説明

有機EL装置の製造方法

【課題】発光効率を改善することが可能な有機EL装置の製造方法を提供する。
【解決手段】画素電極を形成する工程と、第1有機材料及び前記第1有機材料よりも昇華する温度が高い第2有機材料を含む混合材料を供給する工程と、前記混合材料に含まれる前記第2有機材料が昇華する温度よりも50℃以上高い温度で前記混合材料を加熱する工程と、昇華した前記混合材料を前記画素電極の上方の面に蒸着させる工程と、を具備したことを特徴とする有機EL装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光型で、高速応答、広視野角、高コントラストの特徴を有し、かつ、更に薄型軽量化が可能な有機エレクトロルミネセンス(EL)素子を用いた表示装置の開発が盛んに行われている。
【0003】
この有機EL素子は、正孔注入電極(陽極)から正孔を注入するとともに、電子注入電極(陰極)から電子を注入し、発光層で正孔と電子とを再結合させて発光を得るものである。フルカラー表示を得るためには、赤(R)、緑(G)、青(B)にそれぞれ発光する画素を構成する必要がある。赤、緑、青の各画素を構成する有機EL素子の発光層には、赤色、緑色、青色といったそれぞれ異なる発光スペクトルで発光する発光材料を塗り分ける必要がある。このような発光材料を塗り分ける方法として、真空蒸着法がある。このような真空蒸着法によって低分子系の有機EL材料を成膜する場合、各色の画素毎に開口した金属性のファインマスクを用いてそれぞれ独立にマスク蒸着する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−157973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、発光効率を改善することが可能な有機EL装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
画素電極を形成する工程と、第1有機材料及び前記第1有機材料よりも昇華する温度が高い第2有機材料を含む混合材料を供給する工程と、前記混合材料に含まれる前記第2有機材料が昇華する温度よりも50℃以上高い温度で前記混合材料を加熱する工程と、昇華した前記混合材料を前記画素電極の上方の面に蒸着させる工程と、を具備したことを特徴とする有機EL装置の製造方法が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
画素電極を形成した処理基板をチャンバ内に取り付ける工程と、第1有機材料及び前記第1有機材料よりも昇華する温度が高い第2有機材料を含む混合材料を加熱室に供給する工程と、前記加熱室から前記処理基板に向かう流路を閉鎖した状態で前記加熱室に供給された前記混合材料を加熱する工程と、前記第1有機材料及び前記第2有機材料がともに昇華した状態で前記流路を開放する工程と、昇華した前記混合材料を前記画素電極の上方の面に蒸着させる工程と、を具備したことを特徴とする有機EL装置の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、
画素電極を形成する工程と、ドーパント材料を含む第1材料を供給する工程と、前記第1材料を加熱する工程と、昇華した前記第1材料を前記画素電極の上方の面に蒸着させる工程と、前記第1材料よりもドーパント材料の濃度が低い第2材料を供給する工程と、前記第2材料を加熱する工程と、昇華した前記第2材料を前記画素電極の上方の面に蒸着させる工程と、を具備したことを特徴とする有機EL装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発光効率を改善することが可能な有機EL装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本実施形態における有機EL装置の有機EL素子の構成を模式的に示す図である。
【図2】図2は、図1に示した有機EL装置を製造するための製造装置の構成を概略的に示す図である。
【図3】図3は、本実施形態における第1の有機EL装置の製造方法において、混合材料を加熱する温度と、加熱によって昇華した混合材料を用いて発光層を形成した有機EL素子を発光させた際に得られる色度との測定結果を示す図である。
【図4】図4は、第1の有機EL装置の製造方法において、第1サンプル及び第2サンプルについて混合材料が昇華する際の時間に対する昇華量のモデルを示す図である。
【図5】図5は、第1の有機EL装置の製造方法において、第3サンプル及び第4サンプルについて混合材料が昇華する際の時間に対する昇華量のモデルを示す図である。
