説明

樹脂成形品の設計支援装置、支援方法及び支援プログラム

【課題】複雑障害物を有する熱硬化性樹脂成形品の樹脂注入時の充填挙動を、迅速かつ高精度に予測する。
【解決手段】モデル作成部は空間・障害物分離モデル作成部と空間・障害物合成モデル作成部からなり、空間・障害物合成モデル作成部は狭い空間が規則的に設けられた障害物を多孔質体として取り扱う。熱硬化性樹脂流動解析部は空間・障害物分離解析部と空間・障害物合成解析部からなり、いずれも熱硬化性樹脂の粘度算出式を備えている。空間・障害物分離解析部は質量、運動量、エネルギ保存方程式を組合せて解析し、空間・障害物合成解析部は、多孔質体として簡略化した形状を対象とした保存方程式を組合せて解析し、空間・障害物分離モデルと空間・障害物合成モデルの界面でのデータの授受を行いながら樹脂流動挙動の解析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂を用いた樹脂成形品の設計を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂はその硬化物が接着性、機械的強度、電気絶縁性、耐薬品性などに優れた性質を有しているため、電気機器の構造絶縁材料や電子、機構部品の封止材料として広く用いられている。この中でモータや発電機、医療診断機器のように金属コイルが巻かれてある部品の固定用としてのニーズが高くなっている。
【0003】
この工程では液状の樹脂を外部から加熱、加圧して機器やコイルの隙間に充填させ、樹脂を硬化させた後に製品を取り出す方式が一般的である。熱硬化性樹脂は流動中の温度変化により粘度が複雑に変化するため、適切な解析モデルを立てて、数値解析により温度、粘度、流速などの物理量の変化を計算し、ボイドや未充填などの不良を事前に予測し、問題のない構造やプロセスの選定を計算機上で行うシミュレーション技術の適用が重要になってきている。
【0004】
本発明はコイルのような非常に狭い隙間を多く持つ障害物が規則的に並んでいる製品を熱硬化性樹脂で封止するプロセスを、迅速かつ高精度で流動シミュレーションを行う装置、方法を対象とする。
【0005】
特許文献1は反応速度モデルを基にして熱硬化性樹脂の流動挙動と硬化後の残留ひずみまでを一貫して解析する装置、方法である。特許文献2もやはり反応速度モデルを基にして熱硬化性樹脂の流動挙動を解析する装置、方法である。特許文献3は狭い隙間が規則的に並んでいる形状を多孔質体とみなし、従来からの多孔質体の流動計算手法であるダルシー則をベースにして熱硬化性樹脂の含浸挙動を予測する方法に関するものである。特許文献4は発電機、タービンなどの巻き線部を熱硬化性樹脂で含浸する工程でやはりダルシー則をベースにして含浸時間を予測する方法に関するものである。
【特許文献1】特開2006−205740号公報
【特許文献2】特開平11−232250号公報
【特許文献3】特開2006−168300号公報
【特許文献4】特開2001−520378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1と2は熱硬化性樹脂の解析モデルとしてはかなり厳密であるが、コイルのような非常に狭い隙間が多い形状では膨大なメッシュを用いる必要があり、計算時間の増大により現実的な時間内では計算が終わらないという問題がある。特許文献3は樹脂の粘度変化を記述するモデル式は用いておらず、粘度変化の情報が得られないこと、多孔質体とみなせる狭い部分とみなせない広い部分が入り組んだ形状には対応できないという問題がある。特許文献4もやはり、樹脂の粘度変化を記述するモデル式は用いておらず、粘度変化の情報が得られないこと、多孔質体とみなせる狭い部分とみなせない広い部分が入り組んだ形状には対応できないという問題がある。
【0007】
以上述べたように、コイルのような非常に狭い隙間を多く持つ障害物が規則的に並んでいる箇所と広い流路が同時に存在している製品を熱硬化性樹脂で封止するプロセスを対象とした、迅速かつ高精度な流動シミュレーション手法がこれまでになく、新製品開発時には試作、評価、仕様の変更を繰り返しによる開発期間の遅延が起きる場合が多かった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は複雑障害物を有する熱硬化性樹脂成形品の樹脂注入時の充填挙動を、迅速かつ高精度に予測することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の設計支援装置は、モデル作成部と熱硬化性樹樹脂流動解析部から構成される。前記モデル作成部は3次元ソリッド要素からなり、成形品の一部に規則的に狭い隙間が配列されている部分は多孔質体とみなす空間・障害物合成モデル作成部とし、それ以外の部分は樹脂流動空間と障害物を分離する空間・障害物分離モデル作成部からなる。前記熱硬化性樹脂流動解析部は前記空間・障害物合成モデル領域を解析する空間・障害物合成解析部と前記空間・障害物分離モデル領域を解析する空間・障害物分離解析部からなる。前記空間・障害物合成解析部と前記空間・障害物分離解析部とも熱硬化性樹脂用の粘度計算式を備え、前記空間・障害物分離解析部では流体と熱の移動を記述する質量・運動量・エネルギの保存方程式と組合せて熱硬化性樹脂の充填挙動を計算するとともに、前記空間・障害物合成解析部では前記粘度計算式と多孔質体として簡略化した形状を対象とした保存方程式とを組合せて熱硬化性樹脂の充填挙動を計算し、前記空間・障害物合成モデルと前記空間・障害物分離モデルとの界面での物理量の情報を引き渡しながら有限差分法、あるいは有限要素法を用いて数値解析をする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、規則的に狭い隙間が配列されている空間・障害物合成モデル部は多孔質体として解析方法の簡素化を図れるので、計算時間が大幅に短縮できる。一方、この部分では3次元方向に断面固有抵抗値を独立に設定し、3次元方向の圧力損失を前記断面固有抵抗値と粘度、速度、流動距離の積として運動方程式を表しており、熱硬化性樹脂特有の粘度変化を粘度式により逐次計算することにより3次元方向の正確な流動予測が可能となる。
【0011】
さらに、空間・障害物合成モデルと空間・障害物分離モデル界面での物理量の情報を引渡すことにより、両モデル間で矛盾が起きないように連立して流動挙動の解を求めることができ、複雑構造体の解析全体が精度よく行える。
【0012】
