説明

樹脂被覆金属板、金属缶及び金属缶用蓋

【課題】 高温処理或いはホットウォーマー等の保温に付された場合にも低分子量成分の溶出による内容物の濁りのない、連続製缶可能な金属缶、特にリシール缶を提供することである。
【解決手段】 金属板表面に少なくとも上層及び下層の2層から成る実質上未配向のポリエステル樹脂被覆層が形成されて成る樹脂被覆金属板において、前記上層ポリエステル樹脂被覆層がナフタレンジカルボン酸成分を0〜15モル%の量で含有するポリエステル樹脂から成り、前記下層ポリエステル樹脂層がナフタレンジカルボン酸成分を8〜25モル%の量で且つ上層を形成するポリエステル樹脂のナフタレンジカルボン酸成分の含有量よりも多く含有するポリエステル樹脂から成ることを特徴とする樹脂被覆金属板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂被覆金属板に関し、より詳細には、高温レトルト殺菌等に付された場合にも低分子量成分の溶出による濁りが防止されていると共に、高度の加工にも耐え得る優れた加工性、耐食性等を備えた樹脂被覆金属板、及びこの樹脂被覆金属板を成形して成る金属缶並びに金属缶用蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
金属素材を熱可塑性ポリエステルフィルムで被覆した樹脂被覆金属板は、製缶用材料として古くから使用されており、かかる樹脂被覆金属板を絞り加工、或いは絞り・しごき加工等に付して、飲料などを充填するためのシームレス缶とすることもよく知られている。
【0003】
このような樹脂被覆金属板としては、加工性、耐食性、香味保持性などの見地からエチレンテレフタレート単位を主体とし、所望により他のエステル単位を含むポリエステル或いは共重合ポリエステルが使用されていた(特許文献1等)。
【0004】
一般にポリエチレンテレフタレートは、結晶性であると共に高い融点を有し、引っ張り強さ、耐衝撃性等優れた諸性能を有するが、高温湿熱条件下では急激に物性が低下するという欠点を有し、更に内容物がコーヒー飲料等のように低酸性であり且つホットベンダーに付される場合等のように過酷な条件に付されると、通常の状態では満足し得るものでも耐食性及び耐デント性が低下し、且つポリエステルのオリゴマー成分が溶出して、内容物に濁りが発生するという問題が生じていた。特に、近年レトルト殺菌の合理化や効率化のために、高温レトルトが望まれており、高温でのレトルトでは、フィルム中に含まれる低分子量成分の内容物への移行量が大きくなり、本来水溶液に対する溶解度の極めて小さいものである成分の抽出が顕著になる。内容物に移行する量は、厚生省告示規則、及び米国FDA規則による制限量よりもはるかに少なくても、高温処理、或いは長期保存される場合、内容物中に移行した比較的高分子量の成分は凝集し、粒子サイズが大きくなって、濁りを生じる場合があり、心理的に好ましいものではない。
【0005】
このような問題を解決するものとして、本出願人により、エチレンテレフタレート単位を、全塩基性カルボン酸成分当たりのテレフタル酸成分の量が5乃至99モル%となるように含有し且つエチレンナフタレート単位を、全塩基性カルボン酸成分当たりのナフタレンジカルボン酸成分の量が1乃至95モル%となるように含有する共重合ポリエステル乃至ブレンドポリエステルの押出コートで形成されていることを特徴とする製缶用積層体が提案されている(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特開平7−108650号公報
【特許文献2】特開平10−288910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記製缶用積層体においては、高温処理及び長期保存においてポリエステル中に必然的に存在する低分子量成分の内容物中への移行を抑え、内容物の濁りを抑制することが可能であった。しかし、近年望まれる高温レトルトにおいては、内容物の濁り抑制が充分ではなかった。さらに、リシール缶のようにシームレス缶の上部を必要によりネックイン加工した後、開口端を外側にカールさせた環状カール部を形成して成る金属缶においては、カール部先端で樹脂が削れてしまうなどの問題があり、過酷な加工に耐えるものが必要であった。また、このような金属缶においては、コスト削減を図るべく、缶胴の薄肉化による軽量化が図られており、この缶胴の薄肉化に伴い、金属板に被覆される樹脂には、より高度の加工性が要求されることになり、高度の加工に耐え得る樹脂被覆金属板が要求されている。
