説明

検査装置および検査方法

【課題】微小な析出相であっても精度良く検出できる検査装置および検査方法を提供する。
【解決手段】一方が被検査材の柱状組織の延伸方向に平行な方向に一様渦電流を流すことができ他方が被検査材の柱状組織の延伸方向に直角な方向に一様渦電流を流すことができる第一のコイル111および第二のコイル112と、被検査材に円形の渦電流を流すことができる第三のコイル121および第四のコイル122とで構成され、被検査材のある位置に第三のコイル121および第四のコイル122により渦電流を流した場合に渦電流探傷器14により検波された不平衡電位から、第一のコイル111および第二のコイル112により二つの一様渦電流を流した場合の渦電流探傷器13により検波された不平衡電位を減算処理する演算処理手段154とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置および検査方法に関するものであり、詳しくは、地の組織中に析出する他の組織を検査できる検査装置および検査方法に関するものであり、特に好適には、ステンレス鋼においてシグマ(σ)相の析出を検査できる検査装置および検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼は、炭素鋼に11%以上の多量のクロム(Cr)を含有させた合金鋼であり、その表面にクロムの酸化膜ができて不働態化することから、普通鋼に比較して高い耐食性を有する。このため、淡水化プラントなどといった、耐食性が要求される環境下で使用される機械・機器などに応用されている。
【0003】
クロムの含有率の高いステンレス鋼は、ある特定の温度範囲で長時間にわたって加熱されると、シグマ(σ)相が析出することがある。シグマ相は、鉄とクロムの金属間化合物であり、非磁性で硬くて脆いという性質を有する。このため、ステンレス鋼にシグマ相が析出すると、常温における衝撃値が低下する(σ脆化)。特に二相ステンレス鋼は、クロムの含有率が高いことなどから、シグマ相が析出しやすい。
【0004】
このため、製造されたステンレス鋼は、シグマ相の析出の有無を検査する必要がある。シグマ相の析出の有無を検査する方法としては、たとえば、製造されたステンレス鋼の一部をサンプリングし、サンプリングした材料をエッチングし、エッチングした面を写真撮影して観察するという方法が用いられている。しかしながらこのような方法では、製造されたステンレス鋼の一部しか検査をすることができず、ステンレス鋼の全体にわたってシグマ相が析出していないことを保証することができない。また、このような方法は、ステンレス鋼の一部をサンプリングする工程、サンプリングした材料をエッチングする工程、エッチングした材料を写真観察する工程が必要であり、検査に手間を要する。
【0005】
そこで、ステンレス鋼の全体にわたって迅速にシグマ相の析出の有無を検査する方法が提案されている。たとえば、特許文献1には、渦電流探傷装置を用いてシグマ相の析出の有無を検査する方法が開示されている。特許文献1に記載の方法は、渦電流探傷(渦流探傷)を応用したものである。すなわち、ステンレス鋼に渦電流を流した場合、シグマ相の析出の有無によって、渦電流の流れ方が変化する。この渦電流の流れ方の変化をブリッジ回路の不平衡電位として検出することにより、シグマ相の析出の有無を判定する。
【0006】
具体的には、まず、ブリッジ回路の隣り合う辺に設けられる二つのコイルに通電して、ブリッジ回路を平衡状態にする。次いで、二つのコイルのうちの一方を、シグマ相が析出していないステンレス鋼に対向させ、その際のブリッジ回路の不平衡電位を検出する。同様に、二つのコイルのうちの一方を、シグマ相が多量に析出しているステンレス鋼に対向させ、その際のブリッジ回路の不平衡電位を検出する。そして、検出した二つの不平衡電位に基づいて、不平衡電位変化基準線を設定する。その後、二つのコイルのうちの一方を、検査対象のステンレス鋼に対向させ、その際のブリッジ回路の不平衡電位を検出する。検出した不平衡電位を不平衡電位変化基準線と比較することにより、検査対象のステンレス鋼にシグマ相が析出しているか否かを判定する。
【0007】
このような方法によれば、コイルを対向させた位置におけるシグマ相の析出の有無を判定することができる。このため、たとえばコイルを走査させることにより、ステンレス鋼の全体にわたってシグマ相の析出の有無を検査することができる。また、あらかじめ不平衡電位変化基準線を設定しておけば、その後は検出された不平衡電位を不平衡電位変化基準線と比較するだけでシグマ相の析出の有無を検査できる。したがって、ステンレス鋼のサンプリングやエッチングなどの必要がなく、検査を迅速に行うことができる。このためたとえば、インラインでの検査も可能となる。
【0008】
ところで、ステンレス鋼は、シグマ相がわずかでも析出すると、衝撃値が大幅に低下することが知られている。たとえば、析出したシグマ相の面積率が1%以下であっても、衝撃値は大幅に低下する。このため、面積率が0.3〜1%程度の微小なシグマ相であっても高精度に検査したいという要求がある。しかしながら特許文献1に記載の方法では、微小なシグマ相を高精度に検出できないことがある。
【0009】
その理由は次のとおりである。たとえば二相ステンレス鋼は、フェライト(α)とオーステナイト(γ)の二相組織を有する。フェライトは磁性の組織であり、オーステナイトは非磁性の組織である。フェライトとオーステナイトの比率が変化すると、導電率や透磁率などの電気的特性や磁気的特性も変化する。このため、渦電流を流した場合、その流れ方も変化する。したがって、特許文献1に記載の方法で検査を実施すると、フェライトとオーステナイトの比率が変化した場合にも、ブリッジ回路のバランスがくずれて不平衡電位が生起する。すなわち、ブリッジ回路に生起する不平衡電位は、シグマ相の析出に起因して生起する不平衡電位と、フェライトとオーステナイトの比率の変化に起因して生起する不平衡電位とが合わさったものとなる。そして、このような不平衡電位に基づいてシグマ相の析出の有無を判定することになるから、シグマ相の析出を高精度に判定することは困難である。特に、析出しているシグマ相が微小であると、シグマ相の析出に起因して生起する不平衡電位は小さくなる。このため、フェライトとオーステナイトの比率の変化に起因して生起する不平衡電位に埋もれて検出できなくなる。したがって、微小なシグマ相の検査が困難となる。
【0010】
【特許文献1】特開昭62−147356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、微小な析出組織を精度良く検査することができる検査装置および検査方法を提供すること、また、被検査材の地の組織の影響を受けることなく析出組織を検出することができる検査装置および検査方法を提供すること、または被検査材の全体にわたって析出組織の有無を検査することができる検査装置および検査方法を提供することであり、特に、ステンレス鋼に析出する微小なシグマ相を精度良く検査することができる検査装置および検査方法を提供すること、または、被検査材の地の組織の変化の影響を受けることなくシグマ相を検出することができる検査装置および検査装置を提供すること、被検査材の全体にわたってシグマ相の析出の有無を検査することができる検査装置および検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、地が所定の方向に延伸する二相以上の柱状組織を有する被検査材に前記柱状組織とは異なる組織の析出を検査する検査装置であって、一方が前記被検査材の柱状組織の延伸方向に平行な方向に一様渦電流を流すことができ他方が前記被検査材の柱状組織の延伸方向に直角な方向に一様渦電流を流すことができる第一のコイルおよび第二のコイルと、前記第一のコイルおよび前記第二のコイルが設けられた第一のブリッジ回路と、該第一のブリッジ回路に生起した不平衡電位を検波できる第一の渦電流探傷器と、前記被検査材に円形の渦電流を流すことができる第三のコイルおよび第四のコイルと、前記第三のコイルおよび前記第四のコイルが設けられた第二のブリッジ回路と、該第二のブリッジ回路に生起した不平衡電位を検波できる第二の渦電流探傷器と、前記被検査材のある位置に前記第三のコイルおよび前記第四のコイルにより渦電流を流した場合に前記第二のブリッジ回路に生起して前記第二の渦電流探傷器により検波された不平衡電位から、前記被検査材の前記ある位置に前記第一のコイルおよび前記第二のコイルにより前記被検査材の柱状組織の延伸方向に平行な方向と直角な方向の二つの一様渦電流を流した場合に前記第一のブリッジ回路に生起して前記第一の渦電流探傷器により検波された不平衡電位を減算処理する演算処理手段と、を備えることを要旨とするものである。
【0013】
なお、「一様渦電流」とは、ある領域内において流れる方向が一様である渦電流をいうものとする。また、「不平衡電位」とは、ブリッジ回路のバランスがくずれたときにブリッジ回路に生起する電位(電位差)をいう。
【0014】
前記第一のブリッジ回路に生起して前記第一の渦電流探傷器により検波された不平衡電位と前記第二のブリッジ回路に生起して前記第二の渦電流探傷器により検波された不平衡電位の一方を記憶することができる記憶手段をさらに備え、前記演算処理手段は前記第一のブリッジ回路に生起して前記第一の渦電流探傷器により検波された不平衡電位と前記第二のブリッジ回路に生起して前記第二の渦電流探傷器により検波された不平衡電位の他方が入力されると、前記記憶手段に記憶されるかまたは入力された第二のブリッジ回路に生起して前記第二の渦電流探傷器により検波された不平衡電位から、入力されたかまたは前記記憶手段に記憶される第一のブリッジ回路に生起して前記第一の渦電流探傷器により検波された不平衡電位を減算処理する構成であってもよい。
【0015】
