説明

樹脂形成装置

【課題】カプセル型樹脂のカプセルの破壊を効率よく実施可能な実用的な樹脂形成装置を提供する。
【解決手段】第1剤およびマイクロカプセルに内包された第2剤を原料として用い、マイクロカプセルを破壊して表出させた第2剤と第1剤とを撹拌し第1剤と第2剤とを化学反応させて樹脂を形成する樹脂形成装置であって、前記樹脂を塗布するためのディスペンサ内で前記マイクロカプセルを破壊しかつ撹拌することを特徴とする樹脂形成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1剤およびマイクロカプセルに内包された第2剤を原料として用い、マイクロカプセルを破壊して表出させた第2剤と第1剤とを撹拌し、第1剤と第2剤とを化学反応させて樹脂を形成する樹脂形成装置に関する。特に、熱硬化性樹脂を形成して接着剤、シール材またはコーティング材として塗布するディスペンサに用いて好適である。さらに、エポキシ樹脂を形成して接着剤として塗布するディスペンサに用いると一層好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂はその優れた性質のため、接着剤、コーテイング剤、注型剤などとして広く利用されている。従来のエポキシ樹脂組成物は、使用時に主剤と硬化剤よりなる2成分を混合するいわゆる二液型のものが多く利用されている。二液型エポキシ樹脂組成物は、主剤であるエポキシ樹脂と硬化剤の組み合わせによって室温付近でも硬化可能な組成物にする等の硬化温度・時間の制御が可能であること、主剤と硬化剤が分離されているので、それぞれの保存安定性が良好であること、などの長所がある。その反面、主剤と硬化剤の計量、混合などの精密な作業が必要なこと、一般に主剤と硬化剤を混合したものの使用可能時間が短いために速やかに作業しなければならないし、経時的に増粘して作業性が変化したり、場合によってはゲル化して使用不可能になる、などの短所がある。
【0003】
そこで、マイクロカプセル中に硬化剤を包含させて、このマイクロカプセルと主剤とを混合したマイクロカプセル型エポキシ樹脂が発明された(特許文献1、2)。使用時に、マイクロカプセルを物理的に破壊して硬化剤を表出させ、この硬化剤と主剤とを化学反応(架橋反応)をさせてエポキシ樹脂を形成するのである。そして、反応性の高い硬化剤を選択すれば、化学反応(硬化)が短時間(例えば数分間)で完了するので、作業性は大幅に向上する。ちなみに、主剤をマイクロカプセル内に包含させ、このマイクロカプセルと硬化剤とを混合させたマイクロカプセル型エポキシ樹脂も可能である。
【0004】
しかし、マイクロカプセル(以下、「カプセル」と言う)を効率よく破壊する装置が実用化していないため、マイクロカプセル型エポキシ樹脂(以下、「カプセル型樹脂」と言う)の使用用途が限定されていると言う問題があった。すなわち、カプセル型樹脂の使用は、ねじ止め剤、組立時のせん断を利用したシール剤、等の特殊な用途に限定されていた。なお、ねじ止め剤においては、ねじ込み前にカプセル型樹脂をねじ部に塗布しておき、ねじ込み時にねじ近傍の摩擦力によりカプセルを破壊させてエポキシ樹脂を形成させることとなる。
【0005】
【特許文献1】特公昭43−17654号公報
【特許文献2】特開2001−316451号公報
【特許文献3】特開平6−207152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、カプセル型樹脂のカプセルの破壊を効率よく実施可能な実用的な樹脂形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、特許請求の範囲の各請求項に記載の樹脂形成装置を提供する。
請求項1に記載の発明によれば、樹脂形成装置は、樹脂を塗布するためのディスペンサ内で前記マイクロカプセルを破壊しかつ撹拌することを特徴としている。このため、塗布直前にカプセルを破壊しかつ撹拌することにより、短時間で樹脂を硬化させることが可能となり作業性・生産性が向上する。また、塗布作業休停止時には、カプセルの破壊を停止することにより、ディスペンサ内での固着の防止のために捨てるカプセル型樹脂(接着に利用しない樹脂)の量を最小限に抑制することも可能となる。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、樹脂形成装置は、シリンジの内面と撹拌用回転体の外周面との隙間の一部を、カプセルの外形寸法より小さくすることにより、前記隙間の一部においてカプセルを破壊することを特徴としている。カプセルを破壊しかつ撹拌する機能を撹拌用回転体が備えることにより、極めて単純な機構となる。
【0009】
請求項3に記載の発明によれば、樹脂形成装置は、前記隙間の他部は、マイクロカプセルの外形寸法よりも大きいことを特徴としている。これにより、前記隙間の他部がカプセル型樹脂の通路となり、カプセルが破壊されて表出した第2剤(例えば硬化剤)と第1剤(例えば主剤)が撹拌用回転体により撹拌されながらディスペンサ出口へと適切な流速で通過することが可能となる。
