説明

架橋ポリシクロオクテン

優れた形状回復特性を有する化学的に架橋されたポリシクロオクテン、及びジヒドロイミダゾリリデン変性グラブズ触媒を用いるシクロオクテンの開環複分解重合によるその合成法を開示する。ポリシクロオクテン生成物は、過酸化ジクミルによる硬化後、造形、該形状の記憶、新規形状の付与ができ、元の形状は適切な温度調整によって回復可能である。形状記憶特性の架橋度に対する依存性が確立された。ポリシクロオクテンのほか、それとSBR、EVA、ポリウレタンゴム、及び無機フィラーのようなその他の材料とのブレンドを利用して、優れた、そして要求に合わせた形状記憶特性を有する化学架橋生成物が提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、以下の仮特許出願、すなわち出願第60/418,023号(2002年10月11日出願)、出願第60/419,506号(2002年10月18日出願)、及び出願第60/488,323号(2003年7月18日出願)に基づく優先権を主張する。前記各仮特許出願は、本開示と矛盾しない範囲で本願に引用して援用する。
【0002】
本開示は、特定の温度及び応力の条件下で一時的又は休眠的形状に固定でき、後に熱、電気及び/又は環境刺激下で、随伴していた弾性変形がほとんど完全に緩和されて応力を除去された元の状態に戻ることが可能な形状記憶ポリマ材料に関する。更に詳しくは、本開示は、優れた形状回復特性及び特に迅速な歪回復速度を有する架橋ポリシクロオクテン(PCO:polycyclooctene)及びそのブレンドに関する。本開示はまた、該架橋ポリシクロオクテンの製造法及びその用途にも関する。
【背景技術】
【0003】
ポリマは本来、例えばゴム弾性に基づく形状記憶効果を示すが、歪回復速度、回復時の作業能力、及び収縮状態の安定度といった特徴は様々である。形状記憶ポリマ(SMP:shape memory polymer)として報告された最初のものは、1971年にラジエーションアプリケーションズ社(Radiation Applications, Inc.)によって発見及び特許化された架橋ポリエチレン、及びバーノン−ベンショフ社(Vernon-Benshoff Co.)によって報告及び義歯材料として使用されたメタクリル酸エステルであった。しかしながら、そのような材料の歪回復の機構は、主にニッケル−チタン合金に基づく形状記憶合金(SMA:shape memory alloy)のそれとは非常に異なることがすぐに確認された。
【0004】
形状記憶ポリマは実際のところ超弾性ゴムである。該ポリマをゴム状態に加熱すると〜1MPaの弾性率の抵抗下で変形でき、温度を結晶化温度又はガラス転移温度のいずれか未満に下げると変形された形状は低温剛性によって固定されるが、同時に変形時に材料に費やされた機械的エネルギーは貯蔵される。温度を転移温度(transition temperature)(T又はT)より高く上げると、ポリマはネットワーク鎖のコンフォメーションエントロピーの回復に推進されて元の形態に戻る。SMPの利点は、それらのネットワークアーキテクチャ及び剛性状態とゴム状態とを分ける転移の鋭さに密接に関連する。SMAと比較した場合、SMPは、SMAの最大歪が8%未満であるのに対し、大きなゴム状コンプライアンスのために高い歪(数百パーセントに及ぶ)の利点を有する。SMPの追加の利点は、転移温度を用途の要件に応じて合わせられることである。例えば、熱センサとして転移温度を調整したり、生物医学的用途のために予め定められた温度、例えば37℃を超えると歪回復の引き金が引かれるようにすることができる。
【0005】
特に魅力的な形状記憶効果を有する多数のポリマが見つかっている。最も有名なのは、ポリウレタン類、ポリノルボルネン、スチレン−ブタジエンコポリマ類、及び架橋ポリエチレンである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリスチレン(PS)とトランス−ポリブタジエン(TPB)のブロックコポリマでPS含有量の少ないものが、歪の固定と回復への引き金に独特のメカニズムを有しており、形状記憶への別の選択肢を提供している。ミクロ相に分離されたPSブロックのドメインはT〜93℃を有するアモルファスであるが、連続したTPB相はT=−90℃及びT=68℃を有する半結晶質である。PSとTPBブロック間は120℃未満で非混和性であるため、該コポリマは、TPBの融点を超える温度で弾性流動特性を有するミクロドメイン構造を形成し、PS相が物理的架橋の役割を果たしている。従って、可逆的変形は約T=40℃未満でTPB相を結晶化させることによって固定できるが、80℃を超える加熱でTPB相を融解し、弾性変形された材料を自由にして歪を回復させると応力を除去された状態(形状記憶)に回復されうる。
【0007】
別の知られた半結晶質形状記憶ポリマは、T=67℃及び約40%の結晶度を有するトランス−ポリイソプレン(TPI)で、これは過酸化物で容易に架橋される。T未満では、架橋TPIは三次元ネットワークを有しているが、これは化学架橋と結晶領域の両方によって連結されている。Tを超えると、結晶相は融解してアモルファスになるので、化学架橋だけが残ってゴム様弾性率を有する一次形状を維持する。この一次形状は、過酸化物硬化による化学架橋時の材料の形態である。過酸化物硬化は通常約T=145℃、30分間で起こる。その後室温に冷却される間に結晶化が起こる。PS−TPBブロックコポリマと同様、架橋TPIの弾性変形は、ポリマをT=80℃を超えて加熱することによって実施でき、この変形された二次形状は冷却による結晶化によって固定されうる。変形形状は80℃を超える加熱で一次形状に戻る。
【0008】
