説明

樹脂組成物、樹脂シートおよび樹脂シートの製造方法

【課題】押出成形等でシートに成形する際の特性と、該シートを熱成形して成形品とする際の特性との双方を満足できる樹脂組成物及び該組成物からなる樹脂シートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、環状ポリオレフィン系樹脂30質量%以上60質量%以下と、エチレン系樹脂20質量%以上50質量%以下と、ポリオレフィン系エラストマー5質量%以上15質量%以下と、を含み、ポリオレフィン系エラストマーはポリプロピレン系エラストマーとポリエチレン系エラストマーの少なくとも二種を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、該組成物からなる樹脂シートおよび樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状ポリオレフィン(COP)は、ポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)等のポリオレフィン樹脂と比べて、優れた光学特性を有することから、光学部品(レンズ、光ディスク、プリズム等)に広く利用されている。
このようなCOPは、さらに防湿性、剛性(強度)、および帯電特性にも優れることから、電子部品の搬送容器等への利用も検討され、そのような用途に利用できる樹脂シートとして、ポリプロピレン樹脂(60〜20%)と、環状ポリオレフィン(40〜80%)とからなる樹脂組成物100質量部に対して、エチレン−α−オレフィン共重合体樹脂(5〜30%)と、非イオン性界面活性剤型帯電防止剤(0.2〜5%)とを含んだポリオレフィン系樹脂シートが提案されている(特許文献1参照)。
また、COPまたはCOPを含む樹脂組成物は、取り扱い性の観点から射出成形により成型体とされることが一般的であるが、製造コストの観点から、一旦シートを形成し、それをプレス成形で成型体とする試みが多々なされている。
具体的には、まずCOPを含む樹脂組成物を押出成形等でシートに成形した後、熱プレスにより成形品を製造する。この場合、押出成形等でシートに成形する際の特性と、該シートを熱プレスして成形品とする際の特性との双方を満足させる必要がある。
さらに、近年環境への配慮から、射出成形、延伸加工等各種の成形過程で生じ、通常物廃棄物として処理されているバリや耳などと呼ばれる成形時の非利用部分や一旦成形品として利用された製品(以上あわせて「熱履歴品」ということがある。)の再利用が求められている。しかしながら、通常熱履歴品は成形性が劣るなどの理由で再利用の実効性が低いのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−256397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたポリオレフィン系樹脂シートは、溶融張力が十分でなく、溶融樹脂をシート状に押し出した際やシートが垂れ下がったり破断したりすることがあり、また特定形状に熱成形した際にその形状を維持できないことがあるなどの熱成形時の樹脂特性は必ずしも満足できるものではない。さらに成形品の耐衝撃性が不足するとか熱履歴品を再利用しにくいとか、未だ改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明は、溶融張力に優れ、バージン原料を用いる場合はもとより、熱履歴品を併用した場合においても押出成形されたシートや熱成形で得られた成形体の形状が維持でき、また該成形品の耐衝撃性に優れる樹脂組成物及び該組成物からなる樹脂シート並びに当該樹脂シートに適した製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の樹脂組成物は、環状ポリオレフィン系樹脂30質量%以上60質量%以下と、エチレン系樹脂20質量%以上50質量%以下と、ポリオレフィン系エラストマー5質量%以上15質量%以下と、を配合してなり、前記ポリオレフィン系エラストマーは、ポリエチレン系エラストマーとポリプロピレン系エラストマーとの二種を少なくとも含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の樹脂組成物は、さらに、帯電防止剤を1質量%以上6質量%以下配合してなることが好ましい。また、前記帯電防止剤は、ポリエチレンベースのマスターバッチとして配合されることが好ましい。
【0008】
