説明

木質系炭化物を主原料とする不燃成形建材

【課題】長期持続的なホルムアルデヒドの吸着能を有し、かつ不燃性と強度の優れた成形建材を提供する。
【解決手段】木質系炭化物粉末に、水酸化カルシウム粉末と必要に応じてバインダーを添加し、これらを混合して加圧成形した後、前記水酸化カルシウムの炭酸化処理を施して製造された建材であって、前記木質系炭化物100重量部対する水酸化カルシウムの添加量を100重量部以上とし、かつ前記木質系炭化物粉末として、少なくともその3分の1以上が、最高温度1000℃以上の高温炭化処理で製造されたものを用いる。また、これに吸着されたホルムアルデヒドの酸化を促進するための酸化助剤として、酸化チタン及び/又は白金を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木炭、竹炭、もみ殻炭等の木質系炭化物の粉末を加圧成形した建築用資材に関し、特に持続的にホルムアルデヒドを吸着する特性を有するため、内装材として用いるのに好適であり、かつ高い難燃性を有するために、公共施設等の耐火性基準の厳しい建造物においても使用可能な成形建材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木質系資源を利用する方法として、例えば炭にする方法が一般に行われている。この炭は、水質浄化用や土壌の改良材或いは家畜などの臭気除去などに用いられる。しかし、かかる用途の炭は、必ずしも付加価値の高い商品とはみなされず、原料の収集や炭化の費用に見合うだけの価格に評価されない場合が多い。
【0003】
このため、より付加価値の高い炭の利用方法として、炭に消臭、調湿、電磁波遮蔽等の効果があることから、その粉末を成形して建築資材の一部として利用することが試みられている。とくに、炭がシックハウス症候群の原因とされるホルムアルデヒド等の有害物質を吸収することは従来からよく知られており、室内空気清浄化を目的として、炭を建材の一部として利用する方法が種々検討されている。
【0004】
かかる目的で炭の粉末を成形する場合に、揮発性有機物を発生するバインダーを用いることは好ましくないので、その成形方法についても検討されている。例えば、木炭と石膏の粉末を混合して成形する方法(下記特許文献1など)や、天然繊維を利用して木炭粉末を成形する方法(下記特許文献2など)などが開示されている。
【0005】
また、炭の粉末を成形したボード等を建築資材として利用した場合に、使用開始時(新築時)は有害物質を吸着する性能は高いが、短期間で吸着飽和が起きて、ホルムアルデヒド等の有害物質の除去性能が著しく低下してしまうことが考えられる。通常の吸着剤は、吸着性能が劣化したら交換又は再生することができるが、成形建材として用いた炭は交換や再生をすることができない。
そこで、本発明者らは、ホルムアルデヒドが空気中の酸素により蟻酸に酸化されることを利用して、上述のような吸着飽和の問題を解決することに着眼し、ある特性を有する炭を原料として成形することにより、長期持続的にホルムアルデヒドの吸着性能を維持することのできる成形建材を先に提案した(特願2005−198289)。
【0006】
【特許文献1】特開平11−293841号公報
【特許文献2】特開2001−130962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炭の粉末を成形したボード等を建築資材として利用した場合に、如何にして耐火性・難燃性を確保するかが問題となる。とくに、一般住宅用建設資材として利用する場合には、さほど高いレベルの耐火性、難燃性は要求されないとしても、公共施設の建材として利用する場合には、JIS A 1321(建築物の内装材料及び工法の難燃性試験)で不燃性が要求される。
【0008】
本発明者らは、前述の長期持続的なホルムアルデヒド吸着性能を有する成形建材においても、不燃性を付加することで、一般住宅用だけでなく、公共施設に利用できるようにすることを意図して、種々検討を行なってきた。その結果、不燃性の無機物を添加して、ホルムアルデヒド吸着性能を維持しつつ、併せて不燃性や強度の要件を充足できることを知見して、本発明を完成させるに至ったものである。すなわち本発明は、木質系炭材(炭化物)を主原料とする成形建材であって、長期持続的なホルムアルデヒドの吸着能を有し、かつ不燃性と強度の優れたものを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、
