説明

樹脂注型金型および注型品

【課題】 注入口内の温度を金型温度よりも低下させ、硬化収縮時のキャビティー内への樹脂補充を行う。
【解決手段】 注型品を得る金型1、2と、金型1、2に彫られたキャビティー3、4と、キャビティー3、4と金型1、2の外側とを結ぶとともに、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂をキャビティー3、4内に充填する注入口5、6とを備え、注入口5、6は、金型1、2よりも熱伝導率が小さいフッ素樹脂のような断熱部材7、8で構成され、樹脂温度を最も低く抑えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を注型したときの硬化収縮、特に、注入口付近での硬化収縮を改善する樹脂注型金型およびこの樹脂注型金型で注型された注型品に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂の高速注型においては、40〜60℃に保温された液状の樹脂を、120〜150℃に加熱した樹脂注型金型内に充填し、加熱硬化させることにより、数10分の短時間で良好な注型品を得ることができる。加熱硬化時には、硬化収縮を起こしヒケを生じることがあるので、注入口から所定圧力で加圧が行われ、キャビティー内に新たなエポキシ樹脂の補充が行われる。
【0003】
ここで、注入口付近のエポキシ樹脂は、キャビティー内のエポキシ樹脂の硬化が完了するまでの収縮分を補充するため、流動性を保つ必要がある。このため、従来、樹脂注型金型の注入口が設けられている部分には、冷却溝を設け、外気を取り入れて金型温度を下げ、硬化を遅らせるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、注入口を、直接、圧縮空気で冷却するものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−246981号公報 (第4ページ、図1)
【特許文献2】特開2000−6166号公報 (第3ページ、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来の樹脂注型金型においては、次のような問題がある。
注入口付近の金型温度を外気などを取り入れて低下させるものでは、温度差が急激に大きくなったり、逆に、温度差を充分に付けられないことがある。即ち、冬季の注型作業開始時などで外気温が低いときには、注入口付近の金型温度が大きく低下し、また、夏季で外気温が高いときには、注入口付近の金型温度を充分に低下させることが困難となる。
【0006】
キャビティー内のエポキシ樹脂は、硬化時に発熱しながら硬化収縮するので、このように注入口付近の温度差にずれが生じると、注入口から最も遠い部分から注入口に向かって順次硬化させる硬化序列のバランスが崩れ、硬化収縮時の樹脂補充が充分に行われないことが起きる。樹脂補充が充分に行われないと、ヒケなどの絶縁欠陥を生じる。このため、外気などの外部要因に影響を受けず、注入口付近の温度を所定範囲内で低下させられるものが望まれていた。
【0007】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、注入口内の温度を金型温度よりも所定範囲内で低下させることの可能な樹脂注型金型および注型品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の樹脂注型金型は、金型と、前記金型に彫られたキャビティーと、前記キャビティーと前記金型の外側とを結ぶとともに、熱硬化性樹脂を前記キャビティー内に充填する注入口とを備え、前記注入口は、前記金型よりも熱伝導率が小さい断熱部材で構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、注入口に断熱部材を用いているので、注入口と金型との温度差を確実に付けることができ、硬化を遅延させた注入口から硬化収縮時の樹脂補充を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1に係る樹脂注型金型の構成を示す断面図。
【図2】本発明の実施例1に係る樹脂注型金型の温度特性を説明する図。
【図3】本発明の実施例1に係る樹脂注型金型で注型された注型品の要部拡大断面図。
【図4】本発明の実施例2に係る樹脂注型金型の構成を示す要部拡大断面図。
【図5】本発明の実施例3に係る樹脂注型金型の構成を示す要部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、注入口を断熱部材で構成し、樹脂注型金型との温度差を付けるものである。以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0012】
先ず、本発明の実施例1に係る樹脂注型金型を図1〜図3を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係る樹脂注型金型の構成を示す断面図、図2は、本発明の実施例1に係る樹脂注型金型の温度特性を説明する図、図3は、本発明の実施例1に係る樹脂注型金型で注型された注型品の要部拡大断面図である。