【0008】
従って本発明の目的は、高温処理或いはホットウォーマー等による保温に付された場合にも低分子量成分の溶出による内容物の濁りが抑制されている共に、高度に加工を要するリシール缶にも適用が可能であり、更には連続製缶適性をも有する樹脂被覆金属板を提供することである。
本発明の他の目的は、高温処理或いはホットウォーマー等の保温に付された場合にも低分子量成分の溶出による内容物の濁りのない、連続製缶可能な金属缶、特にリシール缶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、金属板表面に少なくとも上層及び下層の2層から成る実質上未配向のポリエステル樹脂被覆層が形成されて成る樹脂被覆金属板において、前記上層ポリエステル樹脂被覆層がナフタレンジカルボン酸成分を0〜15モル%の量で含有するポリエステル樹脂から成り、前記下層ポリエステル樹脂層がナフタレンジカルボン酸成分を8〜25モル%の量で且つ上層を形成するポリエステル樹脂のナフタレンジカルボン酸成分の含有量よりも多く含有するポリエステル樹脂から成ることを特徴とする樹脂被覆金属板が提供される。
【0010】
本発明の樹脂被覆金属板によれば、
1.上層ポリエステル樹脂層及び下層ポリエステル樹脂層を形成するポリエステル樹脂の固有粘度[η]が0.6以上であること、
2.上層ポリエステル樹脂層と下層ポリエステル樹脂層の厚み比が1:20〜20:1であること、
3.下層ポリエステル樹脂層が、平均粒径が0.1〜5.0μmの範囲にあるシリカ滑剤を0.05〜3重量%の量で含有すること、
が好適である。
【0011】
本発明によればまた、上記樹脂被覆金属板を成形して成る金属缶、特に缶上部がリシール可能な係合部を有する口頚部であり、該口頚部の開口端が外側に巻き返され、環状のカール部が形成されて成るリシール缶が提供される。
本発明によれば更にまた、上記樹脂被覆金属板を成形して成る金属缶用蓋が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂被覆金属板においては、金属板表面に形成される樹脂被覆を、ナフタレンジカルボン酸成分を0〜15モル%の量で含有するポリエステル樹脂から成る上層、及びポリエステル樹脂層がナフタレンジカルボン酸成分を8〜25モル%の量で且つ上層を形成するポリエステル樹脂のナフタレンジカルボン酸成分の含有量よりも多く含有するポリエステル樹脂から成る下層の二層構成とすることにより、レトルト殺菌等の高温処理に付された場合やホットウォーマーやホットベンダー等の加温販売に付された場合にも低分子量成分の溶出がなく、内容物の濁りが有効に防止される。
【0013】
また上層及び下層をそれぞれ異なる特性を有するポリエステル樹脂から構成することにより、加工性、加工密着性、耐衝撃性(耐デント性)等に優れ、高度の加工に付された場合にも被膜欠陥が生じることなく、上述した口頚部先端にカール部を有するリシール缶も連続的に生産性よく製造することが可能となる。
更に、着色しやすい内容品が充填された場合にも着色されないという効果を得ることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の樹脂被覆金属板は、金属板表面に少なくとも上層及び下層の2層から成る実質上未配向のポリエステル樹脂被覆層が形成され、上層ポリエステル樹脂被覆層がナフタレンジカルボン酸成分を0〜15モル%、特に3〜15モル%の量で含有するエチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂から成り、下層ポリエステル樹脂層がナフタレンジカルボン酸成分を8〜25モル%、特に10〜20モル%の量で且つ上層を形成するポリエステル樹脂のナフタレンジカルボン酸成分の含有量よりも多く含有するエチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂から成り、しかもこの2層構成の樹脂被覆は実質上未配向であることが重要な特徴である。
