説明

樹脂塗装金属板

【課題】優れた耐食性を有し、さらなる他の優れた特性、具体的には優れた塗装性(塗膜密着性)、耐黒化性、潤滑性および耐テープ剥離性を有する樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板を提供すること。
【解決手段】カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂を含有する皮膜形成用組成物から得られる樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板であって、前記皮膜形成用組成物は、EDTA、DTPA、HEDP、EDTMP、NTAおよびHEDTA並びにそれらの塩よりなる群からから選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を、皮膜形成用組成物の固形分100質量部中に占める比率で0.1〜10質量部含有する樹脂塗装金属板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂塗装金属板、より詳細には耐食性、並びに塗装性(塗膜密着性)、耐黒化性、潤滑性および耐テープ剥離性に優れたクロムフリーの樹脂塗装金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品、建材に用いられる材料として、電気亜鉛めっき鋼板および溶融亜鉛めっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板、またはより一層の耐食性の向上を目的として該亜鉛めっき鋼板上にクロメート処理を施した無機系表面処理鋼板が多く用いられている。しかしながら近年の環境意識への高まりから、クロメート処理を施さない鋼板の需要が増大している。
【0003】
このようなクロメート処理に代わる耐食性向上の手段として、例えばタンニン酸を用いる方法が提案されている(例えば特許文献1および2)。しかしながらこれらの方法では、充分な耐食性を得ることができなかった。
【0004】
そこで高分子量キレート剤を主成分とする皮膜を備えた表面処理鋼板が提案されている(特許文献3および4)。これらの文献では、皮膜の主成分として高分子量キレート剤を用いることが提案されており、これらと比較するために、低分子量キレート剤、例えばタンニン酸やエチレンジアミン四酢酸(EDTA)が、不充分な耐食性しか示さない比較例として挙げられている。
【0005】
しかしながら特許文献3および4に記載されている皮膜の特性は、主成分である高分子量キレート剤の種類に依存するため、該皮膜に耐食性以外のさらなる特性を付与することが難しい。さらに特許文献4では、高分子量キレート剤を製造するために有機高分子マトリックスにキレート形成基を付与することが提案されているが、このようなキレート形成基を付与するための高分子反応は一般に手間がかかり、その結果として表面処理鋼板の製造コストが高くなる。
【特許文献1】特開昭51−71233号公報
【特許文献2】特開2001−89868号公報
【特許文献3】特開平11−158649号公報
【特許文献4】特開平11−166151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の課題は、優れた耐食性を有し、さらなる他の優れた特性、具体的には優れた塗装性(塗膜密着性)、耐黒化性、潤滑性および耐テープ剥離性を有する樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決することができた本発明の樹脂塗装金属板とは、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂を含有する皮膜形成用組成物から得られる樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板であって、前記皮膜形成用組成物は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、N,N,N’,N’−テトラキス(ホスホノメチル)エチレンジアミン(EDTMP)、ニトリロ三酢酸(NTA)およびヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(HEDTA)、並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を、皮膜形成用組成物の固形分100質量部中に占める比率で0.5〜10質量部含有することを特徴とする。
【0008】
前記キレート剤の中で好ましいものは、(1)Naイオンを含む塩形態、(2)Naイオンを含み、かつMg、Ca、Co、Zn、MnおよびFeイオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む塩形態、(3)アミンのイオンまたはアンモニウムイオンを含む塩形態、あるいは(4)アミンのイオンまたはアンモニウムイオンを含み、かつNa、Mg、Ca、Co、Zn、MnおよびFeイオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む塩形態のEDTA、DTPA、HEDP、EDTMP、NTAまたはHEDTAである。
【0009】
本発明の好ましい実施態様において、前記皮膜形成用組成物は、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂:30〜93.5質量部;シリカ粒子:5〜40質量部;ポリエチレンワックス粒子:0.5〜15質量部;及びエポキシ系架橋剤:1〜15質量部を含有し、前記ポリウレタン樹脂は、ウレタンプレポリマーを鎖延長剤で鎖延長反応して得られるものであって、前記ウレタンプレポリマーを構成するポリイソシアネート成分として、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートおよびジシクロヘキシルメタンジイソシアネートよりなる群から選択される少なくとも1種を必須的に使用し、前記ウレタンプレポリマーを構成するポリオール成分として、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエーテルポリオール、及び、カルボキシル基を有するポリオールの全てを必須的に使用したものである。好ましい実施態様において、前記皮膜形成用組成物の組成を前記の様にするとともに、特定組成のポリウレタン樹脂を使用することにより、耐食性、塗装性、さらには、潤滑性が一層高められた樹脂塗装金属板を得ることができる。
【0010】
前記鎖延長剤として好ましいのは、エチレンジアミンまたはヒドラジンである。前記1,4−シクロヘキサンジメタノールと前記ポリエーテルポリオールの質量比が1,4−シクロヘキサンジメタノール:ポリエーテルポリオール=1:1〜1:19であることが望ましい。また、前記ポリエーテルポリオールとして好ましいのは、ポリオキシプロピレングリコールまたはポリテトラメチレンエーテルグリコールである。前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の酸価は10〜60mgKOH/gであることが好ましい。
【0011】
また、前記ポリエチレンワックス粒子は、球形で平均粒子径が0.1〜3μmであることが好ましい。前記ポリエチレンワックス粒子の軟化点は、例えば100〜140℃であることが好ましい。前記樹脂皮膜の造膜温度は、ポリエチレンワックス粒子の軟化点未満とすることにより、ポリエチレンワックス粒子の形状が樹脂皮膜中で球形に保持され、潤滑性を一層高めることができる。
【0012】
前記皮膜形成用組成物が、さらに、酸価5mgKOH/g以上の第2のカルボキシル基含有樹脂を、前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂含有量の半分の質量以下含有し、前記第2の樹脂と前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂とが第2の架橋剤で架橋された樹脂皮膜が形成されていることも好ましい態様である。前記第2の架橋剤は、エポキシ系架橋剤、2価の金属系架橋剤、またはアジリジン系架橋剤であることが好ましい。
【0013】
また本発明の金属板が亜鉛系めっき鋼板である場合には、亜鉛系めっき層上に表面改質層が形成され、該表面改質層上に前記樹脂皮膜が形成されている樹脂塗装金属板であって、前記表面改質層が、Si換算で1〜30mg/m2のSiO2、P:0.5〜15mg/m2、Al:0.5〜10mg/m2を含有することも好ましい態様である。さらに、前記表面改質層中に含まれるSi、P、およびAlの含有量が下記数式(1)および(2)の関係式を満足するものは、一段と優れた耐テープ剥離性を発揮すると共に、アルカリ脱脂後の耐テープ剥離性においても優れたものとなる。
0.5≦Si/P≦20……数式(1)
0.7≦P/Al≦4.5……数式(2)
【0014】
前記表面改質層が、さらに有機系樹脂を含有することも好ましい態様である。前記表面改質層に含まれる有機系樹脂の構造に由来するFT−IRの吸収強度(ピーク面積)は、0.1〜15であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の表面処理剤は、前記表面改質層を形成するためのシリカ含有リン酸系表面処理剤であって、該処理剤は固形分濃度が0.01〜15%(質量%を意味する、以下同じ)であり、且つ、該処理剤に含まれるSi、P、およびAlの含有量と組成比(質量比)が下記の要件を満足することを特徴とする。
Si:0.002〜4.5%
P:0.0005〜1.5%
Al:0.0001〜0.5%
4.5≦Si/Al≦230、1.5≦Si/P≦60。
【0016】
前記表面処理剤は、さらに有機系樹脂を含有し、有機系樹脂の添加濃度が0.01〜3g/Lであることも好ましい態様である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐食性に優れた樹脂塗装金属板が得られる。殊に、EDTAやその塩のような低分子量キレート剤を少量(組成物の固形分100質量部中に占める比率で0.5〜10質量部)含有する皮膜形成用組成物から形成される皮膜を備えた樹脂塗装金属板が、優れた耐食性を示すことは驚くべきことである。なぜなら、従来このような低分子量キレート剤は、耐食性を向上させる効果が不充分であると考えられていたからである。
【0018】
また耐食性付与のために好ましいと考えられていた高分子量キレート剤を、有機樹脂などを含む皮膜形成用組成物と混合すると、ゲル化などの不具合を生じ得るが、本発明で用いられるEDTAやその塩などの低分子量キレート剤は、皮膜形成用組成物のその他の成分との相溶性が良好でゲル化を生ずることがなく、樹脂塗装金属板に良好な耐食性を付与することができる。
【0019】
さらに本発明によれば、皮膜形成用組成物中において、EDTAやその塩のようなキレート剤以外の成分およびその組成を、前記の好ましい実施態様のものに調整することにより、樹脂塗装金属板の皮膜にさらなる好ましい特性、即ち優れた塗装性、耐黒化性、潤滑性および耐テープ剥離性を与えることができる。また好ましい態様の皮膜形成用組成物を用いることで、キレート剤によって実現された耐食性を、さらに向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の樹脂塗装金属板は、金属板の少なくとも片面に、EDTA、DTPA、HEDP、EDTMP、NTAおよびHEDTA、並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を、皮膜形成用組成物の固形分100質量部中に占める比率で0.5〜10質量部含有する皮膜形成用組成物から形成された皮膜を備えたものである。本発明において固形分とは、皮膜形成用組成物を加熱乾燥することにより揮発成分(例えば水または有機溶剤など)が蒸発した後に皮膜として金属板上にとどまる固形残分をいう。よって固形分の中には、樹脂(室温で固形状または液状のものを含む。)や無機固形物(例えばシリカ)などが含まれる。
【0021】
本発明において用いられる低分子量キレート剤は、EDTA、DTPA、HEDP、EDTMP、NTAおよびHEDTA、並びにそれらの塩であり、これらの中でも塩形態のキレート剤を用いることが、水性の皮膜形成用組成物への溶解性の観点から好ましい。本発明における塩形態のキレート剤とは、キレート剤中に含まれる複数の酸官能基の一部または全部が中和されたものをいう。従って、例えばEDTA塩は、4つのカルボキシル基中の1つだけがNaOHなどの塩基により中和されたもの(例えば一ナトリウム塩:EDTA・Na)から、全てのカルボキシル基がNaOHなどの塩基により中和されたもの(例えば四ナトリウム塩:EDTA・4Na)を包含する。さらに塩形態のキレート剤には、その複数の酸官能基の一部がNaOHなどにより中和され、他の酸官能基がアミンにより中和されたNa・アミン塩(例えばキレスト(株)製のキレストM−50:EDTA・2Na・アミン塩)などが含まれる。
【0022】
塩形態のキレート剤の中で好ましいものとしては、(1)Naイオンを含むもの(Na塩)、(2)Naイオンを含み、かつMg、Ca、Co、Zn、MnおよびFeイオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含むもの(Na・他の金属の複合塩)、(3)アミンのイオンまたはアンモニウムイオンを含むもの(アミンまたはアンモニウム塩)、あるいは(4)アミンのイオンまたはアンモニウムイオンを含み、かつNa、Mg、Ca、Co、Zn、MnおよびFeイオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含むもの(アミンまたはアンモニウム・金属の複合塩)が挙げられる。