前述のほか、半結晶質ポリカプロラクトン(PCL)のコポリマ類もそれらのSMP特性について研究されてきた。特に、ポリカプロラクトンジオール類はメタクリレート末端基で二官能基化されているので、続いてn−ブチルアクリレートと共重合体化される。ポリカプロラクトンセグメントは、二次形状を固定できる結晶相を形成するが、Tを超える温度で熱硬化によって大きな可逆的変形を可能にする弾性ネットワークがもたらされる。PCLの分子量が形状回復温度を制御することがわかった。これは分子量が溶融転移に影響を及ぼすためと考えられている。一方、n−ブチルアクリレートコモノマーの配合は、ポリ(n−ブチルアクリレート)のガラス転移温度が低いため(T=−55℃)、軟化効果をもたらす。ポリカプロラクトンセグメントに基づくSMPは一次形状を70℃で20秒以内に回復することが示されているが、これは比較的遅い回復である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示によれば、シス−シクロオクテンから合成された化学架橋ポリシクロオクテン類(PCO)は、トランス二重結合の含有量が高いことがわかった。このポリマは、様々な架橋密度で化学的に架橋でき、新規な半結晶質熱硬化性SMPを形成する。ポリマ合成は、ジヒドロイミダゾリリデン変性グラブズ(Grubbs)触媒を用いてシクロオクテンの開環複分解重合(ring-opening metathesis polymerization)によって実施される。形成されたPCOは過酸化ジクミルをPCOに添加することによって硬化される。該混合物はフィルムに圧縮成形され、加熱による化学架橋を通じてさらに硬化される。合成生成物の熱的、機械的、及びミクロ構造的性質に及ぼす影響は架橋度に依存する。
【0010】
本開示の有益なポリマは、優れた形状回復特性及び特に迅速な歪回復速度を示す。PCOの転移温度は、ビニレン基のトランス/シス比の変化及び混和性ゴムのブレンディングによって調節可能である。滑らかな(soft)形状記憶挙動が観察され、応力不在の一次形状(primary stress-free shape)は、PCO結晶相の融点を超える熱水中に浸漬すると1秒以内に回復した。ガラス質の形状記憶ポリマとは対照的に、化学架橋PCOは、PCO結晶相のシャープな融点を超える温度での自由な造形と、続く結晶化時の形状固定が可能なエラストマーとして挙動する。本開示の形状記憶ポリマは、優れた形状回復効果を示し、回復温度及び収縮力は、使用された立体規則性(タクチシティ:tacticity)の比率、硬化度、及びブレンドされた成分の熱的性質に応じて20℃〜60℃で調節可能である。回復は、転移温度より20℃高い温度に加熱されると1秒以内に達成できる。SMPの追加の利点は、該材料が室温でフレキシブルであり、そのフレキシビリティは、硬質の粒子フィラー又は軟質のポリマゴムのいずれかをブレンドすることによって用途要件に応じて要求に合わせられること、用途要件に応じて任意の色に染色できること、及び引き金を引かれることによって開始された歪回復に光学的に透明化する転移(optical clearing transition)が伴いうることなどである。
【0011】
本開示は、開示されたPCOと、その他の例示的ポリマ材料、例えばスチレン−ブタジエンゴム(Styrene-Butadiene Rubber)、エチレンプロピレン−ジエン(EPDM)ゴム、天然ゴム(シス−ポリイソプレン)、ポリ(エチレン−コ−酢酸ビニル)(EVA:poly(ethylene-co vinyl acetate)、ポリジメチルシロキサン(シリコーン)、及びポリウレタンポリマ類とのブレンディングによって形成される形状記憶ポリマも含む。
【0012】
本開示のPCO及びブレンドは多様な用途と結び付けてうまく使用できる。例えば以下の用途などであるが、これらに限定されない。
a.フレキシブルなカテーテル及びガイドワイヤ
b.適切に着色され打出し(エンボス:emboss)加工された人工皮革(これを可能にする特質は、適当な剛性、光沢度、及び打出し加工の容易性である)
c.成形、複製(duplication)、ラピッドプロトタイピング(rapid prototyping)(光造形、高速造形技術)、歯科、及びインクレス指紋押捺用印象材
d.玩具、例えば、自由に変形できるアクションフィギュア及び熱水によって始動するプロペラ付きプラスチックボートなどであるが、これらに限定されない
e.情報貯蔵用可逆的なエンボス(表面ストラクチャリング)
f.マイクロ流体デバイス(microfluidic device)におけるポンプ及びバルブ用の可逆的なエンボス(表面ストラクチャリング)
g.波面歪を調節する鏡用裏打ち
h.温度センサ
i.安全バルブ
j.熱収縮テープ又はシール
k.フレキシブルな特注継手及びファスナ
l.ギャップフィラー、エクスプロイティングラバー(exploiting rubber)、表面湿潤及び真空シール
m.アクチュエータ
n.歯科、整形外科(例えばギプスのフィッティング)、及び足病学(誂えた矯正器具)用の医療用印象材。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本開示による例示的ポリマの有益な特徴、機能及び用途を説明するために、以下の限定されない実施例を提供する。当業者には容易に分かるとおり、以下の実施例は本開示の態様を単に説明するためのものであるので絶対的と考えるべきでなく、従って、本開示に従って都合よく使用されうる潜在的ポリマ材料、加工条件(例えば相対的パーセンテージ、温度及び時間)及び/又は最終用途に関して制限をしているとみなすべきでない。以下の実施例に記載した物理的性質及び加工条件はそのような性質/条件の単なる説明に過ぎないので、本開示の範囲又は有用性を制限しているとみなすべきでない。
【0014】
(材料と合成)
