説明

樹脂組成物およびそれを用いた多層構造体

【課題】 特別な添加剤を添加することなしに回収層に発生するヤケや目やにの発生が抑制された樹脂組成物およびそれを用いた多層構造体を提供すること。
【解決手段】 1,2−グリコール結合を有する構造単位を含有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)とポリオレフィン、ポリスチレンから選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)を含有してなる樹脂組成物及び該樹脂組成物を含有する層を有する多層構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)および特定の熱可塑性樹脂(B)からなる樹脂組成物、およびそれを用いた多層構造体に関し、さらに詳しくは、樹脂組成物が多層構造体の回収材であって、特別な添加剤を添加することなしにヤケや目やにの発生を抑制することできる樹脂組成物、および該樹脂組成物層を有する外観性が良好な多層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略する)は、透明性、ガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性などに優れており、かかる特性を生かして、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料に用いられており、一般的に、EVOHの機械的特性や耐湿性を補うことを目的に他の熱可塑性樹脂と積層され多層構造体として使用されることが多く、特にポリオレフィン系樹脂やポリスチレンと積層されて多く使用されている。しかし、これらの多層構造体では容器やボトル等に成形される際に、クズやライナー、端部、不良品等が発生し、これらの粉砕物が再度回収層として使用されている。しかし、この回収層には多層構造体の各層の成分を含有したブレンド物となっており、特にEVOHとポリオレフィン系樹脂やポリスチレンとの回収層においては、しばしばヤケや目やにといった樹脂の劣化物が回収層内に混入し、容器としての商品価値を著しく損なうという欠点を有していた。
かかる問題点を解決する方法として、回収層に添加される専用の添加剤が考えられており、ハイドロタルサイトやハイドロタルサイト固溶体を使用した添加剤が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【特許文献1】特開昭60−199040号公報
【特許文献2】特開昭62−11748号公
【特許文献3】特開平1−178543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の方法では、特殊な添加剤を添加することによるコストアップをさけることができず、また、添加剤のベースとなる樹脂についても回収層との相溶性を良好とするには回収層のベースとなる樹脂に合わせる必要があることから、回収層のベースの樹脂に合わせた添加剤を準備する必要があり、また添加量に関しても、添加剤を多量に添加した場合、逆に外観性が低下する等の問題があり、添加量を厳密にコントロールする必要があることが判明した。以上のことから、このような特殊な添加剤を添加することなく、回収層特有の問題である、ヤケや目やにの発生が抑制された回収層に用いられる樹脂組成物および、該樹脂組成物層を少なくとも1層とする多層構造体が望まれるところである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者は、かかる現況に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、下記の構造単位(1)を含有するEVOH(A)とポリオレフィン、ポリスチレンから選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)からなる樹脂組成物が上記の目的に合致することを見出して本発明を完成するに至った。
【化1】

(ここで、Xは結合鎖であってエーテル結合を除く任意の結合鎖で、R1〜R4はそれぞれ独立して任意の置換基であり、nは0または1を表す。)
また、本発明においては、構造単位(1)は共重合によりEVOHの主鎖に導入されていること、構造単位(1)の含有量がEVOH中に0.1〜30モル%であること、さらに樹脂組成物が多層構造体の回収材であること等が好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の樹脂組成物は、EVOHとポリオレフィン、ポリスチレンから選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなり、かつEVOHが特定の構造単位を有しているため、ヤケや目やにの発生が抑制され、外観性が良好な多層構造体を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明で用いられるEVOH(A)は、上記の構造単位(1)、すなわち1,2−グリコール結合を有する構造単位を含有するEVOHであって、その分子鎖と1,2−グリコール結合構造とを結合する結合鎖(X)に関しては、エーテル結合を除くいずれの結合鎖を適用することも可能で、その結合鎖としては特に限定されないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレンの他、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−CO−、−COCO−、−CO(CH2mCO−、−CO(C64)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO4−、−Si(OR)2−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−、−Ti(OR)2−、−OTi(OR)2−、−OTi(OR)2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等があげられるが(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)、エーテル結合は溶融成形時に分解し、樹脂組成物の熱溶融安定性が低下する点で好ましくない。その中でも熱溶融安定性の点では結合種としてはアルキレンが好ましく、さらには炭素数が5以下のアルキレンが好ましい。また、樹脂組成物のガスバリア性能が良好となる点で、炭素数はより少ないものが好ましく、n=0である1,2−グリコール結合構造が直接、分子鎖に結合している構造が最も好ましい。また、R1〜R4に関しては任意の置換基であり、とくに限定されないが水素原子、アルキル基がモノマーの入手が容易である点で好ましく、さらには水素原子が樹脂組成物のガスバリア性が良好である点で好ましい。
