説明

樹脂組成物及び多層構造体

【課題】ガスバリア性に優れ、高温高湿下での耐湿性に優れ、しかも溶融成形時の熱安定性に優れたEVOH樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】エチレン含有量が15〜65モル%でケン化度が95モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、水和物を形成可能なリン酸塩(B)及び沸点150℃以上の共役ポリエン化合物(C)からなる樹脂組成物であって、(A)と(B)の合計100重量部に対して、(A)を50〜99重量部、(B)を1〜50重量部、及び(C)を0.00001〜1重量部含有する樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」ということがある。)、リン酸塩及び共役ポリエン化合物からなる樹脂組成物に関する。当該樹脂組成物からなる層を有する多層構造体は、レトルト処理される包装容器として好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
野菜やシーフードなどの食品をレトルト処理するための容器の素材としては、ガラス、金属及び金属箔が、現在でも独占的な地位にある。しかしながら最近では、スープやペットフードなど、その他の食品をレトルト処理するための容器として、プラスチック製のリジッドなあるいはセミリジッドな容器が、一般的に使用されるようになってきている。エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、加工性が良好であり、優れたガスバリア性を有することから、そのようなプラスチック製容器のためのバリア性樹脂として採用されている。
【0003】
EVOHはその化学構造に由来し、相対湿度が85%を超える環境ではそのガスバリア性が大きく低下することが、本質的な弱点として知られている。すなわち、水がEVOHの可塑剤として働いて、EVOHの非晶領域の水素結合を弱めて自由体積の量を増加させ、結果としてポリマーマトリックス中のガス拡散を増加させるのである。このような現象が、包装体を110〜132℃の温度で15〜80分間処理する典型的なスチームレトルト処理の後に発生すれば、包装業界で現在「レトルト・ショック」と呼ばれている期間を経験することになる。「レトルト・ショック」の間、EVOHの酸素透過速度は劇的に増加し、その間、食品は酸化劣化による大きなダメージを受けることになる。包装及び食品に関わる技術者は、様々な方法によって、保存安定性の良好な、食品保護のための包装容器の研究及び設計を行ってきた。例えば、蓋を通しての酸素透過に対しては、ダブルシーム金属蓋の使用や、アルミニウムとポリマーとの分厚い積層体の使用などによって、対応している。
【0004】
EVOHを用いる場合、そのEVOHをできるだけ乾燥状態に維持する設計手法によって、容器の酸素透過性は適切に保たれる。第一に、比較的厚いポリプロピレン壁のサイドウォールを形成することが検討され、ある用途では、45ミル(1143μm)もの厚さのポリプロピレン壁が採用された。第二に、比較的厚いEVOH層が検討され、20重量%ものEVOH層を有する多層構造体が市販された。第三に、レトルト処理後にEVOHを乾燥状態に保つために接着性樹脂層中に乾燥剤を配合した多層構造体が市販された。この第三の方法については、例えば、米国特許第4407897号公報(特許文献1)に記載されている。
【0005】
特開昭63−113062号公報(特許文献2)には、EVOHのマトリックス中に乾燥剤粒子が微粒子状態で分散されてなり、この無機系乾燥剤粒子のうちで長径10μm以上の粒子の体面積平均径が30μm以下であり、かつ前記エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物と無機系乾燥剤との重量比が97:3〜50:50であることを特徴とする組成物が記載されている。ここで用いられる乾燥剤として、水和物を形成可能なリン酸塩が記載されている。また当該樹脂組成物からなる層を有する多層構造体も記載されており、レトルト処理用容器に適していることも記載されている。
【0006】
ところで、熱成形容器などのレトルト処理用容器の製造プロセスにおいては、製造プロセス中で発生する、打ち抜きクズや成形不良品を回収、粉砕して、容器製造に再使用するのが普通である。したがって、回収再使用されたリグラインド組成物からなる層を有する多層構造体が製造されることが多い。したがって、リグラインド層を有する多層構造体をトラブルなく製造できることが非常に重要である。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載されているように、通常のEVOHに乾燥剤粒子を配合した場合には、回収再使用された樹脂組成物の熱安定性が低下する問題であった。例えば、リグラインド組成物層を有する多層構造体に、着色、ゲル、あるいは黒点が発生することが避けられなかった。
【0008】
特開平9−71620号公報(特許文献3)には、酢酸ビニルとエチレンを共重合してエチレン−酢酸ビニル共重合体を合成した後に、沸点20℃以上の共役ポリエン化合物を添加し、その後未反応の酢酸ビニルを除去するエチレン−酢酸ビニル共重合体の製法が記載されている。そして得られたエチレン−酢酸ビニル共重合体は、ケン化されて、前記共役ポリエン化合物を0.000001〜1重量%含有するEVOH樹脂組成物が得られる。このEVOH樹脂組成物は、成形時に着色が少なく、ゲル状物の発生が少ないことが記載されている。特許文献3には、リン酸二水素ナトリウムやリン酸二水素カリウムなどのリン酸の部分塩を添加しても良いことが記載されているが、これは水溶液などに含ませた塩を微量含有させるものであって、含有させた後で乾燥させるものである。したがって、水和物を形成可能なリン酸塩を比較的多量含有させることについては記載されていない。
【0009】
特開昭51−112694号公報(特許文献4)には、EVOH又はEVOHを含有する樹脂組成物層を有する包装材料であって、EVOHの融点に対応する主吸熱ピークに加えて、それよりも低い温度の副吸熱ピークを有する、耐気体透過性の改善された包装材料が記載されている。EVOHを融点以下の所定の温度で熱処理することによって、副吸熱ピークが観察されるようになり、同時にガスバリア性が向上することが記載されている。しかしながら、副吸熱ピークの吸熱量は、主吸熱ピークの吸熱量に比べてはるかに小さいものであった。
【0010】
【特許文献1】米国特許第4407897号公報
【特許文献2】特開昭63−113062号公報
【特許文献3】特開平9−71620号公報
【特許文献4】特開昭51−112694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ガスバリア性に優れ、高温高湿下での耐湿性に優れ、しかも溶融成形時の熱安定性に優れたEVOH樹脂組成物を提供することを目的とするものである。また、そのような樹脂組成物からなる層を有する、レトルト処理時にもガスバリア性の低下の抑制された多層構造体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、エチレン含有量が15〜65モル%でケン化度が95モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、水和物を形成可能なリン酸塩(B)及び沸点150℃以上の共役ポリエン化合物(C)からなる樹脂組成物であって、(A)と(B)の合計100重量部に対して、(A)を50〜99重量部、(B)を1〜50重量部、及び(C)を0.00001〜1重量部含有することを特徴とする樹脂組成物を提供することによって解決される。
【0013】
このとき、リン酸塩(B)が、粒径16μm以下の粒子を97体積%以上含有する粉体からなることが好ましく、リン酸塩(B)の熱重量分析法による減量開始温度が245℃以上であることも好ましい。
【0014】
またこのとき、前記樹脂組成物からなる2ミルの層が9ミルのポリプロピレン層で挟まれた多層構造体を121℃で60分間レトルト処理した後の、前記樹脂組成物層の示差走査熱量計(DSC)測定において、80〜135℃に現れる第2吸熱ピークの吸熱量(ΔH)と、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の結晶融解に対応する第1吸熱ピークの吸熱量(ΔH)との比(ΔH/ΔH)が3以上であることも好ましい。
【0015】
本発明の好適な実施態様は、上記樹脂組成物からなる層の両側に、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル及びポリアクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる層を有する多層構造体である。そしてこのとき、前記樹脂組成物からなる層の両側に接着性樹脂層を介してポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル及びポリアクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる層を有することが好ましい。
