説明

有機EL装置及び表示装置

【課題】湿式成膜法により作製される有機EL装置において、膜厚の均一性を高めた発光機能層を有し、リーク電流を低減した有機EL装置を提供する。
【解決手段】基板10と、基板10上に設けられる絶縁層(層間絶縁層102)と、該絶縁層上にパターン形成され稜部151が断面略角形形状である絶縁領域15と、該絶縁層上にパターン形成され絶縁領域15を区画する隔壁12と、絶縁領域15上に設けられる下部電極11と、下部電極11上に設けられる発光機能層13と、発光機能層13上に設けられる上部電極14と、から構成され、絶縁領域15が隔壁12と離間しており、下部電極11が絶縁領域15の稜部151に対して内側に設けられることを特徴とする、有機EL装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)装置及び表示装置に関するものである。特に、湿式成膜法により作製される有機EL装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電場発光素子の中でも有機化合物を発光体とする有機EL素子を用いた表示装置が注目されている。
【0003】
有機発光材料を使用した有機EL素子の製造方法として、低分子化合物を真空蒸着法等で成膜する乾式成膜法や、有機発光材料等の機能材料を溶剤に溶解し塗布することによって成膜する湿式成膜法等がある。特に、湿式成膜法(以下、塗布法という)は、乾式成膜法に対し材料の利用効率が高く、低コストで有機EL素子を作製できる可能性があること等から、近年特に注目されている。
【0004】
図12は、塗布法で作製される従来の有機EL装置を示す断面模式図である。図12の有機EL装置1001は、基板10上に、回路素子部101及び層間絶縁層102がこの順に形成されている。尚、回路素子部101には、図示されていないが薄膜トランジスタと、配線構造とがそれぞれ形成されている。そして、層間絶縁層102上には、下部電極11と、有機材料からなり下部電極11を取り囲んでいる隔壁12と、がそれぞれパターン形成されている。そして、下部電極11上に、正孔注入層131と、発光層132とを含む発光機能層13、及び上部電極14がこの順で設けられている。ここで発光機能層13(正孔注入層131、発光層132)は塗布法により順次形成されるものであり、上部電極14は正孔注入層131、発光層132及び隔壁12を共に覆うように形成されている。
【0005】
図13は、図12の有機EL装置の製造方法の説明する断面模式図である。
【0006】
図12の有機EL装置1001は、まず図13(a)に示されるように、基板10上に、回路素子部101、層間絶縁層102、下部電極11及び隔壁12を順次形成する。具体的には、まず基板10上に、薄膜トランジスタ(図示せず)、配線構造(図示せず)を含む回路素子部101と層間絶縁層102とを順次形成する。次いで、層間絶縁層102上に下部電極11及び隔壁12を所定のパターンで形成する。
【0007】
次に、図13(b)〜(e)に示されるように、塗布法により発光機能層13を形成する。具体的には、まず図13(b)に示すように、隔壁12で囲まれた区画領域80内に、正孔注入材料を溶剤に溶解させた正孔注入材料溶液81aをインクジェット法等で塗布する。そしてこの正孔注入材料溶液81aを乾燥することにより、図13(c)のように下部電極11上に正孔注入層131が形成される。次いで、図13(d)に示すように、隔壁12で囲まれた区画領域80内に、発光材料を溶剤に溶解させた発光材料溶液81bをインクジェット法等で塗布する。そしてこの発光材料溶液81bを乾燥することにより、図13(e)のように正孔注入層131上に発光層132が形成される。この後、発光層132上側に、真空蒸着法等で正孔注入層131、発光層132及び隔壁12を共に覆うように上部電極14を形成する。このようにして、図13に示す構造の有機EL装置が形成される。尚、発光機能層13は、正孔注入層131と、発光層132とからなる積層体に限定されることはない。
【0008】
ところで図12の有機EL装置を製造するときに、特に、発光機能層の構成材料の溶液を乾燥する過程で以下のような問題がある。
【0009】
即ち、溶液を乾燥する過程の中で、溶液中の発光機能材料が、溶液に対する飽和溶解度を超える濃度となった時点から析出し始める。このため、微量であるが、隔壁側面122上にも発光機能層13の形成が起こる。また、一般に、溶液の液面形状は界面自由エネルギーを最小にする形状として決まるため、隔壁側面122の表面特性によって、溶液の液面が隔壁側面122にせり上がったりはじかれたりする。このように溶液の液面がせり上がったり又ははじかれたりすることによって、図13(c)及び(e)に示されるように、隔壁12の周辺部、即ち、下部電極11の端縁部17において、正孔注入層131、発光層132の膜厚が厚くなったり、薄くなったりする。図12並びに図13(c)及び(e)では、下部電極11上面の端縁部17において膜厚が厚くなる場合を図示している。
【0010】
このように、下部電極11上だけでなく、隔壁側面122上にも正孔注入層131、発光層132が形成され得る。このため、隔壁側面122の表面性や溶剤の種類等の塗布条件によっては、図12の点線丸囲みで示される、正孔注入層が直接上部電極と接する部位(短絡構造)が生じる場合がある。ここで正孔注入材料は一般的に発光材料よりも電気抵抗が小さいため、この短絡構造が存在すると、以下のような問題が生じる。即ち、図12の点線矢印に示されるように、電流が下部電極11から正孔注入層131を通り、短絡構造の地点で発光層132を通らずに正孔注入層131から上部電極14へ直接流れる電流パス(電流リークパス)が形成される(以下、この問題を第一の問題という)。このように短絡構造が存在することで電流リークパスが形成されると、通電時における素子の電気効率が低下する。
