説明

樹脂成形金型

【課題】本発明は、樹脂成形品のバリなどの形状不良の低減が可能な樹脂成形金型を提供することを目的とするものである。
【解決手段】略中央部にキャビティ14が形成される型板対5を構成する鋼製固定側型板1に、その外周面から中央部に向けて第一の銅棒24を圧入した第一の有底穴23を設け、鋼製固定側型板1に当接可能で同じく型板対5を構成する鋼製可動側型板3にも、外周面から中央部に向けて第二の銅棒20を圧入した第二の有底穴19を設ける構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも鋼製固定側型板とこの鋼製固定側型板に当接可能な鋼製可動側型板とからなる型板対を有する樹脂成形金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の樹脂成形金型は次のような構成をしていた。
【0003】
すなわち、鋼製固定側型板とこの鋼製固定側型板に当接可能な鋼製可動側型板とからなる型板対を有していた。そして、この鋼製固定側型板の当接面、すなわち、パーティングライン面の略中央部には固定側キャビティが設けられ、一方、鋼製可動側型板の当接面、すなわち、パーティングライン面には固定側キャビティに対応した可動側キャビティが設けられ、鋼製固定側型板のパーティングライン面に鋼製可動側型板のパーティングライン面が当接してパーティングラインが形成されて、型板対が閉じた際に、鋼製固定側型板の固定側キャビティと鋼製固定側型板の可動側キャビティとでキャビティが形成されるようになっていた。
【0004】
さらに、このキャビティに連通して、このキャビティに外部から成形樹脂を注入するための樹脂注入路が設けられ、型板対が閉じて鋼製固定側型板の固定側キャビティと鋼製固定側型板の可動側キャビティとで形成されたキャビティに、外部から樹脂注入路を通じて成形樹脂を注入し、樹脂成形を行うようになっていた。
【0005】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2004−330716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような従来の樹脂成形金型では次のような課題があった。
【0007】
すなわち、鋼製固定側型板と鋼製可動側型板とからなる型板対が閉じた際にこの型板対の略中央部に形成されるキャビティには、樹脂注入路を通って高温の溶融した成形樹脂が注入されるので、このキャビティおよび樹脂注入路の近傍、すなわち、鋼製固定側型板または鋼製可動側型板のそれぞれの中央部の温度は高くなる。一方、鋼製固定側型板または鋼製可動側型板のそれぞれの外周部は、大気に接して放熱が行われるので、それぞれの中央部よりも温度が低くなる。このような温度の差に起因する、場所による熱膨張量の差が、鋼製固定側型板または鋼製可動側型板に生じ、このことによって鋼製固定側型板または鋼製可動側型板に歪みが生じ、それぞれのパーティングライン面の平面度が低下して、型板対が閉じた際にパーティングラインに隙間が生じてしまうために、樹脂成形品にバリなどの形状不良が発生していた。
【0008】
そこで、本発明は、樹脂成形品の形状不良の低減が可能な樹脂成形金型を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、この目的を達成するために、本発明は、少なくとも鋼製固定側型板とこの鋼製固定側型板に当接可能な鋼製可動側型板とからなる型板対を有する樹脂成形金型であって、前記鋼製固定側型板は、そのパーティングライン面の略中央部に固定側キャビティを設けるとともに、その外周面から中央部に向けて第一の銅棒を圧入した第一の有底穴を設けたものであり、前記鋼製可動側型板は、そのパーティングライン面に前記固定側キャビティに対応した可動側キャビティを設けるとともに、その外周面から中央部に向けて第二の銅棒を圧入した第二の有底穴を設けたものであり、前記鋼製固定側型板に前記鋼製可動側型板が当接して前記型板対が閉じた際に、成形樹脂が充填されるキャビティが前記型板対の略中央部に前記固定側キャビティと前記可動側キャビティとによって形成されるものとし、さらに、前記キャビティに外部から前記成形樹脂を注入するための樹脂注入路を前記キャビティに連通して設けた、樹脂成形金型としたものである。
【発明の効果】
【0010】
以上の本発明の樹脂成形金型によれば、鋼製固定側型板または鋼製可動側型板のそれぞれの中央部と外周部の温度差を低減して、この鋼製固定側型板または鋼製可動側型板に生じる歪みを減少させて、それぞれのパーティングライン面の平面度の低下を抑制することで、樹脂成形品の形状不良を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における樹脂成形金型について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は本発明の実施の形態1における樹脂成形金型を示す断面図であり、図2は同樹脂成形金型の鋼製可動側型板を示す平面図である。