本発明によれば非常に狭い隙間を多く持つ障害物が規則的に並んでいる箇所と広い流路が同時に存在している製品を熱硬化性樹脂で封止するプロセスを、迅速かつ高精度で流動シミュレーションを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の実施例1の設計支援装置の概略構成図である。図示するように、本実施例の設計支援装置は、GUI(Graphical User Interface)部11とモデル作成部12、熱硬化性樹脂流動解析部13を有する。モデル作成部12は、空間・障害物分離モデル作成部14と空間・障害物合成モデル作成部15に分かれる。
【0015】
熱硬化性樹脂流動解析部13は、空間・障害物分離解析部16と空間・障害物合成解析部17に分かれ、お互いに解析データの授受を行いながら、それぞれ、空間・障害物分離モデル作成部14、空間・障害物合成モデル作成部15で作成したモデルに対応した解析を行う。
【0016】
GUI部11は、画面表示およびキーボード、マウス等の入力装置を介して、ユーザより各種指示や情報などの入力を受け付けたり、熱硬化性樹脂の3次元流動解析の結果を表示したりする。
【0017】
モデル作成部12は、GUI部11を介して受け付けたユーザの指示に従い、設計支援の対象とする熱硬化性樹脂を用いた樹脂成形品の形状データ(モデルデータ)を作成する。モデル作成部12は、3D−CAD、CAM,CAEなどを利用することができる。空間・障害物分離モデル作成部14では、形状データ通りに、空間と障害物を分離できる箇所を選定し、空間をそのまま流路として、所定メッシュに分割する作業を行う。
【0018】
空間・障害物合成モデル作成部15では、解析対象領域内に規則的に配置され狭い流動空間を有する障害物、すなわち、コイルや繊維状の物体が規則的に設置してある箇所の指定を行うとともに、それぞれの指定箇所において所定メッシュに分割し、3次元方向の形状抵抗値を設定する。すなわち、指定箇所毎に3次元方向に所定の形状抵抗値を有する多孔質体におきかえる。
【0019】
熱硬化性樹脂流動解析部13は、解析対象領域を流動中の熱硬化性樹脂の粘度、温度、流速、圧力、流動先端位置などの変化を解析する(3次元流動解析)。空間・障害物分離解析部16は、空間・障害物分離モデル作成部14で作成したモデル内での解析を行う。
【0020】
ここでは熱硬化性樹脂用の粘度計算式18ならびに流体と熱の移動を記述する質量・運動量・エネルギの保存方程式とを組合せて、有限差分法あるいは有限要素法により数値解析し、3次元方向の温度、圧力、速度、粘度、流動先端位置などの計算を行う。
【0021】
空間・障害物合成解析部17は、空間・障害物合成モデル作成部15で作成したモデル内での解析を行う。ここでは、前記粘度計算式18と多孔質体として簡略化した形状を対象とした保存方程式とを組合せて有限差分法あるいは有限要素法により数値解析し、3次元方向の温度、圧力、速度、粘度、流動先端位置などの計算を行う。
【0022】
この空間・障害物合成解析部17では、多孔質体として3次元方向にそれぞれ規則的に同じ断面形状の孔が設けられた流路形状を対象とするので保存方程式の境界条件が非常に簡略化され、計算時間の大幅な短縮化が図れる。
【0023】
空間・障害物分離解析部16と空間・障害物合成解析部17との間では、それぞれの解析領域である空間・障害物分離モデル作成部14と空間・障害物合成モデル作成部15で作成したモデル界面での物理量の情報20の授受が行われ、これを基にして、それぞれの領域での新しい状態の解析を続行する。
【0024】
上記構成の設計支援装置は、例えば、図2に示すような、CPU21と、メモリ22と、HDD等の外部記憶装置23と、CD−ROMやDVD−ROM等の可搬性を有する記憶媒体24から情報を読み出す読取装置25と、キーボードやマウスなどの入力装置26と、CRTやLCDなどの表示装置27と、インターネットなどのネットワーク通信を行うための通信装置28とを備えた一般的なコンピュータシステムにおいて、CPU21がメモリ22上にロードされた所定のプログラム(モデル作成部12を実現する3D−CAD、CAMあるいはCAEプログラム、熱硬化性樹脂流動解析部13を実現する3次元流動解析プログラム)を実行することで実現できる。
【0025】
これらのプログラムは、読取装置25を介して記憶媒体24から、あるいは、通信装置28を介してインターネットなどからの通信媒体から、メモリ22に直接ロードしてもよいし、あるいは、一旦、外部記憶装置23にダウンロードしてから、メモリ22にロードしてもよい。
【0026】
図3は、上記支援装置の処理を説明する実施例1でのフロー図である。
熱硬化性樹脂流動解析部13では、GUI部11を介してユーザより3次元流動解析に必要な、熱硬化性樹脂の物性値を受け取る(S201)。本実施例では後述する粘度式中の係数、比熱、密度、熱伝導率などである。
【0027】
次に、熱硬化性樹脂流動解析部13では、GUI部11を介してユーザより3次元流動解析のための各種条件(境界条件、解析条件、および初期条件)を受け付ける(S202)。各種条件には、熱硬化性樹脂の初期温度、流入速度、金型温度、注入部の形状データ、ならびに解析終了条件(流動時間、粘度、圧力の上限値など)が含まれる。
【0028】
モデル作成部12は、GUI部11を介してユーザより3次元流動解析指示を受け着ける。それから指定されたモデルデータを取り込む(S203)。次に、モデル作成部12は、取り込んだデータが特定する樹脂充填領域を3次元解析領域に設定する。そして、この3次元解析領域を複数の3次元ソリッド要素に分割する際の条件(分割数や要素サイズなど)を、GUI部11を介してユーザより受け取る(S204)。そして、受け付けた分割条件に従い、3次元解析領域を複数の3次元ソリッド領域に分割する(S205)。
【0029】
次に、ユーザはGUI部11を介してモデル作成部12で設定した複数の3次元ソリッド領域の内、空間をそのまま流路に設定できる箇所を選び、空間・障害物分離モデル設定を行う(S206)。これはそのままモデル作成部12の空間・障害物分離モデル作成部14に保存される。一方、モデルデータの中で解析対象領域内に規則的に配置され狭い流動空間を有する障害物を有する箇所は、空間・障害物合成モデル作成部15にて、空間・障害物合成モデル設定を行う(S207)。このモデル設定方法の具体例は後述する。
【0030】
次に、熱硬化性樹脂流動解析部13の空間・障害物分離解析部16の具体例について説明する。空間・障害物分離解析部16では、時間tを初期時間にセットする。それから、熱硬化性樹脂用の粘度計算式18と温度、時間条件を用いて3次元ソリッド要素毎に時間tにおける粘度を算出する(S208)。
【0031】
なお、等温粘度式は数1〜数4で示される。