本発明は、地が所定の方向に延伸する二相以上の柱状組織を有する被検査材に前記柱状組織とは異なる組織の析出を検査する検査装置であって、一方が前記被検査材の柱状組織の延伸方向に平行な方向に一様渦電流を流すことができ他方が前記被検査材の柱状組織の延伸方向に直角な方向に一様渦電流を流すことができる第一のコイルおよび第二のコイルと、前記被検査材に円形の渦電流を流すことができる第三のコイルおよび第四のコイルと、前記第一のコイルおよび前記第二のコイルと、前記第三のコイルおよび前記第四のコイルとを交換可能でかつ選択的に設けることができるブリッジ回路と、該ブリッジ回路に生起した不平衡電位を検波できる渦電流探傷器と、前記ブリッジ回路に生起して前記渦電流探傷器により検波された不平衡電位を記憶できる記憶手段と、前記第三のコイルおよび前記第四のコイルが設けられたブリッジ回路を用いて前記被検査材のある位置に渦電流を流した場合に前記ブリッジ回路に生起して前記渦電流探傷器により検波された不平衡電位であって前記記憶手段に記憶されるかまたは前記ブリッジ回路から出力される不平衡電位から、前記第一のコイルおよび前記第二のコイルが設けられたブリッジ回路を用いて前記被検査材の前記ある位置に前記被検査材の柱状組織の延伸方向に平行な方向と直角な方向の二つの一様渦電流を流した場合に前記ブリッジ回路に生起して前記渦電流探傷器により検波された不平衡電位であって前記渦電流探傷器から出力されたかまたは前記記憶手段に記憶された不平衡電位を減算処理する演算処理手段と、を備えることを要旨とするものである。
【0016】
被検査材には、二相ステンレス鋼が適用できる。すなわち、前記柱状組織はフェライトおよびオーステナイトであり、前記柱状組織とは異なる組織はシグマ相である。
【0017】
本発明は、地が所定の方向に延伸する二相以上の柱状組織を有する被検査材に前記柱状組織とは異なる組織の析出を検査する検査方法であって、被検査材に一様渦電流を流すことができる第一のコイルおよび第二のコイルが設けられたブリッジ回路を用いて前記第一のコイルおよび前記第二のコイルのそれぞれにより前記被検査材のある位置に前記被検査材の柱状組織の延伸方向に平行な方向と直角な方向の二つの一様渦電流を流して前記ブリッジ回路に生起した不平衡電位を得る段階と、得られた不平衡電位を渦電流探傷器により検波する段階と、被検査材に円形の渦電流を流すことができる第三のコイルおよび前記第四のコイルが設けられたブリッジ回路を用いて前記第三のコイルおよび前記第四のコイルにより前記被検査材の前記ある位置に円形の渦電流を流して前記ブリッジ回路に生起した不平衡電位を得る段階と、得られた不平衡電位を渦電流探傷器により検波する段階と、前記第三のコイルおよび前記第四のコイルが設けられたブリッジ回に生起して前記渦電流探傷器により検波された不平衡電位から、前記第一のコイルおよび前記第二のコイルが設けられたブリッジ回路に生起して前記渦電流探傷器により検波された不平衡電位を減算処理する段階と、前記減算処理結果に基づいて、前記被検査材に前記柱状組織と異なる組織が析出しているかを判定する段階と、
を有することを要旨とするものである。
【0018】
前記被検査材は二相ステンレス鋼が適用できる。すなわち、前記柱状組織はフェライトおよびオーステナイトであり、前記柱状組織とは異なる組織はシグマ相である。
【発明の効果】
【0019】
第三のコイルおよび前記第四のコイルが設けられたブリッジ回路に生起する不平衡電位は、地の柱状組織とは異なる組織の析出に起因するものと、地の柱状組織の相の比率の変化に起因するものとが合わさったものである。これに対して第一のコイルおよび前記第二のコイルが設けられたブリッジ回路に生起する不平衡電位は、地の柱状組織の相の比率の変化にのみ起因するものである。このため、第三のコイルおよび前記第四のコイルが設けられたブリッジ回路に生起する不平衡電位から、第一のコイルおよび前記第二のコイルが設けられたブリッジ回路に生起する不平衡電位を減算処理すると、減算処理された不平衡電位は、地の柱状組織とは異なる組織の析出のみに起因するものとなる。そして、この減算処理された不平衡電位に基づいて地の柱状組織とは異なる組織の析出が判定されるから、検査精度の向上を図ることができる。すなわち、地の柱状組織の影響を除去することができる。
【0020】
たとえば、二相ステンレス鋼においてシグマ相の析出の検査を行う場合には、フェライトおよびオーステナイトの比率の変化に影響を受けることなく、シグマ相の析出を検査することができる。したがって、微小なシグマ相を高精度に検査することができる。
【0021】
また、第一のコイルおよび前記第二のコイルと、第三のコイルおよび前記第四のコイルを被検査材の表面を走査させることにより、被検査材の全体にわたって検査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の各種実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の実施形態にかかる検査装置および検査方法は、地の組織が方向性を有する柱状組織(すなわち、所定の方向に延伸する柱状組織)である材料において、地の組織とは異なる組織(すなわち、柱状ではない組織または地の柱状組織に比較して長さが短いかまたは大きさが小さい組織)の析出を検査することができる。本発明の実施形態においては、圧延や鍛造などによってフェライトとオーステナイトが柱状組織となっている二相ステンレス鋼において、シグマ相の析出を検査する構成を例に説明する。すなわち、「地の柱状組織」が「フェライトとオーステナイトの柱状組織」に相当し、「地の柱状組織とは異なる組織」が「シグマ相」に相当する。
【0023】
図1は、本発明の第一実施形態にかかる検査装置1の構成を、模式的に示したブロック図である。本発明の第一実施形態にかかる検査装置1は、自己誘導方式によって被検査材の検査を行うことができる。
【0024】
図1に示すように、本発明の第一実施形態にかかる検査装置1は、第一のコイル111と、第二のコイル112と、第三のコイル121と、第四のコイル122と、第一の平衡調整用素子113と、第二の平衡調整用素子114と、第三の平衡調整用素子123と、第四の平衡調整用素子124と、第一のブリッジ回路11と、第二のブリッジ回路12と、第一の渦電流探傷器13と、第二の渦電流探傷器14と、信号処理装置15と、出力手段16とを備える。また、本発明の第一実施形態にかかる検査装置1は、第一のコイル111と第二のコイル112と第三のコイル121と第四のコイル122が配設された検査用プローブ17を備える。
【0025】
第一のブリッジ回路11には、第一のコイル111と、第二のコイル112と、第一の平衡調整用素子113と、第二の平衡調整用素子114とが設けられる。具体的には、第一のブリッジ回路11の四辺のうち、隣り合う二辺に第一のコイル111と第二のコイル112とが設けられる。そして、第一のコイル111が設けられる辺に対向する辺には、第一の平衡調整用素子113が設けられる。第二のコイル112が設けられる辺に対向する辺には、第二の平衡調整用素子114が設けられる。
【0026】
第二のブリッジ回路12には、第三のコイル121と、第四のコイル122と、第三の平衡調整用素子123と、第四の平衡調整用素子124とが設けられる。具体的には、第二のブリッジ回路12の四辺のうち、隣り合う二辺に第三のコイル121と第四のコイル122とが設けられる。そして、第三のコイル121が設けられる辺に対向する辺には、第三の平衡調整用素子123が設けられる。第四のコイル122が設けられる辺に対向する辺には、第四の平衡調整用素子124が設けられる。
【0027】
第一の平衡調整用素子113、第二の平衡調整用素子114、第三の平衡調整用素子123、第四の平衡調整用素子124には、従来公知の平衡調整用素子が適用できる。たとえば可変抵抗などが適用できる。
【0028】
第一の渦電流探傷器13と第二の渦電流探傷器14には、従来公知の渦電流探傷器(渦流探傷器)が適用できる。したがって、以下簡単に説明し、詳細な説明は省略する。第一の渦電流探傷器13と第二の渦電流探傷器14には、同じ構成のもの(同仕様のもの)が適用できる。図1に示すように、第一の渦電流探傷器13と第二の渦電流探傷器14は、それぞれ、発振器131,141と、移相器132,142と、交流増幅器133,143と、同期検波器134,144と、直流増幅器135,145とを備える。
【0029】
発振器131,141は、交流信号を発生させることができる。移相器132,142は、交流信号の位相を変化(位相をシフト)させることができる。同期検波器134,144は、所定の信号を基準位相として用いて同期検波を行うことができる。交流増幅器133,143と直流増幅器135,145は、それぞれ、所定の信号を増幅することができる。
【0030】
第一の渦電流探傷器13の発振器131は、第一のブリッジ回路11の第一のコイル111と第二のコイル112との間と、第一の平衡調整用素子113と第二の平衡調整用素子114との間に接続される。これにより、第一の渦電流探傷器13の発振器131は、第一のブリッジ回路11に交流信号を印加することができる。第一の渦電流探傷器13の交流増幅器133は、第一のブリッジ回路11の第一のコイル111と第二の平衡調整用素子114との間と、第二のコイル112と第一の平衡調整用素子113との間に接続される。これにより、第一のブリッジ回路11に生起する電位差を、第一の渦電流探傷器13の交流増幅器133に入力することができる。
【0031】
第二の渦電流探傷器14の発振器141は、第二のブリッジ回路12の第三のコイル121と第四のコイル122との間と、第三の平衡調整用素子123と第四の平衡調整用素子124との間に接続される。これにより、第二の渦電流探傷器14の発振器141は、第二のブリッジ回路12に交流信号を印加することができる。第二の渦電流探傷器14の交流増幅器143は、第二のブリッジ回路12の第三のコイル121と第四の平衡調整用素子124との間と、第四のコイル122と第三の平衡調整用素子123との間に接続される。これにより、第二のブリッジ回路12に生起する電位差を、第二の渦電流探傷器14の交流増幅器143に入力することができる。
