説明

構造材表面のひずみ検出センサ、それを用いたひずみ検出システムおよびひずみ検出方法

【課題】
一定以上の表面粗さを有する構造材表面の粗さの凹凸に追従して、微細な凹部の表面にも磁気センサを十分に近づけることのできるひずみ検出センサを提供する。
【解決手段】
構造材表面のひずみを材料の応力誘起マルテンサイト変態した部分が強磁性体となることを利用して磁気的に検出するひずみ検出センサ10であって、磁気信号を検出するためのセンサ部2および該センサ部と電気的回路を形成するための電極部3を備えており、前記センサ部2と前記電極部3を支持するセンサ本体部1の被測定面に対向する表面内において、前記センサ部2周辺がセンサ本体部1の他の部分よりも突出するように形成されたセンサ周辺突出部4を有し、該センサ周辺突出部4に前記センサ部2が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低炭素ステンレス鋼で製造される構造物の材料健全性の検査に係わり、例えば原子炉内構造物や蒸気プラント配管の非破壊検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、例えば沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)を使用した原子力発電プラントでは、主要機器の材料にオーステナイト系ステンレス鋼やニッケル基合金が使用されている。これらの材料は腐食生成物の発生が少なく、強度特性に優れた特性を持つ材料であるが、高い引張り応力が作用する部位では、BWR炉水環境条件においてSCC(Stress Corrosion Cracking:応力腐食割れ)が生じることが確認されている。2002年以降、国内の複数の原子力発電プラントにおいて、低炭素オーステナイト系ステンレス鋼炉心シュラウドや再循環系配管にSCCが確認された。原子力安全・保安院は、個々の原子力発電設備の安全性を評価し、また電気事業者は詳細な調査を実施の上、必要な場合には工学的な対策を施すことにより原子力発電設備の健全性を担保することとした。原子炉などの構造材に関する非破壊検査技術の代表的な例として、超音波探傷システムや、金属表面近傍の傷を検査するのに適した渦電流探傷システムがある。
【0003】
一方、プラントの長期安全・安定運転を実現するため、より高度な非接触非破壊検査技術がある。上記の超音波探傷や渦電流探傷システムは、いずれも鋼材表面に亀裂が発生した後の損傷を検出するものであるの対して、亀裂発生以前の損傷を非破壊的に検出できることが可能になれば、プラントの健全性維持や信頼性をより向上させることが可能になるとの見方がある。上記したオーステナイト系ステンレス鋼は、通常は非磁性であるが、機械的な力が加わると弱い磁性を生じることが古くから知られている。この現象の要因の一つとして、塑性変形による強磁性マルテンサイト相への変態が挙げられる。また、保磁力(原子の磁気モーメントが結晶の中の特定の方向に強く束縛された状態を保つ力、すなわち磁気をなくしてしまおうとする力と拮抗する力)は定性的には粒界がピンニンングとして作用することから、欠陥や結晶組織が応力などの外部要因によって変化すれば、金属の磁性が変化する。このように金属の結晶構造や微細組織と磁性は密接に関連しており、極めて構造の変化に敏感な物理的性質である。また、マルテンサイト相は、オーステナイト相と比較して、硬くて脆いことが特徴であり、SCCを誘発する初期的損傷の状態と考えられている。従って、オーステナイト系ステンレス鋼を始め、多くの金属では、その磁性(漏洩磁束)を計測すれば、逆に金属に機械的な力が加わったか否かを高い感度で検知できる検査方法へと一般化することが可能であると期待されている。
【0004】
このような観点から、例えば、特許文献1や非特許文献1では、オーステナイト系ステンレス鋼などの鋼材に引張り損傷やクリープ損傷を加えた試験片に発生する微弱な磁性と材料力学的な歪との相関関係を明らかにし、非破壊検査へ応用しようとする試みについて報告している。この報告では、磁気センサとして薄膜タイプのフラックスゲート型センサ(検出感度:10ナノテスラ)を使用していることが特徴である。さらに高精度な検査方法として、特許文献2では、超伝導量子干渉素子(SQUID:Superconducting Quantum Interference Device)をセンサ(検出感度:5ピコテスラ)として用いて、オーステナイト系ステンレス鋼の中から、SUS304LおよびSUS304について弾性領域から塑性変形領域までの応力が加わった場合の磁気特性の変化を詳細に報告している。