説明

樹脂架橋体の製造方法及び該製造方法により得られた樹脂架橋体

【課題】ポリ乳酸のガラス転移温度である60℃未満では屈曲しても復元可能である柔軟性及び弾性を有すると共に、60℃以上では強度低下が少なく形状維持を可能とし、ポリ乳酸のガラス転移温度である60℃前後で急激な物性変化を生じない樹脂架橋体を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸とポリアミド樹脂を含む樹脂成分に架橋性モノマーを混練して組成物を作製する工程と、前記組成物を所要形状に成形して成形物を作製する工程と、前記成形物に電離性放射線を照射して前記ポリ乳酸と前記ポリアミド樹脂とを架橋して一体化する工程とを含む製造方法により、樹脂架橋体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂架橋体の製造方法及び該製造方法により得られた樹脂架橋体に関し、詳しくは植物由来の樹脂成分から形成される樹脂架橋体とし、フィルム、容器または筐体などの構造体や部品などのプラスチック製品が利用される分野において、特に使用後の廃棄処理問題の解決を図るために有用な植物由来製品または部品として利用されるものである。
【背景技術】
【0002】
現在、多くのフィルムや容器に利用されている石油合成高分子材料は、加熱廃棄処理に伴う熱および排出二酸化炭素ガスによる地球温暖化、さらに燃焼ガスおよび燃焼後の残留物中の毒性物質による食物や健康への悪影響、廃棄埋設処理地の確保など、その廃棄処理過程についてだけでも様々な社会問題が懸念されている。
このような石油合成高分子材料の廃棄処理の問題点を解決する材料として、デンプンやポリ乳酸に代表される植物に由来する原料から合成される高分子材料(植物由来高分子材料)が注目されている。植物由来高分子材料は、石油合成高分子材料に比べて、燃焼に伴う熱量が少なく、かつ地球温暖化ガスと言われる二酸化炭素の成分炭素の自然環境での分解・再合成のサイクルが保たれる等、生態系を含む地球環境に悪影響を与えないという利点がある。なかでもポリ乳酸は、植物から供給されるデンプンから作られる脂肪族ポリエステル系樹脂で、強度や加工性の点で石油合成高分子材料に匹敵する特性を有しており、さらに、近年の大量生産によるコストダウンで安価になりつつある点から、現在その応用について多くの検討がなされている。
【0003】
しかし、ポリ乳酸は、ガラス転移温度である60℃前後で急激な物性変化を生じるという欠点を有している。すなわち、ガラス転移温度の60℃未満では実質的に伸びが殆どなく非常に硬くて脆いのに対し、ガラス転移温度の60℃以上では逆に形状が維持できないくらい軟弱になる。この60℃という温度は自然界における気温や水温としては容易に達しない温度であるが、例えば、真夏の締め切った自動車の車内や窓材などでは達し得る温度であるため、前記特性は致命的な欠点となり、実用化の大きな妨げとなっている。
このような著しい特性の変化は、ポリ乳酸の結晶構造に由来している。すなわち、溶融成形後の通常の冷却スピードでは、ポリ乳酸はほとんど結晶化せず、大部分は非結晶となる。ポリ乳酸は融点が160〜170℃と高く、結晶部分は容易に融けないが、大部分を占める非結晶部分はガラス転移温度の60℃付近で拘束が解けて動き始める。そのため、ガラス転移温度の60℃付近で極端な特性変化を生じる。
【0004】
このようなポリ乳酸のガラス転移温度の60℃未満における硬さや脆さを改善し耐衝撃性を汎用のプラスチック並みに向上させるため、非特許文献1には、ポリ乳酸に特定の可塑剤を混練することが記載されている。
一方、ガラス転移温度の60℃以上では柔軟になりすぎて強度が低下してしまうという問題を解決するために、電離性放射線や化学開始剤を利用してポリ乳酸を架橋させることが特開2003−313214号公報(特許文献1)に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−313214号公報
【非特許文献1】荒川化学工業(株)発行、「荒川NEWS」、2004年7月発行、No.326号 第2頁〜第7頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1及び前記非特許文献1の技術はそれぞれ単独ではポリ乳酸のガラス転移温度の60℃未満における硬さ・脆さの問題と、60℃以上における強度低下の問題の両方を同時に解決することはできない。また、これらの技術を単に組み合わせて、ポリ乳酸に可塑剤を混練した組成物を電離性放射線の照射などにより架橋させても、架橋は完全には進行しない。これは、ポリ乳酸に先に可塑剤を混練すると可塑剤がポリ乳酸の分子間に進入してポリ乳酸分子同士の結合を阻止し、分子同士が相互に接触し結合することができず、架橋構造を形成することができないからである。
このように、ポリ乳酸を含む成形体において、ガラス転移温度以上での強度低下を抑えながら、ガラス転移温度未満で柔軟性を付与することは困難である。
【0007】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、ポリ乳酸のガラス転移温度である60℃未満では屈曲しても復元可能である柔軟性及び弾性を有すると共に、60℃以上では強度低下が少なく形状維持を可能とし、ポリ乳酸のガラス転移温度である60℃前後で急激な物性変化を生じない樹脂架橋体の製造方法及び該製造方法により得られた樹脂架橋体を提供することを課題としている。
【0008】
前記課題に加えて、さらに、樹脂成分の全てを植物由来の樹脂から形成した樹脂架橋体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、第1の発明として、
ポリ乳酸とポリアミド樹脂を含む樹脂成分に架橋性モノマーを混練して組成物を作製する工程と、
前記組成物を所要形状に成形して成形物を作製する工程と、
前記成形物に電離性放射線を照射して前記ポリ乳酸と前記ポリアミド樹脂とを架橋して一体化する工程と、