また、本発明の樹脂シートは、上記の樹脂組成物を押出成形することにより得られ、本発明では、前記樹脂シートの厚みが300μm以上1400μm以下であることが好ましい。
さらに、本発明の樹脂シートを熱成形(熱プレス)してなる樹脂成型体は、食品容器等ゴミ等の付着防止が要求される包装容器に加えて、電子部品等、電磁波の影響を受け易い物品の搬送容器として特に有用である。
【0009】
本発明における樹脂シートの製造方法は、上記の樹脂組成物を押出成形機の供給口に供給し、ダイスから押し出すことで樹脂シートを製造する樹脂シートの製造方法であって、前記押出成形機の前記供給口側と前記ダイス側との間の温度を、前記供給口側及び前記ダイス側の温度よりも高くなるように制御することを特徴とし、さらに前記押出成形機と前記ダイスとの間にギアポンプを設置し、前記押出成形機から押出される樹脂組成物を再度ギアポンプで押出した後に前記ダイスから押し出すことが好ましい。
また、前記ダイスからの樹脂シートの押出し方向を、垂直方向又は水平方向とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、成形性に優れており、この樹脂組成物を原料として樹脂シートを製造しても、樹脂シート製造中に該樹脂シートが破断することがない。また、樹脂組成物を原料としてTダイから樹脂シート状に押出成形を製造しても、あるいは該樹脂シートを熱成形にて成形体とする際に樹脂シートに大きな垂れが発生するおそれもない。それ故、樹脂シートの製造や、樹脂シートの加工が容易に行え、製造サイクルを上げることが可能となる。
また、本発明樹脂組成物は、上述のような優れた成形性により、前記環状ポリオレフィン系樹脂、前記エチレン系樹脂または本発明の範囲にある組成を有する成形体等、各種の熱履歴品を利用して本発明の組成範囲の組成物とすれば優れた成形シートを得ることができる点においても有用である。
すなわち、本発明は、環状ポリオレフィン系樹脂等のリサイクル技術として極めて有用である。
さらに本発明の樹脂シートの製造方法は、環状ポリオレフィンを含む本発明の樹脂組成物を押出成形する際に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の樹脂シートの製造方法で用いられる押出成形機の一例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の樹脂組成物(以下、単に「本組成物」ともいう。)は、環状ポリオレフィン系樹脂30質量%以上60質量%以下と、エチレン系樹脂20質量%以上50質量%以下と、ポリオレフィン系エラストマー5質量%以上15質量%以下と、を配合してなることを特徴とする。
【0013】
(環状ポリオレフィン系樹脂)
本組成物に用いられる環状ポリオレフィン系樹脂とは、主鎖あるいは側鎖に環状脂肪族炭化水素を有するポリオレフィン系樹脂をいう。環状脂肪族炭化水素としては、例えば下記[化1]に挙げる構造式で表されるものがある。
【化1】

【0014】
環状ポリオレフィン系樹脂の市販品としては、例えば、日本ゼオン社製のゼオネックス(登録商標)およびゼオノア(登録商標)、JSR社製のアートン(登録商標)、三井化学社製のアペル(登録商標)、ポリプラスチックス社製のトパス(登録商標)などが挙げられる。
【0015】
環状ポリオレフィン系樹脂としては、ガラス転移温度が100℃から160℃までのものがより好ましく用いられる。この範囲の環状ポリオレフィン系樹脂は、エチレン系樹脂と溶融混合した場合に良好な混練性を示す。なお、本発明において上記環状ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度とは、JIS K7121に規定されている測定方法に準拠して測定した中間点ガラス転移温度をいう。
【0016】
また、環状ポリオレフィン系樹脂には、ノルボルネンとエチレンをメタロセン触媒にて共重合したシクロオレフィンコポリマー(COC)タイプとメタセシス開環重合タイプのCOPタイプがあるが、そのどちらを用いても構わない。
【0017】
環状オレフィン樹脂はバージン原料を用いても構わないが、熱履歴品を用いることもできる。この熱履歴品とは、少なくとも一度加熱成形された履歴を有するものであれば特に制限はなく、例えば、光学レンズ、プリズムなどの光学部品自身や、その光学部品を射出成形等で製造する際に発生するスプール部やランナー部の破砕品およびリペレット品などが好ましく利用できる。
【0018】
(エチレン系樹脂)
エチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、中低密度ポリエチレン、およびエチレン−αオレフィン共重合体などが挙げられる。低密度ポリエチレンとしては高圧法ポリエチレンでもよく、直鎖状低密度ポリエチレンでもよい。