【図6】図6は、この第2の有機EL装置の製造方法において、第1材料及び第2材料が昇華する際の時間に対する昇華量のモデルを示す図である。
【図7】図7は、この第3の有機EL装置の製造方法において、第1材料及び第2材料が昇華する際の時間に対する昇華量のモデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、本実施形態における有機EL装置の有機EL素子OLEDの構成を模式的に示す図である。
【0013】
有機EL素子OLEDは、画素電極PE、画素電極PEの上に配置されたホール輸送層HTL、ホール輸送層HTLの上に配置された発光層EML、発光層EMLの上に配置された電子輸送層ETL、電子輸送層ETLの上に配置された対向電極CEなどを備えて構成されている。
【0014】
画素電極PEは、例えば陽極に相当する。このような画素電極PEの構造については、特に制限はなく、反射層単層構造、透過層単層構造、あるいは、反射層の上に透過層が積層された2層構造であっても良いし、さらには、3層以上の積層構造であっても良い。反射層は、例えば、銀(Ag)、アルミニウム(Al)などの光反射性を有する導電材料によって形成可能である。透過層は、例えば、インジウム・ティン・オキサイド(ITO)、インジウム・ジンク・オキサイド(IZO)などの光透過性を有する酸化物導電材料などの導電材料によって形成可能である。
【0015】
ホール輸送層HTL、発光層EML、及び、電子輸送層ETLは、有機材料を用いて形成されている。発光層EMLは、複数の有機材料を混合した混合材料を用いて形成されている。このような発光層EMLは、例えば、ドーパント材料及びホスト材料を含んでいる。なお、発光層EMLは、蛍光材料によって形成されていても良いし、燐光材料によって形成されていても良い。
【0016】
対向電極CEは、例えば、陰極に相当する。このような対向電極CEの構造については、特に制限はなく、透過層単層構造、半透過層単層構造、あるいは、半透過層及び透過層が積層された2層構造であっても良い。半透過層は、例えば、マグネシウム(Mg)・銀(Ag)などの導電材料によって形成されている。
【0017】
なお、画素電極PEとホール輸送層HTLとの間にホール注入層を追加しても良いし、電子輸送層ETLと対向電極CEとの間に電子注入層を追加しても良いし、さらに他の層を追加しても良い。
【0018】
次に、上述した有機EL装置を製造するための製造装置について説明する。ここでは、特に、発光層EMLを製造するための製造装置について説明する。
【0019】
図2は、有機EL装置の製造装置1の構成を概略的に示す図である。
【0020】
すなわち、製造装置1は、チャンバ2、チャンバ2の内部に処理基板SUBを取り付けるホルダー3、発光層EMLを形成するための混合材料を供給する材料供給部4、材料供給部4から供給された混合材料を加熱する図示しないヒータなどを備えた加熱室5、材料供給部4と加熱室5との間に設けられたシャッター6、加熱室5と処理基板SUBとの間に設けられたバルブ7などを備えて構成されている。シャッター6は、材料供給部4から加熱室5への混合材料の供給及び供給停止を制御する。バルブ7は、加熱室5と処理基板SUBとの間の流路8の閉鎖及び開放を制御する。
【0021】
このような製造装置1においては、材料供給部4から加熱室5に供給された混合材料が加熱され、混合材料を昇華させ、昇華した混合材料を処理基板SUBの表面に蒸着させる。なお、処理基板SUBは、画素電極PE及びホール輸送層HTLが形成済みであり、ホール輸送層HTLが形成された面を、昇華した混合材料が供給される側に向けて取り付けられる。つまり、ホール輸送層HTLが形成された面は、処理基板SUBの表面に相当し、昇華した混合材料が蒸着される画素電極PEの上方の面に相当する。
【0022】
次に、上記した製造装置1における第1の有機EL装置の製造方法について説明する。
【0023】
なお、以下に説明する例では、材料供給部4には、ホスト材料である第1有機材料及びドーパント材料である第2有機材料を含む混合材料が収容されている。第2有機材料が昇華する温度は、第1有機材料が昇華する温度よりも高い。本実施形態においては、有機材料が昇華する温度を、以下『昇華温度』と称する。例えば、第1有機材料の昇華温度が270℃であるのに対して、第2有機材料の昇華温度は370℃である。
【0024】
