樹脂プリプレグの製造方法、樹脂プリプレグ用繊維シート、樹脂プリプレグ及びその複合材料
【課題】簡易な製造設備で且つ短い製造時間で、樹脂の含浸状態、強化繊維配向の均一性および樹脂と強化繊維の接着状態において優れた工業的品質を備えた熱可塑性樹脂プリプレグを製造することが出来る樹脂プリプレグの製造方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維シート1に対し、繊維方向と直交する方向に所定の縫い目長さ、縫合長さ、及び縫合間隔で耐熱糸2よって縫合処理を施し、その後、その縫合処理を施した炭素繊維シートをアセトン中に浸し、繊維束表面のサイジング剤およびカップリング剤を除去して連続強化繊維シート10とする。必要に応じて、繊維と樹脂の接着性を向上させるカップリング剤を繊維の表面に添加する。そして、連続強化繊維シート10とポリカーボネートシート4を積層して加熱・加圧しポリカーボネート樹脂を繊維間に加圧含浸させてポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを得る。
【解決手段】炭素繊維シート1に対し、繊維方向と直交する方向に所定の縫い目長さ、縫合長さ、及び縫合間隔で耐熱糸2よって縫合処理を施し、その後、その縫合処理を施した炭素繊維シートをアセトン中に浸し、繊維束表面のサイジング剤およびカップリング剤を除去して連続強化繊維シート10とする。必要に応じて、繊維と樹脂の接着性を向上させるカップリング剤を繊維の表面に添加する。そして、連続強化繊維シート10とポリカーボネートシート4を積層して加熱・加圧しポリカーボネート樹脂を繊維間に加圧含浸させてポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂プリプレグの製造方法、樹脂プリプレグ用繊維シート、樹脂プリプレグ及びその複合材料に関するものである。さらに詳しくは、簡易な製造設備で且つ短い製造時間で、樹脂の含浸状態、強化繊維配向の均一性および樹脂と強化繊維の接着状態において優れた工業的品質を備えた熱可塑性樹脂プリプレグを製造することができ、そしてドライの強化繊維シートを複数枚積層してからRTM(=Resin Transfer Molding)によって熱硬化性樹脂を含浸する際の開繊したドライの強化繊維シートのハンドリング性の確保および樹脂含浸性の向上を達成することが出来る熱硬化性樹脂プリプレグの製造方法、樹脂プリプレグ用繊維シート、樹脂プリプレグ及びその複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂であるエンジニアリングプラスチックはリサイクル性に富み、寸法精度も高く、また、高い耐衝撃性を有するなど優れた材料特性を持ちながら安価であり、その用途は自動車、電機、光学機器、IT関連など多岐に渡る。熱可塑性樹脂は、その名前の通り、加熱することで樹脂を溶融してその形状を容易に変形させることが出来るため、成形物は加熱・圧延による製造方法が一般的である。一方、熱可塑性樹脂単体ではその剛性は金属・非金属材料と比較して低く、強化繊維と複合化することで構造材として利用可能なレベルに剛性を向上させることが出来る。このような熱可塑性樹脂複合材料は、例えば航空機で利用されるエポキシ樹脂複合材料と比較して、同じ強化繊維が共に用いられているならば、同等の強度・剛性を有しながらより優れたリサイクル性を有する複合材料となる。しかしながら、熱可塑性樹脂はその高分子構造により加熱溶融しても粘度が高く、例えばポリカーボネートやアクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(以下、「ABS」という。)などは粘度の高さに相関して耐衝撃性が高くなる。このため、熱可塑性樹脂を連続強化繊維へ含浸させる熱可塑性樹脂複合材料の製造を、簡易な設備で行うことは、エポキシ等の極めて粘度の低い樹脂を利用する場合と比較して、成形物の工業的品質を確保することが困難な点で容易ではない。このため、ガラス繊維や炭素繊維をチョップして熱可塑性と混ぜて製造される短繊維強化タイプや長繊維強化タイプの複合材料の流通が現在のところ一般的である。
【0003】
しかしながら、連続繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の製造方法については、既に様々な製造技術が開発され、多数の特許が成立している。熱可塑性樹脂と連続強化繊維により製造される複合材料構造物は、中間素材である熱可塑性樹脂プリプレグを利用して製造されることが一般的である。この理由として、複合材料を適用する構造物の剛性要求に対して、プリプレグの積層物を製造することで剛性要求を満たすことが可能であり、すなわちプリプレグによる複合材料は材料設計が可能であることが挙げられる。熱可塑性樹脂プリプレグは一般的に連続強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させて一方向に引き揃えてシート状に製造される。このプリプレグを複数枚、その繊維方向を変化させて積層し、加熱して樹脂を溶融させた後に加圧して複合材料が製造される。
【0004】
熱可塑性樹脂複合材料に係る既存の特許については、熱可塑性樹脂プリプレグの製造に関するものや、これらのプリプレグを用いる熱可塑性樹脂複合材料構造物の製造方法などがある。一般的な熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法は、一方向に引き揃えた連続繊維シートに樹脂シートを積層し、繊維束の並び(配向)が乱れないように繊維シートに張力をかけながら樹脂の溶融温度以上に加熱して樹脂を溶融させ、加圧して繊維シートに樹脂を含浸させるものである。ここで、熱可塑性樹脂プリプレグの工業的品質の優劣は製造方法の違いにより決定される。プリプレグ製造に係る工業的品質の評価は、具体的には、樹脂の含浸状態(空隙の有無)、強化繊維配向の均一性、樹脂と強化繊維の接着状態の評価で行われる。
【0005】
後述する本発明の実施例の熱可塑性樹脂プリプレグに使用されているポリカーボネートなどは、樹脂粘度と樹脂の機械的特性が相関している。例えばポリカーボネートの特徴でもある耐衝撃性の高さは粘度の高さに比例する。このような樹脂はメーカーが推奨する成形温度に加熱しても粘度が高く、例えばエポキシ樹脂等と比較してポリカーボネートの繊維束への含浸は極めて難しいものになる。このため、機械的特性に優れる反面、粘度の高い熱可塑性樹脂によりプリプレグを製造する場合、プリプレグの工業的品質は様々な特許に係る製造方法によって確立されている。
【0006】
熱可塑性樹脂プリプレグの製造に係る従来技術については、例えば、張力をかけながら繊維を引き揃えて樹脂をテープ上の強化繊維に含浸させる方法(例えば、特許文献1を参照。)、金属板に補強繊維と熱可塑性樹脂を巻き付けて熱プレスする方法(例えば、特許文献2を参照。)、樹脂を粉末にして繊維に含浸させる方法(例えば、特許文献3を参照。)、開繊した強化繊維シートに熱可塑性樹脂繊維で製造した熱可塑性樹脂不織布を重ねて加熱しつつ加圧する方法(例えば、特許文献4を参照。)、強化繊維と、熱可塑性樹脂からなるマトリクス繊維とを開繊しながら混合し、これをシート状に広げ、加熱融着してプリプレグを製造する方法(例えば、特許文献5を参照。)、並びに、強化繊維を一方向に引き揃えてシート状にし、この強化繊維シートを熱可塑性樹脂が含まれる処理浴に導入して樹脂を付着させる方法(例えば、特許文献6を参照。)などがある。
【0007】
一般的な熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法として、熱可塑性樹脂を加熱溶融し、加圧して連続繊維に含侵させる場合、樹脂の粘度が高いと製造時のライン速度を遅くして十分な樹脂含浸時間を確保する必要があり、さらに、極めて樹脂粘度が高い場合には含浸不良を起こし、プリプレグに空隙が多く含まれる事になる。ライン速度を短縮するために加圧圧力の大きさを一気に上昇させて樹脂含浸速度を上昇させようとすると、整列した連続繊維の一部の間隔が広がってしまい、その結果プリプレグの品質を低下させる。また、この製造方法では、加圧含浸時に連続繊維を整列させた状態に保つために繊維束に高い張力をかける必要があり、特に炭素繊維などの高剛性繊維では切断が起きやすい。さらには高張力を与えながら樹脂を含浸させるために、プリプレグ製造時の設備の高コスト化を招く。一方、溶融時の樹脂の粘度が低いと高速で含浸が可能となるが、樹脂流動性に富む樹脂は分子量が低く、樹脂単体の機械的特性が低下する。このため、低粘度熱可塑性樹脂複合材は、高粘度樹脂の場合と比較して、材料の機械的特性が低下することになる。また、粉末状の熱可塑性樹脂を強化繊維シートに付着させて含浸させる方法では、熱可塑性樹脂を均質な粉末状にして製造する事が難しく、基材の高コスト化を招き、また、粉末状の樹脂の付着量を調整することも困難である。熱可塑性樹脂を繊維状にする必要がある製造方法についても同様にコストの面で高くなる。熱可塑性樹脂を溶液化し、強化繊維材料に含浸させる方法は、使用できる樹脂や溶媒の種類が制限されるという問題点があり、さらに、強化繊維シートに張力をかけた状態で熱可塑性樹脂が含まれる溶液の処理浴に浸すことにより樹脂含浸が成される製造ラインが必要となり、同様に設備の高コスト化は避けられない。
【0008】
ガラス繊維や炭素繊維などの連続強化繊維シートでは、単繊維の収束とハンドリング性を向上させる目的ならびに輸送時における繊維シートの配向を維持する目的で、製造工程において繊維基材に対してサイジング処理が施されている。また、複合材料の基材である樹脂と強化繊維の接着性の向上には接着界面の制御が重要である。この界面の制御とは、樹脂と強化繊維の接着面の化学結合の形成、繊維表面に対する樹脂のぬれ性の向上、繊維表面と樹脂との相溶化の改良などを指す。これらの界面の制御はカップリング剤により行われることから、一般的な連続強化繊維シートにはサイジング剤とカップリング剤による化学的処理が施されている。(カップリング剤:複合材料の充填剤と樹脂との双方に反応または相互作用することによって、機械的強度の向上などの効果をもたらす化学物質)
【0009】
一方、市販される強化繊維シートの繊維表面処理については、その詳細は公表されておらず、カップリング剤がもたらす熱可塑性樹脂と強化繊維の界面制御効果は利用者には未知なところが多い。一般的であるエポキシ樹脂用のカップリング剤が添加された強化繊維と熱可塑性樹脂では、場合によっては接着性が悪化する場合がある。また、サイジング剤除去により繊維が開繊された繊維シートは、そのハンドリング性が極端に悪化する。一方、熱可塑性樹脂と強化繊維の接着性を向上させるためには、樹脂含浸の際に、樹脂と繊維の接着面積をできるだけ増やし、粘度の高い樹脂を繊維束内へ送り込んでそれぞれのフィラメントの周りに樹脂を送り込む事が肝要である。このため、強化繊維シートの繊維束群を開繊させて樹脂含浸を行う事が有効ではあるが、樹脂粘度が高い場合には、整列した連続繊維の一部の間隔が広がってしまい、逆にプリプレグの品質を低下させる。未開繊の場合は含浸の効率は悪くなり、その結果、含浸不良が発生し機械的物性の低下を引き起こす。
【0010】
以上の理由から、高い機械特性を持つた熱可塑性樹脂複合材の製造には、開繊された連続強繊維シートに粘度の高い樹脂を繊維の配向を乱す事無く確実に、且つ迅速に含浸させて熱可塑性樹脂プリプレグを製造する方法の適用が有効であると考える。強化繊維束を開繊して熱可塑性樹脂を含浸させる方法については、集束された繊維束を機械的衝撃によって開繊させた後に溶融熱可塑性樹脂を含浸させる方法(例えば、特許文献8を参照。)並びに、シート状に流送される維束群を、進退摩擦して開繊した後、開繊繊維シートに熱可塑性樹脂シートを帯熱溶融状態で会合させて含浸させる方法(例えば、特許文献9を参照。)が知られている。しかしながら、いずれの方法においても、開繊後の強化繊維シートのハンドリング性の極端な悪化と樹脂含浸時の繊維配向の均一性の維持に対する解決法として、連続繊維シートに過大な張力をかける必要があり、設備の複雑化および高コスト化を招く。
【0011】
先に述べたように、熱可塑性樹脂プリプレグの工業的品質は、樹脂の含浸状態(空隙の有無)、強化繊維配向の均一性、樹脂と強化繊維の接着状態などを検査することで評価される。また、材料のコストを下げるためには、現在、一般に流通している熱可塑性樹脂プリプレグに利用できる低コストである基材、例えば樹脂シートや一般的な連続強化繊維シートなどを利用して、簡単な設備で製造することが不可欠である。このため、工業的品質が良好で且つ広巾の熱可塑性樹脂プリプレグを短い製造時間で、設備や基材のコストをかけずに製造する方法が提供できるならば、このプリプレグを利用する複合材料をコストパフォーマンスに優れた材料として、自動車、建築、航空機分野等での大幅な利用が期待できる。
【0012】
ところで、複合材構造物で一般的であるエポキシ等の熱硬化性樹脂と炭素繊維等による積層型複合材構造物について、最近の研究成果として、積層構造の各層を薄くすると強度が上昇する事が実験結果から明らかとなり、層を薄くした積層型複合材の開発がなされている。一層の厚さを薄くする方法としては、プリプレグを薄く作るために、強化繊維の繊維束を開繊して繊維と直角方向に薄く広げられた(単位面積当たりの繊維量を減らした)強化繊維シートが使われることが一般的である。
近年、低コスト複合材構造物成形法として研究開発が盛んであるRTM(樹脂含浸成形法)では、積層型複合材構造物は、樹脂を全く含浸させていないドライの強化繊維シートを複数枚積層してから熱硬化性樹脂を含浸させ、その後加熱し樹脂を硬化させる方法により製造される。このような製造法の場合、積層型複合材の一層の厚さを薄くするには、ドライの強化繊維シートを薄くするために開繊処理が施されるものと考えられる。しかしながら、開繊された繊維シートはハンドリング性が極めて悪化し、また輸送には適さない。また、開繊する事で一層の厚さを薄くしたドライの繊維シートを積層して複合材構造物を製造しようとすると、複合材の厚みを確保するためには積層数を増やす必要がある。一方、積層型複合材では一般に繊維方向を変化させて強化繊維シートを積層するが、この層ごとの繊維配向角の違いは樹脂の含浸を妨げる事が知られている。このため、一層の厚さを薄くした積層型複合材構造物をRTMにより製造するには、開繊した強化繊維シートのハンドリング性の確保および樹脂含浸性の向上が問題となる。
【0013】
【特許文献1】特開昭63−027208号公報
【特許文献2】特開平07−308991号公報
【特許文献3】特開平17−239843号公報
【特許文献4】特開平15−165851号公報
【特許文献5】特開平06−322159号公報
【特許文献6】特開平17−255927号公報
【特許文献7】特開平06−116851号公報
【特許文献8】特開平17−029912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述した通り、樹脂の含浸状態、強化繊維配向の均一性および樹脂と強化繊維の接着状態において優れた工業的品質を備えた熱可塑性樹脂プリプレグを得るためには、従来の熱可塑性樹脂プリプレグの製造技術では、熱可塑性樹脂を予め粉末状や繊維状等の特殊な形態に加工する工程、強化繊維に高張力を与える設備、強化繊維を開繊してから高張力を与えながら樹脂を含浸させる設備、もしくは熱可塑性樹脂の溶液バスに繊維シートを浸すための複雑な設備等が必要となり、その結果コストの面で高額化を招くという問題がある。また、製造時間の面でも、上記従来の熱可塑性樹脂プリプレグの製造技術では、十分な樹脂含浸時間を確保する必要がある。
他方、薄いドライの強化繊維シートを複数枚積層してからRTMによって熱硬化性樹脂を含浸させ、次いで加熱することで熱硬化性樹脂を硬化させて熱硬化性樹脂プリプレグを得るためには、開繊したドライの強化繊維シートのハンドリング性の確保および樹脂含浸性の向上が問題となっている。
そこで、本発明の目的は、上記実情に鑑み創案されたものであって、簡易な製造設備で、且つ従来より短い製造時間で、樹脂の含浸状態、強化繊維配向の均一性および樹脂と強化繊維の接着状態において優れた工業的品質を備えた熱可塑性樹脂プリプレグを製造することができ、ドライの強化繊維シートを複数枚積層してからRTMによって熱硬化性樹脂を含浸する際の開繊したドライの強化繊維シートのハンドリング性の確保および樹脂含浸性の向上を達成することが出来る熱硬化性樹脂プリプレグの製造方法、樹脂プリプレグ用繊維シート、樹脂プリプレグ及びその複合材料を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一つは、一般に流通している繊維シートに対して、後述する縫合処理および開繊処理を施した後に、やはり一般に流通している熱可塑性樹脂シート(フィルム)を重ねてから、加熱・加圧する事でその樹脂シートを含浸させて熱可塑性樹脂プリプレグを製造するものである。
