説明

材料のレーザ加工を行うための装置および方法

光放射線(7)によって材料(8)のレーザ加工を行うための装置が、シード・ポンプ(2)により励起されるシード・レーザ(1)と、増幅器ポンプ(4)により励起される増幅器(3)と、コントローラ(5)と、スキャナ(6)とを備え、コントローラ(5)は、シード・ポンプ(2)、増幅器ポンプ(4)およびスキャナ(6)を互いに同期させながら制御し、これによって、シード・レーザ(1)により放射される光パルス(10)が、増幅器(3)を通して伝播され、スキャナ(6)によって材料(8)に向けられるようになり、この装置は、光放射線(7)が第1の電力の範囲内にあるときに、コントローラ(5)が、増幅器(3)を光減衰器として動作させるべく増幅器ポンプ(4)を制御し、出力電力が第2の電力の範囲内にあるときに、コントローラ(5)が、増幅器(3)を光増幅器として動作させるべく増幅器ポンプ(4)を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料のレーザ加工を行うための装置および方法に関する。
【0002】
不変のパルス形状およびパルスタイミングと共に非常に広いダイナミックレンジを必要とするパルスレーザに関して、多数の応用分野が存在する。このような応用分野の好ましい例が、印刷機用のローラーを加工することである。これらの印刷機は、印刷ローラーにマークを付けるために使用されるような高い平均電力を有するレーザを必要とする。複数のパルスにおける電力は、要求される印刷分解能を達成するために精度良く変化することが必要である。レーザのダイナミックレンジが広くなるほど、ある特定のレーザにより修理され得るプリント・ホイール(print wheel)の範囲が広くなる。不変のパルスタイミングおよび予測可能なパルス形状を提供することができない場合、印刷品質が低下する。
【背景技術】
【0003】
上記のような従来技術のパルスレーザに対する解として、出力電力を減衰させるための外部変調器を具備する連続波レーザ(例えば、二酸化炭素レーザまたはファイバレーザ)を使用することが考えられる。この外部変調器は、代表的に、レーザビームを適宜ゲート制御したり弱めたりするための音響光学変調器(acousto−optic modulator)である。
【0004】
残念なことに、従来技術のパルスレーザにおいては、パルス電力が変化するにつれて、パルス形状が不鮮明になり、且つ、パルスが遅延する。代替的に、長パルスを出力するファイバレーザが使用されている。しかしながら、長パルスは、ダイナミックレンジに制限を加えている。これによって、(1インチ当たりのライン数により規定される)印刷分解能、および、印刷対象の材料の単位面積当たりに転送されるインクの量に制限が生ずる。この結果、印刷品質が低下する。それゆえに、それぞれ異なる印刷分解能でマークを付けるための多数のレーザを備えることが必要になる。上記のような応用分野に使用される従来技術のレーザは、代表的に、100W(ワット)と500Wとの間の出力電力を有する。この場合、出力電力の大きさのダイナミックレンジは20dB(デシベル)未満である。しかしながら、このダイナミックレンジを少なくとも30dBにまで増加させるほうが有利であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,826,335号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、前述のような従来技術の問題点を解消することができるような材料のレーザ加工を行うための装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の非制限的な実施態様において、シード・ポンプ(seed pump)により励起される(pumped)シード・レーザと、増幅器ポンプ(amplifier pump)により励起される増幅器と、コントローラと、スキャナとを備えるような材料のレーザ加工を行うための装置が提供される。この装置において、コントローラは、シード・ポンプ、増幅器ポンプおよびスキャナを互いに同期させながら制御し、これによって、シード・レーザにより放射される光パルスが、増幅器を通して伝播され、スキャナによって材料に向けられるようになる。この装置は、光放射線が第1の電力の範囲内にあるときに、コントローラが、増幅器を光減衰器として動作させるべく増幅器ポンプを制御し、また一方で、出力電力が第2の電力の範囲内にあるときに、コントローラが、増幅器を光増幅器として動作させるべく増幅器ポンプを制御することを特徴としている。
