説明

木質調加飾シート、その製造方法、木質調樹脂成形物およびその製造方法

【課題】樹脂成形物に木質調の格調高い外観を容易に付与することができる木質調加飾シートを提供する。
【解決手段】透明樹脂シート、接着剤層、および、木質層がこの順に積層されて構成され、かつ、前記接着剤層の接着剤の目付が70g/m2以上150g/m2以下である木質調加飾シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内外装、家具、建築材料、鞄、家電製品、オーディオ、パソコン、携帯電話、カメラ、ビデオカメラ、看板、ディスプレイ、ネームプレート、額縁、パチンコ−パチスロ等アミューズメント製品、各種雑貨等の樹脂製品の表面に木質感を付加する木質調加飾シート、その製造方法、及び、かかる木質調加飾シートを用いて成形された木質調樹脂成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木質調外観を有する成形物の製造方法として特許第3191657号(特許文献1)に係る技術が知られていた。この技術は、表面に木質化粧材を有するインジェクション成形品を母材として形成した後、この母材の表面にウレタン、エポキシ、アミノアルキド、アクリル及びそれらの変性樹脂からなる着色された少なくとも一層の熱硬化性塗膜層と、着色及び又は透明な熱硬化性塗膜からなるシーラー層とを任意の順序で積層し、シーラー層の表面に接着剤及びプライマーを介して透明な熱可塑性樹脂シートを積層して熱圧プレスする方法である。
【0003】
すなわち、この技術では外観の見栄えを向上させるために、木質化粧材に熱硬化性樹脂を積層し、さらにシーラーを積層することで熱履歴時の層間剥離を防止した上で、熱可塑性樹脂層を積層している。
【0004】
しかしながら、この従来技術によれば、インジェクション成型後に、樹脂の塗布・積層を繰り返し、さらに、最後に熱プレスするという7つ以上の工程を必要とする上に、立体面を有する成形物の場合、上記積層は熟練した職人による手作業ないし手作業に近い作業となり、量産化には困難があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3191657号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、樹脂製品に木質調の外観を容易に付与することができる木質調加飾シート、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の木質調加飾シートは、請求項1に記載の通り、透明樹脂シート、接着剤層、および、木質層がこの順に積層されて構成され、かつ、前記接着剤層の接着剤の目付が70g/m2以上150g/m2以下であることを特徴とする木質調加飾シートである。
【0008】
また、本発明の木質調加飾シートは、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の木質調加飾シートにおいて、上記木質層厚さが0.1mm以上1mm以下であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の木質調加飾シートは、請求項3に記載の通り、請求項2に記載の木質調加飾シートにおいて、上記木質層の透明樹脂シート側面に木目調印刷が施されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の木質調加飾シートである。
【0010】
本発明の木質調加飾シートの製造方法は、請求項4に記載の通り、透明樹脂シートに接着剤の目付が70g/m2以上150g/m2以下の接着剤層を介して木質シートを積層して積層板を得る積層工程と、前記積層板を加熱しながら加圧するプレス工程と、をこの順で備えたことを有する木質調加飾シートの製造方法である。
【0011】
本発明の木質調樹脂成形物は、請求項5に記載の通り、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の木質調加飾シートから構成されてなることを特徴とする木質調樹脂成形物である。
【0012】
本発明の木質調樹脂成形物の製造方法は、請求項6に記載の通り、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の木質調加飾シートをインサートとして、該木質調加飾シートの木質層側に樹脂を射出成形することを特徴とする木質調樹脂成形物の製造方法。
【0013】
