説明

枕木変位計測システム

【課題】枕木の変位量を簡単に計測でき、変位量から道床・路盤の状態を客観的に判定することができるため、軌道の保守点検作業においてより一層の効率化および信頼性の向上を図ることができる枕木変位計測システムを提供する。
【解決手段】レールを締結固定する枕木に沿った水平方向と、レールに沿った垂直方向と、これら2つの方向に直交する重力方向との三軸方向の加速度を検出する三軸加速度検出手段と、その検出結果における不要な(衝撃・定常)成分を除去するフィルタと、この不要な成分を除去されたデータに対し、積分演算を施して枕木の変位量を算出し、その変位量から必要変位波形を抽出して得た必要変位波形から最大変位量を算出する手段とを具備する変位量測定装置を設け、列車が通過する際の列車全体に対する枕木の変位波形および変位の最大値、変位に伴う三軸方向の最大加速度を計測可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道の軌道保守管理において、軌道の道床・路盤の緩み(沈下度合い)を定量的に解析するため、列車通過中の枕木の挙動を計測することを目的とした枕木変位計測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道の高速化が進み、これに伴って鉄道の軌道における安全の確保(定期的な保守点検など)もより厳しく管理されている。通常、道床がバラスト(砕石など)によって構成される、いわゆるバラスト軌道においては、レールが枕木に締結固定され、この枕木がバラストによって路盤上に固定保持されている。このように、レールは枕木およびバラストを介して設置されることにより、一定の軌間・水準を保持し、走行列車に対してはその重量を路盤へ分散させるクッションの役割を担い、路盤(地面)に沈み込まない構造となっている。
【0003】
ところで、バラストや路盤は鉄道車両(列車)の重量や通過に伴う振動、または当該路盤の水はけ具合などの状況により、次第に路盤へバラストが埋没したり、バラストが摩耗して微細粉末となったりすることでクッションの役目が失われる場合がある。このため、枕木とバラストの間に隙間が生じ、当該隙間の箇所を列車が通過すると、当該列車の重量によってレールと枕木が沈み込み、列車の乗心地を悪化させたり、走行安定性を損なうような振動を生じさせたりする問題がある。また、この振動により上述した隙間の箇所の同作用(すなわち、当該振動によって枕木とバラストの間に隙間が生じ、この隙間の箇所を列車が通過することにより、列車の重量によってレールと枕木が沈みこみことに起因した列車の乗心地を悪化させたり、走行安定性を損なうような振動を生じさせたりする作用)が進行して悪循環となる問題がある。なお、本明細書においては、このような沈み込み現象を「アオリ」と称することとする。
【0004】
このような問題から、近年では、軌道をバラスト以外の道床構造で路盤に固定する、いわゆるスラブ軌道(一定の長さのPC(プレストレスト・コンクリート)板にレールを締結し、弾性素材のパッドを介し路盤へ設置)や弾性直結枕木軌道(枕木を弾性素材を介し路盤へ直結)などの、バラスト道床のような軌道狂い(通り、高低、水準)が生じにくい軌道構造が採用されるようになってきている。しかしながら、これらスラブ軌道や弾性直結枕木軌道などの施工には大規模な改良工事を要し、建設コスト等の問題もあるため、新規開業線区や複線化・高架化事業などに限られ、未だ多くの線区でバラスト軌道が残存しているのが実状である。
【0005】
そのため、従来、バラスト軌道の保守においては、作業員が噴泥現象(上述したアオリの生じる地点では、路盤内に水が溜まり易いことから、列車の通過に伴って、その水と路盤の土、またはバラストの粉砕混合物が軌道表面に吹き上がって白っぽく見える現象が起こる)を視認したり、列車通過中のアオリ量を目視で確認したりしていた。その後、必要に応じてバラストの補充や、路盤の改良工事を実施するが、実施後の検査も、やはり目視による確認が主であった。このため、アオリ量の評価は作業員の経験と勘に基づくものとなり、熟練度や個人差によってばらつきが生じる問題があった。
【0006】
かかる問題を解決するにあたり、類似した目的に対する手法としては、例えば、特許文献1に記載されたレール締結装置のリアルタイム緩み検査システムが知られている。このシステムでは、レールを枕木に締結固定するレール締結装置に、磁気平衡型加速度センサと、安価な無線タグ(RFID:Radio Frequency Identification)から成る検出手段とを設置する。磁気平衡型加速度センサは、レール締結装置の緩みおよび当該緩みにより発生するレールの振動並びに通常時におけるレールの振動を検出する。また、検出手段はセンサ入力機能付きバッテリーレス型RFIDタグから成り、磁気平衡型加速度センサより出力されるセンサ信号を処理してレール締結装置の緩み量および振動量の測定並びにリーダーとの無線通信により測定データを伝送する。
【0007】
一方、レール沿いの一定間隔箇所または車両(検査車両又は運行中の列車)には、前記検出手段から送信される測定データおよび当該各検出手段に予め設定された固有IDデータ(ID(Identification:識別子))を取得するためのリーダーを複数箇所に設置する。これと共に、該リーダーより取得したデータをリアルタイムに演算解析してレール締結装置の緩み量および当該緩みにより発生するレールの振動量並びに通常時におけるレールの振動量を求めるためのデータ処理装置を前記リーダーに接続して設置する。
【0008】
そして、前記レール沿いの一定間隔箇所に設置したデータ処理装置または車両(検査車両や運行中の列車)に設置したデータ処理装置が複数ある場合、各複数のデータ処理装置をLAN(Local Area Network)等のネットワークに接続する。これと共に各複数のデータ処理装置を専用サーバーに接続し、各レール締結装置の固有IDデータに関連付けられた測定データの一括演算処理をリアルタイムに行うようになっている。
【0009】
これにより、レール締結装置の緩みおよび当該緩みにより発生するレールの振動並びに通常時におけるレールの振動を、RFIDタグおよびセンサにより正確且つリアルタイムに検査することができると共に、検査車両による検査のみならず運行中の列車による検査も行え、更にはレール沿いにリーダーおよびデータ処理装置を設置して車両外からも検査を行うことが可能となっている。
【0010】
また、例えば、特許文献2として、鉄道車両の各台車単位で車輪にタイヤフラット等の踏面異常があるか否かを無人状態で正確、迅速に検出する鉄道車輪踏面の異常検出装置が提案されている。
【0011】