【0007】
上記のEVOHの製造方法については特に限定されないが、最も好ましい構造である主鎖に直接1,2−グリコール結合構造を結合した構造単位を例とすると、3,4−ジオール−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法、4−アシロキシ−3−オール−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法、およびビニルエチレンカーボネート、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化、脱炭酸する方法があげられる。また、結合鎖(X)としてアルキレンを有するものとしては4,5−ジオール−1−ペンテンや4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジオール−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン等とビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法が挙げられるが、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法が共重合反応性に優れる点で好ましく、さらには3,4−ジアシロキシ−1−ブテンとして、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを用いることが好ましい。また、これらのモノマーの混合物を用いてもよい。また、少量の不純物として3,4−ジアセトキシ−1−ブタンや1,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−1−ブタン等を含んでいても良い。また、かかる共重合方法について以下に説明するが、これに限定されるものではない。
【0008】
なお、かかる3,4−ジオール−1−ブテンとは、下記(2)式、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンとは、下記(3)式、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテンは下記(4)式、4−アシロキシ−3−オール−1−ブテンは下記(5)式で示されるものである。
【化2】

【化3】

(ここで、Rはアルキル基であり、好ましくはメチル基である。)
【化4】

(ここで、Rはアルキル基であり、好ましくはメチル基である。)
【化5】

(ここで、Rはアルキル基であり、好ましくはメチル基である。)
なお、上記の(2)式で示される化合物は、イーストマンケミカル社から、上記(3)式で示される化合物はイーストマンケミカル社やアクロス社の製品を市場から入手することができる。
【0009】
また、ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0010】
3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマー及びエチレンを共重合するに当たっては、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、またはエマルジョン重合等の公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。
【0011】
共重合時のモノマー成分の仕込み方法としては特に制限されず、一括仕込み、分割仕込み、連続仕込み等任意の方法が採用される。
また、共重合体中にエチレンを導入する方法としては通常のエチレン加圧重合を行えばよく、その導入量はエチレンの圧力によって制御することが可能であり、目的とするエチレン含有量により一概にはいえないが、通常は25〜80kg/cm2の範囲から選択される。
【0012】
かかる共重合に用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的には、メタノールが好適に使用される。
溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの時は、S(溶媒)/M(モノマー)=0.01〜10(重量比)、好ましくは0.05〜7(重量比)程度の範囲から選択される。
【0013】
共重合に当たっては重合触媒が用いられ、かかる重合触媒としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やt−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、α,α’ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−iso−プロピルパーオキシジカーボネート]、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ジイソブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類などの低温活性ラジカル重合触媒等が挙げられ、重合触媒の使用量は、触媒の種類により異なり一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、アゾビスイソブチロニトリルや過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系モノマーに対して10〜2000ppmが好ましく、特には50〜1000ppmが好ましい。
また、共重合反応の反応温度は、使用する溶媒や圧力により40℃〜沸点の範囲から選択することが好ましい。
【0014】
本発明では、上記触媒とともにヒドロキシラクトン系化合物またはヒドロキシカルボン酸を共存させることが得られる樹脂組成物の色調を良好(無色に近づける)にする点で好ましく、該ヒドロキシラクトン系化合物としては、分子内にラクトン環と水酸基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、グルコノデルタラクトン等を挙げることができ、好適にはL−アスコルビン酸、エリソルビン酸が用いられ、また、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、サリチル酸等を挙げることができ、好適にはクエン酸が用いられる。
【0015】