木質系炭化物粉末に、水酸化カルシウム粉末と必要に応じてバインダーを添加し、これらを混合して加圧成形した後、前記水酸化カルシウムの炭酸化処理を施して製造された建築用資材であって、前記木質系炭化物100重量部対する水酸化カルシウムの添加量が100重量部以上(好ましくは100〜400重量部)であり、かつ前記木質系炭化物粉末の少なくとも3分の一以上が、最高温度1000℃以上の高温炭化処理で製造されたものであることを特徴とする持続的ホルムアルデヒド吸着能を有する不燃成形建材である。
【0010】
上記の成形建材においては、これに吸着されたホルムアルデヒドの酸化を促進するための酸化助剤が添加されていることが好ましい。また、かかる酸化助剤としては酸化チタン及び/又は白金が好適である。さらに、この成形建材においては、成形体自体又はこれを粉砕した粉末試料の窒素ガス吸着(BET)法で測定された比表面積が、100m2/g以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の成形建材は、不燃性を有するので、一般家庭用だけでなく、公共施設にも利用でき、長期持続的にホルムアルデヒドを吸着することを可能にしたものである。
この成形建材を室内の壁面や天井等に用いることにより、空気の清浄化や消臭を図ることができる。また、公共施設の広い壁や天井にも利用できる。また、これにより室内空調機や換気扇の使用頻度を減らすことができ、省エネルギー効果も期待することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第一のポイントは、炭の成形建材に吸着されたホルムアルデヒドが蟻酸に酸化されることを利用して、長期持続的にホルムアルデヒドの吸着性能を維持することにある。本発明者らの知見によれば、炭に吸着されたホルムアルデヒドの量が多いほど、蟻酸への酸化量も多く、持続的なホルムアルデヒド吸着能も高くなる。一般に、炭への吸着量はその比表面積に比例するから、比表面積の大きい炭の粉末を原料として用いることが望まれるが、活性炭のように比表面積の大きなものは、通常は炭化工程の後に、気孔を増加させる賦活工程を設けて製造されるため、非常に高価になる。したがって、賦活処理をすることなく、ある程度以上の比表面積を有する炭の製造条件を明らかにし、これを原料として用いた点が第一のキーポイントである。
【0013】
本発明の第二のポイントは、不燃性を付与するために添加する無機物として水酸化カルシウム(消石灰)が適切なことを明らかにし、耐火性とホルムアルデヒドの吸着性能を両立させ得る条件を明らかにした点にある。この水酸化カルシウを炭酸化することにより、生成した炭酸カルシウムがバインダーとして作用するため、成形建材の強度向上を図ることができる。なお、炭酸化は下記の反応による。
Ca(OH)2 + CO2 = CaCO3 + H2
この反応は水分量と密接に関係している。一旦生成した炭酸カルシウム(カルサイト)が、炭酸化反応中に一部溶解し、再び析出する。この溶解析出による焼結機構で、強度が出て、所謂、炭酸塩ボンドが生じると言われている。この反応を促進させるために、適量の水分の存在が好ましい。
さらに生成した炭酸カルシウムは、800℃付近で、下記のように分解するが、この時の反応は吸熱反応であり、耐火性にも寄与する。
CaCO3 = CaO + CO2
【0014】
以下、本発明に用いる原料及び成形建材の製造方法についてやや詳しく説明する。まず炭の原料は、木質系のものであれば良くとくに限定を要しないが、例えば建築廃材、製材所の廃材、間伐材等の木質廃棄物が原料として好適である。もちろん、廃棄物でない木材や竹材を用いても、藁・籾殻等の農業廃棄物や果物・野菜等の加工廃棄物を用いてもよく、これらの混合物を原料としてもよい。
これらの原料を乾留・炭化して炭化物を製造する。その際、炭化温度を1000℃以上の高温にすることが好ましい。炭化物原料の全部が1000℃以上の高温で炭化(高温炭化処理)された炭化物であってもよいが、少なくとも炭化物原料の1/3以上が高温炭化処理された炭化物であることが必要である。
【0015】
このような高温炭化処理された炭化物原料を用いる理由は以下のとおりである。本発明者らは、木炭に吸着されたホルムアルデヒドの酸化挙動について、基礎的検討を行なった。すなわち、同じ木材で炭化温度を変えて木炭を製造し、その比表面積を測定するとともに、この木炭をホルムアルデヒド溶液に漬けて飽和状態まで吸着させた後、常温の室内に放置して空気酸化させ、一週間後の蟻酸の生成量を調べた。その結果、炭化温度1000℃以上で製造した木炭は、蟻酸の生成が認められるのに対して、炭化温度が1000℃未満の木炭では、蟻酸の生成は全く認められなかった。なお、この蟻酸の生成は、下記の化学反応によるものと考えられる。