【0016】
上記熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法に使用される繊維シートは、特定のサイジング剤、カップリング剤による繊維表面処理が施されているものではなく、例えば一般的な連続強化繊維シートであるエポキシ樹脂用の化学的処理が施されたものでも構わない。繊維自体も、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維等を一方向に引き揃えてシート状にされたものを使用する。繊維が引き揃えられた方向に直交する方向を幅方向とすると、この幅方向の長さは本発明の製造方法に本質的に起因する理由で特に制限が有るわけで無く、プリプレグ製造に使うホットプレス等の熱盤サイズ以下ならば任意の長さで構わない。
【0017】
先ず繊維シートに縫合処理を施す。この縫合処理を施すために使用する装置は、例えば工業用ミシンを使用する。この縫合処理に使用する縫い糸は特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂を溶融させて繊維間に含浸させる加熱・加圧工程においてその樹脂の溶融温度以上の耐熱性を有する耐熱糸を使用することが望ましい。また、この耐熱糸(縫合糸)は加熱・加圧による樹脂含浸時に繊維の配向を維持する役割を担う事から、高強度繊維から成る事が望ましい。また、縫合処理が施された連続強化繊維シートには縫合糸が通る場所に隙間が生じることから、材料強度的には縫合糸の径は細いものである事が望ましい。縫合処理の際の縫い方、縫い目長さおよび縫い目間隔については特に規定されるものではない。
【0018】
しかしながら、縫合処理が施された繊維シートでは、縫合糸が繊維シートを通る領域は、溶融した樹脂の繊維束内部への流入経路となる。本発明では、樹脂の粘度が極めて高い場合、又は樹脂の劣化を防ぐために各樹脂についてメーカーが推奨する成形温度以下で樹脂含浸を行う場合、或いは樹脂含浸速度を上昇させる場合は、縫合糸(縫い糸)の種類、縫い方、縫い目長さおよび縫合間隔について調整する事で樹脂含浸性を向上させることが可能である。
【0019】
次いで、縫合処理を施した繊維シートに開繊の処理を施す。この開繊の処理とは、繊維の開繊と、連続強化繊維シートに含浸させようとする熱可塑性樹脂に対して、界面制御効果が得られないカップリング剤やサイジング剤を除去することを指す。開繊の処理の方法は特に指定されるものではないが、充分に繊維束が開繊され、繊維表面のカップリング剤やサイジング剤を除去できる方法で行う。この開繊の処理により、サイジング剤によるハンドリング性と繊維配向の均一性の維持の効果は失われるが、それに代わり上記縫合糸が同等の効果をもたらす。この開繊の処理により、熱可塑性樹脂が各フィラメント周りに流入する事で、繊維と樹脂の接着性が物理的効果により改善される。さらに接着性を向上させるには、含浸させようとする熱可塑性樹脂シートと繊維シートに対して界面制御効果が得られるカップリング剤を繊維表面に付着させる。この化学的処理と開繊の処理を合わせて、本発明では「繊維シートに対する開繊等処理」と呼ぶこととし、上記請求項に記載の「開繊等処理」は、繊維シートと熱可塑性樹脂との接着性を物理的さらには化学的にも向上させるために繊維シートへ施される処理の意味で記載されている。
【0020】
縫合処理および開繊等処理を施した連続強化繊維シートの両面もしくは片面のみに熱可塑性樹脂シートを配置した後、この積層物を熱可塑性樹脂の溶融温度より高い温度で加熱する。樹脂が溶融した後に、加圧して樹脂を含浸させ、冷却する事で熱可塑性樹脂プリプレグが製造される。この熱可塑性樹脂プリプレグの製造装置としては、前記積層物を熱可塑性樹脂の溶融温度より高い温度に予熱する予熱手段と、その予熱された積層物を加圧して熱可塑性樹脂プリプレグを形成する加圧手段とから成るもので構わない。この条件を満たす製造装置として、簡易なホットプレスを採用することが出来る。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法においては、連続強化繊維シートには繊維配向を維持するための張力等は与える必要は特に無い。縫合処理が繊維配向の乱れを抑制し、且つ樹脂の流入を促進させる。また、開繊等処理も、樹脂の流入を促進させ、それに加えて繊維と樹脂の接着性を物理的かつ化学的に向上させる。本発明は、工業的品質に優れた熱可塑性樹脂プリプレグが低コストで得られる製造方法であるというその根拠は使用される製造装置の簡便さに因るものである。
【0022】
一方、前述した通り繊維シートには縫合処理および開繊等処理を施す必要があり、このことによるコストの増大が懸念される。しかしながら、縫合処理は工業用ミシン等により極めて簡便に行う事が可能であり、開繊等処理においても既存の技術が適用できる。従って、本発明に係る連続強化繊維シートを大量生産した場合においても、縫合処理により繊維シートの輸送時の繊維配向の乱れは抑制される事から、コストに関する問題の解決は極めて容易であると考えられる。このため、後述する本発明の実施形態において明らかなように、開繊等処理と樹脂含浸の製造プロセスを連続して行うための設備は特に必要とされない。
【0023】
さらに、本発明者達は、上記製造方法を発明するに到るまでに行った研究努力により、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂の繊維シートへの含浸には段階的加圧法が有効である事を見出した。この段階的加圧法とは、繊維の配向が乱れることを出来るだけ抑制するように、溶融させた熱可塑性樹脂を低い圧力から高い圧力へある時間間隔で段階的に昇圧することにより熱可塑性樹脂をゆっくりと確実に繊維束内部に流入させるにした熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法である。特に、熱可塑性樹脂の分子量が低く、溶融時に粘度が低い場合には、この段階的加圧法のみを適用する事で、繊維シートに開繊等処理のみを施したものについても、良好な熱可塑性樹脂プリプレグを得られる事が文献(炭素繊維一方向強化ポリプロピレンの力学特性評価、日本複合材料学会誌第32巻第4号)において確認されている。しかしながら、段階的加圧法の適用のみではプリプレグの製造時間の短縮には限界があるものと推測できる。つまり、加圧力を短い時間で上昇させると樹脂が繊維束内部に流入する前に、樹脂が繊維シート表面で圧延され、開繊された繊維シートの配向が乱れてしまうからである。しかしながら、本発明に係る縫合処理および開繊等処理が施された強化繊維シートと熱可塑性樹脂によるプリプレグの製造において、この段階的加圧法を適用することにより、繊維配向を乱さずに樹脂を繊維間に含浸させる効果を補助的に与えることができ、その結果、プリプレグの製造時間を短縮化することが出来るようになる。従って、このような製造方法についても上記請求項に含まれるものとする。
【0024】
以上のことから、本発明による樹脂プリプレグの製造方法によれば、先に述べた繊維シートに施す縫合処理および開繊等処理の条件と樹脂含浸時の溶融温度/加圧力の最大値/圧力上昇過程の成形条件は、熱可塑性樹脂プリプレグに使用する熱可塑性樹脂シートと連続強化繊維シートの特性(樹脂の種類、繊維の種類など)、製造時間、および材料強度などの力学的特性に合わせて最適条件を選択する事ができる。
【0025】
また、本発明によって製造される熱可塑性樹脂プリプレグを複数枚、その繊維方向を交互に変化させて積層し、その積層物を加熱して樹脂を溶融させた後に加圧して熱可塑性樹脂複合材料積層板を製造することが出来る。
【0026】
以上の説明では、繊維間に加圧含浸させるマトリクス樹脂として熱可塑性樹脂を前提としたが、熱可塑性樹脂に限らず、熱硬化性樹脂を繊維間に含浸・硬化させることにより熱硬化性樹脂プリプレグを製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂プリプレグの製造に関して、繊維シートに縫合処理および開繊等処理を施すことで、以下に説明する発明の効果が得られた。
1.物理的効果
(1)繊維シートに縫合処理を施すことにより、開繊処理後の繊維シートの配向乱れを抑制すると共に加圧による樹脂含浸時の繊維配向の乱れを抑制し、更には樹脂含浸過程において繊維シートに樹脂流入経路を付与する。
(2)繊維シートに開繊等処理を施すことにより、繊維シートの樹脂含浸性の向上ならびに繊維と樹脂との接着性の向上をもたらす。
2.経済的効果
(1)一般に流通する繊維シートに同じく一般に流通する熱可塑性樹脂シート又は熱硬化性樹脂を適用することによる樹脂プリプレグの低コスト化
(2)製造設備の単純化、低コスト化
以上の物理的および経済的効果により、本発明は、樹脂の含浸状態、強化繊維配向の均一性、樹脂と繊維の接着状態が良好である優れた工業的品質の熱可塑性樹脂プリプレグ又は熱硬化性樹脂プリプレグを、低コストで製造する方法を与えることが出来る。特に本発明により得られる熱可塑性樹脂プリプレグは、従来の熱可塑性樹脂プリプレグと同様に型に入れて熱圧成形することにより種々の形状の複合材構造物に成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
炭素繊維一方向連続シート(SP systems 製、UT-C400、目付 400g/sqm)を繊維方向に250mm、幅方向に230mmの大きさに切り出し炭素繊維シートとした。次に、炭素繊維シート1に対し工業用ミシン(JUKI製、DDL-9000S)により耐熱糸(クラレ製、ベクトラン、#50)2を利用して縫い目長さ1.25mm、縫いの間隔(縫合間隔)を20mmとして、繊維と直角方向に、幅230mm(=縫合長さ)全域を横断するようにして縫合した。縫い方は本縫いである。繊維シート端部での返し縫は行っていない。図1に縫合処理が施された炭素繊維シート1を示す。また、炭素繊維以外に、ガラス繊維、アラミド繊維、又はセラミック繊維等の強化繊維を一方向に引き揃えシート状にした繊維シートを使用することも可能である。また、耐熱糸は、ベクトラン以外にノーメックス、コーネックス、パイロメックス、ラステックス、又はザイロン等の高強度・高剛性の耐熱糸を使用することも可能である。
【0030】
次に、上記の縫合処理を施した炭素繊維シート1を、アセトン(和光純薬工業製、試薬特級)350ml中に60分間完全に浸し、一度完全にアセトンを揮発させてから、さらにアセトン250ml中に60分間完全に浸し、繊維束表面のサイジング剤およびカップリング剤を除去した。アセトンを利用した炭素繊維シートの開繊等処理の特徴は、サイジング剤とカップリング剤を同時に除去する事ができ、さらに脱脂の効果もあることである。また、機械的方法による開繊よりも、繊維の毛羽立ちの少ない開繊繊維シートを得る事が出来る。図2に縫合処理および開繊等処理が施された炭素繊維シート3を示す。縫合処理を施したことにより開繊後においても炭素繊維シート3の取扱性は良好であり、樹脂含浸時においても一方向の炭素繊維シートの配向が維持される。また、炭素繊維シート3における縫合糸(耐熱糸2)の通り道は樹脂の流入経路となる。図3は本発明に係る縫合処理および開繊等処理を施した連続強化繊維シート10の概要図である。なお、本実施例ではポリカーボネートと炭素繊維の接着界面を制御するための繊維束へのカップリング剤、例えばシラン系、チタネート系、アルミネート系、ジルコネート系等のカップリング剤の添付は行っていない。
【0031】
図4は、本発明の実施例であるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの製造方法を示す説明図である。
熱可塑性樹脂シートとしてのポリカーボネートシート4(帝人化成製、パンライトフィルム、PC-2151(クリア))を230×140mmに切り出し、このポリカーボネートシート4を定温乾燥機により乾燥させた(110℃、5hour以上)。上部加熱・加圧板6および下部加熱・加圧板7から成る熱可塑性樹脂成形用の加圧板型に対し、アルミの薄い板から成るスペーサー(ダム)5を、幅230mmの間隔をあけて耐熱テープ(カプトンテープ)によって下部加熱・加圧板7に貼り付け固定した。次に、上記の縫合処理および開繊等処理済みの連続強化繊維シート10を下部加熱・加圧板7上のスペーサー5,5間に配置し、端部を耐熱テープで止め(図示せず)、その上に乾燥させたポリカーボネートシート4を配置した。特に特別な方法ではなく、ポリカーボネートシート4も連続強化繊維シート10の片面に積層するだけであり、極めて簡便な成形方法である事が分かる。また、図4による成形法(製造方法)は、本発明に係る縫合処理および開繊等処理済み連続強化繊維シート10による熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法の一例である。なお、熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート以外に塩化ビニル、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルホン、又はポリエーテルエーテルケトンを使用することが可能である。
【0032】
予熱手段および加圧手段としてのホットプレス(東洋精機製、ミニテストプレスMP-S)を成形温度310℃まであらかじめ昇温させた。次に、連続強化繊維シート10の上にポリカーボネートシート4を積層した成形用の加圧板型をホットプレスに配置して、10分間の予備加熱を行った。予備加熱終了後、段階的加圧法により、連続強化繊維シート10に対するポリカーボネートシート4の含浸を加圧により行った。昇圧速度については、昇圧時間の間隔はいずれも2min.であるが、0.25MPaまでを0.0625MPaずつ昇圧、0.25〜0.75MPaは0.125MPaずつ、0.75〜1.75MPaは0.25MPaずつ昇圧した。昇圧は時間間隔をタイマーで測り、手動により圧力を上げているため、昇圧プロセスには若干のばらつきが生じる事を付記しておく。1.75MPaまで昇圧した後、その加圧の大きさを維持したままホットプレスの加熱盤のスイッチを切って190℃まで自然冷却した。190℃まで温度が下がれば、ホットプレスの水冷機能を利用して120℃までさらに冷却し、徐圧して脱型した。以上の成形方法により、ポリカーボネート・炭素繊維プリプレグ(平均厚さ0.4mm)を得た。本発明の方法により得られた熱可塑性樹脂プリプレグとしてのポリカーボネート・炭素繊維プリプレグは含浸不良も無く、繊維配向の大きな乱れも見られず、良好な成形物であった。図5に得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを示す。図6は得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを拡大して示したものである。このポリカーボネート・炭素繊維プリプレグには大きな空隙等も特に見られず、良好な成形状態であることが確認できる。また、図7はポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを繊維方向に沿って引き裂いた場合の縫合糸付近の顕微鏡写真を示す。縫合糸周辺においても含浸不良は生じていないことが分かる。
【0033】
また、図8は、連続強化繊維シートに樹脂を含浸する加圧プロセスを示す説明図である。なお、プロセス1とは、予備加熱を10分間行い、その後昇圧間隔を2min.に保持し、0.25MPaまでを0.0625MPaずつ、0.25〜0.75MPaは0.125MPaずつ、0.75〜1.75MPaは0.25MPaずつの11段階で昇圧する加圧工程である(加圧合計時間=32min.)。
プロセス2とは、予備加熱を5分間行い、その後昇圧間隔を1min.に保持し、0.75MPaまでを0.125MPaずつ、0.75〜1.75MPaは0.25MPaずつの9段階で昇圧する加圧工程である(加圧合計時間=14min.)。
プロセス3とは、予備加熱を3分間行い、その後昇圧間隔を1min.に保持し、0.25MPaまでを0.125MPaずつ、0.25〜1.75MPaは0.25MPaずつの7段階で昇圧する加圧工程である(加圧合計時間=10min.)。
【0034】
上記プロセス1によって、20mmの縫合間隔で上記縫合処理が施された連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させることにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグについては、樹脂と強化繊維との成形状態が良好であることが確認された。
