説明

樹脂含浸基材

【課題】 高ハンダ耐熱性を有し且つ線膨張率の小さい樹脂含浸基材を提供すること。
【解決手段】 芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位を全構造単位に対して10〜35モル%含む液晶性ポリエステルならびに非プロトン性溶媒からなる芳香族液晶ポリエステル溶液を、芳香族液晶ポリエステル繊維からなるシートに含浸せしめ、溶媒を除去して得られる樹脂含浸基材。該樹脂含浸基材の少なくとも片面に導電層を付与した導電層付樹脂含浸基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂含浸基材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子・電子機器分野において導電層を表面に付して用いられるような絶縁樹脂基材として、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、高周波特性などの特性の優れた絶縁樹脂基材の開発が望まれている。
絶縁樹脂基材としては、従来からガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させた樹脂含浸基材が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−8224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年のハンダ鉛フリー化に伴うハンダ付け温度の高温化(260℃以上)が進められつつあるところ、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させた樹脂含浸基材では耐熱性が不十分であり、260℃以上のハンダ浴に浸漬すると、エポキシ樹脂が熱劣化して樹脂含浸基材が変形するという問題が起きる場合があった。
また、プリント配線板やパッケージ基板などの用途に利用しようと絶縁樹脂基材に導電層を付与する場合には、導電層と絶縁樹脂基材の線膨張率の差が大きいとICチップ実装時などの際に導電層を付与した絶縁樹脂基材に反りが発生することがあり、このような基板用途に利用される樹脂含浸基材には線膨張率が低い基材が求められていた。
本発明の目的は、高ハンダ耐熱性を有し且つ線膨張率の小さい樹脂含浸基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位を全構造単位に対して10〜35モル%含む液晶性ポリエステルならびに非プロトン性溶媒からなる芳香族液晶ポリエステル溶液を、芳香族液晶ポリエステル繊維からなるシートに含浸せしめ、溶媒を除去して得られる樹脂含浸基材にかかるものであり、また本発明は、該樹脂含浸基材の少なくとも片面に導電層を付与した導電層付樹脂含浸基材にかかるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高ハンダ耐熱性を有し且つ線膨張率の小さい樹脂含浸基材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いられる芳香族液晶ポリエステル溶液は、芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位を全構造単位に対して10〜35モル%含む液晶性ポリエステルならびに非プロトン性溶媒からなる。
液晶性ポリエステルは、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成するものであり、構造単位として以下の式(1)、(2)、(3)で示される構造単位を含み、式(1)で示される構造単位が30〜80モル%、式(2)で示される構造単位が35〜10モル%、式(3)で示される構造単位が35〜10モル%であることが好ましい。
(1) −O−Ar1−CO−
(2) −CO−Ar2−CO−
(3) ―X−Ar3−Y−
ここで、Ar1は、1,4−フェニレン、2,6−ナフタレン、または4,4‘−ビフェニレンを表わす。Ar2は、1,4−フェニレン、1,3−フェニレン、または2,6−ナフタレンを表わす。Ar3は、1,4−フェニレンまたは1,3−フェニレンを表わす。Xは−NH−であり、Yは、−O−または−NH−を表わす。
【0008】
構造単位(1)は、芳香族ヒドロキシ酸由来の構造単位、構造単位(2)は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位、構造単位(3)は、芳香族ジアミンまたはフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位であるが、これらの代わりに、それらのエステルもしくはアミド形成性誘導体を用いてもよい。
【0009】
カルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、カルボキシル基が、ポリエステルを生成する反応を促進するような、酸塩化物、酸無水物などの反応活性が高い誘導体となっているもの、カルボキシル基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するようなアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているものなどが挙げられる。