【0008】
好都合なことに、本発明は、改善されたダイナミックレンジを可能にする。この点は、許容ある生産力でもって、粗い形状により特徴付けられる品目を機械加工するために、定格動作範囲(平均電力、ピーク電力およびパルス・エネルギ)の最大限界でレーザを使用する場合に、マイクロ材料の加工を行う際の製造上の環境および適用製品に関して重要な利点になり得る。また一方で、上記の点によって、非常に低い平均電力、低いピーク電力および非常に低いパルス・エネルギがマイクロ材料の加工要件である場合に、定格動作範囲の下端で、細かい形状により特徴付けられる品目を加工することも同様に可能になる。本発明は、少なくとも3桁のオーダーの出力電力の大きさ(30dB)に相当するダイナミックレンジを提供することが可能である。これに対して、本発明に係る構成および動作がなされていないレーザおよび主発振器を有する電力増幅器に関しては、代表的に、2桁未満のオーダーの出力電力の大きさ(20dB)に相当するダイナミックレンジを提供するにすぎない。
【0009】
印刷ローラーにマーカーを付けることに関していえば、スキャナは、好ましくは、レーザビームに対して印刷ローラーを走査するための機械的ユニットである。代替的に、または、付加的に、スキャナは、検流計および反射器を有することが可能である。印刷ローラーに関していえば、この印刷ローラーの用語は、例えば、セラミック印刷ローラー、アニロックス(anilox)印刷ローラー、インク転送ローラー、文字を印刷するための印刷ローラー、または、印刷ローラーに付随している文字を印刷するためのシートといったように、適用製品を印刷するためのローラーを意味するものである。
【0010】
コントローラは、コンピュータのコントローラであってよい。好ましくは、コントローラは、電気的駆動電力が第1の電力の範囲内にあるときに、この電気的駆動電力の増幅器ポンプへの供給を停止させるためのスイッチ(例えば、リレーまたはトランジスタ)を有することが可能である。
【0011】
シード・レーザは、クラッディング励起のファイバレーザを有することが可能である。このクラッディング励起のファイバレーザは、希土類ドーパントを含んでよい。この希土類ドーパントは、イッテルビウムであってよい。代替的に、または、付加的に、シード・レーザは、エルビウム、ツリウム、ホルミウムまたはネオジムを含むことが可能である。
【0012】
増幅器は、クラッディング励起のファイバ増幅器を有することが可能である。このクラッディング励起のファイバ増幅器は、希土類ドーパントを含んでよい。この希土類ドーパントは、イッテルビウムであってよい。代替的に、または、付加的に、シード・レーザは、エルビウム、ツリウム、ホルミウムまたはネオジムを含むことが可能である。
【0013】
本発明の装置は、さらに、少なくとも1つの付加的な増幅段を備えることが可能である。代替的に、または、付加的に、この装置は、さらに、吸収体または可飽和吸収体を備えることが可能である。この可飽和吸収体は、遅延を発生させ得る。この装置は、さらに、遅延を補償するための可変遅延部を備えることが可能である。
【0014】
本発明はまた、材料のレーザ加工を行うための方法であって、本発明の装置を提供するステップと、レーザ放射線を材料に当てるステップとを有する方法を提供する。この材料は、印刷ローラーであってよい。
【0015】
以下、非限定的な例に基づいて、添付の図面を参照しながら本発明の実施形態(実施例)を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る材料のレーザ加工を行うための装置を示すブロック図である。
【図2】本発明以外の装置におけるパルス形状を示す図である。
【図3】本発明により取得されるパルスの例を示す図である。
【図4】欠けているパルス(missing pulses)の例を示す図である。
【図5】ノイズの多いパルスの例を示す図である。
【図6】本発明により提供されるダイナミックレンジの拡大の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
好ましい実施例
