樹脂成形方法および樹脂成形品
【課題】金型の構造を単純化でき、所望の部位に的確にウェルド部を形成でき、見栄えの良い樹脂成形品を成形できる樹脂成形方法、および樹脂成形品を提供する。
【解決手段】樹脂成形方法は、金型1を締め、ゲート25とキャビティ26とを備える樹脂流路90を形成し、キャビティ26に複数の分岐流路を区画するインサート部材28U、28Dを配置する型締め工程と、樹脂流路90に異方性の充填材910を有する溶融樹脂91を注入し、複数の分岐流路を通過させることにより溶融樹脂91の流れを分流し、分流した溶融樹脂91の流れが複数の分岐流路の下流側で会合することによりウェルド部WLを形成し、ウェルド部WLの延在方向における充填材910の配向性を向上させる注入工程と、金型1を開き、インサート部材28U、28Dが一体化された樹脂成形品93を取り出す型開き工程と、を有する。
【解決手段】樹脂成形方法は、金型1を締め、ゲート25とキャビティ26とを備える樹脂流路90を形成し、キャビティ26に複数の分岐流路を区画するインサート部材28U、28Dを配置する型締め工程と、樹脂流路90に異方性の充填材910を有する溶融樹脂91を注入し、複数の分岐流路を通過させることにより溶融樹脂91の流れを分流し、分流した溶融樹脂91の流れが複数の分岐流路の下流側で会合することによりウェルド部WLを形成し、ウェルド部WLの延在方向における充填材910の配向性を向上させる注入工程と、金型1を開き、インサート部材28U、28Dが一体化された樹脂成形品93を取り出す型開き工程と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母材中に充填材が配合された溶融樹脂を原料とする樹脂成形方法および樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ウェルド部を意図的に発生させる樹脂成形方法が開示されている。同文献開示の樹脂成形方法によると、ピン等の障害部材が金型に配置されている。障害部材はキャビティに突出している。一方、キャビティに注入される溶融樹脂は、繊維を含有している。キャビティにおいて、溶融樹脂の流れは、障害部材に衝突して分流する。一旦分流した流動先端同士が再び会合することにより、ウェルド部が形成される。ここで、溶融樹脂中の繊維は、ウェルド部の延在方向に沿って配向する。このため、同文献開示の樹脂成形方法によると、樹脂成形品の、ウェルド部の延在方向に対する引張強度や曲げ強度を向上させることができる。特許文献2、特許文献3にも、特許文献1と同様に、金型に配置した障害部材によりウェルド部を発生させ、溶融樹脂中の繊維を配向させる樹脂成形方法が開示されている。
【特許文献1】特開平8−142218号公報
【特許文献2】特開2003−231156号公報
【特許文献3】特開平10−34762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1〜特許文献3開示の樹脂成形方法によると、いずれも金型に障害部材が配置されていた。このため、型開き工程の際、障害部材がアンダカットにならないように、金型の構造を工夫する必要があった。すなわち、金型の構造が複雑だった。また、上記アンダカット回避という制約条件があるため、金型における障害部材の配置の自由度が低かった。したがって、樹脂成形品の所望の強化部位に対応させて、的確にウェルド部を配置するのが困難だった。また、樹脂成形品には、不可避的に孔状あるいは凹状の障害部材跡が形成されていた。このため、見栄えが悪かった。
【0004】
本発明の樹脂成形方法および樹脂成形品は、上記課題に鑑みて完成されたものである。したがって、本発明は、金型の構造を単純化でき、所望の部位に的確にウェルド部を形成でき、見栄えの良い樹脂成形品を成形できる樹脂成形方法、および樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)上記課題を解決するため、本発明の樹脂成形方法は、金型を締め、成形機のノズルの下流側に配置されるゲートと、該ゲートの下流側に配置されるキャビティと、を備える樹脂流路を形成し、該キャビティに複数の分岐流路を区画するインサート部材を配置する型締め工程と、該ノズルから、該樹脂流路に、母材と、該母材に分散される異方性の充填材と、を備える溶融樹脂を注入し、複数の該分岐流路を通過させることにより該溶融樹脂の流れを分流し、分流した該溶融樹脂の流れが複数の該分岐流路の下流側で会合することによりウェルド部を形成し、該ウェルド部の延在方向における該充填材の配向性を向上させる注入工程と、該金型を開き、該溶融樹脂が固化して形成され該インサート部材が一体化された樹脂成形品を取り出す型開き工程と、を有することを特徴とする(請求項1に対応)。
【0006】
本発明の樹脂成形方法によると、インサート部材により、ウェルド部を形成することができる。このため、ウェルド部が形成されていない場合と比較して、ウェルド部に沿って充填材の配向性を向上させることができる。したがって、樹脂成形品の、ウェルド部の延在方向に対する強度(引張強度や曲げ強度など)を向上させることができる。
【0007】
また、キャビティに配置されるインサート部材は、溶融樹脂が固化することにより、樹脂成形品に一体化される。このため、インサート部材がアンダカットになりにくい。したがって、金型の構造を単純化できる。また、金型の構造に特別な工夫が要らないため、汎用の金型を用いることができる。
【0008】
また、インサート部材は樹脂成形品に一体化されるため、キャビティにおけるインサート部材の配置の自由度が高い。したがって、樹脂成形品の所望の部位に的確にウェルド部を形成することができる。また、樹脂成形品に障害部材跡が形成されないため、見栄えの良い樹脂成形品を作製することができる。
【0009】
また、従来、充填材の配向性は、キャビティの型面付近(つまり樹脂成形品の表面付近)が高く、キャビティの内部(つまり樹脂成形品の内部)が低くなる傾向にあった。この点、本発明の樹脂成形方法によると、キャビティの型面付近のみならず、ウェルド部付近においても、充填材の配向性を高くすることができる。このため、キャビティの内部(つまり樹脂成形品の内部)においても、充填材の配向性を高くすることができる。したがって、肉厚の厚い樹脂成形品を成形するのに好適である。また、要求される強度が高い樹脂成形品を成形するのに好適である。
【0010】
(1−1)好ましくは、上記(1)の構成において、前記注入工程の前に、前記インサート部材に、前記樹脂成形品における該インサート部材と固化した前記溶融樹脂との密着性を向上させる、表面処理を施す表面処理工程を有する構成とする方がよい。
【0011】
本構成によると、インサート部材と、固化した溶融樹脂と、の密着性を向上させることができる。表面処理には、例えば、インサート部材の表面積を大きくする処理、インサート部材の表面を粗くする処理、インサート部材の表面に接着剤を塗布する処理などが挙げられる。
【0012】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記インサート部材は、前記キャビティに複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、複数の該孔は、該キャビティの流路方向に対して交差する方向に、並設されており、全ての該孔の少なくとも一部の断面積は、略均等になるように設定されている構成とする方がよい(請求項2に対応)。
【0013】
本構成によると、隣接する一対のウェルド部間の間隔を、略均等にすることができる。このため、ウェルド部の分布が偏るのを抑制することができる。したがって、樹脂成形品のウェルド部配置部分の強度のばらつきを抑制することができる。
【0014】
(2−1)好ましくは、上記(2)の構成において、前記キャビティにおける前記インサート部材配置部分の、複数の前記孔の並設方向長さは、20mm未満である構成とする方がよい。
【0015】
キャビティにおけるインサート部材配置部分の、複数の孔の並設方向長さが20mm未満の場合、インサート部材配置部分の上流側における溶融樹脂の流速のばらつきが比較的小さい。このため、全ての孔の少なくとも一部の断面積を略均等にしても、溶融樹脂の流速のばらつきを小さくすることができる。したがって、注入工程における充填材の配向性を、向上させることができる。また、樹脂成形品を、充填材の配向方向に、強化することができる。
【0016】
ここで、キャビティにおけるインサート部材配置部分の、複数の孔の並設方向長さを20mm未満にしたのは、20mm以上の場合、インサート部材配置部分の上流側における溶融樹脂の流速のばらつきが比較的大きいため、全ての孔の少なくとも一部の断面積が略均等では、流速のばらつきを緻密に補正しにくいからである。
【0017】
(2−2)好ましくは、上記(2)の構成において、前記キャビティにおける前記インサート部材配置部分の、複数の前記孔の並設方向長さは、15mm未満である構成とする方がよい。この場合、さらに、インサート部材配置部分の上流側における溶融樹脂の流速のばらつきが小さくなる。このため、全ての孔の少なくとも一部の断面積を略均等にしても、溶融樹脂の流速のばらつきを充分小さくすることができる。
【0018】
(2−3)好ましくは、上記(2)の構成において、前記孔の少なくとも一部は、該孔の少なくとも上流端である構成とする方がよい。本構成によると、全ての孔の少なくとも上流端の断面積は、略均等になるように設定されている。キャビティにおけるインサート部材配置部分に溶融樹脂の流れが差し掛かる際、最も早く到達するのが上流端である。このため、全ての孔の少なくとも上流端の断面積を略均等にしておけば、インサート部材の流路方向長さを短くすることができる。
【0019】
(3)好ましくは、上記(1)の構成において、前記インサート部材は、前記キャビティに複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、複数の該孔は、該キャビティの流路方向に対して交差する方向に、並設されており、前記溶融樹脂の流れは、該インサート部材の上流側において、該流路方向の流速が最も速くなる最速部と、該流路方向の流速が最も遅くなる最遅部と、を備え、該最速部に最も近い該孔の少なくとも一部の断面積が、該最遅部に最も近い該孔の少なくとも一部の断面積よりも、小さくなるように設定されている構成とする方がよい(請求項3に対応)。
【0020】
溶融樹脂の流速は、樹脂流路の流路断面積や形状などの変化により、ばらつく場合がある。この場合、溶融樹脂の流れにおいて最も流速差が大きいのは、最速部と最遅部である。この点、本構成によると、最速部に最も近い孔の少なくとも一部の断面積が、最遅部に最も近い孔の少なくとも一部の断面積よりも、小さくなるように設定されている。
【0021】
本構成によると、キャビティにおけるインサート部材配置部分を溶融樹脂の流れが通過する際、最速部の方が、最遅部よりも、大きな流動抵抗をインサート部材から受けることになる。このため、最大の流速差を持つ最速部の流動先端と最遅部の流動先端とを、インサート部材の下流側において揃えやすくなる。したがって、注入工程における充填材の配向性を、より向上させることができる。また、樹脂成形品を、充填材の配向方向に、より強化することができる。
【0022】
(3−1)好ましくは、上記(3)の構成において、複数の前記孔の少なくとも一部の断面積のうち、該最速部に最も近い該孔の少なくとも一部の断面積が最も小さく、該最遅部に最も近い該孔の少なくとも一部の断面積が最も大きく、なるように設定されている構成とする方がよい。
【0023】
本構成によると、キャビティにおけるインサート部材配置部分を溶融樹脂の流れが通過する際、最速部が最も大きな流動抵抗を、最遅部が最も小さな流動抵抗を、それぞれインサート部材から受けることになる。このため、さらに溶融樹脂の流速のばらつきを補正することができる。したがって、注入工程における充填材の配向性を、より向上させることができる。また、樹脂成形品を、充填材の配向方向に、より強化することができる。
【0024】
(3−2)好ましくは、上記(3)の構成において、前記キャビティにおける前記インサート部材配置部分の、複数の前記孔の並設方向長さは、20mm以上である構成とする方がよい。つまり、本構成は、キャビティにおけるインサート部材配置部分の、複数の孔が並んでいる方向(流路方向に対して交差する方向)の長さを、20mm以上にするものである。
【0025】
ここで、キャビティにおけるインサート部材配置部分の、複数の孔の並設方向長さを20mm以上にしたのは、20mm未満の場合、インサート部材配置部分の上流側における最速部と最遅部との流速差が比較的小さいため、孔の少なくとも一部の断面積を調整することによる流速差補正効果を発揮しにくいからである。
【0026】
(3−3)好ましくは、上記(3)の構成において、前記キャビティにおける前記インサート部材配置部分の、複数の前記孔の並設方向長さは、25mm以上である構成とする方がよい。この場合、インサート部材配置部分の上流側における最速部と最遅部との流速差がさらに大きくなりやすい。このため、上記流速差補正効果を、さらに発揮しやすくなる。
【0027】
(3−4)好ましくは、上記(3)の構成において、前記孔の少なくとも一部は、該孔の少なくとも上流端である構成とする方がよい。本構成によると、孔の少なくとも上流端の断面積は、最速部に最も近い部分の方が、最遅部に最も近い部分よりも、小さくなるように設定されている。キャビティにおけるインサート部材配置部分に溶融樹脂の流れが差し掛かる際、最も早く到達するのが上流端である。このため、孔の少なくとも上流端の断面積を、最速部に最も近い部分の方が、最遅部に最も近い部分よりも、小さくなるように設定しておくと、最速部の方が、最遅部よりも、孔に流れ込みにくくなる。このため、さらに溶融樹脂の流速のばらつきを補正することができる。また、上流端において流速差補正が可能になるため、インサート部材の流路方向長さを短くすることができる。
【0028】
(4)好ましくは、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成において、前記樹脂流路は、流路断面積が変化する変化部を備え、前記インサート部材は、該変化部の下流側に配置されている構成とする方がよい(請求項4に対応)。
【0029】
変化部においては、流路断面積が変化する。このため、変化部を通過する際、溶融樹脂の流れが乱れる場合がある。溶融樹脂の流れが乱れると、溶融樹脂の流速がばらつくおそれがある。したがって、充填材の配向性を向上させにくくなる。
【0030】
この点、本構成によると、変化部の下流側にインサート部材が配置されている。このため、変化部通過による溶融樹脂の流れの乱れを、補正することができる。したがって、樹脂流路の形状に因らず、充填材の配向性を向上させることができる。また、樹脂成形品の形状に因らず、樹脂成形品を強化することができる。
【0031】
(5)好ましくは、上記(1)ないし(4)のいずれかの構成において、前記樹脂成形品は、所望の強度を有する強化部を備え、前記キャビティは、該強化部を成形する強化部用成形部を備え、前記インサート部材は、該強化部用成形部の上流側に配置されている構成とする方がよい(請求項5に対応)。本構成によると、強化部用成形部における充填材の配向性を、より向上させることができる。このため、樹脂成形品の強化部を、より強化しやすい。
【0032】
(6)また、上記課題を解決するため、本発明の樹脂成形品は、母材と、該母材に分散される異方性の充填材と、を有する樹脂製の本体と、該本体に複数の分岐流路を区画し、該本体に一体化されたインサート部材と、該インサート部材を略起点に延在するウェルド部と、を備えてなることを特徴とする(請求項6に対応)。
【0033】
本発明の樹脂成形品によると、成形の際、溶融樹脂の流れが複数の分岐流路で分流し会合することにより、複数の分岐流路の下流側にウェルド部が形成される。このため、ウェルド部の延在方向における充填材の配向性を向上させることができる。したがって、樹脂成形品を強化することができる。
【0034】
また、インサート部材は樹脂成形品に一体化されるため、成形時のインサート部材の配置の自由度が高い。したがって、樹脂成形品の所望の部位を的確に強化することができる。また、樹脂成形品に従来のような障害部材跡が形成されないため、見栄えの良い樹脂成形品を作製することができる。
【0035】
(7)好ましくは、上記(6)の構成において、前記インサート部材は、前記本体に複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、全ての該孔の少なくとも一部の断面積は、略均等になるように設定されている構成とする方がよい(請求項7に対応)。
