説明

木質バイオマスの利用方法

【課題】炭酸ガス発生量の抑制が必要な大量エネルギー使用産業である製鉄業などと、樹木の炭酸ガス吸収能力を高く保つために現在よりも伐採を推進することが望まれている木質バイオマス供給地とをむすびつけて、日本全体として地球温暖化対策を効率に実施できるようにする。
【解決手段】木質バイオマスを集積地で平均径が1cm以上、10cm以下になるように木片化し、木片の表層部が350℃以上、450℃以下になるように加熱処理した後、使用する場所に搬送し、粉砕して高温で使用する。使用場所が製鉄所の製銑工程の場合、粉状での高炉への吹きこみ、また石炭とともにコークス化して高炉に装入する。また、製鋼工程の場合には、製鋼転炉の吹錬中に、生成する高温ガス中に、木質バイオマスの粉粒体を吹き込む。製鋼転炉の排ガスから分離捕集された粉粒体は炭素を含んだ状態で成形して後工程で加熱処理を行って有効利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、森林を炭酸ガス吸収能力が大きい健全な状態に保つために必要な伐採によって生じた木質バイオマスを有効かつ効率的に利用し、エネルギー大量使用産業の炭酸ガス排出量の削減に結び付けるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の進行を抑制するためには大気中の炭酸ガス冨化を抑制することが重要な課題である。そのための最も基本的な手段の一つが、樹木などの植物の光合成による炭酸ガス吸収能を最大に保ち、それによって固定された有機物を最大限、有効に利用し、たとえば化石燃料の使用量の削減を可能にすることである。しかし、日本においては、昭和30年代にエネルギー源の化石燃料への転換期に、樹木は木材用に重点を移すことになり大量に植林された杉や檜が収穫期を迎えたが、コスト的に輸入材に押されて森林業が衰退し、山林全体の炭酸ガス吸収能力の低下が進行している。そして、林地残材はほとんど持ち出されず、また間伐の遅れ、自然林の放置による各種の問題が生じている。一方、火力発電所や製鉄所などのように多量のエネルギーを使用する産業では、石炭、石油などの化石燃料に依存していると、炭酸ガス削減の動きに対応してゆくことがむつかしくなることから、カーボン・ニュートラルという、燃焼しても炭酸ガス発生にカウントされないという国際的な特典を生かすという観点から、木質バイオマスの利用が考えられている。しかし、木質バイオマスのもつ以下のような問題をクリアできず、具体的進行は遅れている。
(1)木質バイオマスは存在場所が分散していること、多量の水分を含んでいること、嵩あたりエネルギー含有量が低いことから、輸送コストが割高になりやすく、大量消費地に集めることが、経済的に難しいと考えられていた。
(2)また、発電所や製鉄所などのエネルギー大量消費産業では、原理的には木質バイオマスをエネルギー源として利用することが不可能ではないにしても、現在の設備、技術は化石燃料使用に適したものになっているので、木質バイオマスのように、水分を伴っていたり、石炭にくらべて沸点の低い有機物を含んでいるものは使いにくいものと考えられていた。すなわち、木質バイオマスは、化石燃料に比べて輸送および使用の点で不利であり、また、その問題をクリアするために各種の前処理を行うと、その費用負担が経済性を損なうということが実用化が進まない理由であった。
【0003】
非特許文献1に示されているあぶり木材とは、木材中のヘミセルローズを分解し、乾燥木材と木炭の中間状態にあって木材エネルギーの90%を保有するものであり、その製造法はキルンを用いた低温熱分解であること、製品は吸質性がなく高密度でもろいこと、用途として、ボイラー及び小規模発電用燃料、冶金用還元剤、ガス原料であることが示されている。非特許文献2においては、木やチャーコールに置き換わるトレファイドバイオマスの製造法として、木質を230℃、250℃、280℃で、1.2〜3時間処理する試験を行い、処理温度、処理温度の増加とともに、エネルギー密度は増加するが、歩留まりが低下することが示されている。
