説明

樹脂成形品の製造方法

【課題】厚みの薄い部品、或いは、複雑な三次元形状を有する部品であっても、高い形状
精度を確保することができるともに、効率的に製造することが可能で、製造コストを低減
することのできる樹脂成形品の製造方法を実現する。
【解決手段】本発明の樹脂成形品の製造方法は、樹脂材料で構成されたシート1を成形し
て製造する樹脂成形品の製造方法であって、加熱により軟化された前記シートが一対の型
15A,15Bで表裏両側から挟圧されると同時に、少なくとも一方の前記型の成形面上
に開口する排気口15xから排気を行いながら成形される工程を有することを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂成形品の製造方法に係り、特に、樹脂材料で構成されたシートを型により
成形して樹脂成形品を得るようにした製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、腕時計に内蔵される薄型部品を樹脂材料で製造する方法としては、シート状の
プラスチック材料をプレス加工で処理する方法が一般的である(例えば、以下の特許文献
1参照)。このプレス加工による製造方法は、装置も比較的簡易であり、効率的な製造が
可能になるため、製造コストを低減できるという利点がある。
【0003】
ところが、上記の薄型部品の一つである日車は、多くの段差を備えた3次元的形状を持
っていることから、上記のプレス加工で製造することが難しく、部品の形状精度を確保す
ることができない。そこで、従来は上記日車を射出成形法で製造していた。射出成形法に
よる腕時計用部品の製造例については、例えば、以下の特許文献2に記載されている。
【特許文献1】特開2004−286659号公報
【特許文献2】特開2006−1060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の射出成形法では、薄型部品の厚みが薄くなるほど、金型内のキャ
ビティの厚みも減少するため、樹脂材料の充填性が悪化し、成形精度が低下するという問
題点がある。
【0005】
また、射出成形法では樹脂材料と金型の温度差により成形品表面にスキン層ができたり
、金型内の樹脂材料の流動態様によってはキャビティ内に流れ込んだ樹脂材料同士が合わ
さる部分にウエルドラインができたりし、局所的に強度が低下するという問題点もある。
【0006】
さらに、射出成形法は製品が微細なものであっても大型の装置が必要であり、また、樹
脂材料はキャビティ内に充填される分だけでなく、射出部(スプルー、ランナー、ゲート
)で固化する材料が無駄になるため、成形品が薄肉化したり微細化したりするほど、製造
効率が低下し、製造コストの低減が難しくなるという問題点もある。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点を解決するものであり、その課題は、厚みの薄い部品、或
いは、複雑な三次元形状を有する部品であっても、高い形状精度を確保することができる
とともに、効率的に製造することが可能で、製造コストを低減することのできる樹脂成形
品の製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる実情に鑑み、本発明の樹脂成形品の製造方法は、樹脂材料で構成されたシートを
成形して製造する樹脂成形品の製造方法であって、加熱により軟化された前記シートが一
対の型で表裏両側から挟圧されると同時に、少なくとも一方の前記型の成形面上に開口す
る排気口から排気を行いながら成形される工程を有することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、加熱により軟化された樹脂材料で構成されたシートを一対の型で表
裏両側から挟圧すると同時に、少なくとも一方の型の成形面上に開口する排気口から排気
を行いながら成形を行う工程を有することにより、樹脂成形品の形状精度を高めることが
できるとともに、局所的な強度不足の発生を回避でき、しかも、プレス加工に準じた方法
で容易に樹脂成形品を製造できるため、製造コストを低減することができる。
【0010】
特に、薄型の部品や段付形状などの三次元形状を備えた部品では、単なるプレス加工で
は充分な形状精度を得ることができず、射出成形法では製造コストを抑制したり局所的な
強度不足を回避したりすることが困難であるが、本発明では、シートを一時的に軟化させ
ることによって成形しやすくするとともに、少なくとも一方の型の成形面上に開口する排
