説明

植物性プランクトンを担体に固定する方法及び植物性プランクトン利用水質浄化装置

【課題】窒素、燐及び砒素等の重金属を除去する能力が大であり、且つ副作用の恐れもない、植物性プランクトンの担体への固定方法及びそれを利用した水浄化装置を提供する。
【解決手段】植物性プランクトンを任意の密度に分散した、ゲル化前のゾルを任意の形状、任意の大きさの間接担体に膜状に付着させ、その間接担体に膜状に付着したゾルを、植物性プランクトンを包括する直接担体としてゲル化し、前記間接担体に固定すること、前記植物性プランクトンを分散した、ゲル化前のゾルを間接担体に膜状に付着させるに当たって、その植物性プランクトンを分散した、ゲル化前のゾルに間接担体を浸漬させること、さらに前記直接担体がアルギン酸カルシウムゲルよりなることを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素、燐及び砒素等の環境汚染物質を除去する能力が大であり、且つ副作用の恐れもない、植物性プランクトンを担体に固定する方法及び植物性プランクトン利用水質浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来廃水中の窒素分除去は一般に、図9に示すような、硝化菌、脱窒菌等による微生物処理一般によっている。それによれば、廃水N1中のアンモニア等の窒素分は先ず硝化槽N2に導入され、空気の吹き込みによる酸化性雰囲気下で好気性細菌である硝化菌によって硝酸態窒素N3に酸化される。その窒素は次いで脱窒槽N4で空気が遮断された還元性雰囲気下で嫌気性細菌である脱窒菌によって単体の窒素N6に還元され、大気中に放出される。なお、N5は浄化された排水である。
【0003】
また、窒素が除去された廃水P1は、さらに必要があれば脱燐処理が行われる。その脱燐処理は例えば凝集剤分散活性汚泥法による。それによれば、図10に示すように、凝集剤として鉄イオンが生成するよう、鉄製電極P2a,P2aを備えた電解槽P2が用いられ、その鉄製電極P2a,P2a間への交流又は直流電圧の印加電源P3によって、鉄がイオンとなって溶出し、その鉄イオンが燐と反応して燐酸鉄P4となって沈殿し、廃棄物として処理され、その上澄み液P5が河川等に放流される。
【0004】
以上のように、脱窒には好気性、嫌気性の二つの槽N2,N4が必要であり、且つ反応が細菌によるため速度が著しく低く、装置が著しく大きくなると言う問題点がある。そのうえ別に電解による脱燐を必要とするため、煩瑣であると共に、電力を必要とするため、高いランニングコストを要するという問題点がある。
【0005】
その他窒素、燐及び砒素等の環境汚染物質の原因物質を除去する能力を有し、且つ副作用の恐れもない水質浄化装置として、植物性プランクトンによるものについての提案が数多くなされている(例えば特許文献1乃至6及び非特許文献1,2)
【0006】
特許文献1には、湖、河川、沼、池などの水域や下水などの水質の悪いところで水質の改善をしながら、増殖する植物性プランクトン(例えばアオミドロやホシミドロなどの糸状藻類)とその増殖方法とそれを製品化する方法について記されているが、植物性プランクトンの担体への保持、増殖について全く触れられていない。
【0007】
特許文献2には、窒素、燐等の富栄養化の原因物質が流れ込む水域の水面下に網を(流れに平行、平面状に)張り巡らせるように定置し、その網に付着藻類(例えばメロシラ、アオミドロ乃至はアミミドロ等)を付着繁殖させて、前記原因物質を吸収させることが記されているが、前記藻類への網への固定については特に記載されておらず、自然付着・増殖と推定される。従って網設置当初は網上には藻類が全く存在せず、藻類の付着・増殖が自然任せであって、所望の能力を発揮するまでに長時間を要すること、藻類の種類の選択やそれの網への付着密度の設定を任意に行うことが不可能であること等の問題点がある。
【0008】