図1は、光放射線7によって材料8のレーザ加工を行うための本発明の装置を示すブロック図である。図1の装置は、シード・ポンプ2により励起されるシード・レーザ1と、増幅器ポンプ4により励起される増幅器3と、コントローラ5と、スキャナ6とを備えている。ここで、コントローラ5は、シード・ポンプ2、増幅器ポンプ4およびスキャナ6を互いに同期させながら制御し、これによって、シード・レーザ1により放射される光パルス10が、増幅器3を通して伝播され、スキャナ6によって材料8に向けられるようになる。図1の装置は、光放射線7が第1の電力の範囲61内にあるときに、コントローラ5が、増幅器3を光減衰器として動作させるべく増幅器ポンプ4を制御し、また一方で、出力電力が第2の電力の範囲62内にあるときに、コントローラ5が、増幅器3を光増幅器として動作させるべく増幅器ポンプ4を制御することを特徴としている。第1の電力の範囲61および第2の電力の範囲62は、後で図6を参照しながら説明する。これらの第1および第2の電力の範囲は、互いに重なり合ってよい。電力増幅器2は、好ましくは、希土類ドーパントがドーピングされた二重クラッド光ファイバ19を有している(図示されていない)。
【0018】
改善されたダイナミックレンジを達成することを可能にする点は、許容ある生産力でもって、粗い形状により特徴付けられる品目を機械加工するために、定格動作範囲(平均電力、ピーク電力およびパルス・エネルギ)の最大限界でレーザを使用する場合に、マイクロ材料の加工を行う際の製造上の環境および適用製品に関して重要な利点になり得る。また一方で、上記の点によって、非常に低い平均電力、低いピーク電力および非常に低いパルス・エネルギがマイクロ材料の加工要件である場合に、定格動作範囲の下端で、細かい形状により特徴付けられる品目を加工することも同様に可能になる。図1に示す本発明の装置は、3桁のオーダーの出力電力の大きさまたはそれ以上の大きさに相当するダイナミックレンジを提供することが可能である。これに対して、本発明に係る構成および動作がなされていないレーザおよび主発振器を有する電力増幅器に関しては、代表的に、2桁未満のオーダーの出力電力の大きさに相当するダイナミックレンジを提供するにすぎない。
【0019】
材料8は、例えば、アニロックス処理(Anilox process)において使用されるような印刷ローラーである。印刷ローラーにマーカーを付けることに関していえば、スキャナ6は、好ましくは、レーザビームに対して印刷ローラーを走査するための機械的ユニットである。代替的に、または、付加的に、スキャナ6は、検流計および反射器を有することが可能である。
【0020】
コントローラ5は、コンピュータのコントローラであってよい。ここで、コントローラ5は、電気的駆動電力が第1の電力の範囲61内にあるときに、この電気的駆動電力の増幅器ポンプ4への供給を停止させるためのスイッチ14を有することが可能である。このスイッチ14は、例えば、リレーまたはトランジスタである。
【0021】
コントローラ5は、複数のパルス11を含む制御信号17を遅延させるための可変遅延部15を有することが可能である。好ましくは、遅延された制御信号は、増幅器3が自己Qスイッチング(self−Q−switching)を開始するのを回避するために、シード・レーザ1および増幅器3の両方に供給されるであろう。複数のパルス11は、互いに異なる振幅12を有することが可能である。
【0022】
図2は、200W、180W,160W、140W、120W、100W,80W、60Wおよび40Wの連続波による等価出力電力に対応する種々の設定点におけるレーザ出力の変調によってそれぞれ生成されるパルス21、22、23、24、25、26、27、28および29を示す図である。シード・レーザ1は、イッテルビウムがドーピングされ且つ約1070nm(ナノメートル)で動作するクラッディング励起のファイバレーザであり、二重クラッド光ファイバ(図示されていない)と、2つの光ファイバ・ブラッグ・グレーティング(optical fibre Bragg gratings)(図示されていない)とを有している。増幅器3は、イッテルビウムがドーピングされたクラッディング励起のファイバレーザである。図2に示されている出力のパルス形状は、増幅された状態のシード・レーザ2からの最初の緩和振動に対応している。パルスのピーク電力の変化、ひいては、パルス・エネルギの変化は、本発明を使用しなくても、各々の一連の測定においてシード・ポンプ2および増幅器ポンプ4の両方の出力電力を減少させることによって得られる。図2から明らかなように、パルスのピーク電力が低下するにつれて、パルスが遅延し、且つ、パルス形状が不鮮明になる。
【0023】
