説明

樹脂被覆装置及び樹脂被覆方法

【課題】樹脂被覆装置において、外観による識別が可能な樹脂被覆線材を低い製造コスト製造する。
【解決手段】本発明の樹脂被覆装置1は、走行する金属線材Wの全周囲に対して、第1の樹脂3を金属線材の長手方向に沿って連続的に被覆する被覆手段4と、被覆手段4で第1の樹脂3の被覆層が形成された被覆線材の周囲の一部に対して、第2の樹脂5を長手方向に沿って断続的に被覆することで断続する複数の樹脂突起6を形成する突起形成手段7を備えていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属線材の表面に樹脂を被覆させる樹脂被覆装置及び樹脂被覆方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅や鋼などの金属線材(棒材、線材あるいはパイプ材)の表面を、PVCやPEなどの熱可塑性樹脂で被覆する技術は従来より公知である。このような金属線材に対する熱可塑性樹脂の被覆は、線材用の樹脂被覆装置にて行われる。
ところで、このような熱可塑性樹脂を被覆した線材(以下、樹脂被覆線材という)については、被覆後の外見に目立った特徴がないため、外観による識別が非常に難しくなっている。特に、交流電力ケーブルや信号ケーブルには複数の樹脂被覆線材を撚り集めて1本のケーブルとしたものがあり、このようなケーブルでは配線工事での樹脂被覆線材同士の識別を簡単にしたいという要望が強い。そのため、外見に目立った特徴がないこのような樹脂被覆線材に突起などの目印を設けて、識別性に優れた樹脂被覆線材を得る技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、樹脂被覆線材の表面に、「長手方向に連続した突起」を形成して、樹脂被覆線材の識別性を高めたものが開示されている。この特許文献1の技術は、樹脂被覆装置において、金属線材の表面に配される樹脂とは異なる第2の樹脂、例えば着色剤などが含まれた樹脂などを溶融状態で供給するものである。この特許文献1の装置では、補助押出機から押し出された第2の樹脂を、クロスヘッドボディの内部で第1の樹脂に重ね合わせ、重ね合わせた状態のまま樹脂流路から押し出して、金属線材の表面を被覆する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−84611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1における樹脂被覆線材は、連続した突起を形成したものであるため、突起を形成しないものより多くの樹脂が必要となる。特許文献1の図を参照すると比較的微小な突起が示されているに過ぎないが、この突起の幅を金属線材と同程度の幅広く形成したり、高さをより高く形成したりすると、更に多くの樹脂が必要となる。しかしながら、特許文献1においては、樹脂の使用量を抑える手段については何ら提案されていない。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、外周に突起が形成された樹脂被覆線材の樹脂の使用量を抑えることができる樹脂被覆装置及び樹脂被覆方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の樹脂被覆装置は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の樹脂被覆装置は、走行する金属線材の全周囲に対して、第1の樹脂を当該金属線材の長手方向に沿って連続的に被覆する被覆手段と、前記被覆手段で第1の樹脂の被覆層が形成された樹脂被覆線材の周囲の一部に対して、第2の樹脂を前記長手方向に沿って断続的に被覆することで断続する複数の樹脂突起を形成する突起形成手段を備えていることを特徴とするものである。
【0007】
なお、前記突起形成手段は、前記樹脂突起を形成する凹部を備えると共に、前記樹脂被覆線材の全周囲を覆う閉状態と当該周表面から離間した開状態とで繰り返し開閉可能な金型と、前記金型が閉状態にある際に、前記第1の樹脂の被覆層の表面に対向する前記凹部の内部に溶融状態の第2の樹脂を供給する樹脂供給部と、を有しているのが好ましい。
また、前記金属線材を走行させる走行状態と、金属線材の走行を一時的に停止した停止状態とに切り換え自在な引取手段を備え、前記突起形成手段は、前記引取手段が停止状態で且つ前記金型が閉状態にある際に、前記金型の前記凹部内に第2の樹脂を供給するように構成されているのが好ましい。