【0011】
また、図12の有機EL装置は、上述したように、隔壁12の周辺部、即ち、下部電極11上面の端縁部17と、下部電極11上面の中央部とで膜厚が不均一になるという問題(以下、第二の問題という)がある。このように膜厚が不均一であると、均一な発光が得られなくなる。
【0012】
この第一の問題及び第二の問題に対し、特許文献1では、隔壁の周辺部に段差領域を形成することで、正孔注入材料溶液及び発光材料溶液の一部を段差領域に流入させ、下部電極上面の端縁部と中央部との膜厚を均一にする構造が提案されている。
【0013】
図14は、特許文献1で開示されている有機EL装置と同様の構成の有機EL装置を示す断面図である。図14の有機EL装置1002は、層間絶縁層102の一部をエッチングすることで、凹部1021と、絶縁部1022と、絶縁部1023と、がそれぞれ形成されている。そして、下部電極11が絶縁部1022上に、第一隔壁層120及び隔壁12がこの順で絶縁部1023上に設けられている。また下部電極11の端部と第一隔壁層120の端部とが、凹部1021内に配置されている。さらに下部電極11の側面及び第一隔壁層120の側面は、それぞれ段差領域90の側壁部分を構成している。尚、図14の有機EL装置1002は、隔壁側面122に正孔注入層131と上部電極14とが直接接する短絡構造が存在する場合を示すものである。
【0014】
【特許文献1】特開2007−95606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように特許文献1で提案されている有機EL装置は、隔壁の周辺部に段差領域が形成されている。このため、発光機能層の構成材料の溶液の一部が段差領域に流入することにより下部電極上面の端縁部と中央部とで形成される発光機能層の膜厚が不均一になりにくくなる。従って、上述の第二の問題を解決しているといえる。
【0016】
しかし、特許文献1で提案されている有機EL装置では上述の第一の問題は解消されていない。その理由について図面を参照しながら説明する。図15は、図14の有機EL装置における段差領域周辺の拡大模式図である。図15に示すように、下部電極11は、絶縁部1022を覆う構造となっている。この場合、凹部1021内に配置される下部電極11の側面は、段差領域90内に形成される正孔注入層Bと直接接することになる。このため、図15の点線矢印で示されるように、下部電極11の側面から短絡構造へ向かう方向に電流リークパスが形成される。従って、特許文献1で提案されている構造の有機EL装置では、上述の第一の問題が解消していないといえる。
【0017】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、湿式成膜法により作製される有機EL装置において、膜厚の均一性を高めた発光機能層を有し、リーク電流を低減した有機EL装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の有機EL装置は、基板と、
該基板上に設けられており、稜部が断面略角形形状にパターン形成された絶縁領域を有する絶縁層と、
該絶縁層上にパターン形成され該絶縁領域を区画する隔壁と、
該絶縁領域上に設けられる下部電極と、
該下部電極上に設けられる発光機能層と、
該発光機能層上に設けられる上部電極と、から構成され、
該絶縁領域が該隔壁と離間しており、
該下部電極が該絶縁領域の稜部に対して内側に設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の構成によれば、膜厚の均一性を高めた発光機能層を有し、リーク電流を低減した有機EL装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の有機EL装置は、基本的には、基板と、絶縁層と、隔壁と、有機EL素子部と、から構成される。ここで、絶縁層は基板上に設けられる部材であり、絶縁領域を含んでいる。また隔壁は絶縁層上にパターン形成される部材であり、隔壁は絶縁領域を区画する。さらに、有機EL素子部は、絶縁領域上に設けられる下部電極と、この下部電極上に設けられる発光機能層と、この発光機能層上に設けられる上部電極と、から構成される。
【0021】
以下に、本発明の有機EL装置について、図面を参照しながら具体的に説明する。尚、図面上、各部材を認識可能な大きさとしたため、図面の縮尺は実際とは異なる場合がある。
【0022】
[実施形態1]
まず本発明の有機EL装置における第一の実施形態について、その構成及び製造方法を、図面を参照しながら説明する。
【0023】
(有機EL素子)
図1は、本発明の有機EL装置における第一の実施形態を示す断面模式図である。また、図2は、図1の有機EL装置の平面模式図であり、(a)は第一の例を示す図であり、(b)は、第二の例を示す図である。図1において、両端のX及びX’は、図2(a)又は図2(b)のX及びX’にそれぞれ対応している。
【0024】
まず、本実施形態の有機EL装置の断面構造について説明する。図1の有機EL装置1は、基板10上に回路素子部101及び層間絶縁層102が順次設けられている。ここで回路素子部101には、図1に図示されてはいないが、スイッチング用薄膜トランジスタ、駆動用薄膜トランジスタ、及び走査信号線、情報信号線又は電源線に相当する配線構造が形成されている。
【0025】
そしてこの層間絶縁層102は絶縁領域15を有し、その上に隔壁12が設けられている。ここで、絶縁領域15は、層間絶縁層102の一部をエッチング等することによりパターン形成される領域である。また図1に示すように、絶縁領域15の形状は断面略台形状であり、稜部が断面略角形形状である。一方、隔壁12は、絶縁領域15を区画するものである。尚、この区画の具体的な方法については後述する。また、絶縁領域15は隔壁12と離間して設けられているため、絶縁領域15と隔壁12との間には空隙領域16が形成されている。