【0032】
このような構成を有する第一の渦電流探傷器13の動作の概略は、次のとおりである。第一の渦電流探傷器13の発振器131は交流信号を生成し、生成され交流信号は第一のブリッジ回路11に印加される。第一のコイル111および/または前記第二のコイル112のインピーダンスが変化すると、第一のブリッジ回路11のバランスがくずれて電位差が生起する。ブリッジ回路のバランスのくずれにより生起する電位差を、「不平衡電位」と称する。この不平衡電位が第一のブリッジ回路11の出力となる。第一のブリッジ回路11の出力は、第一の渦電流探傷器13の交流増幅器133に入力されて増幅される。増幅された第一のブリッジ回路11の出力は、同期検波器134に入力される。また、発振器131が生成した交流信号は、移相器132にも入力される。移相器132は、入力された交流信号の位相をシフトさせ、交流増幅器133により増幅された第一のブリッジ回路11の出力と同位相となるようにする。そして位相がシフトされた交流信号の位相信号は、同期検波器134に入力される。同期検波器134は、移相器132が出力した位相信号を基準位相として用いて、交流増幅器133により増幅された第一のブリッジ回路11の出力の同期検波を行う。直流増幅器135は、同期検波器134の出力を増幅する。
【0033】
なお、第二の渦電流探傷器14の動作も、第一の渦電流探傷器13の動作と同じである。前記説明において、「第一のブリッジ回路11」を「第二のブリッジ回路12」に読み替えるとともに、「第一の渦電流探傷器13」を「第二の渦電流探傷器14」に読み替えればよい。
【0034】
信号処理装置15は、第一のA/D変換器151と、第二のA/D変換器152と、記憶手段153と、演算処理手段154とを備える。第一のA/D変換器151は、第一の渦電流探傷器13の出力(同期検波器134の出力を直流増幅器135が増幅したもの)を、ディジタル値に変換する。第二のA/D変換器152は、第二の渦電流探傷器14の出力(同期検波器144の出力を直流増幅器145が増幅したもの)をディジタル値に変換する。記憶手段153は、第二のA/D変換器152によりディジタル値に変換された第二の渦電流探傷器14の出力を記憶することができる。演算処理手段154は、記憶手段153に記憶される第二の渦電流探傷器14の出力を読み出し、読み出した第二の渦電流探傷器14の出力から、入力された第一の渦電流探傷器13の出力を差し引く減算処理を行うことができる。出力手段16は、信号処理装置15の演算処理手段154による減算処理結果を出力することができる。
【0035】
信号処理装置15には、A/D変換ボードなどを搭載したパーソナルコンピュータやワークステーションなどが適用できる。出力手段16には、パーソナルコンピュータやワークステーションの表示装置などが適用できる。
【0036】
図2(a)は、第一のコイル111および第二のコイル112の構成を、模式的に示した外観斜視図である。図2(b)は、第一のコイル111および第二のコイル112に電流を流した際に生起する渦電流の態様を、模式的に示した平面図である。
【0037】
第一のコイル111および第二のコイル112には、同仕様のコイルが適用される。図2(a)に示すように、第一のコイル111および第二のコイル112は、略U字形状に形成される芯材701を有し、この芯材701に導線702が巻回される構成を有する。芯材701の両端部は互いに平行で、かつ同じ方向に延伸する。そして芯材701の両端部の内側の面(互いに対向する面)は平面であり、かつ互いに平行である。すなわちこの芯材701は、四角柱を略U字形状に折り曲げたような構成、または平板を略U字形状に折り曲げたような構成を有する。
【0038】
このような構成の第一のコイル111および第二のコイル112の芯材701の両端部を被検査材などに接近させて導線702に電流を流すと、芯材701の各端部を始点または終点とする磁力線が発生し、図2(b)に示すように、被測定材などには、芯材701の各端部を取り囲むような渦電流が流れる(図中の矢印が、渦電流を模式的に示す)。前記の通り、芯材701の両端部の相対向する面は平面であり、かつ平行に対向しているから、芯材701の両端部に挟まれる領域には、平行な磁力線が発生する。このため、芯材701の両端部に挟まれる領域に流れる渦電流は、この領域の全体にわたって、流れる方向が一様となる。換言すると、このような構成の第一のコイル111および第二のコイル112を用いると、芯材の両端部に挟まれるに領域に、この領域の全体にわたって方向が一様な渦電流を流すことができる。以下、このような渦電流を「一様渦電流」と称する。
【0039】
そして、芯材701の両端部に挟まれる領域に一様渦電流が流れると、第一のコイル111および第二のコイル112には、一様渦電流の態様に応じた起電力が発生する。そして第一のコイル111および第二のコイル112に起電力が発生すると、発生した起電力に応じてインピーダンスが変化する。一様渦電流の態様は、被検査材などにシグマ相が析出しているか否かや、析出量などによって変化する。このため、第一のコイル111および第二のコイル112のインピーダンスも、シグマ相の析出の有無や析出量に応じて変化する。
【0040】
なお、第一のコイル111および第二のコイル112の構成は、前記構成に限定させるものではない。要は、被検査材などの所定の領域に、所定の方向の一様渦電流を流すことができる構成であればよい。芯材701の両端部の少なくとも相対向する面が平面であり、かつ平行に対向する構成であれば、他の部分の構成や形状は限定されるものではない。たとえば、断面略半円形の芯材を有する構成であってもよい。
【0041】
図3(a)は、第三のコイル121および第四のコイル122の構成を、模式的に示した外観斜視図である。図3(b)は、第三のコイル121および第四のコイル122に電流を流した際に生起する渦電流の態様を、模式的に示した平面図である。
【0042】
図3(a)に示すように、第三のコイル121および第四のコイル122は、パンケーキタイプのコイルが適用できる。具体的には、第三のコイル121および第四のコイル122は、略円柱状に形成される共通の芯材703を有する。そして共通の芯材703の一端寄りに導線704が巻回されて第三のコイル121を構成する。また、他端寄りに導線705が巻回されて第四のコイル122を構成する。なお、第三のコイル121および第四のコイル122は、同仕様のコイルが適用される。
【0043】
このような構成の第三のコイル121および第四のコイル122の共通の芯材703の一端を被検査材などに接近させて、第三のコイル121および/または第四のコイル122に電流を流すと、共通の芯材703の一端を始点または終点とする放射状の磁力線が発生する。そして、図3(b)に示すように、被検査材などには、共通の芯材703の一端を取り囲むように、略円形の渦電流(すなわち、方向性を有しない渦電流)が流れる(図中の矢印が渦電流を模式的に示す)。
【0044】
そして、渦電流が流れると、第三のコイル121および第四のコイル122には、渦電流の態様に応じた起電力が発生する。第三のコイル121および第四のコイル122に起電力が発生すると、発生した起電力に応じてインピーダンスが変化する。渦電流の態様は、被検査材などにシグマ相が析出しているか否かや、析出量などによって変化する。このため、第三のコイル121および第四のコイル122のインピーダンスも、シグマ相の析出の有無や析出量に応じて変化する。
【0045】
なお、第三のコイル121および第四のコイル122の構成は、このような構成に限定されるものではない。要は、被検査材などに略円形の渦電流(すなわち、方向性を有しない渦電流)を流すことができる構成であればよい。
【0046】
図4は、検査用プローブ17の構成の一例を、模式的に示した外観斜視図である。図4に示すように、検査用プローブ17は、ホルダ171と、第一のコイル111と、第二のコイル112と、第三のコイル121と、第四のコイル122とを備える。そして、ホルダ171に、第一のコイル111と、第二のコイル112と、第三のコイル121と、第四のコイル122とが配設される構成を備える。この検査用プローブ17は、第一のコイル111により生起する一様渦電流の方向と、第二のコイル112により生起する一様渦電流の方向とが、直角な方向となるように構成される(図中の矢印は、一様渦電流の方向を示す)。たとえば、第一のコイル111と第二のコイル112とが互いに直角な向きになるように配設される。
【0047】
そして、この検査用プローブ17を被検査材などの表面に接近させ、第一のコイル111と第二のコイル112に電流を流すことによって、被検査材などの所定の領域に、互いに直角な方向の二つの一様渦電流を生起するができる。また、第三のコイル121および第四のコイル122に電流を流すことによって、被検査材などの所定の領域に、略円形の渦電流(方向性を有しない渦電流)を生起することができる。
【0048】
次に、本発明の第一実施形態にかかる検査装置1を用いた検査方法(本発明の実施形態にかかる検査方法)について説明する。
【0049】
まず、実際に検査を行う対象である被検査材と、同じ組成を有する材料を用意する。この材料は、地の組織が所定の一方向に延伸する柱状組織となっており、かつ、地の柱状組織中に他の組織が析出していないものとする。また、地の柱状組織の延伸方向が既知な材料である。すなわち、二相ステンレス鋼であれば、フェライトとオーステナイトの比率が実際に検査を行う対象の被検査材と同じであり、フェライトとオーステナイトが所定の既知の一方向に延伸する柱状組織となっており、かつシグマ相が析出していないものとする。以下、このような材料を、「調整用試験材」と称する。
【0050】