気口から排気を行いながら一対の型で表裏両側から挟圧することにより、型の成形面の形
状を樹脂成形品に反映しやすくし、かつ、安定した形状が得られるように構成できる。し
たがって、局所的な強度不足の発生を回避しつつ、樹脂成形品の形状精度を大幅に高める
ことが可能になる。また、本発明では、基本的にプレス加工と同様の装置構成に多少の機
能を追加するのみで実現でき、単なるプレス加工に比べて製造効率が低下することもない
ため、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0011】
一方の型にのみ排気口が設けられる場合には、他方の型により成形される成形品の面に
対しては一対の型による加圧により段付形状の付与や面形状の精度向上を図ることができ
、一対の型で或る程度圧縮させることで加熱軟化による樹脂シートの寸法安定性向上に効
果がある。
【0012】
ここで、一対の型は、棒ヒータ等の加熱手段や温調用の媒体流通路(水、湯、クーラン
ト等の通路)などの温度調整手段が設けられるなど、温度調製可能な構造となっているこ
とが好ましく、成形状態に応じて、加熱、冷却の切り替えを可能に構成されていることが
さらに望ましい。
【0013】
本発明において、前記シートは、前記一対の型による成形前に加熱されることにより軟
化されることが好ましい。樹脂材料で構成されるシートは、成形前にヒータ等によって加
熱する方法、型を加熱することによって成形と同時に加熱する方法、シートの押し出し成
形時においてそのまま硬化する前に用いる方法などが考えられるが、これらのうち、成形
前に加熱する方法が装置構成も簡易で、シートの加熱態様を制御しやすく、軟化度合を最
適化しやすい点で最も好ましい。特に、前記シートの軟化は、前記シートが表裏両側から
加熱されることにより行われることが好ましい。シートの表裏両側から加熱することによ
り、シートを全体的かつ均一に加熱することができる。また、シートは一対の型によって
表裏両側から成形されるため、シートの表裏両側のいずれをも加熱することにより、加熱
量を抑制しつつ、成形性を確保することもできる。
【0014】
本発明において、前記一対の型で前記シートが成形される際に、前記シートにおける前
記樹脂成形品となるべき部分の周囲を取り巻く形状の絞り成形部が共に成形されることが
好ましい。これによれば、一対の型でシートを成形して樹脂成形品を製造する場合には、
樹脂成形品が段付形状等といった三次元的な形状を有する場合には、シートの樹脂成形品
の周囲部分に皺や反りが発生することがあるが、このような皺や反りが発生すると、その
後の加工(打ち抜き加工や印刷加工など)に支障をきたす場合がある。しかし、本発明で
は、シートにおける樹脂成形品となるべき部分の周囲を取り巻く形状の絞り成形部を同時
に成形することにより、樹脂成形品の成形形状に起因する皺や反りが絞り成形部で吸収さ
れるため、皺や反りの発生を防止できる。
【0015】
ここで、絞り成形部の形状は、薄肉段付形状などを有する成形品形状に合わせて、リン
グ状となっていることが好ましい。さらに、一対の金型における上記絞り成形部を形成す
るための絞り形状部にも排気口を設けることが望ましい。これによって絞り成形部の形状
付与、離型性向上などの効果が得られる。
【0016】
本発明において、前記一対の型で前記シートが成形される際に、前記シートにおける前
記樹脂成形品となるべき部分以外の部位に位置決め係合部が共に成形されることが好まし
い。これによれば、位置決め係合部が同時に形成されることにより、その後、当該位置決
め係合部を用いてシートを搬送したり、位置決め係合部を基準として、後加工、例えば、
その後に行われる打ち抜き加工や印刷可能などを実施したりすることができる。この場合
、位置決め係合部は樹脂成形品となるべき部分を成形する一対の型で同時に形成されるた
め、案内構造などを複雑化しなくても、樹脂成形品となるべき部分に対する後加工の位置
精度を向上させることができる。
【0017】
本発明において、前記一対の型で前記シートが成形される工程の後に、前記位置決め係
合部で位置決めされた前記シートから前記樹脂成形品となるべき部分以外の部位が除去さ
れる工程、或いは、前記位置決め係合部で位置決めされた前記シートから前記樹脂成形品
となるべき部分が分離される工程を有することが好ましい。これによれば、位置決め係合
部を基準として、シートから樹脂成形品となるべき部分以外の部位を除去したり、シート
から樹脂成形品となるべき部分を分離したりすることにより、樹脂成形品の形状精度、特
に樹脂成形品の縁部の形状精度を高めることができる。
