説明

未知の複合混合物を迅速かつ正確に定量化する装置及び方法

【課題】
複合混合物に含まれる検体を迅速かつ正確に特定し、そして定量化する装置及び方法が開示される。
【解決手段】
本装置は、データ収集/分析装置に接続される超高感度キャビティ増幅分光計を備える。本方法では、種々の検体の吸収率断面積を含むデータベースを使用して、サンプルの組成を数値的に特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高感度吸収分光法に関し、特にレーザキャビティ増幅検出(laser−based cavity−enhanced detection)を使用する多数の微量検体の濃度の同時測定に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願において引用される刊行物、特許、及び特許出願の全ては、本明細書において参照されることにより、これらの文献の内容の全てが本明細書に、各個々の刊行物、特許出願、または特許の開示内容が詳細に、かつ個々に提示されて参照されることにより当該内容全体が組み込まれるのと同じ程度に組み込まれる。
【0003】
キャビティリングダウン分光法(cavity ringdown spectroscopy:CRDS)は、光が光学キャビティ内で共振する現象を利用して、光吸収検体の非常に低い濃度の測定を可能にする手法である。光学キャビティは、2つ以上の高反射率ミラーから成り、これらのミラーの間に、測定対象の検体を含むサンプルが配置される。光共振は、キャビティを、適切な周波数及びモード特性を有する光を使用して励起することにより行なわれ、前記光は普通、レーザ光源から供給される。キャビティ内共振を励起するために使用される光が変調装置によって、または光ビームの固有のパルス的性質によって急激に遮断されると、キャビティ内に残留する光は、キャビティミラーの間を往復するとともに、光の強度は、キャビティミラーによる減衰、及びキャビティ内の検体による吸収に起因して、時間の関数として指数関数的に小さくなる。このプロセスは、「キャビティリングダウン(cavity ringdown)」として知られている(参考文献:phD Thesis, 2002に掲載されたJohn G. Cormierによる「水蒸気連続体吸収の赤外線キャビティリングダウン分光法実験及び測定の成果」と題する論文)。
【0004】
キャビティ内の光強度の減衰率は普通、キャビティミラー群のうちの一つのミラーから出て行く光の一部の強度を所定のリークとして測定することにより導出される。リーク信号強度が極めて小さくなって普通に測定することができなくなる前に生じる数千回の反射によって、ミラー群の間隔よりも数桁長い実効ビーム経路長が生じる。これが、キャビティ内の検体による光の減衰を効果的に大きくするように作用するので、検体の極めて低い濃度を測定することができる。
【0005】
ガスレーザを光音響セルに使用して、複数の成分を含む検体を検出する手法が、例えばBerry社による米国特許第6363772号明細書に開示され、この場合、CO(一酸化炭素)倍音レーザが使用される。光音響技術は、微量ガスの検出に効果的であることが判明しているが(Encyclopedia of Analytical Chemistry(検体化学全書:J. Wiley & Sons 2000)のpp.2203〜2226に掲載されたHarrenらによる「微量ガスをモニタリングする光音響分光法」と題する論文)、これらの技術は、成分の絶対量を測定するには、キャビティリングダウン法ほど効果的ではない。これに関する理由のうちの一つの理由は、キャビティリングダウン測定が完全にレシオメトリックである、すなわちこれらの測定は、吸収分子による光減衰を、レーザビーム強度、リングダウンキャビティ長、またはミラー反射率のような計測パラメータに関するアプリオリな知識を必要とすることなく直接測定する手段となるからである。これとは異なり、光音響分光法は間接検出法であり、間接検出法では、サンプル中の分子による光の吸収によって生じる熱変動により発生する音響波を測定する。非常に感度の高い手法となり得るが、光音響分光法は、幾つかの不具合を有し、これらの不具合によって、検体濃度を正確に測定する当該分光法の能力が低くなる。これらの不具合のうちの幾つかの不具合が、Lehmann社による米国特許第5528040号明細書に以下のように記載されている:
(1)静かな音響環境が必要である(従って、電気放電の使用、またはサンプルの速い流れによって、ノイズが非常に大きくなる)
(2)サンプルが或る平均的な光束に曝され、これにより、光化学反応を或る状況において起こすことができる。
(3)検出の間接的性質により、絶対吸収強度の導出が困難になる。音響信号の強度を較正する唯一の実用的方法では、或る遷移を含み、かつ遷移の断面積が既知であるガスの混合物を関連のガスと一緒に使用する。このような較正を行なっても、20%のオーダーの不確定性が残る。
【0006】
検体濃度を、赤外線領域のキャビティ増幅レーザ装置(cavity−enhanced laser−based devices)を使用して測定するために、先行技術は、レーザ線を注目検体の基本吸収線の周波数に調整し、次に前記周波数における検体による光吸収に関連する或る物理パラメータの変化を測定することを示唆している。キャビティリングダウン測定を行なう場合、測定物理パラメータは、キャビティ内でのレーザ光強度の減衰時間であり、この減衰時間は普通、キャビティミラー群のうちの一つのミラーから漏れるように設計された少量の光をプロキシ経由で測定することにより導出される。光音響分光法の場合、測定量は、検体による光吸収によって生じる熱の変化に起因する音響エネルギーの変化である。基準測定も普通、レーザ周波数を吸収ピークから離れるように調整することにより行なわれる。2つの測定値の差を次に使用して、セル内のガスの量を推定する。このような2周波数測定法は、例えばPatelによる国際特許出願WO02/090935に記載されており、この特許文献によれば、当該測定法を使用して種々のガス化合物の濃度を、レーザによる光音響セル測定を使用して導出する。この方法の不具合は、1度に一つの検体しか測定することができず、ガス混合物の低い圧力が通常必要となり、そして大きい測定誤差が、未知の検体が混合物中に含まれることに起因して生じ得ることである。
【0007】
検体の複合混合物の組成を、大気温度及び大気圧という条件で、10億分の1未満の精度で、組成に関して事前の知識または先入観を持つことなく測定することが望ましい状況が存在する。前記アプリケーションの例として、これらには制限されないが、病状を診断し、そしてモニタリングするためのヒトの呼気の測定、毒物環境モニタリング、爆発物検出、及び産業プロセスモニタリングを挙げることができる。従って、未知の複合混合物に含まれる多数の検体を、正確に、かつ偏ることなく、非常に高い感度で、検体を事前濃縮する、または混合物の圧力を変更する必要を伴なう複雑さを増すことなく、特定し、そして定量化することができる装置を実現する必要が生じる。
【発明の概要】
【0008】
現行の技術は、ガス中の、または液体中の微量の化合物を大気圧で正確に特定することができないという不具合を有する。現在のキャビティレーザ装置は、一つ以上の標的検体の濃度を前記検体による吸収線に特別に調整された光源周波数を使用して測定するように構成される。これらの装置に採用される測定方法では普通、サンプル圧力が低いことが必要となるので、サンプル供給機構が複雑になる。これらの方法は標的検体の方に偏って行なわれ、そして未知の検体がキャビティ内に含まれることによって測定誤差を生じ易い。更に、光音響キャビティ分光法は、キャビティリングダウン分光装置よりも、検体による光吸収の測定の間接的な性質に起因して、本質的に正確性に欠け易い。
【0009】
本発明は一つの装置を提供し、本装置は、複数の広い間隔の単色周波数のパルス光を放出することができる光源と、キャビティ増幅測定チャンバと、測定チャンバに含まれる少なくとも一つの検体によって生じる光減衰の量に関連する物理パラメータを測定する検出器と、データを検出器から収集することができる少なくとも一つのデバイスと、そして検出器と通信することにより、少なくとも一つの検体の各検体の吸収率を、既知の検体吸収断面積のデータベースと比較することができる少なくとも一つのデバイスとを備え、測定は複数の明確な光周波数で行なわれる。
【0010】
本発明の一つの実施形態では、複数の広い間隔の単色周波数のパルス光を放出することができる光源は、少なくとも2つの単色周波数を同時に放出することができる。本発明の別の実施形態では、複数の広い間隔の単色周波数のパルス光を放出することができる光源は、複数の単色周波数を連続的に放出することができる。
本発明の一つの実施形態では、広い間隔の単色周波数は既知であるか、または決定的である。
【0011】
本発明の好適な実施形態では、キャビティ増幅測定チャンバはリングダウンキャビティである。
本発明の好適な実施形態では、分析対象のサンプルを収集し、かつ測定チャンバと流体連通して、分析対象サンプルを測定チャンバに供給し、そして当該サンプルを測定チャンバ及び装置から測定完了後に取り出すことができる機構が設けられる。
好適な実施形態では、本発明の方法及び装置を使用して、ヒトを含む動物から採取したサンプルを分析する。更に好適な実施形態では、動物から採取して分析されるサンプルは呼気を含む。
【0012】
本発明は更に、複合サンプルの電磁波吸収スペクトルを分析する方法を提供し、本方法は、吸収率をN個の離散的な周波数で分析するステップを含み、分析するステップは、
A)初期モデルで使用されるM個の検体を定義するステップと、
B)M個の検体、及びj=1〜Mとした場合のこれらの検体の濃度