【0016】
前記多層構造体において、121℃で60分間レトルト処理した後の樹脂組成物層の示差走査熱量計(DSC)測定において、80〜135℃に現れる第2吸熱ピークの吸熱量(ΔH)と、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の結晶融解に対応する第1吸熱ピークの吸熱量(ΔH)との比(ΔH/ΔH)が3以上であることが好ましい。また、121℃で60分間レトルト処理してから24時間経過後の酸素透過速度が、レトルト処理する前の酸素透過速度の10倍以下であることも好ましい。
【0017】
本発明の好適な実施態様は、上記多層構造体を溶融混練してなる回収組成物である。また本発明の別の好適な実施態様は、上記多層構造体からなる包装容器である。さらに本発明の別の好適な実施態様は、上記包装容器に内容物を充填してなるレトルト包装体である。
【0018】
上記課題は、エチレン含有量が15〜65モル%でケン化度が95モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)及び沸点150℃以上の共役ポリエン化合物(C)からなる樹脂組成物に対して、水和物を形成可能なリン酸塩(B)を添加して溶融混練することを特徴とする前記樹脂組成物の製造方法を提供することによっても解決される。
【0019】
このとき、リン酸塩(B)が、粒径16μm以下、より好適には粒径13μm以下、さらに好適には粒径10μm以下の粒子を97体積%以上含有する粉体からなることが好ましい。また、溶融混練する前に、予めリン酸塩(B)を粉砕する工程を有すること、あるいは予めリン酸塩(B)を乾燥する工程を有することも好ましい。また上記製造方法において、溶融混練する際の温度が、190〜260℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の樹脂組成物は、ガスバリア性に優れ、高温高湿下での耐湿性にも優れている。したがって、本発明の樹脂組成物からなる層をガスバリア層として有する多層構造体は、レトルト処理後のガスバリア性の低下が抑制されるので、酸化劣化の防止が要求される食品の包装容器などとして好適である。また、本発明の樹脂組成物は熱安定性に優れているので、リン酸塩を一定量含有するにも拘らず、溶融成形時において、着色、ゲル、黒点などの発生を効果的に抑制することができる。したがって、本発明の樹脂組成物からなる層を有する多層構造体を回収して再度溶融混練した場合であっても品質の良好な成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の樹脂組成物は、エチレン含有量が15〜65モル%でケン化度が95モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)(A)、水和物を形成可能なリン酸塩(B)及び沸点150℃以上の共役ポリエン化合物(C)からなる樹脂組成物である。
【0022】
前述のように、EVOH(A)にリン酸塩(B)を配合することによって、得られる樹脂組成物の熱安定性は大きく低下する。特に、樹脂組成物を回収再使用する場合にその傾向が顕著であった。これに対し、さらに沸点150℃以上の共役ポリエン化合物(C)を配合することによって、リン酸塩(B)を配合した場合であっても熱安定性の低下を効果的に抑制できることを見出したものである。
【0023】
本発明で使用するEVOH(A)のエチレン含有量は15〜65モル%である。エチレン含有量が15モル%未満である場合には、耐湿性が不十分となり、特にレトルト処理のような高温高湿の条件下において使用することができなくなる。エチレン含有量は好適には20モル%以上であり、より好適には25モル%以上である。一方、エチレン含有量が65モル%を超える場合には、ガスバリア性が不十分となり、高度なガスバリア性が要求される用途に使用することができなくなる。エチレン含有量は好適には50モル%以下であり、より好適には40モル%以下である。
【0024】
EVOH(A)のケン化度は、95モル%以上である。ケン化度が低いと、EVOHの結晶化度が低くなり、ガスバリア性が低下するとともに、溶融成形時の熱安定性が大きく低下する。ケン化度は好適には98モル%以上であり、より好適には99モル%以上である。
【0025】
EVOH(A)のメルトフローレート(210℃、2160g荷重下)は、0.1〜50g/10分であることが好ましい。メルトフローレートが0.1g/10分未満である場合には、溶融成形が困難になるとともに、リン酸塩(B)を均一に混合するのが困難になるおそれがある。メルトフローレートは、より好適には、0.5g/10分以上であり、さらに好適には1g/10分以上である。一方、メルトフローレートが50g/10分を超える場合には、押出成形が困難になるとともに、EVOH(A)層の強度が低下する。メルトフローレートは、より好適には、20g/10分以下であり、さらに好適には10g/10分以下である。
【0026】
水和物を形成可能なリン酸塩(B)は、水和物を形成することによって水分を吸収するものであり、いわば、乾燥剤として機能するものである。したがって、結晶水として水分を吸収して水和物を形成することが可能なものが好ましく用いられる。多くのリン酸塩は、複数の水分子を結晶水として含む水和物を形成するので、単位重量あたりの吸収する水の重量が多く、本発明の樹脂組成物に好適に使用される。また、リン酸塩が含むことの可能な結晶水の分子数は、湿度の上昇にしたがって段階的に増加することが多いので、湿度環境の変化に伴って、徐々に水分を吸収することができる。
【0027】
本発明で用いられるリン酸塩(B)としては、リン酸ナトリウム(NaPO)、リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、ポリリン酸ナトリウム、リン酸リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウム、ポリリン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、ポリリン酸カリウム、リン酸カルシウム(Ca(PO)、リン酸水素カルシウム(CaHPO)、リン酸二水素カルシウム(Ca(HPO)、ポリリン酸カルシウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが例示される。ここで、ポリリン酸塩は、二リン酸塩(ピロリン酸塩)、三リン酸塩(トリポリリン酸塩)などを含むものである。これらのリン酸塩(B)のうち、結晶水を含まない無水物が好適である。また、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムが好適である。
【0028】
本発明者らの検討によって、リン酸塩(B)が不純物を含有している場合、得られる樹脂組成物の熱安定性に悪影響を及ぼすことが判明した。このような不純物の含有は、リン酸塩(B)の製造工程などに由来するものであるから、使用するリン酸塩(B)の選択は重要である。本発明の樹脂組成物の原料として好適なリン酸塩(B)をスクリーニングする方法としては、様々な方法が考えられ、例えば、ブラベンダーのようなバッチ式の回転混合器を用いてEVOHとリン酸塩(B)を一定時間溶融混練して、得られる樹脂組成物の色調から判断するような手法も考えられる。
【0029】
しかしながら、簡便で好ましい手法としては、熱重量分析法が挙げられる。熱重量分析法によるEVOHの減量開始温度(分解開始温度)は、そのエチレン含有量が低い場合には、300℃程度まで低下することがある。したがって、一般的に推奨されるEVOHの溶融加工温度は245℃以下であるとされている。押出機の中でリン酸塩(B)が分解するのを防ぐためには、熱重量分析法によるリン酸塩(B)の減量開始温度が245℃以上であることが好ましい。減量開始温度が245℃未満である場合には、本発明の樹脂組成物の熱安定性が低下し、発泡などを生じるおそれがある。リン酸塩(B)の減量開始温度は、より好適には260℃以上である。
【0030】
また、リン酸塩(B)の不純物の影響は、その酸性度によっても判断することができる。例えば、リン酸塩(B)のうちで、リン酸水素二ナトリウムは、特に好適に用いられるものであるが、一般に市販されているリン酸水素二ナトリウムの1重量%水溶液のpHは8.7〜9.6の範囲にある。これらのうち、本発明の樹脂組成物に用いられるリン酸水素二ナトリウムの1重量%水溶液のpHは9〜9.4の範囲にあることが好ましい。pHがこの範囲にあるリン酸水素二ナトリウムは、酸性を示す不純物や、アルカリ性を示す不純物の含有量が少ないと考えられ、熱安定性に優れた樹脂組成物を与えることができる。上記pHのより好適な下限値は9.1であり、より好適な上限値は9.35である。
【0031】
