる有機発光材料については、種々の材料が開発されているが、その効率は最大でもη=10cd/A〜17cd/Aであった。
このため、10インチ以上の大面積や、画素数が(320×240)以上の高精細ディスプレイを実現しようとすると、次の点が問題となってきた。
【0005】
(1)高精細ディスプレイでは、走査線がN本(N>100)となる。このため、瞬間的には求める輝度Lo(nit)のN倍、すなわち、LN(nit)が必要である。このとき、必要な電流密度は、
I=LN/η(A/m2)=(LN/η)×10-4(A/cm2
=(LN/η)×10-1(mA/cm2
である。
従って、求める輝度Lo=200(nit)とした場合、次の表1の電流密度が必要である。(η=10cd/Aのとき)
【0006】
【表1】

【0007】
(2)上記のように大電流密度が必要となるので、(a)走査ライン、信号ラインの抵抗により電圧降下が大きく、消費電力が増大する。(b)大電流を注入できるような駆動回路が必要となり、そのため、駆動回路の大型化により薄型ディスプレイが実現できない。
(3)しかも、高精細になるにつれ、走査ラインおよび信号ラインが細線化し高抵抗化するため、CR時定数が大きくなり、素子の応答が遅れ、動画像を得る場合の支障となる。
(4)さらに、テレビジョンを実現したいというニーズに対しては輝度が300nit以上必要となるので、これらの問題はさらに不可避となる。
【0008】
なお、上述の問題を解決できるものとして、EP0717445号が知られている。
このEP0717445号では、ポリシリコンTFTを用いTFT駆動した有機EL発光装置を開示している。画素の大きさ200μm角、画素数1000×1000のディスプレイを実現しようとすると、単純マトリックス方式では走査線電流が2A/cm2となり、さらに走査線抵抗、信号線抵抗による電圧降下によって実質的には駆動できないことを開示している。この特許では、TFTを用いて、この問題を解決しようとしている。
しかしながら、ポリシリコンTFTのプロセスは長く、また、製造コストも高い。従って、ディスプレイも高価となるためメリットは少ない。
【0009】
本発明の目的は、走査線電流を抑制し、大型かつ高精細ディスプレイを安価に実現できる有機EL発光素子および発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の有機EL発光素子は、透明電極と、この透明電極に対向して配置された対向電極と、中間導電層と、前記透明電極と対向電極との間に中間に前記中間導電層を挟んで介在された複数の有機発光層とを含むことを特徴とする。
本発明の発光装置は、上記有機EL発光素子を、画素として、一次元または二次元配列したことを特徴とする。
ここで、各画素の中間導電層は、隣接する画素の中間導電層から分離されているだけでなく、電源からも分離されている。また、各画素中の中間導電層の数nは、任意であるが、現実的には100以下、つまり、1≦n≦100である。
【0011】
従って、本発明における有機EL発光素子は、中間に中間導電層を挟んで複数の有機発光層が直列接続された構成となっているから、たとえば、従来のXYマトリックス型発光装置を構成する画素の駆動電圧をVo、駆動電流をio、画素の静電容量をCoとすると、本発明の画素(n個の有機発光層、n−1の中間導電層を保有)の駆動電圧はnVo、駆動電流はio/n、静電容量はCo/nとなる。ただし、画素の輝度は従来と同一、単位素子(有機発光層を中間導電層および電極で挟んだ単位素子)は従来のXYマトリックスの画素素子と同じとする。
【0012】
換言すると、画素の輝度をn倍にしようとすると、従来のXYマトリックス型発光装置では、駆動電流をn倍にする必要があるが、本発明では、駆動電圧がn倍になるものの、駆動電流は同じでよい。つまり、輝度を同一とすると、本願発明では、電圧は従来のn倍になるものの、電流が従来の1/nでよいため、従来問題となっていた走査、信号ラインの抵抗による電圧降下は1/nとなる。よって、次の効果が期待できる。
【0013】
