説明

板ガラスの接合構造

【課題】従来の板ガラスの接合方法である摩擦接合において、接合用ボルト・ナットなどで強く板ガラスを締め付けた場合に、締め付け部に局所的な力が生じ、特に板ガラスの孔端部から破損しやすいという問題を防止する。
【解決手段】貫通孔を擁する少なくとも2枚以上の板ガラスG、G´を重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材1、2の締め付けにより生じる力により板ガラス同士を接合した板ガラスの接合部にあって、締め付けにより生じる60kN以上、300kN以下の力を、板ガラスと板ガラスとの間に挟んで板ガラスに圧接させた応力発生部材3で板ガラスに伝達し、板ガラスに圧縮応力を生じさせて、板ガラス同士を接合したことを特徴とする板ガラスの接合構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通孔を擁する少なくとも2枚以上の板ガラスを重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる力で板ガラス同士を接合する建築用途の板ガラスの接合構造および接合方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、貫通孔を擁する少なくとも2枚以上の板ガラス同士を重ね、貫通孔にボルトを挿通し、ボルトに螺合させたナットとで板ガラスを締め付けて生じるボルト軸方向の力により、板ガラス同士を接合する建築用途の板ガラスの接合構造および接合方法に関する。
【0003】
本発明の使用する建築用途としては、大型建築物である、ガラス壁、ガラス屋根、およびガラススクリーン、例えば、リブガラスを用いたリブガラススクリーンなどに使用される。
【背景技術】
【0004】
ガラス壁、ガラス屋根、大板ガラスを使用した開口部構成よりなるガラススクリーンなどの大型建築物において、板ガラスを高強度で接合すると、設計の自由度が高められる。例えば、目立つ金属方立の代りに、目立たないガラス方立て(リブガラス)を用いて、正面ガラス(フェイスプレート)に加わる風荷重を支持する工法に、ガラス・スタビライザー工法がある。
【0005】
板ガラス同士を高強度で接合することを、大型建築物に用いることができれば、大型建築物の設計の自由度が高まる。
【0006】
従来の板ガラスの接合方法には、板ガラスと接合部材としての金属板とを重ねて、板ガラスと金属板に形成した貫通孔に一対の接合部材、例えば、ボルト・ナットを通して締めて固定することで、板ガラス同士を接合する、板ガラスを建造物などに接合する際に使用される摩擦接合がある。
【0007】
摩擦接合は、一対の締め付け部材で、板ガラスと接合部材とを厚み方向に締め付けて、板ガラスと接合部材との摩擦力で荷重を受け止める接合方法である。摩擦接合においては、接合部を増やし、一対の締め付け部材である、例えば、接合用ボルト・ナットを多く用いることで受け止められる支持荷重を大きくする。摩擦接合において、接合部を増やし接合用ボルト・ナットを多く用い、個々の接合部において受けとめる荷重を大きくしなかった背景には、ガラスは脆性材料であり1点に力がかかると割れることがあった。
【0008】
一方、板ガラスと他の構造部材とを接合するために板ガラスに添接させた、あるいは板ガラスと板ガラスに掛け渡しした金属板などの接合部材の間に接着シートを挟みこみ、板ガラスと接合部材を接着し接合強度を得、加えて板ガラスと接合部材に設けた貫通孔に接合用ネジ部材を貫通させて締め込み板ガラスと接合部材を固定し留める方法が、特許文献1〜7にて開示されている。
【0009】
例えば、特許文献1には、板ガラスと接合部材との間に、未硬化の接着材を含浸させてある繊維材からなるシートを挟んで、板ガラスと接合部材とに形成した貫通孔に挿通したネジ部材で締め付け固定するガラスパネルの接合方法が開示されている。接合後のガラスパネルと板材との相対変位の発生を抑制するために、板ガラスと接合部材との間に未硬化の接着材を含浸させてある繊維材からなるシートを挟んで締め付け接合しておくことにより、その接着材が硬化するとシートがガラスパネルと板材の双方の表面に沿った形状に固まり、シートと一体に硬化した強固な接着層を介して、ガラスパネルと板材とを接着接合できると開示されている。
【0010】
また、特許文献3には、特許文献1よりも接合部の耐久性を高めるため、接着材を含浸させてある繊維材からなるシートに含浸させた接着剤が未硬化の状態で締め付け、接着剤硬化後に、所定のボルト軸方向の力に再度締め付けて接合する脆性部材の接合方法が開示されている。
【0011】
さらに、特許文献7には、上記の接着による接合方法において、雄ネジ部材と雌ネジ部材などの締め付け具にて板ガラスと接合部材を締め付ける際に、貫通孔に充填剤を介在させて各締め付け具の外周面と板ガラス側貫通孔の内周面との間に隙間が生じない状態で締め付けることによって、板ガラスと接合部材との間にわたって応力が作用した際に、複数の板ガラス側貫通孔に作用する応力が均一化されるようにして特定の板ガラス側貫通孔に応力が集中するのを回避して板ガラスの損傷を抑制する板ガラスの接合方法が開示されている。
【0012】
特許文献1〜7に記載の板ガラスの接合方法は、板ガラスと接合部材とを強い締め付け力で締め付けて接合するものでなく、板ガラスと接合部を接着して接合強度を得る方法である。板ガラスのクラックの発生を懸念して接合用のネジ部材による締め付けは程々にし、接合強度は板ガラスと接合部材の接着に依存している。
【0013】
詳しくは、特許文献3によれば、板ガラスに厚さが12mm〜19mmの強化ガラスであり、且つ、使用する接着剤がエポキシ系接着剤の場合、接合用ネジ部材の締め付けボルト軸方向の力は29.4kN〜53.9kN程度が望ましいとされている。ガラスに貫通孔を開ける場合、孔周りは荒ズリ加工されるため、ガラスの孔周りの強度は、ガラス表面の強度に比べて弱く、ガラスの孔周りに60kN程度の締め付け力が作用するとガラスが破損することがあった。そのため、孔周りに締め付け力が作用する特許文献1や特許文献3の方法では、締め付け力を上げることで接合箇所の耐久性を高めるには限界があった。
