説明

板状部材の搬送装置及び搬送方法

【課題】搬送中の板状部材において、支持手段により支持される面と反対側の面に接触しないようにしつつ、板状部材が支持手段に対して移動することを防止できるようにすること。
【解決手段】搬送装置10は、ウエハWの一方の面側から当該ウエハWを吸引支持可能に設けられた支持手段11と、この支持手段11を移動可能に設けられた移動手段12と、支持手段11に支持されたウエハWの他方の面側から離れて位置し、支持手段11の吸引支持を補助可能に設けられた補助手段13とを備えて構成されている。補助手段13は、ウエハWに気体を噴出することでウエハWを支持手段11側に付勢可能に設けられ、支持手段11による吸引力を一定としても、ウエハWの支持力を増大できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状部材の搬送装置及び搬送方法に係り、更に詳しくは、板状部材を安定して支持しながら搬送することができる板状部材の搬送装置及び搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体ウエハ(以下、単に、「ウエハ」と称する)等の板状部材を搬送する装置としては、例えば、特許文献1〜3に記載されている。各特許文献の搬送装置は、ウエハの一方の面を吸引して支持する吸引支持手段と、この吸引支持手段を移動させるためのアーム等からなる移動手段とを備え、移動手段を作動させることでウエハを搬送可能な構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−195926号公報
【特許文献2】特開2004−235622号公報
【特許文献3】特開平11−321257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2にあっては、ウエハの搬送中、吸引支持手段に対してウエハが動かないようにするためには、吸引支持手段による吸引力を大きくすることが不可欠となる。このため、数十μmの厚みまで極薄に裏面研削されたウエハを対象として搬送する場合、吸引領域においてウエハを凹み変形させたりすることで多大なストレスを与え、その結果、ウエハを破損させてしまうといった不都合がある。
【0005】
ここで、特許文献3では、開閉可能な保持爪によりウエハを吸引支持手段側に押さえ付け、ウエハの支持力を増大させる構成となっている。ところが、同文献にあっては、ウエハの他方の面すなわち保持爪の接触する面に回路面がある場合、当該回路面を損傷させてしまう、という不都合を生じる。このため、デリケートな回路面を有するウエハ等に対しては、保持爪を使用できない、という不都合を招来する。
【0006】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、搬送中の板状部材の他方の面に接触しないようにしつつ、板状部材が支持手段に対して移動することを防止することができる板状部材の搬送装置及び搬送方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、板状部材の一方の面側から当該板状部材を吸引支持可能に設けられた支持手段と、この支持手段を移動可能に設けられた移動手段と、前記支持手段に支持された板状部材の他方の面側から離れて位置し、支持手段の吸引支持を補助可能に設けられた補助手段とを備える、という構成を採っている。
【0008】
本発明において、前記補助手段は、板状部材に気体を噴出することで板状部材を支持手段側に付勢可能に設けられる、という構成を採ることが好ましい。
【0009】
また、前記支持手段は、板状部材の一方の面に気体を噴出することで当該板状部材を吸引支持する正圧吸引手段を備える、という構成も好ましくは採用される。
【0010】
また、本発明の搬送方法は、板状部材の一方の面側から支持手段により板状部材を吸引支持しつつ、当該板状部材の他方の面側から離れて位置する補助手段により前記吸引支持を補助した状態で、移動手段により支持手段及び補助手段を移動して板状部材を搬送する、という方法を採っている。
【0011】