【0010】
請求項4に記載の発明によれば、樹脂形成装置は、シリンジが略逆円錐形状となっており、攪拌用回転体が、シリンジの中心線を軸にして回転する回転体であり、前記隙間の一部を形成する凸部と、前記隙間の他部を形成する凹部とが、前記攪拌用回転体外周面に形成されていることを特徴としている。請求項3に記載の発明の具体的態様を表したものである。
【0011】
請求項5に記載の発明によれば、樹脂形成装置は、攪拌用回転体が、前記隙間を調節可能とすべく、攪拌用回転体の回転軸方向に位置調節が可能であることを特徴としている。前記隙間を調節可能にすることにより、樹脂形成装置は、各種マイクロカプセルに対応可能な構造となっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る樹脂形成装置の全体構成を示した図である。図2は、本発明に係る樹脂形成装置の第1実施形態であり、図3は、図2のAA断面の拡大図である。図4は、本発明に係る第2実施形態の図3に相当する図であり、図5は、マイクロカプセルの拡大断面図である。
【0013】
(第1実施形態)
本発明に係る樹脂形成装置の第1実施形態を説明する。
【0014】
まず、図5を参照しながら、樹脂を形成するための原料40(図1参照)に含まれるマイクロカプセル20の説明をする。本実施形態では主剤をマイクロカプセル20に内包させている。このマイクロカプセル20は、直径が約100μの球体となっている。このマイクロカプセル20を硬化剤の中へ適当な割合で混合させたものが、樹脂を形成するための原料40となる。そして、21はマイクロカプセルの殻であり、メラミンから成っている。22は、主剤のビスAエポキシである。硬化剤は変性ポリアミンであり、希釈剤としてエタノールを使用している。これらの重量比率は、おおよそ、ビスAエポキシ70、メラミン30、変性ポリアミン50、エタノール30の割合である。
【0015】
次に、図1を参照して、第1実施形態の装置を説明する。図1において、100はディスペンサ装置、11はタンク、12はポンプ、40は原料となるカプセル型樹脂、91はディスペンサ100から送出され硬化したエポキシ樹脂、92はワーク(被加工物)である。タンク11内には、液状原料40が充填されている。
【0016】
図2、図3を参照して、ディスペンサ装置100を説明する。図2において、1は4枚羽根を備える回転撹拌体、1aは回転撹拌体1の回転軸、2はディスペンサ、2aはディスペンサ2の出口(吐出口)、2bはディスペンサ2の入口(供給口)、2cはシリンジ、3はモータである。回転撹拌体1は、回転軸1aを介してモータ3により回転駆動される。シリンジ2cは、出口2aに向けてその径が縮小するように略逆円錐形状をしている。シリンジ2cの内面と撹拌用回転体1の外周面との間には、隙間が存在する。回転撹拌体1とシリンジ2cとのこの径方向隙間Cの一部C1(通常は羽部の外径部とシリンジ2cとの隙間)が、マイクロカプセルの外形寸法より小さくなるように、回転撹拌体1はシリンジ2cに対し位置決めされている。なお、回転撹拌体1は、自身のシリンジ2cに対する上下方向(回転軸方向)の相対的位置決めを自在に調節可能な構造となっており、径方向隙間C1を調節可能にすることにより、各種マイクロカプセルに対応可能な構造となっている。そして、回転撹拌体1の4枚羽根は、ストレート形状であるが、ヘリカル(螺旋)形状としても良い。
【0017】
回転撹拌体1とシリンジ2cとの径方向隙間Cの他部C2は、マイクロカプセルの外形寸法よりも格段に大きくなっている。これにより、隙間の他部C2がカプセル型樹脂の通路となり、カプセルが破壊されて表出した主剤と硬化剤が撹拌用回転体1により撹拌されながらディスペンサ出口へと適切な流速で通過することが可能となる。そして、シリンジ2cの容量は1.5ccであり、モータ回転数は400rpmである。
【0018】
次に、第1実施形態の装置を使用して、エポキシ樹脂を形成する方法を説明する。図1に示すように原料40は、ポンプ12によりディスペンサ2へ供給される。原料40は、ディスペンサ100内で後述する方法によりマイクロカプセルが破壊され主剤と硬化剤とが化学反応する。化学反応して形成されたエポキシ樹脂91は、ディスペンサ出口2aからワーク92に対して塗布される。
【0019】
ディスペンサ2内での原料40に対する加工を図2を参照して説明する。ポンプ12より搬送されて来た原料40は、ディスペンサ2の入口2bからディスペンサ2のシリンジ2c内へ流入する。原料40に含まれるマイクロカプセル20は、回転撹拌体1の羽根から遠心力を受けて、シリンジ2cの内周(すなわち、羽根の外周部)近傍に片寄せされる。
【0020】
