説明

樹脂・金属積層構造体の製造方法と超臨界流体反応装置及び樹脂・金属積層構造体

【課題】強固な密着強度を持つ樹脂・金属積層構造体を低コストで安定して製造する。
【解決手段】ポリイミド前駆体層31を有する基板30を還元槽21に設置し、補助槽16内の金属錯体であるニッケル錯体19が溶解した超臨界二酸化炭素を還元槽21内に導入し、所定の温度、圧力を所定時間保持して超臨界二酸化炭素に溶解したニッケル錯体19を基板30上のポリイミド前駆体層31の表面だけでなく内部にまで注入する。その後、未反応のニッケル錯体19を回収して還元槽21内の二酸化炭素を所定の圧力と温度に維持してニッケル分散層32を形成する。その後、ニッケル分散層32が形成された基板30を還元槽21から取り出して、ニッケル分散層32上に電解メッキを施してニッケル金属層33を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂・金属積層構造体の製造方法と超臨界流体反応装置及び樹脂・金属積層構造体、特に樹脂と金属の密着性の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂材料、特に耐久性と耐熱性に優れるポリイミド系樹脂材料フィルム上に配線パターンを直接形成するFPC(flexible Printing Circuit)といった電子部品用基板が盛んに用いられ、不導体である樹脂材料基板上に金属層を形成したいという要求が高まっている。このような樹脂層と金属層の積層体では樹脂層と金属層との間の層間剥離が問題となっており、層間の密着強度を高める手段が例えば特許文献1〜特許文献5に開示されている。
【0003】
例えば特許文献1に示されたポリイミド樹脂前駆体溶液を用いた電子部品用基材は、ポリイミド基材上にパラジウム化合物を含有するポリイミド樹脂前駆体溶液を塗布・乾燥させてポリイミド樹脂前駆体層を形成し、次いで水素共与体の存在下において紫外線を照射してメッキ下地核を形成した後、無電解メッキ処理によってメッキ下地金属層を形成し、ポリイミド樹脂前駆体層を加熱イミド化してポリイミド樹脂を形成している。
【0004】
また、特許文献2に示された金属回路形成方法は、ポリイミド前駆体溶液を基材表面に塗布・乾燥し、次に金属膜または金属回路部のポリイミド前駆体とパラジュムイオンを反応させて感光性高分子錯体薄膜とした後、水素供与体の存在下に紫外線を照射して無電解メッキに触媒活性のある金属パラジュウムに変え、無電解メッキ、電解メッキ、加熱イミド化により金属膜や金属回路を形成している。
【0005】
特許文献3に示されたダイレクトプレーティング方法は、絶縁性部分を含む被メッキ物の表面にパラジウム触媒付与処理を施して絶縁性部分の表面にパラジウム触媒を付与し、この付与されたパラジウムを触媒としてパラジウム化合物、アミン化合物及び還元剤を含有するパラジウム導電体層形成溶液により絶縁性部分にパラジウム導電体層を形成し、このパラジウム導電体層上に直接電気銅めっき皮膜を形成している。
【0006】
特許文献4に示されたポリマー基材は、ポリマー基材表面に金属錯体を付加し、このポリマー基材表面に超臨界流体を接触させて金属錯体をポリマー基材に浸透させ、金属錯体が浸透したポリマー基材の表面に、所定パターンに対応する領域が開口部なるマスク層を形成し、この開口部にメッキを形成している。このポリマー基材は、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル及びアモルファスポリオレフィンからなる群から選んでいる。
【0007】
特許文献5に示されたプラスチックのメッキ方法は、プラスチックに超臨界流体を接触させてプラスチックにメッキ可能な表面処理を施してからメッキ処理している。このプラスチックはポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ビニル系重合体、エポキシ樹脂、含フッ素重合体及び含イオウ重合体から選ばれる少なくとも1種を使用し、メッキ用触媒はパラジウム、銅またはニッケル金属を含む化合物を使用している。
【0008】
また、プラスチック部品の射出形成においては、金型部分に熱伝導性を調整する耐熱樹脂領域を設けて、キャビティ内の熱伝導性を調整し、転写性やタクトタイムを向上させたいという要求がある。しかしながら前記と同様に金属マトリックス層と耐熱樹脂領域層との層間剥離が問題となっており、この層間の接着強度を高める手段が特許文献6や特許文献7に開示されている。
【0009】