ルテニウム触媒のビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウム(IV)ジクロリド(1、グラブズ触媒)及びトリシクロヘキシルホスフィン[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン][ベンジリデン]ルテニウム(IV)ジクロリド(2)は、ストレムケミカル(Strem Chemical)社より購入した。その他の試薬はアルドリッチ(Aldrich)社から調達し、特に断りのない限りそのまま使用した。シス−シクロオクテンは使用前にCaHから真空蒸留し、塩化メチレンは使用前に塩基性活性アルミナのカラムに通した。
【0015】
<実施例>
ルテニウム触媒2(5.1mg、6.0μmol)のCHCl(50mL)中溶液に6.60g(60mmol)のシス−シクロオクテンを加えた。得られた反応混合物を空気下室温で30分間撹拌した。この間に該混合物はゲル化した。微量のエチルビニルエーテルを含有する50mLのCHClを注入して反応を停止させた。メタノールを使ってポリマを析出させ、ろ過により回収し、真空下室温で一晩乾燥させた。単離物の収量は5.0g(75%)であった。サンプルの13C NMRスペクトルを、ブルカー(Bruker)社のDPX−300 FT NMRスペクトロメータ(75Hzで運転)でクロロホルム−d中で記録した。定量スペクトルは、トランス/シス比を得るために、標準のインバースゲーテッドプロトンデカップリングパルスシーケンス(inversegated proton decoupling pulse sequence)及び緩和時間2秒を用いて得た。ゲル透過クロマトグラフィーは、ウォーターズ(Waters)社の示差屈折計検出器を備えたポリマラブ(Polymer Lab)社のLC1120 HPLCポンプを用いて実施した。移動相はテトラヒドロフラン(THF)で流速1mL/分を使用した。分離は、10Å、10Å及び10Åのポリマラブ社のカラムセットを用いて実施した。分子量は、分子量分布の狭いポリスチレン標準に対して較正した。
【0016】
PCOの過酸化物硬化は、PCOと過酸化ジクミルをCHCl中に溶解し、透明溶液を形成することによって実施した。該溶液を換気フード中室温で12時間乾燥させ、オーブン中40℃で12時間真空乾燥させた。DCPを含有する乾燥PCOを、1×3×0.05cmの寸法を有する金型に移した。該金型を2枚の熱盤間に置き、140℃、1000psiの圧力下で30分間圧縮してシート標本を得た。硬化後、該標本を金型中で室温に冷却した。
【0017】
ポリマブレンドは、二軸スクリューブラベンダ(Brabender)内で溶融ブレンディングによって達成した。30mlのチャンバを有するブラベンダをまず80℃(T+20℃)に加熱し、速度を25RPMに調整した。フィード(ブレンドされるポリマ)を予備混合し、2分以内にチャンバに供給し、そこで25RPMで10分間混合した。得られた混合物を取り出し、空気下で室温に冷却した。次に、該混合物を180℃に予熱した2枚のプレート間に導入し、プレスしてフィルムにし、30分間硬化させた。2枚のマイラー(Mylar)フィルムを用いてポリマをステンレスプレートから分離し、硬化後にフィルムがプレートに接着しないようにした。サンプルの厚さはスペーサで調節した。これはシーラーとしての役割も果たした。
【0018】
硬化PCOの熱的性質(融点及び結晶化温度)は、パーキン−エルマー(Perkin-Elmer)社の示差走査熱量測定装置(DSC−7)を用いて測定した。−50℃〜100℃までの第一の加熱速度10℃/分、100℃から−50℃までの第一の冷却速度−10℃/分、及び−50℃から100℃までの第二の加熱速度10℃/分を用いた。
【0019】
広角X線散乱(WAXS)分析は、Cr源の放射線(λ=2.291Å)を有するブルカー(BRUKER)社のGADDS−4装置を用いて実施し、透過モードを選択した。使用した電圧と電流はそれぞれ40kV及び40mA、暴露時間は30分間であった。散乱パターンは、サンプルと検出器との間の距離を6.0cmに設定したハイスター(HiStar)エリア検出器に集めた。強度プロフィール(I対2θ)は、等方性パターンの各2θ位で方位角平均によって決定した。次に、データをピークフィット(Peakfit)(登録商標)ソフトウェア(SPSSサイエンス)で分析し、ピーク位置と各ピークの相対強度を得た。
【0020】
動的機械分析は、TAインスツルメンツ(TA Instruments)社のDMA 2980で実施した。引張モードで、振動数1Hz、静的力(static force)10mN、振幅5.0μm(〜0.1%の歪)、及び自動張力設定125%で運転した。温度勾配は、−100<T<100℃の範囲にわたって4℃/分で実施した。
【0021】
次に形状記憶効果を測定した。様々な架橋度を有するPCOサンプルを0.5×2.0×30.0mmの矩形ストリップに切断し、光学対比のために赤色染料で着色した。PCOストリップを70℃(この温度でサンプルは透明でフレキシブルであった)の温水浴中で内径0.737cmの半円形に曲げ、次いで氷水浴中に移し、湾曲した二次形状を結晶化によって固定した。次に、湾曲したPCOサンプルを70℃の温水浴中に素早く浸漬した。この間、ビデオカメラを用いて1秒間に20フレームの速度で形状回復の画像を記録した。様々な曲率半径の湾曲サンプルを非線型回帰(Sigmplot(登録商標))を用いて分析した。
【0022】
ポリシクロオクテン(PCO)は、RuCl(=CHPh)(PCy1(グラブズ触媒)又はジヒドロイミダゾリリデン変性グラブズ触媒2のいずれかを用いて合成できるが、触媒2の方が触媒1よりも高い反応性を有していることが前述の合成技術を用いてさらに確立された。PCOの形状記憶材料としての独特の特徴は、調節可能な転移温度(PCOのT)である。転移温度は、PCOの融点がポリマ骨格に沿った二重結合のトランス含有量に依存することに従って、19〜61℃の温度範囲で達成可能である。本発明の合成法は、条件すなわち反応時間、触媒の種類、及び触媒濃度を変えることによって、分子量だけでなくトランス/シス比を制御する能力も有している。以下の表1に、このようにして達成された各種PCOの代表例を示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1からわかる通り、触媒濃度が高いほど高いトランス濃度及び低い分子量という結果が得られる(サンプル2及び3と1とを比較)。さらに、長い反応時間(サンプル4と2とを比較)又は高反応性触媒2の使用(サンプル5)で、高融点生成物が得られる。これはおそらく、ポリマ鎖間でより多くの交差複分解(cross-metathesis)が起こる結果、熱力学的により好ましいトランス生成物が得られるためであろう。