【0015】
本発明においては、樹脂被覆金属板の樹脂被覆に用いられるポリエステル樹脂のジカルボン酸成分として、ナフタレンジカルボン酸成分を必須の成分とすることにより、レトルト殺菌のような高温湿熱条件下に付された場合にも低分子量成分の溶出を抑制することが可能となり、内容物の濁りの発生や、加工性、耐デント性の低下を防止することができる。
この際、含有するナフタレンジカルボン酸量が上記範囲にあることが特に重要であり、これにより上述した効果と共に、厳しい加工にも耐え得る加工性、耐着色性等の特性を充分に発現させることが可能となるのである。
【0016】
このことは後述する実施例の結果からも明らかである。上層が上記範囲よりも多い場合には、上層により確保される樹脂被覆金属板の耐食性、耐着色性を得ることが困難になる(比較例4)。また上記範囲よりも下層のナフタレンジカルボン酸成分が少ない場合には、やはりナフタレンジカルボン酸成分により得られる上述した効果を充分に得ることができず(比較例1)、一方上記範囲よりも多い場合には、耐食性に劣るようになる(比較例2)。
また上層及び下層のナフタレンジカルボン酸量が上記範囲内にある場合であっても、上層の含有量が下層の含有量よりも多い場合(比較例5)には、下層の含有量の方が多い場合(実施例3)に比して、耐着色性、耐融着性において劣っていることが明らかである。
【0017】
更に、本発明の樹脂被覆金属板のポリエステル樹脂被覆は実質上未配向であるので破断伸びが大きく、絞り、ストレッチ加工、しごき加工等の厳しい加工に付された場合にも、フィルム破断が生じることなく、加工性に優れている。その一方未配向のフィルムは、延伸フィルムに比してバリヤー性に劣るという欠点があるが、本発明においてはナフタレンジカルボン酸含有量の異なるポリエステル樹脂の2層構成とすることにより、延伸フィルムとほぼ同様のバリヤー性を付与することが可能になり、優れた耐食性を有することもできる。
【0018】
(樹脂被覆金属板)
[ポリエステル樹脂]
本発明の樹脂被覆金属板に用いられるポリエステル樹脂は、ナフタレンジカルボン酸を上述した範囲で含有する限り、従来公知のものを使用することができ、共重合ポリエステルであってもよいし、またブレンド物であってもよい。また上層及び下層を構成するポリエステル樹脂は、任意の組成のポリエステル樹脂の組み合わせを用いることもできる。
【0019】
本発明に用いるポリエステルにおいて、ナフタレンジカルボン酸は、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸から成ることが好ましいが、本発明の本質を損なわない範囲で、それ以外のナフタレンジカルボン酸の少量を含んでいてもよい。
テレフタル酸及びナフタレン−2,6−ジカルボン酸の組み合わせを主体とする酸成分とエチレングリコールを主体とするアルコール成分とから誘導されたポリエステルであることが好ましい。テレフタル酸は酸成分の50モル%以上を占めていることが好ましい。
【0020】
テレフタル酸以外の酸成分としては、イソフタル酸、P−β−オキシエトキシ安息香酸、ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等を挙げることができる。
テレフタル酸並びにナフタレンジカルボン酸以外の酸成分は、酸成分を基準にして、30モル%以下の量で含有することが許容される。
【0021】
またエチレングリコール以外のアルコール成分としては、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのグリコール成分を挙げることができる。
ポリエステルのジオール成分としては、エチレングリコールを主体とするものが好ましい。ジオール成分の95モル%以上、特に98モル%以上がエチレングリコールからなることが、分子配向性、腐食成分や香気成分に対するバリヤー性等から好ましい。
【0022】
