説明

構造制御されたポリアミドおよびその製造方法

【課題】結晶性、機械的性質に優れ、かつランダム共重合体の有する成型加工性を維持することで高機能、高性能特性の発現が可能なポリアミドブロック共重合体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)


で表される繰り返し単位からなり、シーケンスにおけるランダムネス値が0以上0.8未満であり、かつメタンスルホン酸を用いて、試料濃度0.03g/dL、30℃で測定した極限粘度が0.1dL/g以上であることを特徴とするブロック共重合ポリアミド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロック共重合ポリアミド、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジカルボン酸残基として芳香族ジカルボン酸残基を含有するポリアミドは、分子の剛直性と化学的安定性に優れること、そして、その組成の選択により任意の物性の重合体を目的に応じ比較的容易に製造することが可能であること、等により、民生用、産業資材用あるいは医療機器などの材料として幅広い分野で多種多様な銘柄が製造・使用されている。
【0003】
特に、ジカルボン酸残基だけでなく、ジアミン残基も芳香環を含む全芳香族ポリアミドとしてTwaron(登録商標)、Kevler(登録商標)に代表されるポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)、Technora(登録商標)のような共重合ポリパラフェニレンテレフタルアミド(co−PPTA)は耐熱性、機械的特性の優れた繊維、その他の成形品の原料として有用であることが知られている。
【0004】
公知の成型方法としてPPTAの場合は有機溶媒中で重合して得たポリマーを抽出後、硫酸中に高濃度にポリマーを溶解させることで光学異方性を有するドープを調整し、これを直接成型することで延伸配向プロセスを経ずとも高度に分子配分した素材が得られることが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、co−PPTAでは、硫酸などの取扱い困難な強酸溶媒を使用せず、NMPなどのアミド系溶媒中でポリマーを重合することで光学的に等方性の有機溶媒成型可能なドープを与えるが、分子の配向制御にはこれを成型、超延伸工程を実施する必要があることが知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0006】
これまでのところ、単に成型するだけで、分子配向性を有する高弾性率の耐熱性成型物となるような有機溶剤成型可能な全芳香族ポリアミドのドープは実現されなかった。
一方で、ジアミンが脂肪族あるいは類似の柔軟鎖である半芳香族ポリアミドは、組成を変換することにより熱可塑性や溶媒可溶性を維持しながら、弾性率、耐熱性などの機械的、物理化学的特性の向上や、伸長回復性、弾性、柔軟性、耐疲労性などの機能特性獲得など構造に応じて発現できるため、衣料用・産業用繊維、フィルム、樹脂をはじめとして各種成型体などに広く利用されている。
【0007】
もし、これら、全芳香族ポリアミドと脂肪族または半芳香族ポリアミドの特性を同一分子に規則的に組み込むことができれば、例えば有機溶剤可溶でありながら光学異方性を有する素材や、親水/疎水性、剛直/柔軟性など相反する特性を兼備した高機能素材開発が可能になると期待される。
【0008】
しかしながらそのためにはブロック連鎖長を制御したポリアミドブロック構造が必要であり、これまでにない精密なポリアミド重合プロセスが必要となる。従来、アミノ酸のペプチド合成プロセスのように、モノマー段階で多段階的に縮合反応と単離精製を行ない、調整したオリゴマーに更にモノマーを付加させることで脂肪族ポリアミドやデプシペプチドの連鎖制御が可能であることは実験室的に知られていたが、プロセスのスケールアップや連続化が困難であり、実際には医薬中間体、原薬合成、医療器材など、少量特殊用途での素材製造に限られていた。一方で工業素材としても有用な芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミドやその共重合体において、大規模での工業プロセスにも適用可能な、単一重合反応プロセスにてブロック構造を制御するポリアミド製造技術については知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59−137509号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】村瀬泰弘、高分子加工、38巻 p.549(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の主たる目的は、従来公知のランダム共重合ポリアミド連鎖を規則的な連鎖制御されたブロック構造とすることで、上述した各種欠点を克服し、結晶性、機械的性質に優れ、かつランダム共重合体の有する成型加工性を維持することで優れた特性の発現が可能なポリアミドブロック共重合体を提供することにある。本発明の他の目的は、このような特定のポリアミドブロック共重合体を工業規模で簡便かつ効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意検討を行った結果、特定の構造を有するブロック共重合ポリアミド、およびその製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0013】
1. 下記一般式(1)
【化1】