【0036】
本構成によると、隣接する一対のウェルド部間の間隔を、略均等にすることができる。このため、ウェルド部の分布が偏るのを抑制することができる。したがって、樹脂成形品のウェルド部配置部分の強度のばらつきを抑制することができる。
【0037】
(7−1)好ましくは、上記(7)の構成において、前記孔の少なくとも一部は、該孔の少なくとも軸方向一端である構成とする方がよい。本構成によると、全ての孔の少なくとも軸方向一端の断面積は、略均等になるように設定されている。キャビティにおけるインサート部材配置部分に溶融樹脂の流れが差し掛かる際、最も早く到達するのが孔の軸方向一端である。このため、全ての孔の少なくとも軸方向一端の断面積を略均等にしておけば、インサート部材の孔軸方向長さを短くすることができる。
【0038】
(8)好ましくは、上記(6)の構成において、さらに、ゲートカット跡を備え、前記インサート部材は、前記本体に複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、該ゲートカット跡に最も近い該孔の、少なくとも一部の断面積が、該ゲートカット跡に最も遠い該孔の、少なくとも一部の断面積よりも、小さくなるように設定されている構成とする方がよい(請求項8に対応)。
【0039】
成形の際、流路断面積は、ゲートとキャビティとの境界において、拡大する。このため、溶融樹脂の流速にばらつきが発生する。具体的には、溶融樹脂の流速は、よりゲートに近い方が、より速くなる。
【0040】
この点、本構成によると、ゲートに最も近い孔の少なくとも一部の断面積が、ゲートに最も遠い孔の少なくとも一部の断面積よりも、小さくなるように設定されている。このため、溶融樹脂の流れの最速部は、最遅部よりも、大きな流動抵抗をインサート部材から受けることになる。したがって、最大の流速差を持つ最速部の流動先端と最遅部の流動先端とを、インサート部材の下流側において揃えやすくなる。本構成によると、充填材の配向性がより向上する。
【0041】
(8−1)好ましくは、上記(8)の構成において、前記孔の少なくとも一部は、該孔の少なくともゲートカット方向端である構成とする方がよい。本構成によると、孔の少なくともゲートカット方向端すなわち上流端の断面積は、最速部に最も近い部分の方が、最遅部に最も近い部分よりも、小さくなるように設定されている。キャビティにおけるインサート部材配置部分に溶融樹脂の流れが差し掛かる際、最も早く到達するのが上流端である。このため、孔の少なくとも上流端の断面積を、最速部に最も近い部分の方が、最遅部に最も近い部分よりも、小さくなるように設定しておくと、最速部の方が、最遅部よりも、孔に流れ込みにくくなる。このため、さらに溶融樹脂の流速のばらつきを補正することができる。また、上流端において流速差補正が可能になるため、インサート部材の流路方向長さつまり孔軸方向長さを短くすることができる。
【0042】
(9)好ましくは、上記(6)ないし(8)のいずれかの構成において、複数の前記分岐流路は、格子状に配置されている構成とする方がよい(請求項9に対応)。本構成によると、複数の分岐流路が縦横両方向に並んでいる。このため、成形の際、溶融樹脂の流れを縦横に分流化することができる。したがって、樹脂成形品に、比較的密にウェルド部を配置することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によると、金型の構造を単純化でき、所望の部位に的確にウェルド部を形成でき、見栄えの良い樹脂成形品を成形できる樹脂成形方法、および樹脂成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の樹脂成形方法および樹脂成形品の実施の形態について説明する。
【0045】
<第一実施形態>
[金型]
まず、本実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型について説明する。
【0046】
(金型の構成)
まず、金型の構成について説明する。図1に、本実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型の型開き状態における斜視図を示す。図2に、同金型の型締め状態における斜視図を示す。図3に、図2のIII−III方向断面図を示す。図4に、図2のIV−IV方向断面図を示す。図5に、図3の枠V内の拡大図を示す。図6に、同金型に配置される上下一対のインサート部材のうち上側のインサート部材の斜視図を示す。図7に、同金型の可動型の型締め状態における右面図を示す。図1〜図7に示すように、金型1は、固定型20と、可動型21と、スライドコア22U、22Dと、インサート部材28U、28Dと、を備えている。
【0047】
固定型20は、クロムモリブデン鋼製であって、直方体のブロック状を呈している。固定型20には、スプルー200と、スライドコア用凹部201と、が形成されている。スライドコア用凹部201は、固定型20の左面に凹設されている。スライドコア用凹部201は、上下方向に延在している。スライドコア用凹部201の断面は、矩形状を呈している。
【0048】
スプルー200は、固定型20の右面の中央よりも上の部分に穿設されている。スプルー200は、固定型20の右面からスライドコア用凹部201の右底面まで、延在している。すなわち、スプルー200とスライドコア用凹部201とは、連通している。スプルー200の左端、つまりスプルー200とスライドコア用凹部201との境界には、拡張部27が配置されている。スプルー200の断面は、略真円状を呈している。スプルー200は、左方から右方に向かって緩やかに尖るテーパー孔状を呈している。スプルー200の右端は、成形機のノズル(図略)に連通している。
【0049】
可動型21は、クロムモリブデン鋼製であって、矩形板状を呈している。可動型21は、固定型20に対して、左右方向に離接可能である。可動型21の右面には、キャビティ用凹部210が凹設されている。キャビティ用凹部210は、浅底であり、矩形状を呈している。図7に示すように、キャビティ用凹部210の前面には、上下方向にゲート25を挟んで離間して、一対の前縁用保持溝211UF、211DFが凹設されている。同様に、キャビティ用凹部210の後面には、上下方向にゲート25を挟んで離間して、一対の後縁用保持溝211UR、211DRが凹設されている。前縁用保持溝211UFと後縁用保持溝211URとは、前後方向に対向している。また、前縁用保持溝211DFと後縁用保持溝211DRとは、前後方向に対向している。
【0050】
スライドコア22Uは、クロムモリブデン鋼製であって、図1に示すように、直方体のブロック状を呈している。スライドコア22Uは、固定型20のスライドコア用凹部201に対して、上側から進退可能である。スライドコア22Uの下面には、絞り部材220Uが一体に形成されている。絞り部材220Uは、下方に突設されている。絞り部材220Uは、前後方向に延在している。絞り部材220Uの断面は、矩形状を呈している。
【0051】
スライドコア22Dの材質、構成は、上記スライドコア22U同様である。また、スライドコア22Dは、スライドコア22Uに対して、スプルー200を基準に、上下対称に配置されている。すなわち、スライドコア22Dは、固定型20のスライドコア用凹部201に対して、下側から進退可能である。スライドコア22Dの上面には、絞り部材220Dが一体に形成されている。絞り部材220Dは上記絞り部材220Uと、上下方向に対向している。
【0052】
型開き状態においては、図1に示すように、固定型20を基準に、可動型21が左方に、スライドコア22Uが上方に、スライドコア22Dが下方に、それぞれ離間している。なお、インサート部材28U、28Dは、可動型21に配置されている。
【0053】
型締め状態においては、図2に示すように、固定型20のスライドコア用凹部201に、上方からスライドコア22Uが、下方からスライドコア22Dが、それぞれ進入している。並びに、固定型20左面と可動型21右面とが当接している。図3に示すように、絞り部材220Uと絞り部材220Dとは、上下方向に所定間隔離間して配置されている。
【0054】
(インサート部材の構成)
次に、インサート部材28U、28Dの構成について説明する。図6に示すように、インサート部材28Uは、SUS304製であって、枠体280Uと、仕切体281Uと、を一体的に備えている。枠体280Uは、前後方向に長く左右方向に短い矩形枠状を呈している。図7に示すように、枠体280Uの前縁は、前縁用保持溝211UFに収容されている。また、枠体280Uの後縁は、後縁用保持溝211URに収容されている。仕切体281Uは、左右方向に延びる角柱状を呈している。仕切体281Uは、枠体280Uの右縁と左縁とを連結している。仕切体281Uは、前後方向に略等間隔に、合計七つ並置されている。七つの仕切体281Uは、枠体280Uの内部空間を、八つの孔282Uに分断している。八つの孔282Uは、各々矩形状を呈している。八つの孔282Uの断面積は、略均等である。八つの孔282Uにより、後述するキャビティ26に八つの分岐流路が区画される。
【0055】
インサート部材28Dの材質、構成は、上記インサート部材28U同様である。また、インサート部材28Dは、インサート部材28Uに対して、スプルー200を基準に、上下対称に配置されている。また、図7に示すように、枠体280Dの前縁は、前縁用保持溝211DFに収容されている。また、枠体280Dの後縁は、後縁用保持溝211DRに収容されている。
【0056】
(樹脂流路の構成)
次に、金型1に形成される樹脂流路の構成について説明する。樹脂流路90は、図2にハッチングで示すように、型締め状態の金型1の内部に形成されている。樹脂流路90は、スプルー200と、ランナー23と、頸部24と、ゲート25と、キャビティ26と、を備えている。ゲート25は、本発明の変化部に含まれる。
【0057】
ランナー23は、図3に示すように、スライドコア用凹部201の、上下方向に対向する絞り部材220U、220D右方に、形成されている。ランナー23は、前後方向に延在している。ランナー23は、スプルー200の左方に配置されている。ランナー23とスプルー200との境界である拡張部27においては、樹脂流路90の流路断面積(この部分を溶融樹脂は左右方向に流れるから、上下方向の断面積)が、急激に大きくなる。
【0058】
頸部24は、スライドコア用凹部201の、上下方向に対向する絞り部材220U、220D間に、形成されている。頸部24は、前後方向に延在している。頸部24は、ランナー23の左方に配置されている。頸部24の流路断面積(上下方向の断面積)は、ランナー23の流路断面積(上下方向の断面積)に対して、急激に小さくなる。
【0059】
ゲート25は、スライドコア用凹部201の頸部24左方に配置されている。ゲート25は、前後方向に長く上下方向に短い矩形状を呈している。キャビティ26は、スライドコア22U、22Dの左面と、可動型21のキャビティ用凹部210と、により形成されている。キャビティ26は、ゲート25の左方に配置されている。キャビティ26におけるインサート部材28U上方部分は、強化部用成形部260Uに相当する。一方、キャビティ26におけるインサート部材28D下方部分は、強化部用成形部260Dに相当する。
【0060】
このように、型締め状態の金型1の内部には、上流側から下流側に向かって、スプルー200→ランナー23→頸部24→ゲート25→キャビティ26と連通する樹脂流路90が形成されている。スプルー200からゲート25までの樹脂流路90の流路方向は、左右方向である。キャビティ26の樹脂流路90の流路方向、つまり所望の充填材配向方向は、キャビティ26の長手方向つまり上下方向である。
【0061】
[樹脂成形方法]
次に、本実施形態の樹脂成形方法について説明する。本実施形態の樹脂成形方法は、型締め工程と注入工程と型開き工程とを有している。
【0062】
(型締め工程)
まず、型締め工程について説明する。型締め工程においては、金型1を、図1に示す型開き状態から、図2〜図7に示す型締め状態に、切り替える。具体的には、まず、固定型20のスライドコア用凹部201に、上方からスライドコア22Uを、下方からスライドコア22Dを、それぞれ進入させる。次いで、固定型20に対して、予めインサート部材28U、28Dを装着した可動型21を、左方から当接させる。型締めにより、金型1の内部には、図2にハッチングで示すように、樹脂流路90が区画される。
【0063】
(注入工程)
次に、注入工程について説明する。注入工程においては、成形機のノズルから、樹脂流路90に、溶融樹脂を注入する。溶融樹脂は、ナイロン66と、ガラス繊維と、を備えている。ナイロン66は、本発明の母材に含まれる。ガラス繊維は、本発明の充填材に含まれる。ガラス繊維は、溶融状態のナイロン66に分散している。成形機のシリンダ温度は約290℃である。また、金型1の温度は約80℃である。
【0064】
溶融樹脂の流動先端MF1〜MF9は、図3、図4に一点鎖線で模式的に示すように、樹脂流路90内を流動する。すなわち、溶融樹脂は、スプルー200内を、流動先端MF1→MF2で示すように、右方から左方に流動する。樹脂流路90の流路断面積は、スプルー200左端の拡張部27において、前後方向に急激に拡張する。このため、溶融樹脂は、拡張部27を通過後、流動先端MF3で示すように、拡散しながらランナー23に流入する。
【0065】
ここで、流動先端MF3は、拡張部27を略中心とする曲面状を呈している。このため、流動先端MF3の流路方向(左右方向)の流速は、ばらついている。すなわち、拡張部27の中心A1の直ぐ左に、流動先端MF3において流路方向の流速が最も速くなる最速部V1が、配置される。また、拡張部27の口縁に、流動先端MF3において流路方向の流速が最も遅くなる最遅部V2が、配置される。
【0066】
流動先端MF3において、最速部V1は最も速く、最遅部V2は最も遅く、頸部24に到着する。しかしながら、頸部24においては、流路断面積が上下方向から絞られている。このため、最も速く到着した最速部V1付近(前後方向略中央)の溶融樹脂の一部は、流動先端MF4で示すように、頸部24に堰き止められ、最遅部V2方向つまり前後方向に、回り込む。したがって、頸部24下流側においては、流動先端MF5で示すように、頸部24上流側に対して、最速部V1と最遅部V2との流速差が補正されている。頸部24を通過した溶融樹脂は、流動先端MF6で示すように、ゲート25からキャビティ26に流れ込む。
【0067】
キャビティ26に流入した溶融樹脂は、キャビティ26の延在方向(上下方向)に拡散する。図5に示すように、ゲート25の直ぐ上にはインサート部材28Uが、ゲート25の直ぐ下にはインサート部材28Dが、それぞれ配置されている。また、インサート部材28U、28Dは、それぞれキャビティ26の左右方向全長に亘って配置されている。このため、キャビティ26に流入した溶融樹脂は、インサート部材28U、28Dのいずれかを通過する。
【0068】
図7に示すように、下方に流動する流動先端MF7は、インサート部材28Dの七つの仕切体281Dにより分流され、八つの孔282Dを通過する。言い換えると、八つの分岐流路を通過する。八つの孔282Dを通過することにより、溶融樹脂の流速のばらつきがさらに補正される。具体的には、流速の速い前後方向略中央部と、流速の遅い前後方向両端部と、の流速差がほぼ無くなる。
【0069】
分流した八つの流動先端MF8は、前後方向に押し合いながら、強化部用成形部260Dを下方に流動する。ここで、八つの流動先端MF8の流速は、略同じである。このため、八つの流動先端MF8は、流動先端MF9で示すように、前方あるいは後方に湾曲することなく、互いに略平行に下方に流動する。分流した流動先端同士の境界には、ウェルド部WLが形成される。図8に、図7の円VIII内の拡大図を示す。図8に模式的に示すように、溶融樹脂91のガラス繊維910は、ウェルド部WLの延在方向(上下方向)に沿って配向している。
【0070】
キャビティ26に流入した溶融樹脂のうち、上方に流動する溶融樹脂も、上記下方に流動する溶融樹脂同様に、インサート部材28Uの七つの仕切体281Uにより分流され、八つの孔282Uを通過する。言い換えると、八つの分岐流路を通過する。分流した流動先端同士の境界には、ウェルド部WLが形成される。このようにして、溶融樹脂91は、キャビティ26全体に行き渡る。その後、溶融樹脂91は、キャビティ26において、冷却、固化される。この際、インサート部材28U、28Dは、キャビティ26の溶融樹脂91と一体化される。
【0071】
(型開き工程)