そして、この調整用試験材を用いて、第一のブリッジ回路11と第二のブリッジ回路12のバランスをとる。具体的には次のとおりである。第一のブリッジ回路11に設けられる第一のコイル111と第二のコイル112(すなわち、検査用プローブ17)を、調整用試験材の表面の所定の位置に接近させる。この状態で第一の渦電流探傷器13の発振器131を起動させ、第一のブリッジ回路11に交流信号を印加する。そして、第一のコイル111および第二のコイル112のそれぞれにより、調整用試験材の所定の領域に互いに直角な方向の二つの一様渦電流を生起させる。そして、第一の平衡調整用素子113および第二の平衡調整用素子114を操作して、第一のブリッジ回路11のバランスをとる(すなわち、第一のブリッジ回路11に生起する不平衡電位がゼロになるようにする)。
【0051】
ここで、第一のコイル111が生起する一様渦電流と、第二のコイル112が生起す一様渦電流のうち、いずれか一方を、調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流す。また、他方を、調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向に流す。
【0052】
同様に、第二のブリッジ回路12のバランスをとる。第二のブリッジ回路12に設けられる第三のコイル121および第四のコイル122の共通の芯材703の一端を、調整用試験材の表面の所定の位置に接近させる。この状態で第二の渦電流探傷器14の発振器141を起動させ、第二のブリッジ回路12に交流信号を印加する。そして第三のコイル121および第四のコイル122により、調整用試験材の所定の領域に、円形の渦電流を生起させる。そして、第三の平衡調整用素子123および第四の平衡調整用素子124を操作して、第二のブリッジ回路12のバランスをとる(すなわち、第二のブリッジ回路12に生起する不平衡電位がゼロになるようにする)。
【0053】
ここで、第二のブリッジ回路12のバランスをとる操作において、第三のコイル121および第四のコイル122の共通の芯材703の一端を接近させる位置(すなわち、円形の渦電流を流す領域)は、第一のブリッジ回路11のバランスをとる操作において、第一のコイル111および第二のコイル112を接近させた位置(互いに直交する一様渦電流を流した領域)と同じ位置にする。すなわち、第一のブリッジ回路11と第二のブリッジ回路12は、調整用試験材の同じ位置でそれぞれバランスをとる。
【0054】
以上の操作により、本発明の第一実施形態にかかる検査装置1の検査準備が完了する。次いで、被検査材の検査を行う。検査対象となる被検査材は、フェライトとオーステナイトが所定の方向に延伸する柱状組織となっている二相ステンレス鋼である。フェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向は既知であるものとする。
【0055】
まず、検査用プローブ17を被検査材に接近させ、第三のコイル121および第四のコイル122の共通の芯材703の一端を、被試験材の検査を行う位置に接近させる。この状態で、第二の渦電流探傷器14の発振器141が発生させた交流信号が第二のブリッジ回路12に印加されると、第三のコイル121および第四のコイル122により、被検査材の所定の領域に渦電流が生起する。
【0056】
被検査材にシグマ相が析出している場合、および/または被検査材のフェライトとオーステナイトの比率が調整用検査材と相違する場合には、被検査材に流れる渦電流の態様が変化する。このため、第三のコイル121および第四のコイル122のインピーダンスが変化する。被検査材の表面から第三のコイル121までの距離と第四のコイル122までの距離は相違するから、第三のコイル121と第四のコイル122とでは、インピーダンスの変化が相違する。このため、第二のブリッジ回路12のバランスがくずれる。第二のブリッジ回路12のバランスがくずれると、第二のブリッジ回路12には不平衡電位が生起する。
【0057】
このように、第二のブリッジ回路12には、シグマ相の析出と、フェライトとオーステナイトの比率の変化という二つの原因によって、不平衡電位が生起する。換言すると、第二のブリッジ回路12に生起する不平衡電位は、シグマ相の析出に起因する不平衡電位と、フェライトとオーステナイトの比率の変化に起因する不平衡電位の合算値であるといえる。
【0058】
第二のブリッジ回路12に生起した不平衡電位は、第二の渦電流探傷器14の交流増幅器143に入力されて増幅され、さらに同期検波器144に入力されて同期検波される。同期検波器144の出力(すなわち同期検波された不平衡電位)は、直流増幅器145を介して信号処理装置15の第二のA/D変換器152に入力されてディジタル値に変換され、記憶手段153に記憶される。
【0059】
次いで、検査用プローブ17の位置を変更して、第一のコイル111および第二のコイル112を、被検査材の検査を行う位置に接近させる。この位置は、前記操作において、第三のコイル121および第四のコイル122の共通の芯材703の一端を接近させた位置と同じ位置とする。
【0060】
そして、第一のコイル111および第二のコイル112により、被検査材の検査を行う位置に、互いに直交する方向の二つの一様渦電流を生起させる。ここで、第一のコイル111により生起する一様渦電流と、第二のコイル112により生起させる一様渦電流のうち、いずれか一方を、被試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向とする。また他方を、被試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向とする。
【0061】
なお、第一のコイル111および第二のコイル112により生起させるそれぞれの一様渦電流の方向と、被試験材の地の柱状組織の延伸方向との関係は、第一のブリッジ回路11のバランスをとる操作において調整用検査材に流した一様渦電流の方向と、調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向との関係と同じに設定する。
【0062】
すなわち、第一のブリッジ回路11のバランスをとる操作において、第一のコイル111により生起させた一様渦電流を調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流し、第二のコイル112により生起させた一様渦電流を調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向に流した場合には、被検査材の検査において、第一のコイル111により生起させた一様渦電流を被検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流し、第二のコイル112により生起させた一様渦電流を被検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向に流す。このように、調整用試験材および被試験材の柱状組織の延伸方向と、第一のコイル111および第二のコイル112により生起する一様渦電流の方向とは、常に決まった方向にする。
【0063】
被試験材に一様渦電流が流れると、第一のコイル111および第二のコイル112には電圧が励起される。そして、第一のコイル111および第二のコイル112のインピーダンスが変化する。
【0064】
被試験材に析出しているシグマ相は、地の柱状組織の中に点在し、方向性を有していない。このため、被試験材に流れる一様渦電流の方向が相違しても、シグマ相が一様渦電流に与える影響は変化しない。したがって、第一のコイル111および第二のコイル112により生起する一様渦電流は、互いに異なる方向(直角な方向)に流れるが、シグマ相が第一のコイル111のインピーダンスの変化に与える影響と、第二のコイル112のインピーダンスの変化に与える影響は、ほぼ同じであると考えられる。
【0065】
このため、被検査材にシグマ相が析出していても、当該析出したシグマ相がフェライトとオーステナイトの柱状組織の中に点在し、かつ方向性を有していなければ、第一のコイル111のインピーダンスと、第二のコイル112のインピーダンスは、同じように変化する。したがって、第一のブリッジ回路11のバランスには影響を与えないから、不平衡電位は生起しない。このように、第一のブリッジ回路11には、シグマ相の存在に起因しては不平衡電位は生起しない。
【0066】
一方、被試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織は方向性を有しているから、フェライトとオーステナイトの柱状組織が一様電流に与える影響は、フェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向と、一様電流の流れる方向との関係に応じて変化する。したがって、フェライトとオーステナイトの相の比率が変化すると、第一のコイル111および第二のコイル112のインピーダンスが変化するが、一様渦電流の流れの向きが相違するため、第一のコイル111および第二のコイル112のインピーダンスの変化も相違する。この結果、第一のブリッジ回路11のバランスがくずれ、第一のブリッジ回路11に不平衡電位が生起する。このように第一のブリッジ回路11には、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化に起因する不平衡電位が生起する。
【0067】
したがって、第一のブリッジ回路11を用いると、被試験材のフェライトとオーステナイトの相の比率の変化にのみ起因して生起する不平衡電位を検出することができる。すなわち、第一のブリッジ回路11に生起する不平衡電位は、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化にのみ起因して生起する不平衡電位であり、シグマ相の析出に起因する不平衡電位は含まれない。
【0068】