HCHO + 1/2O2 = HCOOH
また、上記の木炭の比表面積を測定した結果、比表面積は炭化温度と密接な関係が有り、炭化温度が高いほど比表面積が大きく、1000℃以上で炭化した木炭は、賦活工程を経なくとも、300cm2/g以上の比表面積を有することが知れた。したがって、本発明においては、少なくとも炭化物原料の1/3以上を1000℃以上の高温で炭化された炭化物を用いることを特徴とする。これにより、持続的ホルムアルデヒド吸着性能を確保することができる。
【0016】
また、本発明の成形建材は、難燃性を確保するために、上記のような木質系炭化物100重量部対して水酸化カルシウム粉末100重量部以上(好ましくは100〜400重量部)添加する。水酸化カルシウムは、工業的に用いられる消石灰であっても、これを精製した高純度のものであってもよい。
水酸化カルシウムの添加量の下限を100重量部(炭化物100重量部対して)とする理由は、これ未満では、JIS A 1321に規定する難燃性1級の要件を確実に満たすことが難しく、上限を400重量部とする理由は、これを超えると、成形建材の比表面積が小さくなり、持続的なホルムアルデヒドの吸着性能を確保するのが難しくなるためである。
【0017】
本発明においては、炭酸化された水酸化カルシウムのボンド作用(炭酸塩ボンド)により、バインダーを用いなくても、ある程度の成形物の強度を確保することができる。しかし、成形性や強度の確保をより確実にするために、必要に応じてバインダーを用いても良い。バインダーとしては、揮発性有機物を発生するもの(例えばフェノール樹脂等)を用いることは好ましくない。また、熱可塑性樹脂のように炭の通気性を損なうようなものも好ましくない。しかし、それ以外はとくに限定をする必要はなく、どのようなバインダーを用いてもよい。例えば、海藻類(アルギン酸)や澱粉、パルプ等を用いることができる。
【0018】
本発明の成形建材の製造工程としては、まず必要に応じて原料の粒度調製と混合を行い、加圧成形する。原料の粒度にさほど厳密な管理は必要でなく、例えば100メッシュ程度以下の粒度にすればよい。成形の方法は、通常は熱間で加圧成形するが、十分な強度の成形体が得られる方法であれば、とくに限定を要しない。また、本発明の成形建材は、成形体の形状をとくに限定する必要はない。板(ボード)状でも、棒状でもよい。また、他の板材と張り合わせた複合板や、サンドイッチ板でも、炭への通気性が確保されていればよい。
【0019】
次いで、成形された水酸化カルシウム含有建材を炭酸化処理する。炭酸化の方法もとくに限定を要しないが、例えば炭酸化炉内に加熱されたCO2含有ガスを流通させて、成形建材と接触させればよい。CO2含有ガスは、例えば燃焼排ガスを用いても良い。炭酸化の条件としては、室温でCO2ガスに1時間程度接触させればよい。このとき、完全に乾いた状態は好ましくない。含水率としては、5%程度が好ましい。
【0020】
本発明の成形建材においては、ホルムアルデヒドの蟻酸への酸化反応を促進させるために、粉末原料中に酸化助剤を少量添加することも有用である。本発明者らの知見によれば、かかる酸化助剤として、酸化チタン粉末や白金コロイド又は白金コロイドを担持した酸化チタン粉末等が有効である。これらの酸化助剤は5%以下で充分である。
また、本発明の成形建材は、持続的ホルムアルデヒド吸着能を確保するために、一定の物性を有することが好ましい。とくに、窒素ガス吸着(BET)法で測定した比表面積が、100m2/g以上であることが好ましい。比表面積がこれ未満では、ホルムアルデヒドの吸着量自体が過少で、それに伴って蟻酸への酸化量も少なく、飽和吸着後の定常的なホルムアルデヒド吸着量のレベルも低くなるためである。
【実施例】
【0021】
本発明の難燃性成形建材を試作し、耐火性を調査した。木質系炭化物粉末は、廃材を外熱式炭化炉で最高温度1000〜1100℃で炭化し、100メッシュ以下に粉砕したものを用いた。水酸化カルシウムには試薬を用いた。この炭化物粉末と水酸化カルシウム粉末を所定の配合比で混合し、これにバインダーとして、セルロースを、炭化物粉末に対する重量比で3%添加した。この混合原料をホットプレスを用いて、200℃、50kg/cm2で、100×100mm、厚み10mmのボードに成形した。この成形ボードを炭酸化するため室温でCO2濃度100%のガス(200cc/分)に2時間曝して、水酸化カルシウムの炭酸化を行なった。
【0022】