また、上記プロセス2によって、10mmの縫合間隔で上記縫合処理が施された連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させることにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグについても、樹脂と強化繊維との成形状態が良好であることが確認された。
また、上記プロセス3によって、10mmの縫合間隔で上記縫合処理が施された連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させることにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグについても、樹脂と強化繊維との成形状態が良好であることが確認された。
ところが、同じプロセス3によって、縫合間隔を20mmに拡げた縫合処理が施された連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させた場合の樹脂と強化繊維との成形状態は、含浸不良であった。
従って、上記試験結果から、加圧時間と縫合間隔が樹脂と強化繊維の成形に与える影響については、縫合間隔が小さいと強化繊維に対する樹脂の含浸性は向上し、更に昇圧速度が遅いと強化繊維に対する樹脂の含浸性は向上するものと考えられる。
【0035】
図9は、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの静的引張試験の結果を示すグラフである。なお、供試体1-3(Specimen1-3)は、上記プロセス1によって、縫合間隔が20mmである連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させることにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグである。また、この引張試験は、180mm×25mm×3.5mmの試験片を0.5mm/minの試験速度で試験機によって引っ張ることにより行われた。また、比較例として、ポリカーボネート樹脂単体(PC)およびエポキシ樹脂単体(Epoxy)についても同様な条件で引張試験を実施した。図9は、その時の応力−ひずみ曲線を示している。この図から分かるように、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグはポリカーボネート樹脂単体と比較し、引張強度および剛性が極めて大きい。
【0036】
図10は、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの圧縮試験の結果を示すグラフである。なお、供試体は、図9と同じく、上記プロセス1によって、縫合間隔が20mmである上記連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させることにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグである。また、試験は、80mm×25mm×3.5mmの試験片を0.5mm/minの試験速度で試験機によって圧縮することにより行われた。また、比較例として、上記連続強化繊維シート10にエポキシ樹脂を含浸させたエポキシ・炭素繊維プリプレグについても同様な条件で圧縮試験を実施した。図10は、その時の応力−時間曲線を示している。この図から分かるように、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグでは、逐次破壊が起こり、エポキシ・炭素繊維プリプレグに比較して圧縮強度は高く、破壊によるエネルギー吸収も大きい。
【0037】
図11は、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの曲げ試験の結果を示すグラフである。なお、供試体は、図9と同じく、上記プロセス1によって、縫合間隔が20mmである上記連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させることにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグである。また、試験は、JIS K7074に準拠して、両端を単純支持された180mm×15mm×3.5mmの試験片の1点に荷重(3点曲げ)を加えて、或いは2点に荷重(4点曲げ)を加え5mm/minの試験速度でたわませることにより行われた。図11は、その時の応力−変位曲線を示している。この図から分かるように、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグでは、逐次破壊が起こり、圧縮試験同様に、破壊によるエネルギー吸収が大きい。また、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの3点曲げ強さ及び4点曲げ強さは、それぞれ561MPa,484MPaという結果であった。
【0038】
図12は、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの落錘衝撃試験後の観察結果を示す写真である。なお、供試体は、図9と同じく、上記プロセス1によって縫合間隔が20mmである上記連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させることにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグである。また、試験は、JIS K7089に準拠して、80mm×50mm×3.5mmの試験片に対し所定の高さから所定の錘を落下させることにより行われた。図12は、それぞれの(エネルギー換算:12J,36J,70J)衝撃試験後の本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの表面および裏面における変形状態を示している。また、比較例として、上記連続強化繊維シート10にエポキシ樹脂を含浸させたエポキシ・炭素繊維プリプレグに対して、62.5Jの落錘衝撃を与えた後の表裏面の変形状態を図13にて示した。これらの図から分かるように、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグでは、衝撃を与えた箇所では与えたエネルギーの大きさに比例して表裏面の変形量も大きくなるが、表裏面が貫通する程の大きな変形には到っていない。例えば70Jの大きなエネルギーを与えた箇所でも表裏面が貫通する程の大きな変形には到っていない。他方、エポキシ・炭素繊維プリプレグの場合、62.5Jのエネルギーを与えた箇所では、表裏面がほとんど貫通する程大きく変形している。
【0039】
また、図14は、それぞれの(エネルギー換算:12J,36J,70J)衝撃試験時の荷重・エネルギー履歴を示すグラフである。
【0040】
図15は、本発明の樹脂プリプレグの製造方法を高強度・高弾性炭素繊維に適用することにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの内部観察結果を示す写真である。
この図は、炭素繊維として一方向炭素繊維基材 T800SC (SARTEX社製、24K)を使用し、上記縫合処理および開繊処理を施した後、2つの異なる成形プロセスによってポリカーボネート樹脂を加圧含浸させた時のポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの内部観察結果であり、図15(a)は、最終到達圧力=7MPa、加圧合計時間=10min.、成形温度=270℃の成形プロセスによるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの内部観察結果であり、同(b)は、最終到達圧力=2MPa、加圧合計時間=10min.、成形温度=310℃の成形プロセスによるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの内部観察結果である。
前者の成形プロセスによるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの含浸状態は良好であったが、後者の成形プロセスによるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの樹脂含浸状態は、未含浸部が存在しあまり良好ではなかった。これらの結果から、成形プロセスの条件を変化させることで、樹脂の含浸状態が大きく変化することが分かった。従って、使用材料のメーカー・成形装置が異なれば、成形プロセス条件について調整が必要になるものと考えられる。
【0041】
図16は、加圧力および成形温度が樹脂プリプレグの厚さに与える影響を示すグラフである。なお、炭素繊維としては、図15と同じく、一方向炭素繊維基材 T800SC (SARTEX社製、24K)を使用し、その炭素繊維に加圧含浸させる樹脂としてはポリカーボネートを使用した。図16(a)は、成形温度を270℃に保持した時の加圧力(最終到達圧力)と得られた樹脂プリプレグ(ポリカーボネート・炭素繊維プリプレグ)の厚さとの相関を示し、同(b)は、加圧力を3MPa〜7MPaに変化させながら、成形温度と得られた樹脂プリプレグの厚さとの相関を示している。また、炭素繊維は、一方向炭素繊維基材 T800SC (SARTEX社製、24K)を使用した。
図16(a)から、成形温度が一定の場合、加圧力が上昇すると厚さは減少する傾向が見られる。他方、同(b)から、加圧力が一定の場合、成形温度が上昇すると厚さは減少する傾向が見られる。
【0042】
別の観点から本発明の効果を明らかにするために、比較物として、同じ炭素繊維シートに縫合処理を行わずにアセトンにより開繊等処理のみを行い、全く同様の方法でプリプレグを成形した。図17は、炭素繊維シートにアセトンを用いて上記開繊等処理を施したものである。図18はその開繊等処理のみを施した炭素繊維シートを用いて製造されたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグである。図5−7に示す縫合処理および開繊等処理済みの連続強化繊維シートを利用したポリカーボネート・炭素繊維プリプレグでは両面共に樹脂が充分に含浸している様子が観察することができるが、図18(a)に示すポリカーボネート・炭素繊維プリプレグでは片面側で樹脂の未含浸の領域が多数観察でき、含浸不良を起こしていることが分かる。また、図18(b)に示すその拡大写真では未含浸の炭素繊維が飛び出している様子がよく分かる。このような樹脂含浸結果の違いをもたらす理由は、縫合処理および開繊処理済みの連続強化繊維シートの場合、縫合処理により熱可塑性樹脂の流入経路が確保されることにより樹脂含浸が促進されたためであり、本実施結果は本発明の効果を明確に示す事例である。
【0043】
次に、積層板成形用の金型に、得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを200×200mmの大きさに切り出し、これを0/90/90/0/0/90/90/0の角度配向で積層した。また、同時に表面にはそのポリカーボネート・炭素繊維プリプレグと同サイズのポリカーボネートシートを各一枚ずつ積層した。このプリプレグとこのポリカーボネートシートを配置した金型を、ポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの成型時と同じ熱盤温度310℃に設定したホットプレスに設置した。310℃の温度で10分間の予備加熱を行い、昇圧速度は1min.間隔で1MPaずつ4MPaまで上げた。次に、1min.間隔で2MPaずつ最大10MPaまで加圧した。10MPaまで昇圧した後、その加圧値を維持したままホットプレスの熱盤のスイッチを切って190℃まで自然冷却した。190℃まで温度が下がったところで、ホットプレスの水冷機能を利用して110℃までさらに冷却し、徐圧して脱型した。以上の成形方法で、ポリカーボネート・炭素繊維直交異方性複合材料積層板(平均厚さ3.5mm)を得た。図19に積層板の外観写真を示す。繊維束配向の大きな乱れや含浸不良箇所は観察されない。図20(a)-(d)は、成形したこの積層板を切断して小さな試験片を作成し、切断面を研磨したものを光学顕微鏡にて撮影した写真を示すものである。図20(a)は、異なる繊維配向が含まれる積層板断面の様子であるが、空隙等は見られず、確実に樹脂含浸が行われていることが分かる。また、図20(b)-(c)は各層の断面をより拡大して示したものであるが、各繊維の周りに樹脂が流入して接着している様子が分かる。図20(d)は縫合糸周辺の断面写真であるが、縫合糸周辺にも空隙等は見られず、充分な樹脂含浸がなされていることが分かる。以上より、樹脂の含浸状態は良好であり、繊維配向にも特に乱れが見られない事から、本複合材料は工業用材料として良好に使用する事が出来るものと考えられる。
【0044】
本ポリカーボネート・炭素繊維強化複合材料積層板を得るために利用した主な設備は、プリプレグの製造を含めても市販の工業用ミシンとホットプレスであり、低コスト設備でありながら良好な複合材料が得られる事が実証された。また、製造時間についても、プリプレグ製造時間は縫合処理の方法および段階的加圧法の最適化により制御する事が可能であり、さらには大型のホットプレス機さえあれば大面積のプリプレグを一度に製造する事が出来る。このことから単位時間当たりの複合材料積層板製造量を容易に増加させることが可能であると考える。
【0045】
しかしながら、本実施例の上記積層板の内部では層内き裂が部分的に発生している事が確認された。これはポリカーボネート樹脂成形物の冷却処理について、熱可塑性樹脂の熱残留応力を除去するためのアニーリング処理を本実施例では行わなかった事が理由であると考えられる。そこで、アニーリング処理方法について最適化することにより良好な成形物を得る方法についても、本発明の一つとすることを、特に付記しておく。
【実施例2】
【0046】
上記実施例1では、炭素繊維シート1の繊維間に加圧含浸させるマトリクス樹脂として熱可塑性樹脂であるポリカーボネートシート4を用いて、本発明の製造方法によって熱可塑性樹脂プリプレグであるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを製造した例が示されているが、マトリクス樹脂として熱硬化性樹脂、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、マレイミド樹脂、又はこれらが混合された熱硬化性樹脂を用いて、本発明の製造方法によって熱硬化性樹脂プリプレグを製造することも可能である。以下に紫外線硬化樹脂をマトリクス樹脂とする紫外線硬化樹脂積層型複合材構造物の製造方法の実施例を述べる。なお、紫外線硬化樹脂は樹脂含浸を常温で行うことが可能であり、樹脂の硬化は紫外線照射により行われる。従って、上記実施例1にて示した熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法と同様に、極めて簡単な設備で迅速に複合材構造物を製造する事が可能となる。
【0047】
紫外線硬化樹脂をマトリクスとする積層型複合材構造物の製造方法としては、樹脂含浸において樹脂を加熱する必要が無い。つまり、ゲル状の紫外線硬化樹脂を縫合・開繊等処理済み連続強化繊維シートに塗布するなどして常温でハンドローラーまたはプレス機を用いて樹脂を加圧含浸させる。この際、一般に粘度の高い紫外線硬化樹脂に対しても、縫合糸が繊維の配向を維持すると共に、縫合糸の領域が樹脂流入経路となることで含浸性を向上させている。また繊維束を開繊することで繊維束周りに樹脂が流入して接着性を向上させる。樹脂はある波長の紫外線に反応して硬化するタイプのものを選ぶ事で、作業環境に制約をもたらす事は無い。強化繊維シートはドライのものであり、樹脂の保存もチューブ入りのもの等を使う事でプリプレグと比較して管理コストも低く抑える事が可能である。このようにして、ウェットな(樹脂が未硬化)紫外線硬化樹脂プリプレグを製造する。このプリプレグを複数枚積層してから常温でハンドローラーまたはプレス機を用いて加圧し、層間の空気を追い出して密着させる。最後に紫外線を照射して樹脂を硬化させる事で、紫外線硬化樹脂積層型複合材構造物を極めて迅速かつ低コストに製造する事が出来る。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂と連続強化繊維シートを利用する樹脂プリプレグの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、縫合処理および開繊等処理が施された連続強化繊維シートにより特別な設備を用いることが無く低コスト成型が可能な樹脂プリプレグの製造方法に係るものである。
本発明に得られる熱可塑性樹脂プリプレグ又は熱硬化性樹脂プリプレグにより成形される複合材料は自動車用材料、建築材料、航空機材料、電機材料などとして使用することができる。