この特許文献2では、アンテナから送信された電波を鉄道車両に取り付けたIDタグで受信し、鉄道車両の識別情報信号で変調した後、アンテナに反射させる。アンテナは、受信した信号を復調・増幅し、リーダーで解読することで鉄道車両の車号、車種を特定する。一方、車輪の進入と退出を進入検知センサと退出検知センサで検知し、その検知信号に基づいて測定区間に存在する台車を特定する。この台車に取り付けられた前・後輪のいずれかに踏面異常があれば、それをレールに取り付けた加速度センサで検出し、これらの各検出出力を直流増幅器にてノイズ成分を除去して増幅した後、演算処理部としてのCPU(Central Processing Unit)に入力する。CPUは、台車単位で車輪踏面に関する解析データを作成する。この解析データは、モデム等を介して電話回線で管理箇所へ送信されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−147412号公報
【特許文献2】特許第3082002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述の特許文献1の技術は、レールを枕木に締結固定するレール締結装置の緩みを検出する(すなわち、レールと枕木との締結状態における緩みを検出する)ものである。また、特許文献2の技術は、鉄道車両の車輪におけるタイヤフラット等の踏面異常を検出するものである。つまり、これら特許文献1または2の技術は、路盤および道床の沈下と、それに伴うアオリ量の計測を目的としたものではない。従って、上述の技術をそのままアオリ計測に応用することは不可能である。
【0014】
ところで、アオリを定量的に計測する方法としては、軌道検測車両(マヤ車)を用いた定期的な軌道検測が挙げられる。しかし、この検測車両は数が限られており、また運用のスケジュールも事前に決めておく必要があることから、同じ路線に対しては四半期に一度しか走行することができない。また、通常、軌道保守点検においては、補修前と補修後のアオリ量を比較し、改善をもって実績として評価することとなるが、前述の制約により機動的な運用ができないことから、現場において即座に定量的アオリ量の評価を行うことは困難であった。さらに、別の手法としては、枕木にマーカー(照準)を設置し、測量計と同様の手法(レーザー測距技術等)で沈下量を計測する装置もある。しかし、計測装置側が不動(安定した地面)であることが求められ、加えて装置も大がかりで重量物となることから、列車走行時の動的なアオリ量を計測するには不向きであると共に、地点を次々と移動して点検することも容易ではない不十分な問題があった。
【0015】
そこで、本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、路盤および道床(とりわけ、バラスト道床)の沈下に起因する列車通過時における枕木の変位量(アオリ量)について、熟練度や個人差に左右されない、簡便かつ定量的な計測を実現することにより、路盤や軌道の状態を客観的に評価することができ、結果として軌道保守点検作業の効率化と信頼性の向上を図ることを可能とする、枕木変位計測システムを提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明によれば、路盤および道床の沈下度合いを現場で即座に正確に把握できることから、上述の各手法と比較して結果の判定が迅速であり、補修作業への反映をいち早く行うことができる。さらに、補修後の評価も迅速に行えることにより、点検・補修・確認のサイクルの短縮が期待できる。かくして本発明は、鉄道車両の乗り心地と走行上の安全性に関わる問題の解決に格別の効果をもたらすものと考える。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(1)本発明は、鉄道車両が走行するレールを締結固定する枕木と、該枕木を路盤上に固定保持するための道床とを有する前記鉄道車両の軌道において、前記枕木が、前記鉄道車両の通過に伴い変位する変位量を測定するための枕木変位計測システムであって、前記枕木に沿った水平方向と、前記レールに沿った垂直方向と、当該水平方向および垂直方向に直交する重力方向との三軸方向の加速度を検出する三軸加速度検出手段と、前記三軸加速度検出手段の検出結果における不要な高周波成分を除去するローパスフィルタと、前記ローパスフィルタによって前記不要な高周波成分を除去された前記検出結果の不要成分除去データに対し、積分演算を施して前記枕木の変位速度を算出する第1の演算手段と、前記第1の演算手段によって算出された変位速度に対し、更なる積分演算を施して前記枕木の移動量を算出する第2の演算手段と、前記第2の演算手段によって算出された移動量に対し、不要な一定乃至超低周波成分を含む定常成分を除去するハイパスフィルタと、前記ハイパスフィルタによって、前記不要な定常成分を除去された前記枕木の移動量に基づいて、必要変位波形を抽出する変位波形抽出手段と、前記変位波形抽出手段によって抽出された必要変位波形から最大変位量を算出する変位量算出手段とを具備する変位量測定装置を備え、前記レール上を前記鉄道車両が通過する際の前記鉄道車両の列車全体に対する前記枕木の変位波形、および、前記枕木における変位の最大値、前記枕木の変位に伴う前記三軸方向の最大加速度を計測可能とすることを特徴とする枕木変位計測システムである。
【0018】
(2)本発明はまた、前記変位量測定装置を制御するための制御操作装置を設け、前記変位量測定装置および前記制御操作装置が、それぞれ情報を送受信可能な通信手段を備え、前記変位測定装置を安全な場所から遠隔操作可能であることを特徴とする前記(1)に記載の枕木変位計測システムである。
【0019】
(3)本発明はまた、前記変位量測定装置を載置する本体部と、前記本体部を前記枕木に固定保持するための固定部とを備え、前記変位量測定装置を前記枕木に設置するための設置治具を設け、前記固定部は、前記枕木と係合する一対の固定クランプ部と、前記一対の固定クランプ部間に介在され、これら固定クランプ部同士を係合するシャフトと、前記シャフトに設けられ、前記一対の固定クランプ部同士を引き寄せ合う方向に付勢する付勢手段とを具備することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の枕木変位計測システムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の枕木変位計測システムによれば、路盤および道床の沈下に起因する列車通過時における枕木の変位量について、熟練度に影響されない定量的な計測が実現され、路盤や軌道の状態を客観的に評価できる。また、簡単な設置・撤収および操作で計測でき、現場で即座に結果が判明することから、点検および確認作業の迅速化が期待できる。従って、鉄道車両の乗り心地と走行上の安全性に関わる問題の解決に格別の効果をもたらすものと考える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】本発明の枕木変位計測システムにおける基礎理論の説明に供する図面であり、枕木が傾いた状態を概略的に示す側面図である。