エチレン−αオレフィン共重合体におけるα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン等が挙げられる。
このα―オレフィンは、その炭素数が多いとコストが高くなり、炭素数が少ないと得られるポリオレフィン系樹脂シートの耐衝撃性が低下することから、炭素数が4〜8のα―オレフィンが好ましく、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンがより好ましく、1−ヘキセンが特に好ましい。
【0019】
(ポリオレフィン系エラストマー)
ポリオレフィン系エラストマーとは、結晶化度が50%以下の低結晶性ないし非晶性のオレフィン系重合体である。該オレフィン系重合体は、通常共重合体であるが、本発明においては、共重合体に限られるものではなく、単独重合体も有効に用いることができる。
ここで、当該共重合体において、共重合させるモノマー(オレフィン)としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、2−ブテン、シクロブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ブテン、シクロペンテン、1−ヘキセン、シクロヘキセン、1−オクテン、1−デセン、および1−ドデセンなどが挙げられ、また単独重合体としては、例えば、プロピレンのみをモノマーとしてタクチシティの低いポリマー(エラストマー)としたものが挙げられる。
具体的には、EPラバーとして知られるEPM(エチレン−プロピレン−メチレン)やEPDM(エチレン−プロピレン−ジエン−メチレン)のような熱可塑性エラストマーが挙げられる。そのほかに、エチレンと炭素数が4から8までのα−オレフィンとを共重合して得られるエラストマーも挙げられる。
市販品としては、例えば、タフマー(三井化学)PP、ミラストマー(三井化学)、エンゲージ(デュポンダウエラストマージャパン)、IDEMITSU TPO(出光興産)、サーモラン(三菱化学)、タフプレン(JSR)、ボンドファースト(住友化学)、セプトン(クラレ)、ダイナロン1320P(JSR)、ミラストマー(三菱化学)、ノーデル(デュポンダウ)および住友TPE(住友化学)などが挙げられる。
本発明では、ポリオレフィン系エラストマーとして、少なくともポリプロピレン系エラストマー及びポリエチレン系エラストマーを用いる。ここで、ポリプロピレン系エラストマーとは、上記共重合させるモノマーとして、プロピレンが主要成分(用いるモノマー中、モル数として最も多い成分)となるエラストーをいい、エチレン系エラストマーとは、上記共重合させるモノマーとしてエチレンが主要成分(用いるモノマー中、モル数として最も多い成分)となるエラストーをいう。なお、共重合させるモノマーとしてプロピレンとエチレンを同時に含むエラストマーにおいてもエチレンとプロピレンの配合量からいずれかに振り分けることができる。本発明においては、プロピレン由来のポリマー部位が多いエラストマーとエチレン由来のポリマー部位が多いエラストマーの両方を並存させることで、環状オレフィン樹脂とエチレン系樹脂との相溶性や分散性が改善され、樹脂組成物全体の衝撃強度が確保できる。用いるエラストマーに含まれるプロピレン由来のポリマー部位やエチレン由来のポリマー部位の割合にもよるが、優れた衝撃強度を確保するには、ポリプロピレン系エラストマーとエチレン系エラストマーの配合割合を、1:9〜9:1とすることが好ましく、2:3〜3:2であることがより好ましく、1:1であることがさらに好ましい。
【0020】
本組成物における環状ポリオレフィン系樹脂の配合割合は、組成物全量基準で30質量%以上60質量%以下である。環状ポリオレフィン系樹脂の配合割合が30質量%未満であると環状ポリオレフィンの優れた帯電特性を十分に生かすことができなくなり、また高価なバージンの環状ポリオレフィンに変わり熱履歴品を使用してもコストメリットが小さくなり好ましくない。また、環状ポリオレフィン系樹脂の配合割合が60質量%を超えると加工性の低下となって好ましくない。好ましい配合割合は、40質量%以上55質量%以下である。