特許文献3には、水域の水面上の空間または水域に隣接する空間に、藻類(例えば糸状藻類)を付着生息させて垂直に(例えば複数段)配置した、(例えば網状の)担体と、その担体の上部に前記水域の水を供給する給水手段(例えばポンプ)とを設けたものが提案され、それによって散水した水が流下する間に担体と接触し、藻類が自然付着・増殖し、水に含まれる窒素・燐等を吸収するようにしてある。これは処理される水と空気とを接触させ、それによって多くの二酸化炭素を含む水を藻類と接触させ、藻類の増殖を促進するため、設置初期の低能力の期間が短縮されると共に、原因物質の処理能力が高いとい言う利点はある。しかしながら藻類の付着が依然として自然任せであるため、特許文献2と同様の問題点は残る。
【0009】
特許文献4には、例えば透明の藻類リアクターの一端の導入口から被処理水を導入し、その内部に充填した、例えば透明のガラスビーズ状の付着担体の表面に付着した付着性微細藻類により被処理水中の無機栄養塩を取り込んで除去し、この無機栄養塩除去処理後の処理済水を他端の排出口から排出することが提案されている。また、特許文献5には、前記付着性微細藻類が増殖や窒素・燐の吸収性に優れたナビキュラ属の珪藻類、例えばナビキュラ エスピー S (Navicula sp. S) FERM P-19683珪藻株の他、ラン藻類、緑藻類が好ましいこと、その設置に当たっては予め藻株を担体上に付着、増殖させておくことが記されており、特許文献2,3の問題点はかなり解消される。しかしながら、リアクター稼動に先立って、別に予め前述の藻株を分散した液体培地をリアクター内に接種し、かなりの期間、その付着担体と接触させ、その藻株を所望の密度に増殖させておく必要がある。すなわち、予め藻類の増殖をこのリアクター用の付着担体以外で行うことについては全く触れられておらず、好ましくは別の培養培地で任意の藻類を増殖したうえ、任意の形状、大きさの付着担体に任意の密度で固定すると言う多様な要求に応えるまでに到っていない。
【0010】
非特許文献1,2には、クロレラを微小藻類生育促進細菌と共に包括したアルギン酸ビーズ(ゲル)による廃水中の窒素、燐の除去が記されている。なお別に、藻類ではないが、燐を吸着する物質(例えば水酸化アルミニウム)の微粒子を包括し、そのゲルの少なくとも表層部に硝化菌(又はそれと脱窒菌)を固定化(実際は処理水への浸漬による自然付着)したゲル片を、処理水中へ懸濁槽、固定床、流動層等の形態で浸漬するものが提案されている(例えば特許文献6)。
【0011】
しかしながら、これらはいずれも処理水との接触に当たっては、比表面積が大きく、且つ別に準備した、高密度の微小藻類や吸着物質を包括し、能力の高い小径のゲル片が容易に得られると言う点では優れているが、実用化に当たって、その小径のゲル片を、その能力を害することなく、処理域内に安定して保持し、その域から外へ流出しないように防止する手段についての記載がない。すなわち、出来れば湖沼・河川等にそのまま定置することが容易で、しかも栄養分の取り込みに優れた、簡易で安価な方式が望ましいが、いずれもそれには応えていない。そのうえ、特許文献6は窒素、ゲル片への包括は燐吸着物質だけであって、硝化菌(又はそれと脱窒菌)のゲル片表面への付着・増殖が自然任せであるため、上述の藻類の付着、増殖と同様の問題点が残る。
【特許文献1】特開平8−107782号公報
【特許文献2】特開2000−167589号公報
【特許文献3】特開2001−17986号公報
【特許文献4】特開2004−66201号公報
【特許文献5】特開2005−224720号公報
【特許文献6】特開平07−313970号公報
【非特許文献1】De-Bashan Le et al, : Water Res. 36(12)(2002)