次に、型開き工程について説明する。型開き工程においては、金型1を、図2〜図8に示す型締め状態から、図1に示す型開き状態に、再び切り替える。具体的には、固定型20に対して、可動型21を左方に離間させる。また、固定型20のスライドコア用凹部201から、上方にスライドコア22Uを、下方にスライドコア22Dを、それぞれ退出させる。
【0072】
図9に、型開き状態の可動型に形成される中間成形品の斜視図を示す。中間成形品92は、樹脂流路90と略同じ形状を呈している。すなわち、中間成形品92は、スプルー固化部200A、ランナー固化部23A、頸部固化部24A、ゲート固化部25A、キャビティ固化部26Aを備えている。ゲート固化部25Aは、図9中にハッチングで示すように、ゲートカットされる。ゲートカット後のキャビティ固化部26Aが、樹脂成形品となる。
【0073】
[樹脂成形品]
次に、本実施形態の樹脂成形品について説明する。図10に、本実施形態の樹脂成形品の斜視図を示す。図11に、図10のXI−XI方向断面図を示す。なお、以下に説明する樹脂成形品93は、模式的なものであり、樹脂成形方法やその後の処理によっては、樹脂成形品93に、ウェルド部WL、ゲートカット跡GC、高配向部93aと低配向部93bとのコントラストが確認できない場合もある。また、ウェルド部WLの延在方向や延在区間が異なる場合もある。
【0074】
図10に示すように、本実施形態の樹脂成形品93は、上下方向に長い矩形板状を呈している。具体的には、樹脂成形品93の上下方向長さW1は130mmであり、前後方向長さW2は50mmであり、左右方向長さW3は12mmである。
【0075】
樹脂成形品93には、インサート部材28U、28Dが埋設されている。樹脂成形品93の表面には、ウェルド部WLとゲートカット跡GCとが形成されている。ゲートカット跡GCは、前後方向に長く上下方向に短い矩形状を呈している。ゲートカット跡GCは、樹脂成形品93の右面の上下方向中央よりも上の部分に形成されている。
【0076】
ウェルド部WLは、上下方向に対向して形成されている。上方のウェルド部WLは、インサート部材28Uを略起点に、上方に延在している。ウェルド部WLは、前後方向に七本略平行に並んでいる。隣り合う一対のウェルド部WL間の間隔は、略均等である。
【0077】
これに対して、下方のウェルド部WLは、インサート部材28Dを略起点に、下方に延在している。ウェルド部WLは、前後方向に七本略平行に並んでいる。隣り合う一対のウェルド部WL間の間隔は、略均等である。
【0078】
ウェルド部WLが形成されている部分は、樹脂成形品93の強化部930U、930Dに相当する。強化部930U、930Dは、強化部930U、930D以外の部分(インサート部材28Uとインサート部材28Uとの間の部分)と比較して、高強度である。
【0079】
強化部930U、930D断面(ただし、カットした断面ではなく、曲げ試験などで破断した破断面)には、図11に示すように、高配向部93aと低配向部93bとが観察される。高配向部93aは、樹脂成形品93の表面付近(つまり前出図2に示す金型1のキャビティ26の型面付近)およびウェルド部WL付近に形成されている。一方、低配向部93bは、樹脂成形品93の内部であって、かつウェルド部WLから離間した部分に形成されている。
【0080】
高配向部93aにおいては、ガラス繊維が上下方向に良好に配向している。このため、高配向部93aの断面(破断面)においては、ガラス繊維が毛羽立っている。一方、低配向部93bは、高配向部93aよりも、ガラス繊維の配向性が低い。このため、低配向部93bの断面(破断面)においては、高配向部93aの断面と比較して、ガラス繊維が毛羽立っていない。
【0081】
以上説明したように、本実施形態の樹脂成形品93は、以下の特徴のうち少なくとも一つを有している。孔282U、282Dを有するインサート部材28U、28Dが埋設されている。ゲートカット跡GCが形成されている。複数のウェルド部WLが形成されている。互いに隣接する一対のウェルド部WL間の間隔は略均等である。ウェルド部WLの延在方向に対して略垂直方向の断面(破断面)に、少なくとも高配向部93aが観察される。
【0082】
[作用効果]
次に、本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品93の作用効果について説明する。本実施形態の樹脂成形方法によると、インサート部材28U、28Dにより、ウェルド部WLを形成することができる。このため、ウェルド部WLが形成されていない場合と比較して、ウェルド部WLに沿ってガラス繊維910の配向性を向上させることができる。したがって、樹脂成形品93の、ウェルド部WLの延在方向に対する強度を向上させることができる。
【0083】
また、キャビティ26に配置されるインサート部材28U、28Dは、溶融樹脂91が固化することにより、樹脂成形品93に一体化される。このため、金型1の構造を単純化できる。また、金型1の構造に特別な工夫が要らないため、汎用の金型1を用いることができる。
【0084】
また、インサート部材28U、28Dは樹脂成形品93に一体化されるため、インサート部材28U、28Dがアンダカットになるおそれがない。このため、キャビティ26におけるインサート部材28U、28Dの配置の自由度が高い。したがって、樹脂成形品93の所望の部位に的確にウェルド部WLを形成することができる。また、樹脂成形品93に障害部材跡が形成されないため、見栄えの良い樹脂成形品93を作製することができる。
【0085】
また、本実施形態の樹脂成形方法によると、キャビティ26の型面(スライドコア22U、22D左面、可動型21のキャビティ用凹部210表面)付近のみならず、ウェルド部WL付近においても、ガラス繊維910の配向性を高くすることができる。このため、キャビティ26の内部(つまり樹脂成形品93の内部)においても、ガラス繊維910の配向性を高くすることができる。したがって、肉厚(図10における左右方向長さW3)の厚い樹脂成形品93を成形するのに好適である。また、要求される強度が高い樹脂成形品93を成形するのに好適である。
【0086】
また、インサート部材28U、28Dの八つの孔282U、282Dの上流端の断面積は、略均等である。このため、隣接する一対のウェルド部WL間の間隔を、略均等にすることができる。また、樹脂成形品93のウェルド部WL配置部分の前後方向における強度のばらつきを抑制することができる。
【0087】
また、樹脂流路90の拡張部27においては、流路断面積の拡張に伴い、溶融樹脂の流速のばらつきが大きくなる。しかしながら、拡張部27の下流側には、頸部24が配置されている。このため、溶融樹脂の流速のばらつきを補正することができる。
【0088】
同様に、樹脂流路90のゲート25においては、流路断面積の拡張に伴い、溶融樹脂の流速のばらつきが再び大きくなる。しかしながら、ゲート25の下流側には、一対のインサート部材28U、28Dが配置されている。このため、ゲート25通過による溶融樹脂91の流速のばらつきを、直ちに再補正することができる。したがって、ガラス繊維910の配向性を向上させることができる。
【0089】
また、本実施形態の樹脂成形方法によると、強化部用成形部260U、260Dの上流側に近接してインサート部材28U、28Dが配置されている。このため、樹脂成形品93の強化部930U、930Dを、より確実に強化することができる。
【0090】
<第二実施形態>
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、の相違点は、インサート部材の形状のみである。したがって、ここでは主に相違点についてのみ説明する。
【0091】
図12に、本実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型に配置される上下一対のインサート部材のうち上側のインサート部材の斜視図を示す。なお、図6と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0092】
図12に示すように、仕切体281Uは、前後方向に延びる角柱状を呈している。仕切体281Uは、枠体280Uの前縁と後縁とを連結している。仕切体281Uは、左右方向に一対配置されている。一対の仕切体281Uは、枠体280Uの内部空間を、三つの孔282Uに分断している。三つの孔282Uは、各々細長い矩形状を呈している。三つの孔282Uの断面積は、略均等である。三つの孔282Uにより、キャビティに三つの分岐流路が区画される。
【0093】
下側のインサート部材の材質、構成は、上記インサート部材28U同様である。また、下側のインサート部材は、インサート部材28Uに対して、スプルーを基準に、上下対称に配置されている。
【0094】
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品は、構成が共通する部分に関しては、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と同様の作用効果を有する。また、本実施形態の樹脂成形方法によると、キャビティの左右方向長さ(前出図10における樹脂成形品93の左右方向長さW3=12mm)が比較的短いにもかかわらず、溶融樹脂の流れが、インサート部材28U、28Dにより、キャビティ左右方向に三つに分流される。このため、強化部の断面における高配向部93a(前出図11参照)の割合を、高くすることができる。
【0095】
<第三実施形態>
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、の相違点は、インサート部材の形状のみである。したがって、ここでは主に相違点についてのみ説明する。
【0096】
図13に、本実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型に配置される上下一対のインサート部材のうち上側のインサート部材の斜視図を示す。なお、図6と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0097】
図13に示すように、仕切体281Uaは、左右方向に延びる角柱状を呈している。仕切体281Uaは、枠体280Uの右縁と左縁とを連結している。仕切体281Uaは、前後方向に七つ配置されている。一方、仕切体281Ubは、前後方向に延びる角柱状を呈している。仕切体281Ubは、枠体280Uの前縁と後縁とを連結している。仕切体281Ubは、左右方向に一対配置されている。これら、互いに直交する仕切体281Ua、281Ubにより、枠体280Uの内部空間は、合計24個の孔282Uに分割されている。24個の孔282Uは、各々矩形状を呈している。24個の孔282Uの断面積は、略均等である。24個の孔282Uにより、キャビティに24個の分岐流路が区画される。
【0098】
下側のインサート部材の材質、構成は、上記インサート部材28U同様である。また、下側のインサート部材は、インサート部材28Uに対して、スプルーを基準に、上下対称に配置されている。
【0099】
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品は、構成が共通する部分に関しては、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と同様の作用効果を有する。また、本実施形態の樹脂成形方法によると、合計24個の孔282Uが、格子状に配置されている。すなわち、孔282Uは、左右方向に三列、前後方向に八列、それぞれ配置されている。このため、成形の際、溶融樹脂の流れを細分化することができる。したがって、樹脂成形品に、比較的密にウェルド部を配置することができる。
【0100】
<第四実施形態>
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、の相違点は、ゲート直近に単一のインサート部材が配置されている点である。したがって、ここでは主に相違点についてのみ説明する。
【0101】
図14に、本実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型の型開き状態における斜視図を示す。なお、図1と対応する部位については、同じ符号で示す。図15に、同金型の型締め状態における斜視図を示す。なお、図2と対応する部位については、同じ符号で示す。図16に、図15のXVI−XVI方向断面図を示す。なお、図4と対応する部位については同じ符号で示す。図17に、本実施形態の樹脂成形品の斜視図を示す。なお、図10と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0102】
図17に示すように、インサート部材29は、枠体290と、仕切体291a、291bと、を一体的に備えている。枠体290は、前後方向に長く上下方向に短い矩形枠状を呈している。
【0103】
仕切体291aは、上下方向に延びる角柱状を呈している。仕切体291aは、枠体290の上縁と下縁とを連結している。仕切体291aは、前後方向に略等間隔に、合計七つ並置されている。一方、仕切体291bは、前後方向に延びる角柱状を呈している。仕切体291bは、枠体290の前縁と後縁とを連結している。仕切体291bは、一つだけ配置されている。これら、互いに直交する仕切体291a、291bにより、枠体290の内部空間は、合計16個の孔292に分割されている。16個の孔292は、各々矩形状を呈している。16個の孔292の断面積は、略均等である。16個の孔292により、キャビティ26に16個の分岐流路が区画される。
【0104】
図14〜図16に示すように、インサート部材29は、固定型20と可動型21との境界に配置されている。具体的には、インサート部材29は、キャビティ用凹部210の前縁と後縁との間に架設されている。すなわち、図16に示すように、キャビティ用凹部210の前縁には、前縁用保持凹部213Fが凹設されている。前縁用保持凹部213Fは、上下方向に延在している。前縁用保持凹部213Fの断面は、矩形状を呈している。これに対して、キャビティ用凹部210の後縁には、後縁用保持凹部213Rが凹設されている。後縁用保持凹部213Rは、上下方向に延在している。後縁用保持凹部213Rの断面は、矩形状を呈している。後縁用保持凹部213Rと前縁用保持凹部213Fとは、前後方向に対向している。
【0105】
インサート部材29の枠体290の前縁は、前縁用保持凹部213Fに収容されている。同様に、インサート部材29の枠体290の後縁は、後縁用保持凹部213Rに収容されている。型締め状態においては、インサート部材29の枠体290の前縁は、前縁用保持凹部213Fと固定型20の左面とにより保持されている。同様に、インサート部材29の枠体290の後縁は、後縁用保持凹部213Rと固定型20の左面とにより保持されている。また、型締め状態においては、インサート部材29の直ぐ右に、ゲート25が配置されている。
【0106】
注入工程においては、溶融樹脂は、流動先端MF1→MF2→MF3→MF4→MF5で示すように、スプルー200→ランナー23→頸部24を通過する。前述したように、ゲート25の直ぐ左には、16個の孔292を有するインサート部材29が配置されている。このため、ゲート25からキャビティ26に流れ込む際、溶融樹脂の流れは、流動先端MF11で示すように、合計16個に分割されている。仕切体291bよりも上側の8つの分流は、主にキャビティ26の上方に流動する。一方、仕切体291bよりも下側の8つの分流は、主にキャビティ26の下方に流動する。型開き工程においては、ゲート25がゲートカットされる。このため、図17に示すように、樹脂成形品93の右面中央よりも上の部分には、インサート部材29が付着している。
【0107】
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品は、構成が共通する部分に関しては、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と同様の作用効果を有する。また、本実施形態の樹脂成形方法によると、合計16個の孔292が、格子状に配置されている。すなわち、孔292は、上下方向に二列、前後方向に八列、それぞれ配置されている。このため、成形の際、溶融樹脂の流れを細分化することができる。したがって、樹脂成形品に、比較的密にウェルド部を配置することができる。
【0108】
また、本実施形態の樹脂成形方法によると、ゲート25の直近にインサート部材29が配置されている。このため、キャビティ26全体つまり樹脂成形品93全体に亘って、ガラス繊維の配向性を向上させることができる。したがって、樹脂成形品93全体の強度を向上させることができる。また、本実施形態の樹脂成形方法によると、単一のインサート部材29により、樹脂成形品93を強化することができる。