を含むことを特徴とする樹脂架橋体の製造方法を提供している。
【0010】
本発明者は、前記課題について鋭意研究を重ねた結果、ポリ乳酸にナイロン樹脂等のポリアミド樹脂を配合することにより、硬くて脆弱であるポリ乳酸に柔軟性及び弾性を付与することができ、屈曲しても破壊しにくくできることを見出した。すなわち、ポリアミド樹脂がポリ乳酸に可塑性を付与し、ガラス転移温度以下での硬さを改善することができることを見出した。
しかし、単にポリ乳酸にポリアミド樹脂を混合しただけでは、ポリ乳酸のガラス転移温度以上における強度低下は抑制できなかったため、本発明者はさらなる検討を加えた。
その結果、ポリアミド樹脂は活性化された架橋性モノマーにより架橋構造の形成が可能であり、さらに、80%以上のゲル分率を有する強固な架橋構造を効率よく形成することができることを見出した。
すなわち、本発明の製造方法によれば、ポリ乳酸とポリアミド樹脂とを含む樹脂成分を用いて、ポリ乳酸とポリアミド樹脂とを互いに架橋により一体化することで、ポリ乳酸のガラス転移温度未満での硬さ・脆さを改善することができると共に、ガラス転移温度以上における強度低下を有効に防止し耐熱性を大幅に向上させることができる。
【0011】
本発明の製造方法では、はじめに、ポリ乳酸とポリアミド樹脂を含む樹脂成分に架橋性モノマーを混練して組成物を作製する。
本発明で用いるポリ乳酸は、とうもろこし、芋類、さとうきび、ビートなどの植物から採取されるデンプンを原料として製造される乳酸から製造される植物由来樹脂である。
ポリ乳酸としては、L−乳酸からなるポリ乳酸、D−乳酸からなるポリ乳酸、L−乳酸とD−乳酸の混合物を重合することにより得られるポリ乳酸、またはこれら2種類以上の混合物が挙げられる。なお、ポリ乳酸を構成するL−乳酸またはD−乳酸は化学修飾されていても良い。
本発明で用いるポリ乳酸としては前記のようなホモポリマーが好ましいが、乳酸モノマーまたはラクチドとそれらと共重合可能な他の成分とが共重合されたポリ乳酸コポリマーを用いても良い。コポリマーを形成する前記「他の成分」としては、例えばグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、5−ヒドロキシ吉草酸もしくは6−ヒドロキシカプロン酸などに代表されるヒドロキシカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、テレフタル酸もしくはイソフタル酸などに代表されるジカルボン酸;エチレングリコール、プロパンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、グリセリン、ソルビタンもしくはポリエチレングリコールなどに代表されるラクトン類等が挙げられる。
【0012】
ポリアミド樹脂は、構成するモノマーの種類により特性に差異はあるものの基本的にポリ乳酸と比較して柔軟性に富んでいる。
本発明に用いるポリアミド樹脂は、ポリマーの主鎖中にアミド結合を有する樹脂であればよく、一般的なナイロン樹脂、あるいは芳香族ポリアミド樹脂等を用いることができる。
前記ナイロン樹脂としては、ジアミンとジカルボン酸の重縮合によって合成されるNH(CH)nNH‐CO(CH)mCO型のn,m−ナイロン(n,mは各モノマー成分の炭素数、或いは頭文字)、アミノカルボン酸の重縮合あるいはラクタムの開環重合によって合成されるNH(CH)nCO型のn−ナイロン(nはモノマー成分の炭素数)のいずれもを用いることができる。
n−ナイロンとしては、例えば、ε−カプロラクタムの開環重合によって得られるナイロン6、ウンデカンラクタムの開環重合あるいは11−アミノウンデカン酸の重縮合反応で得られるナイロン11、ラウリルラクタムあるいはシクロドデカラクタムの開環重合で得られるナイロン12が挙げられる。
n,m−ナイロンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とを縮合させて得られるナイロン66、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸とを縮合させて得られるナイロン610、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸を縮合させて得られるナイロン6T、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸を縮合させて得られるナイロン6I、ノナンジアミンとテレフタル酸とを縮合させて得られるナイロン9T、メチルペンタジアミン(メチル基+炭素数5)とテレフタル酸を縮合させて得られるナイロンM5T、カプロラクタムとラウリルラクタムとのωアミノ酸同士の共縮重合体であるナイロン612が挙げられる。
前記芳香族ポリアミド樹脂としては、p−フェニレンジアミンとテレフタル酸とを縮合重合して得られるケブラー(登録商標)、m−フェニレンジアミンとイソフタル酸とを縮重合させて得られるノーメックス(登録商標)などが挙げられる。
【0013】
なかでも、使用後の廃棄処理問題の解決を図るという本発明の目的から、前記ポリ乳酸と同様に前記ポリアミド樹脂も植物由来の樹脂であることが好ましい。さらに、前記樹脂成分が全て植物由来の樹脂であることが好ましい。
本構成とすれば、樹脂材料の全てを植物由来とすることができ、二酸化炭素の構成元素である炭素の自然環境での分解・再合成のサイクルが保たれるため、材料上は地球温暖化の原因となる石油由来の二酸化炭素の排出をゼロとすることが出来る。
前記植物由来のナイロン樹脂としては、柔軟で粘りがある物性を有することから、ひまし油から合成される11−アミノウンデカン酸を原料とするナイロン11を用いることが好ましい。
【0014】
前記架橋性モノマーは、電離性放射線の照射により活性化して架橋できるモノマーであれば特に制限を受けないが、アリル系架橋性モノマー、アクリル系架橋性モノマー及びメタクリル系架橋性モノマーからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0015】