特許文献6に示された断熱スタンパの製造方法は、第一金属層であるファーストニッケル層の上に片面に粘着剤を有するポリイミドシートを密着して貼り付けて断熱層を形成し、その上に第二金属層であるセカンドニッケル層を形成し、内周部と外周部を打ち抜き、断熱スタンパ(金型)を形成している。
【0010】
特許文献7に示された断熱スタンパは、転写金属層と断熱層及び金属層を積層した断熱スタンパの断熱層と金属層の接続は、断熱層の金属層側に断熱樹脂に無機材料のフィラーを混入したコーティング層を形成した後、エッチングによりコーティング層の樹脂成分を除去し、フィラーを露出させて凸状部を形成し、その後、金属層をめっきにより形成している。このコーティング層のエッチングは真空中の酸素プラズマエッチングまたは大気圧中のUV/O3処理により行うようにしている。
【特許文献1】特開2007−165931号公報
【特許文献2】特開2003−31924号公報
【特許文献3】特開2007−16283号公報
【特許文献4】特開2007−291422号公報
【特許文献5】特開2001−316832号公報
【特許文献6】特許第3883375号公報
【特許文献7】特許第3901437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1及び特許文献2に示された樹脂と金属の接合では、パラジウムの還元から無電解めっきまでの工程管理条件が非常にシビアで且つ安定せず、管理範囲のわずかな動きで樹脂と金属層間の密着強度が得られなくなるという短所がある。
【0012】
また、特許文献3に示された方法は、エッチングでの表面粗面化によるアンカー効果が期待できるような樹脂材料では有効性が高いが、ポリイミド系材料のようなエッチングの難しい材料では、密着強度を得ることが困難である。
【0013】
特許文献4に示されたポリマー基材は、想定している樹脂がポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル及びアモルファスポリオレフィンといった材料であり、ポリイミド系は想定しておらず、ポリイミド系材料は樹脂の分子構造が頑丈で、単純に超臨界流体を介して金属錯体を接触させても、樹脂構造内部にまで金属錯体が注入されず、高い密着強度を得ることは困難である。
【0014】
特許文献5に示された方法では、樹脂材料としてポリイミド系も挙げられているが、ポリイミド系材料は前記特許文献4と同様の理由で高い密着強度をえることは難しい。
【0015】
特許文献6に示された方法では、両面粘着剤付きのポリイミドシートを使用しているが、シートそのものが非常に高価で、且つシート貼付装置も大掛かりなものが必要であり、液状樹脂材料の塗布に比べてコストが大幅に増すという短所がある。
【0016】
特許文献7に示された接合方法では、無機材料フィラー入り樹脂材料は価格が高く、コストアップとなる。また、樹脂表面に酸素プラズマエッチングやUV/O3処理を行うと、樹脂の最表面部分の分子結合が切断され、樹脂表面に極めて脆い層(weak boundary layer:WBL)が形成され、かえって密着強度を低下させるおそれがある。
【0017】
この発明は、このような問題を解消し、強固な密着強度を持つ樹脂・金属積層構造体の製造方法と超臨界流体反応装置及び樹脂・金属積層構造体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明の樹脂・金属積層構造体の製造方法は、基板上にポリイミド前駆体層を形成する工程と、前記ポリイミド前駆体層を有する基板を反応容器内に設置し、該反応容器内に拡散流体に溶解分散させた金属錯体を投入し、前記反応容器内の圧力と温度を制御して前記拡散流体を超臨界流体又は亜超臨界流体状態に維持し、前記ポリイミド前駆体層に前記金属錯体を注入する工程と、前記反応容器内の超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体の温度と圧力をさらに高めて前記ポリイミド前駆体層に注入された金属錯体を還元して金属分散層を形成する工程と、前記反応容器から前記金属分散層が形成された基板を取り出して前記金属分散層上に電解めっきによって金属層を形成する工程を有することを特徴とする。
【0019】