【0013】
なお、本実施の形態においては、成形樹脂として、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと記す。)が使用されるものとして説明を行う。
【0014】
本実施の形態の樹脂成形金型は図1に示すように、鋼製固定側型板1を含む固定側金型2と、鋼製固定側型板1に当接可能な鋼製可動側型板3を含む可動側金型4とで構成されており、鋼製固定側型板1と鋼製可動側型板3とで型板対5を構成している。図1に示すように、鋼製固定側型板1は固定側取付板9に取付けられており、また、鋼製可動側型板3はスペーサー10に取付けられ、このスペーサー10は可動側取付板11に取付けられている。図1は、鋼製固定側型板1のパーティングライン面6に鋼製可動側型板3のパーティングライン面7が当接してパーティングライン8を形成して、型板対5が閉じた状態を示している。
【0015】
図1に示すように、鋼製固定側型板1のパーティングライン面6の略中央部には固定側キャビティ12が設けられ、この固定側キャビティ12に対応して、鋼製可動側型板3のパーティングライン面7には可動側キャビティ13が設けられ、図1に示すように、鋼製固定側型板1と鋼製可動側型板3が当接して型板対5が閉じた際に、鋼製固定側型板1の固定側キャビティ12と鋼製可動側型板3の可動側キャビティ13とで、成形樹脂であるPPSが充填されるキャビティ14が、型板対5の略中央部に形成されるようになっている。
【0016】
図1、図2に示すように、鋼製可動側型板3のパーティングライン面7には、可動側キャビティ13に連通するランナー15と、このランナー15に連通する樹脂溜り16が設けられている。そして、図1に示すように、固定側取付板9の上面の略中央部にはロケートリング17が設けられ、このロケートリング17、固定側取付板9および鋼製固定側型板1の略中央部を貫通するようにスプルブッシュ18が設けられており、このスプルブッシュ18のスプル18aは、図1に示すように鋼製可動側型板3の樹脂溜り16に連通するようになっている。このように、スプル18a、樹脂溜り16およびランナー15によって、キャビティ14に連通する樹脂注入路が形成され、この樹脂注入路を通ってキャビティ14に溶融した成形樹脂であるPPSが外部から注入されるのである。
【0017】
また、図1、図2に示すように、鋼製可動側型板3には、その外周面から中央部に向けて、複数の第二の有底穴19が設けられており、この第二の有底穴19には第二の銅棒20が圧入されて、この第二の有底穴19を埋めている。さらに、図1、図2に示すように、鋼製可動側型板3の第二の有底穴19に圧入された第二の銅棒20の外周面側には、鋼製のフォロセットなどの第二の密封体21が、第二の銅棒20に密着するように設けられている。そして、図1、図2に示すように、型板対5の略中央部のキャビティ14(可動側キャビティ13)と鋼製可動側型板3の外周面から圧入された第二の銅棒20との間にはカートリッジヒーターなどの第二の加熱体22が内蔵されている。
【0018】
同様に、図1に示すように、鋼製固定側型板1にも、その外周面から中央部に向けて、複数の第一の有底穴23が設けられており、この第一の有底穴23には第一の銅棒24が圧入されて、この第一の有底穴23を埋めている。さらに、図1に示すように、鋼製固定側型板1の第一の有底穴23に圧入された第一の銅棒24の外周面側には、鋼製のフォロセットなどの第一の密封体25が、第一の銅棒24に密着するように設けられている。そして、図1に示すように、型板対5の略中央部のキャビティ14(固定側キャビティ12)と鋼製固定側型板1の外周面から圧入された第一の銅棒24との間にはカートリッジヒーターなどの第一の加熱体26が内蔵されている。
【0019】
このような構成の樹脂成形金型で樹脂成形を行う際には、図1に示すように型板対5が閉じることによって形成されたキャビティ14に、スプル18a、樹脂溜り16およびランナー15によって形成された樹脂注入路を介して、330℃前後の溶融したPPSを注入し、充填する。そして、このキャビティ14に充填されたPPSを徐冷し、凝固させて、樹脂成形を行うようになっている。このときの徐冷温度は140℃前後としている。図1、図2に示す、加熱体22、加熱体26は、この徐冷温度を一定に保つために使用している。このようにする理由は、PPSは120℃以下では結晶化せず、結晶化しない樹脂成形品は脆く、また、残留応力を有し、また変形したりして、品質が悪いものとなってしまうからである。
【0020】