【0026】
本実施形態において、下部電極11は絶縁領域15上に設けられる。即ち、層間絶縁層102は絶縁領域15を有し、その上に下部電極11が設けられている。また下部電極11は、絶縁領域15の稜部に対して平面的に見て内側に設けられている。
【0027】
そして下部電極11上には、正孔注入層131と、発光層132との順で設けられる発光機能層13と、上部電極14とが順次形成されている。即ち、本実施形態においては、下部電極11と、発光機能層13と、上部電極14とで有機EL素子部を形成している。尚、本実施形態において、上部電極14は発光機能層13及び隔壁12を共に覆うように形成されている。
【0028】
次に、本実施形態の有機EL装置の平面構造について説明する。尚、説明の都合上、下部電極以外の有機EL素子部の図示を省略している。
【0029】
図2(a)及び(b)に示されるように、本実施形態の有機EL装置の構成部材である絶縁領域15の平面形状は、一般的には、略矩形状である。また絶縁領域15上に設けられる下部電極11の平面形状も、一般的には、略矩形状である。尚、図2(a)及び(b)に示されるように、下部電極11は、絶縁領域15の縁部(図1における絶縁領域15の稜部151と同意)に対して平面的に見て内側に設けられている。
【0030】
ところで、絶縁領域15に設けられている下部電極11の一方の端縁部には、コンタクト配線部20が設けられている。このコンタクト配線部20は、隔壁12と平面的に重なる位置に設けられるコンタクトホール(図示せず)を介して、下部電極11の端縁部と、図1で示される回路素子部101中の駆動用薄膜トランジスタ(図示せず)と、を電気接続する部材である。
【0031】
ここで絶縁領域15は、上述したように隔壁12によって区画されているが、この区画の具体的な態様は、図2(a)で示されるように、1つの絶縁領域15を個別に区画する態様であってもよい。また、図2(b)で示されるように、マトリックス状に並んでいる絶縁領域15をストライプ状に区画する態様であってもよい。
【0032】
図2(a)で示されるように、1つの絶縁領域15を個別に区画する場合は、インクジェット法等を用いることで下部電極11上に発光機能層13を形成することができる。また、図2(b)で示されるように、絶縁領域15をストライプ状に区画する場合は、ノズルプリンティング法等を用いることで下部電極11上に発光機能層13を形成することができる。
【0033】
次に、本発明の基本的原理について説明する。
【0034】
図3は、図1の有機EL装置の空隙領域16の周辺部の拡大断面模式図である。本発明の有機EL装置は、絶縁領域15が隔壁12と離間して設けられているため、絶縁領域15と隔壁12との間に空隙領域16が形成されている。この空隙領域16が形成されることにより、発光機能層13を塗布法で形成する際にその溶液の一部が空隙領域16に流入する。これにより、下部電極11上面の端縁部17と、下部電極11上面の中央部(不図示)と、においてそれぞれ形成される発光機能層13の膜厚が均一化する。即ち、従来の有機EL装置で問題となっていた下部電極11上面の端縁部17に起こり得る発光機能層13の厚みムラ(膜厚の不均一)が起こりにくくなる。
【0035】
また、本発明の有機EL装置は、絶縁領域15が、絶縁領域上面153と絶縁領域側面154とで形成される稜部151を有している。ここで、図3において、絶縁領域15の段差高さT2は、空隙領域16に形成される正孔注入層Aの膜厚T1よりも高い(厚い)ことが好ましい。また、絶縁領域15の稜部151は、断面略角形形状であり、この稜部151の断面角152は、135°程度以下であることが好ましい。但し、この断面角152は、絶縁領域上面153と絶縁領域側面154とが交わる角度をいうものである。さらに、本発明の有機EL装置は、絶縁領域15上に設けられている下部電極11が、絶縁領域15の稜部151に対して平面的に見て内側に設けられている。
【0036】
このような位置的特徴を有していることにより、絶縁領域15の稜部151を、下部電極11で覆われることなく露出させることができる。また絶縁領域15が上述した高さT2及び断面角152の要件をさらに具備することにより、稜部151近傍に形成される正孔注入層131の膜厚が薄くなり、この部分の電気抵抗が大きくなる。これにより、隔壁側面122に、正孔注入層131が直接上部電極14と接する短絡構造が存在したとしても、形成される電流リークパスは以下のようになる。即ち、図3の点線矢印で示すように、稜部151近傍の正孔注入層131が薄く形成された、電気抵抗の高い部位を通るものとなる。
【0037】
ここで下部電極11を形成する際、下部電極11の縁部は、絶縁領域15の稜部151に対して0.1μm程度以上内側に位置していることが好ましい。この位置に下部電極11を設けることで、絶縁領域15の稜部151近傍に形成される正孔注入層131の薄膜化の効果がより確実になる。
【0038】
ところで、特許文献1に開示されている構造を有する有機EL装置は、図14及び図15で示されるように、段差領域90に形成される正孔注入層Bと下部電極11の側面とが直接接している。このため、隔壁側面122に、正孔注入層131が直接上部電極14と接する短絡構造が存在する場合、形成される電流リークパスは図15中の点線矢印で示されるものとなる。
【0039】