従来の発光装置では、走査線電流が大きく、そのため電圧降下が大きく、消費電力の増大をもたらすこと、また、高精細、大面積の発光装置では走査線電流が1A近くとなり、実質的にはドライバーICで駆動できないことが問題となっていた。
しかし、本発明では、走査線電流は従来の1/nとなり、消費電力も減少するので、より大面積かつ高精細、たとえば、12インチSVGA(画素数800×600、画素ピッチ110μm×330μm)以上も可能である。
【0014】
また、画素表示を行うためには、画素が高速に応答することが必要であるが、従来は配線抵抗Roと駆動時に関係する静電容量C1との積で定まる時定数τo=Ro・C1が大きく、数μS〜数10μSとなっていた。このため、駆動波形の立ち上がり、立ち下がりが遅れ、動画表示に支障が出ていた。
本発明では、Coが1/nとなり、さらに駆動時に関係する静電容量C1も1/nとなる。従って、時定数はτo=Ro・(C1/n)となり、高速に応答し、動画表示も高品質で行うことができる。なお、C1はCoと同一ではなく、駆動方式にもよるが、C1=Co×(縦画素数)程度となる。
【0015】
以上において、有機EL発光素子を構成する透明電極、中間導電層および対向電極の配列構成については、平面視上各画素に対して重なって積層されている構成でもよく、あるいは、透明電極と一番目の中間導電層にて有機発光層を介在した第一の単位発光素子と、n番目の中間導電層と対向電極にて有機発光層を介在した第nの単位発光素子とが、平面上並置されている構成でもよい。
特に、前者の構成の場合には、後者の構成に比べ、画素を高密度化できる。
【0016】
また、透明電極と一番目の中間導電層にて有機発光層を介在した第一の単位発光素子と、n番目の中間導電層と対向電極にて有機発光層を介在した第nの単位発光素子とが、少なくとも整流性を保有することが望ましい。
ここで、整流性を、好ましくは103以上、より好ましくは106以上とすれば、クロストークを防ぐことが可能となる。本発明では、中間導電層を保有する単位発光素子を多段で連結したため、整流性が得やすくなっている。従来の素子は、一個の単位発光素子からなっているため、整流性が不良な素子が生じやすく、クロストークが生じやすいという問題があった。
【0017】
ちなみに、本発明の構成に近い技術として、WO95/06400号が知られている。
このWO95/06400号は、第一の有機発光素子と第二の有機発光素子とを積層して、第一の発光色と第二の発光色を混色する、または、ハイカラー化するための効果を得るため考えられたものであるが、各有機発光素子にそれぞれ個別に電圧を印加した構成であるため、本発明の中間導電層を保有する構成とは異なる。しかも、本発明の中間導電層を中間に挟んだ有機発光層の構成に基づく効果についても一切示されていない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
[第1実施形態]
図1は第1実施形態の概略構成を示している。同図に示すように、第1実施形態の発光装置10は、図示省略のガラス基板上に形成された陽極となる透明電極2と、この透明電極2に対向して配置された陰極となる対向電極3と、n枚(1≦n≦100)の中間導電層4と、前記透明電極2と対向電極3との間に中間に前記中間導電層4を挟んで介在され少なくとも有機発光層を含有する複数の有機層5とを含む有機EL発光素子6を画素として備え、この画素(有機EL発光素子6)が二次元配列、つまり、XおよびY方向に沿って配列されている。つまり、XYマトリックス型発光装置を構成している。
【0019】
具体的には、透明電極2は、透光性を有し、互いに平行にかつ一定間隔おきに並設された複数のY電極ラインYm,Ym+1…から構成されている。
対向電極3は、Y電極ラインYm,Ym+1…に対して直交して、互いに平行にかつ一定間隔おきに並設された複数のX電極ラインXe,Xe+1…から構成されている。