図4および図5に例示されているような他の問題は、上記のような従来の動作によってパルス電力を減少させた場合に、パルス形状が不鮮明になるのみでなく、欠けているパルスまたはノイズの多いパルスが生ずることである。図4において、シード・ポンプ2および増幅器ポンプ4に対する制御信号41は、結果的に、この制御信号41と同じ繰り返し周波数で出力パルスを生成しなければならない。しかしながら、図4から明らかなように、パルスの欠落(欠けているパルス)が生じている。これは、出力電力が低い場合のパルス列においては、緩和振動を生成するためにシード・レーザ1に保存されるエネルギが不十分であり得ることに起因している。欠けているパルスの状態が発生した場合、対応するパルス・エネルギは次のパルスまで保存されるので、次のパルスに関しては、スレッショールドより高いレベルにてレーザをトリガするために十分なパルス・エネルギが得られるようになる。これに関連する問題は、ノイズの多いパルスの問題である。シード・レーザがスレッショールドのすぐ上のレベルで動作している場合に、ノイズの多いパルスが生ずるという問題である。このような問題は、図5に示されている。図5から明らかなように、パルス52は、図2および図3に示されているパルスよりもはるかにノイズが多い。欠けているパルスまたはノイズの多いパルスが生ずる場合の出力電力は、ダイナミックレンジに関する事実上の下限を提供する。
【0024】
図3は、本発明による結果として生ずるパルスの例を示す図である。パルス形状31(左側の軸33を参照のこと)は、第2の電力の範囲62内にある増幅器3によって得られる。この第2の電力の範囲62内において、増幅器3は、約3dBの大きさの信号増幅でもって動作する。パルス形状32(右側の軸34を参照のこと)は、第1の電力の範囲61内にある増幅器3によって得られる。この第1の電力の範囲61内において、増幅器3は、約1dBの減衰でもって動作する。パルス形状31、32は、実質的に同じである。重要なことではあるが、本発明に係る装置は、欠けているパルスまたは非常にノイズの多いパルスが生ずることなく、従来の動作モードの場合よりも低い出力電力で動作する。これは、等価出力電力に関していえば、シード・レーザ1が第1の電力の範囲内で動作する場合、第2の電力の範囲内で動作する場合よりも確実に当該シード・レーザ1が駆動されるためである。かくして、ダイナミックレンジが拡大していく。
【0025】
図3に示されている2つのパルス形状はほぼ同一であるけれども、図面中の2つのパルスが互いに重なり合うようにするために、パルス形状31が遅延されている点に注意すべきである。これは、図2に示すように、パルスのターンオンの遅延が駆動電力によって変化するためである。したがって、それぞれ異なる電力レベルを有する複数のパルスの同期が要求される場合、コントローラ5は、可変遅延部15を有することが望ましい。可変遅延部15は、内部でレーザに対して制御され、可変遅延部15による時間遅延の結果が外部に供給され得る。
【0026】
本発明に係る装置が有効な出力を提供し得るダイナミックレンジは、増幅器3の大きなダイナミック信号の増幅の範囲を増加させることによって、さらに拡大することが可能である。このようなダイナミックレンジのさらなる拡大は、第2の電力の範囲62にて最大増幅を増加させるために付加的な増幅段を使用することによって達成され得る。代替的に、または、付加的に、上記のダイナミックレンジのさらなる拡大は、第1の電力の範囲にて有効な減衰を増加させるために吸収体または可飽和吸収体を挿入することによって達成され得る。吸収をブリーチ(bleach)するために必要な時間に相当する可飽和吸収体を含むパルスに関していえば、この可飽和吸収体は、付加的な時間遅延(図示されていない)を発生させるであろう。希土類ドーパントがドーピングされた光ファイバ19は、この光ファイバが励起されていないときに、可飽和吸収体として動作する。かくして、電力増幅器3は、実際に、この電力増幅器が励起されているときに、増幅器として動作し、この電力増幅器が励起されていないときに、減衰器および可飽和吸収体として動作するであろう。
【0027】
例1
この本発明の例において、装置は、2段の主発振器を有する電力増幅器であって、シード・レーザ1と、電力増幅器3とを具備している。ここで、シード・レーザ1と電力増幅器3との間での光電力の分配の比は、約1:2(1対2)である。ポンプ2、4は、レーザダイオードとして実現される。それゆえに、200Wのレーザシステムにおいて、シード・レーザ1は、全体の出力に対して約66Wの電力で貢献し、また一方で、電力増幅器3は、公称の定格電力を達成するために133Wの電力を付加するであろう。