【0025】
サンプル5(上記PCO5)の溶融転移温度及び分子量が望ましいため、これを詳細な特性分析用として選んだ。
【0026】
(熱分析)
様々な濃度(wt%)の過酸化物、(i)DCP0%、(ii)DCP1%、(iii)DCP2.5%、(iv)DCP5%、及び(v)DCP10%を用いて製造した硬化PCOの第一の加熱及び冷却についてDSC分析を実施し、その溶融及び結晶化挙動を明らかにした。未加工のPCOも架橋PCOと同じ条件を用いて熱圧プレス機で圧縮成形し、同一の熱履歴を与えた。第一の加熱サイクル時、未加工のPCOは60.3℃の融点を示すが、未加工PCOのガラス転移は−50<T<100℃にわたって全く検出されなかった。カルデロン(Calderon)及びモリス(Morris)のJ.Polym.Sci.,Polym.Phys.Ed.1967,5,1283−1292によれば、PCOの結晶融点は、ポリマ中のトランス−ビニレン含有量のパーセンテージに直線的に依存している。具体的には、T=60℃はPCO中78%のトランス−ビニレン含有量として報告された。ここに記載の未加工PCOサンプルの場合、トランス−ビニレン含有量は80.6%なので、測定された60.3℃の溶融転移温度は、上記カルデロン及びモリスの先行文献とよく一致している。第一の冷却サイクル時、未加工のPCOは37℃で結晶化発熱を示す。第二の加熱サイクルは第一の加熱サイクルと同じ結果を示す。
【0027】
PCOを過酸化ジクミルで架橋することは、その結晶化及び溶融挙動に劇的な影響を及ぼす。融点(melting point)T、結晶点(crystallization point)T、及び溶融エンタルピ(melting enthalpy)(結晶度(crystallinity)に関連する)ΔHを図1にプロットし、以下の表2にまとめた。
【0028】
【表2】

【0029】
架橋度の顕著な影響が観察される。PCOのT及びTともDCPの量が増加するにつれて低下し、前者は10%DCPによる架橋の場合40℃を超える差がつく。溶融エンタルピも架橋の増加に伴って減少し、結晶度の低下を示している。温度がT未満に低下すると、成分のPCO鎖は結晶化し始め、結晶はある最終の大きさ及び形状に成長する。未加工のPCOの場合(架橋点なし)、ポリマ鎖の可動性が高いため、PCOの結晶成長に対する制限が比較的低くなることが予想される。しかしながら、架橋密度の高いサンプルの場合、ポリマ鎖は拡散及びコンフォメーション再編成に対して制約を受けるので、結晶化はますます制限される。その結果、過酸化物の装填量が多いと結晶度が低下し、随伴して結晶サイズの減少も起こる。後者は観察された融点低下から推察される。表2から、硬化PCOの融点は、硬化前に過酸化物の装填量を制御することによって要求通りにできることも分かる。さらに、過酸化物の量が10%を超えると、T及びTとも室温未満になり、溶融転移が過剰に広がって、硬化PCOの形状記憶挙動は失われる。
【0030】
(結晶のミクロ構造)
架橋によって影響を受けるPCOの基本ミクロ構造を広角X線散乱(WAXS)を用いて調べた。PCO5−10以外の全てのPCOサンプルの強度プロフィールから、ミクロ構造は、一つのアモルファス特有のハローパターン(halo)と、d間隔はほぼ一定であるが強度は架橋度の増加に伴って減少する四つの結晶回折リングとの重ね合わせによって特徴付けられることが分かった。例えば、1wt%の過酸化ジクミルで硬化されたPCOは、2θ=30.02°(4.42Å)及び34.81°(3.83Å)に二つの強い散乱ピークを示す。これはそれぞれPCO三斜晶系結晶構造の010及び100/110反射に対応する。さらに、PCO単斜晶系結晶構造の110及び201反射にそれぞれ対応する二つの弱いピーク、2θ=31.94°(4.16Å)及び2θ=36.97°(3.61Å)がある。
【0031】
ピークフィット(Peakfit)(登録商標)ソフトウェアを用いてWAXSパターンを分析し、成分反射を解析した。得られたデータを、下記のDMAの概要とともに以下の表3にまとめた。
【0032】
【表3】

【0033】
フィッティングしたデータから、PCOの結晶度は室温で25.5%であることが分かった。これは、シュナイダー(Schneider)及びミュラー(Muller)のJournal of Molecular Catalysis 1988,46,395−403の純結晶のエンタルピデータ(216J/g)を用いるDSCの結果(28.8%)に近い。さらに、結晶度は架橋の増加とともに単調な減少を示すが、これはDSCで観察された傾向と同じであり、これも結晶の成長を制限する架橋点の制約的影響によって説明がつく。実際、サンプルのPCO5−10(10%DCPによる架橋)は、室温で顕著な結晶度を示さなかったが、これは該サンプルが結晶化できないことを意味しているのではない。DSCデータから、PCO5−10の結晶相は−15<T<30°の範囲にわたって溶融すると結論付けられるが、WAXS分析は室温(28℃)で実施された。この温度では溶融がほぼ完了しているため、測定された結晶度は2.6%にしかならなかった。
【0034】
散乱パターンを各ピークの面積%について分析したところ、架橋による拘束が結晶度に及ぼす影響は、関連する結晶構造に依存することが分かった。三斜晶系の30.02及び34.8度の2θのピークは架橋とともに直線的に減少するが、単斜晶系の31.9及び36.97度の2θのピークは架橋によってほとんど影響を受けないように見える。従って、三斜晶系の結晶構造は架橋の制約的影響に対してより敏感であるが、単斜晶系の結晶構造はまだ少ない成分ではあるものの、より強靱である。