【0023】
キレート剤は、例えばキレスト株式会社から市販されており、そのキレスト株式会社製のEDTA系のキレート剤として、キレストMg−40、キレストM−50、キレストODなど;DTPA系としてキレストP、キレストPS、キレストPC−45など;HEDP系としてキレストPH−212、キレストPH−214など;EDTMP系としてキレストHP−540など;NTAとしてキレスト70、キレストNTAなど;HEDTAとしてキレストHなどを例示することができる。
【0024】
ここで、EDTAやその塩のような低分子量キレート剤が耐食性の向上に寄与するメカニズムは必ずしも明確ではないが、例えば亜鉛系めっき鋼板の場合、これら低分子量キレート剤と、腐食環境下で溶出するZnイオンなどの金属イオンとが安定なキレート化合物を形成し、この安定なキレート化合物が腐食部分を覆うことなどにより、さらなる腐食を防ぐのではないかと考えられる。
【0025】
本発明の皮膜形成用組成物中のEDTAやその塩等の低分子量キレート剤の含有量は、皮膜形成用組成物の固形分100質量部中に占める比率で0.5〜10質量部である。低分子量キレート剤の含有量が0.5質量部未満であると、安定なキレート化合物の生成が不充分であり、耐食性も不充分となる。一方、低分子量のキレート剤が10質量部を超えても耐食性は低下傾向となる。多量の低分子量キレート剤を配合することで耐食性が低下し得る理由は明らかではないが、キレート剤と、皮膜形成用組成物中に含まれ得る有機樹脂、架橋剤またはシランカップリング剤などが反応することにより、皮膜の造膜性に影響を及ぼすことなどが考えられる。該皮膜の造膜性や他の塗膜との密着性の観点から、より好ましいキレート剤含有量の上限は、皮膜形成用組成物の固形分100質量部中に占める比率で5質量部であり、さらに好ましい上限は3質量部であり、より好ましいキレート剤含有量の下限は1質量部である。
【0026】
本発明で使用する皮膜形成用組成物は、特に限定されるものではないが、水性組成物を使用するのが好ましい態様であり、例えばカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水性分散液、シリカ粒子、ポリエチレンワックス粒子、およびエポキシ系架橋剤を含む皮膜形成用水性組成物を好適に使用することができる。皮膜形成用組成物として、水性組成物を使用すれば、金属板の表面に塗布して乾燥することにより、容易に樹脂皮膜を形成できるからである。また、水性組成物は、溶剤系組成物に比べて、環境にやさしく、安全衛生上の問題や火災などの危険も少なく、取扱いが容易だからである。
【0027】
本発明の好ましい実施態様における前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂は、ウレタンプレポリマーを鎖延長剤で鎖延長反応して得られるものであり、前記ウレタンプレポリマーは、後述するポリイソシアネート成分とポリオール成分とを反応させて得られる。前記ウレタンプレポリマーを構成するポリイソシアネート成分としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)およびジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)よりなる群から選択される少なくとも1種のポリイソシアネートを必須的に使用することが好ましい。かかるポリイソシアネートを使用することにより、耐食性、反応制御の安定性に優れる樹脂皮膜が得られるからである。
【0028】
前記の必須的に使用することが好ましいポリイソシアネート(以下、「必須ポリイソシアネート」と省略する。)の他にも、耐食性や反応制御の安定性を低下させない範囲で他のポリイソシアネートを使用することができるが、必須ポリイソシアネート成分の含有率は、全ポリイソシアネート成分の70質量%以上としておくことが望ましい。必須ポリイソシアネート成分の含有率が70質量%未満であると、耐食性や反応制御の安定性が低下する傾向があるからである。前記必須ポリイソシアネート成分以外のポリイソシアネートとしては、例えばテトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカンメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネートなどを挙げることができる。前記ポリイソシアネートは、単独、または少なくとも2種以上を混合して使用してもよい。
【0029】
前記ウレタンプレポリマーを構成するポリオール成分として、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエーテルポリオール、及び、カルボキシル基を有するポリオールの3種類の全てのポリオールを必須的に使用し、好ましくは、3種類全てをジオールとすることが好ましい。かかるポリオール成分を使用することにより、耐食性や摺動性に優れる樹脂皮膜が得られるからである。また、ポリオール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノールを使用することによって、得られるポリウレタン樹脂の防錆効果を高めることができる。
【0030】
前記ポリエーテルポリオールは、分子鎖にヒドロキシル基を少なくとも2以上有し、主骨格がアルキレンオキサイド単位によって構成されているものであれば特に限定されるものではなく、例えばポリオキシエチレングリコール(単に、「ポリエチレングリコール」と言われる場合がある)、ポリオキシプロピレングリコール(単に、「ポリプロピレングリコール」と言われる場合がある)、ポリオキシテトラメチレングリコール(単に、「ポリテトラメチレングリコール」または「ポリテトラメチレンエーテルグリコール」と言われる場合がある)などを挙げることができ、市販されているものを使用することができる。前記ポリエーテルポリオールの中でも、ポリオキシプロピレングリコールまたはポリテトラメチレンエーテルグリコールを使用することが好ましい。前記ポリエーテルポリオールの官能基数は、少なくとも2以上であれば特に限定されず、例えば3官能、4官能以上の多官能であってもよい。
【0031】
前記ポリエーテルポリオールは、例えば活性水素を有する化合物を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを付加させることにより得られる。前記活性水素を有する化合物としては、例えばプロピレングリコール、エチレングリコールなどのジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、トリエタノールアミンなどのトリオール、ジグリセリン、ペンタエリスリトールなどのテトラオール、その他、ソルビトール、ショ糖、リン酸などを挙げることができる。この際、使用する開始剤としてジオールを使用すれば、2官能のポリエーテルポリオールが得られ、トリオールを使用すれば、3官能のポリエーテルポリオールが得られる。またポリオキシテトラメチレングリコールは、例えばテトラヒドロフランの開環重合により得られる。
【0032】
前記ポリエーテルポリオールは、例えば平均分子量が約400〜4000程度までの市販のものを使用することが好ましい。平均分子量が約400未満だと樹脂皮膜が硬く、4000を超えると柔らかくなりすぎるからである。なお平均分子量は、ポリオールのOH価(水酸基価)から求めた。
【0033】
本発明において、前記1,4−シクロヘキサンジメタノールとポリエーテルポリオールの質量比を、1,4−シクロヘキサンジメタノール:ポリエーテルポリオール=1:1〜1:19とすることも好ましい態様である。防錆効果を有する1,4−シクロヘキサンジメタノールを一定比率使用することによって、得られるポリウレタン樹脂の防錆効果を一層高めることができるからである。
【0034】
本発明で使用するカルボキシル基を有するポリオールは、少なくとも1以上のカルボキシル基と少なくとも2以上のヒドロキシル基を有するものであれば、特に限定されず、例えばジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジヒドロキシプロピオン酸、ジヒドロキシコハク酸などが挙げられる。
【0035】
前記の必須的に使用することが好ましいポリオール成分(以下、「必須ポリオール成分」と省略する。)の他にも、耐食性を低下させない範囲で他のポリオールを使用することができるが、必須ポリオール成分の含有率は、全ポリオール成分の70質量%以上であることが望ましい。必須ポリオール成分の含有率が70質量%未満であると、耐食性が低下する傾向があるからである。上述した必須ポリオール成分以外のポリオールとしては、水酸基を複数有するものであれば特に限定されず、例えば低分子量のポリオールや高分子量のポリオールなどを挙げることができる。低分子量のポリオールは、分子量が500程度以下のポリオールであり、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール等のジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。
【0036】
高分子量のポリオールは、分子量が500程度を超えるポリオールであり、例えばポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などの縮合系ポリエステルポリオール;ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)のようなラクトン系ポリエステルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリカーボネートポリオール;及びアクリルポリオールなどが挙げられる。
【0037】
また、上述したウレタンプレポリマーを鎖延長反応する鎖延長剤としては、特に限定されないが、例えばポリアミン、低分子量のポリオール、アルカノールアミンなどを挙げることができる。前記低分子量のポリオールとしては、上述したのと同じものを使用することができ、前記ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン;トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミン;ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、イソホロンジアミンなどの脂環式ポリアミン;ヒドラジン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジドなどのヒドラジン類などを挙げることができる。これらの中でも、エチレンジアミンおよび/またはヒドラジンを鎖延長剤成分として使用することが好ましい。また、前記アルカノールアミンとして、例えばジエタノールアミン、モノエタノールアミンなどを挙げることができる。
【0038】
本発明では、上述したように、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水性分散液を使用することが好ましい態様である。前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水性分散液の作製は、公知の方法を採用することができ、例えばカルボキシル基含有ウレタンプレポリマーのカルボキシル基を塩基で中和して、水中に乳化分散して鎖延長反応させる方法、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂を乳化剤の存在下で、高せん断力で乳化分散して鎖延長反応させる方法などがある。以下、カルボキシル基含有ウレタンプレポリマーのカルボキシル基を塩基で中和して水中に乳化分散させる方法に基づいて、ポリウレタン樹脂の水性分散液の調製方法を説明するが、本発明は、かかる方法に限定されるものではない。
【0039】
まず、上述したポリイソシアネートと上述したポリオールとを使用して、NCO/OH比でイソシアネート基が過剰になるようにして比較的低分子量のカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを作製する。ウレタンプレポリマーを合成する温度は、特に限定されないが、50〜200℃の温度で合成することができる。また、ウレタンプレポリマーの合成には、公知の触媒を使用することができる。前記触媒としては、例えばトリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミンなどのモノアミン類;N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミンなどのポリアミン類;1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミンなどの環状ジアミン類;ジブチルチンジラウリレート、ジブチルチンジアセテートなどの錫系触媒などが挙げられる。
【0040】
また、ウレタンプレポリマーの合成に際しては、ワンショット法を採用してもよく、また、プレポリマー法を採用してもよい。ワンショト法とは、ポリイソシアネートとポリオールとを一括に反応させる方法であり、プレポリマー法とは、多段階でポリイソシアネートとポリオールとを反応させる方法であり、例えば一旦低分子量のウレタンプレポリマーを合成した後、さらに高分子量化する方法である。
【0041】
本発明では、例えばポリイソシアネートと必須ポリオール成分の全てを一括に反応させる態様;ポリイソシアネートと、必須ポリオール成分の内、まずポリエーテルポリオールとを反応させた後、次いで、1,4−シクロヘキサンジメタノール、およびカルボキシル基を有するポリオールをさらに反応させる態様、或いは必須ポリオール成分の内、まずポリエーテルポリオールと1,4−シクロヘキサンジメタノールとを反応させた後、次いでカルボキシル基を有するポリオールを反応させる態様などを適宜選択して、ウレタンプレポリマーを合成するようにすればよい。