まず、画素電極PE及びホール輸送層HTLを形成済みの処理基板SUBをチャンバ2の内部のホルダー3に取り付ける。その後、シャッター6が開放され、材料供給部4から加熱室5に混合材料が供給される。加熱室5では、混合材料に含まれる有機材料のそれぞれの昇華温度のうち、最も高い昇華温度よりも50℃以上高い温度で混合材料を加熱する。混合材料が上記した第1有機材料及び第2有機材料からなる場合には、加熱室5では、第2有機材料が昇華する温度よりも50℃以上高い温度で混合材料を加熱する。つまり、加熱室5における加熱温度は420℃以上に設定される。このような混合材料の加熱により、第1有機材料及び第2有機材料が昇華し、開放された流路8を介して昇華した混合材料が処理基板SUBに向けて供給される。処理基板SUBの表面には、昇華した混合材料が蒸着される。これにより、発光層EMLが形成される。
【0025】
その後、発光層EMLの上に電子輸送層ETLなどが形成された後、電子輸送層ETLの上に対向電極CEが形成される。
【0026】
上述した第1の有機EL装置の製造方法によれば、混合材料に含まれる第1有機材料及び第2有機材料の昇華が略同時に開始されるため、ホスト材料である第1有機材料中のドーパント材料である第2有機材料が略均一に分布した発光層EMLを形成することが可能となる。このため、ドーパント材料の分布に偏りが生じた発光層と比較して、電子・ホールの注入量のバランスが改善され、発光効率を改善することが可能となる。
【0027】
以下に、加熱室5における加熱温度について説明する。
【0028】
ここでは、昇華温度が270℃である第1有機材料(ホスト材料)、及び、昇華温度が370℃である第2有機材料(ドーパント材料)を混合した混合材料を加熱室5に供給し、加熱室5で昇華した混合材料によって発光層EMLを形成した有機EL素子OLEDについて、色度を測定した。なお、第2有機材料としては、発光色が主として緑色波長である材料を適用した。
【0029】
図3は、この測定結果を示す。この図において、横軸は加熱室5における混合材料の加熱温度(℃)であり、縦軸は有機EL素子OLEDを発光させた際に得られた色度(Gy)である。色度Gyとは、色度座標上のY座標の値である。
【0030】
図示したように、加熱温度を約350℃に設定した場合に、昇華した混合材料によって発光層EMLを形成した第1サンプルの有機EL素子OLEDについて、発光させたときに得られた発光色の色度は0.5付近であった。
【0031】
加熱温度を約380℃に設定した場合に、昇華した混合材料によって発光層EMLを形成した第2サンプルの有機EL素子OLEDについて、発光させたときに得られた発光色の色度は0.6付近であった。
【0032】
加熱温度を約420℃に設定した場合に、昇華した混合材料によって発光層EMLを形成した第3サンプルの有機EL素子OLEDについて、発光させたときに得られた発光色の色度は0.66付近であった。
【0033】
加熱温度を約450℃に設定した場合に、昇華した混合材料によって発光層EMLを形成した第4サンプルの有機EL素子OLEDについて、発光させたときに得られた発光色の色度は0.66付近であった。
【0034】
ここの結果に示したように、第1サンプル及び第2サンプルの有機EL素子OLEDについては、緑色として所望の色度が得られなかった。一方で、混合材料に含まれる第2有機材料の昇華温度(370℃)より50℃以上高い温度で混合材料を加熱した第3サンプル及び第4サンプルの有機EL素子OLEDについては、緑色として所望の色度が得られることが確認された。
【0035】
図4は、第1サンプル及び第2サンプルにおいて、混合材料が昇華する際の時間に対する昇華量のモデルを示す図である。
【0036】
混合材料に含まれる第2有機材料の昇華温度よりも十分に高い温度で加熱しなかった場合、第1有機材料及び第2有機材料の質量差及び昇華温度の差により、昇華開始のタイミングがずれる。ここに示したモデルでは、図中にHで示した第1有機材料の昇華温度がDで示した第2有機材料の昇華温度よりも100℃程度低いため、第1有機材料の昇華が第2有機材料の昇華よりも先行して開始される。また、第1有機材料の質量は、第2有機材料の質量よりも軽い。このため、発光層EMLの蒸着を開始した直後のタイミングでは第1有機材料のみが昇華し、次第に第1有機材料に第2有機材料が混ざって昇華し、さらに、第1有機材料の昇華が終了した後には第2有機材料のみが昇華する。
【0037】
このようなモデルによれば、発光層EMLにおいて、ホール輸送層HTLの側から電子輸送層ETLの側に向かうにしたがって、第1有機材料中の第2有機材料の分布が増加する。なお、ホール輸送層HTLの近傍では、主として第1有機材料が形成され、電子輸送層ETLの近傍では、主として第2有機材料が形成される。このように、発光層EMLにおいて、第2有機材料の分布に着目すると、電子輸送層ETLの側に偏って分布している。このため、発光層EMLにおいて、電子・ホールの注入量のバランスが崩れ、発光効率の低下を招く。
【0038】
図5は、第3サンプル及び第4サンプルにおいて、混合材料が昇華する際の時間に対する昇華量のモデルを示す図である。