特許文献1においては、製鉄所で木質バイオマスを乾燥すること、木質バイオマスの乾燥を300℃以下の排熱を用いて行うこと、乾燥後の木質バイオマスを粉砕し、石炭とともに成型して成型体とし、石炭とともにコークス炉に装入して乾留して製造されたコークス成型体を高炉で用いること、またコークス成型体を篩い分けした篩い下を、羽口から高炉内に吹き込むという方法で使用することが示されている。一方、高炉法で得られた溶銑に酸素ガスを吹きつけて脱炭して溶鋼にする製鋼工程では、転炉排ガスの発熱量を増加させること、高温排ガスの顕熱を有効利用すること、排ガスに含まれている主として酸化鉄からなるダストを再利用しやすいものにするなどが求められているが、そのために木質バイオマスを有効利用する方法はこれまで示されていない。特許文献2は、製鋼転炉から排出されたガスに、水素を多量に含有するコークス炉ガスを混合し、転炉ガス中の二酸化炭素を水素で一酸化炭素に還元すると共にガスカロリーを高めて、燃料ガスとして有効利用する方法が示されている。また、特許文献3には、転炉で発生したダストを回収して再利用する方法として、吹錬時に発生する排ガス集塵系列回収ダストは粗粒と細粒に分別し、このうち粗粒ダストは転炉原料または溶銑予備処理原料とし、細粒ダストは焼結鉱またはペレットの原料とし、他方溶銑装入時および出鋼時に、前記排ガス集塵系統とは別に設けた集塵系列で回収したダストは、溶銑の脱珪剤若しくは脱燐剤として使用する方法が示されている。この場合には集塵ダスト中に炭素分はほとんど含まれていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−24984号公報
【特許文献2】特開2003−166013号公報
【特許文献3】特開2007−9240号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Bourgeois JP,Doat J:Torrefied wood from temperature and tropical species,advantages and prospects[Bioenergy,153〜159,84,Vol.3,ISBN;0−85334−348−9]
【非特許文献2】M.Pach,R.Zanzi,E.Bjornbom(6th Asia−Pacific International Symposium on Combusion and Energy}May.2002.Kuala Lumpur,ISBN
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、炭酸ガス発生量の抑制策が求められているエネルギー多量使用産業である製鉄や発電などと、樹木の炭酸ガス吸収能力を高く保つために現在よりも伐採を推進することが望まれている森林業をむすびつけて、日本全体として地球温暖化対策を効率に実施できるようにするための方法であって、木質バイオマスの効率的な輸送を可能にするための木質バイオマスの第1次集積地での処理と、使用の場所である製鉄所などでのその効率的利用法の組み合わせからなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段の第1は、集積地で木質バイオマスを平均径が1cm以上、10cm以下になるように木片化する第1工程、木片の表層部が350℃以上、450℃以下になるように加熱する第2工程、径が1cm以上のものを使用する場所に搬送する第3工程、搬送されたものを粉砕して使用する第4工程からなる方法で木質バイオマスを利用することである。
【0008】
手段の第2は、0006において、集積地で発生した径が1cm以下の部分を集めて直接燃焼法あるいはガス化・燃焼法によって、電力に変換することである。
【0009】
手段の第3は、0006において、第4工程を実施する場所を製鉄所とすることである。
【0010】
手段の第4は、0008において、搬送された木質バイオマス、あるいはそれを1次粉砕したものを篩い分けて3mm以下の部分を、羽口を通して高炉内に吹き込むことである。