η=η((1+t/t)/(1−t/t))・・・・・・数1
η=a exp(b/T)・・・・・数2
=d exp(d/T)・・・・数3
C=f/T−g ・・・・・・・・・数4
【0032】
ここで、ηは粘度、tは時間、Tは温度、ηは初期粘度、tはゲル化時間、Cは粘度上昇係数、a,b,d,e,f,gは材料の固有係数である。図4は、この粘度式の等温特性を示したものである。各温度Tにおいて粘度は時間tで初期粘度となり、時間の経過とともに反応の進行により粘度が増大し、ゲル化時間において粘度は無限大となる。また、温度が高くなるにしたがって、初期粘度は低くなり、ゲル化時間は短くなる。
【0033】
熱硬化性樹脂の成形では、樹脂は金型から熱を受けながら流動する非等温状態となる。この状態での粘度変化は以下の手法で予測できる。
数1において
μ=(η/η(1/C)・・・・数5
τ=t/t・・・・・・・・・数6
と置くと次式が得られる。
【0034】
μ=(1+τ)/(1−τ)・・・・・数7
ここで、μは無次元粘度、τは無次元時間である。μ−τ特性曲線を図5の(a)に示す。いま、状態1で時間t、温度Tとし、ここからそれぞれ微小量のΔt、ΔT変化し、状態2でt,Tになったとする。これにより、μ−τ特性曲線上ではτからΔτ変化し、μがμになる。すなわち、時間と温度が同時に変化する現象を一本の曲線上の変化として取り扱うことができる。Δτを微小量とすれば近似的に次式が成立する。
μ=μ+(dμ/dτ)μ1Δτ
=μ+2Δτ/((1−τ)・・・・数8
【0035】
また、Δτは近似的に次式で求めることができる。
Δτ=(∂τ/∂t)τ1Δt+(∂τ/∂T)τ1ΔT
=Δt/(d exp(e/T))+ΔT e τ/(T)・・数9
数9を数8に代入すれば既知の値を用いてμが求められる。数7により、
τ=(μ−1)/(μ+1)・・・・・数10
となる。数5から、状態2の粘度は次式で求められる。
η=η(T)μC(T2)・・・・・・数11
【0036】
以上の手順をτ=0から1とみなせる無次元時刻まで繰り返せば、図5の(b)に示す初期状態からゲル化に至るまでの実際の粘度変化が計算できる。
【0037】
次に、質量、運動量、エネルギ保存方程式を用いて、要素毎に、時間tにおける温度、速度、圧力、流動先端位置などを算出する(S209)。
なお、質量保存方程式は、数12で表される。
(∂ρ/∂t)+ρ(▽・v)=0・・・・数12
【0038】
また、運動量保存方程式は、数13で示される。
ρ(∂v/∂t+v・▽v)=−▽p+▽・τ+ρg・・・・数13
【0039】
また、エネルギ保存方程式は、数14で示される。
ρC(∂T/∂t+v・▽T)=λ▽T+τ:▽v・・・・数14
【0040】
ここで、ρは密度、tは時間、▽はナブラ演算子、vは速度ベクトル、pは圧力、τは偏差応力テンソル、gは重力ベクトル、Cは定圧比熱、Tは温度、λは熱伝導率である。なお、τはS208で求めた粘度ηと速度勾配を用いて計算される。数12〜数14は3次元の偏微分方程式であり、厳密解は求められないので、有限差分法あるいは有限要素法などの数値解析手法により、温度、速度、圧力、流動先端位置などの近似解が求められる。
【0041】
次に、時間tをタイムステップΔt進める(S210)。これにより次の時刻の解析の準備を行う。次に、解析終了条件の判定を行う(S211)。ここでは、S209で計算した値とS202で受け付けた条件で設定した流動時間、粘度、圧力の上限値などとの比較を行ない、解析終了条件に達したら計算は終了となる。解析終了条件に達していない場合は空間・障害物合成部を流動しているかどうかの判定を行う(S212)。すなわち、S209で計算した流動先端位置が空間・障害物合成モデル(S207)部に到達したかどうかの判定を行う。
【0042】
ここで、流動先端位置が空間・障害物合成モデル部(S207)に到達していなければ、S208に戻り、S210で設定した新しい時刻での計算が繰り返される。S212において流動先端が空間・障害物合成モデル(S207)部に達していれば、モデル界面での物理量の情報20を空間・障害物合成解析部17に引き渡す(S213)。このとき、空間・障害物合成解析部17で必要な空間・障害物合成モデル(S207)部表面に接触した箇所と粘度、圧力、温度などの物理量が引き渡される。
【0043】
次に、空間・障害物合成モデル設定(S207)の具体例について述べる。ここでは、規則的に障害物が配列された狭い空間を非常にゆっくりと流体が流れる場合の解析手法であるダルシー則を利用する。一般的なダルシー則(1次元方向)は数15で示される。
ΔP=K・u・ρ・L・・・・・数15
【0044】
ここで、ΔPは圧力損失、Kは抵抗係数、uは速度、ρは密度、Lは流動距離である。数15は、数13に示した流体の運動量保存方程式を非常に遅い流れに適用し、粘度を密度で除した動粘性係数と断面形状の持つ抵抗値の積をまとめて抵抗係数Kとして表示する経験則の式である。これにより、1方向に一様の狭い隙間が設けられている形状ならKの適切な設定により流動挙動を計算できる。
【0045】
すなわち、狭い隙間の集合体を厳密にモデル化しなくて済み、計算時間の大幅な短縮化を図れる。水のような粘度が一定とみなせる流体の場合は数15の形がそのまま適用できるが、熱硬化性樹脂の場合は時間と温度により粘度が大幅に変わるので、粘度を分離することが必要になる。粘度を分離すると数15は数16のようになる。
ΔP=β・η・u・L・・・・・数16
【0046】
ここで、βは断面形状固有抵抗値である。数16に数1〜数11で示した手法で粘度ηを逐次求めれば、熱硬化性樹脂特有の粘度変化が起きる流体での解析が可能となる。なお、3次元の流動解析を行う場合は、直交座標系ではそれぞれ数17〜数19のようになる。
ΔP=β・η・u・L・・・・・数17
ΔP=β・η・u・L・・・・・数18
ΔP=β・η・u・L・・・・・数19
【0047】
ここで、添え字は、それぞれx,y,z方向の値を示す。数17〜数19に数1〜数11で示した粘度変化予測手法で計算される粘度を逐次代入し、数12の質量保存方程式、数14のエネルギ保存方程式と連立させて数値解析により解を求めれば、空間・障害物合成モデル作成部15での熱硬化性樹脂の3次元流動挙動を解析できる。なお、空間・障害物合成モデル作成部15では、S207の工程において、S205で設定した3次元ソリッド要素の集合体の該当箇所をブロックに分け、それぞれ空間・障害物合成モデルに指定するとともに、ブロック毎に3次元方向の断面形状固有抵抗値を設定する。
【0048】