これに対し、本発明の有機EL装置は、図3に示されるように、短絡構造が存在する場合でも、以下のようにしてリーク電流量を低減することができる。即ち、本発明の有機EL装置は、図1並びに図3で示される絶縁領域15の構造的特徴及び下部電極11の位置的特徴を有している。即ち、絶縁領域15が稜部151を有し、絶縁領域15上に設けられている下部電極11が、絶縁領域15の稜部151に対して平面的に見て内側に設けられている。これにより、稜部151近傍に形成される正孔注入層131の膜厚が薄くなると共に、空隙領域16に形成される正孔注入層Aと下部電極11とが直接接することがなくなる。従って、短絡構造が存在したとしても、形成される電流リークパスは、図3の点線矢印で示すように正孔注入層131が薄く形成された部位、即ち、電気抵抗の高い部位を通るものとなる。このようにして、本発明の有機EL装置では、特許文献1の構造を有する有機EL装置に比べてリーク電流量を低減することができる。
【0040】
次に、本発明の有機EL装置を構成する構成部材について説明する。
【0041】
基板10の構成材料として、ガラス等の無機材料や透明樹脂等の有機材料フィルム等を使用することができる。
【0042】
層間絶縁層102の構成材料として、SiO2、SiN等の無機材料、アクリル等の樹脂材料を使用することができるが、これらの材料に限定されるものではない。例えば、基板10側から光を取り出すボトムエミッション構成においては、透明性と絶縁性とを具備する材料であればよく、基板10の反対側から光を取り出すトップエミッション構成においては、絶縁性を具備する材料であればよい。
【0043】
絶縁領域15は、層間絶縁層102の一部をエッチング等してパターン形成されるため、その構成材料は、上述した層間絶縁層102の構成材料と同一である。
【0044】
下部電極11の構成材料として、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の導電材料を使用することができる。また下部電極11の膜厚は、一般的には、50nm〜200nmである。
【0045】
隔壁12の構成材料として、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の耐熱性、耐溶媒性のある材料を使用することができる。隔壁12の高さは、図3に示すように、絶縁領域15の高さT2と、下部電極11の膜厚と、発光機能層13の膜厚との合計T3よりも高い(厚い)ことが好ましい。具体的には、隔壁12の高さは、3.5μm程度以下が好ましい。隔壁12の高さを3.5μm程度以下にすることで、上部電極14のステップカバレッジを確保することができる。
【0046】
正孔注入層131の構成材料である正孔注入材料として、例えば、塗布法による有機EL素子の作製において広く使用されるPEDOT:PSSを使用することができる。
【0047】
正孔注入層131の膜厚は、下部電極11上面に形成される部分については、例えば、40nm〜50nmの範囲で一定となるのが好ましい。また、正孔注入層131を形成する際に、その一部が隔壁側面122上に形成されていてもよい。
【0048】
発光層132の構成材料である発光材料として、例えば、ポリフルオレン誘導体等の材料を使用することができる。
【0049】
発光層132の膜厚は、下部電極11上面に形成される部分については、例えば、80nm〜100nmの範囲で一定となるのが好ましい。また、発光層132を形成する際に、その一部が隔壁側面122上に形成されていてもよい。
【0050】
尚、発光機能層13は、図1及び図3で示される正孔注入層131と、発光層132との二層からなる積層体に限定されるものではない。介在層として、例えば、発光層132と上部電極14との間に、電子注入層等の電子注入・輸送機能を有する層を設けてもよい。
【0051】
また、正孔注入層131の代わりに、正孔輸送層を設けてもよいし、正孔注入層と正孔輸送層とが積層されている積層体を設けてもよい。このように正孔注入層131の代わりに、正孔輸送層や、正孔注入層と正孔輸送層との積層体が設けられている場合であっても、正孔注入層131の場合と同様に、層を形成する薄膜の一部が隔壁側面122に形成されることにより短絡構造が存在することがある。この場合、正孔輸送層の構成材料である正孔輸送材料も、正孔注入材料と同様に発光材料よりも電気抵抗が小さいため、正孔注入層131の場合と同様に、短絡構造を介して下部電極11と上部電極14との間に電流リークパスが形成され得る。これに対し、本発明の有機EL装置は、図1並びに図3に示される絶縁領域15の構造的特徴及び下部電極11の位置的特徴を有しているので、電流リークパスが形成された場合でもリーク電流量を低減することができる。
【0052】
正孔注入層131の代わりに正孔輸送層を形成する場合は、絶縁領域15の段差高さ(T2)は、空隙領域16に形成されている正孔輸送層の膜厚よりも高い(厚い)ことが好ましい。また、正孔注入層131の代わりに正孔注入層と正孔輸送層とからなる積層体を形成する場合は、絶縁領域15の段差高さT2は、空隙領域に形成されている積層体の膜厚よりも高い(厚い)ことが好ましい。
【0053】
上部電極14は、図1に示すように、発光機能層13上及び隔壁12の上面121上に、発光機能層13及び隔壁12を共に覆うように画素領域の全面に形成される電極である。上部電極14の構成材料は、基板10側から光を取り出すボトムエミッション構成の場合は、例えばアルミニウム等の導電材料を使用することができる。また、上部電極14を、例えばカルシウムとアルミニウムとを積層した積層体としてもよい。また、基板10の反対側から光を取り出すトップエミッション構成の場合は、上部電極14として、例えば酸化錫インジウム(ITO)等の透明導電材料を使用することができる。
【0054】
尚、トップエミッション構成の場合、下部電極11と基板10との間に、通常反射層(図示せず)が形成される。この反射層は、下部電極11と層間絶縁層102との間にあるのが好ましい。この反射層の構成材料として、Al等の金属材料を使用することができる。
【0055】