ポリエステルは、フィルム形成範囲の分子量を有するべきであり、溶媒として、フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒を用いて測定した固有粘度〔η〕が0.6以上、特に0.65乃至1.2の範囲にあることが腐食成分に対するバリヤー性や機械的性質の点でよい。
また上層及び下層の何れのポリエステル樹脂にも、それ自体公知のフィルム用配合剤、例えば非晶質シリカ等のアンチブロッキング剤、二酸化チタン等の顔料、各種帯電防止剤、滑剤等を公知の処方によって配合することができる。
本発明においては特に、下層に平均粒径が0.1〜5.0μmの範囲にあるシリカ系の滑剤を配合することが好ましい。これにより予め多層フィルムを作成し、巻き取っておく際の多層フィルムのブロッキングを有効に防止することができる。シリカ系滑剤は下層樹脂に対し0.05〜3重量%の量で配合することが望ましい。
【0023】
さらに、本発明に用いるポリエステル樹脂としては、耐衝撃性を向上させるべくゴム状弾性を有するオレフィン系重合体をブレンドしたものを使用することができる。本発明に用いるオレフィン系重合体としては、低−、中−、高−密度のポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、アイソタクティックポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、などのオレフィンのホモポリマー又はコポリマーの他に、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)或いはこれらのブレンド物などのオレフィン系重合体を挙げることができる。
本発明においては、これらのオレフィン系重合体の中でも特に、極性ユニットを有する樹脂を含むものが好ましく、例えば、エチレン-アクリル酸コポリマーやエチレン-メタクリル酸共重合体などがあり、その中でもイオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)を最も好適に用いることができる。
【0024】
アイオノマー樹脂は、エチレンとα,β−不飽和カルボン酸との共重合体中のカルボキシル基の一部又は全部が金属陽イオンで中和されたイオン性塩であり、中和の程度、すなわちイオン濃度がその物理的性質に影響を及ぼしている。一般に、アイオノマー樹脂のメルトフローレート(以下、単にMFRという)はイオン濃度に左右され、イオン濃度が大きいとMFRが小さく、また融点はカルボキシル基濃度に左右され、カルボキシル基濃度が大きいほど融点も低くなる。
従って、本発明に用いるアイオノマー樹脂としては、勿論これに限定されるものではないが、MFRが15g/10min以下、特に5g/10min乃至0.5g/10minの範囲にあり、且つ融点が100℃以下、特に97℃乃至80℃の範囲にあるものであることが望ましい。
【0025】
アイオノマー樹脂を構成するα,β−不飽和カルボン酸としては、炭素数3〜8の不飽和カルボン酸、具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノメチルエステル等を挙げることができる。
特に、好適なベースポリマーとしては、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体やエチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体を挙げることができる。
また、このようなエチレンとα,β−不飽和カルボン酸との共重合体中のカルボキシル基を中和する金属イオンとしては、Na,K,Li,Zn,Z2+,Mg2+,Ca2+,Co2+,Ni2+,Mn2+,Pb2+,Cu2+等を挙げることができるが、本発明においては、特に亜鉛により中和されているものが、架橋の程度が大きく、湿度敏感性が少ないことから、好適に用いることができる。また、金属イオンで中和されていない残余のカルボキシル基の一部は低級アルコールでエステル化されていてもよい。
【0026】