次に、空間・障害物合成解析部17の具体例を説明する。まず、粘度式と温度、時間条件を用いて要素毎に時間tにおける粘度を算出する(S214)。粘度の計算手法は数1〜数11に記載した方法と同じである。ここでは、樹脂が空間・障害物分離モデル領域を経由せずに流入した場合は、S202の初期条件で設定した温度と初期時間を用いて粘度計算を行う。一方、空間・障害物分離モデル領域を経由して樹脂が到達した場合は、S213のモデル界面の物理量の情報20の引渡しで引き渡された数1〜数11中の粘度計算に必要な値を用いて新しい粘度の計算を行う。
【0049】
次に、多孔質体として簡略化した形状を対象とした質量、運動量、エネルギ保存方程式を用いて、要素毎に、時間tにおける3次元方向の速度、圧力、流動先端位置を算出する(S215)。ここでは、多孔質体として3次元方向にそれぞれ規則的に同じ断面形状の孔が設けられた流路形状を対象とするので保存方程式の境界条件が非常に簡略化されるとともに、運動量保存方程式自体は数17〜数19のような簡単な形になるので、計算時間の大幅な短縮が図れる。
【0050】
次に、時間tをタイムステップΔt進める(S216)。これにより次の時刻の解析の準備を行う。次に、解析終了条件の判定を行う(S217)。ここでは、S215で計算した値とS202で受け付けた条件で設定した流動時間、粘度、圧力の上限値などとの比較を行ない、解析終了条件に達したら計算は終了となる。解析終了条件に達していない場合は空間・障害物分離部を流動しているかどうかの判定を行う(S218)。すなわち、S215で計算した流動先端位置が空間・障害物分離モデル(S206)部に到達したかどうかの判定を行う。
【0051】
ここで、流動先端位置が空間・障害物分離モデル(S206)部に到達していなければ、S214に戻り、S216で設定した新しい時刻での計算が繰り返される。S218において流動先端が空間・障害物分離モデル(S206)部に達していれば、モデル界面の物理量の情報20を空間・障害物分離解析部16に引き渡す(S219)。このとき、空間・障害物分離解析部16で必要な空間・障害物分離モデル(S206)部表面に接触した箇所と粘度、圧力、温度などの物理量が引き渡される。
【0052】
以上述べた手法により、規則的に障害物が配列された狭い空間を有する流路内での熱硬化性樹脂の流動挙動を迅速、かつ高精度に解析できる。
【0053】
次に、具体的な解析例を説明する。図6は、モータのステータ部の樹脂封止前の断面図である。内側に一定ピッチで突起物を有した円筒形状であるコア31の突起物の回りにコイル32が複数の列と段数で巻かれてある。コア31の突起物の先端にはティース33が取り付けられ、これにより、コイルの脱落を防止する。なお、解析においてモータのステータ部の形状は円筒座標系で表すのが便利であり、ここでは、半径方向の座標をx、円周方向の座標をθ、軸方向の座標をzとする。
【0054】
図7は、図6のモータのステータ部のr−θ方向の全周を上から見た図である。コア31の周りにコイル32が30°ピッチで12箇所巻かれてある。
【0055】
図8は、図6のモータのステータ部のz方向の中央部におけるr−θ方向の全周の断面図である。コイル32は多段、多列にコア31の周りに巻かれている。
【0056】
図9は、図7のA−A断面図である。この断面ではコイル32はコア31の上下にあり、ティース33によって脱落が防止されている。
【0057】
図10は、図7のB−B断面図である。コイル32はコアの周りに巻かれている。なお、ここではコイル32の集合体が空間・障害物合成モデル部14で多孔質体としてモデル化される。
【0058】
図11は、コイル32の集合体のモデル化を示す概略図である。コア31の一つの突起部の周りにコイル32が巻かれているが、巻き方向に沿った流動は抵抗が小さく、それと直交する方向では抵抗が大きくなる。したがって、ここでは、コア31の左右のコイル32では断面固有形状抵抗値をz方向に小さく、θ、r方向に大きく設定し、このブロックを空間・障害物合成モデル(1)34とした。一方、コア31上下部のコイル32では断面形状固有抵抗値をθ方向に小さく、r、z方向には大きく設定し、このブロックを空間・障害物合成モデル(2)35とした。
【0059】
図12は、熱硬化性樹脂の流動解析用に設定したモデル形状のz方向中央部におけるr−θ方向半周の断面図である。各コア31の周りに空間・障害物合成モデル(1)34が置かれてある。モータのステータ部の周りは金型36に囲まれている。なお、空間・障害物合成モデル(1)34と空間・障害物合成モデル(2)35以外の部分はすべて空間・障害物分離作成部14により作成されており、コア31、ティース33、金型36は固体障害物として登録され、それ以外の空間が、樹脂が流動するキャビティ37となる。
【0060】
図13は、図12のC−C部でr−z方向全域の断面図である。この断面ではコア31の上下に空間・障害物合成モデル(2)35が置かれてある。
【0061】
図14は、図12のD−D部でr−z方向全域の断面図である。この断面ではコア31の上下にr−z方向全域の断面図である。この断面ではコア31の上下に空間・障害物合成モデル(2)35が置かれ、コア31側面の空間・障害物合成モデル(1)34とつながっている。
【0062】
図15は図12〜図14に記載のモデルにおいて樹脂注入部であるゲート38が設置してあるr方向位置においてz−θ方向半周部の断面図である。なお、ゲート38は一箇所に設けてあり、図示していない半周部にも対象形に樹脂が充填される。各コア31の左右に空間・障害物合成モデル(1)34が上下に空間・障害物合成モデル(2)35が設置されている。キャビティ部37は空間・障害物合成モデル(1)34と空間・障害物合成モデル(2)35を囲む形で金型36内に設置されている。
【0063】
次に、図16〜図20(15−(a)〜15−(e))を用いて図15の断面における樹脂充填状況の解析結果を示す。
【0064】
図16の15−(a)は、図15の断面の樹脂注入開始後5sの状態を示した図である。ゲート38を通過した樹脂39はキャビティ37の中を分岐して流れ、上流側では、空間・障害物合成モデル(2)35や空間・障害物合成モデル(1)34にも充填を開始している。
【0065】
図17の15−(b)は、図15の断面の樹脂注入開始後15sの状態を示した図である。ゲート38を通過した樹脂39はキャビティ37の中を分岐して流れ、上流側では、空間・障害物合成モデル(1)35や空間・障害物合成モデル(2)34への充填がさらに進む。
【0066】
図18の15−(c)は、図15の断面の樹脂注入開始後25sの状態を示した図である。この時刻ではキャビティ37内の樹脂39の充填は完了している。
