説明

有機EL装置及び電子機器

【課題】画素内における透過率にばらつきのない、良好な光学特性の有機EL装置及び電子機器を提供する。
【解決手段】有機EL装置は、複数の発光領域16を有する有機EL装置であって、基板32と、基板32の一方の面のうち複数の発光領域16を除いた領域の少なくとも一部に形成されると共に、複数の発光領域16のそれぞれを取り囲むように形成される隔壁と、隔壁に囲まれた開口部29に配置され、表面の少なくとも一部が基板32に並行な平面に対して傾斜して形成される機能層48と、機能層48上に配置され、機能層48の表面に略並行な表面を有する発光層42と、を含み、隔壁は、第1部分54aと第2部分54bとを有し、第1部分54aは、基板32面内において、複数の異なる膜厚を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機材料で構成された発光層が一対の電極間に介在し、一対の電極間に電圧を印加することによって発光層を発光させることができる有機EL(Electro Luminescence)素子が知られている。そして、複数の有機EL素子を有する有機EL装置が、画像を表示する表示装置として利用されてきている。
このような有機EL装置では、発光層の形成材料を含む液状体を液滴吐出法で基板上に配置してから、液状体に乾燥処理を施すことによって、各有機EL素子の発光層を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−12762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、有機EL素子において、液滴吐出法等の塗布法で形成した発光層では、断面の形状が、基板側に向かって凹となる凹状や、基板とは反対側に向かって凸となる凸状になることがある。断面の形状が凹状や凸状になっていると、発光層には、厚みが厚い部分と薄い部分とを有する膜厚分布が生じることがある。発光層に厚みが厚い部分と薄い部分とがあると、厚い部分と薄い部分との間で輝度に差異が生じやすい。
【0005】
つまり、従来の有機EL素子では、輝度ムラを軽減することが困難であるという未解決の問題がある。図13(A)〜(C)はこの様子を示す有機EL素子の断面図である。液滴吐出法においては、ガラス基板32及び隔壁54が形作る凹部に発光材料を含む機能液を吐出し、これを乾燥させて発光層42を形成するが、この際の隔壁54の高さ、機能液の体積、乾燥の速さ等のパラメータによっては、発光層42の表面が凸状(図13(A))、凹状(図13(B))、若しくは凹凸状(図13(C))を呈して形成される。こうした場合には、発光層の厚さのばらつきに起因して光学特性が低下してしまうという問題点があった。
先の特許文献1では、第1の隔壁の第2の隔壁からの突き出し幅を変えることにより、インクの性質の違いの違いによる膜形状の変化に対応するとする内容となっているが、様々なインクに対応するには問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]複数の発光領域を有する有機EL装置であって、基板と、前記基板の一方の面のうち前記複数の発光領域を除いた領域の少なくとも一部に形成されると共に、前記複数の発光領域のそれぞれを取り囲むように形成される隔壁と、前記隔壁に囲まれた開口部に配置され、表面の少なくとも一部が前記基板に並行な平面に対して傾斜して形成される機能層と、前記機能層上に配置され、前記機能層の表面に略並行な表面を有する発光層と、を含み、前記隔壁は、第1部分と第2部分とを有し、前記第1部分は、前記基板面内において、複数の異なる膜厚を有することを特徴とする有機EL装置。
【0008】
これによれば、発光層の表面が表面エネルギーのバランスによって凸状や凹状、或いは凹凸状を呈していたとしても、当該発光層の基板側に形成された機能層もこれと同様の表面形状を有している結果、発光層の表面は平坦化或いは発光層の厚さは各発光領域内で略均一となる。このため、発光領域内における透過率にばらつきのない、良好な光学特性の有機EL装置が得られる。ここで「基板上」とは、基板の表面のみを指す概念ではなく、例えば基板と機能層との間に他の薄膜等の構成要素が形成されていてもよい。又、本稿において「基板に並行な平面」とは、「基板の面を巨視的に見たときの平面に並行な平面」の意であり、基板表面に細かな凹凸等が施されていたとしてもこれらは勘案しない。
【0009】
[適用例2]上記有機EL装置であって、前記第1部分は、特性の異なる複数層で構成され、前記基板面内において、複数の異なる層数を有することを特徴とする有機EL装置。
【0010】
これによれば、発光層の表面が表面エネルギーのバランスによって凸状や凹状、或いは凹凸状を呈していたとしても、当該発光層が形成される機能層表面もこれと同様の形状を有するように制御し易くなる結果、発光層の厚さは各発光領域内で略均一となる。このため、発光領域内における透過率にばらつきのない、良好な光学特性の有機EL装置が得られる。
【0011】
[適用例3]上記有機EL装置であって、前記機能層は、前記基板面内において、複数の異なる前記傾斜面を有することを特徴とする有機EL装置。
【0012】
これによれば、発光層の表面が表面エネルギーのバランスによって凸状や凹状、或いは凹凸状を呈していたとしても、当該発光層が形成される基板表面もこれと同様の形状を有している結果、発光層の膜厚は各発光領域内で略均一となる。このため、発光領域内における透過率にばらつきのない、良好な光学特性の有機EL装置が得られる。
【0013】
[適用例4]上記有機EL装置であって、前記傾斜面は、前記発光領域の中央部近傍を頂点とする凸状に湾曲して形成されていることを特徴とする有機EL装置。
【0014】
これによれば、発光層の表面が凸状となりやすい条件において製造された有機EL装置であっても、当該発光層の膜厚を各発光領域内で略均一にすることができる。上記条件は、隔壁の高さ、発光層の体積、発光層形成時の乾燥の速さ等のパラメータに依存する条件である。
【0015】
[適用例5]上記有機EL装置であって、前記傾斜面は、前記発光領域の中央部近傍を底部とする凹状に湾曲して形成されていることを特徴とする有機EL装置。
【0016】
これによれば、発光層の表面が凹状となりやすい条件において製造された有機EL装置であっても、予め機能層によって凹部の底部が凹状となっているため、当該発光層の膜厚を各発光領域内で略均一にすることができる。上記条件は、隔壁の高さ、発光層の体積、発光層形成時の乾燥の速さ等のパラメータに依存する条件である。
【0017】
[適用例6]上記有機EL装置であって、前記傾斜面は、平坦に形成されていることを特徴とする有機EL装置。
【0018】
これによれば、発光層の表面が平坦となりやすい条件において製造された有機EL装置であっても、予め機能層によって凹部の底部が平坦となっているため、当該発光層の膜厚を各画素内で略均一にすることができる。上記条件は、隔壁の高さ、発光層の体積、発光層形成時の乾燥の速さ等のパラメータに依存する条件である。