[上記一般式(1)中のAr、Ar’は炭素数6〜18の核置換されていても良い2価の芳香族基であり、R、R’は炭素数6〜18の核置換されていても良い2価の芳香族基または炭素数2〜200の2価の脂肪族基であり、かつ、ArとAr’が同一の基でRとR’が異なる基であるか、またはRとR’が同一の基でArとAr’が異なる基であるかのいずれかである。m、nはそれぞれ1〜150の整数である。]
で表される繰り返し単位からなり、シーケンスにおけるランダムネス値が0以上0.8未満であり、かつメタンスルホン酸を用いて、試料濃度0.03g/dL、30℃で測定した極限粘度が0.1dL/g以上であることを特徴とするブロック共重合ポリアミド。
2. 繰り返し単位における各ブロックの平均連鎖長が3以上である、上記1.項に記載のブロック共重合ポリアミド。
3. 前記一般式(1)において、ArとAr’が同一の基でRとR’が異なる基である、上記1.項または2.項に記載のブロック共重合ポリアミド。
4. 下記一般式(2)
【化2】

[上記一般式(2)中のArの定義は、前記一般式(1)における定義と同じである。]
で表される芳香族ジカルボン酸もしくはその誘導体1.5モル当量以上2.5モル当量未満と、下記一般式(3)
【化3】

[上記一般式(3)中のRの定義は、前記一般式(1)における定義と同じである。]
で表されるジアミンもしくはその誘導体1モル当量とを、低極性溶媒中またはバルクにて反応せしめた後、極性溶媒を添加し、更に、下記一般式(4)
【化4】

[上記一般式(4)中のR’の定義は、前記一般式(1)における定義と同じである。]
で表されるジアミンもしくはその誘導体1モル当量を添加し、重合反応させることを特徴とする、上記3.項に記載のブロック共重合ポリアミドの製造方法。
5. 前記一般式(1)において、RとR’が同一の基でArとAr’が異なる基である、上記1.項または2.項に記載のブロック共重合ポリアミド。
6. 下記一般式(3)
【化5】

[上記一般式(3)中のRの定義は、前記一般式(1)における定義と同じである。]
で表されるジアミンもしくはその誘導体1.5モル当量以上2.5モル当量未満と、下記一般式(2)
【化6】

[上記一般式(2)中のArの定義は、前記一般式(1)における定義と同じである。]
で表される芳香族ジカルボン酸もしくはその誘導体1モル当量とを、低極性溶媒中またはバルクにて反応せしめた後、極性溶媒を添加し、更に、下記一般式(5)
【化7】