発光層132と上部電極14との間に電子注入層が設けられる場合、その電子注入層の構成材料としてフッ化リチウム等が挙げられる。
【0056】
尚、図1、図3の有機EL装置において、図示していないが、上部電極14上に、単層又は複層の保護層を設けてもよい。保護層の構成材料として、例えば、SiN、SiO2等が挙げられるが、耐水性、耐熱性に優れた材料であればよいのでこれに限定されるものではない。さらに、当該保護層上にガラス基板や封止缶等からなる封止部材を配設してもよい。
【0057】
(有機EL装置の製造方法)
次に、本発明の有機EL装置の製造方法について、図面を参照しながら説明する。尚、以下に説明する有機EL装置の製造方法は、第一の実施形態の有機EL装置の製造方法に関するものであるが、他の実施形態においても概ねこの方法を利用して製造される。
【0058】
図4は、本発明の有機EL装置の製造工程の前半部分を示す図であり、図5は、本発明の有機EL装置の製造工程の後半部分を示す図である。
【0059】
ここで第一の実施形態の有機EL装置は、以下の工程を経ることにより製造される。
(i)基板10上に回路素子部101を形成する回路素子部形成工程(以下、工程(i)という)。
(ii)回路素子部101上に層間絶縁層102を形成する層間絶縁層形成工程(以下、工程(ii)という)。
(iii)層間絶縁層102に絶縁領域15を形成する絶縁領域形成工程(図4(a)、(b)。以下、工程(iii)という)。
(iv)絶縁領域15上に下部電極11を形成する下部電極形成工程(図4(c)。以下、工程(iv)という)。
(v)下部電極11を区画する隔壁12を形成する隔壁形成工程(図4(d)。以下、工程(v)という)。
(vi)隔壁12及び隔壁12で囲まれた区画領域80内を表面処理する表面処理工程(以下、工程(vi)という)。
(vii)隔壁12で囲まれた区画領域80内に発光機能層13となる層を塗布法で順次形成する発光機能層形成工程(図5(a)〜(d)。以下、工程(vii)という)。
(viii)発光機能層13上に上部電極14を形成する上部電極形成工程(以下、工程(viii)という)。
(ix)封止工程(以下、工程(ix)という)。
【0060】
尚、本発明の有機EL装置の製造方法はこれに限られるものではなく、必要に応じて他の工程を追加してもよいし、一部分を省略してもよい。
【0061】
以下、各工程について説明する。
【0062】
工程(i)では、図4(a)で示されるように、基板10上に回路素子部101を形成する。具体的には、基板10上に下地保護膜(図示せず)を形成してから、スイッチング用薄膜トランジスタ(図示せず)、駆動用薄膜トランジスタ(図示せず)並びに走査信号線、情報信号線及び電源線に相当する配線構造(図示せず)を順次形成する。この工程(i)は公知の方法を適用することができる。
【0063】
次の工程(ii)では、回路素子部101上に、SiN等の絶縁材料からなる層間絶縁層102を形成する。尚、層間絶縁層102の形成方法は、公知の方法を適用することができる。
【0064】
次の工程(iii)では、図4(a)に示すように、フォトリソグラフィーを用いて、層間絶縁層102上にレジスト40をパターン形成する。そして、レジスト40をマスクとし、CHF3等のガスを使用して層間絶縁層102の表面をプラズマエッチングする。これにより、図4(b)に示される絶縁領域15が形成される。次いで、剥離液による洗浄処理によって、レジスト40を剥離する。
【0065】
工程(iii)により形成される絶縁領域15の段差高さT2は、上述したように、図3に示される発光機能層形成工程(工程(vii))で空隙領域16に形成される正孔注入層Aの膜厚T1よりも高く(厚く)なるようにする。例えば、T2は100nm程度とすればよい。また、工程(iii)において、プラズマエッチングにより絶縁領域15を形成することにより、絶縁領域15の稜部151の断面角152を135°程度以下にすることが可能である。
【0066】
次の工程(iv)では、図4(c)に示すように、下部電極11を、絶縁領域15上に、絶縁領域15の稜部151に対して内側に形成する。また、下部電極11と共に、図2(a)及び(b)に示されるコンタクト配線部20も、この工程(iv)において形成する。この工程(iv)は、具体的には、スパッタ法等によりITO等の導電材料の薄膜を膜厚100nm程度となるように形成する。次いで、フォトリソグラフィーにより、下部電極11及びコンタクト配線部20をパターン形成する。これにより、絶縁領域15の稜部151が下部電極11に覆われることなく露出されている状態となる。これにより、後の発光機能層形成工程(工程(vii))において、図3に示したように絶縁領域15の稜部151近傍において正孔注入層131に相当する有機膜の膜厚を薄くすることができる。従って、リーク電流低減の効果が得られる。
【0067】
次の工程(v)では、図4(d)に示すように、下部電極11及び絶縁領域15を区画する隔壁12を形成する。具体的には、感光性ポリイミド樹脂等の耐熱性、耐溶媒性のある樹脂材料を、層間絶縁膜102上にスピンコート法により塗布成膜する。次いで、フォトマスクを用いてこの樹脂膜に対して露光・現像処理を行うことで隔壁12をパターン形成する。この際、隔壁12は絶縁領域15と離間して配置されるよう形成する。このようにすることで、絶縁領域15と隔壁12の間に空隙領域16が形成される。これにより、後の発光機能層形成工程(工程(vii))において、正孔注入材料溶液や発光材料溶液の一部が空隙領域16に流入し、下部電極11上面の端縁部17において発光機能層の膜厚が不均一になるのを防ぐことができる。
【0068】