から成る初期モデルQを定義するステップと、
C)i=1〜Nを電磁周波数インデックスとし、行列Kの要素kijを各電磁周波数iにおける検体jによる吸収率とし、そして測定誤差共分散行列をSeとした場合に、モデルQにおける各検体の濃度nであって、各検体の吸収率測定ベクトルyに基づいて計算される濃度nを、例えば非限定的に、直接逆最小二乗推定(direct inverse least−squares estimation)を使用して次式に従って推定するステップと、


D)モデルQに対する少なくとも一つの光吸収検体の体系的追加または削除を、P個の既知の検体のデータベースを巡回することにより行なって、P個の新規モデルQ〜Qを生成するステップと、
E)測定ベクトルyとのモデルQの一致度を、yとのモデルQ〜Qの一致度と比較するステップであって、最良の一致を示す濃度が各モデルに関して、ステップCにおいて記述される方法を使用して得られる、前記比較するステップと、
F)yと比較され、かつQ〜Qモデルのうちの最良の一致を示すモデルの一致度が、yとのQの一致度よりも高い場合に、Qモデルのうちの最良の一致を示すモデルをQとして定義するステップと、
G)ステップD〜Fを、検体をモデルに追加する、またはモデルから除去することによって測定ベクトルyとのモデルの一致度を向上させることができなくなるまで繰り返すステップとを含む。一致度は、赤池の情報量基準(Akaike Information Criterion:AIC)のように、モデルの自由度(エントロピー)を取り入れたフィットパラメータを計算することにより推定することができる。
以下の記述は、本発明の好適な実施形態に関するものであり、そして本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、静止ガスの測定に使用されるガス測定装置の好適な実施形態を示している。
【図2】図2は、ガス流の測定に使用されるガス測定装置の別の実施形態を示している。
【図3】図3は、液体吸収率を測定するために使用される測定装置の別の実施形態を示している。
【図4】図4は、複合混合物に含まれる検体を、図1、図2、または図3のいずれかに示す装置を用いて得られる測定値を使用して特定し、そして定量化するために使用されるアルゴリズムのプロセス図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において使用するように、「analyte」という用語は、分析されている全ての物質または化学成分を指す。
本明細書において使用するように、「frequency」という用語は、電磁波の光周波数を指す。当該周波数は記号「ν」で表わされる。当該周波数は、普通赤外線分光法に用いられる波数単位(cm−1)で表示される。cm−1単位の周波数νは、光速cを乗算することにより得られるヘルツ単位の周波数fに変換することができる、すなわちc≒3X1010cm s−1としたときのf=cνに変換することができる。
【0015】
本明細書において使用するように、光を特定するために使用される場合の「pulsed」という用語は、ベースライン値から、それよりも大きい値への光の振幅の急激な過渡的変化が生じ、続いてベースライン値に、光源の内部の、または外部の一つ、または幾つかの機構によって急激に戻る現象を指す。このようなレーザパルスシステムでは、大きい振幅値になっている状態で経過する時間の長さは、ベースライン状態で経過する時間の長さよりもずっと短い。レーザパルスシステムは、単一パルスを発生させることができる、またはレーザパルスシステムを操作することにより、規則的かつ周期的なパルスを発生させることができる。本明細書において使用するように、光の周波数帯域を特定するために使用される場合の「monochromatic」という用語は、光の周波数帯域を定量化するために使用される場合には、半値幅周波数広がりが、キャビティ共振モードの自由スペクトル範囲よりも狭い場合の帯域を指す、すなわちΔνFWHMをcm−1単位の半値幅(FWHM)周波数広がりとし、nをキャビティ内の媒質の相対屈折率とし、そしてLをcm単位のキャビティ長としたときの


を満たす帯域を指す。
【0016】
本明細書において使用するように、光源から発せられる単色光のピーク群の中心の周波数間隔を特定するために使用される場合の「widely−spaced」という用語は、ピーク間の周波数間隔が、ピークの半値幅周波数広がりの少なくとも2倍である、すなわち