本発明で用いられるリン酸塩(B)は、通常粉体である。通常市販されているリン酸塩(B)の粉体は、平均粒径が15〜25μmで、含まれる最大粒子の寸法が40〜100μmである。このような大きい粒子を含有する粉体を用いたのでは、本発明の樹脂組成物からなる層のガスバリア性が不十分になるおそれがある。本発明者らが、検討したところ、EVOH樹脂組成物層の厚さよりも大きい粒子を含有することによってガスバリア性が大きく低下する傾向が認められた。そして、EVOHを用いた多層容器では、EVOH層の厚さが20μm程度くらいまで薄くなる用途が存在する。
【0032】
したがって、本発明で用いられるリン酸塩(B)の粉体は、粒径16μm以下の粒子を97体積%以上含有することが好ましい。粒径13μm以下の粒子を97体積%以上含有することがより好ましい。粒径10μm以下の粒子を97体積%以上含有することがさらに好ましい。このような粒度分布はコールターカウンターなどの粒度分析計で測定することができる。
【0033】
このような粒度分布を有する粉体を製造する方法は特に限定されないが、市販のリン酸塩(B)の粉体を粉砕することが好ましい。粉砕装置としては、ジェットミル、ボールミル、衝撃粉砕機などを使用することができる。これらのうちでも、ジェットミル、特に流動層式ジェットミルが好適に使用される。流動層式ジェットミルにおいて、対抗ジェットエアーの衝突によって粒子同士を衝突させて粒子を粉砕することが好ましく、そうすることによって金属による汚染を防止することができる。前述のように、リン酸塩(B)に含まれる不純物が本発明の樹脂組成物の熱安定性に大きな影響を与えることから、この点は重要である。また、粉砕装置が、同時に分級機を内蔵することが好ましい。内蔵される分級機としては、マルチホイール分級機が好ましく、これによって、シャープな粒度分布の粉体を効率よく得ることができる。
【0034】
また、EVOH(A)との溶融混練に先立って、リン酸塩(B)を乾燥することが好ましい。乾燥温度は60〜120℃であることが好ましい。上記粉砕操作を行う場合には、予め乾燥してから粉砕し、それをEVOH(A)と溶融混練しても構わないし、予め粉砕してから乾燥し、それをEVOH(A)と溶融混練しても構わない。また、粉砕と乾燥を同時に行うことも可能である。
【0035】
本発明で用いられる共役ポリエン化合物(C)は、炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がっている構造であって、炭素−炭素二重結合の数が2個以上である、いわゆる共役二重結合を有する化合物である。2個の炭素−炭素二重結合と1個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ジエンであってもよいし、3個の炭素−炭素二重結合と2個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役トリエンであってもよいし、それ以上の数の炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ポリエン化合物であっても構わない。また、1個の二重結合が炭素−炭素単結合を介して芳香環に繋がっている構造である、芳香環と共役したオレフィンも本発明で用いられる共役ポリエン化合物(C)に含まれる。ただし、共役する炭素−炭素二重結合の数が8個以上になるとそれ自身が着色するので、共役する炭素−炭素二重結合の数が7個以下のポリエンであることが好ましい。また、2個以上の炭素−炭素二重結合からなる上記共役二重結合が互いに共役せずに1分子中に複数組あってもよい。例えば、桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も本発明の共役ポリエン化合物(C)に含まれる。
【0036】
さらに、2個以上の炭素−炭素二重結合からなる上記共役二重結合に加えてその他の官能基、例えばカルボキシル基およびその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基およびその塩、リン酸基およびその塩、フェニル基、ハロゲン原子、二重結合、三重結合等の各種の官能基を有していてもよい。かかる官能基は、共役二重結合中の炭素原子に直接結合されていても良いし、共役二重結合から離れた位置に結合されていても良い。したがって、官能基中の多重結合が前記共役二重結合と共役可能な位置にあってもよい。たとえば、フェニル基を有する1−フェニルブタジエンやカルボキシル基を有するソルビン酸なども本発明の共役ポリエン化合物(C)に含まれる。
【0037】
ただし、2個以上の炭素−炭素二重結合を有していても、それらの二重結合が炭素−炭素単結合と交互に繋がって共役できる構造でない場合は、本発明の共役ポリエン化合物(C)には含まれない。したがって、ゲラニオール、スクアレン等の非共役の炭素−炭素二重結合を複数個有する化合物は本発明の共役ポリエン化合物(C)には含まれない。また、1個の炭素−炭素二重結合と炭素−ヘテロ原子二重結合が炭素−炭素単結合1個を間に介して共役可能な構造になっていても、本発明の共役ポリエン化合物(C)には含まれない。ここで、ヘテロ原子とは、上記酸素原子以外にも、窒素、硫黄、リン原子などをいう。
【0038】
本発明で用いられる共役ポリエン化合物(C)の沸点は、150℃以上であることが重要である。沸点150℃未満のものでは、沸点150℃以上のものに比べて、得られる樹脂組成物の色調が悪化するとともに、ゲルや黒点の発生も増加し、本発明の効果を奏することができない。また、レトルト時に容易に拡散しやすいので、食品衛生の観点からも好ましくない。
【0039】
本発明の共役ポリエン化合物(C)の具体例としては、ミルセン、ファルネセン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩等の炭素−炭素二重結合2個の共役構造よりなる共役ジエン;エレオステアリン酸、桐油等の炭素−炭素二重結合3個の共役構造からなる共役トリエン;レチノール等の炭素−炭素二重結合4個以上の共役構造からなる共役ポリエン;2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン等の芳香環と共役したオレフィンなどが例示される。なお、ミルセンやファルネセンのように、複数の立体異性体を有するものについては、そのいずれを用いてもよい。かかる共役ポリエン化合物(C)は2種類以上のものを併用することもできる。また、共役ポリエン化合物(C)以外の化合物を同時にあるいは別途添加することもできる。
【0040】
このような共役ポリエン化合物(C)は、EVOH(A)の製造工程で添加される。EVOH(A)の製造方法については、追って説明する。
【0041】
本発明の樹脂組成物における、EVOH(A)、リン酸塩(B)及び共役ポリエン化合物(C)の配合比は、(A)と(B)の合計100重量部に対して、(A)を50〜99重量部、(B)を1〜50重量部、及び(C)を0.00001〜1重量部である。
【0042】
本発明の樹脂組成物では、EVOH(A)が主成分としてマトリックスを形成し、ガスバリア性が確保される。リン酸塩(B)の含有量が(A)と(B)の合計100重量部に対して1重量部未満である場合には、樹脂組成物の耐湿性、特に高温高湿下での耐湿性が低下する。リン酸塩(B)の含有量は、好適には5重量部以上であり、より好適には10重量部以上であり、さらに好適には15重量部以上である。一方、リン酸塩(B)の含有量が(A)と(B)の合計100重量部に対して50重量部を超える場合には、樹脂組成物のガスバリア性が低下する。リン酸塩(B)の含有量は、好適には40重量部以下であり、より好適には30重量部以下である。
【0043】
また、共役ポリエン化合物(C)の含有量が(A)と(B)の合計100重量部に対して0.00001重量部未満である場合、樹脂組成物の熱安定性が低下し、着色、ゲルあるいは黒点の発生が顕著になる。共役ポリエン化合物(C)の含有量は、好適には0.0001重量部以上であり、より好適には0.001重量部以上である。一方、共役ポリエン化合物(C)の含有量が(A)と(B)の合計100重量部に対して1重量部を超える場合、包装容器等に広く用いられる観点から、臭気の発生、滲み出し等の問題により必ずしも望ましくない。共役ポリエン化合物(C)の含有量は、好適には0.5重量部以下であり、より好適には0.2重量部以下である。
【0044】
以下、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。まず、EVOH(A)の合成工程から説明する。EVOH(A)は、エチレンとビニルエステルとをラジカル開始剤を用いて共重合し、次いでアルカリ触媒の存在下にケン化する公知の方法により製造することができる。このとき、エチレンとビニルエステルとを重合させた後に共役ポリエン化合物(C)が添加され、その後にケン化される。
【0045】
ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが挙げられる。これらのビニルエステルのうちの1種を使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、酢酸ビニルが好ましい。
【0046】
代表的な重合条件は、以下のとおりである。