【0035】
(動的機械的性質)
PCOを化学的に架橋することも、永久的ネットワークの確立を通して及び間接的には前述の形態学的転移を通して、弾性率対温度などの熱機械的性質に直接的影響を及ぼす。DMAの使用によってそのような影響を明らかにするため、様々な量のDCPを用いて製造した硬化PCOの、引張貯蔵弾性率(E’)対温度のプロットを図2に示す。すべてのPCOサンプルともT=−70℃未満の温度では固体様の貯蔵弾性率(約1.7GPa)を特徴とし、この弾性率の値は架橋密度にかかわらず不変である。PCOサンプルでTの明らかな開始点(onset)であるT=−70℃を超える温度では、E’は、架橋密度に応じてあるレベルに次第に減少し始めるが、0.05〜0.5GPaの範囲である。この温度領域で架橋に応じて弾性率が減少するのは、架橋によってPCOの結晶度が低下することを示したDSC及びWAXSの結果から理解することができる。結晶相は、形状記憶の固定機構として及び室温弾性率を全般的な範囲にわたって制御する手段として機能していると考えられる。DSCによる測定で融点に近いT=62℃付近の温度では、未加工PCOの貯蔵弾性率は、71℃の溶融完了時の約2MPaに急激に減少し始める。DSCで分かるとおり、この転移温度は架橋度の増加とともに低下するのが機械的に観察される。Tを超える温度では、トレース(i)で表される未加工PCOの弾性率は、材料が粘稠液体のように流れる点まで減少し続け、永続性のゴム状プラトーを示さない(図2)。この特徴のために、未加工PCOを形状記憶ポリマとして使用するための適用可能性が妨げられている。なぜならば、Tを超える温度で迅速な応力緩和なしにゴムとして変形させられないからである。これに対し、硬化PCOは、トレース(ii)で表されるちょうど1%の過酸化物を含有する場合、72℃を超える温度で永続性のゴム状プラトーが見られるため、顕著な形状記憶効果を可能にしている。過酸化物の量が増加するに従ってゴム状プラトーの弾性率は増加するので、機械的エネルギーの貯蔵は増強されるが、転移温度及び転移の鋭さは低下する。図3のトレース(v)で示される10%のDCPを含むPCOすなわちPCO5−10の場合、観察される熱機械的応答は形状記憶効果にとって役に立たない。なぜならば、固定(結晶化)温度が室温より低いので形状固定に周囲温度以下の冷却が必要となり、一時的形状は部分溶融によってドリフトするであろうと考えられるからである。その上、溶融転移がブロードすぎて劇的な歪回復が起こらない。
【0036】
図2の各曲線から、溶融転移の開始温度(T)及び終了温度(T)が決定され、形状記憶挙動にとってはTとTとの差が小さいほうが有益であろうことが確認された。図3(a)に、T(○)及びT(△)に及ぼす過酸化物含有量の影響を示す。図から開始温度(T)はDSCで測定した融点(表2)と密接に対応していることが分かる。TもTも表2のT及びTと同様に過酸化物の量が増加するに従って低下しているが、Tはさらにそうである。図3(b)には、開始及び終了転移温度の差、ΔT=T−T(□)対添加過酸化物の量を示しているが、過酸化物の量が増加するとΔTも増加し、転移の鋭さが失われることを示す。この転移の鋭さは、図2の溶融領域におけるE’−温度のトレースの最大傾きを測定することによって定量化でき、これらの結果を図3に示す。明らかに、転移の鋭さ(未加工PCOで高い)とゴム弾性(未加工PCOで低い)との間に妥協点が存在し、最適な形状記憶ポリマの設計に影響を与えている。
【0037】
熱機械的挙動の傾向は、前述のWAXSでの観察と良く一致することが観察された。特に、室温弾性率は架橋の増加とともに減少することが分かった。それは、表3で報告された結晶度の低下とちょうど同じようであった。
【0038】
(形状記憶効果)
2.5wt%のDCPで硬化させたPCO(PCO5−2.5)の形状記憶効果の典型例を図4に示す。研究下のサンプルの応力不在の一次形状を、この架橋段階で線状の矩形バーにセットした(図4のt=0.7s参照)。一方、二次(一時的)形状は、長軸に沿って湾曲させた半円形のフィルムで、内径が0.737cmであった(図4のt=0s参照)。そのような形状は、サンプルをT=70℃の透明状態に加熱し、ピペットマンドレル(pipette mandrel)を用いてそれを半円形に変形し、最後に湾曲したフィルムを氷水で急冷して該サンプルを乳白色及び革のようにしなやかに(leathery)することによって達成された。形状回復は、湾曲したサンプルをT=70℃に加熱した水浴中に迅速に浸漬することによって調べた。図4に示されているように、二次形状から一次形状への転移はt=0.7秒以内に完了する。これに対し、非架橋サンプルのPCO5−0は、そのような目立った形状固定及び回復効果を示さない。これは、溶融転移を超える温度での乏しい弾性が明らかになったDMAの結果から予測された知見である。従って、溶融転移を超える温度でサンプルに印加された引張応力はいくらか緩和されるので、結晶化に際して完全に貯蔵されず、一次形状は高めた温度で合理的な観察時間の間復元され得ない。PCOの密度は熱水よりも小さいので、選択された形状における歪回復時に、ポリマは浮力と闘わねばならないことに注意する。極めて最近、ランドレイン(Landlein)らがオリゴ(ε−カプロラクトン)/(n−ブチルアクリレート)コポリマの形状記憶特性を報告した(Proc.Natl.Acad.Sci.2001,98,842−847)。著者らは、該コポリマの形状回復は70℃で完了するのに20秒を要することを示した。彼らの結果に比べて、本開示の硬化PCOサンプルは、極めて迅速な形状回復性を示しているが、試験を独特のプロトコルで実施したので直接の比較は適切でない。
【0039】