また、本発明の木質調樹脂成形物の製造方法は、請求項7に記載の通り、請求項6に記載の木質調樹脂成形物の製造方法において、前記射出成形前の前記木質調加飾シートが、曲げ加工されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の木質調樹脂成形物の製造方法は、請求項8に記載の通り、請求項7に記載の木質調樹脂成形物の製造方法において、前記曲げ加工が、前記木質調加飾シートを加熱しながら行われたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の木質調加飾シートによれば、従来技術品よりも少ない工程で生産でき、立体的な木質調樹脂成形物も煩雑な作業なしに、工業的な規模での迅速な製造が可能となる。
【0016】
本発明の木質調加飾シートの製造方法によれば、木質調成形物を従来技術品よりも少ない工程で生産でき、立体的な木質調樹脂成形物も煩雑な作業なしに、工業的な規模での迅速な製造を可能とする木質調加飾シートを得ることができる。
【0017】
本発明の木質調樹脂成形物は、低コストでありながら、優れた木質調の外観を有する木質調樹脂成形物である。
【0018】
本発明の木質調樹脂成形物の製造方法によれば、優れた外観を有する木質成形物を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の木質調加飾シートの製造方法、および、木質調加飾シートを用いた木質調樹脂成形物の製造方法を示すモデル図である。
【図2】実施例における本発明の木質調加飾シートの絞り加工後の形状を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の木質調加飾シートは、上述のように、透明樹脂シート、接着剤層、および、木質層がこの順に積層されて構成され、かつ、前記接着剤層の接着剤の目付が70g/m2以上150g/m2以下である。
【0021】
透明樹脂シート(図1中符号1)としては、ポリプロピレン、アクリル系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネートなどからなるシートが挙げられる。このうち、高透明性であり、成形性に優れ、かつ、最終製品である成形品に耐擦傷性、耐薬品性、及び、耐候性を付与することができるので、アクリル系樹脂フィルムからなることが好ましい。ここで、アクリル系樹脂としては、具体的には、メタクリル酸エステルを主体とする重合体であり、単独重合体としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエチルヘキシルメタクリレート等が挙げられる。また、メタクリル酸エステルと他の単量体との共重合体であっても良く、そのようなものとしてポリメチルメタクリレート・スチレン共重合体等が挙げられる。さらに、メタクリル樹脂と一種またはそれ以上の他の樹脂とからなるポリマーアロイであっても良く、そのようなものとして、例えばポリメチルメタクリレート・ポリフッ化ビニリデンアロイ等が挙げられる。透明樹脂シートとしては通常は無色のものを用いるが、木質調を損なわない限り多少着色されたものを用いても良い。
【0022】
透明樹脂シートの厚さとしては、最終的に立体的な形状を有する木質調の木質調樹脂成形物を得るためにはある程度の柔軟性が必要であり、そのために通常0.1mm以上3mm以下とする。さらに好ましい範囲としては0.3mm以上1mm以下である。
【0023】
木質層を構成する木板は、合板製造時と同様にして、実際の原木からロータリーレース等によって得た木板や、スライサを用いて平削りによって得られた木板を用いることができ、後者によれば、美しい天然木目を得ることができる。あるいは、こうして得た木板の透明樹脂シート側とする面に印刷などによって木目模様を印刷することで、高級なニス塗り木板の外観を備えた本木目調加飾シートを得ることができる。なお、印刷時に、木目模様に合わせて徐々に濃褐色となるグラデーションを加えることにより、まさにヴァイオリンのような美しい外観を付与することも可能であり、この場合も当然本発明に含まれる。
【0024】
木板の厚さとしては、最終的に立体的な形状を有する木質調の木質調樹脂成形物を得るためにはある程度の柔軟性が必要であり、そのために0.1mm以上1mm以下とすることが好ましい。さらに好ましい範囲としては0.2mm以上0.5mm以下である。
【0025】
これら透明樹脂シート層と木質層との間に配する接着剤層を構成する接着剤としては最終的な木質調樹脂成形物を得るときの成形時の熱履歴に耐えられるものであることが必要であり、また、木質調を損なわないように無色透明ないし無色に近い透明な接着剤であることが必要である。
【0026】
接着剤の粘度は3000mPa・S以上600Pa・S以下であることが、後述するプレス工程で樹脂自体が流れずに、木板の導管内に充填されるために、好ましい。
【0027】
接着剤は溶媒や分散媒を含まないものか、これらの含有量の少ないもの(不揮発分が30重量%以上のもの)が、後述する厚さとなるように塗りやすいので好ましい。