【図1B】本発明の枕木変位計測システムにおける基礎理論の説明に供する図面であり、路盤全体が鉄道車両の重量によって沈下している状態を概略的に示す側面図である。
【図1C】本発明の枕木変位計測システムにおける基礎理論の説明に供する図面であり、レールの一部が鉄道車両における台車の重量によって沈下している状態を概略的に示す側面図である。
【図1D】本発明の枕木変位計測システムにおける基礎理論の説明に供する図面であり、レールの一部が鉄道車両における台車の1つの輪軸の重量(軸重)によって沈下している状態を拡大して示す側面図である。
【図1E】本発明の枕木変位計測システムにおける基礎理論の説明に供する図面であり、レールと枕木がずれや緩みに起因して衝撃が生じる状態を示す概略構成図である。
【図1F】本発明の枕木変位計測システムにおける基礎理論の説明に供する図面であり、レールの跳ね上げの状態を示す概念図である。
【図2】本発明の一実施形態における変位量計測システムを使用する際の状態を概略的に示す平面図である。
【図3】本発明の一実施形態における変位量計測システムを概略的に示すブロック図である。
【図4A】本発明の一実施形態における変位量計測システムを構成する変位量計測装置を概略的に示す外観図である。
【図4B】本発明の一実施形態における変位量計測装置を機能的に示すブロック図である。
【図5】本発明の一実施形態における変位量計測システムを構成する治具を上面、平面、右側面、左側面から見て示す四面図である。
【図6A】本発明の一実施形態における変位量計測システムを構成するリモコンを概略的に示す外観図である。
【図6B】本発明の一実施形態におけるリモコンを機能的に示すブロック図である。
【図7A】変位量計測装置における制御部によって実行される基本処理を示すフローチャートである。
【図7B】変位量計測装置における制御部によって実行されるサンプリング処理を示すフローチャートである。
【図7C】変位量計測装置における制御部によって実行される10Hzサイクル処理を示すフローチャートである。
【図8A】リモコンにおける制御部によって実行される基本処理を示すフローチャートである。
【図8B】リモコンにおける制御部によって実行される10Hzサイクル処理を示すフローチャートである。
【図9】変位量測定装置によってサンプリングした加速度データを示すグラフである。
【図10】サンプリングした加速度データをローパスフィルタ処理して得た周波数を示すグラフである。
【図11】ダウンサンプリングした周波数を示すグラフである。
【図12】ダウンサンプリングした周波数をハイパスフィルタ処理して得た周波数を示すグラフである。
【図13】速度計算に用いる加速度−時間を表すグラフである。
【図14】移動距離の計算に用いる加速度−時間を表すグラフである。
【図15】ハイパスフィルタ処理により誤差補正された速度−時間を表すグラフである。
【図16】ピーク値の説明に供する速度波形を表すグラフである。
【図17】歪み除去の説明に供する速度波形を表すグラフである。
【図18】変位量抽出の説明に供する速度波形を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<基本理論>
ここで、本発明の枕木変位計測システムについて説明する前に、本発明における基礎理論について説明する。まず、本出願人が本願発明の枕木変位計測システムを開発するにあたり行った実験(シミュレーション)により、枕木に設置される枕木変位計測システムにおいて、加速度から変位量を導出する手法の基礎理論としては、以下の通りであることが判明した。
【0023】
すなわち、加速度に基づいて、次式1および2から速度および移動距離が算出される。
【数1】

【数2】

このとき、tについて微分し、離散時間をdt、初期速度をv、初期位置をxとすると、時間tにおける加速度a(t)および位置x(t)は、次式3および4のように表される。
【数3】

【数4】

また、サンプリング周波数fと、離散時間dtの関係は、次式5となる。
【数5】

従って、サンプリング周波数が高くなれば離散時間dtは小さくなり、細かい積算が可能となる。
【0024】
上述した理論に基づけば、変位量測定装置がサンプリングを続ける限り、現在時間tにおける位置xをリアルタイムで検出し続けることになる。しかし、実際には次のような問題がある。
【0025】
まず、サンプリング周波数fが、無限大(=連続時間)でなければならない。また、加速度a、速度v、位置xの各変数は、小数点以下無限の精度でなければならない。さらに、加速度センサが無限大の精度でなければならない。これらの問題は、いずれも性能上の限度があり、理論上の計算結果との乖離が誤差となって現れる。従って、単純連続積分を試行した結果、距離が静止しないことから、単なる連続的な積分では実用にならないことが判明した。このことから、実際の変位量算出には、誤差を可能な限り小さくする工夫が求められるものと考えた。
【0026】
そこで、本発明の枕木変位計測システムでは、枕木の変位量の測定中において、該変位量として加速度を測定し、この測定結果をローパスフィルタに通す。これにより、高周波成分(衝撃成分)を取り除き、得られたデータをメモリに順次記録(保存)する。
【0027】
一方、測定後は、メモリに保存したデータをダウンサンプリング(高周波成分を削ったためデータ量を圧縮)し、そのデータをハイパスフィルタに通す。これにより、定常(変位量測定装置の傾き等)成分を取り除いた後、速度v(t)を計算する。続いて、移動距離(位置x(t))を計算し、この計算結果をハイパスフィルタに通し、ここまで取りきれなかった微妙な傾きを除去する。そして、当該微妙な傾きを除去した周波数成分における波形の山・谷を検出し、山の位置を水準になるよう補正する。ここから、とりわけ歪みの大きい最初と最後の波形を除去し、当該除去した波形より2番目に大きい波形を検索し、これを枕木の変位量とするようにした。このとき、加速度値の表示は取得した加速度の生データから直接最大値を検索して計算するようにした。
【0028】
次に、上述した解析フローにおいて、検出したデータからノイズを除去するために用いるフィルタの選定について説明する。加速度成分の分析において、上述のようにして測定して得られた加速度の周波数成分としては、次のようなものが考えられる。
【0029】