かかるヒドロキシラクトン系化合物またはヒドロキシカルボン酸の使用量は、回分式及び連続式いずれの場合でも、ビニルエステル系モノマー100重量部に対して0.0001〜0.1重量部(さらには0.0005〜0.05重量部、特には0.001〜0.03重量部)が好ましく、かかる使用量が0.0001重量部未満では共存の効果が十分に得られないことがあり、逆に0.1重量部を超えるとビニルエステル系モノマーの重合を阻害する結果となって好ましくない。かかる化合物を重合系に仕込むにあたっては、特に限定はされないが、通常は低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等)やビニルエステル系モノマーを含む脂肪族エステル(酢酸メチル、酢酸エチル等)や水等の溶媒又はこれらの混合溶媒で希釈されて重合反応系に仕込まれる。
【0016】
なお、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン等の仕込み量は、所望される上記の構造単位(1)の導入量に合わせて決定すればよい。
【0017】
また、本発明では、上記の共重合時に本発明の効果を阻害しない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合していてもよく、かかる単量体としては、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類、ビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、グリセリンモノアリルエーテル、エチレンカーボネート等が挙げられる。
【0018】
さらに、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有単量体、アセトアセチル基含有単量体等も挙げられる。
【0019】
さらにビニルシラン類としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルイソブチルジメトキシシラン、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルメトキシジブトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメトキシジヘキシロキシシラン、ビニルジメトキシヘキシロキシシラン、ビニルトリヘキシロキシシラン、ビニルメトキシジオクチロキシシラン、ビニルジメトキシオクチロキシシラン、ビニルトリオクチロキシシラン、ビニルメトキシジラウリロキシシラン、ビニルジメトキシラウリロキシシラン、ビニルメトキシジオレイロキシシラン、ビニルジメトキシオレイロキシシラン等を挙げることができる。
【0020】
得られた共重合体は、次いでケン化されるのであるが、かかるケン化にあたっては、上記で得られた共重合体をアルコール又は含水アルコールに溶解された状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行われる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等が挙げられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の共重合体の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
【0021】
かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は通常、ビニルエステル系モノマー及び3,4−ジアシロキシ−1−ブテン等のモノマーの合計量に対して0.001〜0.1当量、好ましくは0.005〜0.05当量が適当である。かかるケン化方法に関しては目標とする鹸化度等に応じて、バッチ鹸化、ベルト上の連続鹸化、塔式の連続鹸化の何れも可能で、鹸化時のアルカリ触媒量の低減できることや鹸化反応が高効率で進み易い等の理由より、好ましくは、一定加圧下での塔式鹸化が用いられる。また、ケン化時の圧力は目的とするエチレン含有量により一概に言えないが、2〜7kg/cm2の範囲から選択され、このときの温度は80〜150℃、好ましくは100〜130℃から選択される。
【0022】
かくして、上記の構造単位(1)(1,2−グリコール結合を有する構造単位)を有するEVOHが得られるのであるが、本発明においては、得られたEVOHのエチレン含有量やケン化度は、特に限定されないが、エチレン含有量を10〜60モル%(さらには20〜50モル%、特には25〜48モル%)、ケン化度を90モル%以上(さらには95モル%以上)とすることが好ましく、該エチレン含有量が10モル%未満では得られる成形物の高湿時のガスバリア性や外観性が低下する傾向にあり、逆に60モル%を超えると成形物のガスバリア性が低下する傾向にあり、さらにケン化度が90モル%未満では成形物のガスバリア性や耐湿性等が低下する傾向にあり好ましくない。
【0023】
さらに、EVOH中に導入される1,2−グリコール結合を有する構造単位量としては特に制限はされないが、0.1〜50モル%(さらには0.5〜40モル%、特には1〜30モル%)が好ましく、かかる導入量が0.1モル%未満では本発明の効果が十分に発現されず、逆に50モル%を越えるとガスバリア性が低下する傾向にあり好ましくない。また、1,2−グリコール結合を有する構造単位量を調整するにあたっては、1,2−グリコール結合を有する構造単位の導入量の異なる少なくとも2種のEVOHをブレンドして調整することも可能であり、そのうちの少なくとも1種が1,2−グリコール結合を有する構造単位を有していなくても構わない。
このようにして1,2−グリコール結合量が調整されたEVOHに関しては、1,2−グリコール結合量は重量平均で算出しても差し支えなく、またそのエチレン含有量についても重量平均で算出させても差し支えないが、正確には後述する1H−NMRの測定結果より、エチレン含有量、1,2−グリコール結合量を算出することができる。
【0024】
さらには、本発明の目的を阻害しない範囲において、本発明に使用されるEVOHに酢酸、リン酸等の酸類やそのアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等の金属塩を添加させることが、ホウ素化合物としてホウ酸またはその金属塩を添加させることが樹脂の熱安定性を向上させる点で好ましい。
【0025】
酢酸の添加量としては樹脂組成物中のEVOH100重量部に対して0.001〜1重量部(さらには0.005〜0.2重量部、特には0.010〜0.1重量部)とすることが好ましく、かかる添加量が0.001重量部未満ではその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に1重量部を越えると得られる成形物の外観が悪化する傾向にあり好ましくない。
【0026】