溶媒;アルコール類が好ましいが、その他エチレン、酢酸ビニルおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体を溶解し得る有機溶剤(ジメチルスルホキシドなど)を用いることができる。特にメチルアルコールが好ましい。
触媒;アゾニトリル系開始剤および有機過酸化物系開始剤等の開始剤を用いることができる。
温度;20〜90℃、好ましくは40℃〜70℃。
時間;2〜15時間、好ましくは3〜11時間。
重合率;仕込み酢酸ビニルに対して10〜90%、好ましくは30〜80%。
重合後の溶液中の樹脂分;5〜85%、好ましくは20〜70%。
【0047】
このとき、本発明の目的が阻害されない範囲で他の共重合成分を共存させて共重合してもよい。ここで他の成分としてはプロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン系単量体;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド系単量体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミドなどのメタクリルアミド系単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテルなどのビニルエーテル系単量体;アリルアルコール;ビニルトリメトキシシラン;N−ビニル−2−ピロリドンなどが挙げられる。
【0048】
所定時間の重合後、所定の重合率に達した後、共役ポリエン化合物(C)を少なくとも一種類添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去した後、未反応酢酸ビニルを追い出す。共役ポリエン化合物(C)は重合に用いた溶媒などに溶解して添加することが、均一拡散の観点から好ましい。また、同様に均一拡散の観点からは、溶液重合である方がバルク重合に比較して好ましい。共役ポリエン化合物(C)の添加量は、特に限定されるものではないが、仕込み酢酸ビニルに対する仕込み共役ポリエン化合物(C)として示すならば、約0.0001〜3重量%、好ましくは0.0005〜1重量%、さらに好ましくは0.001〜0.5重量%が望ましい。
【0049】
共役ポリエン化合物(C)を添加し、エチレンを蒸発除去したエチレン−酢酸ビニル共重合体から未反応の酢酸ビニルを追い出す方法としては、例えば、ラシヒリングを充填した塔の上部から該共重合体溶液を一定速度で連続的に供給し、塔下部よりメタノール等の有機溶剤蒸気を吹き込み塔頂部よりメタノール等の有機溶剤と未反応酢酸ビニルの混合蒸気を流出させ、塔底部より未反応酢酸ビニルを除去した該共重合体溶液を取り出す方法などが採用される。
【0050】
未反応酢酸ビニルを除去した該共重合体溶液にアルカリ触媒を添加し、該共重合体中の酢酸エステル成分をケン化する。ケン化方法は連続式、回分式いずれも可能である。アルカリ触媒としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラートなどが用いられる。
【0051】
ケン化後のEVOH(A)はアルカリ触媒、副生塩類、その他不純物等を含有するためこれらを洗浄、たとえば水洗により除去する。このとき、共役ポリエン化合物(C)は、その一定量がEVOH(A)中に残存することになる。最後に乾燥し、共役ポリエン化合物(C)を含有するEVOH(A)が得られる。
【0052】
こうして得られた、共役ポリエン化合物(C)を含有するEVOH(A)に対して、リン酸塩(B)を配合して、本発明の樹脂組成物が得られる。配合方法は特に限定されず、EVOH(A)と共役ポリエン化合物(C)を含有するメタノールペーストに対して、リン酸塩(B)を混合する方法を採用することもできる。このとき、リン酸塩(B)の水溶液を配合しても良い。しかしながら、共役ポリエン化合物(C)を含有するEVOH(A)に対して、リン酸塩(B)の粉体を溶融混練する方法が、生産性の観点から好ましい。
【0053】
溶融混練する方法としては、樹脂の溶融混練に用いられる一般的な装置を採用することができる。混練装置としては、一軸押出機、二軸押出機などの連続混練装置を用いてもよいし、バンバリーミキサーなどのバッチ式混練装置を用いてもよい。このような混練装置に投入する前に、共役ポリエン化合物(C)を含有するEVOH(A)のペレット又は粉末に対して、リン酸塩(B)の粉末をヘンシエルミキサーやタンブラーを用いて予め混合しても良い。
【0054】
溶融混練する際の温度は、EVOH(A)が溶融可能な温度であれば特に限定されないが、190〜260℃であることが好ましい。溶融混練温度が190℃未満である場合には、EVOH(A)の溶融が不十分になるおそれがあり、より好適には210℃以上である。一方、溶融混練温度が260℃を超える場合には、EVOH(A)あるいはリン酸塩(B)の分解が生じるおそれがあり、より好適には245℃以下である。
【0055】
こうして得られた本発明の樹脂組成物は、レトルト処理のような高温高湿条件での処理を経た後であっても、ガスバリア性の低下が少ないという特徴を有している。
【0056】
このような特徴を効果的に奏するためには、前記樹脂組成物からなる2ミル(51μm)の層が9ミル(229μm)のポリプロピレン層で挟まれた多層構造体を121℃で60分間レトルト処理した後の、前記樹脂組成物層の示差走査熱量計(DSC)測定において、80〜135℃に現れる第2吸熱ピークの吸熱量(ΔH)と、EVOH(A)の結晶融解に対応する第1吸熱ピークの吸熱量(ΔH)との比(ΔH/ΔH)が3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。
【0057】
ここで、前記樹脂組成物層は、その両側をポリプロピレン層で挟まれ、周囲もポリプロピレンで封じられることによって、直接外気にさらされないようになっている。また、レトルト条件は、室温から約30分かけて121℃まで昇温し、121℃で60分維持してから冷却し、約30分かけて100℃以下まで冷却するものである。冷却されたサンプルをレトルト処理装置から取り出し、速やかにポリプロピレン層を剥離除去して樹脂組成物層を得る。樹脂組成物層5mgを秤量して、DSC測定に供するが、DSC測定用のパンに封入するまでの時間はレトルト処理装置から取り出されてから約10分である。
【0058】
図3に、EVOH(A)及び共役ポリエン化合物(C)のみからなる樹脂組成物と、さらにリン酸塩(B)を含む樹脂組成物とについて、上記積層体を作成し、上記レトルト条件で処理してからDSC測定したチャートを示す。いずれの樹脂組成物においても186℃付近に、EVOH(A)の結晶融解に対応する第1吸熱ピーク(吸熱量:ΔH)が観察される。また、115〜120℃付近に第2吸熱ピーク(吸熱量:ΔH)が観察される。リン酸塩(B)を含まない樹脂組成物では、第2吸熱ピークの吸熱量と第1吸熱ピークの吸熱量との比(ΔH/ΔH)が3未満であるが、リン酸塩(B)を含む樹脂組成物では、比(ΔH/ΔH)が3以上である。
【0059】
第2吸熱ピークの由来は必ずしも明らかではないが、レトルト処理時の熱によるアニーリング効果、水和物を形成しているリン酸塩(B)からの水分の放出、EVOH(A)からの水分の放出、EVOH(A)とリン酸塩(B)との相互作用などが組み合わさっていると考えられる。レトルト処理時に、リン酸塩(B)が乾燥剤として効果的に働くことによって、大きい第2吸熱ピークが観察される。したがって、レトルト処理後速やかに、EVOHが乾燥状態に保たれ、良好なガスバリア性を示すものと考えられる。結果としてEVOH(A)の弱点である湿度感受性が大きく改善される。
【0060】
第2吸熱ピークの発生は、上記条件のレトルト処理に限られず、80〜135℃程度の湿熱処理であれば同様に発生するものと考えられる。そして、そのような湿熱処理においても、本発明の樹脂組成物を使用する効果が期待される。したがって、オートクレーブ中で100℃以上に加熱して加圧する通常のレトルト処理以外にも、スチームレトルト処理、ウォーターカスケードレトルト処理、マイクロウェーブレトルト処理、ホット充填、殺菌処理、ボイリング処理などにおいても同様の現象が発生し、同様の効果が得られると期待される。
【0061】
溶融成形に先立ち、本発明の樹脂組成物の含水率が1重量%以下であることが好ましい。含水率を低くすることによって、溶融成形時に発泡するのを防止することができる。含水率は、より好適には0.5%以下であり、さらに好適には、0.25重量%以下である。このような含水率の樹脂組成物とするには、溶融成形前の樹脂組成物を加熱乾燥してもよいし、予め十分に乾燥した材料を用いて樹脂組成物を製造してもよい。