まず、図1Aに示すような変位量測定装置100の設置状態における定常加速度の直流成分がある。これは、変位量測定装置100が治具101を介して枕木1に設置された状態において、すでに枕木1が道床2上のバラスト3にずれが生じたことに起因して、傾いた状態で固定保持されている場合に生じるものである。すなわち、変位量測定装置100のセンサ(図示せず)が、道床2(地面)に対して少しでも傾いた状態であると、重力加速度gが重力Fに対して小さくなるために生じるものである。
【0030】
次に、図1Bに示すように、路盤(レール)全体の加速度における超低周波成分がある。これは、道床2上のレール4が、鉄道車両5(以下、これを単に列車5と称する場合もある)の重量Nにより、当該列車5が通過する部分全体に亘って連続的に沈下することによって生じるものである。また、図1Cに示すように、列車5における台車6単位の加速度による低周波成分がある。これは、台車6が通過する毎に、当該台車6の重量Nによりレール4が沈下することによって生じるものである。但し、台車6が狭い間隔で並んで連続的に通過する場合、上述した路盤(レール)全体の加速度における超低周波成分の特徴に近づく傾向がある。
【0031】
また、図1Dに示すように、列車5の台車6における車輪7単位の加速度による低周波成分がある。これは、車輪7のうちの1軸が通過する毎に、当該車輪7の重量Nによりレール4が沈下することによって生じるものである。但し、車輪7の1軸が固定される間隔(すなわち、固定軸距が長くなる場合、上述した台車6単位の加速度による低周波成分の特徴に近づく傾向がある。
【0032】
さらに、図1Eに示すように、枕木1やレール4等の各部に与えられる衝撃の加速度による高周波成分がある。これは、例えばレール4同士の継目の間隔が開いている状態において、車輪7がレール4上を走行時に当該継目に落ち込んだ場合や、レール4を枕木1に締結固定する締結装置8とレール4との衝撃、または枕木1が底面を道床2の堅固な部分にぶつかる(底付きする)場合などにより生じるもので、衝撃音を伴って生じるものである。
【0033】
さらに、図1Fに示すように、他所の沈下に反動する跳ね上げによって生じる逆向きの加速度成分がある。これは、例えば軌道の弱い部分と強い部分との境目が明確な場合、上述した列車5の通過などに伴って他所(例えば、軌道の弱い部分)が沈下した際に、この弱い部分が押し下げられることに反動して、前記境目を支点として軌道の強い部分が押し上げられる(持ち上げられる)ことにより生じるものである。断続的に沈下箇所が存在する場合には、隣接する沈下箇所によって跳ね上げられた分、加速度成分が大きく加算されてしまう可能性があるので注意が必要となる。
【0034】
このような加速度成分の基礎データ分析から、変位量に最も影響を及ぼしているのが台車単位で発生する加速度成分であると想定し、加速度波形から台車による加速度成分を取り出す方法について以下のように検討した。まず、列車速度を90〔km/h〕(すなわち、25〔m/s〕)前後と仮定した場合、台車の固定軸距を標準的な2100〔mm〕とすると、1つの台車が所定ポイント(計測位置)を通過するために要する時間は、
2100〔mm〕/25000〔mm/s〕=0.084〔s〕
となる。そして、周波数は時間の逆数なので、
1/0.084≒11.9〔Hz〕
となる。
【0035】
一方、車両の長さは約20〔m〕であるため、
20000〔mm〕/25000〔mm/s〕=0.8〔s〕
となる。そして、周波数は時間の逆数なので、
1/0.8≒1.25〔Hz〕
となる。従って、1.25〔Hz〕〜11.9〔Hz〕の周波数帯域のみを計算すればよいと考えられる。
【0036】
但し、目的の周波数成分を得るためには、低周波と高周波を除去するためのフィルタを通す必要がある。上述したように、列車速度を決め打ちしてフィルタを設計すればよいが、実際には多少の速度差が生じることから、ある程度の汎用性を考慮する必要がある。このため、本発明では、0.5〔Hz〕〜16〔Hz〕の帯域に絞るフィルタを使用することとした。従って、本発明の変位量測定装置において、理論上、測定可能な列車速度は、36〔km/h〕〜121〔km/h〕となる。なお、ここでの設定は、一般的な在来線をターゲットとしているもので、本発明を限定するものではない。このため、フィルタの選定については、測定対象となる軌道を走行する列車に応じて適宜、変更可能である。
【0037】
また、本発明の変位量測定装置においては、有限インパルス応答(FIR:Finite impulse response)フィルタを採用することとした。このFIRフィルタは、積和のみで済むことからディジタル信号処理において普遍的に利用されている。フィルタの性能として求められるのは、いかに必要な帯域を残し、不要な帯域を除去するかという点であり、その指標の一つがタップ数である。タップ数は増えることに比例して高性能なフィルタを構築できるが、その分処理時間も必要となる。従って、本発明の変位量測定装置では、測定後に時間を要すことなく、結果を見る必要があるため、1分間の計測データを30秒以内に処理することを念頭にタップ数を設定した。勿論、これも本発明を限定するものではない。
【0038】
さらに、サンプリング周波数について以下のように検討した。サンプリング周波数は、理論的にナイキスト周波数の定理から、必要帯域の倍の周波数が必要である。また、サンプリング周波数は、高ければ高いほど詳細なデータを取ることができるが、その反面、高速な処理が必要となり、最終的にハードウエア性能とのトレードオフで決まる。本発明の変位量測定装置においては、選定したCPU(Central Processing Unit)の処理性能に基づき、サンプリング周波数を512〔Hz〕に設定した。しかし、上述したハイパスフィルタのタップ数との関係で処理時間が膨大となることが判明したため、データの取得時は512〔Hz〕で収録し、ハイパス処理を行う前に32〔Hz〕に落とすダウンサンプリング処理を行うようにした。なお、すでに前段階において、16〔Hz〕のローパスフィルタを通過していることから何ら影響がないこともわかっている。
<実施形態>
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。なお、以下の説明において、周知の手法、周知の手順、周知の構造、周知の基本思想等(以下、これらを総じて周知事項と称す)については、その細部にわたる説明を割愛するが、これは説明を簡潔にするためであって、これら周知事項の全てまたは一部を意図的に排除するものではない。この周知事項は、本発明の出願時点で当業者の知り得るところであるので、以下の説明に当然含まれている。
【0039】