またアイオノマー樹脂は、エチレンから誘導される構成単位を80〜99モル%、好ましくは85〜96モル%、不飽和カルボン酸から誘導される構成単位を1〜20モル%、好ましくは4〜15モル%の量で含有されていることが好ましい。
オレフィン系重合体(B)は、熱可塑性ポリエステル(A)と、
A:B=95:5乃至50:50
特に、90:10乃至70:30
の重量比でブレンドされていることが好ましい。上記範囲よりもオレフィン系重合体が少ないと、耐衝撃性(耐デント性)、耐腐食性、密着性の充分な向上を図ることができず、また上記範囲よりオレフィン系重合体が多いと、被覆層としたときにフィルムに穴が開き、製膜性に劣るようになる。また、ポリエステル樹脂が有する加工性、耐腐食性等の優れた特性が、上記範囲にある場合に比して劣るようになる。
【0027】
[金属板]
本発明に用いる金属板としては、各種表面処理鋼板やアルミニウム等の軽金属板が使用される。表面処理鋼板としては、冷圧延鋼板を焼鈍した後二次冷間圧延し、亜鉛メッキ、錫メッキ、ニッケルメッキ、電解クロム酸処理、クロム酸処理等の表面処理の一種または二種以上行ったものを用いることができる。またアルミニウムメッキ、アルミニウム圧延等を施したアルミニウム被覆鋼板が用いられる。また軽金属板としては、いわゆる純アルミニウム板の他にアルミニウム合金板が使用される。金属板の元板厚は、金属の種類、容器の用途或いはサイズによっても相違するが、一般に0.10乃至0.50mmの厚みを有するのがよく、この中でも表面処理鋼板の場合には0.10乃至0.30mmの厚み、軽金属板の場合は0.15乃至0.40mmの厚みを有するのがよい。
【0028】
[層構成]
図1は、本発明の樹脂被覆金属板の一例の断面構造を示す図である。全体を1で示す本発明の樹脂被覆金属板は、金属板2、金属板2の表面に形成されたナフタレンジカルボン酸含有量が8〜25モル%のエチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂から成る下層3、下層3の上に形成されたナフタレンジカルボン酸含有量が0〜15モル%のエチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂から成る上層4から成っている。
図1に示す樹脂被覆金属板では、金属缶に成形した際、内面側となる面にのみ下層3及び上層4から成るポリエステル樹脂被覆が形成されているが、勿論外面側となる面にも同様のポリエステル樹脂被覆を形成してもよいし、単層の樹脂被覆を形成することもできる。
【0029】
また本発明においては、上記層構成以外にも種々の構成を採用することができ、金属板と内面側下層または外面側の下層の間に、従来公知の接着用プライマーを設けることも可能である。この接着プライマーは、金属素材とフィルムとの両方に優れた接着性を示すものである。密着性と耐腐食性とに優れたプライマー塗料としては、種々のフェノールとホルムアルデヒドから誘導されるレゾール型フェノールアルデヒド樹脂と、ビスフェノール型エポキシ樹脂とから成るフェノールエポキシ系塗料であり、特にフェノール樹脂とエポキシ樹脂を50:50乃至1:99の重量比、特に40:60乃至5:95の重量比で含有する塗料である。接着プライマー層は一般に0.01乃至10μmの厚みに設けるのがよい。接着プライマー層は予め金属素材上に設けてもよく、或いはポリエステルフィルムに設けてもよい。
【0030】
本発明において、上述した上層の厚みは、1〜24μm、特に2〜12μmの範囲にあるのが好ましく、一方下層の厚みは4乃至36μm、特に8〜32μmの範囲にあることが好ましい。
また上層及び下層の厚み比は、1:20〜20:1、特に2:18〜18:2の範囲にあることが加工性、耐食性などの点から好ましい。
【0031】
[積層方法]
本発明の樹脂被覆金属板は、上述した上層及び下層から成る多層フィルムを予め公知の積層方法、好適には、多層キャストフィルムのラミネーション、または共押出コートにより形成した後、金属板と積層して樹脂被覆金属板とすることもできるし、金属板上に直接溶融押出しする押出ラミネートにより樹脂被覆金属板とすることもできる。