【0109】
<第五実施形態>
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、の相違点は、ゲート右方に頸部(絞り部材)が配置されていない点である。したがって、ここでは主に相違点についてのみ説明する。
【0110】
図18に、本実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型の型締め状態における斜視図を示す。なお、図2と対応する部位については、同じ符号で示す。図18に示すように、金型1は、固定型20と可動型21とを備えている。
【0111】
固定型20には、スプルー200とゲート35とが形成されている。ゲート35は、固定型20の左面に開設されている。ゲート35の断面は、略真円状を呈している。ゲート35は、スプルー200に直結している。すなわち、ゲート35とスプルー200との間には、前出図2の拡張部27、ランナー23、頸部24は、介在していない。このため、溶融樹脂は、ゲート35からキャビティ26に、ある程度集束した状態で流れ込む。
【0112】
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品は、構成が共通する部分に関しては、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と同様の作用効果を有する。また、本実施形態の樹脂成形方法によると、前出図2の拡張部27、ランナー23、頸部24は、不要である。このため、スライドコアが不要である。したがって、金型1の構造が簡単になる。また、さらに汎用の金型1を使用しやすくなる。なお、本実施形態の樹脂成形品には、右面中央よりも上の部分に、ゲート35に対応する略真円状のゲートカット跡が形成される。
【0113】
<その他>
以上、本発明の樹脂成形方法および樹脂成形品の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0114】
インサート部材28U、28D、29の配置数は特に限定しない。流路方向に沿って、複数のインサート部材28U、28D、29を配置してもよい。また、インサート部材28U、28D、29の配置部位は、ゲート25、35付近に限定しない。例えば、キャビティ26の流路断面積が変化する変化部の下流側にインサート部材28U、28D、29を配置すると、溶融樹脂の流れの乱れを効果的に補正することができる。
【0115】
また、インサート部材28U、28D、29の形状は特に限定しない。溶融樹脂の流速分布が、キャビティ26の前後方向(流路方向に対して垂直方向)に亘って、前後方向中央に最速部を、前後方向両端に最遅部を、有している場合(つまり山型の流速分布を有している場合)は、キャビティ26を前後方向に横切るように、図19(a)に示すインサート部材40を配置すればよい。
【0116】
また、遅くとも注入工程の前までに、予めインサート部材28U、28Dに接着剤を塗布してもよい。また、遅くとも注入工程の前までに、予めインサート部材28U、28Dの表面を粗くしておいてもよい。こうすると、成形後において、樹脂成形品93の本体(ナイロン66+ガラス繊維部分)と、インサート部材28U、28Dと、の密着性を向上させることができる。
【0117】
インサート部材40の孔400a〜400eの断面積は、中央から両端部に行くに従って、孔400c→孔400b(=孔400d)→孔400a(=孔400e)の順に、大きくなっている。
【0118】
このため、断面積最小の孔400cが、最速部に近接することになる。並びに、断面積最大の孔400a、400eが、最遅部に近接することになる。よって、キャビティ26におけるインサート部材40配置部分を溶融樹脂の流れが通過する際、最速部が最も大きな流動抵抗を、最遅部が最も小さな流動抵抗を、それぞれインサート部材40から受けることになる。したがって、溶融樹脂の流速のばらつきを、より補正しやすくなる。すなわち、インサート部材40下流側におけるガラス繊維の配向性を、より向上させることができる。
【0119】
また、キャビティ26の前後方向長さは、前出図10における樹脂成形品93の前後方向長さW2=50mmに等しい。すなわち、キャビティ26におけるインサート部材40配置部分の、複数の孔400a〜400eの並設方向長さは、50mm(>25mm)である。このため、溶融樹脂の流れの最速部と最遅部との流速差が比較的大きい。複数の孔400a〜400eの断面積が不均等なインサート部材40は、このような複数の孔400a〜400eの並設方向長さが長いキャビティ26に配置するのに、特に好適である。また、図19(b)に示すように、枠体410に、略正六角形の孔412が区画された金網411を貼り付けたインサート部材41を用いてもよい。
【0120】
また、図19(c)に示すように、ピンタイプのインサート部材42を用いてもよい。具体的には、柱状のインサート部材42をキャビティ26に配置し、キャビティ26に複数の分岐流路を区画してもよい。例えば、インサート部材42を五本並べることにより、キャビティ26に六つの分岐流路を区画してもよい。また、インサート部材42を格子状に並べてもよい。
【0121】
また、インサート部材42により区画される複数の分岐流路の一部が、連なっていてもよい。すなわち、インサート部材42の先端(突出端)が、インサート部材42根本側の型面と対向する型面にまで、到達していなくてもよい。また、インサート部材42の断面形状は、真円状、楕円状、涙形状、矩形状などとしてもよい。
【0122】
溶融樹脂の母材の種類は特に限定しない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイドなどを用いることができる。
【0123】
また、溶融樹脂の充填材の種類も特に限定しない。例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、金属繊維、炭化珪素繊維、ワラストナイト、ウイスカー、カオリナイト、タルク、マイカ、モンモリロナイト、クレー、カーボンナノチューブなどを用いることができる。
【0124】
また、充填材の形状も特に限定しない。図20(a)に示すように、繊維タイプの充填材800を用いてもよい。また、図20(b)に示すように、薄板タイプの充填材801を用いてもよい。また、図20(c)に示すように、楕円球タイプの充填材802を用いてもよい。すなわち、充填材の形状は、異方性を有していればよい。
【0125】
また、本実施形態の樹脂成形方法の成形条件も特に限定しない。例えば、成形機のシリンダ温度や金型温度などは、使用する溶融樹脂の特性や樹脂成形品のスペックなどに応じて、適宜設定すればよい。また、金型におけるゲートの位置、形状、配置数も特に限定しない。
【実施例】
【0126】
以下、本発明の樹脂成形品に対して行った曲げ強度測定試験について説明する。
【0127】
<サンプル>
実施例1のサンプルは、第五実施形態の樹脂成形品(図18参照)である。実施例2のサンプルは、第一実施形態の樹脂成形品(図10参照)である。実施例3のサンプルは、第二実施形態の樹脂成形品(図12参照)である。実施例4のサンプルは、第三実施形態の樹脂成形品(図13参照)である。実施例5のサンプルは、第四実施形態の樹脂成形品(図17参照)である。比較例のサンプルは、従来の樹脂成形方法により成形した樹脂成形品である。すなわち、実施例1〜5のサンプルに対して、インサート部材を配置していないサンプルである。
【0128】
実施例1〜5、比較例のサンプルの大きさは、いずれも前出図10に示す樹脂成形品93同様である。すなわち、上下方向長さW1は130mmであり、前後方向長さW2は50mmであり、左右方向長さW3は12mmである。
【0129】
<試験方法>
曲げ強度の測定は、三点曲げ試験により行った。支持台、圧子は、JIS K 7171のものを使用した。支点間距離は、80mmとした。試験速度は、2mm/分とした。なお、実施例、比較例の各サンプルは、各図の右面が上面になるように、支持台にセットした。また、ゲートカット跡GCを圧子からずらしてセットした。並びに、ウェルド部WLが形成されている部分が、圧子に対応するようにセットした。
【0130】
<試験結果>
試験結果を、表1に示す。
【表1】
【0131】
表1に示すように、比較例の曲げ強度を100%とする場合、実施例1の曲げ強度は115%だった。また、実施例2の曲げ強度は118%だった。また、実施例3の曲げ強度は113%だった。また、実施例4の曲げ強度は110%だった。また、実施例5の曲げ強度は112%だった。
【0132】
試験結果から、実施例1〜5は、いずれも比較例よりも曲げ強度が高いことが判った。また、実施例2(図10参照)、つまり前後方向にウェルド部WLが並設されたサンプルの曲げ強度が一番高いことが判った。また、実施例1(図18参照)、つまり実施例2同様に前後方向にウェルド部WLが並設されたサンプルの曲げ強度が二番目に高いことが判った。
【0133】
なお、実施例1と実施例2との違いは、ゲートカット跡GCの形状のみである。すなわち、前後方向に長いゲートカット跡GCを有する実施例2の方が、小径略真円状のゲートカット跡を有する実施例1よりも、曲げ強度が高いことが判った。言い換えると、樹脂成形方法において、インサート部材28U、28D上流側における溶融樹脂の流速のばらつきが小さい方が、曲げ強度が高くなることが判った。
【0134】
また、実施例3(図12参照)、つまり左右方向(板厚方向)にウェルド部WLが並設されたサンプルの曲げ強度が三番目に高いことが判った。また、実施例5(図17参照)、つまり前後方向にウェルド部WLが並設され、単一のインサート部材29が配置されたサンプルの曲げ強度が四番目に高いことが判った。
【0135】
また、実施例4(図13参照)、つまり樹脂成形方法において溶融樹脂の流れを24分割(=左右方向3分割×前後方向8分割)したサンプルの曲げ強度が五番目に高いことが判った。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】第一実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型の型開き状態における斜視図である。
【図2】同金型の型締め状態における斜視図である。
【図3】図2のIII−III方向断面図である。
【図4】図2のIV−IV方向断面図である。
【図5】図3の枠V内の拡大図である。
【図6】同金型に配置される上下一対のインサート部材のうち上側のインサート部材の斜視図である。
【図7】同金型の可動型の型締め状態における右面図である。
【図8】図7の円VIII内の拡大図である。
【図9】型開き状態の可動型に形成される中間成形品の斜視図である。
【図10】第一実施形態の樹脂成形品の斜視図である。
【図11】図10のXI−XI方向断面図である。
【図12】第二実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型に配置される上下一対のインサート部材のうち上側のインサート部材の斜視図である。
【図13】第三実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型に配置される上下一対のインサート部材のうち上側のインサート部材の斜視図である。
【図14】第四実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型の型開き状態における斜視図である。
【図15】同金型の型締め状態における斜視図である。
【図16】図15のXVI−XVI方向断面図である。
【図17】第四実施形態の樹脂成形品の斜視図である。
【図18】第五実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型の型締め状態における斜視図である。
【図19】(a)は断面積が不均等な複数の孔を有するインサート部材の正面図である。(b)は金網を有するインサート部材の正面図である。(c)はピンタイプのインサート部材の正面図である。
【図20】(a)は繊維タイプの充填材の斜視図である。(b)は薄板タイプの充填材の斜視図である。(c)は楕円球タイプの充填材の斜視図である。
【符号の説明】
【0137】
1:金型。
20:固定型、200:スプルー、200A:スプルー固化部、201:スライドコア用凹部、21:可動型、210:キャビティ用凹部、211UF:前縁用保持溝、211DF:前縁用保持溝、211UR:後縁用保持溝、211DR:後縁用保持溝、213F:前縁用保持凹部、213R:後縁用保持凹部、22U:スライドコア、22D:スライドコア、220U:絞り部材、220D:絞り部材、23:ランナー、23A:ランナー固化部、24:頸部、24A:頸部固化部、25:ゲート(変化部)、25A:ゲート固化部、26:キャビティ、26A:キャビティ固化部、260U:強化部用成形部、260D:強化部用成形部、27:拡張部、28U:インサート部材、28D:インサート部材、280U:枠体、281U:仕切体、281Ua:仕切体、281Ub:仕切体、281D:仕切体、282U:孔、282D:孔、29:インサート部材、290:枠体、291a:仕切体、291b:仕切体、292:孔。
35:ゲート。
40:インサート部材、41:インサート部材、42:インサート部材、400a〜400e:孔、410:枠体、411:金網、412:孔。
800〜802:充填材。
90:樹脂流路、91:溶融樹脂、910:ガラス繊維(充填材)、92:中間成形品、93:樹脂成形品、93a:高配向部、93b:低配向部、930U:強化部。
GC:ゲートカット跡、MF1〜MF9:流動先端、MF11:流動先端、V1:最速部、V2:最遅部、WL:ウェルド部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、母材中に充填材が配合された溶融樹脂を原料とする樹脂成形方法および樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ウェルド部を意図的に発生させる樹脂成形方法が開示されている。同文献開示の樹脂成形方法によると、ピン等の障害部材が金型に配置されている。障害部材はキャビティに突出している。一方、キャビティに注入される溶融樹脂は、繊維を含有している。キャビティにおいて、溶融樹脂の流れは、障害部材に衝突して分流する。一旦分流した流動先端同士が再び会合することにより、ウェルド部が形成される。ここで、溶融樹脂中の繊維は、ウェルド部の延在方向に沿って配向する。このため、同文献開示の樹脂成形方法によると、樹脂成形品の、ウェルド部の延在方向に対する引張強度や曲げ強度を向上させることができる。特許文献2、特許文献3にも、特許文献1と同様に、金型に配置した障害部材によりウェルド部を発生させ、溶融樹脂中の繊維を配向させる樹脂成形方法が開示されている。
【特許文献1】特開平8−142218号公報
【特許文献2】特開2003−231156号公報
【特許文献3】特開平10−34762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1〜特許文献3開示の樹脂成形方法によると、いずれも金型に障害部材が配置されていた。このため、型開き工程の際、障害部材がアンダカットにならないように、金型の構造を工夫する必要があった。すなわち、金型の構造が複雑だった。また、上記アンダカット回避という制約条件があるため、金型における障害部材の配置の自由度が低かった。したがって、樹脂成形品の所望の強化部位に対応させて、的確にウェルド部を配置するのが困難だった。また、樹脂成形品には、不可避的に孔状あるいは凹状の障害部材跡が形成されていた。このため、見栄えが悪かった。
【0004】
本発明の樹脂成形方法および樹脂成形品は、上記課題に鑑みて完成されたものである。したがって、本発明は、金型の構造を単純化でき、所望の部位に的確にウェルド部を形成でき、見栄えの良い樹脂成形品を成形できる樹脂成形方法、および樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)上記課題を解決するため、本発明の樹脂成形方法は、金型を締め、成形機のノズルの下流側に配置されるゲートと、該ゲートの下流側に配置されるキャビティと、を備える樹脂流路を形成し、該キャビティに複数の分岐流路を区画するインサート部材を配置する型締め工程と、該ノズルから、該樹脂流路に、母材と、該母材に分散される異方性の充填材と、を備える溶融樹脂を注入し、複数の該分岐流路を通過させることにより該溶融樹脂の流れを分流し、分流した該溶融樹脂の流れが複数の該分岐流路の下流側で会合することによりウェルド部を形成し、該ウェルド部の延在方向における該充填材の配向性を向上させる注入工程と、該金型を開き、該溶融樹脂が固化して形成され該インサート部材が一体化された樹脂成形品を取り出す型開き工程と、を有することを特徴とする(請求項1に対応)。
