説明

木質化粧板の製造方法

【課題】厚いクリア塗膜を有する木質化粧板を、効率的且つ低コストに、しかも高度な意匠性をもって有利に製造し得る方法を提供する。
【解決手段】上型34と下型36との型合わせにより収容部44を形成すると共に、上型34に取り付けられた被塗膜形成材28を収容部44内に収容せしめて、収容部44内に塗膜形成キャビティ62を形成し、その後、注入孔50を通じて、塗膜形成キャビティ62内にクリア塗料70を注入して、塗膜形成キャビティ62内を排出孔52に向かって流動させ、それに伴って、塗膜形成キャビティ62内の空気を排出孔52から外部に排出させつつ、クリア塗料70を塗膜形成キャビティ62内に充填して、硬化せしめることにより、被塗膜形成材28の意匠面24上にクリア塗膜を形成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質化粧板の製造方法に係り、特に、突板を含む化粧シートが基材に固着されてなる木質化粧板の有利な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、木目等の美しい模様を有する突板の表面にて意匠面が形成された化粧シートを基材の表面に固着して、仕上げた木質化粧板は、高級な木質の表面を、手軽に且つ低コストに得ることが出来るところから、自動車用内装部品や家具、建築材、家電製品等の様々な製品の表面材として、広く利用されてきている。そして、そのような木質化粧板においては、一般に、化粧シートの意匠面からなる表面上にクリア塗膜が形成されており、このクリア塗膜によって、木質化粧板の表面(意匠面)の傷付き等が防止され、更には、かかる木質化粧板の表面に光沢や深みが付与されて、高度な意匠性が効果的に発揮されるようになっている。
【0003】
ところで、そのような従来の木質化粧板において、突板の伸縮による表面の荒れを防いだり、また充分な耐候性や耐久性、耐傷付き性等を、クリア塗膜にて確保するには、クリア塗膜の膜厚を0.5〜1.5mm程度とする必要がある。このため、クリア塗膜を、例えばスプレー塗装等によって形成する場合には、そのような厚い膜厚の塗膜を1回の塗装作業で形成するのが困難で、複数回の塗装作業を行なわなければならず、それが極めて面倒であった。しかも、2回目以降の塗装の際には、下地となる塗膜を乾燥し、硬化した塗膜に対して研磨を行なってから、再度、塗装しなければならないところから、クリア塗膜の形成作業、ひいては目的とする木質化粧板の製造作業に要する時間が不可避的に長くなるだけでなく、その製造コストも高くなってしまうという不具合もあった。
【0004】
かかる状況下、上記の問題を解消するために、木質化粧板の製造に際して、所謂型内塗装により、木質化粧板の表面にクリア塗膜を形成することが考えられている。即ち、先ず、可動型と固定型の型合わせ面間に形成される基材成形用キャビティ内に、化粧シートをセットした後、基材成形用キャビティ内に樹脂材料を充填して、化粧シートの突板側とは反対側の非意匠面上に、樹脂基材を一体成形する。これにより、化粧シートの非意匠面に基材が固着された被塗膜形成材を成形する。次いで、可動型を僅かに移動させて、化粧シートの意匠面と可動型の型合わせ面(キャビティ面)との間に隙間を設け、この隙間により塗膜形成キャビティを形成する。その後、かかる塗膜形成キャビティ内にクリア塗料を注入し、これを硬化させる。かくして、化粧板の意匠面上にクリア塗膜を形成するのである。このような型内塗装を利用すれば、厚い膜厚を有するクリア塗膜の形成工程が1工程で済む。しかも、可動型の型合わせ面を鏡面として、それをクリア塗膜の表面に転写させれば、研磨作業を行うことなく、クリア塗膜の表面の鏡面化が可能となる。従って、塗装によりクリア塗膜を形成する場合に比して、大幅な工数低減とコストの削減とが、有利に達成され得るのである。
【0005】
ところが、下記特許文献1等において明らかにされるように、従来の型内塗装に用いられる金型には、基材の成形後に、可動型を移動させて、塗膜形成キャビティを形成するために、可動型と固定型との間に摺動部が設けられており、そして、この摺動部には、僅かなクリアランスが存在している。それ故、塗膜形成キャビティ内にクリア塗料が注入されたときに、可動型と固定型との間の摺動部を通じて、クリア塗料が、塗膜形成キャビティから漏れ出す恐れがあった。このようなクリア塗料の漏出しが生じた際には、漏れ出したクリア塗料が無駄となってしまうだけでなく、漏れ出したクリア塗料を除去するための余分な作業を行わなければならなかった。
【0006】
尤も、このクリア塗料の漏出しは、クリア塗料の粘度を高めることで、ある程度防ぐことが出来る。しかしながら、高粘度のクリア塗料を用いた場合には、例えば、金型の鏡面をクリア塗膜の表面に確実に転写するために、クリア塗料を塗膜形成キャビティ内に高圧で注入しなければならず、そうした際には、やはりクリア塗料の漏出しが生じてしまい、また、高粘度のクリア塗料を型内で硬化させるのに、基材の成形後に移動させられた可動型と固定型とを圧締めする際にも、塗膜形成キャビティ内からのクリア塗料の漏出しが生ずる。しかも、そのように、塗膜形成キャビティ内にクリア塗料を高圧で注入したり、圧締めしたりして、塗膜形成キャビティ内でのクリア塗料の圧力を高めると、突板の意匠面に存在する凹凸が潰れて、最終的に得られる木質化粧板の意匠性が低下するといった問題や、クリア塗料が基材の裏面側に回り込んでしまうといった問題をも惹起される。
【0007】
なお、下記特許文献1に記載されるように、被塗膜形成材を所定の成形金型にて成形した後、かかる成形金型とは別個の金型であって、塗膜形成に専用に使用される塗膜形成用金型を用いて、被塗膜形成材の化粧シートの意匠面に塗膜を形成することも、考えられる。しかしながら、その場合にあっても、塗膜形成用金型の可動型と固定型との間に摺動部が設けられている限り、塗料の漏出しの防止を図ることが難しく、それ故、塗料の漏出しに起因して惹起される数々の問題を解消することも困難であった。
【0008】
尤も、塗膜形成用金型の可動型と固定型のそれぞれの型合わせ面同士が、可動型の移動方向において互いに重ね合わされることで、それら可動型と固定型とが型合わせされるように構成すれば、可動型と固定型との間の摺動部が省略されて、そのような摺動部からのクリア塗料の漏出しが解消され得る。ところが、そうした場合には、塗膜形成キャビティ内へのクリア塗料の注入時に、塗膜形成キャビティ内からの逃げ道を失った空気が、塗膜形成キャビティ内に注入されたクリア塗料内に気泡として残存し、それによって、最終的に得られる木質化粧板の表面に気泡跡が形成される等して、意匠性が大きく損なわれるといった別の新たな問題が生ずる恐れが、極めて高かったのである。
【0009】