【0039】
混合材料に含まれる第2有機材料の昇華温度よりも50℃以上高い温度で加熱した場合、図4に示したモデルと比較して、第2有機材料の昇華開始のタイミングが早まる。このため、発光層EMLの蒸着を開始した直後のタイミングでは、第1有機材料及び第2有機材料が略同時に昇華を開始し、その後、第1有機材料及び第2有機材料が略同時に昇華を終了する。
【0040】
このようなモデルによれば、発光層EMLにおいて、第1有機材料中の第2有機材料の分布は略均一化される。このような発光層EMLにおいては、図4に示したモデルと比較して、電子・ホールの注入量のバランスが改善されるため、発光効率が改善する。
【0041】
上述した例では、第2有機材料として発光色が主として緑色波長である材料を適用した場合について説明したが、発明者の検討結果によれば、他の色、例えば発光色が主として赤色波長である材料を適用した場合や、発光色が主として青色波長である材料を適用した場合においても、第2有機材料の昇華温度よりも50℃以上高い温度で加熱して昇華させた場合に、所望の色度が得られることが確認された。
【0042】
例えば、第2有機材料として発光色が主として赤色波長である材料の一例として、昇華温度が350℃の材料を適用した場合、350℃+50℃の温度で加熱して昇華させることにより、色度Ry=0.34が得られた。
【0043】
例えば、第2有機材料として発光色が主として青色波長である材料の一例として、昇華温度が300℃の材料を適用した場合、300℃+50℃の温度で加熱して昇華させることにより、色度By=0.12が得られた。
【0044】
なお、本実施形態において、主波長が595nm乃至800nmの範囲を第1波長範囲と定義し、この第1波長範囲内にある色を赤色とする。また、主波長が490nmより長く且つ595nmよりも短い範囲を第2波長範囲と定義し、この第2波長範囲内にある色を緑色とする。さらに、主波長が400nm乃至490nmの範囲を第3波長範囲と定義し、この第3波長範囲内にある色を青色とする。
【0045】
次に、上記した製造装置1における第2の有機EL装置の製造方法について説明する。
【0046】
まず、画素電極PE及びホール輸送層HTLを形成済みの処理基板SUBをチャンバ2の内部のホルダー3に取り付ける。その後、シャッター6が開放され、材料供給部4から加熱室5に混合材料が供給される。この時点では、バルブ7により加熱室5と処理基板SUBとの間の流路8は閉鎖されている。
【0047】
加熱室5では、材料供給部4から供給された混合材料を加熱する。このような混合材料の加熱により、第1有機材料及び第2有機材料が昇華する。バルブ7によって流路8が閉鎖された状態では、混合材料の昇華に伴って加熱室5の内部の圧力が高くなることを回避するため、加熱室5に逆止弁を介して排気口が接続されていることが望ましい。
【0048】
加熱室5において、混合材料を加熱し始めてから第1期間は、流路8が閉鎖されている。この第1期間は、混合材料のうちの一部の有機材料が主として昇華しており、例えば、主として第1有機材料が第2有機材料よりも先行して昇華している期間に相当する。
【0049】
このような第1期間経過後、混合材料の第1有機材料及び第2有機材料がともに昇華したタイミングで、バルブ7により流路8を開放する。これにより、加熱室5から昇華した混合材料が流路8を介して処理基板SUBに向けて供給される。処理基板SUBの表面には、昇華した混合材料が蒸着される。
【0050】
流路8が開放されてから第2期間経過後は、バルブ7により流路8を閉鎖する。この第2期間は、混合材料のうちの一部の有機材料が主として昇華しており、例えば、加熱室5に供給された混合材料に含まれる第1有機材料の昇華が終了し、主として第2有機材料が昇華している期間に相当する。
【0051】
バルブ7は、少なくとも第2有機材料の昇華が終了するまでの第3期間が経過するまで流路8を閉鎖する。
【0052】
これにより、発光層EMLが形成される。
【0053】
その後、発光層EMLの上に電子輸送層ETLなどが形成された後、電子輸送層ETLの上に対向電極CEが形成される。
【0054】
図6は、この第2の有機EL装置の製造方法において、混合材料が昇華する際の時間に対する昇華量のモデルを示す図である。この図6において、Hは第1有機材料の昇華量の時間的変化を示し、Dは第2有機材料の昇華量の時間的変化を示している。
【0055】
ここに示したモデルは、図4に示したモデルと同様であり、第1有機材料の昇華が第2有機材料の昇華よりも先行して開始される。すなわち、混合材料の加熱を開始した直後のタイミングでは主として第1有機材料のみが昇華し、次第に第1有機材料に第2有機材料が混ざって昇華し、さらに、第1有機材料の昇華が終了した後には第2有機材料のみが昇華する。