【0028】
標準動作モードにおいては、シード・レーザ1および電力増幅器3の両方が励起されており、シード・レーザ1および電力増幅器3の両方を励起するポンプダイオード(ポンプ2、4)が、互いに同期して動作する。ここで、ポンプ2、4により2段の増幅段にそれぞれ供給される電力を互いに比例して変化させることによって、出力電力が制御される。
【0029】
代表的に、ポンプダイオードの電流は、印刷ローラー(または、他のワークピース)に対して要求されるパラメータ特性を有する出力パルス列を生成するために、高速にて変調される。
【0030】
シード・レーザ1は、レーザキャビティ(laser cavity)を生成するために、二重クラッドファイバ(すなわち、二重クラッド光ファイバ)と、ファイバ・ブラッグ・グレーティング(fibre Bragg gratings)とを有している。さらに、電力増幅器3は、二重クラッド光ファイバ19を使用している。この二重クラッド光ファイバは、側面励起のファイバ(図示されていない)を介して側面励起されることが好ましい。この側面励起のファイバは、その長さ方向に沿って徐々に二重クラッド光ファイバ内で電力を結合させる。側面励起のファイバにより励起されるような二重クラッド光ファイバに基づいた光増幅器は、前述の先行技術文献である米国特許第6,826,335号においてより詳細に記述されている。この米国特許第6,826,335号の開示内容は、本明細書中で引用されることにより、本明細書に組み込まれている。
【0031】
側面励起のファイバの直径は、レーザの電力定格に従って最適化されてよい。特に、シード・レーザ1に対する側面励起のファイバの直径は、好ましくは、電力増幅器3に対する側面励起のファイバの直径よりも小さい。
【0032】
好ましくは(ただし、本質的にではない)、シード・レーザ1は、活性ファイバ(active fibre)(例えば、イッテルビウム(Yb)がドーピングされたコアまたは類似のもの)の直径が約125μm(ミクロンメートル)であり、且つ、ポンプファイバ(pump fibre)(ポンプダイオードの電力をキャビティ内に注入するための純シリカファイバ)の直径が125μmであるような二重クラッドファイバを有することが可能である。
【0033】
電力増幅段(電力増幅器)3からの望ましい電力レベルを達成するために、且つ、より高いポンプダイオードの電力が、必要以上の光学的損失を生じさせることなく増幅器内で効率良く結合されることを可能にするために、この電力増幅段3に含まれる二重クラッド光ファイバ19は、比較的大きなポンプファイバ(例えば、直径200μm)を必要とするかもしれない。さらに、活性ファイバ(二重クラッド光ファイバ19)は、通常、シードソース(seed source)における活性ファイバと同じ設計により作製され、且つ、シードソースにおける活性ファイバと同じ寸法を有している。
【0034】
下記の表1は、アニロックス処理パラメータの範囲に対するレーザの適用に関する要件を示すものである。ダイナミックレンジは、そのパルス・エネルギが0.08mJ(ミリジュール)から40mJまで変化することが可能であり、約500倍(すなわち、27dB)の範囲を有している。このダイナミックレンジは、従来のレーザによって達成されることが不可能である。従来のレーザにより達成される代表的なダイナミックレンジは、100(すなわち、20dB)である。
【0035】
【表1】

【0036】
本発明に従ってレーザを動作させることによって、下記の表2に示すような動作パラメータを達成することが可能になる。この場合、パルス・エネルギは、40mJから0.03mJまで変化することが可能であり、1,333倍(すなわち、31.2dB)の範囲を有している。
【0037】
【表2】

【0038】