【特許文献1】特開平3−27918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、塗膜形成キャビティ内で化粧シートの意匠面上に膜厚の厚いクリア塗膜を形成する際に、塗膜形成キャビティ内からのクリア塗料の漏出しが、クリア塗料の粘度を高めることなく有利に防止され得るだけでなく、塗膜形成キャビティ内に空気が残存することが効果的に解消され、以て、目的とする木質化粧板が、効率的且つ低コストに、しかも高度な意匠性を十分に維持しつつ、有利に製造され得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明にあっては、上記した課題、又は本明細書全体の記載や図面から把握される課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものである。また、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいても、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びに図面に開示の発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0012】
<1> 化粧シートの非意匠面に基材が固着される一方、該化粧シートの意匠面上には、クリア塗膜が形成されてなる木質化粧板を製造する方法であって、(a)前記化粧シートの非意匠面に前記基材が固着された被塗膜形成材を準備する工程と、(b)上下方向において互いに接近乃至離隔可能に配置されて、互いの接近により、水平方向に広がる型合わせ面同士において型合わせされる上型と下型とを有し、且つ該下型の型合わせ面の外周部から内側に入り込んだ部分に凹部が設けられると共に、該上型と該下型のそれぞれの型合わせ面の外周部同士が互いに重ね合わされて、それら上型と下型とが型合わせされることにより、該下型の凹部が閉塞されて、該上型と該下型との間に、前記被塗膜形成材を収容可能な収容部が形成される塗膜形成用型を準備する工程と、(c)該塗膜形成用型における前記下型の凹部の底面に対向する前記上型の部分に対して、前記被塗膜形成材を、前記基材の前記化粧シートへの固着側とは反対側の面において重ね合わせて、取り付けた状態で、該上型と該下型とを型合わせして、該被塗膜形成材と該下型の凹部の内面との間に空隙が形成されるように、該被塗膜形成材を前記収容部内に収容せしめることにより、該収容部内の空隙にて、塗膜形成キャビティを形成し、且つ該塗膜形成キャビティが、該被塗膜形成材の該化粧シートの意匠面と該下型の凹部の底面との間に位置する第一のキャビティ部分と、該第一のキャビティ部分に連通して上下方向に延びる第二のキャビティ部分と、該第一のキャビティ部分に連通して上下方向に延びる、該第一キャビティ部分とは別個の第三のキャビティ部分とを含むようにする工程と、(d)前記収容部に収容された前記被塗膜形成材の化粧シートの意匠面よりも上側に位置する前記下型部分又は前記上型に設けられて、前記第二のキャビティ部分を外部に連通させる注入孔を通じて、クリア塗料を、該第二のキャビティ部分内に注入することにより、該クリア塗料を該第二のキャビティ部分から前記第一のキャビティ部分を通じて、前記第三のキャビティ部分内に流動せしめると共に、該上型に設けられて、該第三のキャビティ部分を外部に連通させる排出孔を通じて、それら第一乃至第三のキャビティ部分内の空気を外部に排出させつつ、該クリア塗料を前記塗膜形成キャビティ内に充填した後、硬化せしめることにより、前記化粧シートの意匠面上に、前記クリア塗膜を形成する工程とを含むことを特徴とする木質化粧板の製造方法。
【0013】
<2> 前記塗膜形成用型の前記上型の下面と前記下型の上面のそれぞれの外周部同士の間に、該上型と該下型の型合わせ状態下で、それら外周部同士の間を液密にシールするシールリングが、前記収容部の周りを取り囲んで配設されている上記態様<1>に記載の木質化粧板の製造方法。
【0014】
<3> 前記クリア塗料が、0.01〜0.2Pa・sの粘度を有している上記態様<1>又は<2>に記載の木質化粧板の製造方法。
【0015】
<4> 前記注入孔が、前記塗膜形成用型の前記上型に対して、該上型を鉛直方向に貫通して延びるように設けられている上記態様<1>乃至<3>のうちの何れか一つに記載の木質化粧板の製造方法。
【0016】
<5> 前記排出孔の前記塗膜形成キャビティ内への開口部が、前記注入孔の該塗膜形成キャビティ内への開口部よりも高い位置に位置せしめられるように、前記塗膜形成用型が傾斜配置された状態で、前記クリア塗料が、該注入孔を通じて、該塗膜形成キャビティ内に充填される上記態様<1>乃至<4>のうちの何れか一つに記載の木質化粧板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
すなわち、本発明に従う木質化粧板の製造方法にあっては、塗膜形成用型の塗膜形成キャビティ内に、クリア塗料を注入して、硬化させることにより、化粧シートの意匠面上にクリア塗膜を形成するようにしたものであるため、従来の型内塗装手法を利用して、クリア塗膜を形成する場合と同様に、膜厚の厚いクリア塗膜の形成工程が1工程で済み、しかも、塗膜形成キャビティのキャビティ面を形成する下型の凹部の内面を、例えば鏡面とすることで、塗膜形成後に研磨加工を行わずして、クリア塗膜の表面の鏡面化が可能となる。かくして、塗装によりクリア塗膜を形成する場合に比して、大幅な工数低減とコストの削減とが、有利に達成され得る。
【0018】
また、本発明手法では、水平方向に広がる上型の型合わせ面と下型の型合わせ面とが、それらの外周部同士において互いに重ね合わされることで、上型と下型とが型合わせされて、被塗膜形成材が収容される収容部が形成されると共に、この収容部内に、塗膜形成キャビティが形成される。そのため、本発明手法において用いられる塗膜形成用型は、従来の型内塗装の実施に際して用いられる塗膜成形用型とは異なって、塗膜形成キャビティを形成するのに上型と下型とを相対的に摺動させる必要がない。そして、それ故に、本発明手法で使用される塗膜形成用型には、上型と下型との間に、それらを摺動させる摺動部分が存在せず、それによって、塗膜形成キャビティ内に注入されたクリア塗料が、そのような摺動部のクリアランスを通じて、塗膜形成キャビティ内から漏れ出すようなことが、有利に皆無ならしめられ得る。その結果、クリア塗料の漏出しによる数々の不具合の発生が未然に防止され得る。しかも、クリア塗料の漏出しを阻止するために、クリア塗料の粘度を高める必要もなくなり、そのため、そのような高粘度のクリア塗料の使用に起因した種々の問題の発生も、効果的に解消され得る。
【0019】