また、ホウ酸金属塩としてはホウ酸カルシウム、ホウ酸コバルト、ホウ酸亜鉛(四ホウ酸亜鉛,メタホウ酸亜鉛等)、ホウ酸アルミニウム・カリウム、ホウ酸アンモニウム(メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等)、ホウ酸カドミウム(オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウム等)、ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等)、ホウ酸銀(メタホウ酸銀、四ホウ酸銀等)、ホウ酸銅(ホウ酸第2銅、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅等)、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)、ホウ酸鉛(メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛等)、ホウ酸ニッケル(オルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケル等)、ホウ酸バリウム(オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウム等)、ホウ酸ビスマス、ホウ酸マグネシウム(オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム等)、ホウ酸マンガン(ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガン等)、ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム等)などの他、ホウ砂、カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、スイアン石、ザイベリ石等のホウ酸塩鉱物などが挙げられ、好適にはホウ砂、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)があげられる。またホウ素化合物の添加量としては、組成物中の全EVOH100重量部に対してホウ素換算で0.001〜1重量部(さらには0.002〜0.2重量部、特には0.005〜0.1重量部)とすることが好ましく、かかる添加量が0.001重量部未満ではその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に1重量部を越えると得られる成形物の外観が悪化する傾向にあり好ましくない。
【0027】
また、かかる金属塩としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸や、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸等の無機酸の金属塩が挙げられ、好適には酢酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩である。また、該金属塩の添加量としては、樹脂組成物中のEVOH100重量部に対して金属換算で0.0005〜0.1重量部(さらには0.001〜0.05重量部、特には0.002〜0.03重量部)とすることが好ましく、かかる添加量が0.0005重量部未満ではその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に0.1重量部を超えると得られる成形物の外観が悪化する傾向にあり好ましくない。尚、EVOHに2種以上のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩を添加する場合は、その総計が上記の添加量の範囲にあることが好ましい。
【0028】
EVOH組成物に酸類やその金属塩を添加する方法については、特に限定されず、ア)含水率20〜80重量%のEVOHの多孔性析出物を、酸類やその金属塩の水溶液と接触させて、酸類やその金属塩を含有させる方法、イ)EVOHの均一溶液(水/アルコール溶液等)に酸類やその金属塩を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、次いで得られたストランドを切断してペレットとする方法、ウ)EVOHと酸類やその金属塩を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法、エ)樹脂組成物と酸類やその金属塩を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法、オ)EVOHの製造時において、ケン化工程で使用したアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を酢酸等の酸類で中和して、残存する酢酸等の酸類や副生成する酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属塩の量を水洗処理により調整したりする方法等を挙げることができる。本発明の効果をより顕著に得るためには、酸類やその金属塩の分散性に優れるア)、イ)またはオ)の方法が好ましい。
【0029】
上記ア)、イ)またはオ)の方法で得られたEVOH組成物に関しては乾燥が行われる。
かかる乾燥方法としては、種々の乾燥方法を採用することが可能である。例えば、実質的にペレット状のEVOHが、機械的にもしくは熱風により撹拌分散されながら行われる流動乾燥や、実質的にペレット状の樹脂組成物が、撹拌、分散などの動的な作用を与えられずに行われる静置乾燥が挙げられ、流動乾燥を行うための乾燥器としては、円筒・溝型撹拌乾燥器、円管乾燥器、回転乾燥器、流動層乾燥器、振動流動層乾燥器、円錐回転型乾燥器等が挙げられ、また、静置乾燥を行うための乾燥器として、材料静置型としては回分式箱型乾燥器が、材料移送型としてはバンド乾燥器、トンネル乾燥器、竪型乾燥器等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。流動乾燥と静置乾燥を組み合わせて行うことも可能である。
【0030】
該乾燥処理時に用いられる加熱ガスとしては空気または不活性ガス(窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等)が用いられ、該加熱ガスの温度としては、40〜150℃が、生産性と樹脂組成物の熱劣化防止の点で好ましい。該乾燥処理の時間としては、樹脂組成物の含水量やその処理量にもよるが、通常は15分〜72時間程度が、生産性と樹脂組成物の熱劣化防止の点で好ましい。
【0031】