【0008】
さらに、前記突起形成手段は、前記金型を金属線材の走行する方向に沿って移動させる金型移動部を有しているのがより好ましい。
さらにまた、前記金型移動部は、前記金型を金属線材と同じ速度で同方向に移動させる同期状態と、前記金型を金属線材の走行する方向とは反対方向に移動させて原点に復帰させる復帰状態と、に切り換え自在とされていて、前記突起形成手段は、金型移動部が同期状態で且つ前記金型が閉状態にある際に、前記金型の凹部内に第2の樹脂を供給するように構成されていても良い。
一方、本発明の樹脂被覆方法は、金属線材を長手方向に沿って走行させつつ、金属線材の全周囲に対して、第1の樹脂を当該金属線材の長手方向に沿って連続的に被覆する樹脂被覆方法において、前記第1の樹脂による被覆層が形成された樹脂被覆線材周囲の一部に対して、第2の樹脂を前記長手方向に沿って断続的に被覆することで、当該長手方向に断続して複数の樹脂突起を形成することを特徴とするものである。
【0009】
なお、前記樹脂突起を形成する凹部を備えると共に、前記樹脂被覆線材の全周囲を覆う閉状態と当該周表面から離間した開状態とで繰り返し開閉可能な金型を用意しておき、前記金型が閉状態にある際に、前記第1の樹脂による被覆層の表面に対向する前記凹部の内部に溶融状態の第2の樹脂を供給することで樹脂突起を形成するのが好ましい。
また、前記金属線材を走行させる走行状態と、金属線材の走行を一時的に停止した停止状態とを切り換え自在としておき、停止状態で且つ前記金型が閉状態にある際に、前記凹部内に第2の樹脂を供給するのが良い。
【0010】
さらに、前記金型を金属線材と同じ送出速度で同方向に移動させる同期状態と、前記金型を金属線材の走行する方向と反対方向に移動させて原点に復帰させる復帰状態とを切り換え自在としておき、同期状態で且つ前記金型が閉状態にある際に、前記金型の前記凹部内に第2の樹脂を供給しても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂被覆装置及び樹脂被覆方法によれば、外周に突起が形成された樹脂被覆線材の樹脂使用量を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態の樹脂被覆装置を模式的に示す正面断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】第1実施形態の樹脂被覆方法の工程を示す図である。
【図4】第1実施形態の樹脂被覆装置を用いて製造される樹脂被覆線材を模式的に示す斜視図である。
【図5】(a)は第2実施形態の樹脂被覆装置を模式的に示す正面図であり、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図6】第2実施形態の樹脂被覆方法の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下、本発明に係る樹脂被覆装置1の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1は、第1実施形態に係る樹脂被覆装置1の全体構成を示している。
第1実施形態の樹脂被覆装置1は、金属線材Wをその長手方向に沿って走行させることが可能な被覆線材を引き取る引取機(図示せず)と、この引取機により引き取られることで走行する金属線材Wの全周囲に対して、第1の樹脂3で被覆する被覆手段4とを備えている。さらに、この樹脂被覆装置1は、被覆手段4で第1の樹脂3の被覆層が形成された被覆線材の周囲の一部に対して、被覆層の表面に第2の樹脂5を長手方向に沿って断続的に肉盛りする(被覆する)ことで、第1の樹脂3の被覆層が形成された被覆線材の長手方向に断続する複数の樹脂突起6を形成する突起形成手段7を備えている。
【0014】
なお、以下の説明において、本実施形態の樹脂被覆装置1は、金属線材Wを図1の左側から右側に向かって水平に移動(走行)させつつ被覆を行うものとし、図1の紙面における左側を装置の説明をする際の上流側、図1の紙面における右側を装置の説明をする際の下流側とする。また、図1の紙面における上下を装置の説明をする際の上下とする。