【0019】
[適用例7]上記有機EL装置であって、前記傾斜面は、前記発光層の分子量により異なることを特徴とする有機EL装置。
【0020】
これによれば、発光層の表面が表面エネルギーのバランスによって凸状や凹状、或いは凹凸状を呈していたとしても、当該発光層が形成される基板表面もこれと同様の形状を有している結果、発光層の膜厚は各発光領域内で略均一となる。このため、発光領域内における透過率にばらつきのない、良好な光学特性の有機EL装置が得られる。
【0021】
[適用例8]上記有機EL装置であって、前記傾斜面は、前記基板の中央部近傍と周辺部近傍とで異なることを特徴とする有機EL装置。
【0022】
これによれば、発光層の表面が表面エネルギーのバランスによって凸状や凹状、或いは凹凸状を呈していたとしても、当該発光層が形成される基板表面もこれと同様の形状を有している結果、発光層の膜厚は各発光領域内で略均一となる。このため、発光領域内における透過率にばらつきのない、良好な光学特性の有機EL装置が得られる。
【0023】
[適用例9]上記有機EL装置であって、各前記発光領域及び該発光領域に配置される前記発光層は、3種又は4種以上の異なる色のいずれかに対応することを特徴とする有機EL装置。
【0024】
これによれば、発光層の表面が表面エネルギーのバランスによって凸状や凹状、或いは凹凸状を呈していたとしても、当該発光層が形成される基板表面もこれと同様の形状を有している結果、発光層の膜厚は各発光領域内で略均一となる。このため、発光領域内における透過率にばらつきのない、良好な光学特性の有機EL装置が得られる。
【0025】
[適用例10]上記のいずれか一項に記載の有機EL装置を備えることを特徴とする電子機器。
【0026】
これによれば、上記有機EL装置を表示部に備えることにより、当該表示部において高品位な表示を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照し、有機EL装置の実施形態について説明する。尚、各実施形態で参照する図面においては、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材毎に縮尺を異ならせて表示している。
【0028】
(第1の実施形態)
(有機EL装置の構成)
以下、有機EL素子を含む、有機EL装置の構成について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る有機EL装置2の配線構造を示す模式図である。本実施形態に係る有機EL装置2は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下TFTと称する)を用いたアクティブマトリクス方式のものである。有機EL装置2は、複数の走査線10と、各走査線10に対して直角に交差する方向に延びる複数の信号線12と、各信号線12に並列に延びる複数の電源線14とからなる配線構成を有すると共に、走査線10及び信号線12の各交点付近に、発光領域としての画素16が設けられている。
【0029】
信号線12には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路18が接続されている。又、走査線10には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路20が接続されている。
【0030】
画素16の各々には、走査線10を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用のTFT22と、このスイッチング用のTFT22を介して信号線12とを共有してなる、画素信号を保持する保持容量24が設けられている。
【0031】
そして、保持容量24によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用のTFT26と、TFT26を介して電源線14に電気的に接続した際に当該電源線14から駆動電流が与えられる陽極28と向き合う位置にある陰極30と、を含む有機EL素子6が設けられている。
【0032】
走査線10が駆動されてスイッチング用のTFT22がオンになると、そのときの信号線12の電位が保持容量24に保持され、該保持容量24の状態に応じて駆動用のTFT26のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用のTFT26のチャネルを介して、電源線14から陽極28に電流が流れ、更に有機EL素子6を介して陰極30に電流が流れる。有機EL素子6では、流れる電流量に応じて発光が生じる。
【0033】
図2は、本実施形態に係る有機発光層を有する有機EL素子6を集積した有機EL装置2の平面図である。基板32の実表示領域34には、有機EL素子6がデルタ配列でマトリクス状に配置されている。デルタ配列を用いることで単位面積当りの実装密度を向上させることが可能となる。尚、ストライプ配列でマトリクス状に配置されていてもよい。基板32は、例えばガラス等の透明基板である。有機EL素子6は、所謂ボトムエミッション型の構造を有している。ここで、基板32は、例えばTFT22,26(図1参照)を含んでいる。有機EL装置2はインターフェース36を介して外部回路(図示せず)と接続される。
【0034】
尚、本実施形態において画素部16は、中央部分の実表示領域34(図中二点鎖線枠内)と、実表示領域34の周囲に配置されたダミー領域38(一点鎖線及び二点鎖線の間の領域)とに区画されている。そして、実表示領域34の図2中両側には、走査線駆動回路20が配置されている。この走査線駆動回路20は、ダミー領域38の下層側に位置して設けられている。
【0035】
又、実表示領域34の図2中上方側には検査回路40が配置されている。この検査回路40は、有機EL装置2の作動状況を検査するための回路であって、例えば検査結果を外部に出力する検査情報出力手段(図示せず)を備え、製造途中や出荷時における有機ELパネルの品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されている。
【0036】
(有機EL素子の構成)
以下、有機EL素子の構成について説明する。
図9(C)は、図2における有機EL素子6のIX−IX’線断面図で、発光層としての有機発光層42R,42G,42Bを含む平面で切断したときの断面図である。有機EL素子6は、基板としてのガラス基板32、層間絶縁層44、陽極28、正孔注入層48、正孔輸送層50、有機発光層42、電子注入層52、陰極30、隔壁54と、を含む。各有機発光層42は、ガラス基板32と隔壁54とが形作る凹部に配置されている。
【0037】
層間絶縁層44は、TFT等(図示せず)が形成されたガラス基板32を覆うように配置され、ガラス基板32と電気的に絶縁を保つよう配置されている。構成材としては、例えば窒化珪素や酸化珪素、窒化酸化珪素により構成され、例えば200nm程度の厚さを有している。