樹脂成形を行う際には、上述のように、図1に示す型板対5の略中央部に形成されたキャビティ14に、330℃前後の高温の溶融したPPSを注入するため、型板対5(鋼製固定側型板1および鋼製可動側型板3)の中央部は高温となる。一方、型板対5(鋼製固定側型板1および鋼製可動側型板3)の外周面部は大気に接して放熱が行われるので、相対的に温度が低くなるのであるが、本実施の形態の樹脂成形金型では、図1に示すように、鋼製固定側型板1と鋼製可動側型板3のそれぞれの外周面側から中央部に向けて、熱伝導性の高い第二の銅棒20または第一の銅棒24を圧入しているので、中央部の熱を外周面部へと速やかに伝導して、鋼製固定側型板1と鋼製可動側型板3のそれぞれの中央部と外周面部との温度差を低減することができる。なお、銅の熱伝導率は332〔kcal/(m・h・deg)〕であり、鋼の熱伝導率は46〔kcal/(m・h・deg)〕であり、鋼の約7倍の熱伝導率を有する銅材を使用することで、鋼製固定側型板1と鋼製可動側型板3のそれぞれの中央部と外周面部との温度差を大幅に低減することができるのである。そして、このことにより、鋼製固定側型板1または鋼製可動側型板3に生じる歪みを減少させて、それぞれのパーティングライン面6、パーティングライン面7の平面度の低下を抑制し、樹脂成形品のバリなどの形状不良を低減することができる。
【0021】
また、鋼製可動側型板3の構造の特徴として、図1、図2に示すように、鋼製可動側型板3の第二の有底穴19に第二の銅棒20を圧入し、さらにその外側から第二の密封体21を第二の銅棒20に密着させて密封しているので、第二の有底穴19の中に断熱性の高い空気などが残らず、この第二の銅棒20による熱伝導を効率よく行うことができるようになっている。さらに、第二の密封体21で第二の銅棒20を密封し、湿気を含む大気および腐食性雰囲気から遮断しているので、この第二の銅棒20の腐食を防止することができる。なお、この二つの効果は、同様の構造を有する鋼製固定側型板1においても発揮される。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明にかかる樹脂成形金型は、樹脂成形品の形状不良を低減することができるので、少なくとも鋼製固定側型板とこの鋼製固定側型板に当接可能な鋼製可動側型板とからなる型板対を有する樹脂成形金型として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1における樹脂成形金型を示す断面図
【図2】同樹脂成形金型の鋼製可動側型板を示す平面図
【符号の説明】
【0024】
1 鋼製固定側型板
2 固定側金型
3 鋼製可動側型板
4 可動側金型
5 型板対
6 パーティングライン面
7 パーティングライン面
8 パーティングライン
9 固定側取付板
10 スペーサー
11 可動側取付板
12 固定側キャビティ
13 可動側キャビティ
14 キャビティ
15 ランナー
16 樹脂溜り
17 ロケートリング
18 スプルブッシュ
18a スプル
19 第二の有底穴
20 第二の銅棒
21 第二の密封体
22 第二の加熱体
23 第一の有底穴
24 第一の銅棒
25 第一の密封体
26 第一の加熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも鋼製固定側型板とこの鋼製固定側型板に当接可能な鋼製可動側型板とからなる型板対を有する樹脂成形金型であって、
前記鋼製固定側型板は、そのパーティングライン面の略中央部に固定側キャビティを設けるとともに、その外周面から中央部に向けて第一の銅棒を圧入した第一の有底穴を設けたものであり、
前記鋼製可動側型板は、そのパーティングライン面に前記固定側キャビティに対応した可動側キャビティを設けるとともに、その外周面から中央部に向けて第二の銅棒を圧入した第二の有底穴を設けたものであり、
前記鋼製固定側型板に前記鋼製可動側型板が当接して前記型板対が閉じた際に、成形樹脂が充填されるキャビティが前記型板対の略中央部に前記固定側キャビティと前記可動側キャビティとによって形成されるものとし、
さらに、前記キャビティに外部から前記成形樹脂を注入するための樹脂注入路を前記キャビティに連通して設けた、
樹脂成形金型。
【請求項2】
前記鋼製固定側型板の前記第一の有底穴に圧入された前記第一の銅棒の前記鋼製固定側型板外周面側にはこの第一の銅棒に密着するように第一の密封体を設け、同様に、前記鋼製可動側型板の前記第二の有底穴に圧入された前記第二の銅棒の前記鋼製可動側型板外周面側にはこの第二の銅棒に密着するように第二の密封体を設けるものとした、
請求項1に記載の樹脂成形金型。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−200874(P2008−200874A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36098(P2007−36098)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】