この発明の樹脂・金属積層構造体の他の製造方法は、基板上にポリイミド前駆体層を形成する工程と、補助槽内で金属錯体を超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体に溶解分散させる工程と、前記ポリイミド前駆体層を有する基板を反応容器内に設置し、該反応容器内に前記補助槽から拡散流体に溶解分散させた金属錯体を投入し、前記反応容器内の圧力と温度を制御して前記拡散流体を超臨界流体又は亜超臨界流体状態に維持し、前記ポリイミド前駆体層に前記金属錯体を注入する工程と、前記反応容器に超臨界流体又は亜臨界流体状態の拡散流体を直接流通させて未反応の金属錯体を回収する工程と、前記反応容器内の超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体の温度と圧力を高めて前記ポリイミド前駆体層に注入された金属錯体を還元して金属分散層を形成する工程と、前記反応容器に超臨界流体又は亜臨界流体状態の拡散流体を供給して金属分散層表面に残留した反応副生成物を超臨界流体又は亜臨界流体状態の拡散流体に抽出する工程と、前記反応容器から超臨界流体又は亜臨界流体の拡散流体を排出する工程と、前記反応容器から前記金属分散層が形成された基板を取り出して前記金属分散層上に電解めっきによって金属層を形成する工程と有することを特徴とする。
【0020】
前記基板は、金属、樹脂又はセラミックのいずれかであることを特徴とする。
【0021】
また、前記金属錯体は、パラジウム、ニッケル、銀、銅のいずれかのアセチルアセトン錯体又は塩化物アンモニウム錯体であることを特徴とする。
【0022】
さらに、前記拡散流体は二酸化炭素であることを特徴とする。
【0023】
この発明の超臨界流体反応装置は、拡散流体供給部と金属錯体溶解部と反応部及び金属錯体回収部を有し、前記拡散流体供給部は、拡散流体供給源から供給された拡散流体を加圧する圧力調整手段と、該圧力調整手段から拡散流体を前記金属錯体溶解部に供給する拡散流体供給ラインと、前記圧力調整手段から拡散流体を前記反応部に供給するバイパスラインとを有し、前記金属錯体溶解部は、補助槽と、該補助槽を収納して所定の温度に維持する恒温槽とを有し、前記補助槽は、金属錯体を収納して前記拡散流体供給部の拡散流体供給ラインから供給される超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体に金属錯体を溶解分散させて前記反応部に供給し、前記反応部は、反応容器と、該反応容器を加熱する加熱手段を有し、前記反応容器は、ポリイミド前駆体層を有する基板を設置し、前記補助槽から供給された拡散流体に溶解分散した金属錯体を、前記バイパスラインから供給される超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体により前記ポリイミド前駆体層に注入し、注入した金属錯体を還元して金属分散層を形成し、前記金属錯体回収部は、前記反応容器から未反応の金属錯体を回収することを特徴とする。
【0024】
この発明の樹脂・金属積層構造体は、前記樹脂・金属積層構造体の製造方法により作製したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
この発明はポリイミド前駆体層へ超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体に溶解分散した金属錯体の注入を行っているため、ポリイミドへの金属錯体の注入の場合よりもより深部にまで金属錯体が注入されるので、樹脂と金属間の密着強度を高めることができる。
【0026】
この注入した金属錯体を超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体中で加熱、加圧することにより金属錯体を還元して金属分散層を形成すると同時にポリイミド前駆体層のイミド化も行うことができ、工程を減らすことができる。
【0027】
この金属分散層に直接電解めっきを行って金属層を形成することができるから、樹脂・金属積層構造体の製造工程を減らしてコストを低減することができる。
【0028】
また、ポリイミド前駆体層に金属錯体を注入した後、超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体を排出するから、ポリイミド前駆体層内の残留NMPが超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体に抽出されて一緒に排出されるため、残留NMPがポリイミド層に悪影響を与えるのを防止できる。
【0029】
また、ポリイミド前駆体層に金属錯体を注入した後、超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体を排出してから超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体を供給して温度と圧力を制御して金属錯体を還元して金属分散層を形成してから超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体を排出することにより、金属分散ポリイミド膜から金属錯体の熱還元によって生ずる反応副生成物である配位子を除去することができる。同時に取りきれなかった残留NMPも抽出・排除できる。