上記のフラックスゲート型センサよりも、高感度かつ高い空間分解能で計測が可能になり、より局部的な磁気特性の変化を観測することができ、局部的な磁気の増減領域の面積の増加によって、弾性領域の応力付加の有無を検知でき、亀裂発生前の極めて初期段階の材料劣化・損傷を検知できることを確認している。しかしながら、SQUIDは測定原理上、センサ部を冷却するデュワー部が必須であり、装置構成も大きく、高コストになるため、上記の超音波探傷や渦電流探傷システムと同等の水準での実用化には至っていないものと見られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-277442号公報
【特許文献2】特開2005-55341号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】永江勇二他「オーステナイト系ステンレス鋼を対象とした損傷非破壊検出技術の開発」、サイクル機構技報、 No.14、 3(2002)、p.125-135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
構造材のひずみを材料の応力誘起マルテンサイト変態した部分が強磁性体となることを利用して磁気的に検出するために、局所的な磁化部位を検出可能な高感度な磁気センサとして、外部磁界に対して出力の比例する薄膜型の微細デバイス(磁気抵抗効果型磁気素子、ホール素子、超伝導量子干渉(SQUID)素子、フラックスゲート素子、磁気インピーダンス素子など)を用いると、プローブ型の磁気力顕微鏡(MFM)が、測定対象の磁界の空間的な変化率の変化率(すなわち前記測定対象の磁界の空間分布の二回微分)に比例する出力を与えるのに対して、測定対象の磁界の強度を比例的に反映する、より定量性の高い検査を行うことができる。しかし、薄膜型の微細デバイスは、一般的に、センサ表面が平面状に形成されており、一定以上の表面粗さを有する構造材表面の磁化状態を検査するには、表面凹凸の凹部に十分にセンサを近づけることができず、正確な検査結果が得られない場合がある。
【0008】
そこで本発明は、一定以上の表面粗さを有する構造材表面の粗さの凹凸に追従して、微細な凹部の表面にも磁気センサを十分に近づけることのできるひずみ検出センサを提供する。たとえば、凹部形状より小さな凸部に薄膜型の微細デバイス磁気センサを形成したひずみ検出センサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
【0010】
本発明は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、構造材表面のひずみを材料の応力誘起マルテンサイト変態した部分が強磁性体となることを利用して磁気的に検出するひずみ検出センサであって、磁気信号を検出するためのセンサ部および該センサ部と電気的回路を形成するための電極部を備えており、前記センサ部と前記電極部を支持するセンサ本体部の被測定面に対向する表面内において、前記センサ部周辺がセンサ本体部の他の部分よりも突出するように形成されたセンサ周辺突出部を有し、該センサ周辺突出部に前記センサ部が形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明は、前記の構造材表面のひずみ検出センサと、前記ひずみ検出センサの保持部と、前記ひずみ検出センサを構造材表面上において、指定した面積を走査させるための制御部と、入出力情報を処理するための演算処理部と、入出力情報を表示するディスプレイ部とを備えた構造材表面のひずみ検出システムに関するものである。
【0012】
また、本発明は、前記の構造材表面のひずみ検出センサを用いて、材料の応力誘起マルテンサイト変態した部分を検出する構造材表面のひずみ検出方法に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ひずみ検出センサにおいて、一定以上の表面粗さを有する構造材表面の粗さの凹凸に追従して、微細な凹部の表面にも磁気センサを十分に近づけることができる。これにより、構造材の亀裂発生以前の損傷を非破壊で検出することが可能になり、プラントの健全性維持や信頼性をより向上させ、プラントの長期安全・安定運転を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1のひずみ検出センサの構成図である。