【0013】
図1に示すように、図示左右の鉄製の第1の金型1と第2の金型2の合せ面の中央部には、第1のキャビティー3と第2のキャビティー4が対称に彫られている。第1のキャビティー3は、半円状の第1の注入口5で第1の金型1の図示下部の外側と結ばれている。また、第2のキャビティー4も、半円状の第2の注入口6で第2の金型2の図示下部の外側と結ばれている。第1の注入口5と第2の注入口6を合せると、断面円状となる。
【0014】
第1のキャビティー3に接する部分の第1の注入口5の外周には、筒状を半円状とした第1の断熱部材7が嵌め込まれている。第1の断熱部材7は、厚さ30mm、長さ50mmであり、外周の中間部に突出部7aが設けられ、第1の金型1に設けられた凹部1aに嵌め込まれ、固定されている。第2のキャビティー4に接する部分の第2の注入口6の外周にも、筒状を半円状とした第2の断熱部材8が嵌め込まれている。第2の断熱部材8も同様に、厚さ30mm、長さ50mmであり、外周の中間部に突出部8aが設けられ、第2の金型2に設けられた凹部2aに嵌め込まれ、固定されている。第1の断熱部材7と第2の断熱部材8を合せた内径は、第1の注入口5と第2の注入口6を合せたものと同径であり、断面円状となる。
【0015】
第1の断熱部材7と第2の断熱部材8は、第1の金型1、第2の金型2よりも熱伝導率が小さく、注型温度に耐え得るフッ素樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、セラミックスなどを用いる。フッ素樹脂が離型作業などが容易であり好ましい。
【0016】
なお、第1、第2の断熱部材7、8は、第1、第2のキャビティー3、4と接する部分から第1、第2の注入口5、6の中間部まで設けられているが、第1、第2の注入口5、6全域に設けてもよい。
【0017】
次に、注型方法を説明する。
【0018】
第1、第2の断熱部材7、8をそれぞれ嵌め込んだ第1、第2の金型1、2を図示しない閉鎖装置で強固に締め付け、第1、第2のキャビティー3、4内を真空に引くとともに、120〜150℃に加熱する。そして、第1、第2の注入口5、6から40〜60℃に保温された液状のエポキシ樹脂を充填し、所定圧力で加圧する。すると、樹脂温度は、第1、第2のキャビティー3、4内では、充填後に図2に示す特性Aとなり、経過時間とともに温度上昇する。所定時間t1を経過すると、樹脂が発熱し、急激に温度上昇し、硬化を始める。
【0019】
第1、第2の断熱部材7、8の部分では、充填後に図2に示す特性Bとなり、経過時間とともに緩やかに温度上昇する。即ち、温度上昇を緩やかにすることができるので、液状の状態を長時間保つことができる。これにより、第1、第2のキャビティー3、4内での硬化収縮時に順次、樹脂補充をすることができる。第1、第2のキャビティー3、4内が硬化を始めても、第1、第2の断熱部材7、8内では第1、第2の金型1、2からの熱の供給が遮断されているので、硬化を確実に遅らせることができる。温度差は数℃であり、絶縁厚さで調整することができる。
【0020】
なお、第1、第2の断熱部材7、8を用いない従来のものでは、図2に示す特性Cとなり、特性Aと同様の傾向を示し所定時間t1を経過すると急激に温度上昇する。このため、第1、第2の注入口5、6内での硬化が促進され、第1、第2のキャビティー3、4内への安定的な樹脂補充が困難となる。
【0021】
充填後、数10分の所定時間、これを保持すると、第1、第2のキャビティー3、4内と、第1、第2の断熱部材7、8内を含む第1、第2の注入口5、6内の樹脂が硬化する。硬化後、第1、第2の金型1、2を離型し、注型品を取り出す。取り出した注型品は、必要に応じ、二次硬化を行う。なお、第1、第2の断熱部材7、8は、着脱自在となっているので、消耗などがあれば、新品と交換する。
【0022】
製造した注型品は、図3(a)に示すように、樹脂補充がスムーズに行われるので注入口端9aは中央部が僅かに窪んだ断面円弧状となる。このため、注型物10a内では、ヒケなどの絶縁欠陥が極めて少なく、残留応力の少ないものとなる。なお、注型物10a部分が硬化していても、注入口部分の温度が最も低いので、注入口端9aの先端部はゲル化状態のものもできる。ここで、注入口端9a先端の断面円弧状とは、窪みの深さが半径よりも小さい形状のものをいう。
【0023】
従来では、図3(b)で示すように、注入口端9bの中央部が大きく窪んだ凹状に形成されることがある。これは、樹脂補充がスムーズに行われないときに多く見られ、液状の樹脂と硬化が始まろうとする樹脂とが混在して補充されるときに形成され易く、注型物10b内に残留応力が残る場合がある。ここで、凹状とは、注入口端9bの窪みの深さが半径よりも大きい形状のものをいう。なお、注入口端9a、9bは、製品時に削り落とされる。
【0024】
これらのことから、第1、第2の断熱部材7、8は、第1、第2の金型1、2内に設けられているので、外気温に影響を受けず、安定した温度差を付けることができる。このため、第1、第2の断熱部材7、8内を含む第1、第2の注入口5、6内の硬化を最も遅らせることができ、硬化収縮時の樹脂補充を確実に行うことができる。