【特許文献1】特開2000−87924号公報
【特許文献2】特開2000−87925号公報
【特許文献3】特開2002−155909号公報
【特許文献4】特開2002−162325号公報
【特許文献5】特開2002−266818号公報
【特許文献6】特開2004−340178号公報
【特許文献7】特開2003−327453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の板ガラスの接合方法である摩擦接合において、板ガラスの貫通孔に挿入した一対の締め付け部材、例えば、ボルト・ナットで強く板ガラスを締め付けると、締め付け部に局所的な力が生じ、特に板ガラスの貫通孔の端部から破損しやすいという問題があった。
【0015】
特に、貫通孔を設けた板ガラス同士を重ねて、ボルト・ナットなどで強く板ガラスを締め付けることは、板ガラスの貫通孔の端部から破損しやすいため行われたことはなかった。
【0016】
また、前述した従来の板ガラスと接合部材を接着する接合方法においては、板ガラスの接合部をネジ部材で留めてはいるものの、接合強度は板ガラスと接合部材である板材の間に挟みこんだ接着シートによる接着に頼っており、一対の締め付け部材として、例えば、ボルト・ナットで強く締め付けて生じるボルト軸方向の力を、板ガラス内部に強い圧縮応力が生じるまで与え、ガラス自体の剛性を利用して板ガラスと板材を接合するものではなかった。接着シートによる接着により接合するため、接合後の解体が困難である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の建築用途の板ガラスの接合構造は、少なくとも2枚以上の板ガラスを重ね、板ガラスに形成した貫通孔に、一対の締め付け部材である、例えば、ボルト・ナットを挿通し、板ガラス貫通孔の孔周りには、一対の締め付け部材の締め付けによる力、例えば、ボルト・ナットの締め付けによるボルト軸方向の力を加えないで、孔周りを避けて、ボルト・ナットの締め付けによるボルト軸方向の力を板ガラスに加え、板ガラス内部にクラックの発生および伝播を抑制する圧縮応力を生じさせ、板ガラスの見掛の強度を増加させることを特徴とし、板ガラス同士を強固に接合するもので、接合部がずれることのない耐久性の高い板ガラス同士の接合を提供するものである。
【0018】
本発明の建築用途の板ガラスの接合方法に使用する一対の締め付け部材には、一対の油圧部材、バネ部材、ネジ部材が挙げられるが、トルクレンチなどで締め付け力が調整でき、ボルト・ナットの締め付けにより強いボルト軸方向の力が容易に得られるボルト・ナットを用いることが好ましく、特に、強いボルト軸方向の力が得られ、ボルト軸方向の力の調整が容易な六角ボルト・ナットが好ましい。
【0019】
本発明の建築用途の板ガラスの接合構造において、一対の締め付け部材であるボルトとボルトに螺合させたナットとで複数の板ガラスを強く締め付けて板ガラス同士を接合する際に、板ガラスと板ガラスとの間、ボルト頭と板ガラスとの間、および/またはナットと板ガラスとの間に挟みこんだ応力発生部材を用いることで、ボルト・ナットの強い締め付けによるボルト軸方向の強い力を、脆く割れが発生しやすい板ガラスの貫通孔の孔周りには作用させないようにして、応力発生部材が圧接する板ガラス内部の圧接部位にボルト軸方向の強い力による強い圧縮応力を生じさせ、強い圧縮応力により、圧縮部位内のクラックの発生および伝播を抑制し、板ガラスの見掛の強度を増加させることを特徴として、板ガラ同士を強固に接合する。応力発生部材を用いることで、接合部がずれることなく耐久性の高い板ガラス同士の接合部が提供される。
【0020】
尚、本発明の建築用途の板ガラスの接合構造および接合方法において、圧接とは、応力発生部材を板ガラスに強く圧することで、応力発生部材を強い力で板ガラスに接触させることを指す。応力発生部材とは、板ガラスを強く圧し、板ガラス内部に圧縮応力を発生させる部材である。
【0021】
詳しくは、本発明の建築用途の板ガラスの接合構造は、一対の締め付け部材、例えば、ボルト・ナットの強い締め付けによるボルト軸方向の力を、板ガラスの間に挟んだ応力発生部材、例えば、座金などを介して伝達する際、座金の孔の径を板ガラスにあけたボルト孔より大きくし同心状に配置することで、脆く割れが発生しやすい板ガラスの貫通孔の端部を避けてボルト軸方向の力を伝え、また板ガラスに接触させた座金を介し、板ガラスに直に小面積でボルト軸方向の力を伝え、板ガラス内部に強い圧縮応力を生じさせて、圧縮応力を生じさせた板ガラス圧縮部位のクラックの発生および伝播を抑制し、板ガラスの見掛の強度を増加させることを特徴とする。板ガラスに応力発生部材を強く圧接させることで、板ガラス自体の剛性を利用した強い接合強度が得る、全く新規の板ガラス同士の接合構造、いうなれば圧縮接合というべき概念である。
【0022】
板ガラス内部に強い圧縮応力を生じさせると、板ガラスの圧縮部位のクラックの発生および伝播の方向性が制限されるので、板ガラスの圧縮部位のクラックの発生および伝播が抑制され、強い圧縮応力により、板ガラスの見掛の強度が増加する。
【0023】
即ち、本発明の建築用途の板ガラスの接合構造、言い換えれば圧縮接合は、前述の摩擦接合、ガラスと金属板材を接着する接合方法とは全く異なる考えの接合であり、一対の締め付け部材である、例えば、ボルト・ナットの強い締め付けによるボルト軸方向の力を、板ガラスと板ガラスの間に挟んだ応力発生部材、例えば、座金などを強く板ガラスに圧接させて、板ガラス内部に強い圧縮応力が生じるように伝達し、圧縮応力を生じさせた板ガラスの圧縮部位におけるクラックの発生および伝播を防止し、板ガラスの見掛の強度を増加させることを特徴とし、板ガラス自体の剛性を利用して板ガラス同士を接合するものである。
【0024】