フェノール性水酸基のエステル形成性誘導体としては、例えば、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、フェノール性水酸基がカルボン酸類とエステルを形成しているものなどが挙げられる。
アミノ基のアミド形成性誘導体としては、例えば、アミド交換反応によりポリアミドを生成するように、アミノ基がカルボン酸類とアミドを形成しているものなどが挙げられる。
【0010】
本発明に使用される液晶性ポリエステルの繰り返し構造単位としては、下記のものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0011】
式(1)で示される構造単位としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸由来の構造単位などが挙げられ、2種以上の前記構造単位が、全構造単位中に含まれていてもよい。これらの構造単位の中で、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の構造単位を含む液晶性ポリエステルを使用することが好ましい。
全構造単位に対して、構造単位(1)は30〜80モル%であることが好ましく、40〜70モル%であることがより好ましく、45〜65モル%であることがさらに好ましい。構造単位(1)が多いと溶媒への溶解性が著しく低下する傾向があり、少なすぎると液晶性を示さなくなる傾向がある。
【0012】
式(2)で示される構造単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸由来の構造単位などが挙げられ、2種以上の前記構造単位が、全構造単位中に含まれていてもよい。これらの構造単位の中で、溶媒への溶解性の観点から、イソフタル酸由来の構造単位を含む液晶性ポリエステルを使用することが好ましい。
全構造単位に対して、構造単位(2)は35〜10モル%であることが好ましく、30〜15モル%であることがより好ましく、27.5〜17.5モル%であることがさらに好ましい。構造単位(2)が多すぎると、液晶性が低下する傾向があり、少ないと溶媒への溶解性が低下する傾向がある。
【0013】
式(3)で示される構造単位としては、例えば、3−アミノフェノール、4−アミノフェノール、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミンの構造単位などが挙げられ、2種以上の前記構造単位が、全構造単位中に含まれていてもよい。これらの構造単位の中で、反応性の観点から4−アミノフェノール由来の構造単位を含む液晶性ポリエステルを使用することが好ましい。
全構造単位に対して、構造単位(3)は、35〜10モル%であることが好ましく、30〜15モル%であることがより好ましく、27.5〜17.5モル%であることがさらに好ましい。構造単位(3)が多すぎると、液晶性が低下する傾向があり、少ないと溶媒への溶解性が低下する傾向がある。
構造単位(3)は構造単位(2)と実質的に等量用いられることが好ましいが、構造単位(3)を構造単位(2)に対して、−10モル%〜+10モル%とすることにより、液晶性ポリエステルの重合度を制御することもできる。
【0014】
本発明で使用される液晶性ポリエステルの製造方法は、特に限定されないが、例えば、構造単位(1)に対応する芳香族ヒドロキシ酸、構成単位(3)に対応するフェノール性水酸基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンのフェノール性水酸基やアミノ基を過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化してアシル化物を得、得られたアシル化物と、構造単位(2)に対応する芳香族ジカルボン酸とをエステル交換・アミド交換(重縮合)して溶融重合する方法などが挙げられる。
【0015】
アシル化反応においては、脂肪酸無水物の添加量は、フェノール性水酸基とアミノ基の合計に対して、1.0〜1.2倍当量であることが好ましく、より好ましくは1.05〜1.1倍当量である。脂肪酸無水物の添加量が少なすぎると、エステル交換・アミド交換(重縮合)時にアシル化物や原料モノマーなどが昇華し、反応系が閉塞し易い傾向があり、また、多すぎると、得られる液晶性ポリエステルの着色が著しくなる傾向がある。
【0016】
アシル化反応は、130〜180℃で5分間〜10時間反応させることが好ましく、140〜160℃で10分間〜3時間反応させることがより好ましい。
【0017】
アシル化反応に使用される脂肪酸無水物は,特に限定されないが、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸などが挙げられ、これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格と取り扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、または無水イソ酪酸が好ましく、より好ましくは、無水酢酸である。
【0018】
エステル交換・アミド交換(重縮合)においては、アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。
【0019】