【非特許文献2】De-Bashan Le et al, : Water Res. 38(02)(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のことから、本発明は、上記した従来技術の欠点を除くために、窒素、燐及び砒素等の環境汚染物質を除去する能力が大であり、且つ副作用の恐れもない植物性プランクトンを担体に固定する方法及び植物性プランクトン利用水質浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達するために、請求項1の発明に関わる、窒素、燐及び砒素等の環境汚染物質を独立栄養源として体内に取り込む植物性プランクトンの担体への固定方法は、植物性プランクトンを任意の密度に分散した、ゲル化前のゾルを任意の形状、任意の大きさの間接担体に膜状に付着させ、その間接担体に膜状に付着したゾルを、植物性プランクトンを包括する直接担体としてゲル化し、前記間接担体に固定することを含んでいる。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1の発明の構成に加えて、前記植物性プランクトンを、ゲル化前のゾルを間接担体に膜状に付着させるに当たって、その植物性プランクトンを分散した、ゲル化前のゾルに間接担体を浸漬させることを含んでいる。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明の構成に加えて、前記直接担体がアルギン酸カルシウムゲルよりなる。
【0016】
請求項4の発明に関わる、窒素、燐及び砒素等の環境汚染物質を独立栄養源として体内に取り込む植物性プランクトンを担体に固定した状態で処理水と接触させるように構成された植物性プランクトン利用水質浄化装置は、植物性プランクトンを包括するゲルを直接担体として、その直接担体を間接担体に膜状に固定してある。
【0017】
請求項5の発明は、請求項4の発明の構成に加えて、前記植物性プランクトンを包括するゲルがアルギン酸カルシウムゲルである。
【0018】
請求項6の発明は、請求項4又は5の発明の構成に加えて、前記植物性プランクトンが緑藻類、好ましくはクロレラである。
【0019】
請求項7の発明は、請求項4乃至6のいずれかの発明の構成に加えて、前記間接担体が網状体、好ましくは可撓性を有する網状体、さらに好ましくは天然物から得られる撚糸によって造られた網状体である。
【0020】
請求項8の発明は、請求項4乃至6のいずれかの発明の構成に加えて、前記間接担体が少なくとも板状体、棒状体、粒状体のうちのいずれかである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、植物性プランクトンの間接担体への固定が極めて容易に可能であり、しかもその固定する植物性プランクトンとして別の培養培地で増殖させたものを使用可能であり、好ましくはそれを濃縮したうえ、直接担体であるゲルに、後述のように、任意の密度で包括させることによって、直ちに処理水と接触させ、その高い水質浄化能力を発揮させることが出来る。さらにそのゲルは、任意の形状、大きさの、安定な間接担体に膜状に強固に固定可能であるため、その水質浄化能力を害されることなく、最大限に発揮することが可能に、また処理域内を移動したり、それから外へ流出したりすることがないよう、安定に保持(定置)することが可能である。すなわち、このような2つの担体に固定された植物性プランクトンは、静止状態であれ、また流通状態であれ、いかなる処理水とも任意の状態で安定して接触可能であり、窒素、燐及び砒素等の環境汚染物質を独立栄養源として、その与えられた条件下で最大限の能力を示して体内に取り込み、設置(処理水への浸漬)直後から高い水質浄化能力を安定して発揮することが可能である。
【0022】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加えて、前記植物性プランクトンを、ゲル化前のゾルを間接担体に膜状に付着させるに当たって、その植物性プランクトンを分散した、ゲル化前のゾルに間接担体を浸漬させることは、刷毛や噴霧による塗布に比較してゾルの間接担体への付着が極めて容易になる。
【0023】