【0030】
さらに、ポリイミド前駆体層に金属錯体を注入した後、未反応の金属錯体を回収するから、高価な金属錯体を再使用でき、樹脂・金属積層構造体を低コストで製造することができる。
【0031】
また、この発明の超臨界流体反応装置を使用することにより、金属錯体を還元して金属分散層を形成すると同時にポリイミド前駆体層のイミド化も行うことができ、樹脂と金属間で高い密着強度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1は、この発明の樹脂・金属層積層構造を製造する超臨界流体反応装置の構成図である。図に示すように、超臨界流体反応装置は、拡散流体供給部1と金属錯体溶解部2と反応部3及び金属錯体回収部4を有する。
【0033】
拡散流体供給部1は、二酸化炭素ボンベ5と冷却器6と圧力調整手段である高圧ポンプ7とストップ弁8及びバイパスライン9を有し、二酸化炭素供給ボンベ5から供給される二酸化炭素を冷却器6で冷却し、冷却した二酸化炭素を高圧ポンプ7で加圧し、加圧した二酸化炭素をストップ弁8から金属錯体溶解部2に供給する。この金属錯体溶解部2に供給する二酸化炭素の圧力は圧力センサ10で検出して所定の圧力範囲になるように高圧ポンプ7を駆動制御する。また、高圧ポンプ7で加圧した二酸化炭素をバイパスライン9のストップ弁11〜13を介して反応部3に供給する。この反応部3に供給する二酸化炭素の圧力は圧力センサ14で検出して所定の圧力範囲になるように高圧ポンプ6を駆動制御する。
【0034】
金属錯体溶解部2は、予熱コイル15と補助槽16及び予熱コイル15と補助槽16を収納した恒温槽17を有する。恒温槽17にはヒータを有し、内部温度を温度センサ18で検出して予熱コイル15と補助槽16を所定の温度に維持する。予熱コイル15は高圧ポンプ7からストップ弁8を介して供給される二酸化炭素を予熱して補助槽16に送る。補助槽16は粉末状の金属錯体19を収納し、収納した金属錯体19を供給される超臨界二酸化炭素に溶解分散させ、金属錯体19を溶解分散した超臨界二酸化炭素をストップ弁20とストップ弁13を介して反応部3に供給する。
【0035】
反応部3は、還元槽21と加熱手段22を有する。還元槽21は表面にポリイミド前駆体層を形成した基板を収納し、収納した基板のポリイミド前駆体層に超臨界二酸化炭素に溶解分散した金属錯体19を注入して還元する。加熱手段22は温度センサ23で検出している還元槽21内の温度が所定の温度になるように加熱制御する。
【0036】
金属錯体回収部4は背圧弁24とトラップ25を有し、還元槽21から金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素を背圧弁24からトラップ25に逃がして未反応の金属錯体を回収する。
【0037】
この超臨界流体反応装置により樹脂・金属積層構造体を製造するときの処理を図2の工程図と図3のフローチャートを参照して説明する。
【0038】
まず、図2(a)に示すように、あらかじめ樹脂・金属積層構造体を形成する基板30の表面の洗浄化を行う。基板30は、金属、樹脂、セラミックスなど各種有機、無機材料が使用可能であるが、後の金属錯体の還元やポリイミド前駆体のイミド化を行う際に、300℃以上の高温状態となるため、それに耐えられるものが望ましい。この基板30として例えばSUS304の板材(50mm×50mm×5mm)を使用し、弱アルカリ系の脱脂洗浄剤水溶液(例えば上村工業:UA−68)を使用して60℃、90秒間洗浄後、室温で5%希硫酸により60秒間中和酸洗を行う。その後、大気圧プラズマ処理などの表面改質を行うことが望ましい。このように表面改質を行うと、基板30の表面の濡れ性が向上し、次工程のポリイミド前駆体層との密着性を向上することができる。
【0039】
