説明

樹脂組成物、樹脂成形体及び筐体並びに樹脂成形体の製造方法

【課題】 樹脂成形体の植物度を十分高めることができるとともに、耐衝撃強度及び耐熱性が十分である樹脂成形体の製造を可能とする樹脂組成物、及び、それを用いて得られる樹脂成形体、筐体、並びに、樹脂成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】 下記一般式で表される構造及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸から導かれる構造を有する共重合体を含有する樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂成形体及び筐体並びに樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化、石油枯渇、廃棄物問題に代表される環境問題への取組み、持続型循環社会構築の考え方から、植物由来のバイオマス材料の開発が盛んになされている。
【0003】
家電製品や事務機器などの分野では、製品の部材構成において樹脂成形体の割合が増加していることから、特に樹脂成形体の材料としてバイオマス材料を利用することが期待されている。樹脂材料として用いられるバイオマス材料としては、例えば、石油を一切使用せずに穀物などから製造できるポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルが注目されている。しかし、例えばポリ乳酸は、硬くて脆く、耐熱性が劣るため、その用途は農業用シートや家庭用ゴミ袋などに限定されており、家電製品や事務機器などの要求特性が高い部材としてそのまま使用すると破損や変形などの問題が生じてしまう。
【0004】
上記のような問題を改善する方法としては、ポリ乳酸と石油系樹脂とをブレンドする技術が知られている。例えば、下記特許文献1には、ポリ乳酸及び芳香族ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−48066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ポリ乳酸とポリカーボネートとをブレンドした樹脂組成物は以下の問題点を有しており必ずしも十分なものであるとはいえない。すなわち、上記の樹脂組成物から形成される樹脂成形体は、耐衝撃強度及び耐熱性が不十分であり、家電製品や事務機器の筐体や部品に要求される特性を十分満足するものではなかった。なお、上記の樹脂組成物において、耐衝撃強度及び耐熱性を向上させるためにポリカーボネートの含有量を増やしたり、他の石油系樹脂を更にブレンドしたりする方法が考えられるが、このような方法では樹脂成形体の植物度が小さくなりすぎて、バイオマス材料本来の目的が十分に達成できなくなる。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、樹脂成形体の植物度を十分高めることができるとともに、耐衝撃強度及び耐熱性が十分である樹脂成形体の製造を可能とする樹脂組成物、及び、それを用いて得られる樹脂成形体、筐体、並びに、樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の樹脂組成物は、下記一般式(I)で表される構造及び下記一般式(II)で表される構造を有する共重合体を含有することを特徴とする。
【0009】
【化1】



式(I)中、X及びXはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシ基を示し、X及びXはそれぞれ独立に水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のアルコキシ基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシカルボニル基を示し、a及びbはそれぞれ独立に1〜4の整数を示し、nは1〜10の整数を示す。
【0010】
【化2】



式(II)中、Rは直鎖型若しくは分岐型のアルキレン基を示し、mは10以上の整数を示す。
【0011】
本発明の第1の樹脂組成物によれば、上記共重合体にバイオマスを上記式(II)で表される脂肪族ポリエステルのブロック構造として組み込むことができ、植物度が十分高く且つ耐衝撃強度及び耐熱性が十分である樹脂成形体を製造することができる。
【0012】
また、本発明の第1の樹脂組成物によれば、上記共重合体が40℃以下の低温で十分な流動性を発現できることから、低温成形により樹脂成形体を製造することができる。この場合、極めて高い耐衝撃強度及び耐熱性を有する樹脂成形体を製造することができる。
【0013】
更に、本発明の第1の樹脂組成物から得られた樹脂成形体は、粉砕して再び低温成形することが可能であることから、成形時の熱履歴による樹脂の劣化(加水分解による分子量の低下など)を十分抑制できる。これにより、樹脂成形体の耐衝撃強度及び耐熱性を長期に亘って高水準で維持できる優れたリサイクル性を達成することが可能となる。
【0014】
本発明の第1の樹脂組成物により上述の効果が奏される理由としては以下のとおり本発明者らは推察する。先ず、上記共重合体の低温流動性は、上記式(I)で表わされる構造と上記式(II)で表されるブロック構造との組み合わせにより発現したものと考えられる。すなわち、上記式(II)で表される構造のみであると低温でガラス状態にあるが、特定の大きさを有する上記式(I)で表わされる構造が上記式(II)で表されるブロック構造間に組み込まれることで流動核となる部分ができ、低温での流動性が発現したものと考えられる。また、ランダム共重合体ではその耐衝撃強度及び耐熱性ともに2成分の加成性が成り立つ傾向があるのに対して、ブロック共重合体では一方の成分に起因する特性が共重合体の特性として発現できることから、上記式(I)で表わされる構造に起因する高水準の耐衝撃強度及び耐熱性が上記共重合体に付与され、その結果、樹脂成形体の耐衝撃強度及び耐熱性を高水準で達成できたものと考えられる。
【0015】
また、本発明の第1の樹脂組成物において、上記共重合体は、上記一般式(I)中のn及び上記一般式(II)中のmが下記式(A)を満たすものであることが好ましい。
10000≧(m/n)≧10 ・・・(A)
【0016】
上記(m/n)が10未満である場合、樹脂組成物の低温成形性が発現しにくくなる。一方、上記(m/n)が10000を超える場合も樹脂組成物の低温成形性が発現しにくくなる。樹脂組成物が上記式(A)を満たす共重合体を含むことにより、耐衝撃強度及び耐熱性に優れた樹脂成形体をより確実に製造することが可能となる。また、樹脂成形体のリサイクル性をより向上させることができる。
【0017】
本発明の第1の樹脂組成物において、上記共重合体の重量平均分子量が、ポリスチレン換算で10000以上500000以下であることが好ましい。かかる重量平均分子量が10000未満であると、形成される樹脂成形体の耐衝撃強度が低下する傾向があり、500000を越えると、樹脂組成物の流動性が低下するため、室温成形によって複雑な形状の樹脂成形体を製造することが困難となる傾向がある。
【0018】
また、樹脂組成物の低温成形性をより向上させる観点から、上記共重合体の含有量が、樹脂組成物全量を基準として50質量%以上であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の第1の樹脂組成物は、難燃剤を更に含むことが好ましい。この場合、植物度、耐衝撃強度及び耐熱性を十分有しながら難燃性を高水準で達成する樹脂成形体を得ることができる。
【0020】
また、本発明の第2の樹脂組成物は、下記一般式(III)で表されるリグノフェノール化合物と下記一般式(IV)で表される脂肪族ポリエステル化合物とを反応させて得られる共重合体を含有することを特徴とする。
【0021】
【化3】