そして、本発明手法においては、特に、被塗膜形成材が化粧シートの意匠面を下型の凹部の底面に対向させた状態で配置されて形成される塗膜形成キャビティ内に、クリア塗料が、注入孔から注入されて、充填される際に、注入孔に連通する第二のキャビティ部分と、第二のキャビティ部分に連通して、化粧シートの意匠面と下型の凹部の底面との間に位置する第一のキャビティ部分と、第一のキャビティ部分と排出孔とを連通させる第三のキャビティ部分の三つのキャビティ部分からなる塗膜形成キャビティ内の空気を、上型に設けられた排出孔に向かって、下から上に押し出しながら、クリア塗料が塗膜形成キャビティ内を流動せしめられる。このため、塗膜形成キャビティ内へのクリア塗料の充填が完了した時点で、塗膜形成キャビティ内の残存空気が、確実に無くされ得る
【0020】
従って、かくの如き本発明に従う木質化粧板の製造方法によれば、突板の伸縮による表面の荒れを防止し、且つ耐候性や耐久性、耐傷付き性等を効果的に確保し得る厚膜のクリア塗膜が化粧シートの意匠面に形成された木質化粧板が、効率的且つ低コストに、しかも高度な意匠性を十分に維持しつつ、有利に製造され得ることとなるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0022】
先ず、図1には、本発明手法に従って製造された木質化粧板の一例として、自動車用内装部品として用いられる木質化粧板10の縦断面形態が、概略的に示されている。図1からも明らかなように、木質化粧板10は、全体として、2.5〜6mm程度の厚さを有する矩形の平板形状を呈しており、その裏面側部分を構成する基材12と、かかる基材12上に固着された化粧シート14と、この化粧シート14の表面に積層形成されて、木質化粧板10の表面側部分や側面側部分を構成するクリア塗膜16とを有して、構成されている。
【0023】
そこにおいて、基材12は、全体として、2〜4mm程度の厚さを有する矩形の平板形状を呈して、例えば、自動車用内装部品の形成材料としてよく用いられるABS樹脂やポリカーボネート/ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ナイロン樹脂、ノリル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の熱可塑性の樹脂材料を用いて形成されている。
【0024】
また、そのような基材12上に固着される化粧シート14は、薄肉の矩形平板形状を呈し、突板18と、この突板18の裏面に積層形成された不織布20と織布22とからなる一体積層品にて、構成されている。そして、かかる化粧シート14の突板18側の板面が、突板18の表面にて与えられる意匠面24とされており、また、この化粧シート14の意匠面24によって、木質化粧板10の意匠面(表面)が構成されている。
【0025】
この化粧シート14の意匠面24を与える突板18には、通常、木質化粧板の突板として一般的に採用されている、スギやヒノキ、ウォールナット、チェリー、メープル、チーク等の木目の美しい木材からなり、且つ表面に、板目や柾目、杢目等の所望の木目が現われた薄い平板が、用いられる。なお、ここで用いられる突板18の厚さは、一般には、0.1〜0.2mm程度とされる。
【0026】
かかる突板18の裏面に積層される不織布20は、0.1〜0.2mm程度の厚さを有して、突板18の裏面の全面に接着されている。この不織布20は、突板18の搬送工程における損傷等を防止すると共に、木質化粧板10の製造後に、突板18が乾燥して、割れ破損や波打ち変形が惹起されることを防ぐ裏打ち層として、突板18の裏面に設けられるものである。従って、そのような裏打ち層としての機能を十分に発揮する織布等の布帛や、クラフト紙や樹脂含浸紙等の紙、或いは樹脂フィルムや金網等を、不織布20に代えて、突板18の裏面に固着しても良い。
【0027】
また、不織布20に積層される織布22は、0.1〜0.2mm程度の厚さを有して、不織布20の突板18側とは反対側の面に、固着されている。この織布22は、突板18を含む化粧シート14の全体を基材12に接合するための接合層として、突板18の裏面に接着された不織布20に接合されるものである。即ち、ここでは、織布22の織り目に所定の樹脂材料が染み込んで固化せしめられており、そのような樹脂材料によるアンカー効果によって、織布22が、樹脂が容易に入り込まない不織布20と樹脂製の基材12の両方に対して確実に接合されるようになっている。かくして、不織布20に接着された突板18が、かかる織布22を介して、基材12に対して十分な接合強度をもって接合され得るようになっているのである。
【0028】
なお、かかる接合層としては、樹脂材料が十分に染み込み得る木質シートや金属繊維が編織されたシート材も用いることが出来る。従って、織布22に代えて、所定の樹脂材料を染み込ませて、固化せしめてなる木質シートや金属繊維シート等を、不織布20に固着させても良い。勿論、それら織布22や木質シート、金属繊維シート等のシート状の接合層を省略して、基材12に対して溶着可能な樹脂層を、接合層として、不織布20の突板18側とは反対側の面に、或いは不織布20を省略して、突板18の裏面に直接に固着させることも可能である。
【0029】
一方、木質化粧板10の表面側部分及び側面側部分を構成するクリア塗膜16は、不飽和ポリエステル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系等のクリア塗料を用いて形成された、硬質の透明樹脂層からなっている。そして、ここでは、クリア塗膜16が、突板18の表面からなる化粧シート14の意匠面24と、化粧シート14及び基材12のそれぞれの幅方向(図1の左右方向)の両側側面17,17とに形成されている。また、図示されてはいないものの、化粧シート14及び基材12のそれぞれの長さ方向(図1の紙面に垂直な方向)の両側側面には、クリア塗膜16が、何等形成されていない。即ち、クリア塗膜16は、突板18の表面形状に対応した平滑な表面形状を有する上壁部16aと、かかる上壁部16aから、化粧シート14及び基材12の幅方向両側の側面17,17を覆うように一体的に延び出して、垂下する左側壁部16bと右側壁部16cとからなっている。また、ここでは、かかるクリア塗膜16の上壁部16aの表面(上面)が、鏡面化されている。
【0030】
このように、木質化粧板10の意匠面となる表面側部分が、硬質の透明樹脂層からなるクリア塗膜16の、鏡面化された表面を有する上壁部16aにて構成されていることにより、木質化粧板10の表面に対して、より十分な光沢感が付与されていると共に、かかる表面の硬度が有利に高められて、木質化粧板10の耐候性や耐久性、耐傷付き性等が効果的に向上せしめられている。
【0031】
クリア塗膜16の膜厚は、特に限定されるものではないものの、上壁部16aと左及び右側壁部16b,16cのそれぞれの厚さが、好ましくは0.5〜1.5mm程度とされる。クリア塗膜16の各壁部16a〜16cの厚さが0.5mm未満とされる場合には、クリア塗膜16にて、突板18の伸縮による、化粧シート14の意匠面24からなる木質化粧板10の表面の荒れを防いだり、耐候性や耐久性、耐傷付き性等を十分に確保することが困難となるからである。また、クリア塗膜16の各壁部16a〜16cの厚さが1.5mmを超える過度に厚い厚さとされる場合には、特に、木質化粧板10の角部や曲線部においてクリア塗膜16の樹脂感が目立ち、木質化粧板10表面の美感が損なわれる恐れがあるからである。