【0011】
手段の第5は、搬送されてきた木質バイオマス、あるいはそれを1次粉砕し3mmで篩分けした篩い上分を粉砕して、石炭粉とともに成型してコークス炉に装入してコークス成型体として高炉に装入することである。
【0012】
手段の第6は、0008において、木質バイオマスを粉砕し、粉粒体として製鋼転炉の吹錬中に、生成する高温ガス中に吹き込むことである。
【0013】
手段の第7は、0011において、製鋼転炉で木質バイオマス粉粒体を吹き込む位置を転炉排ガスダクト中とすることである。
【0014】
手段の第8は、0011乃至0012のいずれかにおいて、木質バイオマス粉粒体の吹き込みを行う時期が転炉吹錬開始3分以後、かつ転炉吹錬終了の2分以前とすることである。
【0015】
手段の第9は0011乃至0013のいずれかにおいて、木質バイオマスの粉粒体を吹き込むのに用いる搬送ガスとして、製鋼転炉の排ガスを回収したものの1部を用いることである。
【0016】
手段の第10は、0011乃至0014のいずれかにおいて、製鋼転炉の排ガスから分離捕集された粉粒体は炭素分を含んだ状態で成形して後工程で加熱処理を行うことである。
【発明の効果】
【0017】
0006,0007の方法によって、ペレット化などの処理を必要とすることなく、木質バイオマスの輸送可能距離を延ばし、かつ利用先で乾燥などの処理を不要とすることができる。0008、0009,0010の方法によって、製鉄所の製銑工程の炭酸ガス発生量の効果的な削減が可能になる。0008、0011の方法によって、製鋼工程での高温排ガスの顕熱を有効利用して、転炉排ガスの発熱量を増加させること、また排ガスに含まれている主として酸化鉄からなるダストを後工程で再利用しやすいものにすることによって、製鉄所の炭酸ガス発生量削減に結びつけることができる。0012、0013の方法によって、転炉排ガスの防爆を行い安全な操業ができる。0014の方法によって、生成する転炉排ガスの発熱量を高く保つことができる。0015の方法によって捕集された転炉製鋼ダストの有効利用を効率的に行える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のプロセスフローのうち、森林から持ち出された木質バイオマスの集積地での処理を示す。
【図2】木質バイオマスのばい焼法の2つのケースを示す。
【図3】本発明のプロセスフローのうち、製鉄所などの使用場所に搬送された後の処理を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の対象となるのは、伐採された樹木の集積場での処理工程、搬送工程、製鉄所な
どの木質バイオマスの使用工場での工程からなる。図1は集積場での処理工程を示す。森林で伐採された樹木の用途としては、木材用として用いられるものと木質バイオマスとして用いられるものの2つがある。従来法では伐採場所から木材用だけが搬出され、それ以外のものの多くは森林に放置されていた。これを改善して、伐採されたものはすべて集積地まで搬送されて、そこで目的別にわけて必要な処理を行うという方式を採用する。本発明において、集積場から出る半製品の主体になるのは、平均径が1cm以上、10cm以下の、ばい焼処理を受けた木片であるが、集積された樹木から、まず木材用のものを分離し残りを木質バイオマス用とする。木質バイオマスの中から、枝葉などの二級原料を分離し、破砕機にかけて平均径が1〜10cmの木片とする。破砕によって生じた1cm以下のものは篩い分けして分離する。篩上分である平均径が1〜10cmの範囲のものは、ばい焼という加熱処理を施す。ばい焼というのは、トレファクションとも呼ばれるもので、木質バイオマス処理の場合は、乾燥(200℃以下)、炭化(約400℃以上)の中間の加熱温度を意味する。このばい焼処理を、熱伝導率の低い木質バイオマスに対して施す場合、均質性をどのように考えて行うかによって処理条件(木片サイズ)加熱温度、保持時間などの条件が大きく変わってくる。