アクリル系もしくはメタクリル系の架橋性モノマーとしては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0016】
アリル系架橋性モノマーとしては、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルシアヌレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジアクリルクロレンテート、アリルアセテート、アリルベンゾエート、アリルジプロピルイソシアヌレート、アリルオクチルオキサレート、アリルプロピルフタレート、ブチルアリルマレート、ジアリルアジペート、ジアリルカーボネート、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルフマレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマロネート、ジアリルオキサレート、ジアリルフタレート、ジアリルプロピルイソシアヌレート、ジアリルセバセート、ジアリルサクシネート、ジアリルテレフタレート、ジアリルタトレート、ジメチルアリルフタレート、エチルアリルマレート、メチルアリルフマレート、メチルメタアリルマレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0017】
本発明で用いる架橋性モノマーとしては、比較的低濃度で高い架橋度を得ることができることからアリル系架橋性モノマーが好ましい。なかでもトリアリルイソシアヌレートはポリ乳酸に対する架橋効果が高く、ポリアミド樹脂の架橋を効率的に行なうことができるため、特に好ましい。また、トリアリルイソシアヌレートと、加熱によって相互に構造変換しうる、トリアリルシアヌレートも実質的に効果は同様である。
【0018】
前記架橋性モノマーはポリ乳酸とナイロン樹脂との混合樹脂100質量部に対して3質量部以上15質量部以下の割合で配合されていることが好ましい。架橋性モノマーの配合量を3質量部以上としているのは、架橋性モノマーの配合量が3質量部未満であると、架橋性モノマーによるポリ乳酸とナイロン樹脂混合物の架橋効果が十分に発揮されず、60℃以上の高温時において架橋体の強度が低下し、最悪の場合は形状を維持できなくなるおそれがあるからである。一方、架橋性モノマーの配合量を15質量部以下としているのは、架橋性モノマーの配合量が15質量部を超えると、ポリ乳酸とナイロン樹脂の混合物に架橋性ポリマー全量を均一に混合するのが困難になり、実質的に架橋効果に顕著な差が出なくなるという理由からである。
なお、ポリ乳酸とポリアミド樹脂以外の他の架橋性樹脂を含む場合には、該他の架橋性樹脂を含めた架橋性の樹脂成分100質量部に対して、3質量部以上15質量部以下の割合で配合すればよい。
【0019】
前記組成物には、前記ポリ乳酸、前記ポリアミド樹脂および架橋性モノマー以外に、本発明の目的に反しない限り、他の成分を配合しても良い。
例えば、ポリ乳酸以外の他の生分解性樹脂を配合しても良い。ポリ乳酸以外の生分解性樹脂としては、ラクトン樹脂、脂肪族ポリエステルもしくはポリビニルアルコール等の石油合成生分解性樹脂、またはポリヒドロキシブチレート・バリレート等の細菌産生直鎖状ポリエステル系樹脂等の細菌産生樹脂を挙げることができる。
また、ポリ乳酸以外の植物由来樹脂を、溶解特性を損なわない範囲で混合してもよい。例えば、植物由来の合成樹脂としては、酢酸セルロース、セルロースブチレート、セルロースプロピオネート、硝酸セルロース、硫酸セルロース、セルロースアセテートブチレートもしくは硝酸セルロース、酢酸セルロース等のセルロースエステル、またはポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸もしくはポリロイシン等のポリペプチドが挙げられる。その他、例えば、澱粉類として、トウモロコシ澱粉、コムギ澱粉もしくはコメ澱粉などの生澱粉、または酢酸エステル化澱粉、メチルエーテル化澱粉もしくはアミロース等の加工澱粉が挙げられる。
【0020】
さらに、前記組成物には、樹脂以外の成分、硬化性オリゴマー、各種安定剤、難燃剤、帯電防止剤、防カビ剤もしくは粘性付与剤等の添加剤、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉末、タルク、マイカもしくはシリカ等の無機・有機充填材、染料もしくは顔料などの着色剤等を加えることもできる。
【0021】
本発明の第1の発明の製造方法では、前記ポリ乳酸、ポリアミド樹脂および架橋性モノマーを含む組成物を、シート、フィルム、容器等の所要形状に成形して成形物を作製した後に、該成形物に電離性放射線を照射し、前記ポリ乳酸と前記ナイロン樹脂を架橋一体化している。
電離性放射線を照射することにより、架橋性モノマーが活性化され、ポリ乳酸の分子内および分子間、ポリアミド樹脂の分子内および分子間、ポリ乳酸とナイロン樹脂の分子間を架橋することができる。
架橋性モノマーを活性化する方法としては、有機過酸化物等のラジカル開始剤を前記組成物に配合して加熱して反応させる方法もあるが、本発明の第1の発明では電離性放射線を用いている。
これは、電離性放射線は透過性に優れているため、成形物の内部まで均一に架橋することができるという利点があることに加え、化学開始剤を使用した場合のように架橋時に成形物を温度上昇させなくても架橋構造を形成することができるので架橋時に成形物を熱変形させずに架橋構造を形成できるという利点があるからである。特に本発明に用いられるポリ乳酸は、融点以下であっても前述のようにガラス転移温度である約60℃以上の温度では変形しやすいため、電離性放射線による架橋が適している。このように、電離性放射線の照射による架橋は加工性に極めて優れている。