図6は、本発明に従って作製され且つ動作させているSP200C−0004型のレーザを使用して行われた幾つかの測定結果を示す図である。このレーザは、200Wの連続波レーザであり、100kHz(キロヘルツ)以下の繰り返し率(repetition rate)または100kHzを超える繰り返し率でパルスを供給するように変調され得る。図6では、両方の拡大された範囲の動作に関して、測定による平均電力63が、設定点平均電力64に対してプロットされ、黒三角65により示されている。さらに、図6では、標準動作モードによる範囲の動作が、黒丸66により示されている。標準動作モード(第2の電力の範囲62)で動作している場合、出力電力は、約0.9Wを超える電力レベルから200Wまでの電力レベルの範囲では安定であるが、0.9W未満の電力レベル(第1の電力の範囲61)では不安定になる(破線68により示されている)。本発明では、スイッチの切断動作により、レーザダイオードが電力増幅器3を励起するのを停止させることによって、ダイナミックレンジを破線67にまで拡大することが可能である。この破線67により示される範囲の動作が、表2に記述されているような拡大された範囲(第1の電力の範囲61)の動作である。ここでは、出力電力は、0.05W未満の電力レベルでも安定である。したがって、全体的なダイナミックレンジは、0.05Wから200Wまで拡大され、4,000倍(すなわち、36dB)の範囲を有している。レーザは、30μJ(マイクロジュール)から使用可能なパルス・エネルギでもって、アニロックス処理の全範囲にわたって動作することが可能である。本発明では、0.9Wを超える電力レベルにおいても、拡大された範囲で安定に動作する点に注目すべきである。これに対し、標準動作モードによる範囲の動作では、0.9W未満の電力レベルにおいて(不安定性を生じさせることなく)安定に動作することは不可能である。
【0039】
このようにして、本発明の装置は、パルスレーザシステム、特に、レーザからの緩和振動を利用するパルスレーザシステムのダイナミックレンジを増加させる。この装置はまた、パルスの欠落および関連する不安定性が生ずるような比較的低い電力レベルに達する前に、レーザからの繰り返し周波数を増加させるために使用され得る。
【0040】
好ましくは、パルスレーザシステムは、シード・レーザ1と、少なくとも1つの増幅器3とを有している。好ましくは、シード・レーザ1および増幅器3は、100Wと1000Wとの間でのポンプ電力の集合体によって励起される。ポンプ電力の約10%から80%までの電力は、シード・レーザ1に供給される。好ましくは、シード・レーザ1は、ポンプ電力の約20%から50%までの電力によって励起される。さらに、好ましくは、シード・レーザ1は、ポンプ電力の約25%から40%までの電力によって励起される。
【0041】
前述のように、本発明の方法は、本発明の装置を提供するステップと、レーザ放射線を材料8に当てるステップとを有する。この方法は、さらに、シード・ポンプ2および増幅器ポンプ4により提供されるポンプ電力の比を変化させることによって、材料8に当てられるレーザ放射線のダイナミックレンジを増加させるステップを有する。シード・ポンプ2により提供されるポンプ電力は、増幅器ポンプ4により提供されるポンプ電力よりもはるかに大きい。増幅器ポンプ4により提供されるポンプ電力は、零(0)にまで減少させることが可能である。材料8は、印刷ローラーであってよい。印刷ローラーに関していえば、この印刷ローラーの用語は、例えば、セラミック印刷ローラー、アニロックス印刷ローラー、インク転送ローラー、文字を印刷するための印刷ローラー、または、印刷ローラーに付随している文字を印刷するためのシートといったように、適用製品を印刷するためのローラーを意味するものである。このようなローラーとして、特に、アニロックス処理において使用されるようなセラミックがコーティングされた印刷ローラーが有利である。アニロックス印刷機は、米国ペンシルバニア州のダンカンスビル(Duncansville)のエフ.エル.スミス マシン カンパニー インコーポレイティド(F.L.Smithe Machine Company Incorporated)の支店であるアクアフレックス(Aquaflex)から入手可能である。
【0042】
添付の図面を参照しながらこれまで説明した本発明の実施例は、具体的な例を述べているにすぎず、本発明の性能を向上させるために様々な改良および付加的な構成部品が提供され得ることは、認識されるべきことである。本発明は、上記のような様々な改良および付加的な構成部品をそれぞれ別個に取得するか、または、互いに組み合わせて取得することによって、様々な改良および付加的な構成部品に関連した特徴にまで拡大され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料のレーザ加工を行うための装置において、シード・ポンプにより励起されるシード・レーザと、増幅器ポンプにより励起される増幅器と、コントローラと、スキャナとを備え、