本組成物におけるエチレン系樹脂の配合割合は、組成物全量基準で20質量%以上50質量%以下である。エチレン系樹脂の配合割合が20質量%未満であると、樹脂シートの製造が困難となるおそれがあり、得られる樹脂シートの耐衝撃性が低下してしまい好ましくない。また、配合割合が50質量%を超えると、得られる樹脂シートの機械的強度や高温時の剛性が低下するので好ましくない。好ましい配合割合は、30質量%以上45質量%以下である。なお、エチレン系樹脂を配合することで、後述する帯電防止剤の効果が高められる。
本組成物におけるポリオレフィン系エラストマーの配合割合は、組成物全量基準で5質量%以上20質量%以下である。ポリオレフィン系エラストマーの配合割合が15質量%を超えると、加工性やコストの点から好ましくない。また、ポリオレフィン系エラストマーの配合割合が5質量%未満であると、成形性や成形品の耐衝撃性が低下するので好ましくない。ポリオレフィン系エラストマーの好ましい配合割合は5質量%以上15質量%以下である。
【0021】
(帯電防止剤)
本組成物には、帯電防止性能を付与するため、さらに帯電防止剤を配合することが好ましい。帯電防止剤としては、高分子型帯電防止剤あるいは界面活性剤型帯電防止剤のいずれの帯電防止剤も用いることができる。
高分子型帯電防止剤とは、例えば、持続性帯電防止剤や永久帯電防止剤と呼ばれるポリマータイプの帯電防止剤であり、具体的には、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレングリコ−ル、ポリエステルアミド、ポリエ−テルエステルアミド、ポリエーテルポリオレフィン、エチレン-メタクリル酸共重合体などのアイオノマ−、ポリエチレングリコ−ルメタクリレ−ト系共重合体等の第四級アンモニウム塩から選択される1種、または2種以上の混合物、または2種以上の共重合体、さらにそれらとポリプロピレンなどの他の樹脂との共重合体等の中で、分子鎖中に極性基を有し無機塩または低分子量有機プロトン酸塩を錯体形成または溶媒和することが可能な樹脂が挙げられ、無機塩または有機プロトン酸塩等を錯体形成または溶媒和せしめてあってもよい。この中でポリオレフィン系エラストマーおよび環状ポリオレフィン系樹脂との相溶性や帯電防止性能の点からポリエーテルポリオレフィン、ポリエ−テルエステルアミドが好ましく、ポリエーテルポリオレフィンが特に好ましい。
【0022】
高分子型帯電防止剤は、本組成物100質量部に対して10質量部以上20質量部以下であることが好ましい。高分子型帯電防止剤が10質量部より少ないと安定した所定の帯電防止性能が得られず、20質量部より多いと押出加工性が低下する上、それほど帯電防止性能の向上が認められず、コストアップになるので好ましくない。
【0023】
また、界面活性剤型帯電防止剤としては従来公知の化合物を用いることができる。例えば、四級アンモニウム塩、ピリジン誘導体に代表される陽イオン界面活性剤、アルキル硫酸エステル塩、アルキル芳香属スルフォン酸塩、コハク酸スルフォン酸塩、リン酸エステル塩等に代表される陰イオン界面活性剤、多価アルコールの部分脂肪酸エステル及びそのエチレンオキサイド付加物、脂肪属アルコールのエチレンオキサイド付加物、脂肪属アミンのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールあるいはアルキルナフトールのエチレンオキサイド付加物に代表される非イオン界面活性剤、ベタイン形カルボン酸誘導体、イミダゾリン誘導体に代表される両性界面活性剤等が挙げられ、これらを単独または併用して用いる。なかでも本発明においては効果、取り扱いやすさ、人体への安全性から高耐熱界面活性剤が好ましい。
【0024】
非イオン性界面活性剤型帯電防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコール等のアルコール系帯電防止剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のエーテル系帯電防止剤、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等のエステル系帯電防止剤、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のアミン系帯電防止剤、ポリオキシエチレングリセリド等のグリセリン系帯電防止剤、アルキルアルカノールアミド等のアミド系帯電防止剤が挙げられ、ブリードアウト速度が速いという理由からアルコール系帯電防止剤やアミン系帯電防止剤が好ましく、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルアミンがより好ましく、ポリオキシエチレンアルキルアミンが特に好ましい。なお、非イオン性界面活性剤型帯電防止剤は単独で用いられても併用されてもよい。