【0032】
ところで、上述せる如き木質化粧板10を製造する際には、例えば、以下に示す如き手順に従って、その作業が進められる。
【0033】
すなわち、先ず、図2に示されるような構造を有する化粧シート14を準備する。この化粧シート14は、突板18の裏面に対して、不織布20と織布22とを、その順番で固着することにより、作製されて、準備されるが、その際には、通常、突板14として、所定の木材から薄くスライスされた後、乾燥処理等の処理が施されたものが、用いられる。また、かかる突板14に対しては、化粧シート14の作製時やその後の作業の進行時において、表面や裏面から気泡が発生しないように、乾燥処理後に、減圧又は加圧下で、フェノール樹脂やメラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂を含浸せしめる含浸処理が施されることが、望ましい。更に、好ましくは、突板14に対して、その色調を整えるために、染料や顔料による着色処理が実施されて、突板14の表面上に着色層が形成される。
【0034】
そして、そのような突板18の裏面の全面に対して、不織布20が、例えば、ウレタン樹脂系接着剤や、メラミン樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、尿素系接着剤等の公知の接着剤等を用いて接着される。また、その一方で、それらの接着剤と同様な接着剤等を用いて、不織布20の突板18側とは反対側の面の全面に対して、織布22が接着される。なお、かかる不織布20は、その織り目に染み込んで固化せしめられた、例えば、ウレタン樹脂等によるアンカー効果によって、突板18や織布22に対して、より強固に接合される。かくして、突板18と不織布20と織布22の一体積層品からなる化粧シート14が、作製されることとなる。
【0035】
次に、図3に示されるように、準備された化粧シート14の意匠面24とは反対側の裏面からなる非意匠面26に、基材12が固着されてなる被塗膜形成材28を、準備する。この被塗膜形成材28は、例えば、化粧シート14をインサート品として用いた、公知のインサート射出成形等を実施して、化粧シート14の非意匠面26上に、例えばABS樹脂製の基材12を一体成形することにより、容易に作製され得る。そして、ここでは、化粧シート14の非意匠面26に固着された基材12の化粧シート14側とは反対側の面に対して、公知の手法により、雌ねじ穴30が、複数個形成される。
【0036】
なお、上記の如きインサート射出成形等による化粧シート14と基材12の一体成形によって被塗膜形成材28を作製した場合には、必要に応じて、作製された被塗膜形成材28を用いて、突板18と樹脂製の基材12との成形収縮率の違いに起因した被塗膜形成材28の反り変形を緩和するための作業を実施する。例えば、被塗膜形成材28が正寸となるように、その形状を矯正するための矯正治具を被塗膜形成材28に取り付けた後、それらを80℃で30分間程度加熱して、被塗膜形成材28の内部応力を緩和する作業を行う。それによって、被塗膜形成材28の反り変形を解消乃至は緩和するのである。このような作業を、被塗膜形成材28にクリア塗膜16を形成する前に行うことで、目的とする木質化粧板10が、所望の形状と高い寸法精度をもって、有利に得られることとなる。
【0037】
また、被塗膜形成材28の作製手法は、上記のものに何等限定されるものではなく、例えば、化粧シート14をインサート品として用いない射出成形等の一般的な成形手法により、基材12を成形した後、この基材12に対して、化粧シート14を後接着により接着して、被塗膜形成材28を作製する手法も、採用可能である。このような被塗膜形成材28の作製手法としては、具体的には、化粧シート14として、織布22が省略されて、突板18と不織布20とのみからなるものを用いて、この化粧シート14の不織布20の突板18側とは反対側の面に所定の接着剤層を設け、その後、別途に成形された基材12を、化粧シート14に対して真空プレスにより圧着する方法等が、例示され得る。また、かくの如き後接着による化粧シート14の基材12への接着により、被塗膜形成材28を作製する場合には、基材12を化粧シート14に接着する前に、基材12に対して雌ねじ穴30を設けることも、勿論可能である。
【0038】
かくして被塗膜形成材28が準備されたら、この被塗膜形成材28における化粧シート14の意匠面24上に、クリア塗膜16を形成するのであるが、その際には、例えば、図4に示される如き構造を有する塗膜形成用型32が用いられる。
【0039】
ここで用いられる塗膜形成用型32は、図4から明らかなように、上下方向において互いに対向配置された上型34と下型36とを有している。下型36は、図示しない固定板に取り付けられて、位置固定とされている。上型34は、図示しない油圧機構等により上下方向に移動可能とされた可動板に取り付けられ、かかる可動板の上下動に伴って、下型36に対して接近乃至離隔せしめられるようになっている。
【0040】
そして、下型36の水平方向に広がる上面が、上型34に対する型合わせ面38とされて、この型合わせ面38の外周部から内側に入り込んだ部分、即ち、型合わせ面38の中央部に対して、凹部40が、上方に向かって開口するように設けられている。この凹部40は、被塗膜形成材28の幅(図3の左右方向の寸法)よりも所定寸法大きな幅(図4の左右方向の寸法)と、被塗膜形成材28の長さ(図3の紙面に垂直な方向の寸法)と略同一の長さ(図4の紙面に垂直な方向の寸法)を有する底面42と、被塗膜形成材28の厚さよりも所定寸法大きな高さを有する四つの側面43,43(図4には、二つのみを示す)とを備えた矩形形状を呈し、全体として、被塗膜形成材28よりも一周り大きく、被塗膜形成材28を収容可能な大きさを有している(図6参照)。一方、上型34は、水平方向に広がる下面が、型合わせ面35とされている。この上型34の型合わせ面35は、下型34の凹部40の開口面積よりも大きな面積を有する平坦面とされている。
【0041】
かくして、塗膜形成用型32においては、上型34が、下方に向かって移動せしめられて、下型36に接近させられることにより、上型34と下型36のそれぞれの型合わせ面35,38の外周部同士が互いに重ね合わされて、上型34と下型36とが型合わせされ、また、そのような型合わせ状態下で、下型36の凹部40が、上型34にて閉塞せしめられるようになっている。そして、型合わせされた上型34と下型36との間に、被塗装形成材28が収容可能な収容部44が、下型36の凹部40の底面42及び各側面43と、かかる凹部40の底面42と対向位置せしめられた上型34の型合わせ面35の中央部とにて囲まれて、形成されるようになっているのである。