【0038】
陽極28は、ITO(インジウム・錫・酸化物)により構成され、50nm程度の厚さで形成されている。陽極28は、電流を供給し、光を透過させる透明電極として機能している。
【0039】
正孔注入層48は、PEDOT/PSSを用いて形成されている。膜厚は40nm程度であり、正孔注入層48を通過する電流成分を、正孔が支配的となるよう変換している。正孔注入層48の表面の形状は、隔壁54の第1部分54aの突出部54cの膜厚により、凹状、凸状或いは平坦に形成されている。
正孔注入層48は、隔壁54によって区画された画素16の中央部近傍を頂点とする凸状に湾曲して形成されている表面を有している。換言すれば、正孔注入層48の膜厚は、画素16の中央部近傍においてもっとも厚く、隔壁54に近付くにつれて薄くなっている。又、正孔注入層48は、隔壁54によって区画された平坦に形成されている表面を有する。更に、正孔注入層48は、隔壁54によって区画された画素16の中央部近傍を底部とする凹状に湾曲して形成されている表面を有する。換言すれば、正孔注入層48の膜厚は、画素16の中央部近傍においてもっとも薄く、隔壁54に近付くにつれて厚くなっている。
【0040】
正孔輸送層50は、注入された正孔を有機発光層42に伝達すべく配置されている。正孔輸送層50は、芳香族アミン系ポリマーを用いて構成され、10nm程度の厚さを有している。正孔輸送層50の表面の形状は、正孔注入層48の表面の形状により、凹状、凸状或いは平坦に形成されている。
【0041】
有機発光層42は、正孔注入層48により輸送された正孔と、後述する電子注入層52より注入された電子とを再結合させることで発光させる機能を有している。有機発光層42は、RGB各色に対応するポリオレフィン系ポリマーを用いて構成され、100nm程度の厚さを有している。有機発光層42は、赤色有機発光層42R、緑色有機発光層42G、及び青色有機発光層42Bの3種類を有し、図2に示すように、各有機発光層42がデルタ配置されている。
【0042】
赤色有機発光層42Rは、正孔輸送層50の凹状の表面に略並行な凹状に湾曲して形成されている表面を有している。又、緑色有機発光層42Gは、正孔輸送層50の平坦な表面に略並行な平坦に形成されている表面を有している。又、青色有機発光層42Bでは、正孔輸送層50の凸状の表面に略並行な凸状に湾曲して形成されている表面を有している。
【0043】
一方、有機発光層42の表面は、正孔注入層48の表面と略並行となっている。つまり、有機発光層42の表面形状は、正孔注入層48の表面形状と略同一であり、隔壁54によって区画された画素16の中央部近傍を底部とする凹状、凸状及び平坦な表面を有する。このため、有機発光層42の膜厚は、画素16内のどの地点においても略均一となっている。
【0044】
ここで、有機EL素子6は、基板32上に膜厚の均一な有機発光層42が直接形成された有機EL素子と同等の光学特性を有することとなる。即ち、上記構成の有機EL素子6によれば、画素16内における透過率にばらつきがないため、光抜けや色濃度のばらつきが生じず、良好な光学特性が実現される。
【0045】
電子注入層52は、例えばカルシウムを用いて構成されており、膜厚は5nm程度である。電子注入層52は、電子注入層52を通過する電流を、電子電流が支配的になるよう変換し、上記した有機発光層42に電子を供給する機能を有している。
【0046】
陰極30は膜厚300nm程度のアルミニウム層により形成され、陽極28と協働して、有機発光層42に電流を供給している。
【0047】
次に、隔壁54構造について説明する。
図3は、本実施形態に係る有機EL装置の隔壁を示す断面図である。尚、有機発光層42より上層は省略してある。隔壁54は、図3に示すように、ガラス基板32側に位置する第1部分54aと、ガラス基板32から離れて位置する第2部分54bとが積層された構成を備えている。第1部分54aは、無機材料として酸化珪素、窒化珪素、又は窒化酸化珪素のいずれか、又はこれらの積層構造を含む材質を用いてもよい。この場合、プロセス温度を上げることが可能となり、400〜500℃程度の加熱プロセスを用いることが可能となる。加えて、これらの材質は半導体プロセスでの使用実績があるため、予期せぬ汚染の発生を予め避けることが可能となる。尚、汚染等の可能性が確認できている場合、他の無機材料(例えばアルミナ等)を用いることも可能である。
又、第2部分54bは、有機材料としてポリアクリルやポリイミドを用いてもよい。この場合、無機材料(例えば酸化珪素)と比べヤング率は10倍程度小さくなるため、有機発光層42等に与える応力を抑え、より高い信頼性を得ることが可能となる。
【0048】
第1及び第2部分54a,54bは、陽極28の周縁部上に乗上げるように形成されている。突出部54cは、陽極28の周囲と第1部分54aとが部分的に重なるように形成されている。平面的には、陽極28の周囲と第1部分54aとが部分的に重なるように配置された構造となっている。又、第2部分54bも同様であり、陽極28の一部と平面的に重なるように配置されている。又、第1部分54aは、第2部分54bの縁端よりも陽極28の中央側に更に突出するように形成されている。
【0049】
本実施形態では、第1部分54aの突出部54cは、ガラス基板32内で、画素16毎に、正孔注入層48の凹み具合や突き出し具合に違いを与える程度の複数の異なる膜厚を有している。例えば、各画素16における正孔注入層48の表面の形状は、各画素16の有機発光層42を構成する材料の分子量の違いにより異ならせている。例えば、赤色(R)に発光する赤色有機発光層42Rを構成する材料の分子量を80K(80×103)とした場合、正孔注入層48は有機発光層42の画素16部分を凹状にするような形状に形成されている。この場合、突出部54cの膜厚の値をL1としている(図3(A))。又、緑色(G)に発光する緑色有機発光層42Gを構成する材料の分子量を200K(200×103)とした場合、正孔注入層48は有機発光層42の画素16部分を平らにするような形状に形成されている。この場合、突出部54cの膜厚の値をL2としている(図3(B))。又、青色(B)に発光する青色有機発光層42Bを構成する材料の分子量を400K(400×103)とした場合、正孔注入層48は有機発光層42の画素16部分を凸状にするような形状に形成されている。この場合、突出部54cの膜厚の値をL3としている(図3(C))。本実施形態において、突出部54cの膜厚の値L1、L2、及びL3の大小関係は、L1>L2>L3である。
【0050】
(有機EL装置の製造方法)
続いて、上記有機EL装置2の製造方法について説明する。
(液滴吐出装置の全体構成)