さらに、化学開始剤の使用も削減することができるので、環境への負荷も低減することができる。
【0022】
電離性放射線としてはγ線、エックス線、β線またはα線などが使用できるが、工業的生産にはコバルト−60によるγ線照射や、電子線加速器による電子線照射が好ましい。
電離性放射線の照射は空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。電離
性放射線の照射によって生成した活性種は空気中の酸素と結合して失活すると架橋効果が
低下するためである。
【0023】
電離性放射線の照射量は10kGy以上240kGy以下であることが好ましい。
これは、以下の検討から得られたものである。
図1は、ポリアミド樹脂であるナイロン11樹脂に架橋性モノマーを混練して作製した組成物を成形したシートに対して電子線放射線を照射した際の、電子線照射量とゲル分率の関係を表すグラフである。
図1に示されるように、ポリアミド樹脂は単独でも10kGyの照射量でも80%以上のゲル分率を有する架橋構造を形成することができると共に、30kGyでは95%以上のゲル分率を有し、ほぼ完全に架橋構造を形成することができる。
なお、図1において、具体的には、ナイロン11樹脂100質量部に対して5質量部の割合で架橋性モノマーであるトリアリルイソシアヌレートを混練した組成物を厚さ500μmのシートとし、電子線放射線を照射している。
【0024】
図2は、ポリ乳酸に架橋性モノマーを混練して作製した組成物を成形したシートに電子線放射線を照射した際の、電子線照射量とゲル分率の関係を表すグラフである。
図2に示されるように、ポリ乳酸は10kGyの照射量で65%のゲル分率を有し、40kGyで80%を超えるゲル分率となる架橋構造を形成している。ゲル分率は90kGyをピークとし、150kGyでも95%以上の高いゲル分率を得ているが、240kGyとなるとゲル分率は80%程度まで減少している。
なお、図2において、ポリアミド樹脂の代わりにポリ乳酸を用いた以外は図1と同様の方法で作製したシートに対して電離性放射線を照射している。
【0025】
このように、ポリ乳酸は電離性放射線の照射量が240kGyを超えると架橋とは逆に分解するおそれがあるため、240kGy以下が好ましいとしている。電離性放射線の照射量の上限はさらに200kGyとすることが好ましく、さらに90〜120kGyであることがより好ましい。
架橋性モノマーの配合量によっては電離性放射線の照射量が1kGy以上10kGy未満であってもポリ乳酸およびナイロン樹脂の架橋は認められるが、ほぼ100%のポリ乳酸およびナイロン樹脂の分子を架橋するため、電離性放射線の照射量の下限値は10kGyとするのが好ましいとしている。さらに、架橋一体化を完全に行うためには、電離性放射線の照射量が30kGy以上であることが好ましい。
なお、ポリ乳酸は特に架橋性モノマーが存在しない状態において放射線で崩壊する性質を有するため、架橋性モノマーの配合量に応じて照射量は調整することができる。すなわち、ポリ乳酸の分解が進行しない範囲において240kGy以上の照射量とすることもできる。
また、前述したように電離性放射線を照射して架橋構造を形成する本発明の製造方法の場合、加熱しなくても架橋構造を形成することができるので、熱変形を避けるため、照射時における前記成形物の温度は常温からポリ乳酸のガラス転移温度である60℃以下の範囲、さらに50℃以下とするのが好ましい。
【0026】
このようにして、前記製造方法により製造された第2の発明の樹脂架橋体を得ることができる。前記樹脂架橋体は、ポリ乳酸とポリアミド樹脂が架橋性モノマーにより架橋構造を形成して一体化されているので、ポリ乳酸単独の場合にガラス転移温度付近で生じる急激な物性変化を抑制している。
すなわち、ポリ乳酸とポリアミド樹脂が架橋ネットワークを形成しているので、ガラス転移温度以上での強度及び形状維持性を有している。さらに、ポリ乳酸とナイロン樹脂の架橋ネットワーク中にナイロン樹脂あるいはポリ乳酸が分散し互いに架橋一体化しているために、ポリ乳酸分子間の相互作用が阻止され、ポリ乳酸のガラス転移温度未満の温度において優れた柔軟性と伸びを発揮することができる。さらに、ポリ乳酸の欠点である耐衝撃性も改善することができる。
さらに、柔軟性と形状記憶性の両方が必要となる形状記憶製品を製造することができる。
【0027】
さらに、第3の発明として、ポリ乳酸とポリアミド樹脂を含む樹脂架橋体であって、
前記樹脂架橋体の樹脂成分が全て植物由来であり、前記ポリ乳酸と前記ポリアミド樹脂が架橋構造を形成して一体化されていることを特徴とする樹脂架橋体を提供している。
【0028】
植物由来樹脂であるポリ乳酸に、植物由来のポリアミド樹脂を組合わせることにより、前述したような物性の向上のみならず、樹脂成分の全てを植物由来樹脂とすることができる。その結果、二酸化炭素の構成元素である炭素の自然環境での分解・再合成のサイクルを保つことができる。
前記植物由来のポリアミド樹脂は、柔軟で粘りがあることから、ひまし油由来のナイロン11からなることが好ましい。
【0029】
また、前記ポリアミド樹脂として、前述した植物由来のナイロン樹脂のほか、植物由来あるいは石油由来のナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロン612、ケブラー(登録商標)、ノーメックス(登録商標)の中から選択される1種以上用いてもよい。
【0030】
第2、第3の発明の樹脂架橋体は、ゲル分率が70〜100%であることが好ましい。より好ましくは80〜100%、特に好ましくは90〜100%であり、最も好ましくは95〜100%とし、本発明の樹脂架橋体にポリ乳酸とナイロン樹脂と架橋性モノマーのみが含まれている場合は、該樹脂架橋体のゲル分率が実質的に100%となることが好ましい。
ゲル分率は、実施例に記載の方法で測定している。
さらに、実施例に記載の90度曲げ性試験で元の形状に復帰する柔軟性及び弾性を有すると共に、90℃の温水に5分間浸漬した場合に変形しない耐熱性を有することが好ましい。