【0062】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分を含有してもよい。例えば、EVOH(A)以外の熱可塑性樹脂を含有してもよい。このような熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(超低密度、低密度、中密度、高密度)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、アイオノマーなどのポリオレフィン;前記ポリオレフィンの無水マレイン酸、グリシジルメタクリレートなどのグラフト変性物;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの半芳香族ポリエステル;ポリバレロラクトン、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族ポリエステル;ポリカプロラクタム、ポリラウロラクタム、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアゼラミドなどの脂肪族ポリアミド;ポリエチレングリコール、ポリフェニレンエーテルなどのポリエーテルなどが挙げられる。
【0063】
また、他の各種可塑剤、滑剤、安定剤、界面活性剤、色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、架橋剤、金属塩、充填剤、各種繊維などの補強剤などを含有することも可能である。
【0064】
本発明の樹脂組成物は、溶融成形によりフィルム、シート、容器、パイプ、繊維等、各種の成形物に成形される。溶融成形法としては押出成形、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、射出成形等が可能である。溶融成形温度はEVOH(A)の融点等により異なるが、150〜270℃程度が好ましい。
【0065】
本発明の樹脂組成物は、当該樹脂組成物のみの単層からなる成形物としても使用可能であるが、当該樹脂組成物からなる少なくとも1層を含む多層構造体とすることが好適である。多層構造体の層構成としては、本発明の樹脂組成物をEVOH、接着性樹脂をTie、熱可塑性樹脂をPで表わすと、EVOH/P、P/EVOH/P、EVOH/Tie/P、P/Tie/EVOH/Tie/P等が挙げられるが、これに限定されない。ここで示されたそれぞれの層は単層であってもよいし、場合によっては多層であってもよい。
【0066】
なかでも、耐湿性に優れるという本発明の樹脂組成物の性能を生かすためには、樹脂組成物からなる層の両側に、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル及びポリアクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる層を有する多層構造体が好適な実施態様である。これらのうちでも、耐湿性を考慮すれば、ポリオレフィン、ポリスチレン及びポリエステルが好適に用いられ、ポリオレフィンが特に好適に用いられる。
【0067】
ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、アイオノマー等が例示される。
【0068】
上記多層構造体において、前記樹脂組成物からなる層の両側に接着性樹脂層を介してポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル及びポリアクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる層を有する多層構造体とすることも好ましい。
【0069】
接着性樹脂は、樹脂組成物層と熱可塑性樹脂層とを接着できるものであれば特に限定されないが、カルボン酸変性ポリオレフィンからなる接着性樹脂が好ましい。ここでカルボン酸変性ポリオレフィンとは、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物を化学的(たとえば付加反応、グラフト反応により)結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体のことをいう。また、ここでオレフィン系重合体とはポリエチレン(低圧、中圧、高圧)、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ボリブテンなどのポリオレフィン、オレフィンと該オレフィンとを共重合し得るコモノマー(ビニルエステル、不飽和カルボン酸エステルなど)との共重合体、たとえばエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチルエステル共重合体などを意味する。エチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物とはエチレン性不飽和モノカルボン酸、そのエステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸、そのモノ又はジエステル、その無水物があげられ、このうちエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物が好適である。具体的にはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステルなどが挙げられ、なかんずく、無水マレイン酸が好適である。
【0070】
エチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物のオレフィン系重合体への付加量又はグラフト量(変性度)はオレフィン系重合体に対し0.01〜15重量%、好ましくは0.02〜10重量%である。
【0071】
このようにして得られた共押出多層構造体又は共射出多層構造体を二次加工することにより、各種成形品(フィルム、シート、チューブ、ボトルなど)を得ることができる。たとえば以下のようなものが挙げられる。
(1)多層構造体(シート又はフィルムなど)を一軸又は二軸方向に延伸し、必要に応じて熱処理することによる多層共延伸シート又はフィルム
(2)多層構造体(シート又はフィルムなど)を圧延することによる多層圧延シート又はフィルム
(3)多層構造体(シート又はフィルムなど)を真空成形、圧空成形、真空圧空成形等、熱成形加工することによる多層トレーカップ状容器
(4)多層構造体(パイプなど)からのストレッチブロー成形等によるボトル、カップ状容器
(5)多層構造体(パリソンなど)からの二軸延伸ブロー成形等によるボトル状容器
【0072】
このようにして得られた多層構造体は、121℃で60分間レトルト処理した後の樹脂組成物層の示差走査熱量計(DSC)測定において、80〜135℃に現れる第2吸熱ピークの吸熱量(ΔH)と、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の結晶融解に対応する第1吸熱ピークの吸熱量(ΔH)との比(ΔH/ΔH)が3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。
【0073】
このような特性を有する多層構造体にすることによって、レトルト処理のような高温高湿条件での処理を経た後であっても、ガスバリア性の低下が少ない。DSC測定方法などについては、樹脂組成物のところで既に説明したとおりである。
【0074】
また、本発明の多層構造体において、121℃で60分間レトルト処理してから24時間経過後の酸素透過速度が、レトルト処理する前の酸素透過速度の10倍以下であることが好ましい。通常、レトルト処理中には、EVOH中に水分が多量に含まれることになるので、EVOH層のガスバリア性は大きく低下する。しかしながら、リン酸塩(B)を含有する本発明の樹脂組成物では、レトルト処理中に樹脂組成物中に浸入してくる水分をリン酸塩(B)が吸収するので、ガスバリア性の低下が抑制される。しかも、レトルト処理後にEVOH(A)マトリックス中に残存している水分をリン酸塩(B)が吸収することができるので、レトルト処理後のガスバリア性の回復も早く、内容物を酸化劣化から効果的に防ぐことができる。24時間経過後の酸素透過速度が、レトルト処理する前の酸素透過速度の5倍以下であることがより好ましく、3倍以下であることがさらに好ましい。
【0075】
ここでの酸素透過速度は、ASTM F1307に従い、モコン社製の「Oxtran 2/21 モジュールHユニット」を用いて、20℃において、内部相対湿度を100%、外部相対湿度を65%として測定した値である。
【0076】
このようにして得られた多層構造体の用途は特に限定されず、例えば、包装用フィルム、深絞り容器、カップ状容器、ボトル等の材料として好適に用いられる。中でも、酸素劣化が嫌われる内容物、特に食品を包装する容器として好適である。本発明の多層構造体は、高温高湿条件下でも優れたガスバリア性を示すことから、レトルト処理用の容器として特に好適である。レトルト処理としては、100℃以上に加熱して加圧する通常のレトルト処理以外にも、スチームレトルト処理、ウォーターカスケードレトルト処理、マイクロウェーブレトルト処理なども採用される。また、レトルト処理に限られず、ホット充填、殺菌処理、ボイリング処理を行う容器としても好適である。
【0077】