図2乃至図6Bは、本発明の一実施形態に係る枕木変位計測システム10と、この変位量計測システム10を構成する変位量計測装置としての本体11、治具12およびリモートコントローラ13(以下、これを単に、リモコン13と称する)を示している。
【0040】
図2は、本実施形態における変位量計測システム10を使用する際の状態を概略的に示す平面図である。図3は、本実施形態における変位量計測システム10を概略的に示すブロック図である。図4Aは、本実施形態における変位量計測システム10を構成する変位量計測装置としての本体11を概略的に示す外観図である。図4Bは、変位量計測装置としての本体11を機能的に示すブロック図である。図5は、本実施形態における変位量計測システム10を構成する治具12を上面、平面、右側面、左側面から見て示す四面図である。図6Aは、本実施形態における変位量計測システム10を構成するリモコン13を概略的に示す外観図である。図6Bは、リモコン13を機能的に示すブロック図である。
【0041】
図2において、道床2上に枕木1がバラスト3によって固定保持され、この枕木1にレール4が締結固定されている。また、レール4上を列車5が走行するようになっている。このような列車5の軌道において、枕木1下部のバラスト3またはその下部の路盤に沈下が生じたか否かを、列車5が通過中のレール4および枕木1の変位量をもって確認するために、本実施形態の変位量計測システム10が枕木1に設置され、当該枕木1の変位量を測定するようになっている。
【0042】
この変位量計測システム10は図3にも示すように、変位量計測装置である本体11と、この本体11を枕木1に固定保持するための治具12と、本体11を制御するために各種操作を行うためのリモートコントローラ13(以下、これを単に、リモコン13と称する)とを備えて構成されている。
【0043】
具体的に、変位量計測システム10を構成する本体11は、図4Aに示すように、略矩形状の直方体からなる外観をなして構成されており、上面部11aに、後述する動作状態表示部24と電源スイッチ26bが設けられている。また、本体11は、図4Bに示すように、設置された枕木1(図2参照)の緩み(すなわち、変位量)を測定する計測部21と、計測部21によって検出された加速度データに基づき演算処理する演算制御部22と、データを記憶する記憶部23と、本体11の動作状態を表示(報知)する動作状態表示部24と、操作手段としてのリモコン13と各種情報を無線通信で送受信する通信部25と、電源部26とを備えている。
【0044】
計測部21は、設置された枕木1の変位量を、当該枕木1に沿った水平方向と、レール4(図2参照)に沿った垂直方向と、当該水平方向および垂直方向に直交する重力方向との三軸方向の加速度として検出する三軸加速度検出手段としての加速度センサ21aと、検出したアナログ信号の加速度データをディジタル信号に変換し、サンプリングした加速度データを標本化し、デジタイズするディジタル変換器21bとを有している。
【0045】
演算制御部22は、本体11における動作の制御を司るCPU22aと、CPU22aが実行する各種処理(演算処理やフィルタリング処理等)のプログラムPGを蓄積するROM(Read Only Memory)22bとを有しており、このROM22bに格納された各種プログラムPGに基づいて、CPU22aが演算処理を実行したり、記憶部23、動作状態表示部24、通信部25を制御したりできるようになっている。
【0046】
記憶部23は、加速度センサ21aによって検出した加速度データや、演算して得た枕木1の変位量などのデータを一時的に格納(記憶)すると共に、当該格納したデータを必要に応じて(例えば、CPU22aにおける演算処理時など)取出し可能なRAM23a(Random Access Memory)と、各種データ(例えば、サンプリングデータや、CPU22aの演算処理によって得られた枕木1の変位量など)を蓄積するための不揮発性メモリ23bとを有している。
【0047】
動作状態表示部24は、本体11の上面部11aに配設され、エラー状態を報知するためのエラー表示部241と、変位量を測定中である状態を報知するための作動表示部242と、電源投入後の待機状態を報知するための待機表示部243とを有している。これらエラー表示部241、作動表示部242および待機表示部243には、それぞれランプやLED(Light Emitting Diode)等の発光部材が用いられ、点灯することによって、操作員に動作状態を報知し得るようになっている。
【0048】
通信部25は、無線トランシーバ25aを備えており、リモコン13との間で本体11の動作状態に関する情報、枕木1の変位量に関する情報、リモコン13による本体11の操作制御に関する制御情報などを送受信可能となっている。また、電源部26は、電源回路26aと、本体11の上面部11aに配設される電源スイッチ26bと、電源としての電池26cとを備えて構成されている。なお、本実施形態では、電源スイッチ26bとして、押圧切換式(いわゆる押しボタン式)の電源スイッチを適用したが、本発明はこれに限らず、この他、例えば、スライド切換式の電源スイッチ26bを用いるようにしてもよい。
【0049】
このように構成される上述した変位量測定装置としての本体11は、演算制御部22のROM22bに格納された各種プログラムPGとして、時系列加速度データ(全方向)収録機能、変位解析機能、変位量演算機能、変位量表示機能、計測データ蓄積機能、全方向最大加速度表示機能、時刻設定機能および遠隔操作機能を有しており、これらプログラムPGに基づくCPU22aの制御により、各種機能を実行できるようになっている。
【0050】
なお、上述した実施形態では、本体11の記憶部23は本体11に内蔵された場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、本体11における記憶部23として、着脱自在の記憶媒体(例えば、メモリカードのようなカード状記憶媒体など)を適用することにより、この記憶媒体に枕木1の変位量計測データを蓄積した後、本体11から取り外して図示しないPC(Personal Computer)等のコンピュータに接続し、別途用意する専用のアプリケーションを用いることによって、より詳細な枕木1の変位量解析を行うこともできる。
【0051】