本発明の建築用途の板ガラスの接合構造によれば、応力発生部材に座金など使用し、座金の内径を板ガラスの貫通孔の直径より大きくして、同心状に配置して締め付けることで、割れが発生しやすい板ガラスの貫通孔部を避けて、一対の締め付け部材の締め付けにより生じる強い力、例えば、ボルト・ナットの締め付けにより生じるボルト軸方向の力を伝えられ、また座金を介して小面積でボルト軸方向の力を伝えるので、座金からの強い単位面積当たりの力によりで板ガラスに対する強い圧接が得られ、板ガラス同士の強い接合強度が得られる。
【0025】
さらに、接合構造を解体するときはボルト・ナットを弛めればよいので、板ガラスと接合部材を接着する従来の接合方法に比べ解体が容易である。
【0026】
また、応力発生部材の貫通孔の直径を、前記板ガラスに形成した貫通孔の直径より大きくすることにより、一対の締め付け部材であるボルト・ナットなどで強く締め付けた際に生じるボルト軸方向の強い力を、貫通孔の端部を避けて、板ガラス内部に強い圧縮応力を生じさせることが可能となり、板ガラスの見掛の強度を増加させて、耐久性の高い板ガラス同士の接合構造が得られた。
【0027】
即ち、建築用途に使用する本発明のガラスの接合方法において、橋やビル等の鋼構造物の接合方法として用いられる、高力ボルト摩擦接合で使用されるボルト・ナットの締め付けによる60kN以上のボルト軸方向の力、言い換えれば、一対の応力部材の締め付けにより生じる60kN以上の力で、板ガラス同士を締め付けても、板ガラスが破損せず、強い接合強度が得られた。なお、一対の応力部材の締め付けにより生じる力が300kNより大きいと、板ガラス本来の高い剛性があっても破損の恐れがある。
【0028】
即ち、本発明は、貫通孔を擁する少なくとも2枚以上の板ガラスを重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる力により板ガラス同士を接合した板ガラスの接合部にあって、締め付けにより生じる60kN以上、300kN以下の力を、板ガラスと板ガラスとの間に挟んで板ガラスに圧接させた応力発生部材で板ガラスに伝達し、板ガラスに圧縮応力を生じさせて、板ガラス同士を接合したことを特徴とする建築用途の板ガラスの接合構造である。
【0029】
さらに、本発明は、一対の締め付け部材がボルト・ナットであり、貫通孔を擁する少なくとも2枚以上の板ガラスを重ね、板ガラスに形成した貫通孔にボルトを挿通し、ボルトとボルトに螺合させたナットの締め付けにより生じる力であるボルト軸方向の60kN以上、300kN以下の力を、板ガラスと板ガラスとの間に挟んで板ガラスに圧接させた応力発生部材で板ガラスに伝達し、板ガラス同士に圧縮応力を生じさせて、板ガラス同士を接合したことを特徴とする上記の建築用途の板ガラスの接合構造である。
【0030】
さらに、本発明は、板ガラスと板ガラスとの間に加え、ボルト頭部と板ガラス、およびナットと板ガラスの間にも、応力発生部材を挟んで、ボルト軸方向の60kN以上、300kN以下の力で締め付けていることを特徴とする上記の建築用途の板ガラスの接合構造である。
【0031】
さらに、本発明は、前記応力発生部材が貫通孔を擁することを特徴とする上記の建築用途の板ガラスの接合構造である。
【0032】
さらに、本発明は、前記応力発生部材の貫通孔の直径が、板ガラスに形成した貫通孔の直径よりも大きいことを特徴とする上記の板ガラスの接合構造である。
【0033】
応力発生部材には、一対の締め付け部材の締め付けにより生じる力、例えば、ボルト・ナットの強力な締め付けによるボルト軸方向の力により、変形しない硬さおよび剛性が必要であり、ポリエーテルエーテルケトン、繊維強化プラスチックなどの硬く高剛性の材料から選ばれるが、加工作製が容易で入手のし易さから、貫通孔を擁する座金が好適に使用される。
【0034】
さらに、本発明は、前記応力発生部材が座金であり、板ガラスの貫通孔に対して同心状に配置したことを特徴とする上記の板ガラスの接合構造である。
【0035】
この際、ボルト頭部・ナットの外径よりも応力発生部材の貫通孔の直径を小さくすることで、60kN以上のボルト軸方向の力で板ガラスと接合部材を締め付けることが容易となる。通常、六角ボルト・ナットにおいては、ボルト頭部、ナットの最大の外径を対角距離と呼ぶ。強い締め付けトルクを伝えるには六角ボルト・ナットを使用することが好ましく、中でも建築用で使用される摩擦接合用高力ボルト・ナットが好適に使用される。
【0036】
さらに、本発明は、ボルトの頭部・ナットの外径よりも応力発生部材の貫通孔の直径を小さくしたことを特徴とする上記の板ガラスの接合構造である。
【0037】
さらに、本発明は、ボルト・ナットが六角ボルト・ナットであり、六角ボルト・ナットの対角距離よりも応力発生部材の貫通孔の直径を小さくしたことを特徴とする上記の板ガラスの接合構造である。
【0038】
また、本発明は、貫通孔を擁する少なくとも2枚以上の板ガラスを重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる60kN以上、300kN以下の力で、応力発生部材を板ガラス間に挟んで板ガラスに圧接し、板ガラス内部に圧縮応力を生じるように締め付けて、板ガラス同士を接合することを特徴とする建築用途の板ガラスの接合方法である。
【0039】
さらに、本発明は、一対の締め付け部材がボルト・ナットであり、板ガラスの貫通孔にボルトを挿通し、ボルトとボルトに螺合させたナットによる板ガラスと接合部材の締め付けにより生じる60kN以上、300kN以下の力で、応力発生部材を板ガラス間に挟んで板ガラスに圧接し、板ガラス内部に圧縮応力を生じるように締め付けて、板ガラス同士を接合することを特徴とする上記の建築用途の板ガラスの接合方法である。
【0040】
圧縮接合による本発明の建築用途のガラスの接合方法において、応力発生部材を用いることで、割れが発生しやすい板ガラスの貫通孔部を避けて、応力発生部材を板ガラスに圧接させるとともに、圧接時の板ガラスと応力発生部材の圧接面積の設定、および一対の締め付け部材、例えば、ボルト、ナットの締め付けトルクの調整により、板ガラス内部に生じる圧縮応力の大きさを任意に設定でき、板ガラス圧縮部位にクラックの発生および伝播が起こることを抑制し、板ガラスの見掛強度を増加させるのに、好適な圧縮応力が得られた。