【0028】
このような接着剤として、例えば、酢酸ビニル系接着剤、シリル化ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤などが挙げられるが、このうち、立体的な木質調樹脂成形物を得るために絞り加工を行う場合には、絞り加工での層間剥離が生じないのでシリル化ウレタン系接着剤であることが好ましい。
【0029】
接着剤は、透明樹脂シートに塗布しても、木板に塗布しても、あるいはこれら両方に塗布しても良い。ただし、タモ、オーク、ローズ、ゼブラなどの比較的木目が粗い木板を用いる場合には接着剤を塗布すると波状に変形しやすいので透明樹脂シートにのみ塗布することが望ましい。
【0030】
接着剤の塗工目付としては木板の導管内に接着剤が充填される必要があるために70g/m2以上150g/m2以下とすることが必要である。比較的木目の細かい木板の場合にはこの範囲で少なめに塗工しても良好な外観を得ることができ、木目の粗い木板の場合にはこの範囲で多めに塗工することが好ましい。
【0031】
接着剤はグラビア印刷法、あるいは木工用のスプレッダー、ディスペンサー、エアースプレー式塗布機などを用いて塗布することができる。
【0032】
接着剤に溶剤が含まれている場合には塗布後に十分に乾燥してから、接着剤層(図1(b)符号2)を介して透明樹脂シート層と木質層とを積層して積層板(図1(c)中符号A。符号3は木質層)を得る(積層工程)。
【0033】
その後、前記積層板を加熱しながら加圧する(プレス工程)。このプレス工程により、接着剤が木質層を構成する木板の導管内に存在する空気を追い出して充填され、気泡のない美しい木質調外観が得られる。処理温度、処理圧力、そして、処理時間は用いる接着剤によって異なるが、通常はそれぞれ、30℃以上60℃以下、10kgf/cm2以上150kgf/cm2以下(1MPa以上15MPa以下)、10分以上30分以下の範囲とすることが好ましい。
【0034】
このようにして本発明に係る木質調加飾シートが得られる。
【0035】
次いで、このような木質調加飾シートを用いて木質調樹脂成形物を得る方法について説明する。
【0036】
上記木質調加飾シートを必要に応じて型抜きしたのち、立体的な木質調樹脂成形物を作製する場合には絞り加工(プレフォーミング)を行う。具体的には加熱しながら、2つの型との間で加圧しながら絞り加工(図1(d)参照 符号10、11はそれぞれ、上型、下型)を行う。温度としては通常130℃以上160℃以下程度で、加圧時間としては15秒以上30秒以下程度である。
【0037】
次いで、この木質調加飾シートをインサートとして金型内に収納し、木質調加飾シートの木質層側のキャビティ(図1(e)中符号14。図中13および15は金型)内に樹脂を射出成形して樹脂層を形成し成形品(図1(f)符号B。符号4は樹脂層)を得る。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の木質調加飾シートの実施例について具体的に説明する。
【0039】
<積層工程>
透明樹脂シートとして、厚さが800μmのアクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート)製シートを用い、また、木質層となる木板としては厚さが0.3mmのタモ板を用い、木板の片面(透明樹脂シート側面となる面)にはグラビア印刷によって木目調の模様を印刷した。
【0040】
接着剤としては表1に示すものを用いた。
【0041】
【表1】

【0042】
それぞれ木工用のスプレッダーを用いて上記木板の印刷面に接着剤の目付(乾燥後(固形分)目付)が、それぞれ表2に示したように塗布し、接着剤1および2を用いたサンプルではそのままの状態で、また、接着剤3〜5を用いたサンプルでは100℃に設定した乾燥機により2分間の乾燥処理を行った後に、これら接着剤層を介してそれぞれ木板と透明樹脂シートとを貼り合わせ、積層板を得た。
【0043】
【表2】

【0044】
<プレス工程>
これら積層板を50℃に設定したプレス装置で圧力:9MPaで10分間プレス処理を行い、9種類の木質調加飾シート(実施例1〜5、比較例1〜4)を得た。
【0045】
このうち、比較例1に係る木質調加飾シートでは、樹脂層が厚くなってできた液だまりが透明樹脂シート側から観察され、斑状の外観不良が生じており、また、比較例2に係る木質調加飾シートでは樹脂不足から生じた導管部の気泡による外観不良が生じていた。このため、これら比較例1、および、比較例2に係る木質調加飾シートでの以降の検討は行わなかった。
【0046】
<平板状木質調樹脂成形物の作製>