次に、図2(b)に示すように、基板30の表面にポリイミド前駆体層31を形成する。このポリイミド前駆体層31を形成するとき使用するポリイミド前駆体ワニスはポリイミド前駆体(ポリアミック酸)をN−メチル−ピロリドン(以下,NMPと略す)で溶解し所望の粘度にしたものであり、市販品が各社から発売され,例えば、東レのセミコファインSP−300シリーズを使用した。このポリイミド前駆体ワニスの塗布方法はスピン塗布、ディップ塗布、ロールコート等の方法がある。例えばスピンコート法で基板30の表面にポリイミド前駆体ワニスを塗布した。この塗布条件は、ポリイミド前駆体ワニスを基板30上に適量滴下後、回転速度150rpmで60秒間回転した後、回転速度を60秒かけて600rpmにして60秒間回転して10秒スローダウンして行った。基板30にポリイミド前駆体ワニスを塗布した後、基板30をホットプレートに載せて加熱乾燥させて溶媒のNMPを飛ばしてポリイミド前駆体層31を形成した。この乾燥条件は95℃で90秒間乾燥後、続けて120℃で90秒間乾燥させた。このようにして最終的にイミド化後約20μmの厚さになるように、ポリイミド前駆体層31を形成した。
【0040】
一方、超臨界流体反応装置の補助槽16に粉末状の金属錯体19を入れておき、ストップ弁11を閉じた状態でストップ弁8を開いて二酸化炭素ボンベ5から予熱コイル15を介して補助槽16に二酸化炭素を導入した後、高圧ポンプ7を用いて補助槽16内の二酸化炭素を所定の温度と圧力の超臨界流体の状態にして金属錯体19を溶解させる(ステップS1)。この二酸化炭素の臨界点は、温度31℃で圧力7.4MPaであるが、この状態では超臨界二酸化炭素への金属錯体の溶解度が低いため、十分な溶解度を得るために、温度は35℃〜60℃とし、圧力は10MPa〜30MPaの範囲内とし、金属錯体19の注入に必要な溶解量に応じて、前記範囲内での温度、圧力を選定するようにする。また、使用できる金属錯体19としては、パラジウム、ニッケル、銀、銅、いずれかのアセチルアセトン錯体、または塩化物アンモニウム錯体を用いることができる。例えばニッケル(II)アセチルアセトナート(以下ニッケル錯体と略す)を使用し、温度と圧力をそれぞれ45℃と20MPaとした。以下、金属錯体としてニッケル錯体を使用した場合について説明する。
【0041】
この状態で図2(c)に示すように、ポリイミド前駆体層31を有する基板30を還元槽21に設置して金属錯体注入工程に入る(ステップS2)。金属錯体注入工程に入ると、ストップ弁20とストップ弁13を開き、補助槽16内の金属錯体であるニッケル錯体19が溶解した超臨界二酸化炭素を還元槽21内に導入し、温度、圧力を前記条件である45℃と20MPaで30分〜60分間保持する。これによって超臨界二酸化炭素に溶解したニッケル錯体19が基板30上のポリイミド前駆体層31の表面だけでなく内部にまで豊富に注入される(ステップS3)。
【0042】
次にストップ弁8とストップ弁20を閉じてバイパスライン9のストップ弁11〜13を開いて高圧ポンプ7を駆動して還元槽21に二酸化炭素を導入し、背圧弁24からニッケル錯体19が溶解した超臨界二酸化炭素をトラップ25に逃がして未反応のニッケル錯体19を回収する(ステップS4)。このように未反応のニッケル錯体19を回収することによって高価な金属錯体を再利用できる。また、このときポリイミド前駆体層31内の残留NMPが超臨界二酸化炭素に抽出されて一緒に排出されるため、残留NMPがポリイミド前駆体層31に悪影響を与えることを防ぐことができる。
【0043】
この状態で基板30のポリイミド前駆体層31の還元・イミド化処理に入る。ポリイミド前駆体層31の還元・イミド化処理に入ると、ストップ弁8とストップ弁20を閉じてバイパスライン9のストップ弁11〜13を開いて高圧ポンプ7を駆動して還元槽21内の二酸化炭素を所定の圧力、例えば30〜40MPaまで上昇させ、加熱手段22で還元槽21内を所定の温度、例えば350℃まで上昇させてストップ弁11〜13を閉じて還元槽21内の二酸化炭素を超臨界の状態にして所定時間、例えば約60分間維持する。このようにして、図2(d)に示すように、還元槽21内の基板30のポリイミド前駆体層31に注入されたニッケル錯体19が還元されてニッケル分散層32が形成される(ステップS5)。このニッケル分散層32は、超臨界二酸化炭素によってニッケル錯体19が豊富に注入にされているため、十分な導電性を持つ。またポリイミド前駆体の閉環イミド化によるポリイミド層の形成も同時にできるため工程を短縮できコスト的に有利となる。また、ニッケル錯体19を還元するとき、ストップ弁8とストップ弁20を閉じておくことにより、補助槽16内のニッケル錯体19が還元されるのを防ぎ、引き続いてニッケル錯体19を使用できるようにする。
【0044】
