説明

板状成形物の製造方法

【課題】ステンレス鋼板からなる鋳型と分子中に少なくとも2個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する単量体の硬化被膜との剥離性が良好で、かつ安全で、特定部の選択的処理が可能で、硝酸溶液の使用量も少ない板状成形物の製造方法を提供する。
【解決手段】1〜50質量%濃度の硝酸溶液を含有する基材物質をステンレス鋼板に接触させて該硝酸溶液で処理する工程、前記処理後のステンレス鋼板からなる鋳型の表面に、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する単量体を含有する塗膜層を形成した後に塗膜層を硬化させて硬化被膜を形成する工程、硬化被膜の表面にビニル単量体層を形成した後にビニル単量体層を重合してビニル重合体層を形成する工程、及び鋳型の表面から硬化被膜が積層されたビニル重合体層を剥離する工程を有する板状成形物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は板状成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、板状成形物の製造方法としては、四辺をポリ塩化ビニル等のガスケットでシールした無機ガラス又は金属板からなる一対の鋳型にビニル単量体を注入し、鋳型内で重合させて板状成形物を得るセルキャスト法、及び1枚の鏡面研磨されたステンレス鋼板のエンドレスベルトからなる鋳型又は上下に相対するように配置された2枚のステンレス鋼板のエンドレスベルトとその両側辺部にベルト間に挟まれたガスケットでシールされて形成される鋳型に、ビニル単量体の部分重合溶液又は熱可塑性樹脂を溶解したビニル単量体溶液(以下、「シラップ」という)を連続的に供給して重合させて板状成形物を得る連続製板法が挙げられる。
【0003】
上記の製造方法では、得られた板状成形物を鋳型から剥離させる際に、板状成形物が鋳型と強固に密着して容易に剥離できないという問題がある。
【0004】
この問題を解決する方法として、特許文献1では鋳型として使用するステンレス鋼板のビニル単量体と接触する表面を硝酸等でエッチング処理する方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示されているような表面に耐擦傷性等に優れた硬化被膜を積層させた板状成形物を製造する場合には硬化被膜と鋳型との密着性が上記のビニル重合体と鋳型との密着性よりも高いことから、特許文献1に開示されている方法では硬化被膜と鋳型との剥離性は十分とは言えない状況にある。また、特許文献2に開示されているように硬化被膜を形成させるための単量体原料中に剥離剤を添加する方法があるが、重合後に剥離剤がステンレス鋼板の表面に残り、ステンレス鋼板の表面を汚染するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−230220号公報
【特許文献2】特公昭47−13147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ステンレス鋼板からなる鋳型と分子中に少なくとも2個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する単量体の硬化被膜との剥離性が良好で、かつ安全で、特定部の選択的処理が可能で、硝酸溶液の使用量も少ない板状成形物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨とするところは、1〜50質量%濃度の硝酸溶液を含有する基材物質をステンレス鋼板に接触させて該硝酸溶液で処理する工程、前記処理後のステンレス鋼板からなる鋳型の表面に、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する単量体を含有する塗膜層を形成した後に塗膜層を硬化させて硬化被膜を形成する工程、硬化被膜の表面にビニル単量体層を形成した後にビニル単量体層を重合してビニル重合体層を形成する工程、及び鋳型の表面から硬化被膜が積層されたビニル重合体層を剥離する工程を有する板状成形物の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、鋳型を使用して表面に耐擦傷性等に優れた硬化被膜を積層させた板状成形物を製造する際に硬化被膜と鋳型との剥離不良トラブルを回避することができることから、生産性が良好で、鋳型表面の清浄化処理が低減化された生産が可能となる。
【0010】
また、硝酸溶液を含有する基材物質をステンレス鋼板に接触させて処理を行うことで、硝酸溶液の使用量を抑えることができ、安全な処理が可能となる。さらに、この処理方法においてはある特定部を選択的に処理をすることも可能であり、より一層硝酸溶液の使用量を抑え、安全に処理することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ステンレス鋼板
本発明で使用されるステンレス鋼板の材質としては、例えば、オーステナイト系(SUS304、SUS316等)、フェライト系(SUS430等)及びマルテンサイト系(SUS403等)が挙げられる。これらの中で、耐食性の点でオーステナイト系が好ましい。また、ステンレス鋼板の表面状態としては、得られる硬化被膜の表面が平滑になるように鏡面研磨処理されていることが好ましい。
【0012】
本発明においては、ステンレス鋼板の表面は、少なくとも後述する分子中に少なくとも2個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する単量体と接触する面が1〜50質量%濃度の硝酸溶液で処理されている。