中間導電層4は、透光性を備えるとともに、Y電極ラインYm,Ym+1…とX電極ラインXe,Xe+1…との交差する箇所で、かつ、これらの間にそれぞれ1枚配置されている。これを、E(e,m,n),E(e,m+1,n),E(e+1,m,n),E(e+1,m+1,n)…とする。なお、nは各画素6中に介在された中間導電層の数を表し、本実施形態では「1」である。また、各画素6中の中間導電層E(e,m,n),E(e,m+1,n),E(e+1,m,n),E(e+1,m+1,n)…は、隣接する画素6の中間導電層E(e,m,n),E(e,m+1,n),E(e+1,m,n),E(e+1,m+1,n)…から分離されているとともに、電極2,3に接続される電源からも分離されている。もとより、中間導電層E(e,m,n),E(e,m+1,n),E(e+1,m,n),E(e+1,m+1,n)…を単独でアドレスする配線は備えていない。
中間導電層4は、一方の主表面側には正孔を注入でき、他方の主表面側には電子を注入でき、かつ、層内には略等電位を保つ層と定義できる。この定義にあてはまるならば、各種透明性の半導体、金属を用いることができるとともに、半導体/金属の組合せも用いることができる。
有機層5は、Y電極ラインYm,Ym+1…とX電極ラインXe,Xe+1…との交差する箇所(各画素中)において、Y電極ラインYm,Ym+1…と中間導電層E(e,m,n),E(e,m+1,n),E(e+1,m,n),E(e+1,m+1,n)…との間、中間導電層E(e,m,n),E(e,m+1,n),E(e+1,m,n),E(e+1,m+1,n)…とX電極ラインXe,Xe+1…との間にそれぞれ介在されている。
【0020】
ここで、各電極2,3および中間導電層4間に少なくとも有機発光層を含有する有機層5が介在してなる部分を単位素子と定義すると、本実施形態では、単位素子が平面視上重なるように積層されている。つまり、透明電極2、中間導電層4および対向電極3が、平面視上各画素に対して重なるように積層されている。さらに、これらの単位素子は、整流性を有している。整流比としては、好ましくは103以上、より好ましくは106以上である。
また、単位素子としては、同じ発光色を示すものが好ましい。さらに、有機層5を構成する各層(たとえば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子注入層)の材料については、同一材料によって構成されているのが好ましい。これは、製造がしやすくなり、さらに製膜条件が一定であるため、画素の欠陥が少なくなる効果がある。また、透明電極2上に直接位置する単位素子にリーク不良が存在したとしても、積層される単位素子によりリーク不良が解消される効果があるが、その効果の面でも材料が同一で製膜条件が一定である方が、より効果を得やすい。
【0021】
図2は、上記図1の発光装置10の断面をより具体化して示している。図3はその一部を拡大した拡大図である。
これらの図に示すように、透明電極2および基板(図示省略)上に層間絶縁膜7が形成されている。層間絶縁膜7は、絶縁性または半導性の膜であり、非発光素子部分の一部分となっている。層間絶縁膜7はその断差部分が急であり、これにより、中間導電層4を相互に分離している。
層間絶縁膜7としては、断差加工ができる絶縁性膜、無機酸化物膜または無機窒化膜、具体的にはSiOx(1≦x≦2),SiNx(1/2≦x≦4/3),SiON,SiAlON,SiOFなどである。
別の好ましい絶縁性膜は高分子膜である。具体的には、ポリイミド,ポリアクリレート,ポリキノリン,ポリシロキサン,ポリシランなどである。
絶縁性膜の他にも半導体膜であっても画素分離ができる絶縁性があればよい。好ましい比抵抗は、1016Ω・cm〜105Ω・cmである。たとえば、α−Si,α−SiC,α−SiNなどでもよい。
【0022】
ところで、上述した発光装置10の製造方法については、各種考えられるが、好ましい具体例としては次のものが挙げられる。
(1)透明電極の製膜およびパターン加工
(2)段差を与える層間絶縁膜の製膜およびパターン加工
(3)有機発光層を含む有機層の製膜((4)を挟んでn+1回繰り返し)
(4)中間導電層の製膜
(5)対向電極の作製((3)の製膜後に作製)
(6)封止工程
従って、たとえば、(3)を2回繰り返す時は(1)→(2)→(3)→(4)→(3)→(5)→(6)となる。
【0023】