【0042】
なお、ここでは、下型36の凹部40の底面42が、公知の手法により研磨されて、鏡面化されている。また、かかる凹部40の内面(底面42及び各側面43)の全面には、必要に応じて、クロムめっきやニッケルめっき、タングステン・ニッケル合金めっき等のめっき処理や、テフロン(登録商標)コーティング等が施される。これによって、収容部44内で形成される、後述する中間製品の塗膜形成用型32からの離型性が、有利に高められ得る。
【0043】
また、かかる塗膜形成用型32の上型34の幅方向(図4中左右方向)の一方側の端部には、注入孔50が、その他方側の端部には、排出孔52が、それぞれ一つずつ設けられている。それら注入孔50と排出孔52は、何れも、上型34の幅方向端部を鉛直方向に貫通して、真っ直ぐに延びる貫通孔54と、上型34の型合わせ面35において開口し、且つ貫通孔54の下部開口側の内周面の周上の一箇所から上型34の中央部に向かって延びる溝部56とからなり、上型34と下型36との型合わせによって形成される収容部44を外部に連通させ得る構造とされている。更に、上型34の注入孔50と排出孔52との間に位置する幅方向中央部には、ボルト挿通孔58が、かかる中央部を上下方向に貫通して、複数(ここでは、2個)設けられている。
【0044】
そして、かくの如き構造とされた塗膜成形用型32を用いて、被塗膜形成材28の化粧シート14の意匠面24上に、クリア塗膜16を形成する際には、図5に示されるように、先ず、塗膜形成用型32の型開き状態下で、被塗膜形成材28を、上型34の型合わせ面35の中央部に対して、基材12の化粧シート14への固着側とは反対側の裏面において重ね合わせる。また、かかる重合せ状態下で、上型34の二つのボルト挿通孔58,58にそれぞれ挿通された取付ボルト60,60を、被塗膜形成材28の裏面に設けられた二つの雌ねじ穴30,30にそれぞれ螺入し、それによって、被塗膜形成材28を、上型34の型合わせ面35の中央部に対して、取り外し可能に取り付ける。
【0045】
次いで、図6に示されるように、上型34と下型36とを型合わせして、それら上型34と下型36との間に、下型36の凹部40が上型34にて閉塞されてなる収容部44を形成すると共に、かかる収容部44内に、上型34の型合わせ面35に取り付けられた被塗膜形成材28を収容せしめる。
【0046】
このとき、凹部40が被塗膜形成材28よりも一周り大きくされているため、被塗膜形成材28と凹部40の内面との間に空隙が存在せしめられ、この空隙によって、塗膜形成キャビティ62が形成される。また、凹部40の底面42と各側面43とが上記せるような寸法とされているところから、塗膜形成キャビティ62が、化粧シート14の意匠面24と凹部40の底面42との間に存在する空隙部分からなる第一のキャビティ部分64とと、被塗膜形成材28の幅方向(図4中左右方向)両側に位置する二つの側面17,17と凹部40の二つの側面43,43の互いに対向するもの同士の間に存在する空隙部分からなる第二及び第三のキャビティ部分66,68とを含んで構成される。そして、第二のキャビティ部分66は、上型34に設けられた注入孔50を通じて外部に連通せしめられ、また、第三のキャビティ部分68は、上型34に設けられた排出孔52を通じて外部に連通せしめられる。
【0047】
つまり、被塗膜形成材28が取り付けられた上型34と下型36との型合わせによって、塗膜形成用型32内に形成される塗膜形成キャビティ62は、全体として、コ字形状を呈しており、注入孔50に連通して、被塗膜形成材28の幅方向一方の側面17に沿って上下方向に延びる第二のキャビティ部分66と、収容部44内の下側部分において、第二のキャビティ部分66と連通して、化粧シート14の意匠面24と凹部40の底面42との間に水平方向に広がる第一のキャビティ部分64と、この第一のキャビティ部分64と排出孔52とを連通して、被塗膜形成材28の幅方向他方の側面17に沿って上下方向に延びる第三のキャビティ部分68とからなっている。そして、このような塗膜形成キャビティ62の第一のキャビティ部分64が、クリア塗膜16の上壁部16aに対応した形状とされている一方、第二のキャビティ部分66が、クリア塗膜16の左側壁部16bに対応した形状とされ、更に、第三のキャビティ部分68が、クリア塗膜16の右側壁部16cに対応した形状とされている。なお、図示されてはいないものの、ここでは、被塗膜形成材28の長さと凹部40の底面42の長さとが略同一の寸法とされているため、被塗膜形成材28の収容部44内への収容状態下で、被塗膜形成材28の長さ方向両側の側面が、凹部40の長さ方向の両側に位置する二つの側面と接触している。それ故、それら被塗膜形成材28の長さ方向両側の側面と凹部40の長さ方向両側の側面との間には、空隙が形成されない。
【0048】
その後、図7に示されるように、例えば、不飽和ポリエステル樹脂系のクリア塗料70を、注入孔50を通じて、塗膜形成キャビティ62内に注入する。このとき、注入孔50の貫通孔54と溝部56とが、それぞれ、スプルーとゲートの役割を果たす。そして、塗膜形成キャビティ62内に注入されたクリア塗料70は、図7に矢印で示されるように、塗膜形成キャビティ62内を、第二のキャビティ部分66から第一のキャビティ部分62を経て、第三のキャビティ部分68に向かって流動せしめられる。また、そのような塗膜形成キャビティ62内でのクリア塗料70の流動に伴って、第二のキャビティ部分66内と第一のキャビティ部分64内の空気が、クリア塗料70にて押し出される。特に、空気は、クリア塗料70よりも比重が小さい。そのため、第二のキャビティ部分64内の空気は、気泡となって、被塗膜形成材28の化粧シート14の意匠面24に付着する状態で、第二のキャビティ部分64内に止まり易い。しかしながら、そのような第二のキャビティ部分64内の気泡も、クリア塗料70の第一のキャビティ部分64から第三のキャビティ部分68への流れによって、第三のキャビティ部分68内にスムーズに押し出される。そして、それら第一及び第二のキャビティ部分64,66内から押し出された空気は、第三のキャビティ部分68の未だクリア塗料70で満たされていない空隙部分に集められる。
【0049】
引き続き、図8に示されるように、クリア塗料70を、排出孔52から溢れ出す程度まで、塗膜形成キャビティ62内に更に注入して、塗膜形成キャビティ62内をクリア塗料70にて充満させる。
【0050】
このとき、第三のキャビティ部分68に集められた塗膜形成キャビティ62内の空気は、排出孔52を通じて、外部に排出される。これによって、塗膜形成キャビティ62内へのクリア塗料70の充填完了時点で、塗膜形成キャビティ62内の残存空気が、有利に無くされ得る。
【0051】