第一のブリッジ回路11に生起した不平衡電位は、第一の渦電流探傷器13の交流増幅器133に入力されて増幅される。増幅された不平衡電位は、同期検波器134に入力されて同期検波される。同期検波器134の出力(すなわち、同期検波134され増幅された不平衡電位)は、直流増幅器135を介して信号処理装置15の第一のA/D変換器151によりディジタル値に変換され、演算処理手段154に入力される。
【0069】
被検査材のある特定の位置に互いに直交する一様渦電流を生起して得られた第一の渦電流探傷器13の出力が、信号処理装置15の演算処理手段154に入力されると、演算処理手段154は、記憶手段153に記憶される当該ある特定の位置に円形の渦電流を生起して得られた第二の渦電流探傷器14の出力を読み出す。そして、読み出された第二の渦電流探傷器14の出力から、第一の渦電流探傷器13の出力を差し引く減算処理が行われる。すなわち、被検査材のある特定の位置で得られた第二の渦電流探傷器14の出力から、同じ位置で得られた第一の渦電流探傷器13の出力が差し引かれる。
【0070】
前記のように、第二の渦電流探傷器14の出力(同期検波された不平衡電位)は、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化に起因する出力と、シグマ相の析出に起因する出力とが混ざった出力であるといえる。これに対して、第一の渦電流探傷器13の出力(同期検波された不平衡電位)は、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化にのみ起因する出力であり、シグマ相の析出に起因する出力は含まれない。したがって、第二の渦電流探傷器14の出力から、第一の渦電流探傷器13の出力を差し引くと、第二の渦電流探傷器14の出力からフェライトとオーステナイトの相の比率の変化に起因する出力が除去され、シグマ相の析出に起因する出力のみが算出される。
【0071】
そして、出力手段16は、演算処理手段154による減算処理の結果を出力する。この出力手段16の出力に基づいて、被試験材にシグマ相が析出しているか否かが判定される。たとえば、出力手段16の出力がゼロではない場合には、シグマ相の析出に起因して得られる出力(すなわち、シグマ相の析出に起因する不平衡電位)がゼロではないことを示しているから、被試験材にシグマ相が析出していると判定される。なお、出力手段16の出力が所定の閾値を越えている場合に、被試験材にシグマ相が析出していると判定してもよい。また、出力手段16の出力の強弱により、シグマ相の析出量を判定する構成であってもよい。
【0072】
このように、本発明の第一実施形態にかかる検査装置1を用いた検査方法によれば、シグマ相の析出に起因して得られる出力と、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化に起因して得られる出力とが混ざった出力から、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化に起因して得られる出力を除去することができる。このため、シグマ相の析出にのみ起因して得られる出力に基づいて、シグマ相の析出を検査することができる。したがって、シグマ相の析出が微小であっても、精度良く検査をすることができ、検査精度の向上を図ることができる。
【0073】
そして、このような操作が、被試験材の検査範囲の全体にわたって行われる。これにより、被試験材の検査範囲の全体にわたって、シグマ相が析出しているかを検査することができる。
【0074】
なお、被検査材の検査範囲の全体にわたって検査を行う場合には、第一のコイル111および第二のコイル112(が配設される検査用プローブ17)を検査範囲の全体にわたって走査させて、当該検査範囲の全体にわたって第一の渦電流探傷器13の出力を得る。同様に、第三のコイル121および第四のコイル122(が配設される検査用プローブ17)を検査範囲の全体にわたって走査させて、当該検査範囲の全体にわたって第二の渦電流探傷器14の出力を得る。この場合には、第一の渦電流探傷器13の出力を得る操作と、第二の渦電流探傷器14の出力を得る操作とを別々に行ってもよく、また同時並行的に行ってもよい。
【0075】
第一の渦電流探傷器13の出力を得る操作と、第二の渦電流探傷器14の出力を得る操作を別々に行う方法の内容は次のとおりである。まず、検査用プローブ17を被検査材の検査範囲の全体にわたって走査させ、第二のブリッジ回路12および第二の渦電流探傷器14を用いて、被検査材の検査範囲の全体にわたって、第二の渦電流探傷器14の出力を得る。そして、得られた第二の渦電流探傷器14の出力を、信号処理装置15の記憶手段153に記憶する。次いで、検査用プローブ17を被検査材の検査範囲の全体にわたって走査させ、第一のブリッジ回路11と第一の渦電流探傷器13を用いて、第一の渦電流探傷器13の出力を得る。
【0076】
そして、信号処理装置15の演算処理手段154は、第一の渦電流探傷器13の出力が得られるごとに、記憶手段153に記憶される第二の渦電流探傷器14の出力から、当該第一の渦電流探傷器13の出力を得た位置と同じ位置で得た第二の渦電流探傷器14の出力を読み出す。そして、演算処理手段154は、読み出した第二の渦電流探傷器14の出力から、入力された第一の渦電流探傷器13の出力を差し引く減算処理を行う。このような処理を、第一のコイル111および第二のコイル112を走査させて(すなわち、検査用プローブ17を走査させて)第一の渦電流探傷器の出力を得ながら行う。
【0077】
このように、まず、被検査材の検査範囲の全体にわたる第二の渦電流探傷器14の出力を記憶しておき、第一の渦電流探傷器13の出力が得られるごとに、記憶された第二の渦電流探傷器14の出力から、得られた第一の渦電流探傷器13の出力を差し引く減算処理が行われる。このような構成によれば、当該第一の渦電流探傷器13の出力が得られると同時に、その位置においてシグマ相が析出しているかを判定することができる。
【0078】
第一の渦電流探傷器13の出力を得る操作と、第二の渦電流探傷器14の出力を得る操作を同時並行的に行う構成は、次のとおりである。被検査材の表面を検査用プローブ17を走査させて、第一の渦電流探傷器13の出力を得るとともに、第二の渦電流探傷器14の出力を得る。この場合、第一のコイル111および第二のコイル112と、第三のコイル121および第四のコイル122は、同時に同じ位置を走査することができない。すなわち、第三のコイル121および第四のコイル122が被検査材のある特定の位置を走査してから、第一のコイル111および第二のコイル112が当該ある特定の位置を走査するまでには、所定の時間を要する。したがって、被検査材のある特定の位置における第一の渦電流探傷器13の出力と、第二の渦電流探傷器14の出力は同時には得られず、遅延が生じる。
【0079】
そこで、ある特定の位置における第二の渦電流探傷器14の出力を、一時的に信号処理装置15に記憶する。そして、当該ある特定の位置における第一の渦電流探傷器13の出力が、信号処理装置15の演算処理手段154に入力された時点で、演算処理手段154は、記憶手段153に記憶される当該ある位置における第二の渦電流探傷器14の出力を読み出す。そして読み出した当該ある位置における第二の渦電流探傷器14の出力から、入力された当該ある位置における第一の渦電流探傷器13の出力を差し引く。出力手段16は、演算処理手段154の減算処理の結果を出力し、出力された結果に基づいて、当該ある特定の位置において地の柱状組織とは異なる組織が析出しているかが判定される。このような処理を、被検査材の検査範囲の全体にわたって逐次行う。
【0080】
なお、この場合には、信号処理装置15が、記憶手段153に代えて信号を遅延させる機能を有するシフトレジスタを有する構成であってもよい。このような構成における検査装置の動作は次のとおりである。
【0081】
第一のコイル111、第二のコイル112、第三のコイル121、第四のコイル122を備える検査用プローブ17を、被検査材の検査範囲を走査させる。そして得られた第一の渦電流探傷器13の出力を逐次信号処理装置15の演算処理手段154に入力していくとともに、第二の渦電流探傷器14の出力を、シフトレジスタを介して、逐次演算処理手段154に入力していく。前記の通り、第一のコイル111および第二のコイル112と、第三のコイル121および第四のコイル122とは、同時に同じ位置を走査できなから、ある特定の位置における第一の渦電流探傷器13の出力を得るタイミングと、第二の渦電流探傷器14の出力を得るタイミングは相違する。そこで、第二の渦電流探傷器14の出力を、シフトレジスタを介して演算処理手段154に入力することにより、第二の渦電流探傷器14の出力が演算処理手段154に入力されるタイミングを遅延させる。そして、ある特定の位置における第一の渦電流探傷器13の出力が演算処理手段154に入力されたタイミングで、当該ある位置における第二の渦電流探傷器14の出力が演算処理手段154に入力されるように調整する。
【0082】
これにより、演算処理手段154は、ある位置における第二の渦電流探傷器14の出力から、同じ位置における第一の渦電流探傷器13の出力を差し引く減算処理を行うことができる。
【0083】
なお、前記第一実施形態においては、信号処理装置15が第二の渦電流探傷器14の出力を記憶する記憶手段153を有する構成を示したが、この構成に限定されるものではない。すなわち、第二の渦電流探傷器14の出力を記憶する記憶手段に代えて、第一の渦電流探傷器13の出力を記憶する記憶手段を有する構成であってもよい。このような構成においては、第一の渦電流探傷器13の出力を記憶手段に記憶しておき、第二の渦電流探傷器14からの出力が得られるごとに、記憶手段に記憶される第一の渦電流探傷器13の出力を読み出して減算処理を行う方法が適用できる。また、第一の渦電流探傷器13の出力をシフトレジスタを介して演算処理手段に入力する構成であってもよい。このように、本発明は、第一の渦電流探傷器13の出力を記憶するか、第二の渦電流探傷器14の出力を記憶するかは限定されるものではない。