【0013】
なお、先に述べた特許文献1で使用されているpH1〜4の硝酸水溶液は、6.3×10-4質量%(pH4)〜0.63質量%(pH1)の濃度のものである。一方、本発明では、1質量%以上の濃度の硝酸溶液を使用するので、特に、処理後のステンレス鋼板と分子中に少なくとも2個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する単量体の硬化被膜(以下「本硬化被膜」という)との剥離性が良好となる。この濃度は、さらに10質量%以上が好ましい。また、硝酸溶液の濃度が50質量%以下であれば、硝酸溶液を加熱した際の臭気が抑制され、作業性の点で好ましく、また、後述するように、硝酸溶液を含浸させた布等の基材物質を用いてステンレス鋼板の表面を処理する場合に布等の基材物質の変色が抑制され、安全性の点で好ましい。硝酸溶液に使用する溶媒は特に限定されないが、取り扱い性及び安全性の点で水が好ましい。
【0014】
本発明においては、硝酸溶液中に必要に応じて添加剤等を添加することができる。
【0015】
硝酸溶液でステンレス鋼板を処理する温度は特に限定されないが、処理効果の点で20℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。また、上限温度としては安全性の点で90℃以下が好ましい。処理温度を所望の値にする為には、例えば、硝酸溶液を温めておくか、ステンレス鋼板を加温するなどの方法を行うことができる。
【0016】
本発明においては、硝酸溶液を含有する基材物質をステンレス鋼板に接触させて処理する。この方法は、他の硝酸溶液を用いた処理法と比較して、安全面や特定箇所の表面のみを処理する場合、及び、硝酸溶液の削減などの観点から好ましい。ここで特定箇所の表面のみを処理する場合とは、例えば、硝酸溶液を用いた処理済みのステンレス鋼板であっても、表面の傷の修復などによって部分的に再処理が必要になった場合であり、本発明によれば、その特定箇所のみを少量の硝酸溶液で安全に処理できる。
【0017】
基材物質は、硝酸溶液を含有保持し、ステンレス鋼板に接触させた時に硝酸溶液がステンレス鋼板の上に染み出すことにより、ステンレス鋼板の所望箇所の表面が硝酸溶液と接触するものであればよい。また、基材物質は、硝酸による分解などの変性が生じない材料から成ることが好ましい。例えば、耐酸性の布やゲルなどを、基材物質として使用できる。耐酸性の布としては、特にセルロース不織布が好ましい。それ以外にも、ポリエチレン繊維やポリプロピレン繊維等のオレフィン系繊維から成る布も使用できる。
【0018】
硝酸溶液を基材物質に含有させる方法は、特に限定されない。例えば、基材物質を硝酸溶液に浸漬させる方法、基材物質に硝酸溶液を滴下する方法などが挙げられる。
【0019】
硝酸溶液を含有する基材物質をステンレス鋼板に接触させている時に、蒸発防止材を被せることで硝酸溶液の蒸発を抑えることができ、より安全にかつ効率的に処理を行うことができる。例えば、蒸発防止用フィルム又はシートを使用することが好ましい。特に、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という)から成るフィルム又はシートが好ましい。それ以外にも、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンから成るフィルム又はシートも使用できる。
【0020】
硝酸溶液でステンレス鋼板の表面を処理する時間としては、5分以上が好ましく、30分以上がより好ましい。また、上限の時間は特に限定されないが、24時間以下の処理で十分である。
【0021】
硝酸溶液で処理されたステンレス鋼板の表面に硝酸溶液が残存していると、ステンレス鋼板の表面を劣化させたり、得られる板状成形物の表面が荒れるといった不具合が発生することがあるため、洗浄することが好ましい。
【0022】
硝酸溶液の洗浄液としては、硝酸を溶解するものであれば特に限定されないが、取り扱い性の点で水が好ましい。洗浄後、ステンレス鋼板の表面に付着した水を乾燥させることで硝酸溶液で処理されたステンレス鋼板を得ることができる。
【0023】
分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する単量体
分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する単量体としては、例えば、1モルの多価アルコールと2モル以上の(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物、多価アルコール、多価カルボン酸又はその無水物及び(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物並びにその他の多官能性単量体が挙げられる。
【0024】
尚、本発明において、「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル」及び「(メタ)アクリレート」はそれぞれアクリロイル又はメタクリロイル、アクリル又はメタクリル、及びアクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0025】
上記の1モルの多価アルコールと2モル以上の(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物としては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート及びトリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0026】