以上が本製造方法の製造工程であるが、従来の素子の製造方法に比べ、(2)および(4)の工程が異なる。また、(3)の工程を繰り返すところが異なっている。
また、本製造方法は、層間絶縁膜の段差を急にするところが必須であり、その角度は好ましくは70度以上である。これにより、好ましくは20nm〜0.5nmの膜厚で製膜された中間導電層が段差により断線され、隣接する画素の中間導電層が互いに分離される。また、面発光素子(一画素)についても、中間導電層が対向電極や透明電極より分離されていることを保障する。
【0024】
中間導電層としては、層内を略等電位に保つとともに、一方の主表面より正孔を、他方の主表面より電子を注入できるものなら各種用いることができる。好ましいものを列挙すると、
(1)超薄膜金属/透明電極
(2)電子輸送性化合物と電子注入性化合物の混合層/透明電極
(3)炭素化合物とアルカリ金属の混合層/透明電極
(4)正孔導電性有機層/電子導電性有機層
(5)P型半導体/N型半導体
(6)P型導電性高分子/N型半導体
などである。さらに、一方の面が正孔注入性であり、かつ、他方の面が電子注入性であれば、薄膜金属、透明電極、電子輸送性化合物と電子注入性化合物の混合層、正孔導電性有機層、PまたはN型半導体など(1)〜(6)の中間導電層として用いられるものの中より組み合わせれば、より好ましく用いることができる。
【0025】
上記透明電極で特に好ましいのは、低温で製膜できるIn−Zn−O酸化物膜である。他に、非晶質ITO膜も好ましい。
好ましい超薄膜金属は、電子注入性であるMg:Ag合金、Al:Li合金,Mg:Li合金などである。
好ましい電子輸送性化合物は、オキレンの金属錯体または含N素環化合物である。
好ましい電子注入性化合物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属およびこれらを含有する化合物である。たとえば、BaO,SrO,Li2O,LiCl,LiF,MgF2,MgO,CaF2などが好ましい電子注入性化合物である。
好ましいP型半導体は、P型α−Si,P型Si,P型CdTe,P型CuOなどである。
好ましいN型半導体は、N型α−Si,N型Si,N型CdS,N型ZnSなどである。
P型またはN型の導電性高分子として、好ましいものは、ポリアリーレンビニレン、ポリチェニレンビニレンなどである。
【0026】
[第2実施形態]
図4は第2実施形態の概略構成を示している。同図に示すように、第2実施形態の発光装置20は、3つの単位素子(1)(2)(3)が平面視上、並置されている構成である。
Y電極ラインYmより延長され接続されている電極Y’は、その上部の中間導電層E(e,m,1)との間に有機発光層を有する有機層5を介在し、単位素子(1)を構成している。中間導電層E(e,m,1)は、並置された単位素子(2)の下部にある中間導電層E(e,m,1)と接続されている。
中間導電層E(e,m,1)は、その上部にある中間導電層E(e,m,2)との間に有機発光層を有する有機層5を介在し、単位素子(2)を構成している。中間導電層E(e,m,2)は、並置される単位素子(3)の下部にある中間導電層E(e,m,2)と接続されている。
中間導電層E(e,m,2)は、その上部のX電極ラインXeとの間に有機発光層を有する有機層5を介在し、単位素子(3)を構成している。なお、これらの単位素子(1)(2)(3)については整流性を備える。
【0027】
従って、この第2実施形態の構成においても、X電極ラインYmより延長された電極Y’とX電極ラインXeとの間に、2枚の中間導電層E(e,m,1)、E(e,m,2)が介在され、これらの間に有機発光層を有する有機層5が介在されているから、つまり、電極Y’とX電極ラインXeとの間に、3つの有機層5が中間に中間導電層E(e,m,1)、E(e,m,2)を挟んで直列に接続されているから、第1実施形態と同等な効果が期待できる。
【0028】
[実施例1]
25mm×75mm×1.1mmのサイズのガラス基板上にITO(インジウムチンオキサイド)電極を120nm製膜してあるものを透明支持基板とした。このITOを110μmピッチ、90μm幅のストライプ状に加工した。ストライプの長手方向は20mm、本数は600本である。