【0084】
このほか、信号処理装置15が、さらに第一の渦電流探傷器13の出力を記憶できる他の記憶手段を備える構成を有してもよい。
【0085】
このような構成においては、まず、検査用プローブ17を被検査材の検査範囲の全体にわたって走査させ、第二のブリッジ回路12および第二の渦電流探傷器14を用いて、被検査材の検査範囲の全体にわたって第二の渦電流探傷器14の出力を得る。そして得られた出力を信号処理装置15の記憶手段153に記憶する。同様に、検査用プローブ17を被検査材の検査範囲の全体にわたって走査させ、第一のブリッジ回路11および第一の渦電流探傷器13を用いて、被検査材の検査範囲の全体にわたって、第一の渦電流探傷器13の出力を得る。そして得られた出力を前記他の記憶手段に記憶する。この場合、検査用プローブ17の一回の走査で、被検査材の検査範囲の全体にわたって、第一の渦電流探傷器13の出力と、第二の渦電流探傷器14の出力が得られる。
【0086】
その後、演算処理手段154は、被検査材の同じ位置における第一の渦電流探傷器13の出力と第二の渦電流探傷器14の出力を、それぞれ記憶手段153と他の記憶手段とから読み出す。そして記憶手段153から読み出した第二の渦電流探傷器14の出力から、他の記憶手段から読み出した第一の渦電流探傷器13の出力を差し引く減算処理を行う。出力手段は、演算処理手段の減算処理の結果を出力する。
【0087】
このように、あらかじめ被検査材の検査範囲の全体にわたって第一の渦電流探傷器13の出力と第二の渦電流探傷器14の出力を得ておき、その後減算処理および判定を行う構成であってもよい。
【0088】
また、前記実施形態においては、第三のコイル121と第四のコイル122とが共通の芯材703を備える構成を示したが、第三のコイル121および第四のコイル122がそれぞれ個別に芯材を有する構成であってもよい。このような構成においては、第一実施形態にかかる検査装置1により第二の渦電流探傷器14の出力を得る場合には、第三のコイル121と第四のコイル122の一方を、実際に検査する被検査材の表面を走査させ、他の一方を、調整用検査材の表面に接近させておく構成が適用できる。
【0089】
このような構成であると、被試験材にシグマ相が析出している場合、および/またはフェライトとオーステナイトの相の比率が変化した場合には、被試験材に近接させたコイルのインピーダンスが変化し、第二のブリッジ回路12のバランスがくずれる。このように、第二のブリッジ回路12には、シグマ相の析出に起因する不平衡電位と、フェライトおよびオーステナイトの比率の変化に起因する不平衡電位が合わさって生起する。このため、このような構成であっても、前記同様の作用効果を奏することができる。
【0090】
次に、本発明の第二実施形態にかかる検査装置2および第二実施形態にかかる検査装置2を用いた検査方法について説明する。なお、第一実施形態にかかる検査装置1と共通する構成については説明を省略することがある。図5は、本発明の第二実施形態にかかる検査装置2の構成を、模式的に示したブロック図である。図5に示すように、本発明の第二実施形態にかかる検査装置2は、一組のブリッジ回路21と、一組の渦電流探傷器23と、信号処理装置25と、出力手段26とを備える。
【0091】
本発明の第二実施形態にかかる検査装置2の渦電流探傷器23は、発振器231と、移相器232と、交流増幅器233と、同期検波器234と、直流増幅器235とを備える。この渦電流探傷器23には、第一実施形態にかかる検査装置1の渦電流探傷器(第一の渦電流探傷器13または第二の渦電流探傷器14)と同じ構成のものが適用できる。したがって説明は省略する。信号処理装置25は、A/D変換器251と、記憶手段253と、演算処理装置254とを備える。A/D変換器251は、渦電流探傷器23の出力をディジタル値に変換することができる。記憶手段253は、ディジタル値に変換された渦電流探傷器23の出力を記憶することができる。演算処理手段254は、記憶手段253に記憶される渦電流探傷器23の出力を読み出して、減算処理を行うことができる。出力手段26は、演算処理手段254の減算結果を出力することができる。
【0092】
ブリッジ回路21は、第一のコイル211および第二のコイル212と、第三のコイル213および第四のコイル214とが交換可能に構成される。すなわち、本発明の第二実施形態にかかる検査装置2は、第一のコイル211と、第二のコイル212と、第一の平衡調整用素子215と、第二の平衡調整用素子216とにより、ブリッジ回路21を構成できる。この場合には、ブリッジ回路21の隣り合う辺に第一のコイル211と第二のコイル212が設けられる。そして第一のコイル211が設けられる辺に対向する辺には、第一の平衡調整用素子215が設けられ、第二のコイル212が設けられる辺に対向する辺には、第二の平衡調整用素子216が設けられる。
【0093】
さらに第一のコイル211および第二のコイル212を、第三のコイル213および第四のコイル214に交換することにより、第三のコイル213と、第四のコイル214と、第一の平衡調整用素子215と、第二の平衡調整用素子216とによりブリッジ回路21を構成できる。この場合には、ブリッジ回路21の隣り合う辺に第三のコイル213と第四のコイル214が設けられる。そして第三のコイル213が設けられる辺に対向する辺には、第一の平衡調整用素子215が設けられ、第四のコイル214が設けられる辺に対向する辺には、第二の平衡調整用素子216が設けられる。
【0094】
第二実施形態にかかる検査装置2の第一のコイル211および第二のコイル212は、第一実施形態にかかる検査装置1の第一のコイル111および第二のコイル112と同じ構成のものが適用できる。すなわち、被検査材などにそれぞれ所定の方向の一様渦電流を流すことができる。そして、第一のコイル211と第二のコイル212は、被検査材などに互いに直角な方向の一様渦電流を流すことができる。なお、第一のコイル211および第二のコイル212は、同仕様のコイルが適用される。
【0095】
第三のコイル213および第四のコイル214は、本発明の第一実施形態にかかる検査装置1の第三のコイル121および第四のコイル122と同じ構成のものが適用できる。すなわち、被検査材などに円形の渦電流(方向性を有しない渦電流)を流すことができる。第三のコイル213および第四のコイル214には、同仕様のコイルが適用できる。
【0096】
本発明の第二実施形態にかかる検査装置2の第一の平衡調整用素子215および第二の平衡調整用素子216には、本発明の第一実施形態にかかる検査装置の第一〜第四の平衡調整用素子113,114,213,214と同じ構成のものが適用できる。
【0097】
このような構成の第二の実施形態にかかる検査装置2を用いた検査方法は、次のとおりである。
【0098】
まず、第三のコイル213と、第四のコイル214と、第一の平衡調整用素子215と、第二の平衡調整用素子216とによりブリッジ回路21を構成する。そして、調整用検査材を用いてこのブリッジ回路21のバランスをとる。このブリッジ回路21のバランスのとり方は、第一実施形態における第二のブリッジ回路12のバランスのとり方と同じである。
【0099】
次いで、第三のコイル213および第四のコイル214を、被検査材の検査範囲を走査させ、被検査材の検査範囲の全体にわたって渦電流探傷器23の出力を得る。ブリッジ回路21には、第一実施形態にかかる検査装置1の第二のブリッジ回路12と同様に、シグマ相の析出と、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化という二つの原因によって、不平衡電位が生起する。換言すると、このブリッジ回路21に生起する不平衡電位は、シグマ相の析出に起因する不平衡電位と、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化に起因する不平衡電位の合算であるといえる。
【0100】
そして、得られた渦電流探傷器23の出力を、信号処理装置25の記憶手段253に記憶する。このような操作が行われると、信号処理装置25の記憶手段253には、被検査材の検査範囲全体にわたる渦電流探傷器23の出力が記憶される。
【0101】
次いで、第三のコイル213および第四のコイル214を、第一のコイル211および第二のコイル212に交換する。そして、第一のコイル211と、第二のコイル212と、第一の平衡調整用素子215と、第二の平衡調整用素子216とによりブリッジ回路21を構成する。そして、調整用検査材を用いて、構成したブリッジ回路21のバランスをとる。このブリッジ回路21のバランスのとり方は、第一実施形態にかかる検査装置1の第一のブリッジ回路11のバランスのとり方と同じである。
【0102】
ここで、ブリッジ回路21のバランスをとる操作において、第一のコイル211および第二のコイル212を調整用検査材に接近させる位置は、第三のコイル213と、第四のコイル214と、第一の平衡調整用素子215と、第二の平衡調整用素子216とにより構成されるブリッジ回路21のバランスをとる操作において、第三のコイル213および第四のコイル214の共通の芯材を接近させた位置と同じ位置とする。
【0103】
さらに、第一のコイル211により生起する一様渦電流と、第二のコイル212のコイルにより生起する一様渦電流のうち、いずれか一方は、調整用検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流れるようにする。また、他方は、調整用検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向に流れるようにする。
【0104】