式(III)中、X11及びX12はそれぞれ独立に水素原子、水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシ基を示し、X13及びX14はそれぞれ独立に水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のアルコキシ基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシカルボニル基を示し、c及びdはそれぞれ独立に1〜4の整数を示し、kは1〜10の整数を示す。
【0022】
【化4】



式(IV)中、R11は直鎖型若しくは分岐型のアルキレン基を示し、jは10以上の整数を示す。
【0023】
本発明の第2の樹脂組成物によれば、上記共重合体にバイオマスを脂肪族ポリエステル化合物から誘導されるブロック構造として組み込むことができ、植物度が十分高く且つ耐衝撃強度及び耐熱性が十分である樹脂成形体を製造することができる。
【0024】
また、本発明の第2の樹脂組成物によれば、上記共重合体が40℃以下の低温で十分な流動性を発現できることから、低温成形により樹脂成形体を製造することができる。この場合、極めて高い耐衝撃強度及び耐熱性を有する樹脂成形体を製造することができる。
【0025】
更に、本発明の第2の樹脂組成物から得られた樹脂成形体は、粉砕して再び低温成形することが可能であることから、成形時の熱履歴による樹脂の劣化(加水分解による分子量の低下など)を十分抑制できる。これにより、樹脂成形体の耐衝撃強度及び耐熱性を長期に亘って高水準で維持できる優れたリサイクル性を達成することが可能となる。
【0026】
本発明の第2の樹脂組成物により上述の効果が奏される理由としては以下のとおり本発明者らは推察する。先ず、上記共重合体の低温流動性は、共重合体に導入された上記式(III)で表わされるリグノフェノール化合物から誘導される構造と上記式(IV)で表される脂肪族ポリエステル化合物から誘導されるブロック構造との組み合わせにより発現したものと考えられる。すなわち、脂肪族ポリエステル化合物のみであると低温でガラス状態にあるが、特定の大きさを有する上記リグノフェノール化合物から誘導される構造が脂肪族ポリエステル化合物から誘導されるブロック構造間に組み込まれることで流動核となる部分ができ、低温での流動性が発現したものと考えられる。また、ランダム共重合体ではその耐衝撃強度及び耐熱性ともに2成分の加成性が成り立つ傾向があるのに対して、ブロック共重合体では一方の成分に起因する特性が共重合体の特性として発現できることから、上記式(III)で表わされるリグノフェノール化合物から誘導される構造に起因する高水準の耐衝撃強度及び耐熱性が上記共重合体に付与され、その結果、樹脂成形体の耐衝撃強度及び耐熱性を高水準で達成できたものと考えられる。
【0027】
本発明の第2の樹脂組成物において、上記共重合体の重量平均分子量が、ポリスチレン換算で10000以上500000以下であることが好ましい。かかる重量平均分子量が10000未満であると、形成される樹脂成形体の耐衝撃強度が低下する傾向があり、500000を越えると、樹脂組成物の流動性が低下するため、室温成形によって複雑な形状の樹脂成形体を製造することが困難となる傾向がある。
【0028】
また、樹脂組成物の低温成形性をより向上させる観点から、上記共重合体の含有量が、樹脂組成物全量を基準として50質量%以上であることが好ましい。
【0029】
また、本発明の第2の樹脂組成物は、難燃剤を更に含むことが好ましい。この場合、植物度、耐衝撃強度及び耐熱性を十分有しながら難燃性を高水準で達成する樹脂成形体を得ることができる。
【0030】
また、本発明は、下記一般式(I)で表される構造及び下記一般式(II)で表される構造を有する共重合体を含有することを特徴とする樹脂成形体を提供する。
【0031】
【化5】



式(I)中、X及びXはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシ基を示し、X及びXはそれぞれ独立に水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のアルコキシ基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシカルボニル基を示し、a及びbはそれぞれ独立に1〜4の整数を示し、nは1〜10の整数を示す。
【0032】
【化6】



式(II)中、Rは直鎖型若しくは分岐型のアルキレン基を示し、mは10以上の整数を示す。
【0033】
かかる樹脂成形体によれば、上記共重合体を含有することから、植物度、耐衝撃強度及び耐熱性のすべてを高水準で達成することができる。
【0034】
また、本発明は、下記一般式(III)で表されるリグノフェノール化合物と下記一般式(IV)で表される脂肪族ポリエステル化合物とを反応させて得られる共重合体を含有することを特徴とする樹脂成形体を提供する。
【0035】
【化7】