次に、再度、ストップ弁11〜13を開き、高圧ポンプ7を作動させてバイパスライン9を通して超臨界二酸化炭素を基板30が設置された還元槽21に導入して所定の温度と圧力、例えば45℃と20MPaに保持してストップ弁11〜13を閉じて、その状態を所定時間、例えば約10分程度維持して、ニッケル分散層32の表面に残留した熱還元によって生じた反応副生成物である配位子を超臨界二酸化炭素内に抽出する(ステップS6)。その後、還元槽21内の超臨界二酸化炭素を背圧弁24からトラップ25に排出する(ステップS7)。このようにしてニッケル分散層32の表面に残留した熱還元によって生じた反応副生成物である配位子を超臨界二酸化炭素内に抽出して除去できる。また、先の工程で取りきれなかった残留NMPも同時に除去できる。
【0045】
その後、ニッケル分散層32が形成された基板30を還元槽21から取り出して、図3(e)に示すように、ニッケル分散層32上に電解メッキを施してニッケル金属層33を形成する(ステップS8)。このニッケル金属層33を形成するとき、基板30の表面に十分な導電性を持つニッケル分散層32が形成されるため、このニッケル分散層32へ直接電解めっきによってニッケル金属層33を安定して形成することができる。
【0046】
このニッケル金属層33を形成するとき使用するニッケル電解めっき浴の組成を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
ニッケル分散層32が形成された基板30を前記めっき浴へ入槽してから0.05〜0.2A/dmの弱電流密度で3〜5分間通電する。この通電によりニッケル分散層32をニッケルめっき液に馴染ませて濡れ性を向上させ、ピット発生やめっき時の剥離を防ぐことができる。弱通電終了後に通電電流値を徐々に上昇させ、5〜10分かけて12A/dm〜20A/dm程度まで電流値を上昇させてから一定に保ち、所定のめっき厚、例えば約200μmを得るまで通電を続ける。この通電が終了後、基板30を取り出して水洗する。
【0049】
以上の工程によって、高い密着強度を持つ樹脂・金属積層構造体を得ることができる。また、製造さした樹脂・金属積層構造体を用いてピーリング試験を行ったところ、ポリイミド層が凝集破壊を起こし、正確なピール強度の測定ができなかった。なお、凝集破壊時のピール強度は、140〜200N/cmであった。この樹脂・金属積層構造体をプラスチック部品の射出成形用熱制御金型として用い、実際に射出成形を行ったところ、10万ショットを超えても樹脂と金属間で剥離は発生せず、抜群の耐久性を示した。
【0050】
前記説明ではニッケル錯体とニッケル電鋳を使用して樹脂・金属積層構造体を製造する場合について示したが、この他に、ポリイミドフィルム基板上にポリイミド前駆体層を形成し、銅(II)アセチルアセトナート(銅錯体)を、前記と同様に超臨界二酸化炭素を用いてポリイミド前駆体層に注入して、その後、銅電解めっきによって銅金属層を直接形成することも可能である。以下、ポリイミドフィルム基板に銅金属層を形成する場合について説明する。
【0051】
まず、図2(a)に示すように、基板30としてポリイミドフィルム(宇部興産ユーピレックスフィルム、50mm×30mm、厚さ75μm)を使用した。ポリイミドフィルム30を弱アルカリ系の脱脂洗浄剤水溶液(例えば、上村工業:UA−68)を使用して60℃、90秒間の洗浄後、室温で5%希硫酸により60秒間中和酸洗を行う。次に、図2(b)に示すように、ポリイミドフィルム30上にポリイミド前駆体層31を形成する。このポリイミド前駆体槽31を形成するときポリイミド前駆体ワニス、例えば東レのセミコファインSP−300シリーズ)を、スピンコート法で塗布した。塗布条件は、ポリイミド前駆体をポリイミドフィルム30上に適量滴下後、回転速度150rpmで60秒間回転した後、回転速度を60秒かけて600rpmにして60秒間回転して10秒スローダウンして行った。その後、ポリイミドフィルム30を95℃で90秒間乾燥後、続けて120℃で90秒間乾燥させた。このようにして、最終的にイミド化後約20μmの厚さになるようにポリイミド前駆体層31を形成した。
【0052】
一方、超臨界流体反応装置の補助槽16に粉末状の銅(II)アセチルアセトナート(銅錯体)19を入れておき、ストップ弁11を閉じた状態でストップ弁8を開いて二酸化炭素ボンベ5から予熱コイル15を介して補助槽16に二酸化炭素を導入した後、高圧ポンプ7を用いて補助槽16内の二酸化炭素を所定の温度45℃と圧力20MPaの超臨界流体の状態にして銅錯体19を溶解させる。
【0053】