更に、本発明の搬送方法において、前記補助手段は、板状部材に気体を噴出して板状部材を支持手段側に付勢するとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、補助手段により支持手段における板状部材の吸引支持が補助されるので、従来のように支持手段の吸引力を大きくすることなく搬送中に板状部材が支持手段に対して動かないようにすることができる。これにより、例えば、搬送中に板状部材を反転したり、ウエハを急加速或いは急停止したりする搬送を無理なく行うことができ、搬送方法の自由度を高めたり、搬送の迅速化を図ることが可能となる。しかも、補助手段が板状部材の他方の面から離れているので、例えば、他方の面がウエハの回路面であっても、当該回路面を損傷させないように搬送を行うことが可能となる。
【0013】
また、補助手段がエア等の気体を噴出することで板状部材を支持手段側に付勢するので、簡単な構成で補助手段を形成することが可能となる。
【0014】
更に、支持手段が正圧吸着手段を備えている場合、板状部材に接触する事なく当該板状部材を搬送することができ、一方の面が回路面だとしても、回路面を損傷させることなく搬送することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係る搬送装置の概略平面図。
【図2】図1を一部断面視した正面図。
【図3】(A)〜(C)は、ウエハの支持要領を示す説明図。
【図4】ウエハの支持要領を示す説明図。
【図5】変形例に係る搬送装置の部分正面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「吸引支持を補助する」とは、支持手段による吸引力を一定としても、板状部材(ウエハ)の支持力を増大させることを意味する。
また、「正圧吸引」、「気体を噴出することで吸引支持する」とは、高速で流体が移動するとその周辺の圧力が低下する法則、いわゆる、ベルヌーイの定理(スイスの数学・物理学者ダニエル・ベルヌーイが1738年に発表した流体力学の定理)を利用して吸引することを意味し、図5に示されるように、正圧(大気圧より大きい圧力)の気体Gを板状部材の面に沿って大気開放することで高速で移動する流体を再現し、その周辺に発生する負圧(大気圧より小さい圧力)Mによって物を引きつけて吸引又は吸引支持することをいう。なお、「負圧吸引」とは、流体(気体)を吸引することで負圧を発生させて物を引きつけることをいう。
更に、「左」、「右」は、図1及び図2を基準とし、「上」、「下」は、図2を基準として用いる。
【0017】
図1、図2において、搬送装置10は、板状部材としてのウエハWを支持可能に設けられた支持手段11と、この支持手段11を移動可能に設けられた多関節型ロボットからなる移動手段12と、支持手段11と共に移動手段12の先端側に支持された補助手段13とを備え、複数枚のウエハWを収容可能なカセットCとテーブルTとの間でウエハWを搬送可能に構成されている。
【0018】
前記支持手段11は、二股状に分岐したアーム部材15と、このアーム部材15の先端側及び基端側にそれぞれ設けられた吸引手段16とを備えて構成されている。吸引手段16は、アーム部材15に埋設されるとともに、図示しない減圧ポンプに接続されるポーラス体を備え、減圧ポンプの作動によりポーラス体表面から空気を吸引可能となっている。これにより、支持手段11は、吸引手段16が発生する負圧により、アーム部材15とウエハWとを接触させた状態で当該ウエハWの一方の面側すなわち下面側を吸引支持可能に設けられている。なお、吸引手段16は、1箇所に設けてもよいし、複数個所に設けてもよい。また、アーム部材15に対して吸引手段16を設ける位置は任意に決定できる。更に、吸引手段16は、アーム部材15の一方の面側全面に設けてもよいし、ウエハWが載置される領域全てに設けてもよい。
【0019】
前記移動手段12は、昇降部18Aを昇降可能なベース部18と、この昇降部18Aの上面に設けられ複数のアームが相対回転可能に設けられた多関節アーム部19とを備え、ウエハWに対する昇降部18Aや各アームの移動量は、各関節部に設けられた図示しないモータによって、それぞれに対応する数値情報でプログラムにより制御される。多関節アーム部19の先端には、モータ21を介して軸線Lを中心として矢印R方向に回転可能な回転部材22が設けられ(図2参照)、回転部材22の右面側には、支持手段11を構成するアーム部材15の基部が支持され、同左面側には、補助手段13が支持されている。従って、支持手段11及びこれに支持されるウエハWは、移動手段12によって直交3軸方向の空間内で移動可能であるとともに、天地反転可能となっている。
【0020】