次に、層間絶縁膜として透明アクリレート樹脂(新日本製鉄化学社製)であるV259をスピンコートにて1.2μmの膜厚で製膜した。この後、この基板を200℃の温度で加熱し、V259からなる層間絶縁膜を熱硬化した。
【0029】
次に、このV259層上にフォトレジストを製膜し、図5(A)のような開口パターンが残るようにフォトマスクを通し露光、現像した。さらに、この基板を80℃の温度で1時間、乾燥した後、図5(A)の形状のフォトレジストをマスクとして酸素ガスを用いた反応性イオンエッチングを行い、開口部の層間絶縁膜を除去した。得られたものは図5(B)の断面をもつ基板である。なお、上面形状については図5(C)参照。
【0030】
次に、この基板をイソプロピルアルコール中にて超音波洗浄を5分行い、さらに紫外線とオゾンを併用した洗浄を30分行った。この透明支持基板を真空蒸着装置に固定し、3つの抵抗加熱ボートには、MTDATA(4,4',4''−トリス{N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ}トリフェニルアミン)とNPD(N,N'−ジ−(1−ナフチル)−N,N'−ジフェニル−4,4'−ベンジジン)とAlq(8−ヒドロキシキノリンのAl錯体)をそれぞれ入れた。また、金属Liの蒸着源を用意した。真空蒸着装置を1×10-4まで排気した。
【0031】
次に、MTDATA入りのボートを加熱し、膜厚120nmの正孔注入層を製膜した。
次に、NPD入りのボートを加熱し、膜厚10nmの正孔輸送層を製膜した。次に、Alq入りボートを加熱し、膜厚40nmの発光層を製膜し、さらに、金属LiとAlqを1:1のモル比で同時蒸着した。このAlq:Li層は電子注入層として働くが、中間導電層の一部として考えてもよく、発光層への電子注入を行う。
【0032】
以上の製膜を行った基板(図5(D)に示す基板)を真空蒸着用の槽よりこの真空槽に連結されているスパッタリング用の真空槽に移動した。そして、中間導電層の一部としてIn−Zn−Oを11nm製膜した。In/(In/Zn)で表される原子比0.83のIn−Zn−Oスパッタリングターゲットを用い、スパッタリング出力1.2W/cm2、Ar:O2の体積比1000:1の混合ガスを雰囲気として製膜した。
【0033】
次に、以上の製膜を終えた基板を真空蒸着用の槽に戻し、MTDATA入りボートを加熱し、膜厚120nmの正孔注入層を製膜した。
次に、NPD入りのボートを加熱し、膜厚10nmの正孔輸送層を製膜した。次に、Alq入りボートを加熱し、膜厚40nmの発光層を製膜し、さらに、金属LiとAlqを1:1のモル比で同時蒸着した。
最後に、Inを陰極用蒸着マスク(開口ストライプパターンは、ITOストライプに垂直となるように400μmピッチ、開口幅300μmで20本設けられている。)をかけて1.8μmの膜厚で製膜し、陰極とした。作製された発光素子群(発光装置)の断面は図5(E)で示されたものである。
【0034】
以上で作製を終えたが、この発光素子群の陰極であるInストライプ全てを0電位に、陽極であるITOストライプ全てに15Vを印加し、中間導電層には何も結合しなかったところ、電流密度3mA/cm2、輝度210nitを得た。発光効率は7cd/Aであった。
【0035】
[比較例1]
比較例1は中間導電層がない場合である。
実施例1と同様に素子群を作製した。ただし、In−Zn−O中間導電層および2回目の正孔注入層、正孔輸送層、発光層の蒸着を省略し、従来の構成の素子群を作製した。発光素子群の陰極であるInストライプ全てを0電位に、陽極であるITOストライプ全てに7.35Vを印加したところ、電流密度3mA/cm2、輝度100nitを得た。発光効率は3.37cd/Aであった。
以上のことから、実施例1の素子は、電圧が比較例1に対して約2倍となるが、発光効率が約2倍となり、高輝度化が可能なことが判る。
【0036】
[実施例2]
実施例2は中間導電層が2枚の場合である。