【0031】
本発明の樹脂架橋体にポリ乳酸とポリアミド樹脂と架橋性モノマー以外の他の成分が含まれている場合は、当該他の成分がゲル分率を測定する時の溶媒であるクロロホルム/蟻酸混合溶媒に可溶か否かを判断して、下記式に基づき樹脂架橋体のゲル分率を補正し、ポリ乳酸とポリアミド樹脂の架橋度合いを示す補正ゲル分が実質的に100%となることが好ましい。
(補正ゲル分率(%))
={(ゲル分乾燥重量−α)/(樹脂架橋体の乾燥重量−α−β}×100
α;ポリ乳酸とポリアミド樹脂と架橋性モノマー以外の他の成分であって、
クロロホルム/蟻酸混合溶媒に不溶または難溶である成分の質量の総和
β;ポリ乳酸とポリアミド樹脂と架橋性モノマー以外の他の成分であって、
クロロホルム/蟻酸混合溶媒に可溶である成分の質量の総和
【0032】
前記ポリ乳酸と前記ポリアミド樹脂の混合比は(ポリ乳酸:ポリアミド樹脂)=(19:1)〜(1:19)であることが好ましい。
ポリ乳酸とポリアミド樹脂の混合比は特に制限されないが、やや硬くても形状維持性が特に要求される場合はポリ乳酸の割合を多くし、逆に柔軟性がより必要な場合はポリアミド樹脂の割合を多くすることが好ましい。しかし、それぞれの成分特有の効果を発揮させるためには、ポリ乳酸およびポリアミド樹脂の各々がポリ乳酸とポリアミド樹脂の合計質量に対して少なくとも5質量%以上含まれていることが好ましい。すなわち、ポリ乳酸とポリアミド樹脂との混合質量比は(ポリ乳酸:ポリアミド樹脂)=(19:1)〜(1:19)とするのが好ましい。さらに好ましくは(9:1)〜(1:9)であり、最も好ましくは(7:3)〜(3:7)である。
【0033】
やや硬くても形状維持性が必要である場合の具体的態様としては、ポリ乳酸とポリアミド樹脂の混合質量比を(ポリ乳酸:ポリアミド樹脂)=(19:1)〜(1:1)とすることが好ましい。さらに、(ポリ乳酸:ポリアミド樹脂)=(7:3)〜(1:1)とすることが好ましい。
【0034】
逆に、柔軟性がより必要な場合の具体的態様としては、ポリ乳酸とポリアミド樹脂の混合質量比を(ポリ乳酸:ポリアミド樹脂)=(1:19)〜(1:1)とすることが好ましい。さらに、(ポリ乳酸:ポリアミド樹脂)=(1:19)〜(3:7)とすることが好ましい。
【0035】
なお、第3の発明の樹脂架橋体の架橋構造を形成するために、化学開始剤を使用する方法を用いることもできる。しかし、架橋構造の制御が容易であり、加工性に優れる点、及び、ラジカル開始剤を使用せず環境負荷を低減することができる点では、前述した電離性放射線を照射する方法を用いることが好ましい。
化学開始剤を用いて架橋性モノマーを活性化する場合は、
ポリ乳酸とポリアミド樹脂を含む樹脂成分に架橋性モノマー及び化学開始剤を混練して組成物を作製する工程と、
前記組成物を所要形状に成形して成形物を作製する工程と、
前記成形物を前記化学開始剤が熱分解する温度まで加熱して前記ポリ乳酸と前記ポリアミド樹脂とを架橋して一体化する工程と、
を含む製造方法により製造すればよい。
【0036】
この場合の化学開始剤としては、熱分解により過酸化ラジカルを生成する過酸化ジクミル、過酸化プロピオニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化ジアシル、過酸化ペラルゴニル、過酸化ミリストイル、過安息香酸−t−ブチルもしくは2,2’−アゾビスイソブチロニトリルなどの過酸化物触媒をはじめとするモノマーの重合を開始する触媒であればいずれでもよい。
架橋させるための温度条件は化学開始剤の種類により適宜選択することができる。架橋は、放射線照射の場合と同様、空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。
他の項目については電離性放射線を用いる第1の発明の製造方法と同様である。
【発明の効果】
【0037】
本発明の樹脂架橋体の製造方法は、ポリ乳酸とポリアミド樹脂とを含む樹脂成分に架橋性モノマーが混練された組成物から成形した成形物に電離性放射線を照射して前記ポリ乳酸と前記ポリアミド樹脂とを架橋して一体化しているので、前記製造方法により得られた樹脂架橋体は、ポリ乳酸のガラス転移温度である60℃を超える高温時においてもポリ乳酸及びポリアミド樹脂の架橋ネットワークにより確実に形状を維持することができる。さらに、ポリ乳酸あるいはポリアミド樹脂の架橋ネットワーク中にポリアミド樹脂あるいはポリ乳酸が分散され互いに架橋一体化しているので、ポリ乳酸分子間の相互作用が阻止され、ポリ乳酸のガラス転移温度未満の温度においても柔軟性と伸びを発揮することができる。そのうえ、ポリ乳酸の欠点である耐衝撃性も改善することができる。
さらに、柔軟性と形状記憶性の両方が必要となる形状記憶製品を製造することができる。
【0038】
本発明の製造方法は電離性放射線を用いてポリ乳酸およびポリアミド樹脂の架橋構造を形成しているので、均一な架橋構造を形成でき、加熱しなくても架橋させることができる。そのため、架橋時における架橋構造の制御が容易で加熱による変形も抑えることもでき、加工性に極めて優れている。さらに、化学開始剤を使用しなくても架橋構造を形成することができることから、使用する化学薬品を削減することができる。そのため、本発明の製造方法は、現在プラスチック成形品が利用されている一般的な幅広い用途に応用することができる。
【0039】
ポリ乳酸と植物由来のナイロン樹脂からなるポリアミド樹脂とで構成し、前記ポリ乳酸と前記ナイロン樹脂が架橋構造を形成して一体化されている樹脂架橋体とすることにより、樹脂成分の全てを植物由来としながら、柔軟性と耐熱性の両方を兼ね備えた材料とすることができる。本構成とすれば、従来、ポリ乳酸を利用できなかった分野へ応用することができる。