また、上記のEVOH組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲において、多少のモノマー残査(3,4−ジオール−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテン、4−アシロキシ−3−オール−1−ブテン、4,5−ジオール−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジオール−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン、4,5−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン等)やモノマーのケン化物(3,4−ジオール−1−ブテン、4,5−ジオール−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジオール−1−ヘキセン等)を含んでいてもよい。
【0032】
また、本発明で使用されるEVOHは、構造単位(1)を含有するEVOHとこれと異なる他のEVOHのブレンド物であることもガスバリア性と耐圧性を良好とする点で好ましく、かかる他のEVOHとしては、構造単位が異なるもの、エチレン含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、分子量が異なるものなどを挙げることができる。
構造単位(1)を有するEVOHと構造単位が異なるEVOHとしては、例えばエチレン構造単位とビニルアルコール構造単位のみからなるEVOHや、EVOHの側鎖に2−ヒドロキシエトキシ基などの官能基を有する変性EVOHを挙げることができる。
また、エチレン含有量が異なるものを用いる場合、その構造単位は同じであっても異なっていても良いが、そのエチレン含有量差は1モル%以上(さらには2モル%以上、特には2〜20モル%)であることが好ましい。かかるエチレン含有量差が大きすぎると透明性が不良となる場合があり、好ましくない。また、異なる2種以上のEVOH(ブレンド物)の製造方法は特に限定されず、例えばケン化前のEVAの各ペーストを混合後ケン化する方法、ケン化後の各EVOHのアルコールまたは水とアルコールの混合溶媒に溶解させた溶液を混合する方法、各EVOHをペレット状、または粉体で混合した後、溶融混練する方法などが挙げられる。
【0033】
かくして得られたEVOH組成物のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)についても特に限定はされないが、0.1〜100g/10分(さらには0.5〜50g/10分、特には1〜30g/10分)が好ましく、該メルトフローレートが該範囲よりも小さい場合には、成形時に押出機内が高トルク状態となって押出加工が困難となる傾向にあり、また該範囲よりも大きい場合には、加熱延伸成形時の外観性やガスバリア性が低下する傾向にあり好ましくない。
【0034】
また、かかるEVOHに本発明の目的を阻害しない範囲において、飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、脂肪酸金属塩(例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10,000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等)などの滑剤、無機塩(例えばハイドロタルサイト等)、可塑剤(例えばエチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコールなど)、酸素吸収剤(例えば無機系酸素吸収剤として、還元鉄粉類、さらにこれに吸水性物質や電解質等を加えたもの、アルミニウム粉、亜硫酸カリウム、光触媒酸化チタン等が、有機化合物系酸素吸収剤として、アスコルビン酸、さらにその脂肪酸エステルや金属塩等、ハイドロキノン、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、ビス−サリチルアルデヒド−イミンコバルト、テトラエチレンペンタミンコバルト、コバルト−シッフ塩基錯体、ポルフィリン類、大環状ポリアミン錯体、ポリエチレンイミン−コバルト錯体等の含窒素化合物と遷移金属との配位結合体、テルペン化合物、アミノ酸類とヒドロキシル基含有還元性物質の反応物、トリフェニルメチル化合物等が、高分子系酸素吸収剤として、窒素含有樹脂と遷移金属との配位結合体(例:MXDナイロンとコバルトの組合せ)、三級水素含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例:ポリプロピレンとコバルトの組合せ)、炭素−炭素不飽和結合含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例:ポリブタジエンとコバルトの組合せ)、光酸化崩壊性樹脂(例:ポリケトン)、アントラキノン重合体(例:ポリビニルアントラキノン)等や、さらにこれらの配合物に光開始剤(ベンゾフェノン等)や過酸化物補足剤(市販の酸化防止剤等)や消臭剤(活性炭等)を添加したものなど)、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、充填材(例えば無機フィラー等)等を配合しても良い。
【0035】
また、本発明に使用される熱可塑性樹脂(B)としてはポリオレフィン、ポリスチレンから選ばれ、ポリオレフィンとしては特に限定されないが、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等から選ばれる。
【0036】
EVOH組成物(A)と熱可塑性樹脂(B)とを混合する方法については特に限定されないが、EVOH組成物(A)層と熱可塑性樹脂(B)層を含む多層構造体の回収材が粉砕されたものであることが、効率よく回収材を回収層として使用できる点で好ましく、これらの回収材は溶融混合によって再ペレット化されても良いし、その際に、未使用の熱可塑性樹脂(B)が添加されても良い。また、粉砕されたままの状態で多層構造体を製造する押出機に供されてもよい。
【0037】
EVOH組成物(A)と熱可塑性樹脂(B)とを混合割合については特に限定されないが、EVOH組成物(A)と熱可塑性樹脂(B)の重量比が0.1/99.9〜20/80であることが好ましく、かかる重量比が0.1/99.9未満では回収材を回収層として効率よく使用することができず、逆に20/80を超えると多層構造体の外観性が低下する傾向にあり好ましくない。
【0038】