また、多層構造体を溶融混練してなる回収組成物も本発明の好適な実施態様である。熱成形容器などの製造プロセスにおいては、製造プロセス中で発生する、打ち抜きクズや成形不良品を回収、粉砕して、容器製造に再使用するのが普通である。したがって、回収再使用されて溶融混練された回収組成物からなる層を有する多層構造体が経済的な観点から好ましい態様である。本発明の樹脂組成物は、リン酸塩(B)を含有しながらも熱安定性に優れている。したがって、溶融混練を繰り返す回収組成物であっても効果的に劣化を防止することができる。回収組成物層は、前述の多層構造体の層構成の例において、熱可塑性樹脂(P)層を回収組成物(Reg)層に置き換えた構成か、あるいは、熱可塑性樹脂(P)層を熱可塑性樹脂(P)層と回収組成物(Reg)層の積層体(P/Reg)に置き換えた構成とされる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
【0079】
合成例1
内部に冷却用コイルをもち、4枚羽根パドル型攪拌機を付した容量100Lの重合槽を用いて、エチレン−酢酸ビニル共重合体を製造するため連続重合を実施した。重合条件は以下のとおりである。
酢酸ビニル供給量;6.2kg/hr
メタノール供給量;0.5kg/hr
2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)供給量;2.8g/Lのメタノール溶液として0.3L/hr
重合温度;60℃
重合槽エチレン圧力;35kg/cm
平均滞留時間;7時間
【0080】
その結果、酢酸ビニルの重合率が約40%の重合液が7kg/hrで重合槽より排出された。この重合液において、エチレン−酢酸ビニル共重合体(エチレン含有量27モル%)の濃度は約40重量%であった。
【0081】
重合液は重合槽より排出された直後にβ−ミルセンの1.0g/L酢酸メチル溶液を2.0L/hrで添加、混合後段塔に導かれ、塔底よりメタノール蒸気を3.5kg/hrで吹き込んで、未反応の酢酸ビニル、エチレンを塔頂より分離し、塔底よりエチレン−酢酸ビニル共重合体40重量%のメタノール溶液が7kg/hrで得られた。
【0082】
上記共重合体溶液100重量部に対して、苛性ソーダ1重量部を加えたメタノール溶液を、110℃、3.5kg/cm下で、メタノール蒸気を吹き込みつつ30分間ケン化反応させ、反応中に生成する酢酸メチルはメタノールの一部とともに留出させて系外へ除去した。得られたケン化溶液に、さらに水−メタノール蒸気を吹き込み、メタノール−水の混合蒸気を留出させ、共重合体ケン化物濃度35重量%のメタノール−水混合系のケン化溶液(メタノール/水=65/35重量比)を得た。この溶液を2mmの孔径の穴を持つダイスより、5℃の水/メタノール混合液(メタノール10重量%)中に吐出してストランド状に凝固させた。このストランド状物をカッターで切断して2.5〜3.5mmの長さのペレット状物にした後、ペレット状物1重量部に対して、15重量部のプロセス水を用いて洗浄し、引き続き脱液乾燥してケン化度99.3モル%、メルトフローレート3.8g/10min.のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物を得た。β−ミルセンの含有量は0.05重量%であった。
【0083】
合成例2〜9
合成例1のβ−ミルセンの酢酸メチル溶液に代えてこれと等モル量のポリエン化合物が添加されるように、ソルビン酸のメタノール溶液(合成例2)、α−ファルネセンの酢酸メチル溶液(合成例3)、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの酢酸メチル溶液(合成例4)、エレオステアリン酸のメタノール溶液(合成例5)、イソプレンの酢酸メチル溶液(合成例7)、1,3−ブタジエンの酢酸メチル溶液(合成例8)、スチレンの酢酸メチル溶液(合成例9)を用いて合成例1と同様の方法で共役ポリエン化合物を含有するEVOH(A)を製造した。また、1/3モル量の桐油のメタノール溶液(合成例6)を用いて、同様にEVOH(A)を製造した。ここで、合成例6の桐油の添加量が他のポリエン化合物の1/3モル量であるのは、桐油1分子中にトリエン3個が含まれていることを考慮したものである。得られたEVOH(A)のエチレン含有量、ケン化度、メルトフローレートは、いずれも合成例1とほぼ同じであった。共役ポリエン化合物の沸点及び含有量は表1にまとめて示す。
【0084】
合成例10
β−ミルセンに代わる添加剤は何も入れず、合成例1と同様の方法でEVOH(A)を製造した。得られたEVOHのエチレン含有量、ケン化度、メルトフローレートは、いずれも合成例1とほぼ同じであった。
【0085】
合成例11
合成例1において、エチレン圧力を45kg/cmに調整した以外は合成例1と同様の方法でβ−ミルセンを含有するEVOH(A)を製造した。得られたEVOH(A)のエチレン含有量は32モル%、ケン化度は99.5モル%、メルトフローレートは1.6g/10分、であった。β−ミルセンの含有量は0.05重量%であった。
【0086】
【表1】

【0087】
実施例1(各種乾燥剤の評価)
合成例11で得られた、β−ミルセンを0.05重量%含有するエチレン含有量が32モル%のEVOH80重量部に対して、表2に示す化合物20重量部を配合して二軸押出機で230℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。ここでEVOHに配合した化合物は、いずれも無水物である。得られた樹脂組成物ペレット、三井化学株式会社製接着性樹脂(無水マレイン酸変性ポリプロピレン)「アドマーQF551A」からなる接着性樹脂(Tie)ペレット、及びポリプロピレン(PP)ペレットを用い、3種5層のシート成形機を用いて、「PP/Tie/EVOH組成物/Tie/PP」の構成で厚みが24(610)/2(51)/4(102)/2(51)/24(610)ミル(μm)の多層シートを得た。得られた多層シートを熱成形して容量300ccのカップを得た。得られたカップについて、ASTM F1307に従い、モコン社製の「Oxtran 2/21 モジュールHユニット」を用いて、20℃において、内部相対湿度を100%、外部相対湿度を65%として酸素透過速度を測定した。引き続き、株式会社平山製作所製オートクレーブ「HV−50」を用いて、室温から約30分かけて121℃まで昇温し、121℃で30分、60分又は90分間維持してから、約30分かけて100℃以下まで冷却した。その後20℃65%の雰囲気に24時間置いてからレトルト処理前と同様にして酸素透過速度を測定した。その結果を表2にまとめて示す。
【0088】
【表2】

【0089】
表2からわかるように、EVOH(A)に対してリン酸塩(B)を配合することによって、配合しない場合に比べて、レトルト処理後のガスバリア性が大きく改善されることがわかる。また、他の塩や糖に比べてリン酸塩(B)が有効であることもわかる。
【0090】
実施例2(リン酸塩中の不純物の影響)
ICL社製の無水リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)「683522」の3つの製造ロット(Lot A、Lot B及びLot C)について、ICL社の提供する不純物仕様、1重量%水溶液のpH及び熱重量分析結果を表3にまとめて示す。ここで、熱重量分析は、TA Instruments製の「TGA Q500」を用い、室温から600℃まで、20℃/分の速度で昇温することによって行った。減量開始温度及び減量終了温度は、いずれも装置が自動的に算出した値である。
【0091】
そして、これら3種類の無水リン酸水素二ナトリウムを、合成例1で得られた、β−ミルセンを0.05重量%含有するエチレン含有量が27モル%のEVOH(A)に対して、含有量が15重量%になるように配合し二軸押出機で230℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットについて、黄色度(Yellowness Index)、メルトフローレート(210℃、2160g荷重下)、灰分、臭気及び外観について評価した。なお、原料のEVOH(A)のメルトフローレート(210℃、2160g荷重下)は3.8g/10分であり、黄色度は18である。また、灰分は、マッフル炉を用いて600℃で20分間燃焼させた時の重量減少から求めた。これらの評価結果について、表3に合わせて示す。
【0092】
【表3】

【0093】
表3からわかるように、pHが低く、熱重量分析法による減量開始温度が低いLotCが、着色、臭気及び発泡が発生して問題であった。すなわち、同一銘柄で市販されているリン酸塩(B)の内でさえも、特定の製造ロットの製品のみが本発明の目的に好適に使用できることがわかった。
【0094】
実施例3(リン酸塩(B)の粒径)
合成例11で得られた、β−ミルセンを0.05重量%含有するエチレン含有量が32モル%のEVOH80重量部に対して、表4に示す粒度分布を示す無水リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)20重量部を配合して二軸押出機で230℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。ここで、各粒度分布を有する無水リン酸水素二ナトリウムは、原料であるICL社製の無水リン酸水素二ナトリウム「683522」を、Alpine and Hosowaka Micron Powder Systems製の流動層式ジェットミル「Hosowaka AFG-100」で粉砕したものである。このジェットミルは、対抗ジェットエアーの衝突によって粒子同士を衝突させて粒子を粉砕するものであり、マルチホイール分級機が内蔵されている。マルチホイール分級機の回転数を変動させることによって、所望の粒径の粒子が得られる。