前記コントローラは、前記シード・ポンプ、前記増幅器ポンプおよび前記スキャナを互いに同期させながら制御し、これによって、前記シード・レーザにより放射される光パルスが、増幅器を通して伝播され、前記スキャナによって材料に向けられるようになり、
前記装置は、光放射線が第1の電力の範囲内にあるときに、前記コントローラが、前記増幅器を光減衰器として動作させるべく前記増幅器ポンプを制御し、また一方で、出力電力が第2の電力の範囲内にあるときに、前記コントローラが、前記増幅器を光増幅器として動作させるべく前記増幅器ポンプを制御することを特徴とする、材料のレーザ加工を行うための装置。
【請求項2】
前記スキャナが、機械的ユニットである請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記スキャナが、検流計および反射器を有する請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記コントローラが、コンピュータのコントローラである請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記コントローラは、電気的駆動電力が前記第1の電力の範囲内にあるときに、前記電気的駆動電力の前記増幅器ポンプへの供給を停止させるためのスイッチを有する請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記シード・レーザが、クラッディング励起のファイバレーザを有する請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記クラッディング励起のファイバレーザが、希土類ドーパントを含む請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記希土類ドーパントが、イッテルビウムを含む請求項7記載の装置。
【請求項9】
前記希土類ドーパントが、エルビウム、ツリウム、ホルミウムまたはネオジムを含む請求項7または8記載の装置。
【請求項10】
前記増幅器が、クラッディング励起のファイバ増幅器を有する請求項1から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記クラッディング励起のファイバ増幅器が、希土類ドーパントを含む請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記希土類ドーパントが、イッテルビウムを含む請求項11記載の装置。
【請求項13】
前記希土類ドーパントが、エルビウム、ツリウム、ホルミウムまたはネオジムを含む請求項11または12記載の装置。
【請求項14】
前記装置が、さらに、少なくとも1つの付加的な増幅段を備える請求項1から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記装置が、さらに、吸収体を備える請求項1から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記装置が、さらに、可飽和吸収体を備える請求項1から15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記可飽和吸収体が、遅延を発生させ、前記装置が、さらに、前記遅延を補償するための可変遅延部を備える請求項16記載の装置。
【請求項18】
材料のレーザ加工を行うための方法であって、
本発明の装置を提供するステップと、
レーザ放射線を前記材料に当てるステップとを有することを特徴とする、材料のレーザ加工を行うための方法。
【請求項19】
前記材料が、印刷ローラーである請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−533373(P2010−533373A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515597(P2010−515597)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002357
【国際公開番号】WO2009/007721
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(503443773)エスピーアイ レーザーズ ユーケー リミテッド (7)
【Fターム(参考)】