【0006】
本発明の樹脂成形方法によると、インサート部材により、ウェルド部を形成することができる。このため、ウェルド部が形成されていない場合と比較して、ウェルド部に沿って充填材の配向性を向上させることができる。したがって、樹脂成形品の、ウェルド部の延在方向に対する強度(引張強度や曲げ強度など)を向上させることができる。
【0007】
また、キャビティに配置されるインサート部材は、溶融樹脂が固化することにより、樹脂成形品に一体化される。このため、インサート部材がアンダカットになりにくい。したがって、金型の構造を単純化できる。また、金型の構造に特別な工夫が要らないため、汎用の金型を用いることができる。
【0008】
また、インサート部材は樹脂成形品に一体化されるため、キャビティにおけるインサート部材の配置の自由度が高い。したがって、樹脂成形品の所望の部位に的確にウェルド部を形成することができる。また、樹脂成形品に障害部材跡が形成されないため、見栄えの良い樹脂成形品を作製することができる。
【0009】
また、従来、充填材の配向性は、キャビティの型面付近(つまり樹脂成形品の表面付近)が高く、キャビティの内部(つまり樹脂成形品の内部)が低くなる傾向にあった。この点、本発明の樹脂成形方法によると、キャビティの型面付近のみならず、ウェルド部付近においても、充填材の配向性を高くすることができる。このため、キャビティの内部(つまり樹脂成形品の内部)においても、充填材の配向性を高くすることができる。したがって、肉厚の厚い樹脂成形品を成形するのに好適である。また、要求される強度が高い樹脂成形品を成形するのに好適である。
【0010】
(1−1)好ましくは、上記(1)の構成において、前記注入工程の前に、前記インサート部材に、前記樹脂成形品における該インサート部材と固化した前記溶融樹脂との密着性を向上させる、表面処理を施す表面処理工程を有する構成とする方がよい。
【0011】
本構成によると、インサート部材と、固化した溶融樹脂と、の密着性を向上させることができる。表面処理には、例えば、インサート部材の表面積を大きくする処理、インサート部材の表面を粗くする処理、インサート部材の表面に接着剤を塗布する処理などが挙げられる。
【0012】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記インサート部材は、前記キャビティに複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、複数の該孔は、該キャビティの流路方向に対して交差する方向に、並設されており、全ての該孔の少なくとも一部の断面積は、略均等になるように設定されている構成とする方がよい(請求項2に対応)。
【0013】
本構成によると、隣接する一対のウェルド部間の間隔を、略均等にすることができる。このため、ウェルド部の分布が偏るのを抑制することができる。したがって、樹脂成形品のウェルド部配置部分の強度のばらつきを抑制することができる。
【0014】
(2−1)好ましくは、上記(2)の構成において、前記キャビティにおける前記インサート部材配置部分の、複数の前記孔の並設方向長さは、20mm未満である構成とする方がよい。
【0015】
キャビティにおけるインサート部材配置部分の、複数の孔の並設方向長さが20mm未満の場合、インサート部材配置部分の上流側における溶融樹脂の流速のばらつきが比較的小さい。このため、全ての孔の少なくとも一部の断面積を略均等にしても、溶融樹脂の流速のばらつきを小さくすることができる。したがって、注入工程における充填材の配向性を、向上させることができる。また、樹脂成形品を、充填材の配向方向に、強化することができる。
【0016】
ここで、キャビティにおけるインサート部材配置部分の、複数の孔の並設方向長さを20mm未満にしたのは、20mm以上の場合、インサート部材配置部分の上流側における溶融樹脂の流速のばらつきが比較的大きいため、全ての孔の少なくとも一部の断面積が略均等では、流速のばらつきを緻密に補正しにくいからである。
【0017】
(2−2)好ましくは、上記(2)の構成において、前記キャビティにおける前記インサート部材配置部分の、複数の前記孔の並設方向長さは、15mm未満である構成とする方がよい。この場合、さらに、インサート部材配置部分の上流側における溶融樹脂の流速のばらつきが小さくなる。このため、全ての孔の少なくとも一部の断面積を略均等にしても、溶融樹脂の流速のばらつきを充分小さくすることができる。
【0018】
(2−3)好ましくは、上記(2)の構成において、前記孔の少なくとも一部は、該孔の少なくとも上流端である構成とする方がよい。本構成によると、全ての孔の少なくとも上流端の断面積は、略均等になるように設定されている。キャビティにおけるインサート部材配置部分に溶融樹脂の流れが差し掛かる際、最も早く到達するのが上流端である。このため、全ての孔の少なくとも上流端の断面積を略均等にしておけば、インサート部材の流路方向長さを短くすることができる。
【0019】
(3)好ましくは、上記(1)の構成において、前記インサート部材は、前記キャビティに複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、複数の該孔は、該キャビティの流路方向に対して交差する方向に、並設されており、前記溶融樹脂の流れは、該インサート部材の上流側において、該流路方向の流速が最も速くなる最速部と、該流路方向の流速が最も遅くなる最遅部と、を備え、該最速部に最も近い該孔の少なくとも一部の断面積が、該最遅部に最も近い該孔の少なくとも一部の断面積よりも、小さくなるように設定されている構成とする方がよい(請求項3に対応)。
【0020】
溶融樹脂の流速は、樹脂流路の流路断面積や形状などの変化により、ばらつく場合がある。この場合、溶融樹脂の流れにおいて最も流速差が大きいのは、最速部と最遅部である。この点、本構成によると、最速部に最も近い孔の少なくとも一部の断面積が、最遅部に最も近い孔の少なくとも一部の断面積よりも、小さくなるように設定されている。
【0021】
本構成によると、キャビティにおけるインサート部材配置部分を溶融樹脂の流れが通過する際、最速部の方が、最遅部よりも、大きな流動抵抗をインサート部材から受けることになる。このため、最大の流速差を持つ最速部の流動先端と最遅部の流動先端とを、インサート部材の下流側において揃えやすくなる。したがって、注入工程における充填材の配向性を、より向上させることができる。また、樹脂成形品を、充填材の配向方向に、より強化することができる。
【0022】
(3−1)好ましくは、上記(3)の構成において、複数の前記孔の少なくとも一部の断面積のうち、該最速部に最も近い該孔の少なくとも一部の断面積が最も小さく、該最遅部に最も近い該孔の少なくとも一部の断面積が最も大きく、なるように設定されている構成とする方がよい。
【0023】
本構成によると、キャビティにおけるインサート部材配置部分を溶融樹脂の流れが通過する際、最速部が最も大きな流動抵抗を、最遅部が最も小さな流動抵抗を、それぞれインサート部材から受けることになる。このため、さらに溶融樹脂の流速のばらつきを補正することができる。したがって、注入工程における充填材の配向性を、より向上させることができる。また、樹脂成形品を、充填材の配向方向に、より強化することができる。
【0024】
(3−2)好ましくは、上記(3)の構成において、前記キャビティにおける前記インサート部材配置部分の、複数の前記孔の並設方向長さは、20mm以上である構成とする方がよい。つまり、本構成は、キャビティにおけるインサート部材配置部分の、複数の孔が並んでいる方向(流路方向に対して交差する方向)の長さを、20mm以上にするものである。
【0025】
ここで、キャビティにおけるインサート部材配置部分の、複数の孔の並設方向長さを20mm以上にしたのは、20mm未満の場合、インサート部材配置部分の上流側における最速部と最遅部との流速差が比較的小さいため、孔の少なくとも一部の断面積を調整することによる流速差補正効果を発揮しにくいからである。
【0026】
(3−3)好ましくは、上記(3)の構成において、前記キャビティにおける前記インサート部材配置部分の、複数の前記孔の並設方向長さは、25mm以上である構成とする方がよい。この場合、インサート部材配置部分の上流側における最速部と最遅部との流速差がさらに大きくなりやすい。このため、上記流速差補正効果を、さらに発揮しやすくなる。
【0027】
(3−4)好ましくは、上記(3)の構成において、前記孔の少なくとも一部は、該孔の少なくとも上流端である構成とする方がよい。本構成によると、孔の少なくとも上流端の断面積は、最速部に最も近い部分の方が、最遅部に最も近い部分よりも、小さくなるように設定されている。キャビティにおけるインサート部材配置部分に溶融樹脂の流れが差し掛かる際、最も早く到達するのが上流端である。このため、孔の少なくとも上流端の断面積を、最速部に最も近い部分の方が、最遅部に最も近い部分よりも、小さくなるように設定しておくと、最速部の方が、最遅部よりも、孔に流れ込みにくくなる。このため、さらに溶融樹脂の流速のばらつきを補正することができる。また、上流端において流速差補正が可能になるため、インサート部材の流路方向長さを短くすることができる。
【0028】
(4)好ましくは、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成において、前記樹脂流路は、流路断面積が変化する変化部を備え、前記インサート部材は、該変化部の下流側に配置されている構成とする方がよい(請求項4に対応)。
【0029】
変化部においては、流路断面積が変化する。このため、変化部を通過する際、溶融樹脂の流れが乱れる場合がある。溶融樹脂の流れが乱れると、溶融樹脂の流速がばらつくおそれがある。したがって、充填材の配向性を向上させにくくなる。
【0030】
この点、本構成によると、変化部の下流側にインサート部材が配置されている。このため、変化部通過による溶融樹脂の流れの乱れを、補正することができる。したがって、樹脂流路の形状に因らず、充填材の配向性を向上させることができる。また、樹脂成形品の形状に因らず、樹脂成形品を強化することができる。
【0031】
(5)好ましくは、上記(1)ないし(4)のいずれかの構成において、前記樹脂成形品は、所望の強度を有する強化部を備え、前記キャビティは、該強化部を成形する強化部用成形部を備え、前記インサート部材は、該強化部用成形部の上流側に配置されている構成とする方がよい(請求項5に対応)。本構成によると、強化部用成形部における充填材の配向性を、より向上させることができる。このため、樹脂成形品の強化部を、より強化しやすい。
【0032】
(6)また、上記課題を解決するため、本発明の樹脂成形品は、母材と、該母材に分散される異方性の充填材と、を有する樹脂製の本体と、該本体に複数の分岐流路を区画し、該本体に一体化されたインサート部材と、該インサート部材を略起点に延在するウェルド部と、を備えてなることを特徴とする(請求項6に対応)。
【0033】
本発明の樹脂成形品によると、成形の際、溶融樹脂の流れが複数の分岐流路で分流し会合することにより、複数の分岐流路の下流側にウェルド部が形成される。このため、ウェルド部の延在方向における充填材の配向性を向上させることができる。したがって、樹脂成形品を強化することができる。
【0034】
また、インサート部材は樹脂成形品に一体化されるため、成形時のインサート部材の配置の自由度が高い。したがって、樹脂成形品の所望の部位を的確に強化することができる。また、樹脂成形品に従来のような障害部材跡が形成されないため、見栄えの良い樹脂成形品を作製することができる。
【0035】
(7)好ましくは、上記(6)の構成において、前記インサート部材は、前記本体に複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、全ての該孔の少なくとも一部の断面積は、略均等になるように設定されている構成とする方がよい(請求項7に対応)。
【0036】
本構成によると、隣接する一対のウェルド部間の間隔を、略均等にすることができる。このため、ウェルド部の分布が偏るのを抑制することができる。したがって、樹脂成形品のウェルド部配置部分の強度のばらつきを抑制することができる。
【0037】
(7−1)好ましくは、上記(7)の構成において、前記孔の少なくとも一部は、該孔の少なくとも軸方向一端である構成とする方がよい。本構成によると、全ての孔の少なくとも軸方向一端の断面積は、略均等になるように設定されている。キャビティにおけるインサート部材配置部分に溶融樹脂の流れが差し掛かる際、最も早く到達するのが孔の軸方向一端である。このため、全ての孔の少なくとも軸方向一端の断面積を略均等にしておけば、インサート部材の孔軸方向長さを短くすることができる。
【0038】
(8)好ましくは、上記(6)の構成において、さらに、ゲートカット跡を備え、前記インサート部材は、前記本体に複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、該ゲートカット跡に最も近い該孔の、少なくとも一部の断面積が、該ゲートカット跡に最も遠い該孔の、少なくとも一部の断面積よりも、小さくなるように設定されている構成とする方がよい(請求項8に対応)。
【0039】
成形の際、流路断面積は、ゲートとキャビティとの境界において、拡大する。このため、溶融樹脂の流速にばらつきが発生する。具体的には、溶融樹脂の流速は、よりゲートに近い方が、より速くなる。
【0040】
この点、本構成によると、ゲートに最も近い孔の少なくとも一部の断面積が、ゲートに最も遠い孔の少なくとも一部の断面積よりも、小さくなるように設定されている。このため、溶融樹脂の流れの最速部は、最遅部よりも、大きな流動抵抗をインサート部材から受けることになる。したがって、最大の流速差を持つ最速部の流動先端と最遅部の流動先端とを、インサート部材の下流側において揃えやすくなる。本構成によると、充填材の配向性がより向上する。
【0041】
(8−1)好ましくは、上記(8)の構成において、前記孔の少なくとも一部は、該孔の少なくともゲートカット方向端である構成とする方がよい。本構成によると、孔の少なくともゲートカット方向端すなわち上流端の断面積は、最速部に最も近い部分の方が、最遅部に最も近い部分よりも、小さくなるように設定されている。キャビティにおけるインサート部材配置部分に溶融樹脂の流れが差し掛かる際、最も早く到達するのが上流端である。このため、孔の少なくとも上流端の断面積を、最速部に最も近い部分の方が、最遅部に最も近い部分よりも、小さくなるように設定しておくと、最速部の方が、最遅部よりも、孔に流れ込みにくくなる。このため、さらに溶融樹脂の流速のばらつきを補正することができる。また、上流端において流速差補正が可能になるため、インサート部材の流路方向長さつまり孔軸方向長さを短くすることができる。
【0042】
(9)好ましくは、上記(6)ないし(8)のいずれかの構成において、複数の前記分岐流路は、格子状に配置されている構成とする方がよい(請求項9に対応)。本構成によると、複数の分岐流路が縦横両方向に並んでいる。このため、成形の際、溶融樹脂の流れを縦横に分流化することができる。したがって、樹脂成形品に、比較的密にウェルド部を配置することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によると、金型の構造を単純化でき、所望の部位に的確にウェルド部を形成でき、見栄えの良い樹脂成形品を成形できる樹脂成形方法、および樹脂成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の樹脂成形方法および樹脂成形品の実施の形態について説明する。
【0045】
<第一実施形態>
[金型]
まず、本実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型について説明する。
【0046】
(金型の構成)
まず、金型の構成について説明する。図1に、本実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型の型開き状態における斜視図を示す。図2に、同金型の型締め状態における斜視図を示す。図3に、図2のIII−III方向断面図を示す。図4に、図2のIV−IV方向断面図を示す。図5に、図3の枠V内の拡大図を示す。図6に、同金型に配置される上下一対のインサート部材のうち上側のインサート部材の斜視図を示す。図7に、同金型の可動型の型締め状態における右面図を示す。図1〜図7に示すように、金型1は、固定型20と、可動型21と、スライドコア22U、22Dと、インサート部材28U、28Dと、を備えている。