上記の多価アルコール、多価カルボン酸又はその無水物及び(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物としては、例えば、以下に示す多価アルコール/多価カルボン酸又はその無水物/(メタ)アクリル酸の組み合わせから得られるものが挙げられる。多価アルコール/多価カルボン酸又はその無水物/(メタ)アクリル酸の組み合わせとしては、例えば、マロン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸及び無水マレイン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸の組み合わせが挙げられる。
【0027】
前記のその他の多官能性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートの3量化により得られるポリイソシアネート1モルに、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、1,2,3−プロパントリオール−1,3−ジ(メタ)アクリレート、3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の活性水素を有するアクリル系単量体3モル以上を反応させて得られるウレタンポリ(メタ)アクリレート;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート又はトリ(メタ)アクリレート等のポリ[(メタ)アクリロイルオキシエチレン]イソシアヌレート及びエポキシポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0028】
これらの分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する単量体は1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する単量体を含有する塗膜層
本発明においては、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する単量体を含有する塗膜層(以下、「本塗膜層」という)の硬化方法は特に限定されないが、硬化時間及び硬化温度の点で活性エネルギー線で硬化させることが好ましい。
【0030】
本塗膜層を活性エネルギー線で硬化させる場合には、本塗膜層中に光開始剤を含有させておくことが好ましい。
【0031】
光開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド及びベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイドが挙げられる。これらは1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
光開始剤の添加量は、本塗膜層の硬化性の点で本塗膜層中に0.1質量%以上が好ましく、得られる硬化被膜の色調を良好とする点で10質量%以下が好ましい。
【0033】
本発明においては、必要に応じて、本塗膜層中に分子中に1つのビニル基を有する単量体、レベリング剤、導電性無機微粒子、導電性を有さない無機微粒子、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種成分を含有することができる。それらの添加量は本塗膜層中に10質量%以下が好ましい。
【0034】
分子中に1つのビニル基を有する単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、イソプロペニルスチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;及びエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等の架橋性単量体が挙げられる。これらは1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
鋳型表面に本塗膜層を形成させる方法としては、例えば、本塗膜層の原料を鋳型表面に塗付し、ゴムロールで圧着する方法が挙げられる。また、本塗膜層の原料を鋳型表面に塗付する際にエアーの巻き込みを防ぐために、鋳型の表面に過剰量の本塗膜層の原料を塗付し、フィルムを介してゴムロールでしごきながら塗付する方法が好ましい。このときに使用するフィルムとしては、例えば、PETフィルムが挙げられる。
【0036】
本硬化被膜
本発明においては、ステンレス鋼板からなる鋳型の表面に形成された本塗膜層は硬化されて本硬化被膜が得られる。
【0037】
本硬化被膜の厚みは特に限定されないが、5〜100μmが好ましい。本硬化被膜の厚みが5μm以上で十分な本硬化被膜の表面硬度が発現する傾向にあり、また、100μm以下で本硬化被膜の着色が抑制される傾向にある。
【0038】
本発明において、本塗膜層を活性エネルギー線で硬化させて本硬化被膜を形成させる場合に使用される活性エネルギー線源としては、例えば、紫外線ランプが挙げられる。
【0039】
紫外線ランプとしては、例えば、高圧水銀灯、メタルハライドランプ及び蛍光紫外線ランプが挙げられる。
【0040】
本発明においては、フィルムを介してゴムロールでしごきながら塗付して本塗膜層を形成した場合には、フィルムを剥離してから紫外線を照射してもよいし、フィルムを介して紫外線を照射してもよい。また、目的に応じてフィルムを介して紫外線を照射して前硬化した後にフィルムを剥離し、その後更に紫外線を照射して後硬化する等の複数段階に分けた硬化を実施することができる。
【0041】
ビニル単量体層