そして、第一のコイル211および第二のコイル212を、被検査材の検査範囲の全体にわたって走査させ、渦電流探傷器23の出力を得る。そして得られた渦電流探傷器23の出力は、逐次信号処理装置25の演算処理手段254に入力される。
【0105】
ここで、第一のコイル211により生起させる一様渦電流と、第二のコイル212のコイルにより生起させる二つの一様渦電流のうち、いずれか一方は、被検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流れるようにする。また、他方は、被検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向に流れるようにする。
【0106】
また、第一のコイル211および第二のコイル212により生起させるそれぞれの一様渦電流の方向と、被試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向との関係は、ブリッジ回路21のバランスをとる操作における一様渦電流の方向と調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向との関係と同じに設定する。すなわち、ブリッジ回路21のバランスをとる操作において、第一のコイル211により生起させる一様渦電流を、調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流し、第二のコイル212により生起させる一様渦電流を、調整用試験材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向に流した場合には、被検査材の検査において、第一のコイル211により生起させる一様渦電流を、被検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流し、第二のコイル212により生起させる一様渦電流を、被検査材のフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に直角な方向に流す。このように、調整用試験材および被試験材の柱状組織の延伸方向と、第一のコイル211および第二のコイル212により生起する一様渦電流の方向とは、常に決まった方向にする。
【0107】
第二実施形態にかかる検査装置2の第一のコイル211および第二のコイル212は、第一実施形態にかかる検査装置1の第一のコイル111および第二のコイル112と同じ構成を有する。このため、前記第一実施形態にかかる検査装置1の第一のブリッジ回路11と同様の理由により、シグマ相の析出によっては、ブリッジ回路21のバランスはくずれない。これに対して、フェライトとオーステナイトの相の比率が変化すると、前記理由により、ブリッジ回路21のバランスがくずれ、ブリッジ回路21に不平衡電位が生起する。このように、第一のコイル211と、第二のコイル212と、第一の平衡調整用素子215と、第二の平衡調整用素子216とにより構成されるブリッジ回路21を用いた場合には、被検査材のフェライトとオーステナイトの相の比率の変化にのみ起因する出力が得られる。
【0108】
信号処理装置25の演算処理手段254は、渦電流探傷器23の出力が入力されるごとに、記憶手段253に記憶される渦電流探傷器23の出力(すなわち、第三のコイル213および第四のコイル214が設けられたブリッジ回路21を用いた渦電流探傷器23の出力)から、入力された渦電流探傷器23の出力(すなわち、第一のコイル211および第二のコイル212が設けられたブリッジ回路21を用いた渦電流探傷器23の出力)を得た位置と同じ位置で得られた出力を読み出す。そして読み出した渦電流探傷器23の出力(第三のコイル213および第四のコイル214が設けられたブリッジ回路21を用いた渦電流探傷器23の出力)から、入力された渦電流探傷器23の出力(第一のコイル211および第二のコイル212が設けられたブリッジ回路21を用いた渦電流探傷器23の出力)を差し引く減算処理を行う。
【0109】
出力手段26は、演算処理手段254による減算処理結果を出力する。そして、出力手段26により出力された減算結果に基づいて、被試験材に地の柱状組織とは異なる組織が析出していないかが判定される。判定方法は、第一実施形態にかかる検査装置1を用いた検査方法における判定の方法と同じ方法が適用される。
【0110】
このような構成であっても、第一実施形態にかかる検査装置1と同様の作用効果を奏することができる。
【0111】
なお、前記実施形態においては、第一のコイル211および前記第二のコイル212と、第三のコイル213および前記第四のコイル214とが交換可能な構成を示したが、この構成に限定されるものではない。たとえば、第一のコイル211および前記第二のコイル212が設けられたブリッジ回路と、第三のコイル212および前記第四のコイル214が設けられたブリッジ回路とを用意しておき、ブリッジ回路ごと交換する構成であってもよい。さらに、第一のコイル211および前記第二のコイル212が設けられたブリッジ回路が接続される渦電流探傷器と、第三のコイル212および前記第四のコイル214が設けられたブリッジ回路が接続される渦電流探傷器とを用意しておき、渦電流探傷器ごと交換する構成であってもよい。
【0112】
また、第一のコイル211および前記第二のコイル212が設けられたブリッジ回路21により不平衡電位を検出する操作を先に行うか、第三のコイル213および前記第四のコイル214が設けられたブリッジ回路21により不平衡電位を検出する操作を先に行うかは限定されるものではない。すなわち、先に第一のコイル211および前記第二のコイル212が設けられたブリッジ回路21を構成し、このブリッジ回路21に生起して渦電流探傷器23において検波された不平衡電位を記憶手段253に記憶し、次いで、第三のコイル213および前記第四のコイル214が設けられたブリッジ回路を構成し、このブリッジ回路21に生起して渦電流探傷器23において検波された不平衡電位を得る構成であってもよい。
【0113】
また、第三のコイル121と第四のコイル122とが共通の芯材703を備える構成を示したが、第三のコイル121および第四のコイル122がそれぞれ個別に芯材を有する構成であってもよい。このような構成の第三のコイル213および第四のコイル214が設けられたブリッジ回路の不平衡電位を得る方法は、前記の通りである。
【実施例】
【0114】
次いで、本発明の実施例について説明する。本発明の実施例においては、被検査材としてフェライトとオーステナイトが柱状組織となっている二相ステンレス鋼を用い、シグマ相の析出を検査した。
【0115】
図6は、本発明の実施例にかかる検査装置により検査を行った結果を示したグラフである。それぞれ、(a)は、第三のコイルおよび第四のコイルを有する第二のブリッジ回路と第二の渦電流探傷器による出力結果を示し、(b)は、第一のコイルおよび第二のコイルを有する第一のブリッジ回路と第一の渦電流探傷器による出力結果を示し、(c)は、第二の渦電流探傷器の出力から第一の渦電流探傷器の出力を減算処理した結果である。
【0116】
各試料の括弧内の数字は、シグマ相の面積率を示す。シグマ相の面積率は、シグマ相を観察した領域におけるシグマ相の面積の割合を示す。また、試料Bのオーステナイトの面積率は49.3%、試料Cのオーステナイトの面積率は47.0%、試料Dのオーステナイトの面積率は43.7%である。それ以外の試料のオーステナイトの面積率は50%である。
【0117】
図6(a)に示すように、オーステナイトの面積率が50%の試料において、シグマ相の面積率が0%であれば、第二の渦電流探傷器からの出力はほぼゼロになる(試料A、試料E、試料F、試料G)。また、オーステナイトの面積率が50%の試料においては、シグマ相の面積率が高くなると、第二の渦電流探傷器からの出力も大きくなる(試料H、試料I)。このように、フェライトとオーステナイトの相の比率が変化しなければ、シグマ相が析出していない場合には第二の渦電流探傷器の出力はゼロに近くなり、シグマ相が析出している場合には、面積率に応じた出力が得られる。
【0118】
これに対し、オーステナイトの面積率が変化した試料においては、第二の渦電流探傷器の出力がばらつく(試料B、試料C、試料D)。このように、第三のコイルおよび第四のコイルが設けられたブリッジ回路に生起する不平衡電位は、フェライトとオーステナイトの比率の変化の影響を受ける。したがって、このままでは微小なシグマ相の析出を精度良く検査することは困難である。
【0119】
図6(b)に示すように、第一のコイルおよび第二のコイルにより互いに直角な方向に二つの一様渦電流を流した場合(一方をフェライトとオーステナイトの柱状組織の延伸方向に平行な方向に流し、他方を直角な方向に流した場合)には、フェライトとオーステナイトの相の比率が変化していなければ、シグマ相が析出していても、出力信号は小さい(試料H、試料I)。このように、第一のコイルおよび第二のコイルが設けられたブリッジ回路を用い、被検査材に互いに直角な方向の二つの一様渦電流を流した場合には、シグマ相の析出によってはブリッジ回路に不平衡電位が生起しない。したがって、第一のコイルおよび第二のコイルが設けられたブリッジ回路によれば、フェライトとオーステナイトの相の比率の変化にのみ起因して生起する不平衡電位を得ることができる。
【0120】
ここで、図6(a)に示す第二の渦電流探傷器の出力から、図6(b)に示す第一の渦電流探傷器の出力を差し引くと、図6(c)に示す結果が得られる。図6(c)に示すように、フェライトとオーステナイトの比率が変化した試料(試料B、試料C、試料D)において、信号の出力が向上している。このように、特にフェライトとオーステナイトの比率が変化した材料において、シグマ相の検出の精度の向上を図ることができる。そして、面積率が0.4%のシグマ相も検出できるから(試料B)、面積率が1%以下の微小なシグマ相の析出を検出することができる。また、シグマ相の面積率と信号値の出力の大きさとの間に相関が見られる(試料B、試料C、試料D、試料H、試料I)。