エステル交換・アミド交換(重縮合)は、400℃まで0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行なうことが好ましく、350℃まで0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行なうことがより好ましい。
【0020】
アシル化物とカルボン酸とをエステル交換・アミド交換(重縮合)させる際、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させるなどして系外へ留去することが好ましい。
【0021】
なお、アシル化反応、エステル交換・アミド交換(重縮合)は、触媒の存在下に行なってもよい。該触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒などを挙げることができる。
これらの触媒の中で、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾールなどの窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が好ましく使用される(特開2002−146003号公報参照)。
該触媒は、通常、モノマー類の投入時に投入され、アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく、該触媒を除去しない場合にはそのままエステル交換を行なうことができる。
【0022】
エステル交換・アミド交換による重縮合は、通常、溶融重合により行なわれるが、溶融重合と固相重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、その後、粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法により行うことが好ましい。具体的には、例えば、窒素などの不活性雰囲気下、20〜350℃で、1〜30時間固相状態で熱処理する方法などが挙げられる。固相重合は、攪拌しながらでも、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお適当な攪拌機構を備えることにより溶融重合槽と固相重合槽とを同一の反応槽とすることもできる。固相重合後、得られた液晶性ポリエステルは、公知の方法によりペレット化し、成形してもよい。
液晶性ポリエステルの製造は、例えば、回分装置、連続装置等を用いて行うことができる。
【0023】
更に、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテルおよびその変性物、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂、グリシジルメタクリレートとエチレンの共重合体などのエラストマーなどを一種または二種以上を添加してもよい。
【0024】
本発明で用いられる芳香族液晶ポリエステル溶液に用いる溶媒は、非プロトン性溶媒である。非プロトン性溶媒の使用量は、液晶性ポリエステルを溶解できれば特に限定されるものでなく、用途に応じて適宜選択することができるが、非プロトン性液体100重量部に対して液晶性ポリエステル0.01〜100重量部となるよう使用することが好ましい。液晶性ポリエステルの濃度が低いと芳香族液晶ポリエステル繊維からなるシートへの含浸が困難となる傾向があり、逆に高すぎると、高粘度化する傾向がある。作業性や経済性の観点から、非プロトン性液体100重量部に対して、液晶性ポリエステルがより好ましくは1〜50重量部となるよう、さらに好ましくは2〜40重量部となるよう使用する。
【0025】
非プロトン性溶媒としては、例えば、1−クロロブタン、クロロベンゼン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、γ―ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、トリエチルアミン、ピリジンなどのアミン系溶媒、アセトニトリル、サクシノニトリルなどのニトリル系溶媒、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルフィド系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸などのリン酸系溶媒などが挙げられる。
これらの中で、ハロゲン原子を含まない溶媒が環境への影響面から好ましく使用され、双極子モーメントが3以上5以下の溶媒が溶解性の観点から好ましく使用される。具体的には、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、またはγ−ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒がより好ましく使用され、N,N‘−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、またはN−メチルピロリドンがさらに好ましく使用される。
【0026】
本発明で使用される芳香族液晶ポリエステル溶液は、前記液晶性ポリエステルを前記溶媒に溶解させることにより得ることができるが、該溶液は、必要に応じて、フィルターなどによってろ過して溶液中に含まれる微細な異物を除去することが好ましい。
【0027】