また、さらに本発明の樹脂組成物には接着樹脂(C)が含有されていてもよく、該接着樹脂としては、特に限定されないが、付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を挙げることができ、具体的には、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−酢酸ビニル共重合体等から選ばれた1種または2種以上の混合物が好適なものとして挙げられる。このときの、熱可塑性樹脂に含有される不飽和カルボン酸又はその無水物の量は、0.001〜3重量%が好ましく、さらに好ましくは0.01〜1重量%、特に好ましくは0.03〜0.5重量%である。
かかる接着樹脂(C)の含有量は0.5〜30重量%が好ましく、さらに好ましくは1〜20重量%、特に好ましくは2〜10重量%で、0.5重量%未満では樹脂組成物層の透明性が低下する傾向にあり好ましくなく、30重量%を超えると樹脂組成物の熱安定性が低下する為好ましくない。
【0039】
かくして本発明の樹脂組成物が得られるわけであるが、かかる樹脂組成物は、成形物に有用で、特に溶融成形に有用でかかる溶融成形について以下に説明する。
成形物としては複層(積層)のフィルムやシート、容器、チューブ等を挙げることができ、他の基材と積層するときの積層方法としては、例えば本発明の樹脂組成物のフィルム、シート等に他の基材を溶融押出ラミネートする方法、逆に他の基材に該樹脂を溶融押出ラミネートする方法、該樹脂と他の基材とを共押出する方法、該樹脂(層)と他の基材(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法等が挙げられるが、多層構造体(積層体)が簡便に作成できる点で共押出する方法が好ましい。
【0040】
かかる共押出法としては、具体的には、マルチマニーホールドダイ法、フィードブロック法、マルチスロットダイ法、ダイ外接着法等の公知の方法を採用することができる。ダイスの形状としてはTダイス、丸ダイスが使用され、また溶融押出時の溶融成形温度は、150〜300℃が好ましい。
【0041】
かかる他の基材としては、ポリオレフィンまたはポリスチレンから選ばれる熱可塑性樹脂が有用で、ポリオレフィンとしては、前述のポリオレフィンが使用される。
【0042】
具体的な積層体の層構成としては、熱可塑性樹脂(B)層/本発明の樹脂組成物層/接着樹脂(C)層/EVOH組成物(A)層、熱可塑性樹脂(B)層/本発明の樹脂組成物層/接着樹脂(C)層/EVOH組成物(A)層/接着樹脂(C)層/熱可塑性樹脂(B)層、熱可塑性樹脂(B)層/本発明の樹脂組成物層/接着樹脂(C)層/EVOH組成物(A)層/接着樹脂(C)層/本発明の樹脂組成物層/熱可塑性樹脂(B)層や更には本発明の樹脂組成物層/接着樹脂(C)層/EVOH組成物(A)層、本発明の樹脂組成物層/接着樹脂(C)層/EVOH組成物(A)層/接着樹脂(C)層/EVOH組成物(A)層、本発明の樹脂組成物層/接着樹脂(C)層/EVOH組成物(A)層/接着樹脂(C)層/熱可塑性樹脂(B)層、本発明の樹脂組成物層/接着樹脂(C)層/EVOH組成物(A)層/本発明の樹脂組成物層/熱可塑性樹脂(B)層等が挙げられる。 また、ここでいう接着樹脂(C)層とは前述の接着樹脂が使用された層のことで、本発明の樹脂組成物はさらにこれらの回収材であることが好ましい。
【0043】
積層体の各層の厚みは、層構成、熱可塑性樹脂(B)の種類、用途や容器形態、要求される物性などにより一概に言えないが、通常は、EVOH組成物(A)層は2〜500μm(さらには3〜200μm)、熱可塑性樹脂(B)層は10〜5000μm(さらには30〜1000μm)、接着樹脂(C)層は1〜400μm(さらには2〜150μm)、本発明の樹脂組成物層は10〜5000μm(さらには30〜1000μm)程度の範囲から選択される。
【0044】
また、本発明の樹脂組成物層や熱可塑性樹脂層に従来知られているような酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を含んでいても良い。
【0045】
上記の如く得られた多層構造体は一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品、洗剤、香粧品等各種の容器として有用である。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明の方法を具体的に説明する。なお、以下「%」とあるのは、特にことわりのない限り、重量基準を意味する。
【0047】
重合例1
下記の方法によりEVOH組成物(A1)を得た。
冷却コイルを持つ1m3の重合缶に酢酸ビニルを500kg、メタノール35kg、アセチルパーオキシド500ppm(対酢酸ビニル)、クエン酸20ppm、および3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを14kgを仕込み、系を窒素ガスで一旦置換した後、次いでエチレンで置換して、エチレン圧が45kg/cm2となるまで圧入して、攪拌した後、67℃まで昇温して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを15g/分で全量4.5kgを添加しながら重合し、重合率が50%になるまで6時間重合した。その後、重合反応を停止してエチレン含有量38モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体を得た。
【0048】
該エチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液を棚段塔(ケン化塔)の塔上部より10kg/時の速度で供給し、同時に該共重合体中の残存酢酸基に対して、0.012当量の水酸化ナトリウムを含むメタノール溶液を塔上部より供給した。一方、塔下部から15kg/時でメタノールを供給した。塔内温度は100〜110℃、塔圧は3kg/cm2Gであった。仕込み開始後30分から、1,2−グリコール結合を有する構造単位を有するEVOHのメタノール溶液(EVOH30%、メタノール70%)が取出された。かかるEVOHの酢酸ビニル成分のケン化度は99.5モル%であった。
【0049】
次いで、得られた該EVOHのメタノール溶液をメタノール/水溶液調整塔の塔上部から10kg/時で供給し、120℃のメタノール蒸気を4kg/時、水蒸気を2.5kg/時の速度で塔下部から仕込み、塔頂部よりメタノールを8kg/時で留出させると同時に、ケン化で用いた水酸化ナトリウム量に対して6当量の酢酸メチルを塔内温95〜110℃の塔中部から仕込んで塔底部からEVOHの水/アルコール溶液(樹脂濃度35%)を得た。
【0050】
得られたEVOHの水/アルコール溶液を、孔径4mmのノズルより、メタノール5%、水95%よりなる5℃に維持された凝固液槽にストランド状に押し出して、凝固終了後、ストランド状物をカッターで切断し、直径3.8mm、長さ4mmの含水率45%のEVOHの多孔性ペレットを得た。