式(III)中、X11及びX12はそれぞれ独立に水素原子、水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシ基を示し、X13及びX14はそれぞれ独立に水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のアルコキシ基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシカルボニル基を示し、c及びdはそれぞれ独立に1〜4の整数を示し、kは1〜10の整数を示す。
【0036】
【化8】



[式(IV)中、R11は直鎖型若しくは分岐型のアルキレン基を示し、jは10以上の整数を示す。]
【0037】
かかる樹脂成形体によれば、上記共重合体を含有することから、植物度、耐衝撃強度及び耐熱性のすべてを高水準で達成することができる。
【0038】
また、本発明は、上記本発明の第1の樹脂組成物又は第2の樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする樹脂成形体を提供する。かかる樹脂成形体によれば、上記本発明の樹脂組成物を用いていることから、植物度、耐衝撃強度及び耐熱性のすべてを高水準で達成することができる。
【0039】
本発明の樹脂成形体は、植物度、耐衝撃強度及び耐熱性のすべてを高水準で達成することができ、さらにはリサイクル性にも優れていることから、事務機器部品であることが好ましい。
【0040】
また、本発明は、上記本発明の樹脂成形体が一部又は全部に用いられたことを特徴とする筐体を提供する。かかる筐体によれば、耐衝撃強度及び耐熱性を十分有しつつ高い植物度及び優れたリサイクル性を有することから、環境負荷の低減を有効に実現できる。
【0041】
また、本発明は、上記本発明の第1の樹脂組成物又は第2の樹脂組成物を、温度40℃以下、圧力10−3Pa以上の条件下で射出成形又は押出成形することを特徴とする樹脂成形体の製造方法を提供する。
【0042】
本発明の樹脂成形体の製造方法によれば、本発明の樹脂組成物を用いることにより、成形時の樹脂の劣化を十分に抑制しつつ射出成形または押出成形を良好に行うことができるので、植物度が高く、且つ、極めて高い耐衝撃強度及び耐熱性を有する樹脂成形体を製造することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明よれば、樹脂成形体の植物度を十分高めることができるとともに、耐衝撃強度及び耐熱性が十分である樹脂成形体の製造を可能とする樹脂組成物、及び、それを用いて得られる樹脂成形体、筐体、並びに、樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0045】
<樹脂組成物>
本実施形態の第1の樹脂組成物は、下記一般式(I)で表される構造及び下記一般式(II)で表される構造を有する共重合体を含有する。
【0046】
【化9】



式(I)中、X及びXはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシ基を示し、X及びXはそれぞれ独立に水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のアルコキシ基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシカルボニル基を示し、a及びbはそれぞれ独立に1〜4の整数を示し、nは1〜10の整数を示す。
【化10】



式(II)中、Rは直鎖型若しくは分岐型のアルキレン基を示し、mは10以上の整数を示す。
【0047】
上記一般式(I)で表される構造の具体例としては、下記(N−1)〜(N−14)の構造式で示されるものが挙げられる。
【0048】
【表1】



【0049】
【表2】



【0050】
また、上記一般式(II)で表される構造の具体例としては、下記(M−1)〜(M−10)の構造式で示されるものが挙げられる。
【0051】
【表3】



【0052】
本実施形態の第1の樹脂組成物に含まれる上記共重合体は、低温での流動性を向上させる観点から、上記一般式(I)中のnが1〜5であるものが好ましい。また、上記共重合体は、低温流動性及び成形体の機械強度を向上させる観点から、上記一般式(II)中のmが10〜1000000であるものが好ましく、10〜10000であるものが好ましい。
【0053】
また、本実施形態の第1の樹脂組成物において、上記一般式(I)中のn及び上記一般式(II)中のmが下記式(A)を満たす共重合体を含むことが好ましい。
10≧(m/n)≧10000 ・・・(A)
【0054】
上記(m/n)が10未満である場合、樹脂組成物の低温成形性が発現しにくくなる。一方、上記(m/n)が10000を超える場合も樹脂組成物の低温成形性が発現しにくくなる。樹脂組成物が上記式(A)を満たす共重合体を含むことにより、耐衝撃強度及び耐熱性に優れた樹脂成形体をより確実に製造することが可能となる。また、樹脂成形体のリサイクル性をより向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態の第1の樹脂組成物において、上記共重合体が、上記一般式(II)で表される構造としてポリ乳酸から誘導された上記(M−1)で示される構造を有するものであることが好ましい。この場合、特に優れた低温流動性を得ることができる。
【0056】
また、上記共重合体の重量平均分子量は標準ポリスチレン換算で10000〜500000であることが好ましく、20000〜200000であることがより好ましい。重量平均分子量が10000未満であると、形成される樹脂成形体の耐衝撃強度が低下しすぎる傾向があり、500000を越えると、樹脂組成物の流動性が低下するため、室温成形によって複雑な形状の樹脂成形体を製造することが困難となる傾向がある。
【0057】
上記共重合体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
本実施形態の第1の樹脂組成物において上記共重合体の含有量は、樹脂組成物全量を基準として50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。上記共重合体の含有量が50質量%未満であると、樹脂組成物の低温成形性が発現しにくくなる。
【0059】
本実施形態の第2の樹脂組成物は、下記一般式(III)で表されるリグノフェノール化合物と下記一般式(IV)で表される脂肪族ポリエステル化合物とを反応させて得られる共重合体を含有する。
【0060】
【化11】



式(III)中、X11及びX12はそれぞれ独立に水素原子、水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシ基を示し、X13及びX14はそれぞれ独立に水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のアルコキシ基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシカルボニル基を示し、c及びdはそれぞれ独立に1〜4の整数を示し、kは1〜10の整数を示す。
【0061】
【化12】