残る7種類の木質調加飾シートから型抜き加工を行って7cm×15cmの平板シートを得て、これらをそれぞれインサートとしてキャビティ内に収納し、これら平板シートの木質層側にABS樹脂を射出成形して厚さが2mmの樹脂層を形成し、7種類の木質調樹脂成形物を得た。
【0047】
これら木質調樹脂成形物について自動車内装での長期間での耐熱履歴を想定した105℃・500時間の耐熱試験を行った。この試験前後で外観に変化がなくかつ試験後の成形物に剥離が全く生じていないときを耐熱性が充分であるとして「○」、白化や剥離(部分的な隔離を含む)が生じたときを耐熱性が不充分であるとして「×」として評価した。
【0048】
また、上記耐熱試験を合格したサンプルに対して、使用される地域での温度環境を想定した耐熱サイクル試験を行った。
【0049】
すなわち、90℃・4時間、室温・0.5時間、−40℃・1.5時間、さらに、室温・0.5時間の熱履歴を1サイクルとして10サイクル繰り返した。この耐熱サイクル性試験後、成形物に外観変化も剥離も全く生じなかったときを耐熱サイクル性が充分であるとして「○」、外観変化や部分的にも層間に剥離が生じた場合には耐熱サイクル性が不充分であるとして「×」として評価した。これら結果を表2に併せて記載する。
【0050】
<立体木質調樹脂成形物の作製>
上記7種類の木質調加飾シート(実施例1〜5、比較例3および比較例4)から型抜き加工を行って8cm×15cmの平板シートを得て、これらを図2に示す形状に絞り加工を行った。このとき加熱温度は150℃で、処理時間は20秒であった。
【0051】
絞り加工後の木質調加飾シートを観察したところ、比較例3および比較例4の木質調加飾シートでは層間で剥離が生じており、実用に耐えられないものであった。このためにこれら2つの木質調加飾シートでは以降の検討を行わなかった。
【0052】
上記実施例の絞り加工後の木質調加飾シートを用いて、これらをそれぞれインサートとしてキャビティ内に収納し、これら平板シートの木質層側にABS樹脂を射出成形して厚さが2〜4mmの樹脂層(厚さが部分的に異なる)を形成し、5種類の本発明に係る木質調樹脂成形物を得た。
【0053】
これら本発明に係る木質調樹脂成形物は外観においても良好で、また、耐熱試験結果、および、熱サイクル試験(それぞれ結果を表2に併せて記載する)結果においても充分な結果が得られた。
【符号の説明】
【0054】
A 本発明に係る木質調加飾シート
B 本発明に係る木質調樹脂成形物
1 透明樹脂シート
2 接着剤層
3 木質層
4 樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂シート、接着剤層、および、木質層がこの順に積層されて構成され、かつ、前記接着剤層の接着剤の目付が70g/m2以上150g/m2以下であることを特徴とする木質調加飾シート。
【請求項2】
上記木質層厚さが0.1mm以上1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の木質調加飾シート。
【請求項3】
上記木質層の透明樹脂シート側面に木目調印刷が施されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の木質調加飾シート。
【請求項4】
透明樹脂シートに接着剤の目付が70g/m2以上150g/m2以下の接着剤層を介して木質シートを積層して積層板を得る積層工程と、前記積層板を加熱しながら加圧するプレス工程と、をこの順で備えたことを有する木質調加飾シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の木質調加飾シートから構成されてなることを特徴とする木質調樹脂成形物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の木質調加飾シートをインサートとして、該木質調加飾シートの木質層側に樹脂を射出成形することを特徴とする木質調樹脂成形物の製造方法。
【請求項7】
前記射出成形前の前記木質調加飾シートが、曲げ加工されていることを特徴とする請求項6に記載の木質調樹脂成形物の製造方法。
【請求項8】
前記曲げ加工が、前記木質調加飾シートを加熱しながら行われたものであることを特徴とする請求項7に記載の木質調樹脂成形物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−201238(P2011−201238A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72597(P2010−72597)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(510127882)株式会社ウェーブロック・アドバンスト・テクノロジー (5)
【Fターム(参考)】