【0056】
このようなモデルにおいて、混合材料の加熱を開始し第1有機材料の昇華が開始されてから第2有機材料の昇華が開始されるまでの期間が、上記の第1期間T1に相当する。この第1期間T1では、流路8が閉鎖されているため、処理基板SUBには、昇華した第1有機材料が供給されることはない。
【0057】
第1期間T1が経過したタイミングでバルブ7により流路8が開放される。第2有機材料の昇華が開始されてから第1有機材料の昇華が終了するまでの期間が、上記の第2期間T2に相当する。この第2期間T2では、処理基板SUBには、昇華した第1有機材料及び第2有機材料が供給される。
【0058】
第2期間T2が経過したタイミングでバルブ7により流路8が閉鎖される。第1有機材料の昇華が終了してから第2有機材料の昇華が終了するまでの期間が、上記の第3期間T3に相当する。この第3期間T3では、処理基板SUBには、昇華した第2有機材料が供給されることはない。
【0059】
上述した第2の有機EL装置の製造方法によれば、加熱室5と処理基板SUBとの間の流路8の開閉を制御するバルブ7の操作により、混合材料に含まれる第1有機材料及び第2有機材料が昇華した状態で流路8を開放し、主として第1有機材料のみが昇華した状態、及び、主として第2有機材料のみが昇華した状態では流路8を閉鎖している。このため、ホスト材料である第1有機材料中のドーパント材料である第2有機材料が略均一に分布した発光層EMLを形成することが可能となる。したがって、第1の製造方法で得られた有機EL素子と同様に、発光効率を改善することが可能となる。
【0060】
この第2の有機EL装置の製造方法では、加熱室5における混合材料の加熱温度は、第1有機材料及び第2有機材料を昇華可能な温度であれば特に制限はないが、第1の製造方法で説明したように、混合材料に含まれる第2有機材料の昇華温度よりも50℃以上高い温度に設定されても良い。
【0061】
次に、上記した製造装置1における第3の有機EL装置の製造方法について説明する。
【0062】
まず、画素電極PE及びホール輸送層HTLを形成済みの処理基板SUBをチャンバ2の内部のホルダー3に取り付ける。その後、シャッター6が開放され、材料供給部4から加熱室5に第1材料が供給される。この第1材料は、少なくともドーパント材料である第2有機材料を含んでいる。なお、この第1材料は、第2有機材料のみの材料であっても良いし、第1有機材料と第2有機材料の混合材料であり且つ混合材料中の第2有機材料の濃度が比較的高濃度である材料であっても良い。
【0063】
加熱室5では、材料供給部4から供給された第1材料を加熱する。このような第1材料の加熱により、第1材料が昇華し、開放された流路8を介して昇華した第1材料が処理基板SUBに向けて供給される。処理基板SUBの表面には、昇華した第1材料が蒸着される。
【0064】
続いて、材料供給部4から加熱室5に第2材料が供給される。この第2材料は、ホスト材料である第1有機材料及びドーパント材料である第2有機材料を含んだ混合材料である。なお、この第2材料については、混合材料中の第2有機材料の濃度が比較的低濃度であり、第1材料を混合材料とした場合の混合材料中の第2有機材料の濃度より低い。
【0065】
加熱室5では、材料供給部4から供給された第2材料を加熱する。このような第2材料の加熱により、第2材料が昇華し、開放された流路8を介して昇華した第2材料が処理基板SUBに向けて供給される。処理基板SUBの表面には、昇華した第2材料が蒸着される。これにより、発光層EMLが形成される。
【0066】
その後、発光層EMLの上に電子輸送層ETLなどが形成された後、電子輸送層ETLの上に対向電極CEが形成される。
【0067】
図7は、この第3の有機EL装置の製造方法において、第1材料及び第2材料が昇華する際の時間に対する昇華量のモデルを示す図である。
【0068】
ここに示したモデルは、第1材料はドーパント材料である第2有機材料のみの材料であり、第2材料は、ホスト材料である第1有機材料及びドーパント材料である第2有機材料の2種類の有機材料を含んだ混合材料であり、第1材料は、第2材料と異なるタイミングで加熱室5に供給される。
【0069】
この図7において、第1材料は時刻Aのタイミングで加熱室5に供給され、第2材料は時刻Bのタイミングで加熱室5に供給される。また、この図において、D1は第1材料の第2有機材料の昇華量の時間的変化を示し、Hは第2材料の第1有機材料の昇華量の時間的変化を示し、D2は第2材料の第2有機材料の昇華量の時間的変化を示している。
【0070】