請求項3の発明によれば、請求項1又は2の発明の効果に加えて、アルギン酸カルシウムゲルはアルギン酸又はそのナトリウム塩ゾルと塩化カルシウム(一般にその水溶液)との接触によって極めて容易に得られ、しかも植物性プランクトンを包括したアルギン酸カルシウムゲルは崩れ難く、植物性プランクトンを包括する直接担体、しかもそれの間接担体への固定剤として極めて優れており、強度も大であって、通常の速度の水流では溶出・損傷することはない。そのうえこのアルギン酸カルシウムゲルは、透明であって、植物性プランクトンの炭酸同化作用に必要な光を透過すると共に、食品添加剤としても使用され、無害であって二次公害を起こすおそれはない。
【0024】
請求項4の発明によれば、請求項1の発明に示すように、植物性プランクトンの間接担体への固定は間接担体に膜状に付着したゾルのゲル化によって極めて容易に可能であり、それによって請求項1の発明同様の効果を発揮することが可能である。
【0025】
請求項5の発明によれば、請求項4の発明の効果に加えて、請求項3に示すように、植物性プランクトンを包括したアルギン酸カルシウムゲルは、例えばその植物性プランクトンを任意の密度で分散したアルギン酸ナトリウムゾルに浸漬し、それを付着した間接担体に塩化カルシウム水溶液を接触させ、ゲル化することによって容易に得られる。その植物性プランクトンを包括したアルギン酸カルシウムゲルは、請求項3の発明同様に、崩れ難く、植物性プランクトンの包括剤(直接担体)、しかもそれの間接担体への固定剤として極めて優れており、強度も大であって、通常の速度の水流では損傷することはない。そのうえこのアルギン酸は食品添加剤としても使用され、無害であって二次公害を起こすおそれはない。
【0026】
請求項6の発明によれば、請求項4又は5の発明の効果に加えて、単細胞の植物プランクトンはゲルによる包括が極めて容易であり、窒素、燐及び砒素等の環境汚染物質の取り込み速度が際立って大きく、増殖力が大きく、そのうえ遠心分離等の機械的処理に対しても丈夫であって、それによって増殖能力が低下することはない。そのうちの緑藻類は藍藻類のように魚介類に悪影響を与える毒素を出すこともなく、また、クロレラはその中で増殖力が大きく、健康食品としてもよく知られている等、無害である。
【0027】
請求項7の発明によれば、請求項4乃至6のいずれかの発明の効果に加えて、この網状体よりなる間接担体の糸部分の表面に固定されたゲルは薄い膜状であるため、栄養源を含む水及び炭酸同化作用に必要な光を容易に通すことが出来、高い能力で窒素、燐及び砒素等の環境汚染物質を取り込むことが出来る。しかも、その直接担体を表面に固定した間接担体は、処理水への接触時にも水平、垂直、傾斜等任意の姿勢で、また適当な間隔を開け、複数枚平行に並べても展開可能である。また直接担体の間接担体の表面への固定に当たって、例えば前者の直接担体を形成する、ゲル化前のゾルに後者の間接担体を浸漬する場合は、この網状体よりなる間接担体は可撓性があれば、それが大きいものであっても前記ゾルが入った容器の形状、大きさに合わせて、折り曲げ、折り畳み、ロール巻き等、容易に且つ支障なく変形・変容可能であり、ゾルへの浸漬の自由度が高い。
【0028】
なお、天然物から得られる撚糸によって造られた網状体は、有害成分を含まず、植物性プランクトンの増殖に支障がなく、また廃棄処分もプラスチック等と異なり、容易であって二次公害を起こすおそれがない。以上は間接担体の網の糸部分のみにゲルが固定されている場合であったが、目が小さいと、網の目の一部又は全部が潰れた状態にゲルが膜状に固定されるが、この場合処理水をその網状体の両面で接触させることになる。
【0029】