さらに、具体的な産業上の利用可能性について述べる。特に、本発明の実施例で得られたポリカーボネート炭素繊維強化複合材料の場合、基材の一つであるポリカーボネート樹脂は耐衝撃性に極めて優れ、軽量であり耐候性や寸法精度にも優れ、且つリサイクルが可能な低コストエンジニアリングプラスチックである。このため自動車のバンパへの適用が考えられる。さらに、航空機に利用される複合材料用の炭素繊維など強化繊維の種類によっては剛性をアルミ程度に高める事が可能であり、自動車を含め輸送機器のリサイクルが可能な構造部材としての適用が考えられる。また、樹脂が耐衝撃性に優れることから、宇宙構造物のデブリバンパへの適用、防弾盾等の対衝撃構造、シェルター等の外壁、さらに金庫等の構造材としての適用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る縫合処理が施された炭素繊維シートを示す写真である。
【図2】本発明に係る縫合処理および開繊等処理が施された連続強化繊維シートを示す写真である。
【図3】本発明に係る縫合処理および開繊等処理が施された連続強化繊維シートを示す説明図である。
【図4】本発明の実施例であるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの製造方法を実施する設備の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の樹脂プリプレグの製造方法で得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを示す写真である。
【図6】本発明の実施例で得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの縫合糸周辺の拡大写真である。
【図7】本発明の製造方法で得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの縫合糸周辺および縫合糸周辺断面を示す顕微鏡写真である。
【図8】連続強化繊維シートに樹脂を加圧含浸する加圧プロセスを示す説明図である。
【図9】本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの静的引張試験の結果を示すグラフである。
【図10】本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの圧縮試験の結果を示すグラフである。
【図11】本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの曲げ試験の結果を示すグラフである。
【図12】本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの落錘衝撃試験後の観察結果を示す写真である。
【図13】上記連続強化繊維シートにエポキシ樹脂を含浸させたエポキシ・炭素繊維プリプレグについて、62.5Jの落錘衝撃試験後の変形状態を示す写真である。
【図14】それぞれの(エネルギー換算:12J,36J,70J)衝撃試験時の荷重・エネルギー履歴を示すグラフである。
【図15】本発明の樹脂プリプレグの製造方法を高強度・高弾性炭素繊維に適用することにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの内部観察結果を示す写真である。
【図16】加圧力および成形温度が樹脂プリプレグの厚さに与える影響を示すグラフである。
【図17】本発明の実施例により得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグと成形状態を比較するために、開繊処理のみが施された炭素繊維シートを示す写真である。
【図18】開繊処理のみの炭素繊維シートとポリカーボネートシートにより同じ樹脂含浸方法でプリプレグを製作したもの(未含浸部が多数発生)を示す写真である。
【図19】本発明の実施例で得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを積層して加熱・加圧により製造したポリカーボネート・炭素繊維直交異方性複合材料積層板を示す外観写真である。
【図20】本実施例で得られたポリカーボネート・炭素繊維直交異方性複合材料積層板の断面部を示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0050】
1 炭素繊維シート
2 耐熱糸
3 縫合処理および開繊等処理済み炭素繊維シート
4 ポリカーボネートシート
5 スペーサー
6 上部加熱・加圧板
7 下部加熱・加圧板
10 連続強化繊維シート
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂プリプレグの製造方法、樹脂プリプレグ用繊維シート、樹脂プリプレグ及びその複合材料に関するものである。さらに詳しくは、簡易な製造設備で且つ短い製造時間で、樹脂の含浸状態、強化繊維配向の均一性および樹脂と強化繊維の接着状態において優れた工業的品質を備えた熱可塑性樹脂プリプレグを製造することができ、そしてドライの強化繊維シートを複数枚積層してからRTM(=Resin Transfer Molding)によって熱硬化性樹脂を含浸する際の開繊したドライの強化繊維シートのハンドリング性の確保および樹脂含浸性の向上を達成することが出来る熱硬化性樹脂プリプレグの製造方法、樹脂プリプレグ用繊維シート、樹脂プリプレグ及びその複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂であるエンジニアリングプラスチックはリサイクル性に富み、寸法精度も高く、また、高い耐衝撃性を有するなど優れた材料特性を持ちながら安価であり、その用途は自動車、電機、光学機器、IT関連など多岐に渡る。熱可塑性樹脂は、その名前の通り、加熱することで樹脂を溶融してその形状を容易に変形させることが出来るため、成形物は加熱・圧延による製造方法が一般的である。一方、熱可塑性樹脂単体ではその剛性は金属・非金属材料と比較して低く、強化繊維と複合化することで構造材として利用可能なレベルに剛性を向上させることが出来る。このような熱可塑性樹脂複合材料は、例えば航空機で利用されるエポキシ樹脂複合材料と比較して、同じ強化繊維が共に用いられているならば、同等の強度・剛性を有しながらより優れたリサイクル性を有する複合材料となる。しかしながら、熱可塑性樹脂はその高分子構造により加熱溶融しても粘度が高く、例えばポリカーボネートやアクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(以下、「ABS」という。)などは粘度の高さに相関して耐衝撃性が高くなる。このため、熱可塑性樹脂を連続強化繊維へ含浸させる熱可塑性樹脂複合材料の製造を、簡易な設備で行うことは、エポキシ等の極めて粘度の低い樹脂を利用する場合と比較して、成形物の工業的品質を確保することが困難な点で容易ではない。このため、ガラス繊維や炭素繊維をチョップして熱可塑性と混ぜて製造される短繊維強化タイプや長繊維強化タイプの複合材料の流通が現在のところ一般的である。
【0003】
しかしながら、連続繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の製造方法については、既に様々な製造技術が開発され、多数の特許が成立している。熱可塑性樹脂と連続強化繊維により製造される複合材料構造物は、中間素材である熱可塑性樹脂プリプレグを利用して製造されることが一般的である。この理由として、複合材料を適用する構造物の剛性要求に対して、プリプレグの積層物を製造することで剛性要求を満たすことが可能であり、すなわちプリプレグによる複合材料は材料設計が可能であることが挙げられる。熱可塑性樹脂プリプレグは一般的に連続強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させて一方向に引き揃えてシート状に製造される。このプリプレグを複数枚、その繊維方向を変化させて積層し、加熱して樹脂を溶融させた後に加圧して複合材料が製造される。
【0004】
熱可塑性樹脂複合材料に係る既存の特許については、熱可塑性樹脂プリプレグの製造に関するものや、これらのプリプレグを用いる熱可塑性樹脂複合材料構造物の製造方法などがある。一般的な熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法は、一方向に引き揃えた連続繊維シートに樹脂シートを積層し、繊維束の並び(配向)が乱れないように繊維シートに張力をかけながら樹脂の溶融温度以上に加熱して樹脂を溶融させ、加圧して繊維シートに樹脂を含浸させるものである。ここで、熱可塑性樹脂プリプレグの工業的品質の優劣は製造方法の違いにより決定される。プリプレグ製造に係る工業的品質の評価は、具体的には、樹脂の含浸状態(空隙の有無)、強化繊維配向の均一性、樹脂と強化繊維の接着状態の評価で行われる。
【0005】
後述する本発明の実施例の熱可塑性樹脂プリプレグに使用されているポリカーボネートなどは、樹脂粘度と樹脂の機械的特性が相関している。例えばポリカーボネートの特徴でもある耐衝撃性の高さは粘度の高さに比例する。このような樹脂はメーカーが推奨する成形温度に加熱しても粘度が高く、例えばエポキシ樹脂等と比較してポリカーボネートの繊維束への含浸は極めて難しいものになる。このため、機械的特性に優れる反面、粘度の高い熱可塑性樹脂によりプリプレグを製造する場合、プリプレグの工業的品質は様々な特許に係る製造方法によって確立されている。
【0006】
熱可塑性樹脂プリプレグの製造に係る従来技術については、例えば、張力をかけながら繊維を引き揃えて樹脂をテープ上の強化繊維に含浸させる方法(例えば、特許文献1を参照。)、金属板に補強繊維と熱可塑性樹脂を巻き付けて熱プレスする方法(例えば、特許文献2を参照。)、樹脂を粉末にして繊維に含浸させる方法(例えば、特許文献3を参照。)、開繊した強化繊維シートに熱可塑性樹脂繊維で製造した熱可塑性樹脂不織布を重ねて加熱しつつ加圧する方法(例えば、特許文献4を参照。)、強化繊維と、熱可塑性樹脂からなるマトリクス繊維とを開繊しながら混合し、これをシート状に広げ、加熱融着してプリプレグを製造する方法(例えば、特許文献5を参照。)、並びに、強化繊維を一方向に引き揃えてシート状にし、この強化繊維シートを熱可塑性樹脂が含まれる処理浴に導入して樹脂を付着させる方法(例えば、特許文献6を参照。)などがある。
【0007】
一般的な熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法として、熱可塑性樹脂を加熱溶融し、加圧して連続繊維に含侵させる場合、樹脂の粘度が高いと製造時のライン速度を遅くして十分な樹脂含浸時間を確保する必要があり、さらに、極めて樹脂粘度が高い場合には含浸不良を起こし、プリプレグに空隙が多く含まれる事になる。ライン速度を短縮するために加圧圧力の大きさを一気に上昇させて樹脂含浸速度を上昇させようとすると、整列した連続繊維の一部の間隔が広がってしまい、その結果プリプレグの品質を低下させる。また、この製造方法では、加圧含浸時に連続繊維を整列させた状態に保つために繊維束に高い張力をかける必要があり、特に炭素繊維などの高剛性繊維では切断が起きやすい。さらには高張力を与えながら樹脂を含浸させるために、プリプレグ製造時の設備の高コスト化を招く。一方、溶融時の樹脂の粘度が低いと高速で含浸が可能となるが、樹脂流動性に富む樹脂は分子量が低く、樹脂単体の機械的特性が低下する。このため、低粘度熱可塑性樹脂複合材は、高粘度樹脂の場合と比較して、材料の機械的特性が低下することになる。また、粉末状の熱可塑性樹脂を強化繊維シートに付着させて含浸させる方法では、熱可塑性樹脂を均質な粉末状にして製造する事が難しく、基材の高コスト化を招き、また、粉末状の樹脂の付着量を調整することも困難である。熱可塑性樹脂を繊維状にする必要がある製造方法についても同様にコストの面で高くなる。熱可塑性樹脂を溶液化し、強化繊維材料に含浸させる方法は、使用できる樹脂や溶媒の種類が制限されるという問題点があり、さらに、強化繊維シートに張力をかけた状態で熱可塑性樹脂が含まれる溶液の処理浴に浸すことにより樹脂含浸が成される製造ラインが必要となり、同様に設備の高コスト化は避けられない。
【0008】
ガラス繊維や炭素繊維などの連続強化繊維シートでは、単繊維の収束とハンドリング性を向上させる目的ならびに輸送時における繊維シートの配向を維持する目的で、製造工程において繊維基材に対してサイジング処理が施されている。また、複合材料の基材である樹脂と強化繊維の接着性の向上には接着界面の制御が重要である。この界面の制御とは、樹脂と強化繊維の接着面の化学結合の形成、繊維表面に対する樹脂のぬれ性の向上、繊維表面と樹脂との相溶化の改良などを指す。これらの界面の制御はカップリング剤により行われることから、一般的な連続強化繊維シートにはサイジング剤とカップリング剤による化学的処理が施されている。(カップリング剤:複合材料の充填剤と樹脂との双方に反応または相互作用することによって、機械的強度の向上などの効果をもたらす化学物質)
【0009】
一方、市販される強化繊維シートの繊維表面処理については、その詳細は公表されておらず、カップリング剤がもたらす熱可塑性樹脂と強化繊維の界面制御効果は利用者には未知なところが多い。一般的であるエポキシ樹脂用のカップリング剤が添加された強化繊維と熱可塑性樹脂では、場合によっては接着性が悪化する場合がある。また、サイジング剤除去により繊維が開繊された繊維シートは、そのハンドリング性が極端に悪化する。一方、熱可塑性樹脂と強化繊維の接着性を向上させるためには、樹脂含浸の際に、樹脂と繊維の接着面積をできるだけ増やし、粘度の高い樹脂を繊維束内へ送り込んでそれぞれのフィラメントの周りに樹脂を送り込む事が肝要である。このため、強化繊維シートの繊維束群を開繊させて樹脂含浸を行う事が有効ではあるが、樹脂粘度が高い場合には、整列した連続繊維の一部の間隔が広がってしまい、逆にプリプレグの品質を低下させる。未開繊の場合は含浸の効率は悪くなり、その結果、含浸不良が発生し機械的物性の低下を引き起こす。
【0010】
以上の理由から、高い機械特性を持つた熱可塑性樹脂複合材の製造には、開繊された連続強繊維シートに粘度の高い樹脂を繊維の配向を乱す事無く確実に、且つ迅速に含浸させて熱可塑性樹脂プリプレグを製造する方法の適用が有効であると考える。強化繊維束を開繊して熱可塑性樹脂を含浸させる方法については、集束された繊維束を機械的衝撃によって開繊させた後に溶融熱可塑性樹脂を含浸させる方法(例えば、特許文献8を参照。)並びに、シート状に流送される維束群を、進退摩擦して開繊した後、開繊繊維シートに熱可塑性樹脂シートを帯熱溶融状態で会合させて含浸させる方法(例えば、特許文献9を参照。)が知られている。しかしながら、いずれの方法においても、開繊後の強化繊維シートのハンドリング性の極端な悪化と樹脂含浸時の繊維配向の均一性の維持に対する解決法として、連続繊維シートに過大な張力をかける必要があり、設備の複雑化および高コスト化を招く。
【0011】
先に述べたように、熱可塑性樹脂プリプレグの工業的品質は、樹脂の含浸状態(空隙の有無)、強化繊維配向の均一性、樹脂と強化繊維の接着状態などを検査することで評価される。また、材料のコストを下げるためには、現在、一般に流通している熱可塑性樹脂プリプレグに利用できる低コストである基材、例えば樹脂シートや一般的な連続強化繊維シートなどを利用して、簡単な設備で製造することが不可欠である。このため、工業的品質が良好で且つ広巾の熱可塑性樹脂プリプレグを短い製造時間で、設備や基材のコストをかけずに製造する方法が提供できるならば、このプリプレグを利用する複合材料をコストパフォーマンスに優れた材料として、自動車、建築、航空機分野等での大幅な利用が期待できる。
【0012】
ところで、複合材構造物で一般的であるエポキシ等の熱硬化性樹脂と炭素繊維等による積層型複合材構造物について、最近の研究成果として、積層構造の各層を薄くすると強度が上昇する事が実験結果から明らかとなり、層を薄くした積層型複合材の開発がなされている。一層の厚さを薄くする方法としては、プリプレグを薄く作るために、強化繊維の繊維束を開繊して繊維と直角方向に薄く広げられた(単位面積当たりの繊維量を減らした)強化繊維シートが使われることが一般的である。