樹脂成分の全てを植物由来とすることで、炭素の自然環境での分解・再合成のサイクルが保たれるため、材料上は地球温暖化の原因となる石油由来の二酸化炭素の排出をゼロとすることが出来る。その結果、グローバルな地球環境のみならず自然界における生態系に及ぼす影響が極めて少なく、従来のプラスチックが有していた廃棄処理に関わる諸問題を解決することができる。生体への影響もないことから、生体内外に利用される注射器やカテーテルなどの医療用器具への適用することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
次に本発明の第1実施形態の樹脂架橋体の製造方法を説明する。
本実施形態では、樹脂成分としてポリ乳酸と植物由来のポリアミド樹脂とを用い、樹脂成分の全てを植物由来とした樹脂架橋体としている。
詳細には、前記ポリ乳酸はとうもろこし等の植物から採取されるデンプンを原料として製造される乳酸から製造されるものであるため植物由来であり、前記ポリアミド樹脂としてトウゴマの種子より抽出されるひまし油を原料として生成した11−アミノウンデカン酸から合成されたナイロン11樹脂を用い、樹脂成分のすべてを植物由来の樹脂から形成している。
【0041】
以下、樹脂架橋体の製造方法を詳細に述べる。
はじめに、ポリ乳酸のペレット及びナイロン樹脂のペレットを(ポリ乳酸:ポリアミド樹脂)=(1:19)〜(19:1)の範囲の所望の混合質量比で混合し、混合ペレットを作製している。ポリ乳酸とポリアミド樹脂の混合質量比は要求される物性に応じて選択することができ、具体的にはやや硬くても形状維持性が必要である場合には、ポリ乳酸とポリアミド樹脂の混合質量比を(ポリ乳酸:ポリアミド樹脂)=(19:1)〜(1:1)とし、逆に、柔軟性がより必要な場合には(ポリ乳酸:ポリアミド樹脂)=(1:19)〜(1:1)としている。
【0042】
ついで、前記混合ペレットを、ポリ乳酸とナイロン樹脂の融点以上の温度に加熱して軟化させて混合し、混合樹脂ペレットとしている。この際の加熱温度はポリ乳酸およびナイロン樹脂の融点以上の温度、具体的には170℃以上、より好ましくは180〜200℃程度としている。
【0043】
次に、前記混合樹脂ペレットに架橋性モノマーおよび所望により他の成分を投入して混練し、架橋性モノマーを混合樹脂に均一混合した組成物を作製している。
架橋性モノマーとしては、アリル系架橋性モノマーの1種であるトリアリルイソシアヌレートを用い、該架橋性モノマーの添加量は、ポリ乳酸とナイロン樹脂の混合樹脂100質量部に対して3質量部以上10質量部以下としている。
混練方法は架橋性モノマーが均一になる方法であればよく、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロール、スクリュー押出機など公知の方法を用いることができる。また、混練時間は架橋性モノマーの種類や混練時の温度によって適宜選択することができる。
ポリ乳酸、ポリアミド樹脂、架橋性モノマーの混合順序は、前記の順序でなくてもよく、全ての成分を一度に混ぜても良いし、一部を予め混ぜ合わせ、得られた混練物に他の成分を混合しても良い。
このようにして、ポリ乳酸とナイロン樹脂と架橋性モノマーとを少なくとも含む組成物を作製している。
【0044】
ついで、上記工程で得られた組成物を再び加熱により軟化させて、シート、フィルム、繊維、トレイ、容器または袋などの所望の形状に成形して成形物としている。成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いて行えば良い。例えば、押出成形機、圧縮成形機、真空成形機、ブロー成形機、Tダイ型成形機、射出成形機、インフレーション成形機等の公知の成形機が用いられる。
成形は、このように組成物を一旦冷却した後で行ってもよいし、組成物を作製した後に加熱軟化している状態で連続して行ってもよい。
【0045】
ついで、得られた成形物に電離性放射線を照射し、ポリ乳酸及びナイロン樹脂を架橋させて一体化し、樹脂架橋物を得ている。
前記電離性放射線は、電子線加速器による電子線照射としており、放射線照射量は10kGy以上240Gy以下の範囲から架橋性モノマーの配合量等に応じて適宜選択している。
【0046】
このようにして得られる本発明の樹脂架橋体は、ポリ乳酸とポリアミド樹脂がゲル分率70〜100%となる架橋構造を有している。
本発明の樹脂架橋体にポリ乳酸とナイロン樹脂と架橋性モノマーのみが含まれている場合は、樹脂架橋体のゲル分率を90%〜100%、好ましくは95%〜100%として実質的に100%としていることが好ましい。
樹脂成分としてポリ乳酸とポリアミド樹脂を含むと共に、前記ポリ乳酸と前記ポリアミド樹脂が架橋して一体化しているので、ポリ乳酸のガラス転移温度である60℃未満である室温において、後述する実施例の方法で90度曲げ性試験を行うと元の形状に復帰する柔軟性及び弾性を有している。さらに、90℃の温水中に5分間浸漬しても変形しない耐熱性を有する。
【0047】
前述した柔軟性や耐熱性に加え、本実施形態の樹脂架橋体は次の物性を有している。
ポリ乳酸とポリアミド樹脂の混合質量比を(ポリ乳酸:ポリアミド樹脂)=(19:1)〜(1:1)とし、ポリアミド樹脂よりもポリ乳酸を多く配合した場合、伸びが小さく、やや硬さは有するが、優れた強度を有する材料とすることができる。
一方、ポリ乳酸とポリアミド樹脂の混合質量比を(ポリ乳酸:ポリアミド樹脂)=(1:19)〜(1:1)とし、ポリアミド樹脂をポリ乳酸より多く配合した場合、伸びが大きく、柔軟性に優れた材料とすることができる。
【0048】
次に本発明の第2実施形態の樹脂架橋体の製造方法について説明する。
第2実施形態は、組成物の作製において溶媒を用いている点でのみ第1実施形態と異なる。
本実施形態では、ポリ乳酸とナイロン樹脂を、クロロホルムやクレゾール等のポリ乳酸とナイロン樹脂の両方が溶解しうる溶媒中に溶解または分散させて混合樹脂を作製しており、このなかに、架橋性モノマーおよび他の成分を投入し混練している。
【0049】
次に、溶媒を乾燥除去し、ポリ乳酸とポリアミド樹脂と架橋性モノマーが均一に混合された組成物を作製している。