[上記一般式(5)中のAr’の定義は、前記一般式(1)における定義と同じである。]
で表される芳香族ジカルボン酸もしくはその誘導体1モル当量を添加し、重合反応させることを特徴とする、上記5.項に記載のブロック共重合ポリアミドの製造方法。
7. 低極性溶媒として、炭化水素系溶媒およびハロゲン系溶媒から選ばれる1種類以上を用いる、上記4.項または6.項に記載の製造方法。
8. 極性溶媒としてアミド系溶媒を用いる、上記4.項、6.項および7.項のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明におけるブロック共重合ポリアミドは従来公知のランダム共重合ポリアミド連鎖を規則的な連鎖制御されたブロック構造とすることで、ランダム構造に由来する低結晶性、物性低減などの各種欠点を克服し、結晶性、機械的性質に優れ、かつランダム共重合体の有する成型加工性を維持することで高機能、高性能特性の発現が可能な素材であり、溶融成型、湿式成型などにより、機械的性質の良好な繊維・フィルム・成型品などとすることができる。そしてこれらの成型品においては従来のランダムコポリマーの成型品に見られるような低結晶性、低衝撃特性などの問題は発生しない。また本発明のポリアミドブロック共重合体を提供するにあたり、従来の重合設備を大幅に変更すること無しに、工業規模で実用的に製造する方法を提供することができる。
【0015】
なお、本発明のブロック共重合ポリアミドは、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、離型剤などの各種添加剤、ガラス繊維などの強化材、さらには無機粒子、有機粒子などの充填材などを添加し樹脂組成物として使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】下段が実施例1にて得られたブロック共重合ポリアミドの、上段が比較例1にて得られたランダム重合ポリアミドの、13C−NMR測定(試料濃度5質量%、メタンスルホン酸溶媒)によるカルボニル炭素の帰属ピークおよび分布を示す図である。
【図2】実施例1にて得られたブロック共重合ポリアミドを15質量%となるよう、5%塩化リチウムのN−メチルピロリドン溶液に分散して得られた溶液試料のクロスニコル下にて観察した液晶相の偏光顕微鏡像の写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の共重合ポリアミドは前記一般式(1)で表される繰り返し単位からなり、シーケンスにおけるランダムネス値が0以上0.8未満であり、かつメタンスルホン酸を用いて、試料濃度0.03g/dL、30℃で測定した極限粘度が0.1dL/g以上であることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明のブロック共重合ポリアミドは、繰り返し単位における各ブロックの平均連鎖長が3以上であることが好ましい。繰り返し単位における各ブロックとは前記一般式(1)における
【化8】