前記補助手段13は、回転部材22に支持された単軸ロボット24と、この単軸ロボット24のスライダ24Aにより左右方向に移動可能に設けられた直動モータ25と、この直動モータ25の出力軸25Aに支持されるとともに、アーム部材15と略同じ平面形状(基端側がアーム部材15よりも長い)をなす補助アーム部材26とを備えている。補助アーム部材26は、図示しない加圧ポンプに接続され、その下面側から空気等の気体を噴出可能に設けられている。なお、補助アーム部材26の空気等の気体を噴出する噴出領域は、1箇所に設けてもよいし、複数個所に設けてもよい。また、補助アーム部材26に対する噴出領域を設ける位置は任意に決定できる。更に、空気等の気体を噴出する噴出領域は、補助アーム部材26の一方の面側全面に設けてもよいし、ウエハWに対応した領域全てに設けてもよい。
【0021】
次に、前記搬送装置10によるカセットC及びテーブルT間でのウエハWの搬送方法について説明する。
【0022】
先ず、移動手段12を作動させることにより、回路面が上面とされてカセットCに収容されているウエハWの下面側にアーム部材15を進入させる(図3(A)参照)。次いで、アーム部材15の上面とウエハWの下面とを接触させた状態として図示しない減圧ポンプを作動させ、当該ウエハWを吸引支持させる。
【0023】
アーム部材15にウエハWを支持させた後、単軸ロボット24を作動させて補助アーム部材26をアーム部材15の上方に対向する位置まで移動させる(図3(B)参照)。このとき、直動モータ25により、ウエハW上面と補助アーム部材26との間の隙間を十分にひろげた状態で移動させる。その後、直動モータ25を作動させて補助アーム部材26を下降させ、ウエハWの上面から補助アーム部材26を離れて位置させつつ、それらの間の隙間を小さくさせる(図3(C)参照)。なお、カセットCに収容されているウエハWの上下方向の間隔が狭い場合には、アーム部材15でウエハWをカセットCから引き出してから、補助アーム部材26をウエハWの上方に移動させるようにしてもよい。
【0024】
図3(C)に示される位置に補助アーム部材26を移動させた後、図示しない加圧ポンプを作動させ、補助アーム部材26からウエハW側に向かって空気を噴出させてウエハWをアーム部材15側に付勢させる(図4参照)。これにより、補助アーム部材26とウエハWとを非接触に維持しつつ、アーム部材15上での吸引部16によるウエハWの吸引支持が補助される。この状態で、移動手段12を作動させてウエハWをテーブルT上に移動させ、テーブルT上面から突出したリフタT1上に、回路面を上面とした状態でウエハWを載置させる。次いで、補助アーム部材26からの空気の噴出を停止させ、直動モータ25を作動させて補助アーム部材26を上昇させた後、単軸ロボット24を作動させて補助アーム部材26をウエハW上から退避させる。次に、吸引部16による吸引を停止させ、移動手段12を作動させてアーム部材15をテーブルT上から退避させた後、リフタT1を下降させてテーブルT上にウエハWを載置させる。
【0025】
テーブルT上に載置されたウエハWは、公知のシート貼付装置P(図1参照)によりその上面である回路面に接着シートSが貼付される。接着シートSを貼付後、リフタT1によりウエハWを上昇させた後、アーム部材15と補助アーム部材26とで前述と同様の要領でウエハWを支持し、当該ウエハWを引き出したカセットCの元の位置に搬送して収容する。なお、回路面に貼付された接着シートSが下面となるようにウエハWをカセットC内に収容してもよい。この場合、モータ21によって支持手段11と補助手段13とを180度を回転させるように制御すればよい。
【0026】
従って、このような実施形態によれば、補助アーム部材26がウエハWに非接触となるので、ウエハWの回路面に触れて当該回路面を損傷させることを防止しつつ、補助アーム部材26のエア噴出によりウエハWの支持力を増大させることができる。これにより、搬送中に、モータ21を作動させてウエハWを反転させたり、急加速或いは急停止したりしても、アーム部材15に対してウエハWが位置ずれすることを回避でき、搬送の位置精度を高めつつ搬送方法や搬送速度の自由度を向上させることが可能となる。
【0027】
以上のように、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、前記記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上説明した実施形態に対し、形状、位置若しくは配置等に関し、必要に応じて当業者が様々な変更を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状などの限定の一部若しくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0028】