請求項8の発明によれば、請求項4乃至6のいずれかの発明の効果に加えて、少なくともこれら板状体、棒状体、粒状体のうちのいずれかよりなる間接担体の表面にも、請求項7の発明同様に、植物性プランクトンを包括したゲルが薄い膜状に固定されるため、栄養源を含む水及び炭酸同化作用に必要な光を容易に通すことが出来、しかも棒状体、粒状体は、径が小さければ小さいほど比表面積が大きくなり、高い能力で窒素、燐及び砒素等の環境汚染物質を取り込むことが出来る。また、また直接担体の間接担体の表面への固定に当たって、これらの間接担体も、例えば上述のように植物性プランクトンを分散した、ゲル化前のゾル中に比較的自由に浸漬可能であり、処理水への接触時にはそれの支持又は保持体が必要な場合もあるが、その形状、大きさに応じて比較的自由に展開、定置可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
先ず窒素、燐及び砒素等の環境汚染物質を独立栄養源として体内に取り込む植物性プランクトンの担体への固定方法について説明すると、その骨子は植物性プランクトンを任意の密度に分散した、ゲル化前のゾルを間接担体に付着させたうえ、その間接担体に付着したゾルをゲル化させ、直接担体とすることよりなる。なお、ゲル化前のゾルとしては、いずれも水を分散媒とするアルギン酸ナトリウムゾル、κ−カラーギーナンゾル、寒天ゾル、ポリビニルアルコール(PVA)ゾル等が挙げられる。担体としては網状体、好ましくは可撓性を有する網状体、さらに好ましくは天然物から得られる撚糸によって造られた網状体、板状体、棒状体、粒状体等が挙げられる。また、間接担体へのゾルを付着する手段としてはそれへの刷毛や噴霧による塗布、ゾルへの間接担体の浸漬等が挙げられる。
【0031】
一例として、ゲル化前のゾルとして水を分散媒とするアルギン酸ナトリウムゾルを使用する場合について説明すると、植物性プランクトンが分散されたゾルに浸漬され、それから引き揚げた間接担体を、ゲル化剤である塩化カルシウム水溶液へ浸漬することによって、その間接担体に付着したゾルがアルギン酸カルシウムゲルになり、植物性プランクトンを包括する直接担体として間接担体に強固に固定される。さらに具体的に説明すると以下の通りである。
【実施例1】
【0032】
先ず、植物性プランクトンとして、培養したクロレラを遠心分離し、約100倍に濃縮したものを等容積の、2%,4%のアルギン酸ナトリウムゾルに添加、分散する。その各混合液に間接担体として木綿撚糸よりなる種々の網の目の網状体(70mm□)を浸漬し、その網状体を引き揚げ、0.3mol/Lの塩化カルシウム水溶液に浸漬すると、その網状体に付着し、クロレラを分散した液がゲル化する。得られたゲルの状態は以下の通りである。
【0033】
すなわち、網の目が小さいと、上記クロレラ分散ゾルに浸漬し、それから単に引き揚げただけのものは、図1(a),(b)に示すように網状体に対するゾルの切れが悪く、網の目が潰れるのに対して、その網の目が5mmのものは、ゾルから引き揚げた後両面から押さえてゾルを絞り落とすと、図1(c),(d)に示すように目の潰れがかなり減少する。なお、どう言うわけか、2%のアルギン酸ナトリウムゾルは、4%のそれよりもゾルの切れが悪く、目が潰れた部分が多い。さらに網の目を10mmに拡げたものは、図1(e),(f)に示すように目の潰れが解消され、ゲルは網の糸部分に沿って膜状に、糸の交差部分には玉状にそれぞれ固定される。しかもその網状体への付着量は2%のアルギン酸ナトリウムゾルでは1.08gであるのに対して、4%のそれでは1.92gとなり、アルギン酸ナトリウムの濃度に略比例する。このことから間接担体への直接担体の固定量はその濃度によって調節可能であることが分かる。
【実施例2】
【0034】
窒素、燐等の取り込み作用について説明すると、網の目の大きさが約15mm、一辺70mmの正方形の網状体に、上述のようにクロレラを包括したゲルを固定したものをそれぞれアンモニア態窒素、硝酸態窒素10ppm,燐酸態燐1ppmを含む水50mLに浸漬し、23℃に保った結果、図2に示す通りであり、クロレラは初めはアンモニア態窒素を取り込み、その後硝酸態窒素を取り込んでいると見られる。また、同様にクロレラを包括したゲルを表面に固定した約10mmの焼成ペレット4粒を硝酸態窒素11ppm、燐酸態燐0.7ppmを含む水50mLに6日間浸漬し、23℃に保った結果は図3に示す通りであり、また、焼成ペレットの代わりに市販の平均粒径約10mmの軽石を使用した結果、図4に示すように、10ppmの硝酸態窒素が6日で消失する等、いずれも従来の生物処理装置と比較して処理に要する日数だけでなく、装置容積も著しく小さくなる。