この状態で図2(c)に示すように、ポリイミド前駆体層31を有するポリイミドフィルム30を還元槽21に設置してストップ弁20とストップ弁13を開き、補助槽16内の銅錯体19を溶解した超臨界二酸化炭素を還元槽21内に導入し、温度、圧力を前記条件である45℃と20MPaで30分〜60分間保持する。これによって超臨界二酸化炭素に溶解した銅錯体19がポリイミドフィルム30上のポリイミド前駆体層31の表面だけでなく内部にまで豊富に注入される。次にストップ弁8とストップ弁20を閉じてバイパスライン9のストップ弁11〜13を開いて高圧ポンプ7を駆動して還元槽21に二酸化炭素を導入し、背圧弁24から銅錯体19が溶解した超臨界二酸化炭素をトラップ25に逃がして未反応の銅錯体19を回収する。
【0054】
次に、ストップ弁8とストップ弁20を閉じてバイパスライン9のストップ弁11〜13を開いて高圧ポンプ7を駆動して還元槽21内の二酸化炭素を所定の圧力、例えば30〜40MPaまで上昇させ、加熱手段22で還元槽21内を所定の温度、例えば350℃まで上昇させてストップ弁11〜13を閉じて還元槽21内の二酸化炭素を超臨界の状態にして所定時間、例えば約60分間維持する。このようにして、図2(d)に示すように、還元槽21内のポリイミドフィルム30のポリイミド前駆体層31に注入された銅錯体19が還元されて銅分散層32が形成される。この銅錯体19を還元するとき、ストップ弁8とストップ弁20を閉じておくことにより、補助槽16内の銅錯体19が還元されるのを防ぐ。
【0055】
次に、再度、ストップ弁11〜13を開き、高圧ポンプ7を作動させてバイパスライン9を通して超臨界二酸化炭素をポリイミドフィルム30が設置された還元槽21に導入して所定の温度と圧力、例えば45℃と20MPaに保持してストップ弁11〜13を閉じて、その状態を所定時間、例えば約10分程度維持する。その後、還元槽21内の超臨界二酸化炭素を背圧弁24からトラップ25に排出する。このようにして銅分散層32の表面に残留した熱還元によって生じた反応副生成物である配位子を超臨界二酸化炭素内に抽出して除去できる。また、先の工程で取りきれなかった残留NMPも同時に除去できる。
【0056】
その後、銅分散層32が形成されたポリイミドフィルム30を還元槽21から取り出して、図3(e)に示すように、銅分散層32上に電解メッキを施して銅金属層33を形成する。この銅金属層33を形成するとき、ポリイミドフィルム30の表面に十分な導電性を持つ銅分散層32が形成されるため、この銅分散層32へ直接電解めっきによって銅金属層33を安定して形成することができる。
【0057】
この銅金属層33を形成するとき使用する銅電解めっき浴の組成を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
銅分散層32が形成されたポリイミドフィルム30を前記めっき浴へ入槽してから0.05〜0.2A/dmの弱電流密度で3〜5分間通電する。この通電により銅分散層32を銅めっき液に馴染ませて濡れ性を向上させ、ピット発生やめっき時の剥離を防ぐことができる。弱通電終了後に通電電流値を徐々に上昇させ、3〜5分かけて3A/dm〜5A/dm程度まで電流値を上昇させてから一定に保ち、所定の電鋳膜厚、例えば約20μmを得るまで通電を続ける。この通電が終了後、ポリイミドフィルム30を取り出して水洗する。
【0060】
このようにして製造されたポリイミドフィルム30上の銅金属層33に対して、フォトリソグラフィーなどで配線パターニングを行うことにより、銅配線パターンの密着強度がきわめて高いFPCを製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明の樹脂・金属層積層構造を製造する超臨界流体反応装置の構成図である。
【図2】樹脂・金属層積層構造を製造するときの処理を示す工程図である。
【図3】樹脂・金属層積層構造を製造するときの処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
1;拡散流体供給部、2;金属錯体溶解部、3;反応部、4;金属錯体回収部、
5;二酸化炭素ボンベ、6;冷却器、7;高圧ポンプ、8;ストップ弁、
9;バイパスライン、10;圧力センサ、11〜13;ステップ弁、
14;圧力センサ、15;予熱コイル、16;補助槽、17;恒温槽、
18;温度センサ、19;金属錯体、20;ストップ弁、21;還元槽、
22;加熱手段、23;温度センサ、24;背圧弁、25;トラップ、
30;基板、31;ポリイミド前駆体層、32;金属分散層、33;金属層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にポリイミド前駆体層を形成する工程と、
前記ポリイミド前駆体層を有する基板を反応容器内に設置し、該反応容器内に拡散流体に溶解分散させた金属錯体を投入し、前記反応容器内の圧力と温度を制御して前記拡散流体を超臨界流体又は亜超臨界流体状態に維持し、前記ポリイミド前駆体層に前記金属錯体を注入する工程と、