先ず、有機EL素子6の製造に用いる液滴吐出装置100の全体構成について図4を用いて説明する。図4に示す液滴吐出装置100は、基本的には液状の材料102(正孔注入層48の材料を含む機能液48A:図8(D)参照)を吐出するためのインクジェット装置である。より具体的には、液滴吐出装置100は、液状の材料102を保持するタンク104と、チューブ106と、グランドステージGSと、吐出ヘッド部108と、ステージ110と、第1位置制御装置112と、第2位置制御装置114と、制御部116と、支持部118とを備えている。尚、正孔輸送層50の材料を含む機能液50A(図8(E)参照)及び有機発光層42R,42G,42Bの各発光材料を含む機能液42RA(図9(A)参照)、42GA、42BA(図9(B)参照)を吐出するための液滴吐出装置(不図示)は、吐出する材料が異なることを除けば液滴吐出装置100の構造及び機能と基本的に同じであるので、説明は省略する。
【0051】
吐出ヘッド部108は、ヘッド120(図5参照)を保持している。このヘッド120は、制御部116からの信号に応じて、液状の材料102の液滴を吐出する。尚、吐出ヘッド部108におけるヘッド120は、チューブ106によってタンク104に連結されており、このため、タンク104からヘッド120に液状の材料102が供給される。
【0052】
ステージ110はガラス基板32を固定するための平面を提供している。更にステージ110は、吸引力を用いてガラス基板32の位置を固定する機能も有する。
【0053】
第1位置制御装置112は、支持部118によって、グランドステージGSから所定の高さの位置に固定されている。この第1位置制御装置112は、制御部116からの信号に応じて、吐出ヘッド部108をX軸方向と、X軸方向に直交するZ軸方向と、に沿って移動させる機能を有する。更に、第1位置制御装置112は、Z軸に並行な軸の回りで吐出ヘッド部108を回転させる機能も有する。ここで、本実施形態では、Z軸方向は、鉛直方向(つまり重力加速度の方向)に並行な方向である。
【0054】
第2位置制御装置114は、制御部116からの信号に応じて、ステージ110をグランドステージGS上でY軸方向に移動させる。ここで、Y軸方向は、X軸方向及びZ軸方向の双方と直交する方向である。
【0055】
上記のような機能を有する第1位置制御装置112の構成と第2位置制御装置114の構成とは、リニアモータ又はサーボモータを利用した公知のXYロボットを用いて実現できる。このため、ここでは、それらの詳細な構成の説明を省略する。
【0056】
さて上述のように、第1位置制御装置112によって、吐出ヘッド部108はX軸方向に移動する。そして、第2位置制御装置114によって、ガラス基板32はステージ110と共にY軸方向に移動する。これらの結果、ガラス基板32に対するヘッド120の相対位置が変わる。より具体的には、これらの動作によって、吐出ヘッド部108、ヘッド120、又はノズル122(図5参照)は、ステージ110に固定されたガラス基板32に対して、Z軸方向に所定の距離を保ちながら、X軸方向及びY軸方向に相対的に移動、即ち相対的に走査する。「相対移動」又は「相対走査」とは、液状の材料102を吐出する側と、そこからの吐出物が着弾する側(被吐出部)の少なくとも一方を他方に対して相対移動することを意味する。
【0057】
制御部116は、液状の材料102の液滴を吐出すべき相対位置を表す吐出データを外部情報処理装置から受け取るように構成されている。制御部116は、受け取った吐出データを内部の記憶装置に格納すると共に、格納された吐出データに応じて、第1位置制御装置112と、第2位置制御装置114と、ヘッド120と、を制御する。尚、吐出データとは、ガラス基板32上に、液状の材料102を所定パターンで付与するためのデータである。本実施形態では、吐出データはビットマップデータの形態を有している。
【0058】
上記構成を有する液滴吐出装置100は、吐出データに応じて、ヘッド120のノズル122をガラス基板32に対して相対移動させると共に、被吐出部に向けてノズル122から液状の材料102を吐出する。
【0059】
(液滴吐出装置のヘッド)
図5(A)及び(B)に示すように、液滴吐出装置100におけるヘッド120は、複数のノズル122を有するインクジェットヘッドである。具体的には、ヘッド120は、振動板124と、ノズル122の開口を規定するノズルプレート126と、を備えている。そして、振動板124と、ノズルプレート126と、の間には、液たまり128が位置しており、この液たまり128には、図示しない外部タンクから孔130を介して供給される液状の材料102が常に充填される。
【0060】
又、振動板124とノズルプレート126との間には、複数の隔壁部132が位置している。そして、振動板124と、ノズルプレート126と、一対の隔壁部132と、によって囲まれた部分がキャビティ134である。キャビティ134はノズル122に対応して設けられているため、キャビティ134の数とノズル122の数とは同じである。キャビティ134には、一対の隔壁部132間に位置する供給口136を介して、液たまり128から液状の材料102が供給される。尚、本実施形態では、ノズル122の直径は、約27μmである。
【0061】
さて、振動板124上には、それぞれのキャビティ134に対応して、それぞれの振動子138が位置する。振動子138のそれぞれは、ピエゾ素子140Cと、ピエゾ素子140Cを挟む一対の電極140A,140Bとを含む。制御部116が、この一対の電極142A,142Bの間に駆動電圧を与えることで、対応するノズル122から液状の材料102の液滴Dが吐出される。ここで、ノズル122から吐出される材料の体積は、0pl以上42pl(ピコリットル)以下の間で可変である。尚、ノズル122からZ軸方向に液状の材料102の液滴Dが吐出されるように、ノズル122の形状が調整されている。
【0062】
本実施形態では、1つのノズル122と、ノズル122に対応するキャビティ134と、キャビティ134に対応する振動子138と、を含んだ部分を「吐出部144」と表記することもある。この表記によれば、1つのヘッド120は、ノズル122の数と同じ数の吐出部144を有する。吐出部144は、ピエゾ素子の代わりに電気熱変換素子を有してもよい。つまり、吐出部144は、電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用して材料を吐出する構成を有していてもよい。
【0063】
(液滴吐出装置の制御部)
次に、制御部116の構成を説明する。図6に示すように、制御部116は、入力バッファメモリ146と、記憶装置148と、処理部150と、走査駆動部152と、ヘッド駆動部154とを備えている。入力バッファメモリ146と処理部150とは相互に通信可能に接続されている。処理部150と、記憶装置148と、走査駆動部152と、ヘッド駆動部154とは、図示しないバスによって相互に通信可能に接続されている。
【0064】
走査駆動部152は、第1位置制御装置112及び第2位置制御装置114と相互に通信可能に接続されている。同様にヘッド駆動部154は、ヘッド120と相互に通信可能に接続されている。
【0065】