式(IV)中、R11は直鎖型若しくは分岐型のアルキレン基を示し、jは10以上の整数を示す。
【0062】
上記一般式(III)で表されるリグノフェノール化合物の具体例としては、下記(K−1)〜(K−14)の構造式で示されるものが挙げられる。
【0063】
【表4】



【0064】
【表5】



【0065】
上記(K−1)〜(K−14)の構造式で示されるリグノフェノール化合物は、市販品又は公知の方法により合成したものを使用できる。
【0066】
また、上記一般式(IV)で表される脂肪族ポリエステル化合物の具体例としては、下記(J−1)〜(J−10)の構造式で示されるものが挙げられる。
【0067】
【表6】



【0068】
上記(J−1)〜(J−10)の構造式で示される脂肪族ポリエステル化合物は、市販品又は公知の方法により合成したものを使用できる。
【0069】
上記一般式(III)で表されるリグノフェノール化合物と上記一般式(IV)で表される脂肪族ポリエステル化合物との反応は、例えば、テトラブトキシチタンなどの触媒化合物の存在下、温度100〜200℃に加熱することにより進行させることができる。また、かかる反応は、0.0001〜10Paの真空度又は圧力を保ち、2〜10時間撹拌することにより行うことが好ましい。更に、得られた反応物をテトラヒドロフランなどの溶媒に溶解させ、この溶液をメタノールなどの貧溶媒中に滴下することにより本実施形態に係る共重合体を得ることができる。また、これと同様にすれば、上述の本実施形態の第1の樹脂組成物に含まれる共重合体も合成することができる。
【0070】
本実施形態の第2の樹脂組成物に含まれる上記共重合体は、低温流動性を向上させる観点から、上記一般式(III)中のkが1〜5であるリグノフェノール化合物を脂肪族ポリエステル化合物と反応させて得られたものであることが好ましい。また、上記共重合体は、低温流動性を向上させる観点から、上記一般式(IV)中のjが10〜100000である脂肪族ポリエステル化合物をリグノフェノール化合物と反応させて得られたものであることが好ましく、上記一般式(IV)中のjが10〜10000である脂肪族ポリエステル化合物をリグノフェノール化合物と反応させて得られたものであることがより好ましい。
【0071】
また、本実施形態の第2の樹脂組成物において、上記一般式(III)中のk及び上記一般式(IV)中のjが下記式(B)を満たす脂肪族ポリエステル化合物とリグノフェノール化合物とを反応させて得られた共重合体を含むことが好ましい。
10000≧(j/k)≧10 ・・・(B)
【0072】
上記(j/k)が10未満である場合、樹脂組成物の低温成形性が発現しにくくなる。一方、上記(j/k)が10000を超える場合も樹脂組成物の低温成形性が発現しにくくなる。樹脂組成物が上記式(B)を満たす共重合体を含むことにより、耐衝撃強度及び耐熱性に優れた樹脂成形体をより確実に製造することが可能となる。また、樹脂成形体のリサイクル性をより向上させることができる。
【0073】
本実施形態の第2の樹脂組成物に含まれる上記共重合体は、重量平均分子量が500〜100000の範囲内にある上記一般式(III)で表されるリグノフェノール化合物と、重量平均分子量が2000〜1000000の範囲内にある上記一般式(IV)で表される脂肪族ポリエステル化合物とを反応させて得られたものであることが好ましい。なお、リグノフェノール化合物及び脂肪族ポリエステル化合物が高分子量の重合体である場合、上記重量平均分子量として標準ポリスチレン換算の値を採用することができる。
【0074】
また、本実施形態の第2の樹脂組成物に含まれる上記共重合体は、上記一般式(III)で表されるリグノフェノール化合物の重量平均分子量をM、上記一般式(IV)で表される脂肪族ポリエステル化合物の重量平均分子量をMとした場合に、下記式(C)を満たすリグノフェノール化合物と脂肪族ポリエステル化合物とを反応させて得られたものであることが好ましい。
0.25≧(M/M)≧0.00001 ・・・(C)
【0075】
また、本実施形態の第2の樹脂組成物に含まれる上記共重合体は、上記一般式(IV)で表される脂肪族ポリエステル化合物として上記(J−1)で示されるポリ乳酸を用いて得られたものであることが好ましい。この場合、より良好な低温流動性を得ることができる。
【0076】
また、上記共重合体の重量平均分子量は標準ポリスチレン換算で10000〜500000であることが好ましく、20000〜200000であることがより好ましい。重量平均分子量が10000未満であると、形成される樹脂成形体の耐衝撃強度が低下しすぎる傾向があり、500000を越えると、樹脂組成物の流動性が低下するため、室温成形によって複雑な形状の樹脂成形体を製造することが困難となる傾向がある。
【0077】
上記共重合体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
本実施形態の第2の樹脂組成物において上記共重合体の含有量は、樹脂組成物全量を基準として50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。上記共重合体の含有量が50質量%未満であると、樹脂組成物の低温成形性が発現しにくくなる。
【0079】
本実施形態の第1及び第2の樹脂組成物を特に家電製品や事務機器を構成する樹脂成形体の材料として用いる場合には、これらの樹脂成形体には極めて高い難燃性が要求される。要求される難燃性のレベルは製品によって異なるが、概ねUL94規格におけるV−2相当以上の難燃性が要求されることが多い。本実施形態の第1及び第2の樹脂組成物においては、難燃剤を添加することにより高水準の難燃性を達成することができる。
【0080】
一般的に難燃剤として最も効果が高いと言われているのが臭素系難燃剤である。しかし、臭素系難燃剤は燃焼時に有毒ガスを発生する可能性があることから、環境負荷の点で好ましくない。一方、リン系、シリコーン系、及び、無機粒子系の難燃剤は環境負荷が小さく好ましいが、従来、高分子材料との相溶性が悪いなどの理由から、ブリードを起こしたり、機械強度の低下を招いたり、特にリン系難燃剤は加水分解性が高いといったような課題があった。そのため、従来、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルを含む樹脂組成物及びそれを用いた樹脂成形体において、難燃性と機械強度との両立を果たすことは極めて難しかった。
【0081】
これに対して、本実施形態の樹脂組成物によれば、難燃剤を更に含有させることにより、植物度、耐衝撃強度及び耐熱性を十分有しながら難燃性を高水準で達成する樹脂成形体を得ることができる。
【0082】
本実施形態の樹脂組成物に用いられる好適な難燃剤としては、ポリリン酸メラミン、縮合リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウムなどのリン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物等が挙げられる。
【0083】
本実施形態の樹脂組成物において、難燃剤の含有量は、樹脂組成物全量を基準として1〜50質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましい。難燃剤の含有量が1質量%未満であると、難燃性が十分に得られにくくなる傾向があり、50質量%を越えると、成形体の機械強度が低下する傾向がある。
【0084】
本実施形態の樹脂組成物は、上述した各成分以外に更に他の添加剤を含有していてもよい。かかる添加剤としては、例えば、相溶化剤、強化剤、酸化防止剤、耐候剤、耐加水分解防止剤等が挙げられる。これらの添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、樹脂組成物全量を基準としてそれぞれ10質量%以下であることが好ましい。
【0085】
以上説明した本実施形態の樹脂組成物によれば、バイオマスを高い濃度で含有でき、耐衝撃強度などの機械強度が高く、耐熱性も高い樹脂成形体を形成することができる。また、樹脂組成物が難燃剤を含む場合には、植物度が高く低環境負荷であり、耐衝撃強度及び耐熱性に優れ、且つ、高水準(UL−V2レベル以上)の難燃性を有する樹脂成形体の製造が可能となる。また、本実施形態の樹脂組成物によれば、後述する低温成形により上述の優れた特性を有する樹脂成形体を製造することが可能であることから、リサイクル性に極めて優れた樹脂成形体を得ることができる。このように本実施形態の樹脂組成物は、例えば、家電製品や事務機器の筐体、各種部品などを構成する樹脂成形体の材料に好適である。特に事務機器の筐体、各種部品はリサイクル材料の使用率が高いため、本実施形態の樹脂組成物が好適に使用される対象である。