炭化物/水酸化カルシウムの重量比R(炭化物/(炭化物+水酸化カルシウム)×100)は、10〜90%の範囲で10%づつ変えて9種類の試験材を作製した。この試験材について、JIS A 1321に準拠して難燃性評価を行なった。試験片の大きさや前処理(乾燥)を、上記JISの基材試験用の基準に基づいて調製し、加熱試験を行なった。加熱試験は、空気雰囲気で750℃に保持された電熱式試験炉の炉内に挿入して、20分間経過後の炉内温度が810℃以下(燃焼発熱による炉内温度上昇が60℃以下)のものを不燃性とし、810℃以上のものを不燃性無しとして評価した。
その結果、重量比Rが50%以下では不燃性があるが、これを超えた場合は、いずれも燃焼発熱により炉内温度が810℃を超えて、不燃性が無いと評価された。
【0023】
また、下記の3種の試験材を上記とほぼ同様な方法で作製し、ホルムアルデヒドの吸着試験を行なった。
試験材A:炭化物として高温炭化処理(最高加熱温度1000℃)した炭使用、
炭化物:水酸化カルシウム=100:0(炭化物100%)、
炭酸化処理無
試験材B:炭化物として低温炭化処理(最高加熱温度600℃)した炭使用、
炭化物:水酸化カルシウム=100:0(炭化物100%)
炭酸化処理無
試験材C:炭化物として高温炭化処理(最高加熱温度1000℃)炭使用、
炭化物:水酸化カルシウム=20:80(炭化物20%)
炭酸化処理有
【0024】
ホルムアルデヒドの吸着試験は、20ppmのホルムアルデヒドを含有する常温空気が封入された容器(容積約10リッター)内に、大きさ30×50×10(厚み)mmの上記試験材を入れ、容器内空気中のホルムアルデヒド濃度の経時変化を測定した。結果を図1に示す。
図に見られるように、試験材Aの場合にホルムアルデヒド濃度の減少速度が最も大きく、約10minで7→1,5ppmに、約30minで→0.5ppmにホルムアルデヒドが減少している。一方、試験材Bの場合には、約10minで7→3ppmに、約30minで→1.5ppm程度までしか減少しない。この両者の差は、原料の炭の比表面積の差によるものと考えられる。
【0025】
これに対して、試験材Cの場合には、約10minで7→3.5ppmと初期の吸着速度がやや低いが、約30minで→1.6ppm程度まで減少しており、水酸化カルシウムを80wt%(炭化物100重量部に対し、水酸化カルシウム400重量部)程度配合しても、ホルムアルデヒドの吸着性能が維持されることが確かめられた。なお、水酸化カルシウムの配合比がさらに大きくなると、吸着性能が低下してくるおそれがあるので、本発明においては、原料中の水酸化カルシウム配合比の上限は80%とする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施例における3種の試験材のホルムアルデヒドの吸着性能の比較を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系炭化物粉末に、水酸化カルシウム粉末と必要に応じてバインダーを添加し、これらを混合して加圧成形した後、前記水酸化カルシウムの炭酸化処理を施して製造された建材であって、前記木質系炭化物100重量部対する水酸化カルシウムの添加量が100重量部以上であり、かつ前記木質系炭化物粉末の少なくとも3分の1以上が、最高温度1000℃以上の高温炭化処理で製造されたものであることを特徴とする持続的ホルムアルデヒド吸着能を有する不燃成形建材。
【請求項2】
前記成形建材中に、これに吸着されたホルムアルデヒドの酸化を促進するための酸化助剤が添加されていることを特徴とする請求項1記載の不燃成形建材。
【請求項3】
前記酸化助剤が酸化チタン及び/又は白金である請求項2記載の不燃成形建材。
【請求項4】
前記成形建材の窒素ガス吸着(BET)法で測定された比表面積が、100m2/g以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の不燃成形建材。

【図1】
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【公開番号】特開2008−156139(P2008−156139A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344657(P2006−344657)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【出願人】(503286712)炭みや株式会社 (2)
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【Fターム(参考)】