樹脂被覆装置1において樹脂を被覆する対象である金属線材Wは、銅や鋼などの金属で形成された長尺材(線材、板材、棒材またはパイプ材)である。本実施形態の金属線材Wには銅製で断面形状が矩形の線材が用いられているが、金属線材Wの断面形状は例えば丸形(円形)や環形であっても良いし、金属線材Wには中実な棒材や板材、或いは中空のパイプ材などを用いることもできる。
【0015】
金属線材Wを水平方向に沿って移動させる引取機(図示せず)は、後述するクロスヘッドボディ8の下流側に配備されていて、金属線材Wを被覆した後の被覆線材を引き取ることで、下流側(図1における右側)に向かって水平に送るものとなっている。このようにして引取機で移動させられた金属線材Wは、被覆手段4を通過する。
被覆手段4は、金属線材Wの周囲を第1の樹脂3で被覆するものである。被覆手段4は、金属線材Wを案内する芯金10と、この芯金10で案内された金属線材Wの全周囲に第1の樹脂3を被覆するダイス11と、これらの芯金10とダイス11とを内部に収容するクロスヘッドボディ8(被覆手段4の本体)とを有している。
【0016】
詳しくは、芯金10は、漏斗を水平方向に横倒ししたような形状を有する部材であり、大径に開口する大径筒部10aと、この大径筒部10aより小径に開口する小径筒部10bと、大径筒部10aと小径筒部10bとの間に配備される円錐筒部10cとを有している。芯金10は、大径に開口した大径筒部10aを上流側に向けると共に小径に開口した小径筒部10bを下流側に向けるようにして配備されている。
【0017】
クロスヘッドボディ8は溶融した第1の樹脂3から加わる圧力に耐えられるように金属などの材料を用いて厚肉に形成されている。クロスヘッドボディ8の内部には、芯金10の外形(大径筒部10aと円錐筒部10cの上流側の外形)に合わせて空洞が形成されており、この空洞には、芯金10が収容されていて、当該芯金10の小径筒部10bの先端がクロスヘッドボディ8から下流側に向かって突出するようになっている。
【0018】
クロスヘッドボディ8の空洞は芯金10の外形よりやや大きいサイズに形成されており、クロスヘッドボディ8の内周面と芯金10の外周面との間に隙間が形成されている。このクロスヘッドボディ8と芯金10との間に形成される隙間は、溶融した第1の樹脂3を流通可能な流路となっている。この流路の上流側には図示していない押出機が配備されており、流路には押出機で可塑化された第1の樹脂3が供給されている。
【0019】
一方、ダイス11は、クロスヘッドボディ8の下流側となる部分に嵌り込むように配備されている。このダイス11の内部にも、芯金10の外形(円錐筒部10cの下流側の外形と小径筒部10b)に合わせて空洞が形成されており、この空洞に芯金10の小径筒部10bが収容されている。
ダイス11の空洞も芯金10の外形よりやや大きいサイズに形成されており、ダイス11の内周面と芯金10の外周面との間に隙間が形成されている。このダイス11と芯金10との間に形成される隙間も溶融した第1の樹脂3を流通可能な流路となっており、この流路を流通した第1の樹脂3はダイス11の下流側の面から押し出される。
【0020】
上述した被覆手段4では、この芯金10の下流側に向けて突出した部分10bにダイス11を被せると共に、クロスヘッドボディ8に下流側からダイス11を挿し込んでおり、このクロスヘッドボディ8の開口(下流側を向く面)をダイス抑え部材12で蓋をするようにして固定している。
このような構成を備えた被覆手段4においては、クロスヘッドボディ8内の流路を通過してきた第1の樹脂3がダイス11の下流側の面から押し出され、芯金10の内部を通過してきた金属線材Wの全周囲に塗布されるようになり、第1の樹脂3で長手方向に連続的に被覆された金属線材W(以下、樹脂被覆線材という)が製造されることとなる。
【0021】
ところで、このようにして製造された樹脂被覆線材について、第1の樹脂3の被覆層に上にさらに帯状の突起(樹脂突起6)を形成したものがある。
そこで、本発明の樹脂被覆装置1では、上述した被覆手段4で被覆層が形成された樹脂被覆線材の周囲(表面)を第2の樹脂5で長手方向に沿って断続的に被覆することにより、第2の樹脂5で隆起状に形成された樹脂突起6を長手方向に断続して複数形成する突起形成手段7をさらに設けている。
【0022】
次に、この突起形成手段7について、詳しく説明する。
図1及び図2に示すように、突起形成手段7は、上述した被覆手段4の下流側に隣接して配備されている。突起形成手段7は、樹脂突起6を形成する凹部13を備えると共に、前記被覆線材の全周囲を覆う閉状態と当該周表面から離間した開状態とで繰り返し開閉可能な金型と、金型が閉状態にある際に、この金型の凹部13に溶融された第2の樹脂5を供給する樹脂供給部14と、を有している。