【0041】
応力発生部材を使わない場合と異なり、板ガラスの1点に、特に貫通孔部にボルト軸方向の力が集中することなく、締め付けトルクに対しての板ガラスが破壊される限界を飛躍的に上げることが可能となった。
【0042】
よって、本発明の建築用途の板ガラスの接合方法により、板ガラスを一対の締め付け部材であるボルト、ナットで強力に締め付けるのみで、板ガラス同士が強く接合固定される。
【0043】
従来、ガラスは脆性材料であり一箇所、言い換えれば、1点に力がかかると割れる、板ガラスに貫通孔を設け、ボルトを通して強く板ガラスを締め付けると、締め付け部に局所的な力が生じ、孔端部から割れが発生し、板ガラスが破損するため、板ガラスに貫通孔を設け強く締め付けることは避けるべきであり、行ってはいけないとされ、板ガラスをボルト・ナットなどで強く締め付けて接合されることはなかった。
【0044】
しかしながら、本発明の建築用途の板ガラスの接合方法において、応力発生部材を用いることで、脆い板ガラスの貫通孔部を避け、一対の締め付け部材であるボルト・ナットなどの締め付けによるボルト軸方向の力を、ボルト・ナットの締め付け加減、および板ガラスに圧接する応力発生部材の面積を調整することで、板ガラスの圧縮部位に対してクラックの発生および伝播を防止するのに好適な圧縮応力が生じ、板ガラスの見掛の強度を増加させて、板ガラス圧縮部位にクラックの発生および伝播が起こることを抑制し、板ガラスの見掛強度を増加させて、本来の板ガラスの持つ高い剛性を生かした前述の圧縮接合が可能となった。
【0045】
本発明の建築用途の板ガラスの接合方法により、応力発生機材を用いることで、板ガラスを一対の締め付け部材であるボルト・ナットなどで少々強く締め付けても、板ガラスが破壊されることはなく強い板ガラス同士の強い接合強度が得られた。これは驚くべき結果である。
【0046】
本発明の建築用途の板ガラスの接合方法において、応力発生部材を用いることで、板ガラスを貫通孔に、一対の締め付け部材であるボルト、ナットなどの締め付けによる強いボルト軸方向の力が加わらなくなり、孔部を避けて強いボルト軸方向の力を、板ガラス内部にクラックの発生、伝播を抑制する強い圧縮応力が生じるように作用させ、板ガラスの見掛の強度を増加させて、耐久性の高い板ガラスの接合が得られた。
【0047】
また、本発明の板ガラスの接合方法である圧縮接合において、接合部を増やすことで接合強度を高められる。
【0048】
さらに、本発明は、複数の貫通孔を前記板ガラスに形成し、貫通孔の各々に挿通したボルトにナットを螺合して、板ガラス同士を応力発生部材で挟んで締め付けることを特徴とする上記の建築用途の板ガラスの接合方法である。
【発明の効果】
【0049】
一対の締め付け部材、例えば、ボルト・ナットの強い締め付けによるボルト軸方向の力を、ボルト頭と板ガラス、ナットと板ガラス、または複数の板ガラスの間に挟んだ応力発生部材、例えば、座金などを介して板ガラスに圧縮応力が生じるように伝達し、板ガラスに応力発生部材を圧接することで、圧縮応力を生じさせた板ガラス内部の圧縮部位におけるクラックの発生および伝播を抑制し、板ガラスの見掛の強度を増加させることを特徴とする、板ガラス自体の剛性を利用する本発明の建築用途の板ガラスの接合構造および接合方法によって、応力発生部材に座金などを使用し、座金の内径を板ガラスの貫通孔の直径より大きくすることで、割れが発生しやすい板ガラスの貫通孔の孔端部を避けてボルト軸方向の力を伝えられ、また座金を介して小面積でボルト軸方向の力を板ガラスに伝えるので、座金からの単位面積当たりの圧力により、板ガラスに強い圧縮応力が発生し、板ガラスの見掛の強度を増加させて、板ガラス同士の強い接合強度が得られた。
【0050】
詳しくは、本発明の建築用途の板ガラスの接合構造および接合方法においては、貫通孔をあけた板ガラス同士を重ねて、一対の締め付け部材であるボルト・ナットで締め付け、ボルト・ナットの締め付けによるボルト軸方向の力で、板ガラスに圧縮応力を生じさせて接合する際に、板ガラスの間、ボルトと板ガラスとの間、または、ナットと板ガラスの間に単純な応力発生部材である座金を入れることで、座金を介してボルト・ナットで締め付けた際のボルトの軸方向のボルト軸方向の力を板ガラスへ圧縮応力が生じるように伝達し、圧縮応力をボルト・ナットの締め付け加減、板ガラスへの座金の圧接面積で調整することが可能となり、圧縮応力を生じさせたガラス内部のクラックの発生および伝播が抑制され、板ガラスの見掛の強度を増加させて、座金からの圧接により、板ガラス同士の強い接合強度が得られた。
【0051】
また、前記応力発生部材としての座金の貫通孔の直径を、即ち、座金の内径を、前記板ガラスに形成した貫通孔の直径よりも大きくすることで、板ガラスにあけた貫通孔の端部に、ボルト・ナットの締め付けによるボルト軸方向の力が加わらなくなり、例えば、橋やビル等の鋼構造物の接合方法として用いられている高力ボルト摩擦接合で導入される、ボルト・ナットの締め付けによる強いボルト軸方向の力、60kN以上、300kN以下の範囲で、板ガラスを締め付けることで、圧縮応力を生じさせたガラス内部の圧縮部位におけるクラックの発生および伝播が抑制され、板ガラスの見掛の強度を増加させて、板ガラスが破損しなくなり、接合後の耐久性の高い板ガラス同士の接合が可能となった。
【0052】
即ち、応力発生部材を用いたことで、板ガラスと座金の狭い接触面で、一対の締め付け部材であるボルト・ナットの締め付けによるボルト軸方向の力が伝わるので、接合した板ガラスが滑る恐れは少なくなり、接合後の耐久性の高い板ガラス同士の接合が可能となった。
【0053】
さらに、接合構造を解体するときはボルト・ナットを弛めればよいので、解体が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