多層キャストフィルムのラミネーションは、上層及び下層のポリエステル樹脂チップをそれぞれ別の押出機に入れ、加熱溶融してダイよりシート状に押出し、キャスティングドラム上で冷却固化することにより形成される。一方、共押出コートは2台の押出機を使用し、上層及び下層のポリエステル樹脂をダイに供給し押出すことにより形成される。
本発明においては、多層キャストフィルムのラミネーションまたは共押出コートにより積層フィルムとすることにより、フィルム間に接着剤を使用することなく、強固に層間接着が可能となって、加工性を向上することができる。
【0032】
また金属板上に直接ポリエステル樹脂を溶融押出しする押出しラミネート法においては、少なくとも上層樹脂用の押出機及び下層樹脂用の押出機を使用し、各押出機からの樹脂流を多重多層ダイ内で合流させ、T−ダイから薄膜状に押し出し、押し出された溶融樹脂膜を金属板と共に一対のラミネートロール間に通して冷却下に押圧一体化させることにより製造することができる。また、一対のラミネートロール間に垂直に金属基体を通し、その両側に溶融樹脂ウエッブを供給することにより、金属基体両面にポリエステル樹脂の被覆層を形成させることができる。
【0033】
(金属缶)
本発明の金属缶は、上述した樹脂被覆金属板を上層及び下層から成る多層フィルム被覆面が缶内面側となるように、絞り・再絞り加工、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし・しごき加工或いは絞り・しごき加工等の従来公知の手段に付すことによって製造することができる。
本発明の金属缶は、上記手段によって製造されるが、好ましくは再絞りによる曲げ伸ばし加工、及び/又はしごき加工を行って側壁部の薄肉化を行う。その薄肉化は、底部に比して側壁部は曲げ伸ばし加工、及び/又はしごき加工により、樹脂被覆金属板の素板厚の20乃至95%、特に30乃至85%の厚みになるように薄肉化される。
【0034】
本発明の樹脂被覆金属板は特に加工性に優れたものであることから、高度の加工が施されるリシール缶に有効に適用できる。
リシール缶は、概略的に言って、上記シームレス缶の上部を必要によりネックイン加工して口頚部を形成し、この口頚部にリシール用の係合部(例えば螺子部)及び口頚部の開口端を外側に巻き返した環状のカール部が形成されることにより成形される。この際従来の樹脂被覆金属板では、口頚部のカール部先端に樹脂被覆の削れや亀裂等の発生が生じていたが、本発明の樹脂被覆金属板からなるリシール缶においては、このような欠点が解消され、しかも高温レトルト処理やホットウォーマー等による保温に付された場合にも低分子量成分の溶出による濁りが有効に防止されている。
【0035】
(金属缶用蓋)
本発明の蓋は、上述した樹脂被覆金属板のポリエステル下層及び上層が形成された面を蓋の内面側となるようにして成形する以外は従来公知の形状をとることができるが、特にプルオープン方式やステイオンタブ方式のイージーオープン蓋の他、リシール缶に用いる螺子キャップ等であってもよい。
【0036】
イージーオープン蓋の成形は、先ずプレス成形工程で、樹脂被覆金属板を円板の形に打抜くと共に、所望の蓋形状に成形する。次いで、スコア刻印工程で、スコアダイスを用いて、蓋の外面側からスコアが金属素材の途中に達するようにスコアの刻印を行う。リベット形成工程において、リベット形成ダイスを用いてスコアで区画された開口用部に外面に突出したリベットを形成させ、タブ取付工程で、リベットに開口タブを嵌合させ、リベットの突出部を鋲出してタブを固定させることにより、イージーオープン蓋が成形される。リベット形成工程の代りに、接着タブの場合には、開口用部或いはタブにナイロン系接着剤テープ等の接着剤を施し、タブ取付工程でタブと開口用部とを熱接着させることにより成形される。
リシール缶に用いる螺子キャップは、樹脂被覆金属板を絞り成形した後、螺子加工、ライナー加工等を行うことにより成形される。
【実施例】
【0037】
本発明を次の実施例で説明する。
表1に示した樹脂を用い、(1)で示した樹脂被覆金属板を作成した。この際、(2)、(3)に示した樹脂特性値を測定し表1に併せて示した。次いで、この樹脂被覆金属板を下記成形法にて缶に成形し、この缶の内面樹脂層の下記(4)〜(6)の特性値を求めた。また、この缶は、下記(7)の評価に供した。これらの特性値および缶評価結果は、表2にまとめた。