この本体11を枕木1に設置するための治具12は、図5に示すように、本体11を載置する本体部31a、31bと、本体部11を枕木1に固定保持するための固定部32とを備えている。固定部32は、側方から見て枕木1の形状に沿った山型形状をなしており、枕木1と係合する一対の固定クランプ部32a、32bと、これら一対の固定クランプ部32a、32b間に介在され、これら固定クランプ部32a、32b同士を係合するシャフト34と、シャフト34に設けられ、一対の固定クランプ部32a、32b同士を引き寄せ合う方向に付勢する付勢手段としてのスプリング35とを備えている。また、固定クランプ部32a、32bのそれぞれの外周側には、当該治具12を枕木1に設置する際に、固定クランプ部32a、32bを枕木1の大きさに応じて押し広げ易くするための取手33a、33bが設けられている。更に、シャフト34の上部側には、当該治具12を枕木1に設置する際に、設置(固定)状態を締め付けた状態で維持するための締付けバンド36が設けられている。なお、固定部32の形状は、これに限るものではなく、要は枕木1に対して確実に固定保持されるように設置可能であれば、この他種々の形状を広く適用することができる。
【0052】
本体部31a、31bは、コ字状に屈曲させた一対のステーで構成されており、シャフト34に対する設置位置を任意に変更することで、本体11の大きさや形状に適宜対応可能となっている。因みに、本体部31a、31bの形状は、これに限るものではなく、要は治具12に対して本体11を確実に設置可能であれば、この他種々の形状を広く適用することができる。
【0053】
変位量測定装置としての本体11を遠隔操作するリモコン13は、図6Aに示すように、本体11と同様な略矩形状の直方体からなる外観をなして構成されており、その上面部13aに後述する操作部42と、表示部43および電源スイッチ45bが配設されている。すなわち、リモコン13は、本体11を離れた位置(安全な位置)から遠隔操作するための遠隔操作機能と、本体11によって測定された測定結果(枕木1の変位量)や本体11の動作状態およびリモコン13自身の動作状態を表示する表示機能とに特化して構成されている。なお、本発明はこれに限らず、リモコン13における表示機能を他のディスプレイ(例えば、PC(Personal Computer)のディスプレイ)等に転用させて表示させるようにしてもよい。この場合、リモコンにおける表示部の占有面積を縮小し得るので、リモコン全体として、より一段とコンパクト化(小型化)することができる格別な効果を奏することができる利点がある。
【0054】
また、リモコン13は、図4Bに示すように、本体11を操作制御する操作制御処理や、リモコン13自身の制御を司る制御部41と、本体11の操作や、リモコン13における表示部43の表示切換えなどを操作する操作部42と、本体11から送信される各種情報に基づく本体11の動作状態および、リモコン13自身の動作状態を表示する表示部43と、本体11と各種情報を無線通信で送受信する通信部44と、電源部45とを備えている。
【0055】
制御部41は、リモコン13における動作の制御を司るCPU41aと、CPU41aが実行する各種処理(具体的には、本体11に対する測定開始/終了の制御処理や、測定結果としての枕木1の変位量開示要求処理、表示部43の表示切換制御処理など)のプログラムPG2を蓄積するROM41bとを有しており、このROM41bに格納された各種プログラムPG2に基づいて、CPU41aが本体11の動作制御を実行したり、表示部43の表示制御を実行したりし得るようになっている。
【0056】
操作部42は、後述するディスプレイ43aの表示を上下に移動させるための表示移動ボタン42a、42bと、その表示ディスプレイ43aにおける表示を切り換えるための表示切換ボタン42cと、本体11における測定の開始/終了(戻る)を操作するための本体操作ボタン42dと、各種操作の実行キー(エンターキー)42eとを有している。
【0057】
表示部43はディスプレイ43aを有している。このディスプレイ43aは、本体11から送信された動作状態に関する情報に基づく本体動作状態の表示や、本体11から送信された測定結果(すなわち、枕木1の変位量)に関する情報に基づく変位量表示、または、リモコン13自身の動作状態に関する動作表示を行うようになっている。
【0058】
なお、リモコン13上面部13aにおけるディスプレイ43aの上方には、本体11の動作状態表示部24(具体的には、エラー表示部241、作動表示部242および待機表示部243)に対応して、その状態を同じく表示(報知)するためのエラー表示ランプ46a、作動表示ランプ46bおよび待機表示ランプ46cと、リモコン13の電源状態が「ON」であることを点灯することで表示する電源ランプ46dとを有するランプ部46が設けられている。なお、ランプ部46の各ランプ46a〜46dには、それぞれLED(Light Emitting Diode)等の発光部材が用いられ、点灯することによって、操作員に動作状態を報知し得るようになっている。
【0059】
通信部44は、無線トランシーバ44aを備えており、本体11との間で当該本体11の動作状態に関する情報、枕木1の変位量に関する情報、リモコン13による本体11の操作制御に関する制御情報などを送受信可能となっている。また、電源部45は、電源回路45aと、上述したリモコン13の上面部13aに配設される電源スイッチ45bと、電源としての電池45cとを備えて構成されている。なお、本実施形態では、電源スイッチ45bとして、スライド切換式の電源スイッチ45bを適用したが、本発明はこれに限らず、この他、例えば、押圧切換式(いわゆる押しボタン式)の電源スイッチを用いるようにしてもよい。
【0060】
そして、このように構成された本実施形態の枕木変位計測システム10では、変位量測定装置としての本体11を枕木1に設置した状態において、本体11側が図7A〜図7Cに示す以下の手順により、枕木1の変位量(変位量)を測定するための基本処理手順、サンプリング処理手順および補正処理手順としての10Hzサイクル処理手順を実行する。これと共に、本実施形態の枕木変位計測システム10では、リモコン13側が図8Aおよび図8Bに示す以下の手順により、本体11を遠隔操作するための基本処理手順および補正指示処理手順を実行する。
【0061】
すなわち、図7Aに示すように、かかる本体11側における基本処理手順において、CPU22aは、電池26cの電力が電源スイッチ26bによる操作により電源回路26aに供給されると、ステップS1において、ROM22bに格納されたプログラムPGに基づいて、初期設定処理を行った後、機能テスト処理を実行して(ステップS2)待機する(ステップS3)。
【0062】
そして、リモコン13から枕木1の変位量(加速度)の測定を実行(開始)する指令(測定指令)を受信すると、ステップS4に移行して、設置された枕木1の変位量を加速度として測定(サンプリング)する。この後、リモコン13から枕木1における加速度(変位量)の測定を停止する指令(停止指令)を受信するまで、このサンプリング(測定動作処理)を継続する。そして、リモコン13から測定動作(サンプリング)を停止する停止指令を受信すると、測定動作(サンプリング)を停止し、ステップS5に移行する。このステップS5において、CPU22aは、測定(検出)した加速度から変位量を導き出す変位量演算処理を実行し、当該演算結果を保存する(ステップS6)。