【0023】
突起形成手段7を構成する金型は、移動金型及び固定金型から構成されている。本実施形態では固定金型として下金型17が、移動金型として上金型16が設けられている。下金型17は、その上面が樹脂被覆線材の外周の一部に合わせて形成されており、その上面に樹脂被覆線材を載置可能となっている。なお、樹脂被覆線材の断面形状が矩形の場合の図示例では、下金型17が平板状に形成されており、その上面が平面に形成されている。また、樹脂突起6を形成する際には、この下金型17は、上下方向に高さ調整が可能な金型支持台18に載せられた状態で高さ位置が固定される。
【0024】
図2に示すように上金型16は、ブロック状の部材であって、その下面には下方に向かって開口する溝部19が形成されている。この溝部19は、上金型16の下面に上流側から下流側に向かって直線状に伸びるように樹脂被覆線材の上面形状に合わせて形成されている。それゆえ、上金型16を下降させて下金型17に重ね合わせると、この上金型16の溝部19に樹脂被覆線材が入り込んで収容される。
【0025】
一方、図1に示すように、この上金型16の溝部19の上面には、溝部19からさらに上方に向かって凹むように形成された凹部13が設けられている。この凹部13は、後述する樹脂突起6に対応した形状を備えており、本実施形態の場合であれば直方体形状(図4(a)に示すような形状)の樹脂突起6を形成可能となっている。この凹部13の上面(凹部13の開口と反対の側)には、溶融した第2の樹脂5を供給する樹脂案内孔20の開口部が形成されている。
【0026】
なお、上述した上金型16と下金型17との間には、上金型16を下降させて下金型17に重ねた際に、上金型16と下金型17とが樹脂被覆線材の断面形状と合致する形状を成すように、両金型の水平方向の位置決めを行う位置決めピン21が設けられている。
樹脂供給部14は、第2の樹脂5を溶解して凹部13に供給するものであり、上金型16の内部に上下に貫通するように形成されると共に第2の樹脂5を案内する樹脂案内孔20と、この樹脂案内孔20に溶融した第2の樹脂5を供給する樹脂供給ノズル22とを有している。
【0027】
上述した凹部13の上面に形成される樹脂案内孔20の開口部にはゲートバルブ23が設けられている。このゲートバルブ23は凹部13に対する第2の樹脂5の流通を遮断可能となっており、ゲートバルブ23を開くと溶融された第2の樹脂5で凹部13を充填できるようになっている。また、上金型16の上側には射出成形機の樹脂供給ノズル22が配備されており、樹脂供給ノズル22から射出された第2の樹脂5を樹脂案内孔20に供給可能となっている。言い換えれば、このゲートバルブ23は、樹脂流路(樹脂案内孔20)を開にしたり閉にしたりするために、樹脂流路の途中にスライド可能なゲート部材を備えた構造とされている。そして、外部から機械的動力(動力源は不図示)によりゲート部材を前後させることにより樹脂流路を開閉して樹脂の流れを止めたりそのまま流れるようにしたりすることができる。
【0028】
なお、ゲートバルブ23の構成は、上記の例に限らず、樹脂流路(樹脂案内孔20)を開にしたり閉にしたりするために、樹脂流路の途中に回転可能なゲート部材を備えた構造とされており、外部から機械的動力によりゲート部材を回転させると、ロータリーバルブのように、ゲート部材に形成されている流路が、樹脂流路(樹脂案内孔20)と連通しない閉状態と連通する開状態とで切り換わり、樹脂の流れを止めたりそのまま流れるようにしたりするように構成してもよい。また、回転可能なゲート部材は、バタフライバルブのように樹脂流路を開閉する構成としてもよい。
【0029】
上金型16及び下金型17の内部には、押し出された樹脂の冷却を早めて樹脂突起6の効率的な形成を可能とするため、冷却水を流す冷却水流路24が形成されている。
金型開閉部15は、移動金型を案内しながら移動させて金型を開閉させるものである。本実施形態では、金型開閉部15は、上金型16を上下に案内して上金型16の凹部13を被覆層に対向させる閉状態と被覆層の周表面から離間した開状態とを交互に繰り返し可能なものとされている。金型開閉部15は、上金型16の四箇所(樹脂案内孔20の回りを水平面上でバランスよく取り囲むような4位置)に設けられて上金型16を上下に沿って案内するスライドレール25と、下金型17に対して上金型16を上下方向に移動させるラックアンドピニオン式の昇降機構26とを有している。