【実施例3】
【0035】
その他確認のため、クロレラを包括したアルギン酸カルシウムゲルのビーズ(径2.7mm、クロレラ0.53)についてクロレラ包括ビーズの流水下で約1ケ月間、一定時間おきにビーズの直径とクロロフィル量を測定し、ビーズの溶解性を調べた。その結果、その径についても、またクロレラ量についても殆ど変化はみられなかった。また、事前に約30種類の植物性プランクトン(特に微細な緑藻類)について硝酸態窒素の吸収能力を調べた。すなわち、500mlの培地(硝酸態窒素10ppm、燐酸態燐1ppm)に各々藻体を微量に添加して増殖に伴う硝酸態窒素の吸収経時変化を調べ、クロレラ(Chlorella vulgaris)が最も速い吸収速度を有することが確認されている。
【0036】
以上の植物性プランクトンをゲル状の直接担体を介して間接担体に固定することの作用効果を整理すると、植物性プランクトンの間接担体への固定が極めて容易に可能であって、先ずその固定する植物性プランクトンとして別の培養培地で増殖させたものを使用可能であり、好ましくはそれを濃縮したうえ、直接担体であるゲルに、後述のように、任意の密度で包括させることによって、直ちに処理水と接触させ、その高い水質浄化能力を発揮させることが出来る。2番目にそのゲルは、任意の形状、大きさ、且つ定置容易で安定な間接担体に膜状に強固に固定可能であるため、その水質浄化能力を害されることなく、最大限に発揮可能に、また処理域内を移動したり、それから外へ流出したりすることがないよう、安定な状態に保持(定置)することが可能である。
【0037】
すなわち、このような2つの担体に固定された植物性プランクトンは、後述のように装置化することによって、静止状態であれ、また流通状態であれ、いかなる処理水とも任意の状態で安定して接触可能であり、窒素、燐及び砒素等の環境汚染物質を独立栄養源として、その与えられた条件下で最大限の能力を示して体内に取り込み、設置(処理水への浸漬)直後から高い水質浄化能力を安定して発揮することが可能である。
【0038】
3番目に植物性プランクトンをゲル状の直接担体を介して間接担体に固定するに当たって、植物性プランクトンを分散した、ゲル化前のゾルに間接担体を浸漬させることは、刷毛や噴霧による塗布に比較して噴霧ゾルの間接担体への付着が極めて容易になる。
【0039】
4番目にアルギン酸カルシウムゲルはアルギン酸又はそのナトリウム塩ゾルと塩化カルシウム(一般にその水溶液)との接触によって極めて容易に得られ、しかも植物性プランクトンを包括したアルギン酸カルシウムゲルは崩れ難く、植物性プランクトンの包括する直接担体、しかもそれの間接担体への固定剤として極めて優れており、強度も大であって、通常の速度の水流では損傷することはない。そのうえこのアルギン酸カルシウムゲルは、透明であって、植物性プランクトンの炭酸同化作用に必要な光を透過すると共に、食品添加剤としても使用され、無害であって二次公害を起こすおそれはない。
【0040】
次に上記植物性プランクトンを包括したゲルを間接担体である網状体、粒状体等の表面に固定した水浄化装置例について図5乃至図7により説明する。図5は間接担体に網状体を用いたもののひとつであって、長方形の網1を水中に懸吊するために、上辺には複数のフロート2を、また下辺には複数の重石3を、それぞれ付けており、上辺のそれぞれ両端を支柱4,4等によって固定したものを、これを湖沼等に少なくとも1張り、出来れば複数張り適当に分散して定置すればよい。それによって、水流がない湖沼でも、従来例のように、別の位置に設置した、浄化のための装置に水を導いたり、元の位置に戻したりする手段を設けることなく、容易に水浄化を行うことが可能である。