【0067】
図19の15−(d)は、図15の断面の樹脂注入開始後27.5sの状態を示した図である。この時刻では空間・障害物合成モデル(2)35への樹脂39の充填は完了し、空間・障害物合成モデル(1)34のみに充填している。
【0068】
図20の15−(e)は、図15の断面の樹脂注入開始後30sの状態を示した図である。この時刻では空間・障害物合成モデル(1)34の充填も完了し、すべての流路を樹脂39が充填し、解析終了条件に達したため、ここで解析は終了となる。
【0069】
次に、図21〜25(12−(a)〜12−(e))を用いて図12の断面のおける樹脂充填状況の解析結果を示す。
【0070】
図21の12−(a)は、図12の断面の樹脂注入開始後5sの状態を示した図である。樹脂39はゲート38(図示せず)に近い側のキャビティから充填を開始し、一部は空間・障害物合成モデル(1)34にも充填を開始している。
【0071】
図22の12−(b)は、図12の断面の樹脂注入開始後15sの状態を示した図である。キャビティ37内の充填が進み、上流側では空間・障害物合成モデル(1)34への充填がさらに進む。
【0072】
図23の12−(c)は、図12の断面の樹脂注入開始後25sの状態を示した図である。この時刻ではキャビティ37内の樹脂39の充填は完了している。
【0073】
図24の12−(d)は、図12の断面の樹脂注入開始後27.5sの状態を示した図である。この時刻では空間・障害物合成モデル(1)34のみに充填している。
【0074】
図25の12−(e)は、図12の断面の樹脂注入開始後30sの状態を示した図である。この時刻では空間・障害物合成モデル(1)34の充填も完了し、すべての流路を樹脂39が充填し、解析終了条件に達したため、ここで解析は終了となる。以上述べたように、本実施例ではコイルのような複雑な障害物を含む金型内で熱硬化性樹脂の詳細な流動解析が可能となる。
【実施例2】
【0075】
次に、本発明の実施例2について説明する。実施例1では、粘度は温度と時間の関数として表し、ゲル化時刻までの粘度変化を計算している。このような熱硬化性樹脂の物性変化は反応の進行によるものであり、反応率の変化を表す式を基礎にして粘度計算や流動解析を行うのが実施例2である。
【0076】
図26に、熱硬化性樹脂の等温状態での物性値の変化を示す。ここでは等温成形の場合の成形時間と物性値の変化を示してある。熱硬化性樹脂は時間の経過とともに反応が進行し、反応率Aと分子量が増えていく。これにより、等温状態では液体の粘度ηが上昇する。流動が可能なのはまだ粘度が低い領域にあるときである。粘度は指数関数的に増加を続け、反応率がゲル化反応率Agelに達すると粘度は無限大になり、ゲル化が起きる。ゲル化以降は固体とみなすことができ、反応の継続により弾性率Eは増加し、反応の終了に近づくと飽和する。このように反応率の変化を計算することにより、ゲル化以降の物性値の変化も含めての解析が可能となる。
【0077】
図27に、実施例2の設計支援装置の概略図を示す。実施例2においても設計支援装置の概略は図1と同じである。異なる点は熱硬化性樹脂流動解析部13の空間・障害物分離解析部16と空間・障害物合成解析部17において、反応率の計算と反応による発熱速度の計算を行うための熱反応式19が加わることである。実施例2において設計支援装置の実現手段も図2と同じである。
【0078】
図28は、上記支援装置の処理を説明するフロー図である。熱硬化性樹脂流動解析部13ではGUI部11を介してユーザより3次元流動解析に必要な、熱硬化性樹脂の物性値を受け取る(S301)。本実施形態では後述する熱反応式19、粘度式中の係数、比熱、密度、熱伝導率などである。
【0079】
次に熱硬化性樹脂流動解析部13ではGUI部11を介してユーザより3次元流動解析のための各種条件(境界条件、解析条件、および初期条件)を受け取る(S302)。各種条件には、熱硬化性樹脂の初期温度、流入速度、金型温度、注入部の形状データ、ならびに解析終了条件(反応率、流動時間、粘度、圧力の上限値など)が含まれる。
【0080】
モデル作成部12は、GUI部11を介してユーザより3次元流動解析指示を受け着ける。それから指定されたモデルデータを、モデル作成部12から取り込む(S303)。次に、モデル作成部12は、取り込んだデータが特定する樹脂充填領域を3次元解析領域に設定する。そして、この3次元解析領域を複数の3次元ソリッド要素に分割する際の条件(分割数や要素サイズなど)を、GUI部11を介してユーザより受け取る(S304)。そして、受け付けた分割条件に従い、3次元解析領域を複数の3次元ソリッド領域に分割する(S305)。
【0081】
次に、ユーザはGUI部11を介してモデル作成部12で設定した複数の3次元ソリッド領域の内、空間をそのまま流路に設定できる箇所を選び、空間・障害物分離モデル設定を行う(S306)。これはそのままモデル作成部12の空間・障害物分離モデル作成部14に保存される。一方、モデルデータの中で解析対象領域内に規則的に配置され狭い流動空間を有する障害物を有する箇所は、空間・障害物合成モデル作成部15にて、空間と障害物の境界のない空間・障害物合成モデル設定を行う(S307)。この設定方法は後述する。
【0082】
次に、熱硬化性樹脂流動解析部13の空間・障害物分離解析部16の具体例について説明する。空間・障害物分離解析部16では、時間tを初期時間にセットする。それから、熱硬化性樹脂用の熱反応式20と温度条件を用いて3次元ソリッド要素毎に時間tにおける反応率と発熱速度を算出する(S308)。
熱反応式20は数20〜数24で表される。
【0083】
∂A/∂t=(K+K)(1−A)・・・・数20
=K exp(−E/T)・・・数21
=K exp(−E/T)・・・数22
A=Q/Q・・・数23
∂Q/∂t=Q(K+K)(1−A)・・・・数24
【0084】
ここで、Aは反応率、tは時間、Tは温度、∂A/∂tは反応速度、K、Kは温度の関数で表される係数、N、M、K、K、E、Eは材料の固有係数、Qは時刻tまでの発熱量、Qは反応終了までの総発熱量、∂Q/∂tは発熱速度を示している。そのうち、N、M、K、K、E、E、QはステップS301で受け付けた熱硬化性樹脂の物性値である。また、温度TはステップS302で受け付けた成形条件である。数20〜数24に初期状態から微笑時間Δt経過毎の温度Tを逐次代入していけば反応速度、発熱速度の時間変化が計算でき、反応速度を微小時間経過Δt毎に時間方向に近似積分すれば反応率の時間変化が計算できる。
【0085】
次に、粘度計算式18と反応率、温度条件を用いて要素毎に時間tにおける粘度を算出する(S309)。