【図2】本発明の実施例2のひずみ検出センサの構成図である。
【図3】本発明の実施例3のひずみ検出方法の構成図である。
【図4】本発明の実施例4のひずみ検出システムの構成図である。
【図5】本発明の実施例における構造材表面ひずみ検出システムの構成図である。
【図6】本発明の実施例のひずみ検出センサによる検査ステップの説明図である。
【図7】本発明の検出対象となる構造材の切削加工表面を、プローブ型の磁気力顕微鏡(MFM)を用いて計測した場合の磁気信号の計測データ例である。
【図8】(a)レーザー顕微鏡を用いて測定した構造材の切削加工表面形状と、(b)原子間力顕微鏡を用いて測定した構造材切削加工表面形状の例である。
【図9】(a)レーザー顕微鏡を用いて測定した構造材のフラップホイール研磨加工表面形状と、(b)原子間力顕微鏡を用いて測定した構造材のフラップホイール研磨加工表面形状の例である。
【図10】(a)レーザー顕微鏡を用いて測定した構造材のクリーンNストリップ研磨加工表面形状と、(b)原子間力顕微鏡を用いて測定した構造材のクリーンNストリップ研磨加工表面形状の例である。
【図11】(a)オーステナイト相における結晶構造と、(b)オーステナイト母相中に生じたマルテンサイト微結晶の構造の模式図である。
【図12】(a)fcc(face center cubic)から、(b)bct(body center tetragonal)への結晶構造の変化を示す模式図である。
【図13】構造材の一例としてSUS316ステンレス鋼の冷間加工率と、材料の磁化率の関係を示す説明図である。
【図14】磁気抵抗効果型センサにおける測定対象の磁界とセンサ抵抗値の関係を示す説明図である。
【図15】本発明の実施例5のひずみ検出システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
本実施例は、一定以上の表面粗さを有する構造材表面の粗さの凹凸に追従して、微細な凹部の表面にも十分に近づけることのできる磁気センサを実現するために、凹部形状より小さな凸部に薄膜型の微細デバイス磁気センサを形成したひずみ検出センサおよびそれを用いた検出方法の例を説明する。
【0017】
図1は本実施例のひずみ検出センサの構成図の例である。ひずみ検出センサ10は、センサ本体部1、センサ部2、電極3、センサ周辺突出部4を有する。センサ本体部1は、センサ部2、電極3を支持する部材である。センサ部2は、薄膜型の磁気センサ微細デバイスからなり、測定対象の磁界の強さに応じて素子の抵抗が変化することで、磁界を検出する。電極3は、センサ部2から信号を取り出すため、システム側の回路系に接続するものである。
【0018】
また、被測定部材はオーステナイト系ステンレス鋼などの構造材であり、切削加工などの機械加工により形成された最表面5近傍に、前記機械加工により変形を受けた加工層を有する。前記加工層は、変形の影響で材料の結晶構造が変化したひずみ誘起変態部6と、非変態部7を有している。変態部6は、機械加工が付与されることによって、非磁性であるオーステナイト相の一部の材料微細構造が応力誘起マルテンサイト変態によって変化し、強磁性を有する微結晶に変化する。
【0019】
図11は、本実施例の構造材であるオーステナイト系ステンレス鋼の、(a)オーステナイト相の結晶構造fcc(face center cubic)と、(b)加工付与による応力誘起マルテンサイト変態によりオーステナイト母相の一部に生じたマルテンサイト相の微結晶の構造の例である。図12は、(a)前記オーステナイト相の結晶構造(fcc)の原子配置から、(b)前記マルテンサイト相の結晶構造bct(body center tetragonal)の原子配置への変化を示す模式図である。オーステナイト相では、鉄原子16がfcc構造に配置されており、炭素原子17が、その間隙に入り込む形で配置されている。マルテンサイト相では、鉄原子16がbct構造に配置されており、炭素原子17がその間隙に入り込む形で配置されている。
【0020】
強磁性体となった変態部6は、外部磁界により磁化され、センサ部2は、前記変態部6が発する磁気を検知する。図13は、本実施例の構造材であるオーステナイト系SUS316ステンレス鋼の冷間加工率と、材料の磁化率の関係を示す説明図である。構造材表面の切削加工による冷間強加工によるひずみ量が増大するのにともない、材料の磁化率が増加することがわかっている。