本発明においては、鋳型表面に本硬化被膜を形成させた後に、本硬化被膜の表面にビニル単量体層を形成した後にビニル単量体層を重合してビニル重合体層を形成させる。
【0042】
ビニル単量体層の原料となるビニル単量体としては、例えば、メチルメタクリレート又はメチルメタクリレート及び共重合可能な他のビニル単量体を含有する単量体混合物が挙げられる。
【0043】
共重合可能な他のビニル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、イソプロペニルスチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;及びエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等の架橋性単量体が挙げられる。これらは1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
本発明においては、ビニル単量体層の原料として、上記の単量体の部分重合体溶液又はポリメチルメタクリレート等の熱可塑性樹脂を溶解した上記の単量体溶液等のシラップを使用することができる。
【0045】
ビニル単量体層中には重合開始剤、及び必要に応じて分子量調整剤を含有することができる。
【0046】
重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ系重合開始剤及びベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等の有機過酸化物が挙げられる。
【0047】
分子量調整剤としては、例えば、n−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタンが挙げられる。
【0048】
本発明においては、必要に応じてビニル単量体層中に染料、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、難燃剤、可塑剤、鋳型からの硬化被膜の剥離を容易にするための剥離剤、連鎖移動剤、架橋剤等の添加剤を含有することができる。
【0049】
本硬化被膜の表面にビニル単量体層を形成する方法としては、例えば、本硬化被膜が積層された鋳型の本硬化被膜の表面側の辺部をガスケットでシールした後にビニル単量体層の原料を流延する方法が挙げられる。この場合、ビニル単量体層の表面にフィルムを被覆して単量体層をシールしてもよい。
【0050】
また、本硬化被膜の表面にビニル単量体層を形成する別の方法として、本硬化被膜が積層された鋳型の本硬化被膜の表面側に、ガスケット等で辺部をシールしたガラス、鋼板等からなる別の鋳型をガスケット等で辺部をシールした面が重なるように設置し、形成された空間部にビニル単量体層の原料を注入する方法も挙げられる。
【0051】
ビニル重合体層
ビニル重合体層はビニル単量体層を重合することにより形成される。
【0052】
重合温度は使用する重合開始剤の種類により異なるが、重合反応の制御のし易さ、生産性等の点で40〜140℃が好ましい。また、重合を2段階で実施し、第1段目の重合を40〜90℃とし、第2段目の重合を100〜140℃とするのがより好ましい。
【0053】
板状成形物
ビニル単量体層を重合してビニル重合体層を形成した後に、鋳型の表面から本硬化被膜が積層されたビニル重合体層を剥離することにより板状成形物が得られる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を説明する。
【0055】
[実施例1]
鏡面研磨処理されたステンレス鋼板(材質;SUS304、大きさ;縦160mm,横160mm,厚み1mm)を表面温度が45℃になるように保持し、30質量%の硝酸水溶液を染み込ませたセルロール製不織布(縦180mm、横180mm、厚さ約8mm、変色無し)をステンレス鋼板上に置き、さらにその上にPETフィルムを被せ、1時間静置させた。
【0056】
その後、PETフィルムとセルロール製不織布を取り外し、ステンレス鋼板を蒸留水で十分に水洗した。水洗後、ステンレス鋼板の表面に乾燥空気を吹きかけて乾燥させた。
【0057】
上記で得られた硝酸溶液で処理されたステンレス鋼板上に、コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸(モル比:1/2/4)の縮合混合物(大阪有機化学工業(株)製、商品名:TAS)50質量部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業(株)製、商品名:C6DA)50質量部及びベンゾインエチルエーテル(精工化学(株)製、商品名:BEE)1.5質量部からなる塗膜層の原料を約0.2ml滴下し、厚み100μmのPETフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、商品名:テイジンテトロンフィルムG2)越しにゴムローラーで約80mm四方にしごきながら塗付し、厚み約20μmの塗膜層を形成した。
【0058】
次いで、PETフィルムを剥がした後、紫外線ランプ(アイグラフィック社製アイグランテージECS−401GX)用いて、照射エネルギーが1,000mJ/cm2になるように塗膜層の面に紫外線照射し、硬化被膜を得た。
【0059】
別途用意したステンレス鋼板と同じ大きさの強化ガラスの片面に上記と同様のPETフィルムを被覆した。このPETフィルムが被覆された強化ガラスを、PETフィルムが被覆された面がステンレス鋼板の硬化被膜が積層された面と向き合うように配置し、それらの間に強化ガラスとステンレス鋼板の四辺の端部に厚み2.8mmのポリ塩化ビニル製ガスケットを配置し、ステンレス鋼板と強化ガラスをクリップで固定して、鋳型を作製した。