実施例1と同様にして2回目のLi:Alq層まで蒸着した。以上の製膜を行った基板を真空蒸着用の槽よりこの真空槽に連結されているスパッタリング用の真空槽に再び移動した。そして、中間導電層の一部としてIn−Zn−Oを10nm製膜した。In/(In+Zn)で表される電子比0.83のIn−Zn−Oスパッタリングターゲットを用いスパッタリング出力1.2W/cm2、Ar:O2の体積比1000:1の混合ガスを雰囲気として製膜した。
【0037】
次に、以上の製膜を終えた基板を真空蒸着用の槽に戻し、MTDATA入りボートを加熱し、膜厚120nmの正孔注入層を製膜した。
次に、NPD入りボートを加熱し、膜厚10nmの正孔輸送層を製膜した。
次に、Alq入りボートを加熱し、膜厚40nmの発光層を製膜し、さらに、金属LiとAlqを1:1のモル比で同時蒸着した。
最後に、Inを陰極用蒸着マスク(開口ストライプパターンは、ITOストライプに垂直となるように400μmピッチ、開口幅300μmで20本設けられている。)をかけて1.8μmの膜厚で製膜し、陰極とした。
【0038】
以上で作製を終えたが、この発光素子群の陰極であるInストライプ全てを0電位に、陽極であるITOストライプ全てに23Vを印加し、2枚の中間導電層には何も結合しなかったところ、電流密度3mA/cm2、輝度303nitを得た。発光効率は10.1cd/Aであった。
以上のように、この実施例2では、比較例1の素子に比べて、電圧は約3倍であるが、輝度が3倍、発光効率も約3倍の高輝度化素子が作製できた。
なお、以上の実施例では、全面発光の試験例を示したが、陽極を信号線、陰極を走査線として単純マトリックスによる線順次駆動できることも確認している。従来の発光装置に比較して、走査線電流を同じにしたとき、実施例1、実施例2の発光装置で得られる輝度はそれぞれ2.02、2.95倍であり、高輝度化することができた。
【0039】
[実施例3]
実施例3は中間導電層がMg:Agの超薄膜/In−Zn−O導線性酸化物膜の例である。
実施例1と同様にして素子を作製した。ただし、Alq:Li/In−Zn−O導線性酸化物膜の構成の中間導電膜層のかわりに、Mg:Agの超薄膜/In−Zn−O導線性酸化物膜を用いたところが異なった。
Mg:Agは、膜厚8nmであり、同時蒸着により形成した。この中間導電層は透過率が約60%であった。この発光素子群の陰極ストライプ全てを0電位に、陽極であるITOストライプ全てに15Vを印加し、中間導電層には何も結合しなかったところ、電流密度3mA/cm2、輝度156nitを得た。発光効率は5.2cd/Aであった。
【0040】
以上のように、透過率が金属超薄膜を利用した場合には、比較例1の素子に比べ約2倍までいかないが、高輝度化した。電子注入層と電子注入性化合物の混合層は透明性が高いので、実施例1の素子の方が優れていた。このように、透過率が60%より大きい透明かつ正孔も電子も注入できる中間導電層を用いる方が好ましいことが判明した。
【0041】
[実施例4]
実施例4は中間導電層を保有する面発光光源の例である。
25mm×75mm×1.1mmのサイズのガラス基板上にITO(インジウムチンオキサイド)電極を120nm製膜してあるものを透明支持基板とした。このITOを25mm×30mmの形状にパターン加工した。
次に、層間絶縁膜として透明アクリレート樹脂製(新日本製鉄化学社製)であるV259をスピンコートにて1.2μmの膜厚で製膜した。この後、この基板を200℃の温度で加熱し、V259からなる層間絶縁膜を熱硬化した。
【0042】
次に、このV259層上にフォトレジストを製膜し、20mm×25mmの開口パターンが残るようにフォトマスクを通し露光、現像した。さらに、この基板を80℃の温度で1時間、乾燥した後、フォトレジストをマスクとして酸素ガスを用いた反応性イオンエッチングを行い、開口部の層間絶縁膜を除去した。
次に、この基板をイソプロピルアルコール中にて超音波洗浄を5分行い、さらに、紫外線とオゾンを併用した洗浄を30分行った。
【0043】