【0018】
本発明において、前記一対の型で前記シートが成形される際に、前記シートにおける前
記位置決め係合部の周囲を取り巻く形状の絞り成形部が共に成形されることが望ましい。
これによれば、位置決め係合部を成形する際にその周囲に皺や反りが発生することを防止
できる。したがって、位置決め係合部を基準として行われる後加工の精度をさらに高める
ことが可能になる。
【0019】
本発明において、前記シートは帯状に構成され、前記樹脂成形品が前記シートから分離
される前に前記樹脂成形品となるべき部分に印刷が施される工程を含むことが好ましい。
これによれば、シートから樹脂成形品が分離される前に印刷が施されるため、印刷の位置
精度を高めることができる。
【0020】
本発明において、前記樹脂成形品は薄型段付形状を有することが好ましい。薄型段付形
状の樹脂成形品を製造する場合には、従来のプレス方法や射出成形法では、充分な形状精
度を得られなかったり、局所的な強度不足を回避できなかったり、或いは、製造コストの
抑制が困難であったりするため、本発明を適用することが特に効果的である。
【0021】
なお、一対の型に複数の成形ブロックが形成され、これらの成形ブロックにおいてシー
トが順送りで成形が実施されるように構成される場合には、各成形ブロック別に着脱可能
に構成され、ワンタッチ交換可能な構造とすることが好ましい。これによって多品種少量
生産を効率的に実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[第1実施形態]
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は本発明に
係る樹脂成形品の製造方法に用いる装置構成の概略を示す概略構成図である。この製造装
置10においては、樹脂材料で構成される帯状のシート1を巻回させてなる供給ローラ1
1と、シート1に適度の張力を付与するテンションローラ12と、シート1を加工面に沿
って搬送するための複数対の案内ローラ13とを備え、シート1が図示の経路に沿って順
次に送られるように構成される。
【0023】
製造装置10には、シート1の上方に配置可能かつシート1の上方から退避可能に構成
されたヒータ14と、シート1を挟んで上下に配置され、相互に開閉可能に構成された一
対の型15A及び15Bを備えたプレス成形機構15と、プレス成形機構15の一方の型
15Bから排気を行う排気装置16と、シート1を上記経路に沿って送るための送り機構
17と、成形後に印刷を行う印刷装置18と、最終的にシート1から樹脂成形品を分離す
る分離装置19とが設けられている。
【0024】
上記製造装置10において、シート1は送り機構17によって所定の送り量及び所定の
サイクルタイムで繰り返し送られる。そして、1サイクルごとに、ヒータ14がシート1
上に繰り出され、シート1を加熱して軟化させ、その後、ヒータ14がシート1上から退
避すると、上下の型15A及び15Bが閉じてシート1が成形される。このとき、型15
Bに接続された排気管が開き、成形と同時に型15Bの成形面上に開口する図示しない排
気口から排気が行われる。その後、型15Aと15Bが開くと、送り機構17が作動して
シート1が送られ、シート1の成形済みの部分がプレス成形位置から脱出するとともに、
シート1の新たな部分がプレス成形位置に移動する。
【0025】
シート1の成形済みの部分は、成形後に印刷装置18による印刷位置に送られ、印刷が
施される。その後、分離装置19によるプレス打ち抜き加工や裁断処理などによって印刷
の完了した樹脂成形品1Pがシート1から分離される。
【0026】
図2(a)〜(d)はシート1の処理工程を示す工程断面図である。最初に、図2(a
)に示すように、シート1をヒータ14によって加熱し、特にその表面を軟化させる。こ
こで、図2(a)に示す例では、ヒータ14はシート1の表裏両側に配置されたヒータ部
14A及び14Bを有し、シート1を表裏両側から同時に加熱することができるように構
成されている。したがって、シート1全体を軟化させる必要がある場合には、シート1の
全体を均一に加熱することができる。また、シート1の表裏両面を共に軟化させる必要は
あるが内部まで軟化させる必要のない場合には、当該表裏両面を共に充分に加熱しつつ、
内部までを加熱しないようにすることもできる。
【0027】
なお、ヒータ14、14A,14Bは、図1に示すようにシート1の成形位置で加熱を
行うことが好ましいが、成形位置の手前で加熱し、軟化された部分を成形位置に送るよう
に構成してもよい。
【0028】