入力バッファメモリ146は、液滴吐出装置100の外部に位置する外部情報処理装置(不図示)から、液状の材料102の液滴を吐出するための吐出データを受け取る。入力バッファメモリ146は、吐出データを処理部150に供給し、処理部150は吐出データを記憶装置148に格納する。図6では、記憶装置148はRAMである。
【0066】
処理部150は、記憶装置148内の吐出データに基づいて、被吐出部に対するノズル122の相対位置を示すデータを走査駆動部152に与える。走査駆動部152はこのデータと、吐出周期と、に応じたステージ駆動信号を第1位置制御装置112及び第2位置制御装置114に与える。この結果、被吐出部に対する吐出ヘッド部108の相対位置が変わる。一方、処理部150は、記憶装置148に記憶された吐出データに基づいて、液状の材料102の吐出に必要な吐出信号をヘッド120に与える。この結果、ヘッド120における対応するノズル122から、液状の材料102の液滴Dが吐出される。
【0067】
制御部116は、CPU、ROM、RAM、バスを含んだコンピュータである。従って、制御部116の上記機能は、コンピュータによって実行されるソフトウェアプログラムによって実現される。もちろん、制御部116は、専用の回路(ハードウェア)によって実現されてもよい。
【0068】
(液滴吐出装置の液状の材料)
上述の「液状の材料102」とは、ヘッド120のノズル122から液滴Dとして吐出されうる粘度を有する材料をいう。ここで、液状の材料102が水性であると油性であるとを問わない。ノズル122から吐出可能な流動性(粘度)を備えていれば十分で、固体物質が混入していても全体として流動体であればよい。ここで、液状の材料102の粘度は1mPa・s以上50mPa・s以下であるのが好ましい。粘度が1mPa・s以上である場合には、液状の材料102の液滴Dを吐出する際にノズル122の周辺部が液状の材料102で汚染されにくい。一方、粘度が50mPa・s以下である場合は、ノズル122における目詰まり頻度が小さく、このため円滑な液滴Dの吐出を実現できる。尚、「液状の材料102」は、被吐出部に付与された後に固有の機能を果たすことから、「機能液」とも呼ぶ。
【0069】
本実施形態で用いる機能液48A、機能液50A、及び機能液42RA,42GA,42BAは、上述の条件を満たす液状の材料102(機能液)である。具体的には、機能液48Aは、正孔注入層48の材料となるPEDOT/PSSを溶質とし、ジエチレングリコールを溶媒とした液体である。機能液50Aは、正孔輸送層50の材料となる芳香族アミン系ポリマーを溶質とし、シクロヘキシルベンゼンを溶媒とした液体である。又機能液42RA,42GA,42BAは、それぞれRGB各色に対応したポリオレフィン系ポリマーを溶質とし、シクロヘキシルベンゼンを溶媒とした液体である。機能液42RAの分子量は80K(80×103)、機能液42GAの分子量は200K(200×103)、機能液42BAの分子量は400K(400×103)である。
【0070】
(製造方法)
続いて、図7、図8及び図9を参照しながら、上述の液滴吐出装置100を用いた有機EL素子6の製造方法について説明する。
図7は、本実施形態に係る有機EL装置2の製造方法を示す工程図であり、図8及び図9は、有機EL装置2の製造工程における有機EL素子6の断面図である。以下本実施形態では、図面上側を「上」と呼称する。
【0071】
先ず、ステップS100として、TFT等が形成されたガラス基板32上に層間絶縁層44を形成する(図8(A))。層間絶縁層44の形成は、窒化珪素、酸化珪素、窒化酸化珪素をCVD法(化学気相堆積法)等を用いて200nm程度堆積する手法を用いることが好適である。
【0072】
続いて、層間絶縁層44上に陽極28を形成する。より詳しくは、蒸着マスクを用いたイオンプレーティング法を用いてITOを積層し、膜厚50nm程度の、光透過性を有する陽極28を形成する。
【0073】
次に、ステップS110では、ガラス基板32の所定位置に隔壁54を形成する。隔壁54は、第1部分54aが形成され、第2部分54bが形成された構造を有している。
先ず、図8(B)に示すように、ガラス基板32上の所定位置に第1部分54aを形成する。第1部分54aが形成される位置は、層間絶縁層44及び陽極28上である。第1部分54aは、例えば、SiN、SiO2、TiO2等の無機物材料にて構成することができる。これらの材料は、例えばCVD法、コート法、スパッタ法、蒸着法等によって形成される。
【0074】
第1部分54aは、層間絶縁層44及び陽極28の全面に無機物膜を形成し、その後無機物膜をフォトリソグラフィ法等によりパターニングすることにより、開口部29aを有する形にて形成される。この開口部29aは、陽極28の電極面の形成位置に対応するものである。尚、このとき、第1部分54aは陽極28の周縁部と一部重なるように形成され、これにより有機発光層42の平面的な画素16が制御される。具体的には、例えばSiNの膜厚を300nmに成膜後、レジストマスクを用い、ドライエッチングにより以下のように形成する。赤色有機発光層に相当する画素の第1部分54aでは、突出部54cの膜厚を300nmとする。緑色有機発光層に相当する画素の第1部分54aでは、突出部54cの膜厚を100nmとする。青色有機発光層に相当する画素の第1部分54aでは、突出部54cの膜厚を30nmとする。
【0075】
続いて、図8(C)に示すように、第2部分54bを形成する。具体的には、第1部分54a上に第2部分54bを形成する。第2部分54bを構成する材料として、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の耐熱性、耐溶剤性を有する材料を用いる。これらの材料を用い、第2部分54bをフォトリソグラフィ法等によりパターニングして形成される。尚、パターニングする際、第2部分54bに開口部29bを形成する。このステップS110を経ることにより、ガラス基板32上に、隔壁54及び陽極28によって形作られる凹部が形成される。
【0076】
続いて、酸素プラズマ処理、四弗化炭素ガスでのプラズマ処理等を行い、陽極28と、隔壁54とに親液性を与える。ここまでの工程を終えた状態を図8(C)に示す。
【0077】
次に、ステップS120では、上記凹部の陽極28上に、液滴吐出装置100によって機能液48Aを吐出する(図8(D))。より詳しくは、PEDOT/PSS用インク(PEDOT:PSS重量比=1:50 固形分濃度0.5%、溶媒:ジエチレングリコール 50% 残量 純水)を、液滴吐出法を用いて隔壁54中に吐出し、真空乾燥、熱処理を行うことで正孔注入層48を形成する。正孔注入層48の中央膜厚は50nm程度の厚みを有している。具体的には、先ず、陽極28が形成されたガラス基板32が、機能液48Aを吐出するための液滴吐出装置のステージ110に運ばれる。そして、当該液滴吐出装置100は、上記陽極28上に、ヘッド120の吐出部144から機能液48Aを吐出する。吐出された機能液48Aは、その表面張力により、凹部全体に濡れ広がらずに凸状の形状をもって配置される。尚、各バンク開口のインク吐出重量は共通となるようにインクを吐出する。この後に真空乾燥を行い、脱溶媒がされる。