【0086】
また、粘度計算式18は、数25〜数27で表される。
η=η((1+A/Agel)/(1−A/Agel))・・・・・・数25
η=a exp(b/T)・・・・・数26
C=f/T−g・・・・・・・・・数27
【0087】
ここで、ηは粘度、Tは温度、ηは初期粘度、Aは反応率、Agelはゲル化時の反応率、Cは粘度上昇係数であり、a,b,f,gならびにAgelは材料の固有係数である。a,b,f,gならびにAgelはステップS301で受け付けた熱硬化性樹脂の物性値である。また、温度TはステップS302で受け付けた成形条件である。a,b,f,g、Agelの値と温度、ならびにS308で計算されたAの値を数25〜数27に代入すれば粘度が計算できる。この手法を用い、微小時間Δt変化毎に、温度条件とそのときの反応率を逐次代入していけば、等温状態では図4と、非等温状態では図5の(b)と同様の熱硬化性樹脂特有の粘度変化が計算できる。
【0088】
次に、質量、運動量、エネルギ保存方程式を用いて、要素毎に、時間tにおける温度、速度、圧力、流動先端位置などを算出する(S310)。
なお、質量、運動量の保存方程式は、第1の実施例の数12、数13と同じになる。
【0089】
また、エネルギ保存方程式は、数28で示される。
ρC(∂T/∂t+v・▽T)=λ▽T+τ:▽v+ρ(dQ/dt)・・・数28
【0090】
ここで、ρは密度、Cは定圧比熱、Tは温度、tは時間、vは速度ベクトル、▽はナブラ演算子、λは熱伝導率、τは偏差応力テンソル、Qは発熱量である。数29では実施例1の数14に発熱速度dQ/dtが加わっている。この発熱速度はS308で計算されており、これを用いて数28により温度計算を行う。すなわち、実施例2では熱硬化性樹脂の反応発熱を含んだ解析が可能となり、より正確に解析ができる。
【0091】
次に、時間tをタイムステップΔt進める(S311)。これにより次の時刻の解析の準備を行う。次に、解析終了条件の判定を行う(S312)。ここでは、S310で計算した値とS302で受け付けた条件で設定した反応率、流動時間、粘度、圧力の上限値などとの比較を行ない、解析終了条件に達したら計算は終了となる。解析終了条件に達していない場合は空間・障害物合成部を流動しているかどうかの判定を行う(S313)。すなわち、S310で計算した流動先端位置が空間・障害物合成モデル(S307)部に到達したかどうかの判定を行う。
【0092】
ここで、流動先端位置が空間・障害物合成モデル部(S307)に到達していなければ、S308に戻り、S311で設定した新しい時刻での計算が繰り返される。S313において流動先端が空間・障害物合成モデル(S307)部に達していれば、モデル界面の物理量の情報20を空間・障害物合成解析部17に引き渡す(S314)。このとき、空間・障害物合成解析部17で必要な空間・障害物合成モデル(S307)部表面に接触した箇所と反応率、粘度、圧力、温度などの物理量が引き渡される。
【0093】
次に、空間・障害物合成モデル設定(S307)について述べる。ここでは、空間・障害物合成モデル作成部15において、S305で設定した3次元ソリッド要素の集合体の該当箇所をブロックに分け、それぞれ空間・障害物合成モデルに指定するとともに、ブロック毎に数17〜数19に示した3次元方向の断面形状固有抵抗値β、βy、βを設定する。
【0094】
次に、空間・障害物合成解析部17の具体例を説明する。まず、熱反応式19と温度条件を用いて要素毎に時間tにおける反応率を算出する(S315)。この計算手法はS308に示したものと同じである。
【0095】
次に粘度計算式18と反応率、温度条件を用いて要素毎に時間tにおける粘度を算出する(S316)。粘度の計算式は数25〜数27と同じである。ここでは、樹脂が空間・障害物分離モデル領域を経由せずに流入した場合は、S302の初期条件で設定した温度と初期時間を用いて粘度計算を行う。一方、空間・障害物分離モデル領域を経由して樹脂が到達した場合はS314のモデル界面の物理量の情報20の引渡しで引き渡された数26〜数28中の粘度計算に必要な界面情報20を用いて新しい粘度の計算を行う。
【0096】
次に、多孔質体として簡略化した形状を対象とした質量、運動量、エネルギ保存方程式を用いて、要素毎に、時間tにおける3次元方向の速度、圧力、流動先端位置を算出する(S317)。ここでは、多孔質体として3次元方向にそれぞれ規則的に同じ断面形状の孔が設けられた流路形状を対象とするので保存方程式の境界条件が非常に簡略化されるとともに、運動量保存方程式自体は数17〜数19のような簡単な形になるので、計算時間の大幅な短縮が図れる。
【0097】
次に、時間tをタイムステップΔt進める(S318)。これにより次の時刻の解析の準備を行う。次に、解析終了条件の判定を行う(S319)。ここでは、S317で計算した値とS302で受け付けた条件で設定した反応率、流動時間、粘度、圧力の上限値などとの比較を行ない、解析終了条件に達したら計算は終了となる。解析終了条件に達していない場合は空間・障害物分離部を流動しているかどうかの判定を行う(S320)。すなわち、S317で計算した流動先端位置が空間・障害物分離モデル(S206)部に到達したかどうかの判定を行う。
【0098】
ここで、流動先端位置が空間・障害物分離モデル(S306)部に到達していなければ、S315に戻り、S318で設定した新しい時刻での計算が繰り返される。S320において流動先端が空間・障害物分離モデル(S306)部に達していれば、モデル界面の物理量の情報20を空間・障害物分離解析部16に引き渡す(S321)。このとき、空間・障害物分離解析部16で必要な空間・障害物分離モデル(S306)部表面に接触した箇所と反応率、粘度、圧力、温度などの物理量が引き渡される。
【0099】
以上述べた手法により、規則的に障害物が配列された狭い空間を有する流路内での熱硬化性樹脂の流動挙動を迅速、かつ高精度に解析できる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によれば非常に狭い隙間を多く持つ障害物が規則的に並んでいる箇所と広い流路が同時に存在している製品を熱硬化性樹脂で封止するプロセスを、迅速かつ高精度で流動シミュレーションを行うことができ、試作前段階での欠陥発生位置の特定と構造、プロセスの最適化を図れるため、産業上の利用可能性は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1は、本発明の実施例1の設計支援装置の概略構成図である。