【0041】
その他、図示は省略するが、網を河川に垂直又は斜めに横断するよう、水の流れに平行に、また図6に示すように、網を平面に展開してまたジグザグに屈折させる等、複数列平行に、図7に示すように、レースウェイ方式の養殖場5を水が周壁5aに沿って回るように、その中心線上に仕切り壁5bを設け、その仕切り壁5bと周壁5aとを横断するよう、それぞれ網1を張ったりすることも可能である。また、図示は省略するが、従来例のように、浄化装置内に上記網を種々な姿勢、例えば、水平にして鉛直方向に複数段、また鉛直にして水平方向に複数列それぞれ並べて組み込んでもよい。
【0042】
このような水浄化装置の作用効果について説明すると、先ずこの網状体よりなる間接担体の糸部分の表面に固定されたゲルは薄い膜状であるため、栄養源を含む水及び炭酸同化作用に必要な光を容易に通すことが出来、高い能力で窒素、燐及び砒素等の環境汚染物質を取り込むことが出来る。2番目にその直接担体を表面に固定した間接担体は、処理水への接触時にも水平、垂直、傾斜等任意の姿勢で、また適当な間隔を開け、複数枚平行に並べても展開可能である。なお、目が小さいと、網の目が潰れた状態に全面にゲルを膜状に固定可能であり、この場合は、網の目を処理水が透過不可能になるが、処理水はその網状体の両面で接触させることになる。
【0043】
3番目に直接担体の間接担体の表面への固定に当たって、上述の場合、例えば前者の直接担体を形成する、ゲル化前のゾルに後者の間接担体を浸漬する場合は、この網状体よりなる間接担体は可撓性があれば、それが大きいものであってもの前記ゾルが入った容器の形状、大きさに合わせて、折り曲げ、折り畳み、ロール巻き等、容易に且つ支障なく変形・変容可能であり、ゾルへの浸漬の自由度が高い。4番目に天然物から得られる撚糸によって造られた網状体は、有害成分を含まず、植物性プランクトンの増殖に支障がなく、また廃棄処分もプラスチック等と異なり、容易であって二次公害を起こすおそれがない。
【0044】
さらに上記植物性プランクトンを包括したゲルを間接担体に少なくとも板状体、棒状体、粒状体のいずれかを使用した水浄化装置について説明すると、湖沼の底に敷設するか、堆積してもよく(図示省略)、図8に示すように、筏7の下方に、粒状体を詰めた、透水性板状または棒状の袋8を懸吊させてもよい。なお、6は湖沼、9はその底に溜まった、窒素・燐等を発生する有機物である。また、従来例のように、浄化装置内にこれらのうちのいずれかを固定床、段塔、流動層等にして組み込むことも出来る(図示省略)。
【0045】
それぞれ作用及び効果について説明すると、少なくともこれら板状体、棒状体、粒状体のうちのいずれかよりなる間接担体の表面にも、網状体同様に、植物性プランクトンを包括したゲルが薄い膜状に固定されるため、栄養源を含む水及び炭酸同化作用に必要な光を容易に通すことが出来、しかも棒状体もしくは粒状体の径が小さければ小さいほど比表面積が大きくなり、高い能力で窒素、燐及び砒素等の重金属の取り込むことが出来る。また、また直接担体の間接担体の表面への固定に当たって、これらの間接担体も、例えば上述のように植物性プランクトンを分散した、ゲル化前のゾル中に比較的自由に浸漬可能であり、しかも上述のように、処理水への接触時にはそれの支持又は保持体が必要な場合もあるが、その形状、大きさに応じて比較的自由に展開、定置可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の、植物性プランクトンを包括したゲル(直接担体)を固定した網状体(間接担体)の外観を示す写真である。
【図2】図1と同様の網状体による硝酸態窒素の取り込みの経過を示すグラフある。
【図3】本発明の、植物性プランクトンを包括したゲル(直接担体)を固定した焼成ペレット(間接担体)による窒素・燐の取り込みの経過を示すグラフである。