が成り立つことを意味する。
本明細書において使用するように、「computer」という用語は、データを命令リストに従って操作することができる全てのデバイスを意味する。
本明細書において使用するように、「breath」という用語は、肺から吐き出される空気、または発汗蒸気、或いはヒトを含む動物の皮膚を通って発散される汗蒸気の両方を含む蒸気を意味する。
【0017】
例えば、Lehmann社による米国特許第5528040号明細書及びTaubman社による米国特許第6865198号明細書に開示されるキャビティリングダウン分光(CRDS)技術の最近数十年に亘る開発及び改良によって、微量ガスの検出をppbv(10億分の1容積比)以下の感度で行なうことが可能になっている。CRDSキャビティを発光型多周波数レーザ、例えばCOまたはCOガスチューブレーザ、或いは固体ダイオードレーザまたは量子カスケードレーザに接続することにより、レーザ発光周波数と重なる光吸収スペクトルを有する非常に多くの検体を正確に測定することができる。具体的には、2つ以上の原子により構成される分子は、これらの分子の振動エネルギーレベル及び回転エネルギーレベルに固有の顕著に異なる吸収帯を、100cm−1〜2000cm−1の間の赤外線スペクトルの分子「フィンガープリント」周波数領域において示す。従って、数百の物質、例えばBraun社による米国特許第7101340号明細書、Phillips社による米国特許第6540691号明細書、Patel社による国際出願WO 02/090935に開示される、呼気または他の発散物を使用する医療モニタリング及び病状診断に関連する揮発性有機化合物(volatile organic compounds:VOCs)は、とりわけ環境モニタリング、爆発物検出、及び産業プロセス制御における非常に多くの注目化合物の他に、赤外線フィンガープリント領域内の複数のレーザ発光周波数を有するCRDS装置によって測定することができる。また、このフィンガープリントスペクトル領域内では、800cm−1〜1200cm−1の区間が、光吸収測定に特に有用であり、その理由は、この区間が、水の主吸収帯及びCOの主吸収帯の干渉の影響を比較的透過するからである。
【0018】
特許及び科学刊行物に記載される超高感度レーザキャビティ増幅ガス検出装置は通常、電流制御固体量子カスケードレーザ光源またはダイオードレーザ光源を使用して、分子吸収をリングダウンキャビティ内または光音響セル内で測定し、この内容は、例えばTaubman社による米国特許第6865198号明細書、Lehmann社による米国特許第5528040号明細書、Berry社による米国特許第6363722号明細書、Patel社による国際出願WO 02/090935に開示されている。従って、これらの装置は、特定の検体を一つだけ測定する、または幾つかの特定の検体を測定することができる。これは、レーザ光源の周波数を所定の検体の基礎吸収線ピークに調整して定量化することにより行なわれる。量子カスケードレーザ調整は、オーム加熱に伴って温度が変化する半導体素子を通って送り込まれる電流を変化させることにより行なわれる。半導体温度の変化によって、当該半導体の寸法が変化するので、半導体が放出することができるレーザ放射の周波数または複数の周波数が変化する。混合物をこの手法を使用して正確に分析するためには、注目検体を含むガスサンプルを減圧下でキャビティ内に導入することにより、検体の吸収線の圧力広がりを最小にする必要があり、これによって、バックグランド吸収に対する吸収線のピークの値が小さくなる。
【0019】
複合混合物に含まれる検体を、レーザ利用技術を使用して正確に特定し、そして定量化するために、混合物によるレーザ線の吸収率を、非常に多くの正確に判明している広い間隔の周波数で測定する必要がある。最新の固体レーザ技術によって、狭いスペクトル領域に亘る周波数スキャンが可能になっているが、どの周波数が所定の熱環境で放出されているかについて、或る外部周波数測定装置を用いることなく正確に判明させようとすることは実用的ではない。これとは異なり、ガスチューブレーザ(例えば、CO,CO)は、回転回折格子装置を使用して迅速に選択することができる一連のほぼ等間隔の既知周波数を放出する。ガスチューブレーザ技術は長い歴史を持ち、そして正確に判明している周波数の赤外線を発生させる安定かつ強固な方法である。
【0020】
本発明の装置は、特定され、そして定量化されることになる少なくとも一つの検体を含むガスサンプルまたは液体サンプルを収集して、サンプルの一部分を高反射率ミラーを収容する測定チャンバに誘導し、測定チャンバ内のサンプルの圧力及び温度を測定し(そして、適宜調整し)、既知の異なる周波数を持つ一連のモード整合及び周波数整合光パルスを、測定チャンバミラーによって構成されるリングダウンキャビティ内で照射し、光パルス減衰時間をリングダウンキャビティ内で、測定チャンバ内の光の強度に応答する検出器を使用することにより測定し、検出器によって生成される信号をサンプリングし、そして保存し、測定チャンバ内のサンプル混合物に起因する光減衰を計算し、サンプル混合物に含まれる検体を特定し、そしてこれらの検体の濃度を計算するために用いられる。
【0021】
図1は、静止ガスの測定に使用される装置の好適な実施形態を示している。ガスサンプリング装置101によって収集される分析対象ガスサンプルは、流入口102を通って装置に流入する。装置101は、この技術分野で公知の種々のガスサンプリング技術のうちの一つのガスサンプリング技術を使用する。測定を開始するために、測定チャンバ104及び任意のピストンチャンバ105を、ポンプ116を使用して排気する。排気中、バルブ103及び108が閉じ、そしてバルブ115が開く。一旦、測定チャンバ内が適切な真空度に達すると、バルブ115が閉じ、そしてバルブ103が開いて、101内に滞留するサンプルガスを当該チャンバ内の真空による吸引力で測定チャンバに流入させることが可能になる。
【0022】
呼気分析に適する本発明の一つの非限定的な実施形態では、装置101は、マウスピース、マスク、または当技術分野で公知の他の呼気サンプリング器具、呼気を肺または気道の選択部分から選択的に収集する器具、或る量の望ましくないガス、液体、または噴霧微粒子を除去する、そして/または低減するフィルタ、及びバッグ、空気袋、または呼気サンプルを引き込む他のいずれかの容器を収容する。
【0023】
大気サンプル分析に適する本発明の一つの非限定的な実施形態では、装置101は、外部可撓性ホースを収容し、当該ホースの一方の端部は、サンプルを収集する領域に配置することができるのに対し、他方の端部は、当該領域よりも低い圧力の領域に接続されるので、空気サンプルを装置に引き込むことができる。
【0024】
本発明の一つの非限定的な実施形態では、装置101は、遠く離れた場所で収集されるガスサンプルを収容する容器である。
本発明の一つの非限定的な実施形態では、装置101は、開いているバルブ103によって、流入口102の外側に滞留する空気を測定チャンバ104に流入させることができるように、システムからの取り出しを一括して行なうことができる。
【0025】
別の実施形態では、流入口102は、固体粒子または液体粒子が、或いは所定のガスが測定チャンバ104に流入する現象を防止する、または阻止することができるフィルタまたは他の装置を含む。
別の実施形態では、バルブ103は、測定チャンバ104内の圧力を測定するだけでなく、バルブ103を開閉することができる装置または一連の装置に接続される。この装置または一連の装置では、一旦、収集チャンバの内部の目標ガス圧力に達してしまうと、バルブ103が自動的に閉じられる。
【0026】
本発明の一つの非限定的な実施形態では、熱調整装置144が測定チャンバ104に取り付けられる。この装置は、チャンバ104の内部の温度を測定し、そして任意であるが、前記温度を、冷却機構または加熱機構により変化させることができる。144によって測定される温度が、ガス吸収断面積のデータベースにおいて定義される温度から大きくかけ離れて異なる場合、3つの選択肢がある:
(1)チャンバ104の温度を変更する、
(2)断面積のデータベースにおいて定義される温度を、周波数依存温度補正パラメータを使用することにより測定温度に調整する、または
(3)(1)及び(2)を組み合わせる。
【0027】
一つの非限定的な実施形態では、収集チャンバの内部のガス混合物の圧力は、ピストンチャンバ105に接続されるピストン106を使用することにより調整される。ピストン106が自由に移動し、かつピストン106の摩擦が無視できる場合、ピストン106は、収集チャンバの内部の圧力が装置の外部の大気圧に等しくなるまで移動する。