次の工程(vi)では、隔壁12及び隔壁12で囲まれた区画領域80内に表面処理を行う。まず、下部電極11の表面及び空隙領域16の表面部を親液化処理する。この親液化処理は、例えば、UVオゾン処理等の方法を用いることができるが、特にこれに限定されるものではない。次いで、隔壁上面121及び隔壁側面122を撥液化処理する。この撥液化処理は、例えば、CF4等のフッ素化合物を含んだガスを処理ガスとするプラズマ処理等の方法を用いることができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0069】
次の工程(vii)は、図1の有機EL装置における正孔注入層形成工程と発光層形成工程とからなる工程である。ここで正孔注入層形成工程とは、正孔注入層131を下部電極11上に塗布法により形成する工程である。具体的には、図5(a)に示すように、正孔注入材料を溶剤に溶解させた正孔注入材料溶液81aを、インクジェット法等により隔壁12で囲まれた区画領域80内に塗布する。次いで、乾燥処理及び熱処理を行うことで、下部電極11上に正孔注入層131を形成する。
【0070】
この正孔注入層形成工程を行う際、図4(d)に示すように、絶縁領域15(及び下部電極11)と隔壁12との間に空隙領域16が形成されている。これにより、乾燥工程において正孔注入材料溶液の一部が空隙領域16に流入するため、図5(b)に示すように下部電極11上面の端縁部17と下部電極11上面の中央部(不図示)とにおける正孔注入層131の膜厚の均一化が可能となる。
【0071】
また、この正孔注入層形成工程を行う際に、図1並びに図3に示される構造的特徴を有する絶縁領域15及び位置的特徴を有する下部電極11が形成されている。即ち、絶縁領域15が稜部151を有し、この絶縁領域15上に設けられている下部電極11が、絶縁領域15の稜部151に対して平面的に見て内側に設けられている。このため、図3に示すように、絶縁領域15の稜部151近傍に形成される正孔注入層131の膜厚を薄くすることが可能となると共に、空隙領域16に形成される正孔注入層Aと下部電極11とが直接接することがなくなる。これにより、次の工程である発光層形成工程、及び工程(viii)である上部電極形成工程の後に短絡構造が存在したとしても、それにより形成される電流リークパスは以下のようになる。即ち、図3の点線矢印で示すように、正孔注入層131が薄く形成された、電気抵抗の高い部位を通るものとなる。このため、リーク電流量を低減することができる。
【0072】
次の発光層形成工程では、発光層132を正孔注入層131上に塗布法により形成する。具体的には、図5(c)に示すように、発光材料を溶剤に溶解させた発光材料溶液81bを、インクジェット法等により隔壁12で囲まれた区画領域80内に塗布する。次いで、乾燥処理及び熱処理を行い、正孔注入層131上に発光層132を形成する。
【0073】
この発光層形成工程を行う際に、図4(d)に示すように、絶縁領域15(及び下部電極11)と隔壁12との間に空隙領域16が形成されている。これにより、乾燥工程において発光材料溶液の一部が空隙領域16に流入するため、図5(d)に示すように下部電極11上面の端縁部17と下部電極11上面の中央部(不図示)とにおける発光層132の膜厚の均一化が可能となる。
【0074】
次の工程(viii)では、発光機能層上及び隔壁上面に、上部電極を形成する。即ち、上部電極14は、発光機能層13及び隔壁12を共に覆うように画素領域の全面に形成される。
【0075】
基板側から光を取り出すボトムエミッション構成では、上部電極14は、真空蒸着法等を用いて、アルミニウム等の導電材料を200nm程度の膜厚で形成される。また、基板の反対側から光を取り出すトップエミッション構成では、上部電極14は、ITO等の透明導電材料をスパッタ法等を用いて100nm程度の膜厚で形成される。
【0076】
また、工程(viii)に先立って、フッ化リチウム層等からなる電子注入層を、真空蒸着法により形成してもよい。
【0077】
尚、トップエミッション構成にする場合、工程(iv)を行う前に、Al等の金属材料を使用して反射層の形成を行うのが好ましい。この反射層を形成する工程は、工程(iii)と工程(iv)との間に行うのが望ましい。反射層を形成する工程は、公知の方法を適用することができる。
【0078】
工程(ix)では、上部電極14上に、単一の層、又は複数の層からなる保護層を形成する。この工程(ix)は、公知の方法を適用することができる。ただしこの工程は、窒素やアルゴンの雰囲気下等といった、水分や酸素のない条件下で行う。
【0079】
尚、保護層を形成した後、有機EL装置及び保護層を覆うように封止部材を配設してもよい。
【0080】
[実施形態2]
次に、本発明の有機EL装置における第二の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0081】
図6は、本発明の有機EL装置における第二の実施形態を示す断面模式図である。尚、図6の有機EL装置を構成する構成部材のうち、図1の有機EL装置1と共通する部材については、図1と共通の符号が付されている。
【0082】
図6に示される有機EL装置2は、図1の有機EL装置1と比較して基本的な構成は共通しているが、絶縁領域15が、層間絶縁層102とは異なる構成材料で構成される第二絶縁層103である点で異なる。尚、ここでいう基本的な構成とは、特に、第一の実施形態で示されている、絶縁領域15の構造的特徴及び下部電極11の位置的特徴をいうものである。
【0083】
本実施形態において、例えば、層間絶縁層102の構成材料がSiO2であり、絶縁領域15の構成材料がSiNである構成とすることができる。
【0084】
また、本実施形態の有機EL装置を製造する場合、以下の点が第一の実施形態と異なる。
【0085】