片寄せされたマイクロカプセル20は、回転撹拌体1の羽根の外周部によりせん断されて破壊される。径方向隙間Cの一部C1が、マイクロカプセルの外形寸法より小さくなっているからである。マイクロカプセルを破壊して表出させた主剤と硬化剤とを回転撹拌体1の羽根により撹拌させ、化学反応を起させることによりエポキシ樹脂が形成される。
【0021】
接着剤塗布作業を停止する場合には、ディスペンサ入口2bを遮断してモータ3の運転を停止する。そして、シリンジ2c内のカプセル型樹脂を全て排出することにより、樹脂がシリンジ内で固着することが防止される。
【0022】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を図4を参照して説明する。第2実施形態は、第1実施形態の回転撹拌体のみ変更したものである。このため、変更部のみを説明する。第2実施形態では、4枚羽根を備える回転撹拌体1に替わり、八つの突起を有する形状断面を持つ回転撹拌体1xが具備されている。
【0023】
回転撹拌体1xの機能は、第1実施形態の回転撹拌体1とほとんど同じであるが、以下の二つの事項が、第1実施形態の回転撹拌体1と相違している。すなわち、第1点として、回転撹拌体1xにおけるカプセル型樹脂の通路断面積S2が、回転撹拌体1におけるカプセル型樹脂の通路断面積S1よりかなり小さくなっている。また、第2点として、回転撹拌体1xにおいて、マイクロカプセルの外形寸法より小さくなっている隙間C1が、8箇所あることである。
【0024】
第1実施形態の回転撹拌体1においては、通路断面積S1が大きいため、カプセルが破壊されずに回転撹拌体1を素通りする原料40が多いという欠点があった。この欠点をなくすため、第2実施形態の回転撹拌体1xでは、カプセルを破壊する機能箇所を増加してかつ通路断面積S2をS1より小さくした。これにより、原料40の流速が低減しかつ破壊されるカプセルの量が増加するという相乗効果が生じることとなる。二つの手段が相まって、カプセルが破壊されずに回転撹拌体1を素通りする原料40が大幅に減少した。
なお、通路断面積S2は、隙間C1、モータ回転数、原料40の粘度との相関関係において最適値が存在する。
【0025】
以上のように、本発明により、カプセル型樹脂のカプセルの破壊を効率よく実施可能な実用的な樹脂形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る樹脂形成装置の全体構成を示した図である。
【図2】本発明に係る樹脂形成装置の第1実施形態である。
【図3】図2のAA断面の拡大図である。
【図4】本発明に係る第2実施形態の図3に相当する図である。
【図5】マイクロカプセルの拡大断面図である。
【符号の説明】
【0027】
100 ディスペンサ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1剤およびマイクロカプセル(21)に内包された第2剤(22)を原料として用い、マイクロカプセル(21)を破壊して表出させた第2剤と第1剤とを撹拌し、第1剤と第2剤とを化学反応させて樹脂を形成する樹脂形成装置(100)であって、
前記樹脂を塗布するためのディスペンサ(2)内で前記マイクロカプセルを破壊しかつ撹拌することを特徴とする樹脂形成装置。
【請求項2】
前記ディスペンサ(2)は、前記原料が供給されるシリンジ(2c)と、該シリンジ(2c)内において前記原料を攪拌する攪拌用回転体(1)とを備え、前記シリンジの内面と前記撹拌用回転体(1)の外周面との隙間の一部(C1)を、前記マイクロカプセル(21)の外形寸法より小さくすることにより、前記隙間の一部(C1)において前記マイクロカプセルを破壊することを特徴とする請求項1に記載の樹脂形成装置。
【請求項3】
前記隙間の他部(C2)は、前記マイクロカプセルの外形寸法よりも大きいことを特徴とする請求項2に記載の樹脂形成装置。
【請求項4】
前記シリンジ(2c)は、前記原料が供給される供給口(2b)と、前記樹脂を塗布する吐出口(2a)とを有するとともに、該吐出口(2a)に向けてその径が縮小するように、略逆円錐形状となっており、
前記攪拌用回転体(1)は、前記シリンジ(2c)の中心線を軸にして回転する回転体であり、前記隙間の一部(C1)を形成する凸部と、前記隙間の他部(C2)を形成する凹部とが、前記攪拌用回転体外周面に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の樹脂形成装置。
【請求項5】
前記攪拌用回転体(1)は、前記隙間(C1)を調節可能とすべく、前記攪拌用回転体(1)の回転軸方向に位置調節が可能であることを特徴とする請求項4に記載の樹脂形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−80192(P2008−80192A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260574(P2006−260574)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】