別の実施形態では、ピストン106は変形可能な膜であり、例えばバッグまたは蛇腹である。
【0028】
別の実施形態では、ピストン106は、測定チャンバ圧力を所望の値に、ピストンチャンバ105の容積を適切な態様で変更することにより意図的に変更するために使用される駆動装置に接続される。この機能は、混合物中の所定の検体に対する測定感度を最適化するために有用であるが、その理由は、周波数によって変わる分子断面積の形状が、圧力の関数として変化するからである。他の要素による好ましくない干渉の影響を最小にしながら、所定の検体に対する装置の感度を高める最適圧力を求めることが可能になる。
別の実施形態では、ポンプ116は、ファン、排出装置、またはガスを容器から取り出すことができる他のいずれかの装置、或いはこれらのいずれかの組み合わせに置き換えられる。
【0029】
図2は、継続的に流れるガスの成分を特定し、そして定量化するために使用される装置の別の実施形態を示している。この別の実施形態では、ガス流入口130は、ガスサンプルを引き込む箇所に配置される。サンプリングされたガスは、測定チャンバ104を通ってポンプ116に、130と116との間に生じる圧力差によって流入する。ポンプ116によって取り出されるガスは排出口117を通って出て行く。図1に示す離散的ガスサンプリング形態において説明される温度測定/制御装置114を設けることもできる。
【0030】
別の実施形態では、流入口102には、固体粒子または液体粒子、或いは所定のガスが測定チャンバ104に流入するのを防止する、または阻止することができるフィルタまたはいずれかの装置が配設される。
図2に示す流動ガス測定装置の別の実施形態では、流体バルブ131及び132のうちの少なくとも一つの流体バルブを配設する。これらのバルブは、ガス流の方向を制御するように構成されるチェックバルブまたはいずれかのバルブである。これらのバルブを使用して、測定チャンバへの流入の方向、及び測定チャンバからの流出の方向を制御する。
【0031】
図2に示す流動ガス測定装置の別の実施形態では、熱調整装置114を測定チャンバ104に取り付ける。この装置は、チャンバ104の内部の温度を測定し、そして任意であるが、前記温度を、冷却機構または加熱機構を使用することにより変化させることができる。114によって測定される温度が、ガス吸収断面積データベースにおいて定義される温度から大きくかけ離れて異なる場合、3つの選択肢がある:
(1)チャンバ104の温度を変更する、
(2)断面積のデータベースにおいて定義される温度を測定温度に、周波数依存温度補正パラメータを使用することにより調整する、または
(3)(1)及び(2)を組み合わせる。
別の実施形態では、ポンプ116は、ファン、排出装置、またはガスを容器から取り出すことができる他のいずれかの装置に置き換えられる。
【0032】
図3は、液体サンプルの成分を特定し、そして定量化するために使用される装置の別の実施形態を示している。この実施形態では、分析対象の複合液体混合物は、液体サンプルチャンバ143に、流入口144を通って導入される。チャンバ143は、当該チャンバ内の液体混合物が、2つのフラットチャンバ141及び142に流入することができるように構成される。前記チャンバ141及び142の壁は、適切な透明物質により構成される。光源109によって生成され、かつ測定チャンバ104に入射する光は、本質的に光源の性質に起因して直線偏光される、またはこの技術分野の当業者には公知の素子のような偏光板または偏光フィルタを使用することにより直線偏光される。従って、ブリュースター角で傾斜させた液体キャビティ141及び142の表面の法線を維持し、そしてこれらの法線を、キャビティ内の光の偏光に適切に一致させることにより、141及び142のチャンバ壁が、測定チャンバ104内の光をほとんど透過するようにすることができる。また、2つのチャンバを反対方向に向けることにより、通常のビーム経路を示す図3の104の内部のセグメント化された両向き矢印で示すように、104内の屈折効果を相殺する。測定チャンバ104の内部を排気して、当該チャンバ内で光の減衰が生じる場合には必ず、当該減衰の大部分が確実に、141及び142の内部の液体による吸収、及び測定チャンバミラー110及び111による不完全な反射に起因するようにする。
【0033】
図3に示す液体測定装置の別の実施形態では、熱調整装置114を測定チャンバ104に取り付ける。この装置は、チャンバ104の内部の温度を測定し、そして任意であるが、前記温度を、冷却機構または加熱機構を使用することにより変化させることができる。
【0034】
一旦、測定チャンバ104の内部のサンプリングされた混合物を分析する準備が整うと、既知の、または明確な周波数の単色光が光源109によって生成される。好適な実施形態では、光源109はCOレーザである。このタイプのレーザは非常に有用であるが、その理由は、主同位体COレーザが50を超える発光ラインを放出する場合の920cm−1〜1020cm−1の周波数範囲が、赤外線スペクトルの「フィンガープリント」領域の事前定義された高透過区間(highly−transparent interval)に収まるからである。シングルモード低圧COレーザは高単色性である、すなわち、リングダウンキャビティの基本光共振モードの結合を容易にするという特徴を有する。ガスレーザの所望の発光周波数の迅速な選択は、走査回折格子または他のいずれかの周波数決定装置を使用することにより行なわれる。周波数走査装置に対する制御を自動で行なって、発光周波数を所定の測定シーケンスに同期させることが好ましい。
【0035】
好適な実施形態では、音響光学変調器(AOM)119を使用して、光源109によって生成される光の強度を変化させる。好適な実施形態では、レンズシステム120は、COレーザによって生成されるTEM00モード光を、リングダウンキャビティのTEM00モード共振に一致させるように構成される。好適な実施形態では、レンズシステム120は、単一の凸放物線レンズまたは球面レンズであり、この場合、焦点距離の値、光源−レンズ間隔の値、及びレンズ−リングダウンキャビティ間隔の値は、レーザとリングダウンキャビティとの間のTEM00モード整合が最適化されるように選択される。
【0036】
リングダウンキャビティは測定チャンバ104の内部に配置される。リングダウンキャビティは、2つの高反射率ミラー110及び111によって構成され、これらのミラーの円形面の直径及び曲率半径によって、TEM00モード共振をこれらのミラーの間で発生させることができる。好適な実施形態では、ミラー110及び111は、測定チャンバ壁の切欠き領域内に収容されるので、光をリングダウンキャビティに入射させ、そしてリングダウンキャビティから出射させることができる。ミラー群と測定チャンバとの間を密閉することにより、サンプル混合物が測定チャンバから出て行く現象を防止する。好適な実施形態では、これらのミラーの間隔は、例えば一つの、または幾つかの圧電トランスデューサ(PZT)を使用することにより、少なくともミクロンの精度で微調整することができる。ミラー間隔は、好適には、サーボ制御を含むことができる自動機構によって、入射光周波数に対応する主TEM00キャビティ共振モードが励起されるまで調整される。
【0037】
キャビティミラーが入射光源光との共振を最大にするように調整されると、光パルスがリングダウンキャビティに送り込まれる。パルス強度が高くなっている期間は、当該パルスの光の一部がキャビティ内で共振する。従って、一旦、パルスが当該パルスの低強度期間に移行すると、キャビティミラー群の間に残留する光はリングダウンを開始する(指数関数的に減衰する)。減衰速度は、検出器112を使用して測定され、検出器112は、ミラー111の外側表面から漏れ出すキャビティ光のほんの一部分の強度を測定する。
【0038】
リングダウン測定をCOレーザ光源を使用して行なう検出器112の好適な実施形態は、入射光子の数に比例する電流を生成するHgCdTeのような光起電力半導体である。検出器112によって生成される時間変化電流は、比例電圧に変換され、この比例電圧が測定され、デジタル化され、そしてコンピュータ113に保存される。リングダウンが発生している間、測定電圧は指数関数的に減衰する。減衰時間τは、時間の関数としての測定電圧V(t)の減衰時間(最初の値の1/eになるために要する時間)として次式のように定義される:
(等式1)