【0060】
この鋳型内に、質量平均分子量220,000のポリメチルメタクリレート20質量部をメチルメタクリレート80質量部に溶解した溶液100質量部、t−ヘキシルパーオキシピバレート(日本油脂(株)製、商品名:パーヘキシルPV)0.05質量部、ジオクチルスルフォサクシネートのナトリウム塩(日本サイテック インダストリーズ(株)製、商品名:AEROSOL OT−100)0.003質量部及びエチルアシッドホスフェート(城北化学工業(株)製、商品名:JP502)0.003質量部からなるビニル単量体層の原料を注入し、80℃の水浴中で30分、次いで130℃の空気炉で30分間重合した。その後、空気炉から鋳型を取り出し、ステンレス鋼板の温度が110℃になった後に強化ガラスとPETフィルムを取り除き、硬化被膜が積層されたビニル重合体層をステンレス鋼板から剥離し、板状成形体を得た。このとき硬化被膜はステンレス鋼板から容易に剥離することができた。
【0061】
[実施例2]
硝酸水溶液の濃度を10質量%としたこと以外は、実施例1と同様にて板状成形体を得た。このとき硬化被膜は、やや力を要したが、ステンレス鋼板から剥離することができた。
【0062】
[実施例3]
ステンレス鋼板を処理する硝酸水溶液の濃度を20質量%とした。それ以外は実施例1と同様にて板状成形体を得た。このとき硬化被膜は、やや力を要したが、ステンレス鋼板から剥離することができた。
【0063】
[実施例4]
まず、鏡面研磨処理(φ100mm)されたステンレス鋼板(材質;SUS304、幅;1500mm、厚み;1mm)から成るエンドレスベルトを用意した。このエンドレスベルト表面の特定部分を下部からホットプレートで加熱して、その部分の表面温度を45℃に保持し、30質量%の硝酸水溶液を染み込ませたセルロール製不織布(縦130mm、横130mm、厚さ約8mm)をその部分の上に置き、さらにPETフィルムをかぶせ、1時間静置させた。
【0064】
その後、PETフィルムとセルロール製不織布を取り外し、蒸留水を染み込ませた布でその部分を十分に水洗し、次いでから拭きにより水分を除去し、乾燥させた。
【0065】
前記のようにして得られた硝酸溶液で処理されたステンレス鋼板から成るエンドレスベルトの特定部分に、実施例1と同様の塗膜層の原料を滴下した。そして、厚み50μmのPETフィルム越しに約150mm四方にしごきながら塗付し、厚み約20μmの塗膜層を形成した。
【0066】
次いで、PETフィルムを取り、実施例1と同様の紫外線照射を行ない、硬化被膜を得た。
【0067】
そして、硬化被膜が形成された上記エンドレスベルトと、同じサイズのもう一つのエンドレスベルトの合計2枚のエンドレスベルトの間に、ポリ塩化ビニル製ガスケットを配置し、鋳型を完成させた。
【0068】
この鋳型内に、質量平均分子量220,000のポリメチルメタクリレート20質量部をメチルメタクリレート80質量部に溶解した溶液100質量部、t−ヘキシルパーオキシピバレート(日本油脂(株)製、商品名:パーヘキシルPV)0.19質量部、ジオクチルスルフォサクシネートのナトリウム塩(日本サイテック インダストリーズ(株)製、商品名:AEROSOL OT−100)0.008質量部及びエチルアシッドホスフェート(城北化学工業(株)製、商品名:JP502)0.006質量部からなるビニル単量体層の原料を注入し、82℃の温水シャワー中、次いで130℃の空気炉で重合した。
【0069】
重合終了後、硬化被膜が積層されたビニル重合体層をエンドレスベルトから剥離し、板状成形体を連続的に得た。このとき硬化被膜はエンドレスベルトから容易に剥離することができた。
【0070】
[比較例1]
硝酸水溶液の濃度を0.1質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして板状成形体を製造しようとした。しかし、硬化被膜が積層されたビニル重合体層をステンレス鋼板から剥がすことができなかった。
【0071】
[比較例2]
硝酸処理を施さなかったこと以外は、実施例1と同様にして板状成形体を製造しようとした。しかし、硬化被膜が積層されたビニル重合体層をステンレス鋼板から剥がすことができなかった。
【0072】
[比較例3]
硝酸水溶液の濃度を60質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして板状成形体を製造しようとした。しかし、硝酸水溶液を染み込ませたセルロール製不織布に変色(黄変)が認められ、また硝酸処理工程で加熱された際に硝酸臭気が立ち込めたので、製造を中止した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜50質量%濃度の硝酸溶液を含有する基材物質をステンレス鋼板に接触させて該硝酸溶液で処理する工程、
前記処理後のステンレス鋼板からなる鋳型の表面に、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクロイルオキシ基を有する単量体を含有する塗膜層を形成した後に塗膜層を硬化させて硬化被膜を形成する工程、
硬化被膜の表面にビニル単量体層を形成した後にビニル単量体層を重合してビニル重合体層を形成する工程、及び
鋳型の表面から硬化被膜が積層されたビニル重合体層を剥離する工程
を有する板状成形物の製造方法。

【公開番号】特開2011−812(P2011−812A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146501(P2009−146501)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】