【化9】

のそれぞれを指す。
【0019】
共重合ポリアミドの繰り返し単位のシーケンスにおけるランダムネス値および平均連鎖長は、メタンスルホン酸等を溶媒に用いた、H−NMR測定、および/または13C−NMR測定などにより明らかにすることができる。
【0020】
例えば、Macromolecules,36,6160(2003)には、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)とポリ3,4’−フェニレンジオキシテレフタルアミド(P(3,4’−DAPTA))のランダム共重合体の13C−NMR測定による知見が示されており、PPTA部分のジアミンであるp−フェニレンジアミンをα、P3,4’−DAPTAのジアミンである3,4’−ジアミノジフェニルエーテルをβとした場合、これらのランダム共重合ではテレフタル酸をTとするとTのアミドカルボニルメチレンプロトンに由来するシグナルが以下の9種存在する。
α−T−α (ピーク1)
α−T−(3)β (α側ピーク2、(3)β側ピーク3)
α−T−(4’)β (α側ピーク4、(4’)β側ピーク5)
(3)β−T−(3)β (ピーク6)
(3)β−T−(4’)β ((3)β側ピーク7、(4’)β側ピーク8)
(4’)β−T−(4’)β (ピーク9)
【0021】
これらの各結合由来のカルボニルに帰属されるピークの積分比を比較することにより、ランダム共重合に由来する成分比を求め、次式に従いランダムネス値と平均連鎖長を評価することができる。
・ランダムネス値Rαβ=[0.5fαβ/Fα] +[0.5fαβ/Fβ
ここで、
αβ:α−T−(3)βおよびα−T−(4’)β由来のピーク強度
α:α成分由来ピーク強度の総和
β:β成分由来ピーク強度の総和
・PPTA(αジアミン成分ブロック)の数平均連鎖長Lα
α=[fαα+0.5fαβ]/0.5fαβ
ここで、
αα:α−T−α由来のピーク強度
・P(3,4’−DAPTA)(βジアミン成分ブロック)の数平均連鎖長Lβ
β=[fββ+0.5fαβ]/0.5fαβ
ここで、
ββ:(3)β−T−(3)β、β−T−(4’)βおよび(4’)β−T−(4’)β由来のピーク強度の総和
【0022】
上記のランダムネス値が0であれば、完全なブロック共重合体であり、ランダムネス値が0.8以上であると、ランダム構造が主要成分となってブロック構造に由来する特性発現が困難となり、ランダムネス値が1になると、完全なランダム共重合体である。本発明のブロック共重合ポリアミドは、ランダムネス値が0以上〜0.8未満のものであり、0.7以下であると好ましく、0.5以下であるとより好ましい。また、本発明のブロック共重合ポリアミドのランダムネス値の下限は、勿論0が好ましいが、完全なブロック共重合体でなくても十分な物性を有しており、0.1以上または0.2以上でも使用できる用途が多く調製の容易さの点から好ましい。
【0023】
本発明のブロック共重合ポリアミドは、繰り返し単位における各ブロックの平均連鎖長が3以上のものであると好ましく、4以上であるとより好ましく、5以上であると更に好ましい。この平均連鎖長は各々の共重合ブロック構造の平均長さであり、短すぎる場合、共重合体中の各連鎖成分のホモポリマー由来物性が消失し、ポリマー特性においてランダム構造との違いが認められにくくなる。一方、この平均連鎖長は、高分子量で完全ブロック共重合体であるほど増大するので長いほど好ましく、その上限は特に制限されないが、調製の容易さから100以下が好ましく、50以下であるとより好ましく、20以下であると更に好ましく、10以下であると特に好ましい。
【0024】
本発明のブロック共重合ポリアミドは、メタンスルホン酸を用いて、試料濃度0.03g/dL、30℃で測定した極限粘度が0.1dL/g以上であり、好ましくは0.2dL/g以上、より好ましくは0.3dL/g以上である。なお、極限粘度が0.1dL/gより小さいものはポリマーとしての物性が十分でなく、成型などの通常の用途への使用に適さない。本発明のブロック共重合ポリアミドの極限粘度の上限は特に無いが、取扱いの容易さから10dL/g以下であると好ましく、5dL/g以下であるとより好ましい。
【0025】
本発明に係るブロック共重合ポリアミドの製造方法としては、動力学的な反応制御を応用した重合プロセスを活用することができる。以下、本発明の共重合ポリアミドとして、前記一般式(1)において、ArとAr’が同一の基でRとR’が異なる基であるものを例にとり、本発明のブロック共重合ポリアミドの製造方法について示す。
【0026】
驚くべきことに、前記一般式(2)で表される芳香族ジカルボン酸もしくはその誘導体1.5モル当量以上2.5モル当量未満(各原料の反応性などに応じて適宜調整してよいが、1.7モル当量以上2.3モル当量以下であると好ましく、1.9モル当量以上2.1モル当量以下であるとより好ましく、2モル当量であると更に好ましい)と、前記一般式(3)で表されるジアミンもしくはその誘導体1モル当量とを、低極性溶媒中またはバルクにて反応せしめた後、極性溶媒を添加し、更に、前記一般式(4)で表されるジアミンもしくはその誘導体1モル当量を添加し、重合反応させることにより、一般式(1)において、ArとAr’が同一の基でRとR’が異なる基であるブロック共重合ポリアミドを得ることができることを見出した。
【0027】
なお、上記記載において、前記一般式(2)で表される芳香族ジカルボン酸もしくはその誘導体を前記一般式(3)のジアミンに、前記一般式(3)および(4)のジアミンをそれぞれ前記一般式(2)で表される芳香族ジカルボン酸もしくはその誘導体と下記一般式(5)
【化10】