また、該芳香族液晶ポリエステル溶液には、本発明の目的を損なわない範囲で、シリカ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムなどの無機フィラー、硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリルポリマーなどの有機フィラー、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテルおよびその変性物、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂、シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの各種添加剤が一種または二種以上添加されていてもよい。
【0028】
本発明で使用される芳香族液晶ポリエステル繊維からなるシートとしては、例えば、芳香族液晶ポリエステル繊維からなる織物、編物、不織布などが挙げられる。不織布は、乾式法と湿式法のいずれの方法でも製造できる。
芳香族液晶ポリエステル繊維に使用することができる芳香族液晶ポリエステルとしては、特に限定するものではなく、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸を単独、もしくは適宜組み合わせて重合したものを使用することができる。
【0029】
本発明の樹脂含浸基材は、芳香族液晶ポリエステル溶液を芳香族液晶ポリエステル繊維からなるシートに含浸させ、溶媒を除去させることで得られるが、溶媒を除去した後のシート厚みは、通常、30〜200μm程度である。
【0030】
溶媒除去の方法は、特に限定されないが溶媒の蒸発により行うことが好ましい。溶媒を蒸発させる方法としては、加熱、減圧、通風などの方法が挙げられる。
得られた樹脂含浸基材には、必要に応じて、熱処理を行ってもよい。
【0031】
得られた樹脂含浸基材は、単独で使用してもよいが、他のシートや膜などを積層して用いてもよい。
積層の方法は、特に限定されないが、得られた樹脂含浸基材に他のシートやフィルム(膜)などを接着剤により接着させる方法、熱プレスにより熱融着させる方法などが挙げられる。
ここで、積層される他のシートやフィルム(膜)としては、例えば、金属膜、樹脂製フィルムなどが挙げられる。
【0032】
本発明の樹脂含浸基材は、該樹脂含浸基材の片面または両面に導電層を有する導電層付樹脂含浸基材として好ましく用いられる。導電層の形成方法は、前述のように金属箔を積層させる方法、金属粉または粒子を樹脂含浸基材上にコートして導電層を形成させる方法等が一般的である。かかる金属としては、銅、アルミ、銀等が挙げられるが、導電性やコストの観点から、銅が好ましく使用される。
【0033】
金属膜(箔)の積層方法は、接着剤を用いて金属膜(箔)と樹脂含浸基材とを接着する方法、熱プレスにより熱融着させる方法が一般的である。また、金属粉または粒子のコート方法としては、めっき法、スクリーン印刷法、スパッタリング法などが利用できる。
片面または両面に導電層を有する導電層付樹脂含浸基材は、プリント配線基板やパッケージ基板として使用することができる。得られたプリント配線基板上には、導電層を保護する目的でカバーフィルムを更に積層してもよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を用いて説明するが、本発明が実施例により限定されるものでないことは言うまでもない。
【0035】
[実施例1]
(1)芳香族液晶ポリエステルの調製
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸 941g(5.0モル)、4−アミノフェノール 273g(2.5モル)、イソフタル酸 415.3g(2.5モル)および無水酢酸 1123g(11モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら150分かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。取り出した内容物を室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下200℃まで1時間で上昇し、その後250℃で3時間保持して固相で重合を進めた。得られた固形分を室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下180℃まで1時間で上昇し、その後250℃で3時間保持し固相で重合を進め、液晶性ポリエステル粉末を得た。得られた樹脂は、偏光顕微鏡観察により370℃で液晶相特有のシュリーレン模様を示した。
【0036】
(2)芳香族液晶ポリエステル溶液の調製
上記工程により得られた液晶性ポリエステル粉末 8gをN−メチルピロリドン 92gに加え、160℃に加熱して溶解させた後、室温に冷却して芳香族液晶ポリエステル溶液を得た。
【0037】
(3)樹脂含浸基材の調製
芳香族液晶ポリエステル繊維からなる不織布(クラレ製不織布HBBK22FX、厚み50μm)に、上記(2)で得た芳香族液晶ポリエステル溶液を含浸させ、ホットプレートにより設定温度100℃、1時間の条件で加熱して溶媒を蒸発させてシートを製造した。
【0038】
その後、熱風式乾燥機により300℃で1時間熱処理を行い、厚み90μmの芳香族液晶ポリエステル樹脂含浸基材を得た。当該シートについて、HP製インピーダンスアナライザーを用いて誘電正接を測定したところ0.0031(1GHz)であった。