【0025】
そして、界面活性剤型帯電防止剤の添加量は、多いと得られる樹脂シートの表面がべたつくおそれがあり、少ないと得られる樹脂シートの帯電防止性能が不足するおそれもあるため、本組成物中に組成物全量基準で1質量%以上6質量%以下配合してなることが好ましく2質量%以上4質量%以下であることがより好ましい。また、帯電防止剤を配合する際は、樹脂組成物への混練をしやすさを考慮してマスターバッチを用いることが好ましい。特に、ポリエチレンベースのマスターバッチは混練のしやすさより特に好ましい。
ここで、樹脂シートの押出温度よりも融点が低い低融点帯電防止剤を用いると、樹脂シートの押出時に帯電防止剤が揮発するため、その揮発分を考慮して帯電防止剤の添加量(仕込み量)を最終成形品における設計添加量よりも多めに処方する必要がある。ただし、揮発した帯電防止剤が工場内で液化して、シートの品質に悪影響を及ぼすおそれもある。それ故、帯電防止剤としては、押出温度よりも融点の高い、例えば、融点250℃の高融点帯電防止剤を用いることが好ましい。
【0026】
本発明において、必要であれば着色剤や光遮断剤を添加しても構わない。このような着色剤や光遮断剤は例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミ等の無機物質、シアニンブルー、シアニングリーン、ミロリブルー、スレンブルー、カドミウムレッド、カドミウムイエロー、カドミウムオレンジ、弁柄、群青、フタロシアニンブルー等の顔料が挙げられる。これらは直接添加しても構わないが、作業性の観点からマスターバッチ化したものを用いることが好ましい。また、マスターバッチのベース樹脂は低密度ポリエチレン樹脂(LDPE樹脂)やポリプロピレン樹脂(PP樹脂)などが好ましい。
また、必要に応じて酸化防止剤や劣化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤を添加しても構わない。
【0027】
(樹脂シートの製造方法)
本発明の樹脂シートは、押出機内で上記した本組成物と必要により帯電防止剤とを溶融混練し、押出機の先端に取付けた金型から大気中へ押し出すことにより得ることができる。具体的には、押出機先端にTダイを取り付け、そこから押出した樹脂シートを冷却ドラム(冷却ロール)で成形する製造方法、あるいは、押出機先端にサーキュラー金型を取り付け、そこから押出した円筒状シートをマンドレルで成形した後、切開してシート状とする製造方法のどちらも適用することができる。
具体的には、以下の方法で本発明の樹脂シートを製造することが好ましい。
図1は、本発明の樹脂シートの製造方法で用いられる押出成形機の一例を示す概略図である。
本実施形態における押出成形機は、スクリュー式押出成形機1の一端に材料を供給するホッパー4が接続され、他端に押出口となるダイス6が吐出管8を介して接続されている。スクリュー3は、一軸、二軸等種々の形態のものが使用できるが、装置が簡便である点で一軸スクリューが好ましい。
また、スクリュー式押出成形機1とダイス6との間には、ギアポンプ5が設置されている。このギアポンプ5は、スクリュー式押出成形機1側に吸込口が、ダイス6側に吐出口が接続されているとともに、吐出管8には吐出圧力を制御するための圧力調整弁9が設けられている。このギアポンプ5により、スクリュー式押出成形機1から押出される樹脂組成物の押出量を調整できるようになっている。
さらに、スクリュー式押出成形機1は、その軸方向において、フィード部1A、中間部1B、および先端部1Cを備え、段階的に温度が調整できるようになっている。
本発明の樹脂シートの製造方法では、樹脂組成物をホッパー4からスクリュー式押出成形機1の供給口2に供給し、ダイス6から押し出すことで製造する際に、スクリュー式押出成形機1のフィード部1Aと先端部1Cとの間(中間部1B)の温度を、フィード部1Aおよび先端部1Cの温度よりも高くなるように制御することが好ましい。なお、フィード部1Aの温度、先端部1Cの温度および中間部1Bの温度は、樹脂組成物の配合比に併せてそれぞれ適宜設定する必要があるが、例えば、フィード部1Aの温度を180℃から220℃まで、先端部1Cの温度を220℃から240℃まで、中間部1Bの温度を250℃から280℃までとすることが好ましい。ここで、フィード部1Aの温度が180℃未満であると、スクリュー溝に樹脂が供給される際に異音等が発生し好ましくない。また、先端部1Cの温度が280℃を超えると、エラストマーに焼け等が生じやすくなり好ましくない。さらに、中間部1Bの温度が本範囲外となると、押出機のトルク増加や吐出量の低下を引き起こしランニングコストのアップとなり好ましくない。