前記反応容器内の超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体の温度と圧力をさらに高めて前記ポリイミド前駆体層に注入された金属錯体を還元して金属分散層を形成する工程と、
前記反応容器から前記金属分散層が形成された基板を取り出して前記金属分散層上に電解めっきによって金属層を形成する工程と、
を有することを特徴とする樹脂・金属積層構造体の製造方法。
【請求項2】
基板上にポリイミド前駆体層を形成する工程と、
補助槽内で金属錯体を超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体に溶解分散させる工程と、
前記ポリイミド前駆体層を有する基板を反応容器内に設置し、該反応容器内に前記補助槽から拡散流体に溶解分散させた金属錯体を投入し、前記反応容器内の圧力と温度を制御して前記拡散流体を超臨界流体又は亜超臨界流体状態に維持し、前記ポリイミド前駆体層に前記金属錯体を注入する工程と、
前記反応容器に超臨界流体又は亜臨界流体状態の拡散流体を直接流通させて未反応の金属錯体を回収する工程と、
前記反応容器内の超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体の温度と圧力を高めて前記ポリイミド前駆体層に注入された金属錯体を還元して金属分散層を形成する工程と、
前記反応容器に超臨界流体又は亜臨界流体状態の拡散流体を供給して金属分散層表面に残留した反応副生成物を超臨界流体又は亜臨界流体状態の拡散流体に抽出する工程と、
前記反応容器から超臨界流体又は亜臨界流体の拡散流体を排出する工程と、
前記反応容器から前記金属分散層が形成された基板を取り出して前記金属分散層上に電解めっきによって金属層を形成する工程と、
を有することを特徴とする樹脂・金属積層構造体の製造方法。
【請求項3】
前記基板は、金属、樹脂又はセラミックのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂・金属積層構造体の製造方法。
【請求項4】
前記金属錯体は、パラジウム、ニッケル、銀、銅のいずれかのアセチルアセトン錯体又は塩化物アンモニウム錯体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂・金属積層構造体の製造方法。
【請求項5】
前記拡散流体は二酸化炭素であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂・金属積層構造体の製造方法。
【請求項6】
拡散流体供給部と金属錯体溶解部と反応部及び金属錯体回収部を有し、
前記拡散流体供給部は、拡散流体供給源から供給された拡散流体を加圧する圧力調整手段と、該圧力調整手段から拡散流体を前記金属錯体溶解部に供給する拡散流体供給ラインと、前記圧力調整手段から拡散流体を前記反応部に供給するバイパスラインとを有し、
前記金属錯体溶解部は、補助槽と、該補助槽を収納して所定の温度に維持する恒温槽とを有し、前記補助槽は、金属錯体を収納して前記拡散流体供給部の拡散流体供給ラインから供給される超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体に金属錯体を溶解分散させて前記反応部に供給し、
前記反応部は、反応容器と、該反応容器を加熱する加熱手段を有し、前記反応容器は、ポリイミド前駆体層を有する基板を設置し、前記補助槽から供給された拡散流体に溶解分散した金属錯体を、前記バイパスラインから供給される超臨界流体又は亜超臨界流体状態の拡散流体により前記ポリイミド前駆体層に注入し、注入した金属錯体を還元して金属分散層を形成し、
前記金属錯体回収部は、前記反応容器から未反応の金属錯体を回収することを特徴とする超臨界流体反応装置。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の樹脂・金属積層構造体の製造方法により作製されたことを特徴とする樹脂・金属積層構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−12729(P2010−12729A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176425(P2008−176425)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】