即ち、層間絶縁層102をSiO2等で形成した後、絶縁領域形成工程において、まずスパッタ法等を用いて、層間絶縁層102上にSiN等の絶縁材料を例えば100nm程度の膜厚で成膜し、第二絶縁層103を形成する。次に、フォトリソグラフィーを用いて、第二絶縁層103上にレジストをパターン形成する。そして、このレジストをマスクとし、CF4等のガスを使用して第二絶縁層103の表面をプラズマエッチングする。これにより、図6に示される絶縁領域15が形成される。次いで、剥離液による洗浄処理によって、レジストを剥離する。
【0086】
また、層間絶縁層102及び第二絶縁層103を、エッチング選択性の高い材料とすることができる。こうすると、第一の実施形態の製造方法を利用して絶縁領域15を形成した場合と比べて、絶縁領域15の段差高さT2aをより正確に制御することができるので好ましい。尚、エッチング選択性の高い材料及びエッチングガスの組み合わせの具体例として、層間絶縁層102及び第二絶縁層103の構成材料を、それぞれSiO2、SiNとし、エッチングガスをCF4とする組み合わせ等が挙げられる。
【0087】
ここで層間絶縁層102及び第二絶縁層103を、エッチング選択性の高い材料とすることで、絶縁領域15の段差高さT2aをより正確に制御することができる理由を、以下に説明する。
【0088】
第一の実施形態の有機EL装置の製造方法では、絶縁領域15を形成する際に、図4(b)に示すように、層間絶縁層102のエッチングを途中で止める必要がある。このエッチングを途中で止める工程は正確に制御できない場合があるため、絶縁領域15の段差高さT2は、目標値からずれる場合がある。これに対し、本実施形態の製造方法では、層間絶縁層102と第二絶縁層103とをエッチング選択性の高い材料とすれば、第二絶縁層103をエッチングし切ることで絶縁領域15を形成することができる。このため、第二絶縁層103の膜厚をそのまま絶縁領域15の段差高さT2aとすることができる。従って、本実施形態の製造方法により、絶縁領域15の段差高さの変動を低減することができる。これにより、製造工程の中で、空隙領域16で形成される正孔注入層Aの膜厚T1と絶縁領域15の段差高さT2aとの大小関係をより精度よく制御することができる。従って、絶縁領域15の稜部151近傍における正孔注入層131の膜厚を薄くする効果をより精確に達成することができる。
【0089】
[実施形態3]
次に、本発明の有機EL装置における第三の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図7は、本発明の有機EL装置における第三の実施形態を示す断面模式図である。また、図8は、図7の有機EL装置の空隙領域周辺の拡大断面模式図である。尚、図7の有機EL装置3を構成する構成部材のうち、図1の有機EL装置1と共通する部材については、図1と共通の符号が付されている。
【0090】
ここで、図7の有機EL装置3は、層間絶縁層102にパターン形成されている絶縁領域15a(以下、本実施形態において第二絶縁領域という)上に隔壁12が設けられている点を除けば、図1の有機EL装置と同じである。また図7の有機EL装置3において、第二絶縁領域15aは、稜部151aを有する断面略台形状であり、隔壁12は稜部151aに対して内側に配置されている。以上に示される第二絶縁領域15aの構造的特徴及び隔壁12の位置的特徴は、以下の効果をもたらす。即ち、図8に示すように、第二絶縁領域15aが稜部151aを有することから、稜部151a近傍の正孔注入層131の膜厚が薄くなる。このためこの部位での抵抗が高くなる。
【0091】
従って、第一の実施形態と比較すると、抵抗が高い部分が増えたことによりリーク電流量をさらに低減することができる。
【0092】
ただし、第三の実施形態においても、本発明の効果を奏するには絶縁領域15(以下、本実施形態において第一絶縁領域という)が設けられているのが望ましい。その理由を以下に述べる。
【0093】
図9は、第三の実施形態に対する比較形態となる有機EL装置を示す断面模式図である。図9の有機EL装置30は、図7の有機EL装置3と比較して第一絶縁領域15が形成されていないことを除いては図7の有機EL装置3と同じである。
【0094】
電流リークを起こす原因となる短絡構造は、正孔注入層131を形成する途中の乾燥過程において、正孔注入材料の溶液の液面が隔壁側面122にせり上がることにより形成される。
【0095】
正孔注入材料の溶液の液面が隔壁側面122にせり上がる場合、形成される正孔注入層131は、図9に示すように、隔壁側面122の部分が厚くなるように形成される。従って、層間絶縁層102に第二絶縁領域15aを設けたとしても、稜部151a近傍の正孔注入層131の膜厚が薄くなる効果は、図7に示される第一絶縁領域15による稜部151近傍の正孔注入層131の膜厚が薄くなる効果よりも小さい。
【0096】
以上より第三の実施形態のように、層間絶縁層102に第二絶縁領域15aを形成し、その上に隔壁12を設ける場合であっても、層間絶縁層102に上述した構造的特徴を有する第一絶縁領域15を形成し、その上に下部電極11を設けるのが望ましい。
【0097】
(表示装置)
次に、本発明の有機EL装置と駆動手段とを具備した表示装置について説明する。
【0098】
図10は、本発明の有機EL装置と駆動手段とを具備した表示装置の配線構造を示す模式図である。
【0099】
本発明の表示装置5は、複数の走査信号線511と、走査信号線511に対して交差する方向に延びる複数の情報信号線512と、電源線513とを有している。また、走査信号線511、情報信号線512及び電源線513は、それぞれ画素ごとに走査信号ドライバー501、情報信号ドライバー502及び電流供給源503に接続される。さらに走査信号線511と情報信号線512との交点には、本発明の有機EL装置を備えた画素回路514(図示せず)がマトリックス状に配置されている。図10の表示装置5において、走査信号ドライバー501は走査信号線511を順次選択し、これに同期して情報信号ドライバー502から画像信号が情報信号線512を介して印加される。