なお、組成物に少量の溶媒を含む状態で成形を行い、成形後に溶媒を乾燥除去してもよい。
他の構成及び効果は第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0050】
次に本発明の第3実施形態の樹脂架橋体について説明する。
第3実施形態は、電離性放射線を用いる方法ではなく、化学開始剤により架橋性モノマーを活性化して、ポリ乳酸と植物由来のナイロン樹脂を架橋し、樹脂架橋体を得ている点で第1実施形態と異なる。
すなわち、第1実施形態における組成物において、化学開始剤を架橋性モノマー5質量部に対して0.1〜1質量部混合しており、混合樹脂を成形物としたのち、180℃〜220℃で5〜15分間保持して化学開始剤を熱分解させて該架橋性モノマーを活性化し、ポリ乳酸とナイロン樹脂を架橋して一体化している。
他の構成及び効果は第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0051】
以下、本発明について、実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
(実施例1〜7)
ペレット状のポリ乳酸と、ペレット状のナイロン樹脂を質量比で(ポリ乳酸:ナイロン11樹脂)=(3:7)の割合で混合して混合ペレットとし、該混合ペレットを押出機(池貝鉄工(株)製PCM30型)のペレット供給部に投入した。押出機によりシリンダ温度200℃で溶融押出する際に押出機のペレット供給部にトリアリルイソシアヌレートをペリスタポンプにて定速滴下し、ポリ乳酸とナイロン11樹脂の混合樹脂にトリアリルイソシアヌレートを添加した。その際、トリアリルイソシアヌレートの配合量がポリ乳酸とナイロン樹脂の混合樹脂100質量部に対して5質量部になるようにトリアリルイソシアヌートの滴下速度と押出速度の比率を調整した。
押出された組成物は水冷したのちにペレタイザーにてペレット化し、ポリ乳酸とナイロン樹脂と架橋性モノマーを含むペレット状組成物を得た。
【0053】
次に、前記ペレット状組成物を180℃でシート状に熱プレスしたのち水冷で急冷し、500μm厚のシートを作製した。
このシートに対し、空気を除いた不活性雰囲気で電子加速器(加速電圧10MeV、電流量12mA)により電離性放射線を照射した。電離性放射線の照射量は、表1に示すように10〜240kGyの範囲で変化させ、実施例1〜7の樹脂架橋体を得た。
【0054】
(実施例8〜14)
ポリ乳酸:ナイロン樹脂の混合比を(ポリ乳酸:ナイロン11樹脂)=(1:1)とした以外は実施例1〜7と各々同様にして、実施例8〜14とした。
(実施例15〜21)
ポリ乳酸:ナイロン樹脂の混合比を(ポリ乳酸:ナイロン11樹脂)=(7:3)とした以外は実施例1〜7と各々同様にして、実施例15〜21とした。
(実施例22〜28)
ポリ乳酸:ナイロン樹脂の混合比を(ポリ乳酸:ナイロン11樹脂)=(1:19)とした以外は実施例1〜7と各々同様にして、実施例22〜28とした。
【0055】
(比較例1〜4)
電離性放射線を照射しなかった以外は実施例1、8、15、22と各々同様にして、比較例1、2、3、4とした。
(比較例5〜11)
トリアリルイソシアヌレートを配合しなかった以外は実施例1〜7と各々同様にして、比較例5〜11とした。
(比較例12〜18)
トリアリルイソシアヌレートを配合しなかった以外は実施例8〜14と各々同様にして、比較例12〜18とした。
(比較例19〜25)
トリアリルイソシアヌレートを配合しなかった以外は実施例15〜21と各々同様にして、比較例19〜25とした。
(比較例26)
ナイロン樹脂を配合せず、樹脂成分をポリ乳酸のみとした以外は比較例1と同様にした。
(比較例27〜33)
ナイロン樹脂を配合せず、樹脂成分をポリ乳酸のみとした以外は実施例1〜7と同様にして、比較例27〜33とした。
【0056】
表1、2において、トリアリルイソシアヌレートの濃度は、ポリ乳酸とナイロン樹脂の混合樹脂100質量部に対する配合量として示した。
なお、各成分として、具体的には下記製品を用いた。
ポリ乳酸:三井化学(株)製ポリ乳酸「レイシア(LACEA)H−440(商品名)」
ナイロン樹脂:アルケマ社製ナイロン11樹脂「リルサンポリアミド11BESN(商品名)」
トリアリルイソシアヌレート:日本化成(株)製「TAIC(登録商標)」
【0057】
実施例及び比較例について、ゲル分率の測定、90°曲げ性試験、温水浸漬試験、引張試験を下記の方法で行い、評価を行なった。
【0058】
(1)ゲル分率
乾燥質量を各々正確に計ったのち、200メッシュのステンレス金網に包み、クロロホルムと蟻酸の質量比1:1の混合溶剤の中に48時間浸漬したのちに、前記混合溶剤に溶解したゾル分を除いて残ったゲル分を得た。110℃で24時間乾燥して、ゲル中の前記混合溶剤を除去し、ゲル分の乾燥質量を測定した。得られた値をもとに下記式に基づきゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=(ゲル分乾燥質量/樹脂架橋体の乾燥質量)×100
【0059】
(2)90°曲げ性試験
柔軟性を調べるため、得られたシートを幅1cm、長さ15cmのスティック状にカットし、両端を手でもって曲げ角90°になるように曲げて10秒間保持した後、手を離して解放し、サンプルが折れたり、折れ目や折れ癖が付かないかを観察した。
【0060】
(3)温水浸漬試験
耐熱性を調べるために、得られたシートを幅1cm、長さ5cmのスティック状にカットし、摂氏90度の熱水中に5分間浸漬して変形が生じるか否かを調べた。
【0061】
(4)引張試験
JIS K7127、ISO527およびASTM D790に準じて引張試験を行い、降伏点強度、破断伸び、ヤング率を測定した。
【0062】
実施例1〜28、比較例1〜33の90°曲げ性試験と温水浸漬試験の評価結果を、前述した製造条件の相違とともに表1及び表2に示した。