また、本工程では、上型34の下面からなる型合わせ面35と下型36の上面からなる型合わせ面38とが、上下方向に重ね合わされ、且つ図示しない型締装置により強く圧接されて、上型34と下型36とが型合わせされた状態で、塗膜形成キャビティ62内に、クリア塗料70が注入される。このため、上型34と下型36のそれぞれの型合わせ面35,38間に、上型34と下型36の型合わせに際して互いに摺動せしめられる、適当なクリアランスを備えた摺動部分が何等存在せず、それによって、そのような摺動部分を通じて、クリア塗料70が、塗膜形成キャビティ62内から漏れ出すようなことが効果的に皆無ならしめられ得る。
【0052】
そして、それ故、ここでは、塗膜形成キャビティ62内からのクリア塗料70の漏出しを防ぐために、高粘度のクリア塗料70を用いる必要がなく、クリア塗料70として、粘度の低い、流動性に優れたものが使用可能となっている。従って、高粘度のクリア塗料70を用いた際に、それを加圧しつつ、塗膜形成キャビティ62内に充填する場合や、従来の型内塗装にように、一旦、隙間を形成するように僅かに型開きした上型34と下型36とを圧締めする場合とは異なって、塗膜形成キャビティ62内に注入されたクリア塗料70が、上型34の型合わせ面35と被塗膜形成材28との間に浸入するようなことや、クリア塗料70の充填による塗膜形成キャビティ62の内圧の著しい上昇により、被塗膜形成材28の化粧シート14の突板18表面に存在する凹凸が潰れてしまうようなこと、更には、上型34と下型36の互いの型合わせ面35,38間からのクリア塗料70の漏れ出すことが、何れも有利に回避され得る。
【0053】
なお、本工程で使用されるクリア塗料70の粘度は、特に限定されるものではないが、好適には、0.01〜0.2Pa・sの範囲内の値ものが使用される。何故なら、0.01Pa・sよりも低い粘度を有するクリア塗料70を用いた場合、余りに粘度が低いために、上型34と下型36の互いの型合わせ面35,38が互いに重ね合わされて、強く圧接されているにも拘わらず、クリア塗料70が、それらの型合わせ面35,38間から塗膜形成キャビティ62の外部に漏れ出したり、上型34の型合わせ面35と被塗膜形成材28との間に浸入したりする恐れがあるからである。また、0.2Pa・sを超える高い粘度を有するクリア塗料70を用いた場合には、かかるクリア塗料70を塗膜形成キャビティ62内にスムーズに充填するために、クリア塗料70を加圧しつつ、塗膜形成キャビティ62内に充填する必要が生じ、それによって、作業コストの高騰や上記せる如き数々の問題が惹起される恐れがあるからである。従って、クリア塗料70の粘度は、上型34と下型36の互いの型合わせ面35,38からの漏出しや、上型34の型合わせ面35と被塗膜形成材28との間への浸入が発生しない程度の値よりも高く、且つ加圧して、塗膜形成キャビティ62のキャビティ面(凹部40の底面42)に押し付けなければ、かかるキャビティ面の鏡面等が転写出来ない程には高くない値とされていることが、望ましいのである。
【0054】
そして、塗膜形成キャビティ62内にクリア塗料70が充填されたら、かかるクリア塗料70を塗膜形成用型32と共に加熱する等、クリア塗料70の硬化に必要な作業を実施し、塗膜形成キャビティ62内のクリア塗料70を硬化させて、図9に示されるように、クリア塗膜16を形成する。かくして、第二及び第三のキャビティ部分66,68内で、被塗膜形成材28の幅方向両側の側面17,17に対して、クリア塗膜16の左側壁部16b及び右側壁部16cとを一体形成すると共に、第一のキャビティ部分64内で、被塗膜形成材28の化粧シート14の意匠面24に対して、クリア塗膜16の上壁部16aを一体形成する。それによって、塗膜形成用型32内で、被塗膜形成材28にクリア塗膜16が一体形成されてなる中間製品72を得るのである。
【0055】
本工程では、前記のような低粘度のクリア塗料70が使用されているため、第一のキャビティ部分64内で、クリア塗料70の自重により、下型36の凹部40の底面42の鏡面が、クリア塗膜16の上壁部16aの化粧シート14側とは反対側の面に対して確実に転写され、以て、表面が鏡面とされた上壁部16aが、容易に形成されることとなる。
【0056】
その後、中間製品72を塗膜形成用型32内から取り出した後、上型34の注入孔50内や排出孔52内で硬化せしめられた硬化物を除去する。以て、図1に示される如き構造を有する、目的とする木質化粧板10を得るのである。
【0057】
なお、このようなクリア塗料70の硬化工程に先立って行われる、クリア塗料70の塗膜形成キャビティ62内への注入工程では、場合によって、第二のキャビティ部分66や第三のキャビティ部分68内の空気が、注入孔50や排出孔52の溝部56の底面に、気泡として付着して残ることも考えられる。しかしながら、上記のように、溝部56内に満たされたクリア塗料70の硬化物は、クリア塗膜16から除去される。そのため、たとえ、溝部56内に空気が残存していても、それが、クリア塗料70の硬化によって形成されるクリア塗膜16の外観に悪影響を及ぼすようなことなない。
【0058】
また、そのようなクリア塗料70の硬化物が形成される注入孔50と排出孔52とが、それぞれ、上型34を鉛直方向に貫通して延びる貫通孔54と、上型34の下面からなる型合わせ面35において開口する溝部56とからなっているため、上型34と下型36とが、上下方向に互いに離間して、型開きされる際に、上型34と下型36のスムーズな型開きが、注入孔50と排出孔52内の硬化物によって阻害されることがない。更に、それら注入孔50と排出孔52内からの硬化物の除去作業も容易となっている。
【0059】
このように、本実施形態では、塗膜形成用型32に設けられた塗膜形成キャビティ62内に、クリア塗料70を充填して、硬化させる唯1回の形成作業を行うだけで、膜厚の厚いクリア塗膜16が形成される。しかも、クリア塗膜16の形成後に研磨加工等を何等行うことなく、クリア塗膜16の上壁部16aの表面の鏡面化が可能となる。従って、例えば、一般的な塗装作業により、被塗膜形成材28にクリア塗膜16を形成して、目的とする木質化粧板10を得る場合に比して、木質化粧板10の製造に必要な工数とコストとが、大幅に削減され得るのである。
【0060】
また、本実施形態においては、塗膜形成キャビティ62内へのクリア塗料70の充填に際して、クリア塗料70が、塗膜形成キャビティ62内から漏れ出すことが有利に防止されている。それ故、目的とする木質化粧板10の裏面等が、漏れ出したクリア塗料70の硬化物で汚れたりするようなことがなく、また、そのような硬化物を除去するための面倒な作業を行うことも、有利に解消され得る。
【0061】
しかも、本実施形態では、クリア塗料70の漏出しが防止されていることで、かかるクリア塗料70として、粘度の低いものの使用が可能となっており、以て、高粘度のクリア塗料70を用いることによって数々の問題が生ずることが、未然に阻止され得る。
【0062】