【0063】
このとき、ステップS3の待機状態において、電源スイッチ26bが操作され、電源の供給が停止されると、CPU22aはステップS7に移行してバックアップ等の終了処理を実行し、この基本処理手順を終了する。
【0064】
ここで、CPU22aは、上述した基本処理手順のステップS4において、図7Bに示す512〔Hz〕サイクル処理手順に基づいて、測定動作処理(サンプリング処理)を実行する。
【0065】
すなわち、CPU22aは、リモコン13から枕木1の変位量(加速度)の測定を開始する測定指令を受信すると、ステップS10に移行して、設置された枕木1の変位量を加速度として測定(サンプリング)する加速度取得処理を実行する。次いで、CPU22aは、測定した加速度を記憶部23の不揮発性メモリ23bに記録させる測定時記録処理を実行し(ステップS11)、この512〔Hz〕サイクル処理手順を終了する。
【0066】
また、CPU22aは、図7Cに示す10〔Hz〕サイクル処理手順に基づいて、リモコン13からの指令に応じた各種処理を実行する。すなわち、CPU22aは、ステップS20において、リモコン13から各種指令(例えば、枕木1における加速度(変位量)の測定を停止する停止指令)を受信すると、ステップS21に移行してリモコン13における操作部42の各ボタン/キーの状態を取得するキー状態取得処理を実行する。そして、状態遷移処理を実行(ステップS22)した後、動作状態に応じて動作状態表示部24のエラー表示部241、作動表示部242または待機表示部243を点灯させるランプ制御処理を実行する(ステップS23)。次いで、ステップS24に移行して、本体11におけう動作状態に関する情報をリモコン13へ送信する画面送信処理を実行する。
【0067】
一方、リモコン13側では、図8Aに示す基本処理手順において、CPU41aは、電池45cの電力が電源スイッチ45bによる操作により電源回路45aに供給されると、ステップS30において、ROM41bに格納されたプログラムPG2に基づいて、初期設定処理を行った後、ステップS31へ移行して待機する。
【0068】
この後、ステップS31の待機状態において、電源スイッチ45bが操作され、電源の供給が停止されると、CPU41aはステップS32に移行してバックアップ等の終了処理を実行し、この基本処理手順を終了する。
【0069】
また、リモコン13においては、図8Bに示す10〔Hz〕サイクル処理手順に基づいて、本体11を遠隔操作する各種処理を実行する。すなわち、リモコン13のCPU41aは、操作部42の各種ボタンまたはキーの状態を取得するキー状態取得処理を実行し(ステップS40)、当該キー状態取得処理において取得した各種ボタンまたはキーの状態に応じた指令を本体11へ送信する指令送信処理を実行する(ステップS41)。例えば、本体操作ボタン42dによって枕木1の変位量を測定開始する操作がなされた場合、当該操作に応じた測定開始指令を本体11に送信する。
【0070】
この後、CPU41aは、ステップS41において送信した指令に基づく本体11の応答情報を受信するまで待機する応答待機処理を行う(ステップS42)。そして、本体11から前記指令に基づく応答情報(すなわち、測定開始指令の応答であれば、測定中を報知する作動表示部242の点灯を表す点灯情報)を受信すると、CPU41aは、ステップS43に移行する。そして、CPU41aは、当該受信した応答情報が枕木1の変位量に関する情報であれば、この情報に基づいて、表示部43のディスプレイ43aに変位量を表す画像を表示するよう画面表示処理を実行する。一方、受信した応答情報が本体11の動作状態に関する情報であれば、ランプ部46の対応するエラー表示ランプ46a、作動表示ランプ46bまたは待機表示ランプ46cを点灯させるように、ランプ制御処理を実行する(ステップS44)。
【0071】
次に、本体11において、枕木1の変位量を測定する手順について、グラフを用いて説明する。すなわち、まず、図9に示すように、枕木1における加速度データを取得し、当該取得した加速度周波数からノイズを除去するため、ローパスフィルタ処理を施すと図10に示すように、不要なノイズが省かれ、±0.5〔G〕程度の加速度成分のみが残る。そして、ダウンサンプリングすることによって図11に示すように、32分の1に圧縮された加速度周波数に変換し、0.5〔Hz〕のハイパスフィルタ処理を施すことによって、図12に示すような加速度周波数を得る。
【0072】
さらに、図13に示すように、速度を計算することにより、枕木1は約15〔m/s〕すなわち54〔km/h〕で上下に変位していることが分かる。次に、図14に示すグラフから枕木1の移動距離(変位量)を計算する。この段階で枕木1の変位量でなく、移動距離としているのは、速度計算時の誤差が二重積分によって蓄積され波形が右肩下がりとなって表れてしまうためである。そこで、図15に示すように、再度、ハイパスフィルタ処理を施すことにより、この誤差を軸中心に補間(速度補間)する。しかし、ハイパスフィルタ処理は、波形を中心に導こうとするため、中央部分が上にずれてしまう。このずれによる歪みを元に戻すべく、図16に示すように、波形の山・谷を検出し、山の位置を水準になるように補正する。同図において、上部横長の楕円で囲った波形の頂点が検出されたピーク値である。このピーク値が0〔mm〕の位置になるように移動させ、ピーク間のデータを補正する。
【0073】
なお、測定のはじめと終わりは衝撃が加わり易いことから、検出される波形において歪みが大きく表れ、フィルタリング処理を行っても除去しきれなくなると波形が大きく乱れる。また、フィルタの特性で変形量が大きい部分でもあることから、処理の対象から除外するよう波形の最初と最後の波を除去し、図17に示すような波形に補正する。
【0074】
図18に示すように、2番目に大きい波を検索し、これを枕木1の変位量とする。すなわち、1つのアオリ波形の最大最小を検出し(図中の円x)、一番大きく振れた部分をあえて除き、次点をアオリ量の結果として採用するようにしている。これは、極端な不正値を除去することを狙いとするためである。
【0075】