【0042】
カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーの作製に際しては、粘度の調整および、該プレポリマーの乳化分散性を向上させる観点から溶剤を使用することも好ましい態様である。前記溶剤としては、イソシアネート基に対して不活性な溶剤で、比較的親水性の高い溶剤を使用することが好ましく、例えばN−メチルピロリドン、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミドなどを使用することができ、好ましくは、N−メチルピロリドンを使用する。N−メチルピロリドンは、カルボキシル基を有するポリオールに対する溶解性が高く、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを調製する反応を均一にできるからである。なおウレタンプレポリマーの反応は、例えばジブチルアミン滴定法によりイソシアネート基濃度を求めて、反応率を求めることができる。
【0043】
ウレタンプレポリマー反応終了後、得られたカルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーは、塩基で中和することによって、水中へ乳化分散される。前記中和剤としては、特に限定されるものではないが、アンモニア;トリエチルアミン、トリエタノールアミンなどの3級アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物を使用することができ、好ましくは、トリエチルアミンを使用する。
【0044】
カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを乳化分散した後、水中でポリミアンなどの鎖延長剤を使用して鎖延長反応を行うことができる。なお鎖延長反応は、使用する鎖延長剤の反応性に応じて、乳化分散前、乳化分散と同時、或いは、乳化分散後に適宜行うことができる。
【0045】
本発明で使用するカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の酸価は、10mgKOH/g以上、60mgKOH/g以下であることが望ましい。酸価が10mgKOH/g未満であると、ポリウレタン樹脂水性分散液の安定性が低下するからである。また、酸価が60mgKOH/g超になると、得られる樹脂皮膜の耐食性が低下する傾向がある。前記酸価の測定は、JIS−K0070に準ずる。
【0046】
本発明の好ましい実施態様で使用される皮膜形成用組成物は、質量部の比率で、前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂:30〜93.5質量部;シリカ粒子:5〜40質量部;ポリエチレンワックス粒子:0.5〜15質量部;及びエポキシ系架橋剤:1〜15質量部を含有する。各成分の含有量を前記の様にすることによって、耐食性、塗装性、潤滑性などの特性を一層高めることができる。なお前記各成分の含有量は、合計が100質量部となるようにすることが好ましい。また、皮膜形成用組成物が水性組成物の場合は、前記各成分(合計100質量部)の他に、さらに水を含有し、水の含有量は、皮膜形成用水性組成物の塗工性などに応じて適宜調整すればよい。以下、各成分について説明する。
【0047】
前記の好ましい皮膜形成用組成物は、シリカ粒子を5質量部以上、より好ましくは8質量部以上、40質量部以下、より好ましくは30質量部以下含有する。前記シリカ粒子は、耐食性、塗装性を付与し、さらには加工時の皮膜の疵付き、黒化現象の発生などを抑制するために有効である。シリカの含有量が5質量部より少なくなると耐食性や耐黒化性が低下する傾向がある。また、シリカの含有量が40質量部を超えると、樹脂皮膜の造膜性が低下し、耐食性が低下したり、シリカが増摩剤として作用することで皮膜の摩擦係数を高め、潤滑性が低下することで加工性が劣化する場合がある。また前記シリカ粒子の効果を最大限に発揮させるためには、シリカ粒子の平均粒子径が1〜300nmの範囲にあることが好ましい。シリカ粒子の平均粒子径が小さくなるほど、樹脂皮膜の耐食性が向上するが、平均粒子径が1nm程度未満になると、耐食性の向上効果が飽和する傾向があり、また、樹脂皮膜形用水性組成物の安定性が低下してゲル化しやすくなるからである。一方、シリカの平均粒子径が300nmを超えると、皮膜の造膜性が低下し、耐食性が低下する傾向がある。
【0048】
前記シリカ粒子の平均粒子径の測定方法としては、シアーズ法、BET法、および動的光散乱法などを挙げることができ、例えば粒子径が4〜6nmの場合にはシアーズ法を、粒子径が10〜100nmの場合にはBET法を、鎖状シリカの場合は動的光散乱法を採用することが好ましい。前記シリカ粒子としては、例えば日産化学工業(株)より入手可能なST−XS,ST−40、ST−50、ST−XL、ST−OL、ST−ZLなどのST−シリーズを挙げることができる。
【0049】
本発明の好ましい実施態様における皮膜形成用組成物は、ポリエチレンワックス粒子を0.5〜15質量部含有する。前記ポリエチレンワックス粒子は、樹脂皮膜に潤滑性を付与し、さらには、プレス加工時の樹脂皮膜の疵付き、黒化現象の発生等を抑制するのに有効である。前記ポリエチレンワックス粒子の含有量が0.5質量部より少ない場合、得られる樹脂皮膜の潤滑性の向上が充分でない。また、前記ポリエチレンワックス粒子の含有量が15質量部を超えると、得られる樹脂皮膜と金属板との密着性が低下し、プレス加工時に皮膜が剥離し、加工後の耐食性が低下する傾向がある。さらに、得られる樹脂皮膜と塗料との密着性が低下するので、塗装性も低下する場合がある。
【0050】
前記ポリエチレンワックス粒子の軟化点は、100〜140℃であることが好ましい。軟化点が100℃未満では、プレス加工時の金型温度の上昇によって、ワックスが軟化し、液化することによって、金属板と金型間で液切れ状態を起こし、打ち抜き加工性が低下するからである。他方、軟化点が140℃を超えるポリエチレンワックス粒子では、良好な打ち抜き加工性が得られない。なお軟化点は、JIS−K2207記載の環球法によって測定することができる。
【0051】
前記ポリエチレンワックス粒子としては、球形で平均粒子径が0.1〜3μmのものを使用することが好ましい。平均粒子径が3μmを超える場合には、ポリウレタン樹脂水性分散液へ均一に分散することが困難になり、得られる樹脂皮膜の金属板への密着性および塗装性が低下する傾向がある。一方、ポリエチレンワックス粒子の平均粒子径が0.1μmよりも小さいときは、ポリエチレンワックス粒子の添加による樹脂皮膜の潤滑性および打ち抜き加工性の向上効果を得ることができない場合がある。なおポリエチレンワックス粒子の平均粒子径は、コールターカウンター法により測定することができる。前記ポリエチレンワックス粒子として、例えば三井化学(株)より入手可能なケミパール(ポリオレフィン水性ディスパージョン)を挙げることができる。
【0052】
また、樹脂皮膜形成用水性組成物を塗布後、乾燥する温度(以下、「造膜温度」という場合がある)を、ポリエチレンワックス粒子の軟化点未満としておけば、樹脂皮膜中に分散させるポリエチレンワックス粒子の形状を球形に保持することができ、潤滑性をさらに高めることができるとともに、塗装性を向上させる効果が得られる。
【0053】
本発明における皮膜形成用組成物は、エポキシ系架橋剤を1〜15質量部含有することが好ましい。架橋剤を使用することにより、得られる樹脂皮膜の硬度が高くなり、潤滑性を向上することができる。また、エポキシ系架橋剤を使用するのは、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂のカルボキシル基に対する架橋反応性に富むからである。前記エポキシ系架橋剤は、エポキシ基を2以上有するものであれば特に限定されず、例えばビスフェノール系などを利用でき、油化シェルエポキシ社製:エピコート825、828や大日本インキ化学工業社製:エピクロンCR75またはCR5Lなどが挙げられる。
【0054】
本発明では、金属板の表面に形成される樹脂皮膜の特性をさらに改良する目的で、前記皮膜形成用組成物が、酸価5mgKOH/g以上の第2のカルボキシル基含有樹脂を含有することも好ましい態様である。前記皮膜形成用組成物中の第2のカルボキシル基含有樹脂の含有量は、上述したカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂含有量の半分の質量以下であることが好ましい。また、前記第2のカルボキシル基含有樹脂の形態は、前記皮膜形成用水性組成物に安定に添加できる態様であれば特に限定されないが、例えば水性分散液または水溶液の形態であることが好ましい。
【0055】
例えば第2のカルボキシル基含有樹脂として、エチレン・α,β−エチレン性不飽和カルボン酸共重合樹脂を使用すれば、樹脂皮膜に密着性や可とう性を付与することができる。前記エチレン・α,β−エチレン性不飽和カルボン酸共重合樹脂としては、例えば60〜99質量%のエチレンと1〜40質量%のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸からなるものが挙げられる。前記共重合樹脂としては、例えばランダム共重合体、ブロック共重合体、不飽和共重合体、不飽和カルボン酸がグラフト重合したグラフト共重合体、さらには、ターポリマー樹脂などの態様であってもよい。
例えば第2のカルボキシル基含有樹脂として、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、さらに各種共重合樹脂、合成ゴム、セラックなどの天然系樹脂などを使用すれば、樹脂皮膜の塗装性を向上し、樹脂皮膜の硬度を調整することができる。
【0056】
また、樹脂皮膜の潤滑性を向上させるため、樹脂合成段階で合成ワックスを添加することもできる。前記合成ワックスとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンワックスなどの酸化物、これらのカルボキシル基を付与した誘導体などの変性ワックスも含まれる。さらにエチレンやプロピレンとの共重合系ワックス、エチレン系共重合ワックスの酸化ワックスがある。この系統は、共重合相手の変化でターポリマー系も含め多種使用することができる。さらにマレイン酸の付加ワックス、脂肪酸エステル系などを例示することができる。工業的に好ましいのは、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、変性ワックス、エチレンやプロピレンとの共重合系ワックス、エチレン系共重合ワックスで、これらの酸化物、およびカルボキシル基を付与した誘導体など、また酸価を付与したパラフィン系ワックス、カルナバワックスなどである。
【0057】
酸価のないまたは相溶性のないワックスについては、エマルジョンが不安定、またはエマルジョンを塗布した時の塗装外観が劣り、またワックスのブリードなどの現象が起きる。本発明では、ワックス樹脂の乳化等の必要性からカルボキシル基を有するワックスの水系物を使用することが好ましく、ワックスの酸価は5mgKOH/g以上が好ましく、市販のワックスで効果が得られる。
【0058】
これらのワックス類を乳化するために、その使用目的に応じて界面活性剤を使用する方法、自己乳化させる方法、さらには機械的な分散方法などがとられる。界面活性剤には、通常アニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、反応性界面活性剤などを使用できる。前記自己乳化法において使用する塩基としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、モルホリン、トリエチルアミンなどのアミン類を挙げることができる。
【0059】
本発明では、上述した酸価5mgKOH/g以上の第2のカルボキシル基含有樹脂と上述したカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂とを第2の架橋剤を用いて架橋させることも好ましい態様である。前記第2の架橋剤としては、カルボキシル基と架橋反応することができるものであれば、特に限定されず、金属系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤などが挙げられ、単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。前記金属系架橋剤として、例えばBa、Fe、Ca、Mg、Cu、ZnおよびMnなどの2価の金属化合物、例えばBaCO3、FeCO3、CaCO3、MgCO3、CuCO3、ZnCO3、MnCO3などの金属炭酸塩、Ba(OH)2、Fe(OH)2、Ca(OH)2、Mg(OH)2、Cu(OH)2、Zn(OH)2、Mn(OH)2などの金属水酸化物、ZnO、MgOおよびCaOなどの金属酸化物などを挙げることができる。この他、カルシウム化合物としてさらに好ましいものは、乳酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ステアロイル乳酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三水素カルシウムなどであり、必要に応じ併用される他の金属系も同様である。
【0060】
前記第2の架橋剤として使用するアジリジン系架橋剤として好ましいのは、分子中に平均1.5〜3.5個の下記化学式(1)で表わされる活性基を有するアジリジン化合物である。
【0061】
【化1】