【0021】
図5は本実施例のひずみ検出センサを用いたひずみ検出システムの構成図の例である。ひずみ検出システムは、センサ本体部1と、センサ保持部21、制御部22、演算処理部23、ディスプレイ24からなる。センサ保持部21には、例えば板ばね状のサスペンション(図示していない)等の弾性を有する部材を用い、構造材表面のうねりに追従しながら一定の面積を走査するこができる。センサ本体部1は、演算処理部23からの入力情報により、制御部22を介して構造材表面を走査する。センサ本体部1が検出した構造材表面5近傍の変態部6の磁気信号を演算処理部23でデータ処理を行い、走査範囲における磁気信号強度の分布をディスプレイ24に表示する。
【0022】
図6は、本実施例のひずみ検出センサおよび検出システムを用いて、構造材表面のひずみを検査するステップを示したものである。まず、S101で構造材表面の被測定箇所を決定した後、S102で該被測定箇所に対して、電磁石あるいは永久磁石を用いて0.5T(テスラ)以上の外部磁界を印加し着磁処理を行なう。通常、オーステナイト系ステンレス鋼の変態部6は、前記磁界強度により30秒から1分程度の短時間で着磁がなされる。次に、S103でひずみ検出センサ部を、該被測定箇所に設置し、S104で走査面積、走査速度、サンプリングデータ数、センサ部に通電する電流量、周波数等の測定条件を入力設定し、S105で磁気信号強度の分布を測定する。測定終了後に、S106で被測定箇所の走査範囲における磁気信号強度の分布をディスプレイに出力し描画処理を行なう。測定の終了後は、S107で被測定箇所の消磁処理を実施する。消磁には市販されている非接触型の消磁器により処理を行なう。最後に、S108で再度本実施例のひずみ検出センサを被測定箇所に設置し、消磁がなされていることを確認する。
【0023】
図7は、本実施例の対象となる構造材の切削加工表面を、プローブ型の磁気力顕微鏡(MFM)を磁気検出に用いて計測した場合の磁気信号の計測データ例である。走査範囲10μm×10μmの領域に磁気信号を発する磁化部位11と、信号の少ない非磁化部位12を判別することができる。しかしながら、MFMは、測定対象の磁界の空間的な変化率の変化率(すなわち、前記測定対象の磁界の空間分布の二回微分)に比例する出力を与えるため、測定対象の磁界強度に対して出力の比例する磁気センサによる測定に比べ、磁化量の絶対値に対する計測の定量性の点で難がある。
【0024】
そこで、本実施例では、磁化量の絶対値の計測を可能にすることを目的に、測定対象の磁界強度に比例した出力を与える薄膜型の微細デバイス(磁気抵抗効果型磁気素子、ホール素子、超伝導量子干渉(SQUID)素子、フラックスゲート素子、磁気インピーダンス素子など)を磁気センサに用い計測を行う。図14は、本実施例のひずみ検出センサに用いた磁気抵抗効果型センサにおける測定対象磁界とセンサ抵抗値の関係の例である。図に示すように測定対象の磁界の強さに応じて素子の抵抗が線形に変化することで、構造材表面から発せられる磁気信号を検出することが可能である。
【0025】
しかし、薄膜型の微細デバイスは、一般的に、センサ表面が平面状に形成されており、一定以上の表面粗さを有する構造材表面の磁化状態を検査するには、表面凹凸の凹部に十分にセンサを近づけることができず、正確な検査結果が得られない場合がある。
【0026】
たとえば、図8は、本実施例において用いた構造材であるオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L)の機械加工後の表面を、(a)レーザー顕微鏡により測定した形状と、同部材の表面を、(b)原子間力顕微鏡により測定した形状の例である。また、図9は、本実施例において用いた構造材であるオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L)の機械加工後の表面に、さらにフラップホイール研磨加工を施した表面を、(a)レーザー顕微鏡により測定した形状と、同部材の表面を、(b)原子間力顕微鏡により測定した形状の例である。また、図10は、本実施例において用いた構造材であるオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L)の機械加工後の表面に、クリーンNストリップ研磨加工を施した表面を、(a)レーザー顕微鏡により測定した形状と、同部材の表面を、(b)原子間力顕微鏡により測定した形状の例である。