【0086】
<樹脂成形体>
次に、本発明の樹脂成形体について説明する。
【0087】
本実施形態の樹脂成形体は、上述した本実施形態の第1又は第2の樹脂組成物を成形して得られるものであり、例えば、本実施形態の樹脂組成物を、射出成形、射出圧縮成形、プレス成形、押出成形、ブロー成形、カレンダ成形、コーテイング成形、キャスト成形、ディッピング成形などの公知の方法により成形することで得られる。
【0088】
本実施形態の樹脂成形体の用途は特に制限されないが、具体例として、例えば、家電製品や事務機器などの筐体又はそれらの各種部品、ラッピングフィルム、CD−ROMやDVDなどの収納ケース、食器類、食品トレイ、飲料ボトル、薬品ラップ材などが挙げられる。
【0089】
また、本実施形態の樹脂成形体は、上述の本実施形態の樹脂組成物を用いて成形されるため、後述する低温成形により製造可能である。このような樹脂成形体においては、植物度を十分に高くすることが可能であるとともに、極めて優れた耐衝撃強度及び耐熱性を達成できる。更に、本実施形態の樹脂成形体によれば、粉砕したものが低温成形可能であり、再成形時の加熱による樹脂の劣化(加水分解による分子量の低下など)を十分抑制できることから、成形体のリサイクル性を向上させることができる。従来、植物度を高くした樹脂成形体は、機械強度が低く、難燃性が極めて低いため家電製品や事務機器筐体には使用できず、用途が極めて限定されていた。また、リサイクルする場合には、高温で樹脂を流動させて成形する必要があるため、耐衝撃強度及び耐熱性の低下が大きかった。これに対し、上記本実施形態の樹脂成形体は、植物度を高くした場合であっても、十分な機械強度と十分な難燃性とを得ることができ、さらにはリサイクルする場合でも耐衝撃強度及び耐熱性の低下を十分抑制することができるので、家電製品や事務機器の筐体の一部又は全部、家電製品や事務機器の各種部品などに好適に用いられる。特に事務機器の筐体、各種部品はリサイクル材料の使用率が高いため、本実施形態の樹脂成形体が好適に使用される対象である。
【0090】
<樹脂成形体の製造方法>
次に、本発明の樹脂成形体の製造方法の好適な実施形態を説明する。
【0091】
本実施形態の樹脂成形体の製造方法は、上述の本実施形態の樹脂組成物を低温成形する工程を備える。本実施形態において低温とは40℃以下の温度を意味する。
【0092】
低温成形は、射出成形又は押出成形によって行われることが好ましい。射出成形法により本実施形態の樹脂組成物を溶融成形せしめる場合、シリンダ内での圧力を10−3Pa以上、好ましくはかかる圧力を10−3Pa以上10−1Pa以下の範囲内とした条件下で、金型温度10〜100℃、シリンダ温度(最高温度)0〜40℃、射出時間10〜200秒、冷却時間5〜30秒で行うことが好ましく、金型温度15〜30℃、シリンダ温度(最高温度)5〜30℃、射出時間15〜35秒、冷却時間10〜20秒で行うことがより好ましい。なお、かかる金型温度、シリンダ温度はそれぞれ表面温度計、熱電対を用いて実際に測定される温度である。また、射出成形機は加圧が可能なものを用いるのが好ましい。
【0093】
押出成形法により本実施形態の樹脂組成物を成形せしめる場合、シリンダ内での圧力を10−3Pa以上、好ましくはかかる圧力を10−3Pa以上10−1Pa以下の範囲内とした条件下で、シリンダ内の温度(最高温度)0〜40℃で行うことが好ましく、15〜30℃で行うことがより好ましい。なお、かかるシリンダ内の温度は表面温度計、熱電対を用いて実際に測定される温度である。
【0094】
本実施形態の樹脂成形体の製造方法によれば、植物度を十分に高くすることが可能であるとともに極めて優れた耐衝撃強度及び耐熱性を有する樹脂成形体を製造することができる。
【0095】
本実施形態の樹脂成形体の製造方法においては、本実施形態の樹脂組成物が上記共重合体及び難燃剤を含む場合、共重合体と、難燃剤とを射出成形機に入れ、混練及び樹脂成形体の成形を連続して行う方法を用いることが好ましい。すなわち、樹脂組成物の各材料同士を混練して一旦ペレット化することなく、直接成形することが、消費電力及び製造効率の観点から好ましい。
【0096】
また、本実施形態の樹脂成形体の製造方法は樹脂成形体のリサイクル方法として利用することができる。すなわち、本実施形態の樹脂成形体のリサイクル方法は、本実施形態の樹脂成形体を粉砕し、その粉砕した樹脂成形体をそのまま低温成形する。低温成形は、上述の射出成形又は押出成形によって行われることが好ましい。
【0097】
図1は、本発明の樹脂成形体の一実施形態に係る筐体及び事務機器部品を備える画像形成装置を、前側から見た外観斜視図である。図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、ユーザーが装置内にアクセスできるよう開閉可能となっている。これにより、ユーザーは、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内でジャムが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりすることができる。図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0098】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件がユーザーからの操作によって入力される操作パネル130、及び、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を自動的に搬送することができる自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置及び制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱可能なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって可能となる。
【0099】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーを補充することができる。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0100】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部近傍に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙トレイ136が備えられており、ここからも用紙を供給することができる。
【0101】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に当接する2個の定着ロールの間に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙トレイ136が設けられている側と反対側に排出トレイ138が複数備えられており、これらのトレイに画像形成後の用紙が排出される。
【0102】
本発明の樹脂成形体は、十分に高い耐衝撃強度、耐熱性及び難燃性を有しているため、上述したような電子写真装置の外装筐体(ハウジング)、筐体を構成する部材(フロントカバー、リアカバーなど)、及び、給紙トレイとして好適である。また、本発明の樹脂成形体は、リサイクル性にも優れていることから、特に、フロントカバー、トナーカートリッジなどとして好適である。
【実施例】
【0103】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0104】
<樹脂成形体の作製>
(実施例1)
下記一般式(1−1)で示される化合物(1−1)1質量部と、下記一般式(2−1)で示される化合物(2−1)(重合度が平均20となるように合成した後、液体クロマトグラフィ質量分析法にて重合度20に相当する化合物を分取して得られたもの)100質量部とを1Lの三口フラスコに入れ、さらにテトラブトキシチタン0.005質量部を加え、180℃に加熱した。次に、系内を撹拌しながら2時間かけて10−3Paまで減圧した。180℃の温度及び10−3Paの真空度を保ち、12時間撹拌し反応を行った。次に、得られた反応物10質量部を100質量部のテトラヒドロフランに溶解し、これを2000質量部のメタノール中に滴下し沈殿物を生じさせた。次に、生じた沈殿物をろ過により取得し、これを80℃で4時間乾燥させることにより共重合体を得た(収率90%)。共重合体の重量平均分子量は標準ポリスチレン換算値で69000であった。
【0105】
【化13】