そして、本実施形態においては、特に、塗膜形成キャビティ62内へのクリア塗料70の充填時に、塗膜形成キャビティ62内に、空気が気泡等として残存することが有利に回避され得る。それによって、最終的に得られる木質化粧板10の表面を覆うクリア塗膜16に気泡跡等が形成されて、意匠性が低下するようなことが、極めて効果的に防止され得る。
【0063】
従って、かくの如き本実施形態によれば、突板18の伸縮による表面の荒れを防止し、且つ耐候性や耐久性、耐傷付き性等を効果的に確保し得る厚膜のクリア塗膜16が化粧シート14の意匠面24に形成された木質化粧板10が、効率的且つ低コストに、しかも高度な意匠性を十分に維持しつつ、有利に製造され得ることとなるのである。
【0064】
また、本実施形態では、注入孔50と排出孔52とが、上型34に設けられて、被塗膜形成材28の意匠面24とは異なる側面17,17に沿って延びる第二及び第三のキャビティ部分66,68内に向かって開口せしめられている。それ故、それら注入孔50内と排出孔52内で硬化せしめられる硬化物の除去によって、最終的に得られる木質化粧板10の意匠性が損なわれることも、有利に防止され得る。
【0065】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0066】
例えば、図10に示される如く、排出孔52の塗膜形成用キャビティ62(第三のキャビティ部分68)内への開口部が、注入孔50の塗膜形成キャビティ62(第二のキャビティ部分66)内への開口部よりも高い位置に位置せしめられるように、塗膜形成用型32を傾斜配置した状態で、クリア塗料70を注入孔50から塗膜形成キャビティ62内に注入して、充填しても良い。このような塗膜形成用型32の傾斜配置状態は、例えば、下型36の下方に、適当な台座74を設置することにより、容易に実現出来る。そして、かくの如くして、クリア塗料70の塗膜形成キャビティ62内への充填と行うことにより、塗膜形成キャビティ62内でのクリア塗料70の流動に伴って、かかる塗膜形成キャビティ62の第一及び第二のキャビティ部分64,66内の空気が、第三のキャビティ部分68内に向かって、より確実に押し出されるように集められて、排出孔52を通じて、更に効果的に外部に排出され得る。従って、目的とする木質化粧板10が、より良好な意匠性をもって、より一層有利に製造され得ることとなる。
【0067】
また、図10に示されるように、上型34の型合わせ面35と下型36の型合わせ面38のそれぞれの外周部同士の間に、上型34と下型36の型合わせ状態下で、それら外周部同士の間を液密にシールするシールリング76を、収容部44の周りを取り囲んで位置するように配設しても良い。これによって、上型34と下型36のそれぞれの型合わせ面35,38間からのクリア塗料70の漏出しが、より効果的に防止され得る。なお、かかるシールリングの材質は、何等限定されるものではないものの、例えば、シリコーン樹脂やテフロン(登録商標)等を用いて形成された、耐熱性を備えた弾性変形可能なシールリングが、好適に用いられる。
【0068】
さらに、例えば、排出孔52を、図示しない吸引装置に接続して、塗膜形成キャビティ62内の真空引きを行いながら、或いは真空引きした後、塗膜形成キャビティ62内に、クリア塗料70を充填しても良い。これによって、クリア塗料70が充填された塗膜形成キャビティ62内に空気が残存することが完全に解消され得る。
【0069】
塗膜形成キャビティ62内に注入されるクリア塗料70が、上型34の型合わせ面35と被塗膜形成材28との間に浸入せず、且つ上型34と下型36のそれぞれの型合わせ面35,38間から漏れ出さない程度の圧力であれば、クリア塗料70を、所定の注入機により加圧注入することも許容され得る。これによって、塗膜形成キャビティ62内へのクリア塗料70の注入速度を上昇させることが出来、以て、クリア塗膜16の形成作業、ひいては目的とする木質化粧板10の形成作業の短縮化が、有利に図られ得る。
【0070】
基材12は、例示された樹脂製のものに特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウムやステンレス等の金属材料やセラミックス材料等の樹脂材料以外の材料からなるものであっても、何等差し支えない。勿論、それら樹脂材料以外の材料にて、基材12が形成される場合には、かかる基材12に対して化粧シート14を固着する方法として、化粧シート14とは別途に形成された基材12に対して、化粧シート14を後接着により接着する方法が、採用される。
【0071】
注入孔50と排出孔52は、何れも、配設個数が、1個であっても、複数個であっても良い。但し、塗膜形成キャビティ62内にクリア塗料70が充填された状態で、かかる塗膜形成キャビティ62内の空気が確実に排出され得るように為すために、排出孔52は、上型34に設けられている必要がある。一方、注入孔50は、木質化粧板10の側面が意匠面とされていない限りにおいては、下型36に設けられていても良い。しかしながら、木質化粧板10の意匠面は、化粧シート14の意匠面24にて与えられるものであるところから、注入孔50は、下型36に設けられる場合にあっても、化粧シート14の意匠面24よりも上側において、塗膜形成キャビティ62内に向かって開口するように位置せしめられていなければならない。
【0072】
前記実施形態では、注入孔50に連通する第二のキャビティ部分66と排出孔52に連通する第三のキャビティ部分68とが、被塗膜形成材28の幅方向の両側に位置する二つの側面17,17に沿って上下方向に延びるように形成されており、被塗膜形成材28の長さ方向両側に位置する二つの側面と、それに対応する凹部40の二つの側面との間には、空隙部分が何等形成されていなかった。しかしながら、それら被塗膜形成材28の長さ方向両側に位置する二つの側面と、それに対応する凹部40の二つの側面との間にも空隙部分を設けて、それらの空隙部分を注入孔50に連通する第二のキャビティ部分66、又は排出孔52に連通する第三のキャビティ部分68としても良い。
【0073】
被塗膜形成材28や木質化粧板10の全体形状も、例示の平板形状に、決して限定されるものではなく、例えば、湾曲板形状や筐体形状等、平板形状以外の形状であっても良い。そして、被塗膜形成材28の全体形状等に応じて、塗膜形成キャビティ62の形状も、適宜に変更されることとなる。また、塗膜形成キャビティ62の形状や、化粧シート14の意匠面24の形状及び配置位置等に応じて、第一乃至第三のキャビティ部分64,66,68の形状や配置位置等も、適宜に変更される。
【0074】
被塗膜形成材28の上型34への取付構造も、例示のものに、何等限定されるものではなく、ボルト止め以外の公知の様々な取付構造が適宜に採用され得る。そして、その中でも、被塗膜形成材28を上型34に密接させ得る構造が、有利に採用される。
【0075】
加えて、前記実施形態では、本発明を、自動車用内装部品として用いられる木質化粧板の製造方法に適用したものの具体例を示したが、本発明は、その他、自動車用内装部品以外に用いられる各種の木質化粧板の製造方法の何れに対しても、それぞれ有利に適用されるものであることは、勿論である。