比較的均質な中間製品を得ようとすれば、処理対象の木片サイズを小さくし、加熱温度も200〜350℃の範囲内での比較的低い温度とし、さらにはばい焼処理後、粉砕混合して、それをペレット化するという方法が取られる。本発明の方法は、それとは異なる。すなわち本発明では、後述のように、この中間製品を使用場所で粉砕して、用途別に分離あるいは均質化することから、内外部のヘミセルローズ含有量の差は問題にはならない。したがって本発明では、この工程を中間製品の輸送を効率的に行うという条件を満足する範囲で、処理コストを下げて行うことを目的とする。輸送を効率的に行うためには、ばい焼処理後のペレット化などの成型を行わず、また表層部のヘミセルローズが低減されて疎水性を有していること、内部は水分の蒸発に必要な温度150℃以上に加熱されていればよい。そのためには、まず、上記のように処理対象の木片を平均径が1〜10cmとする。平均径が1cm以下では嵩比重が小さく輸送効率が低下する。一方、平均径が10cm以上では切削・破砕の歩留が効率が低下するので好ましくない。ばい焼の加熱温度は、木片の表層部の温度で表すが、通常の木質バイオマスのばい焼処理の場合より高くして、木片の表層部が350℃以上、450℃以下になるようにする。350℃よりも低いと加熱処理のための時間が長くなり、一方、450℃以上では、ばい焼後の表層部が脆くなるので好ましくない。この温度範囲の加熱を15〜40分行う。本発明においては、ばい焼処理後の木片の表層部が疎水性を持つようにヘミセルローズの含有量が低下していることが必要であって、そのためには15分以上が必要である。一方、40分を超えるとばい焼後の表層部が脆くなるので好ましくない。このような処理を行うために加熱方法の例を図2に示す。加熱装置は予熱部とばい焼部からなる。ケース1は、ばい焼部の加熱を直接加熱法で行う場合である。木片は、予熱部、ばい焼部を通って中間製品となるが、ばい焼部の出口側から、燃焼用バーナーを装入して、バーナーに供給する木質バイオマスの粉の量を調整して、上に述べた木片の加熱温度になるように調整する。なお、加熱によってガス化したヘミセルローズの分解物は、バーナーから供給される空気によって燃焼し、木片の加熱に利用される。ばい焼部を出た高温ガスは、予熱部に入り、木片の予熱、乾燥に用いられたのち、排ガス処理を受けて系外の排出される。図2のケース2の場合には、ばい焼部が間接加熱方式であることだけが、ケース1の場合と異なる。ばい焼部で木片から発生したヘミセルローズが分解してガス化したものが、ばい焼部から吸引されて、ばい焼部を外部から加熱するための燃料として利用される。その燃焼によって生じた高温ガスは、ばい焼部を外部から加熱した後、予熱部の内部に導かれ、以後はケース1と同じである。ケース1あるいはケース2で得られたばい焼の木片は平均径1cm以下のものを篩分ける。
【0020】
0018得られた平均径が1〜10cmの、ばい焼処理を受けた木片は、トラック、鉄道あるいは船舶など、集積地と、利用場所の位置関係に応じて、適当な手段で搬送される。図3に火力発電所、製鉄所などのエネルギー多量使用場所に搬送された後の処理を示す。火力発電所の場合には、搬送されていたものは粉砕して、火力ボイラーで微粉炭と混焼して発電に用いられる。ばい焼処理をうけていない木質バイオマスのチップを用いる場合に比べてばい焼処理を受けたものの特長は、水分含有量を低下した後、疎水化されていることから水分含有量が低く、また有効発熱量が高いこと、さらに粉砕しやすくなっていることである。
【0021】
本発明のメインの製品ではない平均径が1cm以下のものとしては、ばい焼後の篩下分、ばい焼前の篩下分、および木片化のための破砕処理を受けなかったもの(二級原料)がある。まず、ばい焼後の篩下分は、ペレットしての需要がある場合にはペレットに成型する。それ以外の場合には、ばい焼後の篩下分、ばい焼前の篩下分、および木片化のための破砕処理を受けなかったもの(二級原料)は、集積場に近接して設置された分散型発電所で電力と熱に変換される。木質バイオマスを電気および熱に変換する方法としては、