【0106】
【化14】



【0107】
次に、上記で得られた共重合体を加圧可能に改造した射出成形機(日精樹脂工業社製、NEX−50)に投入し、窒素ガスにて10−2Paに加圧し、シリンダ温度及び金型温度をともに25℃に設定した条件で射出成形し、ISO多目的ダンベル試験片(ギャップ120mm×10mm×40mm)及び荷重たわみ温度試験片(1200mm×10mm×40mm)の2種類の樹脂成形体を得た。
【0108】
(実施例2)
実施例1における化合物(2−1)100質量部に代えて下記一般式(2−2)で示される化合物(2−2)(重合度が平均10となるように合成した後、液体クロマトグラフィ質量分析法にて重合度10に相当する化合物を分取して得られたもの)を50質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして、共重合体を得た(収率91%)。共重合体の重量平均分子量は標準ポリスチレン換算値で85000であった。
【0109】
【化15】



【0110】
次に、上記で得られた共重合体を実施例1と同様にして射出成形し、実施例2の樹脂成形体(ISO多目的ダンベル試験片及び荷重たわみ温度試験片)を得た。
【0111】
(実施例3)
実施例1における化合物(2−1)100質量部に代えて下記一般式(2−3)で示される化合物(2−3)(重合度が平均10000となるように合成した後、液体クロマトグラフィ質量分析法にて重合度10000に相当する化合物を分取して得られたもの)を50000質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして、共重合体を得た(収率89%)。共重合体の重量平均分子量は標準ポリスチレン換算値で59000であった。
【0112】
【化16】