【図4】本発明の、植物性プランクトンを包括したゲル(直接担体)を固定した軽石片(間接担体)による窒素の取り込みの経過を示すグラフである。
【図5】本発明の植物性プランクトン利用水質浄化装置の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明の植物性プランクトン利用水質浄化装置の2番目の例を示す斜視図である。
【図7】本発明の植物性プランクトン利用水質浄化装置の3番目の例を示す斜視図である。
【図8】本発明の植物性プランクトン利用水質浄化装置の4番目の例を示す斜視図である。
【図9】水浄化装置の従来例の一つを示すブロック図である。
【図10】水浄化装置の従来例の他の一つを示す原理図である。
【符号の説明】
【0047】
1 網
2 フロート
3 重石
4 支柱
5 養魚場
5a 周壁
5b 仕切り壁
6 湖沼
7 筏
8 袋
9 有機物
N1 廃水
N2 消化層
N3 硝酸態窒素
N4 脱窒槽
N5 排水
N6 単体の窒素
P1 廃水
P2 電解槽
P2a 鉄製電極
P3 印加
P4 燐酸鉄
P5 上澄み液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素、燐及び砒素等の環境汚染物質を体内に取り込む植物性プランクトンの担体への固定方法であって、植物性プランクトンを任意の密度に分散した、ゲル化前のゾルを任意の形状、任意の大きさの間接担体に膜状に付着させ、その間接担体に膜状に付着したゾルを、植物性プランクトンを包括する直接担体としてゲル化し、前記間接担体に固定する
ことを特徴とする、植物性プランクトンの担体への固定方法。
【請求項2】
前記植物性プランクトンを分散した、ゲル化前のゾルを間接担体に膜状に付着させるに当たって、その植物性プランクトンを分散した、ゲル化前のゾルに間接担体を浸漬させることを特徴とする、請求項1に記載の植物性プランクトンの担体への固定方法。
【請求項3】
前記直接担体がアルギン酸カルシウムゲルよりなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の植物性プランクトンの担体への固定方法。
【請求項4】
窒素、燐及び砒素等の環境汚染物質を体内に取り込む植物性プランクトンを担体に固定した状態で処理水と接触させるように構成された植物性プランクトン利用水質浄化装置であって、植物性プランクトンを包括するゲルを直接担体として、その直接担体を間接担体に膜状に固定してあることを特徴とする植物性プランクトン利用水質浄化装置。
【請求項5】
前記植物性プランクトンを包括するゲルがアルギン酸カルシウムゲルである
ことを特徴とする、請求項4に記載の植物性プランクトン利用水質浄化装置。
【請求項6】
前記植物性プランクトンが緑藻類、好ましくはクロレラであることを特徴とする、請求項4又は5に記載の植物性プランクトン利用水質浄化装置。
【請求項7】
前記間接担体が網状体、好ましくは可撓性を有する網状体、さらに好ましくは天然物から得られる撚糸によって造られた網状体であることを特徴とする、請求項4乃至6のいずれかに記載の植物性プランクトン利用水質浄化装置。
【請求項8】
前記間接担体が少なくとも板状体、棒状体、粒状体のうちのいずれかである
ことを特徴とする、請求項4乃至6のいずれかに記載の植物性プランクトン利用水質浄化装置。

【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−196192(P2007−196192A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20739(P2006−20739)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000236104)MHIソリューションテクノロジーズ株式会社 (33)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】