【0047】
固定型20は、クロムモリブデン鋼製であって、直方体のブロック状を呈している。固定型20には、スプルー200と、スライドコア用凹部201と、が形成されている。スライドコア用凹部201は、固定型20の左面に凹設されている。スライドコア用凹部201は、上下方向に延在している。スライドコア用凹部201の断面は、矩形状を呈している。
【0048】
スプルー200は、固定型20の右面の中央よりも上の部分に穿設されている。スプルー200は、固定型20の右面からスライドコア用凹部201の右底面まで、延在している。すなわち、スプルー200とスライドコア用凹部201とは、連通している。スプルー200の左端、つまりスプルー200とスライドコア用凹部201との境界には、拡張部27が配置されている。スプルー200の断面は、略真円状を呈している。スプルー200は、左方から右方に向かって緩やかに尖るテーパー孔状を呈している。スプルー200の右端は、成形機のノズル(図略)に連通している。
【0049】
可動型21は、クロムモリブデン鋼製であって、矩形板状を呈している。可動型21は、固定型20に対して、左右方向に離接可能である。可動型21の右面には、キャビティ用凹部210が凹設されている。キャビティ用凹部210は、浅底であり、矩形状を呈している。図7に示すように、キャビティ用凹部210の前面には、上下方向にゲート25を挟んで離間して、一対の前縁用保持溝211UF、211DFが凹設されている。同様に、キャビティ用凹部210の後面には、上下方向にゲート25を挟んで離間して、一対の後縁用保持溝211UR、211DRが凹設されている。前縁用保持溝211UFと後縁用保持溝211URとは、前後方向に対向している。また、前縁用保持溝211DFと後縁用保持溝211DRとは、前後方向に対向している。
【0050】
スライドコア22Uは、クロムモリブデン鋼製であって、図1に示すように、直方体のブロック状を呈している。スライドコア22Uは、固定型20のスライドコア用凹部201に対して、上側から進退可能である。スライドコア22Uの下面には、絞り部材220Uが一体に形成されている。絞り部材220Uは、下方に突設されている。絞り部材220Uは、前後方向に延在している。絞り部材220Uの断面は、矩形状を呈している。
【0051】
スライドコア22Dの材質、構成は、上記スライドコア22U同様である。また、スライドコア22Dは、スライドコア22Uに対して、スプルー200を基準に、上下対称に配置されている。すなわち、スライドコア22Dは、固定型20のスライドコア用凹部201に対して、下側から進退可能である。スライドコア22Dの上面には、絞り部材220Dが一体に形成されている。絞り部材220Dは上記絞り部材220Uと、上下方向に対向している。
【0052】
型開き状態においては、図1に示すように、固定型20を基準に、可動型21が左方に、スライドコア22Uが上方に、スライドコア22Dが下方に、それぞれ離間している。なお、インサート部材28U、28Dは、可動型21に配置されている。
【0053】
型締め状態においては、図2に示すように、固定型20のスライドコア用凹部201に、上方からスライドコア22Uが、下方からスライドコア22Dが、それぞれ進入している。並びに、固定型20左面と可動型21右面とが当接している。図3に示すように、絞り部材220Uと絞り部材220Dとは、上下方向に所定間隔離間して配置されている。
【0054】
(インサート部材の構成)
次に、インサート部材28U、28Dの構成について説明する。図6に示すように、インサート部材28Uは、SUS304製であって、枠体280Uと、仕切体281Uと、を一体的に備えている。枠体280Uは、前後方向に長く左右方向に短い矩形枠状を呈している。図7に示すように、枠体280Uの前縁は、前縁用保持溝211UFに収容されている。また、枠体280Uの後縁は、後縁用保持溝211URに収容されている。仕切体281Uは、左右方向に延びる角柱状を呈している。仕切体281Uは、枠体280Uの右縁と左縁とを連結している。仕切体281Uは、前後方向に略等間隔に、合計七つ並置されている。七つの仕切体281Uは、枠体280Uの内部空間を、八つの孔282Uに分断している。八つの孔282Uは、各々矩形状を呈している。八つの孔282Uの断面積は、略均等である。八つの孔282Uにより、後述するキャビティ26に八つの分岐流路が区画される。
【0055】
インサート部材28Dの材質、構成は、上記インサート部材28U同様である。また、インサート部材28Dは、インサート部材28Uに対して、スプルー200を基準に、上下対称に配置されている。また、図7に示すように、枠体280Dの前縁は、前縁用保持溝211DFに収容されている。また、枠体280Dの後縁は、後縁用保持溝211DRに収容されている。
【0056】
(樹脂流路の構成)
次に、金型1に形成される樹脂流路の構成について説明する。樹脂流路90は、図2にハッチングで示すように、型締め状態の金型1の内部に形成されている。樹脂流路90は、スプルー200と、ランナー23と、頸部24と、ゲート25と、キャビティ26と、を備えている。ゲート25は、本発明の変化部に含まれる。
【0057】
ランナー23は、図3に示すように、スライドコア用凹部201の、上下方向に対向する絞り部材220U、220D右方に、形成されている。ランナー23は、前後方向に延在している。ランナー23は、スプルー200の左方に配置されている。ランナー23とスプルー200との境界である拡張部27においては、樹脂流路90の流路断面積(この部分を溶融樹脂は左右方向に流れるから、上下方向の断面積)が、急激に大きくなる。
【0058】
頸部24は、スライドコア用凹部201の、上下方向に対向する絞り部材220U、220D間に、形成されている。頸部24は、前後方向に延在している。頸部24は、ランナー23の左方に配置されている。頸部24の流路断面積(上下方向の断面積)は、ランナー23の流路断面積(上下方向の断面積)に対して、急激に小さくなる。
【0059】
ゲート25は、スライドコア用凹部201の頸部24左方に配置されている。ゲート25は、前後方向に長く上下方向に短い矩形状を呈している。キャビティ26は、スライドコア22U、22Dの左面と、可動型21のキャビティ用凹部210と、により形成されている。キャビティ26は、ゲート25の左方に配置されている。キャビティ26におけるインサート部材28U上方部分は、強化部用成形部260Uに相当する。一方、キャビティ26におけるインサート部材28D下方部分は、強化部用成形部260Dに相当する。
【0060】
このように、型締め状態の金型1の内部には、上流側から下流側に向かって、スプルー200→ランナー23→頸部24→ゲート25→キャビティ26と連通する樹脂流路90が形成されている。スプルー200からゲート25までの樹脂流路90の流路方向は、左右方向である。キャビティ26の樹脂流路90の流路方向、つまり所望の充填材配向方向は、キャビティ26の長手方向つまり上下方向である。
【0061】
[樹脂成形方法]
次に、本実施形態の樹脂成形方法について説明する。本実施形態の樹脂成形方法は、型締め工程と注入工程と型開き工程とを有している。
【0062】
(型締め工程)
まず、型締め工程について説明する。型締め工程においては、金型1を、図1に示す型開き状態から、図2〜図7に示す型締め状態に、切り替える。具体的には、まず、固定型20のスライドコア用凹部201に、上方からスライドコア22Uを、下方からスライドコア22Dを、それぞれ進入させる。次いで、固定型20に対して、予めインサート部材28U、28Dを装着した可動型21を、左方から当接させる。型締めにより、金型1の内部には、図2にハッチングで示すように、樹脂流路90が区画される。
【0063】
(注入工程)
次に、注入工程について説明する。注入工程においては、成形機のノズルから、樹脂流路90に、溶融樹脂を注入する。溶融樹脂は、ナイロン66と、ガラス繊維と、を備えている。ナイロン66は、本発明の母材に含まれる。ガラス繊維は、本発明の充填材に含まれる。ガラス繊維は、溶融状態のナイロン66に分散している。成形機のシリンダ温度は約290℃である。また、金型1の温度は約80℃である。
【0064】
溶融樹脂の流動先端MF1〜MF9は、図3、図4に一点鎖線で模式的に示すように、樹脂流路90内を流動する。すなわち、溶融樹脂は、スプルー200内を、流動先端MF1→MF2で示すように、右方から左方に流動する。樹脂流路90の流路断面積は、スプルー200左端の拡張部27において、前後方向に急激に拡張する。このため、溶融樹脂は、拡張部27を通過後、流動先端MF3で示すように、拡散しながらランナー23に流入する。
【0065】
ここで、流動先端MF3は、拡張部27を略中心とする曲面状を呈している。このため、流動先端MF3の流路方向(左右方向)の流速は、ばらついている。すなわち、拡張部27の中心A1の直ぐ左に、流動先端MF3において流路方向の流速が最も速くなる最速部V1が、配置される。また、拡張部27の口縁に、流動先端MF3において流路方向の流速が最も遅くなる最遅部V2が、配置される。
【0066】
流動先端MF3において、最速部V1は最も速く、最遅部V2は最も遅く、頸部24に到着する。しかしながら、頸部24においては、流路断面積が上下方向から絞られている。このため、最も速く到着した最速部V1付近(前後方向略中央)の溶融樹脂の一部は、流動先端MF4で示すように、頸部24に堰き止められ、最遅部V2方向つまり前後方向に、回り込む。したがって、頸部24下流側においては、流動先端MF5で示すように、頸部24上流側に対して、最速部V1と最遅部V2との流速差が補正されている。頸部24を通過した溶融樹脂は、流動先端MF6で示すように、ゲート25からキャビティ26に流れ込む。
【0067】
キャビティ26に流入した溶融樹脂は、キャビティ26の延在方向(上下方向)に拡散する。図5に示すように、ゲート25の直ぐ上にはインサート部材28Uが、ゲート25の直ぐ下にはインサート部材28Dが、それぞれ配置されている。また、インサート部材28U、28Dは、それぞれキャビティ26の左右方向全長に亘って配置されている。このため、キャビティ26に流入した溶融樹脂は、インサート部材28U、28Dのいずれかを通過する。
【0068】
図7に示すように、下方に流動する流動先端MF7は、インサート部材28Dの七つの仕切体281Dにより分流され、八つの孔282Dを通過する。言い換えると、八つの分岐流路を通過する。八つの孔282Dを通過することにより、溶融樹脂の流速のばらつきがさらに補正される。具体的には、流速の速い前後方向略中央部と、流速の遅い前後方向両端部と、の流速差がほぼ無くなる。
【0069】
分流した八つの流動先端MF8は、前後方向に押し合いながら、強化部用成形部260Dを下方に流動する。ここで、八つの流動先端MF8の流速は、略同じである。このため、八つの流動先端MF8は、流動先端MF9で示すように、前方あるいは後方に湾曲することなく、互いに略平行に下方に流動する。分流した流動先端同士の境界には、ウェルド部WLが形成される。図8に、図7の円VIII内の拡大図を示す。図8に模式的に示すように、溶融樹脂91のガラス繊維910は、ウェルド部WLの延在方向(上下方向)に沿って配向している。
【0070】
キャビティ26に流入した溶融樹脂のうち、上方に流動する溶融樹脂も、上記下方に流動する溶融樹脂同様に、インサート部材28Uの七つの仕切体281Uにより分流され、八つの孔282Uを通過する。言い換えると、八つの分岐流路を通過する。分流した流動先端同士の境界には、ウェルド部WLが形成される。このようにして、溶融樹脂91は、キャビティ26全体に行き渡る。その後、溶融樹脂91は、キャビティ26において、冷却、固化される。この際、インサート部材28U、28Dは、キャビティ26の溶融樹脂91と一体化される。
【0071】
(型開き工程)
次に、型開き工程について説明する。型開き工程においては、金型1を、図2〜図8に示す型締め状態から、図1に示す型開き状態に、再び切り替える。具体的には、固定型20に対して、可動型21を左方に離間させる。また、固定型20のスライドコア用凹部201から、上方にスライドコア22Uを、下方にスライドコア22Dを、それぞれ退出させる。
【0072】
図9に、型開き状態の可動型に形成される中間成形品の斜視図を示す。中間成形品92は、樹脂流路90と略同じ形状を呈している。すなわち、中間成形品92は、スプルー固化部200A、ランナー固化部23A、頸部固化部24A、ゲート固化部25A、キャビティ固化部26Aを備えている。ゲート固化部25Aは、図9中にハッチングで示すように、ゲートカットされる。ゲートカット後のキャビティ固化部26Aが、樹脂成形品となる。
【0073】
[樹脂成形品]
次に、本実施形態の樹脂成形品について説明する。図10に、本実施形態の樹脂成形品の斜視図を示す。図11に、図10のXI−XI方向断面図を示す。なお、以下に説明する樹脂成形品93は、模式的なものであり、樹脂成形方法やその後の処理によっては、樹脂成形品93に、ウェルド部WL、ゲートカット跡GC、高配向部93aと低配向部93bとのコントラストが確認できない場合もある。また、ウェルド部WLの延在方向や延在区間が異なる場合もある。
【0074】
図10に示すように、本実施形態の樹脂成形品93は、上下方向に長い矩形板状を呈している。具体的には、樹脂成形品93の上下方向長さW1は130mmであり、前後方向長さW2は50mmであり、左右方向長さW3は12mmである。
【0075】
樹脂成形品93には、インサート部材28U、28Dが埋設されている。樹脂成形品93の表面には、ウェルド部WLとゲートカット跡GCとが形成されている。ゲートカット跡GCは、前後方向に長く上下方向に短い矩形状を呈している。ゲートカット跡GCは、樹脂成形品93の右面の上下方向中央よりも上の部分に形成されている。
【0076】
ウェルド部WLは、上下方向に対向して形成されている。上方のウェルド部WLは、インサート部材28Uを略起点に、上方に延在している。ウェルド部WLは、前後方向に七本略平行に並んでいる。隣り合う一対のウェルド部WL間の間隔は、略均等である。
【0077】
これに対して、下方のウェルド部WLは、インサート部材28Dを略起点に、下方に延在している。ウェルド部WLは、前後方向に七本略平行に並んでいる。隣り合う一対のウェルド部WL間の間隔は、略均等である。
【0078】
ウェルド部WLが形成されている部分は、樹脂成形品93の強化部930U、930Dに相当する。強化部930U、930Dは、強化部930U、930D以外の部分(インサート部材28Uとインサート部材28Uとの間の部分)と比較して、高強度である。
【0079】
強化部930U、930D断面(ただし、カットした断面ではなく、曲げ試験などで破断した破断面)には、図11に示すように、高配向部93aと低配向部93bとが観察される。高配向部93aは、樹脂成形品93の表面付近(つまり前出図2に示す金型1のキャビティ26の型面付近)およびウェルド部WL付近に形成されている。一方、低配向部93bは、樹脂成形品93の内部であって、かつウェルド部WLから離間した部分に形成されている。
【0080】
高配向部93aにおいては、ガラス繊維が上下方向に良好に配向している。このため、高配向部93aの断面(破断面)においては、ガラス繊維が毛羽立っている。一方、低配向部93bは、高配向部93aよりも、ガラス繊維の配向性が低い。このため、低配向部93bの断面(破断面)においては、高配向部93aの断面と比較して、ガラス繊維が毛羽立っていない。
【0081】
以上説明したように、本実施形態の樹脂成形品93は、以下の特徴のうち少なくとも一つを有している。孔282U、282Dを有するインサート部材28U、28Dが埋設されている。ゲートカット跡GCが形成されている。複数のウェルド部WLが形成されている。互いに隣接する一対のウェルド部WL間の間隔は略均等である。ウェルド部WLの延在方向に対して略垂直方向の断面(破断面)に、少なくとも高配向部93aが観察される。
【0082】
[作用効果]
次に、本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品93の作用効果について説明する。本実施形態の樹脂成形方法によると、インサート部材28U、28Dにより、ウェルド部WLを形成することができる。このため、ウェルド部WLが形成されていない場合と比較して、ウェルド部WLに沿ってガラス繊維910の配向性を向上させることができる。したがって、樹脂成形品93の、ウェルド部WLの延在方向に対する強度を向上させることができる。