【0030】
スライドレール25は、水平断面でL字状の断面を備えた棒状の部材であり、上下方向に沿って立設するように取り付けられて、上金型16の水平方向に沿った移動を規制しつつ上金型16を上下に案内できるようになっている。
昇降機構26は、上金型16の側面に上下方向に直線状に設けられたラック部27と、ラック部27と噛合して上金型16を上下に移動させるピニオンギヤ28とを有しており、電動モータなどを用いてピニオンギヤ28を回転駆動させることにより上金型16を下金型17に対して昇降させて、上金型16および下金型17からなる金型を開閉することができるようになっている。
【0031】
次に、金属線材Wに樹脂被覆を行いながら上述した突起形成手段7を用いて樹脂突起6を形成する方法、言い換えれば本実施形態の樹脂被覆方法を説明する。
図3(a)〜図3(d)に示すように、本実施形態の樹脂被覆方法は、金属線材Wを長手方向に沿って走行させ、次に、走行する金属線材Wの表面に溶融された第1の樹脂3を連続的に押し出して、この第1の樹脂3で金属線材Wの表面を全周に亘って被覆しながら長手方向に連続的に被覆し、被覆された第1の樹脂3の表面を第2の樹脂5で断続的に被覆することにより、第1の樹脂3の表面に当該第2の樹脂5で隆起状に形成された樹脂突起6を長手方向に断続して複数形成するものである。
【0032】
具体的には、樹脂被覆は以下の手順で行われる。
図3(a)に示すように、金属線材Wを図示しない引取機によって下流側から引き取って水平方向に沿って走行(移動)させ、この走行している金属線材Wの表面に溶融された第1の樹脂3を押し出して、第1の樹脂3で金属線材Wの表面を全周に亘って被覆する。
次いで、図3(b)に示すように、金型開閉部15を用いて上金型16を下降させ、金型が閉じた状態(閉状態)とする。
【0033】
この状態では、樹脂被覆線材(金属線材W)は所定の送出速度で絶え間なく移動(連続的に走行)しており、樹脂被覆線材の移動を一時的に停止しなければこの樹脂被覆線材の表面に樹脂突起6を形成することができない。
そこで、第1実施形態の樹脂被覆方法では、上述した引取機により金属線材Wを連続して引き取って走行させる走行状態と、金属線材Wの引き取りを一時的に停止した停止状態とを切り換え自在に選択できるようにしておく。そして、停止状態を選択した際に、閉状態にある金型の凹部13内に第2の樹脂5を供給し、凹部13内を第2の樹脂5で充填して樹脂突起6を形成する。
【0034】
つまり、図3(c)に示すように、樹脂突起6を形成するには、金型が閉状態にある際に金属線材Wの走行を一時的に停止(停止状態に)する。
次に、図3(c)に示すように、ゲートバルブ23を開状態にして、第2の樹脂5を上金型16の凹部13に導入する。そうすると、第2の樹脂5により凹部13が充填され、第2の樹脂5で樹脂突起6が形成されると共に被覆層に樹脂突起6が接合される。
【0035】
図3(d)に示すように、第2の樹脂5により凹部13が充填され、樹脂突起6が被覆層に形成されたらゲートバルブ23を閉じ、上金型16を上昇させ、金型が開いた状態(開状態)とした後、金属線材Wの引き取りを再開して金属線材Wを停止状態から走行状態にする。これ以降は、上述した図3(a)〜図3(d)の操作を繰り返すことにより、被覆層が形成された樹脂被覆線材の周囲の一部に対して、複数の樹脂突起6を長手方向に断続的に形成することが可能となる。
【0036】
図4(a)に示すように、上述の樹脂被覆方法で金属線材Wに被覆層が形成された樹脂被覆線材の表面に形成される樹脂突起6は、金属線材Wの長手方向に断続的に複数設けられる。このように樹脂突起6を金属線材Wの長手方向に断続的に形成すれば、突起物の成形に必要な樹脂の量が連続的に形成したものに比べて少なく抑えることができる。
なお、上述した例は、矩形状の金属線材Wを用いた樹脂被覆線材の表面に樹脂突起6を形成した例であったが、図4(b)に示すように断面形状が丸形状の金属線材Wを用いた樹脂被覆線材の表面に樹脂突起6を形成することもできる。
【0037】
なお、上述した第2の樹脂5は、第1の樹脂3と成形による一体化が可能なものであれば異なる種類の樹脂でも良いし、同じ種類の樹脂でも良い。また、第2の樹脂5を第1の樹脂3と同色にしても良いし、異なった色としてもよい。