【0095】
得られた樹脂組成物ペレットを用いて、実施例1と同様に容量300ccのカップを得た。側壁の厚みは28.2μmであった。得られたカップについて、株式会社平山製作所製オートクレーブ「HV−50」を用いて、室温から約30分かけて121℃まで昇温し、121℃で60分間維持してから、約30分かけて100℃以下まで冷却した。その後20℃65%の雰囲気で、実施例1と同様に酸素透過速度を測定した。その結果を表4にまとめて示す。
【0096】
【表4】

【0097】
表4からわかるように、粒度が小さくなるほど、レトルト処理後のガスバリア性が良好になることがわかる。すなわち、市販のリン酸塩(B)をそのまま使用するよりも、細かく粉砕してから使用したほうが高温高湿下でのガスバリア性に優れた多層構造体が得られる。特に、樹脂組成物層の厚さよりも大きい粗大粒子が少ないことが重要なようである。
【0098】
実施例4(リン酸塩(B)の配合量)
合成例11で得られた、β−ミルセンを0.05重量%含有するエチレン含有量が32モル%のEVOHに対して、Gallard-Budenheim製の無水リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)「N 11-30」を、表5に示す含有量になるように配合して二軸押出機で230℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットを用いて、実施例1と同様に、容量300ccのカップを得た。得られたカップについて、実施例1と同様にしてレトルト処理前後の酸素透過速度を測定した。その結果を表5にまとめて示す。
【0099】
【表5】

【0100】
表5からわかるように、EVOH(A)に対して無水リン酸二水素ナトリウムを配合することによって、配合しない場合に比べて、レトルト処理後のガスバリア性が大きく改善されることがわかる。配合量が多くなるにしたがって、より長時間のレトルト処理によってもガスバリア性を維持できることもわかる。
【0101】
実施例5(レトルト後長時間での酸素透過速度の変化)
合成例1で得られた、β−ミルセンを0.05重量%含有するエチレン含有量が27モル%のEVOHに対して、Gallard-Budenheim製の無水リン酸水素カルシウム(CaHPO)「C 12-03」を、EVOHと無水リン酸水素カルシウムの合計100重量部に対して、10重量部又は20重量部配合して二軸押出機で230℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレット又は原料のEVOHを用いて、実施例1と同様にして、3種5層のシート成形機を用いて、「PP/Tie/EVOH組成物/Tie/PP」の構成で厚みが30(762)/1(25)/3(76)/1(25)/30(762)ミル(μm)の多層シートを得た。得られた多層シートを用い、熱成形して、容量200ccで、絞り深さが1.5インチ(38mm)のトレイを得た。得られたトレイについて、引き続き、株式会社平山製作所製オートクレーブ「HV−50」を用いて、室温から約30分かけて121℃まで昇温し、121℃で60分間維持してから約30分かけて100℃以下まで冷却した。それぞれの試料について、レトルト処理前及びレトルト処理後の所定の時間経過後の酸素透過速度を測定した。その結果を図1に示す。図1は、レトルト処理後の酸素透過速度の経時変化を示したグラフである。
【0102】
図1からわかるように、無水リン酸水素カルシウムを含有しない場合には、10日以上かけて徐々にガスバリア性が回復していくことがわかる。すなわち、非常に長時間に亘ってガスバリア性の低下している期間が継続するので、酸化劣化の防止が厳しく求められる用途には使用しにくいことがわかる。これに対し、無水リン酸水素カルシウムを20重量%含有する場合には、わずか1時間後には0.05cc/pkg.day.atmにまで酸素透過速度が低下しており、迅速なガスバリア性の回復が望めることがわかる。
【0103】
実施例6(水分の吸収の影響)
合成例1で得られた、β−ミルセンを0.05重量%含有するエチレン含有量が27モル%のEVOHに対して、ICL社製の無水リン酸水素二ナトリウム「683522」を、EVOHと無水リン酸水素二ナトリウムの合計100重量部に対して、10重量部あるいは20重量部配合して二軸押出機で230℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレット又は原料のEVOHを、フィルムアタッチメントを装着した押出機(株式会社東洋精機製作所製「ラボプラストミル 20R200」)に供給して、所定の厚みの単層フィルムを製造し、6インチ(152mm)×6インチ(152mm)に切り出した。また、一定の厚みの8インチ(203mm)×8インチ(203mm)のポリプロピレンフィルムを準備した。樹脂組成物フィルムの両面をポリプロピレンフィルムで挟み、196℃の熱板に挟んでプレスすることによって3層シートを得た。このとき、ポリプロピレンフィルムの面積の方が広いので、樹脂組成物フィルムはポリプロピレンの内部に完全に封じ込められた。
【0104】
下記表6に示すような層構成の9種類の多層シートサンプルを作製し、それぞれ121℃で所定時間のレトルト処理を行った。同じ試験条件で一度に3枚のシートをレトルト処理し、株式会社平山製作所製オートクレーブ「HV−50」を用いて、室温から約30分かけて121℃まで昇温し、121℃で所定時間維持してから、約30分かけて100℃以下にまで冷却した。冷却されたサンプルは、レトルト処理装置から取り出し、1枚のシートについては速やかにポリプロピレン層を剥離除去して樹脂組成物層を得て、含水率(重量%)を測定した。測定に供するまでの時間はレトルト処理装置から取り出してから約10分である。また、残りの2枚のシートについては、実施例1と同様に酸素透過速度(cc/pkg.day.atm)を測定した。図2にその結果を示す。図2は、酸素透過速度の吸水率依存性を示したグラフである。
【0105】
【表6】

【0106】
図2からわかるように、無水リン酸水素二ナトリウムの有無にかかわらず、吸水率が上昇すれば酸素透過速度は上昇する傾向が認められた。しかしながら、無水リン酸水素二ナトリウムの量が増加するほど、同じ含水率であっても酸素透過速度は低下する。すなわち、無水リン酸水素二ナトリウムの量が多いほど、多くの水分を取り込んでも良好なガスバリア性を発揮することがわかる。
【0107】
実施例7(DSC測定)
合成例1で得られた、β−ミルセンを0.05重量%含有するエチレン含有量が27モル%のEVOHに対して、ICL社製の無水リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)「683522」を、EVOHと無水リン酸水素二ナトリウムの合計100重量部に対して、20重量部配合して二軸押出機で230℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。このように無水リン酸水素二ナトリウムを配合した樹脂組成物と、配合しないEVOHとについて、実施例6と同様にして厚さ1ミル(25μm)の単層フィルムを製造し、6インチ(152mm)×6インチ(152mm)に切り出した。また、厚さ9ミル(229μm)の8インチ(203mm)×8インチ(203mm)のポリプロピレンフィルムを準備した。実施例6と同様に樹脂組成物フィルムの両側をポリプロピレンフィルムで挟んで、プレスすることによって3層シートを得た。樹脂組成物フィルムはポリプロピレンの内部に完全に封じ込められた。
【0108】
こうして得られた多層シートを、株式会社平山製作所製オートクレーブ「HV−50」を用いて、室温から30分程度かけて105℃、121℃あるいは132℃まで昇温し、その温度で30分あるいは60分間維持してから、約30分かけて100℃以下まで冷却した。冷却されたサンプルは、レトルト処理装置から取り出し、速やかにポリプロピレン層を剥離除去して樹脂組成物層5mgを秤量して、DSC測定に供したが、DSC測定用のパンに封入するまでの時間はレトルト処理装置から取り出されてから約10分であった。
【0109】
DSC測定は、TA Instruments製の「DSC 2910」を用いて、昇温速度20℃/分にて測定した。121℃で60分間のレトルト処理をしたときのDSCチャートを図3に示す。また、各サンプルについて、EVOH(A)の結晶融解に対応する第1吸熱ピーク(吸熱量:ΔH)と、115〜120℃付近に第2吸熱ピーク(吸熱量:ΔH)について、表7にまとめて示す。
【0110】
【表7】

【0111】