【0113】
次に、上記で得られた共重合体を実施例1と同様にして射出成形し、実施例3の樹脂成形体(ISO多目的ダンベル試験片及び荷重たわみ温度試験片)を得た。
【0114】
(実施例4)
実施例1における化合物(1−1)1質量部に代えて下記一般式(1−2)で示される化合物(1−2)を1質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして、共重合体を得た(収率95%)。共重合体の重量平均分子量は標準ポリスチレン換算値で35000であった。
【0115】
【化17】



【0116】
次に、上記で得られた共重合体を実施例1と同様にして射出成形し、実施例4の樹脂成形体(ISO多目的ダンベル試験片及び荷重たわみ温度試験片)を得た。
【0117】
(実施例5)
実施例1における化合物(1−1)1質量部に代えて下記一般式(1−3)で示される化合物(1−3)を1質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして、共重合体を得た(収率89%)。共重合体の重量平均分子量は標準ポリスチレン換算値で38000であった。
【0118】
【化18】



【0119】
次に、上記で得られた共重合体を実施例1と同様にして射出成形し、実施例5の樹脂成形体(ISO多目的ダンベル試験片及び荷重たわみ温度試験片)を得た。
【0120】
(実施例6)
実施例1における化合物(2−1)100質量部に代えて下記一般式(2−4)で示される化合物(2−4)(重合度が平均20となるように合成した後、液体クロマトグラフィ質量分析法にて重合度20に相当する化合物を分取して得られたもの)を100質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして、共重合体を得た(収率92%)。共重合体の重量平均分子量は標準ポリスチレン換算値で29000であった。
【0121】
【化19】



【0122】
次に、上記で得られた共重合体を実施例1と同様にして射出成形し、実施例6の樹脂成形体(ISO多目的ダンベル試験片及び荷重たわみ温度試験片)を得た。
【0123】
(比較例1)
ポリ乳酸(三井化学社製、商品名「レイシアH−100」)を、射出成形機(日精樹脂工業社製、NEX−50)に投入し、シリンダ温度180℃、金型温度30℃の条件で射出成形し、実施例1と同様の2種類の樹脂成形体(ISO多目的ダンベル試験片及び荷重たわみ温度試験片)を得た。
【0124】
(比較例2)
ポリ乳酸/ポリカーボネートアロイ樹脂(東レ社製、商品名「V554R10」)を、射出成形機(日精樹脂工業社製、NEX−50)に投入し、シリンダ温度220℃、金型温度40℃の条件で射出成形し、実施例1と同様の2種類の樹脂成形体(ISO多目的ダンベル試験片及び荷重たわみ温度試験片)を得た。
【0125】
上記で得られた実施例1〜6及び比較例1〜2の樹脂成形体について、以下の方法に基づいてシャルピー耐衝撃強度、荷重たわみ温度及びシャルピー耐衝撃強度の維持率を測定した。得られた結果を表7に示す。
【0126】
[シャルピー耐衝撃強度]
ISO多目的ダンベル試験片をノッチ加工したものを用い、ISO−179に規定の方法に従ってデジタル耐衝撃強度測定装置(東洋精機社製、DB−C)によりシャルピー耐衝撃強度(kJ/m)を測定した。
【0127】
[荷重たわみ温度]
荷重たわみ温度試験片を用い、ISO−360に規定の方法に従ってHDT測定装置(東洋精機社製、標準モデル)により荷重0.45MPaの条件で荷重たわみ温度(℃)を測定した。
【0128】
[シャルピー耐衝撃強度の維持率]
得られたISO多目的ダンベル試験片を粉砕する工程と、粉砕したものを試験片が成形された条件で射出成形して試験片を得る工程とを5回繰り返した。5回目に得られたISO多目的ダンベル試験片をノッチ加工したものを用い、ISO−179に規定の方法に従ってデジタル耐衝撃強度測定装置(東洋精機社製、DB−C)によりシャルピー耐衝撃強度(kJ/m)を測定した。そして、樹脂成形体のリサイクル特性として、下記式により定義されるシャルピー耐衝撃強度維持率(%)を求めた。
シャルピー耐衝撃強度維持率(%)=[5回目に得られたISO多目的ダンベル試験片のシャルピー耐衝撃強度(kJ/m)]/[はじめに得られたISO多目的ダンベル試験片のシャルピー耐衝撃強度(kJ/m)]×100
【0129】
【表7】