以上述べた如く、第1実施形態の樹脂被覆装置1を用いることで、外周に突起が形成された樹脂被覆線材の樹脂使用量を抑えることができるようになる。
「第2実施形態」
次に、第2実施形態の樹脂被覆装置1を説明する。
【0038】
図5(a)及び図5(b)に示すように、第2実施形態の樹脂被覆装置1は、金属線材Wの走行を一時停止させた状態で樹脂突起6を形成するのではなく、突起形成手段7を金属線材Wと同期して移動させることにより、一時的に金属線材Wに対する相対速度をゼロにして樹脂突起6を形成するものである。
具体的には、第2実施形態の突起形成手段7は、金型、樹脂供給部14及び金型開閉部15に加えて、金型を金属線材Wの送り出し方向に向かって移動させる金型移動部29を有している。そして、この金型移動部29を用いて閉状態にある金型を金属線材Wと同じ送出速度で同じ方向に移動させる同期状態にあるときに被覆層が形成された樹脂被覆線材の表面(周囲の一部)に樹脂突起6を形成し、樹脂突起6の形成が終了した後で開状態にある金型を送出方向と反対方向に移動させて原点に復帰させる復帰状態に移行させる。つまり、第2実施形態の樹脂被覆方法は、この金型が開状態にある際の復帰状態と金型が閉状態にある際の同期状態とを交互に繰り返すことにより、被覆層の表面に複数の樹脂突起6を長手方向に断続的に形成するものである。
【0039】
以下に、金型移動部29とこの金型移動部29を用いて行われる第2実施形態の樹脂被覆方法とを詳しく説明する。
金型移動部29は、第1実施形態と略同じ構成を有する芯金10、クロスヘッドボディ8及びダイス11からなる被覆手段4に対して、金型、樹脂供給部14及び金型開閉部15からなる突起形成手段7を上流側と下流側とに水平往復自在に移動させるものである。この金型移動部29は、突起形成手段7を下方から支持するスライダ30と、このスライダ30を左右方向に案内する受台31とを有している。また、金型移動部29には、受台31に対してスライダ30を水平方向に往復可能に移動させる駆動機構36が設けられている。
【0040】
この金型移動部29を構成する部材のうち、受台31は位置が固定された台であって、その上側が平坦面とされた台状の部材である。この受台31の上面には、上方に向かって開口するような略コ字状の断面を有する案内溝33が形成されている。この案内溝33は上流側から下流側に向かって水平に形成されている。
スライダ30は、受台31の上側に配備された板状の部材である。スライダ30は、図5(b)に示すように側面が案内溝33によって案内される程度の幅を備えており、下側の一部を溝内に埋没させるようにして案内溝33内を移動可能となっている。また、スライダ30の下面には平坦な面が形成されており、その平坦な面を案内溝33の底面に面状態で接触させるようにしている。このように構成されていることによってスライダ30は上流方向または下流方向に向かって水平に案内可能となっている。
【0041】
スライダ30の上側には、上述した上金型16(移動金型)、下金型17(固定金型)、樹脂供給部14及び金型開閉部15が載置されており、スライダ30はこれらの部材を載せたまま移動可能となっている。また、このスライダ30の上面には、実施形態1と同様のスライドレール25が設けられている他、下金型17には、上金型16に設けられた後述のピンクランプ部35に向かって上方に伸びる複数のクランプピン34が設けられている。
これらのクランプピン34は上金型16に設けられたピンクランプ部35にそれぞれ挿通している。これによりクランプピン34をピンクランプ部35でロックさせることで上金型16と下金型17とを締め付けるクランプ手段が構成されている。
【0042】
これらのスライダ30と受台31との間には、ラックアンドピニオン式の駆動機構36が設けられている。この駆動機構36は、スライダ30の側面に上流から下流方向に沿って形成されたラック部37と、このラック部37と噛合するピニオンギヤ38と、ピニオンギヤ38を回転駆動させると共に受台31に取り付けられた駆動モータ39とを有している。駆動機構36では、駆動モータ39によりピニオンギヤ38を所望の方向に回転駆動させると、ラック部37がピニオンギヤ38に噛み合いながら水平に移動し、ラック部37が固定されているスライダ30が受台31に対して上流方向または下流方向の何れかに移動可能となっている。
【0043】