最初に、前述の摩擦接合とは異なる圧縮接合というべき考えの本発明の板ガラスの接合構造について、図1を用いて説明する。
【0055】
図1は、本発明の建築用途の板ガラスの接合構造による板ガラス同士の接合部の拡大側面図である。なお、ボルト1、ナット2以外は断面で示している。
【0056】
図2は、本発明の建築用途の板ガラスの接合構造により接合した板ガラスの一例の正面図である。
【0057】
本発明の合わせガラスを使用する板ガラスの接合構造は、一対の締め付け部材であるボルト1、ナット2の強い締め付けによるボルト軸方向の力を、応力発生部材である座金3、詳しくは、板ガラスG、G´の間に挟んだ座金3、ボルト1とガラスGとの間に挟んだ座金3、またはナット2とガラスG´の間に挟んだ座金3を介して、板ガラスG、G´に圧縮応力となるように伝達し、板ガラスG、G´に座金3が圧接することで、板ガラスG、G´の内部に圧縮応力を発生させ、板ガラスG、G´の見掛の強度を増加させて、板ガラスG、G´自体の剛性を利用して、板ガラスG、G´同士を接合するものである。
【0058】
本発明の板ガラスの接合構造によれば、応力伝達部材である座金3の貫通孔の直径を、言い換えれば、座金3の内径を、板ガラスG、G´の貫通孔の直径より大きくすることで、割れが発生しやすい板ガラスG、G´の孔端部4を避けて、ボルト1、ナット2の締め付けによるボルト軸方向の力を伝えられ、また、座金3を介して小面積で板ガラスG、G´にボルト軸方向の力を伝えるので、座金3よりの単位面積当たりの力により板ガラスG、G´による強い圧接が得られ、接合部がずれる恐れが少ない。
【0059】
また、本発明の板ガラスの接合構造を用いて、板ガラスG、G´を接合する際は、座金3の大きさを選ぶことで、板ガラスG、G´への座金3の圧接面積が任意に設定でき、加えて、ボルト軸方向の力の加減により、板ガラスG、G´の内部に生じる圧縮応力の大きさが調整可能となる。圧縮応力を調整することで、板ガラスG、G´の圧縮部位において、クラックが発生および伝播することが抑制され、板ガラスの見掛の強度を増加させることで、板ガラス自身の強度が活かせる。
【0060】
本発明の板ガラスの接合構造において、応力伝達部材の貫通孔の直径、言うなれば、座金3の内径を、板ガラスG、G´の貫通孔の直径より大きくすることで、板ガラスG、G´をボルト1、ナット2で締め付けて接合する際、割れが発生しやすい板ガラスG、G´の孔端部4にボルト軸方向の力が加わらなくなる。このようにして、貫通穴に挿入したボルト1、ナット2で板ガラスG、G´を、応力発生部材である座金3を介して締め付けたとき、板ガラスG、G´と座金3との圧接部から、ボルト軸方向の力が伝わり、板ガラスG内部に圧縮応力が生じるようになる。言い換えれば、座金3を用いることで、割れが発生しやすい板ガラスG、G´の孔端部4を避けて、板ガラスG、G´内部に圧縮応力を生じさせる。その結果、板ガラスG,G´の見掛の強度が増加して、板ガラスG、G´が破損し難くなる。
【0061】
このように、板ガラスG、G´および座金3の貫通孔を円形とし同心状に配置した際、座金3の内径が、板ガラスG、G´の貫通孔の直径よりも小さいと、ボルト1、ナット2で板ガラスG、G´を応力発生部材である座金3を介して締め付けたとき、板ガラスG、G´の貫通孔の端部4に座金3からのボルト軸方向の力が作用し、割れが発生しやすく板ガラスG、G´が破損する恐れがある。
【0062】
この際、ボルト1、ナット2を強く締め付けた際に発生するボルト軸方向の強い力により、割れを生じさせないためには、板ガラスG、G´に形成した貫通孔の直径より、応力発生部材である座金3の内径を、1mm以上、好ましくは4mm以上大きくする。この際、板ガラスG、G´の貫通孔の端部4と座金3が重ならないためには、円形の座金3を用い、板ガラスG、G´の貫通孔に対して座金3を同心状に配置することが好ましい。
【0063】
このように、座金3の内径を、板ガラスG、G´の貫通孔に対し1mm以上、好ましくは4mm以上大きくする、要するに、板ガラスG、G´の貫通孔の端部4から座金3までの間隔を0.5mm以上、好ましくは2mm以上とする。座金3の内径を、板ガラスGの貫通孔に対し1mm未満、板ガラスG、G´の貫通孔の端部4から座金3の内周までの間隔が、0.5mm未満では、板ガラスG、G´の貫通孔の端部4に力が伝播し割れが生じる恐れがある。座金4の内径を、板ガラスG、G´の貫通孔の直径に対して、20mmを超えて大きくすると、ボルト軸方向の力が伝達され難くなるので、20mm以内であることが好ましい。
【0064】
ボルト1、ナット2による締め付けトルクは、橋やビル等の鋼構造物の接合方法として用いられている高力ボルト摩擦接合で導入されるボルト・ナット締め付けによる強いボルト軸方向の力、60kN〜300kNが得られる100N・m〜1000N・mに設定される。
【0065】
また、座金3の内径がボルト1の対角距離よりも小さいと、60kN以上のボルト軸方向の力で板ガラスG、G´の重なり部を締め付けることが容易となる。
【0066】
要するに、図1に示すように、座金3の内径がボルト1、ナット2の対角距離よりも小さいと、ボルト1、ナット2の強力な締め付けによるボルト軸方向の力が板ガラスG、G´に直線的に伝わる。このように、ボルト頭の下、ナット2の上に座金3が配置されると、ボルト軸方向の力が、直線的に座金5、座金3、板ガラスG、ボルト3、板ガラスG´、座金3、座金5に直線的に伝わる。斜めに伝わると、強く締め付けられないばかりか、各々の圧接部に局所的な力がかかり、板ガラスGが破損する恐れがある。
【0067】
この際、ボルト1の頭部の対角距離、ナット2の対角距離より、応力発生部材の貫通孔の直径、例えば、座金3の内径が、2mm以上小さいこと、より好ましくは5mm以上小さいことが好ましい。こうすることで、同心としてボルト1、ナット2で締め付けたとき、ボルト1の頭部、ナット2の座金4に対するかかり代が、1mm以上、好ましくは2.5mm以上となり、確実にボルト1、ナット2の締め付けによるボルト軸方向の力が、応力発生部材である座金3に伝わる。