上の式では、Vは減衰が始まる時点の電圧であり、そしてVは一定のバックグランドである。
【0039】
減衰時間は、キャビティミラー間隔L[cm]、レーザ周波数νにおけるキャビティミラーの無次元量の反射率R(ν)、光速c[cm s−1]、及び分析対象の未知混合物から判明する、周波数に依存する光学濃度k(ν)[cm−1]、及び測定チャンバ内の他のバックグランド検体から判明する、周波数に依存する光学濃度kbg(ν)[cm−1]に、次のキャビティの方程式で表わされるように関連付けられる:
(等式2)


減衰時間τは、一連の光源周波数に対応して順番に得られる。
【0040】
光源109の別の実施形態では、前記光源は、COの幾つかの異なる同位体を含むCOレーザである、または一連のCOレーザであり、各COレーザは異なる同位体を含み、かつ各COレーザで、選択レーザ光源からの光の選択を可能にする制御可能な回転ミラーのような素子を指している。複数の同位体を使用することにより、光源によって生成することができる単色発光ラインの数が増え、かつ光源の周波数範囲が広がる。例えば、先行技術が示唆するように;すなわち、IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol QE−18, No 8, 1982に掲載されたFreed, C.,による「CO同位体レーザの状況、及び調整可能なレーザ分光法におけるこれらのレーザのアプリケーション」と題する論文において示唆されるように、1418同位体を用いることにより、周波数範囲を下限の840cm−1にまで広げ、そして1218同位体を用いることにより、周波数範囲を上限の1120cm−1にまで広げる。複数の同位体を用いた線源を使用することにより、検出可能な検体に対する測定感度を高め、かつ当該検体の数を増やすことができる。
【0041】
光源109の別の実施形態では、前記光源は、パルス光を生成することができるので、変調器119が必要ではなくなり、かつ装置から取り外すことができる。
光源109の別の実施形態では、前記光源は、他のいずれかのタイプの広範囲な調整が可能なレーザであり、この場合、光周波数は、この技術分野で公知の方法によって十分正確に求めることができる。
レンズシステム120の別の実施形態では、前記レンズシステムは、一つのレンズ及び/又はミラー、または幾つかのレンズ及び/又はミラーのいずれかの組み合わせである。
【0042】
本発明の装置の別の実施形態では、自動減衰器118を光源の後ろに配置して、リングダウン測定のために生成されるパルス光の強度を調整する。光源がCOレーザである場合の光源109の好適な実施形態では、前記光源から放出される光は直線偏光されるので、減衰器118は自動回転式直線偏光板−分析器とすることができる。
装置の別の実施形態では、周波数逓倍結晶を、光源109とミラー110との間の或る箇所に挿入して、更に別の単色レーザ周波数群を生成する。
【0043】
吸収の分析
周期的に行なわれることが好ましい基準測定を使用して、等式2に含まれるパラメータのほとんどを消去するので、k(ν)をτ(ν)の測定値から抽出するという問題を簡略化する。基準測定を行なう場合、リングダウン時定数τ(ν)は、等式2を少し変形することにより表わすことができる、すなわち次式を得る:
(等式3)


上の式では、kbg(ν)は、基準測定に含まれる全ての検体の周波数νにおける合計吸収率を含む。この段階において、複合混合物に含まれ、かつ基準測定に含まれない成分に起因する光学濃度kの簡易表現式を、等式2及び等式3を合成することにより次式のように得ることができる:
(等式4)