【図2】図2は、図1に示す設計支援装置のハードウエア構成例を示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施例1の3次元流動解析処理を説明するためのフロー図である。
【図4】図4は、本発明の実施例1の粘度式の等温粘度変化を示す図である。
【図5】図5の(a)(b)は、本発明の実施例1の非等温粘度変化を取り扱う説明図である。
【図6】図6は、モータステータ部の断面図である。
【図7】図7は、モータステータ部の上面図である。
【図8】図8は、モータステータ部の水平方向断面図である。
【図9】図9は、モータステータ部の垂直方向の断面図である。
【図10】図10は、モータステータ部の図9とは異なる位置での垂直方向断面図である。
【図11】図11は、コイル部モデル化のための説明図である。
【図12】図12は、金型内のモータステータ部をモデル化した水平方向断面図である。
【図13】図13は、金型内のモータステータ部をモデル化した垂直方向断面図である。
【図14】図14は、金型内のモータステータ部をモデル化した図13とは異なる位置での垂直方向断面図である。
【図15】図15は、金型内のモータステータ部をモデル化した円周方向の断面図である。
【図16】図16は、図15の断面での樹脂充填解析結果15−(a)を示す図である。
【図17】図17は、図15の断面での樹脂充填解析結果15−(b)を示す図である。
【図18】図18は、図15の断面での樹脂充填解析結果15−(c)を示す図である。
【図19】図19は、図15の断面での樹脂充填解析結果15−(d)を示す図である。
【図20】図20は、図15の断面での樹脂充填解析結果15−(e)を示す図である。
【図21】図21は、図12の断面での樹脂充填解析結果12−(a)を示す図である。
【図22】図22は、図12の断面での樹脂充填解析結果12−(b)を示す図である。
【図23】図23は、図12の断面での樹脂充填解析結果12−(c)を示す図である。
【図24】図24は、図12の断面での樹脂充填解析結果12−(d)を示す図である。
【図25】図25は、図12の断面での樹脂充填解析結果12−(e)を示す図である。
【図26】図26は、熱硬化性樹脂の成形時間に対する反応率A、粘度η、弾性率Eの変化を説明する図である。
【図27】図27は、本発明の実施例2の設計支援装置の概略構成図である。
【図28】図28は、本発明の実施例2の3次元流動解析処理を説明するためのフロー図である。
【符号の説明】
【0102】
11 GUI部
12 モデル作成部
13 熱硬化性樹脂流動解析部
14 空間・障害物分離モデル作成部
15 空間・障害物合成モデル作成部
16 空間・障害物分離解析部
17 空間・障害物合成解析部
18 粘度計算式
19 熱反応式
20 界面の物理量の情報
21 CPU
22 メモリ
23 外部記憶装置
24 記憶媒体
25 読取装置
26 入力装置
27 表示装置
28 通信装置
31 コア
32 コイル
33 ティース
34 空間・障害物モデル(1)
35 空間・障害物モデル(2)
36 金型
37 キャビティ
38 ゲート
39 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を用いた樹脂成形品の設計支援装置であって、前記設計支援装置は、モデル作成部と熱硬化性樹樹脂流動解析部とからなり、前記モデル作成部は、3次元ソリッド要素からなり、成形品の一部に規則的に狭い隙間が配列されている部分は多孔質体とみなす空間・障害物合成モデルを作成する空間・障害物合成モデル作成部と前記空間・障害物合成モデル以外の部分を樹脂流動空間と障害物を分離する空間・障害物分離モデルとする空間・障害物分離モデル作成部とからなり、前記熱硬化性樹脂流動解析部は、前記空間・障害物合成モデルの領域を解析する空間・障害物合成解析部と前記空間・障害物分離モデルの領域を解析する空間・障害物分離解析部とからなり、前記空間・障害物合成解析部と前記空間・障害物分離解析部とは、熱硬化性樹脂用の粘度計算式を備え、前記空間・障害物分離解析部では、流体と熱の移動を記述する質量・運動量・エネルギの保存方程式と組合せて熱硬化性樹脂の充填挙動を計算するとともに、前記空間・障害物合成解析部では、前記粘度計算式と多孔質体として簡略化した形状を対象とした保存方程式とを組合せて熱硬化性樹脂の充填挙動を計算し、前記空間・障害物合成モデルと前記空間・障害物分離モデルとの界面での物理量の情報を引き渡しながら有限差分法、あるいは有限要素法を用いて数値解析をすることを特徴とする樹脂成形品の設計支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂成形品の設計支援装置において、前記空間・障害物合成モデル作成部で作成した前記空間・障害物合成モデルは3次元方向に断面固有抵抗値を独立に設定でき、前記空間・障害物合成解析部では3次元方向の圧力損失を前記断面固有抵抗値と粘度、速度、流動距離の積として前記運動量の保存方程式を表すことを特徴とする樹脂成形品の設計支援装置。
【請求項3】
請求項1に記載の樹脂成形品の設計支援装置において、前記粘度算出式は温度と時間の関数となる式を用いることを特徴とする樹脂成形品の設計支援装置。
【請求項4】
熱硬化性樹脂を用いた樹脂成形品の設計支援装置であって、前記設計支援装置は、モデル作成部と熱硬化性樹樹脂流動解析部とからなり、前記モデル作成部は、3次元ソリッド要素からなり、成形品の一部に規則的に狭い隙間が配列されている部分を多孔質体とみなす空間・障害物合成モデルを作成する空間・障害物合成モデル作成部と前記空間・障害物合成モデル以外の部分を樹脂流動空間と障害物を分離する空間・障害物分離モデルを作成する空間・障害物分離モデル作成部とからなり、前記熱硬化性樹脂流動解析部は、前記空間・障害物合成モデルの領域を解析する空間・障害物合成解析部と前記空間・障害物分離モデルの領域を解析する空間・障害物分離解析部とからなり、前記空間・障害物合成解析部と前記空間・障害物分離解析部とも、熱硬化性樹脂用の熱反応式と粘度計算式とを備え、前記空間・障害物分離解析部では、流体と熱の移動を記述する質量・運動量・エネルギの保存方程式と組合せて熱硬化性樹脂の充填挙動を計算するとともに、前記空間・障害物合成解析部では、前記粘度計算式と多孔質体として簡略化した形状を対象とした保存方程式とを組合せて熱硬化性樹脂の充填挙動を計算し、前記空間・障害物合成モデルと前記空間・障害物分離モデルとの界面での物理量の情報を引き渡しながら有限差分法、あるいは有限要素法を用いて数値解析をすることを特徴とする樹脂成形品の設計支援装置。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂成形品の設計支援装置において、前記空間・障害物合成モデル作成部で作成した前記空間・障害物合成モデルは、3次元方向に断面固有抵抗値を独立に設定でき、前記空間・障害物合成解析部では、3次元方向の圧力損失を前記断面固有抵抗値と粘度、速度、流動距離の積として前記運動量の保存方程式を表すことを特徴とする樹脂成形品の設計支援装置。