ボイラーで燃焼して水をスチーム化してスチームタービンを回して発電する直接燃焼法と、木質バイオマスを一旦、ガス化してからそれを燃焼してガスエンジンを用いて発電する方法のいずれを選択してもよい。規模が小さい場合(たとえば1000kW以下)には発電効率の点でガス化法の方が適している。いずれの場合にも発電に伴う廃熱(燃焼廃ガスや蒸気の復水時に得られる熱など)は、分散型発電設備の設置場所の周辺条件に応じて、乾燥、地域の冷暖房、栽培用ハウスの冷暖房などに有効利用する。なお、これらの木質バイオマスを中長距離輸送が可能なように圧縮成型してエネルギー密度を高め、大規模発電に搬送して石炭などと混焼することも可能であるが、本発明では、この圧縮成型してエネルギー密度を高めることに使われるエネルギーおよび費用アップを考え、また、大型火力発電所では熱の搬送可能距離の点から十分な利用がむつかしい排熱の利用の点から、平均径が1cm以下の木質バイオマスについては、分散型の木質バイオマス利用発電と排熱利用を組み合わせるシステムを選択する。
【0022】
本発明の木質バイオマスの使用場所の1つが製鉄所である。鉄鉱石を原料とする量産製鉄法でのこれまでの方法は、まず、溶鉱炉(高炉)で鉄鉱石を焼結あるいはブリケットに成型したものと石炭から得られたコークスを加えて、酸化剤として空気を吹き込んで、4%以上の炭素を含む溶銑を製造する。これが製銑工程である。次に、製鋼工程では、転炉でこの溶銑に純酸素ガスを吹きつけて鉄中の炭素分を酸化して、炭素濃度が0.4%以下の溶鋼として、合金添加などの成分調整を行ってから凝固させて鋳片とする。そして、以後は固体状態のものに必要な成型加工、熱処理などを行って鉄鋼製品とする。本発明は高炉を用いた製銑工程と、転炉を用いた製鋼工程を対象にする。
【0023】
製銑工程での木質バイオマスの利用方法の第1は、粉粒状にしたものを空気とともに高炉の羽口から吹き込んで高温燃焼させることである。粉石炭の場合にはこれまでの実施されていたのに対し、木質バイオマスについては行われていなかった理由は、水分およびヘミセルローズを含有しているために羽口先のフレーム温度を下げることによって高炉炉内での反応進行に悪影響を及ぼすためである。それに対して、本発明では、搬送されてきた木質バイオマス、あるいはそれを1次粉砕したものを篩い分けて3mm以下の部分を、羽口を通して高炉内に吹き込むようにする。どちらの方法を採用するかは、高炉の羽口からの吹き込みに必要とされる量に依存する。まず、搬送されてきた木質バイオマスを篩い分けて3mm以下の部分を採取する方法で足りる時は、搬送およびハンドリング中に粉粒化したものは、ばい焼時に表層部で十分に温度が上がった部分であってヘミセルローズの分解がよく進行している。また、羽口からの吹き込みに用いるものがこの搬送されてきたものの篩い分けで足りない時は、搬送されてきたものを1次粉砕してから3mm以下の部分を用いる。この1次粉砕においても粉粒化するのは、ばい焼時に表層部で十分に温度が上がった部分であってヘミセルローズの分解がよく進行している。したがって、本発明においてはこのような方法によって、高炉羽口先のフレーム温度の低下の悪影響なしに木質バイオマスを用いることができる。
【0024】
製銑工程での木質バイオマスの利用方法の第2は、搬送されてきた木質バイオマスのうち、0022などで使用されなかったもの、すなわち、搬送されてきた木質バイオマス、あるいはそれを1次粉砕したものの篩い上分であって、かつ、石炭と混ぜて成型コークス
にした場合、得られた成型コークスの強度に悪影響を及ぼさない範囲の混合量、すなわち、石炭重量の18%以下とすることである。この配合量の条件を満足する木質バイオマスを石炭とともに粉砕、混合し、あとは石炭単独の場合と同じように成型してコークス炉に装入して加熱して、成型コークスを製造する。製造された成型コークスは、酸化鉄原料、培媒溶材とともに高炉の上部から装入して銑鉄と溶融スラグが製造される。
【0025】