なお、第2実施形態の樹脂被覆装置1では、上金型16の側方に、下方に向かって突出するL字状の突端部40が取り付けられている。そして、この突端部40の側面に昇降機構26のラック部27が上下方向に沿って形成されている。このラック部27に対しては、ピニオンギヤ28が噛合しており、ピニオンギヤ28を電動モータなどにより回転駆動させると、上金型16が上下に移動して金型を開閉するようになっている。
【0044】
次に、第2実施形態の樹脂被覆装置1を用いて樹脂突起6を形成する方法、言い換えれば第2実施形態の樹脂被覆方法を説明する。
図6(a)〜図6(f)に示すように、第2実施形態の樹脂被覆方法は、第1実施形態と同様に、金属線材Wを長手方向に沿って走行させ、次に、走行する金属線材Wの表面に溶融された第1の樹脂3を押し出して、この第1の樹脂3で金属線材Wの全周に亘って且つ長手方向に連続的に被覆し、被覆された第1の樹脂3の表面を第2の樹脂5で長手方向に沿って断続的に被覆することにより、第1の樹脂3の表面に当該第2の樹脂5で隆起状に形成された樹脂突起6を長手方向に断続して複数形成するものである。第2実施形態の樹脂被覆方法が第1実施形態と異なっているのは、金属線材Wを引取機で連続して引き取りながら走行させるようにしておいて、突起形成手段7を金属線材Wと同期して移動させることにより、一時的に金属線材Wに対する突起形成手段7の相対速度をゼロにして樹脂突起6を形成している点である。
【0045】
まず、図6(a)に示すように、水平方向に沿って走行する金属線材Wの表面に溶融された第1の樹脂3を押し出して、第1の樹脂3で金属線材Wの全周囲に亘って且つ長手方向に連続的に被覆する。
この状態では、金属線材Wは引取機によって所定の走行(引き取り)速度で連続して(絶え間なく)引き取られており、このように金型との間に速度差がある金属線材Wに対しては、速度差を無くさない限り樹脂突起6を成形することもできない。
【0046】
そこで、第2実施形態の樹脂被覆方法では、金属線材Wの走行(引き取り)速度と同じ速度で且つ金属線材Wの走行方向と同じ方向に、金型移動部29を用いて突起形成手段7を移動させる。
図6(b)に示すように、金型が閉状態となると同時に金型移動部29を移動開始させることによって金型と金属線材Wとの速度差がなくなると、停止状態の場合と同じようにして金型の凹部13を被覆層の表面の所望位置に確実に対向させることができる。そして、図6(c)に示すように、第1実施形態と同様にゲートバルブ23を開状態にすれば上金型16の凹部13に第2の樹脂5が充填され、第1の樹脂3の被覆層が形成された樹脂被覆線材の表面(周囲の一部)に樹脂突起6を容易に形成することができる。
【0047】
図6(d)に示すように、樹脂突起6が被覆層に形成されたらゲートバルブ23を閉じ、上金型16を上昇させる。
そして、図6(e)に示すように上金型16が樹脂突起を金型外へ取り出し可能な所定の高さまで上昇し開状態となったら、スライダ30を走行方向と反対の方向に移動させる。そして、図6(f)に示すようにスライダ30を元の位置に向けて移動させ図6(a)に示す状態に復帰させる。
【0048】
これ以降は、図6(b)〜図6(c)に示すようにスライダ30を走行方向に移動させる同期状態と、図6(d)〜図6(f)に示すように移動限で停止したスライダ30を走行方向とは反対方向に移動させる復帰状態とを繰り返すことにより、被覆層の表面に複数の樹脂突起6を長手方向に断続的に形成することが可能となる。
以上述べた如く、第2実施形態の樹脂被覆装置1を用いることで、突起物を有する樹脂被覆線材を連続的に製造するに当たって、突起物の成形に必要な樹脂の量が連続的に形成したものに比べて少なく抑えることができる。
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせ、金属線材の断面形状、樹脂突起の形状などを適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 樹脂被覆装置
2 送出手段
3 第1の樹脂
4 被覆手段
5 第2の樹脂
6 樹脂突起
7 突起形成手段
8 クロスヘッドボディ
9 送出ローラ
10 芯金
10a芯金の大径筒部
10b芯金の小径筒部
10c芯金の円錐筒部
11 ダイス
12 ダイス抑え部材
13 凹部
14 樹脂供給部
15 押圧部
16 上金型
17 下金型
18 金型支持台
19 溝部
20 樹脂案内孔
21 位置決めピン