上の式では、iは周波数を表わすインデックスである。
【0044】
図4は、微量ガスの複合混合物の成分を、図1、図2、または図3のいずれかに示す装置を利用して得られる測定値を使用して特定し、そして定量化するために使用されるアルゴリズムの好適な実施形態を示している。測定に使用される光源発光周波数は、どの特定の検体のピーク吸収周波数にも調整されることがないので、測定は前記検体に意図的に偏ってしまうということがない。従って、本装置及び本方法は、未知の複合混合物の複数の成分を偏りのない方法で特定し、そして定量化する目的に独自に適合している。
【0045】
ガス混合物に関して、所定の分子の吸収特性は、混合物中の検体の吸収ピークが光源発光周波数に直接重なることがない場合でも、合計混合物圧力が1気圧のように十分高い場合には測定することができる。これは、スペクトル線の波形を圧力の上昇とともに広げるように作用する圧力広がりの影響(pressure−broadening effect)に起因するが、圧力広がりの影響によって、所定のスペクトル範囲内で積分される合計吸収断面積が大幅に小さくなることはない。分子吸収スペクトルの波形は、各分子に固有であり、そして各レーザ周波数における合計光学濃度のベクトルを、各分子の光学濃度の線形重ね合わせとしてモデル化することができる。従って、インデックスiで表わされる所定のレーザ周波数では、合計光学濃度k[cm−1]は、各吸収検体jに対応して、周波数依存分子吸収断面積σij[cm 分子量−1]に分子濃度ρ[モル cm−3]を乗算した値の和である、すなわち次式により与えられる:
(等式6)

【0046】
所定の周波数における所定の分子の吸収断面積σijは、所定の圧力及び温度条件では一価である(同一の値である)。大気圧の種々の温度に対応して測定される吸収断面積の拡張ライブラリは、数百の注目化合物に関して編集されており、拡張ライブラリとして、例えばPPNLデータベース及びNISTデータベース(Applied Spectroscopy Vol 58, No 12, 2004に掲載されたSharpeらによる「定量赤外線分光法のガス相データベース」と題する論文)がある。更に詳細な圧力及び温度補正パラメータも、種々の分子に関する幾つかの研究グループによって測定されており、そしてこのデータは科学刊行物から入手することができる。
【0047】
分子による所定の周波数における吸収をモデル化するための吸収断面積の使用は、ガス相赤外線スペクトルの詳細分析に頻繁に使用されるライン−バイ−ラインモデル化法(line−by−line modeling methods)よりも簡単かつ高速のアプローチである。所定の温度及び圧力では、各レーザ周波数における各吸収検体の吸収断面積は、関連検体の正確な定量化を実現するための十分な情報となる。これとは異なり、仮に普通のライン−バイ−ライン法が使用されるとすると、ライン中心、ライン強度、及び温度/圧力広がりパラメータについての正確な知識が、関連の周波数、圧力、及び温度における光学濃度を計算するために、混合物中の吸収検体の全てに関して必要となる。ライン−バイ−ライン吸収線パラメータは、少数の微小分子に関してしか定義されていないので、吸収断面積の使用は、複合混合物の分析に必要となる。
【0048】
図4に示すように、分析アルゴリズムのステップ201では、基準測定検体に対するリングダウン減衰時間(i=1〜Nとした場合のτ)の測定、及び分析対象の微量検体の混合物に対するリングダウン減衰時間(i=1〜Nとした場合のτ)の測定を、N個のレーザ波長で行なう。所定のレーザ周波数では、混合物中の検体から基準測定に含まれる検体が差し引かれることに起因する合計光学濃度kは、等式4で与えられる。M個の未知の検体がセル内に含まれると仮定すると、レーザ線iの吸収率は、各検体の影響度の合計として表わすことができる、すなわち等式6で表わすことができる。等式6を表わすための簡便な方法では、吸収断面積σij[cm 分子量−1]をkijに、すなわち次式により表わされる基準光学濃度に置き換える:
(等式7)


上の式では、Nは、所定の圧力及び温度における立方センチメートル当たりの合計分子数(合計分子数/cm)である。従って、所定の周波数における合計光学濃度は次式により表わすことができる:
(等式8)


上の式では、nは、部分的な検体濃度、すなわちアルゴリズムがベクトルを計算するように設計される場合の計算対象のベクトルである。
【0049】
最良の一致を示す(best−fit)nを導出する問題は、線形方程式y=Kx+εの解を導出する問題に簡略化することができ、yは以下の等式により表わされる要素により構成される測定ベクトルである:
(等式9)


上の式では、xは、フィッティングさせようとしている検体濃度のベクトルである、すなわちx=nであり、Kは要素kijから成る行列であり、そしてεは、測定誤差を表わす。混合物中の検体の濃度の推定因子となる線形方程式の最小自乗解は次式により表わされる:
(等式10)


上の式では、Sは測定誤差の共分散である。測定誤差は普通、分散σで分布すると仮定され、σは、各レーザ線iに関して定義することができる。行列Sにはこのように、行列の対角成分に要素σが入っており、この場合、非対角成分にゼロの要素が入っているが、その理由は、個々の測定誤差に相関がないと仮定しているからである。
【0050】


に関して更に正確な結果を得るために援用することができる最小二乗解の方程式の最新版は、xベクトル要素の自明な確率分布関数(PDF)、種々の検体の濃度の間の確率的な関連性、及びK行列吸収断面積の不確定性を含むことができる。しかしながら、これらの更に高機能の解決策は基本的には同じ手法であり、そして本発明においては、汎用モデルを使用する場合にはどのような制限も全く前提とされない。
【0051】
一旦、ステップ201のリングダウン時間測定値が得られ、そして対応する測定ベクトルyが導出されると、測定チャンバ内に最も高い確率で存在する検体を特定し、そして定量化する繰り返しプロセスを開始することができる。ステップ202では、M個の検体、及びこれらの検体の推定濃度から成る第1推定モデルを定義し、そして各レーザ周波数におけるこれらの検体の基準光学濃度を初期K行列の列に入力する。次に、ステップ203では、M検体モデルにおける各検体の最も高い確率で検出される濃度を計算する。この計算は、例えば等式10に示す線形方程式の最小二乗解を使用して、各検体の推定濃度である要素を持つベクトル