【0078】
続くステップS130では、機能液48Aが吐出されたガラス基板32を高温環境下に放置して焼成を行う。又、熱処理は、窒素中、好ましくは真空中で200℃で10分間程度加熱する。当該焼成工程を経た後は、機能液48A中の溶媒が蒸発し、当該機能液48Aが吐出された領域に凹状、凸状及び平坦な表面を有する正孔注入層48が形成される。
【0079】
ここで、第1部分54aのうち第2部分54bの開口内面から突出する突出部54cの膜厚により、形成される正孔注入層48の形状が異なる場合がある。具体的には、第1部分54aの突出部54cの膜厚が大きいと、形成される層の膜厚が周縁部(隔壁に近い側)において大きくなる傾向があり、一方、第1部分54aの突出部54cの膜厚が小さいと、形成される層の膜厚が中心部において大きくなる傾向がある。
【0080】
そこで、本実施形態では、各色の有機発光層42R,42G,42B毎に吐出する液状組成物を構成する材料の分子量が異なるため、予め第1部分54aの突出部54cの膜厚を各有機発光層42R,42G,42B毎(つまり各色の画素毎)に異ならせておき、所定の形状の正孔注入層48が形成されるようにしている。具体的には、相対的に高い分子量を有する液状組成物を吐出する画素においては突出部54cの膜厚を薄くして、相対的に低い分子量を有する液状組成物を吐出する画素においては突出部54cの膜厚を厚くした。
【0081】
次に、ステップS140では、上記凹部の正孔注入層48上に、液滴吐出装置100によって機能液50Aを吐出する(図8(E))。より詳しくは、芳香族アミン系ポリマーを溶質とし、シクロヘキシルベンゼンを溶媒とした液体を、液滴吐出法を用いて隔壁54中に吐出し、真空乾燥、熱処理を行うことで正孔輸送層50を形成する。正孔輸送層50の膜厚は10nm程度の厚みを有している。具体的には、先ず、正孔注入層48が形成されたガラス基板32が、機能液50Aを吐出するための液滴吐出装置のステージ110に運ばれる。そして、当該液滴吐出装置100は、上記正孔注入層48上に、ヘッド120の吐出部144から機能液50Aを吐出する。吐出された機能液50Aは、その表面張力により、凹部全体に濡れ広がらずに凸状の形状をもって配置される。尚、各バンク開口のインク吐出重量は共通となるようにインクを吐出する。この後に真空乾燥を行い、脱溶媒がされる。
【0082】
続くステップS150では、機能液50Aが吐出されたガラス基板32を高温環境下に放置して焼成を行う。又、熱処理は、窒素中、好ましくは真空中で130℃で1時間程度加熱する。当該焼成工程を経た後は、機能液50A中の溶媒が蒸発し、当該機能液50Aが吐出された領域に凹状、凸状及び平坦な表面を有する正孔輸送層50が形成される。
【0083】
次に、ステップS160として、上記凹部の正孔輸送層50上に、液滴吐出装置100によって機能液42RAを吐出する(図9(A))。より詳しくは、RGB各色に対応したポリオレフィン系ポリマーを溶質とし、シクロヘキシルベンゼンを溶媒とした液体を、液滴吐出法を用いて各有機EL素子6毎に塗り分けるように隔壁54中に吐出し、真空乾燥、熱処理を行うことでRGB各色を発光する有機発光層42を形成する。有機発光層42は100nm程度の厚みを有している。
【0084】
赤色有機発光層42Rは、正孔輸送層50の凹状の表面に略並行な凹状に湾曲して形成される。又、緑色有機発光層42Gは、正孔輸送層50の平坦な表面に略並行な平坦に形成される。又、青色有機発光層42Bでは、正孔輸送層50の凸状の表面に略並行な凸状に湾曲して形成される。具体的には、先ず、正孔輸送層50が形成されたガラス基板32が、機能液42RAを吐出するための液滴吐出装置のステージ110に運ばれる。そして、当該液滴吐出装置100は、上記正孔輸送層50上に、ヘッド120の吐出部144から機能液42RAを吐出する。吐出された機能液42RAは、その表面張力により、凹部全体に濡れ広がらずに凸状の形状をもって配置される。この後に真空乾燥を行い、脱溶媒がされる。
【0085】
同様にして、ステップS170では機能液42GAが、又ステップS180では機能液42BAが、それぞれ異なる凹部に吐出される。ここまでの工程を終えた状態を図9(B)に示す。それぞれの吐出工程後には、機能液42RAの場合と同様、真空乾燥が行われる。
【0086】
続くステップS190では、機能液42RA,42GA,42BA(以下ではこれらをまとめて「機能液42A」とも呼ぶ)が吐出されたガラス基板32を高温環境下に放置して焼成を行う。尚、熱処理は、窒素中、好ましくは真空中で130℃で1時間程度加熱する。当該焼成工程を経た後は、機能液42A中の溶媒が蒸発し、当該機能液42Aが吐出された領域に有機発光層42がそれぞれ形成される。このとき、赤色有機発光層42Rは、凹状の表面形状をもって形成される。緑色有機発光層42Gは、平坦な表面形状をもって形成される。青色有機発光層42Bは、凸状の表面形状をもって形成される。
【0087】
続いて、蒸着マスクを用いてカルシウムを全面に蒸着することで、電子注入層52を形成する。電子注入層52の膜厚は、5nm程度の厚みを有している。ここで、蒸着マスクの寸法は、隔壁54側の径に合わせた寸法のマスクを用いている。
【0088】
続いて、アルミニウムを全面に蒸着することで、陰極30を形成する。陰極30の膜厚は、300nm程度の厚みを有している。ここまでの工程を実行することで、図9(C)に示す有機EL素子6を形成することができる。
【0089】
最後に、有機EL素子6が形成されたガラス基板32と、別途用意した封止基板とを封止樹脂を介して封止する。例えば、熱硬化樹脂又は紫外線硬化樹脂からなる封止樹脂をガラス基板32の周縁部に塗布し、封止樹脂上に封止基板を配置する。封止工程は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。大気中で行うと、陰極30にピンホール等の欠陥が生じていた場合にこの欠陥部分から水や酸素等が陰極30に侵入して陰極30が酸化されるおそれがあるので好ましくない。
【0090】
この後、ガラス基板32の配線に陰極30を接続すると共に、ガラス基板32上或いは外部に設けられる駆動IC(駆動回路)に回路素子部(図示せず)の配線を接続することにより、本実施形態の有機EL装置2が完成する。
【0091】
本実施形態によれば、有機発光層42の表面が表面エネルギーのバランスによって凹凸状の表面形状をもったとしても、上記構成の有機EL素子6によれば、有機発光層42のガラス基板32側に形成された正孔注入層48もこれと同様の表面形状を有している結果、膜厚が凸状の正孔注入層48では、機能液42Aを周辺部へ移動し易くし、膜厚が凸状の正孔注入層48では、機能液42Aを中央部へ移動し易くする。更に、膜厚が平坦状の正孔注入層48では、機能液42Aの移動を少なくする。これにより、有機発光層42は、平坦な表面或いは正孔注入層48の表面に略並行な表面を有するので、有機発光層42の膜厚は各画素16内で略均一となる。このため、画素16内における透過率にばらつきがないため、光抜けや色濃度のばらつきが生じず、良好な光学特性が実現される。