[上記一般式(5)中のAr’の定義は、前記一般式(1)における定義と同じである。]
で表される芳香族ジカルボン酸もしくはその誘導体に置き換えると、前記一般式(1)において、RとR’が同一の基でArとAr’が異なる基であるブロック共重合ポリアミドの製造方法となる。
【0028】
本発明のブロック共重合ポリアミドの原料として用いることができる、前記一般式(2)または(5)の芳香族ジカルボン酸もしくはその誘導体としては、芳香環部分の炭素数が6〜18で核置換されていてもよいものであり、具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、ヒドロキシテレフタル酸、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸、クロロテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、ピラジンジカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等をあげることができる。中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2,5−フランジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、または、これら芳香族ジカルボン酸の酸クロリド等の酸ハライド類、もしくはジフェニルエステルなどの活性エステル化合物などの誘導体が好ましいものとして挙げられる。
【0029】
本発明のブロック共重合ポリアミドの原料として用いることができる、前記一般式(3)または(4)のジアミンとしては、p−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,6−ナフタレンジアミン、2,5−ジアミノピリジン、4−クロロ−m−フェニレンジアミン、2,5−ジクロロ−4−フェニレンジアミン、2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンなどの芳香族ジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−へキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、1,4−シクロヘキシルジアミン、1,3−シクロヘキシルジアミン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、1,3−シクロヘキサンビス(メチルアミン)等の鎖式、環式の脂肪族ジアミン、ポリエチレングリコールの両末端がアミノ化された末端アミノ化ポリエチレンオキシド(商品名ジェファーミン(登録商標)、ハンツマンコーポレーション製)や、同じく両末端がアミノ化されたポリジメチルシロキサンであるビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、ビス(3−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサンなどの柔軟鎖を有する特殊ジアミンを好ましいものとして例示できる。
【0030】
また、上記のジアミンについて、アミノシリル化体、リン酸アミド等の活性アミノ化合物のような誘導体にしたものも、本発明のブロック共重合ポリアミドを製造するのに用いることができる。
【0031】
本発明のブロック共重合ポリアミドを製造する際に用いることができる低極性溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の脂肪族、脂環式あるいは芳香族の炭化水素系溶媒やジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール等の脂肪族、芳香族エーテル型の炭化水素溶媒および/または塩化メチレン、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン系溶剤を好ましいものとして挙げることができる。中でもシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、ジエチルエーテル等が好ましい。驚くべきことに、前記のような芳香族ジカルボン酸もしくはその誘導体と、ジアミンもしくはその誘導体との反応により最初に形成される芳香族あるいは半芳香族アミド縮合物は、これらの溶媒からほぼ定量的に析出し、反応槽の底部よりフィルターにて溶剤と連続的に分離し、次の重合反応槽に移送することが可能となる。
【0032】
なお、各種の活性ジカルボン酸誘導体や活性ジアミン誘導体の種類によっては、これらの反応性を高めるために例えばピリジンなどの塩基触媒や反応中和剤を同時に添加しておくことも好ましく実施できる。
【0033】
一方、重合反応において用いる極性有機溶媒としては、反応を阻害しないものであれば使用することができるが、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどからなる群より選ばれる1種類以上の高沸点極性有機溶剤を好ましいものとしてあげることができる。このうち、重合時の反応物の溶解性および重合後の回収プロセスの観点よりN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどからなる群より選ばれる1種類以上のアミド系溶媒を用いることが好ましい。
【0034】
反応温度としては、室温〜溶媒の沸点以下の温度まで任意に選定することができる。温度選定には、溶媒の沸点の他に、原料の溶解性および反応活性を考慮の上で最適の温度域に設定することが好ましい。
【0035】
本発明のブロック共重合ポリアミドはその性質を損なわない範囲、すなわち10モル%未満、好ましくは5モル%未満、より好ましくは2モル%未満の割合で、他の共重合成分を含有することができる。他の共重合成分としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸のような脂肪族ジカルボン酸や5−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸あるいは4−アミノ安息香酸などのアミノカルボン酸、更には乳酸、グリコール酸、5−ヒドロキシカプロン酸、4−ヒドロキシ安息香酸といったヒドロキシカルボン酸などの単独あるいは組合せを挙げることができる。
【0036】