【0076】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、各種の形態において実施され得るものである。従って、当業者の知識に基づいて採用される本発明についての種々なる変更、修正、改良に係る各種の実施の形態が、何れも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、本発明の範疇に属するものであることが、理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明手法に従って製造された木質化粧板の一例を示す縦断面説明図である。
【図2】図1に示された木質化粧板が有する化粧シートの縦断面説明図である。
【図3】図1に示された木質化粧板が有する被塗膜形成材の縦断面説明図である。
【図4】図1に示された木質化粧板を製造する際に用いられる塗膜形成用型の縦断面説明図である。
【図5】本発明手法に従って、図1に示された木質化粧板を製造する際に実施される工程の一例を示す説明図であって、塗膜形成用型の型開き状態下で、上型に被塗膜形成材を取り付けた状態を示している。
【図6】図5に示された工程に引き続いて実施される一工程例を示す説明図であって、塗膜形成用型を型合わせして、上型と下型との間に、被塗膜形成材が収容された収容部を形成すると共に、かかる収容部内に塗膜形成キャビティを形成した状態を示している。
【図7】図6に示された工程に引き続いて実施される一工程例を示す説明図であって、塗膜形成キャビティ内にクリア塗料を注入している状態を示している。
【図8】図7に示された工程に引き続いて実施される一工程例を示す説明図であって、塗膜形成キャビティ内にクリア塗料を充填した状態を示している。
【図9】図8に示された工程に引き続いて実施される一工程例を示す説明図であって、塗膜形成キャビティ内に充填されたクリア塗料を硬化せしめて、中間製品を形成した状態を示している。
【図10】本発明手法に従って、図1に示された木質化粧板を製造する際に、塗膜形成キャビティ内にクリア塗料を、図7に示される方法とは別の方法で充填する工程例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0078】
10 木質化粧板 12 基材
14 化粧シート 16 クリア塗膜
18 突板 24 意匠面
28 被塗膜形成材 32 塗膜形成用型
34 上型 35,38 型合わせ面
36 下型 40 凹部
44 収容部 50 注入孔
52 排出孔 62 塗膜形成キャビティ
64 第一のキャビティ部分 66 第二のキャビティ部分
68 第三のキャビティ部分 70 クリア塗料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧シートの非意匠面に基材が固着される一方、該化粧シートの意匠面上には、クリア塗膜が形成されてなる木質化粧板を製造する方法であって、
前記化粧シートの非意匠面に前記基材が固着された被塗膜形成材を準備する工程と、
上下方向において互いに接近乃至離隔可能に配置されて、互いの接近により、水平方向に広がる型合わせ面同士において型合わせされる上型と下型とを有し、且つ該下型の型合わせ面の外周部から内側に入り込んだ部分に凹部が設けられると共に、該上型と該下型のそれぞれの型合わせ面の外周部同士が互いに重ね合わされて、それら上型と下型とが型合わせされることにより、該下型の凹部が閉塞されて、該上型と該下型との間に、前記被塗膜形成材を収容可能な収容部が形成される塗膜形成用型を準備する工程と、
該塗膜形成用型における前記下型の凹部の底面に対向する前記上型の部分に対して、前記被塗膜形成材を、前記基材の前記化粧シートへの固着側とは反対側の面において重ね合わせて、取り付けた状態で、該上型と該下型とを型合わせして、該被塗膜形成材と該下型の凹部の内面との間に空隙が形成されるように、該被塗膜形成材を前記収容部内に収容せしめることにより、該収容部内の空隙にて、塗膜形成キャビティを形成し、且つ該塗膜形成キャビティが、該被塗膜形成材の該化粧シートの意匠面と該下型の凹部の底面との間に位置する第一のキャビティ部分と、該第一のキャビティ部分に連通して上下方向に延びる第二のキャビティ部分と、該第一のキャビティ部分に連通して上下方向に延びる、該第一キャビティ部分とは別個の第三のキャビティ部分とを含むようにする工程と、
前記収容部に収容された前記被塗膜形成材の化粧シートの意匠面よりも上側に位置する前記下型部分又は前記上型に設けられて、前記第二のキャビティ部分を外部に連通させる注入孔を通じて、クリア塗料を、該第二のキャビティ部分内に注入することにより、該クリア塗料を該第二のキャビティ部分から前記第一のキャビティ部分を通じて、前記第三のキャビティ部分内に流動せしめると共に、該上型に設けられて、該第三のキャビティ部分を外部に連通させる排出孔を通じて、それら第一乃至第三のキャビティ部分内の空気を外部に排出させつつ、該クリア塗料を前記塗膜形成キャビティ内に充填した後、硬化せしめることにより、前記化粧シートの意匠面上に、前記クリア塗膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする木質化粧板の製造方法。
【請求項2】
前記塗膜形成用型の前記上型の型合わせ面と前記下型の型合わせ面のそれぞれの外周部同士の間に、該上型と該下型の型合わせ状態下で、それら外周部同士の間を液密にシールするシールリングが、前記収容部の周りを取り囲んで配設されている請求項1に記載の木質化粧板の製造方法。
【請求項3】
前記クリア塗料が、0.01〜0.2Pa・sの粘度を有している請求項1又は請求項2に記載の木質化粧板の製造方法。
【請求項4】
前記注入孔が、前記塗膜形成用型の前記上型に対して、該上型を鉛直方向に貫通して延びるように設けられている請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の木質化粧板の製造方法。
【請求項5】
前記排出孔の前記塗膜形成用キャビティ内への開口部が、前記注入孔の該塗膜形成キャビティ内への開口部よりも高い位置に位置せしめられるように、前記塗膜形成用型が傾斜配置された状態で、前記クリア塗料が、該注入孔を通じて、該塗膜形成キャビティ内に充填される請求項1乃至請求項4のうちの何れか1項に記載の木質化粧板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−110937(P2010−110937A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283863(P2008−283863)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】