【0068】
圧縮接合において、ボルト1、ナット2により強く締め付けて、ボルト軸方向の強い力を得るためには、高力六角ボルト・ナット、言い換えると、機械的性質による等級がF8T以上の高力六角ボルト、または、強度区分が8.8、10.9、12.9の六角ボルト・ナット、または、トルシア形高力ボルトを使用することが好ましく、中でも建築で使用される摩擦接合用高力ボルト・ナット、言い換えると、機械的性質による等級がF8T以上の高力六角ボルト・ナットが好適に使用される。
【0069】
応力発生部材である座金3には、F8T以上の高力六角ボルト・ナットの締め付けによる強いボルト軸方向の力に耐え、変形することなきよう、座金の機械的性質による等級がF35以上の座金4が好適に用いられる。
【0070】
高力六角ボルト・ナット・座金の機械的性質による等級については、JIS B1186−1995「摩擦接合用高力六角ボルト六角ナット、平座金のセット」に準拠する。
【0071】
なお、ボルト1、ナット2を締め付ける際に締め付けやすく締め付け工具のトルクを伝えやすいので、ボルト1、ナット2と接合部材の間に座金5を噛ませると良い。
【0072】
以上、図1に示すような接合部を多数設けて、図2に示すように板ガラスG、G´を重ねて接合すると板ガラスG、G´に強い接合強度が得られる。
【0073】
また、本発明の建築用途の板ガラスの接合方法で3枚以上の板ガラスを接合すれば、強い建築構造材となり、柱、梁などに利用される。しかしながら、4枚を超えて、板ガラスを重ね合わせることは、既に十分な強度が得られているので、建築物の構造材としては考え難く4枚を超えて、板ガラス同士を接合することがなく、建築用途において本発明の板ガラスの接合方法が使用されるのは実質的に4枚以下である。
【0074】
板ガラスG、G´の接合部に2個以上、この好ましくは4個以上の貫通孔を各々空けて、締め付け部材と座金3を用いて、各貫通孔を本発明の建築用途の板ガラスの接合構造とし、板ガラスG、G´同士を接合すれば、一対の締め付け部材の締め付けによる60kN以上、300kN以下の力、締め付け部材に、ボルト1、ナット2を使用したときは、ボルト1、ナット2の締め付けによるボルト軸方向の60kN以上、300kN以下の力が各接合部に作用し、板ガラス同士が強く接合する。
【0075】
この際、板ガラスG、G´の厚み、および板ガラスG、G´の貫通孔の直径にもよるが、異なる貫通孔の間隔が、異なる貫通孔の端部4間の最短距離で30mm以下の間隔であると、貫通孔をあけたことにより板ガラスG自体の強度が失われる。孔をあけられる最大個数は、板ガラスG、G´の大きさと前述の間隔によって決まる。
【0076】
本発明の建築用途の板ガラスの接合構造および接合方法に用いる板ガラスG、G´には、フロート法で製造した板ガラス、強化ガラス、倍強度ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、各種表面処理を施した板ガラス、これらの複数枚を適宜組み合わせて構成したものなどが挙げられる。圧縮接合により強いボルト1、ナット2の締め付けにより強い接合強度を得るために、表面圧縮応力が80MPa以上で、厚さが9mm以上の強化ガラスを用いることが好ましい。上限は市販される強化ガラスの最大の厚さ、19mm以下となる。なお、表面圧縮応力が、130MPaを上回る大型の強化ガラスは製造が難しく、建築用途に実質的に使用されないので、本発明に用いる強化ガラスの表面圧縮応力は130MPa以下である。
【0077】
尚、孔部周辺の中間膜に替えて、貫通孔を擁する高剛性のスペーサーを板ガラス間に挟みこみ、ボルト1、ナット2の締め付けによるボルト軸方向の力に耐えるようにした合わせガラスなどにも、本発明の板ガラスの接合構造および方法は適用される。
【実施例1】
【0078】
図3は、本実施例における試験片の上面図である。
【0079】
図3に示すように、中心に24mmφの貫通孔7をあけた板厚、12mm、大きさ、300mm×300mm角の2枚の強化ガラスG、G´を用意した。強化ガラスG、G´はフロート法で製造した板ガラスを軟化点付近まで加熱後、風冷し表面に圧縮応力を与えたものである。
【0080】
図4は、本発明の実施例における板ガラスの接合部の拡大側面図である。なお、ボルト1、ナット2以外は断面で示している。
【0081】
図4に示すように、ボルト1、ナット2と座金3の間に座金5を挟んだ。座金5は、呼び径、M20、厚み、4.5mm、外径、40mm、内径、21mm、機械的性質による等級はF35である。座金5を用いることにより、一対の締め付け部材であるボルト1、ナット2を締め付ける際に締め付けやすく、締め付け工具のトルクを伝えやすい。
【0082】
また、強化ガラスG、G´を重ねて接合する際に、強化ガラスG、G´の孔端部4に圧縮応力を加えないように、応力発生部材として、強化ガラスG、G´と座金5の間に挟みこむ座金3、および強化ガラスG、G´の間に挟み込む座金3には、呼び径、M30、厚み、5.5mm、外径、60mm、内径、31mm、機械的性質による等級はF35のものを用いた。
【0083】
各々のM30の座金3を強化ガラスG、G´に圧接する際は、強化ガラスG、G´の貫通孔と同心円となるように配置して、強化ガラスG、G´の貫通孔の端部4には、座金3を接触させないようにしている。
【0084】
図4に示すように、強化ガラスG、G´の貫通孔7と座金3の貫通孔とが同心状となるように配置し、座金3の内周から強化ガラスG、G´の孔端部4までの距離を3.5mmとし、ボルト1、ナット2の締め付けによるボルト軸方向の力を加えた際、割れ発生の開始点となりやすい貫通孔7の端部4を避けて、ボルト1、ナット2で締め付けられるようにした。なお、強化ガラスG、G´の貫通孔7と座金3の貫通孔とが同心状となるように配置する際に、位置決めがしやすいよう、図示しないゴムまたは樹脂製の二重円状のスペーサーを貫通孔の空間部に入れた。