転移速度を定量的に評価するために、回復中のサンプルの曲率(κ=1/r、r=湾曲したフィルムに重ねた円の半径)の時間経過を画像処理によって測定し、時間に対してプロットした。これを図5に示す。異なるサンプルについて曲率緩和のプロットを比較すると、未加工PCOはκ=0の原形を回復しないことが明らかである。少なくとも5秒以内にはない(示されたプロット範囲を超えたデータ)。一方、架橋PCOサンプルは、架橋密度の増加と共により早くより完全な形状記憶挙動を示す。試験したサンプルのうち、5%の過酸化物が70℃では最良の形状記憶挙動を示す。選ばれた形状の変態は任意のものであるので、材料強度によって設定される引張歪の限界内であれば、その他のあらゆる形状の変態が可能である。いくつか挙げれば、コイル状からフラット、フラットからコイル状、凹形からフラット、つや消しから光沢、光沢からつや消しなどである。表3にまとめたWAXSの提示データを考慮すると、回復速度(図5のプロットの最大傾き)は、サンプルが架橋している限り、結晶度の増加に伴って増加する。さらに、回復の程度は、2.5%のDCPまでは結晶度と共に増加する。この架橋レベルを超えると、架橋が回復の程度にほとんど影響を及ぼさなくなるので、最適のDCP組成は5wt%付近に存在することが示唆される。
【0040】
本発明によれば、PCOポリマはシス/トランス二重結合の組成及び分子量を制御して製造されるが、これはルテニウム触媒の使用によって可能であった。様々な濃度の過酸化ジクミルを用いてポリマのサンプルを硬化し、架橋が、熱的、ミクロ構造的、及び熱機械的性質に及ぼす影響を測定した。さらに、望ましい形状記憶特性の架橋度への依存性も調べ、形状固定には結晶度の競合的影響があること(架橋に従って減少するのが見られた)、及びTを超える温度でのゴム弾性(予想通り架橋に従って増加するのが観察された)を明らかにした。未加工の線状PCOは、溶融転移温度を超える温度でゴム状プラトーを欠くために形状記憶効果を示さないが、少量の過酸化物架橋(〜1%)でもPCOに形状記憶効果が付与される。素早い形状記憶効果は架橋PCOで観察された。それは、結晶化で固定された変形サンプルを温水浴中に浸漬したときに得られる。2.5%又は5%のいずれかの過酸化物を含有するPCOの場合、曲率κ=0.14mm−1からゼロ曲率への完全な形状回復は70℃で0.7秒以内に起こる。
【0041】
PCOとその他のポリマ類、例えばスチレンブタジエン、EVA及びポリウレタンなどとの様々なブレンドを、ブレンド中のポリマ比率を様々に変えて製造し、剛性の等温特性(isothermal characterization of the stiffness)、熱機械的溶融及びその他の性質をそれ自体で、及び非ブレンド形のPCO、EVA、SBR、ポリウレタンと比較して評価した。
【0042】
(スチレン−ブタジエン軟質ゴムとのブレンディング時の等温剛性の変性)
異なる比率のSBRを用いたPCOブレンドの貯蔵弾性率を、温度勾配法及び等温法を用いて測定及び比較した。結果を図6及び7に示す。図6に示されている通り、ガラス転移温度未満の温度では、全てのブレンドとも約2GPaという同じレベルの剛性を有し、純SBRを除く全てのブレンドは、−50℃付近に同じガラス転移温度を有する。PCOが支配的成分の場合、PCOはブレンド中の連続相を表すので、転移はPCOのガラス転移のようである。ガラス転移を超える温度では、ブレンドは異なる剛性値を示すことが明白である。剛性はSBR成分の量が増加するにつれて減少している。37℃におけるブレンドの貯蔵弾性率を図7に示す。結果は、剛性は、SBR成分の比率の増加と共に直線的に減少している。つまり、SBRがPCOを軟化している。PCOは、調べたブレンドでは同じ融点を保持しているので、SBRとは完全に非混和性のようである。到達したこの結論は、PCOとSBRをPCOの融点を超える温度でブレンディングすると、ブレンドは透明ではなく白色となる。この場合、ゴムの臨界温度と剛性は独立して調整できる。SBRがPCOを37℃の温度(体温)で変性する様式は等温特性分析でも確認された。その傾向は、調べた範囲ではPCOの重量画分と直線関係にあるようである。
【0043】
(適合性成分とのブレンディングによる体温剛性及び転移温度の変性)
PCOをその他の成分とブレンドした。例えば、異なるタクチシティを有するPCOのVestenamer 6213(これはトランス含有量が低いため融点をVestenamerのそれ未満に低下させる)及びEVAなどである。いずれの成分もPCO−8012と適合性があり、融点を著しく低下させる作用があった。どちらもDMTAの結果(図8)及びDSCの結果から分かったことである。これは、組合せたPCO及びその構造がトランス−シス含有量を除いてほとんど同じであるためと考えられた。しかしながらEVAのPCOとの適合性は意外であった。この混和性は、エチレン部分の類似性に由来し、EVA中のエチレン含有量が変動すれば変化しうると考えられる。PCO/EVAについて得られたDSCの結果は、二つの溶融段階が存在することを示している。一つはPCOのそれ、もう一つはEVAのそれである。DMTAの結果も、二つの溶融転移段階及び二つの高さのプラトーが示されているので、二つの溶融段階を示している。これは、ブレンド中に二重のネットワークが存在しうること及びEVAが架橋剤として作用しうることを示すものであろう。
【0044】
SBR、EVA及びその他のPCO出発材料のほか、形状記憶ポリマは、ブレンド中の第二の材料として各種のゴム性ポリウレタン類を用いて製造され、同様の結果が得られている。
【0045】