(式中、R1〜R4は、水素または炭素数1〜4のアルキル基)
【0062】
前記アジリジン化合物として、例えばエチルイミン、トリアジリジニルホスフィンオキサイド、アジリジニルエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアジリジン、ヘキサメチレンビスアジリジンカルボキシアマイド、ジフェニルメタンビスアジリジンカルボキシアマイド、トリメチロールプロパンアジリジニルプロピオネート、テトラメチロールプロパンアジリジニルプロピオネート、トルエンビスアジリジンカルボキシアマイド、ビスフタロイルメチルアジリジン、トリメチロールプロパンメチルアジリジンプロピオネートなどを挙げることができるが、これらの限定されるものではない。
【0063】
第2の架橋剤として使用できるエポキシ系架橋剤は、分子内に少なくとも2以上のエポキシ基を有するものであれば特に限定されず、例えばジエポキシ化合物、さらには多価エポキシ化合物と通常架橋剤として用いられるエポキシ化合物の乳化物、また水に可溶なエポキシ化合物のいずれも市販品を使用することができる。前記第2の架橋剤の使用量は、樹脂皮膜中の全カルボキシル基に対して、0.01倍当量以上、より好ましくは0.05倍当量以上であって、1倍当量以下、より好ましくは0.5倍当量以下とすることが好ましい。架橋剤の使用量が少なすぎると充分な架橋効果が得られず、一方、使用量が多すぎると樹脂皮膜形成用水性組成物が増粘するからである。
【0064】
本発明において、金属板への樹脂皮膜の付着量は、乾燥重量で0.3〜2.5g/m2の範囲が好ましい。付着量が0.3g/m2よりも少ない時は、皮膜形成用組成物を均一に塗布することができず、潤滑性、耐食性など目的とするバランスのとれた性能を充分に発揮することができない。また、付着量が2.5g/m2を超える場合は、プレス加工の際に樹脂皮膜の剥離量が多くなって、金型に剥離皮膜が蓄積し、プレス成形に支障を生じるほか、導電性および溶接性が低下する傾向がある。さらに、製造費用も高くなる。
【0065】
本発明で使用する金属板は、特に限定されないが亜鉛系めっき鋼板であることが好ましく、例えば溶融純亜鉛めっき鋼板(GI)、または合金化溶融Zn−Feめっき鋼板(GA)、合金化溶融Zn−5%Alめっき鋼板(GF)、電気純亜鉛めっき鋼板(EG)、電気Zn−Niめっき鋼板、アルミ板、Ti板などを好適に使用することができる。
【0066】
樹脂皮膜を金属板の表面に形成する方法は、特に限定されないが、例えば皮膜形成用水性組成物を調製し、該水性組成物を金属板の表面に塗布、乾燥することにより形成できる。樹脂皮膜を形成する前に、金属板表面にCoまたはNi等処理、インヒビター処理、或いは、各種ノンクロメートの下地処理を行ってもよい。
【0067】
金属板として亜鉛系めっき鋼板を使用する場合には、亜鉛系めっき層上に下記の表面改質層を設けて、前記表面改質層上に上述した樹脂皮膜を形成することが好ましい態様である。亜鉛系めっき層上に設ける表面改質層としては、Si換算で1〜30mg/m2のSiO2、P:0.5〜15mg/m2、Al:0.5〜10mg/m2を含有するものが好適であり、より好適には、前記表面改質層は、前記SiO2、P、および、Alに加えて、さらに有機系樹脂を含有する。本態様における表面改質層は、上述した耐食性、加工性、塗装性、潤滑性などの諸特性を一層高めるとともに、ノンクロメート処理系亜鉛系めっき鋼板に指摘される「耐テープ剥離性」を高めるための手段として有効であり、亜鉛系めっき鋼板の表面に形成される表面改質層中に、Si換算で1〜30mg/m2のSiO2、P:0.5〜15mg/m2、およびAl:0.5〜10mg/m2を含有させるところに特徴がある。
【0068】
なお本態様における「耐テープ剥離性」とは、表面処理亜鉛系めっき鋼板に粘着ラベルや粘着テープを貼付して放置した後、これを引き剥がした時に、該テープを剥離する際に表面処理層が同時に剥離することのない耐剥離特性をいう。即ち表面処理鋼板は、帯状鋼板をロール巻きにして出荷され、需要者でコイルを巻き戻してから切り板として使用されるが、その際、使い残しコイルの端部を粘着テープで仮止めして保管されることがある。また切り板は、打抜き、塗油、プレス加工、アルカリ脱脂などの工程を経てAV製品ケースや部品に加工されるが、その際に、ケースや部品の表面に品番やサイズ、グレードなどを表示した粘着ラベルを貼付することがある。テープ剥離とは、需要者が前記粘着テープや粘着ラベルを剥離する際に、亜鉛系めっき表面に上塗りした皮膜がテープと共にめっき表面から剥離する現象をいい、表面処理鋼板の品質上極めて重要な問題であり、これが発生すると重大な製品欠陥となる。この耐テープ剥離性の程度は、テープ剥離試験に供される粘着テープの種類、殊に粘着剤の粘着力やその中に含まれる溶剤や可塑剤などの種類などによって異なってくる。
【0069】
なぜならば、テープ剥離により上塗り樹脂皮膜や表面改質層が剥離する最大の理由は、粘着テープの粘着剤中に含まれる溶剤や可塑剤などが表面改質層やその上に形成される上塗り樹脂皮膜を通して亜鉛系めっき層表面にまで拡散・浸透し、接合界面に蓄積することによって接合力が低下するためと思われ、前記溶剤や可塑剤などの種類や含有率によってかなり変わってくると思われるからである。
【0070】
しかし、通常の粘着テープに粘着剤として配合される溶剤や可塑剤などの種類や配合量に多少の違いはあるとしても、それらの特にSiO2含有層に対する拡散・浸透速度に極端な違いはないと思われるので、本態様では、一応の評価基準として“スリオンテック社製のフィラメントテープ「品番#9510」”または“ニチバン社製の「セロハンテープ」”を代表例として選択使用した時の耐テープ剥離性で評価している。
【0071】
本態様における前記表面改質層中の主成分となるシリカ(SiO2)とは、例えばコロイダルシリカや珪酸塩等に由来して含まれてくる酸化シリコンであって、該シリカは本質的に無機質素材であり亜鉛系めっき層との親和性が良好であるため、上塗り樹脂皮膜の下地層として形成することによって亜鉛系めっき層との間の耐剥離特性を高める作用を発揮する。
【0072】
ところで前述した様なテープ剥離を起こす原因の1つとして、次の様な現象が考えられる。即ち、表面処理亜鉛系めっき鋼板の表面に粘着テープ等を貼り付けた状態で保管し、特に高温状態で保管すると、該粘着テープ等の粘着剤中に含まれる溶剤や可塑剤などの拡散性成分が、上塗り皮膜を通して表面改質層、さらには亜鉛系めっき表面まで拡散・浸透し、該表面改質層、あるいはめっき界面でそれら溶剤や可塑剤などが蓄積することによって該界面の接合力を低下させ、これがテープ剥離を起こす大きな原因になると考えられる。
【0073】
ところが本発明の表面改質層中に主成分として含まれるシリカは、前記の様に上塗り皮膜層から拡散・浸透してくる溶剤や可塑剤などに対して優れたバリア効果を発揮し、亜鉛系めっき表面方向への侵入、あるいは上塗り皮膜や表面改質層界面での拡散を阻止する機能を発揮するものと考えられ、現に後記実施例でも明らかにするように適量のシリカを含有させた表面改質層を形成しておくと、耐テープ剥離性は飛躍的に向上する。そして本発明者らがこうしたシリカの耐テープ剥離性改善作用を有効に発揮させるための量的関係について追究したところ、表面改質層中のシリカ含量をSi換算で1〜30mg/m2の範囲(2.14〜64.3mg/m2のSiO2)に調整してやれば、耐テープ剥離性を有為に改善できることが確認された。
【0074】
ちなみに、シリカ含量がSi換算で1mg/m2未満では、上述したバリア層としての機能が不充分となり、満足のいく耐テープ剥離性が発揮され難くなる。従って表面改質層中のシリカ含量は、Si換算で1mg/m2以上、より好ましくは3mg/m2程度以上、さらに好ましくは4mg/m2以上にすることが望ましい。
【0075】
そして、シリカ含量が多くなるにつれて前記のバリア層としての機能は高まると思われるが、シリカ含量が多過ぎると、耐テープ剥離性は却って低下傾向を示す様になる。この理由は次の様に考えている。即ち、表面改質層中のシリカは微粒子の集合体として存在すると考えられ、シリカ含量が多くなると該微粒子が多層積層状態で存在すると思われる。該多層積層状態のシリカ微粒子層同士の接合力は必ずしも強いとはいえないため、テープ剥離の力が該シリカ微粒子層に作用すると、該積層状態のシリカ微粒子層を剥がす方向に力が加わり、該シリカ微粒子層が層間剥離を起こし易くなることが考えられる。そのため、こうした表面改質層自体の剪断破壊による層間剥離を可及的に抑えるには、当該表面改質層中のシリカ含量の上限を定めるべきであり、本発明では後述する様な確認実験の結果を基にその上限をSi換算で30mg/m2と定めた。ちなみに、表面改質層中のシリカ含量が該上限値を超えると、耐テープ剥離性は明らかに低下傾向を示す様になる。また表面改質層中のシリカ含量を過度に多くすることは経済的にも無駄となるので、より好ましくはSi換算で15mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下に抑えることが望ましい。
【0076】
本態様において、前記有表面改質層を形成する際には、通常は亜鉛系めっき層の表面を適度にエッチングしつつ且つ適度に粗面化されためっき層の表面に、コロイダルシリカ等に由来するシリカ微粒子を沈着させるのがよい。前記エッチング成分としては、例えば硝酸、硫酸、塩酸、リン酸などを使用することができ、特に好ましいのは、エッチング成分としてリン酸や重リン酸、亜リン酸、重亜リン酸などのアルミニウム塩を使用し、これに適量のコロイダルシリカを分散させた酸性の水性液を使用することである。この様な酸性水性液を表面処理剤として使用すると、酸性水性液によって亜鉛系めっき層の表面がエッチングされながら、亜鉛系めっき層の表面に難溶性のリン酸アルミニウム主体の反応層が形成されると共に、該反応層にシリカ微粒子が沈着して取り込まれることで、エッチングにより粗面化された亜鉛系めっき層との間で緻密な反応層が形成され、該反応層の上に形成される上塗り樹脂皮膜との結合も緻密で強固なものとなり、当然のことならが耐テープ剥離性も著しく向上するからである。また後述するように、前記酸性水溶液に有機系樹脂の水性液を含有させておくことにより、得られる表面改質層中のシリカ微粒子の沈着状態を一層強固なものとすることができる。
【0077】
難溶性のリン酸アルミニウムとシリカ微粒子が複合一体化した反応層は、例えば硝酸などをエッチング剤として用いて得た表面改質層に比べると優れた耐アルカリ性を有しているので、アルカリ脱脂後の耐テープ剥離性においても優れた性能を発揮する。但し、前記の様にエッチング成分としてリン酸、重リン酸、亜リン酸、重亜リン酸などのアルミニウム塩を用いてシリカ含有表面改質層を形成した場合、該表面改質層に含まれるPとAlの各含有量によっては、該表面改質層の耐アルカリ性、ひいてはアルカリ脱脂後の耐テープ剥離性に顕著な差異を生じることがある。そして、安定して優れた耐テープ剥離性とアルカリ脱脂後の耐テープ剥離性を確保するには、該表面改質層中のP含量を0.5mg/m2以上、15mg/m2以下に、またAl含量を0.5mg/m2以上、10mg/m2以下の範囲に制御するのが有効である。
【0078】
ちなみに、前記の様にエッチング成分としてリン酸等のアルミニウム塩(以下、単にリン酸アルミニウム塩ということがある)を用いてシリカ含有表面改質層を形成した場合、リン酸アルミニウム主体の反応層が形成されることは前述した通りであるが、耐アルカリ性に優れたリン酸アルミニウム主体の反応層は、亜鉛系めっき層の表面がエッチングされることによって始めて形成されるため、表面改質層中のリン酸アルミニウム量が過度に多くなると、リン酸アルミニウムとシリカ微粒子とが複合一体化したとしても耐アルカリ性は却って低下する傾向がある。
【0079】
そこで、高レベルの耐テープ剥離性とアルカリ脱脂後の耐テープ剥離性を確保するための好ましい該表面改質層中のP含量とAl含量について検討したところ、前記の様にP含量は0.5mg/m2以上、15mg/m2以下に、またAl含量は0.5mg/m2以上、10mg/m2以下の範囲に制御するのが極めて有効であることを突き止めた。
【0080】
ちなみにP含量やAl含量が0.5mg/m2未満では、リン酸アルミニウム塩を使用することによってもたらされる前記作用、特にエッチング作用とそれによる緻密な反応層の形成と、SiO2微粒子の沈着促進による耐テープ剥離性の向上効果が有効に発揮されず、またP含量やAl含量が過度に多くなると、耐アルカリ性不足のリン酸アルミニウムがアルカリの浸食を受けて表面改質層から溶出し易くなり、満足のいくアルカリ脱脂後の耐テープ剥離性が得られなくなる。従って、表面改質層の耐テープ剥離性とアルカリ脱脂後の耐テープ剥離性を有為に高めるには、Pの含有量を0.6mg/m2以上、10mg/m2以下とし、Alの含有量を0.6mg/m2以上、7mg/m2以下に制御することが望ましい態様である。
【0081】
また該表面改質層中に含まれるSi、P、Alの各含有量の比率を、下記数式(1)および(2)の関係を満たす様に調整することによって、一層優れた耐テープ剥離性とアルカリ脱脂後の耐テープ剥離性を確保することができる。
0.5≦Si/P≦20・・・・・・数式(1)
0.7≦P/Al≦4.5・・・・・・数式(2)
【0082】
前記Si/Pの比率は、リン酸によるエッチング作用とそれに伴うSiO2に対する沈着促進作用に影響を及ぼす因子となり、この比が0.5未満では、表面改質層中のSiO2の比率が相対的に不足気味となって耐テープ剥離性が低下傾向となり、逆にこの比が20を超えると、シリカ含量に比べてリン酸アルミニウム塩の量が不足することになり、リン酸アルミニウム塩を使用することによる前述した作用が有効に発揮されなくなるためと思われる。こうした観点から、表面改質層中のSi/Pのより好ましい比率は1以上、さらに好ましくは2以上で、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下である。
【0083】
また、表面改質層に含まれるP/Alの含有比率は、特にエッチング成分としてのリン酸の機能とこれを難溶化するためのAlの機能を最大限有効に発揮させるための要因になると思われ、この比が0.7未満ではリン酸不足に由来してエッチング不足の傾向が現れ、逆に4.5を超えてこの比が高くなり過ぎると、エッチング処理後に生成する難溶性アルミニウム塩の量が減少して緻密な反応層の形成が不充分となり、何れの場合も満足のいくアルカリ脱脂後の耐テープ剥離性が得られ難くなる。適度のエッチング作用を確保しつつ難溶性アルミニウム塩の生成を助長して充分量の反応層を形成させる上でより好ましいP/Alの比率は1以上、2以下である。
【0084】
なお、前記Si/P比やP/Al比の調整は、表面処理剤中のシリカや珪酸塩の含有量、リン酸成分およびAl成分の含有量、あるいは追って説明するように表面改質層を形成する際の水洗条件(リン酸成分やAl成分の洗浄除去条件)などによって調整すればよい。前記の様に表面改質層中のシリカやP、Al含量、さらにはSi、P、Alの含有比率を適正範囲に制御すれば、得られる表面改質層はピンホール欠陥などのない緻密なものとなり、乾燥条件下の耐テープ剥離性はもとより、アルカリ脱脂後の耐テープ剥離性においても卓越した性能を示すものとなる。
【0085】
また本態様では、前記表面改質層に有機系樹脂を含有させることによって、表面改質層中のシリカ微粒子を強固に沈着させて、耐テープ剥離性、さらには、アルカリ脱脂後の耐テープ剥離性を一層向上できる。かかる有機系樹脂は、特に限定されるものではなく、例えばアクリル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエチレン樹脂を挙げることができ、単独で使用するか、または2種以上を併用することができる。