本発明のブロック共重合ポリアミドは、上述した重合方法により、0.1dL/g以上の極限粘度を有する重合体として調整することが可能であるが、重合後の分子量を更に増加せしめる場合、その目的のためにこれを更に固相重合することによって、分子量の高められたポリアミドとすることも可能である。本発明方法では、上述のようにして得られたポリマーを平均粒径5mm以下に粉砕し、これを真空下にて一晩乾燥後、不活性ガス気流下常圧または1mmHg以下の高真空状態でポリマーの結晶化温度(Tc)以上かつ融点(Tm)以下の温度にて0.5〜1時間程度かけて加熱することにより結晶化して固相重合用ポリマーとする。ポリマーの結晶化手段としては上記の加熱結晶化が好ましいが、必要に応じ、溶媒で処理する方法も採用することができる。
【0037】
結晶化ポリマーの固相重合においては、ポリマーを固相重合槽に供給し、該固相重合槽内で、不活性ガス気流下常圧または1mmHg(133Pa)以下の高真空状態でポリマーのガラス転移温度(Tg)以上でかつ融点(Tm)より5〜20℃低い温度に加熱して、固相重合せしめることによりポリマーの重合度を高める。こうして最終的には極限粘度が0.1dL/g以上の範囲のブロック共重合ポリアミドとする。なお固相重合においては連続的または段階的に温度を上昇させながら加熱するのが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を説明するが、実施例は説明のためのものであって、本発明はこれに限定されるものではない。なお、例中の「部」は、とくに断らない限り「質量部」を意味するものとする。
【0039】
また、例中にあげる各種の評価項目は次のようにして求めた。
(1)極限粘度の測定
極限粘度はメタンスルホン酸溶媒を用い、ポリアミド試料濃度0.03g/dLの試料溶液を調製して、30℃にて測定した。
(2)13C−NMR測定
13C−NMRによる測定は、日本電子JNR−EX270を用い、メタンスルホン酸中、重水素化ジメチルスルホキシドで磁場ロック下に100℃にて測定を行った。
【0040】
[実施例1]
窒素導入管と排出管を備えた三ツ口フラスコ内を窒素気流下250℃にて1時間乾燥した。フラスコ内の温度を室温まで戻した後、トルエン50質量部,テレフタル酸クロリド20.302質量部を加え、室温にて攪拌溶解、氷冷した。別に、よく乾燥した滴下ロートに3,4’−ジアミノジフェニルエーテル10.012質量部、トルエン50質量部およびピリジン7.91質量部を加え、よく混合して均一溶液にしておき、テレフタル酸クロリドのトルエン溶液に1時間で滴下、攪拌反応した。系は反応後に中間体である反応活性な縮合混合物が析出したので、窒素気流下にて三ツ口フラスコのもう一方の導出口よりトルエン溶媒を排出し、かわりにN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)100質量部を加え氷冷下に攪拌し、再び均一溶液とした。これを攪拌しながら、p−フェニレンジアミン5.407質量部をNMP100質量部に溶解したものを滴下ロートより加え、氷冷で30分、ついで室温で30分攪拌反応後、50℃で60分攪拌し重合反応せしめ、最終的に水酸化カルシウム3.71質量部を加え、中和完結した。
全体をイオン交換水2000mL中にミキサー攪拌しながら添加し、生成した共重合ポリアミドを沈殿、ろ別採取した。更にエタノール、アセトンで洗浄後、80℃にて12時間かけて真空乾燥した。この共重合ポリアミドの極限粘度を測定したところ、3.8dL/gであった。
【0041】
更に、この共重合ポリアミドの13C−NMR測定を行い(チャートを図1の下段のチャートに示す)、その結果よりp−フェニレンジアミン(α成分ジアミン)連結ユニット、および3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(β成分ジアミン)連結ユニットについて、ランダムネス値Rαβ、α成分ジアミンの平均連鎖長Lα、およびβ成分ジアミンの平均連鎖長Lβを求めたところ、Rαβは0.34、Lαは5.5、Lβは6.2であり、ブロック構造を規則的に形成していることを確認した。また、このブロック共重合ポリアミドを5%塩化リチウムNMP溶液に15質量%の濃度で分散溶解したところ非常に高粘度の溶液となり、これを顕微鏡によりクロスニコル下で観察すると静置下20℃で光学異方性が観察された。顕微鏡写真を図2に示す。
【0042】
[比較例1]
窒素導入管と排出管を備えた三ツ口フラスコ内を窒素気流下250℃にて1時間乾燥した。フラスコ内の温度を室温まで戻した後、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル10.012質量部、p−フェニレンジアミン5.407質量部、およびN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)100質量部を一度に加え、氷冷下によく攪拌し均一溶液とした。これを攪拌しながら、テレフタル酸クロリド20.302質量部をNMP100質量部に完全溶解したものを滴下ロートにて10分で添加し、氷冷で30分、ついで室温で30分攪拌反応後、50℃で60分攪拌し重合反応せしめ、最終的に水酸化カルシウム3.71質量部を加え、中和完結した。
【0043】
以後、実施例1と同様に操作を行い、得られた共重合ポリアミドの極限粘度を測定したところ4.2dL/gであった。また、実施例1と同様に13C−NMR測定を行い(結果を図1の上段のチャートに示す)により、p−フェニレンジアミン(α成分ジアミン)連結ユニット、および3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(β成分ジアミン)連結ユニットについて、ランダムネス値Rαβ、α成分ジアミンの平均連鎖長Lα、およびβ成分ジアミンの平均連鎖長Lβを求めたところ、Rαβは1.03、Lαは2.0、Lβは1.9であり、ほぼ完全にランダム構造から成るコポリマーであり、規則的なブロック構造を有してはいないことが確認された。また、得られた共重合ポリアミドを5%塩化リチウムNMP溶液に15質量%の濃度で分散溶解すると高粘度の溶液となり、これを顕微鏡によりクロスニコル下で観察したが、何れの温度域においても光学異方性は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のブロック共重合ポリアミドは繊維、フィルム、成形体などの各種用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