【0092】
ここで、上記製造工程において隔壁54内に形成する各層の膜形状(特に表面形状)と、該膜の形成に用いる液状組成物を構成する材料の分子量及び第1部分54aの突出部54cの膜厚との関係について詳述する。
【0093】
先ず、同一構成の隔壁54を備えた基板上、つまり第1部分54aの突出部54cの膜厚がそれぞれ同一(ここでは100nm)の基板上に、分子量の異なる液状組成物を吐出した場合の、得られる膜の形状の違いについて説明する。このように異なる分子量の液状組成物を吐出して成膜すると、該分子量の違いにより、得られる膜の表面形状が変化することとなる。つまり、低分子量の場合は、膜が凹状となって、その断面形状がU字状となるのに対して、高分子量の場合は、膜が凸状となって、その断面形状が逆U字状となるのである。具体的には、分子量80Kの液状組成物の膜形状が凹となり、中央付近のみが光る発光プロファイルとなり、発光ムラが増大、且つ輝度寿命が本実施形態の半分となった。又、分子量400Kの液状組成物の膜形状が凸になり、隔壁付近の周囲のみが光る発光プロファイルとなり、発光ムラが増大、且つ輝度寿命が本実施形態の2/3となった。
【0094】
このような変化に基づいて考察すると、液状組成物の分子量と、突出部54cの膜厚とによって、膜の形状を種々制御できることが分かる。つまり、同一分子量の液状組成物を用い、突出部54cの膜厚を100nmとした場合に、表面形状が平坦な膜を形成できるが、膜厚を相対的に小さく(30nm)することで、表面形状が凸状な膜を形成することができる。一方、膜厚を相対的に大きく(300nm)することで、表面形状が凹状な膜を形成することができる。
【0095】
(第2の実施形態)
上記実施形態では、各画素16における正孔注入層48の表面の形状は、各画素16の有機発光層42を構成する材料の分子量の違いにより異ならせている場合の実施形態であるが、本実施形態はこれ以外の場合にも適用可能である。
【0096】
以下では、各画素16のガラス基板32内での配置位置の違いにより異ならせている場合の有機EL装置4について説明する。
図10は、本実施形態に係る有機EL装置4の平面図である。図11は、本実施形態に係る有機EL装置4の有機EL素子8の断面図である。本実施形態に係る有機EL素子8の各画素16における正孔注入層48の表面の形状は、ガラス基板32の中央部A領域の正孔注入層48(図11(A)参照)を凸状として、周辺部B領域の正孔注入層48(図11(B)参照)を凹状としている。つまり、中央部A領域に液状組成物を吐出する画素においては突出部54cの膜厚を薄くして、周辺部B領域に液状組成物を吐出する画素においては突出部54cの膜厚を厚くした。例えば、ガラス基板32の中央部A領域の突出部54cの膜厚を30nmとして、正孔注入層48の膜厚を凸状とした。又、周縁部B領域の突出部54cの膜厚を300nmとして、正孔注入層48の膜厚を凹状とした。
【0097】
本実施形態によれば、有機発光層42の表面が表面エネルギーのバランスによって中央部A領域より周辺部B領域の方が凹の凹みが大きくなったとしても、上記構成の有機EL素子8によれば、中央部A領域では、正孔注入層48の膜厚を凸状として、機能液42Aを周辺部へ移動し易くし、周辺部B領域では、正孔注入層48の膜厚形状を凹状として、機能液42Aを中央部へ移動し易くする。これにより、有機発光層42は、平坦化或いは正孔注入層48の表面に略並行な表面を有するので、有機発光層42の膜厚は各画素16内で略均一となる。このため、画素16内における透過率にばらつきがないため、光抜けや色濃度のばらつきが生じず、良好な光学特性が実現される。
【0098】
(電子機器)
次に、上記した有機EL素子6(8)を含む有機EL装置2(4)を備える電子機器について説明する。
図12(A)〜(C)は、上記した有機EL素子6(8)を含む有機EL装置2(4)を備える電子機器の斜視図である。図12(A)に、有機EL装置2(4)を備えたモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す。パーソナルコンピュータ200は、有機EL装置2(4)と本体部202を備える。本体部202には、電源スイッチ204及びキーボード206が設けられている。
【0099】
図12(B)には、有機EL装置2(4)を備えた携帯電話機の構成を示す。携帯電話機210は、複数の操作ボタン212及びスクロールボタン214、並びに表示ユニットとしての有機EL装置2(4)を備える。スクロールボタン214を操作することによって、有機EL装置2(4)に表示される画面がスクロールされる。
【0100】
図12(C)に、有機EL装置2(4)を適用した情報携帯端末PDA(Personal Digital Assistants)の構成を示す。情報携帯端末220は、複数の操作ボタン222及び電源スイッチ224、並びに表示ユニットとしての有機EL装置2(4)を備える。電源スイッチ224を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が有機EL装置2(4)に表示される。
【0101】
尚、有機EL装置2(4)が搭載される電子機器としては、図12(A)〜(C)に示すものの他、デジタルスチルカメラ、液晶テレビ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等が挙げられる。そして、これらの各種電子機器の表示部として、前述した有機EL装置2(4)が適用可能である。
本実施形態によれば、有機EL装置2(4)を表示部に備えることにより、当該表示部において高品位な表示を行うことができる。
【0102】
以上、実施形態について説明したが、変形例としては、例えば以下のようなものが考えられる。
【0103】
(変形例1)
上記実施形態において、有機発光層42の形成は一度の機能液42Aの吐出及び焼成によって行われるが、これに代えて、機能液42Aの吐出及び焼成を複数回繰り返すことによって形成してもよい。このとき、正孔注入層48は、その表面形状が、有機発光層42が最終的に有する表面形状と略並行となるように形成する。
【0104】
(変形例2)
上記実施形態の有機EL素子6(8)は、赤、緑、青の3色の有機発光層42及び画素16を有するが、これに代えて、4色以上の発光層及び画素を有する構成であってもよい。例えば、赤、緑、青、シアンの4色による構成とすることができる。
【0105】
(変形例3)
上記実施形態では、平面視にて円形形状を持つ有機EL素子6(8)について説明したが、これは長方形や、長方形の角を丸めた形状や、楕円その他任意の形状を用いてもよい。この場合には、有機EL素子6(8)に対する形状の自由度を向上させることが可能となり、有機EL素子6(8)の形状設計に関して自由度を向上させることができる。又、有機EL素子6(8)の配置はデルタ配列に限られるものではなく、例えばマトリクス状の配列を用いてもよい。特に、マトリクス状の配列を用いた場合、テレビ等に用いられる画像信号を直接入力することが可能となるため、好適である。