このようにスクリュー式押出成形機1の温度条件をその軸方向で部分的、段階的に制御することにより、スクリュー式押出成形機1にて負荷がかかり易いCOPやポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物であっても、効率よく押出成形することが可能となる。
また、本発明の樹脂シートの製造方法では、スクリュー式押出成形機1とダイス6との間にギアポンプ5を設置し、ダイス6から押し出す前にギアポンプ5で押し出すことが好ましい。これにより、融点差が異なる材料が混合されてなる樹脂組成物であっても、定量的に効率よく押し出すことができる。また、ギアポンプ5で押出量を制御することで、ダイス6からの樹脂シートの押出し方向を、垂直方向に限らず、水平方向にすることも可能となる。
【0028】
本発明の樹脂シートの厚みは、300μm以上1400μm以下の範囲が好ましく、500μm以上1,300μm以下の範囲がより好ましい。樹脂シートの厚みが300μm未満の場合は、成形性が悪くなるおそれがあり、成形品の強度が不足するおそれもある。樹脂シートの厚みが1400μmを超えるものは、成形性が悪くなるおそれがある。
【実施例】
【0029】
〔実施例1〕
以下の配合組成で樹脂組成物を調製した。
環状ポリオレフィン系樹脂:ゼオネックス樹脂(日本ゼオン製:COP樹脂)50質量%
エチレン系樹脂:LDPE樹脂(宇部興産製)37質量%
ポリオレフィン系エラストマー:エンゲージ8200(ダウ製)5質量%およびタフマー4085(三井化学製)5質量%
帯電防止剤(界面活性剤型帯電防止剤):融点250℃のエレコンPP(大日精化製)3質量%(ポリプロピレンベースのマスターバッチ)
【0030】
次に、調製した樹脂組成物を用い、図1に示すスクリュー式押出成形機1にて樹脂シートを製造した。成形機および成形条件は以下の通りである。
押出機:Φ65mm、L/D=32の単軸押出機
ダイ:コートハンガータイプのTダイ(幅900mm)
押出成形機のフィード部1Aの温度:200℃
押出成形機の中間部1Bの温度:270℃
押出成形機の先端部1Cの温度:230℃
冷却ロール温度:80℃
引き取り速度2.0m/分
【0031】
上述の条件にて、耳スリットを50mmとして700mm幅の樹脂シートを製造した。樹脂シートを製造する際、引き取り、スリット、および巻き取り工程において何ら支障はなかった。
このようにして得られた樹脂シートを、ミノス製の単発熱成形機にて口径80Φ、深さ30mmの金型を用いて真空圧空成形を行い成形品を得た。
この得られた成形品の切片を切り出しオネストメーター(帯電半減期測定器、シシド静電気社製)にて帯電半減期を確認したところ、帯電半減期は1秒以下であった。
【0032】
〔実施例2〕
以下の配合組成で樹脂組成物を調製した。
環状ポリオレフィン系樹脂:ゼオネックス樹脂(日本ゼオン製)50質量%
エチレン系樹脂:LDPE樹脂(宇部興産製)37質量%
ポリオレフィン系エラストマー:エンゲージ8200(ダウ製)5質量%およびタフマー4085(三井化学製)5質量%
帯電防止剤(界面活性剤型帯電防止剤):融点250℃のエレコンPE(大日精化製)3質量%(ポリエチレンベースのマスターバッチ)
【0033】
次に、調製した樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で樹脂シートおよび成形品を製造した。樹脂シートを製造する際、引き取り、スリット、および巻き取り工程において何ら支障はなかった。なお、帯電防止剤としてポリプロピレンベースのマスターバッチを用いた実施例1と比べて、樹脂組成物の混練がしやすく、樹脂シートをさらに効率よく製造することができた。
得られた成形品の切片を切り出しオネストメーターにて帯電半減期を確認したところ、実施例1と同様に1秒以下であることが確認できた。
【0034】
〔比較例1〕
以下の配合組成で樹脂組成物を調製した。
環状ポリオレフィン系樹脂:ゼオネックス樹脂(日本ゼオン製)50質量%
ポリオレフィン系エラストマー:PP樹脂(プライムポリマー製)37質量%、タフマー4085(三井化学製)5質量%およびエンゲージ8200(ダウ製)5質量%
帯電防止剤:融点250℃以上のエレコンPP(大日精化製)3質量%
なお、この樹脂組成物は、特許文献1に記載のポリオレフィン系樹脂シートと同様の樹脂組成である。
次に、調製した樹脂組成物を用い、実施例1と同様の方法で樹脂シートに製造しようとしたがスリット部で樹脂シートが破断してしまい、樹脂シートを製造することができなかった。