【0121】
このように、本発明の実施例によれば、フェライトとオーステナイトが柱状組織となっている二相ステンレス鋼においてシグマ相の析出を検査する場合に、フェライトとオーステナイトの比率の変化の影響を除去できることが確認された。そして、面積率が1%以下の微小なシグマ相も検査できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0122】
以上、本発明の各種実施形態および実施例について説明したが、本発明は、前記実施形態または実施例に何ら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変が可能であることはいうまでもない。
【0123】
たとえば、前記実施形態および実施例においては、二相ステンレス鋼に析出するシグマ相を検査する構成を示したが、本発明の適用対象は、二相ステンレス鋼に限定されるものではない。すなわち、地が所定の方向に延伸する柱状組織を有する材料であれば、そこに地の組織とは異なる組織(たとえば柱状組織に比較して大きさが小さいかまたは長さが短い組織)が析出しているか否かを検査することができる。
【0124】
また、前記実施形態および実施例においては、一様渦電流を流すことができるコイルとして、略U字状の芯材を有するコイルを示したが、本発明は、このようなコイルに限定されるものではない。被検査材などに一様渦電流を流すことができるコイルであれば、その構成が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる検査装置の構成を、模式的に示したブロック図である。
【図2】第一のコイルおよび第二のコイルの構成と、これにより発生する渦電流の形態を、模式的に示した外観斜視図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる検査装置に適用できるプローブの構成を、模式的に示した外観斜視図である。
【図4】本発明の第二実施形態にかかる検査装置の構成を、模式的に示したブロック図である。
【図5】本発明の実施形態にかかる検査装置に適用できるプローブの変形例を、模式的に示した図である。
【図6】本発明の実施例について示したグラフであり、(a)は、第一のコイルおよび第二のコイルを有する第一の渦電流探傷器による出力結果を示し、(b)は、第三のコイルおよび第四のコイルを有する第二の渦電流探傷器による出力結果を示し、(c)は、第二の渦電流探傷器の出力から第一の渦電流探傷器の出力を差し引いた結果である。
【符号の説明】
【0126】
1 本発明の第一実施形態にかかる検査装置
11 第一のブリッジ回路
111 第一のコイル
112 第二のコイル
113 第一の平衡調整用素子
114 第二の平衡調整用素子
12 第二のブリッジ回路
121 第三のコイル
122 第四のコイル
123 第三の平衡調整用素子
124 第四の平衡調整用素子
13 第一の渦電流探傷器
131 発振器
132 移相器
133 交流増幅器
134 同期検波器
135 直流増幅器
14 第二の渦電流探傷器
141 発振器
142 移相器
143 交流増幅器
144 同期検波器
145 直流増幅器
15 信号処理装置
151 第一のA/D変換器
152 第二のA/D変換器
153 記憶手段
154 演算処理手段
16 出力手段
17 検査用プローブ
171 ホルダ
701 第一、第二の芯材
702 第一、第二の導線
703 第三、第四の芯材
704 第三の導線
705 第四の導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地が所定の方向に延伸する二相以上の柱状組織を有する被検査材に前記柱状組織とは異なる組織の析出を検査する検査装置であって、
一方が前記被検査材の柱状組織の延伸方向に平行な方向に一様渦電流を流すことができ他方が前記被検査材の柱状組織の延伸方向に直角な方向に一様渦電流を流すことができる第一のコイルおよび第二のコイルと、
前記第一のコイルおよび前記第二のコイルが設けられた第一のブリッジ回路と、
該第一のブリッジ回路に生起した不平衡電位を検波できる第一の渦電流探傷器と、
前記被検査材に円形の渦電流を流すことができる第三のコイルおよび第四のコイルと、
前記第三のコイルおよび前記第四のコイルが設けられた第二のブリッジ回路と、
該第二のブリッジ回路に生起した不平衡電位を検波できる第二の渦電流探傷器と、
前記被検査材のある位置に前記第三のコイルおよび前記第四のコイルにより渦電流を流した場合に前記第二のブリッジ回路に生起して前記第二の渦電流探傷器により検波された不平衡電位から、前記被検査材の前記ある位置に前記第一のコイルおよび前記第二のコイルにより前記被検査材の柱状組織の延伸方向に平行な方向と直角な方向の二つの一様渦電流を流した場合に前記第一のブリッジ回路に生起して前記第一の渦電流探傷器により検波された不平衡電位を減算処理する演算処理手段と、
を備えることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記第一のブリッジ回路に生起して前記第一の渦電流探傷器により検波された不平衡電位と前記第二のブリッジ回路に生起して前記第二の渦電流探傷器により検波された不平衡電位の一方を記憶することができる記憶手段をさらに備え、前記演算処理手段は前記第一のブリッジ回路に生起して前記第一の渦電流探傷器により検波された不平衡電位と前記第二のブリッジ回路に生起して前記第二の渦電流探傷器により検波された不平衡電位の他方が入力されると、前記記憶手段に記憶されるかまたは入力された第二のブリッジ回路に生起して前記第二の渦電流探傷器により検波された不平衡電位から、入力されたかまたは前記記憶手段に記憶される第一のブリッジ回路に生起して前記第一の渦電流探傷器により検波された不平衡電位を減算処理することを特徴する請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
地が所定の方向に延伸する二相以上の柱状組織を有する被検査材に前記柱状組織とは異なる組織の析出を検査する検査装置であって、
一方が前記被検査材の柱状組織の延伸方向に平行な方向に一様渦電流を流すことができ他方が前記被検査材の柱状組織の延伸方向に直角な方向に一様渦電流を流すことができる第一のコイルおよび第二のコイルと、
前記被検査材に円形の渦電流を流すことができる第三のコイルおよび第四のコイルと、
前記第一のコイルおよび前記第二のコイルと、前記第三のコイルおよび前記第四のコイルとを交換可能でかつ選択的に設けることができるブリッジ回路と、
該ブリッジ回路に生起した不平衡電位を検波できる渦電流探傷器と、
前記ブリッジ回路に生起して前記渦電流探傷器により検波された不平衡電位を記憶できる記憶手段と、
前記第三のコイルおよび前記第四のコイルが設けられたブリッジ回路を用いて前記被検査材のある位置に渦電流を流した場合に前記ブリッジ回路に生起して前記渦電流探傷器により検波された不平衡電位であって前記記憶手段に記憶されるかまたは前記ブリッジ回路から出力される不平衡電位から、前記第一のコイルおよび前記第二のコイルが設けられたブリッジ回路を用いて前記被検査材の前記ある位置に前記被検査材の柱状組織の延伸方向に平行な方向と直角な方向の二つの一様渦電流を流した場合に前記ブリッジ回路に生起して前記渦電流探傷器により検波された不平衡電位であって前記渦電流探傷器から出力されたかまたは前記記憶手段に記憶された不平衡電位を減算処理する演算処理手段と、
を備えることを特徴とする検査装置。
【請求項4】
前記被検査材は二相ステンレス鋼であり、前記柱状組織はフェライトおよびオーステナイトであり、前記柱状組織とは異なる組織はシグマ相であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の検査装置。
【請求項5】
地が所定の方向に延伸する二相以上の柱状組織を有する被検査材に前記柱状組織とは異なる組織の析出を検査する検査方法であって、
被検査材に一様渦電流を流すことができる第一のコイルおよび第二のコイルが設けられたブリッジ回路を用いて前記第一のコイルおよび前記第二のコイルのそれぞれにより前記被検査材のある位置に前記被検査材の柱状組織の延伸方向に平行な方向と直角な方向の二つの一様渦電流を流して前記ブリッジ回路に生起した不平衡電位を得る段階と、
得られた不平衡電位を渦電流探傷器により検波する段階と、
被検査材に円形の渦電流を流すことができる第三のコイルおよび前記第四のコイルが設けられたブリッジ回路を用いて前記第三のコイルおよび前記第四のコイルにより前記被検査材の前記ある位置に円形の渦電流を流して前記ブリッジ回路に生起した不平衡電位を得る段階と、
得られた不平衡電位を渦電流探傷器により検波する段階と、
前記第三のコイルおよび前記第四のコイルが設けられたブリッジ回に生起して前記渦電流探傷器により検波された不平衡電位から、前記第一のコイルおよび前記第二のコイルが設けられたブリッジ回路に生起して前記渦電流探傷器により検波された不平衡電位を減算処理する段階と、
前記減算処理結果に基づいて、前記被検査材に前記柱状組織と異なる組織が析出しているかを判定する段階と、
を有することを特徴とする検査方法。
【請求項6】
前記被検査材は二相ステンレス鋼であり、前記柱状組織はフェライトおよびオーステナイトであり、前記柱状組織とは異なる組織はシグマ相であることを特徴とする請求項5に記載の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−117158(P2010−117158A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288730(P2008−288730)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】