図3及び表7からわかるように、無水リン酸水素二ナトリウムを配合することによって、第2吸熱ピークが大きくなることがわかる。特に、レトルト温度が高くなるほど、またレトルト時間が長くなるほど、その傾向が顕著である。
【0112】
実施例8(熱安定性)
合成例1〜10で得られた、各種ポリエン化合物を含有するエチレン含有量が27モル%のEVOHに対して、Budenheim-Gallard製の無水リン酸水素カルシウム(CaHPO)「C12-03」を、EVOHと無水リン酸水素カルシウムの合計100重量部に対して、20重量部配合して二軸押出機で230℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。
【0113】
得られたペレットを用いて、フィルムアタッチメントを装着した押出機(株式会社東洋精機製作所製「ラボプラストミル 20R200」)によって、厚さ2ミル(51μm)の単層フィルムを製造した。この押出機は、L/Dが24のスクリューを備え、圧縮比が3.2で、8インチ(203mm)のコートハンガータイプのフラットダイを備えている。押出機のバレルの温度はゾーン1、2及び3がそれぞれ175℃、215℃及び225℃であり、ダイの温度は200℃であった。得られた単層フィルムの100cm当りのゲルの数をカウントした結果を表8(無水リン酸水素二カルシウム入り)及び表9(無水リン酸水素二カルシウムなし)にまとめて示す。
【0114】
また、回収組成物のモデル組成物として、Huntsman Polymers製ポリプロピレン「P4G2Z-159」、三井化学株式会社製接着性樹脂(無水マレイン酸変性ポリプロピレン)「アドマーQF551A」、上記EVOHと無水リン酸水素カルシウムからなる樹脂組成物のペレット、EVAL Company of America製の熱安定剤「GF-30」を、それぞれ78重量%、10重量%、10重量%及び2重量%の含有量になるように混合した樹脂組成物を用いた。3孔ストランド・ダイを装着した押出機(株式会社東洋精機製作所製「ラボプラストミル 20R200」)を用いて、押出機を繰り返し7回通した。その後、フィルムアタッチメントを装着した押出機(株式会社東洋精機製作所製「ラボプラストミル 20R200」)によって、厚さ2ミル(51μm)の単層フィルムを製造した。得られた単層フィルムの100cm当りの黒点の数をカウントした結果を表8(無水リン酸水素カルシウムなし)及び表9(無水リン酸水素カルシウム入り)にまとめて示す。この黒点は、長時間の混練操作のうちに発生する樹脂の劣化物であると考えられる。
【0115】
【表8】

【0116】
【表9】

【0117】
ポリエン化合物を添加しない例について、表8と表9で比較すればわかるように、EVOH(A)にリン酸塩(B)を配合することによって、得られる樹脂組成物の熱安定性は大きく低下し、着色、ゲル及び回収組成物の黒点の増加が顕著である。また、150℃未満の沸点のポリエン化合物を用いた場合には、表8に示されるように、リン酸塩(B)を配合しない場合には、熱安定性の改善効果が十分に認められるけれども、表9に示されるように、リン酸塩(B)を配合したEVOH(A)の熱安定性の改善効果は全く不十分である。これに対し、150℃以上の沸点を有するポリエン化合物(C)を用いた場合には、リン酸塩(B)を配合したEVOH(A)であっても熱安定性の改善効果が顕著に発現することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】図1は、レトルト処理後の酸素透過速度の経時変化を示したグラフである。
【図2】図2は、酸素透過速度の吸水率依存性を示したグラフである。
【図3】図3は、レトルト処理をしたときのDSCチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン含有量が15〜65モル%でケン化度が95モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、水和物を形成可能なリン酸塩(B)及び沸点150℃以上の共役ポリエン化合物(C)からなる樹脂組成物であって、(A)と(B)の合計100重量部に対して、(A)を50〜99重量部、(B)を1〜50重量部、及び(C)を0.00001〜1重量部含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
リン酸塩(B)が、粒径16μm以下の粒子を97体積%以上含有する粉体からなる請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
リン酸塩(B)の熱重量分析法による減量開始温度が245℃以上である請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物からなる2ミルの層が9ミルのポリプロピレン層で挟まれた多層構造体を121℃で60分間レトルト処理した後の、前記樹脂組成物層の示差走査熱量計(DSC)測定において、80〜135℃に現れる第2吸熱ピークの吸熱量(ΔH)と、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の結晶融解に対応する第1吸熱ピークの吸熱量(ΔH)との比(ΔH/ΔH)が3以上である請求項1〜3のいずれか記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の樹脂組成物からなる層の両側に、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル及びポリアクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる層を有する多層構造体。
【請求項6】
前記樹脂組成物からなる層の両側に接着性樹脂層を介してポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル及びポリアクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる層を有する請求項5記載の多層構造体。
【請求項7】
121℃で60分間レトルト処理した後の樹脂組成物層の示差走査熱量計(DSC)測定において、80〜135℃に現れる第2吸熱ピークの吸熱量(ΔH)と、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の結晶融解に対応する第1吸熱ピークの吸熱量(ΔH)との比(ΔH/ΔH)が3以上である請求項5又は6記載の多層構造体。
【請求項8】
121℃で60分間レトルト処理してから24時間経過後の酸素透過速度が、レトルト処理する前の酸素透過速度の10倍以下である請求項5〜7のいずれか記載の多層構造体。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか記載の多層構造体を溶融混練してなる回収組成物。
【請求項10】
請求項5〜8のいずれか記載の多層構造体からなる包装容器。
【請求項11】
請求項10記載の包装容器に内容物を充填してなるレトルト包装体。
【請求項12】
エチレン含有量が15〜65モル%でケン化度が95モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)及び沸点150℃以上の共役ポリエン化合物(C)からなる樹脂組成物に対して、水和物を形成可能なリン酸塩(B)を添加して溶融混練することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
リン酸塩(B)が、粒径16μm以下の粒子を97体積%以上含有する粉体からなる請求項12記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
リン酸塩(B)が、粒径13μm以下の粒子を97体積%以上含有する粉体からなる請求項12記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
リン酸塩(B)が、粒径10μm以下の粒子を97体積%以上含有する粉体からなる請求項12記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
溶融混練する前に、予めリン酸塩(B)を粉砕する工程を有する請求項12〜15のいずれか記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項17】
溶融混練する前に、予めリン酸塩(B)を乾燥する工程を有する請求項12〜16のいずれか記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項18】
溶融混練する際の温度が、190〜260℃である請求項12〜17のいずれか記載の樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−314788(P2007−314788A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136149(P2007−136149)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】