表2から分かるように、本発明に基づく実施例は、成形性、耐食性、レトルト溶出に基づく濁りが良好で、飲料保存用の缶として最適なものであった。
【0038】
(1)樹脂被覆金属板の作成
表1に示した樹脂を用いて、表2で示した方法にて、樹脂被覆金属板を作成した。フィルムラミネートによる方法では、樹脂を押出し機に供給し2層Tダイを通して、表下層厚み比1:4、全厚さ20μmとなるように押し出したものを冷却ロールにて冷却して得られたフィルムを巻きとり,キャストフィルムとした。この際、温度条件は、各樹脂にあった最適温度条件を選定した。
また、2軸延伸フィルムを用いたものについては、ナフタレンジカルボン酸10mol%共重合PET樹脂を前述と同様に押出し、次いで、縦3.0倍横3.0倍で二軸延伸し180℃でヒートセットし、延伸フィルムを作成した。
これら作製したフィルムを,TFS鋼鈑(板厚0.24mm、金属クロム量120mg/m、クロム水和酸化物量15mg/m)または、板厚0.24mmのアルミ合金板(A3004H39材)の両面に,熱ラミネートし,ただちに水冷することにより積層体を得た。この時,ラミネート前の金属板の温度は,ポリエステル樹脂の融点より15℃高く設定した。
また,ラミネートロール温度は150℃、通板速度は40m/minでラミネートを行い樹脂被覆金属板を得た。
押出しラミネートによる方法では、250℃に加熱したTFS鋼鈑(板厚0.24mm、金属クロム量120mg/m、クロム水和酸化物量15mg/m)上に、表1に示した組成の樹脂を押出しラミネート設備を備えたφ65mm押出機に供給し、外面側として、厚さ20μmとなるように溶融押出しを行いTFS片面側にラミネートした。次いで、内面側として、同じ樹脂成分を押出しラミネート設備を備えたφ65mm押出機に供給した後、板温度を樹脂の融点より30℃低い温度に加熱し、厚さ30μmとなるように溶融押出しを行い、もう一方の面にラミネートし樹脂被覆金属板を得た。
【0039】
(2)樹脂固有粘度
表1に示した樹脂200mg分をフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン混合溶液(重量比1:1)に110℃で溶解し、ウベローデ型粘度計を用いて30℃で比粘度を測定した。
固有粘度は下記式により求めた。
[η]=[(−1+(1+4K’ηsp1/2)/2K’C」(dl/g)
K’:ハギンスの恒数(=0.33)
C:濃度(g/100ml)
ηsp :比粘度[=(溶液の落下時間−溶媒の落下峙間)/溶媒の落下時間]
【0040】
(3)レトルト処理試験
リシール缶には、下記で示したキャップを用い、また350ml缶には、エポキシアクリル系塗料で被覆した陽圧用ステイオンタブ蓋(SOT)を用い、95℃で蒸留水を充填後、135℃30分のレトルト処理を行い、室温に戻し蒸留水を抜き取り、濁度測定に供した。また、缶内面の状態を観察した。
濁度測定は、安井機器製簡易型高感度濁度・色度計を用い、検体100mlを濁度用比色管に採り、検体用セルに入れ、一方比較用の標準として希釈濁度標準液100mlを採った濁度用比色管を対照セルに入れ、上部から底部を透視し両者の底部の明るさを比較して濁度を測定した。実施例5の蓋については、実施例4の缶胴と併せて測定を行った。
キャップは、板厚0.25mmのアルミニウム(JIS5151/H39)用いた高さ20.8mm、外形38.4mm、スチレン系ライナーを使用したものを用いた。
【0041】
(4)成形
リシール缶の作成
表1に示したポリエステル樹脂被覆金属板にワックス系潤滑剤を塗布し、直径158mmの円盤を打ち抜き、浅絞りカップを得た。次いでこの浅絞りカップを再絞り・しごき加工、常法によるボトム成形を行い、深絞り−しごきカップを得た。
この深絞りカップの諸特性は以下の通りであった。
カップ径:52mm
カップ高さ:141.5mm
素板厚に対する缶壁部の厚み37%
素板厚に対するフランジ部の厚み69%