を計算することにより行なうことができる。
【0052】
ステップ204では、P個の新規モデルを、P個の検体に対応する基準光学濃度パラメータを含むデータベースを繰り返し検索することにより生成する。P番目の検体が既に、M検体モデルの一部である場合、P番目のモデルは、P番目の検体が削除された状態のM検体モデルとして定義される、すなわちP番目のモデルは、M=M−1検体モデルとなる。それ以外の場合、P番目の検体をM検体モデルに追加することにより、P番目のモデルは、M=M+1検体モデルとなる。P個のモデルの各モデルにおける各検体に関して最も良く一致する濃度が次に導出される。
【0053】
ステップ205では、測定ベクトルに最も良く一致するモデルを保持し、そして他のモデルを廃棄する。一致度(goodness−of−fit)は、自由度(エントロピー)をモデルに取り入れたフィットパラメータを計算することにより推定することができ、この自由度はこの場合、nベクトルに含まれる検体の合計数に関連付けられる。赤池の情報量基準(Akaike Information Criterion:AIC)のように、エントロピーを用いた一致度指標をこの目的に使用することができる(IEEE Transactions on Automatic Control 19(6): 716−723に掲載された赤池弘次(1974)による「統計的モデル評価に関する新規見解」と題する論文)。エントロピーを用いた一致基準を使用する場合、検体を削除することによって、モデルの測定値との一致度を高めることができるが、通常は、検体を追加することによって一致度が高まる。
【0054】
ステップ206では、新規モデルの一致度推定手段が、モデルのこれまでの繰り返しに際する一致度推定手段よりも良い一致度を示す場合、アルゴリズムはステップ204に進み、このステップでは、別の検体をモデルに追加して(または、モデルから削除して)、一致度を更に高める。これとは異なり、新規モデルによって測定ベクトルに対するモデルの一致度が高くならない場合、アルゴリズムはステップ207に進むが、その理由は、更に別の値が、検体をモデルに追加する、またはモデルから削除することによって得られないからである。このポイントで、最良の一致度を示す検体、及びこれらの検体の濃度をユーザに提示する。モデル化された吸収率と測定された吸収率との間の残留率のチェックがこのポイントで行なわれる。残留率が、計測手段の測定ノイズよりも大きい場合、またはモデルに含まれない更に別の検体の存在を示唆する残留吸収パターンが測定される場合、特徴的吸収スペクトルを含む2番目に大きいデータベースにクエリを発行することにより、混合物に含まれる可能性のある更に別の検体を確認することができる。
【0055】
例1:静止ガスの測定
図1に示す装置の好適な実施形態を使用する場合、バルブ103及び108を閉じ、そしてバルブ115を開く。次に、測定チャンバ104を、ポンプ116を使用して排気する。好適な実施形態では、一旦、適切に低い測定チャンバ圧力に達すると、バルブ108を閉じ、そして一連のリングダウン測定を次に、節IIにおいて説明した方法で行なう。これらの測定に基づいて、リングダウン時定数τ(ν)が一連の光源周波数に対応して連続的に得られる。測定された基準ガス減衰時定数及び複合ガス混合物減衰時定数に基づいて、光学濃度k(ν)は、一連の光源周波数に対応して、等式4を使用して計算することができる。この実施形態において、等式2及び等式3ではkbg(ν)=0が成り立つことに留意されたい。
【0056】
基準測定法の別の実施形態では、基準測定は、排気キャビティのリングダウン時間を測定するのではなく、基準ガスシリンダ107からのガスを、測定チャンバ104に導入することにより行なわれる。これを行って妨害物質検体による影響を光学濃度測定から取り除くことにより、関連検体に対する感度を高める。この実施形態を使用して基準測定を開始するために、バルブ103及び108を閉じ、そしてバルブ115を開く。次に、測定チャンバ104を、ポンプ116を使用して排気する。バルブ115を次に閉じ、そしてバルブ108を開いて、基準ガス容器107からのガスの流出、及び測定チャンバ104へのガスの流入を可能にする。基準ガス容器107内のガスは、いずれかの既知のガス混合物を含むことができる。測定チャンバ内の基準ガスの圧力及び温度が、節Iで説明した方法で測定され、そして調整されると、次に一連のリングダウン測定を節IIで説明した方法で行なう。これらの測定に基づいて、リングダウン時定数τ(ν)が一連の光源周波数に対応して連続的に得られる。測定された基準ガス減衰時定数及び複合ガス混合物減衰時定数に基づいて、光学濃度k(ν)は、一連の光源周波数に対応して、等式4を使用して計算することができる。この実施形態では、等式2及び等式3に含まれるkbg(ν)が、基準セルに含まれるガスの全てに基づいて合成される光学濃度を表わすことに注目されたい。
【0057】
呼気測定の検体検出感度を高めるこの方法の有用性を以下に例示する。この場合、シリンダ107内の基準混合物は、ヒトの呼気に含まれる主要ガス、すなわちN,O,CO,HO,及びNHの代表的な混合物を、通常の呼気濃度で含む。前のリストに含まれる赤外線吸収検体、すなわちCO,HO,NHは、医療診断において注目される微量ガス検体よりもずっと高い濃度で存在する。実際、これらのガスは通常、通常の呼気混合気における合計光学濃度の99%を超える部分を表わす。これらのガスを基準測定に取り込むことにより、測定光学濃度k[cm−1]に対するこれらのガスの影響の大部分を取り除く。これにより、合計信号に対する微量ガスの相対影響度を高め、そしてこれらのガスに関して導出される濃度の不確定性を小さくする。これは、光学濃度k(すなわち、VOC)を持つ注目微量ガス、及び光学濃度kを持つバッファガス(すなわち、CO)から成る簡易2ガスモデルを使用することにより示すことができる。簡易誤差伝播計算から、得られる微量ガス濃度n[ppbv]の相対誤差が、2つのガスの吸収断面積の相対不確定性e及びe、及びバッファガス部分の吸収率に、次式で表わされるように関連付けられる:
(等式5)