【0027】
そこで本発明は、一定以上の表面粗さを有する構造材表面の粗さの凹凸に追従して、微細な凹部の表面にも十分に近づけることのできる磁気センサを提供する。たとえば、凹部形状より小さな凸部に薄膜型の微細デバイス磁気センサを形成したひずみ検出センサを提供する。
【0028】
薄膜型の微細デバイス磁気センサの寸法は、たとえばトンネル型磁気抵抗効果素子を例に取ると、典型的には、100nm×100nm×30nm程度であるが、図8(a)より、構造材表面の典型的な切削痕の10-1mmオーダーの巨視的な凹凸の凹部にセンサが入り込み、凹部表面5のひずみ誘起マルテンサイト変態部6から発せられる磁界を検出するためには、薄膜型の微細デバイス磁気センサは、突出高さ>200μm、根元部の幅<200μmの錐形の先端に形成されていなければならない。一方、図10(b)より、構造材表面のマイクロラフネス(表面粗さの高周波成分)が大きい場合、その1μmオーダーの微視的な凹凸の凹部にセンサが入り込み、凹部表面5のひずみ誘起マルテンサイト変態部6から発せられる磁界を検出するためには、薄膜型の微細デバイス磁気センサは、先端部の幅が1μm以下でなければならない。
【0029】
前記のような、構造材の巨視的および微視的表面粗さ形状との関係から導かれる寸法の錐形の先端に磁気センサを形成すれば、測定対象の構造材の表面のさまざまな粗さの状態に追従して、構造材表面5近傍のマルテンサイト変態部6の磁化状態、すなわち構造材のひずみ状態を、正確に定量的に検出することができる。
【0030】
ただし、前記記載の具体的な粗さ形状の寸法、およびそれから導かれるセンサ周辺の突出部形状および寸法は、ある特定の実施例に固有の材料および機械加工条件を反映したものであり、センサ先端部が構造材表面5に十分に近づけることができればよく、それぞれの実施例のセンサ周辺の突出部形状および寸法は、それぞれの実施例の材料および機械加工条件に基づき算出されるべきもので、前記数値に限定されるものではない。
【0031】
またさらに、センサ周辺の突出部形状は、構造材表面5の粗さ形状に応じて適宜変更してもよく、図1に示すような四角錐状に限らず、三角錐状、円錐状、半球状などの形態を用いてもよい。
【実施例2】
【0032】
本実施例は、一定以上の粗さを有する構造材表面の凹凸に追従して、微細な凹部の表面にも十分に近づけることができ、かつ計測中に表面の凹凸から受けるセンサへの衝撃を緩和するために、センサ根元部が柔軟に弾性変形する部位を設け、かつ突出部の先端に薄膜型の微細デバイス磁気センサを形成したひずみ検出センサおよびそれを用いた検出方法の例を説明する。
【0033】
図2は、センサ根元部に弾性部材を有する構成のひずみ検出センサを示したものであり、(a)センサ部が構造材表面の凹部に追従している場合、(b)センサ部が構造材表面の凸部に追従している場合を示しており、(c)にセンサ根元部に弾性部材を形成したセンサの拡大図を示している。
【0034】
図2(a)(b)は、センサ本体部1が右矢印の方向に向かってひずみ検出を行なっている状況を示したものである。センサ本体部1に支持されるセンサ周辺突出部4の根元部に、弾性を有する部材8を用いることによって、センサ周辺突出部4が、構造材の表面5の形状に応じて伸縮し、薄膜型の微細デバイス磁気センサからなるセンサ部2の追従性を向上させ、かつひずみ計測中に表面の凹凸から受ける衝撃を緩和するひずみ検出センサの例である。前記ひずみ検出センサ20は、実施例1のひずみ検出センサ10と同様に、センサ本体部1、センサ部2、電極3、センサ周辺突出部4を有する。センサ本体部1は、センサ部2、電極3を支持する部材である。ここで、実施例2では、センサ部2を支持するセンサ周辺突出部4の根元部に、弾性を有する部材8を有する。センサ部2は、薄膜型の磁気センサ微細デバイスからなり、測定対象の磁界の強さに応じて素子の抵抗が変化することで、磁界を検出する。電極3は、センサ部2から信号を取り出すため、システム側の回路系に接続するものである。
【0035】
前記のように、センサ部2を支持するセンサ周辺突出部4の根元部に、弾性を有する部材8を配置することで、センサ周辺突出部4が、構造材の表面5の凹凸形状に応じて伸縮し、薄膜型の微細デバイス磁気センサからなるセンサ部2の追従性を向上させることができ、かつ構造材表面のひずみ検出中におけるセンサへの衝撃緩衝効果を高め、ひずみ検出の安定性を確保することが可能となる。