この深絞りしごきカップを、常法にしたがい底成形を行い、ポリエステル樹脂のTm−10℃、3分の熱処理を行った後、カッブを放冷後、開口端縁部のトリミング加工、曲面印刷およぴ焼き付け乾燥した。このカップを更にネック加工、ビード加工、ネジ加工、カール加工を行って図2に示す口径30mmのリシール缶を作製した。
【0042】
350ml缶の作成
表1に示したポリエステル樹脂被覆金属板にワックス系潤滑剤を塗布し、直径152mmの円盤を打ち抜き、浅絞りカップを得た。次いで、この浅絞りカップをしごき加工を行い、シームレスカップを得た。このシームレスカップの諸特性は以下の通りであった。
カップ径:66mm
カップ高さ:127mm
素板に対する缶壁部の厚み:45%
このシームレスカップを、常法に従ってドーミング成形を行い、ポリエステル樹脂のTm−10℃、3分の熱処理を行った後、カップを放冷後、開口端縁部のトリミング加工、曲面印刷及び焼き付け乾燥、ネックイン加工、フランジ加工等の後加工を行って、350cc用シームレス缶を得た。
【0043】
DR缶の作成
表1に示した板厚0.22mmのアルミニウム合金(JISA3004P)を用いたポリエステル樹脂被覆金属板にワックス系潤滑剤を塗布し、直径154mmの円形ブランクを打ち抜き、次に二回絞り加工を行い、フランジ付の内径79.5mm、高さ46mm、内容積200mlの絞り缶を作成した。
【0044】
蓋の作成
表1に示したポリエステル樹脂被覆アルミニウム合金(A5182、板厚0.235mm)にワックス系潤滑剤を塗布し、直径68.7mmの蓋を打ち抜き、次いで蓋の外面側に部分開口型のスコア加工(幅22mm、スコア残厚110μm、スコア幅20μm)、リベット加工ならびに開封用タブ取り付けを行い、SOT蓋を作成した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の樹脂被覆金属板の断面構造の一例を示す図である。
【図2】本発明の樹脂被覆金属板を使用したリシール缶を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板表面に少なくとも上層及び下層の2層から成る実質上未配向のポリエステル樹脂被覆層が形成されて成る樹脂被覆金属板において、前記上層ポリエステル樹脂被覆層がナフタレンジカルボン酸成分を0〜15モル%の量で含有するポリエステル樹脂から成り、前記下層ポリエステル樹脂層がナフタレンジカルボン酸成分を8〜25モル%の量で且つ上層を形成するポリエステル樹脂のナフタレンジカルボン酸成分の含有量よりも多く含有するポリエステル樹脂から成ることを特徴とする樹脂被覆金属板。
【請求項2】
前記上層ポリエステル樹脂層及び下層ポリエステル樹脂層を形成するポリエステル樹脂の固有粘度[η]が0.6以上である請求項1記載の樹脂被覆金属板。
【請求項3】
前記上層ポリエステル樹脂層と下層ポリエステル樹脂層の厚み比が1:20〜20:1である請求項1又は2記載の樹脂被覆金属板。
【請求項4】
前記下層ポリエステル樹脂層が、平均粒径が0.1〜5.0μmの範囲にあるシリカ滑剤を0.05〜3重量%の量で含有する請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂被覆金属板。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の樹脂被覆金属板を成形して成る金属缶。
【請求項6】
缶上部がリシール可能な係合部を有する口頚部であり、該口頚部の開口端が外側に巻き返され、環状のカール部が形成されて成るリシール缶である請求項5記載の金属缶。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂被覆金属板を成形して成る金属缶用蓋。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−7517(P2006−7517A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186182(P2004−186182)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】