【0058】
例えば、α=0.99である場合、収集微量ガス濃度に対する断面積不確定性eによる影響度は、約100倍大きくなる。バッファガス部分の実効濃度を半分だけ減らすと(これには、基準シリンダが分析対象の混合気中のバッファガスの量の99%を含む必要がある)、誤差の影響度は100倍ではなく1倍に小さくなる。上述の不確定性計算は単純化モデルであり、この単純化モデルでは、スペクトルポイントが1つだけであると仮定するが、この単純化モデルは、基準測定を、混合物の組成が定量化対象の複合混合物の組成に近い状態で行なうことの有用性を示している。
【0059】
基準測定法の別の実施形態では、図1に示す装置から基準ガスシリンダ107が取り外されている。この場合、基準ガスは単なる大気である。基準測定をこの実施形態を使用して開始するために、バルブ103及び108を閉じ、そしてバルブ115を開く。次に、測定チャンバ104を、ポンプ116を使用して排気する。次に、バルブ115を閉じ、そしてバルブ108を開くことにより、バルブ108の外の大気が、測定チャンバ104に、大気と測定チャンバとの圧力勾配に起因する吸引力を利用して流入することができる。測定チャンバ内の基準ガスの圧力及び温度が、節Iにおいて説明した方法で測定され、そして調整されると、次に一連のリングダウン測定が、節IIにおいて説明した方法で行なわれる。これらの測定から、リングダウン時定数τ(ν)が、一連の光源周波数に対応して連続的に得られる。測定基準ガス減衰時定数及び複合ガス混合物減衰時定数に基づいて、光学濃度k(ν)を一連の光源周波数に対応して等式4を使用して計算することができる。この実施形態では、等式2及び等式3に含まれるkbg(ν)は、収集大気サンプル中の検体の全てに基づいて合成される光学濃度を表わすことに留意されたい。
【0060】
例2:流動ガスの測定
図2に示すガス流測定形態を使用する場合、基準測定は、前記ガス流の組成が既知である場合に1度に行なわれるガス流の測定である。既知の組成のガスが、測定チャンバを通って流れる場合、一連のリングダウン測定は、節IIにおいて説明した方法で行なわれる。これらの測定から、リングダウン時定数τ(ν)が、一連の光源周波数に対応して連続的に得られる。測定基準ガス減衰時定数及び複合ガス混合物減衰時定数に基づいて、光学濃度k(ν)を一連の光源周波数に対応して等式4を使用して計算することができる。この実施形態では、等式2及び等式3に含まれるkbg(ν)は、既知の流動基準ガスの中の検体の全てに基づいて合成される光学濃度を表わすことに留意されたい。
【0061】
例3:液体の測定
図3に示す液体測定形態を使用する場合、基準測定は、チャンバ141及び142の内部に液体が無い状態で行なわれる測定である。液体は、前記チャンバから、容器143から排出口144を使用して排液することにより取り出される。次に、一連のリングダウン測定が、節IIにおいて説明した方法で行なわれる。これらの測定から、リングダウン時定数τ(ν)が、一連の光源周波数に対応して連続的に得られる。測定基準ガス減衰時定数及び複合ガス混合物減衰時定数に基づいて、光学濃度k(ν)を一連の光源周波数に対応して等式4を使用して計算することができる。この実施形態では、等式2及び等式3に含まれるkbg(ν)はkbg(ν)=0であることに留意されたい。
【0062】
液体用基準測定の別の実施形態では、基準測定は、チャンバ141及び142内の既知の組成の液体、例えば純水による吸収率を測定することにより行なわれる。この測定は、複合混合液を容器143から排出口144を使用して完全に排液し、次に前記容器及びチャンバに既知の組成の基準液を排出口144を使用して再充填することにより行なうことができる。次に、一連のリングダウン測定が、節IIにおいて説明した方法で行なわれる。これらの測定から、リングダウン時定数τ(ν)が、一連の光源周波数に対応して連続的に得られる。測定基準ガス減衰時定数及び複合ガス混合物減衰時定数に基づいて、光学濃度k(ν)を一連の光源周波数に対応して等式4を使用して計算することができる。この実施形態では、等式2及び等式3に含まれるkbg(ν)は、検体の全てが基準液に含まれることにより得られる光学濃度であることに留意されたい。
【0063】
本発明の特定の実施形態についてこれまで説明してきたが、他の実施形態を本発明の範囲内で用いることができ、そして他の実施形態が本明細書に含まれるべきものであることを理解されたい。この技術分野の当業者にとっては、説明されていない本発明の変形、及び本発明に対する調整が、例示的な実施形態を通して示される本発明の思想から逸脱しない限り可能であることが明らかであろう。従って、本発明は、添付の請求項の範囲によってのみ限定されると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体サンプル中の、またはガスサンプル中の化合物の存在を検出する装置であって、
− 複数の離散的な単色周波数を放出することができる電磁放射光源と
− パルスを前記電磁放射光源から発生させる手段と
− キャビティ増幅測定チャンバとを備え、測定チャンバは、
− 前記電磁放射光源の前記パルスのうちの少なくとも一つのパルス、及び
− 前記液体サンプルまたはガスサンプル
を受け入れることができ、さらに、
− 前記キャビティ増幅測定チャンバに含まれる少なくとも一つの化合物によって生じる光減衰の量に関連する物理パラメータを測定することができる検出器と、
− 前記検出器による前記測定の結果をデジタル信号に変換する手段と、
− 前記手段とデジタル通信して、前記検出器による前記測定の結果をデジタル信号に変換するコンピュータとを備え、
前記コンピュータは、複数の離散的な単色周波数における光減衰の量に関連する物理パラメータの測定結果を、既知の化合物に関連付けられる既知の物理パラメータのデータベースと比較する、装置。
【請求項2】
前記電磁放射光源はガスチューブレーザである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
ガスチューブレーザはCOレーザである、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
液体サンプルまたはガスサンプルは生体サンプルである、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
生体サンプルは動物またはヒトの呼気サンプルである、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
キャビティ増幅測定チャンバは、複数の単色電磁周波数で共振することができる、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
複合サンプルの電磁波吸収率を分析する方法であって、
A)初期モデルで使用されるM個の検体を定義するステップであって、Mは0を含むいずれの整数とすることもできる、前記定義するステップと、
B)M個の検体、及びこれらの検体の濃度nから成る初期モデルQを定義するステップと、
C)Qモデルにおける各検体の濃度nであって、各検体の吸収率測定ベクトルyに基づいて計算される濃度nの初期推定を行なうステップと、
D)モデルQに対する少なくとも一つの光吸収検体の体系的追加または削除を、P個の既知の検体のデータベースを巡回することにより行なって、P個の新規モデルQ〜Qを生成するステップと、
E)測定ベクトルとのモデルQの一致度を、yとのモデルQ〜Qの一致度と比較するステップであって、各モデルに関して最良の一致を示す濃度が、ステップCにおいて記述される方法を使用して得られる、前記比較するステップと、
F)yと比較され、かつQ〜Qモデルのうちの最良の一致を示すモデルの一致度が、yとのQの一致度よりも高い場合に、Qモデルのうちの最良の一致を示すモデルをQとして定義するステップと、
G)検体をモデルに追加する、またはモデルから削除することによって測定ベクトルyとのモデルの一致度を向上させるということができなくなるまで、ステップD〜Fを繰り返すステップと
を含む方法。
【請求項8】
モデルにおける各検体の濃度nの推定は、直接逆最小二乗推定(direct inverse least−squares estimation)を使用して行なわれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
一致度は、赤池の情報量基準(Akaike Information Criterion:AIC)を使用して推定される、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−11620(P2013−11620A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−204303(P2012−204303)
【出願日】平成24年9月18日(2012.9.18)
【分割の表示】特願2009−541712(P2009−541712)の分割
【原出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(509172686)ピコモル インストゥルメンツ インク. (2)
【Fターム(参考)】