この透明支持基板上に共役系ポリマーであるポリ(2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン)、(MEH−PPV)を文献(Synthetic Metal誌 第66巻、75頁、1994年)に従い合成した。MEH−PPVの1.5重量%のキシレン溶液より発光層を120nm製膜した。
これを真空中で80℃で乾燥し、さらに、この層の上にAlq(8−ヒドロキシキノリンのAl錯体)と金属Liの1:1の層を電子注入層として20nm、真空蒸着した。このAlq:Li層は電子注入層として働くが、中間導電層の一部として考えてもよく、発光層への電子注入を行う。
【0044】
以上の製膜を行った基板を真空蒸着用の槽よりこの真空槽に連結されているスパッタリング用の真空槽に移動した。そして、中間導電層の一部としてIn−Zn−Oを11nm製膜した。In/(In+Zn)で表される原子比0.83のIn−Zn−Oスパッタリングターゲットを用いスパッタリング出力1.2W/cm2、Ar:O2の体積比1000:1の混合ガスを雰囲気をして製膜した。
【0045】
次に、以上の製膜を終えた基板上にさらにMEH−PPVの1.5重量%のキシレン溶液より発光層を120nm製膜した。これを真空中80℃で乾燥し、さらに、この層の上にAlq(8−ヒドロキシキノリンのAl錯体)と金属Liの1:1の層を電子注入層として20nm、真空蒸着した。金属LiとAlqを1:1のモル比で同時蒸着した。最後に、Inを陰極用蒸着マスクをかけて1.7μmの膜厚で製膜し、陰極とした。
以上で作製を終えたが、この面発光素子の陰極を0電位に、陽極であるITOに11Vを印加し、中間導電層には何も結合しなかったところ、電流密度30mA/cm2、輝度1400nitを得た。発光効率は4.7cd/Aであった。
【0046】
[比較例2]
比較例2は従来の面状発光素子の場合である。
実施例4と同様に素子群を作製した。ただし、In−Zn−O中間導電層および2回目の発光層、電子注入層を省略し、従来の構成の素子を作製した。発光素子群の陰極を0電位に、陽極であるITOに5.2Vを印加したところ、電流密度30mA/cm2、輝度750nitを得た。発光効率は2.5cd/Aであった。
以上のことから、実施例4の素子は、比較例2に比べ、電圧が約2倍となるが、発光効率が略2倍近くとなり、低電圧で高輝度化が可能なことが判る。
【0047】
[従来発光素子の寿命と本発明素子の寿命との比較]
初期200nitで定電流駆動で寿命試験を行った。比較例2の素子の寿命は500時間であった。実施例4の本発明の素子を同じ輝度で寿命試験を行ったところ、寿命は1300時間に伸びた。
初期輝度400nitで定電流駆動で寿命試験を行ったところ、比較例2に対して実施例4の素子の輝度が2倍のとき、寿命は470時間で同等であった。
従って、本発明は、高輝度で同等の寿命を得ることができ、同等の輝度では著しく長寿命となることが判る。
【0048】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものでなく、本発明の目的を達成できる他の構成を含む。
たとえば、第1および第2実施形態では、画素(有機EL発光素子6)を二次元配列したが、XまたはY方向に沿って一列に配列、つまり、一次元配列でもよい。
また、第1実施形態では各画素中に1つの中間導電層4を、また、第2実施形態では2つの中間導電層4を介在させたが、中間導電層4の数nは、1つ以上かつ100以下の範囲内であれば任意である。つまり、1≦n≦100の範囲内であれば任意である。
【0049】
また、有機層5の層構成については、特に問わないが、陰極と発光層との間に電子注入層を設けたり、陽極と発光層との間に正孔注入層を設けたり、あるいは、これらの電子注入層および正孔注入層を両方に設けた構造でもよく、少なくとも、有機発光層を含む構成であればどのような層構成でもよい。
【0050】
本発明の有機EL発光素子によれば、透明電極と対向電極との間に、中間に中間導電層を挟んで複数の有機発光層を介在させた構成であるから、従来の素子に比べ、走査線電流を抑制できるとともに、応答性を向上させることができる。