22 樹脂供給ノズル
23 ゲートバルブ
24 冷却水流路
25 スライドレール
26 昇降機構
27 ラック部
28 ピニオンギヤ
29 金型移動部
30 スライダ
31 受台
33 案内溝
34 クランプピン
35 ピンクランプ部
36 駆動機構
37 駆動機構のラック部
38 駆動機構のピニオンギヤ
39 駆動機構の駆動モータ
40 突端部
W 金属線材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する金属線材の全周囲に対して、第1の樹脂を当該金属線材の長手方向に沿って連続的に被覆する被覆手段と、
前記被覆手段で第1の樹脂の被覆層が形成された樹脂被覆線材の周囲の一部に対して、第2の樹脂を前記長手方向に沿って断続的に被覆することで断続する複数の樹脂突起を形成する突起形成手段を備えていることを特徴とする樹脂被覆装置。
【請求項2】
前記突起形成手段は、
前記樹脂突起を形成する凹部を備えると共に、前記樹脂被覆線材の全周囲を覆う閉状態と当該周表面から離間した開状態とで繰り返し開閉可能な金型と、
前記金型が閉状態にある際に、前記第1の樹脂の被覆層の表面に対向する前記凹部の内部に溶融状態の第2の樹脂を供給する樹脂供給部と、
を有していることを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆装置。
【請求項3】
前記金属線材を走行させる走行状態と、金属線材の走行を一時的に停止した停止状態とに切り換え自在な引取手段を備え、
前記突起形成手段は、前記引取手段が停止状態で且つ前記金型が閉状態にある際に、前記金型の前記凹部内に第2の樹脂を供給するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の樹脂被覆装置。
【請求項4】
前記突起形成手段は、前記金型を金属線材の走行する方向に沿って移動させる金型移動部を有していることを特徴とする請求項2に記載の樹脂被覆装置。
【請求項5】
前記金型移動部は、前記金型を金属線材と同じ速度で同方向に移動させる同期状態と、前記金型を金属線材の走行する方向とは反対方向に移動させて原点に復帰させる復帰状態と、に切り換え自在とされていて、
前記突起形成手段は、金型移動部が同期状態で且つ前記金型が閉状態にある際に、前記金型の凹部内に第2の樹脂を供給するように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の樹脂被覆装置。
【請求項6】
金属線材を長手方向に沿って走行させつつ、金属線材の全周囲に対して、第1の樹脂を当該金属線材の長手方向に沿って連続的に被覆する樹脂被覆方法において、
前記第1の樹脂による被覆層が形成された樹脂被覆線材周囲の一部に対して、第2の樹脂を前記長手方向に沿って断続的に被覆することで、当該長手方向に断続して複数の樹脂突起を形成することを特徴とする樹脂被覆方法。
【請求項7】
前記樹脂突起を形成する凹部を備えると共に、前記樹脂被覆線材の全周囲を覆う閉状態と当該周表面から離間した開状態とで繰り返し開閉可能な金型を用意しておき、
前記金型が閉状態にある際に、前記第1の樹脂による被覆層の表面に対向する前記凹部の内部に溶融状態の第2の樹脂を供給することで樹脂突起を形成することを特徴とする請求項6に記載の樹脂被覆方法。
【請求項8】
前記金属線材を走行させる走行状態と、金属線材の走行を一時的に停止した停止状態とを切り換え自在としておき、
停止状態で且つ前記金型が閉状態にある際に、前記凹部内に第2の樹脂を供給することを特徴とする請求項7に記載の樹脂被覆方法。
【請求項9】
前記金型を金属線材の走行速度と同じ速度で同方向に移動させる同期状態と、前記金型を金属線材の走行する方向と反対方向に移動させて原点に復帰させる復帰状態とを切り換え自在としておき、
同期状態で且つ前記金型が閉状態にある際に、前記金型の前記凹部内に第2の樹脂を供給することを特徴とする請求項8に記載の樹脂被覆方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−121251(P2012−121251A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274755(P2010−274755)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】