上記のようにしてシート1を軟化させた後、図2(b)に示すようにヒータ14を退避
させて、型15A及び15Bでシート1を成形する。このとき、型15A及び型15Bに
は、樹脂成形品に対応する成形面15a及び成形面15bが形成されている。型15Aの
成形面15aは全体として凹状に構成され、三次元形状若しくは段付形状を成形可能とす
るために段差15c及び15dを備えている。また、型15Bの成形面15bは全体とし
て凸状に構成され、対応する段差15e及び15fを備えている。
【0029】
図3は型15Bの成形面を示す平面図である。型15Bの成形面15bには、その成形
面15b上に開口する複数の排気口15xが形成されており、この排気口15xに連通す
る排気経路15yを介して上記排気装置16により排気を行うことができるようになって
いる。複数の排気口15xは、中央部に設けられているとともに、段差15e及び15f
の下端に設けられた隅部に沿って分散配置されている。図示例の場合には、排気口15x
は円筒状の段差15e、15fの下端の円形状の隅部に沿って等角度間隔で配置されてい
る。
【0030】
さらに、上記の成形面15aには、樹脂成形品に相当する領域を取り巻く環状(リング
状)の成形リブ(凸条若しくは凸部)15gが形成され、成形面15bには、上記成形リ
ブ15cに対応する環状の成形溝(凹溝若しくは凹部)15hが形成されている。なお、
この成形リブや成形溝にも上記と同様の排気口を形成してもよい。
【0031】
次に、図2(c)に示すように、型15Aと15Bを所定の型締力で閉じることにより
、シート1が型15A及び15Bによって挟圧され、成形面15aと15bとによって成
形される。このとき、排気口15xから排気が開始され、これによってシート1は成形面
15bに吸着され、成形面15bの面形状に沿って精密に成形される。
【0032】
また、図示例のように成形形状が三次元的な形状(図示例の場合には薄型段付形状)と
なっている場合には、当該三次元的な形状を有する製品成形部1A(樹脂成形品となるべ
き部分)の周囲の周縁部1Bにおいて皺や反りが発生しやすくなる。しかし、本実施形態
では、三次元的な成形形状部分を取り巻くように、上記の成形リブ15g及び成形溝15
hによって周縁部1Bに裏面側に突出する環状の絞り成形部1bが同時に形成されること
により、シート1の周縁部1Bに形成されるべき皺や反りが絞り成形部1bに吸収される
ことにより発生しなくなる。なお、絞り成形部1bは表裏のどちらに突出する形状とされ
ていても構わない。
【0033】
その後、型15Aと15Bに加えられていた型締力を解除し、型15Aと15Bを開く
とともに、排気口15xからの排気を停止する。なお、必要に応じて、型開き時に排気経
路15yを大気圧に開放したり、排気経路15yに圧縮空気などを導入したりすることに
よって、型15Bの成形面15b上に密着していたシート1の製品成形部1Aを離反させ
るようにしてもよい。すなわち、排気口15xを給排気口として用いてもよい。
【0034】
しかる後に、必要に応じて上記印刷装置28により印刷を施し、その後、図2(d)に
示すように、製品成形部1Aは分離装置19によりシート1から分離され、樹脂成形品1
Pが形成される。この樹脂成形品1Pは、上記絞り成形部1bの内側に形成された三次元
構造を備えた製品である。特に、腕時計の日車は、段差を備えた薄型部品であることから
、単なるプレス加工では充分な形状精度を得ることができず、しかも、厚みが0.1〜0
.5mm程度ときわめて薄いため、射出成形法でも安定に製造することが難しい。
【0035】
本実施形態では、上記のようにプレス加工法と真空成形法とを組み合わせた加工方法に
よって、製造コストの上昇を抑制しつつ、高い形状精度を得ることができる。特に、段差
部などの曲率半径の小さい構造を含む部品、全体の平面形状寸法に比べて厚みがきわめて
薄い部品、進展性に劣る材料で構成された部品などを製造する場合には、型の成形面形状
の反映度を高める上できわめて有効である。上記の成形工程では、型15Bの成形面15
bに開口する排気口15xから排気しつつ成形を行うことによって、成形面15bに対す
るシート1の裏面の密着性を高めることができるとともに、型15Aの成形面15aでシ
ート1の表面を押圧することによって、シート1の型15A及び15Bに対応する成形度
合を高めることができるとともに、製品成形部1Aの厚みを正確に設定することが可能に
なる。
【0036】
なお、上記とは逆に型15Aに排気口を形成してもよく、或いは、型15Aと15Bの
双方に排気口を形成しても構わない。