また、本開示によれば、架橋PCO材料の体温弾性率は、無機又は有機フィラー粉末の添加によって実質的に増大させることができる。一例として、PCO(Vestenamer 8012(登録商標))を異なる量の窒化ホウ素(Advanced Ceramics,PT−140)とブレンドした。ブレンディングは、容積30mlのチャンバを有する二軸スクリューブラベンダ(Brabender)(登録商標)ミキサを用い、T=80℃で10分間実施して十分な混合を確保した。スクリューの回転速度は25rpmに設定した。材料は、30wt%の固体フィラーでも極めて容易にブレンドされた。これはそれ自体が加工助剤であるPCOの低粘性に由来する発見である。さらに高いフィラー含有量も(50%まで)この系では実行可能であろうと考えられる。使用される架橋剤は過酸化ジクミルで、その量は、加えたPCOの量(PCO+BN(窒化ホウ素)ではない)を基にして1wt−PHRである。配合材料は、180℃の熱圧プレス中で10分間、8メトリックトンの荷重下でプレスされ、熱硬化された。得られたフィルムは滑らかで卵殻白色(egg-shell white in color)をしていた。熱水(〜80℃)中での形状記憶試験は、素早く完全な回復を示す。図9に、体温(37℃)及びゴム領域の温度(T=60℃)についての引張貯蔵弾性率の傾向を示す。フィラーによって弾性率の制御された増加が可能なことが明らかである。体温における弾性率の増加は、生物医学的用途、特にステントの剛性要件を満たすことを可能にしうる。ゴム弾性率の上昇は、一時的形状から永久形状への展開時、又は形状記憶物の回復中に得られる機械的作業能力を増加させる。その他多くのフィラーも、(製品の)引張貯蔵弾性率、引張損失弾性率、及び線歪(それを超えると弾性が失われる歪)を(ユーザの)要求に合わせることができる。例えば、シリカ、二酸化チタン、モンモリロナイト粘土、ケブラー(Kevlar(登録商標))ステープル、窒化アルミニウム、バリウム、及びオキシ炭酸ビスマスなどであるが、これらに限定されない。これらのフィラーのうちのいくつかは(バリウム及びオキシ炭酸ビスマス)、同時に(製品を)放射線不透過性にすることもできる。二酸化チタンの添加は、同時に強いUV吸収も可能にするので、繊細な形状記憶品のレーザカッティングに有益である。
【0046】
窒化ホウ素のように極めて高い熱伝導率を有するフィラーは、製品が熱的に均質になる時間を短縮することによって、形状記憶効果における形状回復速度を改善すると期待される。
【0047】
このように、本開示は、トランス二重結合含有量の高いシス−シクロオクテンから合成された化学架橋ポリシクロオクテンを含む有益な形状記憶ポリマを提供する。本開示はさらに、グラブズ触媒の存在下でシス−シクロオクテンの開環複分解重合を実施し、形成されたポリシクロオクテンを過酸化ジクミルと高めた温度で反応させてポリシクロオクテンを硬化させることを含む形状記憶ポリマの有益な形成法も提供する。
【0048】
本開示のポリマ及び加工法をその特定の例示的実施態様を参照しながら説明してきたが、本開示はそのような例示的実施態様に限定されない。それどころか、当業者には容易に分かるとおり、本開示の教えは、本開示の精神又は範囲にもとることなく、多くの実施及び/又は用途に適用可能である。実際、特定のポリマ、ポリマ比率、加工条件、及び最終用途の選択において修正及び/又は変更がこれによって考えられ、そのような修正及び/又は変更も特許請求の範囲に記載の本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】様々なwt%の過酸化ジクミルで硬化させたPCOの溶融転移温度(○)及び結晶化温度(□)の依存関係を示す図である。
【図2】様々なwt%の過酸化ジクミル(DCP)で硬化させた硬化PCOの、振動数1Hz及び勾配速度4℃/分を用いた線形応力振動モード(linear stress oscillation mode)における引張貯蔵弾性率(E’)対温度を示す図である。DCPのwt%レベルは次の通りである。(i)DCP 0%、(ii)DCP 1%、(iii)DCP 2.5%、(iv)DCP 5%、及び(v)DCP 10%。
【図3】(a)図4の曲線から決定された、T(○)及びT(△)(それぞれ転移の開始及び終了温度である)に対する過酸化物の添加量の依存関係、(b)ΔT(□)対過酸化物の添加量(ΔTはT及びTの差である)を示す図である。
【図4】DCP2.5%のPCOの、T=70℃の水に迅速浸漬後の形状記憶挙動を示す図である。例示的サンプルは、一時的形状(円形)から永久形状(線形)への転移を0.7秒以内に受ける。
【図5】T=70℃における曲率κ対時間経過を示すグラフである。PCO5の過酸化物wt%は次の通りである。(i)PCO5−0%(○)、(ii)PCO5−1%(△)、(iii)PCO5−2.5%(□)、及び(iv)PCO5−5%(▽)。
【図6】様々な組成のPCO:SBRの熱機械的特性を示す図である。
【図7】PCO:SBRブレンドの様々な組成を通じて可能なT=37℃(体温)における引張弾性率の制御又は変動を示すグラフである。
【図8】様々な他のポリマとブレンドしたPCOの熱機械的特性を示すグラフである。
【図9】37℃(白丸)及び60℃(黒丸)における、添加した窒化ホウ素(BN)フィラーの量に伴うPCOの引張貯蔵弾性率の増大を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランス二重結合含有量の高いシス−シクロオクテンから合成された化学架橋ポリシクロオクテンを含むことを特徴とする形状記憶ポリマ。
【請求項2】
過酸化ジクミルを前記ポリシクロオクテンに添加することによって硬化されていることを特徴とする、請求項1に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項3】
加熱時の化学架橋を通じてさらに硬化されることを特徴とする、請求項2に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項4】
硬化後室温に冷却されることを特徴とする、請求項3に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項5】