近年、低コスト複合材構造物成形法として研究開発が盛んであるRTM(樹脂含浸成形法)では、積層型複合材構造物は、樹脂を全く含浸させていないドライの強化繊維シートを複数枚積層してから熱硬化性樹脂を含浸させ、その後加熱し樹脂を硬化させる方法により製造される。このような製造法の場合、積層型複合材の一層の厚さを薄くするには、ドライの強化繊維シートを薄くするために開繊処理が施されるものと考えられる。しかしながら、開繊された繊維シートはハンドリング性が極めて悪化し、また輸送には適さない。また、開繊する事で一層の厚さを薄くしたドライの繊維シートを積層して複合材構造物を製造しようとすると、複合材の厚みを確保するためには積層数を増やす必要がある。一方、積層型複合材では一般に繊維方向を変化させて強化繊維シートを積層するが、この層ごとの繊維配向角の違いは樹脂の含浸を妨げる事が知られている。このため、一層の厚さを薄くした積層型複合材構造物をRTMにより製造するには、開繊した強化繊維シートのハンドリング性の確保および樹脂含浸性の向上が問題となる。
【0013】
【特許文献1】特開昭63−027208号公報
【特許文献2】特開平07−308991号公報
【特許文献3】特開平17−239843号公報
【特許文献4】特開平15−165851号公報
【特許文献5】特開平06−322159号公報
【特許文献6】特開平17−255927号公報
【特許文献7】特開平06−116851号公報
【特許文献8】特開平17−029912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述した通り、樹脂の含浸状態、強化繊維配向の均一性および樹脂と強化繊維の接着状態において優れた工業的品質を備えた熱可塑性樹脂プリプレグを得るためには、従来の熱可塑性樹脂プリプレグの製造技術では、熱可塑性樹脂を予め粉末状や繊維状等の特殊な形態に加工する工程、強化繊維に高張力を与える設備、強化繊維を開繊してから高張力を与えながら樹脂を含浸させる設備、もしくは熱可塑性樹脂の溶液バスに繊維シートを浸すための複雑な設備等が必要となり、その結果コストの面で高額化を招くという問題がある。また、製造時間の面でも、上記従来の熱可塑性樹脂プリプレグの製造技術では、十分な樹脂含浸時間を確保する必要がある。
他方、薄いドライの強化繊維シートを複数枚積層してからRTMによって熱硬化性樹脂を含浸させ、次いで加熱することで熱硬化性樹脂を硬化させて熱硬化性樹脂プリプレグを得るためには、開繊したドライの強化繊維シートのハンドリング性の確保および樹脂含浸性の向上が問題となっている。
そこで、本発明の目的は、上記実情に鑑み創案されたものであって、簡易な製造設備で、且つ従来より短い製造時間で、樹脂の含浸状態、強化繊維配向の均一性および樹脂と強化繊維の接着状態において優れた工業的品質を備えた熱可塑性樹脂プリプレグを製造することができ、ドライの強化繊維シートを複数枚積層してからRTMによって熱硬化性樹脂を含浸する際の開繊したドライの強化繊維シートのハンドリング性の確保および樹脂含浸性の向上を達成することが出来る熱硬化性樹脂プリプレグの製造方法、樹脂プリプレグ用繊維シート、樹脂プリプレグ及びその複合材料を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一つは、一般に流通している繊維シートに対して、後述する縫合処理および開繊処理を施した後に、やはり一般に流通している熱可塑性樹脂シート(フィルム)を重ねてから、加熱・加圧する事でその樹脂シートを含浸させて熱可塑性樹脂プリプレグを製造するものである。
【0016】
上記熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法に使用される繊維シートは、特定のサイジング剤、カップリング剤による繊維表面処理が施されているものではなく、例えば一般的な連続強化繊維シートであるエポキシ樹脂用の化学的処理が施されたものでも構わない。繊維自体も、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維等を一方向に引き揃えてシート状にされたものを使用する。繊維が引き揃えられた方向に直交する方向を幅方向とすると、この幅方向の長さは本発明の製造方法に本質的に起因する理由で特に制限が有るわけで無く、プリプレグ製造に使うホットプレス等の熱盤サイズ以下ならば任意の長さで構わない。
【0017】
先ず繊維シートに縫合処理を施す。この縫合処理を施すために使用する装置は、例えば工業用ミシンを使用する。この縫合処理に使用する縫い糸は特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂を溶融させて繊維間に含浸させる加熱・加圧工程においてその樹脂の溶融温度以上の耐熱性を有する耐熱糸を使用することが望ましい。また、この耐熱糸(縫合糸)は加熱・加圧による樹脂含浸時に繊維の配向を維持する役割を担う事から、高強度繊維から成る事が望ましい。また、縫合処理が施された連続強化繊維シートには縫合糸が通る場所に隙間が生じることから、材料強度的には縫合糸の径は細いものである事が望ましい。縫合処理の際の縫い方、縫い目長さおよび縫い目間隔については特に規定されるものではない。
【0018】
しかしながら、縫合処理が施された繊維シートでは、縫合糸が繊維シートを通る領域は、溶融した樹脂の繊維束内部への流入経路となる。本発明では、樹脂の粘度が極めて高い場合、又は樹脂の劣化を防ぐために各樹脂についてメーカーが推奨する成形温度以下で樹脂含浸を行う場合、或いは樹脂含浸速度を上昇させる場合は、縫合糸(縫い糸)の種類、縫い方、縫い目長さおよび縫合間隔について調整する事で樹脂含浸性を向上させることが可能である。
【0019】
次いで、縫合処理を施した繊維シートに開繊の処理を施す。この開繊の処理とは、繊維の開繊と、連続強化繊維シートに含浸させようとする熱可塑性樹脂に対して、界面制御効果が得られないカップリング剤やサイジング剤を除去することを指す。開繊の処理の方法は特に指定されるものではないが、充分に繊維束が開繊され、繊維表面のカップリング剤やサイジング剤を除去できる方法で行う。この開繊の処理により、サイジング剤によるハンドリング性と繊維配向の均一性の維持の効果は失われるが、それに代わり上記縫合糸が同等の効果をもたらす。この開繊の処理により、熱可塑性樹脂が各フィラメント周りに流入する事で、繊維と樹脂の接着性が物理的効果により改善される。さらに接着性を向上させるには、含浸させようとする熱可塑性樹脂シートと繊維シートに対して界面制御効果が得られるカップリング剤を繊維表面に付着させる。この化学的処理と開繊の処理を合わせて、本発明では「繊維シートに対する開繊等処理」と呼ぶこととし、上記請求項に記載の「開繊等処理」は、繊維シートと熱可塑性樹脂との接着性を物理的さらには化学的にも向上させるために繊維シートへ施される処理の意味で記載されている。
【0020】
縫合処理および開繊等処理を施した連続強化繊維シートの両面もしくは片面のみに熱可塑性樹脂シートを配置した後、この積層物を熱可塑性樹脂の溶融温度より高い温度で加熱する。樹脂が溶融した後に、加圧して樹脂を含浸させ、冷却する事で熱可塑性樹脂プリプレグが製造される。この熱可塑性樹脂プリプレグの製造装置としては、前記積層物を熱可塑性樹脂の溶融温度より高い温度に予熱する予熱手段と、その予熱された積層物を加圧して熱可塑性樹脂プリプレグを形成する加圧手段とから成るもので構わない。この条件を満たす製造装置として、簡易なホットプレスを採用することが出来る。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法においては、連続強化繊維シートには繊維配向を維持するための張力等は与える必要は特に無い。縫合処理が繊維配向の乱れを抑制し、且つ樹脂の流入を促進させる。また、開繊等処理も、樹脂の流入を促進させ、それに加えて繊維と樹脂の接着性を物理的かつ化学的に向上させる。本発明は、工業的品質に優れた熱可塑性樹脂プリプレグが低コストで得られる製造方法であるというその根拠は使用される製造装置の簡便さに因るものである。
【0022】
一方、前述した通り繊維シートには縫合処理および開繊等処理を施す必要があり、このことによるコストの増大が懸念される。しかしながら、縫合処理は工業用ミシン等により極めて簡便に行う事が可能であり、開繊等処理においても既存の技術が適用できる。従って、本発明に係る連続強化繊維シートを大量生産した場合においても、縫合処理により繊維シートの輸送時の繊維配向の乱れは抑制される事から、コストに関する問題の解決は極めて容易であると考えられる。このため、後述する本発明の実施形態において明らかなように、開繊等処理と樹脂含浸の製造プロセスを連続して行うための設備は特に必要とされない。
【0023】
さらに、本発明者達は、上記製造方法を発明するに到るまでに行った研究努力により、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂の繊維シートへの含浸には段階的加圧法が有効である事を見出した。この段階的加圧法とは、繊維の配向が乱れることを出来るだけ抑制するように、溶融させた熱可塑性樹脂を低い圧力から高い圧力へある時間間隔で段階的に昇圧することにより熱可塑性樹脂をゆっくりと確実に繊維束内部に流入させるにした熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法である。特に、熱可塑性樹脂の分子量が低く、溶融時に粘度が低い場合には、この段階的加圧法のみを適用する事で、繊維シートに開繊等処理のみを施したものについても、良好な熱可塑性樹脂プリプレグを得られる事が文献(炭素繊維一方向強化ポリプロピレンの力学特性評価、日本複合材料学会誌第32巻第4号)において確認されている。しかしながら、段階的加圧法の適用のみではプリプレグの製造時間の短縮には限界があるものと推測できる。つまり、加圧力を短い時間で上昇させると樹脂が繊維束内部に流入する前に、樹脂が繊維シート表面で圧延され、開繊された繊維シートの配向が乱れてしまうからである。しかしながら、本発明に係る縫合処理および開繊等処理が施された強化繊維シートと熱可塑性樹脂によるプリプレグの製造において、この段階的加圧法を適用することにより、繊維配向を乱さずに樹脂を繊維間に含浸させる効果を補助的に与えることができ、その結果、プリプレグの製造時間を短縮化することが出来るようになる。従って、このような製造方法についても上記請求項に含まれるものとする。
【0024】
以上のことから、本発明による樹脂プリプレグの製造方法によれば、先に述べた繊維シートに施す縫合処理および開繊等処理の条件と樹脂含浸時の溶融温度/加圧力の最大値/圧力上昇過程の成形条件は、熱可塑性樹脂プリプレグに使用する熱可塑性樹脂シートと連続強化繊維シートの特性(樹脂の種類、繊維の種類など)、製造時間、および材料強度などの力学的特性に合わせて最適条件を選択する事ができる。
【0025】
また、本発明によって製造される熱可塑性樹脂プリプレグを複数枚、その繊維方向を交互に変化させて積層し、その積層物を加熱して樹脂を溶融させた後に加圧して熱可塑性樹脂複合材料積層板を製造することが出来る。
【0026】
以上の説明では、繊維間に加圧含浸させるマトリクス樹脂として熱可塑性樹脂を前提としたが、熱可塑性樹脂に限らず、熱硬化性樹脂を繊維間に含浸・硬化させることにより熱硬化性樹脂プリプレグを製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂プリプレグの製造に関して、繊維シートに縫合処理および開繊等処理を施すことで、以下に説明する発明の効果が得られた。
1.物理的効果
(1)繊維シートに縫合処理を施すことにより、開繊処理後の繊維シートの配向乱れを抑制すると共に加圧による樹脂含浸時の繊維配向の乱れを抑制し、更には樹脂含浸過程において繊維シートに樹脂流入経路を付与する。
(2)繊維シートに開繊等処理を施すことにより、繊維シートの樹脂含浸性の向上ならびに繊維と樹脂との接着性の向上をもたらす。
2.経済的効果
(1)一般に流通する繊維シートに同じく一般に流通する熱可塑性樹脂シート又は熱硬化性樹脂を適用することによる樹脂プリプレグの低コスト化
(2)製造設備の単純化、低コスト化
以上の物理的および経済的効果により、本発明は、樹脂の含浸状態、強化繊維配向の均一性、樹脂と繊維の接着状態が良好である優れた工業的品質の熱可塑性樹脂プリプレグ又は熱硬化性樹脂プリプレグを、低コストで製造する方法を与えることが出来る。特に本発明により得られる熱可塑性樹脂プリプレグは、従来の熱可塑性樹脂プリプレグと同様に型に入れて熱圧成形することにより種々の形状の複合材構造物に成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
炭素繊維一方向連続シート(SP systems 製、UT-C400、目付 400g/sqm)を繊維方向に250mm、幅方向に230mmの大きさに切り出し炭素繊維シートとした。次に、炭素繊維シート1に対し工業用ミシン(JUKI製、DDL-9000S)により耐熱糸(クラレ製、ベクトラン、#50)2を利用して縫い目長さ1.25mm、縫いの間隔(縫合間隔)を20mmとして、繊維と直角方向に、幅230mm(=縫合長さ)全域を横断するようにして縫合した。縫い方は本縫いである。繊維シート端部での返し縫は行っていない。図1に縫合処理が施された炭素繊維シート1を示す。また、炭素繊維以外に、ガラス繊維、アラミド繊維、又はセラミック繊維等の強化繊維を一方向に引き揃えシート状にした繊維シートを使用することも可能である。また、耐熱糸は、ベクトラン以外にノーメックス、コーネックス、パイロメックス、ラステックス、又はザイロン等の高強度・高剛性の耐熱糸を使用することも可能である。
【0030】
次に、上記の縫合処理を施した炭素繊維シート1を、アセトン(和光純薬工業製、試薬特級)350ml中に60分間完全に浸し、一度完全にアセトンを揮発させてから、さらにアセトン250ml中に60分間完全に浸し、繊維束表面のサイジング剤およびカップリング剤を除去した。アセトンを利用した炭素繊維シートの開繊等処理の特徴は、サイジング剤とカップリング剤を同時に除去する事ができ、さらに脱脂の効果もあることである。また、機械的方法による開繊よりも、繊維の毛羽立ちの少ない開繊繊維シートを得る事が出来る。図2に縫合処理および開繊等処理が施された炭素繊維シート3を示す。縫合処理を施したことにより開繊後においても炭素繊維シート3の取扱性は良好であり、樹脂含浸時においても一方向の炭素繊維シートの配向が維持される。また、炭素繊維シート3における縫合糸(耐熱糸2)の通り道は樹脂の流入経路となる。図3は本発明に係る縫合処理および開繊等処理を施した連続強化繊維シート10の概要図である。なお、本実施例ではポリカーボネートと炭素繊維の接着界面を制御するための繊維束へのカップリング剤、例えばシラン系、チタネート系、アルミネート系、ジルコネート系等のカップリング剤の添付は行っていない。
【0031】
図4は、本発明の実施例であるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの製造方法を示す説明図である。
熱可塑性樹脂シートとしてのポリカーボネートシート4(帝人化成製、パンライトフィルム、PC-2151(クリア))を230×140mmに切り出し、このポリカーボネートシート4を定温乾燥機により乾燥させた(110℃、5hour以上)。上部加熱・加圧板6および下部加熱・加圧板7から成る熱可塑性樹脂成形用の加圧板型に対し、アルミの薄い板から成るスペーサー(ダム)5を、幅230mmの間隔をあけて耐熱テープ(カプトンテープ)によって下部加熱・加圧板7に貼り付け固定した。次に、上記の縫合処理および開繊等処理済みの連続強化繊維シート10を下部加熱・加圧板7上のスペーサー5,5間に配置し、端部を耐熱テープで止め(図示せず)、その上に乾燥させたポリカーボネートシート4を配置した。特に特別な方法ではなく、ポリカーボネートシート4も連続強化繊維シート10の片面に積層するだけであり、極めて簡便な成形方法である事が分かる。また、図4による成形法(製造方法)は、本発明に係る縫合処理および開繊等処理済み連続強化繊維シート10による熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法の一例である。なお、熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート以外に塩化ビニル、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルホン、又はポリエーテルエーテルケトンを使用することが可能である。
【0032】