該多孔性ペレット100部に対して水100部で洗浄した後、0.032%のホウ酸及び0.007%のリン酸二水素カルシウムを含有する混合液中に投入し、30℃で5時間撹拌し、乾燥してEVOH組成物(A1)を得た。かかるペレットは、EVOH100重量部に対して、ホウ酸およびリン酸二水素カルシウムをそれぞれ0.015重量部(ホウ素換算)および0.005重量部(リン酸根換算)含有しており、MFRは4.0g/10分であった。
【0051】
また、1,2−グリコール結合の導入量は、ケン化前のエチレン−酢酸ビニル共重合体を1H−NMR(内部標準物質:テトラメチルシラン、溶媒:d6−DMSO)で測定して算出したところ、2.5モル%であった。なお、NMR測定には日本ブルカー社製「AVANCE DPX400」を用いた。
【化6】

【0052】
[1H−NMR](図1参照)
1.0〜1.8ppm:メチレンプロトン(図1の積分値a)
1.87〜2.06ppm:メチルプロトン
3.95〜4.3ppm:構造(I)のメチレン側のプロトン+未反応の3,4−ジア セトキシ−1−ブテンのプロトン(図1の積分値b)
4.6〜5.1ppm:メチンプロトン+構造(I)のメチン側のプロトン(図1の積 分値c)
5.2〜5.9ppm:未反応の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのプロトン(図1 の積分値d)
【0053】
[算出法]
5.2〜5.9ppmに4つのプロトンが存在するため、1つのプロトンの積分値はd/4、積分値bはジオールとモノマーのプロトンが含まれた積分値であるため、ジオールの1つのプロトンの積分値(A)は、A=(b−d/2)/2、積分値cは酢酸ビニル側とジオール側のプロトンが含まれた積分値であるため、酢酸ビニルの1つプロトンの積分値(B)は、B=1−(b−d/2)/2、積分値aはエチレンとメチレンが含まれた積分値であるため、エチレンの1つのプロトンの積分値(C)は、C=(a−2×A−2×B)/4=(a−2)/4と計算し、構造単位(1)の導入量は、100×{A/(A+B+C)} =100×(2×b−d)/(a+2)より算出した。
【0054】
また、ケン化後のEVOHに関しても同様に1H−NMR測定を行った結果を図2に示す。1.87〜2.06ppmのメチルプロトンに相当するピークが大幅に減少していることから、共重合された3,4−ジアセトキシ−1−ブテンもケン化され、1,2−グリコール構造となっていることは明らかである。
【0055】
重合例2
下記の方法によりEVOH組成物(A2)を得た。
重合例1においてメタノールの仕込量を20kgとし、ホウ酸を添加せずに、エチレン含有量が38モル%で、1,2−グリコール結合を有する構造単位の導入量が2.5モル%で、EVOH100重量部に対してリン酸二水素カルシウム0.005重量部(リン酸根換算)含有、乾燥後のMFRが4.8g/10分のEVOH組成物を得た。
【0056】
重合例3
下記の方法によりEVOH組成物(A3)を得た。
重合例1の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの代わりに3,4−ジアセトキシ−1−ブテンと3−アセトキシ−4−オール−1−ブテンと1,4−ジアセトキシ−1−ブテンの70:20:10の混合物を用いた以外は同様に行い、1,2−グリコール結合を有する構造単位の導入量が2.0モル%、エチレン含有量38モル%で、EVOH100重量部に対するホウ酸含有量0.015重量部(ホウ素換算)、リン酸二水素カルシウム0.005重量部(リン酸根換算)含有、乾燥後のMFRが3.7g/10分のEVOH組成物を得た。
【0057】
別途、構造単位(1)を含有しないエチレン含有量38モル%、ケン化度99.5モル%で、MFI=3.5g/分(210℃、2160g)、EVOH100重量部に対するホウ酸の含有量(ホウ素換算)0.015重量部、リン酸二水素カルシウム0.005重量部(リン酸根換算)含有のEVOH組成物(A4)を用意した。
【0058】
実施例1
EVOH組成物(A1)、熱可塑性樹脂(B)として日本ポリエチレン社製「ノバテックLD ZE41」(MFR=0.5,密度=0.922)、接着樹脂(C)として三菱化学社製「モディック−AP M533(MFR=2.5,密度=0.92)を使用して、共押出多層ダイレクトブロー成形機に供給して、内側から熱可塑性樹脂(B)/接着樹脂(C)/EVOH組成物(A1)/接着樹脂(C)/熱可塑性樹脂(B)/熱可塑性樹脂(B)=30/10/10/10/150/50μmの層厚みのボトル(多層中空容器:内容積約500cc、胴部の径80mm、高さ165mm)を得た。得られたボトルを粉砕したのち、同量の熱可塑性樹脂(B)を添加して、30mmφ二軸押出機(L/D=42)に供給し、210℃で溶融混練し、再ペレット化して本発明の樹脂組成物を得た。樹脂組成物中のEVOH組成物(A1)と熱可塑性樹脂(B)の重量比は2.5/97.5であった。また接着樹脂(C)の含有量は3.8%であった。
【0059】
(ヤケの評価)
得られた樹脂組成物を用いて、上記の共押出多層ダイレクトブロー成形機を用いて、熱可塑性樹脂(B)/接着樹脂(C)/EVOH組成物(A1)/接着樹脂(C)/樹脂組成物/熱可塑性樹脂(B)=30/10/10/10/150/50μmの多層ボトルを1000本作成し、1000本のボトルのうちヤケが混入したボトルの本数を評価した。
【0060】
(リサイクル評価;目やに量、外観性)
得られた樹脂組成物について、下記のリサイクル試験を行い、ストランドダイスの吐出孔から発生した目やに量および単層フィルムの外観性を以下の要領で評価した。
40mmφ、L/D=28、スクリュー圧縮比3.4の単軸押出機に樹脂組成物15kgを供給し、設定温度:C1/C2/C3/C4/H/D=180/215/215/215/215/215℃でスクリュー回転数40rpm、吐出量15kg/時間で3.5mmφ4穴のストランドダイスから溶融樹脂をストランド状に押し出し、ストランドを空冷してペレタイザーでカッティングして再ペレット化した。尚、吐出開始当初の1.5kgの樹脂は端切りとして除いた。さらに得られた1回目リサイクルペレットを同押出機に供給し、同条件でペレット化して2回目リサイクルペレットを得た。さらにリサイクルを繰り返し5回目まで行った時の、ストランドダイスの吐出孔から発生した全ての目やにを採取し、重量を測定した(目やに量)。
また、5回目までリサイクルした樹脂組成物を単軸押出機、単層コートハンガーダイを用いて厚み60μmの単層フィルムに成形し、その外観について以下の様に評価した(外観性)。
○・・・ゲルやヤケの混入がなく、フィルムの透明性も高い