以上、説明したように、本実施形態の枕木変位計測システム10では、変位量測定装置の本体11を治具12によって枕木1に設置し、列車5が走行するレール4を締結固定する枕木1に沿った水平方向と、レール4に沿った垂直方向と、当該水平方向および垂直方向に直交する重力方向との三軸方向の加速度を本体11の加速度センサ21aによって検出する。そして、加速度センサ21aの検出結果における不要な高周波成分をローパスフィルタ処理によって除去し、このローパスフィルタ処理によって得られた不要成分除去データに対し、積分演算を施して枕木1の変位速度を算出する第1の演算処理と、第1の演算処理によって算出された変位速度に対し、更なる積分演算を施して枕木1の移動量を算出する第2の演算処理、すなわち二重積分演算を施すことによって算出された移動量に対し、不要な一定乃至超低周波成分を含む定常成分を除去するハイパスフィルタ処理を施す。
このように、ハイパスフィルタ処理を施すことによって、不要な定常成分を除去することより得られた枕木1の移動量に基づいて必要変位波形を抽出し、当該必要変位波形から枕木1における最大変位量を算出するようにした。
【0076】
従って、本発明によれば、路盤および道床2(とりわけ、バラスト道床)の沈下に起因する列車5の通過時における枕木1の変位量(アオリ量)について、熟練度や個人差に左右されない、簡便かつ定量的な計測を実現することにより、路盤や軌道の状態を客観的に評価することができ、結果として軌道保守点検作業の効率化と信頼性の向上を図ることを可能とする、枕木変位計測システム10を提供することができる。
【0077】
また、本発明によれば、路盤および道床2の沈下度合いを現場で即座に正確に把握できることから、従来の手法と比較して結果の判定が迅速であり、補修作業への反映をいち早く行うことができる。さらに、補修後の評価も迅速に行えることにより、点検・補修・確認のサイクルの短縮が期待できる。かくして本発明は、鉄道車両5の乗り心地と走行上の安全性に関わる問題の解決に格別の効果をもたらすことができる。
【0078】
なお、本発明の枕木変位計測システムについて、上述した実施形態を例にとって説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【0079】
例えば、上述した実施形態においては、変位量測定装置としての本体11と、この本体11を制御するための制御操作装置としてのリモコン13とが、無線通信によって各種情報をやりとり(送受信)するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、要は、枕木1に設置された本体11を安全な場所で操作、すなわち遠隔操作し得るものであれば、各種情報の送受信方法は如何なるものでも適用可能である。
【0080】
また、例えば、上述した実施形態において、鉄道車両5としては、いわゆる在来線を対象とするようにした場合について述べたが、本発明はこれに限ることはなく、要はバラストによって枕木が固定されるバラスト軌道において、枕木の変位量を測定するものであれば、この他種々の鉄道車両を広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の枕木変位計測システムは、鉄道の軌道における路盤と道床の沈下度合いを、列車通過時の枕木の変位量を計測することで評価するための計測システムとして利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1…枕木
2…道床
3…バラスト
4…レール
5…列車(鉄道車両)
6…台車
7…車軸
8…締結装置
10…枕木変位計測システム
11…本体(変位量測定装置)
12…治具(設置治具)
13…リモコン(制御操作装置)
31a、31b…本体部
32…固定部
32a、32b…固定クランプ部
33a、33b…取手
34…シャフト
35…スプリング(付勢手段)
36…締付けバンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両が走行するレールを締結固定する枕木と、該枕木を路盤上に固定保持するための道床とを有する前記鉄道車両の軌道において、前記枕木が、前記鉄道車両の通過に伴い変位する変位量を測定するための枕木変位計測システムであって、
前記枕木に沿った水平方向と、前記レールに沿った垂直方向と、当該水平方向および垂直方向に直交する重力方向との三軸方向の加速度を検出する三軸加速度検出手段と、
前記三軸加速度検出手段の検出結果における不要な高周波成分を除去するローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタによって前記不要な高周波成分を除去された前記検出結果の不要成分除去データに対し、積分演算を施して前記枕木の変位速度を算出する第1の演算手段と、
前記第1の演算手段によって算出された変位速度に対し、更なる積分演算を施して前記枕木の移動量を算出する第2の演算手段と、
前記第2の演算手段によって算出された移動量に対し、不要な一定乃至超低周波成分を含む定常成分を除去するハイパスフィルタと、
前記ハイパスフィルタによって、前記不要な定常成分を除去された前記枕木の移動量に基づいて、必要変位波形を抽出する変位波形抽出手段と、
前記変位波形抽出手段によって抽出された必要変位波形から最大変位量を算出する変位量算出手段と
を具備する変位量測定装置を備え、
前記レール上を前記鉄道車両が通過する際の前記鉄道車両の列車全体に対する前記枕木の変位波形、および、前記枕木における変位の最大値、前記枕木の変位に伴う前記三軸方向の最大加速度を計測可能とする
ことを特徴とする枕木変位計測システム。
【請求項2】
前記変位量測定装置を制御するための制御操作装置を設け、
前記変位量測定装置および前記制御操作装置が、それぞれ情報を送受信可能な通信手段を備え、前記変位測定装置を安全な場所から遠隔操作可能である
ことを特徴とする請求項1に記載の枕木変位計測システム。
【請求項3】
前記変位量測定装置を載置する本体部と、
前記本体部を前記枕木に固定保持するための固定部と
を備え、
前記変位量測定装置を前記枕木に設置するための設置治具を設け、
前記固定部は、前記枕木と係合する一対の固定クランプ部と、
前記一対の固定クランプ部間に介在され、これら固定クランプ部同士を係合するシャフトと、
前記シャフトに設けられ、前記一対の固定クランプ部同士を引き寄せ合う方向に付勢する付勢手段と
を具備することを特徴とする請求項1または2に記載の枕木変位計測システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−18057(P2012−18057A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155027(P2010−155027)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(591173224)株式会社エイクラ通信 (1)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】