実施例1〜28、比較例1〜4のゲル分率の評価結果を、放射線照射量に対してプロットし、図3に示した。なお、図3には示していないが、比較例5〜26のゲル分率は全て1%未満であった。比較例26〜33のゲル分率の評価結果は前述した図2と同一である。
実施例1〜28、比較例1〜4,比較例26〜33の降伏点強度、破断伸び、ヤング率の評価結果は、各々放射線照射量に対してプロットし、図4〜6に示した。
なお、比較例5〜25の降伏点強度、破断伸び、ヤング率の評価結果は、図に示していないが、比較例1〜4と同等か、それ以下であった。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
樹脂成分としてポリ乳酸とナイロン樹脂を用い電離性放射線を照射した実施例1〜28、樹脂成分としてポリ乳酸を用いて電離性放射線を照射した比較例27〜33では、70〜100%のゲル分率が得られ、温水浸漬試験により変形せず、ポリ乳酸とナイロン樹脂が架橋により一体化し、耐熱性を有していた。
特に、放射線照射量を30〜240kGyとした実施例2〜7、9〜14、16〜21、23〜28では90%以上の高いゲル分率が得られ、高度な架橋構造を形成していた。
これに対して、電子線照射しなかった比較例1〜4、26およびトリアリルイソシアヌレートを混合しなかった比較例5〜25ではゲル分率が1%未満となり、架橋が見られず、温水浸漬試験により収縮して端が内側に反って丸まって大きく変形し、耐熱性を有していなかった。
【0066】
一方、ナイロン樹脂を配合した実施例1〜28および比較例1〜25は、柔軟性を有し、90°曲げ性試験では問題なく曲がり、弾性的に元の形状に復帰した。これに対して、ポリ乳酸100%の比較例26〜33は硬く、90°曲げた結果、折れてしまった。
さらに図4に示す降伏点強度の結果から、電子線照射を行うことで強度が向上した。この電子線照射量と、ポリ乳酸とナイロン樹脂の混合比を組み合わせることで、硬さ(柔軟性)を自由にコントロールできることが判った。
以上の評価結果から、比較例1〜33は耐熱性と柔軟性のいずれか、あるいは両方に問題があるが、本発明の実施例1〜28は耐熱性と柔軟性を両立することができ、優れていた。
【0067】
本発明の樹脂架橋体は前記実施形態および実施例に限定されず、特許請求の範囲に基づき解釈されるべきものである。実施形態および実施例では、ポリアミド樹脂として植物由来のナイロン11を用いた例について述べたが、他の種類のナイロン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】ポリアミド樹脂の電子線照射量とゲル分率の関係を表すグラフである。
【図2】ポリ乳酸の電子線照射量とゲル分率の関係を表すグラフである。
【図3】実施例及び比較例の電子線照射量とゲル分率の関係を表すグラフである。
【図4】実施例及び比較例の電子線照射量と降伏点強度の関係を表すグラフである。
【図5】実施例及び比較例の電子線照射量と破断伸びの関係を表すグラフである。
【図6】実施例及び比較例の電子線照射量とヤング率の関係を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸とポリアミド樹脂を含む樹脂成分に架橋性モノマーを混練して組成物を作製する工程と、
前記組成物を所要形状に成形して成形物を作製する工程と、
前記成形物に電離性放射線を照射して前記ポリ乳酸と前記ポリアミド樹脂とを架橋して一体化する工程と、
を含むことを特徴とする樹脂架橋体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂が植物由来の樹脂である請求項1に記載の樹脂架橋体の製造方法。
【請求項3】
前記電離性放射線の照射量が10kGy以上200kGy以下である請求項1または請求項2に記載の樹脂架橋体の製造方法。
【請求項4】
前記架橋性モノマーが、アリル系架橋性モノマー、アクリル系架橋性モノマー及びメタクリル系架橋性モノマーからなる群から選択される1種以上である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に樹脂架橋体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の方法により製造された樹脂架橋体。
【請求項6】
ポリ乳酸とポリアミド樹脂を含む樹脂架橋体であって、
前記樹脂架橋体の樹脂成分が全て植物由来であり、前記ポリ乳酸と前記ポリアミド樹脂が架橋構造を形成して一体化されていることを特徴とする樹脂架橋体。
【請求項7】
前記植物由来のポリアミド樹脂がひまし油由来のナイロン11からなる請求項5または請求項6に記載の樹脂架橋体。
【請求項8】
前記ポリ乳酸と前記ポリアミド樹脂の混合質量比が(ポリ乳酸:ポリアミド樹脂)=(19:1)〜(1:19)である請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の樹脂架橋体。
【請求項9】
前記ポリアミド樹脂が、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロン612、ケブラー(登録商標)及びノーメックス(登録商標)からなる群から選択される1種以上である請求項5または請求項8に記載の樹脂架橋体。
【請求項10】
ゲル分率が70〜100%であり、90度曲げ性試験で元の形状に復帰すると共に、90℃の温水に5分間浸漬した場合に変形しない請求項5乃至請求項9のいずれか1項に記載の樹脂架橋体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−291095(P2008−291095A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137025(P2007−137025)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】