製鋼工程での炭酸ガス発生量削減のための着眼点は、転炉製鋼炉の排ガスのもつ顕熱を、排ガスの発熱量増加に結び付けて、製鉄所全体の熱効率を上げること、さらに、生成するダストは主として酸化鉄であるが、これを後工程で鉄源として利用しやすいものにすることである。本発明においては、その手段として木質バイオマスを有効利用する。
溶銑を製鋼転炉に装入して、ランスを通して純酸素ガスを吹きつける。それによって溶融した炭素含有鉄中の炭素分が、酸素ガスと反応して、主として
2C+O=2CO (1)
の反応して脱炭反応が進む。この際、発生するガスの温度は1400℃以上の高温で、成分は一酸化炭素が約75%、二酸化炭素が約13%、そして微量の酸素、水素、窒素である。また、溶融鉄の高温部から蒸発した鉄が高温ガス中で酸化されて生成した酸化鉄を主成分とし、その他、溶銑に含まれていた亜鉛などの金属成分が蒸発して酸化されたものなどを含んでいる。この粉塵を含む高温排ガスは冷却されて、湿式あるいは乾式の集塵機で固体分を除き、燃料ガスとして回収されて、製鉄の他の工程のエネルギー源として利用される。また、集塵機によって捕集された粉塵(ダスト)は、鉄源の一部として再利用される。従来法では、高温排ガスの顕熱が効率的に有効されていない。また、捕集されたダストは酸化物類だけであるので、その再利用にあたっては還元のために炭素源を加えることが必要である。
【0026】
それに対して、本発明においては、製鋼転炉の高温ガス中に木質バイオマスの粉粒体を供給して、高温ガスの顕熱を利用して木質バイオマスの熱分解を行って、一酸化炭素、水素などのガスを生成するとともに、高温ガス中に含まれていた二酸化炭素を還元して一酸化炭素に変換することによって、回収される燃料ガスの量を増やし、かつ発熱量を高める。また、加えた木質バイオマスのうち、ガス化しなかった炭素分はダストとともに回収し、ダスト類全体を集めて必要な成型を行い、後工程で加熱して酸化鉄類の還元を行うのに有効利用する。その際に、転炉製鋼工程の本来作業を安定して行うことを阻害しないようにする必要がある。
【0027】
本発明においては、製鉄所に搬送された木質バイオマスを粉砕する。本発明においては加熱によって炭化して固体として残ったものも、ダストとともに捕集して後工程で有効利用されるので、吹き込む木質バイオマス粉粒体のサイズの上限は厳しく制限されないが、1辺3mm以下が望ましい。この粉粒体を搬送するガスとしては、製鋼転炉の排ガスとして回収されたものの1部を利用することが望ましい。その他には空気、窒素ガスなども可能であるが、その場合は生成ガスに窒素分が混入して発熱量を下げるという悪影響を及ぼすので好ましくない。製鋼転炉の高温排ガス中に木質バイオマスの粉粒体を吹き込む位置については、製鋼転炉の内部、あるいは製鋼転炉の上部に設けられた排ガスダクト内が可能である。高温排ガス内に木質バイオマスの粉粒体を吹き込むと水素ガスが発生する。吹き込み位置が製鋼転炉内である場合は、その水素を含んだガスが、転炉上部とダクト下部の間から侵入するおそれがある空気と触れるおそれがあり、最悪の場合はガス爆発の原因になりうる。そのリスクを回避するためには、木質バイオマス粉粒体の吹き込み位置は、製鋼転炉内ではなく、転炉排ガスダクト中であることが望ましい。さらに水素を伴うガスと巻き込まれた空気との混合による爆発の危険を回避するためには、木質バイオマス粉粒体を供給するのは、製鋼転炉の吹錬が定常状態になっている時期が望ましい。そのためには、木質バイオマス粉粒体の吹き込みを行う時期を、転炉吹錬開始3分以後、かつ転炉吹錬終了の2分以前とする。
【0028】
0026の方法で木質バイオマス粉粒体を吹き込まれた製鋼転炉の高温排ガスは、冷却された後、粉塵捕集装置で、燃料用ガスとダストに分離して回収される。湿式法では水によるガス冷却と徐塵を同時に行う。また、乾式法では、間接冷却で500℃以下までの排ガス温度を下げたのち、電気集塵機やバグフィルターで除塵される。そして捕集されたガスは一旦、タンクに貯留されて、エネルギーが必要な所に供給してエネルギーとして利用される。一方、捕集されたダストは、本発明で得られるものは、木質バイオマスに起因する固体炭素分を伴っている。鉄などの酸化物を含む部分と炭素分は分離することなく、必要に応じて固体炭素分をさらに添加して酸化物還元に必要な量として、ペレットやブリケットに成型、加工して、溶鉱炉あるいは他の鉄分還元回収のための加熱装置に送られて処理され、最終的に鉄分として有効に利用される。