【0036】
前記センサ根元部に形成する弾性部材は、薄膜形成可能な材料であれば種類を問わない。
【実施例3】
【0037】
本実施例は、一定以上の表面粗さを有する構造材表面5の微細な凹部表面近傍のマルテンサイト変態部6から生じる磁束を効率的にセンサ部に導き入れるように、センサと構造材の被測定表面の間に磁性流体を介在させる構造材表面ひずみ検出方法の例を説明する。
【0038】
図3は、実施例1と同様のひずみ検出センサ10と、被測定部材であるオーステナイト系ステンレス鋼等の構造材表面5との間に数ナノメートルから数十ナノメートルの磁性粒子を含む磁性流体9を介在させることにより、構造材表面に存在するマルテンサイト変態部6の磁気検出効率の向上を可能にする例である。磁性流体9は、磁性粒子(図示していない)と溶媒からなり、溶媒には構造材の材質に応じて適宜、潤滑性を付与した溶媒を用いることができる。
【0039】
前記のように、センサと構造材の被測定表面の間に磁性流体9を介在させることで、マルテンサイト変態部6から生じる磁束が、磁性流体9中の磁性粒子を通って、センサ本体部1に支持されるセンサ周辺突出部4の先端に形成されたセンサ部2に導き入れられ、構造材表面に存在するマルテンサイト変態部6から生じる磁界の検出効率の向上を可能にすることができる。
【実施例4】
【0040】
本実施例は、実施例1から3に記載の構造材ひずみ検出センサおよびひずみ検出方法を用いて、前記ひずみ検出センサを多数個並列に配置し、構造材表面の広い面積の表面ひずみを、同時に高速に検査する構造材表面ひずみ検出システムの例を説明する。
【0041】
図4は、本実施例のひずみ検出センサを、アレイ状に多数個並列に配置した検出部の例である。例えばセンサ本体部1を、PET(ポリエチレンテレフタレート)などのフレキシブルシート18に多数個並列に配置し、構造材表面の広い面積を同時に、かつ高速に検査することができる。PETに組み込まれた配線と、センサ本体部1の電極3を結線し磁気検出を可能とする。
【0042】
前記のように、ひずみ検出センサを多数個並列に配置することで、構造材表面の広い面積の表面ひずみを、同時に高速に検査することができる。
【実施例5】
【0043】
本実施例は、実施例1から3に記載の構造材ひずみ検出センサおよびひずみ検出方法を用いて、前記ひずみ検出センサを自動位置決め機械に装着し、無人かつ高速に構造材の表面ひずみを検査する構造材表面ひずみ検出システムの例を説明する。図15に低炭素オーステナイト系ステンレス鋼を用いて製造された炉心シュラウドの構造材表面5を、自動位置決め機械31に装着された構造材表面ひずみ検出センサ32を用いて、ひずみの検出を行っている状態を示す。自動位置決め機械31は、左右方向の矢印に沿って動作可能な構造を有しており、また、ひずみ検出センサ32が装着されている走査アーム33には上下方向に動作可能な構造を持つ。このような構造により、炉心シュラウドの構造材表面5を高速かつ広範囲に検査することが可能となる。また、本発明が対象のひとつとしている原子炉構造材は、水中に設置されていたり、放射線環境下にあったりする場合が多く、前記自動位置決め機械に装着された遠隔カメラを介した目視検査や、超音波探傷などの検査がしばしば行われる。本実施例においても同様に、前記ひずみ検出センサおよびシステムを、同様の自動位置決め機械に搭載することで、水中や、放射線環境下においても、無人かつ高速に構造材表面ひずみを検査することが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1 センサ本体部
2 センサ部
3 電極部
4 センサ周辺突出部
5 構造材表面
6 構造材表面に生成した変態部
7 構造材表面ひずみの非変態部
8 センサ周辺突出部弾性部材
9 磁性流体
10 ひずみ検出センサ
11 構造材表面磁化部
12 構造材表面非磁化部
13 構造材母相(オーステナイト相)結晶粒
14 構造材母相(オーステナイト相)結晶粒界
15 構造材変態相(マルテンサイト相)微結晶
16 鉄原子
17 炭素原子
18 センサ本体の支持部材
20 センサ周辺突出部弾性部材を有するひずみ検出センサ
21 センサ保持部
22 制御部
23 演算処理部
24 ディスプレイ
31 自動位置決め機械
32 ひずみ検出センサ