例えば、支持手段11は、種々の設計変更が可能であり、図5に示されるように、ウエハWの下面に気体Gを噴出することで当該ウエハWを吸引支持可能な正圧吸引手段27を備えた構成としてもよい。この場合、気体Gの噴出によって板状部材に接触する事なく当該板状部材を搬送することができる。正圧吸引手段27としては、特に限定されないが、円錐凹部を有する外部材27Aと、この外部材27Aの円錐凹部と所定のクリアランスCを形成可能な円錐凸部を有し、閉ループ状の噴出口27Cを形成する内部材27Bとからなり、図示しない加圧ポンプの作動により噴出口27Cに気体を供給可能に設けられている。
【0029】
また、移動手段12は、図示構成例に限られるものでなく、各種の直動モータや単軸ロボット、エアシリンダ或いはこれらを組み合わせた構成として、前述のようにウエハWの搬送を行えるようにしてもよい。
【0030】
更に、本発明における板状部材としては、半導体ウエハに限定されるものではなく、ガラス板、鋼板、または、樹脂板等、その他の板状部材も対象とすることができ、半導体ウエハは、シリコンウエハや化合物ウエハであってもよい。
【0031】
また、支持手段11を構成するアーム部材15や、補助手段13を構成する補助アーム部材26は、前記実施形態に示されるような二股状に分岐した形状のものに限定されることはなく、三股以上に分岐した形状のもの、二股状に分岐することのないI型、板状部材と同形状のもの、板状部材と相似的な関係となる形状のもの、円形、三角形、四角形やそれ以上の多角形、幾何学的な形状であってもよい。
【0032】
更に、補助手段13が噴出する気体としては、大気、空気、窒素ガスやネオンガスに代表される不活性ガス、板状部材の静電気を除去するためのイオンを含んだガス等であってもよい。
【0033】
また、補助手段13が支持手段11の吸引支持を補助する手段として、気体以外に、液体、磁力等であってもよい。磁石の場合は、板状部材に磁力を帯びさせ、同じ磁極のものを板状部材に近づけることで、その反発力で板状部材を支持手段11側に付勢するように構成すればよい。
【0034】
更に、負圧吸引手段16はポーラス体以外に、複数又は単数の孔で構成してもよい。
【符号の説明】
【0035】
10 搬送装置
11 支持手段
12 移動手段
13 補助手段
27 正圧吸引手段
W 半導体ウエハ(板状部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部材の一方の面側から当該板状部材を吸引支持可能に設けられた支持手段と、この支持手段を移動可能に設けられた移動手段と、前記支持手段に支持された板状部材の他方の面側から離れて位置し、支持手段の吸引支持を補助可能に設けられた補助手段とを備えていることを特徴とする板状部材の搬送装置。
【請求項2】
前記補助手段は、板状部材に気体を噴出することで板状部材を支持手段側に付勢可能に設けられていることを特徴とする請求項1記載の板状部材の搬送装置。
【請求項3】
前記支持手段は、板状部材の一方の面に気体を噴出することで当該板状部材を吸引して支持する正圧吸引手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の板状部材の搬送装置。
【請求項4】
板状部材の一方の面側から支持手段により板状部材を吸引支持しつつ、当該板状部材の他方の面側から離れて位置する補助手段により前記吸引支持を補助した状態で、移動手段により支持手段及び補助手段を移動して板状部材を搬送することを特徴とする板状部材の搬送方法。
【請求項5】
前記補助手段は、板状部材に気体を噴出して板状部材を支持手段側に付勢することを特徴とする請求項4記載の板状部材の搬送方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−264550(P2010−264550A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118126(P2009−118126)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】