【実施例1】
【0029】
集積された樹木を平均径が1cm以上、10cm以下になるように切削、破砕したものを図2のケース1の方式でばい焼した。予熱部は縦型、ばい焼部はキルン型である。原料木質バイオマス(水分含有量45〜55%)の装入速度は、15t/hである。加熱源として木質バイオマスの粉(20kg/分)を燃焼するバーナーで、ばい焼部での木片の最高表面温度は、380〜440℃とした。ばい焼部での滞留時間25分である。排出された処理の木片の重量は、装入時の45%であった。処理後の木片の表層部1cmについては、水分3%、へミセルローズの分解率は98%であった。木片の平均組成としては、平均径が8cmの場合、水分は5%、へミセルローズの分解率は48%であった。また平均径が3cmの場合、水分は4%、へミセルローズの分解率は85%であった。
【実施例2】
【0030】
集積された樹木を平均径が1cm以上、10cm以下になるように切削したものを図2のケース2の方式でばい焼した。予熱部は縦型、ばい焼部はキルン型である。原料木質バイオマス(水分含有量45〜55%)の装入速度は、15t/hである。加熱源はばい焼部で発生してヘミセルローズの分解ガスを燃焼するバーナーで、ばい焼部での木片の最高表面温度は、390〜440℃とした。ばい焼部での滞留時間35分である。排出された処理の木片の重量は、装入時の48%であった。処理後の木片の表層部1cmについては、水分3%、へミセルローズの分解率は98%であった。木片の平均組成としては、平均径が8cmの場合、水分は5%、へミセルローズの分解率は48%であった。また平均径が3cmの場合、水分は4%、へミセルローズの分解率は85%であった。
【実施例3】
【0031】
木質バイオマスの集積地に、ガス化装置装置(流動層型)を設置して、ばい焼後の篩下分が15%、ばい焼前の篩下分が10%、木片化のための破砕処理を受けなかった枝葉分が75%の原料割合で、ガス化して可燃分が一酸化炭素;42%、水素;5%、メタンガス:2%のガスを製造した。これを冷却して脱水分および徐塵した後、燃焼して、1000kWのガスタービン発電装置で用いた。発電効率は22%であった。高温排ガスは集積地内での木質バイオマス原料の乾燥用、および85℃の温水循環によるハウス栽培の温度調整用に利用した。
【実施例4】
【0032】
実施例2の方法で製造されたものから1cm未満のものを分離して、製鉄所に搬送された木片を1次破砕したのち、2mm以下の部分(水分含有量5%)を重量比で1、微粉炭を重量比1の割合で混合したものを酸素冨化率3%で高炉羽口から吹き込んだ。吹きこみ量は80kg/tである。羽口先温度は、木質バイオマスを用いない比較例の場合は2030℃であったのに対して、2010〜2030℃の範囲にあった。
【実施例5】
【0033】
実施例2の方法で製造され製鉄所に搬送された木片を、2mm以下に粉砕した。水分が含有量は5%であった。これを重量比で10、微粉炭を重量比で85、コールタール軟ピッチを重量比5で混合して、ダブルロール成型機にかけて幅43mm、長さ25mm、厚み18mmのマセック型に成型した。これを1000℃で乾留してコ―クスを製造した。得られたコークス強度をJISドラム強度D130/15で測定した結果、比較材(木質バイオマスの配合なし)に比べて、差はプラス1%〜マイナス3%の範囲内にあった。
【実施例6】
【0034】
実施例1の方法で製造されものから1cm未満のものを分離して製鉄所に搬送された木片を粉砕機にかけて平均径が2.5mm以下になるように粉砕した。水分含有量は5%である。製鋼炉は150t規模の上吹き転炉で、溶銑を装入し、純酸素吹錬を始めてから3.5分から、純酸素吹錬を終わる2.5分前の間(すなわち、純酸素吹錬を始めてから3.5分から19.5分の間)、ダクトの下部先端から15cmの位置から水平方向に、上記粉粒体を貯蔵されていた転炉排ガスを搬送ガスとして吹き込んだ。粉粒体供給速度は、80kg/分で吹き込んだ。得られたガスの成分は一酸化炭素が約78%、二酸化炭素が約4%、水素:12%、窒素;5%であった(比較;木質バイオマスを用いない時、一酸化炭素;75%、二酸化炭素;約13%、水素;2%、窒素7%)。また、回収された燃料用ガスの量は、比較ヒートの場合の1.24倍であった。