予熱手段および加圧手段としてのホットプレス(東洋精機製、ミニテストプレスMP-S)を成形温度310℃まであらかじめ昇温させた。次に、連続強化繊維シート10の上にポリカーボネートシート4を積層した成形用の加圧板型をホットプレスに配置して、10分間の予備加熱を行った。予備加熱終了後、段階的加圧法により、連続強化繊維シート10に対するポリカーボネートシート4の含浸を加圧により行った。昇圧速度については、昇圧時間の間隔はいずれも2min.であるが、0.25MPaまでを0.0625MPaずつ昇圧、0.25〜0.75MPaは0.125MPaずつ、0.75〜1.75MPaは0.25MPaずつ昇圧した。昇圧は時間間隔をタイマーで測り、手動により圧力を上げているため、昇圧プロセスには若干のばらつきが生じる事を付記しておく。1.75MPaまで昇圧した後、その加圧の大きさを維持したままホットプレスの加熱盤のスイッチを切って190℃まで自然冷却した。190℃まで温度が下がれば、ホットプレスの水冷機能を利用して120℃までさらに冷却し、徐圧して脱型した。以上の成形方法により、ポリカーボネート・炭素繊維プリプレグ(平均厚さ0.4mm)を得た。本発明の方法により得られた熱可塑性樹脂プリプレグとしてのポリカーボネート・炭素繊維プリプレグは含浸不良も無く、繊維配向の大きな乱れも見られず、良好な成形物であった。図5に得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを示す。図6は得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを拡大して示したものである。このポリカーボネート・炭素繊維プリプレグには大きな空隙等も特に見られず、良好な成形状態であることが確認できる。また、図7はポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを繊維方向に沿って引き裂いた場合の縫合糸付近の顕微鏡写真を示す。縫合糸周辺においても含浸不良は生じていないことが分かる。
【0033】
また、図8は、連続強化繊維シートに樹脂を含浸する加圧プロセスを示す説明図である。なお、プロセス1とは、予備加熱を10分間行い、その後昇圧間隔を2min.に保持し、0.25MPaまでを0.0625MPaずつ、0.25〜0.75MPaは0.125MPaずつ、0.75〜1.75MPaは0.25MPaずつの11段階で昇圧する加圧工程である(加圧合計時間=32min.)。
プロセス2とは、予備加熱を5分間行い、その後昇圧間隔を1min.に保持し、0.75MPaまでを0.125MPaずつ、0.75〜1.75MPaは0.25MPaずつの9段階で昇圧する加圧工程である(加圧合計時間=14min.)。
プロセス3とは、予備加熱を3分間行い、その後昇圧間隔を1min.に保持し、0.25MPaまでを0.125MPaずつ、0.25〜1.75MPaは0.25MPaずつの7段階で昇圧する加圧工程である(加圧合計時間=10min.)。
【0034】
上記プロセス1によって、20mmの縫合間隔で上記縫合処理が施された連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させることにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグについては、樹脂と強化繊維との成形状態が良好であることが確認された。
また、上記プロセス2によって、10mmの縫合間隔で上記縫合処理が施された連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させることにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグについても、樹脂と強化繊維との成形状態が良好であることが確認された。
また、上記プロセス3によって、10mmの縫合間隔で上記縫合処理が施された連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させることにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグについても、樹脂と強化繊維との成形状態が良好であることが確認された。
ところが、同じプロセス3によって、縫合間隔を20mmに拡げた縫合処理が施された連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させた場合の樹脂と強化繊維との成形状態は、含浸不良であった。
従って、上記試験結果から、加圧時間と縫合間隔が樹脂と強化繊維の成形に与える影響については、縫合間隔が小さいと強化繊維に対する樹脂の含浸性は向上し、更に昇圧速度が遅いと強化繊維に対する樹脂の含浸性は向上するものと考えられる。
【0035】
図9は、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの静的引張試験の結果を示すグラフである。なお、供試体1-3(Specimen1-3)は、上記プロセス1によって、縫合間隔が20mmである連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させることにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグである。また、この引張試験は、180mm×25mm×3.5mmの試験片を0.5mm/minの試験速度で試験機によって引っ張ることにより行われた。また、比較例として、ポリカーボネート樹脂単体(PC)およびエポキシ樹脂単体(Epoxy)についても同様な条件で引張試験を実施した。図9は、その時の応力−ひずみ曲線を示している。この図から分かるように、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグはポリカーボネート樹脂単体と比較し、引張強度および剛性が極めて大きい。
【0036】
図10は、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの圧縮試験の結果を示すグラフである。なお、供試体は、図9と同じく、上記プロセス1によって、縫合間隔が20mmである上記連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させることにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグである。また、試験は、80mm×25mm×3.5mmの試験片を0.5mm/minの試験速度で試験機によって圧縮することにより行われた。また、比較例として、上記連続強化繊維シート10にエポキシ樹脂を含浸させたエポキシ・炭素繊維プリプレグについても同様な条件で圧縮試験を実施した。図10は、その時の応力−時間曲線を示している。この図から分かるように、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグでは、逐次破壊が起こり、エポキシ・炭素繊維プリプレグに比較して圧縮強度は高く、破壊によるエネルギー吸収も大きい。
【0037】
図11は、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの曲げ試験の結果を示すグラフである。なお、供試体は、図9と同じく、上記プロセス1によって、縫合間隔が20mmである上記連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させることにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグである。また、試験は、JIS K7074に準拠して、両端を単純支持された180mm×15mm×3.5mmの試験片の1点に荷重(3点曲げ)を加えて、或いは2点に荷重(4点曲げ)を加え5mm/minの試験速度でたわませることにより行われた。図11は、その時の応力−変位曲線を示している。この図から分かるように、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグでは、逐次破壊が起こり、圧縮試験同様に、破壊によるエネルギー吸収が大きい。また、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの3点曲げ強さ及び4点曲げ強さは、それぞれ561MPa,484MPaという結果であった。
【0038】
図12は、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの落錘衝撃試験後の観察結果を示す写真である。なお、供試体は、図9と同じく、上記プロセス1によって縫合間隔が20mmである上記連続強化繊維シート10にポリカーボネートシート4を含浸させることにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグである。また、試験は、JIS K7089に準拠して、80mm×50mm×3.5mmの試験片に対し所定の高さから所定の錘を落下させることにより行われた。図12は、それぞれの(エネルギー換算:12J,36J,70J)衝撃試験後の本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの表面および裏面における変形状態を示している。また、比較例として、上記連続強化繊維シート10にエポキシ樹脂を含浸させたエポキシ・炭素繊維プリプレグに対して、62.5Jの落錘衝撃を与えた後の表裏面の変形状態を図13にて示した。これらの図から分かるように、本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグでは、衝撃を与えた箇所では与えたエネルギーの大きさに比例して表裏面の変形量も大きくなるが、表裏面が貫通する程の大きな変形には到っていない。例えば70Jの大きなエネルギーを与えた箇所でも表裏面が貫通する程の大きな変形には到っていない。他方、エポキシ・炭素繊維プリプレグの場合、62.5Jのエネルギーを与えた箇所では、表裏面がほとんど貫通する程大きく変形している。
【0039】
また、図14は、それぞれの(エネルギー換算:12J,36J,70J)衝撃試験時の荷重・エネルギー履歴を示すグラフである。
【0040】
図15は、本発明の樹脂プリプレグの製造方法を高強度・高弾性炭素繊維に適用することにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの内部観察結果を示す写真である。
この図は、炭素繊維として一方向炭素繊維基材 T800SC (SARTEX社製、24K)を使用し、上記縫合処理および開繊処理を施した後、2つの異なる成形プロセスによってポリカーボネート樹脂を加圧含浸させた時のポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの内部観察結果であり、図15(a)は、最終到達圧力=7MPa、加圧合計時間=10min.、成形温度=270℃の成形プロセスによるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの内部観察結果であり、同(b)は、最終到達圧力=2MPa、加圧合計時間=10min.、成形温度=310℃の成形プロセスによるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの内部観察結果である。
前者の成形プロセスによるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの含浸状態は良好であったが、後者の成形プロセスによるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの樹脂含浸状態は、未含浸部が存在しあまり良好ではなかった。これらの結果から、成形プロセスの条件を変化させることで、樹脂の含浸状態が大きく変化することが分かった。従って、使用材料のメーカー・成形装置が異なれば、成形プロセス条件について調整が必要になるものと考えられる。
【0041】
図16は、加圧力および成形温度が樹脂プリプレグの厚さに与える影響を示すグラフである。なお、炭素繊維としては、図15と同じく、一方向炭素繊維基材 T800SC (SARTEX社製、24K)を使用し、その炭素繊維に加圧含浸させる樹脂としてはポリカーボネートを使用した。図16(a)は、成形温度を270℃に保持した時の加圧力(最終到達圧力)と得られた樹脂プリプレグ(ポリカーボネート・炭素繊維プリプレグ)の厚さとの相関を示し、同(b)は、加圧力を3MPa〜7MPaに変化させながら、成形温度と得られた樹脂プリプレグの厚さとの相関を示している。また、炭素繊維は、一方向炭素繊維基材 T800SC (SARTEX社製、24K)を使用した。
図16(a)から、成形温度が一定の場合、加圧力が上昇すると厚さは減少する傾向が見られる。他方、同(b)から、加圧力が一定の場合、成形温度が上昇すると厚さは減少する傾向が見られる。
【0042】
別の観点から本発明の効果を明らかにするために、比較物として、同じ炭素繊維シートに縫合処理を行わずにアセトンにより開繊等処理のみを行い、全く同様の方法でプリプレグを成形した。図17は、炭素繊維シートにアセトンを用いて上記開繊等処理を施したものである。図18はその開繊等処理のみを施した炭素繊維シートを用いて製造されたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグである。図5−7に示す縫合処理および開繊等処理済みの連続強化繊維シートを利用したポリカーボネート・炭素繊維プリプレグでは両面共に樹脂が充分に含浸している様子が観察することができるが、図18(a)に示すポリカーボネート・炭素繊維プリプレグでは片面側で樹脂の未含浸の領域が多数観察でき、含浸不良を起こしていることが分かる。また、図18(b)に示すその拡大写真では未含浸の炭素繊維が飛び出している様子がよく分かる。このような樹脂含浸結果の違いをもたらす理由は、縫合処理および開繊処理済みの連続強化繊維シートの場合、縫合処理により熱可塑性樹脂の流入経路が確保されることにより樹脂含浸が促進されたためであり、本実施結果は本発明の効果を明確に示す事例である。
【0043】
次に、積層板成形用の金型に、得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを200×200mmの大きさに切り出し、これを0/90/90/0/0/90/90/0の角度配向で積層した。また、同時に表面にはそのポリカーボネート・炭素繊維プリプレグと同サイズのポリカーボネートシートを各一枚ずつ積層した。このプリプレグとこのポリカーボネートシートを配置した金型を、ポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの成型時と同じ熱盤温度310℃に設定したホットプレスに設置した。310℃の温度で10分間の予備加熱を行い、昇圧速度は1min.間隔で1MPaずつ4MPaまで上げた。次に、1min.間隔で2MPaずつ最大10MPaまで加圧した。10MPaまで昇圧した後、その加圧値を維持したままホットプレスの熱盤のスイッチを切って190℃まで自然冷却した。190℃まで温度が下がったところで、ホットプレスの水冷機能を利用して110℃までさらに冷却し、徐圧して脱型した。以上の成形方法で、ポリカーボネート・炭素繊維直交異方性複合材料積層板(平均厚さ3.5mm)を得た。図19に積層板の外観写真を示す。繊維束配向の大きな乱れや含浸不良箇所は観察されない。図20(a)-(d)は、成形したこの積層板を切断して小さな試験片を作成し、切断面を研磨したものを光学顕微鏡にて撮影した写真を示すものである。図20(a)は、異なる繊維配向が含まれる積層板断面の様子であるが、空隙等は見られず、確実に樹脂含浸が行われていることが分かる。また、図20(b)-(c)は各層の断面をより拡大して示したものであるが、各繊維の周りに樹脂が流入して接着している様子が分かる。図20(d)は縫合糸周辺の断面写真であるが、縫合糸周辺にも空隙等は見られず、充分な樹脂含浸がなされていることが分かる。以上より、樹脂の含浸状態は良好であり、繊維配向にも特に乱れが見られない事から、本複合材料は工業用材料として良好に使用する事が出来るものと考えられる。
【0044】
本ポリカーボネート・炭素繊維強化複合材料積層板を得るために利用した主な設備は、プリプレグの製造を含めても市販の工業用ミシンとホットプレスであり、低コスト設備でありながら良好な複合材料が得られる事が実証された。また、製造時間についても、プリプレグ製造時間は縫合処理の方法および段階的加圧法の最適化により制御する事が可能であり、さらには大型のホットプレス機さえあれば大面積のプリプレグを一度に製造する事が出来る。このことから単位時間当たりの複合材料積層板製造量を容易に増加させることが可能であると考える。
【0045】
しかしながら、本実施例の上記積層板の内部では層内き裂が部分的に発生している事が確認された。これはポリカーボネート樹脂成形物の冷却処理について、熱可塑性樹脂の熱残留応力を除去するためのアニーリング処理を本実施例では行わなかった事が理由であると考えられる。そこで、アニーリング処理方法について最適化することにより良好な成形物を得る方法についても、本発明の一つとすることを、特に付記しておく。