【0086】
また前記有機系樹脂としては、水溶性または水分散性の有機系樹脂であることが好ましく、有機酸によって構成される有機系樹脂および/またはその塩を使用することが好ましい。有機酸によって構成される有機系樹脂としては、ポリ(メタ)アクリル酸および/またはその塩が好適である。上述したように、表面改質層を形成する際には、酸性水溶液を使用して亜鉛めっき層をエッチングすることが好ましいが、有機酸を構成成分とする有機系樹脂はおよび/またはその塩を含有する水性液は酸性であり、それ自体が亜鉛めっき層をエッチングする作用を有し、また、前記酸性水性液へ配合する際の安定性も優れるからである。
【0087】
ところで前記表面改質層を形成するために用いられる表面処理剤(以下、「下地用処理剤」または「下地用表面処理剤」という場合がある)は、前記からも明らかな様に、コロイダルシリカなどのシリカ微粉末と、リン酸等のアルミニウム塩と、さらに必要に応じて、有機系樹脂とを含む下地用処理剤であるが、この下地用処理剤は、固形分濃度が0.01〜15%で、該処理剤に含まれるSi、P、Alの含有量(質量%)と組成比(質量比)が下記の要件を満たす様に調整することが望ましい。
Si:0.002〜4.5%
P:0.0005〜1.5%
Al:0.0001〜0.5%
4.5≦Si/Al≦230、1.5≦Si/P≦60
【0088】
ちなみに、下地用処理剤の固形分濃度が0.01%未満では、一回の処理で満足のいく厚さの表面改質層を形成するのが困難となり、多数回の処理が必要になるため実際的でなく、また15%を超えて過度に高濃度になると、処理液中の気液界面などに固形物が生成し易くなり、押し疵やブツなどの製品不良が発生し易くなる傾向が生じてくる。こうした点を考慮して、より好ましい固形分濃度は0.05%以上、10%以下、さらに好ましくは0.1%以上、5%以下である。
【0089】
また下地用処理剤中のSi濃度が0.002%未満では、表面改質層において前記バリア層の主体となるシリカ含量が不足気味となり、満足な耐テープ剥離性が得られ難くなる。他方、Si濃度が4.5%を超えると、処理剤中に占めるシリカの含有比率が過度に高くなって表面改質層中のシリカ含量が過多となり、耐テープ剥離性が却って低下傾向を示す様になる。こうした傾向を踏まえて、下地用処理剤中のより好ましいSi濃度は0.01%以上、さらに好ましくは0.03%以上で、4%以下、さらに好ましくは3%以下である。なお下地用処理剤中のSi濃度は、主としてコロイダルシリカなどとして配合されるSiO2、さらには珪酸塩などの配合量によって調整すればよい。
【0090】
次に下地用表面処理剤中のP濃度は、リン酸、重リン酸、亜リン酸、重亜リン酸などとして配合されるリン酸系化合物の量に依存し、主としてエッチング効果と緻密な反応層の形成性を支配する重要な因子となる。即ちP濃度が低過ぎると、エッチング作用不足となる他、前述した緻密なリン酸アルミニウム系反応層の形成も不充分になってシリカ微粒子の沈着促進効果も低下し、ひいては表面改質層の密着性や耐アルカリ性も不充分となる。従って処理剤中のP濃度は0.0005%以上、より好ましくは0.001%以上、さらに好ましくは0.01%以上とするのがよい。但し、下地用処理剤中のP濃度が過度に高くなると、亜鉛系めっき表面のエッチング量の制御が困難となり、製品が外観不良になる傾向が生じるほか、処理液タンクなどが腐食し易くなるといった問題も生じてくるので、1.5%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下に抑えるのがよい。
【0091】
さらに下地用処理剤中のAl濃度は、主としてリン酸などのアルミニウム塩、さらには必要により添加されることのあるAlの水酸化物などに依存し、特にリン酸などによるエッチング工程で緻密な反応層として生成する難溶性リン酸アルミニウムの生成源となり、シリカの沈着を促進して表面改質層の密着性や耐アルカリ性を高める上で重要な機能を果たす。こうした作用を有効に発揮させるには、処理剤中のAl濃度を低くとも0.0001%以上、好ましくは0.0005%以上、さらに好ましくは0.001%以上に調整することが望ましい。しかしAl濃度が過度に高くなると、処理液中の気液界面などに固形物が生成し易くなり、押し疵やブツの如き製品不良を生じ易くなるので、高くとも0.5%以下、好ましくは0.4%以下、さらに好ましくは0.2%以下に抑えるのがよい。
【0092】
また該下地用処理剤中に含まれるSi/AlとSi/Pの各含有比率は、前述した表面処理の初期に生成するリン酸アルミニウム主体の緻密な反応層の生成量とシリカの沈着量に影響を及ぼし、Si含量に対してAlやP含量が不足する場合は、相対的にエッチング不足になって、リン酸アルミニウム主体の反応層の緻密さや生成量が不充分になるばかりでなく、シリカに対する沈着促進作用も低下し、耐テープ剥離性およびアルカリ脱脂後の耐テープ剥離性が不充分となる。逆にSi含量に対してAlやP含量が過度に多くなると、前記反応層中のシリカ濃度が不足気味となり、耐テープ剥離性が不充分となる。
【0093】
こうした利害得失を考慮して、前記下地用処理剤中に含まれるSi/AlとSi/Pの好ましい含有比率を実験によって確認したところ、Si/Al比は4.5以上、230以下、より好ましくは6以上、100以下で、Si/P比は1.5以上、より好ましくは1.8以上で、60以下、より好ましくは20以下であることが確認された。
【0094】
なお前記下地用表面処理剤中のSi、Al、P含量を好適範囲に調整する方法は特に制限されないが、Si含量は表面処理剤中のシリカや珪酸塩などの含有量により、Al含量は同処理剤中のAlのリン酸塩や水酸化物などの含有量により、またP含量は同処理剤中のリン酸やリン酸塩等の含有量に依存するので、下地用処理剤中のこれら成分の含有量を適正に制御することによって行えばよい。
【0095】
また、前記下地用表面処理剤が、上述した有機系樹脂を含む場合、該処理剤中の有機系樹脂の添加濃度は、0.01〜3g/Lであることが好ましい。添加濃度が0.01g/L未満の場合には、有機系樹脂の添加効果が低下するからである。一方、添加濃度が3g/Lを超える場合には、アルカリ脱脂後の耐テープ剥離性が劣化する場合があるからである。
【0096】
本発明において、下地用表面処理剤として特に好ましいものは、有機系樹脂、リン酸や重リン酸、亜リン酸、重亜リン酸などのアルミニウム塩とコロイダルシリカを含む酸性水性液であり、この下地用処理剤を使用すれば、酸性水性液下で鋼板表面の亜鉛系めっき層がエッチングされながら、亜鉛系めっき層表面に難溶性のリン酸アルミニウム主体の緻密な反応層が形成されると共に、該反応層にシリカが沈着して取り込まれることで、エッチングにより溶出した亜鉛との間で緻密な反応層が形成され、優れた耐テープ剥離性とアルカリ脱脂後の耐テープ剥離性を示す表面改質層を形成できる。
【0097】
より具体的には、下地用表面処理剤は、その固形分の質量比率でリン酸(または重リン酸、亜リン酸、重亜リン酸)Al塩;0.1〜0.4質量%、コロイダルシリカ;1.0〜1.5質量%、有機系樹脂;0.1〜3g/Lを含み、pHが1.5〜3.5の範囲の酸性水性液であることが好ましい。
【0098】
亜鉛系めっき鋼板を下地用表面処理剤で処理する方法としては、スプレー、浸漬またはロールコーティングなど任意の手段を採用できるが、中でもスプレーによるコーティング法は、亜鉛めっきとの反応を促進させるうえでより好ましい方法であり、その際の好ましいスプレー圧力は20〜500kPa(約0.2〜5.0kgf/cm2)、スプレー時間は0.5〜10秒の範囲である。
【0099】
前記下地用処理剤で表面処理した後は、適度に水洗することによって可溶性成分を除去し、その後、例えば30〜150℃程度に加熱して水分を乾燥除去する。この際の水洗は、最終的に得られる表面改質層の特に耐アルカリ性、ひいてはアルカリ脱脂後の耐テープ剥離性を高める上で極めて重要な処理工程となる。即ち本発明者らが種々の実験で確認したところによると、前述した下地用表面処理剤で処理した後そのまま乾燥し、あるいは焼付した改質層では、当該表面改質層中のP含量およびAl含量が多く、前述した表面改質層に求められる好適P含量0.5〜15mg/m2と好適Al含量0.5〜10mg/m2を大幅に超え、アルカリ脱脂後の耐テープ剥離性を確保し難くなることが確認された。その理由は次の様に考えられる。
【0100】
本態様における表面処理は、有機系上塗り樹脂皮膜の密着性を高めるための下地処理として有効であることも確認されている。ところが本発明者らが確認したところ、シリカ微粒子とリン酸アルミニウム塩を含む前記表面処理剤によって形成される表面改質層にはかなり多量のリン酸アルミニウム成分が含まれており、その量は例えばP換算で30mg/m2程度以上、Al換算で15mg/m2程度以上にも達する。
【0101】
そして、これらP、Al含量の高いことが、特にアルカリ脱脂後の耐テープ剥離性に少なからぬ悪影響を及ぼしていること、また、これらP、Al含量を前述した好適範囲にまで低減するには、前記下地表面処理の後に水洗処理を施し、表面処理(改質)層中に含まれるリン酸系アルミニウム成分中の水可溶性成分を予め溶出除去し、前掲の好適含有率範囲内に低減すればよいことを突き止めた。
【0102】
水洗法としては、浸漬法やスプレー法などが考えられ、水洗条件は、表面処理(改質)層内に含まれるリン酸系アルミニウム成分中の水可溶性成分含量によっても変わってくるが、浸漬法の場合は水洗時間を1.5〜15秒程度とし、またスプレー法の場合は、水洗時間を1.5〜15秒程度、スプレー圧力を20〜500kPa(約0.2〜5kgf/cm2)程度にすれば、前記水可溶性成分をより効率よく除去できるので好ましい。
【0103】
なお表面改質層中のPおよびAlの含有量は、耐テープ剥離性の向上という観点からすると少なくてもよく、実質的にゼロであっても構わないが、表面処理剤として前掲のエッチング作用や緻密質反応層の形成を行い、より高度の耐テープ剥離性を得るためにリン酸アルミニウム系化合物を使用する本発明の好ましい実施態様においては、最低限P含量は0.5mg/m2程度、Al含量も0.5mg/m2程度は必要となる。
【0104】
表面改質層としての付着量は特に制限されないが、好ましい範囲は、水洗処理後の乾燥塗膜として4〜60mg/m2の範囲である。少な過ぎると、亜鉛めっき表面を均一に覆い難くなるため耐テープ剥離性が不足気味となり、逆に多過ぎると、亜鉛系めっき表面のエッチング不足により反応層の緻密さが下降気味となり、アルカリ脱脂後の耐テープ剥離性が劣化傾向を示すからである。
【0105】
表面改質層中のSi、P、Alの量はそれぞれ、例えば蛍光X線法などによって確認すればよい。また、表面改質層中の有機系樹脂の存在は、有機系樹脂の構造(エステル結合、ケトン、アミノ基、ヒドロキシル基、および炭素−水素結合など)に由来するFT−IRのピークにより確認することができる。
【0106】
本態様において、表面改質層の有機系樹脂の構造に由来するFT−IRの吸収強度(1496〜1776cm-1のピーク面積)は、0.1〜15であることが好ましい。前記FT−IRの吸収強度は、表面改質層中の有機系樹脂の含有量を指標するものであり、FT−IRの吸収強度を一定の範囲とすることによって、耐テープ剥離性およびアルカリ脱脂後の耐テープ剥離性を向上させることができる。
【実施例】
【0107】
[評価方法]
(1)耐食性
得られた樹脂塗装金属板(鋼板)について、塩水噴霧試験をJIS−Z2371に従って実施して、白錆が1%発生するまでの時間で評価した。
(評価基準)
◎:360時間以上
○:320時間以上〜360時間未満
△:240時間以上〜320時間未満
×:240時間未満
【0108】
(2)潤滑性
得られた樹脂塗装金属板(鋼板)の潤滑性を評価するため、摺動試験装置を用いて、加圧力5.4MPa、引き抜き速度300mm/minとしたときの摺動による荷重を測定して、動摩擦係数を算出した。
(評価基準)
◎:0.01以上〜0.1以下
○:0.1 超 〜0.2以下
△:0.2 超 〜0.3以下
×:0.3 超
【0109】
(3)加工性(耐黒化性)
得られた樹脂塗装金属板(鋼板)の深絞り加工性を評価するために、80トンのクランクプレス装置を用いて、単発のプレス試験を実施し、成形品の摺動面の擦り疵、型かじり、耐黒化性を目視で評価した。
(評価基準)
◎:極めて良い
○:良い
△:悪い
×:極めて悪い
【0110】
(4)塗装性(塗膜密着性)
得られた樹脂塗装金属板(鋼板)に、メラミンアルキッド系塗料を塗膜厚が約20μmになるようにバーコート塗装し、温度130℃で20分間焼き付けて後塗装を行った。続いて、この供試鋼板を沸騰水に1時間浸漬した後、取り出し、1時間放置した後にカッターナイフで1mm角の碁盤目を100升刻み、これにテープ剥離試験を実施して、塗膜の残存升目数により塗膜密着性を5段階で評価した。
(評価基準)
5:塗膜残存率100%
4:塗膜残存率 90%以上〜100%未満
3:塗膜残存率 80%以上〜 90%未満
2:塗膜残存率 70%以上〜 80%未満
1:塗膜残存率 70%未満
【0111】
(5)耐テープ剥離性
供試鋼板の表面に、フィラメントテープ(スリオンテック製:#9510)を貼り付け、40℃×RH98%の雰囲気で48時間、72時間保管した後、フィラメントテープを剥離し、上塗り樹脂皮膜の残存している面積割合で評価した。
(評価基準)
◎ :皮膜残存率100%
○〜◎:皮膜残存率 95%以上〜100%未満
○ :皮膜残存率 90%以上〜 95%未満
△ :皮膜残存率 70%以上〜 90%未満
× :皮膜残存率 70%未満
【0112】
(6)アルカリ脱脂後の耐テープ剥離性
アルカリ脱脂剤(日本パーカーライジング社製:CL−N364S)を20g/L、60℃に調整した脱脂液に、供試鋼板を2分間浸漬し、引き上げ、水洗、乾燥した後、該供試鋼板表面にセロハンテープ(ニチバン社製)を貼り付け、24時間、48時間後に剥離し、上塗り樹脂皮膜の残存している面積割合で評価した。
(評価基準)
◎ :皮膜残存率100%
○〜◎:皮膜残存率 95%以上〜100%
○ :皮膜残存率 90%以上〜 95%未満
△ :皮膜残存率 70%以上〜 90%未満
× :皮膜残存率 70%未満
【0113】
(7)FT−IR測定による有機系樹脂の吸収強度の算出
形成した樹脂塗装金属板(鋼板)の表面改質層中の樹脂含有量を調査するためのFT−IR測定及び分析条件は、以下のとおりである。
測定方法:高感度反射法(入射角75°、平行偏光で赤外光を照射した)
比較材:金蒸着ミラー
分解能:4cm-1
積算回数:500回
装置:日本電子(株)製:JIR−5500型フーリエ変換赤外分光光度計
IR−RSC110反射測定ユニット(角度可変型)
IR−SEM100試料切換ステージ
1496cm-1〜1776cm-1のピーク面積より、有機系樹脂を添加した鋼板の吸収強度から、有機系樹脂を添加していない鋼板の吸収強度を差し引いて、表面改質層中の有機系樹脂の構造に由来する吸収強度を算出した。
【0114】
[ポリウレタン樹脂水性分散液の調製]
製造例1