[上記一般式(1)中のAr、Ar’は炭素数6〜18の核置換されていても良い2価の芳香族基であり、R、R’は炭素数6〜18の核置換されていても良い2価の芳香族基または炭素数2〜200の2価の脂肪族基であり、かつ、ArとAr’が同一の基でRとR’が異なる基であるか、またはRとR’が同一の基でArとAr’が異なる基であるかのいずれかである。m、nはそれぞれ1〜150の整数である。]
で表される繰り返し単位からなり、シーケンスにおけるランダムネス値が0以上0.8未満であり、かつメタンスルホン酸を用いて、試料濃度0.03g/dL、30℃で測定した極限粘度が0.1dL/g以上であることを特徴とするブロック共重合ポリアミド。
【請求項2】
繰り返し単位における各ブロックの平均連鎖長が3以上である、請求項1に記載のブロック共重合ポリアミド。
【請求項3】
前記一般式(1)において、ArとAr’が同一の基でRとR’が異なる基である、請求項1または2に記載のブロック共重合ポリアミド。
【請求項4】
下記一般式(2)
【化2】

[上記一般式(2)中のArの定義は、前記一般式(1)における定義と同じである。]
で表される芳香族ジカルボン酸もしくはその誘導体1.5モル当量以上2.5モル当量未満と、下記一般式(3)
【化3】

[上記一般式(3)中のRの定義は、前記一般式(1)における定義と同じである。]
で表されるジアミンもしくはその誘導体1モル当量とを、低極性溶媒中またはバルクにて反応せしめた後、極性溶媒を添加し、更に、下記一般式(4)
【化4】

[上記一般式(4)中のR’の定義は、前記一般式(1)における定義と同じである。]
で表されるジアミンもしくはその誘導体1モル当量を添加し、重合反応させることを特徴とする、請求項3に記載のブロック共重合ポリアミドの製造方法。
【請求項5】
前記一般式(1)において、RとR’が同一の基でArとAr’が異なる基である、請求項1または2に記載のブロック共重合ポリアミド。
【請求項6】
下記一般式(3)
【化5】

[上記一般式(3)中のRの定義は、前記一般式(1)における定義と同じである。]
で表されるジアミンもしくはその誘導体1.5モル当量以上2.5モル当量未満と、下記一般式(2)
【化6】

[上記一般式(2)中のArの定義は、前記一般式(1)における定義と同じである。]
で表される芳香族ジカルボン酸もしくはその誘導体1モル当量とを、低極性溶媒中またはバルクにて反応せしめた後、極性溶媒を添加し、更に、下記一般式(5)
【化7】

[上記一般式(5)中のAr’の定義は、前記一般式(1)における定義と同じである。]
で表される芳香族ジカルボン酸もしくはその誘導体1モル当量を添加し、重合反応させることを特徴とする、請求項5に記載のブロック共重合ポリアミドの製造方法。
【請求項7】
低極性溶媒として、炭化水素系溶媒およびハロゲン系溶媒から選ばれる1種類以上を用いる、請求項4または6に記載の製造方法。
【請求項8】
極性溶媒としてアミド系溶媒を用いる、請求項4、6、および7のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−46591(P2012−46591A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188302(P2010−188302)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】