【実施例7】
【0035】
0033の処理で得られた乾燥後のダストは、酸化鉄分が82%、酸化亜鉛分が3%、炭素分を平均10%含有していた。これに石炭粉を3%加えて、ブリケット化して還元炉での還元鉄製造原料とし、還元鉄を得た。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によって、樹木の炭素吸収能を高いレベルに保つために必要な森林管理によって発生する伐採物と、化石エネルギーを大量に使用している代表的産業である製鉄業を結び付けて、輸送も含めて、地球温暖化抑制に大きく貢献できる。また、供給される木質バイオマスの価格低下、品質向上によって他の産業においても、木質バイオマスの利用拡大を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集積地で木質バイオマスの平均径が1cm以上、10cm以下になるように木片化する第1工程、木片の表層部が350℃以上、450℃以下になるように加熱する第2工程、径が1cmm以上のものを選別して使用する場所に搬送する第3工程、搬送されたものを粉砕して使用する第4工程からなることを特徴とする木質バイオマスの利用方法。
【請求項2】
請求項1において、集積地で発生した径が1cm以下の部分を集めて直接燃焼、あるいはガス化・燃焼法によって電力に変換すること特徴とする木質バイオマスの利用方法。
【請求項3】
請求項1の第4工程を実施する場所が製鉄所であることを特徴とする木質バイオマスの利用方法。
【請求項4】
請求項3において、搬送されてきた木質バイオマス、あるいはそれを1次粉砕したものを篩い分けて3mm以下の部分を、羽口を通して高炉内に吹き込むことを特徴とする木質バイオマスの利用方法。
【請求項5】
請求項3において、搬送されてきた木質バイオマス、あるいはそれを1次粉砕したものの篩い上分を粉砕して、石炭とともに成型して成型体として、コークス炉に装入して乾留することを特徴とする木質バイオマスの利用方法。
【請求項6】
請求項3において、木質バイオマスを粉砕し、製鋼転炉での吹錬中に、生成する高温ガス中に粉粒体を吹き込むことを特徴とする木質バイオマスの利用方法。
【請求項7】
請求項6において、製鋼転炉で木質バイオマスの粉粒体を吹き込む位置が、転炉排ガスダクト中であることを特徴とする木質バイオマスの利用方法
【請求項8】
請求項6乃至請求項7のいずれかに記載の木質バイオマスの利用方法おいて、木質バイオマス粉粒体の吹き込みを行う時期が、転炉吹錬開始3分以後、かつ転炉吹錬終了の2分以前とすることを特徴とする木質バイオマスの利用方法。
【請求項9】
請求項6乃至請求項8のいずれかに記載の木質バイオマスの利用方法おいて、木質バイオマスの粉粒体を吹き込むのに用いる搬送ガスとして、製鋼転炉の排ガスを回収したものの1部を用いることを特徴とする木質バイオマスの利用方法。
【請求項10】
請求項6乃至請求項9のいずれかに記載の木質バイオマスの利用方法おいて、製鋼転炉の排ガスから分離捕集された粉粒体は炭素分を含んだ状態で成形して後工程で加熱処理を行うことを特徴とする木質バイオマスの利用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−143676(P2012−143676A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2193(P2011−2193)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(711000210)
【Fターム(参考)】