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置にポリオール成分として保土ヶ谷化学工業(株)製ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均分子量1000)を60g、1,4−シクロヘキサンジメタノール14g、ジメチロールプロピオン酸20gを仕込み、さらに反応溶媒としてN−メチルピロリドン30.0gを加えた。イソシアネート成分としてトリレンジイソシアネート(以下、単に「TDI」という場合がある)を104g仕込み、80から85℃に昇温し5時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、8.9%であった。さらにトリエチルアミン16gを加えて中和を行い、エチレンジアミン16gと水480gの混合水溶液を加えて、50℃で4時間乳化し、鎖延長させてポリウレタン樹脂水性分散液1を得た(固形分29.1%、酸価41.4)。
【0115】
製造例2
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置にポリオール成分として保土ヶ谷化学工業(株)製ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均分子量1500)を67g、1,4−シクロヘキサンジメタノール30g、ジメチロールプロピオン酸14gを仕込み、さらに反応溶媒としてN−メチルピロリドン120.0gを加えた。イソシアネート成分としてトリレンジイソシアネート(TDI)を78g仕込み、80〜85℃に昇温し5時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、2.3%であった。さらにトリエチルアミン11gを加えて中和を行い、ヒドラジン一水和物5gと水330gとの混合水溶液を加え、50℃で5時間乳化し、鎖延長反応させて、ポリウレタン樹脂水性分散液2を得た(固形分30.5%、酸価29.8)。
【0116】
製造例3
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置にポリオール成分として保土ヶ谷化学工業(株)製ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均分子量1500)を60g、1,4−シクロヘキサンジメタノール14g、ジメチロールプロピオン酸6gを仕込み、さらに反応溶媒としてN−メチルピロリドン90.0gを加えた。イソシアネート成分としてジフェニルメタンジイソシアネート(以下、単に「MDI」という場合がある)を100g仕込み、80〜85℃に昇温し10時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、6%であった。さらにトリエチルアミン5gを加えて中和を行い、ヒドラジン一水和物6gと水350gとの混合水溶液を加え、50℃で5時間鎖延長反応させて、ポリウレタン樹脂水性分散液3を得た(固形分30.2%、酸価15.2)。
【0117】
製造例4
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置にポリオール成分として保土ヶ谷化学工業(株)製ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均分子量1500)を60g、1,4−シクロヘキサンジメタノール14g、ジメチロールプロピオン酸13gを仕込み、さらに反応溶媒としてN−メチルピロリドン90.0gを加えた。イソシアネート成分としてTDIを34g、MDIを50g仕込み、80〜85℃に昇温し9時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、5%であった。さらにトリエチルアミン11gを加えて中和を行い、ヒドラジン一水和物8gと水325gとの混合水溶液を加え、50℃で3時間、乳化し鎖延長反応させて、ポリウレタン樹脂水性分散液4を得た(固形分31.3%、酸価31.0)。
【0118】
製造例5
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置にポリオール成分として保土ヶ谷化学工業(株)製ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均分子量1000)を50g、1,4−シクロヘキサンジメタノール14g、ジメチロールプロピオン酸6gを仕込み、さらに反応溶媒としてN−メチルピロリドン90.0gを加えた。イソシアネート成分としてジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下、単に「水添MDI」という場合がある)を104g仕込み、東京ファインケミカル(株)製有機錫系触媒:L−101を6滴加えて、90〜95℃に昇温し9時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、6.3%であった。さらにトリエチルアミン5gを加えて中和を行い、ヒドラジン一水和物6gと水325gとの混合水溶液を加えて、50℃で5時間、乳化し、鎖延長反応させて、ポリウレタン樹脂水性分散液5を得た(固形分29.9%、酸価16.3)。
【0119】
製造例6
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置にポリオール成分として旭電化工業(株)製ポリオキシプロピレングリコール(P−1000:平均分子量1000)を50g、1,4−シクロヘキサンジメタノール2.9g、ジメチロールプロピオン酸6gを仕込み、さらに反応溶媒としてN−メチルピロリドン60.0gを加えた。イソシアネート成分としてジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下、単に「水添MDI」という場合がある)を79g仕込み、東京ファインケミカル(株)製有機錫系触媒:L−101を3滴加えて、90〜95℃に昇温し8時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、7.6%であった。さらにトリエチルアミン5gを加えて中和を行い、ヒドラジン一水和物13gと水280gとの混合水溶液を加えて、50℃で5時間、乳化し、鎖延長反応させて、ポリウレタン樹脂水性分散液6を得た(固形分29.8%、酸価18.0)。
【0120】
製造例7
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置にポリオール成分として三洋工業(株)製ポリオキシプロピレングリコール(PP−400:平均分子量400)を40g、1,4−シクロヘキサンジメタノール7.2g、ジメチロールプロピオン酸25gを仕込み、さらに反応溶媒としてN−メチルピロリドン80.0gを加えた。イソシアネート成分としてジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下、単に「水添MDI」という場合がある)を105g仕込み、東京ファインケミカル(株)製有機錫系触媒:L−101を2滴加えて、90〜95℃に昇温し8時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、2.2%であった。さらにトリエチルアミン21gを加えて中和を行い、ヒドラジン一水和物4.5gと水330gとの混合水溶液を加えて、50℃で5時間、乳化し、鎖延長反応させて、ポリウレタン樹脂水性分散液7を得た(固形分29.7%、酸価58.0)。
【0121】
製造例8
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの乳化設備のオートクレイブに酸価160mgKOH/gのエチレンアクリル酸共重合体200g、48%水酸化ナトリウム水溶液4g、25%アンモニア水22gおよび軟水581gを加えて密封し、150℃、4気圧で3時間の高速撹拌を行い、40℃に冷却して60〜99質量%のエチレンと1〜40質量%のエチレン性不飽和カルボン酸からなる共重合体の水分散体(樹脂分25%、酸価160mgKOH/g)を得た。次に、製造例1で得た500gのポリウレタン樹脂水分散液1を、撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの撹拌釜内で常温で撹拌しているところに、前記エチレンアクリル酸共重合体樹脂の水分散体175gを加えて、加熱撹拌を行い、70℃まで昇温してから25%の4,4'−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン水溶液20gと軟水58gとを加えて、80〜85℃で2時間撹拌を行ってから、40℃に冷却し、150メッシュの濾過布で濾過して、改質ポリウレタン樹脂水性分散液8を得た。
【0122】
製造例9
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの乳化設備のオートクレイブに、ハネウエル社製の酸価16mgKOH/gを有する酸化ポリエチレンワックス:AC−629を200g、48%水酸化ナトリウム水溶液5g、東邦化学工業(株)製:ペグノールL−12を25g、および軟水420gを加えて密封し、150℃、5気圧で3時間の高速撹拌を行い、40℃に冷却して、酸化ポリエチレンワックスの水分散液(樹脂分35.1%、酸価16mgKOH/g)を得た。次に、製造例4で得た500gのポリウレタン樹脂水分散液4を、撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの撹拌釜内で常温で撹拌しているところに、前記酸化ポリエチレンワックスの水分散液100gを加えて均一に撹拌し、さらに1.8gのCaCO3を加えて、80℃まで昇温後冷却して架橋反応を行って、改質ポリウレタン樹脂水性分散液9を得た。
【0123】
製造例10
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量1Lの乳化重合設備に水180g、東邦化学工業(株)製:ペグノールL−12を5g仕込み85℃に加熱した。これに、別のモノマー混合設備において、2−エチルヘキシルアクリレート160g、メチルメタクリレート200g、メタクリル酸40gからなるモノマーを、東邦化学工業(株)製:ペグノールL−30Pを15g、水350gに混合して調製したモノマー乳化液を、乳化重合設備の温度を80〜85℃に保ちつつ6時間を要して滴下した。滴下終了後、85から90℃で30分間熟成し、冷却してアクリル樹脂エマルジョン(樹脂分38.8%、酸価36)を得た。次に、製造例5で得た500gのポリウレタン樹脂水性分散液5を、撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの撹拌釜内で常温で撹拌しているところに、前記アクリル樹脂エマルジョン138gを加えて撹拌し、さらに、25%の4,4'−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン水溶液5gとMgCO30.5gと軟水20gとを加えて、80〜85℃で2時間撹拌を行ってから、40℃に冷却し、150メッシュの濾過布で濾過して、改質ポリウレタン樹脂水性分散液10を得た。
【0124】
製造例11
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量1Lの乳化重合設備に水180g、東邦化学工業(株)製:ペグノールL−12を5g仕込み85℃に加熱した。これに、別のモノマー混合設備において、2−エチルヘキシルアクリレート160g、メチルメタクリレート200g、メタクリル酸40gからなるモノマーを、東邦化学工業(株)製:ペグノールL−30Pを15g、水350gに混合して調製したモノマー乳化液を、乳化重合設備の温度を80〜85℃に保ちつつ6時間を要して滴下した。滴下終了後、85から90℃で30分間熟成し、冷却してアクリル樹脂エマルジョン(樹脂分38.8%、酸価36mgKOH/g)を得た。次に、製造例7で得た500gのポリウレタン樹脂水性分散液7を、撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの撹拌釜内で常温で撹拌しているところに、前記アクリル樹脂エマルジョン138gを加えて撹拌し、さらに、25%の4,4'−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン水溶液15gとMgCO31.5gと軟水20gとを加えて、80〜85℃で2時間撹拌を行ってから、40℃に冷却し、150メッシュの濾過布で濾過して、改質ポリウレタン樹脂水性分散液11を得た。
【0125】
製造例12
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置にポリオール成分として保土ヶ谷化学工業(株)製ポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均分子量1000)を80g、ジメチロールプロピオン酸20gを仕込み、さらに反応溶媒としてN−メチルピロリドン30.0gを加えた。イソシアネート成分としてトリレンジイソシアネートを104g仕込み、80から85℃に昇温し5時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、8.9%であった。さらにトリエチルアミン16gを加えて中和を行い、エチレンジアミン16gと水480gとの混合水溶液を加え、50℃で4時間、乳化し架橋反応させて鎖延長させたポリウレタン樹脂水性分散液12を得た(固形分30.1%、酸価41.4)。
【0126】
製造例13
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置にポリオール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノール50g、ジメチロールプロピオン酸20gを仕込み、さらに反応溶媒としてN−メチルピロリドン30.0gを加えた。イソシアネート成分としてトリレンジイソシアネートを104g仕込み、80から85℃に昇温し5時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、8.9%であった。さらにトリエチルアミン16gを加えて中和を行い、エチレンジアミン16gと水480gとの混合水溶液を加え、50℃で4時間、乳化し架橋反応させてポリウレタン樹脂水性分散液13を得た(固形分29.6%、酸価47.3)。
【0127】
[樹脂塗装金属板(鋼板)の作製および評価結果]
(実施例1)
得られたポリウレタン樹脂水性分散液に、コロイダルシリカ(日産化学工業社製:ST−40)、エポキシ系架橋剤(大日本インキ化学工業社製:エピクロンCR75)、ポリエチレンワックス粒子(三井化学社製:ケミパールW−700、平均粒子径1μm、軟化点132℃)を添加し皮膜形成用組成物を調製した。なお各成分の配合比は、固形分換算で、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂83質量部、コロイダルシリカ10質量部、エポキシ系架橋剤2質量部、ポリエチレンワックス粒子5質量部となるように配合した。さらにキレート剤含有量が皮膜形成用組成物の固形分100質量部中に3質量部となるようにキレストP(DTPA・5Na)を添加した。この皮膜形成用組成物を、電気亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)の表面に絞りロールにて塗布し、板温90℃で1分間加熱乾燥して、付着量1.0g/m2の樹脂皮膜が形成された樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。得られた樹脂塗装金属板(鋼板)について、耐食性、潤滑性、加工性、塗装性について評価した。結果を表1に示した。
【0128】
【表1】