得られた芳香族液晶ポリエステル樹脂含浸基材を、はんだ温度280℃のはんだ浴に1分間浸漬させ表面状態を観察した。該樹脂含浸基板は変形や膨れも見られなかった。
更に、得られた樹脂含浸基板について、理学製TMA装置により平面方向の線膨張率を評価したところ、平面方向の線膨張率は15ppm/℃(温度50〜100℃)であった。
【0039】
[比較例1]
エポキシ樹脂をガラスクロスに含浸させたシート(FR−4、日立化成製、厚み800μm)をはんだ温度280℃のはんだ浴に1分間浸漬させ表面状態を観察した。エポキシ樹脂含浸シートは一部が熱劣化しており基板自体の変形も見られた。HP製インピーダンスアナライザーを用いてこのエポキシ樹脂含浸シートの誘電正接を測定したところ0.012(1GHz)であった。
【0040】
[参考例]
(1)芳香族液晶ポリエステルの調製
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸 128g(0.68モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル 63.3g(0.34モル)、イソフタル酸 56.5g(0.34モル)および無水酢酸 152.7g(1.50モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で3時間保持し、固層で重合反応を進めた。得られた粉末は350℃で偏光顕微鏡により液晶相に特有のシュリーレン模様が観察された。
【0041】
(2)芳香族液晶ポリエステル溶液の調製
上記工程により得られた芳香族液晶ポリエステル粉末 0.5gをp−クロロフェノール 9.5gに加え、120℃に加熱した結果、完全に溶解した溶液が得られた。
【0042】
(3)芳香族液晶ポリエステル繊維からなる不織布の調製
2−ヒドロキシ安息香酸と2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸とからなる芳香族液晶ポリエステル繊維(クラレ社製商品名ベクトラン、融点320℃、繊度1.7dtex、繊維長7mm)70重量部と、2−ヒドロキシ安息香酸と2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸とからなる芳香族液晶ポリエステル繊維(クラレ社製商品名ベクトラン、融点265℃、繊度2.8dtex、繊維長10mm)をリファイナーで叩解して得たカナダ標準型濾水度が300mlのパルプ状物30重量部とを、分散助剤とともにパルパーを用いて水中に分散させ、更に増粘剤を添加して均一なスラリーを調製した。このスラリーを傾斜型抄紙機を用いて湿式抄紙し、40.0g/m2の湿式不織布を得た。この湿式不織布に、170℃、線圧100kg/cmの熱カレンダー処理を施し、次いで、280℃で12時間焼成処理を施した。
【0043】
(4)樹脂含浸基材の調製
この焼成処理後の芳香族液晶ポリエステル繊維からなる不織布に、上記(2)で得た芳香族ポリエステル溶液を含浸させ、ホットプレートにより設定温度100℃、1時間加熱して溶媒を蒸発させてシートを製造した。
その後、熱風式乾燥機により320℃、1時間熱処理を行い、厚み80μmの芳香族液晶ポリエステル樹脂含浸基材を得た。得られた芳香族液晶ポリエステル樹脂含浸基材を、はんだ温度280℃のはんだ浴に1分間浸漬させ表面状態を観察した。該樹脂含浸基板は変形や膨れも見られなかった。
更に、得られた樹脂含浸基板について、理学製TMA装置により平面方向の線膨張率を評価したところ、平面方向の線膨張率は90ppm/℃(温度50〜100℃)であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上詳述したように本発明によれば、高ハンダ耐熱性を有し且つ線膨張率の小さい樹脂含浸基材が提供される。また、近年の情報通信機器の分野においては周波数の高周波化(100MHz以上)が進みつつあるところ、本発明で得られる樹脂含浸基材は高周波域においても誘電正接が小さい絶縁樹脂基板として好適である。また、本発明で得られる樹脂含浸基材の少なくとも片面に導電層を有する導電層付樹脂含浸基材は、耐熱性が高いという特徴の他に、線膨張率が小さいことから、プリント配線板やパッケージ基板などに好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジアミン由来の構造単位およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来の構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位を全構造単位に対して10〜35モル%含む液晶性ポリエステルならびに非プロトン性溶媒からなる芳香族液晶ポリエステル溶液を、芳香族液晶ポリエステル繊維からなるシートに含浸せしめ、溶媒を除去して得られる樹脂含浸基材。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂含浸基材の少なくとも片面に導電層を付与した導電層付樹脂含浸基材。

【公開番号】特開2006−1959(P2006−1959A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176521(P2004−176521)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】