【0083】
また、キャビティ26に配置されるインサート部材28U、28Dは、溶融樹脂91が固化することにより、樹脂成形品93に一体化される。このため、金型1の構造を単純化できる。また、金型1の構造に特別な工夫が要らないため、汎用の金型1を用いることができる。
【0084】
また、インサート部材28U、28Dは樹脂成形品93に一体化されるため、インサート部材28U、28Dがアンダカットになるおそれがない。このため、キャビティ26におけるインサート部材28U、28Dの配置の自由度が高い。したがって、樹脂成形品93の所望の部位に的確にウェルド部WLを形成することができる。また、樹脂成形品93に障害部材跡が形成されないため、見栄えの良い樹脂成形品93を作製することができる。
【0085】
また、本実施形態の樹脂成形方法によると、キャビティ26の型面(スライドコア22U、22D左面、可動型21のキャビティ用凹部210表面)付近のみならず、ウェルド部WL付近においても、ガラス繊維910の配向性を高くすることができる。このため、キャビティ26の内部(つまり樹脂成形品93の内部)においても、ガラス繊維910の配向性を高くすることができる。したがって、肉厚(図10における左右方向長さW3)の厚い樹脂成形品93を成形するのに好適である。また、要求される強度が高い樹脂成形品93を成形するのに好適である。
【0086】
また、インサート部材28U、28Dの八つの孔282U、282Dの上流端の断面積は、略均等である。このため、隣接する一対のウェルド部WL間の間隔を、略均等にすることができる。また、樹脂成形品93のウェルド部WL配置部分の前後方向における強度のばらつきを抑制することができる。
【0087】
また、樹脂流路90の拡張部27においては、流路断面積の拡張に伴い、溶融樹脂の流速のばらつきが大きくなる。しかしながら、拡張部27の下流側には、頸部24が配置されている。このため、溶融樹脂の流速のばらつきを補正することができる。
【0088】
同様に、樹脂流路90のゲート25においては、流路断面積の拡張に伴い、溶融樹脂の流速のばらつきが再び大きくなる。しかしながら、ゲート25の下流側には、一対のインサート部材28U、28Dが配置されている。このため、ゲート25通過による溶融樹脂91の流速のばらつきを、直ちに再補正することができる。したがって、ガラス繊維910の配向性を向上させることができる。
【0089】
また、本実施形態の樹脂成形方法によると、強化部用成形部260U、260Dの上流側に近接してインサート部材28U、28Dが配置されている。このため、樹脂成形品93の強化部930U、930Dを、より確実に強化することができる。
【0090】
<第二実施形態>
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、の相違点は、インサート部材の形状のみである。したがって、ここでは主に相違点についてのみ説明する。
【0091】
図12に、本実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型に配置される上下一対のインサート部材のうち上側のインサート部材の斜視図を示す。なお、図6と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0092】
図12に示すように、仕切体281Uは、前後方向に延びる角柱状を呈している。仕切体281Uは、枠体280Uの前縁と後縁とを連結している。仕切体281Uは、左右方向に一対配置されている。一対の仕切体281Uは、枠体280Uの内部空間を、三つの孔282Uに分断している。三つの孔282Uは、各々細長い矩形状を呈している。三つの孔282Uの断面積は、略均等である。三つの孔282Uにより、キャビティに三つの分岐流路が区画される。
【0093】
下側のインサート部材の材質、構成は、上記インサート部材28U同様である。また、下側のインサート部材は、インサート部材28Uに対して、スプルーを基準に、上下対称に配置されている。
【0094】
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品は、構成が共通する部分に関しては、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と同様の作用効果を有する。また、本実施形態の樹脂成形方法によると、キャビティの左右方向長さ(前出図10における樹脂成形品93の左右方向長さW3=12mm)が比較的短いにもかかわらず、溶融樹脂の流れが、インサート部材28U、28Dにより、キャビティ左右方向に三つに分流される。このため、強化部の断面における高配向部93a(前出図11参照)の割合を、高くすることができる。
【0095】
<第三実施形態>
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、の相違点は、インサート部材の形状のみである。したがって、ここでは主に相違点についてのみ説明する。
【0096】
図13に、本実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型に配置される上下一対のインサート部材のうち上側のインサート部材の斜視図を示す。なお、図6と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0097】
図13に示すように、仕切体281Uaは、左右方向に延びる角柱状を呈している。仕切体281Uaは、枠体280Uの右縁と左縁とを連結している。仕切体281Uaは、前後方向に七つ配置されている。一方、仕切体281Ubは、前後方向に延びる角柱状を呈している。仕切体281Ubは、枠体280Uの前縁と後縁とを連結している。仕切体281Ubは、左右方向に一対配置されている。これら、互いに直交する仕切体281Ua、281Ubにより、枠体280Uの内部空間は、合計24個の孔282Uに分割されている。24個の孔282Uは、各々矩形状を呈している。24個の孔282Uの断面積は、略均等である。24個の孔282Uにより、キャビティに24個の分岐流路が区画される。
【0098】
下側のインサート部材の材質、構成は、上記インサート部材28U同様である。また、下側のインサート部材は、インサート部材28Uに対して、スプルーを基準に、上下対称に配置されている。
【0099】
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品は、構成が共通する部分に関しては、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と同様の作用効果を有する。また、本実施形態の樹脂成形方法によると、合計24個の孔282Uが、格子状に配置されている。すなわち、孔282Uは、左右方向に三列、前後方向に八列、それぞれ配置されている。このため、成形の際、溶融樹脂の流れを細分化することができる。したがって、樹脂成形品に、比較的密にウェルド部を配置することができる。
【0100】
<第四実施形態>
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、の相違点は、ゲート直近に単一のインサート部材が配置されている点である。したがって、ここでは主に相違点についてのみ説明する。
【0101】
図14に、本実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型の型開き状態における斜視図を示す。なお、図1と対応する部位については、同じ符号で示す。図15に、同金型の型締め状態における斜視図を示す。なお、図2と対応する部位については、同じ符号で示す。図16に、図15のXVI−XVI方向断面図を示す。なお、図4と対応する部位については同じ符号で示す。図17に、本実施形態の樹脂成形品の斜視図を示す。なお、図10と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0102】
図17に示すように、インサート部材29は、枠体290と、仕切体291a、291bと、を一体的に備えている。枠体290は、前後方向に長く上下方向に短い矩形枠状を呈している。
【0103】
仕切体291aは、上下方向に延びる角柱状を呈している。仕切体291aは、枠体290の上縁と下縁とを連結している。仕切体291aは、前後方向に略等間隔に、合計七つ並置されている。一方、仕切体291bは、前後方向に延びる角柱状を呈している。仕切体291bは、枠体290の前縁と後縁とを連結している。仕切体291bは、一つだけ配置されている。これら、互いに直交する仕切体291a、291bにより、枠体290の内部空間は、合計16個の孔292に分割されている。16個の孔292は、各々矩形状を呈している。16個の孔292の断面積は、略均等である。16個の孔292により、キャビティ26に16個の分岐流路が区画される。
【0104】
図14〜図16に示すように、インサート部材29は、固定型20と可動型21との境界に配置されている。具体的には、インサート部材29は、キャビティ用凹部210の前縁と後縁との間に架設されている。すなわち、図16に示すように、キャビティ用凹部210の前縁には、前縁用保持凹部213Fが凹設されている。前縁用保持凹部213Fは、上下方向に延在している。前縁用保持凹部213Fの断面は、矩形状を呈している。これに対して、キャビティ用凹部210の後縁には、後縁用保持凹部213Rが凹設されている。後縁用保持凹部213Rは、上下方向に延在している。後縁用保持凹部213Rの断面は、矩形状を呈している。後縁用保持凹部213Rと前縁用保持凹部213Fとは、前後方向に対向している。
【0105】
インサート部材29の枠体290の前縁は、前縁用保持凹部213Fに収容されている。同様に、インサート部材29の枠体290の後縁は、後縁用保持凹部213Rに収容されている。型締め状態においては、インサート部材29の枠体290の前縁は、前縁用保持凹部213Fと固定型20の左面とにより保持されている。同様に、インサート部材29の枠体290の後縁は、後縁用保持凹部213Rと固定型20の左面とにより保持されている。また、型締め状態においては、インサート部材29の直ぐ右に、ゲート25が配置されている。
【0106】
注入工程においては、溶融樹脂は、流動先端MF1→MF2→MF3→MF4→MF5で示すように、スプルー200→ランナー23→頸部24を通過する。前述したように、ゲート25の直ぐ左には、16個の孔292を有するインサート部材29が配置されている。このため、ゲート25からキャビティ26に流れ込む際、溶融樹脂の流れは、流動先端MF11で示すように、合計16個に分割されている。仕切体291bよりも上側の8つの分流は、主にキャビティ26の上方に流動する。一方、仕切体291bよりも下側の8つの分流は、主にキャビティ26の下方に流動する。型開き工程においては、ゲート25がゲートカットされる。このため、図17に示すように、樹脂成形品93の右面中央よりも上の部分には、インサート部材29が付着している。
【0107】
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品は、構成が共通する部分に関しては、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と同様の作用効果を有する。また、本実施形態の樹脂成形方法によると、合計16個の孔292が、格子状に配置されている。すなわち、孔292は、上下方向に二列、前後方向に八列、それぞれ配置されている。このため、成形の際、溶融樹脂の流れを細分化することができる。したがって、樹脂成形品に、比較的密にウェルド部を配置することができる。
【0108】
また、本実施形態の樹脂成形方法によると、ゲート25の直近にインサート部材29が配置されている。このため、キャビティ26全体つまり樹脂成形品93全体に亘って、ガラス繊維の配向性を向上させることができる。したがって、樹脂成形品93全体の強度を向上させることができる。また、本実施形態の樹脂成形方法によると、単一のインサート部材29により、樹脂成形品93を強化することができる。
【0109】
<第五実施形態>
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と、の相違点は、ゲート右方に頸部(絞り部材)が配置されていない点である。したがって、ここでは主に相違点についてのみ説明する。
【0110】
図18に、本実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型の型締め状態における斜視図を示す。なお、図2と対応する部位については、同じ符号で示す。図18に示すように、金型1は、固定型20と可動型21とを備えている。
【0111】
固定型20には、スプルー200とゲート35とが形成されている。ゲート35は、固定型20の左面に開設されている。ゲート35の断面は、略真円状を呈している。ゲート35は、スプルー200に直結している。すなわち、ゲート35とスプルー200との間には、前出図2の拡張部27、ランナー23、頸部24は、介在していない。このため、溶融樹脂は、ゲート35からキャビティ26に、ある程度集束した状態で流れ込む。
【0112】
本実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品は、構成が共通する部分に関しては、第一実施形態の樹脂成形方法および樹脂成形品と同様の作用効果を有する。また、本実施形態の樹脂成形方法によると、前出図2の拡張部27、ランナー23、頸部24は、不要である。このため、スライドコアが不要である。したがって、金型1の構造が簡単になる。また、さらに汎用の金型1を使用しやすくなる。なお、本実施形態の樹脂成形品には、右面中央よりも上の部分に、ゲート35に対応する略真円状のゲートカット跡が形成される。
【0113】
<その他>
以上、本発明の樹脂成形方法および樹脂成形品の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0114】
インサート部材28U、28D、29の配置数は特に限定しない。流路方向に沿って、複数のインサート部材28U、28D、29を配置してもよい。また、インサート部材28U、28D、29の配置部位は、ゲート25、35付近に限定しない。例えば、キャビティ26の流路断面積が変化する変化部の下流側にインサート部材28U、28D、29を配置すると、溶融樹脂の流れの乱れを効果的に補正することができる。
【0115】
また、インサート部材28U、28D、29の形状は特に限定しない。溶融樹脂の流速分布が、キャビティ26の前後方向(流路方向に対して垂直方向)に亘って、前後方向中央に最速部を、前後方向両端に最遅部を、有している場合(つまり山型の流速分布を有している場合)は、キャビティ26を前後方向に横切るように、図19(a)に示すインサート部材40を配置すればよい。
【0116】
また、遅くとも注入工程の前までに、予めインサート部材28U、28Dに接着剤を塗布してもよい。また、遅くとも注入工程の前までに、予めインサート部材28U、28Dの表面を粗くしておいてもよい。こうすると、成形後において、樹脂成形品93の本体(ナイロン66+ガラス繊維部分)と、インサート部材28U、28Dと、の密着性を向上させることができる。
【0117】
インサート部材40の孔400a〜400eの断面積は、中央から両端部に行くに従って、孔400c→孔400b(=孔400d)→孔400a(=孔400e)の順に、大きくなっている。
【0118】
このため、断面積最小の孔400cが、最速部に近接することになる。並びに、断面積最大の孔400a、400eが、最遅部に近接することになる。よって、キャビティ26におけるインサート部材40配置部分を溶融樹脂の流れが通過する際、最速部が最も大きな流動抵抗を、最遅部が最も小さな流動抵抗を、それぞれインサート部材40から受けることになる。したがって、溶融樹脂の流速のばらつきを、より補正しやすくなる。すなわち、インサート部材40下流側におけるガラス繊維の配向性を、より向上させることができる。
【0119】
また、キャビティ26の前後方向長さは、前出図10における樹脂成形品93の前後方向長さW2=50mmに等しい。すなわち、キャビティ26におけるインサート部材40配置部分の、複数の孔400a〜400eの並設方向長さは、50mm(>25mm)である。このため、溶融樹脂の流れの最速部と最遅部との流速差が比較的大きい。複数の孔400a〜400eの断面積が不均等なインサート部材40は、このような複数の孔400a〜400eの並設方向長さが長いキャビティ26に配置するのに、特に好適である。また、図19(b)に示すように、枠体410に、略正六角形の孔412が区画された金網411を貼り付けたインサート部材41を用いてもよい。