【実施例2】
【0046】
上記実施例1では、炭素繊維シート1の繊維間に加圧含浸させるマトリクス樹脂として熱可塑性樹脂であるポリカーボネートシート4を用いて、本発明の製造方法によって熱可塑性樹脂プリプレグであるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを製造した例が示されているが、マトリクス樹脂として熱硬化性樹脂、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、マレイミド樹脂、又はこれらが混合された熱硬化性樹脂を用いて、本発明の製造方法によって熱硬化性樹脂プリプレグを製造することも可能である。以下に紫外線硬化樹脂をマトリクス樹脂とする紫外線硬化樹脂積層型複合材構造物の製造方法の実施例を述べる。なお、紫外線硬化樹脂は樹脂含浸を常温で行うことが可能であり、樹脂の硬化は紫外線照射により行われる。従って、上記実施例1にて示した熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法と同様に、極めて簡単な設備で迅速に複合材構造物を製造する事が可能となる。
【0047】
紫外線硬化樹脂をマトリクスとする積層型複合材構造物の製造方法としては、樹脂含浸において樹脂を加熱する必要が無い。つまり、ゲル状の紫外線硬化樹脂を縫合・開繊等処理済み連続強化繊維シートに塗布するなどして常温でハンドローラーまたはプレス機を用いて樹脂を加圧含浸させる。この際、一般に粘度の高い紫外線硬化樹脂に対しても、縫合糸が繊維の配向を維持すると共に、縫合糸の領域が樹脂流入経路となることで含浸性を向上させている。また繊維束を開繊することで繊維束周りに樹脂が流入して接着性を向上させる。樹脂はある波長の紫外線に反応して硬化するタイプのものを選ぶ事で、作業環境に制約をもたらす事は無い。強化繊維シートはドライのものであり、樹脂の保存もチューブ入りのもの等を使う事でプリプレグと比較して管理コストも低く抑える事が可能である。このようにして、ウェットな(樹脂が未硬化)紫外線硬化樹脂プリプレグを製造する。このプリプレグを複数枚積層してから常温でハンドローラーまたはプレス機を用いて加圧し、層間の空気を追い出して密着させる。最後に紫外線を照射して樹脂を硬化させる事で、紫外線硬化樹脂積層型複合材構造物を極めて迅速かつ低コストに製造する事が出来る。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂と連続強化繊維シートを利用する樹脂プリプレグの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、縫合処理および開繊等処理が施された連続強化繊維シートにより特別な設備を用いることが無く低コスト成型が可能な樹脂プリプレグの製造方法に係るものである。
本発明に得られる熱可塑性樹脂プリプレグ又は熱硬化性樹脂プリプレグにより成形される複合材料は自動車用材料、建築材料、航空機材料、電機材料などとして使用することができる。
さらに、具体的な産業上の利用可能性について述べる。特に、本発明の実施例で得られたポリカーボネート炭素繊維強化複合材料の場合、基材の一つであるポリカーボネート樹脂は耐衝撃性に極めて優れ、軽量であり耐候性や寸法精度にも優れ、且つリサイクルが可能な低コストエンジニアリングプラスチックである。このため自動車のバンパへの適用が考えられる。さらに、航空機に利用される複合材料用の炭素繊維など強化繊維の種類によっては剛性をアルミ程度に高める事が可能であり、自動車を含め輸送機器のリサイクルが可能な構造部材としての適用が考えられる。また、樹脂が耐衝撃性に優れることから、宇宙構造物のデブリバンパへの適用、防弾盾等の対衝撃構造、シェルター等の外壁、さらに金庫等の構造材としての適用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る縫合処理が施された炭素繊維シートを示す写真である。
【図2】本発明に係る縫合処理および開繊等処理が施された連続強化繊維シートを示す写真である。
【図3】本発明に係る縫合処理および開繊等処理が施された連続強化繊維シートを示す説明図である。
【図4】本発明の実施例であるポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの製造方法を実施する設備の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の樹脂プリプレグの製造方法で得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを示す写真である。
【図6】本発明の実施例で得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの縫合糸周辺の拡大写真である。
【図7】本発明の製造方法で得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの縫合糸周辺および縫合糸周辺断面を示す顕微鏡写真である。
【図8】連続強化繊維シートに樹脂を加圧含浸する加圧プロセスを示す説明図である。
【図9】本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの静的引張試験の結果を示すグラフである。
【図10】本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの圧縮試験の結果を示すグラフである。
【図11】本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの曲げ試験の結果を示すグラフである。
【図12】本発明に係るポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの落錘衝撃試験後の観察結果を示す写真である。
【図13】上記連続強化繊維シートにエポキシ樹脂を含浸させたエポキシ・炭素繊維プリプレグについて、62.5Jの落錘衝撃試験後の変形状態を示す写真である。
【図14】それぞれの(エネルギー換算:12J,36J,70J)衝撃試験時の荷重・エネルギー履歴を示すグラフである。
【図15】本発明の樹脂プリプレグの製造方法を高強度・高弾性炭素繊維に適用することにより得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグの内部観察結果を示す写真である。
【図16】加圧力および成形温度が樹脂プリプレグの厚さに与える影響を示すグラフである。
【図17】本発明の実施例により得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグと成形状態を比較するために、開繊処理のみが施された炭素繊維シートを示す写真である。
【図18】開繊処理のみの炭素繊維シートとポリカーボネートシートにより同じ樹脂含浸方法でプリプレグを製作したもの(未含浸部が多数発生)を示す写真である。
【図19】本発明の実施例で得られたポリカーボネート・炭素繊維プリプレグを積層して加熱・加圧により製造したポリカーボネート・炭素繊維直交異方性複合材料積層板を示す外観写真である。
【図20】本実施例で得られたポリカーボネート・炭素繊維直交異方性複合材料積層板の断面部を示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0050】
1 炭素繊維シート
2 耐熱糸
3 縫合処理および開繊等処理済み炭素繊維シート
4 ポリカーボネートシート
5 スペーサー
6 上部加熱・加圧板
7 下部加熱・加圧板
10 連続強化繊維シート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シートの繊維間にマトリクス樹脂を加圧含浸させることから成る樹脂プリプレグの製造方法であって、前記繊維シートに対し、繊維の配向と交差する方向に縫い糸を縫合する縫合処理、並びに繊維に塗布された薬剤を除去し繊維束を開繊する開繊等処理を施すことを特徴とする樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項2】
前記開繊等処理において、前記繊維シートと前記マトリクス樹脂との接着性を向上させるために、界面制御効果が得られるカップリング剤を新たに繊維表面に付着させる請求項1に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項3】
前記繊維シートは、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、又はセラミック繊維等の強化繊維を一方向に引き揃えシート状にした組成物に対し前記縫合処理および前記開繊等処理を施すことにより連続強化繊維シートとなる請求項1又は2に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項4】
前記連続強化繊維シートは、熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂、または熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との混合樹脂により複合化され補強基材として使用される樹脂強化用連続繊維シートである請求項1から3の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項5】
前記連続強化繊維シートは、高強度・高剛性かつ前記マトリクス樹脂の溶融点より高い耐熱性を有する縫い糸によって前記縫合処理が施された樹脂強化用連続繊維シートである請求項1から4の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項6】
前記縫い糸は、ノーメックス、コーネックス、パイロメックス、ラステックス、ザイロン、又はベクトラン等の高強度・高剛性の耐熱糸である請求項5に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項7】
前記連続強化繊維シートは、前記マトリクス樹脂の粘度および該樹脂の含浸時間に応じて決定される縫い目長さ、縫合長さ、及び縫合間隔によって繊維の配向方向と交差する方向に前記耐熱糸を縫合する縫合処理が施された樹脂強化用連続繊維シートである請求項1から6の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項8】
前記連続強化繊維シートは、前記縫合処理を施すことにより、繊維がばらけることを防止するサイジング剤を除去した後にもハンドリング性を維持した樹脂強化用連続繊維シートである請求項1から7の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項9】
前記連続強化繊維シートは、前記縫合処理を施すことにより、前記マトリクス樹脂を加圧含浸する際に、開繊した繊維シートの繊維配向の乱れを抑制し、且つ縫合部が樹脂流入経路となることにより前記樹脂の含浸性を向上させる樹脂強化用連続繊維シートである請求項1から8の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項10】
前記連続強化繊維シートは、前記縫合処理が施された後の前記開繊等処理において、含浸させようとする前記マトリクス樹脂に応じた接着性及びぬれ性を改善するために、繊維表面に界面制御効果が得られるカップリング剤が添加された樹脂強化用連続繊維シートである請求項1から9の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項11】
前記カップリング剤として、シラン系、チタネート系、アルミネート系、ジルコネート系等の何れかのカップリング剤を、含浸させようとする樹脂に応じて繊維表面に添加する請求項10に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項12】
前記マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂シートの場合、前記連続強化繊維シートの片面または両面に該熱可塑性樹脂シートを配置して該樹脂シートを加熱溶融させて繊維間に加圧含浸させる請求項1から11の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項13】
前記連続強化繊維シートの片面または両面に前記熱可塑性樹脂シートを配置して該樹脂シートを加熱溶融させて繊維間に加圧含浸させる際に、その加圧圧力の昇圧を、前記樹脂の粘度ならびに前記強化繊維シートの前記縫合処理および前記開繊等処理の条件に対応したタイミングで段階的に行う請求項12に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項14】
前記連続強化繊維シートの片面または両面に前記熱可塑性樹脂シートを配置して該樹脂シートを加熱溶融させて加圧含浸させた後に、生成された成形物に対し最適な方法でアニーリング処理を行う請求項12又は13に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂シートの溶融時における粘度が低い場合は、前記連続強化繊維シートを前記熱可塑性樹脂シートで挟み、これを一単位として繊維の配向を交互に変えながら積層して加熱および加圧することにより、熱可塑性樹脂複合材料積層板を製造することが出来る請求項12から14の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項16】
前記熱可塑性樹脂は、塩化ビニル、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルホン、又はポリエーテルエーテルケトンの何れかである請求項12から15の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項17】
前記マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂の場合、前記縫合処理および前記開繊等処理が施された前記連続強化繊維シートに該熱硬化性樹脂を圧入して繊維間に含浸・硬化させることから成る請求項1から11の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項18】
前記マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂の場合、前記縫合処理および前記開繊等処理が施された前記連続強化繊維シートに該熱硬化性樹脂を真空圧入して繊維間に含浸・硬化させることから成る請求項17に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項19】
前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、マレイミド樹脂、又はこれらが混合された熱硬化性樹脂の何れかである請求項17又は18に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項20】
前記連続強化繊維シートは、前記縫合処理を施すことにより、マトリクス樹脂として紫外線硬化樹脂を加圧含浸する際に、開繊した繊維シートの繊維配向の乱れを抑制し、且つ縫合部が樹脂流入経路となることにより前記樹脂の含浸性を向上させる紫外線硬化樹脂強化用連続繊維シートである請求項17又は18に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項21】
繊維シートの繊維間にマトリス樹脂を加圧含浸する際に、開繊した繊維シートの繊維配向の乱れを抑制するために、マトリクス樹脂の溶融点よりも高い耐熱性を有する糸で繊維の配向と交差する方向に縫合されたことを特徴とする樹脂プリプレグ用繊維シート。
【請求項22】
前記糸が繊維間を貫通する縫合部が、前記マトリクス樹脂の流入経路となることにより、該マトリクス樹脂の含浸性を向上させる請求項21に記載の樹脂プリプレグ用繊維シート。
【請求項23】
前記糸が、高強度かつ高剛性である請求項21又は22に記載の樹脂プリプレグ用繊維シート。
【請求項24】
前記繊維シートが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、又はセラミック繊維等の強化繊維である請求項21から23の何れかに記載の樹脂プリプレグ用繊維シート。
【請求項25】
前記繊維シートが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂、または熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との混合樹脂により複合化され補強基材として使用される請求項21から24の何れかに記載の樹脂プリプレグ用繊維シート。