従って、この有機EL発光素子を用いた発光装置によれば、大型かつ高精細ディスプレイを安価に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の発光装置の第1実施形態の原理を示す斜視図である。
【図2】同上実施形態の断面を示す断面図である。
【図3】図2の部分拡大図である。
【図4】本発明の発光装置の第2実施形態の原理を示す斜視図である。
【図5】本発明の第1実施形態の製造方法を説明するための図である。
【図6】従来のXYマトリックス型発光装置を示す平面図およびその一部拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
2…透明電極、3…対向電極、4…中間導電層、5…有機層、6…有機発光素子、7…層間絶縁膜、10…発光装置、20…発光装置、Ym,Ym+1…Y電極ライン、Xe,Xe+1…X電極ライン、E(e,m,n)〜E(e+1,m+1,n)…中間導電層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極と、この透明電極に対向して配置された対向電極と、中間導電層と、前記透明電極と対向電極との間に中間に前記中間導電層を挟んで介在された複数の有機発光層とを含むことを特徴とする有機EL発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL発光素子において、前記中間導電層の数nが、1≦n≦100であることを特徴とする有機EL発光素子。
【請求項3】
請求項2に記載の有機EL発光素子において、前記透明電極、中間導電層および対向電極が、平面視上重なって積層されていることを特徴とする有機EL発光素子。
【請求項4】
請求項2に記載の有機EL発光素子において、前記透明電極と一番目の中間導電層にて有機発光層を介在した第一の単位発光素子と、n番目の中間導電層と対向電極にて有機発光層を介在した第nの単位発光素子とが、平面上並置されていることを特徴とする有機EL発光素子。
【請求項5】
請求項2に記載の有機EL発光素子において、前記透明電極と一番目の中間導電層にて有機発光層を介在した第一の単位発光素子と、n番目の中間導電層と対向電極にて有機発光層を介在した第nの単位発光素子とが、少なくとも整流性を保有することを特徴とする有機EL発光素子。
【請求項6】
透明電極と、この透明電極に対向して配置された対向電極と、中間導電層と、前記透明電極と対向電極との間に中間に前記中間導電層を挟んで介在された複数の有機発光層とを含む有機発光素子を、画素として、一次元または二次元配列したことを特徴とする発光装置。
【請求項7】
請求項6に記載の発光装置において、前記中間導電層の数nが、1≦n≦100であることを特徴とする発光装置。
【請求項8】
請求項7に記載の発光装置において、前記透明電極、中間導電層および対向電極が、平面視上重なって積層されていることを特徴とする発光装置。
【請求項9】
請求項7に記載の発光装置において、前記透明電極と一番目の中間導電層にて有機発光層を介在した第一の単位発光素子と、n番目の中間導電層と対向電極にて有機発光層を介在した第nの単位発光素子とが、平面上並置されていることを特徴とする発光装置。
【請求項10】
請求項7に記載の発光装置において、前記透明電極と一番目の中間導電層にて有機発光層を介在した第一の単位発光素子と、n番目の中間導電層と対向電極にて有機発光層を介在した第nの単位発光素子とが、少なくとも整流性を保有することを特徴とする発光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−344606(P2006−344606A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208878(P2006−208878)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【分割の表示】特願平10−138326の分割
【原出願日】平成10年5月20日(1998.5.20)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】