【0085】
次いで、上記の強化ガラスG、G´の締め付けテストを行った。
【0086】
締め付け用のボルト1、ナット2は、摩擦接合用高力六角ボルト・ナット座金のセット、株式会社NSボルテン製のものを使用した。ボルト1は呼び径、M20、首下長さ、80mm、対角距離、37mm、機械的性質による等級はF10Tである。ナット2は呼び径、M20、対角距離、37mm、機械的性質による等級はF10である。
【0087】
重ね合わせた強化ガラスG、G´、個々の座金3、5に貫通させたボルト1にナット2をねじ込み、トルクレンチを用いて150N・mのトルクで一次締めした後、そこからナット2を120度回転させて、ナット回転法に従い締め付けたが、強化ガラスG、G´は破損しなかった。なお、このときボルト1に発生するボルト軸方向の力は250kNであった。
【0088】
250kNのボルト軸方向の力で締め付けて、強化ガラスG、G´が破損しなかったのは、割れが生じやすい、強化ガラスG、G´の貫通孔の端部4にボルト軸方向の力を直接作用させないようにしたことに加え、強化ガラスG、G´の圧縮部位において、圧縮応力により板ガラスのクラック発生および伝播が抑制され、板ガラスの見掛の強度を増加したことによると思われる。
【実施例2】
【0089】
図3に示すように、中心に20mmφの貫通孔7をあけた板厚、12mm、大きさ、300mm×300mm角の2枚の強化ガラスG、G´を用意した。強化ガラスG、G´は軟化点付近まで加熱後、風冷し表面に圧縮応力を与えたものである。
【0090】
図4に示すように、一対の締め付け部材であるボルト1、ナット2と座金3との間に座金5を挟んだ。座金5には、M16の座金5、厚み、4.5mm、外径、32mm、内径、17mm、機械的性質による等級はF35である。座金5を用いることにより、ボルト1、ナット2を締め付ける際に締め付けやすく、締め付け工具のトルクを伝えやすい。
【0091】
また、強化ガラスG、G´を重ねて接合する際に、強化ガラスG、G´の貫通孔7の端部4に圧縮応力を作用させないよう応力発生部材として、強化ガラスG、G´と座金5の間、および強化ガラスG、G´の間に挟み込む座金3には、呼び径、M24、厚み5.5mm、外径、48mm、内径、25mm、機械的性質による等級はF35のものを用いた。
【0092】
各々のM24の座金3を強化ガラスG、G´に圧接する際は、強化ガラスG、G´の貫通孔7の端部4には、座金3を接触させないようにしている。
【0093】
図3に示すように、強化ガラスG、G´の貫通孔7と座金3の貫通孔とが同心状になるように配置し、座金3の内周から強化ガラスG、G´の孔端部4までの距離を2.5mmとし、ボルト軸方向の力を加えた際、割れ発生の開始点となりやすい貫通孔7の端部4を避けて、ボルト1、ナット2で締め付けられるようにした。なお、強化ガラスG、G´の貫通孔7と座金3の貫通孔とが同心状になるように配置する際の位置決めがしやすいよう、図示しないゴムまたは樹脂製の二重円状のスペーサーを貫通孔の空間部に入れた。
【0094】
次いで、上記の強化ガラスG、G´の締め付けテストを行った。
【0095】
締め付け用のボルト1、ナット2は、摩擦接合用高力六角ボルト・ナット座金のセット、株式会社NSボルテン製のものを使用した、ボルト1は呼び径、M16、首下長さ、80mm、対角距離、31mm、機械的性質による等級はF10Tである。ナット2は呼び径、M16、対角距離、31mm、機械的性質による等級等はF10である。
【0096】
重ね合わせた強化ガラスG、G´に、個々の座金3、5に貫通させたボルト1にナット2をねじ込み、トルクレンチを用いて100N・mのトルクで一次締めした後、そこからナット2を120度回転させて、ナット回転法に従い締め付けたが、強化ガラスG、G´は破損しなかった。なお、このときボルト1に発生するボルト軸方向の力は250kNであった。
【0097】
250kNのボルト軸方向の力で締め付けて、強化ガラスG、G´が破損しなかったのは、割れが生じやすい、強化ガラスG、G´の貫通孔の端部4にボルト軸方向の力を直接作用させないようにしたことに加え、強化ガラスG、G´の圧縮部位において、圧縮応力により板ガラスのクラック発生および伝播が抑制され、板ガラスの見掛の強度が増加したことによると思われる。
【実施例3】
【0098】
座金3に、呼び径、M20、厚み4.5mm、外径、40mm、内径、21m、機械的性質による等級はF35のものを用いた以外は、実施例2と同様の手順でガラスの締め付けテストを行った。
【0099】
座金3の内周から強化ガラスGの貫通孔の端部5までの距離を0.5mmとしたことで、ボルト軸方向の力を加えた際、割れ発生の開始点となりやすい孔端部4を避けて、ボルト1、ナット2で締め付けられるようにした。
【0100】
実施例1、2と同様に、強化ガラスG、G´の締め付けテストを行ったが、ガラスは破損しなかった。
【0101】
150kNのボルト軸方向の力で締め付けて、強化ガラスG、G´が破損しなかったのは、割れが生じやすい、強化ガラスG、G´の貫通孔の端部4にボルト軸方向の力を直接作用させないようにしたことに加え、強化ガラスG、G´の圧縮部位において、圧縮応力により板ガラスのクラック発生および伝播が抑制され、板ガラスの見掛の強度が増加したことによると思われる。
【比較例】
【0102】
座金3に、呼び径、M16、厚み4.5mm、外径、32mm、内径、17mm、械的性質による等級はF35のものを用いた以外は、実施例2と同様の手順で強化ガラスG、G´の締め付けテストを行った。
【0103】
座金3の内周から強化ガラスG、G´の貫通孔の端部4までの距離が、−1.5mmとなり、貫通孔7の端部4と座金3が重なり、割れ等が発生し易く破損の開始点となる懸念の大きい貫通孔7の端部4と座金3が接触し、貫通孔7の端部4にボルト1、ナット2で締め付け他時に生じるボルト軸方向の力が、押圧力として直接作用することになり、強化ガラスG、G´の締め付けテストを行った結果、強化ガラスG、G´が破損した。即ち、ガラスの割れが生じやすい、強化ガラスG、G´の貫通孔7の端部4にボルト軸方向の力が直接作用し強化ガラスG、G´が破損した。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の建築用途の板ガラスの接合構造および接合方法は、ガラス壁、ガラス屋根、大板ガラスを使用した開口部構成よりなるガラススクリーンなどの大型建築物に使用される。