約120〜約325(kg/mol)の範囲の分子量を有することを特徴とする、請求項1に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項6】
約19〜約61℃の調節可能な転移温度(PCOのT)を有することを特徴とする、請求項2に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項7】
約16〜約61℃の融点Tを有することを特徴とする、請求項2に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項8】
約16〜約39℃の結晶点Tを有することを特徴とする、請求項2に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項9】
約22〜約63の溶融エンタルピΔH/J−1を有することを特徴とする、請求項2に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項10】
約16〜約61℃の融点Tと、約16〜約39℃の結晶点Tと、約22〜約63の溶融エンタルピΔH/Jとを有することを特徴とする、請求項2に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項11】
室温で約2.6%〜約25.5%の結晶度を有することを特徴とする、請求項2に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項12】
迅速な形状記憶挙動が立証されていることを特徴とする、請求項2に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項13】
応力不在の前記ポリマの一次形状が、結晶質ポリマ相の融点より高い温度に暴露されると約1秒以内に回復されることを特徴とする、請求項12に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項14】
請求項1に記載のポリマと、スチレンブタジエン、EVA及びポリウレタンからなる群から選ばれるメンバーとのブレンドを含むことを特徴とする形状記憶ポリマ。
【請求項15】
請求項1に記載の化学架橋ポリシクロオクテンから形成された形状記憶ポリマ成形品。
【請求項16】
請求項14に記載のブレンドから形成された形状記憶ポリマ成形品。
【請求項17】
グラブズ触媒の存在下でシス−シクロオクテンの開環複分解重合を実施し、形成されたポリシクロオクテンを過酸化ジクミルと高めた温度で反応させて前記ポリシクロオクテンを硬化させることを含むことを特徴とする形状記憶ポリマの形成法。
【請求項18】
前記触媒がRuCl(=CHPh)(PCyであることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記触媒がジヒドロイミダゾリリデン変性グラブズ触媒であることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記硬化が金型中で実施されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
請求項17に記載の方法によって製造されることを特徴とする形状記憶ポリマ。
【請求項22】
請求項2に記載の形状記憶ポリマを含むことを特徴とする、成形、複製、ラピッドプロトタイピング及び打出し用の印象材。
【請求項23】
請求項2に記載の形状記憶ポリマを含むことを特徴とする温度センサ。
【請求項24】
請求項2に記載の形状記憶ポリマを含むことを特徴とする、歯科、整形外科及び足病学用の医療用印象材。
【請求項25】
微粉砕された有機及び無機フィラーからなる群から選ばれるメンバーを含有することを特徴とする、請求項1に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項26】
前記フィラーが、窒化ホウ素、シリカ、二酸化チタン、モンモリロナイト、粘土、ケブラー、ステープル、窒化アルミニウム、バリウム及びオキシ炭酸ビスマスからなる群から選ばれるメンバーであることを特徴とする、請求項25に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項27】
前記フィラーが窒化ホウ素であることを特徴とする、請求項26に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項28】
前記フィラーが二酸化チタンであることを特徴とする、請求項27に記載の形状記憶ポリマ。
【請求項29】
窒化ホウ素をフィラーとして配合することを含むことを特徴とする、請求項1に記載の形状記憶ポリマの形状回復速度の増加法。
【請求項30】
窒化ホウ素をフィラーとして配合することを含むことを特徴とする、請求項1に記載の形状記憶ポリマの形状回復温度の低下法。
【請求項31】
二酸化チタンをフィラーとして配合することを含むことを特徴とする、請求項1に記載の形状記憶ポリマの体温弾性率及びUV吸収を同時に増加させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−503171(P2006−503171A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501155(P2005−501155)
【出願日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【国際出願番号】PCT/US2003/032138
【国際公開番号】WO2004/033553
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(501315876)ユニバーシティ オブ コネチカット (22)
【出願人】(399093869)ユニバーシティー オブ マサチューセッツ (19)
【Fターム(参考)】