【0129】
(実施例2)
ポリウレタン樹脂水性分散液1、コロイダルシリカ(ST−40)、エポキシ系架橋剤、ポリエチレンワックス粒子(W−700、平均粒子径1μm、軟化点132℃)を添加し皮膜形成用組成物を調製した。なお各成分の配合比は、固形分換算で、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂83質量部、コロイダルシリカ10質量部、エポキシ系架橋剤2質量部、ポリエチレンワックス粒子5質量部となるように配合した。さらに表2に示す各種キレート剤を添加した。この皮膜形成用組成物を用いて、実施例1と同様の方法により樹脂塗装鋼板を得た。得られた樹脂塗装金属板(鋼板)について、耐食性、潤滑性、加工性、塗装性について評価した。結果を表2に示した。
【0130】
【表2−1】

【0131】
【表2−2】

【0132】
(実施例3)
ポリウレタン樹脂水性分散液1に、コロイダルシリカ(ST−40)、エポキシ系架橋剤、ポリエチレンワックス粒子(W−700:平均粒子径1μm、軟化点132℃)を添加し皮膜形成用組成物を調製した。なお各成分の配合比は、固形分換算で、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂43〜93質量部、コロイダルシリカ0〜45質量部、エポキシ系架橋剤2質量部、ポリエチレンワックス粒子5質量部となるように配合した(ただし、合計100質量部とする)。さらにキレート剤含有量が皮膜形成用組成物の固形分100質量部中に3質量部となるようにキレストP(DTPA・5Na)を添加した。この皮膜形成用組成物を用いて、実施例1と同様の方法により樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。得られた樹脂塗装金属板(鋼板)について、耐食性、潤滑性、加工性、塗装性について評価した。結果を表3に示した。
【0133】
【表3】

【0134】
(実施例4)
ポリウレタン樹脂水性分散液1に、コロイダルシリカ(ST−40)、エポキシ系架橋剤、ポリエチレンワックス粒子(W−700:平均粒子径1μm、軟化点132℃)を添加し皮膜形成用組成物を調製した。なお各成分の配合比は、固形分換算で、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂70〜85質量部、コロイダルシリカ10質量部、エポキシ系架橋剤0〜25質量部、ポリエチレンワックス粒子5質量部となるように配合した(ただし、合計100質量部とする)。さらにキレート剤含有量が皮膜形成用組成物の固形分100質量部中に3質量部となるようにキレストP(DTPA・5Na)を添加した。この皮膜形成用組成物を用いて、実施例1と同様の方法により樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。得られた樹脂塗装金属板(鋼板)について、耐食性、潤滑性、加工性、塗装性について評価した。結果を表4に示した。
【0135】
【表4】

【0136】
(実施例5)
ポリウレタン樹脂水性分散液1に、コロイダルシリカ(ST−40)、エポキシ系架橋剤、ポリエチレンワックス粒子(W−700:平均粒子径1μm、軟化点132℃)を添加し皮膜形成用組成物を調製した。なお各成分の配合比は、固形分換算で、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂78〜88質量部、コロイダルシリカ10質量部、エポキシ系架橋剤2質量部、ポリエチレンワックス粒子0〜10質量部となるように配合した(ただし、合計100質量部とする)。さらにキレート剤含有量が皮膜形成用組成物の固形分100質量部中に3質量部となるようにキレストP(DTPA・5Na)を添加した。この皮膜形成用組成物を用いて、実施例1と同様の方法により樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。得られた樹脂塗装金属板(鋼板)について、耐食性、潤滑性、加工性、塗装性について評価した。結果を表5に示した。
【0137】
【表5】

【0138】
(実施例6)
ポリウレタン樹脂水性分散液1に、コロイダルシリカ(ST−40)、エポキシ系架橋剤、平均粒子径が7μm以下のポリエチレンワックス粒子(軟化点132℃)を添加し皮膜形成用組成物を調製した。なお各成分の配合比は、固形分換算で、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂83質量部、コロイダルシリカ10質量部、エポキシ系架橋剤2質量部、ポリエチレンワックス粒子5質量部となるように配合した。さらにキレート剤含有量が皮膜形成用組成物の固形分100質量部中に3質量部となるようにキレストP(DTPA・5Na)を添加した。この皮膜形成用組成物を用いて、実施例8と同様の方法により樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。得られた樹脂塗装金属板(鋼板)について、耐食性、潤滑性、加工性、塗装性について評価した。結果を表6に示した。
【0139】
【表6】

【0140】
(実施例7)
ポリウレタン樹脂水性分散液1に、コロイダルシリカ(ST−40)、エポキシ系架橋剤、軟化点が75〜150℃のポリエチレンワックス粒子(平均粒子径1μm)を添加し皮膜形成用組成物を調製した。なお各成分の配合比は、固形分換算で、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂83質量部、コロイダルシリカ10質量部、エポキシ系架橋剤2質量部、ポリエチレンワックス粒子5質量部となるように配合した。さらにキレート剤含有量が皮膜形成用組成物の固形分100質量部中に3質量部となるようにキレストP(DTPA・5Na)を添加した。この皮膜形成用組成物を用いて、実施例1と同様の方法により樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。得られた樹脂塗装金属板(鋼板)の潤滑性、加工性について評価した。結果を表7に示した。
【0141】
【表7】