【請求項6】
請求項4に記載の樹脂成形品の設計支援装置において、前記粘度算出式は温度と反応率の関数となる式を用いることを特徴とする樹脂成形品の設計支援装置。
【請求項7】
コンピュータにより熱硬化性樹脂を用いた樹脂成形品の設計を支援する方法であって、モデル作成ステップと熱硬化性樹樹脂流動解析ステップとからなり、前記モデル作成ステップは、3次元ソリッド要素を作成し、成形品の一部に規則的に狭い隙間が配列されている部分は多孔質体とみなす空間・障害物合成モデルを作成ステップとそれ以外の部分は樹脂流動空間と障害物を分離する空間・障害物分離モデルを作成するステップとからなり、前記熱硬化性樹脂流動解析ステップは前記空間・障害物合成モデルの領域を解析する空間・障害物合成解析ステップと前記空間・障害物分離モデルの領域を解析する空間・障害物分離解析ステップとからなり、前記空間・障害物合成解析ステップと前記空間・障害物分離解析ステップとも共通の熱硬化性樹脂用の粘度計算式を備え、前記空間・障害物分離解析ステップでは流体と熱の移動を記述する質量・運動量・エネルギの保存方程式と組合せて熱硬化性樹脂の充填挙動を計算するとともに、前記空間・障害物合成ステップでは前記粘度計算式と多孔質体として簡略化した形状を対象とした保存方程式とを組合せて熱硬化性樹脂の充填挙動を計算し、前記空間・障害物合成モデルと前記空間・障害物分離モデルとの界面での物理量の情報を引き渡しながら有限差分法、あるいは有限要素法を用いて数値解析をすることを特徴とする樹脂成形品の設計を支援する方法。
【請求項8】
コンピュータにより熱硬化性樹脂を用いた樹脂成形品の設計を支援する方法であって、モデル作成ステップと熱硬化性樹樹脂流動解析ステップとからなり、前記モデル作成ステップは、3次元ソリッド要素を作成し、成形品の一部に規則的に狭い隙間が配列されている部分を多孔質体とみなす空間・障害物合成モデルを作成するステップとそれ以外の部分を樹脂流動空間と障害物を分離する空間・障害物分離モデルを作成するステップとからなり、前記熱硬化性樹脂流動解析ステップは、前記空間・障害物合成モデルの領域を解析する空間・障害物合成解析ステップと前記空間・障害物分離モデルの領域を解析する空間・障害物分離解析ステップとからなり、前記空間・障害物合成解析ステップと前記空間・障害物分離解析ステップとも共通の熱硬化性樹脂用の熱反応式と粘度式を備え、前記空間・障害物分離解析ステップでは流体と熱の移動を記述する質量・運動量・エネルギの保存方程式と組合せて熱硬化性樹脂の充填挙動を計算するとともに、前記空間・障害物合成ステップでは前記粘度計算式と多孔質体として簡略化した形状を対象とした保存方程式とを組合せて熱硬化性樹脂の充填挙動を計算し、前記空間・障害物合成モデルと前記空間・障害物分離モデルとの界面での物理量の情報を引き渡しながら有限差分法、あるいは有限要素法を用いて数値解析をすることを特徴とする樹脂成形品の設計を支援する方法。
【請求項9】
コンピュータにより熱硬化性樹脂を用いた樹脂成形品の設計を支援するプログラムであって、モデル作成ステップと熱硬化性樹樹脂流動解析ステップとからなり、前記モデル作成ステップは、3次元ソリッド要素を作成し、成形品の一部に規則的に狭い隙間が配列されている部分は多孔質体とみなす空間・障害物合成モデルを作成ステップとそれ以外の部分は樹脂流動空間と障害物を分離する空間・障害物分離モデルを作成するステップとからなり、前記熱硬化性樹脂流動解析ステップは前記空間・障害物合成モデルの領域を解析する空間・障害物合成解析ステップと前記空間・障害物分離モデルの領域を解析する空間・障害物分離解析ステップとからなり、前記空間・障害物合成解析ステップと前記空間・障害物分離解析ステップとも共通の熱硬化性樹脂用の粘度計算式を備え、前記空間・障害物分離解析ステップでは流体と熱の移動を記述する質量・運動量・エネルギの保存方程式と組合せて熱硬化性樹脂の充填挙動を計算するとともに、前記空間・障害物合成ステップでは前記粘度計算式と多孔質体として簡略化した形状を対象とした保存方程式とを組合せて熱硬化性樹脂の充填挙動を計算し、前記空間・障害物合成モデルと前記空間・障害物分離モデルとの界面での物理量の情報を引き渡しながら有限差分法、あるいは有限要素法を用いて数値解析をすることを特徴とする樹脂成形品の設計を支援するプログラム。
【請求項10】
コンピュータにより熱硬化性樹脂を用いた樹脂成形品の設計を支援するプログラムであって、モデル作成ステップと熱硬化性樹樹脂流動解析ステップとからなり、前記モデル作成ステップは、3次元ソリッド要素を作成し、成形品の一部に規則的に狭い隙間が配列されている部分を多孔質体とみなす空間・障害物合成モデルを作成するステップとそれ以外の部分を樹脂流動空間と障害物を分離する空間・障害物分離モデルを作成するステップとからなり、前記熱硬化性樹脂流動解析ステップは、前記空間・障害物合成モデルの領域を解析する空間・障害物合成解析ステップと前記空間・障害物分離モデルの領域を解析する空間・障害物分離解析ステップとからなり、前記空間・障害物合成解析ステップと前記空間・障害物分離解析ステップとも共通の熱硬化性樹脂用の熱反応式と粘度式を備え、前記空間・障害物分離解析ステップでは流体と熱の移動を記述する質量・運動量・エネルギの保存方程式と組合せて熱硬化性樹脂の充填挙動を計算するとともに、前記空間・障害物合成ステップでは前記粘度計算式と多孔質体として簡略化した形状を対象とした保存方程式とを組合せて熱硬化性樹脂の充填挙動を計算し、前記空間・障害物合成モデルと前記空間・障害物分離モデルとの界面での物理量の情報を引き渡しながら有限差分法、あるいは有限要素法を用いて数値解析をすることを特徴とする樹脂成形品の設計を支援するプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2008−230089(P2008−230089A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74108(P2007−74108)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】