【0120】
また、図19(c)に示すように、ピンタイプのインサート部材42を用いてもよい。具体的には、柱状のインサート部材42をキャビティ26に配置し、キャビティ26に複数の分岐流路を区画してもよい。例えば、インサート部材42を五本並べることにより、キャビティ26に六つの分岐流路を区画してもよい。また、インサート部材42を格子状に並べてもよい。
【0121】
また、インサート部材42により区画される複数の分岐流路の一部が、連なっていてもよい。すなわち、インサート部材42の先端(突出端)が、インサート部材42根本側の型面と対向する型面にまで、到達していなくてもよい。また、インサート部材42の断面形状は、真円状、楕円状、涙形状、矩形状などとしてもよい。
【0122】
溶融樹脂の母材の種類は特に限定しない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイドなどを用いることができる。
【0123】
また、溶融樹脂の充填材の種類も特に限定しない。例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、金属繊維、炭化珪素繊維、ワラストナイト、ウイスカー、カオリナイト、タルク、マイカ、モンモリロナイト、クレー、カーボンナノチューブなどを用いることができる。
【0124】
また、充填材の形状も特に限定しない。図20(a)に示すように、繊維タイプの充填材800を用いてもよい。また、図20(b)に示すように、薄板タイプの充填材801を用いてもよい。また、図20(c)に示すように、楕円球タイプの充填材802を用いてもよい。すなわち、充填材の形状は、異方性を有していればよい。
【0125】
また、本実施形態の樹脂成形方法の成形条件も特に限定しない。例えば、成形機のシリンダ温度や金型温度などは、使用する溶融樹脂の特性や樹脂成形品のスペックなどに応じて、適宜設定すればよい。また、金型におけるゲートの位置、形状、配置数も特に限定しない。
【実施例】
【0126】
以下、本発明の樹脂成形品に対して行った曲げ強度測定試験について説明する。
【0127】
<サンプル>
実施例1のサンプルは、第五実施形態の樹脂成形品(図18参照)である。実施例2のサンプルは、第一実施形態の樹脂成形品(図10参照)である。実施例3のサンプルは、第二実施形態の樹脂成形品(図12参照)である。実施例4のサンプルは、第三実施形態の樹脂成形品(図13参照)である。実施例5のサンプルは、第四実施形態の樹脂成形品(図17参照)である。比較例のサンプルは、従来の樹脂成形方法により成形した樹脂成形品である。すなわち、実施例1〜5のサンプルに対して、インサート部材を配置していないサンプルである。
【0128】
実施例1〜5、比較例のサンプルの大きさは、いずれも前出図10に示す樹脂成形品93同様である。すなわち、上下方向長さW1は130mmであり、前後方向長さW2は50mmであり、左右方向長さW3は12mmである。
【0129】
<試験方法>
曲げ強度の測定は、三点曲げ試験により行った。支持台、圧子は、JIS K 7171のものを使用した。支点間距離は、80mmとした。試験速度は、2mm/分とした。なお、実施例、比較例の各サンプルは、各図の右面が上面になるように、支持台にセットした。また、ゲートカット跡GCを圧子からずらしてセットした。並びに、ウェルド部WLが形成されている部分が、圧子に対応するようにセットした。
【0130】
<試験結果>
試験結果を、表1に示す。
【表1】
【0131】
表1に示すように、比較例の曲げ強度を100%とする場合、実施例1の曲げ強度は115%だった。また、実施例2の曲げ強度は118%だった。また、実施例3の曲げ強度は113%だった。また、実施例4の曲げ強度は110%だった。また、実施例5の曲げ強度は112%だった。
【0132】
試験結果から、実施例1〜5は、いずれも比較例よりも曲げ強度が高いことが判った。また、実施例2(図10参照)、つまり前後方向にウェルド部WLが並設されたサンプルの曲げ強度が一番高いことが判った。また、実施例1(図18参照)、つまり実施例2同様に前後方向にウェルド部WLが並設されたサンプルの曲げ強度が二番目に高いことが判った。
【0133】
なお、実施例1と実施例2との違いは、ゲートカット跡GCの形状のみである。すなわち、前後方向に長いゲートカット跡GCを有する実施例2の方が、小径略真円状のゲートカット跡を有する実施例1よりも、曲げ強度が高いことが判った。言い換えると、樹脂成形方法において、インサート部材28U、28D上流側における溶融樹脂の流速のばらつきが小さい方が、曲げ強度が高くなることが判った。
【0134】
また、実施例3(図12参照)、つまり左右方向(板厚方向)にウェルド部WLが並設されたサンプルの曲げ強度が三番目に高いことが判った。また、実施例5(図17参照)、つまり前後方向にウェルド部WLが並設され、単一のインサート部材29が配置されたサンプルの曲げ強度が四番目に高いことが判った。
【0135】
また、実施例4(図13参照)、つまり樹脂成形方法において溶融樹脂の流れを24分割(=左右方向3分割×前後方向8分割)したサンプルの曲げ強度が五番目に高いことが判った。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】第一実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型の型開き状態における斜視図である。
【図2】同金型の型締め状態における斜視図である。
【図3】図2のIII−III方向断面図である。
【図4】図2のIV−IV方向断面図である。
【図5】図3の枠V内の拡大図である。
【図6】同金型に配置される上下一対のインサート部材のうち上側のインサート部材の斜視図である。
【図7】同金型の可動型の型締め状態における右面図である。
【図8】図7の円VIII内の拡大図である。
【図9】型開き状態の可動型に形成される中間成形品の斜視図である。
【図10】第一実施形態の樹脂成形品の斜視図である。
【図11】図10のXI−XI方向断面図である。
【図12】第二実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型に配置される上下一対のインサート部材のうち上側のインサート部材の斜視図である。
【図13】第三実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型に配置される上下一対のインサート部材のうち上側のインサート部材の斜視図である。
【図14】第四実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型の型開き状態における斜視図である。
【図15】同金型の型締め状態における斜視図である。
【図16】図15のXVI−XVI方向断面図である。
【図17】第四実施形態の樹脂成形品の斜視図である。
【図18】第五実施形態の樹脂成形方法に用いられる金型の型締め状態における斜視図である。
【図19】(a)は断面積が不均等な複数の孔を有するインサート部材の正面図である。(b)は金網を有するインサート部材の正面図である。(c)はピンタイプのインサート部材の正面図である。
【図20】(a)は繊維タイプの充填材の斜視図である。(b)は薄板タイプの充填材の斜視図である。(c)は楕円球タイプの充填材の斜視図である。
【符号の説明】
【0137】
1:金型。
20:固定型、200:スプルー、200A:スプルー固化部、201:スライドコア用凹部、21:可動型、210:キャビティ用凹部、211UF:前縁用保持溝、211DF:前縁用保持溝、211UR:後縁用保持溝、211DR:後縁用保持溝、213F:前縁用保持凹部、213R:後縁用保持凹部、22U:スライドコア、22D:スライドコア、220U:絞り部材、220D:絞り部材、23:ランナー、23A:ランナー固化部、24:頸部、24A:頸部固化部、25:ゲート(変化部)、25A:ゲート固化部、26:キャビティ、26A:キャビティ固化部、260U:強化部用成形部、260D:強化部用成形部、27:拡張部、28U:インサート部材、28D:インサート部材、280U:枠体、281U:仕切体、281Ua:仕切体、281Ub:仕切体、281D:仕切体、282U:孔、282D:孔、29:インサート部材、290:枠体、291a:仕切体、291b:仕切体、292:孔。
35:ゲート。
40:インサート部材、41:インサート部材、42:インサート部材、400a〜400e:孔、410:枠体、411:金網、412:孔。
800〜802:充填材。
90:樹脂流路、91:溶融樹脂、910:ガラス繊維(充填材)、92:中間成形品、93:樹脂成形品、93a:高配向部、93b:低配向部、930U:強化部。
GC:ゲートカット跡、MF1〜MF9:流動先端、MF11:流動先端、V1:最速部、V2:最遅部、WL:ウェルド部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型を締め、成形機のノズルの下流側に配置されるゲートと、該ゲートの下流側に配置されるキャビティと、を備える樹脂流路を形成し、該キャビティに複数の分岐流路を区画するインサート部材を配置する型締め工程と、
該ノズルから、該樹脂流路に、母材と、該母材に分散される異方性の充填材と、を備える溶融樹脂を注入し、複数の該分岐流路を通過させることにより該溶融樹脂の流れを分流し、分流した該溶融樹脂の流れが複数の該分岐流路の下流側で会合することによりウェルド部を形成し、該ウェルド部の延在方向における該充填材の配向性を向上させる注入工程と、
該金型を開き、該溶融樹脂が固化して形成され該インサート部材が一体化された樹脂成形品を取り出す型開き工程と、
を有する樹脂成形方法。
【請求項2】
前記インサート部材は、前記キャビティに複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、
複数の該孔は、該キャビティの流路方向に対して交差する方向に、並設されており、
全ての該孔の少なくとも一部の断面積は、略均等になるように設定されている請求項1に記載の樹脂成形方法。
【請求項3】
前記インサート部材は、前記キャビティに複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、
複数の該孔は、該キャビティの流路方向に対して交差する方向に、並設されており、
前記溶融樹脂の流れは、該インサート部材の上流側において、該流路方向の流速が最も速くなる最速部と、該流路方向の流速が最も遅くなる最遅部と、を備え、
該最速部に最も近い該孔の少なくとも一部の断面積が、該最遅部に最も近い該孔の少なくとも一部の断面積よりも、小さくなるように設定されている請求項1に記載の樹脂成形方法。
【請求項4】
前記樹脂流路は、流路断面積が変化する変化部を備え、
前記インサート部材は、該変化部の下流側に配置されている請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の樹脂成形方法。
【請求項5】
前記樹脂成形品は、所望の強度を有する強化部を備え、
前記キャビティは、該強化部を成形する強化部用成形部を備え、
前記インサート部材は、該強化部用成形部の上流側に配置されている請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の樹脂成形方法。
【請求項6】
母材と、該母材に分散される異方性の充填材と、を有する樹脂製の本体と、
該本体に複数の分岐流路を区画し、該本体に一体化されたインサート部材と、
該インサート部材を略起点に延在するウェルド部と、
を備えてなる樹脂成形品。
【請求項7】
前記インサート部材は、前記本体に複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、
全ての該孔の少なくとも一部の断面積は、略均等になるように設定されている請求項6に記載の樹脂成形品。
【請求項8】
さらに、ゲートカット跡を備え、
前記インサート部材は、前記本体に複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、
該ゲートカット跡に最も近い該孔の、少なくとも一部の断面積が、該ゲートカット跡に最も遠い該孔の、少なくとも一部の断面積よりも、小さくなるように設定されている請求項6に記載の樹脂成形品。
【請求項9】
複数の前記分岐流路は、格子状に配置されている請求項6ないし請求項8のいずれかに記載の樹脂成形品。
【請求項1】
金型を締め、成形機のノズルの下流側に配置されるゲートと、該ゲートの下流側に配置されるキャビティと、を備える樹脂流路を形成し、該キャビティに複数の分岐流路を区画するインサート部材を配置する型締め工程と、
該ノズルから、該樹脂流路に、母材と、該母材に分散される異方性の充填材と、を備える溶融樹脂を注入し、複数の該分岐流路を通過させることにより該溶融樹脂の流れを分流し、分流した該溶融樹脂の流れが複数の該分岐流路の下流側で会合することによりウェルド部を形成し、該ウェルド部の延在方向における該充填材の配向性を向上させる注入工程と、
該金型を開き、該溶融樹脂が固化して形成され該インサート部材が一体化された樹脂成形品を取り出す型開き工程と、
を有する樹脂成形方法。
【請求項2】
前記インサート部材は、前記キャビティに複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、
複数の該孔は、該キャビティの流路方向に対して交差する方向に、並設されており、
全ての該孔の少なくとも一部の断面積は、略均等になるように設定されている請求項1に記載の樹脂成形方法。
【請求項3】
前記インサート部材は、前記キャビティに複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、
複数の該孔は、該キャビティの流路方向に対して交差する方向に、並設されており、
前記溶融樹脂の流れは、該インサート部材の上流側において、該流路方向の流速が最も速くなる最速部と、該流路方向の流速が最も遅くなる最遅部と、を備え、
該最速部に最も近い該孔の少なくとも一部の断面積が、該最遅部に最も近い該孔の少なくとも一部の断面積よりも、小さくなるように設定されている請求項1に記載の樹脂成形方法。
【請求項4】
前記樹脂流路は、流路断面積が変化する変化部を備え、
前記インサート部材は、該変化部の下流側に配置されている請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の樹脂成形方法。
【請求項5】
前記樹脂成形品は、所望の強度を有する強化部を備え、
前記キャビティは、該強化部を成形する強化部用成形部を備え、
前記インサート部材は、該強化部用成形部の上流側に配置されている請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の樹脂成形方法。
【請求項6】
母材と、該母材に分散される異方性の充填材と、を有する樹脂製の本体と、
該本体に複数の分岐流路を区画し、該本体に一体化されたインサート部材と、
該インサート部材を略起点に延在するウェルド部と、
を備えてなる樹脂成形品。
【請求項7】
前記インサート部材は、前記本体に複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、
全ての該孔の少なくとも一部の断面積は、略均等になるように設定されている請求項6に記載の樹脂成形品。
【請求項8】
さらに、ゲートカット跡を備え、
前記インサート部材は、前記本体に複数の前記分岐流路を区画するための複数の孔を備えており、
該ゲートカット跡に最も近い該孔の、少なくとも一部の断面積が、該ゲートカット跡に最も遠い該孔の、少なくとも一部の断面積よりも、小さくなるように設定されている請求項6に記載の樹脂成形品。
【請求項9】
複数の前記分岐流路は、格子状に配置されている請求項6ないし請求項8のいずれかに記載の樹脂成形品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−226843(P2009−226843A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77626(P2008−77626)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
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