【0142】
(実施例8)
ポリウレタン樹脂水性分散液1に、コロイダルシリカ(ST−40)、エポキシ系架橋剤、ポリエチレンワックス粒子(W−700、平均粒子径1μm、軟化点132℃)を添加し皮膜形成用組成物を調製した。なお各成分の配合比は、固形分換算で、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂63〜88質量部、コロイダルシリカ5〜30質量部、エポキシ系架橋剤2質量部、ポリエチレンワックス粒子5質量部となるように配合した(ただし、合計100質量部とする)。さらにキレート剤含有量が皮膜形成用組成物の固形分100質量部中に3質量部となるようにキレストP(DTPA・5Na)を添加した。この皮膜形成用組成物を、下記のように表面改質層を設けた電気亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)の亜鉛めっき層上に絞りロールにて塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、付着量1.0g/m2の樹脂皮膜が形成された樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。得られた樹脂塗装金属板(鋼板)の潤滑性、加工性について評価した。結果を表8に示した。
【0143】
下地用表面処理剤として、重リン酸アルミニウム(日本化学工業社製)、コロイダルシリカ(日産化学社製:ST−O)、ポリアクリル酸(試薬、分子量25000)を混合した酸性水性液(固形分50質量%)を使用した。この下地用表面処理剤をアルカリ脱脂した電気亜鉛めっき鋼板に、スプレーで吹き付け、余分な溶液をリンガーロールで除去した後、スプレー圧100kPaで5秒間水洗し、40℃で乾燥することにより、電気亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層上に表面改質層を設けた。表面改質層中のSi、P、およびAlの含有量を蛍光X線装置(島津製作所:MIF2100)にて測定した結果、Si換算でSiO2が5mg/m2、P:2.6mg/m2、Al:1.8mg/m2であった。
【0144】
【表8】

【0145】
(実施例9)
下地用表面処理剤として、重リン酸アルミニウム(日本化学工業社製、固形分50質量%)とコロイダルシリカ(日産化学社製:ST−O)とを表9に示すような組成に混合した酸性水性液を使用した。この下地用表面処理剤をアルカリ脱脂した電気亜鉛めっき鋼板に、スプレーで吹き付け、余分な溶液をリンガーロールで除去した後、スプレー圧100kPaで5秒間水洗し、40℃で乾燥することにより、電気亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層上に表面改質層を設けた。また一部、水洗を省略した供試鋼板も作製した。下地用表面処理剤中のSi、P、Al濃度は、ICP発光分析装置(セイコーアドバンス製)にて測定した。また、表面改質層中のSi、P、及びAlの含有量を蛍光X線装置(島津製作所:MIF2100)にて測定した。
【0146】
【表9】

【0147】
ポリウレタン樹脂水性分散液1に、コロイダルシリカ(ST−40)、エポキシ系架橋剤、軟化点が132℃のポリエチレンワックス粒子(平均粒子径1μm)を添加し皮膜形成用組成物を調製した。なお各成分の配合比は、固形分換算で、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂83質量部、コロイダルシリカ10質量部、エポキシ系架橋剤2質量部、ポリエチレンワックス粒子5質量部となるように配合した。さらにキレート剤含有量が皮膜形成用組成物の固形分100質量部中に3質量部となるようにキレストP(DTPA・5Na)を添加した。この皮膜形成用組成物を、前記のようにして表面改質層を設けた電気亜鉛めっき鋼板(Zn付着量20g/m2、板厚0.8mm)の表面改質層上に絞りロールにて塗布し、板温90℃で加熱乾燥して、付着量1.0g/m2の樹脂皮膜が形成された樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。得られた樹脂塗装金属板(鋼板)の耐テープ剥離性、およびアルカリ脱脂後の耐テープ剥離性について評価した。結果を表10に示した。
【0148】
【表10】

【0149】
(実施例10)
下地用表面処理剤として、ポリアクリル酸、重リン酸アルミニウム(日本化学工業社製、固形分50質量%)とコロイダルシリカ(日産化学社製:ST−O)とを表10に示すような組成に混合した酸性水性液を使用した。この下地用表面処理剤をアルカリ脱脂した電気亜鉛めっき鋼板に、スプレーで吹き付け、余分な溶液をリンガーロールで除去した後、スプレー圧100kPaで5秒間水洗し、40℃で乾燥することにより、電気亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層上に表面改質層を設けた。下地用表面処理剤中のSi、P、Al濃度は、ICP発光分析装置(セイコーアドバンス製)にて測定した。また、表面改質層中のSi、P、及びAlの含有量を蛍光X線装置(島津製作所:MIF2100)にて測定した。
【0150】
【表11】

【0151】
実施例9と同様にして、前記のように表面改質層を設けた電気亜鉛めっき鋼板の表面改質層上に樹脂皮膜が形成された樹脂塗装金属板(鋼板)を得た。得られた樹脂塗装亜鉛めっき鋼板について、耐テープ剥離性、およびアルカリ脱脂後の耐テープ剥離性などについて評価した。結果を表12に示した。
【0152】
【表12】

【0153】
[表面改質層中の有機系樹脂のFT−IR測定]
形成した表面処理鋼板の表面改質層中の有機系樹脂についてFT−IR測定を行った。表9に記載のS9(ポリアクリル酸の添加無)および表11に記載のS23(ポリアクリル酸添加有)の赤外吸収スペクトル(吸光度表示)をそれぞれ図1および図2に示した。また、ポリアクリル酸ナトリウムの標準スペクトル(透過率表示)を図3に示した。処理剤中にポリアクリル酸を0.50g/L添加した図2のスペクトルには、ポリアクリル酸を添加していない図1のスペクトルには観察されなかった1346cm-1、1421cm-1、1457cm-1、1592cm-1の吸収が観察される。これらは図3に示すポリアクリル酸ナトリウムの吸収と一致しており、添加したポリアクリル酸は、ポリアクリル酸塩の形になっていると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】ポリアクリル酸を含まない表面処理剤のFT−IRスペクトル。
【図2】ポリアクリル酸を含む表面処理剤のFT−IRスペクトル。
【図3】ポリアクリル酸ナトリウムのFT−IRスペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂を含有する皮膜形成用組成物から得られる樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板であって、前記皮膜形成用組成物は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、N,N,N’,N’−テトラキス(ホスホノメチル)エチレンジアミン(EDTMP)、ニトリロ三酢酸(NTA)およびヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(HEDTA)、並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を、皮膜形成用組成物の固形分100質量部中に占める比率で0.5〜10質量部含有することを特徴とする樹脂塗装金属板。
【請求項2】
前記皮膜形成用組成物は、Naイオンを含むEDTA塩、DTPA塩、HEDP塩、EDTMP塩、NTA塩およびHEDTA塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を含有するものである請求項1に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項3】
前記皮膜形成用組成物は、Naイオンを含み、かつMg、Ca、Co、Zn、MnおよびFeイオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含むEDTA塩、DTPA塩、HEDP塩、EDTMP塩、NTA塩およびHEDTA塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を含有するものである請求項1に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項4】
前記皮膜形成用組成物は、アミンのイオンまたはアンモニウムイオンを含むEDTA塩、DTPA塩、HEDP塩、EDTMP塩、NTA塩およびHEDTA塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を含有するものである請求項1に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項5】
前記皮膜形成用組成物は、アミンのイオンまたはアンモニウムイオンを含み、かつNa、Mg、Ca、Co、Zn、MnおよびFeイオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含むEDTA塩、DTPA塩、HEDP塩、EDTMP塩、NTA塩およびHEDTA塩よりなる群から選ばれる1種またはそれ以上のキレート剤を含有するものである請求項1に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項6】
前記皮膜形成用組成物は、
カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂:30〜93.5質量部;
シリカ粒子:5〜40質量部;
ポリエチレンワックス粒子:0.5〜15質量部;及び
エポキシ系架橋剤:1〜15質量部を含有し、
前記ポリウレタン樹脂は、ウレタンプレポリマーを鎖延長剤で鎖延長反応して得られるものであって、
前記ウレタンプレポリマーを構成するポリイソシアネート成分として、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートおよびジシクロヘキシルメタンジイソシアネートよりなる群から選択される少なくとも1種を必須的に使用し、
前記ウレタンプレポリマーを構成するポリオール成分として、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエーテルポリオール、及び、カルボキシル基を有するポリオールの全てを必須的に使用したものである請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項7】
前記鎖延長剤は、エチレンジアミンまたはヒドラジンである請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項8】
前記1,4−シクロヘキサンジメタノールと前記ポリエーテルポリオールの質量比が1,4−シクロヘキサンジメタノール:ポリエーテルポリオール=1:1〜1:19である請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項9】
前記ポリエーテルポリオールは、ポリオキシプロピレングリコールまたはポリテトラメチレンエーテルグリコールである請求項1〜8のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項10】
前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の酸価が10〜60mgKOH/gである請求項1〜9のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項11】
前記ポリエチレンワックス粒子は、球形で平均粒子径が0.1〜3μmである請求項1〜10のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項12】
前記ポリエチレンワックス粒子の軟化点は100〜140℃である請求項1〜11のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項13】
前記樹脂皮膜の造膜温度は、ポリエチレンワックス粒子の軟化点未満であって、ポリエチレンワックス粒子の形状が樹脂皮膜中で球形に保持されている請求項1〜12のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項14】
前記皮膜形成用組成物は、さらに、酸価5mgKOH/g以上の第2のカルボキシル基含有樹脂を、前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂含有量の半分の質量以下含有し、前記第2の樹脂と前記カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂とが第2の架橋剤で架橋された樹脂皮膜が形成されている請求項1〜13のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項15】
前記第2の架橋剤は、エポキシ系架橋剤、2価の金属系架橋剤、またはアジリジン系架橋剤である請求項14に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項16】
前記金属板が亜鉛系めっき鋼板であり、亜鉛系めっき層上に表面改質層が形成され、該表面改質層上に前記樹脂皮膜が形成されている樹脂塗装金属板であって、前記表面改質層が、Si換算で1〜30mg/m2のSiO2、P:0.5〜15mg/m2、Al:0.5〜10mg/m2を含有するものである請求項1〜15のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項17】
前記表面改質層中に含まれるSi、P、およびAlの含有量が下記数式(1)および(2)の関係式を満足するものである請求項16に記載の樹脂塗装金属板。
0.5≦Si/P≦20・・・・・・数式(1)
0.7≦P/Al≦4.5・・・・・・数式(2)
【請求項18】
前記表面改質層が、さらに有機系樹脂を含有するものである請求項16または17に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項19】
前記表面改質層に含まれる有機系樹脂の構造に由来するFT−IRの吸収強度(ピーク面積)は、0.1〜15である請求項18に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項20】
請求項16〜19のいずれかに記載の樹脂塗装金属板の表面改質層を形成するためのシリカ含有リン酸系表面処理剤であって、該処理剤は固形分濃度が0.01〜15%(質量%を意味する、以下同じ)であり、且つ、該処理剤に含まれるSi、P、およびAlの含有量と組成比(質量比)が下記の要件を満足することを特徴とする表面処理剤。
Si:0.002〜4.5%
P:0.0005〜1.5%
Al:0.0001〜0.5%
4.5≦Si/Al≦230、1.5≦Si/P≦60。
【請求項21】
前記表面処理剤は、さらに有機系樹脂を含有し、有機系樹脂の添加濃度が0.01〜3g/Lである請求項20に記載の表面処理剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−272767(P2006−272767A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95643(P2005−95643)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】