【0025】
上記実施例1の樹脂注型金型によれば、第1、第2のキャビティー3、4と接する部分の第1、第2の注入口5、6を第1、第2の断熱部材7、8で形成しているので、第1、第2の金型1、2内よりも第1、第2の断熱部材7、8内の樹脂温度を低下させることができ、第1、第2のキャビティー3、4内での硬化収縮時の樹脂補充を、第1、第2の断熱部材7、8内を含む第1、第2の注入口5、6内から確実に行うことができる。
【実施例2】
【0026】
次に、本発明の実施例2に係る樹脂注型金型を図4を参照して説明する。図4は、本発明の実施例2に係る樹脂注型金型の構成を示す要部拡大断面図である。なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、断熱部材の形状である。図4において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0027】
図4に示すように、第3の断熱部材11と第4の断熱部材12は、第1、第2のキャビティー3、4に接する面から外側に向かって絶縁厚さが厚くなるテーパ状となっている。中間部には、それぞれ突出部11a、12aを設け、第1、第2の金型1、2の凹部1a、2aに嵌め込まれ固定されている。
【0028】
上記実施例2の樹脂注型金型によれば、実施例1による効果のほかに、第3、第4の断熱部材11、12内に、第1、第2のキャビティー3、4側が高くなる温度勾配を付けることができ、より安定した硬化序列を付けることができる。
【実施例3】
【0029】
次に、本発明の実施例3に係る樹脂注型金型を図5を参照して説明する。図5は、本発明の実施例3に係る樹脂注型金型の構成を示す要部拡大断面図である。なお、この実施例3が実施例2と異なる点は、キャビティーを非対称としたことである。図5において、実施例2と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0030】
図5に示すように、第2のキャビティー4に対して第3のキャビティー13の容積を小さくしている。これに伴って、第3のキャビティー13と結ばれている第5の断熱部材14の絶縁厚さを、第4の断熱部材12よりも薄くしている。第5の断熱部材14の突出部14aは、第3の金型15の凹部15aに嵌め込まれる。
【0031】
上記実施例3の樹脂注型金型によれば、実施例2による効果のほかに、第2、第3のキャビティー4、13の容積に合わせて樹脂補充量が異なってくるが、その不均一を第4、第5の断熱部材12、14の絶縁厚さで制御することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 第1の金型
1a、2a、15a 凹部
2 第2の金型
3 第1のキャビティー
4 第2のキャビティー
5 第1の注入口
6 第2の注入口
7 第1の断熱部材
7a、8a、11a、12a、14a 突出部
8 第2の断熱部材
9a、9b 注入口端
10a、10b 注型物
11 第3の断熱部材
12 第4の断熱部材
13 第3のキャビティー
14 第5の断熱部材
15 第3の金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型と、
前記金型に彫られたキャビティーと、
前記キャビティーと前記金型の外側とを結ぶとともに、熱硬化性樹脂を前記キャビティー内に充填する注入口とを備え、
前記注入口は、前記金型よりも熱伝導率が小さい断熱部材で構成されていることを特徴とする樹脂注型金型。
【請求項2】
前記断熱部材は、テフロン(R)樹脂よりなることを特徴とする請求項1に記載の樹脂注型金型。
【請求項3】
前記断熱部材は、前記キャビティーに向かうほど絶縁厚さが薄くなるテーパ状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂注型金型。
【請求項4】
前記金型を二分割し、それぞれのキャビティーが非対称であるとき、これらのキャビティーの容積に比例して前記断熱部材の絶縁厚さを薄くしたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の樹脂注型金型。
【請求項5】
キャビティー内に熱硬化性樹脂を注入する注入口が断熱部材で構成された樹脂注型金型で注型される注型品であって、
前記注型品の注入口端は、中央部の窪みの深さが前記注入口の半径よりも小さい断面円弧状であることを特徴とする注型品。
【請求項6】
前記注入口端の先端部がゲル化状態であることを特徴とする請求項5に記載の注型品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−207185(P2011−207185A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79825(P2010−79825)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】