33 操作アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造材表面のひずみを材料の応力誘起マルテンサイト変態した部分が強磁性体となることを利用して磁気的に検出するひずみ検出センサであって、
磁気信号を検出するためのセンサ部および該センサ部と電気的回路を形成するための電極部を備えており、前記センサ部と前記電極部を支持するセンサ本体部の被測定面に対向する表面内において、前記センサ部周辺がセンサ本体部の他の部分よりも突出するように形成されたセンサ周辺突出部を有し、該センサ周辺突出部に前記センサ部が形成されていることを特徴とする構造材表面のひずみ検出センサ。
【請求項2】
請求項1記載の構造材表面のひずみ検出センサにおいて、
前記センサ周辺突出部は、凸形状であることを特徴とする構造材表面のひずみ検出センサ。
【請求項3】
請求項2記載の構造材表面のひずみ検出センサにおいて、
前記センサ周辺突出部は、突出高さ>200μm、かつ根元部の幅<200μmの錐形であることを特徴とする構造材表面のひずみ検出センサ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一つに記載の構造材表面のひずみ検出センサにおいて、
前記センサ部は、先端部の幅が1μm以下であることを特徴とする構造材表面のひずみ検出センサ。
【請求項5】
請求項2記載の構造材表面のひずみ検出センサにおいて、
前記センサ周辺突出部は、四角錐状、三角錐状、円錐状または半球状であることを特徴とする構造材表面のひずみ検出センサ。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一つに記載の構造材表面のひずみ検出センサにおいて、
前記センサ周辺突出部と前記センサ本体部の間に、弾性部材を備えていることを特徴とする構造材表面のひずみ検出センサ。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一つに記載の構造材表面のひずみ検出センサにおいて、
前記センサ部が、磁気抵抗効果素子、ホール素子、超伝導量子干渉(SQUID)素子、フラックスゲート素子、磁気インピーダンス素子のいずれかであることを特徴とする構造材表面のひずみ検出センサ。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一つに記載の構造材表面のひずみ検出センサと、前記ひずみ検出センサの保持部と、前記ひずみ検出センサを構造材表面上において、指定した面積を走査させるための制御部と、入出力情報を処理するための演算処理部と、入出力情報を表示するディスプレイ部とを備えたことを特徴とする構造材表面のひずみ検出システム。
【請求項9】
請求項8記載の構造材表面のひずみ検出システムにおいて、
前記ひずみ検出センサを多数個並列に配置し、構造材の広い面積の表面ひずみを、同時かつ高速に検査することを特徴とする構造材表面のひずみ検出システム。
【請求項10】
請求項1〜7の何れか一つに記載の構造材表面のひずみ検出センサを自動位置決め機械に装着し、無人かつ高速に構造材の表面ひずみを検査することを特徴とする構造材表面のひずみ検出システム。
【請求項11】
請求項1〜7の何れか一つに記載の構造材表面のひずみ検出センサを用いて、材料の応力誘起マルテンサイト変態した部分を検出することを特徴とする構造材表面のひずみ検出方法。
【請求項12】
請求項11記載の構造材表面のひずみ検出方法において、
前記ひずみ検出センサと構造材の被測定表面の間に磁性流体を介在させて測定することを特徴とする構造材表面のひずみ検出方法。
【請求項13】
請求項11記載の構造材表面のひずみ検出方法において、
構造材表面の被測定箇所に着磁処理を行うステップと、
前記ひずみ検出センサを用いて磁気信号分布を測定するステップと、
前記構造材表面の被測定箇所に消磁処理を行うステップと
を有することを特徴とする構造材表面のひずみ検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−177573(P2012−177573A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39657(P2011−39657)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】