【0100】
図11は、図10の走査信号線511と情報信号線512との交点にマトリックス状に配置される画素回路を示す回路図である。ただし、図11の回路図は一具体例であって、本発明はこれに限定されるものではない。図11の画素回路514は、スイッチング用薄膜トランジスタ601、駆動用薄膜トランジスタ602、保持キャパシタ603、有機EL素子604よりなる。図11の画素回路514は、走査信号線511に選択信号が印加されると、スイッチング用薄膜トランジスタ601がONとなり、その時の情報信号線512の電位が保持キャパシタ603に保持される。これにより、駆動用薄膜トランジスタ602のゲート電位が決定する。駆動用薄膜トランジスタ602のゲート電位に応じて、電源線513から下部電極(図示せず)に電圧が印加され、有機EL素子604に電流が流れる。発光機能層はこの電流量に応じて発光する。駆動用薄膜トランジスタ602のゲート電位は、スイッチング用薄膜トランジスタ601が次に走査選択されるまで保持キャパシタ603に保持されるため、有機EL素子604には次の走査が行われるまで電流が流れ続ける。これにより1フレーム期間常に発光機能層を発光させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
(電子機器)
本発明の有機EL素子を具備した表示装置は、テレビやパーソナルコンピュータ用の表示装置、携帯電話やデジタルカメラなどの電子機器に搭載され、表示部として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の有機EL装置における第一の実施形態を示す断面模式図である。
【図2】図1で示される有機EL装置の平面模式図であり、(a)は第一の例を示す図であり、(b)は第二の例を示す図である。
【図3】図1で示される有機EL装置の空隙領域の周辺部の拡大断面模式図である。
【図4】第一の実施形態の有機EL装置の製造方法の前半部分を説明する断面模式図である。
【図5】第一の実施形態の有機EL装置の製造方法の後半部分を説明する断面模式図である。
【図6】本発明の有機EL装置における第二の実施形態を示す断面模式図である。
【図7】本発明の有機EL装置における第三の実施形態を示す断面模式図である。
【図8】図7で示される有機EL装置の空隙領域の周辺部の拡大断面模式図である。
【図9】第三の実施形態に対する比較形態となる有機EL装置を示す断面模式図である。
【図10】本発明の有機EL装置と駆動手段とを具備した表示装置の配線構造の模式図である。
【図11】図10の表示装置を構成する画素回路の一例を表す回路図である。
【図12】従来の有機EL装置の断面構造を示す断面模式図である。
【図13】従来の有機EL素子の製造方法を説明するための断面模式図である。
【図14】特許文献1に開示されている構造と同様の構造を有する、本発明の課題となる有機EL装置を示す断面模式図である。
【図15】図14で示される有機EL装置の段差領域の周辺部の拡大断面模式図である。
【符号の説明】
【0103】
1,2,3,30 有機EL装置
10 基板
101 回路素子部
102 層間絶縁層
103 第二絶縁層
11 下部電極
12 隔壁
121 隔壁上面
122 隔壁側面
13 発光機能層
131 正孔注入層
132 発光層
14 上部電極
15 絶縁領域(第一絶縁領域)
15a 絶縁領域(第二絶縁領域)
151 (絶縁領域(第一絶縁領域)の)稜部
151a (第二絶縁領域の)稜部
152 (絶縁領域の)稜部の断面角
153 (絶縁領域の)上面
154 (絶縁領域の)側面
16 空隙領域
17 下部電極上面の端縁部
20 コンタクト配線部分
5 表示装置
501 走査信号ドライバー
502 情報信号ドライバー
503 電流供給源
511 走査信号線
512 情報信号線
513 電源線
601 スイッチング用薄膜トランジスタ
602 駆動用薄膜トランジスタ
603 保持キャパシタ
604 有機EL素子
80 区画領域
81a 正孔注入材料溶液
81b 発光材料溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板上に設けられており、稜部が断面略角形形状にパターン形成された絶縁領域を有する絶縁層と、
該絶縁層上にパターン形成され該絶縁領域を区画する隔壁と、
該絶縁領域上に設けられる下部電極と、
該下部電極上に設けられる発光機能層と、
該発光機能層上に設けられる上部電極と、から構成され、
該絶縁領域が該隔壁と離間しており、
該下部電極が該絶縁領域の稜部に対して内側に設けられることを特徴とする、有機EL装置。
【請求項2】
前記絶縁領域の構成材料が前記絶縁層の構成材料と異なることを特徴とする、請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
さらに前記隔壁と平面的に重なる位置に設けられるコンタクトホールを介して、前記下部電極の端縁部と、駆動用薄膜トランジスタと、を電気接続するコンタクト配線部を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機EL装置を具備することを特徴とする、表示装置。
【請求項5】
請求項4に記載の表示装置を具備することを特徴とする、電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−266763(P2009−266763A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118165(P2008−118165)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】