△・・・フィルムの透明性は低いがゲルやヤケの混入はない
×・・・ゲルやヤケの混入があり、フィルムは不透明である
【0061】
実施例2
実施例1において、EVOH組成物(A1)の代わりにEVOH組成物(A2)を用いた以外は同様に樹脂組成物を作成し、同様に評価を行った。
【0062】
実施例3
実施例1において、EVOH組成物(A1)の代わりにEVOH組成物(A3)を用いた以外は同様に樹脂組成物を作成し、同様の評価を行った。
【0063】
比較例1
実施例1において、EVOH組成物(A1)の代わりにEVOH組成物(A4)を用いた以外は同様に樹脂組成物を作成し、同様の評価を行った。
【0064】
実施例及び比較例の評価結果を表1にまとめて示す。
【0065】
〔表1〕
ヤケの評価 目やに量 外観性
実施例1 0 15mg ○
〃 2 0 35mg ○
〃 3 0 20mg ○
比較例1 3 420mg ×
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の樹脂組成物は回収材として特別な添加剤なしに回収層特有の問題であるヤケや目やにの発生を抑制し、それを用いた多層構造体はヤケの混入などがなく良好な外観性を有し、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】重合例1で得られたEVOHのケン化前の1H−NMRチャートである。
【図2】重合例1で得られたEVOHの1H−NMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造単位(1)を含有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)とポリオレフィン、ポリスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)を含有してなることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】

(ここで、Xは結合鎖であってエーテル結合を除く任意の結合鎖で、R1〜R4はそれぞれ独立して任意の置換基であり、nは0または1を表す。)
【請求項2】
構造単位(1)を含有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)の含有重量比が0.1/99.9〜20/80であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、接着樹脂(C)が含有されてなることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
接着樹脂(C)が、カルボキシル基含有変性ポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項5】
構造単位(1)において、R1〜R4がそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数3〜8の環状炭化水素基又は芳香族炭化水素基のいずれかであることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項6】
構造単位(1)のR1〜R4がいずれも水素原子であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項7】
構造単位(1)のXが炭素数6以下のアルキレンであることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項8】
構造単位(1)のnが0であることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項9】
構造単位(1)が共重合によりエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の分子鎖中に導入されてなることを特徴とする請求項1〜8いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項10】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の分子鎖中に構造単位(1)を0.1〜30モル%含有することを特徴とする請求項1〜9いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項11】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)が3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマー及びエチレンの共重合体をケン化して得られたものであることを特徴とする請求項1〜10いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項12】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)が3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマー及びエチレンの共重合体をケン化して得られたものであることを特徴とする請求項1〜11いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項13】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)がホウ素化合物をエチレン−ビニルアルコール共重合体100重量部に対してホウ素換算で0.001〜1重量部含有することを特徴とする請求項1〜12いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項14】
構造単位(1)を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を含有する多層構造体の回収物を含有することを特徴とする請求項1〜13いずれか記載の樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1〜14いずれか記載の樹脂組成物を含有する層を少なくとも一層含むことを特徴とする多層構造体。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−124672(P2006−124672A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281913(P2005−281913)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】