ここに示したモデルでは、まず、第1材料の加熱を開始した直後のタイミングにおいて、第2有機材料のみが昇華する。その後、第2材料の加熱を開始した直後のタイミングにおいて、第1有機材料の昇華が第2有機材料の昇華よりも先行して開始される。その後、次第に第1有機材料に第2有機材料が混ざって昇華し、さらに、第1有機材料の昇華が終了した後には第2有機材料のみが昇華する。
【0071】
上述した第3の有機EL装置の製造方法によれば、発光層EMLにおいて、その略全体にわたって、ホスト材料である第1有機材料中にドーパント材料である第2有機材料が混合した領域を形成することが可能となる。したがって、第1の製造方法で得られた有機EL素子と同様に、発光効率を改善することが可能となる。
【0072】
この第3の有機EL装置の製造方法では、加熱室5における混合材料の加熱温度は、第1有機材料及び第2有機材料を昇華可能な温度であれば特に制限はないが、第1の製造方法で説明したように、混合材料に含まれる第2有機材料の昇華温度よりも50℃以上高い温度に設定されても良い。
【0073】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【0074】
本実施形態は、有機EL装置として、有機EL表示装置、有機EL照明や有機ELプリンターヘッドなどに利用可能である。
【0075】
また、本実施形態は、有機EL素子OLEDが反射層を含むトップエミッションタイプであっても良いし、反射層を含まないボトムエミッションタイプであっても良い。
【0076】
さらに、本実施形態では、混合材料がホスト材料である第1有機材料とドーパント材料である第2有機材料を混合した材料である場合について説明したが、2種類以上のドーパント材料を混合した材料であっても良い。
【符号の説明】
【0077】
OLED…有機EL素子
PE…画素電極 EML…発光層 CE…対向電極
1…製造装置
2…チャンバ
3…ホルダー
4…材料供給部
5…加熱室
6…シャッター
7…バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素電極を形成する工程と、
第1有機材料及び前記第1有機材料よりも昇華する温度が高い第2有機材料を含む混合材料を供給する工程と、
前記混合材料に含まれる前記第2有機材料が昇華する温度よりも50℃以上高い温度で前記混合材料を加熱する工程と、
昇華した前記混合材料を前記画素電極の上方の面に蒸着させる工程と、
を具備したことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
画素電極を形成した処理基板をチャンバ内に取り付ける工程と、
第1有機材料及び前記第1有機材料よりも昇華する温度が高い第2有機材料を含む混合材料を加熱室に供給する工程と、
前記加熱室から前記処理基板に向かう流路を閉鎖した状態で前記加熱室に供給された前記混合材料を加熱する工程と、
前記第1有機材料及び前記第2有機材料がともに昇華した状態で前記流路を開放する工程と、
昇華した前記混合材料を前記画素電極の上方の面に蒸着させる工程と、
を具備したことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
前記混合材料を加熱する温度は、前記第2有機材料が昇華する温度よりも50℃以上高い温度であることを特徴とする請求項2に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
画素電極を形成する工程と、
ドーパント材料を含む第1材料を供給する工程と、
前記第1材料を加熱する工程と、
昇華した前記第1材料を前記画素電極の上方の面に蒸着させる工程と、
前記第1材料よりもドーパント材料の濃度が低い第2材料を供給する工程と、
前記第2材料を加熱する工程と、
昇華した前記第2材料を前記画素電極の上方の面に蒸着させる工程と、
を具備したことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1材料及び前記第2材料を加熱する温度は、前記ドーパント材料が昇華する温度よりも50℃以上高い温度であることを特徴とする請求項4に記載の有機EL装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−108552(P2011−108552A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264214(P2009−264214)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(302020207)東芝モバイルディスプレイ株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】