【0106】
(変形例4)
上記実施形態では、有機発光層42と電子注入層52を直接接触させているが、有機発光層42と電子注入層52との間に正孔ブロック層を形成してもよい。この場合、有機発光層42から正孔がオーバーフローする現象を抑制することが可能となり、有機発光層42の発光効率を向上させることが可能となる。
【0107】
(変形例5)
上記実施形態では、有機EL素子6(8)としてボトムエミッション型の構造を有するものについて説明したが、これはトップエミッション型に容易に変更が可能である。例えば、陰極30をMgAg等の透光性を有する層に代え、層間絶縁層44とガラス基板32との間にアルミニウム等を用いた反射層を配置することで構成することが可能である。
【0108】
(変形例6)
上記実施形態では、画素16に機能液を充填させる方法として液滴吐出法に限定されず、例えば、ディスペンサ塗布法を用いるようにしてもよい。
【0109】
(変形例7)
本実施の形態では、有機EL装置に限定されず、製造する際、バンクに液体を充填させる工程を有するものであればよく、例えば、カラーフィルタを有する液晶装置、プラズマディスプレイ、電子ペーパー等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】第1の実施形態に係る有機EL装置の配線構造を示す模式図。
【図2】第1の実施形態に係る有機EL装置の平面図。
【図3】第1の実施形態に係る有機EL装置の隔壁を示す断面図。
【図4】液滴吐出装置を示す模式斜視図。
【図5】液滴吐出装置におけるヘッドの一部を示し、(A)は模式斜視図、(B)は断面図。
【図6】液滴吐出装置における制御部の機能ブロック図。
【図7】第1の実施形態に係る有機EL装置の製造方法を示す工程図。
【図8】第1の実施形態に係る有機EL装置の製造工程における有機EL素子の断面図。
【図9】第1の実施形態に係る有機EL装置の製造工程における有機EL素子の断面図。
【図10】第2の実施形態に係る有機EL装置の平面図。
【図11】第2の実施形態に係る有機EL装置の有機EL素子の断面図。
【図12】本実施形態に係る有機EL装置を備える電子機器の斜視図。
【図13】液滴吐出法を用いて製造された従来の有機EL素子の断面図。
【符号の説明】
【0111】
2,4…有機EL装置 6,8…有機EL素子 10…走査線 12…信号線 14…電源線 16…画素(画素部)(発光領域) 18…データ線駆動回路 20…走査線駆動回路 22…TFT 24…保持容量 26…TFT 28…陽極 29…開口部 30…陰極 32…基板(ガラス基板) 34…実表示領域 36…インターフェース 38…ダミー領域 40…検査回路 42…有機発光層(発光層) 44…層間絶縁層 48…正孔注入層(機能層) 50…正孔輸送層 52…電子注入層 54…隔壁 100…液滴吐出装置 102…液状の材料 104…タンク 106…チューブ 108…吐出ヘッド部 110…ステージ 112…第1位置制御装置 114…第2位置制御装置 116…制御部 118…支持部 120…ヘッド 122…ノズル 124…振動板 126…ノズルプレート 128…液たまり 130…孔 132…隔壁部 134…キャビティ 136…供給口 138…振動子 140…ピエゾ素子 144…吐出部 146…入力バッファメモリ 148…記憶装置 150…処理部 152…走査駆動部 154…ヘッド駆動部 200…パーソナルコンピュータ 202…本体部 204…電源スイッチ 206…キーボード 210…携帯電話機 212…操作ボタン 214…スクロールボタン 220…情報携帯端末 222…操作ボタン 224…電源スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光領域を有する有機EL装置であって、
基板と、
前記基板の一方の面のうち前記複数の発光領域を除いた領域の少なくとも一部に形成されると共に、前記複数の発光領域のそれぞれを取り囲むように形成される隔壁と、
前記隔壁に囲まれた開口部に配置され、表面の少なくとも一部が前記基板に並行な平面に対して傾斜して形成される機能層と、
前記機能層上に配置され、前記機能層の表面に略並行な表面を有する発光層と、
を含み、
前記隔壁は、第1部分と第2部分とを有し、
前記第1部分は、前記基板面内において、複数の異なる膜厚を有することを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL装置において、
前記第1部分は、特性の異なる複数層で構成され、前記基板面内において、複数の異なる層数を有することを特徴とする有機EL装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機EL装置において、
前記機能層は、前記基板面内において、複数の異なる前記傾斜面を有することを特徴とする有機EL装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機EL装置において、
前記傾斜面は、前記発光領域の中央部近傍を頂点とする凸状に湾曲して形成されていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機EL装置において、
前記傾斜面は、前記発光領域の中央部近傍を底部とする凹状に湾曲して形成されていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機EL装置において、
前記傾斜面は、平坦に形成されていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機EL装置において、
前記傾斜面は、前記発光層の分子量により異なることを特徴とする有機EL装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機EL装置において、
前記傾斜面は、前記基板の中央部近傍と周辺部近傍とで異なることを特徴とする有機EL装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機EL装置において、
各前記発光領域及び該発光領域に配置される前記発光層は、3種又は4種以上の異なる色のいずれかに対応することを特徴とする有機EL装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の有機EL装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−80268(P2010−80268A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247521(P2008−247521)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】