〔比較例2〕
実施例1におけるポリオレフィン系エラストマーを、PP系エラストマー(タフマー4085)のみ10質量%に変更して樹脂組成物を調製した。
次に、実施例1と同様の条件で、調製した樹脂組成物を用い押出成形にて樹脂シートを製造した。
樹脂シートを製造した際、樹脂シートの厚みにバラツキが生じ、引き取り、スリット、および巻き取り工程において実施例1と比べて作業性に問題があった。
〔比較例3〕
実施例1におけるポリオレフィン系エラストマーを、PE系エラストマー(エンゲージ8200)のみ10質量%に変更して樹脂組成物を調製した。
次に、実施例1と同様の条件で、調製した樹脂組成物を用い押出成形にて樹脂シートを製造した。
樹脂シートを製造した際、樹脂シートの厚みにバラツキが生じ、引き取り、スリット、および巻き取り工程において実施例1と比べて作業性に問題があった。
【0035】
〔考察〕
環状ポリオレフィン樹脂と、エチレン系樹脂と、ポリオレフィン系エラストマーとを配合してなる実施例1、2のような樹脂組成物は、それぞれ樹脂シートさらには成形品を問題なく製造することができ、成形品の帯電半減期はそれぞれ1秒以下であった。このことから、また、樹脂組成物として熱履歴品を含んでいても成形性や帯電半減期には何ら問題はないことがわかる。特に、実施例1および2の樹脂組成物では、環状ポリオレフィン系樹脂を50質量%含有していることから環状ポリオレフィン系樹脂の再利用効率としても良好なものであるといえる。
したがって、本発明によれば、従来再利用が困難であった環状ポリオレフィン系樹脂を好適に再利用することができる。
これに対し、比較例1のようにエチレン系樹脂を含まない樹脂組成物では、その成形性が極めて劣り、樹脂シートを製造することすらできなかった。また、ポリオレフィン系エラストマーとして、PP系エラストマーのみを用いた比較例2や、ポリオレフィン系エラストマーとして、PE系エラストマーのみを用いた比較例3では、樹脂シートの成形性に問題があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリオレフィン系樹脂30質量%以上60質量%以下と、
エチレン系樹脂20質量%以上50質量%以下と、
ポリオレフィン系エラストマー5質量%以上15質量%以下と、を配合してなり、
前記ポリオレフィン系エラストマーは、ポリエチレン系エラストマーとポリプロピレン系エラストマーの二種を少なくとも含む
ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物において、
さらに、帯電防止剤を1質量%以上6質量%以下配合してなる
ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の樹脂組成物において、
前記帯電防止剤が、ポリエチレンベースのマスターバッチとして配合されることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の樹脂組成物から押出成形により得られたことを特徴とする樹脂シート。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の樹脂組成物を押出成形機の供給口に供給し、ダイスから押し出すことで樹脂シートを製造する樹脂シートの製造方法であって、
前記押出成形機の前記供給口側と前記ダイス側との間の温度を、前記供給口側及び前記ダイス側の温度よりも高くなるように制御することを特徴とする樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂シートの製造方法であって、
前記押出成形機と前記ダイスとの間にギアポンプを設置し、前記押出成形機から押出される樹脂組成物を再度ギアポンプで押出した後に前記ダイスから押し出すことを特徴とする樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の樹脂シートの製造方法であって、
前記ダイスからの樹脂シートの押出し方向を、垂直方向又は水平方向とすることを特徴とする樹脂シートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−25812(P2012−25812A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163835(P2010−163835)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】