【0037】
[第2実施形態]
次に、図4及び図5を参照して、本発明に係る第2実施形態について説明する。図4は
、先の第1実施形態のプレス成形機構15の代わりに用いることのできる順送りプレス機
構25の型構造、及び、当該型構造によって成形されるシート1の形状を斜め上方から見
た様子として示す概略斜視図、図5は、図4に表されていない上型の成形面を示す概略斜
視図である。なお、図4及び図5のいずれについても、型の成形面構造を除いた、型の案
内構造や駆動構造については図示を省略してある。また、この実施形態で製造される樹脂
成形品は腕時計の日車を想定したものである。
【0038】
本実施形態では、型25A及び25Bからなる型構造が複数の加工ステージS1、S2
、S3にそれぞれ対応する構造を一体に含み、これらの複数の加工ステージS1、S2、
S3が帯状のシート1の順送り加工によって並行かつ順次に実現されるように構成されて
いる。
【0039】
第1加工ステージS1は、上記第1実施形態のプレス成形機構15による加工工程に相
当するものであり、型25Aの成形面25a1と、型25Bの成形面25b1によるプレ
ス成形によって実現される。成形面25b1には、第1実施形態と同様の複数の排気口(
給排気口)25xが開口している。そして、これらの成形面25a1と25b1によって
シート1の樹脂成形品となるべき部分である製品成形部1A′が成形される。この成形時
の作用効果は上記第1実施形態で説明したものと同様であるので説明を省略する。
【0040】
また、成形面25a1及び25b1のうち、製品成形部1A′を成形する範囲の周囲に
は、当該範囲を取り巻く環状の成形リブ25g及び成形溝25hがそれぞれ形成されてい
る。この成形リブ25g及び成形溝25hは第1実施形態と同様にシート1の周縁部1B
に環状の絞り成形部1bを形成する。
【0041】
また、成形面25a1及び25b1は、成形リブ25g及び成形溝25hのさらに外側
部分に、位置決め成形用凹穴25i、25j及び位置決め成形用突起25k、25lを備
えていて、位置決め成形用凹穴25i、25jと位置決め成形用突起25k、25lがシ
ート1の周縁部1Bに位置決め係合部1c、1dを形成するようになっている。この位置
決め係合部1c、1dは、次の第2加工ステージS2及び第3加工ステージS3において
シート1の型25A及び25Bに対する位置決めを行うために用いられる。
【0042】
この位置決め係合部1c、1dは、図示例の場合、表裏いずれか(図示例の場合には表
側)に突出する絞り成形構造を備えている。このような絞り成形構造とすることにより、
位置決め係合部1c、1dの剛性を確保しやすくなるため、後工程におけるシート1の位
置決め精度を高めることができる。
【0043】
なお、図示点線で示すように、位置決め成形用凹穴25i、25j及び位置決め成形用
突起25k、25lの周囲には、取り巻くように環状の成形リブ25m及び成形溝25n
をそれぞれ設け、これらによって絞り成形部1eが形成されるようにしてもよい。これに
よって、位置決め係合部1c、1dを形成することによる周囲の皺や反りの発生をも防止
できる。
【0044】
第2加工ステージS2では、上記成形面25a1及び25b1とほぼ対応した形状を有
し、その一部に成形面25a1及び25b1とは異なる裁断部25za、25zbを備え
た成形面25a2及び25b2を用いる。
【0045】
なお、この成形面25b2にも成形面25b1と同様に複数の排気口25xが開口して
いる。これによって製品成形部1Aの成形面25b2に対する密着性を向上させることが
できるため、樹脂成形品の形状精度をさらに高めることができる。
【0046】
また、成形面25a2及び25b2には、先に形成された位置決め係合部1c、1dに
係合可能な位置決め部25s、25tが設けられている。図示例の場合、位置決め部25
sは凹穴であり、位置決め部25tは突起である。位置決め係合部1c、1dが位置決め
部25s、25tに係合することにより、シート1は型25A、25Bに精密に位置決め
される。
【0047】
この第2加工ステージS2では、裁断部25za及び25zbによって内径抜きが施さ
れ、同時に撃ち抜かれた内縁部に歯形1fが形成される。この内縁部ないしは歯形1fは
、製品成形部1Aに対して高い精度で抜き加工が施されていなければならないが、本実施
形態では位置決め部25s、25tをシート1の位置決め係合部1c、1dに係合させる
ことによって高い精度で内縁部ないしは歯形1fを形成することができる。このようにし