【0105】
例えば、目立つ金属方立ての代りに、目立たないガラス方立て(リブガラス)を用いて、正面ガラス(フェイスプレート)に加わる風荷重を支持する工法であるガラス・スタビライザー工法によるリブガラススクリーンに使用される。
【0106】
本発明の板ガラスの接合構造および接合方法を用い、ガラス板を接合することで、長いガラス方立て、言い換えれば、長いリブガラスが提供される。
【0107】
また、リブガラスに取り付けた接合板をガラススクリーンと接続することも可能であり、ボルトでガラススクリーンと接続できることからリブガラススクリーンの設計の自由度が広がる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の板ガラスの接合構造による板ガラスの接合部の一例の拡大側面図である。
【図2】本発明の板ガラスの接合方法により接合した板ガラスの一例の正面図である。
【図3】本実施例における試験片の上面図である。
【図4】本発明の実施例における板ガラスの接合部の拡大側面図である。
【符号の説明】
【0109】
G、G´板ガラス(強化ガラス)
1 ボルト
2 ナット
3 座金(応力発生部材)
4 孔端部
5 座金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を擁する少なくとも2枚以上の板ガラスを重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる力により板ガラス同士を接合した板ガラスの接合部にあって、締め付けにより生じる60kN以上、300kN以下の力を、板ガラスと板ガラスとの間に挟んで板ガラスに圧接させた応力発生部材で板ガラスに伝達し、板ガラスに圧縮応力を生じさせて、板ガラス同士を接合したことを特徴とする建築用途の板ガラスの接合構造。
【請求項2】
一対の締め付け部材がボルト・ナットであり、貫通孔を擁する少なくとも2枚以上の板ガラスを重ね、板ガラスに形成した貫通孔にボルトを挿通し、ボルトとボルトに螺合させたナットの締め付けにより生じる力であるボルト軸方向の60kN以上、300kN以下の力を、板ガラスと板ガラスとの間に挟んで板ガラスに圧接させた応力発生部材で板ガラスに伝達し、板ガラスに圧縮応力を生じさせて、板ガラス同士を接合したことを特徴とする請求項1に記載の建築用途の板ガラスの接合構造。
【請求項3】
板ガラスと板ガラスとの間に加え、ボルト頭部と板ガラス、およびナットと板ガラスの間にも、応力発生部材を挟んで、ボルト軸方向の60kN以上、300kN以下の力で締め付けていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の建築用途の板ガラスの接合構造。
【請求項4】
前記応力発生部材が貫通孔を擁することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の建築用途の板ガラスの接合構造。
【請求項5】
前記応力発生部材の貫通孔の直径が、板ガラスに形成した貫通孔の直径よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の建築用途の板ガラスの接合構造。
【請求項6】
前記応力発生部材が座金であり、板ガラスの貫通孔に対して同心状に配置したことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の建築用途の板ガラスの接合構造。
【請求項7】
ボルトの頭部・ナットの外径よりも応力発生部材の貫通孔の直径を小さくしたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の建築用途の板ガラスの接合構造。
【請求項8】
ボルト・ナットが六角ボルト・ナットであり、六角ボルト・ナットの対角距離よりも応力発生部材の貫通孔の直径を小さくしたことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の建築用途の板ガラスの接合構造。
【請求項9】
貫通孔を擁する少なくとも2枚以上の板ガラスを重ね、貫通孔に挿通させた一対の締め付け部材の締め付けにより生じる60kN以上、300kN以下の力で、応力発生部材を板ガラス間に挟んで板ガラスに圧接し、板ガラス内部に圧縮応力を生じるように締め付けて、板ガラス同士を接合することを特徴とする建築用途の板ガラスの接合方法。
【請求項10】
一対の締め付け部材がボルト・ナットであり、板ガラスの貫通孔にボルトを挿通し、ボルトとボルトに螺合させたナットの締め付けにより生じる60kN以上、300kN以下の力で、応力発生部材を板ガラス間に挟んで板ガラスに圧接し、板ガラス内部に圧縮応力を生じるように締め付けて、板ガラス同士を接合することを特徴とする請求項9に記載の建築用途の板ガラスの接合方法。
【請求項11】
複数の貫通孔を前記板ガラスに形成し、貫通孔の各々に挿通したボルトにナットを螺合して、板ガラス同士を応力発生部材で挟んで締め付けることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の建築用途の板ガラスの接合方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−31681(P2008−31681A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204504(P2006−204504)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】