【0130】
表7に示されるように、本発明に係る実施例1〜6の樹脂成形体は、バイオマスを98質量%以上含むものでありながら、従来のブレンド系樹脂材料から製造された比較例1及び2の樹脂成形体に比べて耐衝撃強度及び耐熱性が十分優れていることが確認された。また、実施例1〜6の樹脂成形体は、繰り返し成形されても十分な耐衝撃強度を維持しており、リサイクル性にも優れていることが確認された。
【0131】
<フロントカバーの作製>
(実施例7)
実施例1と同様にして得られた共重合体10質量部と、ポリリン酸メラミン(三和ケミカル社製、商品名「MPP−B」)3質量部とを、加圧可能に改造した射出成形機(日精樹脂工業社製、NEX−50)に投入し、実施例1と同様の圧力、シリンダ温度及び金型温度で射出成形し、カラー複合機(富士ゼロックス社製、DocuCentre Color500)のフロントカバーを成形した。
【0132】
(実施例8〜12)
実施例8〜12のそれぞれについて、実施例7における共重合体に代えて実施例2〜6と同様にして得られた共重合体をそれぞれ用いたこと以外は実施例7と同様にして、フロントカバーをそれぞれ成形した。
【0133】
(比較例3)
ポリ乳酸(三井化学社製、商品名「レイシアH−100」)を、射出成形機(日精樹脂工業社製、NEX−50)に投入し、シリンダ温度180℃、金型温度30℃の条件で射出成形し、実施例7と同形状のフロントカバーを成形した。
【0134】
(比較例4)
ポリ乳酸/ポリカーボネートアロイ樹脂(東レ社製、商品名「V554R10」)を、射出成形機(日精樹脂工業社製、NEX−50)に投入し、シリンダ温度220℃、金型温度40℃の条件で射出成形し、実施例7と同形状のフロントカバーを成形した。
【0135】
上記で得られた実施例7〜12及び比較例3〜4のフロントカバーについて、以下の方法に基づいて面衝撃強度、難燃性及び面衝撃強度維持率を測定した。得られた結果を表8に示す。
【0136】
[面衝撃強度]
フロントカバーを用い、シートインパクタテスタ(東洋精機社製、H−100)によりシリンダ速度1000mm/minの条件で面衝撃強度(J)を測定した。
【0137】
[難燃性]
フロントカバーからUL試験片(厚さ2mm)を切り出し、このUL試験片を用いて、JIS Z2391に従い垂直燃焼試験によりUL94―V燃焼試験を実施した。
【0138】
[面衝撃強度維持率]
得られたフロントカバーを粉砕する工程と、粉砕したものをフロントカバーが成形された条件で射出成形してフロントカバーを得る工程とを5回繰り返した。5回目に得られたフロントカバーを用い、シートインパクタテスタ(東洋精機社製、H−100)によりシリンダ速度1000mm/minの条件で面衝撃強度(J)を測定した。そして、フロントカバーのリサイクル特性として、下記式により定義される面衝撃強度維持率(%)を求めた。
面衝撃強度維持率(%)=[5回目に得られたフロントカバーの面衝撃強度(J)]/[はじめに得られたフロントカバーの面衝撃強度(J)]×100
【0139】
【表8】



【0140】
表8に示されるように、本発明に係る実施例7〜12の事務機器部品(フロントカバー)は、従来のブレンド系樹脂材料から製造された比較例3及び4の事務機器部品よりも高い面衝撃強度を有し、且つ、優れた難燃性を有していることが確認された。よって本発明の樹脂組成物によれば、樹脂成形体における難燃性と機械強度の双方を両立させることが可能であることが分かった。また、実施例7〜12の事務機器部品(フロントカバー)は、繰り返し成形されても十分な面衝撃強度を維持しており、リサイクル性にも優れていることが確認された。

【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明の樹脂成形体の一実施形態に係る筐体及び事務機器部品を備える画像形成装置の外観斜視図である。
【符号の説明】
【0142】
100…画像形成装置、110…本体装置、120a,b…フロントカバー、136…用紙トレイ、138…排出トレイ、142…プロセスカートリッジ、150,152…筐体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される構造及び下記一般式(II)で表される構造を有する共重合体を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【化1】



[式(I)中、X及びXはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシ基を示し、X及びXはそれぞれ独立に水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のアルコキシ基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシカルボニル基を示し、a及びbはそれぞれ独立に1〜4の整数を示し、nは1〜10の整数を示す。]
【化2】



[式(II)中、Rは直鎖型若しくは分岐型のアルキレン基を示し、mは10以上の整数を示す。]
【請求項2】
下記一般式(III)で表されるリグノフェノール化合物と下記一般式(IV)で表される脂肪族ポリエステル化合物とを反応させて得られる共重合体を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【化3】



[式(III)中、X11及びX12はそれぞれ独立に水素原子、水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシ基を示し、X13及びX14はそれぞれ独立に水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のアルコキシ基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシカルボニル基を示し、c及びdはそれぞれ独立に1〜4の整数を示し、kは1〜10の整数を示す。]
【化4】



[式(IV)中、R11は直鎖型若しくは分岐型のアルキレン基を示し、jは10以上の整数を示す。]
【請求項3】
下記一般式(I)で表される構造及び下記一般式(II)で表される構造を有する共重合体を含有することを特徴とする樹脂成形体。
【化5】



[式(I)中、X及びXはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシ基を示し、X及びXはそれぞれ独立に水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のアルコキシ基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシカルボニル基を示し、a及びbはそれぞれ独立に1〜4の整数を示し、nは1〜10の整数を示す。]
【化6】



[式(II)中、Rは直鎖型若しくは分岐型のアルキレン基を示し、mは10以上の整数を示す。]
【請求項4】
下記一般式(III)で表されるリグノフェノール化合物と下記一般式(IV)で表される脂肪族ポリエステル化合物とを反応させて得られる共重合体を含有することを特徴とする樹脂成形体。
【化7】



[式(III)中、X11及びX12はそれぞれ独立に水素原子、水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシ基を示し、X13及びX14はそれぞれ独立に水酸基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のアルコキシ基、又は、置換若しくは未置換のアルコキシカルボニル基を示し、c及びdはそれぞれ独立に1〜4の整数を示し、kは1〜10の整数を示す。]
【化8】



[式(IV)中、R11は直鎖型若しくは分岐型のアルキレン基を示し、jは10以上の整数を示す。]
【請求項5】
請求項1または2に記載の樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項6】
請求項1または2に記載の樹脂組成物を、温度40℃以下、圧力10−3Pa以上の条件下で射出成形又は押出成形することを特徴とする樹脂成形体の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−50445(P2008−50445A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226957(P2006−226957)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】