【請求項26】
繊維がばらけることを防止するサイジング剤を除去した後にもハンドリング性を維持するために、前記糸で繊維の配向と交差する方向に縫合されている請求項21から25の何れかに記載の樹脂プリプレグ用繊維シート。
【請求項27】
繊維シートの繊維間にマトリス樹脂を加圧含浸する際に、開繊した繊維シートの繊維配向の乱れを抑制するために、マトリクス樹脂の溶融点よりも高い耐熱性を有する糸で繊維の配向と交差する方向に縫合されたことを特徴とする樹脂プリプレグ。
【請求項28】
前記糸が繊維間を貫通する縫合部が、前記マトリクス樹脂の流入経路となることにより、該マトリクス樹脂の含浸性を向上させる請求項27に記載の樹脂プリプレグ。
【請求項29】
前記糸が、高強度かつ高剛性である請求項27又は28に記載の樹脂プリプレグ。
【請求項30】
前記繊維シートが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、又はセラミック繊維等の強化繊維である請求項27から29の何れかに記載の樹脂プリプレグ。
【請求項31】
前記繊維シートが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂、または熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との混合樹脂により複合化され補強基材として使用される請求項27から30の何れかに記載の樹脂プリプレグ。
【請求項32】
繊維がばらけることを防止するサイジング剤を除去した後にもハンドリング性を維持するために、前記糸で繊維の配向と交差する方向に縫合されている請求項27から31の何れかに記載の樹脂プリプレグ。
【請求項33】
繊維シートの繊維間にマトリス樹脂を加圧含浸する際に、開繊した繊維シートの繊維配向の乱れを抑制するために、マトリクス樹脂の溶融点よりも高い耐熱性を有する糸で繊維の配向と交差する方向に縫合されたことを特徴とする複合材料。
【請求項34】
前記糸が繊維間を貫通する縫合部が、前記マトリクス樹脂の流入経路となることにより、該マトリクス樹脂の含浸性を向上させる請求項33に記載の複合材料。
【請求項35】
前記糸が、高強度かつ高剛性である請求項33又は34に記載の複合材料。
【請求項36】
前記繊維シートが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、又はセラミック繊維等の強化繊維である請求項33から35の何れかに記載の複合材料。
【請求項37】
前記繊維シートが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂、または熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との混合樹脂により複合化され補強基材として使用される請求項33から36の何れかに記載の複合材料。
【請求項38】
繊維がばらけることを防止するサイジング剤を除去した後にもハンドリング性を維持するために、前記糸で繊維の配向と交差する方向に縫合されている請求項33から37の何れかに記載の複合材料。
【請求項1】
繊維シートの繊維間にマトリクス樹脂を加圧含浸させることから成る樹脂プリプレグの製造方法であって、前記繊維シートに対し、繊維の配向と交差する方向に縫い糸を縫合する縫合処理、並びに繊維に塗布された薬剤を除去し繊維束を開繊する開繊等処理を施すことを特徴とする樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項2】
前記開繊等処理において、前記繊維シートと前記マトリクス樹脂との接着性を向上させるために、界面制御効果が得られるカップリング剤を新たに繊維表面に付着させる請求項1に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項3】
前記繊維シートは、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、又はセラミック繊維等の強化繊維を一方向に引き揃えシート状にした組成物に対し前記縫合処理および前記開繊等処理を施すことにより連続強化繊維シートとなる請求項1又は2に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項4】
前記連続強化繊維シートは、熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂、または熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との混合樹脂により複合化され補強基材として使用される樹脂強化用連続繊維シートである請求項1から3の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項5】
前記連続強化繊維シートは、高強度・高剛性かつ前記マトリクス樹脂の溶融点より高い耐熱性を有する縫い糸によって前記縫合処理が施された樹脂強化用連続繊維シートである請求項1から4の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項6】
前記縫い糸は、ノーメックス、コーネックス、パイロメックス、ラステックス、ザイロン、又はベクトラン等の高強度・高剛性の耐熱糸である請求項5に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項7】
前記連続強化繊維シートは、前記マトリクス樹脂の粘度および該樹脂の含浸時間に応じて決定される縫い目長さ、縫合長さ、及び縫合間隔によって繊維の配向方向と交差する方向に前記耐熱糸を縫合する縫合処理が施された樹脂強化用連続繊維シートである請求項1から6の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項8】
前記連続強化繊維シートは、前記縫合処理を施すことにより、繊維がばらけることを防止するサイジング剤を除去した後にもハンドリング性を維持した樹脂強化用連続繊維シートである請求項1から7の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項9】
前記連続強化繊維シートは、前記縫合処理を施すことにより、前記マトリクス樹脂を加圧含浸する際に、開繊した繊維シートの繊維配向の乱れを抑制し、且つ縫合部が樹脂流入経路となることにより前記樹脂の含浸性を向上させる樹脂強化用連続繊維シートである請求項1から8の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項10】
前記連続強化繊維シートは、前記縫合処理が施された後の前記開繊等処理において、含浸させようとする前記マトリクス樹脂に応じた接着性及びぬれ性を改善するために、繊維表面に界面制御効果が得られるカップリング剤が添加された樹脂強化用連続繊維シートである請求項1から9の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項11】
前記カップリング剤として、シラン系、チタネート系、アルミネート系、ジルコネート系等の何れかのカップリング剤を、含浸させようとする樹脂に応じて繊維表面に添加する請求項10に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項12】
前記マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂シートの場合、前記連続強化繊維シートの片面または両面に該熱可塑性樹脂シートを配置して該樹脂シートを加熱溶融させて繊維間に加圧含浸させる請求項1から11の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項13】
前記連続強化繊維シートの片面または両面に前記熱可塑性樹脂シートを配置して該樹脂シートを加熱溶融させて繊維間に加圧含浸させる際に、その加圧圧力の昇圧を、前記樹脂の粘度ならびに前記強化繊維シートの前記縫合処理および前記開繊等処理の条件に対応したタイミングで段階的に行う請求項12に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項14】
前記連続強化繊維シートの片面または両面に前記熱可塑性樹脂シートを配置して該樹脂シートを加熱溶融させて加圧含浸させた後に、生成された成形物に対し最適な方法でアニーリング処理を行う請求項12又は13に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂シートの溶融時における粘度が低い場合は、前記連続強化繊維シートを前記熱可塑性樹脂シートで挟み、これを一単位として繊維の配向を交互に変えながら積層して加熱および加圧することにより、熱可塑性樹脂複合材料積層板を製造することが出来る請求項12から14の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項16】
前記熱可塑性樹脂は、塩化ビニル、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルホン、又はポリエーテルエーテルケトンの何れかである請求項12から15の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項17】
前記マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂の場合、前記縫合処理および前記開繊等処理が施された前記連続強化繊維シートに該熱硬化性樹脂を圧入して繊維間に含浸・硬化させることから成る請求項1から11の何れかに記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項18】
前記マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂の場合、前記縫合処理および前記開繊等処理が施された前記連続強化繊維シートに該熱硬化性樹脂を真空圧入して繊維間に含浸・硬化させることから成る請求項17に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項19】
前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、マレイミド樹脂、又はこれらが混合された熱硬化性樹脂の何れかである請求項17又は18に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項20】
前記連続強化繊維シートは、前記縫合処理を施すことにより、マトリクス樹脂として紫外線硬化樹脂を加圧含浸する際に、開繊した繊維シートの繊維配向の乱れを抑制し、且つ縫合部が樹脂流入経路となることにより前記樹脂の含浸性を向上させる紫外線硬化樹脂強化用連続繊維シートである請求項17又は18に記載の樹脂プリプレグの製造方法。
【請求項21】
繊維シートの繊維間にマトリス樹脂を加圧含浸する際に、開繊した繊維シートの繊維配向の乱れを抑制するために、マトリクス樹脂の溶融点よりも高い耐熱性を有する糸で繊維の配向と交差する方向に縫合されたことを特徴とする樹脂プリプレグ用繊維シート。
【請求項22】
前記糸が繊維間を貫通する縫合部が、前記マトリクス樹脂の流入経路となることにより、該マトリクス樹脂の含浸性を向上させる請求項21に記載の樹脂プリプレグ用繊維シート。
【請求項23】
前記糸が、高強度かつ高剛性である請求項21又は22に記載の樹脂プリプレグ用繊維シート。
【請求項24】
前記繊維シートが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、又はセラミック繊維等の強化繊維である請求項21から23の何れかに記載の樹脂プリプレグ用繊維シート。
【請求項25】
前記繊維シートが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂、または熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との混合樹脂により複合化され補強基材として使用される請求項21から24の何れかに記載の樹脂プリプレグ用繊維シート。
【請求項26】
繊維がばらけることを防止するサイジング剤を除去した後にもハンドリング性を維持するために、前記糸で繊維の配向と交差する方向に縫合されている請求項21から25の何れかに記載の樹脂プリプレグ用繊維シート。
【請求項27】
繊維シートの繊維間にマトリス樹脂を加圧含浸する際に、開繊した繊維シートの繊維配向の乱れを抑制するために、マトリクス樹脂の溶融点よりも高い耐熱性を有する糸で繊維の配向と交差する方向に縫合されたことを特徴とする樹脂プリプレグ。
【請求項28】
前記糸が繊維間を貫通する縫合部が、前記マトリクス樹脂の流入経路となることにより、該マトリクス樹脂の含浸性を向上させる請求項27に記載の樹脂プリプレグ。
【請求項29】
前記糸が、高強度かつ高剛性である請求項27又は28に記載の樹脂プリプレグ。
【請求項30】
前記繊維シートが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、又はセラミック繊維等の強化繊維である請求項27から29の何れかに記載の樹脂プリプレグ。
【請求項31】
前記繊維シートが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂、または熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との混合樹脂により複合化され補強基材として使用される請求項27から30の何れかに記載の樹脂プリプレグ。
【請求項32】
繊維がばらけることを防止するサイジング剤を除去した後にもハンドリング性を維持するために、前記糸で繊維の配向と交差する方向に縫合されている請求項27から31の何れかに記載の樹脂プリプレグ。
【請求項33】
繊維シートの繊維間にマトリス樹脂を加圧含浸する際に、開繊した繊維シートの繊維配向の乱れを抑制するために、マトリクス樹脂の溶融点よりも高い耐熱性を有する糸で繊維の配向と交差する方向に縫合されたことを特徴とする複合材料。
【請求項34】
前記糸が繊維間を貫通する縫合部が、前記マトリクス樹脂の流入経路となることにより、該マトリクス樹脂の含浸性を向上させる請求項33に記載の複合材料。
【請求項35】
前記糸が、高強度かつ高剛性である請求項33又は34に記載の複合材料。
【請求項36】
前記繊維シートが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、又はセラミック繊維等の強化繊維である請求項33から35の何れかに記載の複合材料。
【請求項37】
前記繊維シートが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂、または熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との混合樹脂により複合化され補強基材として使用される請求項33から36の何れかに記載の複合材料。
【請求項38】
繊維がばらけることを防止するサイジング剤を除去した後にもハンドリング性を維持するために、前記糸で繊維の配向と交差する方向に縫合されている請求項33から37の何れかに記載の複合材料。
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【図16】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図12】
【図13】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【図16】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図12】
【図13】
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【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−179808(P2008−179808A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335728(P2007−335728)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】
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