て、第2加工ステージS2では、製品成形部1A′の一部を除去してなる製品成形部1A
″が形成される。
【0048】
なお、環状のリブ25g′及び溝25h′は、第2加工ステージS2において上記の絞
り成形部1bを収容するためのものである。ここで、必要に応じて、リブ25g′及び溝
25h′が絞り成形部1bに係合することによりシート1の位置決め効果が得られるよう
に構成してもよい。
【0049】
次に、第3加工ステージS3では、第2加工ステージS2で形成された製品成形部1A
″をシート1から分離するために、打ち抜き加工用の型抜き部25a3及び型抜き穴25
b3を備えている。型抜き部25a3と型抜き穴25b3によって製品成形部1A″はシ
ート1から打ち抜かれ、樹脂成形品1P′が分離される。なお、位置決め部25s、25
t及び環状のリブ25g′及び溝25h′は第2加工ステージS2で用いられるものと同
様に構成されている。
【0050】
本実施形態では、第1実施形態の装置10と同様の送り機構によってシート1が送られ
ると、図4に示すようにシート1が順送りで複数の加工ステージにてそれぞれ加工を施さ
れる。すなわち、第1加工ステージS1で成形されてなる製品成形部1A′は次の第2加
工ステージS2に送られて加工され、このときに第1加工ステージS1ではシート1の新
たな部分が成形加工を同時に受ける。同様に、第2加工ステージS2で成形されてなる製
品成形部1A″は次の第3加工ステージS3に送られて加工され、このときには第2加工
ステージS2では次の製品成形部1A′が同時に加工される。このように順送り加工を実
施していくことによって、効率的に製造を行うことができ、製造コストをさらに抑制する
ことができる。
【0051】
本実施形態において、樹脂成形品1P′に印刷を施す必要がある場合、シート1から樹
脂成形品1P′が分離される前に、製品成形部1A′や1A″に対して印刷処理を施すこ
とが好ましい。このようにすることで、製造効率がさらに向上するとともに、印刷の位置
精度を高めることができるからである。例えば、型25A又は25Bにインクジェットヘ
ッド等の印刷ヘッドを組み込んでおき、第2加工ステージS2において内径抜きをすると
同時に、或いは、その前後において、上記印刷ヘッドによって製品成形部1A′又は1A
″に印刷を施すことができる。
【0052】
なお、上記の一対の型25A,25Bには上記の3つの加工ステージをそれぞれ行うた
めの3つの成形ブロックが構成されているが、これらの複数の成形ブロックを個別に着脱
可能に構成し、ワンタッチ交換可能とすることが好ましい。このようにすることで、多品
種少量生産を効率的に実施できる。
【0053】
[作用効果]
次に、図6乃至図9を参照して、上記第1実施形態の製造方法による作用効果について
説明する。図6は、第1実施形態のプレス成形機構15で成形されてなる樹脂成形品1P
の形状を示す斜視図である。本願発明者らは、上記第1実施形態の製造工程のヒータ14
の加熱時間と、段差D1、D2及び厚みtの関係について調べた。ここで、ヒータ14は
図1に示すようにシート1の片側にのみ配置し、シート1の表面を加熱した。シート1の
樹脂材料としては、ポリスチレン(PS)と、ポリ塩化ビニル(PVC)を用いた。
【0054】
図7は上記各材料についてそれぞれ加熱時間と段差D1との関係を示すグラフ、図8は
上記各材料についてそれぞれ加熱時間と段差D2との関係を示すグラフ、図9は上記各材
料について加熱時間と厚みtとの関係をそれぞれ複数回(A,B,C)測定した結果を示
すグラフである。
【0055】
上記の結果を見ると、図7及び図8に示すように、段差D1、D2については、加熱時
間が10秒未満では寸法ばらつきが多く、加熱時間が15秒前後で最も安定し、加熱時間
が20秒を越えるとやや寸法にばらつきが生じる。一方、厚みtについては、図9に示す
ように、20秒未満で或る程度安定しているが、20秒を越えると薄くなる。特に15秒
以下では安定した厚みtが得られる。また、材料に関しては、PVCは加熱時間が15秒
を越えると急激に薄くなるのに対して、PSは加熱時間が増大すると徐々に薄くなり、比
較的厚みが安定している。したがって、この実施形態の場合には、加熱時間を15秒前後
に設定することで、安定した形状寸法が得られることがわかる。
【0056】
尚、本発明の樹脂成形品の製造方法は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、
本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば
、上記各実施形態では、型による成形前にヒータにより加熱してシートを軟化させている
が、本発明では型を加熱することによってシートを軟化させると同時に成形するように構
成しても構わない。
【0057】
また、上記各実施形態では一対の型のうち一方の型のみで排気を行うように構成してい
るが、一対の型の双方で排気を行うようにしてもよい。
【0058】
さらに、上記各実施形態では帯状のシートを所定の搬送経路に沿って搬送しながら成形
するように構成しているが、単葉のシートを個別に装置に供給して成形するようにしても
構わない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】第1実施形態の製造方法に用いる製造装置を模式的に示す概略構成図。
【図2】第1実施形態の製造方法の一例を示す工程断面図(a)〜(d)。
【図3】上記装置の排気口を備えた型の成形面を示す平面図。
【図4】第2実施形態の製造方法に用いる一方の型構造及び成形されたシートを示す概略斜視図。
【図5】上記他方の型構造を示す概略斜視図。
【図6】第1実施形態で成形された樹脂成形品の形状測定部を示す概略斜視図。
【図7】加熱時間と段差D1との関係を示すグラフ。
【図8】加熱時間と段差D2との関係を示すグラフ。
【図9】加熱時間と厚みtとの関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0060】
1…シート、1A、1A′、1A″…製品成型部、1B…周縁部、1P、1P′…樹脂成
形品、1b…絞り成形部、1c、1d…位置決め係合部、1e…絞り成形部、10…製造
装置、11…供給ローラ、12…テンションローラ、13…案内ローラ、14、14A、
14B…ヒータ、15、25…プレス成形機構、15A、15B、25A、25B…型、
16…排気装置、17…送り機構、18…印刷装置、19…分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料で構成されたシートを成形して製造する樹脂成形品の製造方法であって、
加熱により軟化された前記シートが一対の型で表裏両側から挟圧されると同時に、少な
くとも一方の前記型の成形面上に開口する排気口から排気を行いながら成形される工程を
有し、
前記シートは、前記一対の型による成形前に加熱されることにより軟化され、
前記一対の型で前記シートが成形される際に、前記シートにおける前記樹脂成形品とな
るべき部分の周囲を取り巻く形状の絞り成形部が共に成形されることを特徴とする樹脂成
形品の製造方法。
【請求項2】
前記一対の型で前記シートが成形される際に、前記シートにおける前記樹脂成形品とな
るべき部分以外の部位に位置決め係合部が共に成形されることを特徴とする請求項1に記
載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記一対の型で前記シートが成形される工程の後に、前記位置決め係合部で位置決めさ
れた前記シートから前記樹脂成形品となるべき部分以外の部位が除去される工程、或いは
、前記位置決め係合部で位置決めされた前記シートから前記樹脂成形品となるべき部分が
分離される工程を有することを特徴とする請求項2に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記一対の型で前記シートが成形される際に、前記シートにおける前記位置決め係合部
の周囲を取り巻く形状の絞り成形部が共に成形されることを特徴とする請求項2又は3に
記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記シートは帯状に構成され、前記樹脂成形品が前記シートから分離される前に前記樹
脂成形品となるべき部分に印刷が施される工程を含むことを特徴とする請求項1乃至4の
いずれか一項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂成形品は薄型段付形状を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一
項に記載の樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−223147(P2007−223147A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46461(P2006−46461)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】